説明

針一体型バイオセンサー

【課題】少なくとも2枚の電極が設けられたバイオセンサーと、被検体の皮膚を突き刺して体液を採取するための穿刺針とが一体となって構成されたバイオセンサーにおいて、穿刺針の保護カバーなどを必要とせずに穿刺針を衛生的に保つことを可能とする針一体型バイオセンサーを提供する。
【解決手段】少なくとも2枚の電気絶縁性の基板、これらに挟まれた空間に設置されたスペーサーおよび電極からなるバイオセンサーと、該バイオセンサー内に被検体の皮膚を突き刺して体液を採取するための穿刺針とが一体となって構成されたバイオセンサーにおいて、穿刺針と測定試料が導入される電極反応部とが隔壁部によって隔離されている針一体型バイオセンサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針一体型バイオセンサーに関する。さらに詳しくは、皮膚を突き刺して血液を得るための穿刺針と、皮膚の表面に取り出された体液を採取し、分析するためのバイオセンサーとを一体化した構成を有する針一体型バイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、糖尿病患者自らが採血して血中のグルコース値である血糖値を測定する場合がある。この場合、患者は採血針を着脱するランセットと称される採血器具を用い、自分の指先や腕などに採血針を刺して採血し、採血した血液を血糖値分析計に移して血糖値を測定している。このような測定方式では、患者は血糖値分析器、ランセット、採血針および分析素子といった数点からなる測定器具の一式を携帯所持し、必要時にそれらを組み合わせて測定しなければならず、操作法も長い訓練を要し、確実な測定を患者自身で行うことができるようになるまでかなりの時間を要する。実際に、指先、前腕以外の部位(腹壁、耳たぶ等)での測定は、熟練者ですら困難である。また、近年においては、より痛みの少ない低侵襲検体供給のニーズから、検体量が1μl以下で測定可能なバイオセンサーが開発されており、このような極微量な場合、またバイオセンサーへの検体を正確に供給する作業は非常に困難になる。その結果、測定の失敗を招き、被測定者である患者は再度穿刺して、またバイオセンサーも交換し、測定をやり直さなければならないという不都合がある。
【特許文献1】特開平9−266898号公報
【特許文献2】特公平8−20412号公報
【0003】
そこで、いくつかの針一体型バイオセンサーが考え出された。まず、特許文献3に示された針一体型バイオセンサーでは、穿刺針の駆動部を備えたペン型(2色ボールペン様)の測定装置の内部に、穿刺針とバイオセンサーがそれぞれ別の位置にセットされており、ペン様の測定装置の先端部を被検体の皮膚にあてて、穿刺した後、バイオセンサーを先端部に露出させ、採血を行なうことで血糖測定が行なわれる。しかし、この方法では、針およびバイオセンサーを測定装置にそれぞれセットするという煩わしさは解消されていない。
【特許文献3】特開2000−217804号公報
【0004】
また、特許文献4で示された針一体型バイオセンサーでは、穿刺針を外部の駆動に委ねるものであり、穿刺針が細長い小片状のバイオセンサーの長手方向に沿って平行に移動する一体構造をとっている。しかし、このタイプでは穿刺針がバイオセンサーから露出するため、穿刺針の先端を保護するカバーが必要であり、さらに穿刺針がバイオセンサーの採血搬送路および試薬層を移動するため、穿刺針が被検体の皮膚を突き刺す前に、穿刺針の表面が試薬で汚染される危険性がある。
