説明

鉛蓄電池

【課題】 密閉鉛蓄電池について、充電時の水素発生を長期間にわたり防止することにより、電解液の減少を防止し、長寿命の電池を提供する。
【解決手段】 過酸化鉛を正極活物質として用い、金属鉛を負極活物質として用い、希硫酸を電解質として用いる鉛蓄電池において、該負極の放電容量を該正極の放電容量に対して5%以上、好ましくは10%以上大きくし、該電解液中に負極のサルフェーション防止作用を有する有機ポリマーを含み、該負極の電解液―空気境界部分の少なくとも一部に酸素ガス吸収活性物質を付着せしめた密閉鉛蓄電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性および保守性に優れた密閉鉛蓄電池に関する。
【技術背景】
【0002】
従来、密閉鉛蓄電池として一般に市販されている電池は、2−3年使用すると電解液が減少することにより性能が著しく低下し、寿命を終るものであった。一般に市販されている密閉鉛蓄電池は、負極の放電容量を正極の放電容量より多くしておくことにより、充電時に負極で水素が発生するよりも低い電圧で正極で酸素ガスが発生する仕組みを採用しており、この酸素ガスを負極に拡散させて負極活物質と反応させて消費する原理を用いている。この酸素ガスの拡散を容易にするために比較的少量の電解液をガラスファイバーマットに吸収させた構造を用いている。しかしながら、水素ガスの発生を皆無にはできず、この水素を完全には酸化できないので電解液の水の損失が起こり、この水の損失が電池性能に致命的な影響を与えるものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、負極の放電容量(Ah)を正極の放電容量(Ah)に対して常に大きく維持することにより、電解液の減少を防止し、長寿命の密閉鉛蓄電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、過酸化鉛を正極活物質として用い、金属鉛を負極活物質として用い、希硫酸を電解質として用いる鉛蓄電池において、該負極の放電容量を該正極の放電容量に対して5%以上、好ましくは10%以上大きくし、該電解液中に負極のサルフェーション防止作用を有する有機ポリマーを含み、該負極の電解液―空気境界部分の少なくとも一部に酸素ガス吸収活性物質を付着せしめた密閉鉛蓄電池であり、好ましくは、前記密閉鉛電池において、負極のサルフェーション防止作用を有する有機ポリマーがポリビニルアルコールおよび/またはポリアクリル酸塩である密閉鉛蓄電池であり、更に好ましくは、前記密閉鉛蓄電池において、ポリビニルアルコールおよび/またはポリアクリル酸塩の電解液中の濃度が0.001重量%以上である密閉鉛蓄電池であり、またこれらの密閉鉛蓄電池において、酸素ガス吸収活性物質が多孔質炭素粉末層である密閉鉛蓄電池である。また本発明は、過酸化鉛を正極活物質として用い、金属鉛を負極活物質として用い、希硫酸を電解質として用いる鉛蓄電池において、該負極の放電容量を該正極の放電容量に対して5%以上、好ましくは10%以上大きくし、該電解液中に負極のサルフェーション防止作用を有する有機ポリマーを含み、該負極の電解液―空気境界部分の少なくとも一部に酸素ガス吸収活性物質を付着せしめ、電槽に有機ポリマー補充口を設けたセミシール鉛蓄電池であり、好ましくは、前記セミシール鉛蓄電池において、負極のサルフェーション防止作用を有する有機ポリマーがポリビニルアルコールおよび/またはポリアクリル酸塩であるセミシール鉛蓄電池であり、更に好ましくは、前記セミシール鉛蓄電池において、ポリビニルアルコールおよび/またはポリアクリル酸塩の電解液中の濃度が0.001重量%以上であるセミシール鉛蓄電池であり、またこれらのセミシール鉛蓄電池において、酸素ガス吸収活性物質が多孔質炭素粉末層であるセミシール鉛蓄電池である。
【発明の効果】
【0005】
本発明者等は、密閉鉛蓄電池の劣化機構の実態について、詳細に調査した結果、その劣化原因は、従来の密閉鉛蓄電池では、その使用に伴い負極にサルフェーションが発生しやすく、このため負極の劣化が正極の劣化よりも早く進行し、負極の放電容量が正極の放電容量よりも小さくなるために、充電時に水素ガスが酸素ガスよりも多く発生するようになり、この過剰の水素ガスは正極で吸収されずに防爆弁を通って外部に放出されてしまう為、電解液中の水が加速度的に減少するためであることを見出した。
