説明

鉛電池および鉛電池の製造方法

【課題】長期にわたって寿命を確保することができる鉛電池を提供する。
【解決手段】鉛電池は電槽内に極板群が収容されている。極板群は、正極板と負極板とがセパレータを介して積層されている。正極板、負極板には、それぞれ、集電体28として、錫を1.5重量%含む鉛合金の粉末を圧延してシート状に形成した粉末圧延シート27が用いられている。粉末圧延シート27は二つに折りたたまれることにより二重に積層されている。積層された粉末圧延シート27は穴あけ加工またはエキスパンド加工により一体化されている。集電体28には正極活物質ペースト、負極活物質ペーストがそれぞれ塗着されている。粉末圧延シート27の腐食による変形が抑制され、集電体28の厚さが増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛電池および鉛電池の製造方法に係り、特に、集電体に活物質が保持された極板を備えた鉛電池および該鉛電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池、ニッケル水素電池等の二次電池のなかでも鉛電池は、特に低温特性に優れ、電池特性とコスト面とでバランスのとれた二次電池である。このため、自動車用をはじめとして、ポータブル機器用の電源やコンピュータのバックアップ用にも広く普及している。最近では、電気自動車用の主力電源としてだけでなく、ハイブリッド電気自動車や簡易ハイブリッド自動車等の起動電源や回生電流の回収用としても新たな機能が見直されている。これらの用途では、高出力性能、高入力性能が要求されている。
【0003】
一方、鉛電池は、単位体積あたりの重量がリチウム二次電池等に比べて重いため、エネルギー密度の点で遜色する。この原因は、リチウム等と比較して比重の大きい鉛電極を使用すること、および、比重の大きい硫酸を電解液に使用することにある。鉛電極を極力薄くして単位重量あたりの電極面積を広くすれば、鉛電池の軽量化、高エネルギー密度化を図ることが期待できる。ところが、鉛電池では、集電体が電池使用環境で腐食して腐食伸びを生じるため、電気的なショートや電槽の貫通等のトラブルを引き起こし、最終的には電池機能停止に到る。集電体を薄膜化するほど腐食伸びが早期に生じるため、寿命低下を早め信頼性を低下させることとなる。
【0004】
また、鉛電池は、自動車用以外にも産業用として広く使用されている。産業用電池では、例えば、15年相当を越える耐用年数(寿命)が要求されており、高出力性能、高入力性能に加えて、長寿命化を図ることが課題となっている。このため、上述した集電体の腐食伸びを解決することができれば、自動車用電池に限らず、産業用電池においても、一層の高機能化を図ることが期待される。
【0005】
鉛電池の入出力性能、特に高率での入力性能を向上させる技術としては、例えば、負極の組成を特定の組み合わせとする技術が開示されている(特許文献1参照)。また、鉛電池を軽量化、高出力化するためには、集電体を薄膜化し、同一重量の鉛または鉛合金でできるだけ大面積の集電体を作製し電池を構成する必要がある。集電体の耐食性を向上させ集電体を薄膜化する技術として、本出願人は、鉛粉末または鉛合金粉末を主体とする粉末を圧延してシート状に形成した粉末圧延シートの技術を開示している(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−127636号公報
【特許文献2】特開2006−66173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したように、産業用電池では、高出力化、高入力化に加えて、長寿命化が要求されている。この点、特許文献1、特許文献2の技術では、これらの要求を満たすには十分とはいえない。換言すれば、特許文献1の技術では、高出力化、高入力化を図ることができるものの、集電体の腐食伸びが生じるため、長寿命化の点では15年相当の耐用年数を達成することが難しい。また、特許文献2の技術では、集電体の耐食性を向上させ集電体を薄膜化することで高出力化を図ることができるものの、薄膜化した集電体では長期間にわたって強度を維持することが難しくなる。粉末圧延シートの厚さを大きくすることで強度の確保が期待できるが、出力低下を招くこととなる。