【特許文献4】再公表2002−056769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、少なくとも2枚の電極が設けられたバイオセンサーと、被検体の皮膚を突き刺して体液を採取するための穿刺針とが一体となって構成されたバイオセンサーにおいて、穿刺針の保護カバーなどを必要とせずに穿刺針を衛生的に保つことを可能とする針一体型バイオセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、少なくとも2枚の電気絶縁性の基板、これらに挟まれた空間に設置されたスペーサーおよび電極からなるバイオセンサーと、該バイオセンサー内に被検体の皮膚を突き刺して体液を採取するための穿刺針とが一体となって構成されたバイオセンサーにおいて、穿刺針と測定試料が導入される電極反応部とが隔壁部によって隔離されている針一体型バイオセンサーによって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る針一体型バイオセンサーは、穿刺針の先端部分が隔壁部によって電極反応部と隔離されているため、使用時まで穿刺針を衛生的に保つといった優れた効果を奏する。かかる構成により、穿刺針は穿刺時にのみ電極反応部を通過することとなるため、電極反応部に試薬層が設けられている場合にあっては、穿刺針が試薬層雰囲気下に保存されることがないため、保存中における試薬による汚染も有効に防止することができる。
【0008】
また、隔壁部をブラシ状の形状とした場合には、穿刺針の貫通後に、再び隔壁部が形成されることにより隔壁部の貫通穴が塞がれるため、電極反応部以外への試料液の流れ込みを防ぐことができる。これにより、必要以上の体液の採取を行わずに測定が可能となるため、測定試料の少試料化を図ることができる。さらに、かかる構成よりなる針一体型バイオセンサーは、穿刺針の保護カバーなどの部材を必要としないため、操作性にも優れるとともに、製造コストの削減をも達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
基板としては、電気絶縁性のものであれば足り、例えばプラスチック、生分解性材料、紙などが用いられ、好ましくはポリエチレンテレフタレートが用いられる。
【0010】
電極は、基板上にスクリーン印刷法、蒸着法、スパッタリング法、箔貼り付け法、メッキ法などにより形成され、その材料としては、カーボン、銀、銀/塩化銀、白金、金、ニッケル、銅、パラジウム、チタン、イリジウム、鉛、酸化錫、白金黒などが挙げられる。ここで、カーボンとしては、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイル、カーボンナノホーン、フラーレン、デンドリマーもしくはそれらの誘導体を用いることができる。
【0011】
電極は、作用極と対極で形成される2極法または作用極と対極、参照極で形成される3極法、あるいはそれ以上の極数の電極法であってもよい。ここで、3極法を採用すると、測定対象物質の電気化学測定の他に、搬送路内に導入される採血の移動速度の計測ができ、これによりヘマトクリット値が測定できる。また、2組以上の電極系で構成されていても良い。
【0012】
これらの電極は、1枚の基板上にまとめて、あるいは2枚の基板上に分かれて形成されるが、試料体積を少なくする観点からは、電極は2枚の基板上に相対して配置される対面構造、具体的には2枚の基板表面上に形成した電極をレジスト層や接着剤層などからなるスペーサーを挟んでなる対面構造が好ましい。これにより、電気化学反応が効率よく進み、電極間距離および電極面積の縮小などにより反応層の容積を効果的に少量化できるため、結果として少試料化を測ることが出来る。
【0013】
電極が形成された基板上には、主に電極反応部に試薬層を形成することができる。試薬層はスクリーン印刷法またはデスペンサー法により形成され、この試薬層の電極表面または基板表面への固定化は、乾燥を伴う吸着法または共有結合法により行うことができる。バイオセンサーの電極反応部に配置する試薬としては、例えば血糖値測定用に構成する場合、酸化酵素であるグルコースオキシターゼおよびメディエータとしてのフェリシアン化カリウムを含むものが挙げられる。試薬が血液によって溶解されると、酵素反応が開始される結果、反応層に共存させているフェリシアン化カリウムが還元され、還元型の電子伝達体であるフェロシアン化カリウムが蓄積される。その量は、基質濃度、すなわち血液中のグルコース濃度に比例する。一定時間蓄積された還元型の電子伝達体は、電気化学反応により酸化される。後述する測定装置本体内の電子回路は、このとき測定される陽極電流から、グルコース濃度(血糖値)を演算・決定し、本体表面に配置された表示部に表示する。
