鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法、並びに鉄族元素及び希土類元素の回収装置
【課題】鉄族元素及び希土類元素をイオン液体に溶解させ、これらを選択的に分離する鉄族元素及び希土類元素の回収方法、並びに該回収方法に用いうる鉄族元素及び希土類元素の回収装置の提供。
【解決手段】鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体から、該鉄族元素を電解析出により回収する工程Aと、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体から該希土類元素を電解析出により回収する工程Bと、を含む鉄族元素及び希土類元素の回収方法であり、前記イオン液体は、四級ホスホニウムのカチオン、又は四級アンモニウムのカチオンと、BF4、PF6、N[SO2(CF2)nCF3]2、N(SO2F)2、SO3CF3、SO3CH3、CF3COO、SCN、N(CN)2、ハロゲン、(R5O)2POO、 (R6O)2PSS、R7COOから選択されるアニオンとから構成される、鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
【解決手段】鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体から、該鉄族元素を電解析出により回収する工程Aと、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体から該希土類元素を電解析出により回収する工程Bと、を含む鉄族元素及び希土類元素の回収方法であり、前記イオン液体は、四級ホスホニウムのカチオン、又は四級アンモニウムのカチオンと、BF4、PF6、N[SO2(CF2)nCF3]2、N(SO2F)2、SO3CF3、SO3CH3、CF3COO、SCN、N(CN)2、ハロゲン、(R5O)2POO、 (R6O)2PSS、R7COOから選択されるアニオンとから構成される、鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法、並びに鉄族元素及び希土類元素の回収装置に関する。より詳しくは、イオン液体に鉄族元素及び希土類元素を溶解させて、電気化学的方法により回収する鉄族元素及び希土類元素の、イオン液体を利用した回収方法、並びにイオン液体に鉄族元素及び希土類元素を溶解させて、電気化学的方法により回収する鉄族元素及び希土類元素の回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レアメタルは小型家電製品等、身近な製品に使用されており、その高機能化や小型集積化により、今後の需要はさらに高まることが推測される。近年、環境省では、循環型社会形成推進研究事業として、廃家電製品からのレアメタル回収及び廃棄物処理技術の開発を重点化している。このような社会的背景の下で、例えば、レアメタルの中でも特に希土類元素(レアアース)が着目されており、HDDのヘッドやモーター用の希土類磁石中に含有されている希土類元素及び鉄族元素を回収する、環境負荷の低い、高効率な方法の開発が望まれている。
【0003】
「希土類磁石」とは、希土類元素を用いて作られる永久磁石のことであり、以下のものが実用化されている。
(i)ネオジム磁石
現在実用化されている単位面積辺りの磁力密度が最大の磁石であり、組成はNd2Fe14Bである。磁石表面の腐食抑制のため、Ni,Cu,Niの三層構造から成る被覆材がコーティングされていることが多い。
(i i)サマリウム−コバルト磁石
耐熱性及び耐久性に優れており、組成はSmCo5及びSm2Co17である。
(i i i)サマリウム鉄窒素磁石
ネオジム磁石を超える性能をもつ磁石として開発されてきたが、熱に弱いため、ボンド磁石として使われている。
(iv)プラセオジム磁石
機械的強度が高いことに優れており、組成はPrCo5である。
【0004】
上記の希土類磁石は、鉄族元素および希土類を含む合金の形態であり、被覆材にも鉄族元素が含まれていることが多い。ここで、「鉄族元素」とは、周期表上で第4周期の第8、9、10族の元素、すなわち、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の三元素の総称である。この鉄族元素は全て遷移金属であり、常温、常圧で強磁性を示すことを特長とする。
【0005】
希土類−遷移金属合金からの有用元素の回収技術については、報告例がある(特許文献1)。この方法は、1)合金を、鉱酸のアンモニウム塩水溶液に浸漬する工程、2)溶液に酸素を含む気体を流通させ、合金を酸化させて、酸化物及び水酸化物等を主体とする沈殿物を得る工程、3)沈殿物を分離する工程、4)分離した沈殿物から希土類元素を回収する工程、の4工程から構成される。
この湿式法と呼ばれる方法において、鉱酸(酸溶液)を利用する分離・回収工程では、大量の酸や有機溶媒を使用するので、比較的多くの二次廃棄物が生じる。このため、環境負荷が高くなるという問題がある。
【0006】
一方、乾式法として、高温溶融塩を利用して希土類元素と鉄族元素を含む物質から高純度の希土類元素を回収する方法が提案されている(特許文献2)。この方法は、気体もしくは溶融状態の鉄塩化物に、希土類磁石のスクラップもしくはスラッジ等の希土類元素と鉄族元素を含む物質を接触させ、鉄族元素の金属状態を保ったまま、希土類元素の塩化反応を進行させる方法である。この方法は、希土類元素を塩化物として選択的に回収することを特長とする回収方法である。
この回収方法に限らず、一般的に溶融状態を利用する方法は、非常に高温(800℃程度)で行われるため、炉材料の腐食や膨大な熱エネルギーの消費が免れず、近年の省エネルギー指向のプロセスに適さない。また、目的の化学反応を進行させるために、大掛りで複雑な設備が必要となる場合が多い。
【0007】
近年、環境保全意識の高まりとともに、難燃性・難揮発性といった環境調和型特性を有するイオン液体を利用する研究分野が急速に進展してきている。イオン液体はカチオンとアニオンの種類により数多くの種類が存在し、例えば以下の技術が報告されている。
【0008】
[イオン液体中での鉄族元素・希土類元素の回収技術]
イオン液体を利用した鉄族元素(コバルト:Co)の回収例として、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボーレイト(BMIm-BF4)中で、Coを電解回収した報告例が存在する(非特許文献1)。
イオン液体中での希土類元素の回収に対しては、1-オクチル-1-メチルピロリジニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド(OMP-TFSA)中で、希土類元素(ランタン:La)を回収した報告例が存在する(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第03/078671号パンフレット
【特許文献2】特開2003−73754号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Caina Su et al., Appl. Surf. Sci., 256 (2010) 4888-4893.
【非特許文献2】S. Legeai et al., Electrochem. Commun., 10 (2008) 1661-1664.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記非特許文献では、鉄族元素又は希土類元素を回収する方法が報告されているが、その回収効率は必ずしも十分とは言えず、より高効率な回収方法が望まれている。また、鉄族元素および希土類元素を含む物質(例えば磁石等の合金)から、鉄族元素と希土類元素とを選択的に回収する方法の開発が強く望まれている。
また、鉄族元素と希土類元素の選択的な回収を、低温かつ大気中で実施するための方法が確立されておらず、簡便な装置で、かつ安全に行うことができる鉄族元素および希土類元素の回収技術の確立が強く望まれている。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、鉄族元素及び希土類元素をイオン液体に溶解させ、これらを選択的に分離する鉄族元素及び希土類元素の回収方法、並びに該回収方法に用いうる鉄族元素及び希土類元素の回収装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体から、該鉄族元素を電解析出により回収する工程Aと、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体から該希土類元素を電解析出により回収する工程Bと、を含む鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法であり、前記イオン液体は、式PR1R1R1R2で表される四級ホスホニウムのカチオン、又は式NR3R3R3R4で表される四級アンモニウムのカチオンと、テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド、(N[SO2(CF2)nCF3]2)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、ハロゲン、ジアルキルリン酸((R5O)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((R6O)2PSS)、及び脂肪族カルボン酸(R7COO)からなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとから構成されることを特徴とする。
[上記オニウムカチオンの式中、R1およびR3は、置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R2およびR4は置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。上記オニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R1とR2とは互いに異なる基である。複数のR3はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R3とR4とは互いに異なる基である。nは0〜5の整数を表す。また、R5、R6、及びR7は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、又は脂環状のアルキル基である。]
本発明の請求項2に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、請求項1において、前記工程Aを経たイオン液体を電気泳動して、該イオン液体に含まれる希土類元素を濃縮する工程Cを、前記工程Bの前に備えることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、請求項1又は2において、前記工程Aにおいて、前記資源に含有される鉄族元素を前記イオン液体に溶解させつつ、該鉄族元素を電解析出により回収することを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の鉄族元素及び希土類元素の回収装置は、第一の槽内において、鉄族元素及び希土類元素を含む資源を溶解させたイオン液体から鉄族元素を電解析出により回収する第一の電極、及び該第一の電極による処理を経たイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第二の電極を有する第一処理部と、第一の槽内において、前記第二の電極による処理を経たイオン液体に残存する希土類元素を電気泳動により濃縮する第二処理部と、第二の槽内において、前記第二処理部で濃縮された希土類元素を含むイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第三の電極を有する第三処理部と、を少なくとも備える装置である。
【0014】
本明細書および本特許請求の範囲において、「鉄族元素」とは、鉄、コバルト、ニッケルをいう。また、「希土類元素」とは、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドをいう。また、本明細書および本特許請求の範囲において、「オニウム」とは、ホスホニウムおよびアンモニウムを包括する呼称である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の鉄族元素及び希土類元素の回収方法によれば、鉄族元素及び希土類元素をイオン液体に溶解させ、これらを選択的に分離して、高効率で回収方法を提供することができる。本発明にかかる方法は、比較的低温で、かつ大気中で実施することができる。また、使用したイオン液体は、本発明の鉄族元素及び希土類元素の回収方法に再利用することができる。また、得られた鉄族元素及び希土類元素は、種々の工業製品に有用である。
したがって、本発明にかかる方法は、低環境負荷で資源を再利用することを可能にするものである。
【0016】
本発明の鉄族元素及び希土類元素の回収装置によれば、第一の槽内において、イオン液体に溶解された鉄族元素および希土類元素を電解析出により選択的に回収し、該イオン液体に残存する希土類元素を電気泳動により濃縮して第二の槽内に移して、該第二の槽内において、濃縮された希土類元素を電解析出により回収することができる。このように、比較的簡便な装置構成で実施できるため、回収コストの低減を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の鉄族元素及び希土類元素の回収方法の第一態様に用いることのできる回収装置の一例。
【図2】廃希土類磁石中の鉄族元素・希土類元素リサイクル方法の模式図
【図3】本発明に用いることのできる陽極溶解に使用できる装置の一例
【図4】本発明に用いることのできる電気泳動装置の一例
【図5】P2225FSAを使用した陽極溶解の浴中における、Nd(III)の分光スペクトルの経時変化
【図6】P2225FSAに溶解したFe(II), Nd(III)のLSV測定結果
【図7】P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中におけるNi(II)のEQCM測定の結果
【図8】P2225FSA, P2225TFSA中でNd(III)を泳動濃縮した結果
【図9】N2225FSA, N2225TFSA中でNd(III)を泳動濃縮した結果
【図10】異なる電流密度で陰極表面に析出した電解析出物のSEM観察結果
【図11】電解析出物のEDX分析の結果
【図12】電解析出物のEDX分析の結果
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳しく説明する。
<鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法>
本発明の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体から、該鉄族元素を電解析出により回収する工程Aと、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体から該希土類元素を電解析出により回収する工程Bと、を含む回収方法である。
この回収方法に用いることができる鉄族元素及び希土類元素の回収装置の一例として図1に記載の回収装置10が挙げられる。
【0019】
回収装置10は、第一の槽11内において、鉄族元素及び希土類元素を含む資源を溶解させたイオン液体から、鉄族元素を電解析出により回収する第一の電極16、及び該第一の電極16による処理を経たイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第二の電極20を有する第一処理部と、第一の槽11内において、前記第一の電極16による処理又は前記第二の電極20による処理を経たイオン液体に含まれる希土類元素を電気泳動により濃縮する第二処理部と、第二の槽39内において、前記第二処理部で濃縮された希土類元素を含むイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第三の電極36を有する第三処理部と、を少なくとも備えている。
【0020】
本発明にかかる回収方法の第一態様は、以下の通りである。
まず、イオン液体α1中に鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体β1を得る。
その後、イオン液体β1に溶解している前記鉄族元素を電解析出により回収して得るとともに、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体γ1を得る工程Aを行う。
つづいて、イオン液体γ1から前記希土類元素を電解析出により回収して得るとともに、該希土類元素の回収処理を経たイオン液体δ1を得る工程Bを行う。
【0021】
工程Bにおいて、イオン液体γ1中の希土類元素の濃度が低い場合、電解析出による希土類元素の回収効率が低いことがある。この場合、前記工程Aを経たイオン液体γ1を電気泳動して、該イオン液体γ1に含まれる希土類元素を濃縮する工程Cを、工程Bの前に行うことが好ましい。工程Cにおいて、希土類元素が濃縮されたイオン液体ε1を得る。その後、工程Bにおいて、イオン液体ε1に溶解している希土類元素を電解析出により回収して得るとともに、該希土類元素の回収処理を経たイオン液体δ1を得る。
【0022】
工程Cでイオン液体ε1中の希土類元素の濃度を高めることによって、工程Bでイオン液体ε1から希土類元素を電解析出用の電極に析出させることが容易となり、希土類元素の回収効率を高めることができる。
【0023】
工程Bで得られたイオン液体δ1中に、微量の希土類元素が残存することがある。この場合、イオン液体δ1を電気泳動して、該イオン液体δ1に含まれる希土類元素を濃縮する工程Dを行っても良い。工程Dにおいて、残存する希土類元素が濃縮されたイオン液体ζ1が得られる。その後、このイオン液体ζ1に溶解している希土類元素を電解析出により回収して得るとともに、該希土類元素の回収処理を経たイオン液体η1を得る工程Eを行っても良い。
