説明

鉛フリー半田合金

【課題】鉛入り半田合金のようにクリープ変形が速く、半田付部では部品や基板に熱膨張による応力の伝達を防止し、亀裂、破壊の発生を防止する鉛フリー半田合金を提供する。
【解決手段】Cuが0.1〜3.0重量%、Sbが0.1〜0.5重量%、残部がSnおよび不可避不純物より成ることを特徴とする。さらに、前記鉛フリー半田合金に、Niが0.01〜0.5重量%、Feが0.01〜0.1重量%、Coが0.01〜0.1重量%の少なくとも一種以上が添加される。さらに、前記鉛フリー半田合金に、Pが0.001〜0.1重量%、Gaが0.001〜0.1重量%、Geが0.001〜0.1重量%の少なくとも一種以上が添加されると、半田合金の酸化が改善され、フローソルダリング時に発生するドロスを大幅に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリープ変形を速くして、クリープ特性を改善する鉛フリー半田合金に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半田合金に一定の荷重を加えた際、半田合金が時間と共に変形する現象をクリープ変形という。
半田合金は融点が450℃より低いために一般的にクリープ変形し易い。
しかし、クリープ変形し易いと言うことは、半田付部に部品と基板の熱膨張による応力が発生した際、半田合金自体が自ら変形することによって応力を吸収し、部品や基板に熱膨張による応力の伝達を防止する効果を持つ。
これは、半田付部の信頼性を考えたときに、非常に重要な効果であり、接合材として半田合金が用いられている要因の一つである。
従来、鉛を殆ど含まない鉛フリー半田合金として、例えば、特許3027441号公報(特許文献1)で提案されているSn-Cu半田合金やSn−Ag−Cu半田合金が広く用いられている。
【特許文献1】特許3027441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
鉛フリー半田合金は、鉛入り半田合金と比較して、クリープ変形が非常に遅く、高温環境下において半田付部のクリープ変形による破断までの時間は非常に長い。
このような鉛フリー半田合金は、部品と基板の熱膨張による応力が発生した際、半田合金自体が自ら変形できずに、部品や基板に熱膨張による応力を伝える。
部品や基板は強固な材料から構成されるものではなく、鉛フリー半田合金を用いた半田付部では、熱膨張による応力で部品や基板の亀裂、破壊等が発生し易いという問題点が有った。
そこで、本発明は、鉛入り半田合金のようにクリープ変形が速く、半田付部では部品や基板に熱膨張による応力の伝達を防止し、亀裂、破壊の発生を防止する鉛フリー半田合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の鉛フリー半田合金は、Cuが0.1〜3.0重量%、Sbが0.1〜0.5重量%、残部がSnおよび不可避不純物より成ることを特徴とする。
さらに、本発明の鉛フリー半田合金は、前記鉛フリー半田合金に、Niが0.01〜0.5重量%、Feが0.01〜0.1重量%、Coが0.01〜0.1重量%の少なくとも一種以上が添加される。
さらに、本発明の鉛フリー半田合金は、前記鉛フリー半田合金に、Pが0.001〜0.1重量%、Gaが0.001〜0.1重量%、Geが0.001〜0.1重量%の少なくとも一種以上が添加される。
【発明の効果】
【0005】
本発明の鉛フリー半田合金によれば、鉛フリー半田合金であるSn−Cu半田合金に0.1〜0.5重量%のSbを添加することにより、クリープ変形を速める。
このため、鉛フリー半田合金でありながら、クリープ変形が速く、半田付部では部品や基板に熱膨張による応力の伝達を防止し、亀裂、破壊の発生を防止する。
Sbの添加量が0.1重量%未満であると、クリープ変形を速める効果は小さい。
また、Sbの添加量が0.5重量%超であると、鉛フリー半田合金中にSnとSbの金属間化合物が形成され、クリープ変形を速める効果は小さくなる。
【0006】
さらに、本発明の鉛フリー半田合金によれば、半田付を行う基板や部品によっては接合強度が十分ではないが、Niが0.01〜0.5重量%、Feが0.01〜0.1重量%、Coが0.01〜0.1重量%の少なくとも一種以上が添加されると、機械的特性が改善され、クリープ変形が速く、半田付部では部品や基板に熱膨張による応力の伝達を防止し、亀裂、破壊の発生を防止する。
Niが0.01重量%未満、Feが0.01重量%未満、Coが0.01重量%未満であると半田付部の接合強度の改善にはほとんど効果は無い。
また、Niが0.5重量%超、Feが0.1重量%超、Coが0.1重量%超であると、半田合金の液相線温度の上昇および半田合金の流動性の低下が見られ、半田付性が低下する。
さらに、Pが0.001〜0.1重量%、Gaが0.001〜0.1重量%、Geが0.001〜0.1重量%の少なくとも一種以上が添加されると、クリープ変形が速く、かつ半田合金の酸化が改善され、特に、フローソルダリング時に発生するドロスと呼ばれるSnの酸化物の発生を大幅に抑制することが可能となる。
Pが0.001重量%未満、Gaが0.001重量%未満、Geが0.001重量%未満であると半田合金の酸化抑制効果はほとんど見られない。
Pが0.1重量%超、Gaが0.1重量%超、Geが0.1重量%超であると、半田合金が脆くなり、接合強度の低下の原因となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を、その実施例に基づいて説明する。
Sn−Cu半田にSbを同時に添加した本発明の実施例の鉛フリー半田合金を用いて、クリープ破断時間測定を行った。
表1に示す各半田合金を作製した後、片面基板(材質:紙フェノール、厚さ:1.6mm、銅パターン、ランド外径:3.0mm)にφ1.0mmのCu線のピンを差し込み、液状フラックスを用い、こてによる半田付を行った。
作製した試験片は、130℃の雰囲気下で2Kgの荷重をかけ、半田付部がクリープ破断するまでの時間を測定した。このときの試験結果を表1に示す。
【0008】
【表1】

