説明

金属防錆処理剤

【課題】金属板、特に亜鉛/アルミニウム系めっき鋼板に塗布し、耐黒変性、耐食性、耐侯性に優れた保護皮膜を形成する金属防錆処理剤を提供すること。
【解決手段】特定のビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性アクリル樹脂(C)及び、チタン含有水性液(d1)、有機リン酸化合物(d2)、メタバナジン酸塩(d3)及び炭酸ジルコニウム塩(d4)を含有する防錆剤(D)を含有する表面処理剤であって、(D)成分の量が、全成分の固形分総量に対して、特定範囲量の範囲内である金属防錆処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板、特に亜鉛/アルミニウム系めっき鋼板に塗布し、耐黒変性、耐食性、耐侯性に優れた保護皮膜を形成する金属防錆処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルコーティングなどによって塗装されたプレコート鋼板などのプレコート金属板は、建築物の屋根、壁、シャッター、ガレージなどの建築資材、各種家電製品、配電盤、冷凍ショーケース、鋼製家具及び厨房器具などの住宅関連商品として幅広く使用されている。従来、プレコート鋼板の塗膜中には耐食性向上のためクロム系の防錆顔料を含有させることが行われていた。しかしながら、クロム系の防錆顔料は人体に悪影響を与えるので環境保護の観点から問題となっている。
【0003】
一方、近年、塗料分野において有機溶剤型から水系への転換も進められており、プレコート鋼板用塗料において水性の非クロム系塗料の開発が望まれている。かかる塗料に使用される材料として、本発明者らは先に特許文献1等を提案したが、該組成物では耐候性が不十分な場合があった。
また、皮膜形成亜鉛系めっき鋼板において、皮膜により耐食性及び耐候性は向上するが皮膜下の鋼板が黒変するという問題がある。耐黒変性及び耐白錆性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の表面処理方法として、例えば、特許文献2には、特定の重金属イオンを含有し、特定の金属イオンを添加した酸性水溶液で処理し、水洗後、塗布型クロメート処理を施すことを特徴とする表面処理方法が記載されているが、これは、人体に有害なクロム系化合物を使用するクロメート処理を行なうものであった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−034713号公報
【特許文献2】特開平11−200066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、金属板、特に亜鉛/アルミニウム系めっき鋼板に塗布し、耐黒変性、耐食性、耐侯性に優れた保護皮膜を形成する金属防錆処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行なった結果、金属板、特に亜鉛/アルミニウム系めっき鋼板に、特定のビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性アクリル樹脂(C)及び防錆剤(D)を含有する表面処理剤により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)、グリシジル基含有ビニルモノマー(a2)及びアミン化合物(a3)を反応させてなる重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)と、カルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)とを共重合させてなる共重合体(I)を、塩基性化合物により中和して水中に分散又は溶解せしめてなることを特徴とするビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性アクリル樹脂(C)及び防錆剤(D)を含有する表面処理剤であって、
防錆剤(D)が、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(d1)、有機リン酸化合物(d2)、メタバナジン酸塩(d3)及び炭酸ジルコニウム塩(d4)を含有し、
ビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性アクリル樹脂(C)及び防錆剤(D)の固形分総量に対して、防錆剤(D)の固形分が0.1〜20質量%であることを特徴とする金属防錆処理剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属防錆処理剤は、環境衛生面で有利な非クロム系処理剤組成物によりなるものであり、本発明の金属防錆処理剤を塗布することにより、耐食性、耐侯性、耐黒変性のいずれにも優れた金属板を得ることができるという効果を奏する。
亜鉛系めっき鋼板における黒変現象は、メッキ中の亜鉛(イオン)が塩基性炭酸亜鉛となり、これが黒く見えることにより起こると考えられる。この塩基性炭酸亜鉛は、酸素不足状況下での腐食生成物であり、特に粒界からの腐食進行に伴って形成されると考えられる。
本発明の金属防錆処理剤が塗布された亜鉛めっき系鋼板は、処理剤中の防錆剤(D)成分が、この腐食を抑制することから耐黒変性に優れている。
さらに、樹脂成分である特定のビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)及び水性アクリル樹脂(C)の相乗効果により、耐食性、耐侯性等の性能にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の金属防錆処理剤は、ビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性アクリル樹脂(C)及び防錆剤(D)を含有する表面処理剤であって、(D)成分を、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の総量に対して、特定範囲量含有することを特徴とする金属防錆処理剤である。
【0009】
以下、本発明の金属防錆処理剤(以下、「本処理剤」ということがある。)について詳細に説明する。
ビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)
本処理剤のビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)、グリシジル基含有ビニルモノマー(a2)及びアミン化合物(a3)を反応させてなる重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)と、カルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)とを共重合させてなる共重合体(I)を、塩基性化合物により中和して水中に分散又は溶解せしめてなるものである。
また共重合体(I)は、前記構成成分である(a1)、(a2)、(a3)及び(I−2)に加えて、必要に応じ、反応可能な成分(a4)や、カルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)と共重合しうる他のビニルモノマー(I−3)を追加構成成分とすることができる。
【0010】
重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)、グリジシル基含有ビニルモノマー(a2)、アミン化合物(a3)及び必要により反応可能な成分(a4)からなる各構成成分からなる反応生成物である。すなわち、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基がアミン化合物(a3)により開環すると同時に、エポキシ樹脂(a1)中にアミノ基が導入されることで未変性エポキシ樹脂(a1)の本来の性能である密着性等がさらに向上すると考えられる。またグリジシル基含有ビニルモノマー(a2)がアミン化合物(a3)を介してビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基と反応するため、該エポキシ樹脂(a1)中に重合性不飽和基が導入され、共重合性が付与される。
【0011】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)としては公知のものが使用できるが、例えば、ビスフェノール類とエピクロルヒドリン又はβ−メチルエピクロルヒドリン等のハロエポキシド類との反応生成物等を挙げることができる。
ビスフェノール類としては、フェノール又は2,6−ジハロフェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノン等のアルデヒド類もしくはケトン類との反応物、ジヒドロキシフェニルスルフィドの過酸化物、ハイドロキノン同士のエーテル化反応物、脂肪族多価アルコールのグリシジルエーテル、脂肪族多塩基酸のグリシジルエーテル等を挙げることができる。
ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)は、単独で又は2種以上を併用して使用することができる。ビスフェノール型エポキシ樹脂(1a)成分のエポキシ当量は、得られる共重合体(I)の分子量や製造時の作業性等の観点から3000以下であるのが好ましい。エポキシ当量が3000を超えると、得られる共重合体(I)の分子量が増大し、ゲル化する場合がある。
【0012】
グリシジル基含有ビニルモノマー(a2)としては、グリシジル基とビニル基を分子内に含有する化合物であれば特に制限なく使用することができる。具体的には、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0013】
アミン化合物(a3)としては、特に制限なく使用することができる。例えば、アルカノールアミン類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、脂環族アミン類、芳香核置換脂肪族アミン類等があげられ、これらは1種又は2種以上を選択して使用することができる。
アルカノールアミン類としては、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジ−2−ヒドロキシブチルアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ベンジルエタノールアミン等を挙げることができる。
脂肪族アミン類としては、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、パルミチルアミン、オレイルアミン、エルシルアミン等の一級アミン類やジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の二級アミン類をあげることができる。
芳香族アミン類としては、トルイジン類、キシリジン類、クミジン(イソプロピルアニリン)類、ヘキシルアニリン類、ノニルアニリン類、ドデシルアニリン類等をあげることができる。
脂環族アミン類としては、シクロペンチルアミン類、シクロヘキシルアミン類、ノルボルニルアミン類等をあげることができる。
