説明

金属酸化物薄膜、コンデンサ、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池の製造方法

【課題】 有機溶媒をめっき溶液として用いて、厚みの均一性が高くかつ緻密性の高い金属酸化物薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 金属酸化物薄膜(70)の製造方法は、ジメチルスルホキシドおよびハロゲンを含有するメチルケトン系有機溶液(20)をめっき溶液として用いるめっき工程を含む。腐食性の有機溶液をめっき液として用いていることから、非水溶性金属の酸化物薄膜を成膜することができる。また、有機溶液にハロゲンおよびジメチルスルホキシドが添加されていることから、厚みの均一性が高く緻密性の高い金属酸化物薄膜を成膜することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物薄膜、コンデンサ、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物薄膜の製造方法としては、ディップコーティング、スピンコーティング等の金属酸化物前駆体溶液を支持体に付着させた後に加熱して酸化物薄膜を得る方法、化学蒸着法により金属酸化物前駆体を支持体に付着させた後に加熱して酸化物薄膜を得る方法等が知られている。これらの成膜方法は比較的簡便な方法であるが、均一な薄膜を形成することができる場合の成膜条件は極めて限られている。したがって、これらの成膜方法は、必ずしも容易な手段ではない。また、スパッタリングにより金属酸化物を支持体上に成膜する方法も知られている。しかしながら、この方法には大がかりな装置が必要である。
【0003】
上記のような方法の他に、近年、めっき法により金属酸化物薄膜を支持体上に形成する技術が開発されている。めっき法を用いる場合、装置が安価で、成膜が容易である。したがって、めっき法は工業化に有利である。一般に行われる金属酸化物めっきでは金属イオンを含有する水溶液がめっき溶液として用いられる。例えば、Pb(鉛)イオン、Zr(ジルコニウム)イオン、Ti(チタン)イオン、La(ランタン)イオンもしくは硝酸イオン、ならびに還元剤を含有する水溶液をめっき溶液として用いる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この技術では、支持体表面において還元剤により硝酸イオンが亜硝酸イオンに還元される。この場合、支持体表面に生成される水酸基が作用して、金属イオンが水酸化物または酸化物として支持体表面に堆積する。なお、還元剤を用いる代わりに電圧印加によって導電性支持体上に水酸基を形成し、金属水酸化物または酸化物を支持体表面にめっきする方法もある。
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、キャパシタ等に利用される高誘電性の酸化タンタル薄膜または酸化ニオブ薄膜を形成しようとしても、タンタルイオンおよびニオブイオンが水溶性を有していないことから、水系のめっき溶液を用いることができない。
【0006】
そこで、腐食性の有機溶媒内に金属タンタル、金属ニオブ等の陽極を配置し、導電性の被めっき物である陰極を配置する技術が知られている。この場合、電圧印加によって陽極が腐食溶解することによって生成された金属イオンと陰極上で生成された水酸基または酸素イオンとを反応させることによって、酸化物めっきが行われる。
【0007】
例えば、腐食性の有機溶媒としては、アセトンに臭素またはヨウ素が添加されたものが公知である(例えば、非特許文献1参照)。この方法では、両極に50V程度の電圧を印加すればよいとされている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−194556号公報
【非特許文献1】Kai kamada, Maki Mukai and Yasumichi Matsumoto, “Anodic Dissolution of tantalum and niobium in acetone solvent with halogen additives for electrochemical synthesis of Ta2O5 and Nb2O5 thin films”, Elecrochimica Acta 49巻 321−327頁 2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者がこの処方に従ってパラジウム板を被めっき物として用いて酸化タンタル薄膜の形成を試みたところ、陰極からの水素発生等によって、形成された膜が不均一なものとなった。
【0010】
