説明

鉄系材料およびその製造方法

【課題】
鋼中に高濃度のCおよび合金元素を必ずしも含有させることなく、冷間加工性と強度を兼備し、更には高温使用環境における強度特性にも優れた機械部品が製造可能な、機械構造用材料を提供する。
【解決手段】
Feおよび不可避的不純物からなる鉄形材料を窒化して、その一部または全体に、N:8at%以上11at%以下含有し、硬さがHv700以上の硬質相を有する鉄系材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械や自動車等の機械部品に好適に用いられる機械構造用鉄系材料に関し、特に一部あるいは全体に硬質相を具え、優れた強度を有する鉄系材料に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械や自動車等の機械部品は一般的に、鋼材を切削または塑性加工、あるいはこれらの併用により所定の形状に加工した後、焼入れ焼戻し処理を施すことにより所望の特性を確保する方法により製造される。このような機械部品に用いられる鋼材は、機械部品として必要な強度を満足するために、通常0.3〜0.6mass%程度のCを含有する。しかしながら、鋼材中に含有されるCは鋼材の硬度上昇に寄与するため、切削、鍛造などの冷間加工を著しく困難にする。また、C含有鋼の焼入れ焼戻しにより得られる、焼戻しマルテンサイトは、常温で高い強度を有するものの、150℃程度を超える高温に長時間曝されると強度が低下するため、使用環境がこのような温度に達する用途には必ずしも適合しない。
【0003】
機械部品を所定の形状に加工する際の冷間加工性と機械部品に要求される強度という、相反する特性を共に満足させる方法として、低C鋼素材に冷間加工を施して所望の形状とした後、浸炭焼入れする方法が従前行われている。しかしながら、浸炭にてC濃度を上昇させるといえども、やはり焼戻しマルテンサイトの強度を利用する、上記方法では、依然として高温環境下での強度低下に関する問題は、未解決のままであった。
【0004】
また、上記浸炭焼入れに代えて、窒化処理により表面硬化層を形成する方法も知られている。窒化処理では、処理温度が比較的低温である上、焼入れ工程を必要としないため、発生する熱処理歪も小さい。そのため、寸法精度が要求される機械部品の強度を確保する方法としては極めて有効である。
【0005】
しかしながら、多量の合金元素を添加しない鉄系材料に、従前の窒化処理を施した機械部品では、表面硬化層の硬度が不十分であった。例えば、特許文献1〜4には、鋼板を所望の形状に加工した後、窒化処理を施して表面硬化層を形成した機械部品について開示されているが、何れの文献に開示された機械部品においても、その表面硬化層の硬度は最大でもHV400程度である。
【0006】
一方で、鋼表層部にHV700を超える高い硬度を付与する為に、窒化時にAlやTi等の硬質窒化物を形成させる方法が従前行われているが、鋼中にAlやTi等の窒化物形成元素を多量に含有させる必要があり、鋼素材の製造コストを上昇させる等の問題を残していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−279686号公報
【特許文献2】特開2002−20853号公報
【特許文献3】特開2004−183006号公報
【特許文献4】特開2005−336581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状を鑑みなされたものであり、必ずしも鋼中に高濃度のCおよび合金元素を必ずしも含有させることなく、冷間加工性と最終部品強度を兼備し、更には高温使用環境における強度特性にも優れた機械部品が得られる機械構造用鉄系材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明者らは冷間加工性に加え、最終的に高強度を有する機械部品が製造可能である、機械構造用材料を得るための方途について鋭意検討を進めた。その結果、鉄系材料に窒化処理を施すことにより、鉄系材料の少なくとも表層部にオーステナイト形成元素であるNを高濃度含有させ、N高濃度領域をオーステナイト組織とし、窒化処理後に急冷して窒化処理時に形成された上記オーステナイト組織を500℃以下の温度域まで残留させ、これを100〜500℃の温度域に加熱保持して上記オーステナイト組織をα(フェライト)中に微細なγ´(Fe4N)が分散した組織に変化させることにより、HV700以上の高い硬質相が得られ、なおかつ高温に長時間曝された後も高い硬度を維持し得ることを知見した。
【0010】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その要旨構成は次のとおりである。
(1)Feおよび不可避的不純物からなる材料の表層または全体を窒化して得た硬質相を有し、該硬質相は、N:8at%以上11at%以下を含有し、かつ硬さがHV700以上であることを特徴とする鉄系材料。
【0011】
(2)上記(1)に記載の鉄系材料が、更にC:0.6mass%以下を含有することを特徴とする鉄系材料。
【0012】
(3)上記(1)または(2)に記載の鉄系材料が、更に