【0014】
また、採血口の周辺、電極あるいは電極反応部(試薬層)表面に界面活性剤、脂質を塗布することができる。界面活性剤や脂質の塗布により、試料の移動を円滑にさせることが可能となる。
【0015】
以上の採血が満たされる電極上に試薬層が設けられたバイオセンサーは、採血口から送り込まれる採血が電極上の試薬層と接触することにより、採血と試薬とが反応する。この反応は、電極における電気的な変化としてモニタリングされる。
【0016】
さらに、バイオセンサーは電極がレジスト層により規定されていてもよく、このレジスト層もスクリーン印刷などで容易に形成できる。この場合のレジストも接着剤と同様、基板と反応あるいは溶解しないものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線硬化型のビニル・アクリル系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂などが挙げられる。レジストの使用の目的は主に電極パターンを明確にし、上記の電極面積の規定をはっきりさせる以外にも、試薬層が存在しない試料搬送路を絶縁するなどの目的がある。そのため、レジスト層は接着剤層と同様のパターンを形成しても、形成しなくてもどちらでもよい。後者の場合、レジスト層は絶縁のために電極基板上に形成させるのが好ましい。さらに、このレジスト層は本発明の針一体型バイオセンサーの穿刺針が収まっている試料搬送路内における電極よりも厚く設けることで、穿刺針と電極との接触を抑えることができる。かかるレジスト層も、スクリーン印刷法により形成することが可能であり、例えば上記のいずれかの材料により約5〜500μm、好ましくは約10〜100μmの厚さで形成されるレジスト層はスペーサーとしても作用する。
【0017】
2枚の基板は、アクリル樹脂系接着剤などの接着剤を介して接着されてバイオセンサーを構成する。かかる接着剤層も、スクリーン印刷法により形成することが可能であり、約5〜500μm、好ましくは約10〜100μmの厚さで形成され、かかる接着剤層はレジスト層同様スペーサーとしても作用する。なお、接着剤層中に上記試薬を含有させることもできる。接着剤層はレジスト層と同様のパターンあるいは異なるパターンのいずれであってもよい。
【0018】
また、穿刺針を配置した以上の構成よりなる基板は、接続部に沿って折畳むことにより、折畳み成形体としてのバイオセンサーを製造することもできる。接続部としては、その長さがスペーサーの厚さ以上、すなわち0.5〜4mm、好ましくは1.0〜3.0mmのものが、好ましくは2枚の基板間に少なくとも2箇所以上設けられる。このような接続部は、絶縁性基板に、0.5〜0.9mm程度の長さであれば、例えば歯車状の薄い円盤であって、その凸部が刃となっているものを用いて、破線状のミシン目として形成され、また1〜4mm程度の長さの接続部については、絶縁性基板を型で打ち抜くことによりヒンジ成形される。ここで、1〜4mm程度の長さの接続部とした場合には、折畳み部分を熱圧着したり固定具を使って固定して反り返しを防ぐといった必要がない。このような折り畳み成形体であるバイオセンサーであれば、長大な基板の長軸方向に水平となるように折畳み線としての接続部を設け、さらに電極等を形成したうえで接続部に沿って折りたたんだ後、センサー形状に打ち抜くことにより、一度に大量のバイオセンサーを製造できる。このような製造方法により作製される針一体型バイオセンサーは、再現性も大変に良くなり、従来の積層法によっては成しえなかった特長を有している。
【0019】
被検体の皮膚から体液を採取するための穿刺針については、隔壁部を貫通して、また、吸引機構を備えた場合には試料採血口に設けた軟質材料をも貫通して、さらに被検体を穿刺する必要があるため、これに耐え得る強度を持ち、鋭利であることが望ましく、また穿刺時の痛みを抑えるために、細い穿刺針であることが好ましい。具体的には、テルモ社製で、21〜33ゲージのものが用いられる。穿刺針は被検体の皮膚を突き破ることができれば中空針であっても棒状針でも良い。さらに、穿刺針は使用されるまでバイオセンサー内に衛生的に収納されている必要があることから、抗菌・抗ウィルスに効果がある光触媒機能を針の先端表面に付与させても良い。その場合、酸化チタンまたは二酸化チタンの膜が望ましい。
