鉄骨と鋼殻の接合構造
【課題】適切な設計を行うことによって、十分な接合性能を有する鉄骨と鋼殻の接合構造を提供する。
【解決手段】鋼殻1内にH型鋼21が配置され、コンクリート3が打設されてなる接合構造において、鋼殻1からH型鋼21を引き抜く際に引き抜き力に抵抗した場合に生じるH型鋼21のフランジ先端からコンクリート3に割裂ひび割れ4が発生する割裂ひび割れ発生荷重Pcrは、次式(1)及び次式(2)を満たす。Pcr=L’×4Wr×ft・・・式(1)、Pcr>Py・・・式(2)[L’:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含む)、Wr:割裂ひび割れ抵抗長さ(mm){Wr=0.40B+40、0.84B≦Wr}、B:H型鋼のフランジ幅(mm){ただし、150≦B}、ft:コンクリートの引張強度(N/mm2)、Py:H型鋼の降伏荷重{Py=As×fy}、As:H型鋼の断面積(mm2)、fy:H型鋼の降伏強度(N/mm2)]
【解決手段】鋼殻1内にH型鋼21が配置され、コンクリート3が打設されてなる接合構造において、鋼殻1からH型鋼21を引き抜く際に引き抜き力に抵抗した場合に生じるH型鋼21のフランジ先端からコンクリート3に割裂ひび割れ4が発生する割裂ひび割れ発生荷重Pcrは、次式(1)及び次式(2)を満たす。Pcr=L’×4Wr×ft・・・式(1)、Pcr>Py・・・式(2)[L’:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含む)、Wr:割裂ひび割れ抵抗長さ(mm){Wr=0.40B+40、0.84B≦Wr}、B:H型鋼のフランジ幅(mm){ただし、150≦B}、ft:コンクリートの引張強度(N/mm2)、Py:H型鋼の降伏荷重{Py=As×fy}、As:H型鋼の断面積(mm2)、fy:H型鋼の降伏強度(N/mm2)]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨(H型鋼)と鋼殻の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
複合ラーメン橋梁などの建設工事において、橋梁下部工(橋脚)と橋梁上部工を接合する工事の鉄骨と鋼殻を接合する部分には、剛接合として設計することが基本とされている。そのため、鉄骨に引き抜き力が作用する場合、鉄骨と鋼殻の相対的な抜き出し量が小さく抑えられることが必要である。
このような鉄骨と鋼殻の接合構造を適用した橋脚と橋梁上部工との接合構造として、例えば、複数の鉄骨の上端部を突出させるようにしてコンクリートを充填して橋脚を形成する。そして、平行に配列した複数の主桁と、主桁同士を接続する横板とによって横桁を枠状に形成する。また、横桁の内部空間を主桁及び横板により複数のセル室に仕切り、セル室内に橋脚の鉄骨を挿入して、内部にコンクリートを充填することによって橋脚と横桁とを接合する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−32232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、接合構造の構成材料とコンクリートを充填する方法について記載されており、構成材料の設計方法や配置方法については記述されておらず、鉄骨と鋼殻の接合性能の評価方法や十分な接合性能を確保するための設計方法や配置方法が明確でない。
そこで、本発明は、いくつかの構造実験やFEM解析に基づき、鉄骨から鋼殻への荷重伝達機構や損傷メカニズムを考慮して、主要な構成材料の寸法や配置方法を決定するものである。そして、鉄骨と鋼殻の接合性能を評価し、適切な設計を行うことによって、十分な接合性能を有する鉄骨と鋼殻の接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、例えば図1に示すように、鋼殻1内にH型鋼21からなる鉄骨2が配置され、鋼殻内にコンクリート3が打設されてなる鉄骨と鋼殻の接合構造において、
前記鋼殻から前記H型鋼を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じる前記H型鋼のフランジ先端からコンクリートに割裂ひび割れ4が発生する割裂ひび割れ発生荷重Pcrは、次式(1)及び次式(2)を満たすことを特徴とする。
Pcr=L’×4Wr×ft ・・・式(1)
Pcr>Py ・・・式(2)
[ここで、
L’:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含む)、
Wr:割裂ひび割れ抵抗長さ(mm){Wr=0.40B+40、ただし、0.84B≦Wr}、
B:H型鋼のフランジ幅(mm){ただし、150≦B}、
ft:コンクリートの引張強度(N/mm2)、
Py:H型鋼の降伏荷重{Py=As×fy}、
As:H型鋼の断面積(mm2)、
fy:H型鋼の降伏強度(N/mm2)、とする。]
【0005】
請求項1の発明によれば、鋼殻からH型鋼を引き抜く際に生じる割裂ひび割れ発生荷重Pcrが、上記式(1)を満たすので、割裂ひび割れ発生荷重Pcrがコンクリートの引張強度と抵抗面積で決定される。したがって、割裂ひび割れ発生荷重Pcrを算出して、この割裂ひび割れ発生荷重PcrをH型鋼の降伏荷重Pyよりも大きくするように、H型鋼の定着長さ、H形鋼のフランジ幅、コンクリートの引張強度を適宜選定する。これによって、設計が容易となり、かつ、鋼殻と鉄骨を確実に接合することができる。
【0006】
請求項2の発明は、例えば、図1に示すように、請求項1に記載の鉄骨と鋼殻の接合構造において、
前記鋼殻は、鋼板(例えば、主桁11及び横梁12)を枠状に組みつけてなり、
前記鋼殻から前記H型鋼を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じる前記H型鋼とコンクリートの界面に生じる付着損傷が発生する付着損傷発生荷重Pbは、次式(3)〜式(5)を満たすことを特徴とする。
Pb=τ×L×2B×n×βv ・・・式(3)
τ=√f’c・(1.28+6.60Kc)・・・式(4)
Pb>Py ・・・式(5)
[ここで、
τ:付着強度(N/mm2)、
L:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含まない)、