【0024】
工程Bで使用するイオン液体γ1若しくはイオン液体ε1、及び工程Eで使用するイオン液体ζ1は、前記鉄族元素の回収処理を経たイオン液体である。よって、本発明にかかる回収方法では、これらのイオン液体から、電解析出によって、前記希土類元素を回収できる。
【0025】
前記イオン液体α1〜η1は、溶媒としてのイオン液体の種類は同一であり、溶解しているものが異なる。
前記イオン液体(イオン液体α1)は、式PR1R1R1R2で表される四級ホスホニウムのカチオン、又は式NR3R3R3R4で表される四級アンモニウムのカチオンと、
テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド(N[SO2(CF2)nCF3]2)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、ハロゲン、ジアルキルリン酸((R5O)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((R6O)2PSS)、及び脂肪族カルボン酸(R7COO)からなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとから構成される。
【0026】
前記オニウムカチオンの式中、R1は置換基を有していてもよいし、置換基を有していなくてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。
【0027】
R1が置換基を有するアルキル基である場合、該アルキル基における水素原子の一部または全部が、水素原子以外の基または原子で置換されている。該置換基としては、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素数1〜5のフッ素化低級アルキル基、酸素原子(=O)等が挙げられる。
【0028】
R1における炭素数2〜6の直鎖状アルキル基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。
R1における炭素数2〜6の分岐状アルキル基としては、例えば、1−メチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
R1における炭素数2〜6の脂環状アルキル基としては、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が挙げられる。
R1における炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
【0029】
上記のなかでも、R1としては、炭素数2〜6の直鎖状又は分岐状アルキル基が好ましく、炭素数2〜6の直鎖状アルキル基がより好ましく、エチル基又はプロピル基がさらに好ましい。
【0030】
前記オニウムカチオンの式中、R2は置換基を有していてもよいし、置換基を有していなくてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。
【0031】
R2が置換基を有するアルキル基である場合、該アルキル基における水素原子の一部または全部が、水素原子以外の基または原子で置換されている。該置換基としては、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素数1〜5のフッ素化低級アルキル基、酸素原子(=O)等が挙げられる。
【0032】
R2における直鎖状アルキル基としては、炭素数1〜10であることが好ましく、3〜8がより好ましく、炭素数4〜6がさらに好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基、トリデカニル基、テトラデカニル基が挙げられる。
【0033】
R2における分岐状アルキル基としては、炭素数3〜10であることが好ましく、3〜8がより好ましく、炭素数4〜6がさらに好ましい。具体的には、例えば、1−メチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基などが挙げられる。
【0034】
R2における脂環状アルキル基としては、炭素数5〜12であることが好ましく、5〜10がより好ましく、炭素数5〜6がさらに好ましい。例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等のモノシクロアルキル基が挙げられる。
【0035】
R2における炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
【0036】
上記のなかでも、R2としては、炭素数3〜9の直鎖状又は分岐状アルキル基が好ましく、炭素数4〜7の直鎖状アルキル基がより好ましく、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基がさらに好ましい。
【0037】
前記オニウムカチオンの式中、複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R1とR2とは互いに異なる基であり、前記ホスホニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
【0038】
本発明において、R1が炭素数2〜4のアルキル基で、R2が炭素数1〜12のアルキル基であるテトラアルキルオニウム塩(イオン液体)は、融点が低く、鉄族金属イオン及び希土類イオンの溶解性に優れ、難燃性を有し、低温においても粘性が低く、良伝導体となるので好ましい。
また、R1が炭素数2〜4のアルキル基で、R2が炭素数1〜2のアルコキシ基であるオニウム塩(イオン液体)は、室温においても粘性が低く、良伝導体となるため、より好ましい。
【0039】
また、他の具体的なR1とR2との好ましい組み合わせとしては、R1がエチル基又はプロピル基であり、且つR2がブチル基、ペンチル基又はヘキシル基である。該組み合わせであることにより、前記イオン液体の疎水性、粘性、融点等の物理化学的特性が、鉄族元素及び希土類元素を溶解させて、電解析出により析出させるのに適したものとなる。
【0040】
また、上記オニウムカチオンの式中、R3は置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R4は置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、複数のR3はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R3とR4とは互いに異なる基であり、アンモニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
【0041】
R3の具体的な説明は、前述のR1の具体的な説明と同じである。
R4の具体的な説明は、前述のR2の具体的な説明と同じである。
また、R3とR4との好ましい組み合わせの具体的な説明は、前述のR1とR2との好ましい組み合わせの具体的な説明と同じである。
【0042】
前記イオン液体におけるアニオンは、テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド(N[SO2(CF2)nCF3]2)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、ハロゲン、ジアルキルリン酸((R6O)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((R5O)2PSS)、及び脂肪族カルボン酸(R7COO)からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0043】
N[SO2(CF2)nCF3]2におけるnは0〜5の整数であり、0〜3が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0044】
R5、R6、及びR7は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、又は脂環状のアルキル基である。
R5、R6、及びR7の説明および具体例は、前述のR2と同じである。
【0045】
以下では、ビスフルオロスルホニルアミド(別名:ビスフルオロスルホニルイミド)を「FSA」と略記する。また、ビストリフルオロメチルスルホニルアミド(N[SO2CF3]2)(別名:ビストリフルオロメチルスルホニルイミド)を「TFSA」と略記する。
【0046】
本発明におけるイオン液体のカチオンとしては、前記ホスホニウムのカチオンが好ましく、R1がエチル基又はプロピル基であり、且つR2がブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、メトキシ基、又はエトキシ基である前記ホスホニウムのカチオンがより好ましい。
本発明におけるイオン液体のアニオンとしては、ビストリフルオロメチルスルホニルアミド(TFSA)、ビスフルオロスルホニルアミド(FSA)、及びジシアナミドが好ましい。これらのアニオンがテトラアルキルホスホニウム塩(イオン液体)を構成した場合に、その塩浴の粘性が、室温付近でも低く、疎水性であるため好ましい。また、これらのアニオン中でも、FSAがより好ましい。FSAをアニオンとするイオン液体は、カチオンがホスホニウムの場合に限らず、多くのカチオン種との間でイオン液体を形成でき、粘性が低く、導電性が高いためより好ましい。
【0047】
したがって、本発明における好適なイオン液体の具体例としては、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
【0048】
これらのなかでも、トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、がより好適である。
【0049】
本発明におけるイオン液体は10〜100℃において難揮発性の液体であり、鉄族元素及び希土類元素を溶解することができる。
【0050】
鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を前記イオン液体(イオン液体α1)に溶解させる方法としては、前記資源から効率よくイオン液体α1へ鉄族元素及び希土類元素を溶解させられる方法であれば特に制限されない。例えば、前記資源をイオン液体α1中に浸漬して、該資源に含有される鉄族元素及び希土類元素をイオン液体α1中に溶出させる方法や、前記資源に電圧を印加して陽極溶解することにより、該資源に含有される鉄族元素及び希土類元素をイオン液体α1へ溶解させる方法が挙げられる。陽極溶解する方法が、効率に優れるため好ましい。
【0051】
前記陽極溶解する方法を、図1で説明する。第一の槽11にはイオン液体34(イオン液体α1)が入れられており、電源(ポテンショスタット)に接続された陽極13、陰極14、及び参照極(図示略)を有する陽極電解用電極12がイオン液体α1に浸漬されている。陽極13の先端部には前記資源15が付けられている。陽極13の該資源15以外の部位の周りには絶縁管(図示略)が設けられている。陽極13と陰極14の間に前記参照極で設定した電位を印加することにより資源15から、鉄族元素および希土類元素を陽極電解してイオン液体α1へ溶解させることができる。前記電位の設定は、溶解させる元素の酸化電位に相当する電極電位から貴な側に0.1V程度とすればよい。例えば、鉄族元素(Fe)を溶解させる場合は、Feの酸化電位に相当する電極電位から貴な側に0.1V程度をポテンショスタットで設定する。
【0052】
上記のように陽極溶解を行うことにより、イオン液体α1中に鉄族元素及び希土類元素を溶解することにより、イオン液体β1が得られる。
【0053】
上記のように、陽極13側で資源15の陽極溶解を行う一方、陰極14側では、イオン液体α1中への溶出が速く、希土類元素よりも電気化学的に貴な物質又は不純物が析出して回収又は除去される。これを利用して、陽極13で鉄族元素を溶出させつつ、陰極14で該鉄族元素を析出させて回収することも可能である。
つまり、工程Aにおいて、資源15に含有される鉄族元素をイオン液体α1に溶解させつつ、該鉄族元素を電解析出によって、陰極14で回収することができる。この場合、陽極溶解と電解析出とを並行して行うので、回収に要する時間を短縮できる。
また、資源15に含有される鉄族元素および希土類元素のうち、鉄族元素を優先的に溶解させることも可能である。この場合、資源15に含有される希土類元素の濃度を高めることができる。希土類元素の濃度が高まった資源15を、そのまま回収してもよい。
【0054】
第一処理部の第一の電極12において、イオン液体α1に、陽極13で鉄族元素を溶出させつつ、陰極14で該鉄族元素を析出させて回収する方法としては、陽極13における陽極溶解は前述の方法で行い、それと同時に、陰極14における電解析出は後述の方法で行う方法が挙げられる。すなわち、陽極13には鉄族元素が溶出する電位を印加し、陰極14には鉄族元素が析出する電位を印加することによって、行うことができる。
【0055】
イオン液体α1中に浸漬する資源15としては、例えば、電子機器の廃品として回収された希土類磁石が挙げられる。
【0056】
前記工程Aにおいて、イオン液体β1に溶解している前記鉄族元素を電解析出により回収する方法を、図1で説明する。第一の槽11にはイオン液体34(イオン液体β1)が入れられており、電源(ポテンショスタット)に接続された陽極17及び陰極18がイオン液体β1に浸漬されている。このような構成を有する第一処理部の第一の電極16において、陽極17と陰極18の間に鉄族元素(鉄族金属)が析出する電位を印加することにより、イオン液体β1から鉄族元素を選択的に陰極18に析出して鉄族金属19として回収することができる。
【0057】
前記鉄族元素が析出する電位は、イオン液体α1,β1のサイクリックボルタンメトリー(CV)を予め測定し、鉄族元素および希土類元素の各還元電位ピークに基づいて設定することができる。このとき、陰極電流効率を高める観点から、各還元電位ピークよりも−0.1V側に設定することが好ましい。
【0058】
上記のように、イオン液体β1中に溶解している鉄族元素及び希土類元素から、鉄族元素を選択的に電解析出して回収することにより、イオン液体β1は希土類元素を溶解しているイオン液体γ1となる。
【0059】
前記工程Bにおいて、イオン液体γ1又はイオン液体ε1に溶解している前記希土類元素を電解析出により回収する方法を、図1で説明する。第一の槽11にはイオン液体イオン液体γ1又はイオン液体ε1が入れられており、電源(ポテンショスタット)に接続された陽極21及び陰極22がイオン液体γ1に浸漬されている。このような構成を有する第一処理部の第二の電極20において、陽極21と陰極22の間に希土類元素が析出する電位を印加することにより、イオン液体γ1又はイオン液体ε1から希土類元素を選択的に陰極22に析出して希土類金属24として回収することができる。
【0060】
前記希土類元素が析出する電位は、イオン液体γ1又はイオン液体ε1のサイクリックボルタンメトリー(CV)を予め測定し、希土類元素の還元電位ピークに基づいて設定することができる。このとき、陰極電流効率を高める観点から、還元電位ピークよりも−0.1V側に設定することが好ましい。
【0061】
上記のように、イオン液体γ1又はイオン液体ε1中に溶解している希土類元素を電解析出して回収することにより、イオン液体γ1又はイオン液体ε1は低濃度の希土類元素が残存して溶解しているイオン液体δ1として得られる。
【0062】
前記工程C又は工程Dにおいて、工程Cで使用するイオン液体γ1、又は工程Dで使用するイオン液体δ1に溶解している前記希土類元素を電気泳動により濃縮する方法を、図1で説明する。
第一の槽11にはイオン液体34(イオン液体γ1又はイオン液体δ1)が入れられており、電源(直流安定化電源)に接続された陽極27及び陰極28を有する電気泳動用電極26がイオン液体34に浸漬されている。陽極27の先端部がイオン液体34の液面付近に浸漬され、陽極27の腐食を防止するための非導電性の保護管29が陽極27の周りに設けられている。該液面下における保護管29はイオン液体34の深部まで延びた泳動管30となる。泳動管30は中空であり、内部はアルミナ等の非導電性のセラミックス製粒子が充填されている(図示略)。イオン液体34が泳動管30の内部へ浸透により流入する。
【0063】
前記保護管29は、陽極27の先端部が浸漬されている液面部において、導出管32が分岐している。図1には示していないが、導出管32にはポンプ等の送液装置が備えられており、陽極27近辺のイオン液体34を吸引して導出管32へ導いて、第二の槽39へ適宜送液することができる。
【0064】
上記の構成を有する第二処理部の電気泳動用電極26において、陽極27と陰極28の間に直流で通電させることにより、希土類元素(希土類イオン)が泳動管30の先端31から泳動管30内部へ電気泳動により導かれて、陽極27付近へ濃縮される。濃縮された希土類元素は、泳動管30内部に充填された前記セラミックス製粒子があるので、泳動管30外へ拡散せず、泳動管30内で保持される。
【0065】
前記直流の電流密度は特に制限されないが、0.01〜10.0mA/mm2が好ましく、0.05〜5.0mA/mm2がより好ましく、0.1〜1.0mA/mm2がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であることにより、効率の良い電気泳動を行うことができる。また、上記範囲の上限値以上であることにより、イオン液体δ1の温度を高めることなく、室温〜100℃以下というイオン液体が十分に安定な温度で電気泳動を行うことができる。
【0066】
このような電気泳動により、陽極27付近に濃縮された希土類元素(希土類イオン)を含むイオン液体ε1又はイオン液体ζ1が得られる。なお、該イオン液体ε1は工程Cで得られるものであり、該イオン液体ζ1は工程Dで得られるものである。
【0067】
イオン液体ε1又はイオン液体ζ1を導出管32により適宜第二の槽39へ送液して、第二の槽39、並びに陽極37及び陰極38を有する第三の電極36を備えた構成の第三処理部おいて、電解析出を行うことにより、イオン液体ε1又はイオン液体ζ1から希土類元素を回収することによって、純度の高い希土類元素を得ることができる。
