説明

金属錯体色素組成物、光電変換素子及び光電気化学電池並びに金属錯体色素の製造方法

【課題】 溶剤に対する溶解性が高い金属錯体色素組成物と、光電変換効率が高い光電変換素子及び光電気化学電池を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される金属錯体色素と、特定の構造の金属錯体色素をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)の254nmで検出される面積で、0.5〜5%の含有率で含む金属錯体色素組成物。
(LLm1(LLm2(Z ・(CIm3 一般式(1)
[ 一般式(1)中、Mは金属原子を表し、LLは2座の配位子であり、LLは2座の配位子である。Zは配位子を表し、イソチオシアナト基、イソシアナト基及びイソセレノシアナト基から選ばれた少なくとも1種である。CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。m1及びm2はともに1であり、m3は0以上の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤に対する溶解性が高い金属錯体色素組成物及び光電変換効率が高い光電変換素子及び光電気化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は各種の光センサー、複写機、光電気化学電池(例えば太陽電池)等に用いられている。この光電変換素子には金属を用いたもの、半導体を用いたもの、有機顔料や色素を用いたもの、あるいはこれらを組み合わせたものなどの様々な方式が実用化されている。中でも、非枯渇性の太陽エネルギーを利用した太陽電池は、燃料が不要であり、無尽蔵なクリーンエネルギーを利用したものとして、その本格的な実用化が大いに期待されている。この中でも、シリコン系太陽電池は古くから研究開発が進められてきた。各国の政策的な配慮もあって普及が進んでいる。しかし、シリコンは無機材料であり、スループット及び分子修飾には自ずと限界がある。
【0003】
そこで色素増感型太陽電池の研究が精力的に行われている。特に、スイスのローザンヌ工科大学のGraetzel等がポーラス酸化チタン薄膜の表面にルテニウム錯体からなる色素を固定した色素増感型太陽電池を開発し、アモルファスシリコン並の変換効率を実現した。これにより、色素増感型太陽電池が一躍世界の研究者から注目を集めるようになった。
【0004】
特許文献1には、この技術を応用し、ルテニウム錯体色素によって増感された半導体微粒子を用いた色素増感光電変換素子が記載されている。また、廉価な有機色素を増感剤として用いた光電変換素子が報告されている。しかし、変換効率の高い光電変換素子を得るという点については十分といえない。
【0005】
そこで、特定の構造の光増感色素を半導体微粒子に吸着させることで、光電変換効率を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。しかし特許文献2、3に記載された光増感色素(純品)では、溶剤に対する溶解性が低いため、一定条件下では半導体微粒子に対する色素の吸着量が不十分で光電変換効率の点では十分とはいえないため、色素の使用量が大量であったり、溶解させるのに長時間を要したりと、生産性の観点から十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5463057号明細書
【特許文献2】特許第4576494号公報
【特許文献3】特開2001−291534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、溶剤に対する溶解性が高い金属錯体色素組成物と、光電変換効率が高い光電変換素子及び光電気化学電池を提供することにある。また、本発明の課題は、溶剤に対する溶解性が高い金属錯体色素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、特定の配位子を含む金属錯体色素が溶剤への溶解性が高いため、半導体微粒子への該色素の吸着量を向上させることができ、変換効率が高い光電変換素子及び光電気化学電池を提供することができることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0009】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
<1>下記一般式(1)で表される金属錯体色素と、下記一般式(5)で表される金属錯体色素及び/又は下記一般式(6)で表される金属錯体色素を含み、
一般式(5)で表される金属錯体色素及び一般式(6)で表される金属錯体色素の含有率が、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の254nmで検出される面積で、合わせて0.5〜5%であることを特徴とする金属錯体色素組成物。
(LLm1(LLm2(Z ・(CIm3 一般式(1)
[ 一般式(1)中、Mは金属原子を表し、LLは下記一般式(2)で表される2座の配位子であり、LLは下記一般式(3)で表される2座の配位子である。
【0010】
m1は1を表す。m2は1を表す。
【0011】
は配位子を表し、イソチオシアナト基、イソシアナト基及びイソセレノシアナト基から選ばれた少なくとも1種である。
CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表し、m3は0以上の整数である。]
【0012】
【化1】

[ 一般式(2)中、R11〜R14及びR21〜R24は独立して、酸性基若しくはその塩又は水素原子を表し、R11〜R14及びR21〜R24は同じでも異なっていてもよい。ただし、R11〜R14及びR21〜R24の少なくとも一つは酸性基又はその塩である。]
【0013】
【化2】

[ 一般式(3)中、n1、n2は独立して0〜3の整数を表し、Y、Yは独立して水素原子又は下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。ただし、Ar及びArは独立して下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。]
【0014】
【化3】

【0015】
[ 一般式(4)中、R31〜R33は独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、R31〜R33のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。Xは硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。]
【0016】
(LLm1(LLm2(Z)(CN)・(CIm3 一般式(5)
[ 一般式(5)中、M、LL、LL、Z、CI、m1、m2及びm3は、一般式(1)におけるものと同義である。]
【0017】
(LLm1(LLm2(CN) ・(CIm3 一般式(6)
[ 一般式(6)中、M、LL、LL、Z、CI、m1、m2及びm3は、一般式(1)におけるものと同義である。]
【0018】
<2>前記一般式(1)中、LLが、下記一般式(7)で表されることを特徴とする<1>記載の金属錯体色素組成物。
【化4】

[ 一般式(7)中、R41〜R43及びR51〜R53は、独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表す。R41〜R43のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。R51〜R53のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。X及びXはそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。]
<3>前記一般式(7)におけるX及びXが硫黄原子であることを特徴とする<2>記載の金属錯体色素組成物。
<4>前記一般式(1)で表される金属錯体色素が下記一般式(8)で表されることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1項記載の金属錯体色素組成物。
【0019】
【化5】

[ 一般式(8)中、R61、R62は独立にアルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A、Aは独立してカルボキシル基又はその塩を表す。]
<5>前記一般式(5)で表される金属錯体色素が下記一般式(9)で表され、前記一般式(6)で表される金属錯体色素が下記一般式(10)で表されることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1項記載の金属錯体色素組成物。
【0020】
【化6】

[ 一般式(9)中、R71及びR72は独立にアルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A、Aは独立してカルボキシル基又はその塩を表す。
一般式(10)中、R73及びR74は独立にアルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A、Aは独立してカルボキシル基又はその塩である。]
<6>前記一般式(5)で表される金属錯体色素が下記一般式(11)で表され、前記一般式(6)で表される金属錯体色素が下記一般式(12)で表されることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか1項記載の金属錯体色素組成物。
【0021】
【化7】

[ 一般式(11)及び一般式(12)中、R81〜R84は独立にアルキニル基を表す。A13〜A16は独立してカルボキシル基又はその塩を表す。]
<7>下記一般式(13)の金属錯体色素と下記一般式(14)の化合物を含む混合液を外部加熱によって前記混合液の温度を上昇させる工程を含むことを特徴とする下記一般式(1)の金属錯体色素の製造方法。
(LLm1(LLm2(Zm4 ・(CIm5 一般式(13)
[ 一般式(13)中、M、LL、LL、CI、m1及びm2は、一般式(1)におけるものと同義である。Zは1座又は2座の配位子である。m4は、1〜2の整数を表し、Zが1座配位子のときm4は2を表わし、Zが2座配位子のときm4は1を表わす。m5は0以上の整数である。]
11QCN 一般式(14)
[ 一般式(14)中、M11は、無機若しくは有機のアンモニウムイオン、プロトン又はアルカリ金属イオンを表し、Qは硫黄原子、酸素原子又はセレン原子を表す。]
【0022】
(LLm1(LLm2(Z ・(CIm3 一般式(1)
[ 一般式(1)中、Mは金属原子を表し、LLは下記一般式(2)で表される2座の配位子であり、LLは下記一般式(3)で表される2座の配位子である。
【0023】
m1は1を表し、m2は1を表し、m3は0以上の整数である。
【0024】
は配位子を表し、イソチオシアナト基、イソシアナト基及びイソセレノシアナト基から選ばれた少なくとも1種である。
CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。]
【0025】
【化8】

[ 一般式(2)中、R11〜R14及びR21〜R24は独立して、酸性基若しくはその塩又は水素原子を表し、R11〜R14及びR21〜R24は同じでも異なっていてもよい。ただし、R11〜R14及びR21〜R24の少なくとも一つは酸性基又はその塩である。]
【0026】
【化9】

[ 一般式(3)中、n1、n2は独立して0〜3の整数を表し、Y、Yは独立して水素原子又は下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。ただし、Ar及びArは独立して下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。]
【0027】
【化10】

【0028】
[ 一般式(4)中、R31〜R33は独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、R31〜R33のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。Xは硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。]
<8>前記一般式(1)中のLLが、下記一般式(7)で表されることを特徴とする<7>記載の金属錯体色素の製造方法。
【0029】
【化11】

[ 一般式(7)中、R41〜R43及びR51〜R53は、独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表す。R41〜R43のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。R51〜R53のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。X及びXはそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。]
<9>前記一般式(7)におけるX及びXが硫黄原子であることを特徴とする<8>記載の金属錯体色素の製造方法。
<10>前記一般式(1)が下記一般式(8)で表され、前記一般式(13)が下記一般式(15)で表され、前記一般式(14)が下記一般式(16)で表されることを特徴とする<7>〜<9>のいずれか1項記載の金属錯体色素の製造方法。
【0030】
【化12】

[ 一般式(8)及び一般式(15)中、R61、R62、R91、R92は独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A〜Aは独立してカルボキシル基又はその塩を表す。一般式(16)中、M12は、無機若しくは有機のアンモニウムイオン、プロトン又はアルカリ金属イオンを表す。]
<11>前記一般式(1)が下記一般式(17)で表され、前記一般式(13)が下記一般式(18)で表され、前記一般式(14)が下記一般式(19)で表されることを特徴とする<7>〜<9>のいずれか1項記載の金属錯体色素の製造方法。
【0031】
【化13】

