金微粒子とその製造方法、およびその用途
【課題】特定の有機物が吸着したロッド形状の金微粒子と、該金微粒子を目標部位へ集積させる方法とその応用技術を提供する。
【解決手段】分散媒に相溶する部位(A)と特定酵素で分解される基質ペプチド(B)を含有する有機物で修飾したナノサイズのロッド形状の金微粒子(金ナノロッド)、および、基質ペプチド(B)がプロテアーゼにより分解され、部位(A)がロッド形状の金微粒子から脱離し、プロテアーゼの発現している特定部位に該金微粒子を凝集させる方法、および該方法を利用した治療方法等。
【解決手段】分散媒に相溶する部位(A)と特定酵素で分解される基質ペプチド(B)を含有する有機物で修飾したナノサイズのロッド形状の金微粒子(金ナノロッド)、および、基質ペプチド(B)がプロテアーゼにより分解され、部位(A)がロッド形状の金微粒子から脱離し、プロテアーゼの発現している特定部位に該金微粒子を凝集させる方法、および該方法を利用した治療方法等。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散媒に相溶する部位(A)と特定酵素で分解される基質ペプチド(B)を含有する有機物によって修飾したナノサイズのロッド形状の金微粒子(金ナノロッド)と、その製造方法と、その集積方法、およびその用途に関する。
【0002】
本発明は、より具体的には、金ナノロッドへのリンカーである基質ペプチド部位が特定の酵素により分解されると、分散媒に相溶する部位が金ナノロッドから脱離して分散安定性が失われ、金ナノロッドが凝集することを利用した特定物質の検出方法と金ナノロッドの特定部位への集積方法などに関する。本発明の技術は、金ナノロッドが集積した部位のフォトサーマル治療やバイオイメージング、そして特定の酵素が存在する部位への薬物輸送方法として有用である。
【背景技術】
【0003】
溶媒中に分散した金属微粒子に光を照射すると局在表面プラズモン共鳴(Localized Surface Plasmon resonance:LSPR)と呼ばれる共鳴吸収現象が生じる。この吸収現象は金属の種類と形状、そして金属微粒子周囲における媒体の屈折率によって吸収波長が決定される。例えば、球状の金微粒子が水に分散した場合は530nm付近に吸収域を持ち、金微粒子の形状を短軸10nm程度のロッド状(金ナノロッド)にすると、ロッドの短軸に起因する530nm付近の吸収の他に、ロッドの長軸に起因する長波長側の吸収を有することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
これらの金属微粒子分散液は、低分子化合物や高分子化合物を保護剤として金属微粒子表面に吸着ないし結合させることによって、金属微粒子が凝集することなく安定に溶媒に分散させることができる。特に金ナノロッドは形状の変化や凝集状態変化、金ナノロッド周辺の環境によって分光特性が変化する特異な金微粒子であり(非特許文献2、3、4)、近赤外光をプローブとして用いる新しい分光分析の材料として可能性がある。
【0005】
金ナノロッドはアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が1より大きいロッド状のナノサイズの金微粒子であり、例えば、カチオン性界面活性剤である第四級アンモニウム塩のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)に溶解した水中で合成され、CTAB水溶液中の金イオンを化学還元、電気還元、光還元などによって合成することが可能であり、合成した金ナノロッドはCTABの保護作用によって水中で安定に分散している(特許文献1、2、3、4)。
【0006】
近年、金ナノロッドにアビジン−ビオチン、抗原−抗体などの相互作用による目的物質への特異的な吸着反応を利用した研究が報告されている(非特許文献5)。また、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)ゲルで埋包された金ナノロッドは、LSPRを利用した光熱変換により担持物質を放出可能であることが報告されている(非特許文献6)。また、酵素基質ペプチドの両端に脂質と水溶性高分子を結合した結合体を組み込んだコロイダルキャリアーに薬物を担持したドラッグデリバリーシステム(DDS)が報告されている(特許文献5)。また、貴金属微粒子のLSPRをセンシング分野へ応用した開発が行われている(非特許文献7、8、特許文献6)。
【0007】
非特許文献5によると、金ナノロッドを重量平均分子量14000のPSSで表面処理しておき、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)を標的とした抗体をPSS処理した金ナノロッドに吸着させており、抗体を介してがん細胞に金ナノロッドを取り込ませることによって、金ナノロッドの二光子発光によるがん細胞のイメージングが可能であることを報告している。
【0008】
非特許文献6の方法によると、金ナノロッドをNIPAMで埋包した微粒子に担持した物質の放出が報告されている。LSPRに相当する光を照射された金ナノロッドは光熱変換機能により周囲のNIPAMを加熱し、感熱性樹脂であるNIPAMは温度が上昇すると下限臨界共溶温度を境に親水性から疎水性に変化し、NIPAM中に担持された物質が水とともに放出されることを報告している。
【0009】
特許文献5によると、酵素基質ペプチドの両端に脂質と水溶性高分子を結合した結合体を組み込んだコロイダルキャリアーに薬物を担持しておき、疾患組織から特異的に分泌される酵素との特異的反応により酵素基質ペプチド部分が分解・切断されることで担持されている薬物が標的組織に放出されることを利用して、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を構築可能である。
【0010】
非特許文献7の方法によると、重量平均分子量5000のチオール末端ポリエチレングリコールで被覆した金ナノロッドを、アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理したガラス基板上に固定化し、メルカプトヘキサデカン酸とのカルボジイミド結合で捕捉物質となる抗体(rabbit IgG)を金ナノロッドに導入した分析用チップを作製しており、特異的に結合する抗体(goat antirabbit IgG)と、非特異的に結合する抗体(goat antimouse IgG)を接触させた場合における分析用チップの金ナノロッドによるLSPRの吸収スペクトルの変化を検出している。
【0011】
非特許文献8の方法によると、メルカプトプロピルトリエトキシシランで表面処理したガラスに金ナノロッドを固定化し、その基板をポリアリルアミン塩酸塩(PAH)とポリスチレンスルホン酸(PSS)を交互に10回ずつ、計20層のポリマー層で被覆した基板にビオチンを捕捉物質として修飾した分析用チップを作製しており、検出対象の標的物質であるストレプトアビジンと結合して生じた金ナノロッドによるLSPRの吸収スペクトルの変化を検出している。
【0012】
特許文献6によると、金属微粒子(直径10〜20nmの金微粒子)を任意の基板上に固定化したLSPRセンサーを検討しており、液体内に配置したLSPRセンサーに対して光を照射し、基板に固定された金属微粒子を透過した光の吸光度を測定することにより、基板に固定された金属微粒子近傍の媒質の屈折率を検出し、検出結果に応じてLSPRセンサーが配置された液体の屈折率を測定することが可能である。
【0013】
非特許文献9の方法によると、ビオチン、またはアビジンで修飾されたデキストラン被覆酸化鉄微粒子に、マトリクスメタロプロテアーゼの基質ペプチドを結合させ、酸化鉄と結合している基質ペプチドにポリエチレングリコールを導入し立体的な反発力で、ビオチンとアビジンの結合による酸化鉄微粒子の集合を抑止している。この基質ペプチドは、マトリクスメタロプロテアーゼの酵素反応により分解されると、ポリエチレングリコールが酸化鉄微粒子から脱離し、ビオチンとアビジンの結合で酸化鉄微粒子が集合することを利用して、MRIの造影能の変化を検討している。
【0014】
【非特許文献1】S.Link,M.B.Mohamed,M.A.El-Sayed,J.Phys.Chem.B,103,p3073(1999)
【非特許文献2】K.Honda,Y.Niidome,N.Nakashima,H.Kawazumi,S.Yamada,Chem.Lett.,35,p854(2006)
【非特許文献3】Y.Niidome,H.Takahashi,S.Urakawa,K.Nishioka,S.Yamada,Chem.Lett.,33,p454(2004)
【非特許文献4】S.Link,M.A.El-Sayed,J.Phys.Chem.B,109,p10531(2005)
【非特許文献5】N.J.Durr,T.Larson,D.K.Smith,B.A.Korgel,K.Sokolov,A.Ben-Yakar,Nano Letters,7,p941(2007)
【非特許文献6】A.Shiotami,T.Mori,T.Niidome,Y.Niidome,Y.Katayama,Langmuir,23,p4012 (2007)
【非特許文献7】K.M.Mayer,S.Lee,H.Liao,B.C.Rostro,A.Fuentes,P.T.Scully,C.L.Nehl,J.H.Hafner,ACS NANO,(2008)
【非特許文献8】S.M.Marinakos,S.Chen,A.Chilkoti,Anal.Chem.,79,p5278(2007)
【非特許文献9】T.J.Harris,G.von Maltzahn,A.M.Derfus,E.Ruoslahti,S.N.Bhatia,Angew.Chem.Int.Ed.,45,p3161(2006)
【特許文献1】特開2004−292627号公報
【特許文献2】特開2005−97718号公報
【特許文献3】特開2006−169544号公報
【特許文献4】特開2006−118036号公報
【特許文献5】WO2004/063216
【特許文献6】特開2000−356587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1〜4などの方法で合成された金ナノロッドはCTABに被覆された状態で水中に分散しているが、特定部位で凝集・集積する機能は有していない。
【0016】
非特許文献5は、金ナノロッドをPSSで表面処理後に抗体と結合させているが、金ナノロッドの二光子発光を測定するための処理方法であり、金ナノロッドのLSPRをセンシング技術やバイオイメージングに応用したものではない。
【0017】
非特許文献6の粒子は、NIPAM中の担持物質を輸送・放出することは可能であるが、標的組織を認識して担持物質を放出する機能は有していない。
【0018】
非特許文献7は、検出対象物質の捕捉により生じる金ナノロッド周囲の屈折率の変化に伴う吸収スペクトルの変化を検出原理とする分析用チップと分析方法であるが、分析用チップの作製には20回の高分子膜をコーティングする必要がある。また、分析用チップが標的物質を検出した場合の金ナノロッドによる吸収スペクトルの変化は最大吸収波長のシフト量が4nm未満であり検出感度は低い。非特許文献8も非特許文献7と同様に、検出対象物質の捕捉により生じる金ナノロッド周囲の屈折率の変化に伴う吸収スペクトルの変化を検出原理とする分析用チップと分析方法であるが、分析用チップの作製には煩雑な工程を必要とする。また、分析用チップが標的物質を検出した場合の金ナノロッドによる吸収スペクトルの変化は最大吸収波長のシフト量が10nm未満であり検出感度は低い。
【0019】
特許文献5は、標的組織に存在する酵素を認識して薬物を放出するDDSは構築可能であるが、薬物を放出した後はコロイダルキャリアーが分解されてしまうため伝達物質としての機能しかなく、標的組織に残存してマーカーとなる機能はなかった。また、特定物質を認識して変化を起こすセンシング素子としての機能はなかった。
【0020】
特許文献6の金微粒子は、球状金微粒子のLSPRを利用して、特定物質の吸着による微粒子近傍の媒質による屈折率の変化を吸光度で測定するセンシング技術に関するものであるが、金ナノロッドを使用したものではなく、測定に利用できる吸収波長域は球状金微粒子を使用しているため530nm付近と限られている。また、特許文献6の免疫センサー用デバイスは、高分子で被覆した金属薄膜の表面プラズモン共鳴を分析センサーに応用しているが、金属微粒子のLSPRの吸収波長を利用したものではない。
【0021】
非特許文献9の酸化鉄微粒子は、特定の酵素による基質ペプチドの分解とビオチン−アビジンによる結合を利用して酸化鉄微粒子を集合(凝集)させており、その酵素量や酸化鉄濃度の関係で磁気共鳴影像法(MRI)のT2緩和時間を調整する技術であり、金属微粒子の凝集で生ずるLSPRの大きな吸収スペクトル変化をセンシング技術やバイオイメージングに応用したものではない。
【0022】
本発明は従来の上記技術では知られていない金ナノロッドの新規技術を提供する。具体的には、基質ペプチドと分散媒に相溶する部位からなる有機物を吸着した金ナノロッドとその製造方法を提供するものであり、さらに金ナノロッドの凝集を利用した特定物質の検出と金ナノロッドの特定部位への集積方法、そして金ナノロッドを集積させた特定部位へのフォトサーマル治療、バイオイメージング、及び薬物伝達システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、以下に示す構成を有する金微粒子とその製造方法に関する。
〔1〕分散媒に相溶する部位(A)と、特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物によって修飾されているロッド形状の金微粒子であって、上記有機物が基質ペプチド(B)の部位をリンカーとして吸着していることを特徴とする金微粒子。
〔2〕分散媒に相溶する部位(A)の一方の末端が基質ペプチド(B)と反応する官能基を有し、基質ペプチド(B)の一方の末端が上記部位(A)の官能基と反応する一級アミンを有し、基質ペプチド(B)の他方の末端が金ナノロッドに吸着するチオール基を有する有機物によって修飾されている上記[1]の金微粒子。
〔3〕部位(A)が水溶性高分子である上記[1]または上記[2]の金微粒子。
〔4〕部位(A)が重合平均分子量40000以下のポリエチレングリコールである上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する金微粒子。
