説明

銀ナノ粒子の製造方法、インク、および導電性膜の製造方法

【課題】分散性に非常に優れた銀ナノ粒子製造方法およびインクを提供すること。
【解決手段】銀ナノ粒子の製造方法は、硝酸銀と、アミン化合物と、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステルと、を含む溶液中で、前記硝酸銀を還元して銀ナノ粒子を得る工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノ粒子の製造方法、インクおよび導電性膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の配線や、電極を形成するために、銀微粒子が使用されている。
一般に金属微粒子の製造方法としては、CVD法や噴霧熱分解法などの気相法と、化学的な還元反応を利用した湿式法が知られているが、従来の湿式法によって製造した微粒子は凝集性が強く、単分散粒子が得られ難いため、凝集が少ない高純度の銀微粒子などは多くが気相法によって製造されていた。一方、気相法によって得た金属微粒子は単分散性に優れるが、製造コストが高く、かつ粒度制御が難しいと云う問題がある。そこで、分散性に優れた金属微粒子の湿式製造方法が試みられている。
たとえば、特許文献1には、塩化銀を保護コロイドの存在下で還元する方法が提案されている。
また、特許文献2には、ハロゲン化銀を保護剤の存在下で還元する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−265812号公報
【特許文献2】特開2003−253311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、さらに分散性に優れた銀微粒子が求められているが、特許文献1,2の製造方法では、この要求にこたえることが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、
硝酸銀と、
アミン化合物と、
水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステルと、
を含む溶液中で、前記硝酸銀を還元して銀ナノ粒子を得る工程を含む銀ナノ粒子の製造方法が提供される。
【0006】
本発明の製造方法で得られた銀ナノ粒子は、非常に分散性に優れたものとなる。
【0007】
また、本発明によれば上述した製造方法により製造された銀ナノ粒子と、前記銀ナノ粒子が分散した溶液とを有するインクジェット用インクも提供できる。
さらには、上述した製造方法により、前記銀ナノ粒子を製造し、この銀ナノ粒子が分散した分散液を得る工程と、前記分散液を塗布して導電性膜を得る工程とを含む導電性膜の製造方法も提供できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分散性に優れた銀ナノ粒子を製造できる銀ナノ粒子製造方法およびインクが提供される。さらには、導電性膜の製造方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1により得られた銀ナノ粒子の粒径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態の銀ナノ粒子の製造方法は、
(A)硝酸銀と、
(B)アミン化合物と、
(C)水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸塩、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステル(以下、芳香族カルボン酸等、あるいは成分(C)ということもある)の少なくともいずれか1種と、
を含む溶液中で、前記硝酸銀を還元して銀ナノ粒子を得る工程を含む。
ここで、銀ナノ粒子とは、平均粒径(D50)がナノオーダーの粒子を意味するが、なかでも、平均粒径(D50)が50nm以下であることが好ましい。平均粒径(D50)の下限値は、特に制限されないが、1nm以上であることが好ましい。
【0011】
本実施形態では、銀ナノ粒子の原料として、硝酸銀を使用する。硝酸銀を使用することで、粒径の小さな銀ナノ粒子を得ることができる。
はじめに硝酸銀を溶媒に溶解させる。溶媒としては、水が好ましい。
次に、硝酸銀が溶解した溶媒と、アミン化合物とを混合し、硝酸銀およびアミン化合物が溶解した溶液を用意する。
なかでも、硝酸銀が溶解した溶媒に対し、アミン化合物を滴下することが好ましい。このようにすることで、反応が均一に進行し、銀ナノ粒子の粒径の均一性が良好となる。