【0006】
この現象の理解を助けるため、従来の鉛蓄電池における充電終期の電極反応の様子を図1により説明する。図中の棒の長さは正極と負極の放電容量の相対的な大きさを模式的に表し、矢印の長さは酸素ガスと水素ガスの相対的な発生量(電気化学当量)を表す。図1Aは、新品の電池の正極と負極の放電容量を示しており、この段階では正極の放電容量が負極の放電容量より小さく、正極で充電が完了し電池電圧が高くなった時点で正極から酸素ガスが発生する。電池が新しい場合は、負極から水素ガスが出るよりも低い電池電圧で正極から酸素ガスが出るように、負極の放電容量を正極の放電容量より大きく作る。充電時に発生する酸素ガスは殆んど負極表面の電解液―空気境界部分で反応し吸収され、また、水素ガスの発生も少なく、水の減少は起こらない。図1Bは、所定の期間使用した結果を示し、負極の放電容量がサルフェーションにより減少し、正極の放電容量と同程度になると、負極からの水素ガスの発生と、正極からの酸素ガスの発生が同時に起こり、水素ガスの一部は正極に吸収されずに外部に放出され、水の減少が起こる。図1Cでは、長期間の使用の結果、負極の劣化(サルフェーション)が進行し、負極の放電容量が一層減少して正極の放電容量より小さくなるので、充電の終期に負極での水素ガスの発生が、正極での酸素ガスの発生より先に起こり、その量も多量になる。この過剰の水素ガスは正極で吸収されずにそのまま外部に放出されるので、水の減少が著しく起こる。
【0007】
即ち、密閉鉛蓄電池において水の減少を防止するためには、負極の放電容量が正極の放電容量に対して常に大きいことが必要である。図2は、本発明の電池の正極と負極の放電容量が充放電サイクルの繰り返しに伴い変化する様子を模式的に表したものである。図2Dは新品の電池の正極と負極の放電容量の相対値を示し、この時点では従来品と差は無い。図2Eは所定の期間使用した結果を示し、電解液中に添加した有機ポリマーの効果によりサルフェーションの発生が防止され、その結果負極の放電容量の低下が殆ど無く、水素ガスの発生も少ない。この傾向は長期間使用した後の状態を示す図2Fでも変わらず、水素ガスの発生量(電気化学当量)が酸素ガスの発生量を上回ることは無い。従って電解液の減少も殆ど起らず、電池の長寿命化が可能になるのである。
【0008】
本発明者等は、負極のサルフェーションを防止する手段としてポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩等の有機ポリマーを電解液中に添加することが有効であることに着目し、負極の放電容量を正極の放電容量に対して5%以上、好ましくは10%以上大きくした構成と、電解液中にこれらの有機ポリマーを加えることを組み合わせることにより、負極が劣化することなく、長期間にわたってその放電容量が正極より大きい状態を維持でき、水の減少が起こらない密閉鉛蓄電池が得られることを見出した。なお、負極での酸素ガスの吸収をより完全に行うには、負極の一部に多孔質カーボン層を設けることが有効である。
【0009】
有機ポリマーは電池中で徐々に酸化されて分解するので、電池の構造を完全シール型ではなく、セミシール型にして2年に1回程度有機ポリマーを補充すれば一層長寿命の電池となる。このため、電槽の一部に開閉が可能な有機ポリマー補充口を設けることが望ましい。有機ポリマーは水溶液、錠剤、粉末等の形態でこの補充口から電槽中に補充することができる。
【0010】
本発明で電解液中に加える有機ポリマーは、ポリビニルアルコールおよび/またはポリアクリル酸塩(例えばポリアクリル酸ソーダ)がサルフェーション防止に有効であり、その好ましい添加量は0.001重量%以上であり、更に好ましくは0.01重量%以上、0.2重量%以下である。
【0011】
負極の電解液―空気境界部分に付着させる酸素ガス吸収性物質は、正極で発生する酸素ガスが充電終期には大量になり、特に本発明の場合、正極の放電容量が負極の放電容量に対して小さいため、酸素ガスの発生が多いので、これを水に戻すために必要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0012】