〔5〕基質ペプチド(B)がプロテアーゼの基質ペプチドである上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する金微粒子。
〔6〕基質ペプチド(B)が部位特異的に発現しているプロテアーゼにより分解される基質ペプチドである上記[5]に記載する金微粒子。
〔7〕基質ぺプチド(B)が病巣特異的に発現しているプロテアーゼにより分解される基質ペプチドである上記[5]に記載する金微粒子。
〔8〕基質ペプチド(B)が、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)基質ペプチド、マトリクスメタロプロテアーゼ基質ペプチドから選ばれる基質ペプチドである上記[5]に記載する金微粒子。
〔9〕基質ペプチド(B)が、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)または/およびマトリクスメタロプロテアーゼで分解されるトリプシン基質ペプチド、キモトリプシン基質ペプチドから選ばれる基質ペプチドである上記[5]に記載する金微粒子。
〔10〕長軸長さ400nm未満であってアスペクト比が1より大きく、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲である上記[1]〜上記[9]の何れかに記載する金微粒子。
〔11〕基質ペプチド(B)がプロテアーゼにより分解され、部位(A)がロッド形状の金微粒子から脱離し、プロテアーゼの発現している特定部位で該金微粒子が凝集する上記[1]〜上記[10]の何れかに記載する金微粒子。
〔12〕分散媒に相溶する部位(A)を含む有機物と、基質ペプチド(B)を含む有機物とを反応させて、部位(A)と基質ペプチド(B)を含む有機物を合成する工程、該有機物の基質ペプチド(B)をリンカーとしてロッド形状の金微粒子に吸着させる工程を有する表面修飾金微粒子の製造方法。
〔13〕両末端にメトキシ基とN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)を含むポリエチレングリコールと、一級アミンとチオール基を含むウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)基質ペプチドを、溶媒に溶解し、塩基を加えて攪拌し、反応させて、分散媒に相溶する部位(A)と特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物を合成し、該有機物によって金ナノロッドを表面処理する表面修飾金微粒子の製造方法。
【0024】
また、本発明は上記金微粒子を利用した集積方法、および該集積方法を利用した用途に関する。
〔14〕上記[11]に記載する凝集によって特定部位にロッド形状の金微粒子を集めることを特徴とする金微粒子の集積方法。
〔15〕部位(A)と基質ペプチド(B)を含む有機物のロッド形状の金微粒子への吸着量によって、特定部位に該金微粒子が凝集する時間を調整する上記[14]に記載する金微粒子の集積方法。
〔16〕上記[14]または上記[15]に記載する金微粒子の凝集によって生じる局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルの変化で特定物質を検出することを特徴とする特定物質の検出方法。
〔17〕上記[14]または上記[15]に記載する金微粒子の集積によって生じる局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルを観察することを特徴とするバイオイメージング。
〔18〕上記[14]または上記[15]に記載する集積方法によって生じる金微粒子の集積部位に、700〜2000nmの近赤外線を照射し、集積部位周辺の細胞を該金微粒子の光熱変換により発生した熱で死滅させることを特徴とするフォトサーマル治療。
〔19〕上記[14]または上記[15]に記載する集積方法によって生じる金微粒子の集積部位に、700〜2000nmの近赤外線を照射し、集積部位周辺の細胞を該金微粒子の光熱変換によって発生した熱で該金微粒子に担持させた薬物を放出させることを特徴とするドラッグデリバリーシステム(DDS)。
【発明の効果】
【0025】
本発明の金微粒子は、分散媒に相溶する部位と基質ペプチドを含有する有機物によって修飾され、基質ペプチドがリンカーとして金ナノロッドに吸着した金微粒子であり、特定の酵素によって基質ペプチドが分解されると、分散媒への相溶する部位が金ナノロッドから脱離するため、金ナノロッドの凝集が発生し、特定の酵素が存在する部位へ金ナノロッドを集積することができる。
【0026】
また、本発明の金微粒子は、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲の金ナノロッドを用いているので、凝集・集積によってLSPRの分光特性が変化することを利用して、基質ペプチドに対して基質特異的な酵素を検出することができる。
【0027】
さらに、金ナノロッドは光熱変換機能を有するので、金ナノロッドを集積させた部位周辺組織へのフォトサーマル治療、バイオイメージング、そしてドラックデリバリーシステムの構築が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、濃度の%は特に示さない限り質量%である。
【0029】
本発明の金微粒子は、分散媒に相溶する部位(A)と、特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物によって修飾されているロッド形状の金微粒子であって、上記有機物が基質ペプチド(B)の部位をリンカーとして吸着していることを特徴とする金微粒子である。
【0030】
本発明の集積方法は、上記金ナノロッドを修飾している有機物の分解を利用したものであり、酵素により基質ペプチドが分解され、分散媒へ相溶する部位が金ナノロッドから脱離するため、金ナノロッドの凝集が発生し、特定の酵素が存在する部位へ金ナノロッドを集積することを利用したものである。
【0031】
本発明の特定物質の検出方法は、上記金ナノロッドの集積方法を利用したものであり、金ナノロッドの凝集・集積によってLSPRの分光特性や散乱光強度が変化することを利用して、本発明の基質ペプチドに基質特異的な酵素を検出するものである。
【0032】
本発明のフォトサーマル治療は、上記金ナノロッドがLPSRに相当する光を吸収して熱に変換する光熱変換機能を利用し、該金ナノロッドが集積している部位周辺の細胞(がん細胞など)を発生した熱で死滅させるものである。本発明のDDSは、上記金ナノロッドに薬物を担持させて生体内に投与し、特定の酵素が存在する部位で金ナノロッドが集積するのを利用して特定部位に薬物を集中投与するシステムである。また、本発明のバイオイメージングは、上記金ナノロッドが集積している部位を金ナノロッドのLSPRを測定して画像化することによって確認するものである。なお、本発明における吸収スペクトルの変化とは、金ナノロッドの凝集に伴うLSPRの最大吸収波長の吸光度の低下や吸収スペクトル形状の変化を意味する。
【0033】
〔修飾有機物〕
金ナノロッドに吸着させる有機物は、分散媒に相溶する部位(A)、特定物質で分解される基質ペプチド(B)を含有する。
【0034】
分散媒に相溶する部位(A)としては水溶性高分子を用いることができる。また、基質ペプチド(B)としてはプロテアーゼの基質ペプチドを用いることができる。金ナノロッドとしては、長軸長さ400nm未満であってアスペクト比が1より大きく、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲の金ナノロッドが使用できる。
【0035】
金ナノロッドに吸着させる上記有機物において、部位(A)の水溶性高分子としては、水と相溶して金ナノロッドを分散媒中で安定に分散させることができるような水溶性高分子であれば制限なく使用でき、例えば、ポリエチレングリコール、セルロース、ポリアクリル酸などが挙げられる。以下では、ポリエチレングリコール(PEG)の例について説明する。
【0036】
部位(A)に使用するPEGとしては、重量平均分子量40000以下のPEGを使用することができる。PEGの分子量は、好ましくは、1000〜10000であり、分子量が1000より小さいと分散媒中での分散安定性が不足し、分子量が40000より大きいと酵素による基質ペプチドの分解が起こりにくくなる。
【0037】
本発明の部位(A)に使用するPEGの一方の末端は、基質ペプチド中の一級アミンと反応する官能基を有しており、官能基としては、一級アミンと反応するものであれば制限なく使用できる。特にN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)を末端に有するものは、基質ペプチドの一級アミンと安定なアミド結合を形成できるので好ましい。また、PEGのもう一方の末端は金と吸着を起こさない化学構造であるメトキシ基が好ましい。以下、末端に、NHSとメトキシ基を有するPEG(ME−PEG−NHS、実施例1の式[1]に相当)を例に説明する。
【0038】
本発明の金ナノロッドに吸着させる有機物において、部位(B)に使用する基質ペプチドとしては、プロテアーゼの基質ペプチドを制限なく使用することができる。プロテアーゼは、ペプチド結合を加水分解する酵素であり、一般にセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼに大別される。
【0039】
本発明に使用するセリンプロテアーゼには、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)、トリプシン、キモトリプシン、スブチリシン、エラスターゼ、スブチリシン、トロンビン、テルミターゼ、凝血因子Xa、プラスミン、ケキシン、プロテイナーゼK、カテプシン、チマーゼ、アクロシン、スクテラリン、オルリジン、カテプシン、メトリジン、ククミシン、プロリルオリゴぺプチターゼ、ブラキウリン、カリクレイン、セレビシン、ヒポデルミンC、ベノムビン、サブチリシン、テルモミコリン、フリン、ミロブラスチン、セメノゲラーゼ、グランザイム、ストレプトグラシン、トガビリン、フラビビリン、ラクトセピン、アセンビリン、セパシビリン、セバルモシン、シュードモナリシン、キサントモナリシン、フィサロリシン、ヘプシン、マトリプターゼなどが挙げられる。
【0040】
以下、基質ペプチドとして、セリンプロテアーゼの一種であるウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)の基質ペプチドを例に説明する。これはがん細胞で特異的に過剰発現している。また、このuPAの基質ペプチド(uPAsub)は、Fmoc固相合成法などによって合成することができる。
【0041】
本発明の基質ペプチドの一方の末端は、部位(A)の官能基と反応する一級アミンを有していればよい。基質ペプチドの他方の末端は、金ナノロッドに吸着するチオール基を有していればよい。チオール基は金と共有結合を形成するので、部位(A)と部位(B)を含む有機物は部位(B)のチオール末端から優先的に金ナノロッドに吸着する。
【0042】
以下、末端に、一級アミンとチオール基を有するuPAsub(H−uPAsub−Cys−NH2、実施例1の式[2]に相当)を例に説明する。
【0043】
〔修飾有機物の合成〕
分散媒に相溶する部位(A)を含む有機物と、基質ペプチド(B)を含む有機物とを反応させて、部位(A)と基質ペプチド(B)を含む有機物を合成することができる。具体的には、例えば、両末端にメトキシ基とNHSを含むポリエチレングリコール(ME−PEG−NHS)と、一級アミンとチオール基を含むウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター基質ペプチド(H−uPAsub−Cys−NH2)を、溶媒に溶解し、好ましくは塩基を加え、室温で攪拌すると、ME−PEG−NHSのNHSは、H−uPAsub−Cys−NH2の一級アミンとアミド結合を形成し、分散媒に相溶する部位(A)と特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物(PEG−uPAsub−Cys、実施例1の式[3]に相当)が得られる。
【0044】
合成に使用する溶媒としては、ME−PEG−NHSとH−uPAsub−Cys−NH2を溶解するものであれば際限なく使用でき、好ましくは、N、N−ジメチルホルムアミドを使用すればよい。また、塩基としては、反応を促進するものであればよく、好ましくは、N、N−ジイソプロピルエチルアミンを使用すればよい。
【0045】
〔金ナノロッド〕
本発明で使用する金ナノロッド(NRs)は、長軸の長さが400nm未満であって、アスペクト比が1より大きいロッド形状の金微粒子が好ましい。具体的には、LSPRの最大吸収波長が波長700〜2000nmの範囲内にあるアスペクト比の金ナノロッドが適当である。また金ナノロッドの長軸長さは200nm以下がより好ましい。長軸長さがこより長いと、金ナノロッドが沈降しやすくなる傾向があり、分散媒中での分散安定性が失われる。
【0046】
金ナノロッドは次式[I]で示される4級アンモニウム塩が溶解した水溶液中で金イ
オンを還元することによって合成することができる。例えば、n=15のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を使用することによって、CTABが表面に吸着した金ナノロッドを得ることができる。この金ナノロッドはCTABが吸着した状態で水中に安定に分散している。
CH3(CH2)nN+(CH3)3Br- (nは1〜15の整数) …[I]
【0047】
上記金ナノロッド水分散液は、水中に存在する余剰の界面活性剤CTABを除去して使用するとよい。具体的には、金ナノロッド水分散液を遠心分離して金ナノロッドを遠沈管の底に沈降させ、CTABを含む上澄みを除去する。沈降した金ナノロッドは水を添加して再分散させる。この操作を1〜3回繰り返すことによって余剰なCTABを除去することができる。なお、CTABを過剰に除去すると金ナノロッドが凝集して水に再分散しなくなる。
【0048】
〔表面処理〕