本発明は、有機溶媒をめっき溶液として用いて、厚みの均一性が高くかつ緻密性の高い金属酸化物薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法は、ジメチルスルホキシドおよびハロゲンを含有するメチルケトン系有機溶液をめっき溶液として用いるめっき工程を含むことを特徴とするものである。本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法においては、有機溶媒にハロゲンおよびジメチルスルホキシドが添加されていることから、厚みの均一性が高く緻密性の高い金属酸化物薄膜を成膜することができる。なお、腐食性の有機溶媒をめっき液として用いていることから、非水溶性金属の酸化物薄膜を成膜することができる。
【0012】
めっき工程において成膜された金属酸化物薄膜または金属水酸化物薄膜に対して加熱処理を施す加熱工程をさらに含んでいてもよい。この場合、めっき工程によって成膜された薄膜がアモルファス状であっても、結晶状の金属酸化物薄膜を形成することができる。
【0013】
メチルケトン系有機溶液は、プロトン供与性有機物を含有していてもよい。この場合、メチルケトン系有機溶媒の導電性が向上し、めっき工程における薄膜の成膜速度が向上すると推定される。なお、プロトン供与性有機物とは、メタノール、エタノール、プロパノールおよび酢酸の少なくとも1つを含んでいるものであってもよい。また、ハロゲンとは、臭素であってもよい。
【0014】
本発明に係るコンデンサの製造方法は、第1の電極を準備する準備工程と、請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物薄膜の製造方法により第1の電極上に金属酸化物薄膜からなる誘電体を形成する誘電体形成工程と、誘電体上に第2の電極を形成する電極形成工程とを含むことを特徴とするものである。本発明に係るコンデンサの製造方法においては、均一性が高く緻密性の高い誘電体を備えるコンデンサを製造することができる。
【0015】
本発明に係る水素分離膜−電解質膜接合体の製造方法は、水素透過性を有する水素分離膜を準備する準備工程と、請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物薄膜の製造方法により水素分離膜上に金属酸化物薄膜からなるプロトン伝導性電解質膜を形成する電解質膜形成工程とを含むことを特徴とするものである。本発明に係る水素分離膜−電解質膜接合体の製造方法においては、均一性が高く緻密性の高い電解質膜を備える水素分離膜−電解質膜接合体を製造することができる。
【0016】
本発明に係る燃料電池の製造方法は、請求項7に記載の水素分離膜−電解質膜接合体の電解質膜上にカソードを形成するカソード形成工程を含むことを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池の製造方法においては、均一性が高く緻密性の高い電解質膜を備える燃料電池を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有機溶媒をめっき溶液として用いて、厚みの均一性が高くかつ緻密性の高い金属酸化物薄膜を成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法について説明するためのフロー図である。まず、図1(a)に示すように、容器10内のメチルケトン系有機溶液20に、所定の金属からなる陽極30と薄膜支持体として用いられ導電性を有する陰極40とを浸す。本実施の形態においては、メチルケトン系有機溶液20は、ジメチルスルホキシドおよびハロゲンを含有する。陽極30および陰極40は電源50に接続されている。電源50がオンされると、陽極30を構成する金属の酸化物または水酸化物が陰極40上にめっきされ、厚みの均一性および緻密性の高い薄膜60が形成される。なお、メチルケトン系有機溶液20は、電圧印加時に静置されてもよく、攪拌されてもよい。また、マスキング等によって、陰極40における被めっき領域を選択してもよい。
【0020】
めっきにより形成された薄膜60は、アモルファス状である。薄膜60は、このまま実用に供されてもよい。薄膜60を結晶状の金属酸化物薄膜として用いる場合には、図1(b)に示すように薄膜60に対して加熱処理を施せばよい。それにより、結晶状の金属酸化物薄膜70を形成することができる。この場合の加熱温度および加熱時間は、陰極40および薄膜60の耐熱性、結晶成長性等に応じて適宜選択することができる。
【0021】