Cr:0.05 mass%以上2.0 mass%以下、
Al:0.005 mass%以上0.5 mass%以下、
Ti:0.0005 mass%以上0.5 mass%以下、
Nb:0.005 mass%以上0.1 mass%以下、
V:0.02 mass%以上1.0 mass%以下、
Mo:0.02 mass%以上1.0 mass%以下、
Mn:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Si:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Ni:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Cu:0.02 mass%以上2.0 mass%以下および
Co:0.02 mass%以上2.0 mass%以下
の中から選択される少なくとも一種以上を含有することを特徴とする鉄系材料。
【0013】
(4)Feおよび不可避的不純物からなる鉄系素材に、590℃以上の温度で窒化処理を施して該鉄系素材の一部または全体にN:8at%以上11at%以下を含有させた後、500℃以下の温度域まで1℃/s以上の速度で冷却し、その後、100〜500℃の温度域に60min以上保持してHV700以上の硬質相を形成することを特徴とする鉄系材料の製造方法。
【0014】
(5)上記(4)に記載の鉄系素材が、更にC:0.6mass%以下を含有することを特徴とする鉄系材料の製造方法。
【0015】
(6)上記(5)または(6)に記載の鉄系素材が、更に
Cr:0.05 mass%以上2.0 mass%以下、
Al:0.005 mass%以上0.5 mass%以下、
Ti:0.0005 mass%以上0.5 mass%以下、
Nb:0.005 mass%以上0.1 mass%以下、
V:0.02 mass%以上1.0 mass%以下、
Mo:0.02 mass%以上1.0 mass%以下、
Mn:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Si:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Ni:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Cu:0.02 mass%以上2.0 mass%以下および
Co:0.02 mass%以上2.0 mass%以下
の中から選択される少なくとも一種以上を含有することを特徴とする鉄系材料の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
産業機械や自動車等の機械部品に好適に用いられる機械構造用鉄系材料であって、優れた冷間加工性を有し、HV700以上という従来に無い硬質相を有する鉄系材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。
(組成の限定理由)
N:8〜11at%
Nは、本発明の硬質相を形成する上で必須の元素である。先述のとおり、本発明においては、鉄系材料に窒化処理を施して鉄系材料の少なくとも表層部をオーステナイト組織とし、これを急冷して窒化処理時に形成された上記オーステナイト組織を、α(フェライト)中に微細なγ´(Fe4N)が分散した組織とすることにより硬質相を形成する。そのため、本発明の鉄系材料においては、硬質相を形成すべき部分に、オーステナイト形成元素であり且つγ´(Fe4N)の構成元素であるNを所要量含有させる必要がある。Nは、Feおよび不可避的不純物からなる材料あるいはこれに後述するC、Cr、Al、Ti、Nb、V、Mo、Mn、Si、CuおよびCoを所定量含有させた材料に対して、表層または全体を窒化することにて含有させる。
【0018】
ここで、硬質相のN含有量が8at%未満では、Ms点が室温よりも高く、室温でオーステナイト組織を得ることができず、また、窒化冷却後の保持時に十分なα−Fe+γ´(Fe4N)が得られないため、HV700以上の硬質相を形成することができない。一方、N含有量が11at%を超えると、窒化を目的とした加熱保持中の組織がオーステナイト単相とならず、材料中に過剰なε窒化物を形成する。このε窒化物は、その後の硬化熱処理後も残留して、処理後のミクロ組織中に多量の空孔を形成し、最終部品の強度および靱性を著しく劣化させるため、N含有量を8〜11at%に規定する。なお、本発明においては、必ずしも鉄系材料の全体が上記規定を満足する必要はなく、高い硬度が必要とされる部分についてのみ上記規定を満足させることも可能である。
【0019】
なお、窒化を行う鉄系材料は、Feおよび不可避的不純物からなる材料、あるいはこれに以下の元素を含有する材料である。
【0020】
C:0.6mass%以下
本発明においてCは必須成分ではない。しかしながら、本発明において特にHV700以上の硬質相を鉄系材料の表層のみに形成する場合、Cは鉄系材料内部の強度を確保する上で有効な元素であるので必要に応じて含有する。ただし、その含有量が0.6mass%を超えると、機械部品の寸法精度や冷間加工性に悪影響を及ぼすため、C含有量を0.6mass%以下とする。