余剰のCTABを除去した金ナノロッド水分散液と、分散媒に相溶する部位(A)と特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物を混合して攪拌すると、部位(A)−部位(B)−金ナノロッドの構成を有する修飾金ナノロッドが得られる。例えば、金ナノロッド水分散液とPEG−uPAsub−Cysを混合し、室温で12時間攪拌すると、PEG−uPAsub−Cysのチオール基が金ナノロッドに吸着し、分散媒に相溶する部位(A)と特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物が吸着したPEG−uPAsub−Cys−NRsが得られる。
【0049】
PEG−uPAsub−Cys−NRsにおいて、PEG−uPAsub−Cysの吸着量は調整可能であり、金ナノロッド水分散液に対するPEG−uPAsub−Cysの添加量を調整すればよい。例えば、NRs(金原子として):PEG−uPAsub−Cys=10:1、10:2、10:5とPEG−uPAsubの添加量を増やした場合、金ナノロッドへのPEG−uPAsub−Cysの吸着量は増加する。
【0050】
PEG−uPAsub−Cys−NRsにおける部位(B)の基質ペプチドは、uPAの基質ペプチドであり、プロテアーゼにより分解される。例えば、PEG−uPAsub−Cys−NRsにおいて、プロテアーゼによりuPAsubが分解されると金ナノロッドからPEGが脱離し、金ナノロッドの分散安定性が失われ、分散媒中で金ナノロッドの凝集が起こる。金ナノロッドの凝集は、金ナノロッドのLSPRの分光特性の変化や、金ナノロッド分散液の色の変化(赤色から紫色へ変化)によって確認することができる。
【0051】
〔金ナノロッドの集積〕
上記有機物によって修飾された金ナノロッドは、基質ペプチド(B)がプロテアーゼにより分解されると、分散媒に相溶する部位(A)が金ナノロッドから脱離し、プロテアーゼの発現している特定部位に凝集する。この凝集を利用して金ナノロッドを特定部位に集積させることができる。この集積時間は上記有機物の吸着量によって調整することができる。
【0052】
また、基質ペプチドを分解する酵素の量は、金ナノロッドの凝集に関係する。例えば、uPAsubをトリプシンで分解する場合、PEGと金ナノロッドを切断するのに必要なトリプシンの量は、金が0.1mM含まれるPEG−uPAsub−Cys−NRsに対して、1nM以上であり、好ましくは、10〜1000nMである。トリプシンの量が1nMより少ないと、uPAsubの分解が不十分となり、金ナノロッドからPEGが十分に脱離せず、金ナノロッドの凝集が不完全となる。
【0053】
一定量のPEG−uPAsub−Cys−NRsに対するトリプシンの量が多くなると、uPAsubの分解速度が速くなり、金ナノロッドの凝集速度も速くなる。また、金ナノロッドへのPEG−uPAsub−Cysの吸着量を調整することにより、一定量のトリプシンによるuPAsub分解時間、すなわち、金ナノロッドの凝集が生じるまでの時間を調整することができる。PEG−uPAsub−Cysの吸着量が多いほど、uPAsubの分解時間が長くなるため、金ナノロッドの凝集が起こるまでの時間も長くなる。
【0054】
基質ペプチドの分解により凝集した金ナノロッドは、分解が起こった部位や溶液中で集積する。例えば、生体内の特定部位に存在する特定酵素により基質ペプチドが分解されると、特定酵素の存在する部位に金ナノロッドが集積する。
【0055】
〔検出方法・治療方法等〕
本発明に使用する金ナノロッドは、700〜2000nmにLSPRの吸収ピークを有しており、分散状態から凝集状態へ変化するとLSPRの分光特性が変化するため、特定酵素の検出や、特定酵素の存在する部位を検出することが可能である。この検出方法としては、金ナノロッドの吸収スペクトルの形状変化、吸光度の変化、散乱光強度の変化が挙げられる。特に波長800nm〜1200nmの近赤外光は水の吸収による影響が少なく(Near Infrared Window)、生体にも安全な波長域であり、生体外部から近赤外光を照射することによって、生体内に投与した金ナノロッドの分散状態や凝集状態による分光特性の変化を測定することが可能であり、近赤外光分析システムやバイオイメージングシステム(特定酵素部位の画像処理化など)を構築することができる。
【0056】
特定酵素の存在部位に集積させた金ナノロッドにLSPRに相当する光を照射すると、金ナノロッドの光熱変換機能により集積している部位周辺の温度が上昇する。特に、生体内で集積させた金ナノロッドに近赤外線を照射した場合、集積部位周辺の細胞(例えばがん細胞)を発生した熱で死滅させることが可能であり、金ナノロッド集積部位をフォトサーマル治療用のターゲットマーカーとして使用することができる。
【0057】
本発明の有機物で修飾した金ナノロッド(PEG−uPAsub−Cys−NRs)に薬物を担持させて、生体内に投与した場合、特定酵素の存在する部位で特異的に集積するため、薬物を効率よく輸送・放出することが可能である。例えば、uPAはがん細胞で過剰発現しており、投与されたPEG−uPAsub−Cys−NRsのuPAsubは、がん細胞部位のuPAにて分解されて、金ナノロッドが集積し薬物を集中投与可能となるため、PEG−uPAsub−Cys−NRsを薬物担持キャリアーとするDDSが構築可能である。特に、金は生体に安全な材料であり、キャリアーとして有用である。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。また、比較例を示す。なお、以下の実施例は、金ナノロッドの主に900nm付近の波長域におけるLSPRの吸収波長シフトを測定しているが、金ナノロッドのアスペクト比を変更することによって700〜2000nmまでの波長域についても同様の吸収波長のシフトを測定することができる。
【0059】
分光特性は日本分光株式会社製品のV−670で測定した。散乱光はMalverne社のZeta-sizer Nano-ZSで測定した。基質ペプチドを分解する酵素はプロテアーゼを制限なく使用できるが、実施例1〜7・比較例1〜3ではセリンプロテアーゼのひとつであるトリプシンを使用し、実施例8〜9ではセリンプロテアーゼのひとつであるuPAを使用した。
【0060】
〔uPA基質ペプチドの合成〕
Fmoc固相合成法により、基質ペプチド(H−uPAsub−Cys−NH2)を合成した。H−uPAsub−Cys−NH2:H−LGGSGRSANAILE−Cys−NH2(分子量1346、L:ロイシン、G:グリシン、S:セリン、R:アルギニン、A:アラニン、N:アスパラギン、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、Cys:システイン)。
【0061】
〔金ナノロッド水分散液の調製〕
400mMのCTAB水溶液中で合成された金ナノロッド水分散液を遠沈管に入れ、14000(×g)の相対遠心加速度(遠心加速度を地球の重力加速度で除したもの)で10分間遠心分離して金ナノロッドを遠沈管の底に沈降させた。上澄み液を別の遠沈管に入れ、沈降した金ナノロッドは水で再分散させた。別の遠沈管に入れた上澄み液は、再び14000(×g)で10分間遠心分離して金ナノロッドを沈降させ、この上澄み液を除去することにより余剰のCTABを除去した。沈降した金ナノロッドは水で再分散させ、前の再分散液と合わせて、金ナノロッド水分散液を得た。吸光度から金ナノロッド水分散液中の金原子濃度を求めた。
【0062】
〔実施例1〕
両末端にメトキシ基とN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)を含む式(1)のPEG(重合平均分子量5000、ME−PEG−NHS)25.1mg(4.64μmol)と一級アミンとチオール基を含む式(2)のuPAsub(H−uPAsub−Cys−NH2)12.5mg(9.28μmol)をN、N−ジメチルホルムアミド596μLに溶解し、塩基としてN、N−ジイソプロピルエチルアミン4μL(23.0μmol)を加え、これを室温で3日間攪拌した。攪拌終了後、分画分子量2000の透析膜を用いて水中にて3日間透析を行い、未反応のH−uPAsub−Cys−NH2を除去した。この結果、式[1]中のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)は、式[2]の一級アミンと反応してアミド結合を形成し、式[3]の化合物(PEG−uPAsub−Cys)が得られた。ME−PEG−NHSとH−uPAsub−Cys−NH2の結合は、MALDI−TOF−MSのマススペクトルで、反応後の質量ピークが増大することにより確認された(図1(A)ME−PEG−NHSのMALDI−TOF−MS、(B)PEG−uPAsub−CysのMALDI−TOF−MS)。
【0063】
【化1】
【0064】
【化2】
【0065】
【化3】
【0066】
〔実施例2〕
金原子とPEG−uPAsub−Cysの濃度比が10:1となるように、NRs水分散液とPEG−uPAsub−Cys水溶液を混合した(金原子濃度1mM)。これを室温で12時間攪拌し、PEG−uPAsub−Cysを金ナノロッドに吸着させた。攪拌終了後、14000(×g)で10分間遠心分離し金ナノロッドを沈降させ、上澄み液を除去し、水でNRsを再分散させた。この遠心分離操作を2回繰り返して余剰のPEG−uPAsub−Cysを除去した後、水でNRsを再分散させ、分散媒に相溶するPEGと、特定の酵素で分解される基質ペプチドuPAsubを含む有機物がuPAsubをリンカーとして吸着したNRs水分散液が得られた(PEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液)。得られたPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の分光特性を図2(A)に示す。NRsはPEG−uPAsub−Cysの吸着前後で、LSPRの分光特性に変化はなく、水中に安定に分散していることが分かる。また、PEG部位をリンタングステン酸により染色し、電子顕微鏡観察を行った結果、NRsの周囲に存在が確認された(図3(A))。
【0067】
〔実施例3〕
金原子とPEG−uPAsub−Cysの濃度比が5:1である以外は実施例2と同様にして、NRs水分散液を得た(PEG−uPAsub−Cys−NRs−2水分散液)。得られたPEG−uPAsub−Cys−NRs−2水分散液の分光特性を図2(B)に示す。また、PEG部位をリンタングステン酸により染色し、電子顕微鏡観察を行った結果、NRsの周囲に存在が確認され、コントラストが実施例2の場合より強く、PEG−uPAsub−Cysの添加量を増やすとNRsへの吸着量が増加することが確認された(図3(B))。
【0068】
〔実施例4〕
金原子とPEG−uPAsub−Cysの濃度比が2:1である以外は実施例2と同様にして、NRs水分散液を得た(PEG−uPAsub−Cys−NRs−3水分散液)。得られたPEG−uPAsub−Cys−NRs−3水分散液の分光特性を図2(c)に示す。また、PEG部位をリンタングステン酸により染色し、電子顕微鏡観察を行った結果、NRsの周囲に存在が確認され、コントラストが実施例3の場合より強く、PEG−uPAsub−Cysの添加量を増やすとNRsへの吸着量が増加することが確認された(図3(c))。
【0069】
〔実施例5〕
0.1mM(金原子濃度)のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1(実施例2のNRs水分散液)、100nMトリプシン、10mMCaCl2、50mMTris−HCl(pH8.0)になるように調製してトリプシンによる酵素反応を行った。この結果、PEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の色は、酵素反応前の赤色から、紫色に変化し、uPAsubが分解され、PEG部位はNRsより脱離し、NRsの水中での分散安定性が失われて凝集したことが確認された。図4に酵素反応(20℃で15分間)後のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液と、酵素なしで同条件においてインキュベーションしたサンプルの分光特性を示す。酵素トリプシンを添加した後は、NRsの凝集によりシャープな分光特性が無くなっている。図5に酵素反応(20℃)中のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率(任意反応時間での吸光度/反応開始時の吸光度×100%)を示す。酵素を添加後、NRsの凝集によって速やかに吸光度が減少することが確認された。図6に酵素反応(25℃)中のNRs水分散液中のNRsの散乱光強度を示す。酵素を添加後、NRsの凝集によって速やかに散乱光強度が増加することが確認された。酵素反応後のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1について電子顕微鏡観察を行った結果、NRsの凝集が確認された(図7)。
【0070】
〔実施例6〕
0.1mM(金原子濃度)のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1(実施例2のNRs水分散液)をそれぞれ25nM、50nM、75nMにし、100nMトリプシン、10mMCaCl2、50mMTris−HCl(pH8.0)になるように調製してトリプシンによる酵素反応を行った。この結果、どのトリプシン量の場合でも、PEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の色は、酵素反応前の赤色から、紫色に変化し、uPAsubが分解され、PEG部位はNRsより脱離し、NRsの水中での分散安定性が失われて凝集したことが確認された。図8に酵素反応(20℃)中のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率を示す。酵素を添加するとNRsの凝集により速やかに吸光度が減少することが確認された。図9に酵素反応(25℃)中のNRs水分散液中のNRsの散乱光強度を示す。酵素を添加するとNRsの凝集により速やかに散乱光強度が増加することが確認された。トリプシンの添加量が多いほど分光特性や散乱光強度は速く変化し、その変化量も大きいことが確認された。
【0071】
〔実施例7〕
