説明

鉄鋼材料分別回収装置及び方法

【課題】 鉄鋼を含む金属材料と有機高分子材料とを含む処理対象物から鉄鋼材料を効率的に回収することができる鉄鋼材料分別回収装置及び方法の提供。
【解決手段】 処理炉Fに低酸素濃度熱ガス導入口10とガス排出口12を設ける。台車Rに漏斗状構造部Iを設ける。台車Rに鉄鋼スクラップSを積載して処理炉Fに収容し、低酸素濃度熱ガス導入口10を通じて処理炉F内に低酸素濃度熱ガスを送給し、処理炉Fの炉内温度を、鉄鋼スクラップS中の有機高分子材料が熱分解し、鉄鋼スクラップS中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料が溶融し、鉄鋼スクラップS中に存在し得るガラス類が溶融温度に至らない温度とすることにより、鉄鋼スクラップS中の有機高分子材料について熱分解又は溶融を行うと共に、鉄鋼スクラップS中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼を含む金属材料と有機高分子材料とを含む処理対象物から少なくとも鉄鋼材料を回収するための鉄鋼材料分別回収装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品等の廃棄物の分別回収においては、従来からシュレッダーなどを用いた大量破砕とその後の分別回収方法が採られている。この場合、金属と可燃物とが破砕により小片の混合状態となるため、風力、磁力、人力等により混合状態の小片の分別が必要であった。また、可燃物の主体であるプラスチック等は、特殊なガス化溶融炉等を用いて処理されていた。
【0003】
上記方法においては、シュレッダーの刃物の消耗度が高く、而もシュレッダーの運転に電力を多量に消費するという問題があると共に、シュレッダーダスト(ASR)と称されるプラスチック等を主体とする可燃物の処理が必要であった。
【0004】
ASRの処理は、主として大規模なガス化溶融炉において行われている。ガス化溶融炉においては、ASR中のプラスチック等の可燃物は焼却され、ASRに混入する金属粉やガラス等の無機物は溶融処理される。
【0005】
このようなガス化溶融炉によるASR処理は、ASRに混入する前記のような無機物の化学組成が一定せず、変化する種々の化学組成に応じ溶融温度も変化するため、溶融物の物理化学的な性状が不安定になるという問題を有する。
【0006】
無機溶融物が高い流動性を有する場合、その無機溶融物の炉外への排出は容易になるが、流動性を高くするための塩基度調整や高温化は、無機溶融物の化学的な反応性を高めてガス化溶融炉の運転管理や操炉技術の難度を高めることとなりがちである。
【0007】
また、無機溶融物の化学反応性の強弱は、炉の内壁耐火物との化学反応量の多寡に対応し、その化学反応量が多いと、耐火物の腐食(corrosion)損耗量が多くなる。
【0008】
流動性が高い溶融物の場合、排出口(タップホール)や樋などの部位の侵食(erosion)損耗量を大きくすることが生じがちである。
【0009】
逆に、流動性の低い溶融物の場合、溶融物排出口を閉塞してしばしば運転停止を余儀なくさせるなど、メンテナンスの必要量が増大し、炉の稼働率を低下させ、トータル処理コストアップを招来することとなる。
【0010】
特開2004−83962号公報(特許文献1)には、「銅鉄混在スクラップから溶融工程を経て銅と鉄を分離、回収する方法において、該銅鉄混在スクラップを無酸素雰囲気中で溶融させる際に、Fe−P−Cu3元系溶融物を形成するとともに溶鉄相と溶銅相を分離させるに十分な量のリン(P)を溶融前及び/又は溶融中に添加することを特徴とする銅鉄混在スクラップからの銅と鉄の分離、回収方法」(請求項1)が記載されている。具体的には、例えば、実験例1に示されるように、処理対象物をアルミナ坩堝に入れ、炉内に入れてアルゴン気流中で1100℃に1時間保持した後、試料を坩堝ごと炉内より取り出してアルゴン気流中で冷却するものである。
【0011】
特開2000−328151号公報(特許文献2)には、「廃棄物を溶融処理して有用金属を回収する廃棄物処理装置であって、投入された廃棄物を溶融処理して溶融鉄を回収するキューポラと、上記キューポラに先行して廃棄物が投入され、該廃棄物を上記溶融鉄の融点よりも低い温度で加熱する少なくとも1つの加熱炉と、を具備して成ることを特徴とする廃棄物処理装置」(請求項1)が記載されている。その加熱炉の例について、「キューボラ10に投入される廃棄物への余熱、または溶融鉄より融点の低い有用金属を回収することを目的として、その炉内温度が 800℃前後に設定されている。」(0010)と記載されている。
【0012】
特開平7−252545号公報(特許文献3)には、「金属スクラップを溶解炉に装入するに先立って、溶解炉の排ガスを利用して金属スクラップを予熱する工程において、金属スクラップに付着した不純物を分離除去することを特徴とする金属スクラップの溶解方法」(請求項1)が記載されている。また、予熱工程における、鉄スクラップからの不純物の分離について、「鉄スクラップを振動させつつ予熱するといった事前処理を施すことで、鉄スクラップに混在する不純物および鉄スクラップ表面に付着した不純物の大部分を分離できること、さらに、溶解炉の排ガスの酸素ポテンシャルおよび温度を金属スクラップに付着した不純物が酸化する範囲に制御することにより、不純物をより効率良く分離できる」(0026)と記載されている。
【特許文献1】特開2004−83962号公報
【特許文献2】特開2000−328151号公報
【特許文献3】特開平7−252545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術に存した上記のような課題に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、鉄鋼を含む金属材料と有機高分子材料とを含む処理対象物から鉄鋼材料を効率的に回収することができる鉄鋼材料分別回収装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1) 上記目的を達成する本発明の鉄鋼材料分別回収装置は、
鉄鋼を含む金属材料と有機高分子材料とを含む処理対象物から少なくとも鉄鋼材料を回収するための装置であって、
