説明

金属錯体、発光素子、表示装置

【課題】ルミネッセンスを示し、且つ従来の金属錯体よりも低エネルギーで励起させることができる金属錯体を提供すること。
【解決手段】式(1)または式(2)で表されるシクロメタル化錯体。
[(MII2(L12(L22] (1)
[(MII2(MI)(M’I)(L3)(L24] (2)
[前記式中、MIIは、PtIIまたはPdIIを示し、MIは、H+を示し、M’Iは、H+、AuI、AgI、CuI、HgI、TlIまたはPbIを示し、L1、L2およびL3は、ピラゾール誘導体のアニオンを示し、L1およびL3は、MIIにキレート配位している。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルミネッセンスを示す金属錯体(特に、シクロメタル化錯体)に関する。また本発明は、前記金属錯体を含む発光素子および表示装置も提供する。
【背景技術】
【0002】
表示装置用の有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子において、従来は、一重項励起状態からの発光(即ち、蛍光)が利用されていた。この場合、25%の発光効率が最大であり、非常に発光効率が悪かった。そこで、発光効率を上げる方法として、三重項励起状態からの発光(即ち、リン光)を利用することが提案されている。リン光を利用する場合、原理的には100%の発光効率が可能となる。
【0003】
そして、イリジウムにフェニルピリジンがシクロメタル化した金属錯体が、室温でも高い効率でリン光を生じることが報告されている。それ以来、リン光発光材料の研究は、ほとんどイリジウム錯体を対象として行われているため、それ以外の金属錯体の発光素子としての可能性の評価は、まだ十分にはなされていない。
【0004】
本発明者らは、3,5−ジメチルピラゾールを用いて混合金属錯体の合成を試みて、紫外光を照射すると非常に強い発光を示す金属錯体の単離に成功した。この金属錯体の発光測定の結果、Ptおよび銀を含む混合金属錯体は、リン光性の青色発光を示し、しかも固体状態および溶液中の発光量子収率がそれぞれ0.85および0.51と、フェニルピリジン−イリジウム錯体より高いことがわかった。この金属錯体の発光特性は、有機EL素子の発光材料として現在まで知られている化合物のうちの最良の発光特性を有する材料と比較しても、遜色がない。
【0005】
また、本発明者らは、これまでに様々な置換基を持つピラゾールを用いて、一連の混合金属錯体を合成し、固体発光量子収率が高い金属錯体もいくつか開発してきた(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−81401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機EL素子の分野では、低エネルギーで励起させることができる金属錯体が求められている。本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、ルミネッセンスを示し、且つ従来のピラゾラトが架橋した混合金属錯体よりも低エネルギーで励起させることができる金属錯体を提供すること、言い換えると、ルミネッセンスを示し、且つ従来のピラゾラトが架橋した混合金属錯体の光吸収帯(約250〜350nm)よりも光吸収帯が長波長側にシフトした金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
金属錯体のπ共役系を拡張させて、その最低空軌道(LUMO)を低下させれば、励起エネルギーを低下させ得るという着想の下、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、下記のシクロメタル化錯体は、上記目的を達成し得ることを見出した。このような知見に基づく本発明は、以下の通りである。
【0009】
[1] 式(1):
[(MII2(L12(L22] (1)
[式(1)中、MIIは、PtIIまたはPdIIを示す。
1は、式(L−1):
【0010】
【化1】

【0011】
{式(L−1)中、R1〜R6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示すか、或いはR3およびR4またはR4およびR5が結合して、ベンゼン環と共に、置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環を形成する。}
で表される1価のアニオン性配位子を示す。
2は、式(L−2):
【0012】
【化2】

【0013】
{式(L−2)中、R7〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。}
で表される1価のアニオン性配位子を示す。]
で表され、且つL1が、そのピラゾール環のN原子およびベンゼン環のC原子でMIIにキレート配位したシクロメタル化錯体。
[2] 式(2):
[(MII2(MI)(M’I)(L3)(L24] (2)
[式(2)中、MIIは、PtIIまたはPdIIを示す。
Iは、H+を示す。
M’Iは、H+、AuI、AgI、CuI、HgI、TlIまたはPbIを示す。
3は、式(L−3):
【0014】
【化3】

【0015】
{式(L−3)中、R1〜R6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示すか、或いはR3およびR4またはR4およびR5が結合して、ベンゼン環と共に、置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環を形成する。}
で表される2価のアニオン性配位子を示す。
2は、式(L−2):
【0016】
【化4】