[ 一般式(17)及び一般式(18)中、R101、R102、R111、R112は独立にアルキニル基を表し、A〜A12は独立してカルボキシル基又はその塩を表す。一般式(19)中、M13は、無機若しくは有機のアンモニウムイオン、プロトン又はアルカリ金属イオンを表す。]
<12><1>〜<6>のいずれか1項記載の金属錯体色素組成物を増感色素として用いることを特徴とする光電変換素子。
<13><7>〜<11>のいずれか1項記載の金属錯体色素の製造方法で製造された金属錯体色素を用いることを特徴とする光電変換素子。
<14><1>〜<13>のいずれか1項記載の光電変換素子を備えることを特徴とする光電気化学電池。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、変換効率が高く、耐久性に優れた光電変換素子及び光電気化学電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明によって製造される光電変換素子の一実施態様について模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、特定の配位子を含む金属錯体色素が溶剤への溶解性が高いため、半導体微粒子への該色素の吸着量を向上させることができ、変換効率が高い光電変換素子及び光電気化学電池を提供することができることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0035】
本発明の光電変換素子の好ましい実施態様を、図1の模式的断面図を参照して説明する。
【0036】
図1に示すように、光電変換素子10は、導電性支持体1、導電性支持体1上にその順序で配された、感光体層2、電荷移動体層3、及び対極4からなる。上記導電性支持体1と感光体層2とにより受光電極5を構成している。その感光体層2は半導体微粒子22と増感色素(以下、単に、色素ともいう。)21とを有している。増感色素21はその少なくとも一部において半導体微粒子22に吸着している(増感色素21は吸着平衡状態になっており、一部電荷移動体層3に存在していてもよい。)。電荷移動体層3は、例えば正孔(ホール)を輸送する正孔輸送層として機能する。感光体層2が形成された導電性支持体1は、光電変換素子10において作用電極として機能する。この光電変換素子10を外部回路6で仕事をさせるようにして、光電気化学電池100として作動させることができる。
【0037】
上記受光電極5は、導電性支持体1及び導電性支持体1上に塗設される増感色素21の吸着した半導体微粒子22の感光体層2(半導体膜)よりなる電極である。感光体層2(半導体膜)に入射した光は色素を励起する。励起色素はエネルギーの高い電子を有している。そこでこの電子が増感色素21から半導体微粒子22の伝導帯に渡され、さらに拡散によって導電性支持体1に到達する。このとき増感色素21の分子は酸化体となっている。電極上の電子が外部回路6で仕事をしながら酸化体に戻ることにより、光電気化学電池100として作用する。この際、受光電極5はこの電池の負極として働く。
【0038】
上記感光体層2は、後述の色素が吸着された半導体微粒子22の層からなる多孔質半導体層で構成されている。この色素は一部電解質中に解離したもの等があってもよい。感光体層2は目的に応じて設計され、多層構造からなる。
【0039】
上述したように感光体層2には、特定の色素が吸着した半導体微粒子22を含むことから、受光感度が高く、光電気化学電池100として使用する場合に、高い光電変換効率を得ることができ、さらに高い耐久性を有する。
【0040】
(金属錯体色素組成物)
本発明の金属錯体色素組成物は、下記一般式(1)で表される金属錯体色素と、下記一般式(5)で表される金属錯体色素及び/又は下記一般式(6)で表される金属錯体色素を含み、
一般式(5)で表される金属錯体色素及び一般式(6)で表される金属錯体色素の含有率が、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の254nmで検出される面積で、合わせて0.5〜5%である。
(LLm1(LLm2(Z ・(CIm3 一般式(1)
[ 一般式(1)中、Mは金属原子を表し、LLは下記一般式(2)で表される2座の配位子であり、LLは下記一般式(3)で表される2座の配位子である。
【0041】
m1及びm2は共に1である。m3は0以上の整数である。
【0042】
は配位子を表し、イソチオシアナト基、イソシアナト基及びイソセレノシアナト基から選ばれた少なくとも1種である。Z同士は同じでも異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。]
【0043】
【化14】

[ 一般式(2)中、R11〜R14及びR21〜R24は独立して、酸性基若しくはその塩又は水素原子を表し、R11〜R14及びR21〜R24は同じでも異なっていてもよい。ただし、R11〜R14及びR21〜R24のうち少なくとも一つは酸性基又はその塩である。]
【0044】
【化15】

[ 一般式(3)中、n1、n2は独立して0〜3の整数を表し、Y、Yは独立して水素原子又は下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。Ar1及びAr2は独立して下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。]
【0045】
【化16】

【0046】
[ 一般式(4)中、R31〜R33は独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、R31〜R33のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。Xは硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。]
【0047】
(LLm1(LLm2(Z)(CN)・(CIm3 一般式(5)
[ 一般式(5)中、M、LL、LL、Z、CI、m1、m2及びm3は、一般式(1)におけるものと同義である。]
【0048】
(LLm1(LLm2(CN) ・(CIm3 一般式(6)
[ 一般式(6)中、M、LL、LL、Z、CI、m1、m2及びm3は、一般式(1)におけるものと同義である。]
【0049】
(A)一般式(1)で表される金属錯体色素
(A1)金属原子M
は金属原子を表す。Mは好ましくは4配位又は6配位が可能な金属であり、より好ましくはRu、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、Mn又はZnである。特に好ましくは、Ru、OsFe又はCuであり、最も好ましくはRuである。Ruのうち2価のRuが好ましい。
【0050】
(A2)配位子LL
配位子LLは、下記一般式(2)により表される2座である。配位子LLの数を表すm1は1である。
【0051】
【化17】

【0052】
一般式(2)中のR11〜R14及びR21〜R24は独立して、酸性基若しくはその塩又は水素原子を表し、R11〜R14及びR21〜R24は同じでも異なっていてもよい。R11〜R14及びR21〜R24としては、例えば、水素原子、酸性基(例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(好ましくは炭素原子数1〜20のヒドロキサム酸基、例えば―CONHOH、―CONCHOH等)、ホスホリル基(例えば―OP(O)(OH)等)又はホスホニル基(例えば―P(O)(OH)等)など)又はこれらの塩を挙げることができる。酸性基は連結基を介して結合していてもよく、連結基を介して上記のカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基などの酸性基が結合したものも酸性基に含める。R11〜R14及びR21〜R24のうち少なくとも一つは酸性基又はその塩である。R11〜R14及びR21〜R24が酸性基を表すとき、電子注入の観点から酸性基として好ましくは、カルボキシル基、スルホン酸基若しくはホスホニル基等の酸性基又はこれらの塩、さらに好ましくはカルボキシル基若しくはホスホニル基又はこれらの塩であり、より好ましくはカルボキシル基又はその塩である。R11〜R14及びR21〜R24が酸性基若しくはその塩又は水素原子であることにより、半導体微粒子に金属錯体色素が効果的に吸着することができる。
【0053】
(A3)配位子LL
配位子LLは下記一般式(3)で表される2座の配位子である。配位子LLの配位子LLの数を表すm2は1を表す。二重結合はE体でもZ体でも良い。
【0054】
【化18】

【0055】
一般式(3)において、n1、n2は独立して0〜3の整数を表す。n1、n2は0〜3が好ましく、さらに好ましくは、0〜1である。Y、Yは独立して水素原子又は下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。Ar及びArは独立して下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。
一般式(4)中、R31〜R33は独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、R31〜R33のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基、さらに好ましくは、アルキル基、アルキニル基であり、特に好ましくはアルキニル基である。これらは直鎖でも分岐していてもよく、炭素数は2〜15であることが好ましく、さらに好ましくは炭素数3〜12、特に好ましくは炭素数4〜8である。これらの疎水性置換基を有する金属錯体色素組成物を用いて半導体微粒子に該色素組成物中の色素を吸着させることで、電荷移動体層中の電解質に存在する水の接近を妨げ、色素の半導体微粒子からの脱着を抑制できる。疎水性置換基の炭素数が多すぎると水の接近だけでなく、電解質中の例えばヨウ素等の接近も妨げることとなり、レドックス系からの還元が円滑にされない。
又はYが一般式(4)で表される場合、Y又はYがピリジン環と共役するとともに、Ar及びArがピリジン環と共役していることが好ましい。一般式(4)で表されるY又はYの電子供与性とともに、これらが共役していることにより、金属錯体色素中の金属原子MへのHOMOレベルが向上し、長波長域の光を吸収(長波化)することができる。一般式(4)中、Xは硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。一般式(4)におけるXは好ましくは、求核種に対する安定性、酸化されにくさ及び合成難易度の観点から硫黄原子又はセレン原子であり、さらに好ましくは、硫黄原子である。配位子LLがこのような構造であることにより、色素脱着による電池としての性能低下の抑制及び長波化の効果を奏することができる。
【0056】
【化19】

【0057】
配位子LLが下記一般式(7)で表されることが好ましい。一般式(7)中、R41〜R43及びR51〜R53は、独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表す。R41〜R43のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。R51〜R53のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。X及びXはそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。二重結合はE体でもZ体でもよい。R41〜R43は、好ましくは、アルキル基、アルキニル基である。R51〜R53は、好ましくは、アルキル基、アルキニル基である。一般式(7)におけるX、Xは好ましくは、硫黄原子、セレン原子であり、さらに好ましくは、硫黄原子である。配位子LLがこのような構造であることにより、一般式(3)のn1及びn2が1であることで、2以上のときと比較して、酸化されにくく安定であるという効果を奏することができる。
【化20】

【0058】
前記一般式(1)で表される金属錯体色素が、下記一般式(8)で表されることが好ましい。一般式(8)中、R61、R62は独立に、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A、Aは独立してカルボキシル基又はその塩を表す。R61、R62は、好ましくは、アルキル基、アルキニル基である。一般式(1)で表される金属錯体色素はこの構造により、チオフェンの高い電子供与性により、長波長域の光を吸収できる。また、ビピリジン環に結合するビニルチオフェン及びチオフェンに結合する置換基により、水の接近を排除することで、半導体微粒子からの色素の脱着を抑制できる。また、カルボキシル基又はその塩により効率よく電子注入され、高い電子供与性のイソチオシアナト基により、長波長域の光を吸収することができる。
前記一般式(1)で表される金属錯体色素において、LLとLLを1つずつ有することで、半導体微粒子表面にLLの酸性基部分で色素を吸着させ、アルキル基、アルコキシ基またはアルキニル基等の疎水性基を有するLLが半導体微粒子層とは空間的に反対側に配置させることで、効果的に水の接近を抑制でき、色素の脱着を抑制することができる。
【0059】
【化21】

【0060】
(A4)配位子Z
配位子Zは、イソチオシアナト基、イソシアナト基及びイソセレノシアナト基から選ばれた少なくとも1種である。これらの基は電子供与性が高く、色素の長波化に寄与する。配位子Zは、好ましくは、イソチオシアナト基、イソセレノシアナト基である。
【0061】
(A5)対イオンCI
一般式(1)中のCIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。一般に、色素が陽イオン又は陰イオンであるか、あるいは正味のイオン電荷を有するかどうかは、色素中の金属、配位子及び置換基に依存する。対イオンCIの数m3は0以上の整数である。
【0062】
置換基が解離性基を有することなどにより、一般式(1)の色素は解離して負電荷を持ってもよい。この場合、一般式(1)の色素全体の電荷は対イオンCIにより電気的に中性とされる。
【0063】
対イオンCIが正の対イオンの場合、例えば、対イオンCIは、無機又は有機のアンモニウムイオン(例えばテトラアルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等)、アルカリ金属イオン又はプロトンである。
【0064】
対イオンCIが負の対イオンの場合、例えば、対イオンCIは、無機陰イオンでも有機陰イオンでもよい。例えば、ハロゲン陰イオン(例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等)、置換アリールスルホン酸イオン(例えばp−トルエンスルホン酸イオン、p−クロロベンゼンスルホン酸イオン等)、アリールジスルホン酸イオン(例えば1,3−ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5−ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6−ナフタレンジスルホン酸イオン等)、アルキル硫酸イオン(例えばメチル硫酸イオン等)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等が挙げられる。さらに電荷均衡対イオンとして、イオン性ポリマーあるいは色素と逆電荷を有する他の色素を用いてもよく、金属錯イオン(例えばビスベンゼン−1,2−ジチオラトニッケル(III)等)も使用可能である。
【0065】
(B)一般式(5)又は一般式(6)の金属錯体色素
本発明の金属錯体色素組成物は、上記の一般式(1)で表される金属錯体色素のほかに、下記一般式(5)で表される金属錯体色素と下記一般式(6)で表される金属錯体色素の少なくとも一方を、特定量含むものである。その配合割合は、一般式(5)で表される金属錯体色素及び一般式(6)で表される金属錯体色素の含有率が合わせて、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の254nmで検出される面積%で、金属錯体色素組成物中の0.5〜5%である。
一般式(5)の金属錯体色素は、配位子としてシアノ基を1つ有し、一般式(6)の金属錯体色素は、配位子としてシアノ基を2つ有する。一般式(5)中、M、LL、LL、Z、CI、m1、m2及びm3は、前記の一般式(1)におけるものと同義であり、一般式(6)中、M、LL、LL、Z、CI、m1、m2及びm3は、前記一般式(1)におけるものと同義であり、説明が重複するため、省略する。一般式(5)及び一般式(6)中のM、LL、LL、Z、CI、m1、m2及びm3は一般式(1)と同一であることが変換効率等の性能の観点から好ましい。
(LLm1(LLm2(Z)(CN)・(CIm3 一般式(5)
(LLm1(LLm2(CN)・(CIm3 一般式(6)
【0066】
シアノ基は、前述したイソチオシアナト基等と比較して電子供与性が低い。このため、シアノ基を1つ有する一般式(5)で表される金属錯体色素及びシアノ基を2つ有する一般式(6)で表される金属錯体色素は、HOMOレベルが低下し、吸収が短波長化し、半導体微粒子に吸着させて増感色素として用いた場合、長波側の光を有効利用できず変換効率が低下を招きやすい。
しかしながら、一般式(5)で表される金属錯体色素及び一般式(6)で表される金属錯体色素の含有率が、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の254nmで検出される面積で、金属錯体色素組成物中の0.5〜5%であることにより、変換効率の低下を招くことなく、色素の溶液への溶解性を飛躍的に向上させることができ、半導体微粒子への色素吸着量を向上させ、高い光電変換効率を得ることができる。また、短時間で色素溶液を調製することができ、光電変換素子作製の生産性が向上する。色素の溶液への溶解性向上の理由は定かではないが、一般式(1)で表わされる金属錯体色素とともに、基本骨格は共通するものの、化学的に性質の異なるシアノ基を有する金属錯体色素を0.5〜5%含むことで、0.5%以下の高純度のときと金属錯体色素の結晶配列が異なるためと思われる。
一般式(5)で表される金属錯体色素及び一般式(6)で表される金属錯体色素の含有率が、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の254nmで検出される面積で、0.5〜5%とは、カラム YMC社製のYMC−Pack ODS−AM312 150mm×6.0mmI.D.、流量0.75ml/分、オーブン40℃、溶離液組成テトラヒドロフラン/水=63/37(0.1%トリフルオロ酢酸バッファー含有)、測定時間50分の条件で分析したときのものである。
【0067】
前記一般式(5)で表される金属錯体色素が下記一般式(9)で表され、前記一般式(6)で表される金属錯体色素が下記一般式(10)で表され、一般式(9)で表される金属錯体色素と一般式(10)で表される金属錯体色素の含有率の合計が、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の254nmで検出される面積で、0.5〜5%であることが好ましい。下記一般式(9)中、R71、R72は独立にアルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A、Aは独立してカルボキシル基又はその塩を表す。一般式(10)中、R73、R74は独立にアルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A、Aは独立してカルボキシル基又はその塩を表す。R71、R72は、好ましくは、アルキル基、アルキニル基である。R73、R74は、好ましくは、アルキル基、アルキニル基である。一般式(5)で表される金属錯体色素と、一般式(6)で表される金属錯体色素がこのような構造であり、かつこれらの金属錯体色素の含有率の合計が、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の254nmで検出される面積で、0.5〜5%であることにより、チオフェン環の電子供与性により色素の吸収が長波化し、シアノ基を有するため短波化することによる著しい変換効率低下を招かず、溶解性の向上の効果を奏することができる。一般式(5)で表される金属錯体色素と、一般式(6)で表される金属錯体色素の含有率の合計は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の254nmで検出される面積で、好ましくは、0.5〜4.5%、さらに好ましくは、0.5〜4%、特に好ましくは0.5〜3.5%である。
【0068】
【化22】