低酸素濃度熱ガスを炉内に導入する低酸素濃度熱ガス導入部と、炉内で発生したガス並びに前記低酸素濃度熱ガス導入部から炉内に導入された低酸素濃度熱ガスの全部又は部分を含むガス類を炉外へ排出するガス排出部を有し、前記処理対象物を収容し、その処理対象物中の有機高分子材料について熱分解を行うと共に、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融を行うための処理炉と、
前記処理炉内の処理対象物からの液状流下物を回収する流下物回収部と、
処理炉の炉内温度を、前記処理対象物中の有機高分子材料が熱分解し、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料が溶融し、前記処理対象物中に存在し得るガラス類が溶融温度に至らない温度とするための温度調節手段を備え、
前記処理炉内に導入されるガスの酸素濃度は、処理対象物中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる濃度であることを特徴とする。
【0015】
また本発明の鉄鋼材料分別回収方法は、
鉄鋼を含む金属材料と有機高分子材料とを含む処理対象物から少なくとも鉄鋼材料を回収するための方法であって、
処理炉内に前記処理対象物を収容し、
低酸素濃度熱ガスを処理炉に導入し、
処理炉の炉内温度を、前記処理対象物中の有機高分子材料が熱分解し、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料が溶融し、前記処理対象物中に存在し得るガラス類が溶融温度に至らない温度とし、
処理炉内において前記処理対象物中の有機高分子材料について熱分解を行うと共に、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融を行い、
前記処理炉内の処理対象物から発生したガス並びに低酸素濃度熱ガス導入部から処理炉内に導入された低酸素濃度熱ガスの全部又は部分を処理炉外へ排出し、前記処理炉内の処理対象物からの液状流下物を回収するものであり、
前記処理炉内に導入されるガスの酸素濃度は、処理対象物中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる酸素含有率であることを特徴とする。
【0016】
鉄鋼を含む金属材料と有機高分子材料とを含む処理対象物を処理炉に収容し、低酸素濃度熱ガス導入部を通じて前記処理炉内に低酸素濃度熱ガスを送給し、処理炉の炉内温度を、温度調節手段により、前記処理対象物中の有機高分子材料が熱分解し、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料が溶融し、前記処理対象物中に存在し得るガラス類が溶融温度に至らない温度とすることにより、処理対象物中の有機高分子材料について熱分解又は溶融を行うと共に、処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融を行うものであり、処理炉内で燃料バーナ等の火炎を用いることはない。
【0017】
処理炉内に導入されるガスの酸素濃度は、処理対象物中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる酸素濃度であるから、処理対象物中の可燃物を燃焼させることを防ぎつつ処理対象物中の有機高分子材料等の熱分解を行うことができる。
【0018】
処理炉内の処理対象物から発生したガス並びに低酸素濃度熱ガス導入部から処理炉内に導入された低酸素濃度熱ガスの全部又は部分を含むガス類は、ガス排出部を通じて処理炉から排出される。処理炉内の処理対象物からの液状流下物は、流下物回収部により回収することができる。ガラス類は、処理対象物に含まれていても溶融温度に至らないので、流下して流下物回収部において凝固又は流動性が低下すること等により流下物回収部の機能を損なうことが避けられる。
【0019】
処理対象物中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる酸素濃度のガスが導入される処理炉内において、処理対象物中の有機高分子材料について熱分解が行われ、熱分解生成ガス中の水素や炭素などの還元作用によりガス化室内の少量の酸素は水蒸気や一酸化炭素となること等により、処理炉内は還元雰囲気又は少なくとも酸化を促進しない雰囲気が持続されることとなる。そのため、処理炉内で燃焼や爆燃を起こすことが防がれると共に、回収しようとする鉄鋼材料の酸化損失を良好に防ぐことができる。
【0020】
(2) 本発明においては、処理炉内への外部からの熱の供給、及び、処理炉の炉内温度を、処理対象物中の有機高分子材料が熱分解し、処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料が溶融し、処理対象物中に存在し得るガラス類が溶融温度に至らない温度とするための温度調節が、低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に導入される低酸素濃度熱ガスにより行われるものとすることが望ましい。この場合、低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉に導入する低酸素濃度熱ガスによる供給熱量を制御することにより、処理炉内の温度制御を行い、処理対象物を良好に処理することができる。
【0021】
低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に導入される低酸素濃度熱ガスの温度は、例えば500℃以上1200℃以下であるものとすることができる。
【0022】
また、低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に導入される低酸素濃度熱ガスの酸素濃度は、5%以下であることが好ましい。低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に導入される低酸素濃度熱ガスの酸素濃度が5%以下であることにより、処理対象物中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる。
【0023】
また、低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に導入される低酸素濃度熱ガスの温度が、有機高分子材料の熱分解温度及び処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の融点より高く鉄鋼材料の融点及び処理対象物中に存在し得るガラス類の溶融温度よりも低いものとすることができる。この場合、処理炉内の処理対象物中の有機高分子材料について熱分解又は溶融を行うと共に、処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融を行うことができる。