芳香核置換脂肪族アミン類としては、ベンジルアミン、フェネチルアミン等をあげることができる。
【0014】
重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)には、追加構成成分として、反応可能な化合物(a4)を使用しうる。重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)を上記化合物(a4)で変性(高分子量化)することにより、得られる共重合体(I)の水への分散性を調整したり、得られる塗膜の加工性を向上させることができる。
化合物(a4)としては、1価〜3価の有機酸、1価〜4価のアルコール、イソシアネート化合物等を挙げることができる。
1価〜3価の有機酸としては、脂肪族、脂環族又は芳香族の公知のカルボン酸を使用することができ、具体的にはダイマー酸、トリメリット酸等を挙げることができる。
1価〜4価のアルコールとしては、脂肪族、脂環族又は芳香族の公知のアルコールを使用することができ、具体的にはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等を挙げることができる。
イソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族又は脂環族の公知のポリイソシアネートを使用することができ、具体的にはトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0015】
重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)の製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用できるが、具体的には例えば以下の条件により行なうことができる。
ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)、グリシジル基含有ビニルモノマー(a2)、アミン化合物(a3)及び他の反応可能な化合物(a4)の使用割合は、それぞれ以下の範囲とすることができる。
ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)とグリシジル基含有ビニルモノマー(a2)に含まれるエポキシ基の総量100当量に対して、アミン化合物(a3)のアミノ基に由来する活性水素の当量が90〜110当量程度となるように用いるのが好ましい。
また、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基100当量に対してグリシジル基含有ビニルモノマー(a2)のエポキシ当量が1〜25当量程度となるように用いるのが好ましい。グリシジル基含有ビニルモノマー(a2)のエポキシ当量が1未満であると、ビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)の貯蔵安定性が低下する場合があり、25を超えると重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)が製造時にゲル化する傾向にある。また、他の反応可能な化合物(a4)は必要に応じて使用することができる。
【0016】
重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)は、有機溶剤の存在下に、前記各成分を加熱することにより容易に製造することができる。反応温度は通常60〜200℃程度、好ましくは80〜150℃程度とすることができる。反応温度が60℃未満であると未反応のエポキシ基が残存しやすくなる傾向にあり、反応温度が200℃を越えると重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)中のエポキシ基と他成分中の水酸基との開環反応や、エポキシ基同士の開環反応により反応生成物がゲル化しやすくなる傾向にある。
反応時間は反応温度に依存するが、前記温度条件下では3〜10時間とするのが好ましい。
【0017】
上記有機溶剤としては、共重合体(I)の水性化の観点から親水性溶剤を使用するのが好ましく、具体的にはプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ、t−ブチルセロソルブ、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等を使用することができる。
【0018】
共重合体(I)は、上記のようにして得られた重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)と、カルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)及び必要に応じビニルモノマー(I−2)と共重合しうる他のビニルモノマー(I−3)とを共重合させることにより製造することができる。
共重合体(I)は、一般にビニルグラフト−アミン変性エポキシ樹脂と呼ばれるものである。重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)の重合性不飽和基と、カルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)及び必要により他のビニルモノマー(I−3)とを、共重合させてグラフト体を製造するものである。かかるグラフト化により、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)の本来の性能である耐食性、密着性を高度に維持しつつ、水中に安定に分散または溶解しうる共重合体(I)を得ることができる。
【0019】
カルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有ビニルモノマーを挙げることができる。
任意成分である他のビニルモノマー(I−3)としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン系ビニルモノマー;その他、酢酸ビニル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等をあげることができる。
上記ビニルモノマー(I−2)及び(I−3)は、いずれも一種を単独で、又は二種以上を併用して使用することができる。
【0020】
カルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)は、得られる共重合体(I)の水性化(安定に水分散または溶解)を容易にするために必須使用される。
共重合体(I)の酸価は、水性化及び得られる皮膜の耐水性や耐食性の観点から、15〜45mgKOH/g、特に20〜40mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。
任意成分である他のビニルモノマー(I−3)をカルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)と併用する場合にも、前記と同様の観点から、これら両成分の使用量を決定でき、得られる共重合体(I)の酸価が前記と同様の範囲内となるよう適宜調節するのが好ましい。
【0021】
重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)と、カルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)及び必要により使用される他のビニルモノマー(I−3)との共重合に際しては、公知の有機過酸化物やアゾ化合物等の重合開始剤を使用することができる。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオクトエイト、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等を挙げることができる。
【0022】
また、共重合に際しては、重合方法は特に限定されないが、溶液重合法が好ましい。例えば、前記のような重合開始剤の存在下で60〜150℃程度の反応温度で重合することができる。有機溶剤としては、前記の重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)の製造において例示したものと同様のものを使用することができる。
重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)とカルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)と他のビニルモノマー(I−3)との使用質量比((I−1)/〔(I−2)+(I−3)〕)は、得られる共重合体(I)の酸価を考慮して適宜決定することができ、99/1〜80/20の範囲内とするのが好ましい。
ビニルモノマーの使用量が上記下限より少ないと水分散性または水溶解性が不安定となり、ビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)に沈殿が生じる場合がある。また、ビニルモノマーが当該上限値を超えるとビニル変性エポキシ樹脂の本来の特徴である得られる皮膜の密着性、耐食性が低下する場合がある。
共重合体(I)は、数平均分子量5000〜15000、特に8000〜12000、ガラス転移温度(Tg)50〜90℃、特に60℃〜80℃、酸価15〜45mgKOH/g、特に20〜35mgKOH/gを有するものが好適である。
本明細書において、数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した保持時間を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。
具体的には、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ装置として、「HLC−8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G4000HXL」を1本、「TSKgel G3000HXL」を2本、及び「TSKgel G2000HXL」を1本(商品名、いずれも東ソー社製)の計4本を使用し、検出器として、示差屈折率計を使用し、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:1mL/minの条件下で測定することができる。
また、本明細書において、樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差熱分析(DSC)によるものである。
【0023】
共重合体(I)は、塩基性化合物で中和され、水に溶解ないし分散させることにより、目的とするビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)とすることができる。すなわち、共重合体(I)中のビニルモノマー(I−2)由来のカルボキシル基を全部または一部分を中和することにより、ビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)のpHは7〜10程度にするのが安定性の観点から好ましい。塩基性化合物としては、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等を使用することができる。塗膜からの揮散性の観点から、アンモニアやアミン類を使用することが好ましい。
