説明

鉄筋コンクリートに埋設される軽量化材及び軽量化ユニット

【課題】
発泡樹脂成形体よりなる軽量化材を用いた場合においてコンクリート内に発生する気泡痕及び細孔の発生を解消し得る発泡樹脂成形体よりなる鉄筋コンクリート用の軽量化材を提供すること。
【解決手段】
発泡樹脂成形体よりなる鉄筋コンクリート用軽量化材であって、該軽量化材が埋設された状態において少なくとも軽量化材の水平方向の断面積が最大になる位置より上部表面に通気を遮断する層を有する鉄筋コンクリート用軽量化材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリートで形成される建築物や橋梁の床板等において、軽量化を図るために埋設される軽量化材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリートからなるスラブや床板(以下、総じてスラブという)に関して、集合住宅の間取りを広くする等、大スパン化を図ろうとする場合、スラブ断面のほぼ中央に軽量化材を配置させることで、スラブ重量の増加を抑えてスラブの厚さを増加させ、スラブの曲げ剛性を高める工法が用いられている。
【0003】
前記軽量化材としては、鋼管や紙管の端部を閉鎖した中空材が使用されていたが、最近では中空で無く更に軽量で形状の自由度のある発泡スチロール等の発泡樹脂成形体の採用が増えつつある。
【0004】
ところで、前記軽量化材を鉄筋コンクリート内に埋設するには、フレッシュコンクリートの打設時に前記軽量化材の浮き上がりや移動の防止措置を施さなければならない。比重が2.0を超えるフレッシュコンクリートの浮力は前記軽量化材に大きく働き、前記軽量化材を所定の位置に埋設することは容易ではない。このため、前記軽量化材を、所定の位置に、施工性も考慮して確実に固定するための固定部材や施工手段等の技術が種々発明され実用化されている。(例えば、特許文献1〜3)
しかしながら、前記軽量化材に発泡樹脂成形体を採用することによって、打設後養生時のコンクリート表面に気泡痕が残るという問題が発生している。すなわち、フレッシュコンクリートの圧力によって、発泡樹脂成形体の内部にセメントペーストの浸入や発泡樹脂成形体が圧縮されたり、軽量化材の浮力を受ける抑え部材との接触部分で発泡樹脂成形体が圧縮されることで、発泡樹脂成形体内部の空気が押し出され、気泡となってフレッシュコンクリート内を上昇し、コンクリート表面の大気と軽量化材を連通させる細孔を形成させて、そのままコンクリートが硬化した状態を作り上げてしまう。
【0005】
この様な現象は、表面に気泡痕が残る視覚的問題だけでなく、スラブの強度欠損や、軽量化材部分への湿気の流入による下階への漏水やコンクリートの内部劣化等が危惧される。また、橋梁上の舗装や屋上スラブの防水層を形成した場合は、夏季における外気温の上昇により発泡樹脂成形体内の空気が膨張し、気泡・水蒸気が細孔を通じて上昇し、舗装や防水層を部分的に押し上げるブリスタリング現象を引き起こしてしまう。
【0006】
上記問題に対し、コンクリート表面の補修を行ったり、ブリスタリング現象に関しては、スラブ裏面から軽量化材へ向けて細孔を別途形成しておく等の手段によって空気の逃げ道を別に作る、等の対策を行っているが、根本的な課題解決が出来ていない状態にある。
【特許文献1】特開平9−250196号公報
【特許文献2】特開2003−193605号公報
【特許文献3】特開2005−163340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した気泡痕及び細孔の発生を解消し得る鉄筋コンクリートに埋設される発泡樹脂成形体よりなる鉄筋コンクリート用軽量化材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために成された本発明の構成は以下の通りである。
【0009】
すなわち、本発明の第1は、発泡樹脂成形体よりなる鉄筋コンクリート用軽量化材であって、少なくとも、該軽量化材が埋設される状態において該軽量化材の浮力を受ける抑え部材と該軽量化材の当接している部分より上部に通気を遮断する層を有する鉄筋コンクリート用軽量化材に関する。
【0010】
好ましい実施態様としては、
(1)前記通気を遮断する層が、塗料のコーティングにより形成されたものである、
(2)前記塗料が、エマルジョン状である、
(3)前記通気を遮断する層が、前記発泡樹脂成形体の型内成形時に高温処理して形成される表面スキン層である、
前記記載の鉄筋コンクリート用軽量化材に関する。
