鉄骨構造物の補強方法および補強構造
【課題】溶接によることなく既設のトラス構造などの鉄骨構造物の補強がなし得る補強方法および補強構造を提供する。
【解決手段】補強対象部材の一端部が第1主材に係合されている第1係合部と、補強対象部材の他端部が第2主材に係合されている第2係合部とを有する鉄骨構造物において、一対の補強部材を前記補強対象部材に軸対称に配設し、前記一対の補強部材の一端部により前記第1係合部を挟持させ、かつ、前記一対の補強部材の他端部により前記第2係合部を挟持させるものである。
【解決手段】補強対象部材の一端部が第1主材に係合されている第1係合部と、補強対象部材の他端部が第2主材に係合されている第2係合部とを有する鉄骨構造物において、一対の補強部材を前記補強対象部材に軸対称に配設し、前記一対の補強部材の一端部により前記第1係合部を挟持させ、かつ、前記一対の補強部材の他端部により前記第2係合部を挟持させるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄骨構造物の補強方法および補強構造に関する。さらに詳しくは、溶接によることなく既設の鉄骨構造物を補強する鉄骨構造物の補強方法および補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大型の建築物においては、重量軽減を図る観点などからトラス構造が用いられている。また、このトラス構造においては、所定の強度を確保しながら重量軽減を図るため、薄肉鋼管が用いられている。
【0003】
しかるに、地球温暖化の影響などから気象現象に異変が生じている。例えば、台風の巨大化、局地的な豪雪などが生じている。そのため、建築基準法などの改正が行われるとともに、この改正にしたがった補強が既設の建築物になされつつある。
【0004】
この既設の建築物の補強は、一般的には、強度が不足する箇所に補強部材を溶接取付することによりなされている。
【0005】
しかしながら、既設のトラス構造において補強部材を溶接取付することについては、以下のような問題がある。
【0006】
すなわち、1)トラス構造に用いられている部材が前述したように、薄肉鋼管であるため溶接による抜け落ちのおそれがある。このおそれは、既設トラス構造においては、無理な姿勢での溶接を強いられることが多いため助長される。2)無理な姿勢での溶接を強いられるため、溶接品質および補強強度が確保できないおそれがある。3)溶接火花による火災を防止するため、養生が必要となり作業が煩雑となる。4)狭隘な場所で溶接機材などを移動させなければならず作業性が悪い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑みなされたものであって、溶接によることなく既設のトラス構造などの鉄骨構造物の補強がなし得る補強方法および補強構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鉄骨構造物の補強方法は、補強対象部材の一端部が第1主材に係合されている第1係合部と、補強対象部材の他端部が第2主材に係合されている第2係合部とを有する鉄骨構造物の補強方法であって、一対の補強部材を前記補強対象部材に軸対称に配設し、 前記一対の補強部材の一端部により前記第1係合部を挟持させ、かつ、前記一対の補強部材の他端部により前記第2係合部を挟持させ、それにより、前記補強対象部材に作用する荷重を前記一対の補強部材に分散させて低減することを特徴とする。
【0009】
本発明の鉄骨構造物の補強方法においては、挟持が、係合部を一対の補強部材の端部により挟み込んだ状態で、その端部をボルト・ナット留めすることによりなされるのが好ましい。
【0010】
一方、本発明の鉄骨構造物の補強構造は、補強対象部材の一端部が第1主材に係合されている第1係合部と、補強対象部材の他端部が第2主材に係合されている第2係合部とを有する鉄骨構造物の補強構造であって、前記補強対象部材に軸対称に配設された一対の補強部材を備え、前記一対の補強部材の一端部により前記第1係合部を挟持し、かつ、前記一対の補強部材の他端部により前記第2係合部を挟持し、それにより、前記補強対象部材に作用する荷重を前記一対の補強部材に分散させて低減してなることを特徴とする。
【0011】
本発明の鉄骨構造物の補強構造においては、挟持が、係合部を一対の補強部材の端部により挟み込んだ後、その端部をボルト・ナット留めすることによりなされるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、既設のトラス構造などの鉄骨構造物の補強が溶接を用いることなくなし得るという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施形態に基づいて説明するが、本発明はかかる実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