【0020】
バイオセンサー内には、被検体の皮膚を突き刺して体液を採取するための穿刺針が配置される。穿刺針は、穿刺時に電極に対して平行、直交などいかなる配置とすることも可能であるが、好ましくは穿刺時に電極と直交する状態で配置される。穿刺針を電極と直交する状態で配置した場合には、測定用端子が穿刺針の軌道から外れた位置に配置されることで針一体型バイオセンサーの形状が穿刺針を中心線として左右非対称となるため、使用者にとってはそれが目印となって測定装置への挿入を左右誤らずにすみ、測定装置も本発明の針一体型バイオセンサーの測定用端子の位置を特定するための機構を備えることができる。
【0021】
隔壁部は、穿刺針の先端が電極反応部(試薬層)から隔てられるようにバイオセンサー内部に配置される。この隔壁部の形状としては、ブラシ状、膜状またはブロック状など、好ましくはブラシ状のものが挙げられる。かかる隔壁部に用いられる材料は、ブラシ状の形状となるものとしては、ナイロン、ポリブチレンテレフタレートなどの高分子材料が、膜状あるいはブロック状の形状となるものとしては、寒天などのゲル、人工皮膚に代表される弾性材料または発泡性材料などの軟質材料または穿刺抵抗が少ない紙などの繊維質などが挙げられ、好ましくは滅菌が可能なものが用いられる。滅菌方法としては、エタノール滅菌、乾熱滅菌、オートクレーブ、紫外線、ガンマ線などが用いられ、例えばオートクレーブによる滅菌を行った寒天が、冷却後であってゲル化する前に隔壁部に適用される。さらに隔壁部には、抗菌作用を付与することもできる。抗菌作用のある材料としては銅や銀などの金属が知られており、これらの金属を軟質材料に少量含ませるか、またはこれらの金属を隔壁部材料の表面に真空蒸着法またはスパッタリング法により付着させることで抗菌作用を持った隔壁部を得ることができる。隔壁部は、穿刺針が穿刺駆動を受けることにより、被検体の皮膚を突き破るまでの工程においては、穿刺針の表面に付着しないことおよびその破片などが採血に混入しないことが必要であるため、バイオセンサーの少なくとも一部分、例えば基板上にアクリル系接着剤などを用いて固定される。
【0022】
隔壁部の形状がブラシ状である場合には、例えば歯ブラシのように、各々の毛の長さが統一され、等間隔かつ密集するように毛の根本が接着剤によって固定されているものが用いられる。この接着により、毛先の反対部分である毛の根本が接着剤層となり、これを試薬層と穿刺針の先端を隔てる隔壁部として貼り付けることができる。この場合、ブラシの配置の方法についていくつか挙げられる。例えば、ブラシの長さがバイオセンサー内部の基板間の距離とほぼ同じ場合、どちらか片方の基板のみあるいは毛先にも接着剤層を設けて両基板にブラシの接着剤層を貼り付ければよく、ブラシの長さがバイオセンサー内部の基板間の距離の約半分程度である場合には双方の基板にブラシの接着剤層を貼り付けることにより、ブラシ先端が対面となるようにブラシが配置される。両端を固定されているブラシにあっては、毛は元の状態に戻りやすいという特徴があり、ブラシ先端が向き合うように配置されたブラシは、穿刺針の先端がブラシの先端のみと接触するため、毛の幹を刺すことがなく、被検体の皮膚に穿刺針が到達する前の穿刺針先端の状態がより鋭利な状態のまま穿刺できるといった特徴がある。いずれの場合も、毛は一列のみを配列したものであっても、複数列配列したものであってもよい。
【0023】