水性ポリウレタン樹脂(B)
水性ポリウレタン樹脂(B)としては、例えば、常法に従いポリイソシアネート成分(b1)及びポリオール成分(b2)から製造されるウレタン樹脂エマルションを挙げることができる。
【0024】
ポリイソシアネート成分(b1)としては、ジイソシアネート、その他のポリイソシアネートをあげることができる。
ジイソシアネートとしては、特に制限を受けず、周知一般のジイソシアネートを一種類又は二種類以上混合で用いることができる。該ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、トランス−1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4及び/又は(2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リシンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
その他のポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を3つ以上有するポリイソシアネートである。例えば、上記例示のジイソシアネートのイソシアヌレート三量化物、ビューレット三量化物、トリメチロールプロパンアダクト化物等;トリフェニルメタントリイソシアネート、1−メチルベンゾール−2,4,6−トリイソシアネート、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート等の三官能以上のイソシアネート等が挙げられ、これらのイソシアネート化合物はカルボジイミド変性、イソシアヌレート変性、ビウレット変性等の変性物の形で用いてもよい。
ポリオール成分(b2)としては、特に制限を受けず、周知一般のポリオールを一種類又は二種類以上混合で用いることができる。該ポリオールとしては、ポリカーボネートポリオール、エステル結合を有するポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリブタジエンポリオール、シリコーンポリオール等が挙げられる。
上記のポリカーボネートポリオールは、通常、公知のポリオールとカルボニル化剤とを重縮合反応させることにより得られる化合物である。ポリオール成分としては、ジオール、3価以上のアルコール等の多価アルコールをあげることができる。
ジオールとしては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール及び1,10−デカンジオール等の直鎖状ジオール;2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3− プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等の分岐ジオール;1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式系ジオール;p−キシレンジオール、p−テトラクロロキシレンジオール等の芳香族系ジオール;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のエーテル系ジオール等をあげることができる。これらのジオールは、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
3価以上のアルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンの2量体、ペンタエリスリトール等を挙げることができる。
カルボニル化剤としては、公知のものを使用できる。具体的には、例えば、アルキレンカーボネート、ジアルキルカーボネート、ジアリルカーボネート、ホスゲン等を挙げることができ、これらの1種を又は2種以上を組合せて使用することができる。これらのうち好ましいものとして、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等をあげることができる。
エステル結合を有するポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0025】
上記のポリエステルポリオールとしては、多価アルコールと該多価アルコールの化学量論的量より少ない量の多価カルボン酸又はそのエステル、無水物、ハライド等のエステル形成性誘導体との直接エステル化反応及び/又はエステル交換反応により得られるものが挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール類、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の三価以上のアルコール類が挙げられる。
多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸、水添ダイマー酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−ジカルボキシルメチレンシクロヘキサン、ナジック酸、メチルナジック酸等の脂環式ジカルボン酸類、トリメリット酸、トリメシン酸、ひまし油脂肪酸の三量体等のトリカルボン酸類などの多価カルボン酸、これらの多価カルボン酸の酸無水物、該多価カルボン酸のクロライド、ブロマイド等のハライド、該多価カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、アミルエステル等の低級エステルや、γ−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、ジメチル−ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
上記のポリカプロラクトンポリオールとしては、例えば、ポリカプロラクトンジオール等のカプロラクトンの開環重合物を挙げることができる。
【0026】
上記の低分子ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオールで例示した多価アルコールを挙げることができる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、上記の低分子ポリオールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0027】
シリコーンポリオールとしては、分子中に、シロキサン結合を有する末端がヒドロキシル基のシリコーンオイル類等が挙げられる。
ポリオール成分(b2)において、カルボキシル基含有ジオールを使用することができる。カルボキシル基含有ジオールは、ポリウレタン分子に親水性基を導入するために用いられる。親水性基はカルボキシル基である。具体例としては、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸が挙げられる。
【0028】
ポリイソシアネート成分(b1)及びポリオール成分(b2)の他、必要に応じてアミン成分(b3)を使用することができる。アミン成分(b3)としては、モノアミン化合物、ジアミン化合物をあげることができる。
モノアミン化合物としては、特に制限を受けず、周知一般のモノアミン化合物を一種類又は二種類以上混合で用いることができる。該モノアミン化合物としては、エチルアミン、プロピルアミン、2−プロピルアミン、ブチルアミン、2−ブチルアミン、第三ブチルアミン、イソブチルアミン等のアルキルアミン;アニリン、メチルアニリン、フェニルナフチルアミン、ナフチルアミン等の芳香族アミン;シクロヘキサンアミン、メチルシクロヘキサンアミン等の脂環式アミン;2−メトキシエチルアミン、3メトキシプロピルアミン、2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミン等のエーテルアミン;エタノールアミン、プロパノールアミン、ブチルエタノールアミン、1−アミノ−2−メチル−2−プロパノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジメチルアミノプロピルエタノールアミン、ジプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。中でもアルカノールアミンがポリウレタン分子に対して良好な水分散安定性を与えるので好ましく、2−アミノエタノール、ジエタノールアミンが低コストなのでより好ましい。
【0029】
ジアミン化合物としては、特に制限を受けず、周知一般のジアミン化合物を一種類又は二種類以上混合で用いることができる。該ジアミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン等の前記例示の低分子ジオールのアルコール性水酸基がアミノ基に置換されたものである低分子ジアミン類;ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン等のポリエーテルジアミン類;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の脂環式ジアミン類;m−キシレンジアミン、α−(m/pアミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等の芳香族ジアミン類;ヒドラジン;上記のポリエステルポリオールに用いられる多価カルボン酸で例示したジカルボン酸とヒドラジンの化合物であるジカルボン酸ジヒドラジド化合物が挙げられる。これらジアミン化合物の中では、低分子ジアミン類が低コストであるので好ましく、エチレンジアミンがより好ましい。
さらに、必要に応じてカルボキシル基中和剤成分(b4)を使用することができる。
カルボキシル基中和剤成分(b4)は、上記カルボキシル基含有ジオールのカルボキシル基と反応し、親水性の塩を形成する塩基性化合物である。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン類、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン、N,N−ジプロピルエタノールアミン、1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロパノール等のN,N−ジアルキルアルカノールアミン類、N−アルキル−N,N−ジアルカノールアミン類、トリエタノールアミン等のトリアルカノールアミン類等の3級アミン化合物、アンモニア、トリメチルアンモニウムヒドロキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。中でも、得られる水性ポリウレタン樹脂(B)の分散安定性が良好であるので、3級アミン化合物が好ましい。
【0030】
水性ポリウレタン樹脂(B)には、上記(b1)〜(b4)の他に、ポリウレタン分子に分岐や架橋構造を与える内部分岐剤及び内部架橋剤を用いてもよい。これらの内部分岐剤及び内部架橋剤としては、例えばトリメチロールプロパン等が挙げられる。