実施形態1
本発明の実施形態1に係る鉄骨構造物の補強方法が適用されてなる補強構造を図1および図2に示す。なお、図1においては、図面を簡素化して補強構造の理解を容易とするため、公知構造の鉄骨およびトラス上弦材の図示は省略されている。図中、符号2は図示が省略された鉄骨に設けられているガセットプレートを示す。
【0015】
この実施形態1は、具体的には、トラス構造のラチス材1と端板1aおよびプレート1bの溶接強度不足、ならびにラチス材1とトラス下弦材4との溶接強度不足を補強してなるものとされる。
【0016】
以下、補強構造Kについて詳述する。
【0017】
補強構造Kは、図1および図2に示すように、軸対称とされた上部補強部材10,10と、軸対称とされて上部補強部材10に接合されるロッド状下部補強部材(以下、単に下部補強部材という)20,20と、下部補強部材20の下部を接合する接合部材30とを主要構成要素として備え、強度が不足しているラチス材1を補強するものとされる。
【0018】
本実施形態の補強方法は、より具体的には、強度が不足しているラチス材1に軸対称に補強部材をラチス材1と柱(第1主材)との係合部(第1係合部)およびトラス下弦材(第2主材)との係合部(第2係合部)に係合させて配設し、その補強部材に荷重を分散させてラチス材1にかかる荷重を低減することにより補強をなすものとされる。
【0019】
以下、図3〜図9も参照しながら、上部補強部材10、下部補強部材20および接合部材30について説明する。
【0020】
上部補強部材10は、具体的には、L字状部材とされる。このL字状部材10は、図3に示すように、水平片11の強度を確保するための補強リブ13による補強がなされている。なお、図示例においては、補強リブ13は中央に一箇所設けられているが、補強リブ13の数は必要とされる強度に応じて適宜とされる。
【0021】
L字状部材10の垂直片12の幅は、水平片11を外方に向けてラチス材1のガセットプレート2とのボルト・ナット締結部(第1係合部)を挟み込んだ状態で、側端部がボルト・ナット留めにて接合されるよう、当該締結部から所定幅で突出させられるとともに、その突出箇所にボルト孔が適宜設けられている。なお、垂直片12の先端部がトラス上弦材3などと干渉する場合には、干渉を回避するよう適宜切り欠かれるものとされる。
【0022】
また、垂直片12の対向面の外周部には、L字状部材10をプレート1bの方向、つまりラチス材1の軸方向に一致させるためのガイド14が配設されている。この場合、補強部材10,20の方向を精度よくラチス材1の軸方向に一致させるため、上側のガイド14はプレート1b上端と当接するように配設されるのが好ましい。また、プレート1bを上側のガイド14に当接させることにより、補強部材に分散させた荷重を上側のガイド14を介してガセットプレート2に伝達することができる。
【0023】
さらに、垂直片12には、ラチス材1のガセットプレート2とのボルト・ナット締結部のボルトあるいはナットと干渉を回避して対向面がラチス材1のプレート1bと接触可能なよう透孔、つまりボルトやナットの逃げが形成されている。
【0024】
一方、L字状部材10の水平片11の幅は、ラチス材1のガセットプレート2とのボルト・ナット締結部を挟み込んだ状態で、先端部がラチス材1の端板1a外縁より所定距離突出させられるとともに、その突出部にボルト孔が適宜設けられている。
【0025】
下部補強部材20は、明瞭には図示はされていないが、上部補強部材10の水平片11と接合されるフランジ21と、ラチス材1のトラス下弦材4との締結部(第2係合部)を補強する補強側板22と、上端部にフランジ21と接合される上部接合具23aを有する上部ロッド23と、下端部に補強側板22と接合される下部接続具24aを有する下部ロッド24と、上部ロッド23の下端部および下部ロッド24の上端部に螺着されるターンバックル(図示省略)とを有するものとされる。
【0026】
フランジ21は、図示のごとく、ラチス材1と干渉する部分が適宜切り欠かれている。なお、フランジ21と上部接合具23aとの接続は、フランジ21裏面に垂設された接続片21aと上部接合具23aとを溶接することによりなされる。
【0027】
補強側板22は、図示のごとく、ラチス材1のトラス下弦材4との締結部に対応する箇所が長方形状とされ、補強されるラチス材1に位置する側がラチス材1に沿った傾斜部に形成された変形長方形状板とされる。長方形状とされた箇所の幅(垂直方向の長さ)は、下辺および上辺のそれぞれがトラス下弦材4から所定幅で突出させられるとともに、その突出部にボルト孔が適宜設けられている。なお、補強側板22と下部接続具24aとの接続は、補強側板22の傾斜部先端に設けられた接続片22aに下部接続具24aを溶接することによりなされる。