f’c:コンクリート強度(N/mm2)(f’c≦60N/mm2)、
Kc:拘束係数(=t/B)、
t:鋼板厚さの1/2の値(mm)、
B:H型鋼のフランジ幅(mm)(1本当たりの幅)、
n:H形鋼の本数、
βv:鋼殻の面外剛性に関する係数(=0.3/(v+0.3)+0.7)、
v:鋼殻のたわみ量(mm)、とする。]
【0007】
請求項2の発明によれば、鋼殻からH型鋼を引き抜く際に生じるH型鋼とコンクリートの界面に生じる付着損傷発生荷重Pbが上記式(2)を満たすので、付着損傷発生荷重Pbが付着強度、H型鋼の定着長さ、H型鋼のフランジ幅及び本数、鋼殻の面外剛性に関する係数で決定される。したがって、付着損傷発生荷重Pbを算出して、この付着損傷発生荷重Pbを鉄骨の降伏荷重Pyよりも大きくするように、付着強度、H型鋼の定着長さ、H型鋼のフランジ幅及び本数、鋼殻の面外剛性に関する係数を適宜選定することによって、設計が容易となり、かつ、鋼殻と鉄骨を確実に接合することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、適切な設計を行うことができ、鉄骨と鋼殻の接合構造において十分な接合性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1(a)は本発明における鉄骨と鋼殻の接合構造を示した外観斜視図、図1(b)は図1(a)の正断面図、図1(c)は図1(a)の側断面図、図1(d)は図1(a)の上面図である。
鋼殻1は、互いに対向して設けられた主桁11と、主桁11,11間に配置された横梁12,12とを備えている。鋼殻1は、主桁11と横梁12とが矩形枠状に組みつけられることによって、内部に空間が形成されてなるものである。そして、鋼殻1の内部空間に鉄骨2,2,…が配置され、さらにコンクリート3が打設されている。
鉄骨2は、H型鋼21であり、そのフランジ211の外側面には、多数の縞状の横節212が形成されている。横節212によって、H型鋼21が鋼殻1内に打設されるコンクリート3と剛結される。本実施形態では3本のH型鋼21が鋼殻1内に等間隔で配置されている。
【0010】
上記H型鋼21と鋼殻1の接合構造において、鋼殻1からH型鋼21を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じるH型鋼21のフランジ211先端からコンクリート3に割裂ひび割れが発生する。このときの割裂ひび割れ発生荷重Pcrは、次式(1)及び次式(2)を満たす。
Pcr=L’×4Wr×ft ・・・式(1)
Pcr>Py ・・・式(2)
[ここで、
L’:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含む)、
Wr:割裂ひび割れ抵抗長さ(mm){Wr=0.40B+40、ただし、0.84B≦Wr}、
B:H型鋼のフランジ幅(mm){ただし、150≦B}、
ft:コンクリートの引張強度(N/mm2)、
Py:H型鋼の降伏荷重{Py=As×fy}、
As:H型鋼の断面積(mm2)
fy:H型鋼の降伏強度(N/mm2)、とする。]
なお、図1中、符号4は、割裂ひび割れ発生領域を示している。また、遷移域長さとは、図1(b)中、符号L2の長さを言い、H型鋼の非定着区間の長さである。したがって、L’=L(設計上の定着長さ:例えば図1におけるH型鋼21の横節212が形成された箇所の長さ)+L2(遷移域長さ)となる。
【0011】
また、鋼殻1からH型鋼21を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じるH型鋼21とコンクリート3の界面に生じる付着損傷が発生する付着損傷発生荷重Pbは、次式(3)〜式(5)を満たす。
Pb=τ×L×2B×n×βv ・・・式(3)
τ=√f’c・(1.28+6.60Kc)・・・式(4)
Pb>Py ・・・式(5)
[ここで、
τ:付着強度(N/mm2)
L:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含まない)
f’c:コンクリート強度(N/mm2)(f’c≦60N/mm2)
Kc:拘束係数(=t/B)
t:鋼板厚さの1/2の値(mm)
B:H型鋼のフランジ幅(mm)(1本当たりの幅)
n:H形鋼の本数
βv:鋼殻の面外剛性に関する係数(=0.3/(v+0.3)+0.7)、
v:鋼殻のたわみ量(mm)、とする。]
【0012】
図2は、上記式(1)〜(5)を使用して本発明に係る鉄骨と鋼殻の接合構造を設計する際の設計フローを示している。
図2に示すように、まず、構造設計するに当たって、上記式(1)を用いてPcrを算出する。また、H型鋼の断面積As及びH型鋼の降伏強度fyからH型鋼の降伏荷重Pyを算出する。一方、上記式(3)を用いてPbを算出する(ステップS1)。そして、上記式(2)Pcr>Py及び上記式(5)Pb>Pyを満たしているか否かを判断する(ステップS2)。上記式(2)Pcr>Py及び上記式(5)Pb>Pyを満たしていれば設計を終了する。上記式(2)Pcr>Py及び上記式(5)Pb>Pyを満たしていなければ、上記式(2)及び式(5)を満たすようにPcr、Pb、Pyの各パラメータ値を適宜変更することによって調整し(ステップS3)、再度ステップS1及びステップS2を行い、ステップS2において上記式(2)Pcr>Py及び上記式(5)Pb>Pyを満たすまでステップS1〜ステップS3を繰り返す。
【0013】
図3は、鉄骨と複数の鋼殻の接合構造を示した外観斜視図である。
図3に示す接合構造では、3つの主桁11,11,…が所定間隔に配されて、これら主桁11に垂直となるように2つの横梁12,12が互いに対向して配置されている。これによって3つの鋼殻ブロック1,1,…が形成されている。各鋼殻ブロック1内には、3つの鉄骨(H型鋼21,21,…)2,2,…がそれぞれ配されて、コンクリート3が打設されている。
【0014】
次に、上述した鉄骨と鋼殻の接合構造を適用した例として、コンクリート桁と鋼桁の接合構造について説明する。
図4(a)は、1つのコンクリート桁と鋼桁の接合構造を示した斜視図である。
図1に示す接合構造のように、H型鋼21の上端部を鋼殻1から突出させた状態でコンクリートを打設して硬化させることによってコンクリート桁4を形成する。