【0017】
{式(L−2)中、R7〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。}
で表される配位子を示す。]
で表され、且つL3が、そのピラゾール環のN原子およびベンゼン環のC原子でMIIにキレート配位したシクロメタル化錯体。
[3] MIIが、PtIIである上記[1]または[2]に記載のシクロメタル化錯体。
[4] R6が、水素原子またはハロゲン原子である上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載のシクロメタル化錯体。
[5] R1、R7およびR9が、置換基を有していてもよいフェニル基である上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載のシクロメタル化錯体。
[6] 上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載のシクロメタル化錯体を含む発光層を有する発光素子。
[7] 上記[6]に記載の発光素子を有する表示装置。
【0018】
なお以下では、「式(1)で表されるシクロメタル化錯体」を「シクロメタル化錯体(1)」と略称することがある。他の式で表される配位子等も同様に略称することがある。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシクロメタル化錯体の光吸収帯は、従来のピラゾラトが架橋した混合金属錯体よりも長波長側にシフトしており、従来のピラゾラトが架橋した混合金属錯体に比べて低エネルギーで励起させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の発光素子の一例を示す模式断面図である。
【図2】実施例1のシクロメタル化錯体の構造を示すORTEP図である。
【図3】実施例1のシクロメタル化錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルである(錯体濃度:5.24×10-6M、1.05×10-5M、1.57×10-5M、2.10×10-5Mおよび5.24×10-5M)。
【図4】実施例1のシクロメタル化錯体の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:355nm、測定温度:298K)。
【図5】80K、150K、220Kおよび298Kにおける実施例1のシクロメタル化錯体の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:355nm)。
【図6】実施例2のシクロメタル化錯体の構造を示すORTEP図である。
【図7】実施例2のシクロメタル化錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルである(錯体濃度:5.03×10-6M、1.01×10-5M、1.51×10-5M、2.01×10-5Mおよび5.03×10-5M)。
【図8】実施例2のシクロメタル化錯体の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:355nm、測定温度:298K)。
【図9】80K、150K、220Kおよび298Kにおける実施例2のシクロメタル化錯体の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:355nm)。
【図10】実施例3のシクロメタル化錯体の構造を示すORTEP図である。
【図11】実施例3のシクロメタル化錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルである(錯体濃度:4.92×10-6M、9.84×10-6M、1.48×10-5M、1.97×10-5Mおよび4.92×10-5M)。
【図12】実施例3のシクロメタル化錯体の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:355nm、測定温度:298K)。
【図13】80K、150Kおよび298Kにおける実施例3のシクロメタル化錯体の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:355nm)。
【図14】実施例4のシクロメタル化錯体の構造を示すORTEP図である。
【図15】実施例4のシクロメタル化錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルである(錯体濃度:4.99×10-6M、9.98×10-5M、1.50×10-5M、2.00×10-5Mおよび4.99×10-5M)。
【図16】実施例4のシクロメタル化錯体の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:355nm、測定温度:298K)。
【図17】80K、150K、220Kおよび298Kにおける実施例4のシクロメタル化錯体の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:355nm)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のシクロメタル化錯体(1)は、L1が、そのピラゾール環のN原子およびベンゼン環のC原子でMIIにキレート配位したシクロメタル化錯体であり、シクロメタル化錯体(2)は、L3が、そのピラゾール環のN原子およびベンゼン環のC原子でMIIにキレート配位したシクロメタル化錯体である。ここでシクロメタル化錯体とは、少なくとも一つの金属−炭素結合を含む環状構造を有する金属錯体を意味し、シクロメタル化錯体(1)および(2)のシクロメタル化した部分の構造は、式(1C)および(2C)で表される。
【0022】
【化5】