また、粉末圧延シートでは粉末を略均等に圧着させることで耐食性を向上させるため、厚さを大きくすると粉末粒子間の密着性が低下し、耐食性が不十分となるおそれもある。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、長期にわたって寿命を確保することができる鉛電池および該鉛電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、集電体に活物質が保持された極板を備えた鉛電池において、前記集電体は、鉛粉末または鉛合金粉末を主体とする粉末を圧延してシート状に形成した粉末圧延シートが積層されたものであり、前記積層された粉末圧延シートが穴あけ加工またはエキスパンド加工により一体化されていることを特徴とする。
【0010】
第1の態様では、集電体が粉末圧延シートが積層されているため、粉末圧延シートでは粉末同士が略均等な分散状態で圧着されていることから腐食による変形が抑制され、薄膜状でも積層により厚さが増し強度を確保できると共に、積層された粉末圧延シートが穴あけ加工またはエキスパンド加工により一体化されているため、シート間の剥離が抑制され活物質が確実に保持されるので、鉛電池の寿命を長期にわたって確保することができる。
【0011】
第1の態様において、集電体を粉末圧延シートが折りたたまれることにより積層されたものとしてもよい。粉末圧延シートが、アスペクト比3〜13の特定方向に配向した結晶粒を有し、結晶粒界、結晶粒内に酸化鉛および過酸化鉛の少なくとも一方を含むことが好ましい。このとき、集電体が、スズ−鉛合金、スズ−カルシウム系鉛合金、スズ−アンチモン系鉛合金、スズ−ストロンチウム系鉛合金およびスズ−バリウム系鉛合金から選択される一種以上の粉末を圧延してシート状に形成したものとしてもよい。
【0012】
また、本発明の第2の態様は、集電体に活物質が保持された極板を備えた鉛電池の製造方法であって、鉛粉末または鉛合金粉末を主体とする粉末を圧延してシート状に形成した粉末圧延シートを積層する積層ステップと、前記積層ステップで積層した粉末圧延シートに穴あけ加工またはエキスパンド加工を施し一体化した集電体を形成する集電体形成ステップと、前記集電体形成ステップで形成した集電体に前記活物質を塗着する塗着ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、集電体が粉末圧延シートが積層されているため、粉末圧延シートでは粉末同士が略均等な分散状態で圧着されていることから腐食による変形が抑制され、薄膜状でも積層により厚さが増し強度を確保できると共に、積層された粉末圧延シートが穴あけ加工またはエキスパンド加工により一体化されているため、シート間の剥離が抑制され活物質が確実に保持されるので、鉛電池の寿命を長期にわたって確保することができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用した鉛電池の実施の形態について説明する。
【0015】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の鉛電池20は、電池容器となる直方体状の電槽7を有している。電槽7には、18個の極板群(セル)4が9個×2列となるように収容されている。電槽7の材質には、成形性、絶縁性および耐久性等の点で優れる、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルブタジエンスチレン等の高分子樹脂を選択することができる。電槽7の上部はポリエチレン等の高分子樹脂製で水平断面が長方形状の上蓋10に接着ないし溶着されている。上蓋10には、一側短辺の両端部に外部へ電力を供給するための正極端子8および負極端子9が立設されている。なお、上蓋10には図示を省略した排気弁(制御弁)が設けられており、鉛電池1は制御弁式鉛電池である。
【0016】