0.1mM(金原子濃度)のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1〜3(実施例2のNRs水分散液、実施例3のNRs水分散液、実施例4のNRs水分散液)を用い、100nMトリプシン、10mMCaCl2、50mMTris−HCl(pH8.0)になるように調製してトリプシンによる酵素反応を行った。この結果、PEG−uPAsub−Cys−NRs−1〜3の水分散液の色は、酵素反応前の赤色から、紫色に変化し、uPAsubが分解され、PEG部位はNRsより脱離し、NRsの水中での分散安定性が失われて凝集したことが確認された。酵素反応(20℃で15分間)後のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1〜3の水分散液と酵素なしで同条件においてインキュベーションしたサンプルの分光特性を示す(PEG−uPAsub−Cys−NRs−1:図4、PEG−uPAsub−Cys−NRs−2:図10、PEG−uPAsub−Cys−NRs−3:図11)。それぞれ、酵素トリプシンを添加した後は、NRsの凝集によりシャープな分光特性が無くなっている。酵素反応(20℃)中のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率を示す(図12)。それぞれ、酵素を添加後、NRsの凝集により速やかに吸光度が減少することが確認された。酵素反応(25℃)中のNRs水分散液中のNRsの散乱光強度を示す(図13)。それぞれ、酵素を添加後、NRsの凝集により速やかに散乱光強度が増加することが確認された。分光特性、吸光度の経時変化率、そして散乱光強度について、PEG−uPAsub−Cysの吸着量の多いPEG−uPAsub−Cys−NRs−3が最も変化量が少なかったことより、PEG−uPAsub−Cysの吸着量により、NRsの凝集能を制御できることが確認できた。
【0072】
〔実施例8〕
金原子とPEG−uPAsub−Cysの濃度比が100:1となるように、NRs水分散液とPEG−uPAsub−Cys水溶液を混合した(金原子濃度1mM)。これを室温で12時間攪拌し、PEG−uPAsub−Cysを金ナノロッドに吸着させた。攪拌終了後、12000(×g)で10分間遠心分離し金ナノロッドを沈降させた。上澄み液を除去し、水でNRsを再分散させ、NRs水分散液を得た(PEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液)。得られたPEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液の分光特性を図17に示す。NRsはPEG−uPAsub−Cysの吸着前後で、LSPRの分光特性に変化はなく、水中に安定に分散していることが分かる。
【0073】
〔実施例9〕
0.1mM(金原子濃度)のPEG−uPAsub−Cys−NRs−4(実施例8のNRs水分散液)、556nMuPA、100mMNaCl、50mMTris−HCl(pH7.5)になるように調製してuPAによる酵素反応を行った。この結果、PEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液の色は、酵素反応前の赤色から、紫色に変化し、NRsの水中での分散安定性が失われて凝集したことが確認された。図18に酵素反応(20℃で1時間)後のPEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液と酵素なしで同条件においてインキュベーションしたサンプルの分光特性を示す。酵素uPAを添加した後は、NRsの凝集によりシャープな分光特性が無くなっている。図19に酵素反応(20℃)中のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率を示す。酵素を添加後、NRsの凝集により速やかに吸光度が減少することが確認された。
【0074】
〔比較例1〕
PEG−uPAsub−Cysの代わりに両末端がメトキシ基とチオール基であるPEG水溶液を用いた以外は実施例2と同様にして、金ナノロッド水分散液を得た(PEG−NRs−1水分散液)。得られたPEG−NRs−1水分散液の分光特性を図2(d)に示す。また、PEG部位をリンタングステン酸によって染色し、電子顕微鏡観察を行った結果、金ナノロッドの周囲に存在が確認された(図3(d))。
【0075】
〔比較例2〕
0.1mM(金原子濃度)のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1(実施例2のNRs水分散液)、10mMCaCl2、50mMTris−HCl(pH8.0)になるように混合した。この結果、uPAsubが分解されず、NRsは水中で安定に分散し、溶液の色は変化せず、凝集は観察されなかった。図8(トリプシン添加量0nMの場合)に混合(20℃)後のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率を示す。混合後、NRsの吸光度は変化しなかった。図9(トリプシン添加量0nMの場合)に混合(25℃)後のNRs水分散液中のNRsの散乱光強度を示す。混合後、NRsの散乱光強度は変化しなかった。これらの結果より、PEG−uPAsub−Cys−NRs−1は酵素によるuPAsub分解により、PEGがNRsより脱離して、NRsが凝集することが確認できた。
【0076】
〔比較例3〕
PEG−uPAsub−Cys−NRs−1の代わりに、比較例1で得られたPEG−NRs−1を使用する以外は、実施例5と同様に酵素反応を行った。結果、PEG−NRs−1水分散液の色は赤色のままであり、凝集は観察されなかった。図14に酵素反応(20℃で15分間)後のPEG−NRs−1水分散液と酵素なしで同条件においてインキュベーションしたサンプルの分光特性を示す。酵素トリプシンを添加した後も分光特性に変化は確認されなかった。図15に酵素反応(20℃)中のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率を示す。酵素を添加後も吸光度に変化は確認されなかった。図16に酵素反応(25℃)中のNRs水分散液中のNRsの散乱光強度を示す。酵素を添加後も散乱光強度に変化は確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(a)実施例1のME−PEG−NHSのMALDI−TOF−MS(マススペクトル図)(b)実施例1のPEG−uPAsub−CysのMALDI−TOF−MS(マススペクトル図)
【図2】(a)実施例2のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)(b)実施例3のPEG−uPAsub−Cys−NRs−2水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)(c)実施例4のPEG−uPAsub−Cys−NRs−3水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)(d)比較例1のPEG−NRs−1水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)
【図3】(a)実施例2のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1のTEM写真(b)実施例3のPEG−uPAsub−Cys−NRs−2のTEM写真(c)実施例4のPEG−uPAsub−Cys−NRs−3のTEM写真(d)比較例1のPEG−NRs−1のTEM写真
【図4】実施例5、実施例7のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)
【図5】実施例5のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の吸光度の経時変化率グラフ
【図6】実施例5のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1の散乱光強度グラフ
【図7】実施例5のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1のTEM写真
【図8】実施例6、比較例2のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の吸光度の経時変化率グラフ
【図9】実施例6、比較例2のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1の散乱光強度グラフ
【図10】実施例7のPEG−uPAsub−Cys−NRs−2水分散液の分光特性。(吸光スペクトル図)
【図11】実施例7のPEG−uPAsub−Cys−NRs−3水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)。
【図12】実施例7のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1〜3水分散液の吸光度の経時変化率グラフ
【図13】実施例7のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1〜3の散乱光強度グラフ
【図14】比較例3のPEG−NRs−1水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)
【図15】比較例3のPEG−NRs−1水分散液の吸光度の経時変化率グラフ
【図16】比較例3のPEG−NRs−1の散乱光強度グラフ
【図17】実施例8のPEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)
【図18】実施例9のPEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)
【図19】実施例9のPEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液の吸光度の経時変化率グラフ
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散媒に相溶する部位(A)と特定酵素で分解される基質ペプチド(B)を含有する有機物によって修飾したナノサイズのロッド形状の金微粒子(金ナノロッド)と、その製造方法と、その集積方法、およびその用途に関する。
【0002】
本発明は、より具体的には、金ナノロッドへのリンカーである基質ペプチド部位が特定の酵素により分解されると、分散媒に相溶する部位が金ナノロッドから脱離して分散安定性が失われ、金ナノロッドが凝集することを利用した特定物質の検出方法と金ナノロッドの特定部位への集積方法などに関する。本発明の技術は、金ナノロッドが集積した部位のフォトサーマル治療やバイオイメージング、そして特定の酵素が存在する部位への薬物輸送方法として有用である。
【背景技術】
【0003】
溶媒中に分散した金属微粒子に光を照射すると局在表面プラズモン共鳴(Localized Surface Plasmon resonance:LSPR)と呼ばれる共鳴吸収現象が生じる。この吸収現象は金属の種類と形状、そして金属微粒子周囲における媒体の屈折率によって吸収波長が決定される。例えば、球状の金微粒子が水に分散した場合は530nm付近に吸収域を持ち、金微粒子の形状を短軸10nm程度のロッド状(金ナノロッド)にすると、ロッドの短軸に起因する530nm付近の吸収の他に、ロッドの長軸に起因する長波長側の吸収を有することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
これらの金属微粒子分散液は、低分子化合物や高分子化合物を保護剤として金属微粒子表面に吸着ないし結合させることによって、金属微粒子が凝集することなく安定に溶媒に分散させることができる。特に金ナノロッドは形状の変化や凝集状態変化、金ナノロッド周辺の環境によって分光特性が変化する特異な金微粒子であり(非特許文献2、3、4)、近赤外光をプローブとして用いる新しい分光分析の材料として可能性がある。
【0005】
金ナノロッドはアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が1より大きいロッド状のナノサイズの金微粒子であり、例えば、カチオン性界面活性剤である第四級アンモニウム塩のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)に溶解した水中で合成され、CTAB水溶液中の金イオンを化学還元、電気還元、光還元などによって合成することが可能であり、合成した金ナノロッドはCTABの保護作用によって水中で安定に分散している(特許文献1、2、3、4)。
【0006】
近年、金ナノロッドにアビジン−ビオチン、抗原−抗体などの相互作用による目的物質への特異的な吸着反応を利用した研究が報告されている(非特許文献5)。また、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)ゲルで埋包された金ナノロッドは、LSPRを利用した光熱変換により担持物質を放出可能であることが報告されている(非特許文献6)。また、酵素基質ペプチドの両端に脂質と水溶性高分子を結合した結合体を組み込んだコロイダルキャリアーに薬物を担持したドラッグデリバリーシステム(DDS)が報告されている(特許文献5)。また、貴金属微粒子のLSPRをセンシング分野へ応用した開発が行われている(非特許文献7、8、特許文献6)。
【0007】
非特許文献5によると、金ナノロッドを重量平均分子量14000のPSSで表面処理しておき、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)を標的とした抗体をPSS処理した金ナノロッドに吸着させており、抗体を介してがん細胞に金ナノロッドを取り込ませることによって、金ナノロッドの二光子発光によるがん細胞のイメージングが可能であることを報告している。
【0008】
非特許文献6の方法によると、金ナノロッドをNIPAMで埋包した微粒子に担持した物質の放出が報告されている。LSPRに相当する光を照射された金ナノロッドは光熱変換機能により周囲のNIPAMを加熱し、感熱性樹脂であるNIPAMは温度が上昇すると下限臨界共溶温度を境に親水性から疎水性に変化し、NIPAM中に担持された物質が水とともに放出されることを報告している。
【0009】
特許文献5によると、酵素基質ペプチドの両端に脂質と水溶性高分子を結合した結合体を組み込んだコロイダルキャリアーに薬物を担持しておき、疾患組織から特異的に分泌される酵素との特異的反応により酵素基質ペプチド部分が分解・切断されることで担持されている薬物が標的組織に放出されることを利用して、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を構築可能である。
