説明

鉄骨柱の柱脚固定構造

【課題】変形性能に優れた鉄骨柱の柱脚構造を提供すること。
【解決手段】
角形鋼管柱の脚部が、その鉄骨柱1に生じる上下方向の変位を、柱脚金物14のせん断抵抗により拘束するよう、アンカーボルト11に固定された前記柱脚金物14と接合され、前記アンカーボルト11は、その中心軸線が、前記角形鋼管柱1における柱側面板5に生じる引張力に対し偏心を生じないよう、平面視で、前記側面板5の幅方向中心線上にあり、かつ、板厚中心に近接した位置に配置され、前記柱脚金物14は、その柱脚金物14のせん断抵抗により鉄骨柱脚部に面外応力が生じないよう、前記柱脚金物14における縦リブ2が、平面視で、前記鉄骨柱の柱側面板5に沿って近接して平行に配置されて、柱脚金物14における縦リブ2の面内応力方向と柱脚部本体の面内応力方向がほぼ一致するようにされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角形鋼管柱を用いた鉄骨建築物における柱脚下部と基礎との固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な柱脚構造としては、図6に示すように、柱脚の固定度を高めた柱脚固定構造(露出柱脚固定構造)が知られている。
【0003】
この場合にも、鉄骨柱1の下面には、アンカーボルト挿通孔30aを有する鋼製厚板からなるベースプレート30が溶接接合されており、コンクリート製基礎10に埋込み固定されたアンカーボルト31を、ベースプレート30のアンカーボルト挿通孔30aに挿通させて、座金およびナット35で固定する構造である。
前記の場合には、ベースプレート30には、鉄骨柱1からの力(圧縮力あるいは引張力)を全部伝達させる必要が有り、またアンカーボルト31の引張に負けない強度が必要になり、厚板となる。
【0004】
前記のような厚板のベースプレート30を備えているために、下記(a)のような溶接接合の特徴を有していると共に、下記(b)(c)のような欠点を有している。
(a)柱鉄骨1とベースプレート30の接合は、柱全断面を完全溶込み溶接している。
(b)アンカーボルト31からベースプレート30は、曲げ力を受ける構造であるので、ベースプレート30の板厚が非常に厚くなる欠点がある。
(c)ベースプレート30もアンカーボルト31も強く剛性が高いので、鉄骨柱部分が塑性化(壊れる)するため、柱材には変形性能が要求されるという欠点がある。
【0005】
前記従来の(c)を回避するために、アンカーボルトまたはベースプレートを鉄骨柱よりも先に塑性化させたり、鉄骨柱とベースプレートとの間に設けた板状の鋼板縦リブを介在させ、板状の鋼板縦リブを鉄骨柱よりも先に塑性化させて、鉄骨柱の塑性化を防止することが知られている。
例えば、そのような柱脚構造として、図7に示すように、せん断降伏により鉄骨柱1に作用する引張力を吸収するようにしたベースプレートダンパがあり、この構造は、鉄骨柱1に板状の鋼板縦リブ32を固定し、その板状の鋼板縦リブ32をせん断プレートとして機能させ、その鋼板縦リブ32に支持プレート33を固着し、その支持プレート33の基端部をベースプレート30に固定し、前記板状の鋼板縦リブ32を、図7(c)に示すように、先にせん断降伏により塑性化させて、鉄骨柱の塑性化を防ぐ考え方は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ただし、いずれの技術の場合も、厚板による曲げ剛性の高いベースプレート30を用い、ベースプレート30に鉄骨柱1または鋼板縦リブを固定した支持プレートを突合せ溶接による強固な溶接固定手段により固定し、柱側が浮き上がる場合にベースプレート30に曲げ力を負担させる構造であるベースプレート型であり、上記(a)(b)のデメリットを有する。
【0007】
前記の鋼板縦リブを用いる技術の特徴として、次の(a)〜(c)がある。
(a)縦リブ32の先行降伏により柱の塑性化防止を図っている。
(b)ベースプレート30には依然として高い剛性、耐力が必要であり、縦リブ32の支持プレート33への固定にも強固な溶接が必要になる。