ここで、電解析出によってイオン液体ε1から希土類元素を回収することは、前記工程Bに該当する。一方、電解析出によってイオン液体ζ1から希土類元素を回収することは、前記工程Eに該当する。
【0068】
第三処理部の第三の電極36において、イオン液体ε1又はイオン液体ζ1に溶解している前記希土類元素を電解析出により回収する方法としては、前述と同様に行うことができる。すなわち、陽極37と陰極38の間に、CVで予め測定した希土類元素が析出する電位を印加することにより、イオン液体ε1又はイオン液体ζ1から希土類元素を選択的に陰極38に析出して希土類金属43として回収することができる。
【0069】
前記工程Bにおいて、前記希土類元素が回収されて得られたイオン液体δ1、および前記工程Eにおいて、前記希土類元素が回収されて得られたイオン液体η1は、再びイオン液体α1として再利用することが可能である。
【0070】
本発明にかかる回収方法によって、廃希土類磁石中の前記鉄族元素及び前記希土類元素を回収してリサイクルする方法の一例を図2に示す。
図2において、陽極溶解では、初めに鉄族元素の溶解電位に設定し、鉄族元素の選択的溶解を進める。ここで、不溶性不純物は適宜除去していき、電解析出Iで鉄族元素を先行分離して陰極に回収する(工程A)。鉄族元素の回収後、陽極溶解において、希土類元素が溶解する電位に再設定する。ここで、希土類元素よりも電気化学的に貴な不純物元素はすべて溶解する。また、希土類元素の陽極溶解において、陰極側の設定電位を鉄族元素の還元電位に近い値で制御することにより、陰極側では、残存する鉄族元素の選択的回収が可能となる。
【0071】
次の電気泳動は、イオン液体中の低濃度な希土類元素を濃縮させる目的で行われる(工程C)。電気泳動は、特許第4242313号に記載の方法で連続的に実施することも可能である。また、電気泳動の電位を適切に設定することによって、先に溶解させた鉄族元素の残留物等の不純物を、陰極で回収して除去することもできる。電気泳動において、希土類濃度の高いイオン液体が得られる。
【0072】
次の電解析出IIにおいて、電位を的確に設定することによって、希土類元素を選択的に回収することができる(工程B)。希土類元素を回収した後のイオン液体は、初期段階の陽極溶解工程で使用する溶媒に戻すこともできる。このため、イオン液体系のクローズドサイクルが構築でき、リサイクルプロセスの二次廃棄物発生量を大幅に低減できる。
【0073】
図2の陽極溶解で使用できる装置を図3に示す。陽極溶解は、例えば、第四級ホスホニウム等のカチオンとFSAアニオンから構成されるイオン液体中に、廃希土類磁石を浸漬させる。廃希土類磁石を陽極とし、陽極と陰極間に参照電極で設定した電位を印加して、鉄族元素、希土類元素の順番で電気化学的に溶解させる。
【0074】
陰極の材料としては、電極における電気化学反応に対して不活性な材料を使用することが好ましい。
廃希土類磁石中に、イオン液体中への溶出が速く、希土類元素よりも電気化学的に貴な元素の不純物が含まれる場合は、該不純物は陰極に析出し、回収容器に溜まる。
【0075】
鉄族元素を回収する電解析出Iは以下の手順で実施できる。
陽極溶解の際に陰極で回収された不純物を除去した後、新しい陰極をイオン液体中に浸漬させる。鉄族元素が析出する電位に設定して、電解析出Iを実施する。陽極溶解の際にイオン化された鉄族金属イオンが、陰極において電解還元されることにより、鉄族元素が陰極に金属析出物として得られる。
【0076】
鉄族元素の電解回収の実施後、得られたイオン液体を、例えば図4に示す電気泳動装置に移して、電気泳動を実施する。
電気泳動は二電極方式で行い、希土類イオンを濃縮させる泳動管には、アルミナ等のセラミックス製粒子を充填させる。これは泳動管中の対流効果を抑制した上で、希土類イオンと他イオンとの移動度差を利用して、希土類イオンを特に陽極近傍に濃縮させる効果がある。
【0077】
FSAをアニオンとするイオン液体は、低粘性かつ高導電性であるため、電気泳動工程において、特に好適である。希土類元素を高効率で濃縮して得ることができる。
電気泳動に使用する装置は、特許第4242313号に記載された、連続的な泳動が可能で、かつ濃縮物の回収が容易な装置を使用するとさらに効率が良い。
【0078】
電気泳動では、鉄族元素のイオン種と希土類元素のイオン種の中で、析出電位が貴なFe,Ni等の鉄族元素のイオン種が陰極に析出物として回収される。電気泳動を繰り返し行い、得られた希土類元素の濃縮物は、別の容器に保管することが好ましい。
次に、得られた希土類元素の濃縮物を使用して、電解析出IIを実施する。ここで使用する陽極及び陰極は、図3で示した電極構造に類似のものが適用できる。希土類元素が析出する電位に設定し、定電位電解を行うことで、希土類金属を陰極に析出して回収することができる。電解析出IIでは、電気伝導度が高く、耐還元性に優れたイオン液体を使用することが望ましい。
【実施例】
【0079】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0080】
[イオン液体の調製1]
トリエチル−n−ペンチルホスホニウムカチオン(P2225+)の臭化物(日本化学工業株式会社製)と、ビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン(TFSA−)のリチウム塩(関東化学株式会社製)又はビスフルオロスルホニルアミドアニオン(FSA−)のカリウム塩(三菱マテリアル電子化成株式会社製)とを蒸留水中で温度70〜75℃で攪拌して反応させた。
前記反応で生成したイオン液体相をジクロロエタンで抽出し、エバポレーションにより溶媒を除去した。その後、100℃で72時間以上の真空乾燥を行い、水分量50ppm以下のP2225TFSA(別名:P2225TFSI)と表記されるイオン液体、又はP2225FSA(別名:P2225FSI)と表記されるイオン液体を得た。
【0081】
[イオン液体の調製2]
トリメチル−n−ヘキシルホスホニウムカチオン(N1116+)の臭化物(東京化成工業株式会社製)と、ビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン(TFSA−)のリチウム塩(関東化学株式会社製)又はビスフルオロスルホニルアミドアニオン(FSA−)のカリウム塩(三菱マテリアル電子化成株式会社製)とを蒸留水中で温度70〜75℃で攪拌して反応させた。
前記反応で生成したイオン液体相をジクロロエタンで抽出し、エバポレーションにより溶媒を除去した。その後、100℃で72時間以上の真空乾燥を行い、水分量50ppm以下のN1116TFSA(別名:N1116TFSI)と表記されるイオン液体、又はN1116FSA(別名:N1116FSI)と表記されるイオン液体を得た。
【0082】
[イオン液体の調製3]
トリエチル−n−ペンチルアンモニウムカチオン(N2225+)の臭化物(日本化学工業株式会社製)と、ビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン(TFSA−)のリチウム塩(関東化学株式会社製)又はビスフルオロスルホニルアミドアニオン(FSA−)のカリウム塩(三菱マテリアル電子化成株式会社製)とを蒸留水中で温度70〜75℃で攪拌して反応させた。
前記反応で生成したイオン液体相をジクロロエタンで抽出し、エバポレーションにより溶媒を除去した。その後、100℃で72時間以上の真空乾燥を行い、水分量50ppm以下のN2225TFSA(別名:N2225TFSI)と表記されるイオン液体、又はN2225FSA(別名:N2225FSI)と表記されるイオン液体を得た。
【0083】
[試験例1(陽極溶解試験)]
図3に記載の陽極溶解装置において、陽極にネオジム(Nd)系希土類磁石、陰極にプラチナ(Pt)電極、参照極にイオン液体系参照電極を使用した。Nd系希土類磁石の陽極溶解試験は、定電位:3.5Vで行った。陽極溶解浴として、P2225TFSA、P2225FSA、N1116TFSA、N1116FSA、N2225TFSA、又はN2225FSAを使用した。
P2225FSAを使用した陽極溶解の浴中のNd(III)イオンの濃度変化を、紫外可視分光スペクトルで測定した結果を図5に示す。図5の分光スペクトルおいて、波長580nm付近にNd(III)イオンに特有のピークが観測されており、このNd(III)イオンのピークが陽極溶解時間とともに増加していくことを確認した。陽極溶解の塩浴として、P2225TFSA、N1116TFSA、N1116FSA、N2225TFSA、又はN2225FSAを使用した場合の、陽極溶解中の塩浴におけるNd(III)イオンの濃度変化を、紫外可視分光スペクトルで同様に測定した(スペクトルの図示は略す)。
【0084】
これらの分光測定の結果に基づき、希土類元素及び鉄族元素の陽極溶出率を算出した結果を表1に示す。FSA型イオン液体を使用した方が、TFSA型イオン液体の場合よりも、鉄族元素及び希土類元素の陽極溶出率が高いことがわかる。これは、FSA型イオン液体の低粘性による溶解速度の向上に基づくものであり、より効率的な陽極溶解工程を可能とする。
【0085】
【表1】
【0086】
[鉄族元素の調製]
鉄粉末(Fe;和光純薬工業株式会社製)、コバルト炭酸塩(CoCO3;和光純薬工業株式会社製)、ニッケル炭酸塩(NiCO3;和光純薬工業株式会社製)に対して、化学量論の等量よりも僅かに多いビス(トリフルオロ)メチルスルホニルアミン(HTFSA, 関東化学株式会社製)を添加した。反応は75℃で攪拌しながら行い、すべての炭酸塩が反応したことを確認した。鉄粉末の場合は、未反応物が残留したので、この残留物をろ過して除去した。このようにして得られた溶液のエバポレーションを行って溶媒を除去し、最終的に各金属に対するTFSA塩(FeTFSA2,CoTFSA2,NiTFSA2)を得た。これらの塩の真空乾燥を100℃で72時間行って、水分を除去した。
【0087】
[希土類元素の調製]
ネオジム酸化物(Nd2O3;和光純薬工業株式会社製)又はサマリウム酸化物(Sm2O3;和光純薬工業株式会社製)に過剰量のビス(トリフルオロメチル)スルホニルアミン(HTFSA;関東化学株式会社製)を加え、蒸留水中で温度75℃に保持して、反応させた。その後、未反応の酸化物をろ過し、ろ液をエバポレーションにより濃縮した。濃縮物を真空乾燥して希土類金属塩(NdTFSA3,SmTFSA3)を調製した。
【0088】
[試験例2;鉄族元素の選択的回収1]
P2225FSAに溶解した、鉄族元素であるFeと希土類元素であるNdの還元挙動を、リニアスィープボルタンメトリ(LSV)で測定した結果を図6に示す。
図6において、Fe(II)は−1.2V付近で析出ピークが観察されており、Nd(III)は−2.8V付近で析出ピークが観察されている。このように、Fe(II)の析出電位とNd(III)の析出電位の間に1.6V程度の差があることを利用して、鉄族元素および希土類元素を溶解したイオン液体中から、電解によって、各元素を選択的に析出して回収することが可能となる。
次に、FeおよびNdを溶解したP2225FSA浴において、作用極にCu基板を用いて、−1.5Vで定電位電解を行った結果、電流効率:94.8%であることを確認した。Cu基板上に析出した電解生成物をICP−MSで分析して、析出物がFeであることを確認した。このように、鉄族元素および希土類元素を含むイオン液体中から、鉄族元素を先行分離して、選択的に回収できた。
【0089】
[試験例3;鉄族元素の選択的回収2]
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に、鉄族元素の一種であるNiTFSA2を0.1mol/lの濃度で溶解させた。このイオン液体中でのNi(II)の還元挙動に関して、水晶振動子マイクロバランス法(QCM)を利用した電気化学測定(EQCM)の結果を図7に示す。
このQCM法による振動数変化を質量変化に換算することで、電極表面上の微小な質量変化を観測できる。図7において、Ni(II)の還元反応のピークは−1.1V付近から観測され、それに対応する電極表面上の重量増加が観測されている。
この結果は、鉄族元素および希土類元素を溶解したイオン液体から、鉄族元素を分離して回収できることを示唆している。すなわち、希土類磁石を溶解したイオン液体において、希土類磁石の被覆材成分であるNiおよび希土類磁石の主成分であるFeを、電解を行って希土類元素よりも先に析出させて回収することができる。
【0090】
[試験例4;希土類元素の濃縮]
まず、P2225FSA、P2225TFSA、N2225FSA、及びN2225TFSAの各イオン液体中に、希土類塩(NdTFSA3)を希土類イオン濃度が0.1mol%となるように溶解させた。次いで、減圧下、100℃で一昼夜乾燥させた試料を電気泳動浴として使用した。
電気泳動による濃縮試験には、図4に示した電気泳動装置を使用した。浴塩温度100℃、電流密度0.22mA/mm2の条件で電気泳動電流を通電した。全電気量は積算電気量計により測定した。一定時間ごとに、泳動管中のイオン液体をフラクションとして回収した。各フラクションごとのネオジム濃度をICP−MSによって定量分析した。第四級ホスホニウムカチオン(P2225+)及び第四級アンモニウムカチオン(N2225+)の濃度を、イオンクロマトグラフによって定量分析した。
各フラクションに含まれるネオジムの濃度比を、図8及び図9に示す。回収したフラクションのうち、前半に回収したフラクションにおいて、ネオジムが濃縮されていることが明らかである。これは、陽極側に生じる内部移動度の差によってネオジムが濃縮されたためであると考えられる。
図8及び図9において、TFSA型イオン液体よりもFSA型イオン液体の方が、ネオジムをより多く濃縮していることがわかる。フラクション1においては、FSA型イオン液体の方が、ネオジムを1.5倍多く濃縮している。この理由として、FSA型イオン液体がより低粘性であること、及び、FSA型イオン液体中では、希土類イオンの錯形成状態が安定化して、希土類イオンとイオン液体を構成するカチオンとの移動度差を大きくする作用があること、が考えられる。この結果、泳動管中の上部(アノード近傍)にネオジムが留まり易くなったと考えられる。したがって、FSA型イオン液体を使用すると、TFSA型イオン液体を使用した場合よりも、電気泳動による希土類元素の濃縮の効率を高められる。
【0091】
[試験例5;希土類元素の回収]
試験例2で行ったLSV測定の結果(図6)に基づき、表2に併記した各種のイオン液体系溶媒に、0.1Mの濃度で溶解した希土類元素(Nd又はSm)を、電解析出で回収する試験を行った。
作用極にCu基板、対極に希土類金属(Nd又はSm)、参照極にイオン液体系参照電極を使用した。温度100℃、−3.2V〜−3.5Vで定電位電解を実施した。
電解試験後の陰極析出物を酸性溶液に溶解させ、ICP−MS分析装置を用いて、陰極析出物が各種希土類元素であることを同定した。その結果を表2に併記する。
この結果からFSA型イオン液体を用いると、TFSA型イオン液を用いた場合に比べて、電解析出時の電流効率が高められることが明らかである。この理由として、FSA型イオン液体は、粘度が低く、電析媒体の液間抵抗を減少させられることが考えられる。
なお、表2の「P222(1O1)TFSA」は、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムカチオンの略称である。
【0092】
【表2】
【0093】
[試験例6;鉄族元素の回収]
試験例2で行ったLSV測定の結果(図6)に基づき、表2に併記した各種のイオン液体系溶媒に、0.1Mの濃度で溶解した鉄族元素(Fe、Co、又はNi)を、電解析出で回収する試験を行った。
作用極にCu基板、対極に鉄族金属(Fe、Co、又はNi)、参照極にイオン液体系参照電極を使用した。温度100℃、−1.2V〜−1.5Vで定電位電解を実施した。
電解試験後の陰極析出物を酸性溶液に溶解させ、ICP−MS分析装置を用いて、陰極析出物が各種希土類元素であることを同定した。その結果を表3に併記する。
この結果からFSA型イオン液体を用いると、TFSA型イオン液を用いた場合に比べて、電解析出時の電流効率が高められることが明らかである。この理由として、FSA型イオン液体は、粘度が低く、電析媒体の液間抵抗を減少させられることが考えられる。
試験例5及び6の結果から、希土類元素及び鉄族元素を電解回収するための媒体として、FSAをアニオンとするイオン液体は、非常に有効であり、効率的な電解回収技術を可能とする。
【0094】
【表3】
【0095】
[試験例7;陽極溶解を兼ねた電解析出I]
陽極溶解と電解析出Iは別々に進行させる必要はなく、同時進行させることが可能である。P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に、0.1mol%のFeTFSA2を溶解させた溶液を、電解浴として使用した。陽極にNd系希土類磁石を銀線で接合した電極を使用し、希土類磁石部のみがイオン液体中に浸漬する構造とした。陰極には円筒状の銅基板に銅線を接続した電極を使用した。陽極と陰極の面積比は1:6の電極構造とした。
陽極溶解を兼ねた電解は、浴塩温度100℃において、定電位で陽極側に+1.25V、陰極側に−1.25Vを印加する条件で行った。陽極において、希土類磁石中の鉄族元素を希土類元素よりも優先的に、イオン液体中に溶出させながら、陰極において、電解析出物を生じさせた。この電解析出物を酸溶液に溶解して、ICP/MS分析を行った。その結果、電解析出物がFe及びNiの鉄族元素であることを確認した。
【0096】
また、電流密度条件を変えた場合の、陰極表面の状態の相違を、SEMによって観察して調べた。その観察結果を図10に示す。
電解析出時の陰極電流密度を22.8A・m−2にした場合、陰極表面は、平滑な光沢面となった(図10(a))。これは、陰極表面において核が生成して、方向性をもたない細かな結晶が成長したことを示唆する。この理由は、イオン液体中の反応種の物質輸送が拡散律速となり、陰極表面の原子の格子エネルギー差の影響が少なくなるためであると推測される。