【0023】
本発明のシクロメタル化錯体(1)および(2)は、いずれもシクロメタル化錯体であることを共通の特徴とする。シクロメタル化することによってピラゾール環とベンゼン環がほぼ同一平面上にならび、π共役系が拡張するため、本発明のシクロメタル化錯体のLUMOが低下する。その結果、本発明のシクロメタル化錯体は、低いエネルギーで励起させることができる。金属錯体がシクロメタル化錯体であるか否かは、X線結晶構造解析によって確認することができる。また、13C NMRを用いてMIIとベンゼン環のC原子との結合の有無を確認することによっても、シクロメタル化錯体であるか否かを確認することができる。
【0024】
さらに、本発明のシクロメタル化錯体(1)および(2)は、いずれも、PF6-等のカウンターアニオンを有さないことを共通の特徴とする。カウンターアニオンを有さない本発明のシクロメタル化錯体(1)および(2)は分子性金属錯体であり、カウンターアニオンを有するイオン性金属錯体と比べて昇華しやすいため、蒸着しやすいという利点を有する。
【0025】
以下、本発明のシクロメタル化錯体(1)および(2)について順に説明する。なお、式(1)および式(2)等において、同じ記号は同じ意味を表し、その説明も同じである。
【0026】
IIは、PtIIまたはPdIIを示し、好ましくはPtIIである。
Iは、H+を示す。M’Iは、H+、AuI、AgI、CuI、HgI、TlIまたはPbIを示し、好ましくはH+、AuI、AgIまたはCuI、より好ましくはH+、AuIまたはAgIである。
【0027】
1は、式(L−1)で表される1価のアニオン性配位子である。式(L−1)において、R1〜R6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示すか、或いはR3およびR4またはR4およびR5が結合して、ベンゼン環と共に、置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環を形成する。
【0028】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0029】
アルキル基は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれでもよい。アルキル基が有し得る置換基としては、例えば、上述のハロゲン原子などが挙げられる。置換基を有していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられる。R1〜R6のアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜8、より好ましくは1〜4である。
【0030】
アリール基は、芳香族炭化水素基(例、フェニル基、ナフチル基、アントリル基)または複素芳香族炭化水素基(例、ピリジル基)のいずれでもよく、好ましくは芳香族炭化水素基である。R1〜R6のアリール基は、好ましくは6〜14員、より好ましくは6〜10員である。アリール基が有し得る置換基としては、上述のハロゲン原子または置換基を有していてもよいアルキル基などが挙げられる。
【0031】
式(L−1)において、R3およびR4またはR4およびR5が結合して、好ましくはR4およびR5が結合して、ベンゼン環と共に、置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環を形成していてもよい。縮合芳香族炭化水素環としては、例えば、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環などが挙げられる。
【0032】
3は、式(L−3)で表される配位子である。ここで、配位子(L−3)は、上述の配位子(L−1)のピラゾール環の1位のN原子から水素イオンが解離して得られる2価のアニオン性配位子である。そのため、式(L−3)におけるR1〜R6の説明は、式(L−1)において上述したものと同じである。
【0033】
2は、式(L−2)で表される配位子である。配位子(L−2)は、式(L−4)で表される化合物の1位のN原子から水素イオンが解離して得られる1価のアニオン性配位子である。
【0034】
【化6】

【0035】
式(L−2)において、R7〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。R7〜R9のハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基および置換基を有していてもよいアリール基の説明は、R1等で上述したものと同じである。
【0036】
本発明のシクロメタル化錯体(1)および(2)を形成するためには、式(L−1)および式(L−3)において、R6の立体障害が小さいことが好ましい。従って、R6は、好ましくは水素原子またはハロゲン原子であり、より好ましくは水素原子である。
【0037】
式(L−1)、式(L−2)および式(L−3)において、R1、R7およびR9は、好ましくは、置換基を有していてもよいフェニル基である。フェニル基が有し得る置換基としては、上述のハロゲン原子または置換基を有していてもよいアルキル基などが挙げられる。さらに、L1は、より好ましくは式(L−1a)で表される1価のアニオン性配位子であり、L2は、より好ましくは式(L−2a)で表される1価のアニオン性配位子であり、L3は、より好ましくは式(L−3a)で表される2価のアニオン性配位子である。
【0038】
【化7】

【0039】
次に、本発明のシクロメタル化錯体の製造方法について説明する。まず、式(3)で表される金属錯体1当量およびKOH約3当量を、アルゴン雰囲気下のアセトニトリル中で加熱還流することによって、式(11)で表される金属錯体が得られる。この金属錯体(11)は、シクロメタル化錯体(1)の1種であり、式(1)のL2が式(11)のL21に対応する。即ち、金属錯体(11)は、L1およびL2の基本骨格が同じであるシクロメタル化錯体(1)の1種である。
【0040】
【化8】

【0041】
この金属錯体(11)において、MIIとシクロメタル化していないL21は、MIIとシクロメタル化したL1と比べて、MIIとの結合力が弱いため、他の配位子で置換することができる。そこで、金属錯体(11)のL21をL2で置換することによって、種々のシクロメタル化錯体(1)を製造することができる。
【0042】
また、式(3)で表される金属錯体1当量およびKOH約1当量を、アルゴン雰囲気下のアセトニトリル中で還流することによって、式(21)で表される金属錯体が得られる。この金属錯体(21)は、シクロメタル化錯体(2)の1種であり、式(2)のL2が式(21)のL21に対応し、MIおよびM’IがH+である。即ち、金属錯体(21)は、L1およびL2の基本骨格が同じであり、且つMIおよびM’IがH+であるシクロメタル化錯体(2)の1種である。
【0043】
【化9】