一方、コンクリート桁4と接合される鋼桁5の一端面には、コンクリート桁4のH型鋼21の一端部が挿入される挿入口51が形成されている。そして、この鋼桁5の挿入口51にH型鋼21の一端部が挿入されて、挿入口51内にコンクリートが打設されることによって、コンクリート桁4と鋼桁5とが剛結されている。
図4(b)は、2つのコンクリート柱と鋼桁の接合構造を示した斜視図である。
図4(b)では、鋼桁5の側面に、各コンクリート柱41のH型鋼21の一端部が挿入される挿入口(図示しない)が二カ所形成されている。そして、この鋼桁5の各挿入口に、それぞれのコンクリート柱41のH型鋼21の一端部が挿入されて、挿入口内にコンクリートが打設されることによって、コンクリート柱41,41と鋼桁5とが剛結されている。
【0015】
次に、H型鋼とコンクリート界面における損傷過程として、まず割裂ひび割れが発生し、その後、荷重増加を伴い付着損傷が進行する点の再現性について、実験例を挙げて説明する。
図5は、鋼殻からH型鋼を引き抜く実験のために使用した試験体の斜視図である。
図5に示すように、互いに対向して配された2つの主桁11,11と、これら主桁11,11間で主桁11に対して垂直となるように狭持された2つの横梁12,12とによって鋼殻1が形成されている。また、主桁11,11の外面には、横方向に長尺な水平補剛材13,13がそれぞれ固定されている。主桁11の縦方向の長さは横梁12の縦方向の長さよりも長くなっている。主桁11の上端部には、上端部開口を塞ぐようにして鋼殻ベースプレート14が取り付けられている。
一方、H型鋼ベースプレート22上にH型鋼21,21,…が3本立設されており、H型鋼21の上側の一部が鋼殻1内に配されて、鋼殻1内にコンクリート3が打設されて試験体100が形成されている。
なお、ここで使用したH型鋼の定着長さL’は190mm、コンクリート呼び強度は30N/mm2、水平補剛材の段数が1段、主桁ウェブ間隔200mm、主桁ウェブ板厚9mm、横梁ウェブ間隔600mm、横梁板厚9mmとする。
【0016】
このような試験体100において、H型鋼ベースプレート22を下方に荷重をかけていった。このとき、1本当たりのH型鋼21の引き抜き荷重(kN)と、H型鋼21の抜き出し変位(mm)の関係を図6に示した。
図6の結果から明らかなように、まず割裂ひび割れが発生し、その後、荷重増加に伴い付着損傷が進行した。具体的には、試験対100のようにH型鋼21が3本の場合、引き抜き荷重が約200kN、抜き出し変位量が約0.1mmで充填コンクリートに割裂ひび割れが発生した。その後、さらに荷重をかけていき、引き抜き荷重が約250kN、抜き出し変位量が約0.4mmで充填コンクリートとH型鋼の界面に付着損傷が発生した。
なお、ここでは示していないが、H型鋼を1本とした場合には割裂ひび割れに伴う変位の増加が小さく、3本とした場合には変位の増加が大きくなった。また、H型鋼1本の場合には、フランジ先端から発生したひび割れが鋼殻に向かって進展したのに対して、H型鋼3本の場合には、隣接するH型鋼のフランジ先端を結ぶように割裂ひび割れが進展したことが確認できた。
【0017】
次に、上述の実験結果から、割裂ひび割れ発生荷重の上記算定式(1)を導出し、算定式(1)により算出した荷重Pcrが、実験及び解析による初期の割裂ひび割れ発生荷重を下回ることを確認することで、算定式(1)が設定した適用範囲において十分な安全性を有していることを確認する。ここで、割裂ひび割れ発生荷重とは、H型鋼の抜け出し量が急激に増加し始める時点での荷重とする。
以下、割裂ひび割れ発生荷重に基づいて算定式(1)の導出方法について説明する。
割裂ひび割れは、コンクリートの引張応力が引張強度に達することで発生する。そのときの引張荷重は、割裂ひび割れが発生する領域の面積にコンクリートの引張強度を掛け合わせることで算定できると仮定した。
Pcr=Acr×ft
[Acr:割裂ひび割れ発生面積(mm2)、ft:引張強度(N/mm2)]
コンクリートの引張強度ftは、設計基準強度(圧縮強度)f’cより求める。また、割裂ひび割れ発生領域は、以下の想定に基づき設定した。
(1)割裂ひび割れを発生させるための支配面積があると想定した。
(2)ひび割れは、H型鋼のフランジ面に沿って一様に分布すると想定した。
(3)支配面積の一辺は、H型鋼の定着長L’と想定した(ただし、実験の場合、非定着区間の長さ(遷移域長さ)を含む)。
(4)もう一辺は、割裂ひび割れ抵抗長さWrと呼ぶ。
割裂ひび割れが発生する荷重Pは、引張強度ft、定着長L’、割裂ひび割れ抵抗長さWrを使って、以下のように表すことができる。式中の「4」は、H型鋼1本に対してH型鋼のフランジ先端が4カ所あることを表す。
P=Acr×ft=L’×4Wr×ft
Wr=P/(ft×L’×4)
【0018】
図7は、H型鋼のフランジ先端距離の1/2値WFと割裂ひび割れ抵抗長さWrとの関係を示した図であり、割裂ひび割れ発生荷重の根拠(ひび割れ抵抗長さWr(mm)のプロット)を示している。図7の結果から、H型鋼のフランジ先端距離が大きくなった場合でも、Wrは一定値を示すことが確認できる。また、H型鋼のサイズが75H、200H、300Hと大きくなることに伴い、Wrが大きくなることが確認できる。ここで、図7中に記載の「75H」、「200H」、「300H」とは、H型鋼のフランジ幅Bが「75mm」、「200mm」、「300mm」であることを言う。また、「2.67B」とは、互いに隣接するH型鋼の中心間隔L1が「フランジ幅Bの2.67倍である」ことを言う。
【0019】
なお、図7における横軸のWFとは、図8に示すように、互いに隣接するH型鋼21,21のフランジ211,211の先端距離の1/2の値である。
図9は、H型鋼のフランジ幅Bと割裂ひび割れ抵抗長さWrとの関係を示した図であり、フランジ幅Bとの関係から、割裂ひび割れ抵抗長さWr=0.40B+40を設定した。
【0020】
次に、算定式(1)により算出した割裂ひび割れ発生荷重と実験及び解析の荷重を比較することで、設定した適用範囲において算定式(1)が十分な安全性を有していることを説明する。
算定式(1)を用いて算定した割裂ひび割れ発生荷重(算定荷重)と、実験及び解析から得られた荷重(実験・解析荷重)を比較した。図10は、算定式(1)を適用した算定