【0024】
(3) 本発明においては、低酸素濃度熱ガスを低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に送給する低酸素熱ガス送給源を備えるものとすることができる。このような低酸素熱ガス送給源は、燃料の燃焼による燃焼排ガスを低酸素熱ガスとして生成する低酸素熱ガス供給用燃焼装置であるものとすることができる。
【0025】
(4) 本発明においては、処理対象物を積載した状態で転動手段により支持されて処理炉内に出入し得る積載移動装置を備え、
上記処理炉は、前記積載移動装置の出入が可能な出入部を有し、
処理対象物を積載した積載移動装置が処理炉内に位置した状態において、その処理対象物中の有機高分子材料について熱分解を行うと共に、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融を行うものとすることができる。この発明では、処理対象物の出し入れ作業を極めて効率的に行うことができる。
【0026】
この場合、積載移動装置が処理炉内に位置した状態において積載移動装置の上部と下部の間と処理炉内面との間を封止するためのシール部を、処理炉および/または積載移動装置に備えるものとすることが望ましい。
【0027】
また、流下物回収部を積載移動装置に備えるものとすることが望ましい。
【0028】
(5) 流下物回収部は、処理炉内の処理対象物からの液状流下物を処理炉から下方へ排出して回収するものとすることができる。
【0029】
(6) 本発明においては、処理炉のガス排出部から排出された可燃ガスを燃焼させる焼却炉と、
その焼却炉の排ガスのうち不完全燃焼部分を低酸素熱ガス供給用燃焼装置に供給する不完全燃焼熱排ガス供給部を有し、
その不完全燃焼熱排ガス供給部を通じて低酸素熱ガス供給用燃焼装置に供給される不完全燃焼熱排ガスが、その低酸素熱ガス供給用燃焼装置において更に加熱されると共に含まれ得る可燃成分が燃焼し、上記の燃料の燃焼による燃焼排ガスと共に、低酸素熱ガスとして低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に送給されるものとすることが望ましい。この発明では、低酸素熱ガス供給用燃焼装置の燃料を節約することができる。
【0030】
この場合、処理炉のガス排出部から排出されたガス類を冷却凝縮するためのガスコンデンサを備え、そのガスコンデンサにおいて凝縮しないガスを上記焼却炉に供給し、そのうち可燃成分を燃焼させるものとすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の鉄鋼材料分別回収装置及び方法によれば、鉄鋼を含む金属材料と有機高分子材料とを含む処理対象物中の可燃物を燃焼させることを防ぎつつ処理対象物中の有機高分子材料等の熱分解を行い、鉄鋼材料を回収することができる。処理対象物中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる酸素濃度のガスが導入される処理炉内において、処理対象物中の有機高分子材料について熱分解が行われ、処理炉内は還元雰囲気又は少なくとも酸化を促進しない雰囲気が持続されることとなる。そのため、処理炉内で燃焼や爆燃を起こすことが防がれると共に、回収しようとする鉄鋼材料の酸化損失を良好に防ぎ、鉄鋼材料を効率的に回収することができる。
【0032】
処理炉内の処理対象物から発生したガスは、ガス排出部を通じて処理炉から排出され、処理炉内の処理対象物からの液状流下物は、流下物回収部により回収することができる。ガラス類は、処理対象物に含まれていても溶融温度に至らないので、流下して流下物回収部において凝固又は流動性が低下すること等により流下物回収部の機能を損なうことが避けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の実施の形態を、図1乃至図5を参照しつつ説明する。
【0034】
図1乃至図5は、何れも本発明の鉄鋼材料分別回収装置及び方法の実施の形態の一例についてのものであって、図1はフロー図、図2は処理炉の短手方向垂直断面図、図3は処理炉の長手方向垂直断面図、図4は焼却炉の垂直断面図、図5は低酸素熱ガス供給用燃焼装置の長手方向垂直断面図である。
(1)処理対象物
【0035】
処理対象物は、鉄鋼を含む金属材料と有機高分子材料とを含む。なお、処理対象物中に有機染顔料やセラミック材料等のその他の有機化合物や無機物質を含むことを妨げるものではない。
【0036】
処理対象物中に含む有機高分子材料の例としては、エンジニアリングプラスチックを含む各種熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等の合成樹脂、このような合成樹脂がガラス繊維等により繊維補強されたもの、各種合成ゴム、各種天然ゴム等を挙げることができる。
【0037】
処理対象物中に含み得る鉄鋼以外の金属材料としては、鉄鋼よりも融点が低い金属材料が適当である。そのような鉄鋼より低融点の金属材料としては、例えばアルミニウム、亜鉛、錫、ごく少量の鉛、それらの合金等を挙げることができる。尤も、鉄鋼材料と同等又は鉄鋼材料を上回る金属材料を含むことを妨げるものではない。
【0038】
処理対象物の発生源は限定されないが、本発明において処理対象物として特に適当なものは、廃棄された自動車をプレスした鉄鋼スクラップSである。その他の例として、冷蔵庫、洗濯機等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(2)処理炉F
【0039】
処理炉Fは、ほぼ直方体箱形状をなし、処理炉Fの6面の内壁は、耐火断熱性の高い耐火物でライニングされている。この例では、常用1200℃レベルの耐火断熱材を用いている。また処理炉F内の温度及び圧力を測定するためのセンサ(図示せず)が設けられている。なお、処理炉Fの形状は、直方体形状に限るものではなく、例えば横倒円筒形状や蒲鉾形状であってもよい。
【0040】