【0069】
前記一般式(5)で表される金属錯体色素が下記一般式(11)で表され、前記一般式(6)で表される金属錯体色素が下記一般式(12)で表されることが好ましい。一般式(11)及び一般式(12)中、R81〜R84は独立にアルキニル基を表し、A13〜A16は独立してカルボキシル基又はその塩を表す。この構造の金属錯体色素は、R81〜R84がアルキニル基であるため、共役系伸長によるLLのπ−π遷移に由来する吸収の長波化及びε向上の効果を奏することができる。またR81〜R84がアルキニル基であることで、この構造の金属錯体色素は、チオフェン環に対してR81〜R84の平面性が向上するか、π電子の増加により、半導体微粒子表面に色素が吸着した状態で分子間で長波化に寄与する好ましい会合をしやすくなる可能性があると予想される。R81〜R84は、好ましくは、炭素数3から13の直鎖または分岐のアルキニル基、さらに好ましくは、炭素数3から8の直鎖または分岐のアルキニル基、特に好ましくは炭素数4から7の直鎖または分岐のアルキニル基である。
【0070】
【化23】

金属錯体色素組成物は、好ましくは有機溶媒中に一般式(1)の金属錯体色素と、一般式(5)で表される金属錯体色素及び/又は一般式(6)で表される金属錯体色素中に溶解させることができる。そのような有機溶媒としては、例えば、アルコール溶媒(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ニトリル溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、バレロニトリル等)、エステル溶媒(酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等)、アミド系溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、NMP)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、クロロホルム等)、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを挙げることができるが、特に限定されるものではない。また複数の溶媒からなる混合溶媒でもよい。
【0071】
(C)金属錯体色素の製造方法
本発明の一般式(1)の金属錯体色素は、下記一般式(13)の金属錯体色素と下記一般式(14)の化合物を含む混合液を外部加熱によって前記混合液の温度を上昇させる工程を含む方法により製造することができる。
(LLm1(LLm2(Zm4 ・(CIm5 一般式(13)
一般式(13)中、M、LL、LL、CI、m1及びm2は、一般式(1)におけるものと同義である。Zは1座又は2座の配位子である。Zは好ましくは、ハロゲン原子(F,Cl,Br,I)、水、ジメチルホルムアミド基、−O−C(=O)−(CH−C(=O)−O− (pは0以上の整数を表わし、好ましくは0〜6、さらに好ましくは0〜4、特に好ましくは0〜2である。)である。さらに好ましくは、塩素原子、水、ジメチルホルムアミド基であり、特に好ましくは、塩素原子である。m4は、1〜2の整数を表し、Zが1座配位子のときm4は2を表わし、Zが2座配位子のときm4は1を表わす。m4が2とき、Z同士は同じでも異なっていても良いが、同じであることが好ましい。m5は0以上の整数である。
【0072】
一般式(14)の化合物は、以下の化学式で表される。
11QCN 一般式(14)
[ 一般式(14)中、M11は、無機若しくは有機のアンモニウムイオン、プロトン又はアルカリ金属イオンを表し、Qは硫黄原子、酸素原子又はセレン原子を表す。]
11としては、無機若しくは有機のアンモニウムイオン(例えばNH+、NBu、NEt)、アルカリ金属イオン(例えばNa、K、Li)が好ましく、さらに好ましくはNH、NBu、K、特に好ましくはNH,Kである。Qとしては、一般式(1)の金属錯体色素の吸収波長、すなわち配位子としてのQCNの電子供与性の点から硫黄原子、セレン原子が好ましく、さらに好ましくは硫黄原子である。
【0073】
一般式(1)で表される金属錯体色素は、前述したとおり、下記式で表される。
(LLm1(LLm2(Z ・(CIm3 一般式(1)
一般式(1)中、Mは金属原子を表し、LLは下記一般式(2)で表される2座の配位子であり、LLは下記一般式(3)で表される2座の配位子である。m1とm2は共に1を表わす。Zは配位子を表し、イソチオシアナト基、イソシアナト基及びイソセレノシアナト基から選ばれた少なくとも1種である。Z同士は同じでも異なっていても良いが、同じであることが好ましい。CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。m3は0以上の整数である。
【0074】
【化24】

[ 一般式(2)中、R11〜R14及びR21〜R24は独立して、酸性基若しくはその塩又は水素原子を表し、R11〜R14及びR21〜R24は同じでも異なっていてもよい。ただし、R11〜R14及びR21〜R24のうち少なくとも一つは酸性基又はその塩である。]
【0075】
【化25】

[ 一般式(3)中、n1、n2は独立して0〜3の整数を表し、Y、Yは独立して水素原子又は下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。Ar及びArは独立して下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。
【0076】
【化26】

【0077】
[ 一般式(4)中、R31〜R33は独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、R31〜R33のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。Xは硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。]
【0078】
前記一般式(1)〜一般式(4)の説明は、前述したものと同じであり、重複するため、省略する。
本発明の金属錯体色素は、以下の合成スキームに例示するように、上記の一般式(13)の金属錯体色素と上記の一般式(14)の化合物を含む混合液を外部加熱によって加熱して前記混合液の温度を上昇させる工程を含む方法により製造することができる。上記の一般式(13)の金属錯体色素と上記の一般式(14)の化合物を含む混合液としては、好ましくは有機溶媒を使用することができ、例えば、アルコール溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等)、ニトリル溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、バレロニトリル等)、エステル溶媒(酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等)、アミド系溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、NMP)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、クロロホルム等)、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。また複数の溶媒からなる混合溶媒でもよく、水との混合溶媒でもよい。有機溶媒として好ましくは、アルコール溶媒、ニトリル溶媒、アミド系溶媒、さらに好ましくはアルコール溶媒、アミド系溶媒、特に好ましくはアミド系溶媒である。
【0079】
上記の一般式(13)の金属錯体色素と上記の一般式(14)の化合物を含む混合液を加熱して前記混合液の温度を上昇させる方法としては、外部から加熱する方法であることが必須である。外部から加熱する方法とは、外部の熱源からの熱移動によって加熱する方法を意味する。熱源として特に限定はされないが、電気エネルギーを熱に変換する熱源、燃焼による熱源等が挙げられる。それら熱源から得た熱を媒体を経由して、上記の混合液を熱してもよい。媒体としてはオイル、水(水蒸気)等が挙げられる。マイクロ波などを照射する方法は、マイクロ波が物質に吸収され、マイクロ波のエネルギーが熱に変換されることによる加熱であり、いわば内部からの加熱であり、外部加熱には含まれない。マイクロ波などを照射する内部加熱では、外部加熱とは加熱原理が異なり直接金属錯体が加熱され加熱のエネルギーが大きすぎるため、混合物中に含まれる一般式(13)の金属錯体色素や一般式(14)の化合物または一般式(1)の金属錯体色素の分解等が起きるため、本発明の金属錯体色素を製造するには好ましくない。外部加熱による方法としては、好ましくは、オイルバスまたは水蒸気で混合液を加熱する方法を挙げることができる。加熱する温度と反応時間は、反応させる金属錯体色素や使用する溶媒により適宜選定することができる。加熱する温度は好ましくは90〜170℃、さらに好ましくは、90〜160℃、特に好ましくは、100〜150℃、最も好ましくは、100〜140℃である。反応時間は好ましくは30分〜12時間、さらに好ましくは、1〜8時間、さらに好ましくは、2〜6時間である。
【0080】
一般式(13)の金属錯体色素は、下記スキームに示されるように、Ruを有する化合物に、LLとLLを導入して得ることができる。Ru源としては特に限定されないが、例えば塩化ルテニウムやその水和物、後述するd−1−6等が挙げられる。好ましくはRuの価数が2価である後述のd−1−6である。LLとLLの導入順序は特に限定されないが、LLから導入することが好ましい。Zは通常Ru源によって決まるが、添加剤(ヨウ化カリウム、シュウ化カリウム、KO−C(=O)−(CH−C(=O)−OK(pは0以上の整数)等))を使用することでZは変更することができる。また溶媒を配位させてZとすることができる。その後、得られた一般式(13)の金属錯体色素を含む溶液に化合物(14)を入れ、上記のとおり外部から加熱して、一般式(1)の金属錯体色素を得ることができる。
【0081】
【化27】

【0082】
前記一般式(13)において、配位子LLが下記一般式(7)で表されることが好ましい。下記一般式(7)中、R41〜R43及びR51〜R53は、独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表す。R41〜R43のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。R51〜R53のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。X、Xは硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。R41〜R43は、好ましくは、アルキル基、アルキニル基である。R51〜R53は、好ましくは、アルキル基、アルキニル基である。一般式(7)におけるX、Xは好ましくは、硫黄原子、セレン原子であり、さらに好ましくは、硫黄原子である。
【化28】