【0021】
更に、本発明においては必要に応じてCr:0.05mass%以上2.0mass%以下、Al:0.005mass%以上0.5mass%以下、Ti:0.0005mass%以上0.5mass%以下、Nb:0.005mass%以上0.1mass%以下、V:0.02mass%以上1.0mass%以下、Mo:0.02mass%以上1.0mass%以下、Mn:0.02mass%以上2.0mass%以下、Si:0.02mass%以上2.0mass%以下、Ni:0.02mass%以上2.0mass%以下、Cu:0.02mass%以上2.0mass%以下およびCo:0.02mass%以上2.0mass%以下の中から選択される少なくとも一種以上を含有することができる。
【0022】
Cr、Al、Ti、Nb、VおよびMoは、いずれも鉄系材料中の窒素と結合して硬質な窒化物を形成し、主に表層において耐摩耗性を向上する作用を有するため、必要に応じて含有させる。含有量が各々の下限値に満たない場合にはその効果が不十分である。一方、各々の上限値を超えて含有してもその効果が飽和するとともに、過剰な窒化物が析出して体積変化をもたらし寸法精度に悪影響を及ぼす。また、体積変化が生じることにより空隙を含むミクロ組織が形成されるため、鉄系材料の強度が劣化する。
【0023】
Mn、Si、Ni、CuおよびCoは、本発明の鉄系材料を製造する上で必要となる低温でのオーステナイト組織の形成に効果的に作用するため、必要に応じて含有する。含有量が各々の下限値に満たない場合にはその効果が不十分であり、一方、各々の上限値を超えて含有すると最終的な所望の組織、すなわち、α(フェライト)中に微細なγ´(Fe4N)が分散した組織の形成に悪影響を及ぼす。
【0024】
本発明における硬質相は、硬さがHV700以上であるものとする。HV700以上の硬質相は、構成ミクロ組織がα−Fe(フェライト)とγ´(Fe4N)からなるか、あるいは、これに上述した合金元素の窒化物が析出したものであり、かつ、γ´(Fe4N)が微細に分散した形態となることで達成できる。γ´(Fe4N)は、面積率で25〜75%であることが必要である。すなわち、γ´(Fe4N)は面積率が25%に満たないと、HV700以上の硬さの確保が困難となる。また、γ´(Fe4N)は面積率が75%超で生成させようとすると、ε(Fe3N)の析出回避が困難となり、この場合もHV700以上の硬さの確保が困難になる。
【0025】
また、生成したγ´(Fe4N)は、サイズが500nm以下のγ´(Fe4N)が分散した形態となっている必要がある。γ´(Fe4N)のサイズがこれより大きい場合にも、HV700以上の硬さの確保が困難になる。
なお、本発明において、硬さHVは、荷重25gf(0.245N)、荷重保持時間15sの条件にて測定したビッカース硬さを意味する。
【0026】
次に、本発明の鉄系材料の製造方法について説明する。
本発明の鉄系材料は、所定の組成を有する鉄系素材に、590℃以上の温度で窒化処理を施して該鉄系素材の一部または全体にN:8at%以上11at%以下を含有させた後、500℃以下の温度域まで1℃/s以上の速度で冷却し、その後、100〜500℃の温度域に加熱保持してHV700以上の硬質相を形成する方法により好適に製造することができる。
【0027】
(窒化処理条件)
窒化処理温度を590℃以上とすることにより、鉄系素材中への十分な窒素の拡散速度を得ることが可能になるとともに、窒化処理中に安定なオーステナイト相を得ることが可能となる。ただし、窒化温度を極端に高くすると、窒化処理中の窒化進行速度の制御が困難になるとともに、窒化処理中に組織のオーステナイト粒の粗大化を引き起こし、窒化処理後の鉄系材料の延性および靱性に悪影響を及ぼす。そのため、窒化処理温度は1000℃以下にすることが好ましい。
【0028】
なお、上記窒化処理としては、ガス窒化法、ガス軟窒化法、プラズマ窒化法、塩欲窒化法等、公知の方法を適用することができるが、本発明の鉄系材料を製造する上では、特に、窒化ポテンシャルの制御が比較的容易でかつ処理コストが低廉な、ガス窒化法を適用することが好ましい。また、鉄系材料中の窒化濃度制御の観点から、窒化処理時間は60〜1000minとすることが好ましい。
【0029】
(冷却条件)
上記条件で窒化処理を施した鉄系材料の少なくとも表層部は、N:8at%以上11at%以下を含有するオーステナイト組織が形成されている。本発明においては、これを1℃/s以上の冷却速度で500℃以下の温度まで冷却することにより、上記オーステナイト組織を室温近傍まで残留させる。冷却速度が1℃/s未満である場合には、冷却中にフェライト相が形成してしまい、冷却終了時点におけるオーステナイト含有量が減少するため、その後の熱処理により所望の硬度を有する硬質相が得られない。なお、冷却速度の上限値は特に限定しないが、簡易な冷却方法で達成するために、50℃/s以下とすることが好ましい。
【0030】