処理炉Fの内壁のうち底床面以外の5面に、それぞれ低酸素濃度熱ガス導入口10(低酸素濃度熱ガス導入部)[全ての低酸素濃度熱ガス導入口10を図示するものではない。]が設けられている。低酸素濃度熱ガス導入口10を設ける位置は、処理炉F内の処理対象物(鉄鋼スクラップS)が満遍なく加熱される位置を選択することが望ましい。なお、必ずしも処理炉Fの内壁のうち底床面以外の5面全てに低酸素濃度熱ガス導入口10を設けることを要するものではない。例えば、相対する側壁面のみに設けることもでき、相対する側壁面及び上面に設けることもできる。
【0041】
処理炉Fの内壁のうち上面に、処理炉F内の処理対象物から発生したガス並びに低酸素濃度熱ガス導入口10から処理炉F内に導入された低酸素濃度熱ガスの全部又は部分を含むガス類を処理炉F外へ排出するための複数のガス排出口12(ガス排出部)が設けられている。ガス排出部から排出されるガス類としては、例えば、ガスに随伴するミストや固体粒子等、ガス以外のものが含まれていてもよい。また、ガス排出口12の配置や数はこれに限定されるものではない。
【0042】
処理炉Fの長手方向両端部に、それぞれ、処理対象物を積載した台車Rの出入が可能な出入口14が設けられ、各出入口14(出入部)は、気密的に閉扉し得る扉15により開閉される。扉15の内側は前記6面の内壁を構成し、耐火物でライニングされている。扉15は、処理炉F内から外部へのガス類の漏洩を効果的に防ぐために二重扉とし、処理炉F内から二重扉の内扉15bと外扉15cの間の扉間空間部15aにガス類が漏洩した場合に備えて、扉間空間部15aからガス類を吸引し得る吸引口17が設けられている。なお、出入口14と扉15は、例えば処理炉Fの長手方向一端部のみに設けることもできる。
【0043】
処理対象物である鉄鋼スクラップSを、台車R上に多数積載した状態で処理炉Fに収容する。台車Rと鉄鋼スクラップSの間及び鉄鋼スクラップS同士の間に、スペーサとしてレンガ16を載置している。低酸素濃度熱ガス導入口10を通じて処理炉F内に低酸素濃度熱ガスを送給し、低酸素濃度熱ガスの熱量により、処理炉Fの炉内温度を、鉄鋼スクラップS中の各種プラスチック材料やゴム材料等の有機高分子材料が熱分解し、鉄鋼スクラップS中に存在し得るアルミニウムや亜鉛等の鉄鋼材料よりも低融点の金属材料が溶融し、鉄鋼スクラップS中に存在し得るガラス類が溶融温度に至らない温度とすることにより、鉄鋼スクラップS中の有機高分子材料について熱分解又は溶融を行うと共に、鉄鋼スクラップS中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融を行う。処理炉内で燃料バーナ等の火炎を用いることはない。
【0044】
処理炉F内の温度制御は、低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉Fに導入する低酸素濃度熱ガスによる供給熱量のみにより制御することが望ましい。尤も、誘導加熱や処理対象物の燃焼を伴わない外部加熱等を用いて処理炉F内の温度制御を行うこともできる。
【0045】
このような処理炉F内温度は、例えば500℃以上1200℃以下とすることができる。好ましくは600℃以上1100℃以下或いはその範囲の何れかの温度±50乃至100℃、より好ましくは700℃以上1000℃以下或いはその範囲の何れかの温度±50乃至100℃、更に好ましくは800℃以上900℃以下或いはその範囲の何れかの温度±50乃至100℃、例えば850℃±50℃である。
【0046】
処理炉F内に導入されるガスの酸素濃度は、鉄鋼スクラップS中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる酸素濃度であるから、鉄鋼スクラップS中の可燃物を燃焼させることを防ぎつつ鉄鋼スクラップS中の有機高分子材料等の熱分解を行うことができる。
【0047】
処理炉F内に導入される気体は、低酸素濃度熱ガスのみであることが好ましい。処理炉F内に低酸素濃度熱ガス以外のガス等が導入される場合は、処理炉F内の鉄鋼スクラップSに全体及び部分的な燃焼を生じない酸素濃度とすることが望まれる。
【0048】
処理炉F内の鉄鋼スクラップSから発生したガス並びに低酸素濃度熱ガス導入口10から処理炉F内に導入された低酸素濃度熱ガスの全部又は部分を含むガス類は、ガス排出口12を通じて処理炉Fから排出される。
【0049】
鉄鋼スクラップS中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる酸素濃度のガスが導入される処理炉F内において、鉄鋼スクラップS中の有機高分子材料について熱分解が行われ、熱分解生成ガス中の水素や炭素などの還元作用によりガス化室内の少量の酸素は水蒸気や一酸化炭素となること等により、処理炉F内は還元雰囲気又は少なくとも酸化を促進しない雰囲気が持続されることとなる。そのため、処理炉F内で燃焼や爆燃を起こすことが防がれると共に、回収しようとする鉄鋼材料の酸化損失を良好に防ぐことができる。
(3)低酸素熱ガス供給用燃焼装置P(低酸素熱ガス送給源)
【0050】
低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pは、概ね横倒砲弾形状をなし、その内壁は、常用1600℃のレベルの耐火断熱性を有する耐火材でライニングされている。その基端部には、主バーナ18が設けられ、主バーナ18のやや前方に、熱排ガス導入口20が設けられている。更にそのやや前方には、低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pの全周にわたり間隔おきに、空気(又は酸素含有ガス)を噴出する多数の二次燃焼用供空ノズル22が設けられている。これらの二次燃焼用供空ノズル22に対する空気の供給は、燃焼用二次供空ブロア24によって、環状のマニホールド26を介して行われる。二次燃焼用供空ノズル22よりも更に前方における周壁部には、処理炉Fの低酸素熱ガス需要量又は必要熱量に応じて補助的に稼動する補助バーナ28が複数設けられている。
【0051】
二次燃焼用供空ノズル22から装置内に吹き込まれる空気は、主バーナ18及び補助バーナ28の燃焼用二次空気である。低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pの前後軸線方向に対し二次燃焼用供空ノズル22の噴出方向に角度を設けることにより、主バーナ18及び補助バーナ28の燃焼ガスや熱排ガス導入口20から導入される熱排ガス等を攪拌混合して、それらの乱気混合燃焼が図られている。
【0052】