【0010】
非特許文献7の方法によると、重量平均分子量5000のチオール末端ポリエチレングリコールで被覆した金ナノロッドを、アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理したガラス基板上に固定化し、メルカプトヘキサデカン酸とのカルボジイミド結合で捕捉物質となる抗体(rabbit IgG)を金ナノロッドに導入した分析用チップを作製しており、特異的に結合する抗体(goat antirabbit IgG)と、非特異的に結合する抗体(goat antimouse IgG)を接触させた場合における分析用チップの金ナノロッドによるLSPRの吸収スペクトルの変化を検出している。
【0011】
非特許文献8の方法によると、メルカプトプロピルトリエトキシシランで表面処理したガラスに金ナノロッドを固定化し、その基板をポリアリルアミン塩酸塩(PAH)とポリスチレンスルホン酸(PSS)を交互に10回ずつ、計20層のポリマー層で被覆した基板にビオチンを捕捉物質として修飾した分析用チップを作製しており、検出対象の標的物質であるストレプトアビジンと結合して生じた金ナノロッドによるLSPRの吸収スペクトルの変化を検出している。
【0012】
特許文献6によると、金属微粒子(直径10〜20nmの金微粒子)を任意の基板上に固定化したLSPRセンサーを検討しており、液体内に配置したLSPRセンサーに対して光を照射し、基板に固定された金属微粒子を透過した光の吸光度を測定することにより、基板に固定された金属微粒子近傍の媒質の屈折率を検出し、検出結果に応じてLSPRセンサーが配置された液体の屈折率を測定することが可能である。
【0013】
非特許文献9の方法によると、ビオチン、またはアビジンで修飾されたデキストラン被覆酸化鉄微粒子に、マトリクスメタロプロテアーゼの基質ペプチドを結合させ、酸化鉄と結合している基質ペプチドにポリエチレングリコールを導入し立体的な反発力で、ビオチンとアビジンの結合による酸化鉄微粒子の集合を抑止している。この基質ペプチドは、マトリクスメタロプロテアーゼの酵素反応により分解されると、ポリエチレングリコールが酸化鉄微粒子から脱離し、ビオチンとアビジンの結合で酸化鉄微粒子が集合することを利用して、MRIの造影能の変化を検討している。
【0014】
【非特許文献1】S.Link,M.B.Mohamed,M.A.El-Sayed,J.Phys.Chem.B,103,p3073(1999)
【非特許文献2】K.Honda,Y.Niidome,N.Nakashima,H.Kawazumi,S.Yamada,Chem.Lett.,35,p854(2006)
【非特許文献3】Y.Niidome,H.Takahashi,S.Urakawa,K.Nishioka,S.Yamada,Chem.Lett.,33,p454(2004)
【非特許文献4】S.Link,M.A.El-Sayed,J.Phys.Chem.B,109,p10531(2005)
【非特許文献5】N.J.Durr,T.Larson,D.K.Smith,B.A.Korgel,K.Sokolov,A.Ben-Yakar,Nano Letters,7,p941(2007)
【非特許文献6】A.Shiotami,T.Mori,T.Niidome,Y.Niidome,Y.Katayama,Langmuir,23,p4012 (2007)
【非特許文献7】K.M.Mayer,S.Lee,H.Liao,B.C.Rostro,A.Fuentes,P.T.Scully,C.L.Nehl,J.H.Hafner,ACS NANO,(2008)
【非特許文献8】S.M.Marinakos,S.Chen,A.Chilkoti,Anal.Chem.,79,p5278(2007)
【非特許文献9】T.J.Harris,G.von Maltzahn,A.M.Derfus,E.Ruoslahti,S.N.Bhatia,Angew.Chem.Int.Ed.,45,p3161(2006)
【特許文献1】特開2004−292627号公報
【特許文献2】特開2005−97718号公報
【特許文献3】特開2006−169544号公報
【特許文献4】特開2006−118036号公報
【特許文献5】WO2004/063216
【特許文献6】特開2000−356587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1〜4などの方法で合成された金ナノロッドはCTABに被覆された状態で水中に分散しているが、特定部位で凝集・集積する機能は有していない。
【0016】
非特許文献5は、金ナノロッドをPSSで表面処理後に抗体と結合させているが、金ナノロッドの二光子発光を測定するための処理方法であり、金ナノロッドのLSPRをセンシング技術やバイオイメージングに応用したものではない。
【0017】
非特許文献6の粒子は、NIPAM中の担持物質を輸送・放出することは可能であるが、標的組織を認識して担持物質を放出する機能は有していない。
【0018】
非特許文献7は、検出対象物質の捕捉により生じる金ナノロッド周囲の屈折率の変化に伴う吸収スペクトルの変化を検出原理とする分析用チップと分析方法であるが、分析用チップの作製には20回の高分子膜をコーティングする必要がある。また、分析用チップが標的物質を検出した場合の金ナノロッドによる吸収スペクトルの変化は最大吸収波長のシフト量が4nm未満であり検出感度は低い。非特許文献8も非特許文献7と同様に、検出対象物質の捕捉により生じる金ナノロッド周囲の屈折率の変化に伴う吸収スペクトルの変化を検出原理とする分析用チップと分析方法であるが、分析用チップの作製には煩雑な工程を必要とする。また、分析用チップが標的物質を検出した場合の金ナノロッドによる吸収スペクトルの変化は最大吸収波長のシフト量が10nm未満であり検出感度は低い。
【0019】
特許文献5は、標的組織に存在する酵素を認識して薬物を放出するDDSは構築可能であるが、薬物を放出した後はコロイダルキャリアーが分解されてしまうため伝達物質としての機能しかなく、標的組織に残存してマーカーとなる機能はなかった。また、特定物質を認識して変化を起こすセンシング素子としての機能はなかった。
【0020】
特許文献6の金微粒子は、球状金微粒子のLSPRを利用して、特定物質の吸着による微粒子近傍の媒質による屈折率の変化を吸光度で測定するセンシング技術に関するものであるが、金ナノロッドを使用したものではなく、測定に利用できる吸収波長域は球状金微粒子を使用しているため530nm付近と限られている。また、特許文献6の免疫センサー用デバイスは、高分子で被覆した金属薄膜の表面プラズモン共鳴を分析センサーに応用しているが、金属微粒子のLSPRの吸収波長を利用したものではない。
【0021】
非特許文献9の酸化鉄微粒子は、特定の酵素による基質ペプチドの分解とビオチン−アビジンによる結合を利用して酸化鉄微粒子を集合(凝集)させており、その酵素量や酸化鉄濃度の関係で磁気共鳴影像法(MRI)のT2緩和時間を調整する技術であり、金属微粒子の凝集で生ずるLSPRの大きな吸収スペクトル変化をセンシング技術やバイオイメージングに応用したものではない。
【0022】
本発明は従来の上記技術では知られていない金ナノロッドの新規技術を提供する。具体的には、基質ペプチドと分散媒に相溶する部位からなる有機物を吸着した金ナノロッドとその製造方法を提供するものであり、さらに金ナノロッドの凝集を利用した特定物質の検出と金ナノロッドの特定部位への集積方法、そして金ナノロッドを集積させた特定部位へのフォトサーマル治療、バイオイメージング、及び薬物伝達システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、以下に示す構成を有する金微粒子とその製造方法に関する。
〔1〕分散媒に相溶する部位(A)と、特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物によって修飾されているロッド形状の金微粒子であって、上記有機物が基質ペプチド(B)の部位をリンカーとして吸着していることを特徴とする金微粒子。
〔2〕分散媒に相溶する部位(A)の一方の末端が基質ペプチド(B)と反応する官能基を有し、基質ペプチド(B)の一方の末端が上記部位(A)の官能基と反応する一級アミンを有し、基質ペプチド(B)の他方の末端が金ナノロッドに吸着するチオール基を有する有機物によって修飾されている上記[1]の金微粒子。
〔3〕部位(A)が水溶性高分子である上記[1]または上記[2]の金微粒子。
〔4〕部位(A)が重合平均分子量40000以下のポリエチレングリコールである上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する金微粒子。
〔5〕基質ペプチド(B)がプロテアーゼの基質ペプチドである上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する金微粒子。
〔6〕基質ペプチド(B)が部位特異的に発現しているプロテアーゼにより分解される基質ペプチドである上記[5]に記載する金微粒子。
〔7〕基質ぺプチド(B)が病巣特異的に発現しているプロテアーゼにより分解される基質ペプチドである上記[5]に記載する金微粒子。
〔8〕基質ペプチド(B)が、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)基質ペプチド、マトリクスメタロプロテアーゼ基質ペプチドから選ばれる基質ペプチドである上記[5]に記載する金微粒子。
〔9〕基質ペプチド(B)が、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)または/およびマトリクスメタロプロテアーゼで分解されるトリプシン基質ペプチド、キモトリプシン基質ペプチドから選ばれる基質ペプチドである上記[5]に記載する金微粒子。
〔10〕長軸長さ400nm未満であってアスペクト比が1より大きく、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲である上記[1]〜上記[9]の何れかに記載する金微粒子。
〔11〕基質ペプチド(B)がプロテアーゼにより分解され、部位(A)がロッド形状の金微粒子から脱離し、プロテアーゼの発現している特定部位で該金微粒子が凝集する上記[1]〜上記[10]の何れかに記載する金微粒子。
〔12〕分散媒に相溶する部位(A)を含む有機物と、基質ペプチド(B)を含む有機物とを反応させて、部位(A)と基質ペプチド(B)を含む有機物を合成する工程、該有機物の基質ペプチド(B)をリンカーとしてロッド形状の金微粒子に吸着させる工程を有する表面修飾金微粒子の製造方法。
〔13〕両末端にメトキシ基とN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)を含むポリエチレングリコールと、一級アミンとチオール基を含むウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)基質ペプチドを、溶媒に溶解し、塩基を加えて攪拌し、反応させて、分散媒に相溶する部位(A)と特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物を合成し、該有機物によって金ナノロッドを表面処理する表面修飾金微粒子の製造方法。
【0024】
また、本発明は上記金微粒子を利用した集積方法、および該集積方法を利用した用途に関する。
〔14〕上記[11]に記載する凝集によって特定部位にロッド形状の金微粒子を集めることを特徴とする金微粒子の集積方法。
〔15〕部位(A)と基質ペプチド(B)を含む有機物のロッド形状の金微粒子への吸着量によって、特定部位に該金微粒子が凝集する時間を調整する上記[14]に記載する金微粒子の集積方法。
〔16〕上記[14]または上記[15]に記載する金微粒子の凝集によって生じる局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルの変化で特定物質を検出することを特徴とする特定物質の検出方法。
〔17〕上記[14]または上記[15]に記載する金微粒子の集積によって生じる局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルを観察することを特徴とするバイオイメージング。
〔18〕上記[14]または上記[15]に記載する集積方法によって生じる金微粒子の集積部位に、700〜2000nmの近赤外線を照射し、集積部位周辺の細胞を該金微粒子の光熱変換により発生した熱で死滅させることを特徴とするフォトサーマル治療。
〔19〕上記[14]または上記[15]に記載する集積方法によって生じる金微粒子の集積部位に、700〜2000nmの近赤外線を照射し、集積部位周辺の細胞を該金微粒子の光熱変換によって発生した熱で該金微粒子に担持させた薬物を放出させることを特徴とするドラッグデリバリーシステム(DDS)。
【発明の効果】
【0025】
本発明の金微粒子は、分散媒に相溶する部位と基質ペプチドを含有する有機物によって修飾され、基質ペプチドがリンカーとして金ナノロッドに吸着した金微粒子であり、特定の酵素によって基質ペプチドが分解されると、分散媒への相溶する部位が金ナノロッドから脱離するため、金ナノロッドの凝集が発生し、特定の酵素が存在する部位へ金ナノロッドを集積することができる。
【0026】
また、本発明の金微粒子は、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲の金ナノロッドを用いているので、凝集・集積によってLSPRの分光特性が変化することを利用して、基質ペプチドに対して基質特異的な酵素を検出することができる。
【0027】
さらに、金ナノロッドは光熱変換機能を有するので、金ナノロッドを集積させた部位周辺組織へのフォトサーマル治療、バイオイメージング、そしてドラックデリバリーシステムの構築が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、濃度の%は特に示さない限り質量%である。
【0029】
本発明の金微粒子は、分散媒に相溶する部位(A)と、特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物によって修飾されているロッド形状の金微粒子であって、上記有機物が基質ペプチド(B)の部位をリンカーとして吸着していることを特徴とする金微粒子である。
【0030】