水性ポリウレタン樹脂(B)の製造方法については、特に制限を受けず、周知一般の方法を適用することができる。製造方法としては、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒中でプレポリマー又はポリマーを合成してから、これを水にフィードして分散させる方法が好ましい。例えば、上記溶媒中でポリイソシアネート成分(b1)、ポリオール成分(b2)からプレポリマーを合成して、これを水中で必要に応じて使用されるアミン成分(b3)と反応させる方法(イ)、ポリイソシアネート成分(b1)、ポリオール成分(b2)及び必要に応じて使用されるアミン成分(b3)からポリマーを合成して、これを水中にフィードして分散させる方法(ロ)が挙げられる。また、中和剤成分は、予めフィードする水中に加えておいてもよく、フィードの後で加えてもよい。
【0031】
上記の好適な製造方法に使用される、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン等を挙げることができる。これらの溶媒は、通常、プレポリマーを製造するために用いられる上記原料の合計量に対して、3〜100質量%が用いられる。
上記の製造方法において、その配合比は、特に制限を受けるものではない。該配合比は、反応させる段階でのポリイソシアネート成分(b1)中のイソシアネート基と、ポリオール成分(b2)及び必要に応じて使用されるアミン成分(b3)中のイソシアネート反応性基とのモル比に置き換えることができる。該モル比については、イソシアネート基1に対して、イソシアネート反応性基は0.5〜2.0が好ましい。また、ポリオール成分(b2)中のイソシアネート反応性基のモル比は、ポリイソシアネート成分(b1)中のイソシアネート基1に対して0.3〜1.0が好ましく、0.5〜0.9がより好ましい。また、必要に応じて使用されるアミン成分(b3)中のイソシアネート反応性基のモル比は、ポリイソシアネート成分中のイソシアネート基1に対して、0.1〜1.0が好ましく、0.2〜0.5がより好ましい。
【0032】
また、カルボキシル基中和剤成分(b4)による、中和率は、得られる水性ポリウレタン樹脂(B)に対し、充分な分散安定性を与える範囲に設定する。ポリオール成分(b2)中のカルボキシル基のモル数1に対して、0.5〜2.0倍当量が好ましく、0.7〜1.5倍当量がより好ましい。
【0033】
水性ポリウレタン樹脂(B)の分散性を安定させるために、界面活性剤等の乳化剤を1種類又は2種類以上用いてもよい。粒子径については、特に制限を受けないが、良好な分散状態を保つことができるので1μm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。
【0034】
上記の乳化剤としては、ウレタン樹脂エマルションに使用される周知一般のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等を使用することができる。これらを使用する場合は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤がコストも低く、良好な乳化が得られるので好ましい。
【0035】
上記のアニオン性界面活性剤としては、例えば、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート等アンモニウムドデシルサルフェート等のアルキルサルフェート類;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノレート;スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩、スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレート、トルエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ナトリウムベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルアリールスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ジアルキルスルホコハク酸塩;ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩などが挙げられる。
【0036】
上記のノニオン性界面活性剤としては、炭素数1〜18のアルコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、アルキレングリコール及び/又はアルキレンジアミンのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0037】
上記のノニオン性界面活性剤を構成する炭素数1〜18のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、第三ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、第三アミルアルコール、ヘキサノール、オクタノール、デカンアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられ、アルキルフェノールとしては、フェノール、メチルフェノール、2,4−ジ第三ブチルフェノール、2,5−ジ第三ブチルフェノール、3,5−ジ第三ブチルフェノール、4−(1,3−テトラメチルブチル)フェノール、4−イソオクチルフェノール、4−ノニルフェノール、4−第三オクチルフェノール、4−ドデシルフェノール、2−(3,5−ジメチルヘプチル)フェノール、4−(3,5−ジメチルヘプチル)フェノール、ナフトール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられ、アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられ、アルキレンジアミンとしては、これらのアルキレングリコールのアルコール性水酸基がアミノ基に置換されたものが挙げられる。また、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物とは、ランダム付加物でもブロック付加物でもよい。
【0038】
上記のカチオン性界面活性剤としては、1級〜3級アミン塩、ピリジニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ハロゲン化アルキル4級アンモニウム塩等の4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0039】
これらの乳化剤を使用する場合の使用量は、特に制限を受けず任意の量を使用することができるが、ウレタン樹脂1に対する質量比で0.05より小さいと充分な分散性が得られない場合があり、0.3を超えると水性第1着色塗料から得られる塗膜等の耐水性、強度、延び等の物性が低下するおそれがあるので0.01〜0.3が好ましく、0.05〜0.2がより好ましい。
水性ポリウレタン樹脂(B)としては、市販品を使用することができる。市販品として、例えばハイドランHW−330、ハイドランHW−340、ハイドランHW−350(いずれも大日本インキ化学工業社製)、スーパーフレックス100、スーパーフレックス110、スーパーフレックス150、スーパーフレックスF−8438D、スーパーフレックス420(いずれも第一工業製薬社製)、アデカボンタイダーHUX−232、アデカボンタイダーHUX−260、アデカボンタイダーHUX−320、アデカボンタイダーHUX−350、アデカボンタイダーHUX−540、アデカボンタイダーUX−206(いずれも旭電化社製)などを挙げることができる。
【0040】
水性ポリウレタン樹脂の平均分子量については、特に制限を受けず、重量平均分子量で10000〜1000000、特に50000〜500000の範囲内であるのが好ましい。
水性アクリル樹脂(C)
水性アクリル樹脂(C)としては、従来から使用されているそれ自体既知の水溶性又は水分散性のアクリル樹脂を使用することができる。
【0041】
アクリル樹脂は、通常、重合性不飽和モノマーを、それ自体既知の方法、例えば、有機溶媒中での溶液重合法、水中での乳化重合法などの方法により、共重合せしめることによって製造することができる。
【0042】
重合性不飽和モノマーの具体例を、(i)〜(xx)に列挙する。これらは単独でもしくは2種以上組合せて使用することができる。
(i)アルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート:例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸又はメタクリル酸」を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は、「アクリロイル又はメタクリロイル」を意味する。また、「(メタ)アクリルアミド」は、「アクリルアミド又はメタクリルアミド」を意味する。
(ii)イソボルニル基を有する重合性不飽和モノマー:イソボルニル(メタ)アクリレート等。
(iii) アダマンチル基を有する重合性不飽和モノマー:アダマンチル(メタ)アクリレート等。
(iv)トリシクロデセニル基を有する重合性不飽和モノマー:トリシクロデセニル(メタ)アクリレート等。
(v)芳香環含有重合性不飽和モノマー:ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等。
(vi)アルコキシシリル基を有する重合性不飽和モノマー:ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等。
(vii)フッ素化アルキル基を有する重合性不飽和モノマー:パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等。
(viii)マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和モノマー。
(ix)ビニル化合物:N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等。
(x)リン酸基含有重合性不飽和モノマー:2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート等。
(xi)カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー:(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等。
(xii)含窒素重合性不飽和モノマー:(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等。
(xiii)重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー:アリル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等。
(xiv)エポキシ基含有重合性不飽和モノマー:グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等。