(c)縦リブ32が柱側面板5に直交しているため、柱側面板5には面外方向応力が生じ、柱脚部が十分な変形性能を発揮する以前に早期破壊する恐れがある。
【特許文献1】特開2004−92096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記従来の柱脚固定構造の場合は、厚板のベースプレートを必要としたり、鉄骨柱への突合せ溶接を必要としたり、柱部材に対する変形性能が要求されたりしていた。
そこで、本発明は、厚板のベースプレートや鉄骨柱への突合せ溶接を不要とし、柱部材に対する変形性能の要求を緩和でき、鉄骨柱に作用する力を軽減して、地震時の構造安全性の確保を容易にした変形性能に優れた鉄骨柱の柱脚構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明の鉄骨柱の柱脚固定構造においては、角形鋼管柱の脚部が、その鉄骨柱に生じる上下方向の変位を、柱脚金物のせん断抵抗により拘束するよう、アンカーボルトに固定された前記柱脚金物と接合され、
前記アンカーボルトは、その中心軸線が、前記角形鋼管柱における柱側面板に生じる引張力に対し偏心を生じないよう、平面視で、前記側面板と直交し、板幅中心を通る軸線上にあり、かつ、板厚中心に近接した位置に配置され、
前記柱脚金物は、その柱脚金物のせん断抵抗により鉄骨柱脚部に面外応力が生じないよう、
前記柱脚金物における縦リブが、平面視で、前記鉄骨柱の柱側面板に沿って近接して平行に配置されて、
柱脚金物における縦リブの面内応力方向と柱脚部本体の面内応力方向がほぼ一致するようにされていることを特徴とする。
また、第2発明の鉄骨柱の柱脚固定構造においては、角形鋼管柱の脚部が、その鉄骨柱に生じる上下方向の変位を、柱脚金物のせん断抵抗により拘束するよう、アンカーボルトに固定された前記柱脚金物と接合され、
前記アンカーボルトは、その中心軸線が、前記角形鋼管柱における柱側面板に生じる引張力に対し偏心を生じないよう、平面視で、前記側面板と直交し、板幅中心を通る軸線上にあり、かつ、板厚中心と同じ位置に配置され、
前記柱脚金物は、その柱脚金物のせん断抵抗により鉄骨柱脚部に面外応力が生じないよう、
前記柱脚金物における縦リブが、平面視で、前記鉄骨柱の柱側面板に沿ってその側面板の投影面内において平行に配置されて、
柱脚金物における縦リブの面内応力方向と柱脚部本体の面内応力方向が一致するようにされていることを特徴とする。
また、第3発明では、第1発明の鉄骨柱の柱脚固定構造において、前記鉄骨柱の隣り合う柱側面板の各角部に下端が開口した切り欠き開口部が設けられ、
その切り欠き開口部は、前記柱側面板と同一厚もしくはそれよりも厚肉の補強鋼板が配置されて隣り合う各柱側面板に突合せ溶接によって固定されて平断面視で塞がれ、
前記補強鋼板の外側で、隣り合う各柱脚金物における各縦リブ端部を重ね合わせ、前記各縦リブ端部と柱脚部の前記補強鋼鈑とをせん断型の高力ボルトにより接合した
ことを特徴とする。
また、第4発明では、第2発明の鉄骨柱の柱脚固定構造において、鉄骨柱の各側面板に下端が開口した切り欠き開口部が設けられ、
その開口面内にアンカーボルトおよび縦リブが配置され、
縦リブと柱側面板は板厚断面中心を同じくするよう突合せ溶接接合したことを特徴とする。
また、第5発明では、第1〜第4発明の鉄骨柱の柱脚固定構造において、柱脚金物は、アンカーボルト挿通管と、アンカーボルト挿通管に固定された縦リブとからなり、
その縦リブは、柱側面板に引張力が生じた際に縦リブに作用する発生応力がアンカーボルトに対して偏心しないよう、アンカーボルト挿通管の両側に対称に配置され、
アンカーボルト挿通管にアンカーボルトを挿通してナットにより固定されていることを特徴とする。
また、第6発明では、第1発明〜第5発明の鉄骨柱の柱脚固定構造において、前記縦リブは、鉄骨柱に上下方向の変位が生じた際に、鉄骨柱の曲げ降伏および引張降伏、アンカーボルトの引張降伏、基礎コンクリートの押し込み破壊よりも先にせん断降伏される縦リブであり、その縦リブの降伏変形によるエネルギー吸収によって鉄骨柱に作用する引張力あるいは圧縮力を低減させるための縦リブであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1) 第1または第2発明によると次のような効果が得られる。