【0044】
この金属錯体(21)において、MIIとシクロメタル化していないL21は、MIIとシクロメタル化したL3と比べて、MIIとの結合力が弱いため、他の配位子で置換することができる。そこで、金属錯体(21)のL21をL2で置換することによって、MIおよびM’IがH+であるシクロメタル化錯体(2)を製造することができる。また、公知の方法によって、M’Iは、AuI、AgI、CuI、HgI、TlIまたはPbIに交換することができる。
【0045】
上述したシクロメタル化錯体(1)および(2)の製造方法の出発原料である、金属錯体(3)は、公知の方法に従い、例えばWO 2006/101276に記載の方法に準じて製造することができる。
【0046】
次に、本発明のシクロメタル化錯体の用途について説明する。本発明のシクロメタル化錯体は、有機EL素子等の発光素子の発光層に含有させる発光剤として使用することができる。この他、本発明のシクロメタル化錯体は、発光塗料等の材料として使用することができる。
【0047】
次に、上述のシクロメタル化錯体を発光層に含む、本発明の発光素子について説明する。本発明の発光素子の一例の断面図を、図1に示す。図1に示す発光素子は、ガラス等の透明な基板1の上に、陽極2が形成され、この陽極2の上に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、および電子注入層7が積層形成され、さらに電子注入層7の上に陰極8が形成された構成である。即ち、陽極2と陰極8との間に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7の5層が積層形成された、5層型の発光素子となっている。
【0048】
本発明の発光素子は、上述の5層型の発光素子に限定されない。この他、5層型の発光素子から電子輸送層を省略した4層型の発光素子であってもよい。また、5層型の発光素子から正孔注入層と電子注入層を省略した3層型の発光素子であってもよい。また、3層型の発光素子の発光層と電子輸送層を兼用して一つの層とする2層型の発光素子であってもよい。また、陽極と陰極の間に発光層のみが形成される単層型であってもよい。
【0049】
本発明の発光素子の発光層は、本発明のシクロメタル化錯体を、ゲスト発光剤として含んでいてもよく、ホスト発光剤として含んでいてもよい。本発明のシクロメタル化錯体をゲスト発光剤として使用する場合、これと組み合わせるホスト発光剤としては、例えば、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウムのような8−キノリノール類を配位子とする金属錯体;CBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル)のようなカルバゾール誘導体;ジシアノメチレン(DCM)類;クマリン類;ペリレン類;ルブレン類などが挙げられる。
【0050】
本発明の発光素子の動作は、本質的に、電子および正孔を電極から注入する過程、電子および正孔が固体中を移動する過程、電子および正孔が再結合し、三重項励起子を生成する過程、そして、その励起子が発光する過程からなり、これらの過程は単層型発光素子および積層型発光素子のいずれにおいても本質的に異なるところがない。ただし、単層型発光素子においては、発光剤の分子構造を変えることによってのみ上記4過程の特性を改良し得るのに対して、積層型発光素子においては、各過程において要求される機能を複数の材料に分担させると共に、それぞれの材料を独立して最適化することができることから、一般的には、単層型に構成するより積層型に構成する方が所期の性能を達成し易い。
【0051】
本発明の発光素子は、表示装置に用いることができる。そのため、本発明は、上述の発光素子を有する表示装置も提供する。本発明の表示装置は、発光素子の発光層に本発明のシクロメタル化錯体を含有する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
実施例で使用する配位子の略号の意味は、以下の通りである。
Ph2pzH:3,5−ジフェニルピラゾール
Phpz:単座でPt原子に配位している、3,5−ジフェニルピラゾールから水素イオンが解離した1価のアニオン(3,5−ジフェニルピラゾラト)
μ−Phpz:Pt原子間、またはPt原子およびAu原子またはPt原子とAg原子を架橋している、3,5−ジフェニルピラゾールから水素イオンが解離した1価のアニオン(3,5−ジフェニルピラゾラト)
Phpz−κC,κN:ピラゾール環のN原子およびベンゼン環のC原子でPt原子にキレート配位し、配位結合に関与していないN原子にC原子上にあった水素イオンが移動した、3,5−ジフェニルピラゾールから水素イオンが解離した1価のアニオン(3,5−ジフェニルピラゾラト)
Phpz−κC,κN,N’:ピラゾール環のN原子およびベンゼン環のC原子でPt原子にキレート配位し、さらにピラゾール環に存在するもう一つのN原子でAu原子またはAg原子に配位することにより3座配位子として作用している、3,5−ジフェニルピラゾールから水素イオンが二つ解離した2価のアニオン(3,5−ジフェニルピラゾラトジアニオン)
【0054】
実施例1:[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
[PtCl(Ph2pz)(Ph2pzH)2](89.0mg、0.10mmol)にKOH(16.8mg、0.30mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、さらにアセトニトリル(50mL)を加えて、アルゴン雰囲気下で24時間還流した。白色懸濁液は反応後、黄色懸濁液に変化した。反応溶液を濃縮後、黄色固体を自然濾過し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した(収量50.0mg、収率79%)。再結晶は、ジクロロメタン/エタノールから行った。得られた[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]は、MIIがPtIIであり、L1が、配位子(L−1a)(即ち、R1:フェニル基、R2〜R6:水素原子)であり、L2が、配位子(L−2a)(即ち、R7およびR9:フェニル基、R8:水素原子)であるシクロメタル化錯体(1)である。このシクロメタル化錯体は、UV光(365nm)の照射下、固体状態で黄緑色に発光した。
【0055】
【化10】