(xv)分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート。
(xvi)スルホン酸基を有する重合性不飽和モノマー:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、アリルスルホン酸、4−スチレンスルホン酸等;これらスルホン酸のナトリウム塩及びアンモニウム塩等。
(xvii)紫外線吸収性官能基を有する重合性不飽和モノマー:2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2' −ジヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2' −ジヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−(2' −ヒドロキシ−5' −メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等。
(xviii)光安定性重合性不飽和モノマー:4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等。
(xix)カルボニル基を有する重合性不飽和モノマー:アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等。
(xx)水酸基含有重合性不飽和モノマー:1分子中に水酸基及び重合性不飽和結合をそれぞれ1個以上有する化合物であって、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と炭素数2〜8の2価アルコールとのモノエステル化物;該(メタ)アクリル酸と炭素数2〜8の2価アルコールとのモノエステル化物のε−カプロラクトン変性体;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド;アリルアルコール、さらに、分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0043】
水性アクリル樹脂(C)のTgは、皮膜硬度等の観点から、−20〜80℃、特に−10〜70℃、さらに特に0〜60℃の範囲内であることが好ましい。
【0044】
また、水性アクリル樹脂(C)の粘度は、塗装性等の観点から、5〜2000mPa・s、特に20〜1000mPa・s、さらに特に50〜500mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0045】
水性アクリル樹脂として特に、水中での乳化重合により合成される水分散性アクリル樹脂粒子を好適に使用することができる。
【0046】
水分散性アクリル樹脂粒子は、例えば、ビニルモノマーに代表される重合性不飽和モノマーを界面活性剤のような分散安定剤の存在下で、ラジカル重合開始剤を用いて乳化重合せしめることによって得ることができる。
【0047】
乳化重合せしめる重合性不飽和モノマーとしては、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(M−1)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(M−2)及びその他の重合性不飽和モノマー(M−3)、重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する多ビニル化合物(M−4)等を例示することができる。
【0048】
カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(M−1)は、1分子中に1個以上のカルボキシル基と1個の重合性不飽和基とを有する化合物で、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができる。さらに、これらの化合物の酸無水物や該酸無水物を半エステル化したモノカルボン酸なども本明細書において、該モノマー(M−1)に包含されるものとする。
カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーは、水分散性アクリル樹脂粒子に水分散性を付与するため、カルボキシル基を導入するためのモノマーである。
これらのカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(M−1)は、単独で又は2種以上を使用することができる。
水酸基含有重合性不飽和モノマー(M−2)は、1分子中に水酸基と重合性不飽和基とをそれぞれ1個有する化合物であり、この水酸基は架橋剤と反応する官能基として作用することができる。該モノマーとしては、具体的には、アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数2〜10個の2価アルコールとのモノエステル化物が好適であり、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート等の水酸基含有アクリレートモノマー、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート等の水酸基含有メタクリレートモノマー、また、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどを挙げることができる。
これらの水酸基含有重合性不飽和モノマー(M−2)は、単独で又は2種以上を使用することができる。
【0049】
その他の重合性不飽和モノマー(M−3)は、上記モノマー(M−1)及び(M−2)以外の、1分子中に1個の重合性不飽和基を有する化合物であり、その具体例を以下の(1)〜(9)に列挙する。
【0050】
(1)アルキル(メタ)アクリレートモノマー(具体的には、アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数1〜20の1価アルコールとのモノエステル化物):例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート等。
【0051】
上記アルキル(メタ)アクリレートモノマーのうち、水膨潤率及び溶剤膨潤率の観点から、アルキル基の炭素数が4〜14、好ましくは4〜8のアルキル(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。
アルキル基の炭素数が4〜14のアルキル(メタ)アクリレートモノマーを共重合成分とする場合、その共重合量は、重合性不飽和モノマーの総量を基準にして、30〜80質量%であるのが好ましい。
【0052】
(2)芳香族系ビニルモノマー:例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等。
【0053】
(3)グリシジル基含有ビニルモノマー:1分子中に1個以上のグリシジル基と1個の重合性不飽和結合とを有する化合物で、具体的には、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等。
【0054】
(4)含窒素アルキル(炭素数1〜20)(メタ)アクリレート:例えばジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等。
【0055】
(5)重合性不飽和基含有アミド系化合物:1分子中に1個以上のアミド基と1個の重合性不飽和結合とを有する化合物で、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルプロピルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等。
(6)アルコキシシリル基を有する重合性不飽和モノマー:ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等。
【0056】
(7)重合性不飽和基含有ニトリル系化合物:例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
【0057】
(8)ジエン系化合物:例えばブタジエン、イソプレン等。
(9)ビニル化合物:例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル等。
【0058】
これらのその他のビニルモノマー(M−3)は、1種又は2種以上使用することができる。
【0059】
多ビニル化合物(M−4)は、重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する化合物であり、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。なお、多ビニル化合物(M−4)には前記ジエン系化合物は含まれない。
これらの多ビニル化合物(M−4)は、1種で又は2種以上を使用することができる。
【0060】
水分散性アクリル樹脂粒子における重合性不飽和モノマーの配合割合は、重合性不飽和モノマーの総量を基準にして、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(M−1)が、該重合体粒子の水分散性及び耐水性等の観点から、好ましくは0.1〜25質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%、さらに特に好ましくは0.5〜5質量%、水酸基含有重合性不飽和モノマー(M−2)は、硬化性及び耐水性等の観点から、好ましくは0.1〜40質量%、さらに好ましくは0.1〜25質量%、さらに特に好ましくは1〜10質量%、その他の重合性不飽和モノマー(M−3)が、好ましくは20〜99.8質量%、さらに好ましくは30〜80質量%である。
【0061】
多ビニル化合物(M−4)は、必要に応じて使用されるが、配合割合は、重合性不飽和モノマーの総量を基準にして、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、さらに好ましくは0〜5質量%である。
上記分散安定剤としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤、両性イオン乳化剤、などをあげることができる。具体的にはアニオン系乳化剤としては、例えば、脂肪酸、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルリン酸塩などが挙げられる。ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミドなどをあげることができる。両性イオン乳化剤としては、アルキルベダインなどをあげることができる。
上記のうち、耐アルカリ性の観点から、アニオン系乳化剤が好ましい。
なお、分散安定剤としては、反応性乳化剤を使用することができる。反応性乳化剤とは、ビニルモノマーとラジカル反応性を有する乳化剤であり、換言すれば、1分子中に重合性不飽和基を有する界面活性剤である。