メチルケトン系有機溶液20に用いることができるメチルケトンとしては、CHCOR(RはC7以下の炭化水素基)で表される構造を有するものであることが好ましい。RがC8以上のメチルケトン溶液を用いると、粘度が高くなり、イオンの拡散性が悪化し、めっき効率が低下するからである。上記メチルケトンとして、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、メチルt−ブチルケトン、2−ヘキサノン、3−メチル−2−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ヘプタノン、アセトフェノン等またはこれらの混合物を用いることができる。
【0022】
上記メチルケトンが含有するハロゲンは、臭素またはヨウ素であることが好ましく、特に臭素であることが好ましい。
【0023】
メチルケトン系有機溶液20中のハロゲン濃度は、特に限定されないが、ハロゲン分子として0.002mol/L〜0.1mol/Lであることが好ましく、0.005mol/L〜0.05mol/Lであることが特に好ましい。ハロゲン濃度が0.002mol/Lよりも低くなると溶媒の腐食性が低下して十分に陽極を溶解腐食することができず、また、ハロゲン濃度が0.05mol/Lよりも高くなると陽極が過度に酸化されてしまうからである。
【0024】
ハロゲンおよびメチルケトンは、ハロホルム反応を起こし、RCOCHX(Xはハロゲンを示す)およびHXを形成する。この場合、メチルケトン系有機溶液20の導電性および腐食性を向上させることができると考えられる。
【0025】
メチルケトン系有機溶液20中のジメチルスルホキシド濃度は、特に限定されないが、0.005mol/L〜0.5mol/Lであることが好ましく、0.01mol/L〜0.3mol/Lであることが特に好ましい。
【0026】
ジメチルスルホキシドは、共存するハロゲンと作用して、メチルケトン系有機溶液20の腐食性を向上させるとともに薄膜60を均一化する機能を有すると推定される。
【0027】
メチルケトン系有機溶液20は、プロトン供与性を有する有機物をさらに含有していてもよい。この場合、メチルケトン系有機溶液20の導電性が向上し、薄膜60の成膜速度が向上すると推定される。プロトン供与性有機物としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、酢酸、プロピオン酸等、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0028】
メチルケトン系有機溶液20中のプロトン供与性有機物の濃度は、特に限定されるものではないが、5mol/L以下であることが好ましく、2mol/L以下であることがより好ましい。プロトン供与性有機物の濃度が5mol/Lを超えると、めっき中に水素が発生し、めっき被膜が不均一なものになるおそれがあるからである。
【0029】
陽極30を構成する金属は、特に限定されないが、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン等の金属であることが好ましい。これらの金属は還元性が低く、有機溶液を用いためっき法に適しているからである。陽極30の形状は、特に限定されず、板状、棒状、筒状、網状等であってもよい。陽極30の形状は、被めっき物である陰極40の形状に合わせて選択することができる。また、陰極40を構成する材料は、導電性を有していればどのようなものでもよい。
【0030】
電源50による印加電圧は、陽極30が溶解しかつ陰極40に薄膜60が形成されれば特に限定されないが、30V〜250Vであることが好ましく、50V〜200Vであることが特に好ましい。なお、図2に示すように、陽極を複数用意して、各陽極と陰極との間の電圧にばらつきを持たせてもよい。この場合、陰極40に、複合した金属酸化物からなる薄膜60を形成することができる。印加電圧が30Vよりも低いと陽極の腐食溶解速度が低下し、また、印加電圧が250Vを越えると好ましくない副反応が生じるおそれがあるからである。
【0031】
電源50による電圧印加の際におけるメチルケトン系有機溶液20の温度は、メチルケトン系有機溶液20が沸騰しない温度であれば特に限定されないが、0℃〜70℃であることが好ましく、15℃〜50℃であることがより好ましい。メチルケトン有機溶液20の温度が0℃よりも低いと溶液のイオン溶解度が低下し、また、メチルケトン有機溶液20の温度が70℃を超えると溶液の蒸発が生じてめっき条件を一定に保つことが困難となるからである。
【0032】
以上のように、本実施の形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法によれば、腐食性の有機溶媒をめっき液として用いていることから、非水溶性金属の酸化物薄膜を成膜することができる。また、有機溶媒にハロゲンおよびジメチルスルホキシドを添加することによって、厚みの均一性が高く緻密性の高い金属酸化物薄膜を成膜することができる。
【0033】
(第2の実施の形態)