荷重と実験・解析荷重との関係を示した図であり、割裂ひび割れ発生荷重のパラメータであるひび割れ抵抗長さWr(mm)のプロットである。図10の結果から、算定荷重と実験・解析荷重とはおおむね1対1の直線上に位置し、精度の良い評価が可能であることが認められる。
【0021】
図11は、鋼殻のたわみ量v(mm)と荷重比(実験・解析の最大荷重/算定式(3)による算定荷重)との関係を示した図であり、付着損傷荷重の根拠(鋼殻の面外剛性に関する係数βvのプロット)を示している。図11の結果から、補剛材がないケース、H型鋼の中心間隔が比較的大きい75H−5B、200H−5B,300H−5Bのケースのたわみ量vは、大きくなった。すなわち、面外剛性を示すたわみ量vが大きくなることに伴い、荷重比が小さくなることが確認できる。そして、この荷重比を1.0に補正するようにβvを決定した。
【0022】
図12は、付着損傷荷重の算定式(3)を適用した算定荷重と実験・解析荷重の関係を示した図である。図12から明らかなように、算定荷重と実験・解析荷重とはおおむね1対1対応の直線上に位置し、精度の良い評価が可能であることが認められる。
【0023】
図13は、H型鋼と鋼殻の接合構造の構成部位、各構成部位の構成要素、及びこれら各構成要素によって影響が生じるパラメータPy、Pcr、Pbを示したものである。構成部位としては、鋼殻(主桁、横梁)、H型鋼及び充填コンクリートが挙げられる。なお、図13に示す各構成要素L’、L、L2、W1、t1、W2、t2、B、L1等については、図1及び図8に示している。
【0024】
以上のように、鋼殻からH型鋼を引き抜く際に生じる割裂ひび割れ発生荷重Pcrが、上記式(1)を満たすので、割裂ひび割れ発生荷重Pcrがコンクリートの引張強度と抵抗面積で決定される。したがって、割裂ひび割れ発生荷重Pcrを算出し、この割裂ひび割れ発生荷重PcrをH型鋼の降伏荷重Pyよりも大きくするように、H型鋼の定着長さ、H形鋼のフランジ幅、コンクリートの引張強度を適宜選定する。これによって、設計が容易でかつ鋼殻と鉄骨を確実に接合することができる。
また、鋼殻からH型鋼を引き抜く際に生じるH型鋼とコンクリートの界面に生じる付着損傷発生荷重Pbが上記式(2)を満たすので、付着損傷発生荷重Pbが付着強度、H型鋼の定着長さ、H型鋼のフランジ幅及び本数、鋼殻の面外剛性に関する係数で決定される。したがって、付着損傷発生荷重Pbを算出し、この付着損傷発生荷重Pbを鉄骨の降伏荷重Pyよりも大きくするように、付着強度、H型鋼の定着長さ、H型鋼のフランジ幅及び本数、鋼殻の面外剛性に関する係数を適宜選定することによって、設計が容易でかつ鋼殻と鉄骨を確実に接合することができる。
また、パラメータPy、Pcr、Pbは、図13に示す構成要素によって影響を受けるため、上記式(1)〜(5)を適用することで、上記構成要素を適切に選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は本発明における鉄骨と鋼殻の接合構造を示した外観斜視図、(b)は(a)の正断面図、(c)は(a)の側断面図、(d)は(a)の上面図である。
【図2】上記式(1)〜(5)を使用して本発明に係る鉄骨と鋼殻の接合構造を設計する際の設計フローである。
【図3】鉄骨と複数の鋼殻の接合構造を示した外観斜視図である。
【図4】(a)は、1つのコンクリート桁と鋼桁の接合構造を示した斜視図、(b)は、2つのコンクリート柱と鋼桁の接合構造を示した斜視図である。
【図5】鋼殻からH型鋼を引き抜く実験のために使用した試験体の斜視図である。
【図6】図5における実験において、1本当たりのH型鋼の引き抜き荷重と、H型鋼の抜き出し変位との関係を示した図である。
【図7】H型鋼のフランジ先端距離の1/2値WFと割裂ひび割れ抵抗長さWrとの関係を示した図であり、割裂ひび割れ発生荷重の根拠(Wrのプロット)を示している。
【図8】Wr及びWF等の位置関係を示した図である。
【図9】H型鋼のフランジ幅Bと割裂ひび割れ抵抗長さWrとの関係を示した図である。
【図10】割裂ひび割れ発生荷重の算定式(1)を適用した算定荷重と実験・解析荷重との関係を示した図である。
【図11】鋼殻のたわみ量vと荷重比(実験・解析の最大荷重/算定式(3)による算定荷重)との関係を示した図であり、付着損傷荷重の根拠(鋼殻の面外剛性に関する係数βvのプロット)を示している。
【図12】付着損傷荷重の算定式(3)を適用した算定荷重と実験・解析荷重との関係を示した図である。
【図13】H型鋼と鋼殻の接合構造における構成要素と、各構成要素によって影響が生じるパラメータPy、Pcr、Pbを示したものである。
【符号の説明】
【0026】
1 鋼殻
2 鉄骨
3 コンクリート
4 割裂ひび割れ
11 主桁
12 横梁
21 H型鋼
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨(H型鋼)と鋼殻の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
複合ラーメン橋梁などの建設工事において、橋梁下部工(橋脚)と橋梁上部工を接合する工事の鉄骨と鋼殻を接合する部分には、剛接合として設計することが基本とされている。そのため、鉄骨に引き抜き力が作用する場合、鉄骨と鋼殻の相対的な抜き出し量が小さく抑えられることが必要である。
このような鉄骨と鋼殻の接合構造を適用した橋脚と橋梁上部工との接合構造として、例えば、複数の鉄骨の上端部を突出させるようにしてコンクリートを充填して橋脚を形成する。そして、平行に配列した複数の主桁と、主桁同士を接続する横板とによって横桁を枠状に形成する。また、横桁の内部空間を主桁及び横板により複数のセル室に仕切り、セル室内に橋脚の鉄骨を挿入して、内部にコンクリートを充填することによって橋脚と横桁とを接合する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−32232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、接合構造の構成材料とコンクリートを充填する方法について記載されており、構成材料の設計方法や配置方法については記述されておらず、鉄骨と鋼殻の接合性能の評価方法や十分な接合性能を確保するための設計方法や配置方法が明確でない。