反応性乳化剤の具体例としては、エレミノールJS−1、エレミノールJS−2(三洋化成社製)、S−120、S−180A、S−180、ラテムルPD−104、ラテムルPD−420、ラテムルPD−430S、ラテムルPD−450(花王社製)、アクアロンHS−10、アクアロンKH−10(第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE−10N、アデカリアソープSE−20N、アデカリアソープSR−1025、アデカリアソープER−10、アデカリアソープER−20、アデカリアソープER−30、アデカリアソープER−40(旭電化社製)、ANTOX MS−60(日本乳化剤社製)などを挙げることができる。
上記乳化剤等の分散安定剤は、乳化重合反応において、1種又は2種以上を用いることができる。
分散安定剤の使用量は、生成する水分散性アクリル樹脂粒子に対して、0.1〜10質量%、特に1〜7.5質量%、さらに特に、1.5〜6質量%の範囲であるのが好ましい。
また、分散安定剤として、反応性乳化剤を使用する場合、反応性乳化剤の使用量は、生成する水分散性アクリル重合体粒子に対して、0.1〜10質量%、特に1.5〜7.5質量%、さらに特に、2〜6質量%の範囲であるのが好ましい。
【0062】
また、ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化アンモニウム等に代表される過酸化物、これら過酸化物と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕などのアゾ化合物等を挙げることができる。これらのうち、アゾ化合物が好ましい。
ラジカル重合開始剤の量は水分散性アクリル樹脂粒子を形成する重合性不飽和モノマーの固形分総重量に対して、通常、0.1〜5.0質量%、好ましくは0.1〜3.0質量%、さらに好ましくは1〜3.0質量%の範囲内であるのが適している。
【0063】
乳化重合反応中における全重合性不飽和モノマーの濃度は、通常、0.1〜60質量%、好ましくは0.5〜50質量%、さらに好ましくは1.0〜50質量%の範囲内であるのが適している。
【0064】
乳化重合の際の反応温度は、使用するラジカル重合開始剤により異なるが、通常40〜100℃、好ましくは50〜90℃、さらに好ましくは、60〜80℃とすることができる。
反応時間は通常3〜24時間、好ましくは5〜20時間、さらに好ましくは7〜16時間とすることができる。
水分散性アクリル樹脂粒子は、通常の均一構造又はコア/シェル構造などの多層構造のいずれであってもよい。
コア/シェル構造の水分散性アクリル樹脂粒子は、具体的には、例えば、最初にカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(M−1)を全く又は殆んど含有しない重合性不飽和モノマー成分を乳化重合し、その後、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(M−1)を多量に含んだ重合性不飽和モノマー成分を加えて乳化重合することによって得ることができる。
【0065】
コア部とシェル部との結合は、例えば、コア部の表面に残存するアリルアクリレート、アリルメタクリレート等による重合性不飽和結合に、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(M−1)を含む重合性不飽和モノマー成分を共重合して行なうことができる。
【0066】
水分散性アクリル樹脂粒子のTgは、皮膜硬度等の観点から、−20〜80℃、特に−10〜70℃、さらに特に0〜60℃の範囲内であることが好ましい。
【0067】
また、水分散性アクリル樹脂粒子の粘度は、塗装性等の観点から、5〜2000mPa・s、特に20〜1000mPa・s、さらに特に50〜500mPa・sの範囲内であることが好ましい。
さらに、水分散性アクリル樹脂粒子は、粒子の分散安定性の観点から、10〜500nm、好ましくは20〜300nm、さらに好ましくは40〜200nmの範囲内の平均粒子径を有することができる。
本明細書において、水分散性アクリル樹脂粒子の平均粒子径は、サブミクロン粒度分布測定装置を用いて、常法により脱イオン水で希釈してから20℃で測定した値である。サブミクロン粒度分布測定装置としては、例えば、「COULTER N4型」(商品名、ベックマン・コールター社製)を用いることができる。
水分散性アクリル樹脂粒子は塩基性化合物で中和することが好ましい。
水分散性アクリル樹脂粒子の中和剤としては、アンモニア又は水溶性アミノ化合物、例えば、モノエタノールアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ジエタノールアミン、モルホリン等を好適に使用することができる。
防錆剤(D)
防錆剤(D)は、チタン含有水性液(d1)、有機リン酸化合物(d2)、メタバナジン酸塩(d3)及び炭酸ジルコニウム塩(d4)を含有するものである。
チタン含有水性液(d1)
チタン含有水性液(d1)は、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低
縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を、過酸化水素水と混合して得られるチタンを含有する水性液である。
上記加水分解性チタン化合物の低縮合物及び水酸化チタンの低縮合物において、低縮合物としては、縮合度が2〜30の縮合物を使用することができ、特に縮合度が2〜10の範囲のものを使用することが製造安定性の観点から好ましい。
加水分解性チタン化合物は、チタン原子に直接結合する加水分解性基を有するチタン化合物であって、水、水蒸気などの水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものである。また、加水分解性チタン化合物において、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であっても、もしくはその1部が加水分解された水酸基のいずれであってもよい。
加水分解性基としては、水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものであれば特に制限されず、例えば、アルコキシル基やチタンと塩を形成する基(例えば、ハロゲン原子(塩素など)、水素原子、硫酸イオン等)等を挙げることができる。
【0068】
チタン含有水性液(d1)としては、チタン化合物と過酸化水素水を反応させることにより得られるチタンを含有する水性液であれば、従来から公知のチタン含有水性液を特に制限なく使用することができ、例えば、下記方法(1)〜(3)によるものを挙げることができる。
方法(1):含水酸化チタンのゲル或いはゾルに、過酸化水素水を添加して得られるチタニルイオン過酸化水素錯体或いはチタン酸(ペルオキソチタン水和物)水溶液(例えば、特開昭63−35419号及び特開平1−224220号公報参照)。
【0069】
方法(2):塩化チタンや硫酸チタン水溶液と塩基性溶液から製造した水酸化チタンゲルに過酸化水素水を作用させて合成することにより得られるチタニア膜形成用液体(例えば、特開平9−71418号及び特開平10−67516号公報参照)。
【0070】
方法(3):塩化チタンや硫酸チタンの無機チタン化合物水溶液に過酸化水素を加えてぺルオキソチタン水和物を形成した後、塩基性物質を添加して得られた溶液を放置、もしくは加熱することによってペルオキソチタン水和物重合体の沈殿物を形成させ、その後、少なくともチタン含有原料溶液に由来する水以外の溶解成分を除去した後に、過酸化水素を作用させて得られるチタン酸化物形成用溶液(例えば、特開2000−247638号及び特開2000−247639号公報参照)。
チタン含有水性液(d1)としては、過酸化水素水中にチタン化合物を添加して製造されたものを使用することが好ましい。チタン化合物としては、一般式Ti(OR)(式中、Rは同一もしくは異なって炭素数1〜5のアルキル基を示す)で表される加水分解して水酸基を生成する基を含有する加水分解性チタン、該加水分解性チタン低縮合物を使用することが好ましい。
加水分解性チタン化合物及び/又はその低縮合物(以下、「加水分解性チタンd」と略す)と過酸化水素水との混合割合は、加水分解性チタンdが10質量部に対して、過酸化水素水が、過酸化水素換算で0.1〜100質量部、特に1〜20質量部の範囲内であることが好ましい。過酸化水素換算で0.1質量部未満であると、キレート形成が不十分となり、白濁し沈殿を生じる場合がある。一方、100質量部を超えると未反応の過酸化水素が残存し易く貯蔵中に危険な活性酸素を放出しやすくなる傾向にある。
過酸化水素水中の過酸化水素濃度は特に限定されないが、3〜30質量%の範囲内であることが取り扱いやすさ、塗装作業性に関係する生成液の固形分の観点から好ましい。
また、加水分解性チタンdを用いてなるチタン含有水性液(d1)は、例えば、加水分解性チタンdを過酸化水素水と反応温度1〜70℃の範囲内で、10分間〜20時間程度反応させることにより製造することができる。
加水分解性チタンdを用いてなるチタン含有水性液(d1)は、加水分解性チタンdと過酸化水素水を反応させることにより、加水分解性チタンdが水で加水分解されることにより水酸基含有チタン化合物を生成し、次いで、過酸化水素が生成した水酸基含有チタン化合物に配位することにより生成すると推察され、この加水分解反応及び過酸化水素による配位が同時近くに起こることにより得られたものであり、室温域で安定性が極めて高く長期安定性に優れたキレート液である。
従来の製法で用いられる水酸化チタンゲルはTi−O−Ti結合により部分的に三次元化しており、このゲルと過酸化水素水を反応させた物と、加水分解性チタンdを用いてなるチタン含有水性液(d1)とは組成及び安定性に関し本質的に異なる。
加水分解性チタンdを用いてなるチタン含有水性液(d1)を80℃以上で加熱処理或いはオートクレーブ処理を行うと、結晶化した酸化チタンの超微粒子を含む酸化チタン分散液が得られる。80℃未満では十分に酸化チタンの結晶化が進まない。このようにして製造された酸化チタン分散液は、酸化チタン超微粒子の粒子径が10nm以下、好ましくは1nm〜6nmの範囲である。該分散液の外観は半透明状である。該粒子径が10nmより大きくなると造膜性が低下(1μm以上でワレを生じる)する場合があり好ましくない。この分散液も同様に使用することができる。
加水分解性チタンdを用いてなるチタン含有水性液(d1)は、鋼鈑材料に塗布乾燥、または低温で加熱処理することにより、それ自体で付着性に優れた緻密な酸化チタン膜を形成することができる。加熱処理温度としては、例えば、200℃以下、特に、150℃以下の温度で酸化チタン膜を形成させることが好ましい。
加水分解性チタンdを用いてなるチタン含有水性液(d1)は、上記した温度で加熱処理することにより水酸基を若干含む非晶質(アモルファス)の酸化チタン膜を形成させることができる。
また、80℃以上の温度で加熱処理をした酸化チタン分散液は塗布するだけで結晶性の酸化チタン膜を形成させることができるため、加熱処理をすることができない材料のコーティング材として有用である。
チタン含有水性液(d1)として、さらに酸化チタンゾルの存在下で、上記と同様の加水分解性チタン化合物及び/又はその低縮合物と、過酸化水素水とを反応させて得られるチタン含有水性液(d11)を使用することもできる。加水分解性チタン化合物及び/又はその低縮合物(加水分解性チタンd)としては、前記一般式Ti(OR)で表される加水分解して水酸基を生成する基を含有する加水分解性チタン、該加水分解性チタン低縮合物を使用することもできる。