【0028】
接合部材30は、束材5を挟んで配設されて下部補強部材20の下部上側、つまり補強側板22の上側相互を接合する一対の上側接合部材31,32と、トラス下弦材4の裏面に配設されて下部補強部材20の下部下側、つまり補強側板22の下側相互を接合する下側接合部材33とを含むものとされる。上側接合部材31,32および下側接合部材33により補強側板22,22がトラス下弦材4を挟み込んだ状態で接合されることにより、下部補強部材20,20がトラス下弦材4に係合される。
【0029】
上側接合部材31,32は上向きU字状体とされ、その幅は補強側板22,22間に嵌め込み可能ように調整されるとともに、補強側板22の上側の突出部に設けられたボルト孔に対応させてボルト孔が設けられている。また、上側接合部材31,32つまりU字状体の束材5と干渉する端部は円弧状に切り欠かれる一方、ラチス材1と干渉する端部は楕円弧状に切り欠かれている。
【0030】
下側接合部材33は、下向きU字状体とされ、その幅は補強側板22,22間に嵌め込み可能ように調整されるとともに、補強側板22の下側の突出部に設けられたボルト孔に対応させてボルト孔が設けられている。また、この下側接合部材33は、中間部に補強リブ33aが設けられている。
【0031】
次に、かかる構成とされた補強構造Kによるラチス材1の補強について説明する。
【0032】
手順1:軸対称とされた上部補強部材10,10によりラチス材1とガセットプレート2との締結部を覆って上部補強部材10,10をガセットプレート2に係合させる。つまり、軸対称とされたL字状部材10,10の垂直片12,12により、ラチス材1とガセットプレート2との締結部を挟み込んだ状態で、垂直片12,12相互をボルト・ナット留めにて接合してガセットプレート2と係合させる。これにより、上部補強部材10,10が、第1係合部と係合させられる。
【0033】
手順2:軸対称とされた下部補強部材20,20によりトラス下弦材4のラチス1との接合部を覆って下部補強部材20,20を第2係合部に係合させる。つまり、軸対称とされた補強側板22,22相互を上側接合部材31,32および下側接合部材33によりボルト・ナット留めにて接合し、トラス下弦材4のラチス1との接合部を補強側板22,22により挟み込んで下部補強部材20,20をトラス下弦材4に係合させる。
【0034】
手順3:各下部補強部材20,20のターンバックルを調整して、フランジ21とL字状部材10の水平片11とによりラチス材1の端板1aを挟み込んだ状態で、フランジ21と水平片11とボルト・ナット留めにて接合する。
【0035】
手順4:各下部補強部材20,20のターンバックルを締め込んで、所定の張力を上部補強部材10および下部補強部材20に与える。これにより、ラチス材1の補強が完了する。
【0036】
しかして、この実施形態1においては、ラチス材1へ作用する荷重が、ラチス材1に軸対称に配設された補強部材10,20に分散されて低減されるので、ラチス材1の強度不足が解消される。つまり、ラチス材1の補強がなされる。
【0037】
このように、この実施形態1によれば、ボルト・ナット留めにて、つまり溶接によることなくトラス構造における補強がなし得る。
【0038】
実施形態2
本発明の実施形態2に係る補強構造K1の要部を図10〜図13に示す。この実施形態2は実施形態1を改変してなるものであって、下部補強部材20Aにおいて、フランジ21と上部接続具23aとの接続をボルト・ナット留めにてなすようにしてなるものとされる。なお、実施形態2のその余の構成は、実施形態1と同様とされている。
【0039】
このように、実施形態2によれば、フランジ21単独でL字状部材10の水平片11との接合がなし得るので、作業性が向上するという実施形態1では得られない効果も得られる。
【0040】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明はかかる実施形態のみに限定されるものではなく、種々改変が可能である。例えば、トラス構造の他の部材の補強、例えば束材の補強やブレース材の補強についても適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、溶接による補強が困難な鉄骨構造物の補強に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態1に係る補強構造の上部の分解斜視図である。