また、アミン化合物の滴下時間を比較的長くすることで、得られる銀ナノ粒子の平均粒径を小さくすることができる。
【0012】
ここで、アミン化合物としては、硝酸銀が溶解した前記溶媒に溶解するものであればよいが、溶媒を水とする場合には、水溶性のアミン化合物を使用する。たとえば、リシン、エチルアミン、エタノールアミン等の1級アミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン等の2級アミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール等の3級アミン、イミダゾール、トリアゾール等があげられる。なかでも、小さな粒径の銀ナノ粒子を製造する観点から、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノールを使用することが好ましい。また、反応速度を適度なものとし、かつ、得られる銀ナノ粒子の粒径を小さくするために、アミン化合物の使用量は、硝酸銀に1モル対し、モル比で1.0以上、2以下であることが好ましい。アミン化合物は、触媒として機能する。
なお、アミン化合物として、異なるアミン化合物を2種類以上併用してもよい。
【0013】
次に、硝酸銀とアミン化合物とが溶解した溶媒と、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステルとを混合する。
芳香族カルボン酸等の成分(C)を、硝酸銀とアミン化合物とが溶解した溶媒と混合する際、芳香族カルボン酸等を、直接、硝酸銀とアミン化合物とが溶解した溶媒に添加してもよいが、芳香族カルボン酸等を溶媒に溶解させた後、硝酸銀とアミン化合物とが溶解した溶媒と混合することが好ましい。なかでも、芳香族カルボン酸等を溶媒に溶解させた溶液を、硝酸銀とアミン化合物とが溶解した溶媒に対し滴下することが好ましい。このようにすることで、銀ナノ粒子の粒径の均一性が良好となる。さらに、滴下時間を比較的長くすることで、得られる銀ナノ粒子の平均粒径を小さくすることができる。
芳香族カルボン酸等が溶解した溶媒と、硝酸銀とアミン化合物とが溶解した溶媒とは、親和性があればよい。
たとえば、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩を使用する場合には、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩を水に溶解させて、硝酸銀とアミン化合物とが溶解した水と混合すればよい。
また、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステルを使用する場合には、アルコール等の親水性の極性溶媒に、前記芳香族カルボン酸エステルを溶解させ、その後、硝酸銀とアミン化合物とが溶解した水と混合してもよい。
【0014】
ここで、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステルは、銀ナノ粒子の分散剤および硝酸銀の還元剤として働く。
【0015】
水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステル(成分(C))としては、以下の式(1)で示されるものがあげられる。
【0016】
【化1】

(式(1)において、2≦m+n≦6、1≦m≦5、1≦n≦5であり、Rは、水素、アルカリ金属、または、1価の炭化水素基を示す。)
【0017】
なかでも、ジヒドロキシ安息香酸、モノヒドロキシ安息香酸、没食子酸、これらの塩、または、これらのエステルがあげられる。
塩は、アルカリ金属塩であればよく、ナトリウム塩、カリウム塩が特にこのましい。
溶媒となる水や低級アルコールへの溶解性の観点から、エステルとしては、炭素数1〜15のアルコールとのエステルが好ましく、たとえば、ジヒドロキシ安息香酸ドデシル、モノヒドロキシ安息香酸ドデシル、没食子酸ドデシルが好ましい。
【0018】
なかでも、没食子酸、没食子酸塩、没食子酸エステル、ジヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸塩、およびジヒドロキシ安息香酸エステルのうち、少なくともいずれか1種を使用することが好ましい。これらのいずれかを使用することで、分散性に非常に優れた銀ナノ粒子を得ることができる。
さらに、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸等、すなわち、成分(C)としては、ベンゼン環の水素が2個以上の水酸基と置換した芳香族カルボン酸、その塩、そのエステルのいずれかであり、かつ、2つの水酸基がお互いにパラ位、あるいは、オルソ位にある化合物が好ましい。