(a)鉄骨柱に作用する引張応力をベースプレートを介さずに柱脚金物とアンカーボルトを介して直接基礎コンクリートに伝達させるため、厚板のベースプレートは不要であり、さらに、鉄骨柱を溶接固定する必要もない。
(b)柱側面板に面外方向応力が作用しないため、柱側面板が早期破壊しない。
【0011】
(2)第3発明によると次のような効果が得られる。
(a)隣り合う縦リブを重ねて一箇所で接合するため、接合箇所を集約することができる。
(b)切り欠き面の大きさの調整により、縦リブの寸法自由度が高い。
(c)縦リブと鉄骨柱が、高力ボルトにより接合されるため、柱脚金物の着脱、固定が容易であり、合理的な交換補修が可能になる。
【0012】
(3)第4発明によると次のような効果が得られる。
(a)各柱側面板とそれに対応している縦リブとアンカーボルトとに偏心が一切ないため、付加応力の発生を抑えて変形性能を最大限に発揮できる。
【0013】
(4)第5発明によると次のような効果が得られる。
(a)縦リブがアンカーボルトの両側に対称に配置されているため、縦リブのせん断変形の伴い発生するアンカーボルトの付加曲げ応力が抑制され、アンカーボルトが早期破壊しない。
(b)柱脚金物とアンカーボルトの接合をナット締めにより行うため、着脱、固定が容易である。
【0014】
(5)第6発明によると次のような効果が得られる。
(a)鉄骨柱に先行して柱脚金物における縦リブが降伏するため、鉄骨柱を弾性域に保って柱鋼材への変形性能要求(低YR化)を緩和することができ、すなわち、降伏強度と引張強度の比(YR)が格段に低い低YR鋼を特に選定しなくとも、高YR鋼を使用して、耐震性にすぐれた柱脚固定構造とすることができる。また、縦リブの降伏変形によって鉄骨柱に伝達されるエネルギーを吸収するため、制震効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1〜図3は、本発明の第1実施形態の鉄骨柱の柱脚固定構造が示されている。
【0017】
この第1実施形態では、角形鋼管からなる鉄骨柱1の下端部の周側面における隣り合う柱側面板5の各角部(コーナー部)に、下端が開口した切り欠き開口部3が設けられ、前記切り欠き開口部3の下部には、柱側面板5と同一板厚寸法またはそれよりも肉厚の補強鋼板4が配置されて、補強鋼板4の両側部は各柱側面板5に、突き合わせ溶接Wにより固定され、前記各角部は、平面視で塞がれている。補強鋼板4の高さ寸法は、切り欠き開口部3の高さ寸法よりも小さくされて、補強鋼板4上端面上と切り欠き開口部3上部との間で、開口3aが設けられ、補強鋼板4の側部から柱側面板5に応力が伝達されるようにされている。
前記の補強鋼板4は、平面視で角形鋼管柱1の対角方向の中心線に対して、直角に配置されている。
【0018】
前記の各補強鋼板4は、各柱脚金物13の端部を固定するための接合部とされている。
【0019】
前記補強鋼板4の幅方向中央部には、上下方向に間隔をおいて複数(図示の場合は4つ)のボルト挿通孔が設けられている。
【0020】
角形鋼管柱1の下部における各柱側面板5に沿って平行に近接して、柱脚金物13における縦リブ2が降伏化部位として配置され、前記柱脚金物13は、アンカーボルト挿通管14が縦リブ間に配置され、また補強鋼板4に沿って、隣り合う柱脚金物13における接続プレート6が重合するように配置され、補強鋼板4と各接続プレート6とのボルト挿通孔に渡って配置されたワンサイド型のボルト7により、前記各柱脚金物13は角形鋼管柱1の下端部に固定されている。
さらに説明すると、図示の形態では、各補強鋼板4に設けられたボルト挿通孔にワンサイド型のボルト7におけるスリーブ付き軸部を挿通して、補強鋼板4の裏面側でスリーブ部を膨出させて係止すると共に、補強鋼板3の表面側においてナット7aを締め込むことにより、接続プレート6を鉄骨柱1に固定している。