【0083】
前記一般式(13)の金属錯体色素が下記一般式(15)で表され、前記一般式(14)の化合物が下記一般式(16)で表されることにより、下記一般式(8)で表される金属錯体色素を製造する方法が好ましい。一般式(8)及び一般式(15)中、R61、R62、R91、R92は独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A〜Aは独立してカルボキシル基又はその塩を表す。一般式(16)中、M12は、無機若しくは有機のアンモニウムイオン、プロトン又はアルカリ金属イオンを表す。R61、R62、R91、R92は、好ましくは、アルキル基、アルキニル基である。金属錯体色素(13)と一般式(14)の化合物がこれらの構造であることにより、金属錯体色素(13)が、求核種の化合物(14)に対して安定なチオフェン環を有しているため、望まない求核反応を抑制でき、脱離能の高く求核能が低いClが脱離基となることで、−NCS基がRu原子に選択的に配位した一般式(8)の金属錯体色素を効率よく製造することができる。
【0084】
【化29】

【0085】
前記一般式(13)の金属錯体色素が下記一般式(18)で表され、前記一般式(14)の化合物が下記一般式(19)で表されることにより、下記一般式(17)で表される金属錯体色素を製造する方法が好ましい。一般式(17)及び一般式(18)中、R101、R102、R111及びR112は独立にアルキニル基を表し、A〜A12は独立してカルボキシル基又はその塩を表す。一般式(19)中、M13は、無機若しくは有機のアンモニウムイオン、プロトン又はアルカリ金属イオンを表す。R101、R102、R111及びR112は、好ましくは、炭素数3から13の直鎖または分岐のアルキニル基、さらに好ましくは炭素数3から8の直鎖または分岐のアルキニル基、特に好ましくは炭素数4から7の直鎖または分岐のアルキニル基である。
【0086】
【化30】

【0087】
一般式(1)で表される色素は、溶液中における極大吸収波長が、500〜700nmの範囲であり、より好ましくは500〜650nmの範囲である。
【0088】
本発明で用いる一般式(1)で表される構造を有する色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記具体例における色素がプロトン解離性基を有する配位子を含む場合、該配位子は必要に応じて解離し、対イオンと塩を形成してもよい。また、二重結合部位に基づく異性体や、錯体の配位子の位置に基づく異性体等が存在するが、それらはどちらでもよく、混合物であっても良い。
【0089】
【化31】