たとえば、前述した没食子酸、没食子酸塩、没食子酸エステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸塩、3,4−ジヒドロキシ安息香酸エステル、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸塩、2,5−ジヒドロキシ安息香酸エステル、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸塩、2,3−ジヒドロキシ安息香酸エステルからなる群のうち、少なくともいずれか1種を使用することが好ましい。これらのいずれかを使用することで、分散性に非常に優れた銀ナノ粒子を得ることができる。さらには、得られた銀ナノ粒子が分散した液を、塗布した後、焼成せずに、乾燥させて膜を形成した場合において、導電性に非常に優れた膜を得ることができる。
芳香族カルボン酸等(成分(C))として、ベンゼン環の水素が2個以上の水酸基と置換した芳香族カルボン酸、その塩、そのエステルのいずれかであり、かつ、2つの水酸基がお互いにパラ位またはオルソ位にある化合物を使用した場合には、焼成せずに、乾燥させて膜を形成した場合において、導電性に非常に優れた膜を得ることができると考えられる。2つ以上のOH基がお互いにパラ位、あるいはオルソ位にある前記化合物が還元剤として機能し、酸化されると、OH基がケトン構造となる。このように酸化された前記化合物において、2重結合がすべて共役2重結合となっているため、導電性に優れた膜となると推測される。
前記芳香族カルボン酸や、前記芳香族カルボン酸塩、前記芳香族カルボン酸エステルは、異なる種類のものを2種以上併用してもよい。
前記芳香族カルボン酸や、前記芳香族カルボン酸塩、前記芳香族カルボン酸エステルの使用量は、合計で、硝酸銀1モルに対し、モル比で0.5以上、1.5以下であることが好ましい。このようにすることで、溶媒への溶解性を確保しつつ、反応速度を適度なものとすることができ、銀ナノ粒子の粒径を小さなものとすることができる。
【0019】
本発明では、硝酸銀を溶解させた溶媒に対し、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸等が溶解した溶媒を滴下することが好ましい。このようにすることで、得られる銀ナノ粒子の平均粒径を小さくすることができる。
【0020】
以上のようにして、全ての原料を混合した後、1〜2時間程度攪拌して、反応液を得る。
なお、反応液中の硝酸銀濃度は、0.01モル/l以上、0.1モル/l以下が好ましい。このように比較的薄い濃度とすることで、得られる銀ナノ粒子の平均粒径を小さく制御することが可能となる。
本発明では、上述した全ての工程を10℃以上、50℃以下で実施することができ、さらには、特に加熱や冷却をすることなく、室温で実施することが好ましい。このようにすることで、作業性に優れた製造方法となる。なお、50℃以下とすることで、反応速度を抑制し、平均粒径の小さい銀ナノ粒子を得ることができる。また、10℃以上とすることで、反応速度の低下を抑制することができる。
また、本発明では、上述した全ての工程で、特に激しい発熱はないため、作業性に優れた製造方法となる。
【0021】
以上のようにして得られた反応液を遠心分離し、上澄み液を捨てる。そして、得られた沈殿物に水を加えて再度遠心分離し、上澄み液を捨てる。この作業を繰り返し、沈殿物に水を加えることで、銀ナノ粒子が分散した水分散液を得ることができる。
また、水分散液中では、銀ナノ粒子は、ほとんど凝集しておらず、銀ナノ粒子の分散性が非常によい。銀ナノ粒子の分散性がよい理由としては、以下のことが考えられる。銀ナノ粒子に対し、芳香族カルボン酸や芳香族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸エステルの水酸基、カルボキシル基(あるいはカルボキシル残基)が配位して、キレートを形成していると考えられる。これにより、銀ナノ粒子の分散性が良好となっていると推測される。
また、銀ナノ粒子の平均粒径(D50)は、50nm以下、1nm以上となる。なかでも、銀ナノ粒子の平均粒径(D50)は、10nm以下、1nm以上であることが好ましい。さらに、銀ナノ粒子の形状は、球形となる。
なお、平均粒径(D50)は、銀ナノ粒子の一次粒子の粒径200個をTEM像で測定し、小粒径側からの累積個数が50%となる粒径(D50)を平均粒径(メディアン径D50)とする。
【0022】
以上のようにして得られた銀ナノ粒子の水分散液(銀ナノ粒子が溶媒に分散した分散液)は、インクジェット用のインクに加工される。たとえば、銀ナノ粒子の水分散液に対し、アルコール、たとえばエタノールを混合することで、インクジェット用のインクを得ることができる。