希硫酸を電解液とした定格電圧12V、定格容量10Ahの鉛蓄電池について、負極の放電容量を正極の放電容量に対して10%大きく作成し、電解液表面と負極の電流取出し部の境界付近に多孔質カーボン層を設け、電槽に排気弁を取り付け、密閉鉛蓄電池を作成した。本発明の一実施例として、この電池の電解液中にポリビニルアルコールを1.0g/リットル加えた。また比較例としてポリビニルアルコールを加えない電池も作成した。これらの電池について、5A放電で9Vまで放電した後、2.5Aで15.0Vまで充電した。この充放電を200回繰り返した後、電解液の量を測定した結果、本発明の電池では電解液の減少は3%であり、放電容量の減少は50%であった。一方ポリビニルアルコールを含まない比較例の電池では、電解液の減少は30%であり、放電容量の減少は95%であった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】は従来の密閉鉛蓄電池の正極、負極の放電容量の変化と発生ガスを示す模式図
【図2】は本発明の密閉鉛蓄電池の正極、負極の放電容量の変化と発生ガスを示す模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化鉛を正極活物質として用い、金属鉛を負極活物質として用い、希硫酸を電解質として用いる鉛蓄電池において、該負極の放電容量を該正極の放電容量に対して5%以上大きくし、該電解液中に負極のサルフェーション防止作用を有する有機ポリマーを含み、該負極の電解液―空気境界部分の少なくとも一部に酸素ガス吸収活性物質を付着せしめたことを特徴とする密閉鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1において、負極の放電容量を正極の放電容量に対して10%以上大きくした密閉鉛蓄電池。
【請求項3】
請求項1および請求項2において、負極のサルフェーション防止作用を有する有機ポリマーがポリビニルアルコールおよび/またはポリアクリル酸塩である密閉鉛蓄電池。
【請求項4】
請求項3において、ポリビニルアルコールおよび/またはポリアクリル酸塩の電解液中の濃度が0.001重量%以上である密閉鉛蓄電池。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4において、酸素ガス吸収活性物質が多孔質炭素粉末層である密閉鉛蓄電池。
【請求項6】
過酸化鉛を正極活物質として用い、金属鉛を負極活物質として用い、希硫酸を電解質として用いる鉛蓄電池において、該負極の放電容量を該正極の放電容量に対して5%以上大きくし、該電解液中に負極のサルフェーション防止作用を有する有機ポリマーを含み、該負極の電解液―空気境界部分の少なくとも一部に酸素ガス吸収活性物質を付着せしめ、電槽に有機ポリマー補充口を設けたことを特徴とするセミシール鉛蓄電池。
【請求項7】
請求項6において、負極の放電容量を正極の放電容量に対して10%以上大きくしたセミシール鉛蓄電池。
【請求項8】
請求項6および請求項7において、負極のサルフェーション防止作用を有する有機ポリマーがポリビニルアルコールおよび/またはポリアクリル酸塩であるセミシール鉛蓄電池。
【請求項9】
請求項8において、ポリビニルアルコールおよび/またはポリアクリル酸塩の電解液中の濃度が0.001重量%以上であるセミシール鉛蓄電池。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9において、酸素ガス吸収活性物質が多孔質炭素粉末層であるセミシール鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−231253(P2009−231253A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108337(P2008−108337)
【出願日】平成20年3月23日(2008.3.23)
【出願人】(596115953)
【出願人】(596062772)
【Fターム(参考)】