【0090】
【化32】

【0091】
【化33】

【0092】
(D)電荷移動体
本発明の光電変換素子10に用いられる電解質組成物には、酸化還元対として、例えばヨウ素とヨウ化物(例えばヨウ化リチウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム等)との組み合わせ、アルキルビオローゲン(例えばメチルビオローゲンクロリド、ヘキシルビオローゲンブロミド、ベンジルビオローゲンテトラフルオロボレート)とその還元体との組み合わせ、ポリヒドロキシベンゼン類(例えばハイドロキノン、ナフトハイドロキノン等)とその酸化体との組み合わせ、2価と3価の鉄錯体(例えば赤血塩と黄血塩)の組み合わせ等が挙げられる。これらのうちヨウ素とヨウ化物との組み合わせが好ましい。
【0093】
ヨウ素塩のカチオンは5員環又は6員環の含窒素芳香族カチオンであるのが好ましい。特に、一般式(1)により表される化合物がヨウ素塩でない場合は、再公表WO95/18456号公報、特開平8−259543号公報、電気化学,第65巻,11号,923頁(1997年)等に記載されているピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等のヨウ素塩を併用するのが好ましい。
【0094】
本発明の光電変換素子10に使用される電解質組成物中には、ヘテロ環4級塩化合物と共にヨウ素を含有するのが好ましい。ヨウ素の含有量は電解質組成物全体に対して0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.5〜5質量%であるのがより好ましい。
【0095】
本発明の光電変換素子10に用いられる電解質組成物は溶媒を含んでいてもよい。電解質組成物中の溶媒含有量は組成物全体の50質量%以下であるのが好ましく、30質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以下であるのが特に好ましい。
【0096】
溶媒としては低粘度でイオン移動度が高いか、高誘電率で有効キャリアー濃度を高めることができるか、又はその両方であるために優れたイオン伝導性を発現できるものが好ましい。このような溶媒としてカーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン等)、エーテル化合物(ジオキサン、ジエチルエーテル等)、鎖状エーテル類(エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ビスシアノエチルエーテル等)、エステル類(カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等)、非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルフォラン等)、水、特開2002−110262記載の含水電解液、特開2000−36332号公報、特開2000−243134号公報、及び再公表WO/00−54361号公報記載の電解質溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は二種以上を混合して用いてもよい。
【0097】
また、電解質溶媒として、室温において液体状態であり、及び室温よりも低い融点を有する電気化学的に不活性な塩を用いても良い。例えば、1−エチルー3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−ブチルー3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート等にイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩などの含窒素ヘテロ環四級塩化合物、又はテトラアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0098】
本発明の光電変換素子に用いられる電解質組成物には、ポリマーやオイルゲル化剤を添加したり、多官能モノマー類の重合やポリマーの架橋反応等の手法によりゲル化(固体化)してもよい。
【0099】
ポリマーを添加することにより電解質組成物をゲル化させる場合、Polymer Electrolyte Reviews−1及び2(J.R.MacCallumとC. A. Vincentの共編、ELSEVIER APPLIED SCIENCE)に記載された化合物等を添加することができる。この場合、ポリアクリロニトリル又はポリフッ化ビニリデンを用いるのが好ましい。
【0100】
オイルゲル化剤を添加することにより電解質組成物をゲル化させる場合は、オイルゲル化剤としてJ. Chem. Soc. Japan, Ind. Chem. Soc., 46779 (1943)、J. Am. Chem. Soc., 111, 5542 (1989)、J. Chem. Soc., Chem. Commun., 390 (1993)、Angew. Chem. Int.Ed. Engl., 35, 1949 (1996)、Chem. Lett., 885, (1996)、J. Chem. Soc., Chem. Commun., 545, (1997)等に記載された化合物を使用することができ、アミド構造を有する化合物を用いるのが好ましい。
【0101】
多官能モノマー類の重合によって電解質組成物をゲル化する場合は、多官能モノマー類、重合開始剤、電解質及び溶媒から溶液を調製し、キャスト法、塗布法、浸漬法、含浸法等の方法により色素を担持した電極上にゾル状の電解質層を形成し、その後多官能モノマーのラジカル重合によってゲル化させる方法が好ましい。多官能モノマー類はエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物であることが好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等が好ましい。
【0102】
ゲル電解質は上記多官能モノマー類の他に単官能モノマーを含む混合物の重合によって形成してもよい。単官能モノマーとしては、アクリル酸又はα−アルキルアクリル酸(アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等)或いはそれらのエステル又はアミドやビニルエステル類(酢酸ビニル等)、マレイン酸又はフマル酸又はそれらから誘導されるエステル類(マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジエチル等)、p−スチレンスルホン酸のナトリウム塩、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジエン類(ブタジエン、シクロペンタジエン、イソプレン等)、芳香族ビニル化合物(スチレン、p−クロロスチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等)、N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、メタクリルスルホン酸ナトリウム、ビニリデンフルオライド、ビニリデンクロライド、ビニルアルキルエーテル類(メチルビニルエーテル等)、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、N−フェニルマレイミド等が使用可能である。
【0103】
多官能モノマーの配合量は、モノマー全体に対して0.5〜70質量%とすることが好ましく、1.0〜50質量%であるのがより好ましい。上述のモノマーは、大津隆行・木下雅悦共著「高分子合成の実験法」(化学同人)や大津隆行「講座重合反応論1ラジカル重合(I)」(化学同人)に記載された一般的な高分子合成法であるラジカル重合によって重合することができる。本発明で使用するゲル電解質用モノマーは加熱、光又は電子線によって、或いは電気化学的にラジカル重合させることができるが、特に加熱によってラジカル重合させるのが好ましい。この場合、好ましく使用できる重合開始剤は2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ系開始剤、ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオクトエート等の過酸化物系開始剤等である。重合開始剤の好ましい添加量はモノマー総量に対し0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。
【0104】
ゲル電解質に占めるモノマーの重量組成範囲は0.5〜70質量%であるのが好ましい
。より好ましくは1.0〜50質量%である。ポリマーの架橋反応により電解質組成物をゲル化させる場合は、組成物に架橋可能な反応性基を有するポリマー及び架橋剤を添加するのが好ましい。好ましい反応性基はピリジン環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、トリアゾール環、モルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の含窒素複素環であり、好ましい架橋剤は窒素原子が求核攻撃できる官能基を2つ以上有する化合物(求電子剤)であり、例えば2官能以上のハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、スルホン酸エステル、酸無水物、酸クロライド、イソシアネート等である。
【0105】
本発明の電解質組成物には、金属ヨウ化物(LiI、NaI、KI、CsI、CaI等)、金属臭化物(LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr 2等)、4級アンモニウム臭素塩(テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等)、金属錯体(フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩、フェロセン−フェリシニウムイオン等)、イオウ化合物(ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィド等)、ビオロゲン色素、ヒドロキノン−キノン等を添加してよい。これらは混合して用いてもよい。
【0106】
また、本発明ではJ. Am. Ceram. Soc., 80, (12), 3157−3171 (1997)に記載のt−ブチルピリジンや、2−ピコリン、2,6−ルチジン等の塩基性化合物を添加してもよい。塩基性化合物を添加する場合の好ましい濃度範囲は0.05〜2Mである。
【0107】
また、本発明の電解質としては、正孔導体物質を含む電荷輸送層を用いても良い。正孔導体物質として、9,9’−スピロビフルオレン誘導体などを用いることができる。
【0108】
また、電極層、感光体層(光電変換層)、電荷移動体層(ホール輸送層)、伝導層、対極層を順次に積層することができる。p型半導体として機能するホール輸送材料をホール輸送層として用いることができる。好ましいホール輸送層としては、例えば無機系又は有機系のホール輸送材料を用いることができる。無機系ホール輸送材料としては、CuI、CuO,NiO等が挙げられる。また、有機系ホール輸送材料としては、高分子系と低分子系のものが挙げられ、高分子系のものとしては、例えばポリビニルカルバゾール、ポリアミン、有機ポリシラン等が挙げられる。また、低分子系のものとしては、例えばトリフェニルアミン誘導体、スチルベン誘導体、ヒドラゾン誘導体、フェナミン誘導体等が挙げられる。この中でも有機ポリシランは、従来の炭素系高分子と異なり、主鎖のSiに沿って非局化されたσ電子が光伝導に寄与し、高いホール移動度を有するため、好ましい(Phys. Rev. B, 35, 2818(1987))。
【0109】
上記伝導層は、導電性のよいものであれば特に限定されないが、例えば無機導電性材料、有機導電性材料、導電性ポリマー、分子間電荷移動錯体等が挙げられる。中でもドナー材料とアクセプター材料とから形成された分子間電荷移動錯体が好ましい。この中でも、有機ドナーと有機アクセプターとから形成されたものを好ましく用いることができる。
この伝導層の厚みは、特に限定されないが、多孔質を完全に埋めることができる程度が好ましい。
【0110】
上記ドナー材料は、分子構造内で電子がリッチなものが好ましい。例えば、有機ドナー材料としては、分子のπ電子系に、アミン基、水酸基、エーテル基、セレン又は硫黄原子を有するものが挙げられ、具体的には、フェニルアミン系、トリフェニルメタン系、カルバゾール系、フェノール系、テトラチアフルバレン系材料が挙げられる。アクセプター材料としては、分子構造内で電子不足なものが好ましい。例えば、有機アクセプター材料としては、フラーレン、分子のπ電子系にニトロ基、シアノ基、カルボキシル基又はハロゲン基等の置換基を有するものが挙げられ、具体的にはPCBM、ベンゾキノン系、ナフトキノン系等のキノン系、フロオレノン系、クロラニル系、ブロマニル系、テトラシアノキノジメタン系、テトラシアノンエチレン系等が挙げられる。
【0111】
(E)導電性支持体
図1に示すように、本発明の光電変換素子には、導電性支持体1上には多孔質の半導体微粒子22に増感色素21が吸着された感光体層2が形成されている。後述する通り、例えば、半導体微粒子の分散液を導電性支持体に塗布・乾燥後、本発明の色素溶液に浸漬することにより、感光体層2を製造することができる。
【0112】
導電性支持体1としては、金属のように支持体そのものに導電性があるものか、又は表面に導電膜層を有するガラスや高分子材料を使用することができる。導電性支持体1は実質的に透明であることが好ましい。実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であることが好ましく、80%以上が特に好ましい。導電性支持体1としては、ガラスや高分子材料に導電性の金属酸化物を塗設したものを使用することができる。このときの導電性の金属酸化物の塗布量は、ガラスや高分子材料の支持体1m2当たり、0.1〜100gが好ましい。透明導電性支持体を用いる場合、光は支持体側から入射させることが好ましい。好ましく使用される高分子材料の一例として、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等を挙げることができる。導電性支持体1上には、表面に光マネージメント機能を施してもよく、例えば、特開2003−123859記載の高屈折膜及び低屈性率の酸化物膜を交互に積層した反射防止膜、特開2002−260746記載のライトガイド機能が上げられる。
【0113】
この他にも、金属支持体も好ましく使用することができる。その一例としては、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレス、銅を挙げることができる。これらの金属は合金であってもよい。さらに好ましくは、チタン、アルミニウム、銅が好ましく、特に好ましくは、チタンやアルミニウムである。
【0114】
導電性支持体1上には、紫外光を遮断する機能を持たせることが好ましい。例えば、紫外光を可視光に変えることが出来る蛍光材料を透明支持体中又は、透明支持体表面に存在させる方法や紫外線吸収剤を用いる方法も挙げられる。
【0115】
導電性支持体1上には、さらに特開平11−250944号公報等に記載の機能を付与してもよい。
【0116】
好ましい導電膜としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、炭素、もしくは導電性の金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)が挙げられる。
【0117】
導電膜の厚さは0.01〜30μmであることが好ましく、0.03〜25μmであることが更に好ましく、特に好ましくは0.05〜20μmである。
【0118】
導電性支持体1は表面抵抗が低い程よい。好ましい表面抵抗の範囲としては50Ω/cm2以下であり、さらに好ましくは10Ω/cm2以下である。この下限に特に制限はないが、通常0.1Ω/cm2程度である。
【0119】
導電膜の抵抗値はセル面積が大きくなると大きくなる為、集電電極を配置してもよい。導電性支持体1と透明導電膜の間にガスバリア膜及びイオン拡散防止膜のどちらか一方又は両方を配置しても良い。ガスバリア層としては、樹脂膜や無機膜を使用することができる。
【0120】
また、透明電極と多孔質半導体電極光触媒含有層を設けてもよい。透明導電膜は積層構造でも良く、好ましい方法としてたとえば、ITO上にFTOを積層することができる。
【0121】
(F)半導体微粒子
図1に示すように、本発明の光電変換素子10には、導電性支持体1上には多孔質の半導体微粒子22に増感色素21が吸着された感光体層2が形成されている。後述する通り、例えば、半導体微粒子22の分散液を前記導電性支持体1に塗布・乾燥後、上述の色素溶液に浸漬することにより、感光体層2を製造することができる。
【0122】
半導体微粒子22としては、好ましくは金属のカルコゲニド(例えば酸化物、硫化物、セレン化物等)又はペロブスカイトの微粒子が用いられる。金属のカルコゲニドとしては、好ましくはチタン、スズ、亜鉛、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、もしくはタンタルの酸化物、硫化カドミウム、セレン化カドミウム等が挙げられる。ペロブスカイトとしては、好ましくはチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム等が挙げられる。これらのうち酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化タングステンが特に好ましい。
【0123】
半導体には伝導に関わるキャリアーが電子であるn型とキャリアーが正孔であるp型が存在するが、本発明の素子ではn型を用いることが変換効率の点で好ましい。n型半導体には、不純物準位をもたず伝導帯電子と価電子帯正孔によるキャリアーの濃度が等しい固有半導体(例えば真性半導体)の他に、不純物に由来する構造欠陥により電子キャリアー濃度の高いn型半導体が存在する。本発明で好ましく用いられるn型の無機半導体は、TiO、TiSrO、ZnO、Nb、SnO、WO、Si、CdS、CdSe、V、ZnS、ZnSe、SnSe、KTaO、FeS、PbS、InP、GaAs、CuInS、CuInSeなどである。これらのうち最も好ましいn型半導体はTiO、ZnO、SnO、WO、ならびにNbである。また、これらの半導体の複数を複合させた半導体材料も好ましく用いられる。
【0124】
半導体微粒子22の作製法としては、作花済夫の「ゾル・ゲル法の科学」アグネ承風社(1998年)等に記載のゲル・ゾル法が好ましい。またDegussa社が開発した塩化物を酸水素塩中で高温加水分解により酸化物を作製する方法も好ましい。半導体微粒子22が酸化チタンの場合、上記ゾル・ゲル法、ゲル・ゾル法、塩化物の酸水素塩中での高温加水分解法はいずれも好ましいが、さらに清野学の「酸化チタン 物性と応用技術」技報堂出版(1997年)に記載の硫酸法及び塩素法を用いることもできる。さらにゾル・ゲル法として、バルべ等のジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサエティー,第80巻,第12号,3157〜3171頁(1997年)に記載の方法や、バーンサイドらのケミストリー・オブ・マテリアルズ,第10巻,第9号,2419〜2425頁に記載の方法も好ましい。
【0125】
この他に、半導体微粒子の製造方法として、例えば、チタニアナノ粒子の製造方法として好ましくは、四塩化チタンの火炎加水分解による方法、四塩化チタンの燃焼法、安定なカルコゲナイド錯体の加水分解、オルトチタン酸の加水分解、可溶部と不溶部から半導体微粒子を形成後に可溶部を溶解除去する方法、過酸化物水溶液の水熱合成、又はゾル・ゲル法によるコア/シェル構造の酸化チタン微粒子の製造方法が挙げられる。
【0126】
チタニアの結晶構造としては、アナターゼ型、ブルッカイト型、又は、ルチル型があげられ、アナターゼ型、ブルッカイト型が好ましい。
【0127】
チタニアナノチューブ・ナノワイヤー・ナノロッドをチタニア微粒子に混合してもよい。
【0128】
チタニアは、非金属元素などによりドーピングされていても良い。チタニアへの添加剤としてドーパント以外に、ネッキングを改善する為のバインダーや逆電子移動防止の為に表面へ添加剤を用いても良い。好ましい添加剤の例としては、ITO、SnO粒子、ウイスカー、繊維状グラファイト・カーボンナノチューブ、酸化亜鉛ネッキング結合子、セルロース等の繊維状物質、金属、有機シリコン、ドデシルベンゼンスルホン酸、シラン化合物等の電荷移動結合分子、及び電位傾斜型デンドリマーなどが挙げられる。
【0129】
チタニア上の表面欠陥を除去するなどの目的で、色素吸着前にチタニアを酸塩基又は酸化還元処理しても良い。エッチング、酸化処理、過酸化水素処理、脱水素処理、UV−オゾン、酸素プラズマなどで処理してもよい。
【0130】
(G)半導体微粒子分散液
本発明においては、半導体微粒子以外の固形分の含量が、半導体微粒子分散液全体の10質量%以下よりなる半導体微粒子分散液を前記導電性支持体1に塗布し、適度に加熱することにより、多孔質半導体微粒子塗布層を得ることができる。
【0131】
半導体微粒子分散液を作製する方法としては、前述のゾル・ゲル法の他に、半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法、微粒子に超音波などを照射して超微粒子に粉砕する方法、又はミルや乳鉢などを使って機械的に粉砕しすり潰す方法、等が挙げられる。分散溶媒としては、水及び各種の有機溶媒のうちの一つ以上を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール,シトロネロール,ターピネオールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジクロロメタン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0132】
分散の際、必要に応じて例えばポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのようなポリマー、界面活性剤、酸、又はキレート剤等を分散助剤として少量用いてもよい。しかし、これらの分散助剤は、導電性支持体上へ製膜する工程の前に、ろ過法や分離膜を用いる方法、あるいは遠心分離法などによって大部分を除去しておくことが好ましい。半導体微粒子分散液は、半導体微粒子以外の固形分の含量が分散液全体の10質量%以下とすることができる。この濃度は好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。さらに好ましくは0.5%以下であり、特に好ましくは0.2%である。すなわち、半導体微粒子分散液中に、溶媒と半導体微粒子以外の固形分を半導体微分散液全体の10質量%以下とすることができる。実質的に半導体微粒子と分散溶媒のみからなることが好ましい。
【0133】
半導体微粒子分散液の粘度が高すぎると分散液が凝集してしまい製膜することができず、逆に半導体微粒子分散液の粘度が低すぎると液が流れてしまい製膜することができないことがある。したがって分散液の粘度は、25℃で10〜300N・s/mが好ましい。さらに好ましくは、25℃で50〜200N・s/mである。
【0134】
半導体微粒子分散液の塗布方法としては、アプリケーション系の方法としてローラ法、ディップ法等を使用することができる。またメータリング系の方法としてエアーナイフ法、ブレード法等を使用することができる。またアプリケーション系の方法とメータリング系の方法を同一部分にできるものとして、特公昭58−4589号に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号明細書等に記載のスライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法等が好ましい。また汎用機を使用してスピン法やスプレー法で塗布するのも好ましい。湿式印刷方法としては、凸版、オフセット及びグラビアの3大印刷法をはじめ、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等が好ましい。これらの中から、液粘度やウェット厚さに応じて、好ましい製膜方法を選択する。また本発明の半導体微粒子分散液は粘度が高く、粘稠性を有するため、凝集力が強いことがあり、塗布時に支持体とうまく馴染まない場合がある。このような場合に、UVオゾン処理で表面のクリーニングと親水化を行うことにより、塗布した半導体微粒子分散液と導電性支持体1表面の結着力が増し、半導体微粒子分散液の塗布が行い易くなる。
【0135】
半導体微粒子層全体の好ましい厚さは0.1μm〜100μmである。半導体微粒子層の厚さはさらに1μm〜30μmが好ましく、2μm〜25μmがより好ましい。半導体微粒子の支持体1m当りの担持量は0.5g〜400gが好ましく、5g〜100gがより好ましい。
【0136】
塗布した半導体微粒子の層に対し、半導体微粒子同士の電子的接触の強化と、支持体との密着性の向上のため、また塗布した半導体微粒子分散液を乾燥させるために、加熱処理が施される。この加熱処理により多孔質半導体微粒子層を形成することができる。
【0137】
また、加熱処理に加えて光のエネルギーを用いることもできる。例えば、半導体微粒子22として酸化チタンを用いた場合に、紫外光のような半導体微粒子22が吸収する光を与えることで表面を活性化してもよいし、レーザー光などで半導体微粒子22表面のみを活性化することができる。半導体微粒子22に対して該微粒子が吸収する光を照射することで、粒子表面に吸着した不純物が粒子表面の活性化によって分解され、上記の目的のために好ましい状態とすることができる。加熱処理と紫外光を組み合わせる場合は、半導体微粒子22に対して該微粒子が吸収する光を照射しながら、加熱が100℃以上250℃以下あるいは好ましくは100℃以上150℃以下で行われることが好ましい。このように、半導体微粒子22を光励起することによって、微粒子層内に混入した不純物を光分解により洗浄するとともに、微粒子の間の物理的接合を強めることができる。
【0138】
また、半導体微粒子分散液を前記導電性支持体1に塗布し、加熱や光を照射する以外に他の処理を行ってもよい。好ましい方法として例えば、通電、化学的処理などが挙げられる。
【0139】
塗布後に圧力をかけても良く、圧力をかける方法としては、特表2003−500857号公報等が挙げられる。光照射の例としては、特開2001−357896号公報等が挙げられる。プラズマ・マイクロ波・通電の例としては、特開2002−353453号公報等が挙げられる。化学的処理としては、例えば特開2001−357896号公報が挙げられる。
【0140】
上述の半導体微粒子22を導電性支持体1上に塗設する方法は、上述の半導体微粒子分散液を導電性支持体1上に塗布する方法のほか、特許第2664194号公報に記載の半導体微粒子22の前駆体を導電性支持体1上に塗布し空気中の水分によって加水分解して半導体微粒子膜を得る方法などの方法を使用することができる。
【0141】
前駆体として例えば、(NHTiF、過酸化チタン、金属アルコキシド・金属錯体・金属有機酸塩等が挙げられる。
【0142】
また、金属有機酸化物(アルコキシドなど)を共存させたスラリーを塗布し加熱処理、光処理などで半導体膜を形成する方法、無機系前駆体を共存させたスラリー、スラリーのpHと分散させたチタニア粒子の性状を特定した方法が挙げられる。これらスラリーには、少量であればバインダーを添加しても良く、バインダーとしては、セルロース、フッ素ポリマー、架橋ゴム、ポリブチルチタネート、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0143】
半導体微粒子22又はその前駆体層の形成に関する技術としては、コロナ放電、プラズマ、UVなどの物理的な方法で親水化する方法、アルカリやポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸などによる化学処理、ポリアニリンなどの接合用中間膜の形成などが挙げられる。
【0144】
半導体微粒子22を導電性支持体1上に塗設する方法として、上述の(1)湿式法とともに、(2)乾式法、(3)その他の方法を併用しても良い。(2)乾式法として好ましくは、特開2000−231943号公報等が挙げられる。(3)その他の方法として、好ましくは、特開2002−134435号公報等が挙げられる。
【0145】
乾式法としては、蒸着やスパッタリング、エアロゾルデポジション法などが挙げられる。また、電気泳動法・電析法を用いても良い。
【0146】
また、耐熱基板上でいったん塗膜を作製した後、プラスチック等のフィルムに転写する方法を用いても良い。好ましくは、特開2002−184475号公報記載のEVAを介して転写する方法、特開2003−98977号公報記載の紫外線、水系溶媒で除去可能な無機塩を含む犠牲基板上に半導体層・導電層を形成後、有機基板に転写後、犠牲基板を除去する方法などが挙げられる。
【0147】
半導体微粒子22は多くの増感色素21を吸着することができるように表面積の大きいものが好ましい。例えば半導体微粒子22を導電性支持体1上に塗設した状態で、その表面積が投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがより好ましい。この上限には特に制限はないが、通常5000倍程度である。好ましい半導体微粒子22の構造としては、特開2001−93591号公報等が挙げられる。
【0148】
一般に、半導体微粒子層の厚みが大きいほど単位面積当たりに担持できる増感色素21の量が増えるため光の吸収効率が高くなるが、発生した電子の拡散距離が増すため電荷再結合によるロスも大きくなる。半導体微粒子層の好ましい厚みは素子の用途によって異なるが、典型的には0.1μm〜100μmである。光電気化学電池として用いる場合は1μm〜50μmであることが好ましく、3μm〜30μmであることがより好ましい。半導体微粒子は、支持体に塗布した後に粒子同士を密着させるために、100℃〜800℃の温度で10分〜10時間加熱してもよい。支持体としてガラスを用いる場合、製膜温度は400℃〜600℃が好ましい。
【0149】
支持体として高分子材料を用いる場合、250℃以下で製膜後に加熱することが好ましい。その場合の製膜方法としては、(1)湿式法、(2)乾式法、(3)電気泳動法(電析法を含む)の何れでも良く、好ましくは、(1)湿式法、又は(2)乾式であり、更に好ましくは、(1)湿式法である。
【0150】
なお、半導体微粒子22の支持体1m当たりの塗布量は0.5g〜500g、さらには5g〜100gが好ましい。
【0151】
半導体微粒子22に増感色素21を吸着させるには、溶液と本発明にかかる色素よりなる色素吸着用色素溶液の中に、よく乾燥した半導体微粒子22を長時間浸漬するのが好ましい。色素吸着用色素溶液に使用される溶剤は、本発明にかかる増感色素21が溶解できる溶剤なら特に制限なく使用することができる。このような、本発明で金属錯体色素組成物を溶解する溶剤とは有機溶媒であり無極性溶媒、極性非プロトン性溶媒、極性プロトン性溶媒、イオン性液体等が挙げられ、好ましくは、無極性溶媒、極性非プロトン性溶媒、極性プロトン性溶媒が好ましい対象として挙げられ、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、トルエン、t-ブタノール、アセトニトリル、アセトン、n−ブタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどを使用することができる。その中でも、エタノール、トルエンを好ましく使用することができる。
本発明において金属錯体色素組成物の上記溶剤に対する溶解度は25℃で、100mg/L以上が好ましく、105mg/L以上がより好ましく、110mg/L以上が特に好ましい。
【0152】
溶剤と本発明の色素よりなる色素吸着用色素溶液は必要に応じて50℃ないし100℃に加熱してもよい。増感色素21の吸着は半導体微粒子22の塗布前に行っても塗布後に行ってもよい。また、半導体微粒子22と増感色素21を同時に塗布して吸着させてもよい。未吸着の増感色素21は洗浄によって除去する。塗布膜の焼成を行う場合は増感色素21の吸着は焼成後に行うことが好ましい。焼成後、塗布膜表面に水が吸着する前にすばやく増感色素21を吸着させるのが特に好ましい。吸着する増感色素21は上記の色素A1の1種類でもよいし、さらにほかの色素を混合してもよい。光電変換の波長域をできるだけ広くするように、混合する色素が選ばれる。色素を混合する場合は、すべての色素が溶解するようにして、色素吸着用色素溶液とすることが好ましい。
【0153】
増感色素21の使用量は、全体で、支持体1m当たり0.01ミリモル〜100ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1ミリモル〜50ミリモル、特に好ましくは0.1ミリモル〜10ミリモルである。この場合、本発明にかかる増感色素21の使用量は5モル%以上とすることが好ましい。
【0154】
また、増感色素21の半導体微粒子22に対する吸着量は半導体微粒子1gに対して0.001ミリモル〜1ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5ミリモルである。
【0155】
このような色素量とすることによって、半導体における増感効果が十分に得られる。これに対し、色素量が少ないと増感効果が不十分となり、色素量が多すぎると、半導体に付着していない色素が浮遊し増感効果を低減させる原因となる。
【0156】
また、会合など色素同士の相互作用を低減する目的で無色の化合物を共吸着させてもよい。共吸着させる疎水性化合物としてはカルボキシル基を有するステロイド化合物(例えばコール酸、ピバロイル酸)等が挙げられる。
【0157】
増感色素21を吸着した後に、アミン類を用いて半導体微粒子22の表面を処理してもよい。好ましいアミン類としては4−tert−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。これらは液体の場合はそのまま用いてもよいし有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0158】
対極4は、光電気化学電池の正極として働くものである。対極4は、通常前述の導電性支持体1と同義であるが、強度が十分に保たれるような構成では対極の支持体は必ずしも必要でない。ただし、支持体を有する方が密閉性の点で有利である。対極4の材料としては、白金、カーボン、導電性ポリマー、などがあげられる。好ましい例としては、白金、カーボン、導電性ポリマーが挙げられる。
【0159】
対極4の構造としては、集電効果が高い構造が好ましい。好ましい例としては、特開平10−505192号公報などが挙げられる。
【0160】
受光電極5は酸化チタンと酸化スズ(TiO/SnO)などの複合電極を用いても良く、チタニアの混合電極として例えば、特開2000−113913号公報等が挙げられる。チタニア以外の混合電極として例えば、特開2001−185243号公報、特開2003−282164号公報等が挙げられる。
【0161】
また、光電変換素子の構成としては、第1電極層、第1光電変換層、導電層、第2光電変換層、第2電極層を順次積層した構造を有していても良い。この場合、第1光電変換層と第2光電変換層に用いる色素は同一又は異なっていてもよく、異なっている場合には、吸収スペクトルが異なっていることが好ましい。
【0162】
受光電極5は、入射光の利用率を高めるなどのためにタンデム型にしても良い。好ましいタンデム型の構成例としては、特開2000−90989、特開2002−90989号公報等に記載の例が挙げられる。
【0163】
受光電極5の層内部で光散乱、反射を効率的に行う光マネージメント機能を設けてもよい。好ましくは、特開2002−93476号公報に記載のものが挙げられる。
【0164】
導電性支持体1と多孔質半導体微粒子層の間には、電解液と電極が直接接触することによる逆電流を防止する為、短絡防止層を形成することが好ましい。好ましい例としては、特開平06−507999号公報等が挙げられる。
【0165】
受光電極5と対極4の接触を防ぐ為に、スペーサーやセパレータを用いることが好ましい。好ましい例としては、特開2001−283941号公報が挙げられる。
【0166】
セル、モジュールの封止法としては、ポリイソブチレン系熱硬化樹脂、ノボラック樹脂、光硬化性(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、アイオノマー樹脂、ガラスフリット、アルミナにアルミニウムアルコキシドを用いる方法、低融点ガラスペーストをレーザー溶融する方法などが好ましい。ガラスフリットを用いる場合、粉末ガラスをバインダーとなるアクリル樹脂に混合したものでもよい。
【実施例】
【0167】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0168】
1.金属錯体色素の粗精製物の調製
以下の(1)外部加熱による方法と、(2)マイクロ波加熱による方法で、金属錯体の粗精製物を調製し、その後、2.で精製した。
(1)外部加熱による金属錯体色素の粗精製物の調製
(a)金属錯体色素D−20の粗精製物の調製
前記具体例に示した一般式(1)の金属錯体色素のうち、D−20の粗精製物を、以下に示す方法で調製した。
【0169】
【化34】