また、以上のようにして得られたインクや銀ナノ粒子の水分散液(銀ナノ粒子が溶媒に分散した分散液)を塗布した後、乾燥、あるいは焼成させることで、導電性を有する膜を得ることができる。乾燥は、室温で放置する方法あってもよく、また、風乾であってもよく、乾燥は、60℃以下で実施することが好ましい。乾燥温度の下限値は、特に限定されないが、たとえば、10℃以上であることが好ましく、室温以上であることがさらに好ましい。乾燥を行なうことで、分散液中の溶媒を蒸発させる。
乾燥の場合には、膜の焼成、さらには、焼成工程後の洗浄工程は不要であり、容易に導電性を有する膜を形成することができる。
なお、焼成を行なう場合には、100℃以上の温度で、膜を焼成し、膜中に含まれる溶媒を蒸発させるとともに、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸等を炭化させる。また、焼成時間は5分以上であることが好ましい。
【0023】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
たとえば、前記実施形態では、前記硝酸銀と前記アミン化合物とを水に溶解させた水溶液を用意した後、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸等を添加したが、これに限られるものではない。たとえば、あらかじめ硝酸銀が溶解した水溶液を用意し、その後、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩と、前記水溶液とを混合する工程を実施し、さらにその後、アミン化合物と、硝酸銀および前記水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩を含む前記水溶液とを混合する工程を実施してもよい。
ただし、アミン化合物、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸等の順で添加した場合の方が、銀ナノ粒子の粒径をより均一にすることができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の実施例について説明する。
なお、各実施例において、銀ナノ粒子の平均粒径を計測しているが、計測方法は、以下の通りである。
(平均粒径の計測方法)
各実施例にて得られた銀ナノ粒子の水分散液を乾燥させて、TEM(透過型電子顕微鏡)像を観察した。装置としては、JEOL JEM2010を使用した。銀ナノ粒子の一次粒子の粒径を200個測定し、小粒径側からの累積個数が50%となる粒径(D50)を平均粒径(メディアン径D50)とした。
【0025】
(実施例1)
硝酸銀0.5gを蒸留水20mlに溶解し、トリエチルアミン0.296gを滴下し、室温で10分間攪拌した。没食子酸一水和物0.276gを蒸留水30mlに溶解し、これを前記硝酸銀および前記トリエチルアミンが溶解した溶液に室温で30分間滴下した。その後、1時間攪拌した。攪拌には、AS ONE社製のウォーターバススターラーを使用した。
以上のようにして得られた反応液を5000rpm、1分間遠心し、上澄みを捨て、沈殿物に蒸留水を加えて、5000rpm、2分間遠心し、沈殿物を得た。この沈殿物に、
さらに、もう一度遠心操作を行い、沈殿物を水に再分散させることで、銀ナノ粒子の水分散液を得た。以上の工程はすべて室温で実施した。
また、得られた銀ナノ粒子の平均粒径は10nmであり、粒径分布が非常に狭く、粒径がほぼ均一であることがわかった。図1に得られた銀ナノ粒子の粒径分布を示す。7.1nm〜28.2nmの範囲でピークが観測され、非常に狭い分布であることがわかる。装置としては、Malvern Instruments社製の Zetasizer NanoSeriesを使用した。
さらに、銀ナノ粒子の水分散液において、銀ナノ粒子は凝集しておらず、分散性に優れることも確認できた。また、得られた銀ナノ粒子をTEMで観察したところ、球形であることがわかった。
得られた水分散液をフィルムに塗布して、焼成を行なわずに、室温で乾燥した後、抵抗率を測定したところ、5.6×10−4Ω・cmであり、導電性に優れた膜が得られた。
【0026】
(実施例2)
硝酸銀0.5gを蒸留水10mlに溶解し、室温で10分間攪拌した。次に、没食子酸一水和物0.276gを蒸留水30mlに溶解し、硝酸銀水溶液に対し、室温で30分間滴下した。その後、この溶液に対し、トリエチルアミン0.296gを滴下し、室温で1時間攪拌した。攪拌には、AS ONE社製のウォーターバススターラーを使用した。