そこで、本発明は、いくつかの構造実験やFEM解析に基づき、鉄骨から鋼殻への荷重伝達機構や損傷メカニズムを考慮して、主要な構成材料の寸法や配置方法を決定するものである。そして、鉄骨と鋼殻の接合性能を評価し、適切な設計を行うことによって、十分な接合性能を有する鉄骨と鋼殻の接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、例えば図1に示すように、鋼殻1内にH型鋼21からなる鉄骨2が配置され、鋼殻内にコンクリート3が打設されてなる鉄骨と鋼殻の接合構造において、
前記鋼殻から前記H型鋼を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じる前記H型鋼のフランジ先端からコンクリートに割裂ひび割れ4が発生する割裂ひび割れ発生荷重Pcrは、次式(1)及び次式(2)を満たすことを特徴とする。
Pcr=L’×4Wr×ft ・・・式(1)
Pcr>Py ・・・式(2)
[ここで、
L’:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含む)、
Wr:割裂ひび割れ抵抗長さ(mm){Wr=0.40B+40、ただし、0.84B≦Wr}、
B:H型鋼のフランジ幅(mm){ただし、150≦B}、
ft:コンクリートの引張強度(N/mm2)、
Py:H型鋼の降伏荷重{Py=As×fy}、
As:H型鋼の断面積(mm2)、
fy:H型鋼の降伏強度(N/mm2)、とする。]
【0005】
請求項1の発明によれば、鋼殻からH型鋼を引き抜く際に生じる割裂ひび割れ発生荷重Pcrが、上記式(1)を満たすので、割裂ひび割れ発生荷重Pcrがコンクリートの引張強度と抵抗面積で決定される。したがって、割裂ひび割れ発生荷重Pcrを算出して、この割裂ひび割れ発生荷重PcrをH型鋼の降伏荷重Pyよりも大きくするように、H型鋼の定着長さ、H形鋼のフランジ幅、コンクリートの引張強度を適宜選定する。これによって、設計が容易となり、かつ、鋼殻と鉄骨を確実に接合することができる。
【0006】
請求項2の発明は、例えば、図1に示すように、請求項1に記載の鉄骨と鋼殻の接合構造において、
前記鋼殻は、鋼板(例えば、主桁11及び横梁12)を枠状に組みつけてなり、
前記鋼殻から前記H型鋼を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じる前記H型鋼とコンクリートの界面に生じる付着損傷が発生する付着損傷発生荷重Pbは、次式(3)〜式(5)を満たすことを特徴とする。
Pb=τ×L×2B×n×βv ・・・式(3)
τ=√f’c・(1.28+6.60Kc)・・・式(4)
Pb>Py ・・・式(5)
[ここで、
τ:付着強度(N/mm2)、
L:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含まない)、
f’c:コンクリート強度(N/mm2)(f’c≦60N/mm2)、
Kc:拘束係数(=t/B)、
t:鋼板厚さの1/2の値(mm)、
B:H型鋼のフランジ幅(mm)(1本当たりの幅)、
n:H形鋼の本数、
βv:鋼殻の面外剛性に関する係数(=0.3/(v+0.3)+0.7)、
v:鋼殻のたわみ量(mm)、とする。]
【0007】
請求項2の発明によれば、鋼殻からH型鋼を引き抜く際に生じるH型鋼とコンクリートの界面に生じる付着損傷発生荷重Pbが上記式(2)を満たすので、付着損傷発生荷重Pbが付着強度、H型鋼の定着長さ、H型鋼のフランジ幅及び本数、鋼殻の面外剛性に関する係数で決定される。したがって、付着損傷発生荷重Pbを算出して、この付着損傷発生荷重Pbを鉄骨の降伏荷重Pyよりも大きくするように、付着強度、H型鋼の定着長さ、H型鋼のフランジ幅及び本数、鋼殻の面外剛性に関する係数を適宜選定することによって、設計が容易となり、かつ、鋼殻と鉄骨を確実に接合することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、適切な設計を行うことができ、鉄骨と鋼殻の接合構造において十分な接合性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1(a)は本発明における鉄骨と鋼殻の接合構造を示した外観斜視図、図1(b)は図1(a)の正断面図、図1(c)は図1(a)の側断面図、図1(d)は図1(a)の上面図である。
鋼殻1は、互いに対向して設けられた主桁11と、主桁11,11間に配置された横梁12,12とを備えている。鋼殻1は、主桁11と横梁12とが矩形枠状に組みつけられることによって、内部に空間が形成されてなるものである。そして、鋼殻1の内部空間に鉄骨2,2,…が配置され、さらにコンクリート3が打設されている。
鉄骨2は、H型鋼21であり、そのフランジ211の外側面には、多数の縞状の横節212が形成されている。横節212によって、H型鋼21が鋼殻1内に打設されるコンクリート3と剛結される。本実施形態では3本のH型鋼21が鋼殻1内に等間隔で配置されている。
【0010】
上記H型鋼21と鋼殻1の接合構造において、鋼殻1からH型鋼21を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じるH型鋼21のフランジ211先端からコンクリート3に割裂ひび割れが発生する。このときの割裂ひび割れ発生荷重Pcrは、次式(1)及び次式(2)を満たす。
Pcr=L’×4Wr×ft ・・・式(1)
Pcr>Py ・・・式(2)
[ここで、
L’:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含む)、
Wr:割裂ひび割れ抵抗長さ(mm){Wr=0.40B+40、ただし、0.84B≦Wr}、
B:H型鋼のフランジ幅(mm){ただし、150≦B}、
ft:コンクリートの引張強度(N/mm2)、
Py:H型鋼の降伏荷重{Py=As×fy}、
As:H型鋼の断面積(mm2)
fy:H型鋼の降伏強度(N/mm2)、とする。]
なお、図1中、符号4は、割裂ひび割れ発生領域を示している。また、遷移域長さとは、図1(b)中、符号L2の長さを言い、H型鋼の非定着区間の長さである。したがって、L’=L(設計上の定着長さ:例えば図1におけるH型鋼21の横節212が形成された箇所の長さ)+L2(遷移域長さ)となる。
【0011】
