説明

鉄筋の機械継手

【課題】スリーブ内に挿入したスプリングによって、鉄筋に作用する引張力に抗することができる機械継手であって、製造しやすく、強度の高いものを提供することを目的とする。
【解決手段】二本の鉄筋を接合する機械継手1は、両端が開口した貫挿孔21が形成された筒状のスリーブ2と、弾性力を有し、線状部材を螺旋状に巻回したスプリング3とを備える。スリーブ2は、貫挿孔21内に挿入されたスプリング3が貫挿孔21の内壁に当接した状態で、塑性変形によって縮径されており、スプリング3は、スリーブ2が縮径されることによって、軸心方向及び径方向に弾性変形すると共に、スリーブ2の貫挿孔21の内壁に圧着しいる。貫挿孔21に圧着したスプリング3の内周に二本の鉄筋を挿入し、貫挿孔21内に充填材を充填することにより、二本の鉄筋が接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリーブの内周面にスプリングが圧着された、鉄筋の機械継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋を接合するのに用いられる機械継手にはしばしば、スリーブと充填材との付着性を高め、鉄筋の引張力に抗する力を強くするため、スリーブの外周面や内周面に凹凸が形成される。
凹凸の形成に関しては、塑性変形によってスリーブに凹凸を形成する手法が提供されているほか、螺旋状に巻回したスプリングをスリーブ内に挿入して一体化させ、スプリングとスリーブによって形成される形状を凹凸とする手法が提供されている。
【0003】
しかしながら、単にスプリングをスリーブに挿入しただけでは、スリーブとスプリングの一体化が弱く、鉄筋が外部から軸心方向に引張力を受けた際にスプリングごと抜けたりしてしまう。そこで、スリーブとスプリングの一体化を高めるため、スリーブにスプリングの形状に応じた溝を形成することが行われている。
【0004】
この点、特許文献1では、コイルばね用のねじ山用凹凸を金属円筒材の両面に形成し、当該ねじ山用凹凸にコイルばねを挿入してコイルばねを固定した継手、及びその製造方法が提案されている。さらに、特許文献1では、コイルばねを挿入した金属円筒材の外側より押圧部材にて荷重を加えて塑性変形させ、前記金属円筒材の両面にねじ山用凹凸を形成した継手、及びその製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−184222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1記載の継手によれば、金属円筒材の内部に挿入したコイルばねによって、鉄筋に作用する引張力に抗している。
しかし、金属円筒材の外周面のうち、コイルばねが当接しない箇所に荷重を加え、当該箇所を径方向内側に凹ませることによって、コイルばねが嵌合する凹みを形成する。そのため、製造工程が煩雑な上、金属円筒部材は塑性変形した部分と、塑性変形していない部分とが併存した状態となり、金属円筒部材自体の強度も十分でない。
【0007】
そこで本発明は、スリーブ内に挿入したスプリングによって、鉄筋に作用する引張力に抗することができる機械継手であって、製造しやすく、強度の高いものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄筋の機械継手は、二本の鉄筋を接合する機械継手であって、両端が開口した貫挿孔が形成された筒状のスリーブと、弾性力を有し、線状部材を螺旋状に巻回したスプリングと、を備え、上記スリーブは、上記貫挿孔内に上記スプリングが挿入された状態で、全面的な塑性変形によって縮径されており、上記スプリングは、上記スリーブが縮径されることによって、径方向及び軸心方向に弾性変形して、上記スリーブの貫挿孔の内壁に圧着しており、上記貫挿孔に圧着したスプリングの内周に二本の鉄筋が挿入されると共に、上記貫挿孔内に充填材が充填されて、上記二本の鉄筋が接合されることを特徴とする。
【0009】
塑性変形は例えば、スウェージング加工による。
充填材は鉄筋と機械継手とを固着するために用いられ、例えば、セメントミルクやモルタル等の無機材料や、エポキシ樹脂等の有機材料を用いることができる。
なお、充填材は、鉄筋の挿入された貫挿孔内に、スプリングの螺旋形状に沿って入るので、貫挿孔内に隙間なく充填することができる。
【0010】