なお、低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pの形状やバーナ等の構成はこれに限るものではない。また、低酸素熱ガス送給源は、このような燃焼装置に限るものではない。
【0053】
低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pは、このようにして、酸素濃度が5%以下の低酸素熱ガスを生成するものであり、その低酸素熱ガスが、低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pから処理炉Fの低酸素濃度熱ガス導入口10に低酸素濃度熱ガスを送給するための低酸素熱ガスダクト30を経て、低酸素濃度熱ガス導入口10から処理炉F内に導入される。低酸素熱ガスダクト30の中間部には、低酸素濃度熱ガスが低酸素濃度熱ガス導入口10に向かって流れるよう駆動するための低酸素熱ガス誘引ブロア32が設けられている。処理炉F内に導入される低酸素濃度熱ガスの温度は、この例において850±50℃である。低酸素熱ガスダクト30の内壁は、常用1200℃レベルの耐火断熱性を有する耐火材でライニングされている。
【0054】
低酸素濃度熱ガス導入口10から処理炉Fに導入される低酸素熱ガスの酸素濃度は、処理炉Fの処理対象物(鉄鋼スクラップS)中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる濃度である。従って、酸素濃度は低いことが望ましい。例えば、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、又は0%である。低酸素濃度熱ガス導入口10を通じて処理炉F内に導入される低酸素濃度熱ガスの温度は、例えば500℃以上1200℃以下とすることができる。好ましくは600℃以上1100℃以下或いはその範囲の何れかの温度±50乃至100℃、より好ましくは700℃以上1000℃以下或いはその範囲の何れかの温度±50乃至100℃、更に好ましくは800℃以上900℃以下或いはその範囲の何れかの温度±50乃至100℃、例えば850℃±50℃である。
【0055】
低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pの先端部付近には、装置内の温度及び圧力並びに酸素濃度を測定するためのセンサが設けられている。各センサ等により検知された処理炉F内の温度等と低酸素熱ガス供給用燃焼装置P内のガスの含有酸素濃度等に基づき、処理炉Fの低酸素濃度熱ガス導入口10から処理炉F内に導入される低酸素熱ガスの流量、温度及び酸素濃度を制御する。このような制御は、コンピュータ利用制御装置又はその他の制御装置により行うことができる。
(4)台車R(積載移動装置)
【0056】
処理炉Fの外部と、図1及び図3における左側の出入口14と、処理炉F内の底床面にわたり、一対のレールからなる台車軌道34が敷設されている。
【0057】
台車R(積載移動装置)は、車輪R1により荷台R2が支持され、車輪R1の転動により台車軌道34上を移動して処理炉Fに出入し得る。荷台R2は平面視長方形状をなし、荷台R2の上部は常用1200℃レベルの耐火断熱材によりライニングされている。なお、転動手段により支持される積載移動装置としては、車輪R1に支持される台車Rのように荷台R2に転動手段を備えて荷台R2と共に転動手段が移動するもののほか、ローラ等の転動手段が床面等に固定され、固定された転動手段上を荷台R2が移動するものとすることもできる。
【0058】
台車Rが処理炉F内に位置する状態において、低酸素濃度熱ガス導入口10及びガス排出口12は、台車Rの荷台R2よりも上方に位置するものとすることが望ましい。
【0059】
台車Rが処理炉F内に位置した閉扉状態において、低酸素濃度熱ガス導入口10から処理炉F内に導入される低酸素濃度熱ガスや荷台R2上の処理対象物(鉄鋼スクラップS)から発生したガス等が荷台R2の長手縁部と処理炉Fの長手内側壁面との間隙から下方に漏れるのを防ぐための、サンドシール36(シール部)が設けられている。このサンドシール36は、台車Rの荷台R2の長手縁部とそれに相対する処理炉Fの長手内側壁面にそれぞれ設けられたシール材36a・36bが、互いに協働して荷台R2の長手周縁部と処理炉Fの長手内側壁面との間隙を封止するものである。台車Rの荷台R2の短手縁部は、その上面において扉15の内扉15bの下端縁により封止されている。
(5)漏斗状構造部I(流下物回収部)
【0060】
台車Rには、長手方向一方側と他方側にそれぞれ1ずつの漏斗状構造部Iが、流下物回収部として設けられている。漏斗状構造部Iは、鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融物、又は有機高分子材料の溶融若しくは熱分解等による液化物等の液状流下物が、荷台R2の上面を流下して特定箇所に集まるように形成されたIaと、前記特定箇所に集まった液状流下物を下方に流下させる上方開口の流下管部Ib(シューター)を有してなる。荷台R2の上面は、その実質上全面が、2つの漏斗状構造部Iの傾斜面部Iaにより構成されている。なお、前記のような液状流下物は、粉状物や固体片等を含んでいてもよい。
【0061】
台車軌道34を構成する一対のレールの間には、水封冷却溝38が形成され、その水封冷却溝38には水が収容されており、水封冷却溝38内の下部には、流下物用コンベアが設けられ、ドラムドライヤ37等により乾燥後、残渣溶融処理炉39において溶融処理される。台車Rの漏斗状構造部Iにおける流下管部Ibの下端部は、水封冷却溝38内の水中において開口することにより、水封されている。そのため、処理炉F内に導入される低酸素濃度熱ガスや荷台R2上の処理対象物から発生したガス等が流下管部Ibを通じて外部に漏れることが防がれると共に、大気等の外部気体を流下管部Ibを通じて処理炉F内に吸引することが防がれる。
【0062】
前記のような液状流下物は、流下管部Ibを通じて水封冷却溝38の水中に流下して冷却固化され、その固化物は流下物用コンベア40により搬出される。ガラス類は、処理対象物に含まれていても溶融温度に至らないので、流下して流下物回収部において凝固又は流動性が低下すること等により流下物回収部の機能を損なうことが避けられる。
【0063】
なお、水封冷却溝38内に水以外の水封冷却液を収容することもできる。また、流下物回収部は、例えば液状流下物を保留する流下管部Ibを通じて処理炉F内の保留容器に保留し、後で回収するものとすることもできる。