続いて、本発明の第2の実施の形態に係るコンデンサ100の製造方法について説明する。図3は、コンデンサ100の製造工程を説明するためのフロー図である。まず、図3(a)に示すように、電極110を準備する。電極110を構成する材料は、導電性を有していれば特に限定されるものではない。次に、図3(b)に示すように、電極110の一面上に、誘電体120を形成する。この場合、第1の実施の形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法に従って、誘電体120を成膜する。本実施の形態においては、酸化物になった場合に誘電体として用いることができる金属を陽極として用いる。例えば、陽極として、ニオブ、タンタル等を用いることができる。
【0034】
次に、図3(c)に示すように、誘電体120上に電極130をスパッタリング法等によって形成する。それにより、コンデンサ100が完成する。電極130を構成する材料は、導電性を有していれば特に限定されるものではない。以上のように、本実施の形態に係るコンデンサの製造方法によれば、非水溶性金属の酸化物薄膜であって均一性が高く緻密性の高い誘電体を備えるコンデンサを製造することができる。なお、本実施の形態においては、電極110が第1の電極に相当し、電極130が第2の電極に相当する。
【0035】
(第3の実施の形態)
続いて、本発明の第3の実施の形態に係る燃料電池200の製造方法について説明する。図4は、燃料電池200の製造方法について説明するためのフロー図である。まず、図4(a)に示すように、水素分離膜210を準備する。水素分離膜210を構成する材料は、水素透過性および導電性を有していれば特に限定されるものではない。例えば、水素分離膜210として、パラジウム、ニオブ、バナジウム、タンタル、チタン等、またはこれらの合金を用いることができる。
【0036】
次に、図4(b)に示すように、水素分離膜210の一面上に、プロトン伝導性を有する電解質膜220を成膜する。それにより、水素分離膜−電解質膜接合体が完成する。この場合、第1の実施の形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法に従って、電解質膜220を成膜する。本実施の形態にいいては、酸化物になった場合にプロトン伝導性電解質として用いることができる金属を陽極として用いる。例えば、陽極として、ニオブ、タンタル等を用いることができる。
【0037】
次いで、図4(c)に示すように、電解質膜220上に、カソード230を形成する。それにより、燃料電池200が完成する。カソード230は、例えば、ランタンコバルトタイト、ランタンマンガネート、銀、白金、白金担持カーボン等の導電性材料からなる。カソード230は、スクリーン印刷法等によって形成することができる。
【0038】
ここで、燃料電池200の動作の概略について説明する。まず、水素を含有する燃料ガスが水素分離膜210に供給される。この燃料ガス中の水素は、水素分離膜210を透過し、水素分離膜210と電解質膜220との界面においてプロトンに変換される。変換されたプロトンは、電解質膜220を伝導し、カソード230に到達する。一方、カソード230には酸素を含有する酸化剤ガスが供給される。カソード230においては、酸化剤ガス中の酸素とカソード230に到達したプロトンとから水が発生するとともに電力が発生する。それにより、燃料電池200は、負荷に電力を供給することができる。
【0039】
本実施の形態に係る燃料電池の製造方法によれば、非水溶性金属の酸化物薄膜であって均一性が高く緻密性の高い電解質膜を備える水素分離膜−電解質膜接合体およびそれを備える燃料電池を製造することができる。また、電解質膜220の膜厚を小さくすることができる。それにより、燃料電池200の発電抵抗を低減させることができる。
【実施例】
【0040】
上記実施の形態に従って、金属酸化物薄膜を形成し、その均一性および緻密性について調べた。金属酸化物薄膜の成膜条件を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(実施例1)
実施例1においては、第1の実施の形態に従って、金属酸化物薄膜70を形成した。陽極30として、厚さ0.2mmのニオブ板を用いた。陰極40として、厚さ0.1mmのパラジウム板を用いた。メチルケトン系有機溶液20として、臭素濃度が0.01mol/Lでありジメチルスルホキシド濃度が0.03mol/Lの2−ペンタノン溶液を用いた。
【0043】
陽極30および陰極40を、メチルケトン系有機溶液20に浸した。陽極30と陰極40とは、5mm間隔で平行に配置した。陽極30と陰極40との間に150Vの直流電圧を30分印加した。それにより、陰極40上に薄膜60を形成した。次に、薄膜60に対して、空気中700℃の条件で3時間加熱処理を施すことによって、酸化ニオブ薄膜からなる金属酸化物薄膜70を得た。
