説明

鉄系焼結機械部品の製造方法

【課題】原料粉末を混合する工程、混合した原料粉末を圧粉成形して成形体を得る工程、成形体を焼結する工程、円筒軸部の一端側外周に設けられた径方向突き出し部を高周波焼き入れ後焼き戻す工程を経て製造される鉄系焼結機械部品を、局部加熱による内径孔の寸法精度悪化を抑えて歩留り良く製造することを可能ならしめ、熱処理後の再サイジングも不要となす。
【解決手段】焼結して得られた鉄系焼結機械部品10の内径孔3を径方向突き出し部、即ち、歯部2のある側が内径大となるテーパ孔に矯正し、その後、歯部2の高周波焼き入れと焼き戻しを行い、軸方向各部の収縮量の差を利用して熱処理後の内径孔3をストレート形状に近づけるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円筒軸部の一端側外周に高周波焼き入れして強化する歯部や鍔などの径方向突き出し部を備えている鉄系焼結機械部品を、矯正工程を増加させずに精度良く製造できる鉄系焼結機械部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
首記の鉄系焼結機械部品の代表的なものとして、例えば、ボス部を有する焼結スプロケットや焼結歯車などがある。この焼結スプロケットや焼結歯車は、焼結後にサイジングによる寸法矯正を行い、その後、一端外周の歯部の高周波焼き入れと焼き戻しを実施している。
【0003】
寸法矯正は、内径孔については、その孔をストレートコアでしごく方法で行われる。その寸法矯正後の鉄系焼結機械部品10の断面の一例を図8(a)に示す。
【0004】
図示の鉄系焼結機械部品10は、焼結スプロケットや焼結歯車であって、ボス部(円筒軸部)1の一端外周に歯部2を有し、寸法矯正された内径孔3はストレート孔になっている。
【0005】
この鉄系焼結機械部品10は、寸法矯正後に歯部2を強化するための熱処理、即ち、高周波焼き入れと焼き戻しを実施する。その焼き入れと焼き戻しでの加熱は、歯部2のみについて行われる。この局部加熱が原因で、熱処理後の鉄系焼結機械部品10に局部的な寸法変化が起こり(加熱した部分が収縮する)、図8(b)に示すように、内径孔3にテーパがつく。
【0006】
この寸法変化のために要求寸法精度を満たせなくなることがあり、製造の歩留り(良品率)が悪化する。また、熱処理後の寸法が要求精度から外れた場合には、熱処理後に再サイジングを行って不良品を減らしているが、この方法を採ると生産性が悪くなり、コストにも影響が出てくる。
【0007】
なお、下記特許文献1は、鉄系焼結機械部品の安定した矯正を可能ならしめるために、サイジングに用いるダイの内面やコアロッドの外面に複数の突起を設けてその突起で被矯正体をしごくことを開示しているが、この方法は、上記の問題の解決策とはなり得ない。
【特許文献1】特開平8−215756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、局部加熱による寸法精度への影響が相殺されて内径孔の寸法精度悪化が抑えられる鉄系焼結機械部品の製造方法を提供して、製造の歩留りの悪化、再サイジングを行うことによる生産性の悪化をなくすことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、原料粉末を混合する工程、混合した原料粉末を圧粉成形して成形体を得る工程及び成形体を焼結する工程を経て円筒軸部の一端側外周に径方向突き出し部を有する鉄系焼結機械部品を作製した後、この鉄系焼結機械部品の内径孔を前記突き出し部のある側が内径大となるテーパ孔に矯正する工程と、前記径方向突き出し部の高周波焼き入れと焼き戻しを行う熱処理工程とを経る鉄系焼結機械部品の製造方法を提供する。
【0010】
内径孔の矯正は、機械加工でも可能であるが、サイジングによる矯正が効率的で好ましい。
【0011】
鉄系焼結機械部品の代表的なものとしては、ボス部の一端側外周に歯部を有する焼結スプロケットや焼結歯車などがある。これらの部品は、量産されることが多く、その量産品にこの発明を適用すると特に大きな効果を期待できる。焼結スプロケットや焼結歯車は、ボス部の内径孔をテーパ孔に矯正し、その後、前記歯部の高周波焼き入れと焼き戻しを行う。