【0056】
(2)特性評価
溶解性:アセトニトリル、ジクロロメタンおよびクロロホルムに可溶
IR(KBr):3434 (m), 3375 (m), 3055 (w), 2922 (w), 2853 (w), 1602 (w), 1552 (w), 1473 (m), 1346 (w), 1269 (w), 1156 (w), 1112 (w), 1072 (w), 1028 (w), 995 (w), 912 (w), 791 (w), 728 (w), 618 (w), 577 (w)
FAB−MS(m/z):1266.4 [M]+
【0057】
1H NMR:表1に記載(表1中の各項目は、左から、δがピークの化学シフト(ppm)を示し、shapeがピーク形状を示し、Jが結合定数(Hz)を示し、Int.がピーク強度(相対値)を示し、Assign.がピークの帰属を示す。なお、他の1H NMRデータの各項目も同様である。)
【0058】
【表1】

【0059】
X線構造解析:[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]・CH2Cl2の結晶学的データを表2に記載する(表2中の各項目は、上から、組成式、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.71075Å)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,β)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、最終R値、R1値、GOF値を示す。なお、他の結晶学的データの各項目も同様である。)
【0060】
【表2】

【0061】
[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]は、単結晶X線構造解析でその分子構造を決定している。その結晶学的データを表2に示し、その分子構造のORTEP図を図2に示す。[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]には二つのPt原子および四つの3,5−ジフェニルピラゾラトが含まれている。各Pt原子にはシクロメタル化した3,5−ジフェニルピラゾラトがC原子およびN原子でキレート配位しており、残りの二つの配位座を用いて、二つのPtの配位平面が重なるように二つの3,5−ジフェニルピラゾラトが架橋した構造をとっている。[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]にはC2対称とCs対称の二つの幾何異性体が考えられるが、このシクロメタル化錯体はC2対称を有している。[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]におけるPt・・・Pt距離は3.1398(3)Åである。シクロメタル化した3,5−ジフェニルピラゾラトのPt−N距離は1.982(3)Åおよび1.990(4)Å、架橋した3,5−ジフェニルピラゾラトのPt−N距離は2.002(3)〜2.128(3)Åの範囲にある。またPt−C距離は2.016(4)Åおよび2.011(4)Åである。
【0062】
[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]の光物理的性質について説明する。まず、[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを図3に示す。図3に示すように、[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]は、258nmと332nmに吸収極大を持つ幅広い吸収帯を示す。
【0063】
次に、波長355nmの光で励起した[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]の固体状態の発光スペクトルを図4に示す(測定温度:298K)。絶対PL量子収率測定装置により求めた[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]の固体状態の発光量子収率(Φ)は0.26であった。
【0064】
次に、80K、150K、220Kおよび298Kにおける[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]の発光スペクトルを図5に示す。蛍光寿命測定装置により求めた[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]の発光寿命を表3に示す。表3に示す発光寿命は、二成分指数関数(I(t)=A1exp(−t/τ1)+A2exp(−t/τ2))を用いる解析から算出した。表3に示すように、[Pt2(Ph2pz−κC,κN)2(μ−Ph2pz)2]の発光寿命は比較的長いことから、これは、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
【0065】
【表3】