前記縦リブ2に接続している接続プレート6は、隣り合う柱脚金物13相互を接続する接続部である。したがって、角形鋼管柱1の下端部には、全周にわたって柱脚金物13が連続するように配置されている。
【0021】
角形鋼管柱1に近接して配置されるアンカーボルト11の中心軸線は、前記角形鋼管柱1の柱側面板5に生じる引張力に対し偏心を生じないよう、少なくとも100mm以内の位置に配置されている。柱側面板5の板厚中心に対するアンカーボルト11の中心軸線の偏心によって、柱側面板5に引張力が生じた際に、アンカーボルト11には付加的な曲げ応力が生じる。この付加曲げ応力に対してもアンカーボルト11が降伏を生じないよう、アンカーボルト11の強度は適宜設計されれば良いが、一般的な角形鋼管柱1の柱サイズ(400×19mm)とした場合のFEM解析検討した結果、アンカーボルト11の柱側面板5の板厚中心に対する偏心距離を100mm以内とすることで、付加曲げによる応力集中率を1.4以下にでき、過度にアンカーボルト11の強度を過度に増大する必要がなくなる。
【0022】
前記の柱脚金物13は、縦向きに配置されたアンカーボルト挿通管14の両側に対称に縦リブ2が配置されていると共に、各縦リブ2の一端側が溶接により前記アンカーボルト挿通管14に固定され、各縦リブ2の他端側には、縦リブ2に対応している柱側面板5に対して135°の角度で屈折するように接続プレート6が、1枚の鋼板から屈曲加工されて一体に連続するように設けられている。
【0023】
アンカーボルト挿通管14の両側に配置されている2枚の各縦リブ2からなる降伏部位の縦方向(垂直方向)合計断面積は、前記各縦リブ2に対応するように配置される角形鋼管柱1の柱側面板5と、同材質とした場合には、柱側面板5の横方向(水平方向)の断面積の√3倍(鋼材引張降伏応力度とせん断降伏応力度の比)よりも小さくされて、各縦リブ2が柱側面板5の引張降伏よりも先にせん断降伏し、柱側面板5を弾性域で使用可能にされている。
【0024】
前記の角形鋼管柱1の下端レベルと、補強鋼板3の下端レベルは、同じレベルとされ、角形鋼管柱1の下面と補強鋼板4の下面とが共同して鉛直荷重をベースプレート9に伝達するようにされている。
【0025】
アンカーボルト挿通管14の下面レベルは、角形鋼管柱1の下面レベルに等しいか、これよりも上位のレベルにあり、柱脚金物13における縦リブ2の下面レベルは、アンカーボルト挿通管14の下面レベルよりも上位に位置するレベルとされている。従って、角形鋼管柱1からの柱鉛直荷重は、柱下面のみ、あるいはアンカーボルト挿通管14下面と共同して伝達させるようにしている。
【0026】
周方向に等角度間隔をおいてアンカーボルト挿通孔8を有する矩形状の鋼製ベースプレート9は、コンクリート製基礎10上に載置されると共に、各アンカーボルト11が前記ベースプレート9のアンカーボルト挿通孔8に挿通され、前記ベースプレート9の上面に補強鋼板4の下面および鉄骨柱1の下面およびアンカーボルト挿通管14の下面(または補強鋼板4の下面および鉄骨柱1の下面)がメタルタッチした状態で載置され、アンカーボルト挿通管14におけるアンカーボルト挿通孔8にアンカーボルト11が挿通され、前記アンカーボルト11の上端部にねじ込まれると共に、アンカーボルト挿通管14の上面に直接または座金を介してナット12が配置され、前記ナット12が緊締されることにより、鉄骨柱1の柱脚部は、必要に応じ設けられる無収縮モルタル20を介して、コンクリート製基礎10に固定されている。
【0027】
補強鋼板4の下面および鉄骨柱1の下面およびアンカーボルト挿通管14の下面(または補強鋼板4の下面および鉄骨柱1の下面)とベースプレート9とは、溶接等により接合されることなく、メタルタッチによる面接触した状態で、ベースプレート9は下方向の圧縮荷重伝達のみを図るようにしており、ベースプレート9は無収縮モルタル20に支承されて、ベースプレート9が曲げ力を負担しないようにされている。
【0028】