以上のようにして得られた反応液を5000rpm、1分間遠心し、上澄みを捨て、沈殿物に蒸留水を加えて、5000rpm、2分間遠心し、沈殿物を得た。この沈殿物に、さらに、もう一度遠心操作を行い、沈殿物を水に再分散させることで、銀ナノ粒子の水分散液を得た。以上の工程はすべて室温で実施した。
また、得られた銀ナノ粒子の平均粒径は15nmであり、粒径分布が非常に狭く、粒径がほぼ均一であることがわかった。
また得られた銀ナノ粒子をTEMで観察したところ、球形であることがわかった。さらに、銀ナノ粒子の水分散液において、銀ナノ粒子は凝集しておらず、分散性に優れることも確認できた。
得られた水分散液をフィルムに塗布して、焼成を行なわずに、室温で乾燥した後、抵抗率を測定したところ、1.7×10−4Ω・cmであり、導電性に優れた膜が得られた。
【0027】
(実施例3)
硝酸銀0.25gを蒸留水20mlに溶解し、トリエチルアミン0.296gを滴下し、室温で10分間攪拌した。没食子酸一水和物0.276gを蒸留水30mlに溶解し、これを硝酸銀およびトリエチルアミンが溶解した溶液に室温で30分間滴下した。その後、1時間攪拌した。攪拌には、AS ONE社製のウォーターバススターラーを使用した。
以上のようにして得られた反応液を5000rpm、1分間遠心し、上澄みを捨て、沈殿物に蒸留水を加えて、5000rpm、2分間遠心し、沈殿物を得た。この沈殿物に、さらに、もう一度遠心操作を行い、沈殿物を水に再分散させることで、銀ナノ粒子の水分散液を得た。以上の工程はすべて室温で実施した。
また、得られた銀ナノ粒子の平均粒径は18nmであり、粒径分布が非常に狭く、粒径がほぼ均一であることがわかった。
また、得られた銀ナノ粒子をTEMで観察したところ、球形であることがわかった。
さらに、銀ナノ粒子の水分散液において、銀ナノ粒子は凝集しておらず、分散性に優れることも確認できた。
得られた水分散液をフィルムに塗布して、焼成を行なわずに、室温で乾燥した後、抵抗率を測定したところ、1.4×10−3Ω・cmであり、導電性に優れた膜が得られた。
【0028】
(実施例4)
硝酸銀0.5gを蒸留水20mlに溶解し、DMAE(ジメチルアミノエタノール)0.262gを滴下し、室温で10分間攪拌した。没食子酸一水和物0.276gを蒸留水30mlに溶解し、これを硝酸銀およびDMAEが溶解した溶液に室温で30分間滴下した。その後、1時間攪拌した。攪拌には、AS ONE社製のウォーターバススターラーを使用した。
以上のようにして得られた反応液を5000rpm、1分間遠心し、上澄みを捨て、沈殿物に蒸留水を加えて、5000rpm、2分間遠心し、沈殿物を得た。この沈殿物に、さらに、もう一度遠心操作を行い、沈殿物を水に再分散させることで、銀ナノ粒子の水分散液を得た。以上の工程はすべて室温で実施した。
また、得られた銀ナノ粒子の平均粒径は3nmであり、粒径分布が非常に狭く、粒径がほぼ均一であることがわかった。また、得られた銀ナノ粒子をTEMで観察したところ、球形であることがわかった。さらに、銀ナノ粒子の水分散液において、銀ナノ粒子は凝集しておらず、分散性に優れることも確認できた。
得られた水分散液をフィルムに塗布して、焼成を行なわずに、室温で乾燥した後、抵抗率を測定したところ、1.1×10−4Ω・cmであり、導電性に優れた膜が得られた。
【0029】
(実施例5)
硝酸銀0.5gを蒸留水20mlに溶解し、トリエチルアミン0.296gを滴下し、室温で10分間攪拌した。没食子酸ドデシル0.497gをエタノール20mlに溶解し、これを硝酸銀およびトリエチルアミンが溶解した溶液に室温で20分間滴下した。その後、1時間攪拌した。攪拌には、AS ONE社製のウォーターバススターラーを使用した。
以上のようにして得られた反応液を5000rpm、1分間遠心し、上澄みを捨て、沈殿物にエタノールを加えて、5000rpm、2分間遠心し、沈殿物を得た。この沈殿物に、さらに、もう一度遠心操作を行い、沈殿物をエタノールに再分散させることで、銀ナノ粒子のエタノール分散液を得た。以上の工程はすべて室温で実施した。
また、得られた銀ナノ粒子の平均粒径は15nmであり、粒径分布が非常に狭く、粒径がほぼ均一であることがわかった。また、得られた銀ナノ粒子をTEMで観察したところ、球形であることがわかった。さらに、銀ナノ粒子の分散液において、銀ナノ粒子は凝集しておらず、分散性に優れることも確認できた。
得られたエタノール分散液をフィルムに塗布して、焼成を行なわずに、室温で乾燥した後、抵抗率を測定したところ、1.7×10−2Ω・cmであり、導電性に優れた膜が得られた。
【0030】
(実施例6)