また、鋼殻1からH型鋼21を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じるH型鋼21とコンクリート3の界面に生じる付着損傷が発生する付着損傷発生荷重Pbは、次式(3)〜式(5)を満たす。
Pb=τ×L×2B×n×βv ・・・式(3)
τ=√f’c・(1.28+6.60Kc)・・・式(4)
Pb>Py ・・・式(5)
[ここで、
τ:付着強度(N/mm2)
L:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含まない)
f’c:コンクリート強度(N/mm2)(f’c≦60N/mm2)
Kc:拘束係数(=t/B)
t:鋼板厚さの1/2の値(mm)
B:H型鋼のフランジ幅(mm)(1本当たりの幅)
n:H形鋼の本数
βv:鋼殻の面外剛性に関する係数(=0.3/(v+0.3)+0.7)、
v:鋼殻のたわみ量(mm)、とする。]
【0012】
図2は、上記式(1)〜(5)を使用して本発明に係る鉄骨と鋼殻の接合構造を設計する際の設計フローを示している。
図2に示すように、まず、構造設計するに当たって、上記式(1)を用いてPcrを算出する。また、H型鋼の断面積As及びH型鋼の降伏強度fyからH型鋼の降伏荷重Pyを算出する。一方、上記式(3)を用いてPbを算出する(ステップS1)。そして、上記式(2)Pcr>Py及び上記式(5)Pb>Pyを満たしているか否かを判断する(ステップS2)。上記式(2)Pcr>Py及び上記式(5)Pb>Pyを満たしていれば設計を終了する。上記式(2)Pcr>Py及び上記式(5)Pb>Pyを満たしていなければ、上記式(2)及び式(5)を満たすようにPcr、Pb、Pyの各パラメータ値を適宜変更することによって調整し(ステップS3)、再度ステップS1及びステップS2を行い、ステップS2において上記式(2)Pcr>Py及び上記式(5)Pb>Pyを満たすまでステップS1〜ステップS3を繰り返す。
【0013】
図3は、鉄骨と複数の鋼殻の接合構造を示した外観斜視図である。
図3に示す接合構造では、3つの主桁11,11,…が所定間隔に配されて、これら主桁11に垂直となるように2つの横梁12,12が互いに対向して配置されている。これによって3つの鋼殻ブロック1,1,…が形成されている。各鋼殻ブロック1内には、3つの鉄骨(H型鋼21,21,…)2,2,…がそれぞれ配されて、コンクリート3が打設されている。
【0014】
次に、上述した鉄骨と鋼殻の接合構造を適用した例として、コンクリート桁と鋼桁の接合構造について説明する。
図4(a)は、1つのコンクリート桁と鋼桁の接合構造を示した斜視図である。
図1に示す接合構造のように、H型鋼21の上端部を鋼殻1から突出させた状態でコンクリートを打設して硬化させることによってコンクリート桁4を形成する。
一方、コンクリート桁4と接合される鋼桁5の一端面には、コンクリート桁4のH型鋼21の一端部が挿入される挿入口51が形成されている。そして、この鋼桁5の挿入口51にH型鋼21の一端部が挿入されて、挿入口51内にコンクリートが打設されることによって、コンクリート桁4と鋼桁5とが剛結されている。
図4(b)は、2つのコンクリート柱と鋼桁の接合構造を示した斜視図である。
図4(b)では、鋼桁5の側面に、各コンクリート柱41のH型鋼21の一端部が挿入される挿入口(図示しない)が二カ所形成されている。そして、この鋼桁5の各挿入口に、それぞれのコンクリート柱41のH型鋼21の一端部が挿入されて、挿入口内にコンクリートが打設されることによって、コンクリート柱41,41と鋼桁5とが剛結されている。
【0015】
次に、H型鋼とコンクリート界面における損傷過程として、まず割裂ひび割れが発生し、その後、荷重増加を伴い付着損傷が進行する点の再現性について、実験例を挙げて説明する。
図5は、鋼殻からH型鋼を引き抜く実験のために使用した試験体の斜視図である。
図5に示すように、互いに対向して配された2つの主桁11,11と、これら主桁11,11間で主桁11に対して垂直となるように狭持された2つの横梁12,12とによって鋼殻1が形成されている。また、主桁11,11の外面には、横方向に長尺な水平補剛材13,13がそれぞれ固定されている。主桁11の縦方向の長さは横梁12の縦方向の長さよりも長くなっている。主桁11の上端部には、上端部開口を塞ぐようにして鋼殻ベースプレート14が取り付けられている。
一方、H型鋼ベースプレート22上にH型鋼21,21,…が3本立設されており、H型鋼21の上側の一部が鋼殻1内に配されて、鋼殻1内にコンクリート3が打設されて試験体100が形成されている。
なお、ここで使用したH型鋼の定着長さL’は190mm、コンクリート呼び強度は30N/mm2、水平補剛材の段数が1段、主桁ウェブ間隔200mm、主桁ウェブ板厚9mm、横梁ウェブ間隔600mm、横梁板厚9mmとする。
【0016】
このような試験体100において、H型鋼ベースプレート22を下方に荷重をかけていった。このとき、1本当たりのH型鋼21の引き抜き荷重(kN)と、H型鋼21の抜き出し変位(mm)の関係を図6に示した。
図6の結果から明らかなように、まず割裂ひび割れが発生し、その後、荷重増加に伴い付着損傷が進行した。具体的には、試験対100のようにH型鋼21が3本の場合、引き抜き荷重が約200kN、抜き出し変位量が約0.1mmで充填コンクリートに割裂ひび割れが発生した。その後、さらに荷重をかけていき、引き抜き荷重が約250kN、抜き出し変位量が約0.4mmで充填コンクリートとH型鋼の界面に付着損傷が発生した。
なお、ここでは示していないが、H型鋼を1本とした場合には割裂ひび割れに伴う変位の増加が小さく、3本とした場合には変位の増加が大きくなった。また、H型鋼1本の場合には、フランジ先端から発生したひび割れが鋼殻に向かって進展したのに対して、H型鋼3本の場合には、隣接するH型鋼のフランジ先端を結ぶように割裂ひび割れが進展したことが確認できた。
【0017】
次に、上述の実験結果から、割裂ひび割れ発生荷重の上記算定式(1)を導出し、算定式(1)により算出した荷重Pcrが、実験及び解析による初期の割裂ひび割れ発生荷重を下回ることを確認することで、算定式(1)が設定した適用範囲において十分な安全性を有していることを確認する。ここで、割裂ひび割れ発生荷重とは、H型鋼の抜け出し量が急激に増加し始める時点での荷重とする。