アンカーボルト11の軸伸び変形によるアンカーボルト挿通管14の浮き上がりを防止するには、ナット12のナット締めのときにアンカーボルト11に初期張力を導入するようにする。この場合には、縦リブ2に初期応力が生じないように、柱脚金物13の据付時にアンカーボルト挿通管14の下面と鉄骨柱1の下面とは、同一レベルとなるようにしておく。
【0029】
鉄骨柱1の下面とベースプレート9の上面が固定されないで、メタルタッチした状態で設けられていると、ベースプレート9には、鉄骨柱1、または鉄骨柱1から柱脚金物13を介して、鉄骨柱1からの鉛直荷重が圧縮力として作用し、ベースプレート9には、曲げ力が作用しない構造とすることができ、曲げ剛性の小さい薄い鋼板によりベースプレート9を構成することができる。したがって、従来の柱脚固定構造のように、鉄骨柱1とベースプレート30を突合せ溶接(完全溶け込み溶接)し厚板のベースプレートを使用することなく、薄板のベースプレート9を使用することが可能なため、安価なベースプレートとすることができる。
【0030】
なお、ベースプレート9には、鋼管等のガイド用の短尺芯材34が溶接等により固定されており、短尺芯材34に対して鉄骨柱1は上下摺動可能に嵌設配置されている。さらに、鉄骨柱1に生じる軸力およびアンカーボルト11にねじ込み配置されたナット12の締付力によって生じるベースプレート9と基礎コンクリート10間の摩擦抵抗によって、短尺芯材34およびベースプレート9は横方向には移動不能にされている。そのため、柱脚金物13の縦リブ2が、先にせん断変形によりせん断降伏しても、鉄骨柱1は短尺芯材34によりガイドされて、上下方向にのみ移動し、かつ、先に降伏する縦リブ2よりも先に、鉄骨柱1は引張り降伏しないようにされている。鉄骨柱1が立体形縦リブ2よりも先に降伏しないようにする手段としては、前記のように、鉄骨柱1と各縦リブ2との材質を同じ材質とした場合に、各縦リブ2の縦断面における合計断面積を鉄骨柱1の各柱側面板の横断面における合計断面積の√3倍(鋼材引張降伏応力度とせん断降伏応力度の比)よりも小さく設計しておけばよく、または縦リブ2の材質を鉄骨柱1の材質よりも低強度の材質としておけばよい。先に塑性化させる部分と弾性範囲で使用する部分の材質については、各種の形態が考えられるので、適宜設計により設定するようにすればよい。
【0031】
また、角形鋼管柱1と短尺芯材34との間に生じる間隙を埋め、せん断力をより確実に基礎コンクリートへ伝達するためには、角形鋼管柱1の内径よりも小さい外径を持つ短尺芯材34を用い、前記角形鋼管柱1と前記短尺芯材34との間に無収縮モルタルを充填してもよい。さらに、前記無収縮モルタルの充填により、せん断力の伝達面が大きくなり、柱側面板に生じる面外変形も抑制することができる。また、前記無収縮モルタル及び前記短尺芯材34内への充填により、せん断力の伝達面が大きくなり、柱側面板に生じる面外変形も抑制することができる。
【0032】
柱脚金物13における縦リブ2は、鉄骨柱1に接続プレート6を介してボルト接合されているので、地震時等において縦リブ2が降伏した場合には、アンカーボルト11にねじ込み配置されているナット12、接続プレート6と鉄骨柱1を接続しているボルト7を取り外すことで、塑性化した柱脚金物13のみを交換することができ、新たな縦リブ2を備えた柱脚金物13における接続プレート6を鉄骨柱1にボルト7で固定し、アンカーボルト11と柱脚金物13におけるアンカーボルト挿通管14をナット12で緊結しなおすことにより、容易に元の形態に修復することができる。
【0033】
すなわち、鉄骨柱1の柱脚は、これに接続プレート6を介してボルト接合された縦リブ2を備えた柱脚金物13と、その柱脚金物13をアンカーボルト11を介してコンクリート製基礎10に定着する構造により、基礎10に固定されている。また、地震時等において、柱脚金物13における縦リブ2を、アンカーボルト11あるいは鉄骨柱1よりも、先にせん断降伏するようにされている。地震時等において、柱脚金物13における縦リブ2を、鉄骨柱1の曲げ降伏および鉄骨柱1の押込によるコンクリート基礎10の破壊より先に、せん断降伏するようにされていると、地震時等において柱脚金物13における縦リブ2を最初に塑性化させるようにして地震時等において入力されるエネルギーを吸収し、鉄骨柱1の塑性化あるいは基礎コンクリート10の破壊損傷を防止することができる。