【0170】
【化35】

【0171】
<リガンド合成>
(i)化合物d−1−2の調製
25gのd−1−1、3.8gのPd(dba)、トリフェニルホスフィン8.6g、ヨウ化銅2.5g、1−へプチン25.2gをトリエチルアミン70mL、テトラヒドロフラン50mLに室温で攪拌し、80℃で4.5時間攪拌した。濃縮後カラムクロマトグラフィーで精製することで化合物26.4gのd−1−2を得た。
【0172】
(ii)d−1−4の調製
6.7gのd−1−3を窒素雰囲気下、−15℃でTHF(テラヒドロフラン)200mLに溶解し、別途調整したLDA(リチウムジイソプロピルアミド)を、d−1−3に対して2.5等量を滴下し、75分攪拌した。その後、15gのd−1−2をTHF30mLに溶解した溶液を滴下し、0℃で1時間攪拌し、室温で終夜攪拌した。濃縮後、水150mLを加え、塩化メチレン150mLで分液・抽出し、塩水で有機層を洗浄し、有機層を濃縮した。得られた結晶はメタノールで再結晶後、18.9gのd−1−4を得た。
【0173】
(iii)化合物d−1−5の調製
13.2gのd−1−4、PPTS(ピリジニウムパラトルエンスルホン酸)1.7gを、トルエン1000mLに加え、窒素雰囲気下で5時間加熱還流を行った。濃縮後、飽和重曹水及び塩化メチレンで分液を行い、有機層を濃縮した。得られた結晶をメタノール及び塩化メチレンで再結晶し、11.7gのd−1−5を得た。
【0174】
<錯体化>
外部加熱で錯体化を行い、金属錯体色素D−20を調製した。上記で合成した3.0gのd−1−5、1.64gのd−1−6をDMF35mLに加え、暗所で70℃で90分攪拌した。その際、外部からオイルバスで加熱した。その後1.3gのd−1−7を加え、DMF270mLを加え、160℃で150分加熱攪拌した。その際、外部からオイルバスで加熱した。その後、14.25gのチオシアン酸アンモニウムを加え130℃で5時間攪拌した。その際、外部からオイルバスで加熱した。濃縮後、水300mLを加えてろ過し、ジエチルエーテルで洗い、D−20の粗精製物を得た。
【0175】
(b)金属錯体色素D−10の粗精製物の調製
前記具体例に示した一般式(1)の金属錯体色素のうち、D−10の粗精製物を、以下に示す方法で調製した。
【0176】
<リガンド合成>
以下の方法により、化合物d−2−5を調製した。
(i)化合物d−2−2の調製
25gのd−2−1を500mLのテトラヒドロフランに溶解し氷冷し、1.05等量のn−ブチルリチウム(1.6mol/Lヘキサン溶液)を滴下した。その後ジメチルホルムアミドを1.5等量滴下し、室温で1時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を滴下し、分液・抽出し、濃縮後、減圧蒸留で精製することで化合物25.6gのd−2−2を得た。
【0177】
(ii)d−2−4の調製
(a)の金属錯体色素D−20を調製するに際し、d−1−4の調製に使用したd−1−2をd−2−2に変更して、同様にd−2−3を用いてd−2−4を調製した。
【0178】
(iii)化合物d−2−5の調製
(a)の金属錯体色素D−20を調製するに際し、d−1−5の調製に使用したd−1−4をd−2−4に変更した以外は同様にしてd−2−5を調製した。
【0179】
<錯体化>
外部加熱で錯体化を行い、金属錯体色素D−10の粗精製物を調製した。
(a)でD−20を調製するときに使用したd−1−5をd−2−5に変更した以外は同様にしてD−10の粗精製物を調製した。
【0180】
【化36】