一方、電解析出時の陰極電流密度を高くし過ぎた場合(69.4A・m−2)、陰極表面に電解析出物が不均一に析出して、陰極表面の平滑性が低下した(図10(b))。これは、陰極表面上で均一な核生成が進行しなかったことを示唆する。
このように、電解析出物が生成する陰極表面の平滑性を高めるためには、陰極電流密度の制御が重要となる。
【0097】
上記の方法で、陽極溶解を兼ねた電解析出Iを長時間行った結果、陽極において、希土類含有率を高められた金属(希土類磁石)が得られた。これは、陽極溶解において、陽極の希土類磁石から鉄族元素が優先的に溶出するため、希土類磁石中の希土類濃度が高められたためである。
よって、陽極溶解と電解析出Iを同時に実施することで、溶出・析出工程の短縮化による電気エネルギー消費の低減が可能となり、さらに、陽極において、希土類含有率の高い金属種を得ることができる。
【0098】
[試験例8;陽極溶解、鉄族元素の電解析出、希土類元素の濃縮、及び希土類元素の電解析出]
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に、各0.5mol%の濃度でNdTFSA3及びFeTFSA2を溶解させた。これらのTFSA塩を予め溶解させておく理由は、陽極溶解及び電解析出では、イオン液体中に溶解している同じ金属イオン種(ここではNd(III),Fe(II))の有り無しにより、印加電圧(過電圧)が異なるためである。すなわち、前記TFSA塩を予め溶解しておくことにより、過電圧を低くした上で、できる限り低い印加電圧によって、陽極溶解或いは電解析出を行うことができるためである。イオン液体のアニオンとして、TFSAを用いているので、鉄族元素および希土類元素を比較的高濃度で、電解浴に予め溶解しておくことができる。
【0099】
この希土類及び鉄族元素を含むイオン液体を電解浴として使用した。
まず、陽極溶解では、陽極にNd系希土類磁石を使用し、陰極に銅基板を使用した。参照極として、EMITFSA(エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド)中に0.1MのAgCF3SO3を溶解させて、銀線を浸漬させた構造の電極を使用した。Nd系希土類磁石中の希土類元素及び鉄族元素をイオン液体中に溶解させるため、浴塩温度を100℃として、3.12Vの電圧を印加して、180分間の陽極溶解を実施した。その結果、陽極の重量が減少した。また、使用した浴塩中の各イオン濃度をICP/MSにより分析した結果、Fe及びNdが、初期濃度より増加していた。
【0100】
次の電解析出Iでは、陽極のNd系希土類磁石を浴塩から引き上げて、陽極の新しい電極として、Nd金属を使用した。陰極も新しい銅基板に取り換えた。定電位電解において、浴塩温度を100℃として、−1.25Vにて355分間の電解を実施した。
その結果、陰極に6.3mgの電解析出物が得られた。この電解析出物のEDX分析の結果を図11に示す。Pt由来のピークは、SEM観察のために行った蒸着処理によるものである。このEDX分析の結果では、Fe由来のピークが観察され、Nd由来のピークは観察されない。これは、電解析出Iにおいて、鉄族元素を選択的に回収できたことを意味する。また、電解析出物の回収量から計算した陰極電流効率は、95.8%であった。つづいて、2回目の定電位電解では、陰極を新しい銅基板に取り換えて、1回目と同じ浴塩温度で、−1.35Vにて295分間の定電位電解を行った。
その結果、陰極に5.2mgの鉄族元素が析出した。この際の陰極電流効率は95.1%であった。同様の電解析出を合計4回実施し、電解析出物の全回収量と仕込み濃度から計算した結果、電解回収率は94.1%であり、イオン液体中の鉄族元素は概ね回収できた。
【0101】
次の段階では、イオン液体中に残存する希土類元素(Nd)を回収するため、該イオン液体の浴槽中に、電気泳動用の分離管(陽極)、及び該イオン液体に液絡部を介して接触する構造の陰極を浸漬させて、電気泳動を行った。浴塩温度を100℃、平均電流密度を0.136mA/mm2、平均通電時間を168分として、電気泳動を行った。電気泳動によって濃縮された希土類元素を含むイオン液体を、順次、分離管の外に取り出した。
電気泳動を合計3回行った後、回収したNd濃度をICP/MS分析した結果、当該イオン液体中のNd濃度が高められていた。
【0102】
次の電解析出IIでは、この希土類濃度を高めたイオン液体浴を使用した。この浴塩中に、陽極として白金線を浸漬し、陰極として銅基板を浸漬させた。浴塩温度100℃、−2.92Vにて445分間の定電位電解を行った。
その結果、陰極に7.8mgの電解析出物が得られた。この電解析出物は、EDX分析(図12)を行った結果、Ndであった。図12におけるPt由来のピークは、SEM観察のために行った蒸着処理によるものである。また、電解析出物の回収量から計算した陰極電流効率は、94.6%であった。
【0103】
以上の結果から、陽極溶解及び電解析出によって、希土類元素および鉄族元素が含まれるイオン液体中から鉄族元素を分離・回収した後、電気泳動によって希土類元素を濃縮して、電解析出によって希土類元素を高効率で回収できることが明らかである。
【0104】
[試験例9;陽極溶解、鉄族元素の電解析出、及び希土類元素の電解析出]
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に各0.5mol%の濃度でNdTFSA3とFeTFSA2を溶解させた。この希土類元素及び鉄族元素を含むイオン液体を電解浴として使用した。
まず、陽極溶解では、陽極としてNd系希土類磁石を使用し、陰極として銅基板を使用した。参照極は、EMITFSA中に0.1MのAgCF3SO3を溶解させて、銀線を浸漬させた構造の電極を使用した。Nd系希土類磁石中の希土類元素及び鉄族元素をイオン液体中に溶解させるため、浴塩温度を100℃として、−3.25Vの電圧を印加して、650分間の陽極溶解を実施した。その結果、陽極の重量が減少した。また、使用した浴塩中の各イオン濃度の増加をICP/MS分析により確認した。ここで、陽極溶解の電位印加時間を、前述の試験例8の場合よりも長くし、総通電量を多くすることによって、イオン液体中の希土類イオン濃度を十分に高められた。
【0105】
次の電解析出Iでは、陽極のNd系希土類磁石を浴塩から引き上げて、陽極に新しい電極として、Nd金属を使用した。陰極も新しい銅基板に取り換えた。定電位電解において、浴塩温度を100℃として、−1.2Vにて495分間の電解を実施した。
その結果、陰極には8.7mgの電解析出物が得られた。この電解析出物が、試験例8ではFeであったように、全てFeであると仮定した場合の陰極電流効率は、94.9%であった。つづいて、2回目の定電位電解では、陰極を新しい銅基板に取り換えて、1回目と同じ浴塩温度で、−1.3Vにて475分間の定電位電解を行った。
その結果、陰極に8.2mgの鉄族元素(Fe)が析出した。この際の陰極電流効率は93.2%であった。同様の電解析出を合計3回実施し、電解析出物の全回収量と仕込み濃度から計算した結果、電解回収率は96.5%であり、イオン液体中の鉄族元素は概ね回収できた。
【0106】
次の電解析出IIでは、前記鉄族元素を概ね回収した電解浴を引き続き使用した。この浴中に、陽極として白金線を浸漬し、陰極として銅基板を浸漬させた。浴塩温度100℃、−2.95Vにて515分間の定電位電解を行った。
その結果、9.2mgの電解析出物が得られた。この電解析出物が、試験例8ではNdであったように、全てNdであると想定した場合の陰極電流効率は、96.4%であった。電解析出物を酸溶液に溶解して、ICP/MSによって分析したところ、電解析出物はNdであった。
【0107】
以上の結果から、希土類元素がNdの場合は、イオン液体中への溶解度が大きいだけでなく、陽極溶出速度も速いため、陽極溶解で電解浴中の希土類イオン濃度を予め高めておくことができた。故に、電解析出によって電気化学的に貴な鉄族元素を選択的に分離・回収した後、電気泳動を行わなくても、電解析出IIにおいて、希土類元素を高効率で回収できることが明らかである。
【0108】
[試験例10;各種イオン液体中のNd(III)の拡散係数測定、及びNd(III)の電解析出]
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体(以下では、「P2225(0.67TFSA,0.33FSA)」と表記することがある。)、P2225TFSA、およびP2225FSAの3種類のイオン液体中に、Nd(III)の濃度が0.5mol%となるように、NdTFSA3又はNdFSA3を溶解させた。
ここで、希土類FSA塩の作製方法は、次の通りである。グローブボックス中でKFSAを秤量後、ニトロメタンを加えて溶解させ、HClO4(和光純薬工業株式会社製)と混合して、次の反応(KFSA+HClO4→HFSA+KClO4)によりHFSAを合成した。その後、30分攪拌して反応を完結させた。ここで、沈殿した白色物(KClO4)をろ過して除去した。次に、ろ過後の溶液に希土類酸化物を加え、希土類FSA塩を合成した。合成した希土類FSA塩は50℃で48時間以上真空引きして、溶媒を除去した。
【0109】
次に、この希土類イオンを含むイオン液体中におけるNd(III)の拡散係数測定は、クロノポテンショメトリ等の電気化学測定から算出した。その結果を表4に示す。TFSAとFSAを混合したアニオンを含むイオン液体は、FSAの混合割合が0.33の場合に、Nd(III)の拡散係数が高くなった。
また、前記3種類のイオン液体を電解浴として使用し、これらの浴塩中に、陽極としてNdロッドを浸漬し、陰極として銅基板を浸漬させた。浴塩温度を100℃として、−2.92Vにて265分間の定電位電解を行った。その際の陰極電流効率を表4に示す。
TFSAとFSAを混合したアニオンを含むイオン液体では、陰極電流効率が高かった。陰極で得られた電解析出物は、酸溶液に溶解してICP/MSで分析したところ、Ndであった。
【0110】
試験例10のイオン液体を用いることによって、イオン液体における希土類イオンの拡散係数を高くし、陰極電流効率を高くすることができる。このため、このイオン液体中の希土類を電気泳動により濃縮する効率および電解析出により回収する効率を高められる。
【0111】
【表4】
【0112】
ここで、試験例4等の電気泳動における「イオンの移動度」と、試験例10における「イオンの拡散係数」とは意味が異なることに言及しておく。
すなわち、拡散は、電場が発生していない媒体中において、電極表面と溶液沖合の間に生じる濃度分布(濃度差)から生じるイオン種の物質移動速度のことである。一方、移動度は、電場を生じた媒体中において、カチオンはカソード方向へ、アニオンはアノード方向に動く際の、イオン種の物質移動速度に相当する。故に、拡散係数と移動度とは、その意味が異なる。
一例として、リチウムのようなイオン半径の小さいイオン種は、拡散係数が高い。一方、その移動度は、リチウム周りに存在するアニオンから受ける相互作用(ポテンシャル障壁)により変わるため、一概に高いとは言えない。実際のところ、リチウムの移動度は、ナトリウムやカリウムよりも低くなる。このように、拡散係数が高い場合に、必ずしも移動度が高いとは言えない。
電気泳動工程では、拡散や対流効果を無視できる環境を泳動管の中に作り出しているので、希土類イオンと溶媒を構成するカチオンとの間に、一定の移動度差を生じさせられる。これに基づいて、希土類イオン(希土類元素)が濃縮されることを、その原理としている。一方、電解析出工程では、ある特定の電場を発生させた場合、電極表面と溶液沖合との間に、拡散層と呼ばれる、ある幅をもった濃度分布が生じる。ここでは、金属が析出する電析過程は、泳動や対流という物質移動が支配的ではなく、拡散が律速段階(反応過程を決める段階のこと)になる。よって、電解析出過程の効率は、拡散係数の大小が1つの判断基準となる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の鉄族元素及び希土類元素の回収方法は、希土類系磁石等から鉄族元素及び希土類元素を回収するために広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0114】
10…回収装置、11…第一の槽、12…陽極電解用電極(部)、13…陽極、14…陰極、15…資源、16…第一の電極(部)、17…陽極、18…陰極、19…析出物、20…第二の電極(部)、21…陽極、22…陰極、24…析出物、26…電気泳動用電極(部)、27…陽極、28…陰極、29…保護管、30…泳動管、31…先端部、32…導出管、34…イオン液体、36…第三の電極(部)、37…陽極、38…陰極、39…第二の槽、40…イオン液体、43…析出物、80…電気泳動装置、81…電源、82…槽、83…陽極、84…保護管、85…泳動管、86…先端部、87…クーロメーター、88…陰極、89…析出物受け皿、90…イオン液体、100…電解析出装置、101…電源、102…槽、103…陽極、104…絶縁管、105…資源、106…イオン液体、107…参照極、108…陰極、109…絶縁管、110…析出物、111…析出物受け皿。
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法、並びに鉄族元素及び希土類元素の回収装置に関する。より詳しくは、イオン液体に鉄族元素及び希土類元素を溶解させて、電気化学的方法により回収する鉄族元素及び希土類元素の、イオン液体を利用した回収方法、並びにイオン液体に鉄族元素及び希土類元素を溶解させて、電気化学的方法により回収する鉄族元素及び希土類元素の回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レアメタルは小型家電製品等、身近な製品に使用されており、その高機能化や小型集積化により、今後の需要はさらに高まることが推測される。近年、環境省では、循環型社会形成推進研究事業として、廃家電製品からのレアメタル回収及び廃棄物処理技術の開発を重点化している。このような社会的背景の下で、例えば、レアメタルの中でも特に希土類元素(レアアース)が着目されており、HDDのヘッドやモーター用の希土類磁石中に含有されている希土類元素及び鉄族元素を回収する、環境負荷の低い、高効率な方法の開発が望まれている。
【0003】
「希土類磁石」とは、希土類元素を用いて作られる永久磁石のことであり、以下のものが実用化されている。
(i)ネオジム磁石
現在実用化されている単位面積辺りの磁力密度が最大の磁石であり、組成はNd2Fe14Bである。磁石表面の腐食抑制のため、Ni,Cu,Niの三層構造から成る被覆材がコーティングされていることが多い。
(i i)サマリウム−コバルト磁石
耐熱性及び耐久性に優れており、組成はSmCo5及びSm2Co17である。
(i i i)サマリウム鉄窒素磁石
ネオジム磁石を超える性能をもつ磁石として開発されてきたが、熱に弱いため、ボンド磁石として使われている。
(iv)プラセオジム磁石
機械的強度が高いことに優れており、組成はPrCo5である。
【0004】
上記の希土類磁石は、鉄族元素および希土類を含む合金の形態であり、被覆材にも鉄族元素が含まれていることが多い。ここで、「鉄族元素」とは、周期表上で第4周期の第8、9、10族の元素、すなわち、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の三元素の総称である。この鉄族元素は全て遷移金属であり、常温、常圧で強磁性を示すことを特長とする。
【0005】
希土類−遷移金属合金からの有用元素の回収技術については、報告例がある(特許文献1)。この方法は、1)合金を、鉱酸のアンモニウム塩水溶液に浸漬する工程、2)溶液に酸素を含む気体を流通させ、合金を酸化させて、酸化物及び水酸化物等を主体とする沈殿物を得る工程、3)沈殿物を分離する工程、4)分離した沈殿物から希土類元素を回収する工程、の4工程から構成される。
この湿式法と呼ばれる方法において、鉱酸(酸溶液)を利用する分離・回収工程では、大量の酸や有機溶媒を使用するので、比較的多くの二次廃棄物が生じる。このため、環境負荷が高くなるという問題がある。
【0006】
一方、乾式法として、高温溶融塩を利用して希土類元素と鉄族元素を含む物質から高純度の希土類元素を回収する方法が提案されている(特許文献2)。この方法は、気体もしくは溶融状態の鉄塩化物に、希土類磁石のスクラップもしくはスラッジ等の希土類元素と鉄族元素を含む物質を接触させ、鉄族元素の金属状態を保ったまま、希土類元素の塩化反応を進行させる方法である。この方法は、希土類元素を塩化物として選択的に回収することを特長とする回収方法である。
この回収方法に限らず、一般的に溶融状態を利用する方法は、非常に高温(800℃程度)で行われるため、炉材料の腐食や膨大な熱エネルギーの消費が免れず、近年の省エネルギー指向のプロセスに適さない。また、目的の化学反応を進行させるために、大掛りで複雑な設備が必要となる場合が多い。
【0007】
近年、環境保全意識の高まりとともに、難燃性・難揮発性といった環境調和型特性を有するイオン液体を利用する研究分野が急速に進展してきている。イオン液体はカチオンとアニオンの種類により数多くの種類が存在し、例えば以下の技術が報告されている。
【0008】
[イオン液体中での鉄族元素・希土類元素の回収技術]
イオン液体を利用した鉄族元素(コバルト:Co)の回収例として、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボーレイト(BMIm-BF4)中で、Coを電解回収した報告例が存在する(非特許文献1)。
イオン液体中での希土類元素の回収に対しては、1-オクチル-1-メチルピロリジニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド(OMP-TFSA)中で、希土類元素(ランタン:La)を回収した報告例が存在する(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第03/078671号パンフレット
【特許文献2】特開2003−73754号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Caina Su et al., Appl. Surf. Sci., 256 (2010) 4888-4893.