本発明の集積方法は、上記金ナノロッドを修飾している有機物の分解を利用したものであり、酵素により基質ペプチドが分解され、分散媒へ相溶する部位が金ナノロッドから脱離するため、金ナノロッドの凝集が発生し、特定の酵素が存在する部位へ金ナノロッドを集積することを利用したものである。
【0031】
本発明の特定物質の検出方法は、上記金ナノロッドの集積方法を利用したものであり、金ナノロッドの凝集・集積によってLSPRの分光特性や散乱光強度が変化することを利用して、本発明の基質ペプチドに基質特異的な酵素を検出するものである。
【0032】
本発明のフォトサーマル治療は、上記金ナノロッドがLPSRに相当する光を吸収して熱に変換する光熱変換機能を利用し、該金ナノロッドが集積している部位周辺の細胞(がん細胞など)を発生した熱で死滅させるものである。本発明のDDSは、上記金ナノロッドに薬物を担持させて生体内に投与し、特定の酵素が存在する部位で金ナノロッドが集積するのを利用して特定部位に薬物を集中投与するシステムである。また、本発明のバイオイメージングは、上記金ナノロッドが集積している部位を金ナノロッドのLSPRを測定して画像化することによって確認するものである。なお、本発明における吸収スペクトルの変化とは、金ナノロッドの凝集に伴うLSPRの最大吸収波長の吸光度の低下や吸収スペクトル形状の変化を意味する。
【0033】
〔修飾有機物〕
金ナノロッドに吸着させる有機物は、分散媒に相溶する部位(A)、特定物質で分解される基質ペプチド(B)を含有する。
【0034】
分散媒に相溶する部位(A)としては水溶性高分子を用いることができる。また、基質ペプチド(B)としてはプロテアーゼの基質ペプチドを用いることができる。金ナノロッドとしては、長軸長さ400nm未満であってアスペクト比が1より大きく、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲の金ナノロッドが使用できる。
【0035】
金ナノロッドに吸着させる上記有機物において、部位(A)の水溶性高分子としては、水と相溶して金ナノロッドを分散媒中で安定に分散させることができるような水溶性高分子であれば制限なく使用でき、例えば、ポリエチレングリコール、セルロース、ポリアクリル酸などが挙げられる。以下では、ポリエチレングリコール(PEG)の例について説明する。
【0036】
部位(A)に使用するPEGとしては、重量平均分子量40000以下のPEGを使用することができる。PEGの分子量は、好ましくは、1000〜10000であり、分子量が1000より小さいと分散媒中での分散安定性が不足し、分子量が40000より大きいと酵素による基質ペプチドの分解が起こりにくくなる。
【0037】
本発明の部位(A)に使用するPEGの一方の末端は、基質ペプチド中の一級アミンと反応する官能基を有しており、官能基としては、一級アミンと反応するものであれば制限なく使用できる。特にN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)を末端に有するものは、基質ペプチドの一級アミンと安定なアミド結合を形成できるので好ましい。また、PEGのもう一方の末端は金と吸着を起こさない化学構造であるメトキシ基が好ましい。以下、末端に、NHSとメトキシ基を有するPEG(ME−PEG−NHS、実施例1の式[1]に相当)を例に説明する。
【0038】
本発明の金ナノロッドに吸着させる有機物において、部位(B)に使用する基質ペプチドとしては、プロテアーゼの基質ペプチドを制限なく使用することができる。プロテアーゼは、ペプチド結合を加水分解する酵素であり、一般にセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼに大別される。
【0039】
本発明に使用するセリンプロテアーゼには、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)、トリプシン、キモトリプシン、スブチリシン、エラスターゼ、スブチリシン、トロンビン、テルミターゼ、凝血因子Xa、プラスミン、ケキシン、プロテイナーゼK、カテプシン、チマーゼ、アクロシン、スクテラリン、オルリジン、カテプシン、メトリジン、ククミシン、プロリルオリゴぺプチターゼ、ブラキウリン、カリクレイン、セレビシン、ヒポデルミンC、ベノムビン、サブチリシン、テルモミコリン、フリン、ミロブラスチン、セメノゲラーゼ、グランザイム、ストレプトグラシン、トガビリン、フラビビリン、ラクトセピン、アセンビリン、セパシビリン、セバルモシン、シュードモナリシン、キサントモナリシン、フィサロリシン、ヘプシン、マトリプターゼなどが挙げられる。
【0040】
以下、基質ペプチドとして、セリンプロテアーゼの一種であるウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)の基質ペプチドを例に説明する。これはがん細胞で特異的に過剰発現している。また、このuPAの基質ペプチド(uPAsub)は、Fmoc固相合成法などによって合成することができる。
【0041】
本発明の基質ペプチドの一方の末端は、部位(A)の官能基と反応する一級アミンを有していればよい。基質ペプチドの他方の末端は、金ナノロッドに吸着するチオール基を有していればよい。チオール基は金と共有結合を形成するので、部位(A)と部位(B)を含む有機物は部位(B)のチオール末端から優先的に金ナノロッドに吸着する。
【0042】
以下、末端に、一級アミンとチオール基を有するuPAsub(H−uPAsub−Cys−NH2、実施例1の式[2]に相当)を例に説明する。
【0043】
〔修飾有機物の合成〕
分散媒に相溶する部位(A)を含む有機物と、基質ペプチド(B)を含む有機物とを反応させて、部位(A)と基質ペプチド(B)を含む有機物を合成することができる。具体的には、例えば、両末端にメトキシ基とNHSを含むポリエチレングリコール(ME−PEG−NHS)と、一級アミンとチオール基を含むウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター基質ペプチド(H−uPAsub−Cys−NH2)を、溶媒に溶解し、好ましくは塩基を加え、室温で攪拌すると、ME−PEG−NHSのNHSは、H−uPAsub−Cys−NH2の一級アミンとアミド結合を形成し、分散媒に相溶する部位(A)と特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物(PEG−uPAsub−Cys、実施例1の式[3]に相当)が得られる。
【0044】
合成に使用する溶媒としては、ME−PEG−NHSとH−uPAsub−Cys−NH2を溶解するものであれば際限なく使用でき、好ましくは、N、N−ジメチルホルムアミドを使用すればよい。また、塩基としては、反応を促進するものであればよく、好ましくは、N、N−ジイソプロピルエチルアミンを使用すればよい。
【0045】
〔金ナノロッド〕
本発明で使用する金ナノロッド(NRs)は、長軸の長さが400nm未満であって、アスペクト比が1より大きいロッド形状の金微粒子が好ましい。具体的には、LSPRの最大吸収波長が波長700〜2000nmの範囲内にあるアスペクト比の金ナノロッドが適当である。また金ナノロッドの長軸長さは200nm以下がより好ましい。長軸長さがこより長いと、金ナノロッドが沈降しやすくなる傾向があり、分散媒中での分散安定性が失われる。
【0046】
金ナノロッドは次式[I]で示される4級アンモニウム塩が溶解した水溶液中で金イ
オンを還元することによって合成することができる。例えば、n=15のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を使用することによって、CTABが表面に吸着した金ナノロッドを得ることができる。この金ナノロッドはCTABが吸着した状態で水中に安定に分散している。
CH3(CH2)nN+(CH3)3Br- (nは1〜15の整数) …[I]
【0047】
上記金ナノロッド水分散液は、水中に存在する余剰の界面活性剤CTABを除去して使用するとよい。具体的には、金ナノロッド水分散液を遠心分離して金ナノロッドを遠沈管の底に沈降させ、CTABを含む上澄みを除去する。沈降した金ナノロッドは水を添加して再分散させる。この操作を1〜3回繰り返すことによって余剰なCTABを除去することができる。なお、CTABを過剰に除去すると金ナノロッドが凝集して水に再分散しなくなる。
【0048】
〔表面処理〕
余剰のCTABを除去した金ナノロッド水分散液と、分散媒に相溶する部位(A)と特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物を混合して攪拌すると、部位(A)−部位(B)−金ナノロッドの構成を有する修飾金ナノロッドが得られる。例えば、金ナノロッド水分散液とPEG−uPAsub−Cysを混合し、室温で12時間攪拌すると、PEG−uPAsub−Cysのチオール基が金ナノロッドに吸着し、分散媒に相溶する部位(A)と特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物が吸着したPEG−uPAsub−Cys−NRsが得られる。
【0049】
PEG−uPAsub−Cys−NRsにおいて、PEG−uPAsub−Cysの吸着量は調整可能であり、金ナノロッド水分散液に対するPEG−uPAsub−Cysの添加量を調整すればよい。例えば、NRs(金原子として):PEG−uPAsub−Cys=10:1、10:2、10:5とPEG−uPAsubの添加量を増やした場合、金ナノロッドへのPEG−uPAsub−Cysの吸着量は増加する。
【0050】
PEG−uPAsub−Cys−NRsにおける部位(B)の基質ペプチドは、uPAの基質ペプチドであり、プロテアーゼにより分解される。例えば、PEG−uPAsub−Cys−NRsにおいて、プロテアーゼによりuPAsubが分解されると金ナノロッドからPEGが脱離し、金ナノロッドの分散安定性が失われ、分散媒中で金ナノロッドの凝集が起こる。金ナノロッドの凝集は、金ナノロッドのLSPRの分光特性の変化や、金ナノロッド分散液の色の変化(赤色から紫色へ変化)によって確認することができる。
【0051】
〔金ナノロッドの集積〕
上記有機物によって修飾された金ナノロッドは、基質ペプチド(B)がプロテアーゼにより分解されると、分散媒に相溶する部位(A)が金ナノロッドから脱離し、プロテアーゼの発現している特定部位に凝集する。この凝集を利用して金ナノロッドを特定部位に集積させることができる。この集積時間は上記有機物の吸着量によって調整することができる。
【0052】
また、基質ペプチドを分解する酵素の量は、金ナノロッドの凝集に関係する。例えば、uPAsubをトリプシンで分解する場合、PEGと金ナノロッドを切断するのに必要なトリプシンの量は、金が0.1mM含まれるPEG−uPAsub−Cys−NRsに対して、1nM以上であり、好ましくは、10〜1000nMである。トリプシンの量が1nMより少ないと、uPAsubの分解が不十分となり、金ナノロッドからPEGが十分に脱離せず、金ナノロッドの凝集が不完全となる。
【0053】
一定量のPEG−uPAsub−Cys−NRsに対するトリプシンの量が多くなると、uPAsubの分解速度が速くなり、金ナノロッドの凝集速度も速くなる。また、金ナノロッドへのPEG−uPAsub−Cysの吸着量を調整することにより、一定量のトリプシンによるuPAsub分解時間、すなわち、金ナノロッドの凝集が生じるまでの時間を調整することができる。PEG−uPAsub−Cysの吸着量が多いほど、uPAsubの分解時間が長くなるため、金ナノロッドの凝集が起こるまでの時間も長くなる。
【0054】
基質ペプチドの分解により凝集した金ナノロッドは、分解が起こった部位や溶液中で集積する。例えば、生体内の特定部位に存在する特定酵素により基質ペプチドが分解されると、特定酵素の存在する部位に金ナノロッドが集積する。
【0055】
〔検出方法・治療方法等〕
本発明に使用する金ナノロッドは、700〜2000nmにLSPRの吸収ピークを有しており、分散状態から凝集状態へ変化するとLSPRの分光特性が変化するため、特定酵素の検出や、特定酵素の存在する部位を検出することが可能である。この検出方法としては、金ナノロッドの吸収スペクトルの形状変化、吸光度の変化、散乱光強度の変化が挙げられる。特に波長800nm〜1200nmの近赤外光は水の吸収による影響が少なく(Near Infrared Window)、生体にも安全な波長域であり、生体外部から近赤外光を照射することによって、生体内に投与した金ナノロッドの分散状態や凝集状態による分光特性の変化を測定することが可能であり、近赤外光分析システムやバイオイメージングシステム(特定酵素部位の画像処理化など)を構築することができる。
【0056】
特定酵素の存在部位に集積させた金ナノロッドにLSPRに相当する光を照射すると、金ナノロッドの光熱変換機能により集積している部位周辺の温度が上昇する。特に、生体内で集積させた金ナノロッドに近赤外線を照射した場合、集積部位周辺の細胞(例えばがん細胞)を発生した熱で死滅させることが可能であり、金ナノロッド集積部位をフォトサーマル治療用のターゲットマーカーとして使用することができる。
【0057】
本発明の有機物で修飾した金ナノロッド(PEG−uPAsub−Cys−NRs)に薬物を担持させて、生体内に投与した場合、特定酵素の存在する部位で特異的に集積するため、薬物を効率よく輸送・放出することが可能である。例えば、uPAはがん細胞で過剰発現しており、投与されたPEG−uPAsub−Cys−NRsのuPAsubは、がん細胞部位のuPAにて分解されて、金ナノロッドが集積し薬物を集中投与可能となるため、PEG−uPAsub−Cys−NRsを薬物担持キャリアーとするDDSが構築可能である。特に、金は生体に安全な材料であり、キャリアーとして有用である。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。また、比較例を示す。なお、以下の実施例は、金ナノロッドの主に900nm付近の波長域におけるLSPRの吸収波長シフトを測定しているが、金ナノロッドのアスペクト比を変更することによって700〜2000nmまでの波長域についても同様の吸収波長のシフトを測定することができる。
【0059】