【0181】
(2)マイクロ波加熱による金属錯体色素の粗精製物の調製
(a)金属錯体色素D−20の粗精製物の調製
3.0gの化合物d−1−5と1.64gのd−1−6とをDMF35mLに加え暗所でマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射して70℃で10分攪拌した。その後1.3gのd−1−7を加え、DMF270mLを加え、上記マイクロ波を用いて160℃で10分加熱攪拌した。その後、14.25gのチオシアン酸アンモニウムを加え上記マイクロ波を用いて130℃で10分攪拌した。濃縮後、水300mL加えてろ過し、ジエチルエーテルで洗い、粗精製物D−20を得た。
【0182】
(b)金属錯体色素D−10の粗精製物の調製
(1)(b)の外部加熱をマイクロ波加熱((2)(a)と同条件)に変更したこと以外は同様にして、2.5gのD−10の粗精製物を得た。
【0183】
2.一般式(5)の金属錯体色素及び/又は一般式(6)の金属錯体色素を含む金属錯体色素組成物と、金属錯体色素の調製
(1)外部加熱による金属錯体色素組成物の調製
1.(1)(a)で得られた金属錯体色素D−20の粗精製物をTBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)と共にメタノール溶液に溶解し、SephadexLH−20(商品名 GEヘルスケア社製)カラムで精製した。主層の分画を回収し濃縮後硝酸0.2Mを添加して、沈殿物を得た。ろ過後水及びジエチルエーテルで洗うことで、D−17を主成分とする一般式(5)の金属錯体色素及び一般式(6)の金属錯体色素のうち少なくとも1種を含む金属錯体色素組成物を得た。カラム精製の際、粗精製物200mgに対して50gの担体を使用し、カラム精製を施す回数を1〜4回まで変更することにより、一般式(5)の金属錯体色素及び一般式(6)の金属錯体色素のうち少なくとも1種を含む金属錯体色素組成物(実施例1〜4)を得た。
同様の方法で、(1)(b)で得られた金属錯体色素D−10の粗精製物を精製し、D−11を主成分とする一般式(5)の金属錯体色素及び一般式(6)の金属錯体色素のうち少なくとも1種を含む金属錯体色素組成物(実施例5〜8)を得た。また、得られた金属錯体色素組成物をさらに、TBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)と共にメタノール溶液に溶解し、0.1N 硝酸メタノール溶液をpH0まで滴下することでD−10を主成分とする一般式(5)の金属錯体色素及び一般式(6)の金属錯体色素のうち少なくとも1種を含む金属錯体色素組成物(実施例9〜12)を得た。
【0184】
(2)マイクロ波加熱による金属錯体色素組成物の調製
(1)との比較のために、1.(2)(a)で得られた、マイクロ波加熱により調製した金属錯体色素D−20の粗精製物を、(1)と同様の方法で精製し、D−17を主成分とする一般式(5)の金属錯体色素及び一般式(6)の金属錯体色素のうち少なくとも1種を含む金属錯体色素組成物を得た(比較例1〜3)。また、同様の方法で、1.(2)(b)で得られた金属錯体色素D−10の粗精製物を精製し、D−11を主成分とする一般式(5)の金属錯体色素及び一般式(6)の金属錯体色素のうち少なくとも1種を含む金属錯体色素組成物を得た(比較例5〜7)。また、得られた金属錯体色素組成物をさらに、TBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)と共にメタノール溶液に溶解し、0.1N 硝酸メタノール溶液をpH0まで滴下することでD−10を主成分とする一般式(5)の金属錯体色素及び一般式(6)の金属錯体色素のうち少なくとも1種を含む金属錯体色素組成物(比較例9〜11)を得た。
【0185】
(3)HPLC分取による金属錯体色素の調製
1.(1)(a)で得られた粗精製物を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で精製した。その際、TBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)のメタノール溶液に粗精製物を溶解し、資生堂製のCAPCELL PAK UG120 φ30mm×250mmのLC分取用カラムを用いて、溶離液の組成はメタノール/水=85/15〜95/5として精製した。主層の分画を回収し濃縮後硝酸0.2Mを添加して、沈殿物を得た。ろ過後、水及びジエチルエーテルで洗い、3.2gの一般式(1)で表される金属錯体色素D−17(比較例4)を得た。
得られた金属錯体色素D−17の構造はNMR測定及びLC−MSにより確認した。
H−NMR(DMSO−d、400MHz):δ(ppm)in aromatic regions:9.37(1H,d),9.11(1H,d),9.04(1H,s)、8.89(2H),8.74(1H,s),8.26(1H,d),8.10−7.98(2H),7.85−7.73(2H),7.60(1H,d),7.45−7.33(2H),7.33−7.12(5H,m),6.92(1H,d)
MS−ESI m/z : 1023.143(M+H)+
【0186】
得られた金属錯体色素D−17(比較例8)をテトラヒドロフラン:水=63:37(0.1%トリフルオロ酢酸)に溶解させ、濃度8.5μmol/Lの溶液を調製し、U−4100spectrophotometer(商品名、日立社製)を用いて分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は568nmであった。
同様にして、金属錯体色素D−11(比較例8)も1.(1)(b)で得られた粗精製物を用いてHPLCで精製することで得られた。
MS−ESI m/z : 1003.2 (M+H)+
その後、テトラヒドロフラン:水=63:37(0.1%トリフルオロ酢酸)に溶解させ、濃度8.5μmol/Lの溶液を調製し、U−4100spectrophotometer(日立社製)を用いて分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は566nmであった。
【0187】
得られた金属錯体色素D−11を、TBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)と共にメタノール溶液に溶解し、0.1N 硝酸メタノール溶液をpH0まで滴下することでD−10(比較例12)を得た。
MS−ESI m/z : 1003.2 (M+H)
その後、テトラヒドロフラン:水=63:37(0.1%トリフルオロ酢酸)に溶解させ、濃度8.5μmol/Lの溶液を調製し、U−4100spectrophotometer(日立社製)を用いて分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は571nmであった。
【0188】
3.金属錯体組成物中における、一般式(5)の金属錯体色素及び/又は一般式(6)の金属錯体色素の含有率の測定
2.で得られた金属錯体色素組成物中に含まれる金属錯体色素の同定と、その含有率を、以下の(a)〜(b)で求めた。その値を表1に示す。
(a)高速液体クロマトグラフィーの測定
2.で得られた金属錯体色素組成物を、以下の条件で、高速液体クロマトグラフィーを測定した。一般式(5)の金属錯体色素及び/又は一般式(6)の金属錯体色素の含有率は、後述のLC−MSの測定結果と共にCNリガンドを有する金属錯体を同定することにより求めた。
(高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定条件)
使用機器:システムコントローラー SCL−10AVP
カラムオーブン CTO−10ASVP
検出器 SPD−10AVVP
デガッサ DGU−14AM
送液ユニット LC−10ADVP
(商品名 島津社製)
カラム : YMC−Pack ODS−AM、型番AM−312,
サイズ150×6.0mmI.D.(YMC Co.,Ltd.Japan製)
流量 :0.75mL/min
溶離液 :THF/水=63/37 0.1%トリフルオロ酢酸含有
温度 :40℃
検出波長:254nm
【0189】
(b)金属錯体色素組成物中の金属錯体色素の同定
金属錯体色素組成物のLC−MSを測定することで、金属錯体色素組成物に含まれる金属錯体色素の構造を同定した。LC−MSは以下の方法で行った。
(LC−MSの測定条件)
装置:Applied Biosystems QSTAR pulser(商品名)、Applied Biosystems社製
イオン化法:ESI−posi
検出法 :TOF−MS
カラム : YMC−Pack ODS−AM、型番AM−312,
サイズ150×6.0mmI.D.(YMC Co.,Ltd.Japan製)
流量 :0.75mL/min
溶離液 :THF/水=63/37 0.1%トリフルオロ酢酸含有
温度 :40℃
【0190】
D−17を主成分とする金属錯体色素組成物中に含有される一般式(5)の金属錯体色素及び一般式(6)の金属錯体色素は以下の構造として検出された。なお酸性基のカウンターイオンは溶離液にトリフルオロ酢酸を含有しているためプロトンとして検出されるが、金属錯体組成物中では、カウンターイオンはプロトンまたはテトラブチルアンモニウムであってもよい。
【0191】
【化37】

MS−ESI m/z : 991.163(M+H)+
吸収極大波長は 542nm
【0192】
【化38】

MS−ESI m/z : 959.194 (M+H)+
吸収極大波長は 515nm
【0193】
D−11を主成分とする金属錯体色素組成物及びD−10を主成分とする金属錯体色素組成物中に含有される一般式(5)の金属錯体色素及び一般式(6)の金属錯体色素はどちらも以下の構造として検出された。なお酸性基のカウンターイオンは溶離液にトリフルオロ酢酸を含有しているためプロトンとして検出されるが、金属錯体組成物中では、カウンターイオンはプロトンまたはテトラブチルアンモニウムである。
【0194】
【化39】