【非特許文献2】S. Legeai et al., Electrochem. Commun., 10 (2008) 1661-1664.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記非特許文献では、鉄族元素又は希土類元素を回収する方法が報告されているが、その回収効率は必ずしも十分とは言えず、より高効率な回収方法が望まれている。また、鉄族元素および希土類元素を含む物質(例えば磁石等の合金)から、鉄族元素と希土類元素とを選択的に回収する方法の開発が強く望まれている。
また、鉄族元素と希土類元素の選択的な回収を、低温かつ大気中で実施するための方法が確立されておらず、簡便な装置で、かつ安全に行うことができる鉄族元素および希土類元素の回収技術の確立が強く望まれている。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、鉄族元素及び希土類元素をイオン液体に溶解させ、これらを選択的に分離する鉄族元素及び希土類元素の回収方法、並びに該回収方法に用いうる鉄族元素及び希土類元素の回収装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体から、該鉄族元素を電解析出により回収する工程Aと、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体から該希土類元素を電解析出により回収する工程Bと、を含む鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法であり、前記イオン液体は、式PR1R1R1R2で表される四級ホスホニウムのカチオン、又は式NR3R3R3R4で表される四級アンモニウムのカチオンと、テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド、(N[SO2(CF2)nCF3]2)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、ハロゲン、ジアルキルリン酸((R5O)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((R6O)2PSS)、及び脂肪族カルボン酸(R7COO)からなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとから構成されることを特徴とする。
[上記オニウムカチオンの式中、R1およびR3は、置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R2およびR4は置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。上記オニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R1とR2とは互いに異なる基である。複数のR3はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R3とR4とは互いに異なる基である。nは0〜5の整数を表す。また、R5、R6、及びR7は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、又は脂環状のアルキル基である。]
本発明の請求項2に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、請求項1において、前記工程Aを経たイオン液体を電気泳動して、該イオン液体に含まれる希土類元素を濃縮する工程Cを、前記工程Bの前に備えることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、請求項1又は2において、前記工程Aにおいて、前記資源に含有される鉄族元素を前記イオン液体に溶解させつつ、該鉄族元素を電解析出により回収することを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の鉄族元素及び希土類元素の回収装置は、第一の槽内において、鉄族元素及び希土類元素を含む資源を溶解させたイオン液体から鉄族元素を電解析出により回収する第一の電極、及び該第一の電極による処理を経たイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第二の電極を有する第一処理部と、第一の槽内において、前記第二の電極による処理を経たイオン液体に残存する希土類元素を電気泳動により濃縮する第二処理部と、第二の槽内において、前記第二処理部で濃縮された希土類元素を含むイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第三の電極を有する第三処理部と、を少なくとも備える装置である。
【0014】
本明細書および本特許請求の範囲において、「鉄族元素」とは、鉄、コバルト、ニッケルをいう。また、「希土類元素」とは、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドをいう。また、本明細書および本特許請求の範囲において、「オニウム」とは、ホスホニウムおよびアンモニウムを包括する呼称である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の鉄族元素及び希土類元素の回収方法によれば、鉄族元素及び希土類元素をイオン液体に溶解させ、これらを選択的に分離して、高効率で回収方法を提供することができる。本発明にかかる方法は、比較的低温で、かつ大気中で実施することができる。また、使用したイオン液体は、本発明の鉄族元素及び希土類元素の回収方法に再利用することができる。また、得られた鉄族元素及び希土類元素は、種々の工業製品に有用である。
したがって、本発明にかかる方法は、低環境負荷で資源を再利用することを可能にするものである。
【0016】
本発明の鉄族元素及び希土類元素の回収装置によれば、第一の槽内において、イオン液体に溶解された鉄族元素および希土類元素を電解析出により選択的に回収し、該イオン液体に残存する希土類元素を電気泳動により濃縮して第二の槽内に移して、該第二の槽内において、濃縮された希土類元素を電解析出により回収することができる。このように、比較的簡便な装置構成で実施できるため、回収コストの低減を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の鉄族元素及び希土類元素の回収方法の第一態様に用いることのできる回収装置の一例。
【図2】廃希土類磁石中の鉄族元素・希土類元素リサイクル方法の模式図
【図3】本発明に用いることのできる陽極溶解に使用できる装置の一例
【図4】本発明に用いることのできる電気泳動装置の一例
【図5】P2225FSAを使用した陽極溶解の浴中における、Nd(III)の分光スペクトルの経時変化
【図6】P2225FSAに溶解したFe(II), Nd(III)のLSV測定結果
【図7】P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中におけるNi(II)のEQCM測定の結果
【図8】P2225FSA, P2225TFSA中でNd(III)を泳動濃縮した結果
【図9】N2225FSA, N2225TFSA中でNd(III)を泳動濃縮した結果
【図10】異なる電流密度で陰極表面に析出した電解析出物のSEM観察結果
【図11】電解析出物のEDX分析の結果
【図12】電解析出物のEDX分析の結果
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳しく説明する。
<鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法>
本発明の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体から、該鉄族元素を電解析出により回収する工程Aと、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体から該希土類元素を電解析出により回収する工程Bと、を含む回収方法である。
この回収方法に用いることができる鉄族元素及び希土類元素の回収装置の一例として図1に記載の回収装置10が挙げられる。
【0019】
回収装置10は、第一の槽11内において、鉄族元素及び希土類元素を含む資源を溶解させたイオン液体から、鉄族元素を電解析出により回収する第一の電極16、及び該第一の電極16による処理を経たイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第二の電極20を有する第一処理部と、第一の槽11内において、前記第一の電極16による処理又は前記第二の電極20による処理を経たイオン液体に含まれる希土類元素を電気泳動により濃縮する第二処理部と、第二の槽39内において、前記第二処理部で濃縮された希土類元素を含むイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第三の電極36を有する第三処理部と、を少なくとも備えている。
【0020】
本発明にかかる回収方法の第一態様は、以下の通りである。
まず、イオン液体α1中に鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体β1を得る。
その後、イオン液体β1に溶解している前記鉄族元素を電解析出により回収して得るとともに、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体γ1を得る工程Aを行う。
つづいて、イオン液体γ1から前記希土類元素を電解析出により回収して得るとともに、該希土類元素の回収処理を経たイオン液体δ1を得る工程Bを行う。
【0021】
工程Bにおいて、イオン液体γ1中の希土類元素の濃度が低い場合、電解析出による希土類元素の回収効率が低いことがある。この場合、前記工程Aを経たイオン液体γ1を電気泳動して、該イオン液体γ1に含まれる希土類元素を濃縮する工程Cを、工程Bの前に行うことが好ましい。工程Cにおいて、希土類元素が濃縮されたイオン液体ε1を得る。その後、工程Bにおいて、イオン液体ε1に溶解している希土類元素を電解析出により回収して得るとともに、該希土類元素の回収処理を経たイオン液体δ1を得る。
【0022】
工程Cでイオン液体ε1中の希土類元素の濃度を高めることによって、工程Bでイオン液体ε1から希土類元素を電解析出用の電極に析出させることが容易となり、希土類元素の回収効率を高めることができる。
【0023】
工程Bで得られたイオン液体δ1中に、微量の希土類元素が残存することがある。この場合、イオン液体δ1を電気泳動して、該イオン液体δ1に含まれる希土類元素を濃縮する工程Dを行っても良い。工程Dにおいて、残存する希土類元素が濃縮されたイオン液体ζ1が得られる。その後、このイオン液体ζ1に溶解している希土類元素を電解析出により回収して得るとともに、該希土類元素の回収処理を経たイオン液体η1を得る工程Eを行っても良い。
【0024】
工程Bで使用するイオン液体γ1若しくはイオン液体ε1、及び工程Eで使用するイオン液体ζ1は、前記鉄族元素の回収処理を経たイオン液体である。よって、本発明にかかる回収方法では、これらのイオン液体から、電解析出によって、前記希土類元素を回収できる。
【0025】
前記イオン液体α1〜η1は、溶媒としてのイオン液体の種類は同一であり、溶解しているものが異なる。
前記イオン液体(イオン液体α1)は、式PR1R1R1R2で表される四級ホスホニウムのカチオン、又は式NR3R3R3R4で表される四級アンモニウムのカチオンと、
テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド(N[SO2(CF2)nCF3]2)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、ハロゲン、ジアルキルリン酸((R5O)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((R6O)2PSS)、及び脂肪族カルボン酸(R7COO)からなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとから構成される。
【0026】
前記オニウムカチオンの式中、R1は置換基を有していてもよいし、置換基を有していなくてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。
【0027】
R1が置換基を有するアルキル基である場合、該アルキル基における水素原子の一部または全部が、水素原子以外の基または原子で置換されている。該置換基としては、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素数1〜5のフッ素化低級アルキル基、酸素原子(=O)等が挙げられる。
【0028】
R1における炭素数2〜6の直鎖状アルキル基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。
R1における炭素数2〜6の分岐状アルキル基としては、例えば、1−メチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
R1における炭素数2〜6の脂環状アルキル基としては、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が挙げられる。
R1における炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
【0029】
上記のなかでも、R1としては、炭素数2〜6の直鎖状又は分岐状アルキル基が好ましく、炭素数2〜6の直鎖状アルキル基がより好ましく、エチル基又はプロピル基がさらに好ましい。
【0030】
前記オニウムカチオンの式中、R2は置換基を有していてもよいし、置換基を有していなくてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。
【0031】
R2が置換基を有するアルキル基である場合、該アルキル基における水素原子の一部または全部が、水素原子以外の基または原子で置換されている。該置換基としては、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素数1〜5のフッ素化低級アルキル基、酸素原子(=O)等が挙げられる。
【0032】
R2における直鎖状アルキル基としては、炭素数1〜10であることが好ましく、3〜8がより好ましく、炭素数4〜6がさらに好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基、トリデカニル基、テトラデカニル基が挙げられる。
【0033】
R2における分岐状アルキル基としては、炭素数3〜10であることが好ましく、3〜8がより好ましく、炭素数4〜6がさらに好ましい。具体的には、例えば、1−メチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基などが挙げられる。
【0034】
R2における脂環状アルキル基としては、炭素数5〜12であることが好ましく、5〜10がより好ましく、炭素数5〜6がさらに好ましい。例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等のモノシクロアルキル基が挙げられる。
【0035】
R2における炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
【0036】
上記のなかでも、R2としては、炭素数3〜9の直鎖状又は分岐状アルキル基が好ましく、炭素数4〜7の直鎖状アルキル基がより好ましく、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基がさらに好ましい。
【0037】
前記オニウムカチオンの式中、複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R1とR2とは互いに異なる基であり、前記ホスホニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
【0038】
本発明において、R1が炭素数2〜4のアルキル基で、R2が炭素数1〜12のアルキル基であるテトラアルキルオニウム塩(イオン液体)は、融点が低く、鉄族金属イオン及び希土類イオンの溶解性に優れ、難燃性を有し、低温においても粘性が低く、良伝導体となるので好ましい。
また、R1が炭素数2〜4のアルキル基で、R2が炭素数1〜2のアルコキシ基であるオニウム塩(イオン液体)は、室温においても粘性が低く、良伝導体となるため、より好ましい。
【0039】
また、他の具体的なR1とR2との好ましい組み合わせとしては、R1がエチル基又はプロピル基であり、且つR2がブチル基、ペンチル基又はヘキシル基である。該組み合わせであることにより、前記イオン液体の疎水性、粘性、融点等の物理化学的特性が、鉄族元素及び希土類元素を溶解させて、電解析出により析出させるのに適したものとなる。