【0044】
(実施例2)
実施例2においては、メチルケトン系有機溶液20にさらにメタノールを添加した。メチルケトン系有機溶液20中のメタノール濃度は、0.4mol/Lとした。その他は、実施例1と同様とした。
【0045】
(実施例3)
実施例3においては、メチルケトン系有機溶液20にさらにエタノールを添加した。メチルケトン系有機溶液20中のエタノール濃度は、0.4mol/Lとした。その他は、実施例1と同様とした。
【0046】
(実施例4)
実施例4においては、メチルケトン系有機溶液20にさらに1−プロパノールを添加した。メチルケトン系有機溶液20中の1−プロパノール濃度は、0.4mol/Lとした。その他は、実施例1と同様とした。
【0047】
(実施例5)
実施例5においては、メチルケトン系有機溶液20にさらに酢酸を添加した。メチルケトン系有機溶液20中の酢酸濃度は、0.4mol/Lとした。その他は、実施例1と同様とした。
【0048】
(実施例6)
実施例4においては、メチルケトン系有機溶液20にさらにエタノールを添加した。メチルケトン系有機溶液20中のエタノール濃度は、0.8mol/Lとした。その他は、実施例1と同様とした。
【0049】
(実施例7)
実施例7においては、メチルケトン系有機溶液20中のジメチルスルホキシド濃度を0.3mol/Lとした。その他は、実施例3と同様とした。
【0050】
(実施例8)
実施例8においては、陽極30と陰極40との間の印加電圧を50Vとした。その他は、実施例3と同様とした。
【0051】
(実施例9)
実施例9においては、陽極30として、厚さ0.2mmのチタン板を用いた。また、薄膜60に対して、空気中700℃の条件で3時間加熱処理を施すことによって、酸化チタン薄膜からなる金属酸化物薄膜70を得た。その他は、実施例3と同様とした。
【0052】
(実施例10)
実施例10においては、陽極30として、厚さ0.2mmのタンタル板を用いた。また、薄膜60に対して、空気中700℃の条件で3時間加熱処理を施すことによって、酸化タンタル薄膜からなる金属酸化物薄膜70を得た。その他は、実施例3と同様とした。
【0053】
(実施例11)
実施例11においては、陽極30として、厚さ0.2mmのニオブ板および直径1mmのマグネシウム棒を用いた。陰極40として、厚さ0.1mmのパラジウム板を用いた。メチルケトン系有機溶液20として、臭素濃度が0.01mol/Lであり、ジメチルスルホキシド濃度が0.03mol/Lであり、エタノール濃度が0.4mol/Lの2−ペンタノン溶液を用いた。
【0054】
陰極40と上記マグネシウム棒とを平行に10mm間隔で配置し、それらの中間に上記ニオブ板を陰極40とを平行に5mm間隔で配置した。陰極40とニオブ板との間に150Vの直流電圧を30分印加し、陰極40とマグネシウム棒との間に100Vの直流電圧を30分印加した。それにより、薄膜60を得た。なお、薄膜60に対して、空気中700℃の条件で3時間加熱処理を施すことによって、酸化ニオブ・酸化マグネシウム複合薄膜からなる金属酸化物薄膜70を得た。
【0055】
(実施例12)
実施例12においては、2−ペンタノンの代わりに、2−ペンタノンおよびアセトンの混合物(アセトン30%)を用いた。その他は、実施例5と同様とした。
【0056】
(実施例13)
実施例13においては、臭素濃度を0.05mol/Lにした。その他は、実施例3と同様とした。
【0057】
(実施例14)
実施例14においては、メチルケトン系有機溶液20中のジメチルスルホキシド濃度を0.08mol/Lとし、プロトン供与剤を添加せず、陽極30と陰極40との間の印加電圧を50Vとした。その他は、実施例10と同様とした。
【0058】
(比較例1)
比較例1においては、メチルケトン系有機溶液20にジメチルスルホキシドを添加しなかった。その他は、実施例1と同様とした。
【0059】
(比較例2)
比較例2においては、メチルケトン系有機溶液20にジメチルスルホキシドを添加しなかった。その他は、実施例3と同様とした。
【0060】
(分析)
実施例1〜12および比較例1,2において得られた金属酸化物薄膜の均一性および緻密性を観察した。その結果を表2に示す。均一性および緻密性は、それぞれ3段階で評価してある。均一性に関しては、陰極表面が見える状態となっていれば「不良」、陰極表面は見えないが陰極の厚みが不均一となっていれば「良」、陰極表面が見えず陰極の厚みも均一であれば「優良」と判断した。また、緻密性に関しては、表面に顕著な孔が見られれば「不良」、表面に顕著な孔はないが顕著な凹凸があれば「良」、顕著な孔および顕著な凹凸がなければ「優良」と判断した。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すように、比較例1においては、均一性および緻密性のいずれも「不良」であった。また、比較例2においては、緻密性「良」であったものの、均一性は「不良」であった。これは、陰極における水素発生が原因であると考えられる。