MS−ESI m/z : 971.194 (M+H)+
吸収極大波長は 540nm
【0195】
【化40】

MS−ESI m/z : 939.223 (M+H)+
吸収極大波長は 513nm
【0196】
4.色素の溶液への溶解性評価
表1に示す各金属錯体色素組成12mgを暗所でトルエン50mL及びメタノール50mLの混合溶媒に溶解させ、25℃で15分間、攪拌羽で攪拌して、色素溶液を得た。この溶液中の一般式(1)で表される金属錯体色素の溶解量を上記の3.の方法で使用したHPLC装置を用いて定量した。溶解量は11.0mg以上で12.0mg以下をA、10.0mg以上で11.0mg未満をB、9.0mg以上で10.0mg未満をC、9.0mg未満をDとし、A及びBを合格とした。
【0197】
5.半導体微粒子電極への色素の吸着性評価
(半導体微粒子電極の作製)
ガラス基板上に、透明導電膜としてフッ素をドープした酸化スズをスパッタリングにより形成し、これをレーザーでスクライブして、透明導電膜を2つの部分に分割した。
次に、水とアセトニトリルの容量比4:1からなる混合溶媒100mLにアナターゼ型酸化チタン(日本アエロジル社製のP−25(商品名))を32g配合し、自転/公転併用式のミキシングコンディショナーを使用して均一に分散、混合し、半導体微粒子分散液を得た。この分散液を透明導電膜に塗布し、500℃で加熱して半導体微粒子電極を作製した。
その後、同様にシリカ粒子とルチル型酸化チタンとを40:60(質量比)で含有する分散液を作製し、この分散液を前記の受光電極に塗布し、500℃で加熱して絶縁性多孔体を形成した。次いで対極として炭素電極を形成した。
次に、表1の金属錯体色素組成のエタノール溶液に、上記の絶縁性多孔体が形成されたガラス基板を12時間浸漬した。増感色素の染着したガラスを4−tert−ブチルピリジンの10%エタノール溶液に30分間浸漬した後、エタノールで洗浄し自然乾燥させた。このようにして得られる感光層の厚さは10μmであり、半導体微粒子の塗布量は20g/mであった。
【0198】
(吸着性評価)
上記の方法で作製した半導体微粒子電極のうち、2.3cmを、暗所、40℃で30分、各色素溶液に浸漬した。色素吸着後の半導体微粒子電極を、10%TBAOHメタノール溶液を用いて色素を脱着し、HPLCで各色素の初期吸着量を定量した。この溶液中の溶解量を上記の3.の方法で使用したHPLCと同様の方法で求めた。吸着量が1.0mg以上をA、0.9mg以上で1.0mg未満をB、0.7mg以上で0.9mg未満をC、0.7mg未満をDとし、A及びBを合格とした。
【0199】
6.光電変換素子の光電変換効率評価
(半導体微粒子電極の作製)
ガラス基板上に、透明導電膜としてフッ素をドープした酸化スズをスパッタリングにより形成し、これをレーザーでスクライブして、透明導電膜を2つの部分に分割した。
次に、水とアセトニトリルの容量比4:1からなる混合溶媒100mLにアナターゼ型酸化チタン(日本アエロジル社製のP−25(商品名))を32g配合し、自転/公転併用式のミキシングコンディショナーを使用して均一に分散、混合し、半導体微粒子分散液を得た。この分散液を透明導電膜に塗布し、500℃で加熱して半導体微粒子電極を作製した。
その後、同様にシリカ粒子とルチル型酸化チタンとを40:60(質量比)で含有する分散液を作製し、この分散液を前記の受光電極に塗布し、500℃で加熱して絶縁性多孔体を形成した。次いで対極として炭素電極を形成した。
次に、4.で調製した、表1に示す色素溶液に、上記の絶縁性多孔体が形成されたガラス基板を12時間浸漬した。増感色素の染着したガラスを4−tert−ブチルピリジンの10%エタノール溶液に30分間浸漬した後、エタノールで洗浄し自然乾燥させた。このようにして得られる感光層の厚さは10μmであり、半導体微粒子の塗布量は20g/mであった。
その後、半導体微粒子電極を50μm厚の熱可塑性ポリオレフィン樹脂シートを介して白金スパッタFTO基板と対向して配置し、樹脂シート部を熱溶融させて両極板を固定した。
なおあらかじめ白金スパッタ極側に開けておいた電解液の注液口から、電解液を注液し、電極間に満たした。さらに周辺部及び電解液注液口をエポキシ系封止樹脂を用いて本封止し、集電端子部に銀ペーストを塗布して光電変換素子とした。
電解液は、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム(0.5mol/L)、ヨウ素(0.1mol/L)のメトキシプロピオニトリル溶液を用いた。
【0200】
(光電変換素子の評価)
500Wのキセノンランプ(ウシオ電機(株)製)の光をAM1.5フィルター(Oriel社製)およびシャープカットフィルター(Kenko L−42)を通すことにより、紫外線を含まない模擬太陽光とした。光強度は89mW/cmとした。
前述の光電気化学電池の導電性ガラス板と白金蒸着ガラス板にそれぞれワニ口クリップを接続し、各ワニ口クリップを電流電圧測定装置(ケースレーSMU238型(商品名))に接続した。これに導電性ガラス板側から模擬太陽光を照射し、発生した電気を電流電圧測定装置により測定した。これにより求められた光電気化学電池の変換効率が9.0%以上をA、8.0%以上9.0%未満をB、7.0%以上8.0%未満をC、7.0%未満をDとし、A及びBを合格とした。
【0201】
【表1】

【0202】
表1からわかるように、一般式(5)又は一般式(6)で表される金属錯体色素が多すぎる場合は、光電変換効率に問題があり、これらの金属錯体色素が少なすぎる場合は、色素の溶解量、吸着量及び光電変換効率のいずれも問題があることがわかった。
これに対し、本発明の金属錯体色素組成は、いずれの特性も満足できるものであった。
一般式(5)又は一般式(6)で表される金属錯体色素の含量が多ければ、溶解度は向上する傾向にあるが、これらの金属錯体の含量が5.0%より多い場合に吸着量が少なくなる傾向にあるのは、一般式(5)又は一般式(6)で表される低変換効率の金属錯体色素が優先的に吸着しているものと予想され、それにともない変換効率が低下した。
【符号の説明】
【0203】
1 導電性支持体
2 感光体層
21 増感色素
22 半導体微粒子
3 電荷移動体層
4 対極
5 受光電極
6 外部回路
10 光電変換素子
100 光電気化学電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される金属錯体色素と、下記一般式(5)で表される金属錯体色素及び/又は下記一般式(6)で表される金属錯体色素を含み、
一般式(5)で表される金属錯体色素及び一般式(6)で表される金属錯体色素の含有率が、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の254nmで検出される面積で、合わせて0.5〜5%であることを特徴とする金属錯体色素組成物。
(LLm1(LLm2(Z ・(CIm3 一般式(1)
[ 一般式(1)中、Mは金属原子を表し、LLは下記一般式(2)で表される2座の配位子であり、LLは下記一般式(3)で表される2座の配位子である。m1は1を表す。m2は1を表す。Zは配位子を表し、イソチオシアナト基、イソシアナト基及びイソセレノシアナト基から選ばれた少なくとも1種である。CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表し、m3は0以上の整数である。]
【化1】

[ 一般式(2)中、R11〜R14及びR21〜R24は独立して、酸性基若しくはその塩又は水素原子を表し、R11〜R14及びR21〜R24は同じでも異なっていてもよい。ただし、R11〜R14及びR21〜R24の少なくとも一つは酸性基又はその塩である。]
【化2】

[ 一般式(3)中、n1、n2は独立して0〜3の整数を表し、Y、Yは独立して水素原子又は下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。ただし、Ar及びArは独立して下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。]
【化3】

[ 一般式(4)中、R31〜R33は独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、R31〜R33のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。Xは硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。]
(LLm1(LLm2(Z)(CN)・(CIm3 一般式(5)
[ 一般式(5)中、M、LL、LL、Z、CI、m1、m2及びm3は、一般式(1)におけるものと同義である。]
(LLm1(LLm2(CN) ・(CIm3 一般式(6)
[ 一般式(6)中、M、LL、LL、Z、CI、m1、m2及びm3は、一般式(1)におけるものと同義である。]
【請求項2】
前記一般式(1)中、LLが、下記一般式(7)で表されることを特徴とする請求項1記載の金属錯体色素組成物。
【化4】

[ 一般式(7)中、R41〜R43及びR51〜R53は、独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表す。R41〜R43のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。R51〜R53のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。X及びXはそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。]
【請求項3】
前記一般式(7)におけるX及びXが硫黄原子であることを特徴とする請求項2記載の金属錯体色素組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される金属錯体色素が下記一般式(8)で表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の金属錯体色素組成物。
【化5】

[ 一般式(8)中、R61、R62は独立にアルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A、Aは独立してカルボキシル基又はその塩を表す。]
【請求項5】
前記一般式(5)で表される金属錯体色素が下記一般式(9)で表され、前記一般式(6)で表される金属錯体色素が下記一般式(10)で表されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の金属錯体色素組成物。
【化6】

[ 一般式(9)中、R71及びR72は独立にアルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A、Aは独立してカルボキシル基又はその塩を表す。
一般式(10)中、R73及びR74は独立にアルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A、Aは独立してカルボキシル基又はその塩である。]
【請求項6】
前記一般式(5)で表される金属錯体色素が下記一般式(11)で表され、前記一般式(6)で表される金属錯体色素が下記一般式(12)で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の金属錯体色素組成物。
【化7】

[ 一般式(11)及び一般式(12)中、R81〜R84は独立にアルキニル基を表す。A13〜A16は独立してカルボキシル基又はその塩を表す。]
【請求項7】
下記一般式(13)の金属錯体色素と下記一般式(14)の化合物を含む混合液を外部加熱によって前記混合液の温度を上昇させる工程を含むことを特徴とする下記一般式(1)の金属錯体色素の製造方法。
(LLm1(LLm2(Zm4 ・(CIm5 一般式(13)
[ 一般式(13)中、M、LL、LL、CI、m1及びm2は、一般式(1)におけるものと同義である。Zは1座又は2座の配位子である。m4は、1〜2の整数を表し、Zが1座配位子のときm4は2を表わし、Zが2座配位子のときm4は1を表わす。m5は0以上の整数である。]
11QCN 一般式(14)
[ 一般式(14)中、M11は、無機若しくは有機のアンモニウムイオン、プロトン又はアルカリ金属イオンを表し、Qは硫黄原子、酸素原子又はセレン原子を表す。]
(LLm1(LLm2(Z ・(CIm3 一般式(1)
[ 一般式(1)中、Mは金属原子を表し、LLは下記一般式(2)で表される2座の配位子であり、LLは下記一般式(3)で表される2座の配位子である。m1は1を表し、m2は1を表し、m3は1又は2である。Zは配位子を表し、イソチオシアナト基、イソシアナト基及びイソセレノシアナト基から選ばれた少なくとも1種である。CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。]
【化8】

[ 一般式(2)中、R11〜R14及びR21〜R24は独立して、酸性基若しくはその塩又は水素原子を表し、R11〜R14及びR21〜R24は同じでも異なっていてもよい。ただし、R11〜R14及びR21〜R24の少なくとも一つは酸性基又はその塩である。]
【化9】

[ 一般式(3)中、n1、n2は独立して0〜3の整数を表し、Y、Yは独立して水素原子又は下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。ただし、Ar及びArは独立して下記一般式(4)で表されるヘテロアリール基を表す。]
【化10】

[ 一般式(4)中、R31〜R33は独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、R31〜R33のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。Xは硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。]
【請求項8】
前記一般式(1)中のLLが、下記一般式(7)で表されることを特徴とする請求項7記載の金属錯体色素の製造方法。
【化11】

[ 一般式(7)中、R41〜R43及びR51〜R53は、独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表す。R41〜R43のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。R51〜R53のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基である。X及びXはそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はNRであり、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基である。]
【請求項9】
前記一般式(7)におけるX及びXが硫黄原子であることを特徴とする請求項8記載の金属錯体色素の製造方法。
【請求項10】
前記一般式(1)が下記一般式(8)で表され、前記一般式(13)が下記一般式(15)で表され、前記一般式(14)が下記一般式(16)で表されることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項記載の金属錯体色素の製造方法。
【化12】

[ 一般式(8)及び一般式(15)中、R61、R62、R91、R92は独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルキニル基を表し、A〜Aは独立してカルボキシル基又はその塩を表す。一般式(16)中、M12は、無機若しくは有機のアンモニウムイオン、プロトン又はアルカリ金属イオンを表す。]
【請求項11】
前記一般式(1)が下記一般式(17)で表され、前記一般式(13)が下記一般式(18)で表され、前記一般式(14)が下記一般式(19)で表されることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項記載の金属錯体色素の製造方法。
【化13】

[ 一般式(17)及び一般式(18)中、R101、R102、R111、R112は独立にアルキニル基を表し、A〜A12は独立してカルボキシル基又はその塩を表す。一般式(19)中、M13は、無機若しくは有機のアンモニウムイオン、プロトン又はアルカリ金属イオンを表す。]
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項記載の金属錯体色素組成物を増感色素として用いることを特徴とする光電変換素子。
【請求項13】
請求項7〜11のいずれか1項記載の金属錯体色素の製造方法で製造された金属錯体色素を用いることを特徴とする光電変換素子。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項記載の光電変換素子を備えることを特徴とする光電気化学電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−207209(P2012−207209A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−44602(P2012−44602)
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】