【0040】
また、上記オニウムカチオンの式中、R3は置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R4は置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、複数のR3はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R3とR4とは互いに異なる基であり、アンモニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
【0041】
R3の具体的な説明は、前述のR1の具体的な説明と同じである。
R4の具体的な説明は、前述のR2の具体的な説明と同じである。
また、R3とR4との好ましい組み合わせの具体的な説明は、前述のR1とR2との好ましい組み合わせの具体的な説明と同じである。
【0042】
前記イオン液体におけるアニオンは、テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド(N[SO2(CF2)nCF3]2)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、ハロゲン、ジアルキルリン酸((R6O)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((R5O)2PSS)、及び脂肪族カルボン酸(R7COO)からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0043】
N[SO2(CF2)nCF3]2におけるnは0〜5の整数であり、0〜3が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0044】
R5、R6、及びR7は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、又は脂環状のアルキル基である。
R5、R6、及びR7の説明および具体例は、前述のR2と同じである。
【0045】
以下では、ビスフルオロスルホニルアミド(別名:ビスフルオロスルホニルイミド)を「FSA」と略記する。また、ビストリフルオロメチルスルホニルアミド(N[SO2CF3]2)(別名:ビストリフルオロメチルスルホニルイミド)を「TFSA」と略記する。
【0046】
本発明におけるイオン液体のカチオンとしては、前記ホスホニウムのカチオンが好ましく、R1がエチル基又はプロピル基であり、且つR2がブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、メトキシ基、又はエトキシ基である前記ホスホニウムのカチオンがより好ましい。
本発明におけるイオン液体のアニオンとしては、ビストリフルオロメチルスルホニルアミド(TFSA)、ビスフルオロスルホニルアミド(FSA)、及びジシアナミドが好ましい。これらのアニオンがテトラアルキルホスホニウム塩(イオン液体)を構成した場合に、その塩浴の粘性が、室温付近でも低く、疎水性であるため好ましい。また、これらのアニオン中でも、FSAがより好ましい。FSAをアニオンとするイオン液体は、カチオンがホスホニウムの場合に限らず、多くのカチオン種との間でイオン液体を形成でき、粘性が低く、導電性が高いためより好ましい。
【0047】
したがって、本発明における好適なイオン液体の具体例としては、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
【0048】
これらのなかでも、トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、がより好適である。
【0049】
本発明におけるイオン液体は10〜100℃において難揮発性の液体であり、鉄族元素及び希土類元素を溶解することができる。
【0050】
鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を前記イオン液体(イオン液体α1)に溶解させる方法としては、前記資源から効率よくイオン液体α1へ鉄族元素及び希土類元素を溶解させられる方法であれば特に制限されない。例えば、前記資源をイオン液体α1中に浸漬して、該資源に含有される鉄族元素及び希土類元素をイオン液体α1中に溶出させる方法や、前記資源に電圧を印加して陽極溶解することにより、該資源に含有される鉄族元素及び希土類元素をイオン液体α1へ溶解させる方法が挙げられる。陽極溶解する方法が、効率に優れるため好ましい。
【0051】
前記陽極溶解する方法を、図1で説明する。第一の槽11にはイオン液体34(イオン液体α1)が入れられており、電源(ポテンショスタット)に接続された陽極13、陰極14、及び参照極(図示略)を有する陽極電解用電極12がイオン液体α1に浸漬されている。陽極13の先端部には前記資源15が付けられている。陽極13の該資源15以外の部位の周りには絶縁管(図示略)が設けられている。陽極13と陰極14の間に前記参照極で設定した電位を印加することにより資源15から、鉄族元素および希土類元素を陽極電解してイオン液体α1へ溶解させることができる。前記電位の設定は、溶解させる元素の酸化電位に相当する電極電位から貴な側に0.1V程度とすればよい。例えば、鉄族元素(Fe)を溶解させる場合は、Feの酸化電位に相当する電極電位から貴な側に0.1V程度をポテンショスタットで設定する。
【0052】
上記のように陽極溶解を行うことにより、イオン液体α1中に鉄族元素及び希土類元素を溶解することにより、イオン液体β1が得られる。
【0053】
上記のように、陽極13側で資源15の陽極溶解を行う一方、陰極14側では、イオン液体α1中への溶出が速く、希土類元素よりも電気化学的に貴な物質又は不純物が析出して回収又は除去される。これを利用して、陽極13で鉄族元素を溶出させつつ、陰極14で該鉄族元素を析出させて回収することも可能である。
つまり、工程Aにおいて、資源15に含有される鉄族元素をイオン液体α1に溶解させつつ、該鉄族元素を電解析出によって、陰極14で回収することができる。この場合、陽極溶解と電解析出とを並行して行うので、回収に要する時間を短縮できる。
また、資源15に含有される鉄族元素および希土類元素のうち、鉄族元素を優先的に溶解させることも可能である。この場合、資源15に含有される希土類元素の濃度を高めることができる。希土類元素の濃度が高まった資源15を、そのまま回収してもよい。
【0054】
第一処理部の第一の電極12において、イオン液体α1に、陽極13で鉄族元素を溶出させつつ、陰極14で該鉄族元素を析出させて回収する方法としては、陽極13における陽極溶解は前述の方法で行い、それと同時に、陰極14における電解析出は後述の方法で行う方法が挙げられる。すなわち、陽極13には鉄族元素が溶出する電位を印加し、陰極14には鉄族元素が析出する電位を印加することによって、行うことができる。
【0055】
イオン液体α1中に浸漬する資源15としては、例えば、電子機器の廃品として回収された希土類磁石が挙げられる。
【0056】
前記工程Aにおいて、イオン液体β1に溶解している前記鉄族元素を電解析出により回収する方法を、図1で説明する。第一の槽11にはイオン液体34(イオン液体β1)が入れられており、電源(ポテンショスタット)に接続された陽極17及び陰極18がイオン液体β1に浸漬されている。このような構成を有する第一処理部の第一の電極16において、陽極17と陰極18の間に鉄族元素(鉄族金属)が析出する電位を印加することにより、イオン液体β1から鉄族元素を選択的に陰極18に析出して鉄族金属19として回収することができる。
【0057】
前記鉄族元素が析出する電位は、イオン液体α1,β1のサイクリックボルタンメトリー(CV)を予め測定し、鉄族元素および希土類元素の各還元電位ピークに基づいて設定することができる。このとき、陰極電流効率を高める観点から、各還元電位ピークよりも−0.1V側に設定することが好ましい。
【0058】
上記のように、イオン液体β1中に溶解している鉄族元素及び希土類元素から、鉄族元素を選択的に電解析出して回収することにより、イオン液体β1は希土類元素を溶解しているイオン液体γ1となる。
【0059】
前記工程Bにおいて、イオン液体γ1又はイオン液体ε1に溶解している前記希土類元素を電解析出により回収する方法を、図1で説明する。第一の槽11にはイオン液体イオン液体γ1又はイオン液体ε1が入れられており、電源(ポテンショスタット)に接続された陽極21及び陰極22がイオン液体γ1に浸漬されている。このような構成を有する第一処理部の第二の電極20において、陽極21と陰極22の間に希土類元素が析出する電位を印加することにより、イオン液体γ1又はイオン液体ε1から希土類元素を選択的に陰極22に析出して希土類金属24として回収することができる。
【0060】
前記希土類元素が析出する電位は、イオン液体γ1又はイオン液体ε1のサイクリックボルタンメトリー(CV)を予め測定し、希土類元素の還元電位ピークに基づいて設定することができる。このとき、陰極電流効率を高める観点から、還元電位ピークよりも−0.1V側に設定することが好ましい。
【0061】
上記のように、イオン液体γ1又はイオン液体ε1中に溶解している希土類元素を電解析出して回収することにより、イオン液体γ1又はイオン液体ε1は低濃度の希土類元素が残存して溶解しているイオン液体δ1として得られる。
【0062】
前記工程C又は工程Dにおいて、工程Cで使用するイオン液体γ1、又は工程Dで使用するイオン液体δ1に溶解している前記希土類元素を電気泳動により濃縮する方法を、図1で説明する。
第一の槽11にはイオン液体34(イオン液体γ1又はイオン液体δ1)が入れられており、電源(直流安定化電源)に接続された陽極27及び陰極28を有する電気泳動用電極26がイオン液体34に浸漬されている。陽極27の先端部がイオン液体34の液面付近に浸漬され、陽極27の腐食を防止するための非導電性の保護管29が陽極27の周りに設けられている。該液面下における保護管29はイオン液体34の深部まで延びた泳動管30となる。泳動管30は中空であり、内部はアルミナ等の非導電性のセラミックス製粒子が充填されている(図示略)。イオン液体34が泳動管30の内部へ浸透により流入する。
【0063】
前記保護管29は、陽極27の先端部が浸漬されている液面部において、導出管32が分岐している。図1には示していないが、導出管32にはポンプ等の送液装置が備えられており、陽極27近辺のイオン液体34を吸引して導出管32へ導いて、第二の槽39へ適宜送液することができる。
【0064】
上記の構成を有する第二処理部の電気泳動用電極26において、陽極27と陰極28の間に直流で通電させることにより、希土類元素(希土類イオン)が泳動管30の先端31から泳動管30内部へ電気泳動により導かれて、陽極27付近へ濃縮される。濃縮された希土類元素は、泳動管30内部に充填された前記セラミックス製粒子があるので、泳動管30外へ拡散せず、泳動管30内で保持される。
【0065】
前記直流の電流密度は特に制限されないが、0.01〜10.0mA/mm2が好ましく、0.05〜5.0mA/mm2がより好ましく、0.1〜1.0mA/mm2がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であることにより、効率の良い電気泳動を行うことができる。また、上記範囲の上限値以上であることにより、イオン液体δ1の温度を高めることなく、室温〜100℃以下というイオン液体が十分に安定な温度で電気泳動を行うことができる。
【0066】
このような電気泳動により、陽極27付近に濃縮された希土類元素(希土類イオン)を含むイオン液体ε1又はイオン液体ζ1が得られる。なお、該イオン液体ε1は工程Cで得られるものであり、該イオン液体ζ1は工程Dで得られるものである。
【0067】
イオン液体ε1又はイオン液体ζ1を導出管32により適宜第二の槽39へ送液して、第二の槽39、並びに陽極37及び陰極38を有する第三の電極36を備えた構成の第三処理部おいて、電解析出を行うことにより、イオン液体ε1又はイオン液体ζ1から希土類元素を回収することによって、純度の高い希土類元素を得ることができる。
ここで、電解析出によってイオン液体ε1から希土類元素を回収することは、前記工程Bに該当する。一方、電解析出によってイオン液体ζ1から希土類元素を回収することは、前記工程Eに該当する。
【0068】
第三処理部の第三の電極36において、イオン液体ε1又はイオン液体ζ1に溶解している前記希土類元素を電解析出により回収する方法としては、前述と同様に行うことができる。すなわち、陽極37と陰極38の間に、CVで予め測定した希土類元素が析出する電位を印加することにより、イオン液体ε1又はイオン液体ζ1から希土類元素を選択的に陰極38に析出して希土類金属43として回収することができる。
【0069】
前記工程Bにおいて、前記希土類元素が回収されて得られたイオン液体δ1、および前記工程Eにおいて、前記希土類元素が回収されて得られたイオン液体η1は、再びイオン液体α1として再利用することが可能である。
【0070】
本発明にかかる回収方法によって、廃希土類磁石中の前記鉄族元素及び前記希土類元素を回収してリサイクルする方法の一例を図2に示す。
図2において、陽極溶解では、初めに鉄族元素の溶解電位に設定し、鉄族元素の選択的溶解を進める。ここで、不溶性不純物は適宜除去していき、電解析出Iで鉄族元素を先行分離して陰極に回収する(工程A)。鉄族元素の回収後、陽極溶解において、希土類元素が溶解する電位に再設定する。ここで、希土類元素よりも電気化学的に貴な不純物元素はすべて溶解する。また、希土類元素の陽極溶解において、陰極側の設定電位を鉄族元素の還元電位に近い値で制御することにより、陰極側では、残存する鉄族元素の選択的回収が可能となる。
【0071】
次の電気泳動は、イオン液体中の低濃度な希土類元素を濃縮させる目的で行われる(工程C)。電気泳動は、特許第4242313号に記載の方法で連続的に実施することも可能である。また、電気泳動の電位を適切に設定することによって、先に溶解させた鉄族元素の残留物等の不純物を、陰極で回収して除去することもできる。電気泳動において、希土類濃度の高いイオン液体が得られる。
【0072】
次の電解析出IIにおいて、電位を的確に設定することによって、希土類元素を選択的に回収することができる(工程B)。希土類元素を回収した後のイオン液体は、初期段階の陽極溶解工程で使用する溶媒に戻すこともできる。このため、イオン液体系のクローズドサイクルが構築でき、リサイクルプロセスの二次廃棄物発生量を大幅に低減できる。
【0073】
図2の陽極溶解で使用できる装置を図3に示す。陽極溶解は、例えば、第四級ホスホニウム等のカチオンとFSAアニオンから構成されるイオン液体中に、廃希土類磁石を浸漬させる。廃希土類磁石を陽極とし、陽極と陰極間に参照電極で設定した電位を印加して、鉄族元素、希土類元素の順番で電気化学的に溶解させる。
【0074】
陰極の材料としては、電極における電気化学反応に対して不活性な材料を使用することが好ましい。
廃希土類磁石中に、イオン液体中への溶出が速く、希土類元素よりも電気化学的に貴な元素の不純物が含まれる場合は、該不純物は陰極に析出し、回収容器に溜まる。
【0075】
鉄族元素を回収する電解析出Iは以下の手順で実施できる。
陽極溶解の際に陰極で回収された不純物を除去した後、新しい陰極をイオン液体中に浸漬させる。鉄族元素が析出する電位に設定して、電解析出Iを実施する。陽極溶解の際にイオン化された鉄族金属イオンが、陰極において電解還元されることにより、鉄族元素が陰極に金属析出物として得られる。
【0076】
鉄族元素の電解回収の実施後、得られたイオン液体を、例えば図4に示す電気泳動装置に移して、電気泳動を実施する。
電気泳動は二電極方式で行い、希土類イオンを濃縮させる泳動管には、アルミナ等のセラミックス製粒子を充填させる。これは泳動管中の対流効果を抑制した上で、希土類イオンと他イオンとの移動度差を利用して、希土類イオンを特に陽極近傍に濃縮させる効果がある。
【0077】
FSAをアニオンとするイオン液体は、低粘性かつ高導電性であるため、電気泳動工程において、特に好適である。希土類元素を高効率で濃縮して得ることができる。
電気泳動に使用する装置は、特許第4242313号に記載された、連続的な泳動が可能で、かつ濃縮物の回収が容易な装置を使用するとさらに効率が良い。
【0078】
電気泳動では、鉄族元素のイオン種と希土類元素のイオン種の中で、析出電位が貴なFe,Ni等の鉄族元素のイオン種が陰極に析出物として回収される。電気泳動を繰り返し行い、得られた希土類元素の濃縮物は、別の容器に保管することが好ましい。
次に、得られた希土類元素の濃縮物を使用して、電解析出IIを実施する。ここで使用する陽極及び陰極は、図3で示した電極構造に類似のものが適用できる。希土類元素が析出する電位に設定し、定電位電解を行うことで、希土類金属を陰極に析出して回収することができる。電解析出IIでは、電気伝導度が高く、耐還元性に優れたイオン液体を使用することが望ましい。