かかる構成によって、穿刺針と電極反応部(試薬層)とが穿刺時直前に至るまで隔離され、穿刺時に穿刺針の先端が毛間および電極反応部(試薬層)を通って、被検体の皮膚を穿刺することとなるので、使用時まで穿刺針を衛生的に保つことができ、また電極反応部に試薬層が設けられている場合にあっても、穿刺針が試薬層雰囲気下に保存されることがないため、保存中における試薬による汚染も防止することができる。同様に、採血口の周辺、電極あるいは試薬層(電極反応部)表面に塗布された界面活性剤、脂質などにより穿刺針が汚染されることもない。さらに、穿刺後は針が元の位置に戻り、ブラシもまたもとの状態となって電極反応部(試薬層)と針との間を隔てることとなるため、採血は穿刺採血口から導入されたのち電極反応部(試薬層)にまでは到達するものの、ブラシよりも先へ入り込むことがないので、電極反応部以外への試料液の流れ込みを防ぐことができる。これにより、必要以上の体液の採取を行わずに測定が可能となるため、測定試料の少試料化を図ることができる。
【0024】
以上の構成よりなるバイオセンサーは、製造時において、外気よりも陰圧の条件下、好ましくは真空条件下において、その穿刺採血口をシリコーンゴム、軟質ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、発泡スチロールなどの軟質材料で覆い、また穿刺駆動側についてはバイオセンサーを構成する2枚の基板と穿刺針の支持体との間を、天然ゴムなどの伸縮性材料などで密栓状態となるように構成することで、センサー内部が陰圧状態で密閉され、穿刺後の採血の移動について毛細管現象に加えて、吸引手段を併用することができる。このとき、穿刺直後に穿刺針を穿刺方向とは反対にさらに引っ張ることで伸縮性材料が伸び、内部の陰圧がさらに強くなるようにして採血を吸引することもできる。このような構成を採用することにより、採血を円滑に行なうことが可能となる。ここで、穿刺針と電極とを穿刺時において直行させる状態で配置させた場合には、端子を穿刺針の軌道から外すことができるので、穿刺針を含むバイオセンサー内部を陰圧に保つための気密性を保つための構造を容易に得ることができる。また、穿刺採血口を覆う軟質材料は、陰圧を維持するとともに、被検体の皮膚と穿刺採血口との密着性を向上させるといった効果も併せて奏する。
【0025】
本発明の針一体型バイオセンサーは穿刺駆動を備えた測定装置により穿刺・採血・測定の一連の操作が成されることが望ましい。その場合、例えば穿刺駆動については針がバイオセンサーの軟質材料を貫通して被検体の皮膚を突き破る機構と、穿刺直後、速やかに元の位置に戻る機構を備えていることが望ましい。
【0026】
さらに、本発明の針一体型バイオセンサーが吸引機構を備えている場合、採血時の吸引力を高めるために、測定装置内の穿刺駆動系をさらに改良しても良い。すなわち、穿刺直後に穿刺針の配置を元に戻す方向の機構を使って、穿刺針を穿刺方向とは反対にさらに引っ張ることで伸縮性材料が伸び、内部の陰圧がさらに強くなるようにしても良い。
【0027】
針一体型バイオセンサー用測定装置としては、針一体型バイオセンサーを使用した測定が繰り返し確実に行なえるための操作性および耐久性が確保され、かつ持ち運びが容易であるものが用いられ、測定装置は、下部にある導入部に針一体型バイオセンサーを穿刺針支持体が上を向くように挿入させ、バイオセンサーの端子が測定装置のコネクターと接続することで測定が可能な状態となり、次に、穿刺駆動を針一体型バイオセンサー内部に与えるために引き金を引くことで測定の準備が完了し、あとは穿刺開始ボタンのスイッチを押すことで穿刺・採血・測定の順序で自動的に作動し、最終的に測定結果が導かれる仕組みのものが用いられる。
【0028】
測定装置の構造上の特徴の一例を、さらに詳しく述べる。本測定装置は穿刺針駆動部と測定装置部が一体化しており、穿刺針駆動部は引き金部、穿刺開始ボタン部、バネなどの弾性体による駆動部から構成される。一方、測定装置部については、センサー導入部、コネクター、電気化学測定用回路、メモリ部、操作パネル、バイオセンサーの電極における電気的な値を計測する計測部および計測部における計測値を表示する表示部を基本構成としており、さらに、無線手段として電波、例えばブルートゥース(登録商標)を搭載することもできる。かかるスライド構造により、針一体型バイオセンサーを確実にホールドした状態を保ったまま穿刺駆動を受けるので、測定装置全体としての強度を高めることができる。測定装置には、さらに針一体型バイオセンサーの穿刺針を中心線とした左右非対称構造を測定用端子の突出部で認識できる機構を備えることができる。