また、上記二本の鉄筋は異形鉄筋であるものとしてもよい。
【0011】
また、本発明の別の観点に係る鉄筋の接合方法は、両端が開口した貫挿孔が形成された筒状のスリーブと、弾性力を有し、線状部材を螺旋状に巻回したスプリングと、を備えた機械継手により、二本の鉄筋を接合する方法であって、上記スリーブの貫挿孔内に上記スプリングを挿入した状態で、上記スリーブを塑性変形させて縮径することにより、上記スプリングを上記スリーブの貫挿孔の内壁に圧着させる工程と、上記貫挿孔に圧着したスプリングの内周に二本の鉄筋を挿入する工程と、上記貫挿孔内に充填材を充填する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スリーブ内に挿入したスプリングによって、鉄筋に作用する引張力に抗することができる機械継手をシンプルな工程で製造することができる。また、スリーブ全体が塑性変形しているため、強度の高い機械継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る機械継手を示した一部断面図である。
【図2】本実施形態に係る機械継手の分解斜視図である。
【図3】本実施形態に係る機械継手の製造工程において、スリーブを塑性変形させる様子を示す斜視図である。
【図4】本実施形態に係る機械継手の使用と作用を模式的に示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態に係る鉄筋の機械継手について、図を参照して説明する。
本実施形態に係る機械継手1は、図1に示されるように、スリーブ2とスプリング3とからなる。
なお、このスリーブ2は、後述するとおり、貫挿孔21にスプリング3が挿入された状態で、外周面から押圧されて縮径しており、これによってスプリング3が貫挿孔21の内周面に圧着している。
【0015】
スリーブ2は、図2に示されるように、円筒形状からなり、両端が開口した貫挿孔21が内部に形成されている。なお、スリーブ2には適宜、モルタル等の充填材を注入するための注入口や、鉄筋をスリーブ2内に固定する固定ボルトを螺入させるボルト孔等を設けるなどしてもよい。
【0016】
スプリング3は、図2に示されるように、鉄等の金属製の線状部材を、直線軸を中心に、同一半径、同一ピッチで螺旋状に巻回したものである。
このスプリング3は、軸心方向及び径方向に、弾性力を有している。
また、このスプリング3の径は、外力を受けない自然な状態において、縮径させる前のスリーブ2の内径(貫挿孔21の径)と略同じであり、スリーブ2の貫挿孔21に挿入することができる。
【0017】
続いて、機械継手1の詳細な構造を、製造工程から説明する。
まず、図2に示されるように、スリーブ2とスプリング3の軸心を一致させた状態で、スリーブ2の貫挿孔21内にスプリング3を挿入する。このとき、貫挿孔21の径と、スプリング3の径とが略同一であることから、スプリング3と貫挿孔21の内壁とは、互いに当接した状態となっている。
【0018】
そして、スプリング3が貫挿孔21内に挿入された状態で、スリーブ2の外周面全体を押圧して縮径し、塑性変形させる。
この工程は例えばスウェージング加工によって行われる。より詳しくは、図3に示されるように、ダイス4を軸周りに回転させながら、貫挿孔21内にスプリング3が挿入されたスリーブ2に対して、外周面から径方向の打撃を与える。これにより、スリーブ2全体が縮径させられる共に、軸心方向に伸長する。また、貫挿孔21内のスプリング3も、スリーブ2の縮径に伴って弾性的に径を小さくしてスリーブ2の内周面(貫挿孔21の内壁)に反発力を与えると共に、軸心方向に弾性的に伸長し、引っ張られた状態になっている。これにより、スプリング3が貫挿孔21の内壁に強固に圧着し、スリーブ2とスプリング3一体化している。
【0019】
以上の通り製造された機械継手1の使用と作用について、図4を参照して説明する。
なお、本例では、接合する鉄筋5、6として、モルタル等の充填材7との付着性を高め、引張力に抵抗する力を増すための凹凸状のリブが外周面上に形成された異形鉄筋を用いている。
【0020】
2本の鉄筋5、6の端部同士を接合する際には、まず、機械継手1のスプリング3の内周に、一端側から鉄筋5の端部を挿入すると共に、他端側から鉄筋6の端部を挿入し、機械継手1の中心部で、両鉄筋5、6の端部同士を向かい合わせに当接させる。