【実施例】
【0079】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0080】
[イオン液体の調製1]
トリエチル−n−ペンチルホスホニウムカチオン(P2225+)の臭化物(日本化学工業株式会社製)と、ビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン(TFSA−)のリチウム塩(関東化学株式会社製)又はビスフルオロスルホニルアミドアニオン(FSA−)のカリウム塩(三菱マテリアル電子化成株式会社製)とを蒸留水中で温度70〜75℃で攪拌して反応させた。
前記反応で生成したイオン液体相をジクロロエタンで抽出し、エバポレーションにより溶媒を除去した。その後、100℃で72時間以上の真空乾燥を行い、水分量50ppm以下のP2225TFSA(別名:P2225TFSI)と表記されるイオン液体、又はP2225FSA(別名:P2225FSI)と表記されるイオン液体を得た。
【0081】
[イオン液体の調製2]
トリメチル−n−ヘキシルホスホニウムカチオン(N1116+)の臭化物(東京化成工業株式会社製)と、ビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン(TFSA−)のリチウム塩(関東化学株式会社製)又はビスフルオロスルホニルアミドアニオン(FSA−)のカリウム塩(三菱マテリアル電子化成株式会社製)とを蒸留水中で温度70〜75℃で攪拌して反応させた。
前記反応で生成したイオン液体相をジクロロエタンで抽出し、エバポレーションにより溶媒を除去した。その後、100℃で72時間以上の真空乾燥を行い、水分量50ppm以下のN1116TFSA(別名:N1116TFSI)と表記されるイオン液体、又はN1116FSA(別名:N1116FSI)と表記されるイオン液体を得た。
【0082】
[イオン液体の調製3]
トリエチル−n−ペンチルアンモニウムカチオン(N2225+)の臭化物(日本化学工業株式会社製)と、ビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン(TFSA−)のリチウム塩(関東化学株式会社製)又はビスフルオロスルホニルアミドアニオン(FSA−)のカリウム塩(三菱マテリアル電子化成株式会社製)とを蒸留水中で温度70〜75℃で攪拌して反応させた。
前記反応で生成したイオン液体相をジクロロエタンで抽出し、エバポレーションにより溶媒を除去した。その後、100℃で72時間以上の真空乾燥を行い、水分量50ppm以下のN2225TFSA(別名:N2225TFSI)と表記されるイオン液体、又はN2225FSA(別名:N2225FSI)と表記されるイオン液体を得た。
【0083】
[試験例1(陽極溶解試験)]
図3に記載の陽極溶解装置において、陽極にネオジム(Nd)系希土類磁石、陰極にプラチナ(Pt)電極、参照極にイオン液体系参照電極を使用した。Nd系希土類磁石の陽極溶解試験は、定電位:3.5Vで行った。陽極溶解浴として、P2225TFSA、P2225FSA、N1116TFSA、N1116FSA、N2225TFSA、又はN2225FSAを使用した。
P2225FSAを使用した陽極溶解の浴中のNd(III)イオンの濃度変化を、紫外可視分光スペクトルで測定した結果を図5に示す。図5の分光スペクトルおいて、波長580nm付近にNd(III)イオンに特有のピークが観測されており、このNd(III)イオンのピークが陽極溶解時間とともに増加していくことを確認した。陽極溶解の塩浴として、P2225TFSA、N1116TFSA、N1116FSA、N2225TFSA、又はN2225FSAを使用した場合の、陽極溶解中の塩浴におけるNd(III)イオンの濃度変化を、紫外可視分光スペクトルで同様に測定した(スペクトルの図示は略す)。
【0084】
これらの分光測定の結果に基づき、希土類元素及び鉄族元素の陽極溶出率を算出した結果を表1に示す。FSA型イオン液体を使用した方が、TFSA型イオン液体の場合よりも、鉄族元素及び希土類元素の陽極溶出率が高いことがわかる。これは、FSA型イオン液体の低粘性による溶解速度の向上に基づくものであり、より効率的な陽極溶解工程を可能とする。
【0085】
【表1】
【0086】
[鉄族元素の調製]
鉄粉末(Fe;和光純薬工業株式会社製)、コバルト炭酸塩(CoCO3;和光純薬工業株式会社製)、ニッケル炭酸塩(NiCO3;和光純薬工業株式会社製)に対して、化学量論の等量よりも僅かに多いビス(トリフルオロ)メチルスルホニルアミン(HTFSA, 関東化学株式会社製)を添加した。反応は75℃で攪拌しながら行い、すべての炭酸塩が反応したことを確認した。鉄粉末の場合は、未反応物が残留したので、この残留物をろ過して除去した。このようにして得られた溶液のエバポレーションを行って溶媒を除去し、最終的に各金属に対するTFSA塩(FeTFSA2,CoTFSA2,NiTFSA2)を得た。これらの塩の真空乾燥を100℃で72時間行って、水分を除去した。
【0087】
[希土類元素の調製]
ネオジム酸化物(Nd2O3;和光純薬工業株式会社製)又はサマリウム酸化物(Sm2O3;和光純薬工業株式会社製)に過剰量のビス(トリフルオロメチル)スルホニルアミン(HTFSA;関東化学株式会社製)を加え、蒸留水中で温度75℃に保持して、反応させた。その後、未反応の酸化物をろ過し、ろ液をエバポレーションにより濃縮した。濃縮物を真空乾燥して希土類金属塩(NdTFSA3,SmTFSA3)を調製した。
【0088】
[試験例2;鉄族元素の選択的回収1]
P2225FSAに溶解した、鉄族元素であるFeと希土類元素であるNdの還元挙動を、リニアスィープボルタンメトリ(LSV)で測定した結果を図6に示す。
図6において、Fe(II)は−1.2V付近で析出ピークが観察されており、Nd(III)は−2.8V付近で析出ピークが観察されている。このように、Fe(II)の析出電位とNd(III)の析出電位の間に1.6V程度の差があることを利用して、鉄族元素および希土類元素を溶解したイオン液体中から、電解によって、各元素を選択的に析出して回収することが可能となる。
次に、FeおよびNdを溶解したP2225FSA浴において、作用極にCu基板を用いて、−1.5Vで定電位電解を行った結果、電流効率:94.8%であることを確認した。Cu基板上に析出した電解生成物をICP−MSで分析して、析出物がFeであることを確認した。このように、鉄族元素および希土類元素を含むイオン液体中から、鉄族元素を先行分離して、選択的に回収できた。
【0089】
[試験例3;鉄族元素の選択的回収2]
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に、鉄族元素の一種であるNiTFSA2を0.1mol/lの濃度で溶解させた。このイオン液体中でのNi(II)の還元挙動に関して、水晶振動子マイクロバランス法(QCM)を利用した電気化学測定(EQCM)の結果を図7に示す。
このQCM法による振動数変化を質量変化に換算することで、電極表面上の微小な質量変化を観測できる。図7において、Ni(II)の還元反応のピークは−1.1V付近から観測され、それに対応する電極表面上の重量増加が観測されている。
この結果は、鉄族元素および希土類元素を溶解したイオン液体から、鉄族元素を分離して回収できることを示唆している。すなわち、希土類磁石を溶解したイオン液体において、希土類磁石の被覆材成分であるNiおよび希土類磁石の主成分であるFeを、電解を行って希土類元素よりも先に析出させて回収することができる。
【0090】
[試験例4;希土類元素の濃縮]
まず、P2225FSA、P2225TFSA、N2225FSA、及びN2225TFSAの各イオン液体中に、希土類塩(NdTFSA3)を希土類イオン濃度が0.1mol%となるように溶解させた。次いで、減圧下、100℃で一昼夜乾燥させた試料を電気泳動浴として使用した。
電気泳動による濃縮試験には、図4に示した電気泳動装置を使用した。浴塩温度100℃、電流密度0.22mA/mm2の条件で電気泳動電流を通電した。全電気量は積算電気量計により測定した。一定時間ごとに、泳動管中のイオン液体をフラクションとして回収した。各フラクションごとのネオジム濃度をICP−MSによって定量分析した。第四級ホスホニウムカチオン(P2225+)及び第四級アンモニウムカチオン(N2225+)の濃度を、イオンクロマトグラフによって定量分析した。
各フラクションに含まれるネオジムの濃度比を、図8及び図9に示す。回収したフラクションのうち、前半に回収したフラクションにおいて、ネオジムが濃縮されていることが明らかである。これは、陽極側に生じる内部移動度の差によってネオジムが濃縮されたためであると考えられる。
図8及び図9において、TFSA型イオン液体よりもFSA型イオン液体の方が、ネオジムをより多く濃縮していることがわかる。フラクション1においては、FSA型イオン液体の方が、ネオジムを1.5倍多く濃縮している。この理由として、FSA型イオン液体がより低粘性であること、及び、FSA型イオン液体中では、希土類イオンの錯形成状態が安定化して、希土類イオンとイオン液体を構成するカチオンとの移動度差を大きくする作用があること、が考えられる。この結果、泳動管中の上部(アノード近傍)にネオジムが留まり易くなったと考えられる。したがって、FSA型イオン液体を使用すると、TFSA型イオン液体を使用した場合よりも、電気泳動による希土類元素の濃縮の効率を高められる。
【0091】
[試験例5;希土類元素の回収]
試験例2で行ったLSV測定の結果(図6)に基づき、表2に併記した各種のイオン液体系溶媒に、0.1Mの濃度で溶解した希土類元素(Nd又はSm)を、電解析出で回収する試験を行った。
作用極にCu基板、対極に希土類金属(Nd又はSm)、参照極にイオン液体系参照電極を使用した。温度100℃、−3.2V〜−3.5Vで定電位電解を実施した。
電解試験後の陰極析出物を酸性溶液に溶解させ、ICP−MS分析装置を用いて、陰極析出物が各種希土類元素であることを同定した。その結果を表2に併記する。
この結果からFSA型イオン液体を用いると、TFSA型イオン液を用いた場合に比べて、電解析出時の電流効率が高められることが明らかである。この理由として、FSA型イオン液体は、粘度が低く、電析媒体の液間抵抗を減少させられることが考えられる。
なお、表2の「P222(1O1)TFSA」は、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムカチオンの略称である。
【0092】
【表2】
【0093】
[試験例6;鉄族元素の回収]
試験例2で行ったLSV測定の結果(図6)に基づき、表2に併記した各種のイオン液体系溶媒に、0.1Mの濃度で溶解した鉄族元素(Fe、Co、又はNi)を、電解析出で回収する試験を行った。
作用極にCu基板、対極に鉄族金属(Fe、Co、又はNi)、参照極にイオン液体系参照電極を使用した。温度100℃、−1.2V〜−1.5Vで定電位電解を実施した。
電解試験後の陰極析出物を酸性溶液に溶解させ、ICP−MS分析装置を用いて、陰極析出物が各種希土類元素であることを同定した。その結果を表3に併記する。
この結果からFSA型イオン液体を用いると、TFSA型イオン液を用いた場合に比べて、電解析出時の電流効率が高められることが明らかである。この理由として、FSA型イオン液体は、粘度が低く、電析媒体の液間抵抗を減少させられることが考えられる。
試験例5及び6の結果から、希土類元素及び鉄族元素を電解回収するための媒体として、FSAをアニオンとするイオン液体は、非常に有効であり、効率的な電解回収技術を可能とする。
【0094】
【表3】
【0095】
[試験例7;陽極溶解を兼ねた電解析出I]
陽極溶解と電解析出Iは別々に進行させる必要はなく、同時進行させることが可能である。P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に、0.1mol%のFeTFSA2を溶解させた溶液を、電解浴として使用した。陽極にNd系希土類磁石を銀線で接合した電極を使用し、希土類磁石部のみがイオン液体中に浸漬する構造とした。陰極には円筒状の銅基板に銅線を接続した電極を使用した。陽極と陰極の面積比は1:6の電極構造とした。
陽極溶解を兼ねた電解は、浴塩温度100℃において、定電位で陽極側に+1.25V、陰極側に−1.25Vを印加する条件で行った。陽極において、希土類磁石中の鉄族元素を希土類元素よりも優先的に、イオン液体中に溶出させながら、陰極において、電解析出物を生じさせた。この電解析出物を酸溶液に溶解して、ICP/MS分析を行った。その結果、電解析出物がFe及びNiの鉄族元素であることを確認した。
【0096】
また、電流密度条件を変えた場合の、陰極表面の状態の相違を、SEMによって観察して調べた。その観察結果を図10に示す。
電解析出時の陰極電流密度を22.8A・m−2にした場合、陰極表面は、平滑な光沢面となった(図10(a))。これは、陰極表面において核が生成して、方向性をもたない細かな結晶が成長したことを示唆する。この理由は、イオン液体中の反応種の物質輸送が拡散律速となり、陰極表面の原子の格子エネルギー差の影響が少なくなるためであると推測される。
一方、電解析出時の陰極電流密度を高くし過ぎた場合(69.4A・m−2)、陰極表面に電解析出物が不均一に析出して、陰極表面の平滑性が低下した(図10(b))。これは、陰極表面上で均一な核生成が進行しなかったことを示唆する。
このように、電解析出物が生成する陰極表面の平滑性を高めるためには、陰極電流密度の制御が重要となる。
【0097】
上記の方法で、陽極溶解を兼ねた電解析出Iを長時間行った結果、陽極において、希土類含有率を高められた金属(希土類磁石)が得られた。これは、陽極溶解において、陽極の希土類磁石から鉄族元素が優先的に溶出するため、希土類磁石中の希土類濃度が高められたためである。
よって、陽極溶解と電解析出Iを同時に実施することで、溶出・析出工程の短縮化による電気エネルギー消費の低減が可能となり、さらに、陽極において、希土類含有率の高い金属種を得ることができる。
【0098】
[試験例8;陽極溶解、鉄族元素の電解析出、希土類元素の濃縮、及び希土類元素の電解析出]
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に、各0.5mol%の濃度でNdTFSA3及びFeTFSA2を溶解させた。これらのTFSA塩を予め溶解させておく理由は、陽極溶解及び電解析出では、イオン液体中に溶解している同じ金属イオン種(ここではNd(III),Fe(II))の有り無しにより、印加電圧(過電圧)が異なるためである。すなわち、前記TFSA塩を予め溶解しておくことにより、過電圧を低くした上で、できる限り低い印加電圧によって、陽極溶解或いは電解析出を行うことができるためである。イオン液体のアニオンとして、TFSAを用いているので、鉄族元素および希土類元素を比較的高濃度で、電解浴に予め溶解しておくことができる。
【0099】
この希土類及び鉄族元素を含むイオン液体を電解浴として使用した。
まず、陽極溶解では、陽極にNd系希土類磁石を使用し、陰極に銅基板を使用した。参照極として、EMITFSA(エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド)中に0.1MのAgCF3SO3を溶解させて、銀線を浸漬させた構造の電極を使用した。Nd系希土類磁石中の希土類元素及び鉄族元素をイオン液体中に溶解させるため、浴塩温度を100℃として、3.12Vの電圧を印加して、180分間の陽極溶解を実施した。その結果、陽極の重量が減少した。また、使用した浴塩中の各イオン濃度をICP/MSにより分析した結果、Fe及びNdが、初期濃度より増加していた。
【0100】
次の電解析出Iでは、陽極のNd系希土類磁石を浴塩から引き上げて、陽極の新しい電極として、Nd金属を使用した。陰極も新しい銅基板に取り換えた。定電位電解において、浴塩温度を100℃として、−1.25Vにて355分間の電解を実施した。
その結果、陰極に6.3mgの電解析出物が得られた。この電解析出物のEDX分析の結果を図11に示す。Pt由来のピークは、SEM観察のために行った蒸着処理によるものである。このEDX分析の結果では、Fe由来のピークが観察され、Nd由来のピークは観察されない。これは、電解析出Iにおいて、鉄族元素を選択的に回収できたことを意味する。また、電解析出物の回収量から計算した陰極電流効率は、95.8%であった。つづいて、2回目の定電位電解では、陰極を新しい銅基板に取り換えて、1回目と同じ浴塩温度で、−1.35Vにて295分間の定電位電解を行った。
その結果、陰極に5.2mgの鉄族元素が析出した。この際の陰極電流効率は95.1%であった。同様の電解析出を合計4回実施し、電解析出物の全回収量と仕込み濃度から計算した結果、電解回収率は94.1%であり、イオン液体中の鉄族元素は概ね回収できた。
【0101】