(6)ガスコンデンサC
【0064】
ガスコンデンサCは、処理炉Fのガス排出口12から排出されたガス類を間接空冷又は間接水冷により冷却し、ガス状又はミスト状の炭化水素及び水蒸気等を含むガス類中のガス状の炭化水素及び水蒸気等を凝縮して油状化する。このように得られた油状化物は、油水分離槽42により分離され、油成分は、炭化水素油改質装置44により改質されて燃料化された後、必要に応じ貯蔵タンク46に貯蔵され、低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pの燃料又はその他の燃料として活用する。油水分離槽における重質成分である水系成分及び沈殿物は、受水タンク48を経て中和装置50等により処理される。
【0065】
ガスコンデンサCにより油状化しない一酸化炭素や軽質の炭化水素ガス等の軽質のガスは、焼却炉Bに送給し、そのうちの可燃成分を燃焼させる。
【0066】
処理炉Fのガス排出口12とガスコンデンサCは、常用1200℃の耐火材でライニングした排出ガスダクト52で連通させる。ガスコンデンサCと焼却炉Bは軽質ガスダクト54で連通している。軽質ガスダクト54は、ガスコンデンサCにガス類の受け入れが困難な事情がある場合に備え、念のため常用1200℃の耐火材でライニングしてある。なお、ガスコンデンサCから送出される通常のガスの温度は100℃以下である。
【0067】
排出ガスダクト52の途中に、焼却炉Bに短絡するバイパス管路56の始端部を分岐させ、ガスコンデンサCにガス類の受け入れが困難な事情がある場合に備える。バイパス管路56の終端部は、軽質ガスダクト54の中間部に連結してある。バイパス管路56は常用1200℃の耐火材でライニングしてある。
【0068】
軽質ガスダクト54におけるガスコンデンサCとバイパス管路56の終端部の間には、軽質ガスダクト54内のガス類が焼却炉Bに向かって流れるよう駆動するためのガス類誘引ブロア58が設けられている。また、バイパス管路56の中間部、及び排出ガスダクト52におけるバイパス管路56の始端部とガスコンデンサCの間の位置に、それぞれダンパー60・62が設けられ、これらのダンパー60・62によるパイパス管路及び排出ガスダクト52後半部の開閉により、ガス排出口12と焼却炉Bを短絡するか否かを選択する。
(7)焼却炉B
【0069】
焼却炉Bは、直立砲弾形状をなし、その内壁は、常用1600℃のレベルの耐火断熱性を有する耐火材でライニングされている。
【0070】
焼却炉Bの下端部側方に、助燃バーナ64が設けられ、助燃バーナ64のやや内方に、ガスコンデンサCから送給されるか又は処理炉Fのガス排出部から直接送給される焼却対象ガスを導入するガス導入口66(ガス導入部)が設けられている。
【0071】
焼却炉Bにおけるガス導入口66のやや下方には、残渣溶融処理炉39から排出されるガスを、プロセスガスダクト70を通じて焼却対象ガスの一部として導入するためのプロセスガス導入口68が設けられている。処理対象物の熱分解残渣や集塵灰等の溶融処理を行なう場合等における排ガスを無害化するために、焼却対象ガスの一部とすることも有効である。プロセスガスダクト70には、残渣溶融処理炉39から排出されるガスがプロセスガス導入口68に向かって流れるよう駆動するためのプロセスガス誘引ブロア72が設けられている。焼却炉Bの焼却対象としては、これら以外のガスを含めることができる。
【0072】
焼却炉Bにおける助燃バーナ64の上下方向位置よりやや上方における水平方向逆側の側壁部に、不完全燃焼熱排ガス供給口74(不完全燃焼熱排ガス供給部)を有する。また、不完全燃焼熱排ガス供給口74よりも上方位置に、二次助燃バーナ80を有し、二次助燃バーナ80よりも上方位置の複数箇所に、二次燃焼用供空ノズル76が設けられている。
【0073】
ガス導入口66又はプロセスガス導入口68から導入された焼却対象ガスは、助燃バーナ62の火炎により助燃される。その燃焼排ガスは、焼却炉Bの下方部においては、高濃度の未燃分が含まれると同時に酸素濃度が低い不完全燃焼熱排ガスである。この不完全燃焼熱排ガスの一部が、低酸素熱ガス誘引ブロア32により誘引されて、不完全燃焼熱排ガス供給口74から熱排ガス導入口20を通じて低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pに導入される。これにより、低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pの燃料消費量を節約することができる。
【0074】
助燃バーナ62により燃焼した排ガスは、二次助燃バーナ80で更に助燃され、焼却炉B内の上方側で、二次燃焼用供空ノズル76により十分な空気(酸素)が供給されて完全燃焼化が図られ、不完全燃焼熱排ガスに含まれる未燃分及び熱分解性有害成分の熱分解が行われる。二次助燃バーナ80により二次燃焼した焼却排ガスは、焼却炉B上端の焼却排ガス排出口78から排出される。また、処理炉Fにおける扉間空間部15aから吸引口17を通じてガス類が吸引された場合、そのガス類は、ガス吸引ブロア81により誘引されてガス送給ダクトライン83により焼却炉B内の上方側に送給され、焼却されて焼却排ガス排出口78から排出される。
(8)焼却排ガス処理
【0075】
焼却炉Bの焼却排ガス排出口78から排出された焼却排ガスは、焼却排ガスダクト82を介して排ガス冷却装置84に送給される。送給された焼却排ガスは、排ガス冷却装置84内で、水酸化ナトリウム水溶液タンク86又は水タンク88からの水酸化ナトリウム水溶液又は水により直接水冷により冷却される。なお、冷却は、間接水冷、間接空冷等の任意方法により行い得る。焼却排ガスの冷却により、焼却排ガス中のダイオキシン類の再合成を抑制し、次段の集塵装置の保護を行うことができる。なお処理を要する含臭ガスや熱分解性の有害ガスがある場合、排ガス冷却装置に送給して処理することが有効である。
【0076】
焼却排ガスダクト82上に、焼却排ガスとの熱交換によりクリーンな空気を加熱するための熱交換器90が設けられている。この熱交換器90により加熱された空気を、排ガス洗浄塔92の上部の排気筒94内に供給することにより、排気筒94内の湿った排ガスを加熱し、排気筒94からの排ガスが湯気状に白色となって排出されることが防止される。また、焼却排ガスの一部は、プロセス汚水(工程上で発生する不要の汚水)を蒸発させるための汚水蒸発器96に吸引してその熱で汚水の蒸発処理が行われる。
【0077】