極板群4は、矩形状の正極板1の5枚と負極板2の6枚とがガラス繊維製等のセパレータ3を介して積層されている。セパレータ3の厚さは、10〜600μmに設定することが好ましく、本例では、約200μmに設定されている。極板群4では、電槽7内で正極板1および負極板2のそれぞれ上部に位置する一辺から集電タブが上蓋10側に突出している。集電タブは、極板群4の上部で一側に正極、他側に負極がそれぞれ配列するように設けられている。正極板1の各集電タブおよび負極板2の各集電タブの各突出端部には、それぞれ正極ストラップ5、負極ストラップ6が設けられている。18個の極板群4は、図示を省略した接続部材で直列接続されている。18個の極板群4のうち、電槽7内で一側短辺の一側に位置する極板群4の正極ストラップ5が正極端子8に接続されており、他側に位置する極板群4の負極ストラップ6が負極端子9に接続されている。
【0017】
正極板1、負極板2は、それぞれ、鉛粉末または鉛合金粉末を主体とする粉末を圧延してシート状に形成した粉末圧延シートが積層された集電体を有している。積層された粉末圧延シートは、穴あけ加工またはエキスパンド加工により一体化されている。粉末圧延シートは、本例では、錫(Sn)を1.5重量%含む鉛合金(Pb−Sn系合金)の粉末が圧延されてシート状に形成されている。集電体には、正極活物質ペースト、負極活物質ペーストがそれぞれ塗布されている。穴あけ加工またはエキスパンド加工で格子状に形成された集電体では、両面と格子骨格の間に形成された空隙とに、それぞれ正極活物質ペースト、負極活物質ペーストが保持されている。
【0018】
(製造)
鉛電池20は、粉末圧延シートで形成した集電体を用いて正極板1、負極板2を作製し、得られた正極板1、負極板2を配置して組み立てることで製造される。すなわち、粉末圧延シートを形成する圧延工程(積層ステップの一部)、粉末圧延シートを積層する積層工程(積層ステップの一部)、積層した粉末圧延シートに穴あけ加工またはエキスパンド加工を施し一体化した集電体を形成する集電体形成工程(集電体形成ステップ)、集電体に活物質を塗着する塗着工程(塗着ステップ)および正極板、負極板を配設し化成する組立工程を経て鉛電池が製造される。以下、工程順に説明する。
【0019】
圧延工程では、正極板1、負極板2の集電体に用いる粉末圧延シートを形成する。粉末圧延シートの形成では、粉末圧延装置が使用される。粉末圧延装置は、図2(A)に示すように、断面略三角状で上部に開口が形成され下部にスリット状の排出口を有するホッパ22、互いに押圧しあう一対の圧延ローラ24および図示しない巻取ローラを備えている。圧延ローラ24は、ホッパ22の下部(の排出口)に近接して配置されている。
【0020】
原料の粉末、すなわち、主成分の鉛粉末または鉛合金粉末と、必要に応じてアンチモン、ビスマス等の粉末や酸化鉛、酸化アルミニウム等の粉末とを略均一に混合する。原料の各粉末は、空気中や水中に溶融金属を噴霧することによって急冷凝固粉末を生成するガスアトマイズ法や水アトマイズ法で形成する(以下、アトマイズ法で形成された粉末をアトマイズ粉末と呼称する。)。原料粉末として、本例では、錫を1.5重量%含む鉛合金(Pb−Sn系合金)で形成した粒径0.05〜100μm程度のアトマイズ粉末を使用する。アトマイズ粉末をコンベア等で搬送しホッパ22内に上部の開口から供給する。ホッパ22内のアトマイズ粉末を下部の排出口から排出し、圧延ローラ24間に連続的に供給する。ホッパ22の排出口の寸法は、本例では、スリット幅1.0mm、長さ約150mmに設定する。ホッパ22から排出されたアトマイズ粉末を圧延ローラ24間で略均等に押圧し、下方に引き出すことで、厚さ約0.01〜1.0mm、幅約150mmの帯状の粉末圧延シート27を形成する。本例では、粉末圧延シート27の厚さが約200μmとなるように圧延ローラ24の押圧力を設定する。粉末圧延シート27を巻取ローラでロール状に巻き取る。
【0021】
粉末圧延シート27では、Pb−Sn系合金のアトマイズ粉末が密度の偏りなく微粒子の状態で略均一に分散している。アトマイズ粉末同士が圧着され、アトマイズ粉末粒子間に金属結合部分が形成されることにより三次元ネットワーク構造を形成している。この粉末圧延シート27は、アスペクト比が3〜13の特定方向に配向した結晶粒を有している。また、結晶粒界、結晶粒内には、酸化鉛(PbO)または過酸化鉛(PbO)の少なくとも一方が含まれている。
【0022】
積層工程では、粉末圧延シート27を積層する。本例では、粉末圧延シート27を二つ折りにすることで二重に積層する。圧延工程で巻き取った粉末圧延シート27を引き出し、正極板1、負極板2の長さの2倍となるようにそれぞれ裁断する。裁断した粉末圧延シート27を、図2(B)に示すように、両端部が重なる方向(矢印A方向)に中央部で折りたたむ。粉末圧延シート27を二つに折りたたむことで二重に積層した集電体28は、図2(C)に示すように、粉末圧延シート27の2倍の厚さを有している。