次の段階では、イオン液体中に残存する希土類元素(Nd)を回収するため、該イオン液体の浴槽中に、電気泳動用の分離管(陽極)、及び該イオン液体に液絡部を介して接触する構造の陰極を浸漬させて、電気泳動を行った。浴塩温度を100℃、平均電流密度を0.136mA/mm2、平均通電時間を168分として、電気泳動を行った。電気泳動によって濃縮された希土類元素を含むイオン液体を、順次、分離管の外に取り出した。
電気泳動を合計3回行った後、回収したNd濃度をICP/MS分析した結果、当該イオン液体中のNd濃度が高められていた。
【0102】
次の電解析出IIでは、この希土類濃度を高めたイオン液体浴を使用した。この浴塩中に、陽極として白金線を浸漬し、陰極として銅基板を浸漬させた。浴塩温度100℃、−2.92Vにて445分間の定電位電解を行った。
その結果、陰極に7.8mgの電解析出物が得られた。この電解析出物は、EDX分析(図12)を行った結果、Ndであった。図12におけるPt由来のピークは、SEM観察のために行った蒸着処理によるものである。また、電解析出物の回収量から計算した陰極電流効率は、94.6%であった。
【0103】
以上の結果から、陽極溶解及び電解析出によって、希土類元素および鉄族元素が含まれるイオン液体中から鉄族元素を分離・回収した後、電気泳動によって希土類元素を濃縮して、電解析出によって希土類元素を高効率で回収できることが明らかである。
【0104】
[試験例9;陽極溶解、鉄族元素の電解析出、及び希土類元素の電解析出]
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に各0.5mol%の濃度でNdTFSA3とFeTFSA2を溶解させた。この希土類元素及び鉄族元素を含むイオン液体を電解浴として使用した。
まず、陽極溶解では、陽極としてNd系希土類磁石を使用し、陰極として銅基板を使用した。参照極は、EMITFSA中に0.1MのAgCF3SO3を溶解させて、銀線を浸漬させた構造の電極を使用した。Nd系希土類磁石中の希土類元素及び鉄族元素をイオン液体中に溶解させるため、浴塩温度を100℃として、−3.25Vの電圧を印加して、650分間の陽極溶解を実施した。その結果、陽極の重量が減少した。また、使用した浴塩中の各イオン濃度の増加をICP/MS分析により確認した。ここで、陽極溶解の電位印加時間を、前述の試験例8の場合よりも長くし、総通電量を多くすることによって、イオン液体中の希土類イオン濃度を十分に高められた。
【0105】
次の電解析出Iでは、陽極のNd系希土類磁石を浴塩から引き上げて、陽極に新しい電極として、Nd金属を使用した。陰極も新しい銅基板に取り換えた。定電位電解において、浴塩温度を100℃として、−1.2Vにて495分間の電解を実施した。
その結果、陰極には8.7mgの電解析出物が得られた。この電解析出物が、試験例8ではFeであったように、全てFeであると仮定した場合の陰極電流効率は、94.9%であった。つづいて、2回目の定電位電解では、陰極を新しい銅基板に取り換えて、1回目と同じ浴塩温度で、−1.3Vにて475分間の定電位電解を行った。
その結果、陰極に8.2mgの鉄族元素(Fe)が析出した。この際の陰極電流効率は93.2%であった。同様の電解析出を合計3回実施し、電解析出物の全回収量と仕込み濃度から計算した結果、電解回収率は96.5%であり、イオン液体中の鉄族元素は概ね回収できた。
【0106】
次の電解析出IIでは、前記鉄族元素を概ね回収した電解浴を引き続き使用した。この浴中に、陽極として白金線を浸漬し、陰極として銅基板を浸漬させた。浴塩温度100℃、−2.95Vにて515分間の定電位電解を行った。
その結果、9.2mgの電解析出物が得られた。この電解析出物が、試験例8ではNdであったように、全てNdであると想定した場合の陰極電流効率は、96.4%であった。電解析出物を酸溶液に溶解して、ICP/MSによって分析したところ、電解析出物はNdであった。
【0107】
以上の結果から、希土類元素がNdの場合は、イオン液体中への溶解度が大きいだけでなく、陽極溶出速度も速いため、陽極溶解で電解浴中の希土類イオン濃度を予め高めておくことができた。故に、電解析出によって電気化学的に貴な鉄族元素を選択的に分離・回収した後、電気泳動を行わなくても、電解析出IIにおいて、希土類元素を高効率で回収できることが明らかである。
【0108】
[試験例10;各種イオン液体中のNd(III)の拡散係数測定、及びNd(III)の電解析出]
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体(以下では、「P2225(0.67TFSA,0.33FSA)」と表記することがある。)、P2225TFSA、およびP2225FSAの3種類のイオン液体中に、Nd(III)の濃度が0.5mol%となるように、NdTFSA3又はNdFSA3を溶解させた。
ここで、希土類FSA塩の作製方法は、次の通りである。グローブボックス中でKFSAを秤量後、ニトロメタンを加えて溶解させ、HClO4(和光純薬工業株式会社製)と混合して、次の反応(KFSA+HClO4→HFSA+KClO4)によりHFSAを合成した。その後、30分攪拌して反応を完結させた。ここで、沈殿した白色物(KClO4)をろ過して除去した。次に、ろ過後の溶液に希土類酸化物を加え、希土類FSA塩を合成した。合成した希土類FSA塩は50℃で48時間以上真空引きして、溶媒を除去した。
【0109】
次に、この希土類イオンを含むイオン液体中におけるNd(III)の拡散係数測定は、クロノポテンショメトリ等の電気化学測定から算出した。その結果を表4に示す。TFSAとFSAを混合したアニオンを含むイオン液体は、FSAの混合割合が0.33の場合に、Nd(III)の拡散係数が高くなった。
また、前記3種類のイオン液体を電解浴として使用し、これらの浴塩中に、陽極としてNdロッドを浸漬し、陰極として銅基板を浸漬させた。浴塩温度を100℃として、−2.92Vにて265分間の定電位電解を行った。その際の陰極電流効率を表4に示す。
TFSAとFSAを混合したアニオンを含むイオン液体では、陰極電流効率が高かった。陰極で得られた電解析出物は、酸溶液に溶解してICP/MSで分析したところ、Ndであった。
【0110】
試験例10のイオン液体を用いることによって、イオン液体における希土類イオンの拡散係数を高くし、陰極電流効率を高くすることができる。このため、このイオン液体中の希土類を電気泳動により濃縮する効率および電解析出により回収する効率を高められる。
【0111】
【表4】
【0112】
ここで、試験例4等の電気泳動における「イオンの移動度」と、試験例10における「イオンの拡散係数」とは意味が異なることに言及しておく。
すなわち、拡散は、電場が発生していない媒体中において、電極表面と溶液沖合の間に生じる濃度分布(濃度差)から生じるイオン種の物質移動速度のことである。一方、移動度は、電場を生じた媒体中において、カチオンはカソード方向へ、アニオンはアノード方向に動く際の、イオン種の物質移動速度に相当する。故に、拡散係数と移動度とは、その意味が異なる。
一例として、リチウムのようなイオン半径の小さいイオン種は、拡散係数が高い。一方、その移動度は、リチウム周りに存在するアニオンから受ける相互作用(ポテンシャル障壁)により変わるため、一概に高いとは言えない。実際のところ、リチウムの移動度は、ナトリウムやカリウムよりも低くなる。このように、拡散係数が高い場合に、必ずしも移動度が高いとは言えない。
電気泳動工程では、拡散や対流効果を無視できる環境を泳動管の中に作り出しているので、希土類イオンと溶媒を構成するカチオンとの間に、一定の移動度差を生じさせられる。これに基づいて、希土類イオン(希土類元素)が濃縮されることを、その原理としている。一方、電解析出工程では、ある特定の電場を発生させた場合、電極表面と溶液沖合との間に、拡散層と呼ばれる、ある幅をもった濃度分布が生じる。ここでは、金属が析出する電析過程は、泳動や対流という物質移動が支配的ではなく、拡散が律速段階(反応過程を決める段階のこと)になる。よって、電解析出過程の効率は、拡散係数の大小が1つの判断基準となる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の鉄族元素及び希土類元素の回収方法は、希土類系磁石等から鉄族元素及び希土類元素を回収するために広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0114】
10…回収装置、11…第一の槽、12…陽極電解用電極(部)、13…陽極、14…陰極、15…資源、16…第一の電極(部)、17…陽極、18…陰極、19…析出物、20…第二の電極(部)、21…陽極、22…陰極、24…析出物、26…電気泳動用電極(部)、27…陽極、28…陰極、29…保護管、30…泳動管、31…先端部、32…導出管、34…イオン液体、36…第三の電極(部)、37…陽極、38…陰極、39…第二の槽、40…イオン液体、43…析出物、80…電気泳動装置、81…電源、82…槽、83…陽極、84…保護管、85…泳動管、86…先端部、87…クーロメーター、88…陰極、89…析出物受け皿、90…イオン液体、100…電解析出装置、101…電源、102…槽、103…陽極、104…絶縁管、105…資源、106…イオン液体、107…参照極、108…陰極、109…絶縁管、110…析出物、111…析出物受け皿。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体から、該鉄族元素を電解析出により回収する工程Aと、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体から該希土類元素を電解析出により回収する工程Bと、を含む鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法であり、
前記イオン液体は、式PR1R1R1R2で表される四級ホスホニウムのカチオン、又は式NR3R3R3R4で表される四級アンモニウムのカチオンと、
テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド(N[SO2(CF2)nCF3]2)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、ハロゲン、ジアルキルリン酸((R5O)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((R6O)2PSS)、及び脂肪族カルボン酸(R7COO)からなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとから構成されることを特徴とする、鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
[上記オニウムカチオンの式中、R1およびR3は、置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R2およびR4は置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。上記オニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R1とR2とは互いに異なる基である。複数のR3はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R3とR4とは互いに異なる基である。nは0〜5の整数を表す。また、R5、R6、及びR7は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、又は脂環状のアルキル基である。]
【請求項2】
前記工程Aを経たイオン液体を電気泳動して、該イオン液体に含まれる希土類元素を濃縮する工程Cを、前記工程Bの前に備えることを特徴とする請求項1に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、前記資源に含有される鉄族元素を前記イオン液体に溶解させつつ、該鉄族元素を電解析出により回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
【請求項4】
第一の槽内において、鉄族元素及び希土類元素を含む資源を溶解させたイオン液体から鉄族元素を電解析出により回収する第一の電極、及び該第一の電極による処理を経たイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第二の電極を有する第一処理部と、
第一の槽内において、前記第二の電極による処理を経たイオン液体に残存する希土類元素を電気泳動により濃縮する第二処理部と、
第二の槽内において、前記第二処理部で濃縮された希土類元素を含むイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第三の電極を有する第三処理部と、
を少なくとも備える鉄族元素及び希土類元素の回収装置。
【請求項1】
鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体から、該鉄族元素を電解析出により回収する工程Aと、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体から該希土類元素を電解析出により回収する工程Bと、を含む鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法であり、
前記イオン液体は、式PR1R1R1R2で表される四級ホスホニウムのカチオン、又は式NR3R3R3R4で表される四級アンモニウムのカチオンと、
テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド(N[SO2(CF2)nCF3]2)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、ハロゲン、ジアルキルリン酸((R5O)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((R6O)2PSS)、及び脂肪族カルボン酸(R7COO)からなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとから構成されることを特徴とする、鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
[上記オニウムカチオンの式中、R1およびR3は、置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R2およびR4は置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。上記オニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R1とR2とは互いに異なる基である。複数のR3はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R3とR4とは互いに異なる基である。nは0〜5の整数を表す。また、R5、R6、及びR7は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、又は脂環状のアルキル基である。]
【請求項2】
前記工程Aを経たイオン液体を電気泳動して、該イオン液体に含まれる希土類元素を濃縮する工程Cを、前記工程Bの前に備えることを特徴とする請求項1に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、前記資源に含有される鉄族元素を前記イオン液体に溶解させつつ、該鉄族元素を電解析出により回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
【請求項4】
第一の槽内において、鉄族元素及び希土類元素を含む資源を溶解させたイオン液体から鉄族元素を電解析出により回収する第一の電極、及び該第一の電極による処理を経たイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第二の電極を有する第一処理部と、
第一の槽内において、前記第二の電極による処理を経たイオン液体に残存する希土類元素を電気泳動により濃縮する第二処理部と、
第二の槽内において、前記第二処理部で濃縮された希土類元素を含むイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第三の電極を有する第三処理部と、
を少なくとも備える鉄族元素及び希土類元素の回収装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図10】
【公開番号】特開2012−87329(P2012−87329A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232613(P2010−232613)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
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