それから、貫挿孔21内に充填材7を注入する。この充填材7が固化すると、鉄筋5、6は、機械継手1から引き抜き不能に接合される。なお、充填材7の注入の際、充填材7はスプリング3の螺旋形状に沿って貫挿孔21内に入るので、貫挿孔21内に隙間なく充填材7を充填することができる。
【0021】
以下では、接合構造における力の作用について説明するが、説明の便宜のため、図4に示されるように中心Oを定める。この中心Oは、スリーブ1の軸心方向及び径方向の中心点、スプリング3の重心を構成している。
鉄筋5、6にかかる引張力Fは、充填材7を介して、スプリング3に作用する。そのため、鉄筋5、6の引張力Fに抗する力は、充填材7による固着の強度と、スプリング3の引張力に抗する力に依っている。そこで、以下、スプリング3の引張力に抗する力、即ち、スプリング3により当該引張力と逆向きに鉄筋5、6に作用する力に着目する。
【0022】
スプリング3は、円周方向において、スリーブ2の塑性変形に応じて弾性的に縮径しているため、中心から径方向外側に向く復元力Nを有している。そして、スプリング3と貫挿孔21の内周面とが当接していることから、当該当接する箇所において、この復元力Nが、スリーブ2の貫挿孔21の内周面に対する垂直抗力として作用する。そのため、スリーブ2の貫挿孔21の内周面とスプリング3の当接面において、当該垂直抗力に比例した摩擦力R1が、引張力Fと逆方向に働く。
【0023】
また、スプリング3は、軸方向において、スリーブ2の塑性変形に応じて、中心Oから軸心方向外側に弾性的に伸長している。
そのため、軸心方向においてスプリング3は、端部から中心Oに向かう向き、即ち、引張力Fと逆方向に、復元力として張力R2を有している。
【0024】
以上のように、貫挿孔21内に挿入された鉄筋5、6には、その軸心方向において、充填材7を介し、摩擦力R1と張力R2の合力が作用している。この合力によって、鉄筋5、6は、引張力に抗することができ、鉄筋5、6が強固に連結されている。
【0025】
以上の本実施形態に係る機械継手1によれば、スプリング3が挿入されたスリーブ2の外周面全体を押圧して縮径するという、シンプルな工程によって製造することができる。
また、スリーブ3全体が塑性変形されているため、加工硬化によって強度の高い機械継手1が提供される。
さらに、機械継手1を製造する際に、スプリング3が径方向に弾性的に収縮すると共に、軸心方向に弾性的に伸長することから、この弾性的な伸縮に応じた復元力が鉄筋に作用し、より強固に鉄筋を接合することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 機械継手
2 スリーブ
21 貫挿孔
3 スプリング
4 ダイス
5、6 鉄筋
7 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二本の鉄筋を接合する機械継手であって、
両端が開口した貫挿孔が形成された筒状のスリーブと、
弾性力を有し、線状部材を螺旋状に巻回したスプリングと、を備え、
上記スリーブは、上記貫挿孔内に上記スプリングが挿入された状態で、塑性変形によって縮径されており、
上記スプリングは、上記スリーブが縮径されることによって、径方向及び軸心方向に弾性変形して、上記スリーブの貫挿孔の内壁に圧着しており、
上記貫挿孔に圧着したスプリングの内周に二本の鉄筋が挿入されると共に、上記貫挿孔内に充填材が充填されて、上記二本の鉄筋が接合される、
ことを特徴とする鉄筋の機械継手。
【請求項2】
上記二本の鉄筋は異形鉄筋である、
請求項1記載の鉄筋の機械継手。
【請求項3】
両端が開口した貫挿孔が形成された筒状のスリーブと、
弾性力を有し、線状部材を螺旋状に巻回したスプリングと、を備えた機械継手により、二本の鉄筋を接合する方法であって、
上記スリーブの貫挿孔内に上記スプリングを挿入した状態で、上記スリーブを塑性変形させて縮径することにより、上記スプリングを上記スリーブの貫挿孔の内壁に圧着させる工程と、
上記貫挿孔に圧着したスプリングの内周に二本の鉄筋を挿入する工程と、
上記貫挿孔内に充填材を充填する工程と、を有する、
ことを特徴とする鉄筋の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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