【0023】
集電体形成工程では、集電体28に穴あけ加工またはエキスパンド加工を施し一体化させる。穴あけ加工では、穿孔用工具を使用し、矩形状の集電体28に、例えば、直径が5mmの穿孔を形成する。また、エキスパンド加工では、カッタ等の刃物を使用し、矩形状の集電体28に、例えば、5mmの長さで1mmの間隔をあけて切開部を形成した後、両端を略均等に引っ張る。穴あけ加工またはエキスパンド加工を施すことで、集電体28は、格子状を呈し打ち抜き格子またはエキスパンド格子を形成する。穿孔や切開部を形成するときに、積層した粉末圧延シート27間が接合するため、格子状に形成された集電体28では、積層した粉末圧延シート27が穿孔や切開部の周囲で一体化している。
【0024】
塗着工程では、集電体28に正極活物質ペースト、負極活物質ペーストをそれぞれ塗着し正極板1、負極板2を形成する。正極活物質ペーストは、本例では、リグニンの0.3重量%、硫酸バリウムまたは硫酸ストロンチウムの0.2重量%、カーボン粉末の0.1重量%、残部鉛粉を混練機で混練した混合物に水を12重量%加えて混練し、さらに、この混練した鉛粉に希硫酸(20℃での比重1.26)の13重量%を加えて混練することで調製する。集電体28に正極活物質ペーストを塗着(格子骨格間に形成された空隙に充填)してから、温度50℃、湿度95%中に18時間放置して熟成した後に、温度110℃で2時間放置して乾燥させ未化成の正極板1を作製する。未化成の正極板1は、本例では、厚さが1.0mmとなるように成型する。
【0025】
一方、負極活物質ペーストは、本例では、リグニンの0.3重量%、硫酸バリウムまたは硫酸ストロンチウムの0.2重量%、カーボン粉末の0.1重量%、残部鉛粉を混練機で混練した混合物に水を12重量%加えて混練し、さらに、この混練した鉛粉に希硫酸(20℃での比重1.26)の13重量%を加えて混練することで調製する。集電体28に負極活物質ペーストを塗着(格子骨格間に形成された空隙に充填)してから、温度50℃、湿度95%中に18時間放置して熟成した後に、温度110℃で2時間放置して乾燥させ未化成の負極板2を作製する。未化成の負極板2は、本例では、厚さが1.0mmとなるように成型する。
【0026】
(電池組立)
組立工程では、極板群4を電槽7に収容した後、化成することで鉛電池1を完成させる。未化成の正極板1の5枚と負極板2の6枚とをセパレータ3を介して積層し、同極性の極板同士を正極ストラップ5、負極ストラップ6でそれぞれ連結して極板群4を作製する。極板群4の18個を電槽7内に収容し18直列に接続してから、電槽7内に比重1.05(20℃)の希硫酸電解液を注液して未化成電池を作製する。この未化成電池を9Aで42時間化成した後に電解液を排出し、再び比重1.28(20℃)の希硫酸電解液を注液する。正極端子8および負極端子9をそれぞれ溶接し、上蓋10で密閉して鉛電池1を完成させた。各極板群4の電圧(セル電圧)は2.0Vに設定されており、極板群4を18直列に接続した鉛電池20では平均放電電圧が36V、容量が18Ahである。
【0027】
(作用等)
次に、本実施形態の鉛電池1の作用等について、集電体28の作用を中心に説明する。
【0028】
本実施形態では、正極板1、負極板2をそれぞれ構成する集電体28が粉末圧延シート27を積層し一体化することで形成されている。従来のように集電体として焼結等の熱処理でシート状に形成された金属シートを用いる場合、鉛等の融点の低い金属では結晶粒が粗大化し、粒子同士が結合して大粒子になりやすいため、得られる金属シート中では粒子の分散状態が変化する。このため、集電体に用いたときに、腐食伸びや腐食減肉が生じやすく、セパレータや電槽を破損して出力や寿命を低下させることがある。これに対して、粉末圧延シート27では、Pb−Sn系合金のアトマイズ粉末が直接圧延されてシート状に形成されるため、アトマイズ粉末が密度の偏りなく微粒子の状態で略均一に分散している。アトマイズ粉末同士は圧着されており、アトマイズ粉末粒子間に金属結合部分が形成されることにより三次元ネットワーク構造が形成されている。このため、粉末圧延シート27の耐食性が向上し、腐食伸び等の変形を抑制することができる。