硝酸銀0.5gを蒸留水20mlに溶解し、トリエチルアミン0.296gを滴下し、室温で10分間攪拌した。3,5−ジヒドロキシ安息香酸0.227gを蒸留水20mlに溶解し、これを硝酸銀およびトリエチルアミンが溶解した溶液に室温で30分間滴下した。その後、1時間攪拌した。攪拌には、AS ONE社製のウォーターバススターラーを使用した。
以上のようにして得られた反応液を5000rpm、1分間遠心し、上澄みを捨て、沈殿物に蒸留水を加えて、5000rpm、2分間遠心し、沈殿物を得た。この沈殿物に、さらに、もう一度遠心操作を行い、沈殿物を水に再分散させることで、銀ナノ粒子の水分散液を得た。以上の工程はすべて室温で実施した。
また、得られた銀ナノ粒子の平均粒径は8nmであり、粒径分布が非常に狭く、粒径がほぼ均一であることがわかった。また、得られた銀ナノ粒子をTEMで観察したところ、球形であることがわかった。さらに、銀ナノ粒子の水分散液において、銀ナノ粒子は凝集しておらず、分散性に優れることも確認できた。
得られた水分散液をフィルムに塗布して、大気圧下で、大気中で表1に示したように、焼成し、0.05モル/lの水酸化カリウム水溶液に浸漬した。その後、水で洗浄し、乾燥
させて抵抗率を測定した。結果を表1に示す。導電性を示すことがわかる。
なお、焼成温度は、炉の温度である。
【0031】
【表1】

【0032】
(実施例7)
硝酸銀0.50gを蒸留水20mlに溶解し、トリエチルアミン0.296gを滴下し、室温、10分撹拌した。3,4-ジヒドロキシ安息香酸0.227gを蒸留水20mlに溶解し、これを、前記硝酸銀および前記トリエチルアミンが溶解した溶液に、室温、30分間で滴下した。滴下後、1時間撹拌した。攪拌には、AS ONE社製のウォーターバススターラーを使用した。
得られた反応液を5000rpm、1分間遠心し、上澄みを捨て、沈殿物に蒸留水を加えて、5000rpm、2分間遠心し、沈殿物を得た。この沈殿物に、さらに、もう一度遠心操作を行い、銀ナノ粒子の水分散液を得た。以上の工程はすべて室温で実施した。
得られた銀ナノ粒子の平均粒径は6nmであり、粒径分布が非常に狭く、粒径がほぼ均一であることがわかった。
また得られた銀ナノ粒子をTEMで観察したところ、球形であることがわかった。さらに、銀ナノ粒子の水分散液において、銀ナノ粒子は凝集しておらず、分散性に優れることも確認できた。
得られた分散液をフィルムに塗布して、焼成を行なわずに、室温で乾燥した後、抵抗率を測定したところ、4.8×10−4Ω・cmであった。導電性に優れた膜が得られた。
【0033】
(実施例8)
硝酸銀0.50gを蒸留水20mlに溶解し、これに対して、トリエチルアミン0.296gを滴下した。その後、室温、10分撹拌した。2,5-ジヒドロキシ安息香酸0.227gを蒸留水20mlに溶解した溶液を用意し、この溶液を、前記硝酸銀と、前記トリエチルアミンとが溶解した溶液に対して、室温、30分間で滴下した。滴下後、1時間撹拌した。攪拌には、AS ONE社製のウォーターバススターラーを使用した。
得られた反応液を5000rpm、1分間遠心し、上澄みを捨て、沈殿物に蒸留水を加えて、5000rpm、2分間遠心し、沈殿物を得た。この沈殿物に、さらに、もう一度遠心操作を行い、銀ナノ粒子の水分散液を得た。
得られた銀ナノ粒子の平均粒径は5nmであり、粒径分布が非常に狭く、粒径がほぼ均一であることがわかった。
また得られた銀ナノ粒子をTEMで観察したところ、球形であることがわかった。さらに、銀ナノ粒子の水分散液において、銀ナノ粒子は凝集しておらず、分散性に優れることも確認できた。
得られた分散液をフィルムに塗布して、焼成を行なわずに、室温で乾燥した後、抵抗率を測定したところ、1.3×10−4Ω・cmであり、導電性に優れた膜が得られた。
【0034】
実施例1〜8で得られた銀ナノ粒子の水分散液、あるいは、エタノール分散液を室温で風乾後、水あるいはエタノールを加えて攪拌することで、再分散した銀ナノ粒子を得ることができた。銀ナノ粒子の再分散性が非常に良好であることがわかった。
また、実施例1〜8で得られた銀ナノ粒子の水分散液(攪拌直後の沈降が生じていないもの)あるいは銀ナノ粒子のエタノール分散液(攪拌直後の沈降が生じていないもの)を放置し、3時間半経過した時点で観察したところ、銀ナノ粒子が沈降していないことが確認された。したがって分散性が非常に良好であることがわかる。さらに、実施例1〜8で得られた銀ナノ粒子の分散性は、特許文献1,2で開示されたものよりも良好である。
【0035】
実施例1〜8で得られた銀ナノ粒子(焼成前)について、UV可視吸収分光法で計測したところ、400nm付近に吸収が見られた。これは、銀ナノ粒子のプラズモン共鳴吸収である。