【0034】
前記実施形態では、角形鋼管柱1は、その4面の柱側面板5が、柱脚金物13を介してコンクリート基礎10に固定される構造とされているので、地震時において水平力あるいは上揚力等の上下方向の力が作用した場合、せん断力を伝達して支承することができ、また、水平方向の変位を拘束することができ、上下方向に変位することも可能な構造とされている。
【0035】
角形鋼管柱1およびアンカーボルト11が、柱脚金物13における縦リブ2よりも先に降伏しないために、角形鋼管柱1およびアンカーボルト11は、縦リブ2よりも、適宜設計により耐力が高くなるようにされる。鋼管柱径厚に対する縦リブの板厚および材質、アンカーボルトの緒元が適宜、設計により設定される。
【0036】
前記実施形態の場合、縦リブ2と接続プレート6の屈折部にハンチ(補強リブ等)を設けるつけることで、応力集中を緩和し、接続プレート6と降伏部としての縦リブ2とを明確に区分するようにしてもよい。
【0037】
図2に示す形態では、柱側面板5に対して、アンカーボルト挿通管14を近接して配置していることにより、柱脚金物13における縦リブ2も柱側面板5に対して近接して配置されている形態を示したが、アンカーボルト挿通管14を柱側面板5に対して当接することにより、縦リブ2をより柱側面板5に対して近接配置した形態としてもよく、柱側面板5の中央部における下端部に、下端が開口している切り欠き開口部を設けることで、その切り欠き開口部にアンカーボルト挿通管14を配置することで、アンカーボルト挿通管14の幅を吸収して、縦リブ2の内側面を柱側面板5の外面に当接配置する形態としてもよい。
【0038】
次に、図4および図5は、本発明の第2実施形態の鉄骨柱固定構造を示すものであって、この形態と前記実施形態と相違する部分は、柱側面板5の中央部における下端部に、下端が開口している切り欠き開口部3が設けられ、また、柱脚金物13は接続プレート6が省略されて、縦リブ2を直接、角形鋼管柱1の柱側面板5に突き合わせ溶接により固定するようにした形態である。
さらに説明すると、この形態では、角形鋼管柱1における各柱側面板5の幅方向の中央部の下端部に、下端が開口した切り欠き開口部3が設けられ、その各開口面内に、アンカーボルト挿通管14の両側に縦リブ2の一側部を溶接により固定した柱脚金物13が配置されて、各縦リブ2の他側部と柱側面板5は、板厚断面中心軸線を同じくするよう柱脚金物13の縦リブ2が配置されて、突合せ溶接Wにより接合され、柱脚金物13は柱側面板5に予め固定されている。
この形態では、各柱側面板5において、柱側面板5の板厚中心軸線と縦リブ2の板厚中心軸線とが合致するように配置されている。また、縦リブ2はアンカーボルト挿通管14の両側に対称に平面視で直線状に配置されているので、縦リブ2はアンカーボルト11の両側に対称に配置されるようになるため、無偏心状態になり、縦リブ2を含む柱脚金物13および柱側面板5並びにアンカーボルト11間では、柱側面板の面外方向への応力が作用することはなく、合理的に応力を伝達するようにすることができる。なお、この形態では、ベースプレート9に固定された鉄骨柱1の内径に沿う横断面形状の短尺芯材34に対して、鉄骨柱1が上下摺動可能に嵌設され、切り欠き開口部3の上部と柱脚金物13の上部との間に開口3aが形成され、柱脚金物13における縦リブ2から柱側面板5に応力が伝達される。
この形態では、鉄骨柱1に生ずるせん断力は、柱脚金物13を介さずに直接、短尺芯材34を介してベースプレート9に伝達することができる。
柱側面板5の下端レベル、およびアンカーボルト挿通管14の下端レベル、並びに柱側面板5の下端レベルの関係は、前記実施形態と同様である。
その他の構成は、前記第1実施形態と同様であるので、同様な要素には同様な符号を付して説明を省略する。
【0039】
前記各実施形態に示すように本発明では、次の点で改良されている。
(1)鉄骨柱1とアンカーボルト11を柱脚金物13により直接接合する構造とされているので、柱脚固定構造が簡素で簡単な構造とされている。