冷却停止温度が500℃超である場合には、冷却停止後の放冷時に組織中に粗大なフェライト相が形成されてしまい、冷却後のオーステナイト含有量が減少する。また、冷却速度が1℃/s以上の冷却は、−10℃以上の温度で停止することが望ましい。すなわち、冷却を−10℃未満の低温域まで行うと、オーステナイトの少なくとも一部にマルテンサイト変態が生じる。マルテンサイト自体は、硬質な組織であるが、その後の硬質化処理時および、高温使用環境に曝された場合、焼戻しが進行して硬度が低下し、所望の硬度を得ることが困難となるため、冷却停止温度は−10℃以上であることが好ましい。
なお、1℃/s以上の冷却速度での冷却は、500℃まで行えばよく、500℃に達した後の冷却速度は任意である。
【0031】
(硬質相形成処理条件)
上記冷却工程を経た鉄系材料は、少なくともその表層部に軟質なオーステナイト組織を有する。しかし、この鉄系材料を100〜500℃の温度域に保持することにより、上記オーステナイト組織がα(フェライト)中に微細なγ´(Fe4N)が分散した組織に変化し、HV700以上の硬質相が形成される。保持温度が100℃未満では上記の組織変化が不十分となり、所望の硬度を有する硬質相が形成されない。また、保持温度が500℃を超えると、形成される組織の粗大化を生じるとともに、表層部で脱窒が発生し、やはり硬質相の硬度が不十分となる。また、鉄系材料を所望の組織とするためには、上記温度における保持時間を60min以上とする。上記温度における保持時間を60min未満とすると、組織変化が不十分となり、HV700以上の硬質相が得られない。なお、60000minを超えて保持しても、それ以上の硬度の上昇は望めないため、6000min以下とすることが好ましい。
【0032】
上記方法においては、フェライトとFe4N、すなわち熱的に安定な相により硬質な相が形成されているため、硬質相の形成のために保持された温度で長時間保持された後にも十分な強度を有している。そのため、本発明に係る鉄系材料を用いて機械部品を製造するに際しては、窒化処理前の鉄系素材に冷間加工を施し、所望の部品形状に成形しても、寸法精度に優れた機械部品を得ることができる。また、窒化処理前の鉄系素材は比較的軟質であるため、冷間加工を施す場合であっても容易に所望の形状に成形することができる。なお、一部に硬質相を形成する鉄系材料について、硬質相以外の部分に冷間加工を施す場合においては、硬質相形成後に冷間加工を施すことも可能である。さらに、比較的高温に曝される環境で長時間使用した後にも、十分な強度を有する部品を得ることが可能である。
【実施例】
【0033】
表1に示す化学組成の鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造によりブルームとした。次いで、ビレット圧延を経て、更に圧延によりφ35mmの棒材とし、これを素材とした。こうして得た素材のビッカース硬さを測定するとともに、以下に示す種々の熱処理に供し、特性を調査した。
すなわち、表2に示す条件にて、窒化処理、冷却、その後の硬化熱処理(硬質相形成処理)を行った。窒化処理後の鉄系材料および、硬化熱処理後の鉄系材料について、EPMAを用いて、表面から深さ20μm近傍の窒素濃度(at%)を測定した。また、窒化処理後および、硬化熱処理後の鉄系材料について、表面から深さ20μm部を光学顕微鏡により観察し、構成ミクロ組織の判定を行うとともに、その部分のビッカース硬さを測定した。さらに、硬化熱処理後の鉄系材料については、20μm間隔で深さ方向にビッカース硬さ測定を行い、硬さがHV700を超える領域の厚さを測定した。
ここで、ビッカース硬さの測定はいずれも、荷重25gf(0.245N)、荷重保持時間15sの条件にて行った。
【0034】
さらにまた、薄膜TEM観察により硬化熱処理後の鉄系材料中に生成したγ´(Fe4N)のサイズおよび面積率の測定を行った。サイズ測定は、各実施例について30個以上のγ´(Fe4N)を測定し、サイズが500nm以下であったγ´(Fe4N)相の個数の、全γ´(Fe4N)相に対する個数比を微細γ´率として求めた。
【0035】
なお、表1中の材料Sは、代表的な機械構造用鋼であるJIS−S45Cに相当する。当該材料は、本発明との比較を目的として特性を調査したものであり、素材としての比較には、上記の通り35mmφの棒材とした後に、球状化焼なましを行ったものを用いた。さらに、表2に示すように、焼入れ焼戻しを行った材料について、表層から20μm部のビッカース硬さ、構成ミクロ組織、硬さがHV700を超える領域の厚さを測定した。
【0036】
【表1】

















【0037】
【表2】

【0038】
本発明条件を満足する鉄系材料(実施例No.1およびNo.10〜28)は、いずれも、代表的機械構造用鋼であるJIS−S45Cの球状化焼なまし材(実施例No.29)よりも低い素材硬さを有しており、冷間加工性に優れている。また、これらの鉄系材料では、窒化→硬化熱処理後には、JIS−S45Cの焼入れ焼戻し材よりも優れた表層部の硬さを有している。
【0039】