【0063】
これに対して、実施例1においては、均一性および緻密性のいずれも「良」であった。これは、メチルケトン系有機溶液20にハロゲンおよびジメチルスルホキシドが添加されたからであると考えられる。また、実施例3,4,5,9,10,12においては、均一性および緻密性の少なくとも一方が「優良」であった。これは、メチルケトン系有機溶液20へのプロトン供与性有機物の添加によって、メチルケトン系有機溶液20の導電性が向上したからであると考えられる。
【0064】
以上のことから、メチルケトン系有機溶液20にハロゲンおよびジメチルスルホキシドを添加することによって金属酸化物薄膜の均一性および緻密性を向上させることができることが立証された。また、メチルケトン系有機溶液20にプロトン供与性有機物を添加することによって、金属酸化物薄膜の均一性および緻密性をさらに向上させることができることが立証された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法について説明するためのフロー図である。
【図2】金属酸化物薄膜の他の製造方法について説明するための図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るコンデンサの製造方法について説明するためのフロー図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る燃料電池の製造方法について説明するためのフロー図である。
【符号の説明】
【0066】
20 メチルケトン系有機溶液
30 陽極
40 陰極
60 薄膜
70 金属酸化物薄膜
100 コンデンサ
120 誘電体
200 燃料電池
210 水素分離膜
220 電解質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルスルホキシドおよびハロゲンを含有するメチルケトン系有機溶液をめっき溶液として用いるめっき工程を含むことを特徴とする金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記めっき工程において成膜された金属酸化物薄膜または金属水酸化物薄膜に対して加熱処理を施す加熱工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記メチルケトン系有機溶液は、プロトン供与性有機物を含有することを特徴とする請求項1または2記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記プロトン供与性有機物とは、メタノール、エタノール、プロパノールおよび酢酸の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項3記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記ハロゲンとは、臭素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項6】
第1の電極を準備する準備工程と、
請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物薄膜の製造方法により、前記第1の電極上に金属酸化物薄膜からなる誘電体を形成する誘電体形成工程と、
前記誘電体上に第2の電極を形成する電極形成工程とを含むことを特徴とするコンデンサの製造方法。
【請求項7】
水素透過性を有する水素分離膜を準備する準備工程と、
請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物薄膜の製造方法により、前記水素分離膜上に金属酸化物薄膜からなるプロトン伝導性電解質膜を形成する電解質膜形成工程とを含むことを特徴とする水素分離膜−電解質膜接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の水素分離膜−電解質膜接合体の前記電解質膜上にカソードを形成するカソード形成工程を含むことを特徴とする燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−231516(P2008−231516A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73707(P2007−73707)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】