【0029】
測定装置の穿刺駆動は、針一体型バイオセンサー上部を鉛直方向にたたいた後、速やかに戻る機構がよく、さらに被検体の皮膚を穿刺する深度が調整可能な機構を有することが好ましい。
【0030】
測定装置には糖尿病疾患による視覚障害に対応した音声ガイド機能及び音声認識機能、電波時計の内臓による測定データ管理機能、測定データなどの医療機関などへの通信機能、充電機能などを併せ持たせることができる。
【0031】
測定装置の計測部における計測方法としては、特に限定はしないがポテンシャルステップクロノアンペロメトリー法、クーロメトリー法またはサイクリックボルタンメトリー法などを用いることができる。
【0032】
以上より、本発明の針一体型バイオセンサーは、使用者を限定することのない、すなわち、ユニバーサルな企画に対応し得るものとなっている。
【実施例】
【0033】
本発明による実施態様の針一体型バイオセンサーについて、それぞれ図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
図1は、本発明の針一体型バイオセンサーの一組立例を示している。図1a)〜c)は針一体型バイオセンサーの製作例であり、i)は針一体型バイオセンサーの製作に要する構成材料、ii) 及びiii)では、その成形体を示している。図1a)にはバイオセンサーの基板1、1の一方の表面に導電体7、7が形成されているものとレジスト層6が示されている。該レジスト層6はスペーサー2の役割も果たすほか、電極面積を規定し、また、電極表面と穿刺時における穿刺針との接触を防ぐためにも設けられる。従って該レジスト層6には貫通穴4が設けられている。ここで、基板1は角を丸めることで安全に使用できるものとなっている。図1b)はレジスト層上に接着剤層5が形成される様子を示している。ここで、接着剤層5も基板1、1の板部材間に設けられるので、レジスト層と同様、スペーサー2の役割を果たす。また、図1b)ii)ではレジスト層6と接着剤層5とで面積が規定された電極およびその電極反応部13が示されている。図1c)i)には穿刺針部14の構成が示されており、穿刺針部14は穿刺針20とそれを支える支持体19および外部駆動の接続部17から構成され、外部駆動接続部17が穿刺駆動を備えた測定装置に接続されることで測定装置からの穿刺駆動を得られる仕組みとなっている。また、図1c)には穿刺針部14が穿刺時に電極と直交する状態となるように配置されている。図1c)i)には、隔壁部36を構成する部材が示されており、これは図1c)ii)に示されるように電極反応層(試薬層)と穿刺針部14とを隔離できる箇所に配置される。図1c)iii)には接続部21を介して形成された折り畳み成形体である針一体型バイオセンサー3が示されている。
【0035】
図2は、図1で示した針一体型バイオセンサー3の断面図を示している。図2b)は図2a)で示したA-A’断面図を示している。この図が示すように、バイオセンサーの基板1上に設けられたパターン表面に穿刺針14が配置され、隔壁部36の配置により、試薬層13と穿刺針20とが隔離されている。また、穿刺針部14は穿刺時における電極表面との接触をレジスト層の形成により避けられる構造となっている。したがって、試薬層が電極の表面に形成されていても、該試薬層と穿刺針部14との穿刺時における接触を防ぐことができるため、穿刺針20の試薬による汚染を防ぐことができる。図2c)は図2a)で示したB-B’断面図を示している。これらの図が示すように、本発明の針一体型バイオセンサー3は1枚の基板1の内側に形成された電極10、10の長軸方向に対して、穿刺針14が穿刺時に直交となるように配置されることで端子11を穿刺針14の軌道から外すことができる。また、端子11が穿刺針14の軌道から外れた位置に配置されるため、針一体型バイオセンサー3の形状が穿刺針を中心線とした左右非対称となり、使用者にとってはそれが目印となって測定装置への挿入を左右誤らずにすみ、測定装置も本発明の針一体型バイオセンサー3の端子11の位置を特定するための機構を備えることができる。また、電極の幅及び電極間距離を小さくすることで、その部分の基板の幅も小さくなるので、試料液量の少量化を図ることができる。