分光特性は日本分光株式会社製品のV−670で測定した。散乱光はMalverne社のZeta-sizer Nano-ZSで測定した。基質ペプチドを分解する酵素はプロテアーゼを制限なく使用できるが、実施例1〜7・比較例1〜3ではセリンプロテアーゼのひとつであるトリプシンを使用し、実施例8〜9ではセリンプロテアーゼのひとつであるuPAを使用した。
【0060】
〔uPA基質ペプチドの合成〕
Fmoc固相合成法により、基質ペプチド(H−uPAsub−Cys−NH2)を合成した。H−uPAsub−Cys−NH2:H−LGGSGRSANAILE−Cys−NH2(分子量1346、L:ロイシン、G:グリシン、S:セリン、R:アルギニン、A:アラニン、N:アスパラギン、I:イソロイシン、E:グルタミン酸、Cys:システイン)。
【0061】
〔金ナノロッド水分散液の調製〕
400mMのCTAB水溶液中で合成された金ナノロッド水分散液を遠沈管に入れ、14000(×g)の相対遠心加速度(遠心加速度を地球の重力加速度で除したもの)で10分間遠心分離して金ナノロッドを遠沈管の底に沈降させた。上澄み液を別の遠沈管に入れ、沈降した金ナノロッドは水で再分散させた。別の遠沈管に入れた上澄み液は、再び14000(×g)で10分間遠心分離して金ナノロッドを沈降させ、この上澄み液を除去することにより余剰のCTABを除去した。沈降した金ナノロッドは水で再分散させ、前の再分散液と合わせて、金ナノロッド水分散液を得た。吸光度から金ナノロッド水分散液中の金原子濃度を求めた。
【0062】
〔実施例1〕
両末端にメトキシ基とN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)を含む式(1)のPEG(重合平均分子量5000、ME−PEG−NHS)25.1mg(4.64μmol)と一級アミンとチオール基を含む式(2)のuPAsub(H−uPAsub−Cys−NH2)12.5mg(9.28μmol)をN、N−ジメチルホルムアミド596μLに溶解し、塩基としてN、N−ジイソプロピルエチルアミン4μL(23.0μmol)を加え、これを室温で3日間攪拌した。攪拌終了後、分画分子量2000の透析膜を用いて水中にて3日間透析を行い、未反応のH−uPAsub−Cys−NH2を除去した。この結果、式[1]中のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)は、式[2]の一級アミンと反応してアミド結合を形成し、式[3]の化合物(PEG−uPAsub−Cys)が得られた。ME−PEG−NHSとH−uPAsub−Cys−NH2の結合は、MALDI−TOF−MSのマススペクトルで、反応後の質量ピークが増大することにより確認された(図1(A)ME−PEG−NHSのMALDI−TOF−MS、(B)PEG−uPAsub−CysのMALDI−TOF−MS)。
【0063】
【化1】
【0064】
【化2】
【0065】
【化3】
【0066】
〔実施例2〕
金原子とPEG−uPAsub−Cysの濃度比が10:1となるように、NRs水分散液とPEG−uPAsub−Cys水溶液を混合した(金原子濃度1mM)。これを室温で12時間攪拌し、PEG−uPAsub−Cysを金ナノロッドに吸着させた。攪拌終了後、14000(×g)で10分間遠心分離し金ナノロッドを沈降させ、上澄み液を除去し、水でNRsを再分散させた。この遠心分離操作を2回繰り返して余剰のPEG−uPAsub−Cysを除去した後、水でNRsを再分散させ、分散媒に相溶するPEGと、特定の酵素で分解される基質ペプチドuPAsubを含む有機物がuPAsubをリンカーとして吸着したNRs水分散液が得られた(PEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液)。得られたPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の分光特性を図2(A)に示す。NRsはPEG−uPAsub−Cysの吸着前後で、LSPRの分光特性に変化はなく、水中に安定に分散していることが分かる。また、PEG部位をリンタングステン酸により染色し、電子顕微鏡観察を行った結果、NRsの周囲に存在が確認された(図3(A))。
【0067】
〔実施例3〕
金原子とPEG−uPAsub−Cysの濃度比が5:1である以外は実施例2と同様にして、NRs水分散液を得た(PEG−uPAsub−Cys−NRs−2水分散液)。得られたPEG−uPAsub−Cys−NRs−2水分散液の分光特性を図2(B)に示す。また、PEG部位をリンタングステン酸により染色し、電子顕微鏡観察を行った結果、NRsの周囲に存在が確認され、コントラストが実施例2の場合より強く、PEG−uPAsub−Cysの添加量を増やすとNRsへの吸着量が増加することが確認された(図3(B))。
【0068】
〔実施例4〕
金原子とPEG−uPAsub−Cysの濃度比が2:1である以外は実施例2と同様にして、NRs水分散液を得た(PEG−uPAsub−Cys−NRs−3水分散液)。得られたPEG−uPAsub−Cys−NRs−3水分散液の分光特性を図2(c)に示す。また、PEG部位をリンタングステン酸により染色し、電子顕微鏡観察を行った結果、NRsの周囲に存在が確認され、コントラストが実施例3の場合より強く、PEG−uPAsub−Cysの添加量を増やすとNRsへの吸着量が増加することが確認された(図3(c))。
【0069】
〔実施例5〕
0.1mM(金原子濃度)のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1(実施例2のNRs水分散液)、100nMトリプシン、10mMCaCl2、50mMTris−HCl(pH8.0)になるように調製してトリプシンによる酵素反応を行った。この結果、PEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の色は、酵素反応前の赤色から、紫色に変化し、uPAsubが分解され、PEG部位はNRsより脱離し、NRsの水中での分散安定性が失われて凝集したことが確認された。図4に酵素反応(20℃で15分間)後のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液と、酵素なしで同条件においてインキュベーションしたサンプルの分光特性を示す。酵素トリプシンを添加した後は、NRsの凝集によりシャープな分光特性が無くなっている。図5に酵素反応(20℃)中のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率(任意反応時間での吸光度/反応開始時の吸光度×100%)を示す。酵素を添加後、NRsの凝集によって速やかに吸光度が減少することが確認された。図6に酵素反応(25℃)中のNRs水分散液中のNRsの散乱光強度を示す。酵素を添加後、NRsの凝集によって速やかに散乱光強度が増加することが確認された。酵素反応後のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1について電子顕微鏡観察を行った結果、NRsの凝集が確認された(図7)。
【0070】
〔実施例6〕
0.1mM(金原子濃度)のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1(実施例2のNRs水分散液)をそれぞれ25nM、50nM、75nMにし、100nMトリプシン、10mMCaCl2、50mMTris−HCl(pH8.0)になるように調製してトリプシンによる酵素反応を行った。この結果、どのトリプシン量の場合でも、PEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の色は、酵素反応前の赤色から、紫色に変化し、uPAsubが分解され、PEG部位はNRsより脱離し、NRsの水中での分散安定性が失われて凝集したことが確認された。図8に酵素反応(20℃)中のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率を示す。酵素を添加するとNRsの凝集により速やかに吸光度が減少することが確認された。図9に酵素反応(25℃)中のNRs水分散液中のNRsの散乱光強度を示す。酵素を添加するとNRsの凝集により速やかに散乱光強度が増加することが確認された。トリプシンの添加量が多いほど分光特性や散乱光強度は速く変化し、その変化量も大きいことが確認された。
【0071】
〔実施例7〕
0.1mM(金原子濃度)のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1〜3(実施例2のNRs水分散液、実施例3のNRs水分散液、実施例4のNRs水分散液)を用い、100nMトリプシン、10mMCaCl2、50mMTris−HCl(pH8.0)になるように調製してトリプシンによる酵素反応を行った。この結果、PEG−uPAsub−Cys−NRs−1〜3の水分散液の色は、酵素反応前の赤色から、紫色に変化し、uPAsubが分解され、PEG部位はNRsより脱離し、NRsの水中での分散安定性が失われて凝集したことが確認された。酵素反応(20℃で15分間)後のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1〜3の水分散液と酵素なしで同条件においてインキュベーションしたサンプルの分光特性を示す(PEG−uPAsub−Cys−NRs−1:図4、PEG−uPAsub−Cys−NRs−2:図10、PEG−uPAsub−Cys−NRs−3:図11)。それぞれ、酵素トリプシンを添加した後は、NRsの凝集によりシャープな分光特性が無くなっている。酵素反応(20℃)中のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率を示す(図12)。それぞれ、酵素を添加後、NRsの凝集により速やかに吸光度が減少することが確認された。酵素反応(25℃)中のNRs水分散液中のNRsの散乱光強度を示す(図13)。それぞれ、酵素を添加後、NRsの凝集により速やかに散乱光強度が増加することが確認された。分光特性、吸光度の経時変化率、そして散乱光強度について、PEG−uPAsub−Cysの吸着量の多いPEG−uPAsub−Cys−NRs−3が最も変化量が少なかったことより、PEG−uPAsub−Cysの吸着量により、NRsの凝集能を制御できることが確認できた。
【0072】
〔実施例8〕
金原子とPEG−uPAsub−Cysの濃度比が100:1となるように、NRs水分散液とPEG−uPAsub−Cys水溶液を混合した(金原子濃度1mM)。これを室温で12時間攪拌し、PEG−uPAsub−Cysを金ナノロッドに吸着させた。攪拌終了後、12000(×g)で10分間遠心分離し金ナノロッドを沈降させた。上澄み液を除去し、水でNRsを再分散させ、NRs水分散液を得た(PEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液)。得られたPEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液の分光特性を図17に示す。NRsはPEG−uPAsub−Cysの吸着前後で、LSPRの分光特性に変化はなく、水中に安定に分散していることが分かる。
【0073】
〔実施例9〕
0.1mM(金原子濃度)のPEG−uPAsub−Cys−NRs−4(実施例8のNRs水分散液)、556nMuPA、100mMNaCl、50mMTris−HCl(pH7.5)になるように調製してuPAによる酵素反応を行った。この結果、PEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液の色は、酵素反応前の赤色から、紫色に変化し、NRsの水中での分散安定性が失われて凝集したことが確認された。図18に酵素反応(20℃で1時間)後のPEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液と酵素なしで同条件においてインキュベーションしたサンプルの分光特性を示す。酵素uPAを添加した後は、NRsの凝集によりシャープな分光特性が無くなっている。図19に酵素反応(20℃)中のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率を示す。酵素を添加後、NRsの凝集により速やかに吸光度が減少することが確認された。
【0074】
〔比較例1〕
PEG−uPAsub−Cysの代わりに両末端がメトキシ基とチオール基であるPEG水溶液を用いた以外は実施例2と同様にして、金ナノロッド水分散液を得た(PEG−NRs−1水分散液)。得られたPEG−NRs−1水分散液の分光特性を図2(d)に示す。また、PEG部位をリンタングステン酸によって染色し、電子顕微鏡観察を行った結果、金ナノロッドの周囲に存在が確認された(図3(d))。
【0075】
〔比較例2〕
0.1mM(金原子濃度)のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1(実施例2のNRs水分散液)、10mMCaCl2、50mMTris−HCl(pH8.0)になるように混合した。この結果、uPAsubが分解されず、NRsは水中で安定に分散し、溶液の色は変化せず、凝集は観察されなかった。図8(トリプシン添加量0nMの場合)に混合(20℃)後のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率を示す。混合後、NRsの吸光度は変化しなかった。図9(トリプシン添加量0nMの場合)に混合(25℃)後のNRs水分散液中のNRsの散乱光強度を示す。混合後、NRsの散乱光強度は変化しなかった。これらの結果より、PEG−uPAsub−Cys−NRs−1は酵素によるuPAsub分解により、PEGがNRsより脱離して、NRsが凝集することが確認できた。
【0076】
〔比較例3〕
PEG−uPAsub−Cys−NRs−1の代わりに、比較例1で得られたPEG−NRs−1を使用する以外は、実施例5と同様に酵素反応を行った。結果、PEG−NRs−1水分散液の色は赤色のままであり、凝集は観察されなかった。図14に酵素反応(20℃で15分間)後のPEG−NRs−1水分散液と酵素なしで同条件においてインキュベーションしたサンプルの分光特性を示す。酵素トリプシンを添加した後も分光特性に変化は確認されなかった。図15に酵素反応(20℃)中のNRs水分散液の分光特性で測定波長900nmにおけるNRsの吸光度の経時変化率を示す。酵素を添加後も吸光度に変化は確認されなかった。図16に酵素反応(25℃)中のNRs水分散液中のNRsの散乱光強度を示す。酵素を添加後も散乱光強度に変化は確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(a)実施例1のME−PEG−NHSのMALDI−TOF−MS(マススペクトル図)(b)実施例1のPEG−uPAsub−CysのMALDI−TOF−MS(マススペクトル図)