【0029】
また、アトマイズ粉末を圧延してシート状に形成した粉末圧延シート27では、厚さを大きくすることが難しく薄膜状に形成される。厚さを大きくすると、アトマイズ粉末間が密着せず、耐食性が不十分となる。また、薄膜状の粉末圧延シート27をそのまま集電体とすると、腐食伸びを抑制することはできるが、例えば、長期間(15年相当)にわたり使用される産業用途の鉛電池では集電体の強度が不足することとなる。本実施形態では、粉末圧延シート27が積層され集電体28が形成されるため、集電体28では厚さが増大するので、強度を確保することができる。また、粉末圧延シート27が従来の金属シートと比較してより薄く高強度のため、粉末圧延シート27を積層した集電体28では厚さが大きくなるものの、金属シートの集電体より薄膜化することができる。このため、薄膜化した高強度の集電体では、鉛電池28全体として原料の鉛資源の使用量が減少するので、鉛資源の有効利用を図ることができる。
【0030】
更に、本実施形態では、集電体28が、積層された粉末圧延シート27が穴あけ加工またはエキスパンド加工により一体化されている。このため、粉末圧延シート27間の剥離を抑制し、正極活物質、負極活物質を確実に保持することができ、格子骨格間に形成された空隙に充填される分で活物質保持量を増やすことができる。これにより、集電体28を用いた鉛電池1の出力性能を確保することができる。従って、鉛電池1では、集電体28の寿命低下が抑制され、出力性能が確保されるので、電力の安定供給および鉛電池の高信頼化を図ることができる。このような鉛電池1は、入出力性能を確保することに加えて、長寿命化を要求される産業用途に好適に使用することができる。
【0031】
また更に、従来の金属シートでは、結晶粒界が外部の腐食因子の影響を受けると粒界腐食が進行しやすくなり、特に、金属偏析物等が存在すると、偏析元素、偏析化合物接触部を起点として腐食反応が進行しやすくなる。これに対して、粉末圧延シート27では、粒子径が数十μmのアトマイズ粉末が直接圧延されるため、アスペクト比3〜13の特定方向に配向した結晶粒を有している。このため、粉末圧延シート27のアトマイズ粉末粒子間に金属結合部分が形成され、アトマイズ粉末粒子同士の境界には偏析元素が極端に少ない境界層が形成される。これにより、粉末圧延シート27の腐食が抑制されるので、腐食伸びを抑えることができる。
【0032】
更にまた、鉛集電体が腐食すると、自らの腐食生成物の一つである鉛酸化物を生成するが、生成した鉛酸化物のうち酸化鉛(PbO)を経て形成される過酸化鉛(PbO)が反応活物質のため、結晶粒界に鉛酸化物が存在すると、偏析元素のように腐食が進行する。粉末圧延シート27では、結晶粒界、結晶粒内に酸化鉛または過酸化鉛の少なくとも一方が含まれている。このため、鉛酸化物が鉛や鉛合金に分散されるので、粒界での腐食が抑えられ、かつ、再結晶が抑制されて新たな粒界成長が抑制されることから、粒界腐食を最小限に抑え、腐食伸びを抑えることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、平均放電電圧が36V(充電電圧が42V)の鉛電池1を例示したが、本発明は、電圧域に制限されるものではない。直列接続する極板群4の数を変えることで、例えば、平均放電電圧が12V(充電電圧が14V)の鉛電池も作製可能であり、本発明の種々の特性は電圧域で変るものではない。また、鉛電池1の容量を18Ahとする例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、300Ah程度の容量を有する産業用鉛電池に適用した場合でも、上述した効果を得ることができる。
【0034】
また、本実施形態では、集電体28を形成する粉末圧延シート27の原料としてPb−Sn系合金のアトマイズ粉末を用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。Pb−Sn系合金以外に、スズ−カルシウム系鉛合金(Pb−Sn−Ca系合金)、スズ−アンチモン系鉛合金(Pb−Sn−Sb系合金)、スズ−ストロンチウム系鉛合金(Pb−Sn−Sr系合金)およびスズ−バリウム系鉛合金(Pb−Sn−Ba系合金)の粉末を用いることができる。また、粉末圧延シート27の形成時に、鉛または鉛合金のアトマイズ粉末に加えて、酸化鉛や酸化アルミニウム等の粉末を混合するようにしてもよい。このようにすれば、結晶粒の粗大化が抑制されるため、粉末圧延シート27の耐食性を向上させることができる。