【0036】
図3は、図2b)で示した断面図の隔壁部周辺拡大図(a)およびブラシ状隔壁部の動作機構(b〜e)を示す。図3a)に示されるように、隔壁部36の配置により、試薬層13と穿刺針20とが隔離されている。図3b〜e)は隔壁部をさらに拡大した図である。b)に示される如く、隔壁部36はブラシ38とブラシ接着剤層37から構成され、ブラシ38が2枚の基板表面のレジスト層上にそれぞれ設置され、対面配置されている。図3c)は穿刺針20が対面配置のブラシ38の境目を通過し始めている様子、図3d)は穿刺針20が対面配置のブラシ38を貫通した状態、図3e)は穿刺針20が皮膚を穿刺後にブラシ38の内側の定位置に戻った様子をそれぞれで示している。ここで、図3e)では皮膚への穿刺後、採血24が試薬層13を満たしているが、穿刺針20のある空間には達していない。この採血24の進入を阻んでいるのは、ブラシ間で働く血液の表面張力が働いたことが挙げられる。一方で、ブラシ36は空気を通すため、それが採血24の試薬層13への流入を促す空気排気を行なっている。
【0037】
図4は図1で示した針一体型バイオセンサー3の使用例を示している。図4ではa)〜d)で各工程を示し、i)とii)ではそのときの針一体型バイオセンサー3の状態をi)では構成図、ii)では図2a)で示したA-A'断面図で示している。図4a)は穿刺駆動つきの測定装置に接続された針一体型バイオセンサー3の使用前の状態をしめす。このとき、被検体としての皮膚が、針一体型バイオセンサー3の穿刺採血口12に密着している。図4b)は穿刺の状態が示されており、図示されてはいないが、穿刺針20はセンサーから突出して皮膚も突き刺している。図4c)は穿刺後に穿刺針部14が元の位置に戻った状態を示している。図4d)はその後で、穿刺した皮膚からの採血24を毛細管現象によって吸引している状態を示している。
【0038】
図5は、本発明の針一体型バイオセンサーの他の構成例を示している。図5a)〜d)は針一体型バイオセンサーの製作例であり、i)は針一体型バイオセンサーの製作に要する構成材料、ii) 及びiii)では、その成形体を示している。図1で示した針一体型バイオセンサーとの相違点は採血の吸引機構を備えている点にある。採血吸引機構は、穿刺採血口12付近への軟質材料15と基板1と穿刺針支持体17との間の空間を密閉するための伸縮材16により、試料搬送路・穿刺駆動部8を外気と遮断することで成り立っている。さらに、該軟質材は被検体の皮膚を穿刺採血口12と密着させるためにも役立ち、また折畳み構造に必要な基板の繋目21は、図5d)ii)で示されるように伸縮材16を基板1に固定するためのフック22にもなっている。
【0039】
図6は、図5で示した針一体型バイオセンサー3の断面図を示している。図6b)は図6a)で示したA-A’断面図を示している。図2で示した針一体型バイオセンサーとの相違点は採血の吸引機構を備えている点にあり、穿刺採血口12には軟質材料15が設置され、穿刺針部14は伸縮材16によって基板1、1と接着部23で固定されている。
【0040】
図7は、図5で示した針一体型バイオセンサー3の使用例を示している。図7ではa)〜d)で各工程を示し、i)とii)ではそのときの針一体型バイオセンサー3の状態をi)では構成図、ii)では図6a)で示したA-A’断面図で示している。図7a)は穿刺駆動つきの測定装置に接続された針一体型バイオセンサー3の使用前の状態をしめす。このとき、被検体としての皮膚が、針一体型バイオセンサー3の穿刺採血口12に設けられた軟質材料15に密着している。図7b)は穿刺の状態が示されており、穿刺針20が軟質材料15を貫通している状態を示している。図示されてはいないが、穿刺針20は皮膚も突き刺している。また、伸縮材16は縮んでいる様子がわかる。図7c)は穿刺後に穿刺針部14が元の位置に戻った状態を示している。ここでは、穿刺針20によって貫通された軟質材料15が示されている。この状態では、バイオセンサー内の陰圧が穿刺された皮膚に向かってかけられている。図7d)はその後で、穿刺した皮膚からの出血24を内部の陰圧によって吸引している状態を示している。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る針一体型バイオセンサーの一組立例を示す図である。