以下、割裂ひび割れ発生荷重に基づいて算定式(1)の導出方法について説明する。
割裂ひび割れは、コンクリートの引張応力が引張強度に達することで発生する。そのときの引張荷重は、割裂ひび割れが発生する領域の面積にコンクリートの引張強度を掛け合わせることで算定できると仮定した。
Pcr=Acr×ft
[Acr:割裂ひび割れ発生面積(mm2)、ft:引張強度(N/mm2)]
コンクリートの引張強度ftは、設計基準強度(圧縮強度)f’cより求める。また、割裂ひび割れ発生領域は、以下の想定に基づき設定した。
(1)割裂ひび割れを発生させるための支配面積があると想定した。
(2)ひび割れは、H型鋼のフランジ面に沿って一様に分布すると想定した。
(3)支配面積の一辺は、H型鋼の定着長L’と想定した(ただし、実験の場合、非定着区間の長さ(遷移域長さ)を含む)。
(4)もう一辺は、割裂ひび割れ抵抗長さWrと呼ぶ。
割裂ひび割れが発生する荷重Pは、引張強度ft、定着長L’、割裂ひび割れ抵抗長さWrを使って、以下のように表すことができる。式中の「4」は、H型鋼1本に対してH型鋼のフランジ先端が4カ所あることを表す。
P=Acr×ft=L’×4Wr×ft
Wr=P/(ft×L’×4)
【0018】
図7は、H型鋼のフランジ先端距離の1/2値WFと割裂ひび割れ抵抗長さWrとの関係を示した図であり、割裂ひび割れ発生荷重の根拠(ひび割れ抵抗長さWr(mm)のプロット)を示している。図7の結果から、H型鋼のフランジ先端距離が大きくなった場合でも、Wrは一定値を示すことが確認できる。また、H型鋼のサイズが75H、200H、300Hと大きくなることに伴い、Wrが大きくなることが確認できる。ここで、図7中に記載の「75H」、「200H」、「300H」とは、H型鋼のフランジ幅Bが「75mm」、「200mm」、「300mm」であることを言う。また、「2.67B」とは、互いに隣接するH型鋼の中心間隔L1が「フランジ幅Bの2.67倍である」ことを言う。
【0019】
なお、図7における横軸のWFとは、図8に示すように、互いに隣接するH型鋼21,21のフランジ211,211の先端距離の1/2の値である。
図9は、H型鋼のフランジ幅Bと割裂ひび割れ抵抗長さWrとの関係を示した図であり、フランジ幅Bとの関係から、割裂ひび割れ抵抗長さWr=0.40B+40を設定した。
【0020】
次に、算定式(1)により算出した割裂ひび割れ発生荷重と実験及び解析の荷重を比較することで、設定した適用範囲において算定式(1)が十分な安全性を有していることを説明する。
算定式(1)を用いて算定した割裂ひび割れ発生荷重(算定荷重)と、実験及び解析から得られた荷重(実験・解析荷重)を比較した。図10は、算定式(1)を適用した算定
荷重と実験・解析荷重との関係を示した図であり、割裂ひび割れ発生荷重のパラメータであるひび割れ抵抗長さWr(mm)のプロットである。図10の結果から、算定荷重と実験・解析荷重とはおおむね1対1の直線上に位置し、精度の良い評価が可能であることが認められる。
【0021】
図11は、鋼殻のたわみ量v(mm)と荷重比(実験・解析の最大荷重/算定式(3)による算定荷重)との関係を示した図であり、付着損傷荷重の根拠(鋼殻の面外剛性に関する係数βvのプロット)を示している。図11の結果から、補剛材がないケース、H型鋼の中心間隔が比較的大きい75H−5B、200H−5B,300H−5Bのケースのたわみ量vは、大きくなった。すなわち、面外剛性を示すたわみ量vが大きくなることに伴い、荷重比が小さくなることが確認できる。そして、この荷重比を1.0に補正するようにβvを決定した。
【0022】
図12は、付着損傷荷重の算定式(3)を適用した算定荷重と実験・解析荷重の関係を示した図である。図12から明らかなように、算定荷重と実験・解析荷重とはおおむね1対1対応の直線上に位置し、精度の良い評価が可能であることが認められる。
【0023】
図13は、H型鋼と鋼殻の接合構造の構成部位、各構成部位の構成要素、及びこれら各構成要素によって影響が生じるパラメータPy、Pcr、Pbを示したものである。構成部位としては、鋼殻(主桁、横梁)、H型鋼及び充填コンクリートが挙げられる。なお、図13に示す各構成要素L’、L、L2、W1、t1、W2、t2、B、L1等については、図1及び図8に示している。
【0024】
以上のように、鋼殻からH型鋼を引き抜く際に生じる割裂ひび割れ発生荷重Pcrが、上記式(1)を満たすので、割裂ひび割れ発生荷重Pcrがコンクリートの引張強度と抵抗面積で決定される。したがって、割裂ひび割れ発生荷重Pcrを算出し、この割裂ひび割れ発生荷重PcrをH型鋼の降伏荷重Pyよりも大きくするように、H型鋼の定着長さ、H形鋼のフランジ幅、コンクリートの引張強度を適宜選定する。これによって、設計が容易でかつ鋼殻と鉄骨を確実に接合することができる。
また、鋼殻からH型鋼を引き抜く際に生じるH型鋼とコンクリートの界面に生じる付着損傷発生荷重Pbが上記式(2)を満たすので、付着損傷発生荷重Pbが付着強度、H型鋼の定着長さ、H型鋼のフランジ幅及び本数、鋼殻の面外剛性に関する係数で決定される。したがって、付着損傷発生荷重Pbを算出し、この付着損傷発生荷重Pbを鉄骨の降伏荷重Pyよりも大きくするように、付着強度、H型鋼の定着長さ、H型鋼のフランジ幅及び本数、鋼殻の面外剛性に関する係数を適宜選定することによって、設計が容易でかつ鋼殻と鉄骨を確実に接合することができる。
また、パラメータPy、Pcr、Pbは、図13に示す構成要素によって影響を受けるため、上記式(1)〜(5)を適用することで、上記構成要素を適切に選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は本発明における鉄骨と鋼殻の接合構造を示した外観斜視図、(b)は(a)の正断面図、(c)は(a)の側断面図、(d)は(a)の上面図である。
【図2】上記式(1)〜(5)を使用して本発明に係る鉄骨と鋼殻の接合構造を設計する際の設計フローである。
【図3】鉄骨と複数の鋼殻の接合構造を示した外観斜視図である。
【図4】(a)は、1つのコンクリート桁と鋼桁の接合構造を示した斜視図、(b)は、2つのコンクリート柱と鋼桁の接合構造を示した斜視図である。
【図5】鋼殻からH型鋼を引き抜く実験のために使用した試験体の斜視図である。