【0066】
実施例2:[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
[PtCl(Ph2pz)(Ph2pzH)2](269.9mg、0.31mmol)にKOH(19.1mg、0.34mmol)のメタノール溶液(5mL)、アセトニトリル(50mL)を加え、アルゴン雰囲気下で24時間還流した。白色懸濁液は反応後、黄色懸濁液に変化した。濃縮後、黄色固体を自然濾過し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した(収量181.4mg、収率80%)。再結晶は、ジクロロメタン/ヘキサンから行った。得られた[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]は、MIIがPtIIであり、MIおよびM’IがH+であり、L3が、配位子(L−3a)(即ち、R1:フェニル基、R2〜R6:水素原子)であり、L2が、配位子(L−2a)(即ち、R7およびR9:フェニル基、R8:水素原子)であるシクロメタル化錯体(2)である。なお、一つのH+が配位子(L−3a)と結合して、Ph2pz−κC,κN(即ち、1価のアニオン性配位子(L−1a))を形成し、もう一つのH+が配位子(L−2a)と結合して、Ph2pzHを形成している。
【0067】
【化11】

【0068】
(2)特性評価
溶解性:ジクロロメタンおよびクロロホルムに可溶
IR(KBr):3376(m), 3058(m), 2360(w), 2342(w), 1646(w), 1602(w), 1473(m), 1405(w), 1272(w), 1221(w), 1072(w), 1003(w), 911(w), 807(w), 730(w), 668(w)
FAB−MS(m/z):1487.5 [M]+
【0069】
1H NMR:表4に記載
【0070】
【表4】

【0071】
X線構造解析:[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]・CH3CN・H2Oの結晶学的データを表5に記載する。
【0072】
【表5】

【0073】
[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]は、単結晶X線構造解析でその分子構造を決定している。その結晶学的データを表5に示し、その分子構造のORTEP図を図6に示す。Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]には、二つのPt原子、一つのシクロメタル化した3,5−ジフェニルピラゾラト、Pt原子間を架橋した二つの3,5−ジフェニルピラゾラト、単座で配位した3,5−ジフェニルピラゾラト、および一つの3,5−ジフェニルピラゾールが含まれている。Pt1には一つの3,5−ジフェニルピラゾラトがシクロメタル化によりC原子およびN原子でキレート配位し、残りの配位座には架橋配位子として作用している二つの3,5−ジフェニルピラゾラトがそれぞれ配位している。一方、Pt2には架橋配位子として作用している二つの3,5−ジフェニルピラゾラトの他に、3,5−ジフェニルピラゾラトおよび3,5−ジフェニルピラゾールが一つずつ単座で配位している。
【0074】
[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]におけるPt・・・Pt距離は3.2038(5)Åである。シクロメタル化した3,5−ジフェニルピラゾラトのPt−C距離およびPt−N距離は、それぞれ2.011(7)Åおよび1.996(6)Åである。また、架橋している3,5−ジフェニルピラゾラトのPt−N距離は1.997(5)〜2.118(5)Åの範囲にある。単座で配位した3,5−ジフェニルピラゾラトおよび3,5−ジフェニルピラゾールのPt−N距離は、それぞれ2.022Å(5)、および2.013(5)Åである。
【0075】
[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]の光物理的性質について説明する。まず、[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを図7に示す。図7に示すように、[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]は、256nmに吸収極大を、330nm付近にショルダーを示す。
【0076】
次に、波長355nmの光で励起した[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]の固体状態の発光スペクトルを図4に示す(測定温度:298K)。この発光スペクトルで示されるように、軽微な振動構造が観測された。[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]の固体状態の発光量子収率(Φ)は0.01未満であり、正確に測定できなかった。
【0077】
次に、80K、150K、220Kおよび298Kにおける[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]の発光スペクトルを図5に示す。蛍光寿命測定装置により求めた[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]の発光寿命を表6に示す。表6に示す発光寿命は、二成分指数関数(I(t)=A1exp(−t/τ1)+A2exp(−t/τ2))を用いる解析から算出した。[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]の発光寿命は比較的長いことから、これは、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
【0078】
【表6】

【0079】
実施例3:[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)](37.2mg、0.025mmol)にAuCl(SC48)(10.3mg、0.032mmol)のメタノール溶液(10mL)、トリエチルアミン(10μL、0.063mmol)、ジクロロメタン(10mL)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌を行った。この茶褐色溶液を濃縮し、析出した茶色固体を集めた。固体を自然濾過し、水、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した(収量16.8mg、収率40%)。再結晶はジクロロメタン/ヘキサンから行い、黄色の結晶を得た。得られた[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]は、MIIがPtIIであり、MIがH+であり、M’IがAuIであり、L3が、配位子(L−3a)(即ち、R1:フェニル基、R2〜R6:水素原子)であり、L2が、配位子(L−2a)(即ち、R7およびR9:フェニル基、R8:水素原子)であるシクロメタル化錯体(2)である。なお、H+が配位子(L−2a)と結合して、Ph2pzHを形成している。このシクロメタル化錯体は、UV光(365nm)の照射下、固体状態で黄緑色に発光した。
【0080】
【化12】