【図2】本発明に係る針一体型バイオセンサーの一構成例を示す図である。
【図3】本発明に係る針一体型バイオセンサーにおける隔壁部の一動作機構を示す図である。
【図4】本発明に係る針一体型バイオセンサーの一使用例を示す図である。
【図5】本発明に係る吸引型針一体型バイオセンサーの他の組立例を示す図である。
【図6】本発明に係る吸引型針一体型バイオセンサーの他の構成例を示す図である。
【図7】本発明に係る吸引型針一体型バイオセンサーの他の使用例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 基板
2 スペーサー
3 針一体型バイオセンサー
4 貫通穴
5 接着剤層
6 レジスト層
7 導電体
8 試料搬送路・穿刺針通路
10 電極
11 端子
12 穿刺採血口
13 電極反応部(試薬層)
14 穿刺針部
15 軟質材料
17 外部駆動接続部
18 折畳み成形体
19 穿刺針支持体
20 穿刺針
21 接続部
22 フック
23 接着部
24 採血
36 隔壁部
37 ブラシ接着剤層
38 ブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚の電気絶縁性の基板、これらに挟まれた空間に設置されたスペーサーおよび電極からなるバイオセンサーと、該バイオセンサー内に被検体の皮膚を突き刺して体液を採取するための穿刺針とが一体となって構成されたバイオセンサーにおいて、
穿刺針と測定試料が導入される電極反応部とが隔壁部によって隔離されていることを特徴とする針一体型バイオセンサー。
【請求項2】
さらに電極反応部に試薬層が設けられた請求項1記載の針一体型バイオセンサー。
【請求項3】
隔壁部が、ブラシ状、膜状またはブロック状の形状である請求項1記載の針一体型バイオセンサー。
【請求項4】
ブラシ状の隔壁部に用いられる材料が、高分子材料である請求項3記載の針一体型バイオセンサー。
【請求項5】
高分子材料が、ナイロンまたはポリブチレンテレフタレートである請求項4記載の針一体型バイオセンサー。
【請求項6】
膜状またはブロック状の隔壁部に用いられる材料が、軟質材料または繊維材料である請求項3記載の針一体型バイオセンサー。
【請求項7】
軟質材料が、ゲル状材料、弾性材料または発泡性材料である請求項6記載の針一体型バイオセンサー。
【請求項8】
繊維材料が、紙である請求項6記載の針一体型バイオセンサー。
【請求項9】
滅菌処理または抗菌作用が付与された隔壁部が用いられる請求項1記載の針一体型バイオセンサー。
【請求項10】
スペーサーが、レジスト層および/または接着剤層により構成される請求項1記載の針一体型バイオセンサー。
【請求項11】
レジスト層が、電極よりも厚く形成される請求項10記載の針一体型バイオセンサー。
【請求項12】
さらに、穿刺針の先にある穿刺採血口が穿刺可能な軟質材料で密閉され、該穿刺針の後部は伸縮性材料により2枚の基板と穿刺針を基板に固定するための穿刺針支持体との隙間を密閉するとともに、バイオセンサー内部を陰圧に保ち、該穿刺針が軟質材料と皮膚の両方を同時に突き破ることで、吸引採血し、検出成分を測定することを特徴とした請求項1記載の針一体型バイオセンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−20704(P2007−20704A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204422(P2005−204422)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】