【図2】同実施形態の補強構造の下部の一部分解斜視図である。
【図3】同補強構造の上部正面図である。
【図4】図3の矢視A−A図である。
【図5】図3の矢視B−B図である。
【図6】図3の矢視C−C図である。
【図7】同補強構造の下部正面図である。
【図8】図7の矢視D−D図である。
【図9】図7の矢視E−E図である。
【図10】本発明の実施形態2に係る補強構造の上部正面図である。
【図11】図10の矢視F−F図である。
【図12】図10の矢視G−G図である。
【図13】図10の矢視H−H図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ラチス材
1a 端板
2 ガセットプレート
3 トラス上弦材
4 トラス下弦材
10 上部補強部材、L字状部材
11 水平片
12 垂直片
14 ガイド
20 ロッド状下部補強部材
21 フランジ
22 補強側板
23 上部ロッド
24 下部ロッド
30 接合部材
K 補強構造
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄骨構造物の補強方法および補強構造に関する。さらに詳しくは、溶接によることなく既設の鉄骨構造物を補強する鉄骨構造物の補強方法および補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大型の建築物においては、重量軽減を図る観点などからトラス構造が用いられている。また、このトラス構造においては、所定の強度を確保しながら重量軽減を図るため、薄肉鋼管が用いられている。
【0003】
しかるに、地球温暖化の影響などから気象現象に異変が生じている。例えば、台風の巨大化、局地的な豪雪などが生じている。そのため、建築基準法などの改正が行われるとともに、この改正にしたがった補強が既設の建築物になされつつある。
【0004】
この既設の建築物の補強は、一般的には、強度が不足する箇所に補強部材を溶接取付することによりなされている。
【0005】
しかしながら、既設のトラス構造において補強部材を溶接取付することについては、以下のような問題がある。
【0006】
すなわち、1)トラス構造に用いられている部材が前述したように、薄肉鋼管であるため溶接による抜け落ちのおそれがある。このおそれは、既設トラス構造においては、無理な姿勢での溶接を強いられることが多いため助長される。2)無理な姿勢での溶接を強いられるため、溶接品質および補強強度が確保できないおそれがある。3)溶接火花による火災を防止するため、養生が必要となり作業が煩雑となる。4)狭隘な場所で溶接機材などを移動させなければならず作業性が悪い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑みなされたものであって、溶接によることなく既設のトラス構造などの鉄骨構造物の補強がなし得る補強方法および補強構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鉄骨構造物の補強方法は、補強対象部材の一端部が第1主材に係合されている第1係合部と、補強対象部材の他端部が第2主材に係合されている第2係合部とを有する鉄骨構造物の補強方法であって、一対の補強部材を前記補強対象部材に軸対称に配設し、 前記一対の補強部材の一端部により前記第1係合部を挟持させ、かつ、前記一対の補強部材の他端部により前記第2係合部を挟持させ、それにより、前記補強対象部材に作用する荷重を前記一対の補強部材に分散させて低減することを特徴とする。
【0009】
本発明の鉄骨構造物の補強方法においては、挟持が、係合部を一対の補強部材の端部により挟み込んだ状態で、その端部をボルト・ナット留めすることによりなされるのが好ましい。
【0010】
一方、本発明の鉄骨構造物の補強構造は、補強対象部材の一端部が第1主材に係合されている第1係合部と、補強対象部材の他端部が第2主材に係合されている第2係合部とを有する鉄骨構造物の補強構造であって、前記補強対象部材に軸対称に配設された一対の補強部材を備え、前記一対の補強部材の一端部により前記第1係合部を挟持し、かつ、前記一対の補強部材の他端部により前記第2係合部を挟持し、それにより、前記補強対象部材に作用する荷重を前記一対の補強部材に分散させて低減してなることを特徴とする。
【0011】
本発明の鉄骨構造物の補強構造においては、挟持が、係合部を一対の補強部材の端部により挟み込んだ後、その端部をボルト・ナット留めすることによりなされるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、既設のトラス構造などの鉄骨構造物の補強が溶接を用いることなくなし得るという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施形態に基づいて説明するが、本発明はかかる実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