【0081】
(2)特性評価
溶解性:ジクロロメタン、クロロホルムおよびトルエンに可溶
IR(KBr):3375(m), 3059(m), 2986(w), 2934(w), 1799(w), 1603(w), 1569(w), 1509(w), 1474(s), 1430(m), 1344(w), 1271(w), 1179(w), 1114(w), 1072(w), 1031(w), 1004(w), 913(w), 876(w), 806(w), 729(w), 668(w)
FAB−MS(m/z):1683.5 [M]+
【0082】
1H NMR:表7に記載
【0083】
【表7】

【0084】
X線構造解析:[Pt2Au(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]・0.5CH2Cl2の結晶学的データを表8に記載する。
【0085】
【表8】

【0086】
[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]は、単結晶X線構造解析でその分子構造を決定している。その結晶学的データを表8に示し、その分子構造のORTEP図を図10に示す。[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]には、二つのPt原子、一つのAu原子、シクロメタル化し、且つPt・・・Au間を架橋した3,5−ジフェニルピラゾラトジアニオンを一つ、Pt・・・Pt間およびPt・・・Au間を架橋した3,5−ジフェニルピラゾラトを合計三つ、単座で配位した3,5−ジフェニルピラゾールを一つ含む。
【0087】
[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]におけるPt・・・Pt距離は3.2147(4)Å、Pt・・・Au距離は3.4290(5)Åおよび3.5305(5)Å、Au−N距離は1.992(7)Åおよび2.045(7)Åである。シクロメタル化した3,5−ジフェニルピラゾラトジアニオンのPt−C距離およびPt−N距離は、それぞれ2.016(7)Åおよび1.980(7)Åである。また、架橋している3,5−ジフェニルピラゾラトのPt−N距離は2.002(6)〜2.145(6)Åの範囲にある。単座で配位した3,5−ジフェニルピラゾールのPt−N距離は2.030(6)Åである。
【0088】
[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の光物理的性質について説明する。まず、[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを図11に示す。図11に示すように、[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]は、260nmに吸収極大を、330nm付近にショルダーを示す。
【0089】
次に、波長355nmの光で励起した[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の固体状態の発光スペクトルを図12に示す(測定温度:298K)。この発光スペクトルで示されるように、顕著な振動構造が確認された。また、絶対PL量子収率測定装置により求めた[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の固体状態の発光量子収率(Φ)は0.03であった。
【0090】
次に、80K、150Kおよび298Kにおける[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の発光スペクトルを図13に示す。蛍光寿命測定装置により求めた[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の発光寿命を表9に示す。表9に示す発光寿命は、二成分指数関数(I(t)=A1exp(−t/τ1)+A2exp(−t/τ2))を用いる解析から算出した。表9に示すように、Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の発光寿命は比較的長いことから、これは、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
【0091】
【表9】

【0092】
実施例4:[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)](74.3mg、0.05mmol)にAgBF4(15mg、0.078mmol)のメタノール溶液(5mL)、トリエチルアミン(40μL、0.25mmol)を加え、さらにジクロロメタン(10mL)を加え、室温で遮光しながら3時間撹拌を行った。この黄色溶液を濃縮し、析出した白黄色固体を集めた。固体を自然濾過しメタノールで洗浄後、減圧乾燥した(収量40.8mg、収率51%)。得られた[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]は、MIIがPtIIであり、MIがH+であり、M’IがAgIであり、L3が、配位子(L−3a)(即ち、R1:フェニル基、R2〜R6:水素原子)であり、L2が、配位子(L−2a)(即ち、R7およびR9:フェニル基、R8:水素原子)であるシクロメタル化錯体(2)である。なお、H+が配位子(L−2a)と結合して、Ph2pzHを形成している。このシクロメタル化錯体は、UV光(365nm)の照射下、固体状態で青緑色に発光した。
【0093】
【化13】

【0094】
(2)特性評価
溶解性:ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリルおよびトルエンに可溶
IR(KBr):3372(w), 3059(m), 3033(w), 2965(w), 2931(w), 1943(w), 1877(w), 1801(w), 1749(w), 1569(m), 1472(s), 1405(w), 1337(w), 1300(w), 1280(w), 1223(w), 1156(w), 1110(w), 1072(w), 1029(w), 1004(w), 792(w), 755(m), 694(m)
FAB−MS(m/z):1595.5 [M]+
【0095】
1H NMR:表10に記載
【0096】
【表10】