【図6】図5における実験において、1本当たりのH型鋼の引き抜き荷重と、H型鋼の抜き出し変位との関係を示した図である。
【図7】H型鋼のフランジ先端距離の1/2値WFと割裂ひび割れ抵抗長さWrとの関係を示した図であり、割裂ひび割れ発生荷重の根拠(Wrのプロット)を示している。
【図8】Wr及びWF等の位置関係を示した図である。
【図9】H型鋼のフランジ幅Bと割裂ひび割れ抵抗長さWrとの関係を示した図である。
【図10】割裂ひび割れ発生荷重の算定式(1)を適用した算定荷重と実験・解析荷重との関係を示した図である。
【図11】鋼殻のたわみ量vと荷重比(実験・解析の最大荷重/算定式(3)による算定荷重)との関係を示した図であり、付着損傷荷重の根拠(鋼殻の面外剛性に関する係数βvのプロット)を示している。
【図12】付着損傷荷重の算定式(3)を適用した算定荷重と実験・解析荷重との関係を示した図である。
【図13】H型鋼と鋼殻の接合構造における構成要素と、各構成要素によって影響が生じるパラメータPy、Pcr、Pbを示したものである。
【符号の説明】
【0026】
1 鋼殻
2 鉄骨
3 コンクリート
4 割裂ひび割れ
11 主桁
12 横梁
21 H型鋼
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼殻内にH型鋼からなる鉄骨が配置され、鋼殻内にコンクリートが打設されてなる鉄骨と鋼殻の接合構造において、
前記鋼殻から前記H型鋼を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じる前記H型鋼のフランジ先端からコンクリートに割裂ひび割れが発生する割裂ひび割れ発生荷重Pcrは、次式(1)及び次式(2)を満たすことを特徴とする鉄骨と鋼殻の接合構造。
Pcr=L’×4Wr×ft ・・・式(1)
Pcr>Py ・・・式(2)
[ここで、
L’:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含む)、
Wr:割裂ひび割れ抵抗長さ(mm){Wr=0.40B+40、ただし、0.84B≦Wr}、
B:H型鋼のフランジ幅(mm){ただし、150≦B}、
ft:コンクリートの引張強度(N/mm2)、
Py:H型鋼の降伏荷重{Py=As×fy}、
As:H型鋼の断面積(mm2)、
fy:H型鋼の降伏強度(N/mm2)、とする。]
【請求項2】
前記鋼殻は、鋼板を枠状に組みつけてなり、
前記鋼殻から前記H型鋼を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じる前記H型鋼とコンクリートの界面に生じる付着損傷が発生する付着損傷発生荷重Pbは、次式(3)〜式(5)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の鉄骨と鋼殻の接合構造。
Pb=τ×L×2B×n×βv ・・・式(3)
τ=√f’c・(1.28+6.60Kc)・・・式(4)
Pb>Py ・・・式(5)
[ここで、
τ:付着強度(N/mm2)、
L:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含まない)、
f’c:コンクリート強度(N/mm2)(f’c≦60N/mm2)、
Kc:拘束係数(=t/B)、
t:鋼板厚さの1/2の値(mm)、
B:H型鋼のフランジ幅(mm)(1本当たりの幅)、
n:H形鋼の本数、
βv:鋼殻の面外剛性に関する係数(=0.3/(v+0.3)+0.7)、
v:鋼殻のたわみ量(mm)、とする。]
【請求項1】
鋼殻内にH型鋼からなる鉄骨が配置され、鋼殻内にコンクリートが打設されてなる鉄骨と鋼殻の接合構造において、
前記鋼殻から前記H型鋼を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じる前記H型鋼のフランジ先端からコンクリートに割裂ひび割れが発生する割裂ひび割れ発生荷重Pcrは、次式(1)及び次式(2)を満たすことを特徴とする鉄骨と鋼殻の接合構造。
Pcr=L’×4Wr×ft ・・・式(1)
Pcr>Py ・・・式(2)
[ここで、
L’:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含む)、
Wr:割裂ひび割れ抵抗長さ(mm){Wr=0.40B+40、ただし、0.84B≦Wr}、
B:H型鋼のフランジ幅(mm){ただし、150≦B}、
ft:コンクリートの引張強度(N/mm2)、
Py:H型鋼の降伏荷重{Py=As×fy}、
As:H型鋼の断面積(mm2)、
fy:H型鋼の降伏強度(N/mm2)、とする。]
【請求項2】
前記鋼殻は、鋼板を枠状に組みつけてなり、
前記鋼殻から前記H型鋼を引き抜く際に、引き抜き力に抵抗した場合に生じる前記H型鋼とコンクリートの界面に生じる付着損傷が発生する付着損傷発生荷重Pbは、次式(3)〜式(5)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の鉄骨と鋼殻の接合構造。
Pb=τ×L×2B×n×βv ・・・式(3)
τ=√f’c・(1.28+6.60Kc)・・・式(4)
Pb>Py ・・・式(5)
[ここで、
τ:付着強度(N/mm2)、
L:H型鋼のコンクリートに対する定着長さ(mm)(遷移域長さを含まない)、
f’c:コンクリート強度(N/mm2)(f’c≦60N/mm2)、
Kc:拘束係数(=t/B)、
t:鋼板厚さの1/2の値(mm)、
B:H型鋼のフランジ幅(mm)(1本当たりの幅)、
n:H形鋼の本数、
βv:鋼殻の面外剛性に関する係数(=0.3/(v+0.3)+0.7)、
v:鋼殻のたわみ量(mm)、とする。]
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−65442(P2010−65442A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232370(P2008−232370)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】
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