実施形態1
本発明の実施形態1に係る鉄骨構造物の補強方法が適用されてなる補強構造を図1および図2に示す。なお、図1においては、図面を簡素化して補強構造の理解を容易とするため、公知構造の鉄骨およびトラス上弦材の図示は省略されている。図中、符号2は図示が省略された鉄骨に設けられているガセットプレートを示す。
【0015】
この実施形態1は、具体的には、トラス構造のラチス材1と端板1aおよびプレート1bの溶接強度不足、ならびにラチス材1とトラス下弦材4との溶接強度不足を補強してなるものとされる。
【0016】
以下、補強構造Kについて詳述する。
【0017】
補強構造Kは、図1および図2に示すように、軸対称とされた上部補強部材10,10と、軸対称とされて上部補強部材10に接合されるロッド状下部補強部材(以下、単に下部補強部材という)20,20と、下部補強部材20の下部を接合する接合部材30とを主要構成要素として備え、強度が不足しているラチス材1を補強するものとされる。
【0018】
本実施形態の補強方法は、より具体的には、強度が不足しているラチス材1に軸対称に補強部材をラチス材1と柱(第1主材)との係合部(第1係合部)およびトラス下弦材(第2主材)との係合部(第2係合部)に係合させて配設し、その補強部材に荷重を分散させてラチス材1にかかる荷重を低減することにより補強をなすものとされる。
【0019】
以下、図3〜図9も参照しながら、上部補強部材10、下部補強部材20および接合部材30について説明する。
【0020】
上部補強部材10は、具体的には、L字状部材とされる。このL字状部材10は、図3に示すように、水平片11の強度を確保するための補強リブ13による補強がなされている。なお、図示例においては、補強リブ13は中央に一箇所設けられているが、補強リブ13の数は必要とされる強度に応じて適宜とされる。
【0021】
L字状部材10の垂直片12の幅は、水平片11を外方に向けてラチス材1のガセットプレート2とのボルト・ナット締結部(第1係合部)を挟み込んだ状態で、側端部がボルト・ナット留めにて接合されるよう、当該締結部から所定幅で突出させられるとともに、その突出箇所にボルト孔が適宜設けられている。なお、垂直片12の先端部がトラス上弦材3などと干渉する場合には、干渉を回避するよう適宜切り欠かれるものとされる。
【0022】
また、垂直片12の対向面の外周部には、L字状部材10をプレート1bの方向、つまりラチス材1の軸方向に一致させるためのガイド14が配設されている。この場合、補強部材10,20の方向を精度よくラチス材1の軸方向に一致させるため、上側のガイド14はプレート1b上端と当接するように配設されるのが好ましい。また、プレート1bを上側のガイド14に当接させることにより、補強部材に分散させた荷重を上側のガイド14を介してガセットプレート2に伝達することができる。
【0023】
さらに、垂直片12には、ラチス材1のガセットプレート2とのボルト・ナット締結部のボルトあるいはナットと干渉を回避して対向面がラチス材1のプレート1bと接触可能なよう透孔、つまりボルトやナットの逃げが形成されている。
【0024】
一方、L字状部材10の水平片11の幅は、ラチス材1のガセットプレート2とのボルト・ナット締結部を挟み込んだ状態で、先端部がラチス材1の端板1a外縁より所定距離突出させられるとともに、その突出部にボルト孔が適宜設けられている。
【0025】
下部補強部材20は、明瞭には図示はされていないが、上部補強部材10の水平片11と接合されるフランジ21と、ラチス材1のトラス下弦材4との締結部(第2係合部)を補強する補強側板22と、上端部にフランジ21と接合される上部接合具23aを有する上部ロッド23と、下端部に補強側板22と接合される下部接続具24aを有する下部ロッド24と、上部ロッド23の下端部および下部ロッド24の上端部に螺着されるターンバックル(図示省略)とを有するものとされる。
【0026】
フランジ21は、図示のごとく、ラチス材1と干渉する部分が適宜切り欠かれている。なお、フランジ21と上部接合具23aとの接続は、フランジ21裏面に垂設された接続片21aと上部接合具23aとを溶接することによりなされる。
【0027】