上記酸化チタンゾルは、無定型チタニア又はアナターゼ型チタニア微粒子が水(必要に応じて、例えば、アルコール系、アルコールエーテル系などの水性有機溶剤を含有していてもよい)に分散したゾルである。
上記酸化チタンゾルとしては従来から公知のものを使用することができる。該酸化チタンゾルとしては、例えば、(1)硫酸チタンや硫酸チタニルなどの含チタン溶液を加水分解して得られるもの、(2)チタンアルコキシド等の有機チタン化合物を加水分解して得られるもの、(3)四塩化チタンなどのハロゲン化チタン溶液を加水分解又は中和して得られるものなどの酸化チタン凝集物を水に分散した無定型チタニアゾルや該酸化チタン凝集物を焼成してアナターゼ型チタン微粒子とし、これを水に分散したものを使用することができる。
無定形チタニアの焼成は少なくともアナターゼの結晶化温度以上の温度、例えば、400℃〜500℃以上の温度で焼成することにより、無定形チタニアをアナターゼ型チタニアに変換させることができる。
該酸化チタンの水性ゾルとしては、例えば、TKS−201(テイカ(株)社製、商品名、アナターゼ型結晶形、平均粒子径6nm)、TA−15(日産化学(株)社製、商品名、アナターゼ型結晶形)、STS−11(石原産業(株)社製、商品名、アナターゼ型結晶形)等を挙げることができる。
加水分解性チタンdと過酸化水素水とを反応させるために使用する際の上記酸化チタンゾルとチタン過酸化水素反応物との質量比率は1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10の範囲内である。重量比率が1/99未満であると、安定性、光反応性等において、酸化チタンゾルを添加した効果が不十分となる場合があり、99/1を越えると造膜性が劣る場合がある。
加水分解性チタンdと過酸化水素水との混合割合は、加水分解性チタンdが10質量部に対して、過酸化水素が、過酸化水素換算で0.1〜100質量部、特に1〜20質量部の範囲内であることが好ましい。過酸化水素換算で0.1質量部未満であると、キレート形成が不十分となり、白濁し沈殿を生じる場合がある。一方、100質量部を超えると未反応の過酸化水素が残存し易く貯蔵中に危険な活性酸素を放出しやすくなる傾向にある。
過酸化水素水の過酸化水素濃度は特に限定されないが3〜30質量%の範囲内であることが取り扱いやすさ、塗装作業性に関係する生成液の固形分の観点から好ましい。
また、チタン含有水性液(d11)は、酸化チタンゾルの存在下で加水分解性チタンdを過酸化水素水と反応温度1〜70℃の範囲内で10分間〜20時間程度反応させることにより製造することができる。
チタン含有水性液(d11)は、加水分解性チタンdを過酸化水素水と反応させることにより、加水分解性チタンdが水で加水分解されて水酸基含有チタン化合物を生成し、次いで過酸化水素が生成した水酸基含有チタン化合物に配位するものと推察され、この加水分解反応及び過酸化水素による配位が同時近くに起こることにより得られたものであり、室温域で安定性が極めて高く長期安定性に優れたキレート液である。
従来の製法で用いられる水酸化チタンゲルはTi−O−Ti結合により部分的に三次元化しており、このゲルと過酸化水素水を反応させた物と、加水分解性チタンdを用いてなるチタン含有水性液(d11)とは組成及び安定性に関し本質的に異なる。
また、酸化チタンゾルを使用することにより、合成時の縮合反応が抑制されることにより、チタン含有水性液の増粘を抑制することができる。これは、縮合反応物が酸化チタンゾルの表面に吸着されることにより、溶液中での高分子化反応を抑制することができることによるものである。
チタン含有水性液(d1)には、他の顔料やゾルを必要に応じて添加、分散することも可能である。具体的には、酸化チタン粉末、マイカ、タルク、シリカ、バリタ、クレー等を挙げることができる。
有機リン酸化合物(d2)
有機リン酸化合物(d2)としては、例えば、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸等のヒドロキシル基含有有機亜リン酸;2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸等のカルボキシル基含有有機亜リン酸、及びこれらの塩等を挙げることができる。
【0071】
有機リン酸化合物(d2)は、チタン含有水性液(d1)の貯蔵安定性を向上させる効果があるが、中でも特に1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸が好ましい。
【0072】
有機リン酸化合物(d2)の量は、チタン含有水性液(d1)の固形分総量に対して、50〜300質量%、特に80〜250質量%、さらに特に100〜200質量%の範囲内であることが密着性等の点から好ましい。
【0073】
メタバナジン酸塩(d3)
メタバナジン酸塩(d3)としては、例えば、メタバナジン酸リチウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸アンモニウム等を挙げることができる。
これらのうち、特に、メタバナジン酸アンモニウムが、耐食性の観点から好ましい。
メタバナジン酸塩(d3)の量は、チタン含有水性液(c1)の固形分総量に対して、1〜100質量%、特に5〜80質量%、さらに特に10〜60質量%の範囲内であることが耐食性等の点から好ましい。
炭酸ジルコニウム塩(d4)
炭酸ジルコニウム塩(d4)としては、例えば、炭酸ジルコニウムのナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム等の塩を挙げることができる。
これらのうち、特に、炭酸ジルコニウムアンモニウムが、耐水付着性等の点から好ましい。
炭酸ジルコニウム塩(d4)の量は、チタン含有水性液(c1)の固形分総量に対して、100〜1000質量%、特に200〜900質量%、さらに特に300〜800質量%の範囲内であることが耐食性等の点から好ましい。
本発明の金属防錆処理剤において、防錆剤(D)の量は、ビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性アクリル樹脂(C)及び防錆剤(D)の固形分総量に対して、防錆剤(D)の固形分が、0.1〜20質量%であり、0.1〜15質量%、特に0.1〜10質量%、さらに特に1〜10質量%の範囲内であることが、得られる塗膜の耐湿性や耐食性等の観点から好ましい。
本発明の金属防錆処理剤には、さらに必要に応じて、酸化ケイ素、カルシウム又はカルシウム化合物、難溶性リン酸化合物、モリブデン酸化合物、含イオウ有機化合物等の非クロム系防錆剤、触媒、顔料類、消泡剤、塗面調整剤、沈降防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、紫外線安定化剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0074】
上記の通り得られる本発明の金属防錆処理剤は、耐黒変性、耐食性、耐候性に優れた皮膜を形成することができるので、例えば、特に亜鉛めっき金属板用途の防錆処理剤として好適に使用することができる。
【0075】
本発明の金属防錆処理剤が塗布される被塗物である金属板としては、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、亜鉛合金(亜鉛−鉄、亜鉛−アルミニウム、亜鉛−ニッケルなどの合金)メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、ステンレス鋼板、銅メッキ鋼板、錫メッキ鋼板、アルミニウム板、銅板など;及びこれらの金属板に燐酸塩処理などの化成処理を施した金属板を挙げることができる。なかでも化成処理されていてもよい亜鉛メッキ鋼板(溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板のいずれも包含する)、亜鉛合金メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、及びアルミニウム板が得られる塗装金属板の耐黒変性、耐食性、耐侯性等の点から好ましい。
【0076】
本発明の金属防錆処理剤は、上記金属板上に、ロールコート法、スプレー塗装法、刷毛塗り法、静電塗装法、浸漬法、電着塗装法、カーテン塗装法、ローラー塗装法等の公知の方法により本発明の金属防錆処理剤を塗装し、乾燥させることにより本発明の金属防錆処理剤の皮膜を形成させることができる。
【0077】
本発明の金属防錆処理剤による皮膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常0.5〜5.0μm、好ましくは1.0〜2.0μmの範囲で使用される。塗膜の乾燥条件は、適宜設定すればよいが、コイルコーティング法などによって塗装したものを連続的に焼付ける場合には、通常、素材到達最高温度が80〜200℃、好ましくは90〜120℃となる条件で5〜60秒間加熱することにより行なうことができる。バッチ式で焼付る場合には、例えば、雰囲気温度140〜180℃で10〜30分間加熱することによっても行なうことができる。
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、これらにより限定されない。
各例において、「部」及び「%」は、特記しない限り、質量基準による。また、皮膜の膜厚は硬化塗膜に基づく。
【実施例】
【0078】
ビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)の製造
製造例1
攪拌機、冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応装置に、tert−ブチルセロソルブ120g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製:エポトートYD−014、エポキシ当量950)300gおよびグリシジルメタクリレート5.6gを加え窒素気流下100℃で溶解させた後、オクチルアミン18.4g、ジ−2−エチルへキシルアミン17.7gを加え5時間反応させ、重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂1を得た。
ついで、当該反応系内に、アクリル酸13g、tert−ブチルセロソルブ40g及びtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3gからなる混合物を1時間かけて滴下し4時間保温した。80℃に冷却後、トリエチルアミン18g及び脱イオン水480gを順に添加して混合することにより、不揮発分35.0%、粘度650mPa・s、pH9.7、酸価28mgKOH/gのビニル変性エポキシ樹脂No.1水性物を得た。
【0079】
製造例2
実施例1と同様の反応装置に、tert−ブチルセロソルブ120g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製:エポトートYD−014、エポキシ当量950)300g及びグリシジルメタクリレート5.6gを加え窒素気流下100℃で溶解させた後、オクチルアミン18.4g、ジ−2−エチルへキシルアミン17.7gを加え5時間反応させ、重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂2を得た。