【発明の効果】
【0012】
この発明においては、鉄系焼結機械部品の内径孔を熱処理によって寸法変化を起こす側で大径となるテーパ孔に矯正しており、熱処理による寸法収縮量がテーパ孔の孔径差によって吸収される。従って、熱処理後の内径孔はほぼストレートになり、その孔の寸法精度が向上して製造の歩留りが向上する。また、内径孔の寸法精度向上により熱処理後の再サイジングが不要になって生産性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面の図1乃至図7に基づいて説明する。図1の10は、ボス部1の一端側外周に歯部2を有する焼結スプロケットや焼結歯車などの鉄系焼結機械部品である。この鉄系焼結機械部品10は、原料粉末を混合する工程、混合した原料粉末を圧粉成形して成形体を得る工程及び成形体を焼結する工程を経て作製される。
【0014】
この鉄系焼結機械部品10の内径孔3は、焼結を完了した段階ではストレート孔になっている。そこでこの内径孔3を歯部2のある側が大径となる図1(a)の如きテーパ孔(図はテーパの勾配を誇張して示している)に矯正する。
【0015】
孔の矯正は、機械加工では生産性が悪いので、サイジングで行う。焼結後の鉄系焼結機械部品10をダイ(図示せず)にセットし、この状態で外周にテーパをつけたコアロッドを内径孔3に圧入し、孔面をコアロッドでしごいてストレート孔をテーパ孔に変化させる。
【0016】
このようにして矯正した鉄系焼結機械部品10を、熱処理に供して歯部2の高周波焼き入れと焼き戻しを行う。高周波焼き入れは、図2に示すような高周波誘導加熱装置20を用いて行う。図示の高周波誘導加熱装置20は、高周波誘導加熱用コイル21と冷却液の噴射孔22aを有する環状の冷却ジャケット22とを組み合わせたものであり、図3に示すように、回転機能と昇降機能を有するワークテーブル23で支えた鉄系焼結機械部品10を上昇させて高周波誘導加熱装置20の内側に進入させ、高周波誘導加熱用コイル21に通電して鉄系焼結機械部品10を回転させながら歯部2を所定温度になるまで加熱する。次に、冷却ジャケット22の噴射孔22aから冷却液を噴射して歯部2を所定の温度になるまで適切な速度で冷却し、焼き入れを完了する。
【0017】
この後、鉄系焼結機械部品10を後段の工程に搬送して焼き戻しを行う。その焼き戻しは、部品を炉に入れて加熱する炉中焼き戻し法で行うこともできるが、設備のライン化が図れる誘導焼き戻し法で行うと好ましい。誘導焼き戻しは、低周波誘導加熱用コイルの内側にワークテーブルで支えた部品を進入させ、その部品を回転させながら目的部位の誘導加熱を行うものである。この誘導焼き戻しでの加熱後の冷却は、空冷でよい。
【0018】
以上の熱処理を行うと、サイジングによってテーパ勾配を持つように矯正された内径孔3が、図1(b)に示すようにほぼストレートになり、孔の寸法精度が向上して製造の歩留りが良くなる。また、そのために、熱処理後の再サイジングが不要になる。
【0019】
−実施例−
この発明の効果を評価するために、2wt%Cu−0.8wt%C−残Feの組成の鉄系焼結合金で形成された図4の焼結スプロケットをこの発明の方法で製造した。
【0020】
ボス部1の一端外周に歯部2を有し、また、内径孔3の内面に5本のリブ4を定ピッチで設けたこの焼結スプロケットの設計寸法は、歯先径:127mm、歯底径:116mm、ボス部径:87mm、内径孔13の大径部径d2 :80mm、小径部径d1 :54mm、全長(図5のL):20mm、歯部厚み(図5のt):9mm、歯数:42枚である。また、ボス部1の成形密度:6.95g/cm3 、歯部2とリブ4の成形密度:7.0g/cm3 である。
【0021】
この焼結スプロケットを、焼結後にテーパコアでサイジングして内径孔3をテーパ孔に矯正した。テーパコアは、長さ10mm当たりの外径変化量を、内径孔の小径部成形部については0.070mm、大径部成形部については0.074mmにしたものを用いた。 長さ10mm当たりのテーパの大きさは、高周波熱処理することによる寸法変化量を30個の平均値から求めて、サイジング寸法を決定した。