【0097】
X線構造解析:[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]・0.5CH2Cl2の結晶学的データを表11に記載する。
【0098】
【表11】

【0099】
[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]は、単結晶X線構造解析でその分子構造を決定している。その結晶学的データを表11に示し、その分子構造のORTEP図を図14に示す。[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]・0.5CH2Cl2の結晶構造は、実施例3の[Pt2Au(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]・0.5CH2Cl2の結晶構造と同形である。即ち、[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]には、二つのPt原子、一つのAg原子、シクロメタル化し、且つPt・・・Ag間を架橋した3,5−ジフェニルピラゾラトジアニオンを一つ、Pt・・・Pt間およびPt・・・Ag間を架橋した3,5−ジフェニルピラゾラトを合計三つ、単座で配位した3,5−ジフェニルピラゾールを一つ含む。
【0100】
[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]におけるPt・・・Pt距離は3.2486(5)Å、Pt・・・Ag距離は3.3687(7)Åおよび3.5422(8)Å、Ag−N距離は2.118(7)Åおよび2.092(7)Åである。
【0101】
[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の光物理的性質について説明する。まず、[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを図15に示す。図15に示すように、[Pt2(Ph2pz−κC,κN)(μ−Ph2pz)2(Ph2pz)(Ph2pzH)]は、255nmに吸収極大を示す。
【0102】
次に、波長355nmの光で励起した[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の固体状態の発光スペクトルを図16に示す。この発光スペクトルで示されるように、顕著な振動構造が確認された。また、絶対PL量子収率測定装置により求めた[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の固体状態の発光量子収率(Φ)は0.05であった。
【0103】
次に、80K、150K、220Kおよび298Kにおける[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の発光スペクトルを図17に示す。蛍光寿命測定装置により求めた[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の発光寿命を表12に示す。表12に示す発光寿命は、二成分指数関数(I(t)=A1exp(−t/τ1)+A2exp(−t/τ2))を用いる解析から算出した。表12に示すように、[Pt2Ag(Ph2pz−κC,κ2N,N’)(μ−Ph2pz)3(Ph2pzH)]の発光寿命は比較的長いことから、これは、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
【0104】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のシクロメタル化錯体の光吸収帯は、従来の金属錯体よりも長波長側にシフトしており、従来の金属錯体に比べて低エネルギーで励起させることができる。このような本発明のシクロメタル化錯体は、発光素子および表示装置の原料として有用である。
【符号の説明】
【0106】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
[(MII2(L12(L22] (1)
[式(1)中、MIIは、PtIIまたはPdIIを示す。
1は、式(L−1):
【化1】


{式(L−1)中、R1〜R6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示すか、或いはR3およびR4またはR4およびR5が結合して、ベンゼン環と共に、置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環を形成する。}
で表される1価のアニオン性配位子を示す。
2は、式(L−2):
【化2】


{式(L−2)中、R7〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。}
で表される1価のアニオン性配位子を示す。]
で表され、且つL1が、そのピラゾール環のN原子およびベンゼン環のC原子でMIIにキレート配位したシクロメタル化錯体。
【請求項2】
式(2):
[(MII2(MI)(M’I)(L3)(L24] (2)
[式(2)中、MIIは、PtIIまたはPdIIを示す。
Iは、H+を示す。
M’Iは、H+、AuI、AgI、CuI、HgI、TlIまたはPbIを示す。
3は、式(L−3):
【化3】


{式(L−3)中、R1〜R6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示すか、或いはR3およびR4またはR4およびR5が結合して、ベンゼン環と共に、置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環を形成する。}
で表される2価のアニオン性配位子を示す。
2は、式(L−2):
【化4】


{式(L−2)中、R7〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。}
で表される配位子を示す。]
で表され、且つL3が、そのピラゾール環のN原子およびベンゼン環のC原子でMIIにキレート配位したシクロメタル化錯体。
【請求項3】
IIが、PtIIである請求項1または2に記載のシクロメタル化錯体。
【請求項4】
6が、水素原子またはハロゲン原子である請求項1〜3のいずれか一項に記載のシクロメタル化錯体。
【請求項5】
1、R7およびR9が、置換基を有していてもよいフェニル基である請求項1〜4のいずれか一項に記載のシクロメタル化錯体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のシクロメタル化錯体を含む発光層を有する発光素子。
【請求項7】
請求項6に記載の発光素子を有する表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−188357(P2012−188357A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50726(P2011−50726)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】