排ガス冷却装置84から排出された冷却排ガスは、バグフィルター方式の集塵装置98に送給される。冷却排ガス流には、集塵装置98に導入される前の位置において、薬剤タンク100からの中和剤等の薬剤を吹き込む。これにより、排ガス中のダイオキシン類や塩化水素等の有害物を無害化する一方、排ガスの流れに随伴させた中和剤等の薬剤を集塵装置98のバグフィルターの面(濾布面)に捕捉させて、バグの織り目の隙間をより小さくする。
【0078】
集塵装置98と排ガス洗浄塔92の間には、排ガス誘引ブロア102が設けられている。装置全体の排ガスを駆動する主体は、排ガス誘引ブロア102であるが、低酸素熱ガス供給用燃焼装置Pの燃焼用二次供空ブロア24及びガス類誘引ブロア58がブースターとなり、集塵装置98を経た排ガスを排ガス洗浄塔92に送給している。
【0079】
排ガス誘引ブロア102により排ガスを誘引することにより、集塵装置98のバグフィルターの面に塗布するように捕捉させた中和剤等の薬剤と排ガスとを接触させ、これにより、薬剤吹き込みと併せて二段階で有害物を中和することができる。集塵装置98のバグフィルタにより捕捉した集塵灰は、残渣溶融処理炉39等により適正に処理される。他方、排ガスに含まれる塵埃(ダスト)は、排ガス流の中に吹き込んだ中和剤等の薬剤の捕捉と同様に集塵装置98のバグフィルターの面上で捕捉される。
【0080】
なお、集塵装置は、これに限らず電気集塵や水噴射のスクラバー方式等を適宜採用し得る。
【0081】
集塵装置98から排出された排ガスは、排ガス洗浄塔92に送給される。排ガス洗浄塔92は、集塵装置98で無害化及び捕捉し得ずに通過した有害物と塵埃を、アルカリ溶液タンク104の水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液又はその他の液体等に直接接触させて洗浄することにより、クリーンな排ガスとし、上部の排気塔より大気中に排出するものである。
(9)処理炉Fによる処理後の鉄鋼材料
【0082】
処理炉Fにおいて上記のような処理を終えた残留物は、主に鉄鋼材料からなる鉄鋼スクラップSであり、鉄鋼スクラップSの間隙に、塗料滓やプラスチック強化材などの無機物からなるガス化残渣が存在し得る。
【0083】
処理を終えた鉄鋼スクラップSは、台車Rに積載した状態で処理炉F外へ取り出した後で冷却するか、台車Rに積載された状態の鉄鋼スクラップSを処理炉F内で冷却後に台車Rごと処理炉F外へ取り出す。
【0084】
冷却後の鉄鋼スクラップSは、スクラップコンベア106により搬送され、例えばニプラにより破砕され、或いはギロチン108等の切断機を用いて任意のサイズに切断される。
【0085】
切断前の鉄鋼スクラップS又は切断物から、必要に応じ振動篩機などによって、ガス化残渣を分離することにより、ガス化残渣と分別された高品質の鉄鋼スクラップSが得られる。分別されたガス化残渣は、残渣溶融処理炉39において溶融処理される。
【0086】
なお、以上の実施の形態についての記述における構成部品の寸法、個数、材質、形状、その相対配置などは、特にそれらに限定される旨の記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】フロー図である。
【図2】処理炉の短手方向垂直断面図である。
【図3】処理炉の長手方向垂直断面図である。
【図4】焼却炉の垂直断面図である。
【図5】低酸素熱ガス供給用燃焼装置の長手方向垂直断面図である。
【符号の説明】
【0088】
10 低酸素濃度熱ガス導入口
12 ガス排出口
14 出入口
15 扉
15a 扉間空間部
16 レンガ
17 吸引口
18 主バーナ
20 熱排ガス導入口
22 二次燃焼用供空ノズル
24 燃焼用二次供空ブロア
26 マニホールド
28 補助バーナ
30 低酸素熱ガスダクト
32 低酸素熱ガス誘引ブロア
34 台車軌道
36 サンドシール
36a シール材
37 ドラムドライヤ
38 水封冷却溝
39 残渣溶融処理炉
40 流下物用コンベア
42 油水分離槽
44 炭化水素油改質装置
46 貯蔵タンク
48 受水タンク
50 中和装置
52 排出ガスダクト
54 軽質ガスダクト
56 バイパス管路
58 ガス類誘引ブロア
60 ダンパー
62 ダンパー
64 助燃バーナ
66 ガス導入口
68 プロセスガス導入口
70 プロセスガスダクト
72 プロセスガス誘引ブロア
74 不完全燃焼熱排ガス供給口
76 二次燃焼用供空ノズル
78 焼却排ガス排出口
80 二次助燃バーナ
81 ガス吸引ブロア
82 焼却排ガスダクト
83 ガス送給ダクトライン
84 排ガス冷却装置
86 水酸化ナトリウム水溶液タンク
88 水タンク
90 熱交換器
92 排ガス洗浄塔
94 排気筒
96 汚水蒸発器
98 集塵装置
100 薬剤タンク
102 排ガス誘引ブロア
104 アルカリ溶液タンク
106 スクラップコンベア
108 ギロチン
B 焼却炉
C ガスコンデンサ
F 処理炉
Ia 傾斜面部
Ib 流下管部
I 漏斗状構造部
P 低酸素熱ガス供給用燃焼装置
R1 車輪
R2 荷台
R 台車
S 鉄鋼スクラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼を含む金属材料と有機高分子材料とを含む処理対象物から少なくとも鉄鋼材料を回収するための装置であって、
低酸素濃度熱ガスを炉内に導入する低酸素濃度熱ガス導入部と、炉内で発生したガス並びに前記低酸素濃度熱ガス導入部から炉内に導入された低酸素濃度熱ガスの全部又は部分を含むガス類を炉外へ排出するガス排出部を有し、前記処理対象物を収容し、その処理対象物中の有機高分子材料について熱分解を行うと共に、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融を行うための処理炉と、
前記処理炉内の処理対象物からの液状流下物を回収する流下物回収部と、
処理炉の炉内温度を、前記処理対象物中の有機高分子材料が熱分解し、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料が溶融し、前記処理対象物中に存在し得るガラス類が溶融温度に至らない温度とするための温度調節手段を備え、
前記処理炉内に導入されるガスの酸素濃度は、処理対象物中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる濃度であることを特徴とする鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項2】