(2)柱側面板の断面中心と同じまたは概略同じ位置にアンカーボルト配置したので、アンカーボルトに大きな曲げ力が作用しない。
(3)柱側面板、補強板の面内応力方向と、柱脚金物に発生する応力方向を一致させたので、柱側面板に面外方向の力が作用しないか、ほとんど作用しない。
(4)アンカーボルト挿通管に対して縦リブを対称に配置して取付ているので、アンカーボルト挿通管に挿通されるアンカーボルトに対し、縦リブに発生する応力が偏心しない。
(5)柱脚金物13におけるアンカーボルト挿通管14とアンカーボルト11との接合をナット12により固定としたので、柱脚金物13を簡単にナット12により固定することができる。
(6)補強鋼板4上で縦リブ2の端部の接続プレート6を重ね合わせて接合したので、補強鋼板4に対して柱脚金物13の接続プレート6を平行に配置することができ、また縦リブ2を柱側面板5に対して容易に平行に配置することができる。
(7)縦リブ2に接続する接続プレート6と鉄骨柱1側の補強鋼板4をせん断型の高力ボルトにより接合したので、接続プレート6と補強鋼板4とを確実に固定することができる。
(8)柱側面板の下端部に下面に開口する切り欠き開口部3を設けて、縦リブ2およびアンカーボルト挿通管14を備えた柱脚金物13における前記縦リブ2の端部を、突き合わせ溶接により固定した場合には、縦リブ2および柱側面板5およびアンカーボルト挿通管14の各中心軸線を合致させて、完全に無偏心とした柱脚固定構造とすることもでき、前記(2)から(4)の作用を確実に発揮させることができる。
(9)柱脚金物13におけるアンカーボルト挿通管14とアンカーボルト11との接合をナット12により固定とし、縦リブ2に接続する接続プレート6と鉄骨柱1側の補強鋼板4をせん断型の高力ボルトにより接合したので、地震時等において縦リブ2がせん断降伏した際にも、柱脚金物13のみを容易に交換補修することができる。
(10)縦リブ2を、鉄骨柱1またはアンカーボルト11よりも先に、せん断降伏させて、鉄骨柱1に伝達されるエネルギーを吸収することができる。
【0040】
本発明を実施する場合、前記第1実施形態において、接続プレート6を補強鋼板4にボルト接合した形態を示したが、ボルト接合に代えて、接続プレート6を補強鋼板4に溶接により固定するようにしてもよい。
また、前記第2実施形態において、縦リブ2を柱側面板5に突き合わせ溶接したが、これに代えて、縦リブ2端部にボルト挿通孔または接続用金物を設けて、柱脚金物13を柱側面板5にボルト接合により取り付けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態の鉄骨柱の柱脚固定構造を分解して示す一部縦断正面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の鉄骨柱の柱脚固定構造を示すものであって、(a)は縦断正面図、(b)横断平面図である。
【図3】(a)は本発明の第1実施形態の鉄骨柱の柱脚固定構造におけるアンカーボルト付近で切断して示す縦断正面図、(b)は補強鋼板を取り付ける前の第1実施形態の鉄骨柱の正面図である。
【図4】本発明の第2実施形態の鉄骨柱の柱脚固定構造を示すものであって、(a)は正面図、(b)横断平面図である。
【図5】(a)は本発明の第2実施形態の鉄骨柱の柱脚固定構造の縦断正面図、(b)は柱脚金物を取り付ける前の第2実施形態の鉄骨柱の正面図である。
【図6】従来の第1例の鉄骨柱の柱脚構造を示すものであって、(a)は一部縦断正面図、(b)は(a)の横断平面図である。
【図7】従来の第2例の鉄骨柱の柱脚構造を示すものであって、(a)は一部縦断正面図、(b)は(a)の横断平面図、(c)は板状縦リブがせん断変形した状態を示す一部縦断側面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 鉄骨柱(角形鋼管柱)
2 縦リブ
3 切り欠き開口部
3a 開口
4 補強鋼板
5 柱側面板
6 接続プレート
7 ボルト
7a ナット
8 アンカーボルト挿通孔
9 ベースプレート
10 コンクリート製基礎