【0011】
本発明の第2は、発泡樹脂成形体よりなる鉄筋コンクリート用軽量化材と該軽量化材の浮力を受ける抑え部材が一体となった鉄筋コンクリート用の軽量化ユニットであって、該軽量化ユニットが埋設された状態において、少なくとも該軽量化材の浮力を受ける抑え部材と該軽量化材の当接している部分より上部に通気を遮断する層を有する鉄筋コンクリート用の軽量化ユニットに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、発泡樹脂成形体よりなる鉄筋コンクリートに埋設される軽量化材を用いたスラブの表面に発生する気泡痕や、軽量化材からスラブの表面に抜ける細孔を解消でき、従来と変わらない施工手段によって、安定した品質のスラブを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態例を図面を参照して説明するが、本発明は、これらの形態例に限定されるものではなく、本発明の目的が達せられる範囲で各要素の置換や設計変更を含むものである。
【0014】
図1は、本発明の軽量化材を埋設した鉄筋コンクリート1のコンクリート打設後の断面を説明するための図であり、上端鉄筋5aと下端鉄筋6a間のほぼ中央に軽量化材9が位置した状態である。また、図2は、コンクリートを打設する前の鉄筋と軽量化材9をセットした状態を上から見た平面図である。軽量化材9は、コンクリート型枠12上に格子状に組んだ鉄筋のほぼ中央に位置し、浮力押さえ部材13によって、上端鉄筋5bと軽量化材9が連結された状態である。浮力押さえ部材13は軽量化材9の頂部近傍に接触した状態である。そして、上端鉄筋5aは型枠固定部材13によってコンクリート型枠15と連結された状態である。
【0015】
図2の状態は、フレッシュコンクリートを流し込むと、比重の軽い軽量化材9に浮力が発生し、その浮力は浮力押さえ部材13を伝わって、次に上端鉄筋5b、5aに伝わり、コンクリート型枠15に固定された型枠固定部材13がストッパーとなって、軽量化材9の浮き上がりを止める構造となっている。
【0016】
ここで、軽量化材の形状は、球形を例に上げたが、図3のような楕円柱状や立方体、直方体の形状も可能である。また、底部中央を刳り抜いたり、中空形状にするなどの形態であっても良く、鉄筋間に適当な鉄筋被りを設けて埋設可能な寸法で、鉄筋コンクリートの設計上に影響のない範囲であれば良い。大きさは使用する部位において種々選択可能であるが、建築用であれば、軽量化材の短手方向の断面が概ね50〜700cm2のものが好適に使用され、橋梁用であれば、同様に軽量化材の短手方向の断面が概ね500〜25,000cm2のものが好適に使用される。軽量化材の基材となる発泡樹脂成形体の材質としては、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂やそれらの共重合樹脂等、各種樹脂の発泡成形体が使用できるが、軽量性、成形性、耐圧縮性等の特性及びコスト面から、スチレン系樹脂を使用することがもっとも好ましい。
【0017】
この基材のみの軽量化材を用いた場合、図8に示すように、フレッシュコンクリートの圧力によって、発泡樹脂成形体の内部にセメントペーストの浸入や発泡樹脂成形体が圧縮されたり、軽量化材の浮力を受ける抑え部材との接触部分で発泡樹脂成形体が圧縮されることで、発泡樹脂成形体内部の空気が押し出され、気泡となってフレッシュコンクリート内を余剰水と共に上昇し、コンクリート表面の大気と軽量化材を連通させる細孔を形成させて、そのままコンクリートが硬化した状態を作り上げてしまう。実際に、打設評価を実施した結果、気泡は打設の直後から発生し、余剰水の染み出しが治まる打設後2時間から3時間後まで、蟹が泡を吹くような状態が見られ、硬化後、細孔の状態を確認した結果、図8に示すような気泡痕10と細孔11を確認した。
【0018】
この現象を解消するため、様々な表面処理を行って評価を実施した結果、本発明に至った。以下にその形態を説明する。
【0019】
前述した図1、図2に示した軽量化材9は、発泡樹脂成形体3の上半分に通気を遮断する層を施した状態を表している。通気を遮断する手段として、図4に示すように、塗料2をコーティングした。ここで、塗料の種類としては、エポキシやウレタン等の反応樹脂系や、有機溶剤を含んだ合成ゴム系、酢酸ビニルやアクリル共重合物のエマルジョン系等が使用できるが、塗布作業性やコストの面から、エマルジョン系がもっとも好適に使用でき、通気を遮断する効果も十分得られることを確認した。軽量化材9への通気を遮断する層を施す部位は、少なくとも、軽量化材9が埋設された状態において、浮力押さえ部材7と当接する部分とそれより上部を含めば気泡の発生位置が分散し、気泡解消の効果があるが、軽量化材が例えば球状である場合、軽量化材の略上半球に通気を遮断する層を設けるのがより好適であり、軽量化材の全表面に通気を遮断する層を設けると更に好適である。