ついで、当該反応系内に、アクリル酸15g、スチレン12g、アクリル酸ブチル12g、tert−ブチルセロソルブ40g及びtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3gからなる混合物を1時間かけて滴下し4時間保温した。80℃に冷却後、トリエチルアミン21g及び脱イオン水540gを順に添加して混合することにより、不揮発分35.0%、粘度450mPa・s、pH9.7、酸価30mgKOH/gのビニル変性エポキシ樹脂No.2水性物を得た。
【0080】
アクリル変性エポキシ樹脂水性物(比較例用)の製造
製造例3
攪拌機、冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応装置に、n−ブタノール850部を仕込み、窒素気流下で100℃に加熱し、その中に単量体混合物及び重合開始剤(メタクリル酸450部、スチレン450部、エチルアクリレート100部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート 40部の混合物)を3時間かけて滴下し、滴下後1時間熟成した。次いで、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート10部とn−ブタノール100部との混合溶液を30分間かけて滴下し、滴下後2時間熟成した。次いで、n−ブタノール933部、エチレングリコールモノブチルエーテル400部を加え、固形分30%のカルボキシル基含有アクリル樹脂No.1の溶液を得た。得られたアクリル樹脂No.1は酸価300mgKOH/g、重量平均分子量17000であった。
攪拌機、冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応装置に、jER828EL(ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ樹脂、エポキシ当量約190、数平均分子量約380)513部、ビスフェノールA 287部、テトラメチルアンモニウムクロライド0.3部及びメチルイソブチルケトメチルイソブチルケトン89部を仕込み、窒素気流下で140℃に加熱し、約4時間反応を行いエポキシ樹脂No.1の溶液を得た。得られたエポキシ樹脂No.1はエポキシ当量3700、数平均分子量約17000であった。
次いで、得られたエポキシ樹脂No.1の溶液に、上記固形分30%のカルボキシル基含有アクリル樹脂No.1の溶液を667部仕込み、90℃に加熱して均一に溶解させた後、同温度で脱イオン水40部を30分間かけて滴下し、次いでジメチルエタノールアミン30部を添加して1時間撹拌して反応を行った。
さらに、脱イオン水2380部を1時間かけて添加することにより、固形分25%のアクリル変性エポキシ樹脂No.1水性物を得た。得られたアクリル変性エポキシ樹脂No.1は、酸価48mgKOH/gであった。
チタン含有水性液の製造
製造例4
四塩化チタン60%水溶液5mlに、蒸留水を加えて500mlとした溶液にアンモニア水(アンモニア:水=1:9)を滴下して、水酸化チタンを沈殿させた。沈殿させた水酸化チタンを蒸留水で洗浄後、過酸化水素水30%水溶液を10ml添加して撹拌することにより、黄色半透明の粘性のある固形分10%のチタン含有水性液T1を得た。
【0081】
製造例5
テトラiso−プロポキシチタン10部とiso−プロパノール10部の混合物を30%過酸化水素水10部と脱イオン水100部の混合物中に20℃で1時間かけて撹拌しながら滴下した。その後25℃で2時間熟成することにより、黄色透明の少し粘性のある固形分10%のチタン含有水性液T2を得た。
【0082】
製造例6
製造例5において、テトラiso−プロポキシチタンの代わりにテトラn−ブトキシチタンを使用する以外は製造例5と同様にして製造することにより、固形分10%のチタン含有水性液T3を得た。
防錆剤(D)の製造
製造例7
ビーカーに、脱イオン水 163部、製造例4で得たチタン含有水性液T1 61部(固形分6部)、1−ヒドロキシメタンー1,1−ジホスホン酸水溶液 15部(固形分9部)、メタバナジン酸アンモニウム 1部及び炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液 260部(固形分33部)を攪拌しながら順に添加して混合し、次いで、80℃で2時間加熱し、その後、放冷することにより、固形分10%の防錆剤No.1を得た。
製造例8〜15
下記表1に示した原材料組成とする以外は、製造例7と同様にして、固形分10%の各防錆剤No.2〜9を得た。なお、防錆剤No.7〜9は、比較例用の防錆剤である。また、表1の組成は、固形分質量比である。
【0083】
【表1】

【0084】
金属防錆処理剤の製造
実施例1〜16及び比較例1〜8
下記表2及び表3に示す配合にて各原材料を攪拌機で十分に混合し、脱イオン水を加えて固形分を調整することにより、固形分10%の各金属防錆処理剤No.1〜No.24を製造した。なお、表2及び表3の組成は、固形分質量比である。
【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
なお、表2及び表3の(注1)〜(注5)については以下のとおりである。
水性ポリウレタン樹脂No.1(注1):アデカボンタイターHUX−232、ポリエステルポリオール系ウレタンポリマー(ポリエステル、脂環式ジイソシアネート、分子量30000以上、ADEKA社製 固形分30質量%)
水性ポリウレタン樹脂No.2(注2):X−7096、ポリエステルポリオール系ウレタンポリマー(ポリエステル、脂環式ジイソシアネート、分子量30000以上、日華化学社製 固形分36質量%)
水性アクリル樹脂No.1(注3):ボンコートSA−6340、シリコン変性アクリル共重合体エマルション、アニオン系乳化剤使用、固形分47質量%、DIC社製。
水性アクリル樹脂No.2(注4):JONCRYL−711、スチレンアクリル系ポリマーエマルション、アニオン系乳化剤使用、固形分42質量%、BASFジャパン社製。
水性アクリル樹脂No.3(注5):WKJ−234、シリコン変性アクリル共重合体エマルション、ノニオン系乳化剤使用、固形分24質量%、関西ペイント社製。
防錆処理鋼板の製造及び性能評価
実施例17
板厚0.5mmの55%Al−Znめっき鋼板に、2%CL−N364S(アルカリ脱脂剤、パーカーライジング社製)を60℃で30秒間スプレーして吹きつけ、さらに、50℃の上水を40秒間スプレーして吹きつけることにより湯洗を行なった。その後、エアブローして乾燥させることにより脱脂を行なった。
脱脂した上記Al−Znめっき鋼板に、バーコーターを用いて、乾燥膜厚が1〜2μmとなるように実施例1で得た金属防錆処理剤No.1を塗布した後、素材到達最高温度(PMT)が100℃となるようにして10秒間乾燥することにより防錆処理鋼板No.1を得た。
実施例18〜32及び比較例9〜16
実施例17と同様にして、下記表4及び表5で示した金属防錆処理剤No.2〜24を用いて、各防錆処理鋼板No.2〜24を得た。
性能試験及び性能評価
上記実施例17〜32及び比較例9〜16で得られた各防錆処理鋼板No.1〜24を試験板として、下記試験方法に従って塗膜性能試験を行った。試験結果を下記表4及び表5に併せて示す。なお、各試験結果において、○の評価レベルが、実用に耐えうる合格レベルであることを表わす。
【0088】
耐黒変性:試験板を沸騰水に1時間浸漬し、浸漬前と浸漬後のL値を色差計にて測定し、L値の差(ΔL)により以下の基準で評価した。ΔLが小さいほど良好である。
◎;ΔLが1未満、○;ΔLが1以上かつ2未満、△;ΔLが2以上かつ3未満、×;ΔLが3以上。
耐アルカリ性:試験板を20℃の20%水酸化ナトリウム水溶液に30秒間浸漬し、浸漬前と浸漬後のE値を色差計にて測定し、E値の差(ΔE)により以下の基準で評価した。ΔEが小さいほど良好である。
◎;ΔEが2未満、○;ΔEが2以上かつ3未満、△;ΔEが3以上かつ4未満、×;ΔEが4以上。
【0089】
耐食性:SST(JIS Z−2371 塩水噴霧試験法)250時間試験後の試験板の白錆の発生の程度(試験板における白錆発生部分面積の割合)を下記基準により評価した。
【0090】
◎:5%未満、○:5%以上、かつ10%未満、△:10%以上、かつ30%未満、×:30%以上。
促進耐侯性;QUV(JIS K5600−7−8)240時間試験し、試験前と試験後のE値を色差計にて測定し、E値の差(ΔE)により以下の基準で評価した。ΔEが小さいほど良好である。
◎;ΔEが2未満、○;ΔEが2以上かつ5未満、△;ΔEが5以上かつ8未満、×;ΔEが8以上。
耐熱性;試験板を乾燥機中で220℃10分間加熱し、加熱前と加熱後のb値を色差計を用いて測定し、b値の差(Δb)により以下の基準で評価した。Δbが小さいほど良好である。
◎;Δbが5未満、○;Δbが5以上かつ7未満、△;Δbが7以上かつ10未満、×;Δbが10以上。
【0091】
【表4】

【0092】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)、グリシジル基含有ビニルモノマー(a2)及びアミン化合物(a3)を反応させてなる重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(I−1)と、カルボキシル基含有ビニルモノマー(I−2)とを共重合させてなる共重合体(I)を、塩基性化合物により中和して水中に分散又は溶解せしめてなることを特徴とするビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性アクリル樹脂(C)及び防錆剤(D)を含有する表面処理剤であって、
防錆剤(D)が、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(d1)、有機リン酸化合物(d2)、メタバナジン酸塩(d3)及び炭酸ジルコニウム塩(d4)を含有し、
ビニル変性エポキシ樹脂水性物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性アクリル樹脂(C)及び防錆剤(D)の固形分総量に対して、防錆剤(D)の固形分が0.1〜20質量%であることを特徴とする金属防錆処理剤。
【請求項2】
防錆剤(D)が、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(d1)の固形分総量に対して、有機リン酸化合物(d2)50〜300質量%、メタバナジン酸塩(d3)1〜100質量%、及び炭酸ジルコニウム塩(d4)100〜1000質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の金属防錆処理剤。

【公開番号】特開2012−1785(P2012−1785A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139329(P2010−139329)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】