処理炉内への外部からの熱の供給、及び、処理炉の炉内温度を、処理対象物中の有機高分子材料が熱分解し、処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料が溶融し、処理対象物中に存在し得るガラス類が溶融温度に至らない温度とするための温度調節が、低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に導入される低酸素濃度熱ガスにより行われる請求項1記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項3】
低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に導入される低酸素濃度熱ガスの酸素濃度が5%以下である請求項1又は2記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項4】
低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に導入される低酸素濃度熱ガスの温度が、有機高分子材料の熱分解温度及び処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の融点より高く鉄鋼材料の融点及び処理対象物中に存在し得るガラス類の溶融温度よりも低い請求項1、2又は3記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項5】
低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に導入される低酸素濃度熱ガスの温度が、500℃以上1200℃以下である請求項4記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項6】
低酸素濃度熱ガスを低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に送給する低酸素熱ガス送給源を備える請求項1乃至5の何れか1項に記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項7】
低酸素熱ガス送給源が、燃料の燃焼による燃焼排ガスを低酸素熱ガスとして生成する低酸素熱ガス供給用燃焼装置である請求項6記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項8】
処理対象物を積載した状態で転動手段により支持されて処理炉内に出入し得る積載移動装置を備え、
上記処理炉は、前記積載移動装置の出入が可能な出入部を有し、
処理対象物を積載した積載移動装置が処理炉内に位置した状態において、その処理対象物中の有機高分子材料について熱分解を行うと共に、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融を行う請求項1乃至7の何れか1項に記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項9】
積載移動装置が処理炉内に位置した状態において積載移動装置の上部と下部の間と処理炉内面との間を封止するためのシール部を、処理炉および/または積載移動装置に備える請求項8記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項10】
流下物回収部を積載移動装置に備える請求項8又は9記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項11】
流下物回収部が、処理炉内の処理対象物からの液状流下物を処理炉から下方へ排出して回収するものである請求項1乃至10の何れか1項に記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項12】
処理炉のガス排出部から排出された可燃ガスを燃焼させる焼却炉と、
その焼却炉の排ガスのうち不完全燃焼部分を低酸素熱ガス供給用燃焼装置に供給する不完全燃焼熱排ガス供給部を有し、
その不完全燃焼熱排ガス供給部を通じて低酸素熱ガス供給用燃焼装置に供給される不完全燃焼熱排ガスが、その低酸素熱ガス供給用燃焼装置において更に加熱されると共に含まれ得る可燃成分が燃焼し、上記の燃料の燃焼による燃焼排ガスと共に、低酸素熱ガスとして低酸素濃度熱ガス導入部を通じて処理炉内に送給される請求項1乃至11の何れか1項に記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項13】
処理炉のガス排出部から排出されたガス類を冷却凝縮するためのガスコンデンサを備え、そのガスコンデンサにおいて凝縮しないガスを上記焼却炉に供給し、そのうち可燃成分を燃焼させる請求項12記載の鉄鋼材料分別回収装置。
【請求項14】
鉄鋼を含む金属材料と有機高分子材料とを含む処理対象物から少なくとも鉄鋼材料を回収するための方法であって、
処理炉内に前記処理対象物を収容し、
低酸素濃度熱ガスを処理炉に導入し、
処理炉の炉内温度を、前記処理対象物中の有機高分子材料が熱分解し、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料が溶融し、前記処理対象物中に存在し得るガラス類が溶融温度に至らない温度とし、
処理炉内において前記処理対象物中の有機高分子材料について熱分解を行うと共に、前記処理対象物中に存在し得る鉄鋼材料よりも低融点の金属材料の溶融を行い、
前記処理炉内の処理対象物から発生したガス並びに低酸素濃度熱ガス導入部から処理炉内に導入された低酸素濃度熱ガスの全部又は部分を処理炉外へ排出し、前記処理炉内の処理対象物からの液状流下物を回収するものであり、
前記処理炉内に導入されるガスの酸素濃度は、処理対象物中に含まれ得る可燃物の燃焼が防がれる酸素含有率であることを特徴とする鉄鋼材料分別回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−285730(P2008−285730A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133107(P2007−133107)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000159744)
【Fターム(参考)】