【0022】
矯正後の焼結スプロケットの歯部2を、高周波誘導加熱装置を用いて焼き入れし、その後さらに誘導焼き戻しを行った。
【0023】
こうして得られた焼結スプロケットの内径孔の小径部と大径部の軸方向各部の寸法変化を調べた。図5は、測定位置の説明図である。鍔面(外周に歯部を形成した鍔の端面)5を高さ0の起点とし、ここから軸方向に2mm離れた位置を鍔面からの高さ2mm、4mm離れた位置を鍔面からの高さ4mmとして軸方向各部の寸法変化を鍔面5からの高さ18mmの位置まで2mm間隔で測定した。
【0024】
その結果を図6、図7に示す。図6、図7は試料数30個平均のデータであって、図中Aは矯正前の焼結体の内径孔の寸法変化、Bは矯正に用いたテーパコアの寸法変化、Cは矯正後の内径孔の寸法変化、Dは孔の矯正と歯部の熱処理とを施した後の内径孔の寸法変化を各々示している。BとCの同一測定点における寸法差は、サイジング後のスプリングバックによるものである。
【0025】
このケースでの内径孔の寸法規格は、小径部:φ54+0.06/−0、大径部:φ80±0.04であり、その範囲を図6、図7に縦の太線で示した。これらの図からわかるように、熱処理後の内径孔はほぼストレートになり、規格寸法内に収まっている。
【0026】
なお、熱処理前の内径孔の矯正をストレートコアで行う従来の方法では、例えば、内径孔の大径部について、鍔面5からの高さ2mmの位置での熱処理後寸法を規格内に収めようとすると、鍔面からの高さ18mmの位置での熱処理後寸法が規格から外れ、また、鍔面からの高さ18mmの位置での熱処理後寸法を規格内に収めようとすると、鍔面からの高さ2mmの位置での熱処理後寸法が規格から外れる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)この発明の方法で内径孔を矯正した鉄系焼結機械部品の断面図、(b)図1(a)の鉄系焼結機械部品の熱処理後の断面図
【図2】高周波誘導加熱装置の概要を示す斜視図
【図3】高周波誘導加熱装置での歯部の加熱状態を示す断面図
【図4】評価試験に用いた焼結スプロケットの正面図
【図5】寸法測定位置の説明図
【図6】内径孔の小径部の寸法変化の評価試験結果を示す図
【図7】内径孔の大径部の寸法変化の評価試験結果を示す図
【図8】(a)従来の方法で内径孔を矯正した鉄系焼結機械部品の断面図、(b)図8(a)の鉄系焼結機械部品の熱処理後の断面図
【符号の説明】
【0028】
1 ボス部
2 歯部
3 内径孔
4 リブ
5 鍔面
10 鉄系焼結機械部品
20 高周波誘導加熱装置
21 高周波誘導加熱用コイル
22 冷却ジャケット
22a 噴射孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末を混合する工程、混合した原料粉末を圧粉成形して成形体を得る工程及び成形体を焼結する工程を経て円筒軸部の一端側外周に径方向突き出し部を有する鉄系焼結機械部品を作製した後、この鉄系焼結機械部品の内径孔を前記突き出し部のある側が内径大となるテーパ孔に矯正する工程と、前記径方向突き出し部の高周波焼き入れと焼き戻しを行う熱処理工程とを経る鉄系焼結機械部品の製造方法。
【請求項2】
前記内径孔の矯正をサイジングによって行う請求項1に記載の鉄系焼結機械部品の製造方法。
【請求項3】
鉄系焼結機械部品が、ボス部の一端側外周に歯部を有する焼結スプロケットまたは焼結歯車であり、この焼結スプロケットまたは焼結歯車のボス部の内径孔をテーパ孔に矯正し、その後、前記歯部の高周波焼き入れと焼き戻しを行う請求項1又は2に記載の鉄系焼結機械部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−9118(P2006−9118A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190908(P2004−190908)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】