一方、窒化あるいはその後の冷却の条件が適切でない場合(実施例No.2、3、4)には、窒化冷却後における表面から20μm部におけるオーステナイト(γ)組織の形成がなされず、その後の硬化熱処理によっても十分な硬さが得られなかった。すなわち、窒化温度が低いNo.2および、窒化時間が短いNo.3は、窒化の進行が不十分であり、十分な窒素濃度が得られなかった。窒化温度が高いNo.4では、過剰な窒化の進行に伴い、窒素濃度が本発明範囲を超えて不適な窒化物(ε(Fe3N))が窒化処理段階で生成し、硬化処理後もこれが残留して硬さに悪影響を及ぼした。
【0040】
窒化後冷却条件が不適なNo.5およびNo.6では、冷却途中または冷却完了後にフェライト(α)相が生じ、硬化熱処理後は微細γ´率が低くなって十分な硬さが得られなかった。
また、No.7およびNo.9は、窒化冷却によりオーステナイト(γ)組織が得られたが、No.7ではその後の硬化熱処理温度が低いため、また、No.9では硬化熱処理時間が短いため、窒化冷却処理で得られたオーステナイトからの組織変化が十分に進行せず、結果として硬化熱処理後の構成ミクロ組織がオーステナイト(γ)となり、十分な硬さが得られなかった。
さらに、No.8の場合、窒化冷却によりオーステナイト(γ)組織が得られているものの、その後の硬化熱処理温度が高いため、オーステナイト(γ)相からの組織変化によって形成されたフェライト(α)相および、γ´(Fe4N)相が粗大化し、十分な硬さが得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
産業機械や自動車等の機械部品に好適に用いられる機械構造用鉄系材料を提供する。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feおよび不可避的不純物からなる材料の表層または全体を窒化して得た硬質相を有し、該硬質相は、N:8at%以上11at%以下を含有し、かつ硬さがHV700以上であることを特徴とする鉄系材料。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄系材料が、更にC:0.6mass%以下を含有することを特徴とする鉄系材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄系材料が、更に
Cr:0.05 mass%以上2.0 mass%以下、
Al:0.005 mass%以上0.5 mass%以下、
Ti:0.0005 mass%以上0.5 mass%以下、
Nb:0.005 mass%以上0.1 mass%以下、
V:0.02 mass%以上1.0 mass%以下、
Mo:0.02 mass%以上1.0 mass%以下、
Mn:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Si:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Ni:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Cu:0.02 mass%以上2.0 mass%以下および
Co:0.02 mass%以上2.0 mass%以下
の中から選択される少なくとも一種以上を含有することを特徴とする鉄系材料。
【請求項4】
Feおよび不可避的不純物からなる鉄系素材に、590℃以上の温度で窒化処理を施して該鉄系素材の一部または全体にN:8at%以上11at%以下を含有させた後、500℃以下の温度域まで1℃/s以上の速度で冷却し、その後、100〜500℃の温度域に60min以上保持してHV700以上の硬質相を形成することを特徴とする鉄系材料の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄系素材が、更にC:0.6mass%以下を含有することを特徴とする鉄系材料の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の鉄系素材が、更に
Cr:0.05 mass%以上2.0 mass%以下、
Al:0.005 mass%以上0.5 mass%以下、
Ti:0.0005 mass%以上0.5 mass%以下、
Nb:0.005 mass%以上0.1 mass%以下、
V:0.02 mass%以上1.0 mass%以下、
Mo:0.02 mass%以上1.0 mass%以下、
Mn:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Si:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Ni:0.02 mass%以上2.0 mass%以下、
Cu:0.02 mass%以上2.0 mass%以下および
Co:0.02 mass%以上2.0 mass%以下
の中から選択される少なくとも一種以上を含有することを特徴とする鉄系材料の製造方法。


【公開番号】特開2011−241470(P2011−241470A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117429(P2010−117429)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】