【0020】
また、図7に示すように、軽量化材の位置固定部8を有する浮力押さえ部材7が、軽量化材9と一体化した軽量化ユニットとすると、たとえば、塗料で通気を遮断する層を設ける場合、ユニット化した状態で塗料をコーティングすることが出来るため、作業性も良く、気泡の抑制に効果的である。さらに、軽量化材の位置固定部8が軽量化材9の内部へ挿入固定される場合は、塗料によって一体化が更に強固に可能となり、軽量化材の表面に形成した、塗料のコーティングによる通気を遮断する層の破壊等の心配もなくなる。
【0021】
次に、通気を遮断する層の別の形態を図5及び図6に図示する。
【0022】
図5は、図4の発泡樹脂成形体と同じ位置に表面スキン層4を形成した状態を示している。表面スキン層は、発泡樹脂成形体の成形時に適正な温度以上の加熱を行い、表面が溶融した状態を作り上げることで得られる。この処理によって発泡樹脂成形体の表面に0.2mmから2mmの非発泡に近い樹脂層を形成することが可能で、通気を遮断する層の形成が後加工なしで発泡樹脂成形体の成形工程内で行うことができる。また、発泡樹脂成形体の全面に処理することによって、図6に示すように、発泡樹脂成形体の全表面に樹脂層を形成することも容易に行える。このように、全面に通気を遮断する層を施すことによって、より確実に気泡の発生を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の軽量化材を埋設した鉄筋コンクリートの断面図である。
【図2】コンクリート打設前の鉄筋と軽量化材をセットした平面図である。
【図3】通気を遮断する層が、塗料によって形成された楕円柱状軽量化材の斜視図である。
【図4】通気を遮断する層が、塗料によって形成された軽量化材の断面図である。
【図5】通気を遮断する層が、表面スキンによって形成された軽量化材の断面図である。
【図6】表面スキン層が、全面に施された軽量化材の断面図である。
【図7】軽量化材と軽量化材の浮力を受ける抑え部材が一体となった軽量化ユニットの斜視図である。
【図8】従来の軽量化材を用いた際に発生する気泡痕及び細孔を表した鉄筋コンクリート断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 鉄筋コンクリート
2 塗料
3 発泡樹脂成形体
4 スキン層
5a、5b 上端鉄筋
6a、6b 下端鉄筋
7 浮力押さえ部材
8 軽量化材の位置固定部
9 軽量化材
10 気泡痕
11 細孔
12 番線
13 型枠固定部材
14 楕円柱状軽量化材
15 コンクリート型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂成形体よりなる鉄筋コンクリート用軽量化材であって、少なくとも、該軽量化材が埋設される状態において該軽量化材の浮力を受ける抑え部材と該軽量化材の当接している部分とそれより上部に通気を遮断する層を有する鉄筋コンクリート用軽量化材。
【請求項2】
前記通気を遮断する層が、塗料のコーティングにより形成されたものである請求項1記載の鉄筋コンクリート用軽量化材。
【請求項3】
前記塗料が、エマルジョン状である請求項2記載の鉄筋コンクリート用軽量化材。
【請求項4】
前記通気を遮断する層が、前記発泡樹脂成形体の型内成形時に高温処理して形成される表面スキン層である請求項1記載の鉄筋コンクリート用軽量化材。
【請求項5】
発泡樹脂成形体よりなる鉄筋コンクリート用軽量化材と該軽量化材の浮力を受ける抑え部材が一体となった鉄筋コンクリート用の軽量化ユニットであって、該軽量化ユニットが埋設された状態において、少なくとも該軽量化材の浮力を受ける抑え部材と該軽量化材の当接している部分より上部に通気を遮断する層を有する鉄筋コンクリート用の軽量化ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−113357(P2007−113357A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308591(P2005−308591)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】