補強側板22は、図示のごとく、ラチス材1のトラス下弦材4との締結部に対応する箇所が長方形状とされ、補強されるラチス材1に位置する側がラチス材1に沿った傾斜部に形成された変形長方形状板とされる。長方形状とされた箇所の幅(垂直方向の長さ)は、下辺および上辺のそれぞれがトラス下弦材4から所定幅で突出させられるとともに、その突出部にボルト孔が適宜設けられている。なお、補強側板22と下部接続具24aとの接続は、補強側板22の傾斜部先端に設けられた接続片22aに下部接続具24aを溶接することによりなされる。
【0028】
接合部材30は、束材5を挟んで配設されて下部補強部材20の下部上側、つまり補強側板22の上側相互を接合する一対の上側接合部材31,32と、トラス下弦材4の裏面に配設されて下部補強部材20の下部下側、つまり補強側板22の下側相互を接合する下側接合部材33とを含むものとされる。上側接合部材31,32および下側接合部材33により補強側板22,22がトラス下弦材4を挟み込んだ状態で接合されることにより、下部補強部材20,20がトラス下弦材4に係合される。
【0029】
上側接合部材31,32は上向きU字状体とされ、その幅は補強側板22,22間に嵌め込み可能ように調整されるとともに、補強側板22の上側の突出部に設けられたボルト孔に対応させてボルト孔が設けられている。また、上側接合部材31,32つまりU字状体の束材5と干渉する端部は円弧状に切り欠かれる一方、ラチス材1と干渉する端部は楕円弧状に切り欠かれている。
【0030】
下側接合部材33は、下向きU字状体とされ、その幅は補強側板22,22間に嵌め込み可能ように調整されるとともに、補強側板22の下側の突出部に設けられたボルト孔に対応させてボルト孔が設けられている。また、この下側接合部材33は、中間部に補強リブ33aが設けられている。
【0031】
次に、かかる構成とされた補強構造Kによるラチス材1の補強について説明する。
【0032】
手順1:軸対称とされた上部補強部材10,10によりラチス材1とガセットプレート2との締結部を覆って上部補強部材10,10をガセットプレート2に係合させる。つまり、軸対称とされたL字状部材10,10の垂直片12,12により、ラチス材1とガセットプレート2との締結部を挟み込んだ状態で、垂直片12,12相互をボルト・ナット留めにて接合してガセットプレート2と係合させる。これにより、上部補強部材10,10が、第1係合部と係合させられる。
【0033】
手順2:軸対称とされた下部補強部材20,20によりトラス下弦材4のラチス1との接合部を覆って下部補強部材20,20を第2係合部に係合させる。つまり、軸対称とされた補強側板22,22相互を上側接合部材31,32および下側接合部材33によりボルト・ナット留めにて接合し、トラス下弦材4のラチス1との接合部を補強側板22,22により挟み込んで下部補強部材20,20をトラス下弦材4に係合させる。
【0034】
手順3:各下部補強部材20,20のターンバックルを調整して、フランジ21とL字状部材10の水平片11とによりラチス材1の端板1aを挟み込んだ状態で、フランジ21と水平片11とボルト・ナット留めにて接合する。
【0035】
手順4:各下部補強部材20,20のターンバックルを締め込んで、所定の張力を上部補強部材10および下部補強部材20に与える。これにより、ラチス材1の補強が完了する。
【0036】
しかして、この実施形態1においては、ラチス材1へ作用する荷重が、ラチス材1に軸対称に配設された補強部材10,20に分散されて低減されるので、ラチス材1の強度不足が解消される。つまり、ラチス材1の補強がなされる。
【0037】
このように、この実施形態1によれば、ボルト・ナット留めにて、つまり溶接によることなくトラス構造における補強がなし得る。
【0038】
実施形態2
本発明の実施形態2に係る補強構造K1の要部を図10〜図13に示す。この実施形態2は実施形態1を改変してなるものであって、下部補強部材20Aにおいて、フランジ21と上部接続具23aとの接続をボルト・ナット留めにてなすようにしてなるものとされる。なお、実施形態2のその余の構成は、実施形態1と同様とされている。
【0039】
このように、実施形態2によれば、フランジ21単独でL字状部材10の水平片11との接合がなし得るので、作業性が向上するという実施形態1では得られない効果も得られる。
【0040】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明はかかる実施形態のみに限定されるものではなく、種々改変が可能である。例えば、トラス構造の他の部材の補強、例えば束材の補強やブレース材の補強についても適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、溶接による補強が困難な鉄骨構造物の補強に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態1に係る補強構造の上部の分解斜視図である。