【図2】(a)実施例2のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)(b)実施例3のPEG−uPAsub−Cys−NRs−2水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)(c)実施例4のPEG−uPAsub−Cys−NRs−3水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)(d)比較例1のPEG−NRs−1水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)
【図3】(a)実施例2のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1のTEM写真(b)実施例3のPEG−uPAsub−Cys−NRs−2のTEM写真(c)実施例4のPEG−uPAsub−Cys−NRs−3のTEM写真(d)比較例1のPEG−NRs−1のTEM写真
【図4】実施例5、実施例7のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)
【図5】実施例5のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の吸光度の経時変化率グラフ
【図6】実施例5のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1の散乱光強度グラフ
【図7】実施例5のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1のTEM写真
【図8】実施例6、比較例2のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1水分散液の吸光度の経時変化率グラフ
【図9】実施例6、比較例2のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1の散乱光強度グラフ
【図10】実施例7のPEG−uPAsub−Cys−NRs−2水分散液の分光特性。(吸光スペクトル図)
【図11】実施例7のPEG−uPAsub−Cys−NRs−3水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)。
【図12】実施例7のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1〜3水分散液の吸光度の経時変化率グラフ
【図13】実施例7のPEG−uPAsub−Cys−NRs−1〜3の散乱光強度グラフ
【図14】比較例3のPEG−NRs−1水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)
【図15】比較例3のPEG−NRs−1水分散液の吸光度の経時変化率グラフ
【図16】比較例3のPEG−NRs−1の散乱光強度グラフ
【図17】実施例8のPEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)
【図18】実施例9のPEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液の分光特性(吸光スペクトル図)
【図19】実施例9のPEG−uPAsub−Cys−NRs−4水分散液の吸光度の経時変化率グラフ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒に相溶する部位(A)と、特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物によって修飾されているロッド形状の金微粒子であって、上記有機物が基質ペプチド(B)の部位をリンカーとして吸着していることを特徴とする金微粒子。
【請求項2】
分散媒に相溶する部位(A)の一方の末端が基質ペプチド(B)と反応する官能基を有し、基質ペプチド(B)の一方の末端が上記部位(A)の官能基と反応する一級アミンを有し、基質ペプチド(B)の他方の末端が金ナノロッドに吸着するチオール基を有する有機物によって修飾されている請求項1の金微粒子。
【請求項3】
部位(A)が水溶性高分子である請求項1または請求項2の金微粒子。
【請求項4】
部位(A)が重合平均分子量40000以下のポリエチレングリコールである請求項1〜請求項3の何れかに記載する金微粒子。
【請求項5】
基質ペプチド(B)がプロテアーゼの基質ペプチドである請求項1〜4の何れかに記載する金微粒子。
【請求項6】
基質ペプチド(B)が部位特異的に発現しているプロテアーゼにより分解される基質ペプチドである請求項5に記載する金微粒子。
【請求項7】
基質ぺプチド(B)が病巣特異的に発現しているプロテアーゼにより分解される基質ペプチドである請求項5に記載する金微粒子。
【請求項8】
基質ペプチド(B)が、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)基質ペプチド、マトリクスメタロプロテアーゼ基質ペプチドから選ばれる基質ペプチドである請求項5に記載する金微粒子。
【請求項9】
基質ペプチド(B)が、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)または/およびマトリクスメタロプロテアーゼで分解されるトリプシン基質ペプチド、キモトリプシン基質ペプチドから選ばれる基質ペプチドである請求項5に記載する金微粒子。
【請求項10】
長軸長さ400nm未満であってアスペクト比が1より大きく、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲である請求項1〜9の何れかに記載する金微粒子。
【請求項11】
基質ペプチド(B)がプロテアーゼにより分解され、部位(A)がロッド形状の金微粒子から脱離し、プロテアーゼの発現している特定部位で該金微粒子が凝集する請求項1〜10の何れかに記載する金微粒子。
【請求項12】
分散媒に相溶する部位(A)を含む有機物と、基質ペプチド(B)を含む有機物とを反応させて、部位(A)と基質ペプチド(B)を含む有機物を合成する工程、該有機物の基質ペプチド(B)をリンカーとしてロッド形状の金微粒子に吸着させる工程を有する表面修飾金微粒子の製造方法。
【請求項13】
両末端にメトキシ基とN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)を含むポリエチレングリコールと、一級アミンとチオール基を含むウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)基質ペプチドを、溶媒に溶解し、塩基を加えて攪拌し、反応させて、分散媒に相溶する部位(A)と特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物を合成し、該有機物によって金ナノロッドを表面処理する表面修飾金微粒子の製造方法。
【請求項14】
請求項11に記載する凝集によって特定部位にロッド形状の金微粒子を集めることを特徴とする金微粒子の集積方法。
【請求項15】
部位(A)と基質ペプチド(B)を含む有機物のロッド形状の金微粒子への吸着量によって、特定部位に該金微粒子が凝集する時間を調整する請求項14に記載する金微粒子の集積方法。
【請求項16】
請求項14または請求項15に記載する金微粒子の凝集によって生じる局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルの変化で特定物質を検出することを特徴とする特定物質の検出方法。
【請求項17】
請求項14または請求項15に記載する金微粒子の集積によって生じる局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルを観察することを特徴とするバイオイメージング。
【請求項18】
請求項14または15に記載する集積方法によって生じる金微粒子の集積部位に、700〜2000nmの近赤外線を照射し、集積部位周辺の細胞を該金微粒子の光熱変換により発生した熱で死滅させることを特徴とするフォトサーマル治療。
【請求項19】
請求項14または15に記載する集積方法によって生じる金微粒子の集積部位に、700〜2000nmの近赤外線を照射し、集積部位周辺の細胞を該金微粒子の光熱変換によって発生した熱で該金微粒子に担持させた薬物を放出させることを特徴とするドラッグデリバリーシステム(DDS)。
【請求項1】
分散媒に相溶する部位(A)と、特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物によって修飾されているロッド形状の金微粒子であって、上記有機物が基質ペプチド(B)の部位をリンカーとして吸着していることを特徴とする金微粒子。
【請求項2】
分散媒に相溶する部位(A)の一方の末端が基質ペプチド(B)と反応する官能基を有し、基質ペプチド(B)の一方の末端が上記部位(A)の官能基と反応する一級アミンを有し、基質ペプチド(B)の他方の末端が金ナノロッドに吸着するチオール基を有する有機物によって修飾されている請求項1の金微粒子。
【請求項3】
部位(A)が水溶性高分子である請求項1または請求項2の金微粒子。
【請求項4】
部位(A)が重合平均分子量40000以下のポリエチレングリコールである請求項1〜請求項3の何れかに記載する金微粒子。
【請求項5】
基質ペプチド(B)がプロテアーゼの基質ペプチドである請求項1〜4の何れかに記載する金微粒子。
【請求項6】
基質ペプチド(B)が部位特異的に発現しているプロテアーゼにより分解される基質ペプチドである請求項5に記載する金微粒子。
【請求項7】
基質ぺプチド(B)が病巣特異的に発現しているプロテアーゼにより分解される基質ペプチドである請求項5に記載する金微粒子。
【請求項8】
基質ペプチド(B)が、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)基質ペプチド、マトリクスメタロプロテアーゼ基質ペプチドから選ばれる基質ペプチドである請求項5に記載する金微粒子。
【請求項9】
基質ペプチド(B)が、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)または/およびマトリクスメタロプロテアーゼで分解されるトリプシン基質ペプチド、キモトリプシン基質ペプチドから選ばれる基質ペプチドである請求項5に記載する金微粒子。
【請求項10】
長軸長さ400nm未満であってアスペクト比が1より大きく、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲である請求項1〜9の何れかに記載する金微粒子。
【請求項11】
基質ペプチド(B)がプロテアーゼにより分解され、部位(A)がロッド形状の金微粒子から脱離し、プロテアーゼの発現している特定部位で該金微粒子が凝集する請求項1〜10の何れかに記載する金微粒子。
【請求項12】
分散媒に相溶する部位(A)を含む有機物と、基質ペプチド(B)を含む有機物とを反応させて、部位(A)と基質ペプチド(B)を含む有機物を合成する工程、該有機物の基質ペプチド(B)をリンカーとしてロッド形状の金微粒子に吸着させる工程を有する表面修飾金微粒子の製造方法。
【請求項13】
両末端にメトキシ基とN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)を含むポリエチレングリコールと、一級アミンとチオール基を含むウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)基質ペプチドを、溶媒に溶解し、塩基を加えて攪拌し、反応させて、分散媒に相溶する部位(A)と特定の酵素で分解される基質ペプチド(B)を含む有機物を合成し、該有機物によって金ナノロッドを表面処理する表面修飾金微粒子の製造方法。
【請求項14】
請求項11に記載する凝集によって特定部位にロッド形状の金微粒子を集めることを特徴とする金微粒子の集積方法。
【請求項15】
部位(A)と基質ペプチド(B)を含む有機物のロッド形状の金微粒子への吸着量によって、特定部位に該金微粒子が凝集する時間を調整する請求項14に記載する金微粒子の集積方法。
【請求項16】
請求項14または請求項15に記載する金微粒子の凝集によって生じる局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルの変化で特定物質を検出することを特徴とする特定物質の検出方法。
【請求項17】
請求項14または請求項15に記載する金微粒子の集積によって生じる局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルを観察することを特徴とするバイオイメージング。
【請求項18】
請求項14または15に記載する集積方法によって生じる金微粒子の集積部位に、700〜2000nmの近赤外線を照射し、集積部位周辺の細胞を該金微粒子の光熱変換により発生した熱で死滅させることを特徴とするフォトサーマル治療。
【請求項19】
請求項14または15に記載する集積方法によって生じる金微粒子の集積部位に、700〜2000nmの近赤外線を照射し、集積部位周辺の細胞を該金微粒子の光熱変換によって発生した熱で該金微粒子に担持させた薬物を放出させることを特徴とするドラッグデリバリーシステム(DDS)。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図3】
【図7】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図3】
【図7】
【公開番号】特開2010−7169(P2010−7169A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171300(P2008−171300)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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