【0035】
更に、本実施形態では、積層した粉末圧延シート27を一体化するために穴あけ加工またはエキスパンド加工を施す例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、積層した粉末圧延シート27間が剥離しないように一体化されていればよい。本実施形態で例示したように、二つに折りたたむことで剥離を抑制することはできるが、穴あけ加工またはエキスパンド加工を施すことで確実に一体化することができる。
【0036】
また更に、本実施形態では、集電体28として粉末圧延シート27を二つ折りにして二重に積層した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、三つ折りや四つ折りとしてもよく、矩形状等に裁断した粉末圧延シートの複数枚を積層するようにしてもよい。また、二重に積層する以外に三重以上に積層してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は長期にわたって寿命を確保することができる鉛電池および該鉛電池の製造方法を提供するため、鉛電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明を適用した実施形態の鉛電池を一部破断して示す斜視図である。
【図2】実施形態の鉛電池を構成する集電体の製造過程での状態を示す断面図であり、(A)は粉末圧延装置でアトマイズ粉末を圧延することにより粉末圧延シートを形成したときの状態、(B)は粉末圧延シートを二つに折りたたむときの状態、(C)は粉末圧延シートが二つに折り折りたたまれることで二重に積層された状態をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0039】
1 正極板
2 負極板
20 鉛電池
27 粉末圧延シート
28 集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体に活物質が保持された極板を備えた鉛電池において、前記集電体は、鉛粉末または鉛合金粉末を主体とする粉末を圧延してシート状に形成した粉末圧延シートが積層されたものであり、前記積層された粉末圧延シートが穴あけ加工またはエキスパンド加工により一体化されていることを特徴とする鉛電池。
【請求項2】
前記集電体は、前記粉末圧延シートが折りたたまれることにより積層されたものであることを特徴とする請求項1に記載の鉛電池。
【請求項3】
前記粉末圧延シートは、アスペクト比3〜13の特定方向に配向した結晶粒を有し、結晶粒界、結晶粒内に酸化鉛または過酸化鉛の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載の鉛電池。
【請求項4】
前記粉末圧延シートは、スズ鉛合金、スズ−カルシウム系鉛合金、スズ−アンチモン系鉛合金、スズ−ストロンチウム系鉛合金およびスズ−バリウム系鉛合金から選択される一種以上の粉末を圧延してシート状に形成したものであることを特徴とする請求項3に記載の鉛電池。
【請求項5】
集電体に活物質が保持された極板を備えた鉛電池の製造方法であって、
鉛粉末または鉛合金粉末を主体とする粉末を圧延してシート状に形成した粉末圧延シートを積層する積層ステップと、
前記積層ステップで積層した粉末圧延シートに穴あけ加工またはエキスパンド加工を施し一体化した集電体を形成する集電体形成ステップと、
前記集電体形成ステップで形成した集電体に前記活物質を塗着する塗着ステップと、
を含むことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−135061(P2009−135061A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312115(P2007−312115)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】