【図2】同実施形態の補強構造の下部の一部分解斜視図である。
【図3】同補強構造の上部正面図である。
【図4】図3の矢視A−A図である。
【図5】図3の矢視B−B図である。
【図6】図3の矢視C−C図である。
【図7】同補強構造の下部正面図である。
【図8】図7の矢視D−D図である。
【図9】図7の矢視E−E図である。
【図10】本発明の実施形態2に係る補強構造の上部正面図である。
【図11】図10の矢視F−F図である。
【図12】図10の矢視G−G図である。
【図13】図10の矢視H−H図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ラチス材
1a 端板
2 ガセットプレート
3 トラス上弦材
4 トラス下弦材
10 上部補強部材、L字状部材
11 水平片
12 垂直片
14 ガイド
20 ロッド状下部補強部材
21 フランジ
22 補強側板
23 上部ロッド
24 下部ロッド
30 接合部材
K 補強構造
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強対象部材の一端部が第1主材に係合されている第1係合部と、補強対象部材の他端部が第2主材に係合されている第2係合部とを有する鉄骨構造物の補強方法であって、
一対の補強部材を前記補強対象部材に軸対称に配設し、
前記一対の補強部材の一端部により前記第1係合部を挟持させ、かつ、前記一対の補強部材の他端部により前記第2係合部を挟持させ、
それにより、前記補強対象部材に作用する荷重を前記一対の補強部材に分散させて低減する
ことを特徴とする鉄骨構造物の補強方法。
【請求項2】
挟持が、係合部を一対の補強部材の端部により挟み込んだ状態で、その端部をボルト・ナット留めすることによりなされることを特徴とする請求項1記載の鉄骨構造物の補強方法。
【請求項3】
補強対象部材の一端部が第1主材に係合されている第1係合部と、補強対象部材の他端部が第2主材に係合されている第2係合部とを有する鉄骨構造物の補強構造であって、
前記補強対象部材に軸対称に配設された一対の補強部材を備え、
前記一対の補強部材の一端部により前記第1係合部を挟持し、かつ、前記一対の補強部材の他端部により前記第2係合部を挟持し、
それにより、前記補強対象部材に作用する荷重を前記一対の補強部材に分散させて低減してなる
ことを特徴とする鉄骨構造物の補強構造。
【請求項4】
挟持が、係合部を一対の補強部材の端部により挟み込んだ後、その端部をボルト・ナット留めすることによりなされることを特徴とする請求項3記載の鉄骨構造物の補強構造。
【請求項1】
補強対象部材の一端部が第1主材に係合されている第1係合部と、補強対象部材の他端部が第2主材に係合されている第2係合部とを有する鉄骨構造物の補強方法であって、
一対の補強部材を前記補強対象部材に軸対称に配設し、
前記一対の補強部材の一端部により前記第1係合部を挟持させ、かつ、前記一対の補強部材の他端部により前記第2係合部を挟持させ、
それにより、前記補強対象部材に作用する荷重を前記一対の補強部材に分散させて低減する
ことを特徴とする鉄骨構造物の補強方法。
【請求項2】
挟持が、係合部を一対の補強部材の端部により挟み込んだ状態で、その端部をボルト・ナット留めすることによりなされることを特徴とする請求項1記載の鉄骨構造物の補強方法。
【請求項3】
補強対象部材の一端部が第1主材に係合されている第1係合部と、補強対象部材の他端部が第2主材に係合されている第2係合部とを有する鉄骨構造物の補強構造であって、
前記補強対象部材に軸対称に配設された一対の補強部材を備え、
前記一対の補強部材の一端部により前記第1係合部を挟持し、かつ、前記一対の補強部材の他端部により前記第2係合部を挟持し、
それにより、前記補強対象部材に作用する荷重を前記一対の補強部材に分散させて低減してなる
ことを特徴とする鉄骨構造物の補強構造。
【請求項4】
挟持が、係合部を一対の補強部材の端部により挟み込んだ後、その端部をボルト・ナット留めすることによりなされることを特徴とする請求項3記載の鉄骨構造物の補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−163586(P2008−163586A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352034(P2006−352034)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】
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