11 アンカーボルト
12 ナット
13 柱脚金物
14 アンカーボルト挿通管
20 無収縮モルタル
30 ベースプレート
30a アンカーボルト挿通孔
31 アンカーボルト
32 鋼板縦リブ
33 支持プレート
34 短尺芯材
35 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角形鋼管柱の脚部が、その鉄骨柱に生じる上下方向の変位を、柱脚金物のせん断抵抗により拘束するよう、アンカーボルトに固定された前記柱脚金物と接合され、
前記アンカーボルトは、その中心軸線が、前記角形鋼管柱における柱側面板に生じる引張力に対し偏心を生じないよう、平面視で、前記側面板の幅方向中心線上にあり、かつ、板厚中心に近接した位置に配置され、
前記柱脚金物は、その柱脚金物のせん断抵抗により鉄骨柱脚部に面外応力が生じないよう、
前記柱脚金物における縦リブが、平面視で、前記鉄骨柱の柱側面板に沿って近接して平行に配置されて、
柱脚金物における縦リブの面内応力方向と柱脚部本体の面内応力方向がほぼ一致するようにされていることを特徴とする鉄骨柱の柱脚固定構造。
【請求項2】
角形鋼管柱の脚部が、その鉄骨柱に生じる上下方向の変位を、柱脚金物のせん断抵抗により拘束するよう、アンカーボルトに固定された前記柱脚金物と接合され、
前記アンカーボルトは、その中心軸線が、前記角形鋼管柱における柱側面板に生じる引張力に対し偏心を生じないよう、平面視で、前記側面板の幅方向中心線上にあり、かつ、板厚中心と同じ位置に配置され、
前記柱脚金物は、その柱脚金物のせん断抵抗により鉄骨柱脚部に面外応力が生じないよう、
前記柱脚金物における縦リブが、平面視で、前記鉄骨柱の柱側面板に沿ってその側面板の投影面内において平行に配置されて、
柱脚金物における縦リブの面内応力方向と柱脚部本体の面内応力方向が一致するようにされていることを特徴とする鉄骨柱の柱脚固定構造。
【請求項3】
前記鉄骨柱の隣り合う柱側面板の各角部に下端が開口した切り欠き開口部が設けられ、
その切り欠き開口部は、前記柱側面板と同一厚もしくはそれよりも厚肉の補強鋼板が配置されて隣り合う各柱側面板に突合せ溶接によって固定されて平断面視で塞がれ、
前記補強鋼板の外側で、隣り合う各柱脚金物における各縦リブ端部を重ね合わせ、前記各縦リブ端部と柱脚部の前記補強鋼鈑とをせん断型の高力ボルトにより接合した
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄骨柱の柱脚固定構造
【請求項4】
鉄骨柱の各側面板に下端が開口した切り欠き開口部が設けられ、
その開口面内にアンカーボルトおよび縦リブが配置され、
縦リブと柱側面板は板厚断面中心を同じくするよう突合せ溶接接合した
ことを特徴とする請求項2に記載の鉄骨柱の柱脚固定構造。
【請求項5】
柱脚金物は、アンカーボルト挿通管と、アンカーボルト挿通管に固定された縦リブとからなり、
その縦リブは、柱側面板に引張力が生じた際に縦リブに作用する発生応力がアンカーボルトに対して偏心しないよう、アンカーボルト挿通管の両側に対称に配置され、
アンカーボルト挿通管にアンカーボルトを挿通してナットにより固定されている
ことを特徴とする請求項1〜4に記載の鉄骨柱の柱脚固定構造。
【請求項6】
前記縦リブは、鉄骨柱に上下方向の変位が生じた際に、鉄骨柱の曲げ降伏および引張降伏、アンカーボルトの引張降伏、基礎コンクリートの押し込み破壊よりも先にせん断降伏される縦リブであり、その縦リブの降伏変形によるエネルギー吸収によって鉄骨柱に作用する引張力あるいは圧縮力を低減させるための縦リブである
ことを特徴とする請求項1〜5に記載の柱脚固定構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−221754(P2009−221754A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67795(P2008−67795)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】