【0009】
Sn−Cu半田合金に所定の濃度のSbを添加した本発明の実施例1〜10の鉛フリー半田合金は、Sbを添加していないSn−Cu系半田合金である比較例1〜6と比較して、クリープ破断時間が約20〜50%低下し、鉛フリー半田合金でありながら、クリープ変形が速くなることが明らかとなった。
クリープ変形が速くなる鉛フリー半田合金は、従来の鉛フリー半田合金と比較して、部品と基板の熱膨張による応力が発生した際、半田合金自体が自ら変形し、部品や基板に熱膨張による応力を防止する。
また、SbはSnにα固溶体として固溶し、固溶体形成が半田合金のクリープ変形を早め、結果として、半田付部のクリープ破断時間を短縮する。
さらに、本発明の実施例1〜10の鉛フリー半田合金のクリープ破断時間は、一般的に用いられる鉛入り半田合金である63%Sn−37%Pb(共晶半田合金)である比較例6には及ばないものの、上記のように鉛フリー半田合金でありながら、半田付部のクリープ破断時間が短縮された。
【0010】
Sn−Cu半田にSbを同時に添加した本発明の実施例の鉛フリー半田合金に、機械的特性改善元素を添加した、半田合金の機械的特性を調査するために、半田付部の接合強度試験を実施した。
表2に示す各半田合金を作製した後、片面基板(材質:紙フェノール、厚さ:1.6mm、銅パターン、ランド外径:3.5mm)にφ1.6mmのCu線のピンを差し込み、液状フラックスを用いて、こてによる半田付を行い、熱応力を除去するために100℃恒温槽において1時間放置後、引張試験機を用いて最大接合強度を測定し、半田付部の機械的特性を評価した。
このときの試験結果を表2に示す。
【0011】
【表2】

【0012】
Sn−Cu半田合金にSbを同時に添加した鉛フリー半田合金に、機械的特性改善元素であるNi、FeまたはCoを添加した本発明の実施例5,6,7の鉛フリー半田合金は、機械的特性改善元素を添加していない鉛フリー半田合金と比較して、最大接合強度が約15%上昇した。
以上の結果、Sn−Cu鉛フリー半田合金にSbを同時に添加し、クリープ変形を早めることが可能な鉛フリー半田合金に、Niが0.01〜0.5重量%、Feが0.01〜0.1重量%、Coが0.01〜0.1重量%の少なくとも一種以上を添加することにより、半田付部に十分な機械的特性を与えることが明らかとなった。
【0013】
Sn−Cu半田合金にSbを同時に添加した鉛フリー半田合金に、酸化防止元素であるPが0.001〜0.1重量%、Gaが0.001〜0.1重量%、Geが0.001〜0.1重量%の少なくとも一種以上を添加した本発明の実施例8,9,10の鉛フリー半田合金の酸化防止効果を確認するために、ドロス(酸化物)発生試験を実施した。
表3に示す各半田合金を作製した後、噴流半田槽において半田合金10Kgを8時間噴流させ、発生したドロスを取り出し、秤量を行った。
試験温度は350℃、半田合金1Kgあたりのドロス発生量を測定することで評価を行った。ドロス発生試験の結果を表3に示す。
【0014】
【表3】

【0015】
Sn−Cu半田にSbを同時に添加した半田合金に酸化防止元素である、P、Ga、Geの少なくとも一種を添加した本発明の実施例8,9,10の鉛フリー半田合金は、酸化防止元素を添加していない鉛フリー半田合金と比較して、1時間あたりのドロス発生量が約50%減少した。
以上の結果、Sn−Cu半田にSbを同時に添加し、クリープ変形を早めることが可能な鉛フリー半田合金に、Pが0.001〜0.1重量%、Gaが0.001〜0.1重量%、Geが0.001〜0.1重量%の少なくとも一種以上が添加することにより、鉛フリー半田合金の酸化を大きく抑制できることが明らかとなった。
【0016】
本発明は、クリープ特性を改善した鉛フリー半田合金であり、やに入り半田、ソルダーペースト、棒半田、および線状半田として使用される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuが0.1〜3.0重量%、Sbが0.1〜0.5重量%、残部がSnおよび不可避不純物より成ることを特徴とする鉛フリー半田合金。
【請求項2】
Niが0.01〜0.5重量%、Feが0.01〜0.1重量%、Coが0.01〜0.1重量%の少なくとも一種以上が添加される請求項1記載の鉛フリー半田合金。
【請求項3】
Pが0.001〜0.1重量%、Gaが0.001〜0.1重量%、Geが0.001〜0.1重量%の少なくとも一種以上が添加される請求項1または2記載の鉛フリー半田合金。

【公開番号】特開2008−43978(P2008−43978A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222399(P2006−222399)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(390018577)日本アルミット株式会社 (9)
【Fターム(参考)】