さらに、実施例1〜8で得られた銀ナノ粒子についてEDS(エネルギー分散型X線分光分析)を用いて同定を行ったところ、3keV付近に銀ナノ粒子のピークを示し、銀以外の金属成分は観測されなかった。
また、実施例1〜5、7,8で得られた銀ナノ粒子は、焼成を行わずに、導電性の膜を形成できることがわかる。一方で、実施例6で得られた銀ナノ粒子は、160〜180℃の焼成を行うことで、導電性を有する膜が得られていることがわかる。したがって、本発明の銀ナノ粒子を使用すれば、耐熱性の低い基板上に、導電性の膜を形成できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸銀と、
アミン化合物と、
水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステルと、
を含む溶液中で、前記硝酸銀を還元して銀ナノ粒子を得る工程を含む銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の銀ナノ粒子の製造方法において、
前記芳香族カルボン酸もしくはその塩、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステルは、以下の式(1)で示されるものである銀ナノ粒子の製造方法。
【化1】

(式(1)において、2≦m+n≦6、1≦m≦5、1≦n≦5であり、Rは、水素、アルカリ金属、または、1価の炭化水素基を示す。)
【請求項3】
請求項2に記載の銀ナノ粒子の製造方法において、
前記式(1)の化合物として、没食子酸、没食子酸塩、没食子酸エステル、ジヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸塩、ジヒドロキシ安息香酸エステルからなる群のうち、少なくともいずれか1種を使用する銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法において、
前記芳香族カルボン酸もしくはその塩、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステルは、ベンゼン環の水素を2個以上の水酸基と置換した芳香族カルボン酸、その塩、そのエステルのいずれかであり、かつ、2つの前記水酸基がお互いにパラ位またはオルソ位にある化合物である銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法において、
前記芳香族カルボン酸もしくはその塩、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステルは、没食子酸、没食子酸塩、没食子酸エステル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸塩、3,4−ジヒドロキシ安息香酸エステル、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸塩、2,5−ジヒドロキシ安息香酸エステル、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸塩、2,3−ジヒドロキシ安息香酸エステルからなる群のうち、少なくともいずれか1種を使用する銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法において、
前記アミン化合物は、トリエチルアミンまたはジメチルアミノエタノールである銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法において、
前記銀ナノ粒子の平均粒径(D50)が、50nm以下、1nm以上である銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法において、
前記硝酸銀と前記アミン化合物とを水に溶解させた水溶液を用意する工程と、
前記水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩を水に溶解させた水溶液、または、水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸エステルを溶解させたアルコール溶液を用意する工程とを含み、
前記硝酸銀と前記アミン化合物とを水に溶解させた水溶液と、
前記芳香族カルボン酸もしくはその塩を水に溶解させた前記水溶液または、前記アルコール溶液とを混合し、前記硝酸銀を還元する銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法において、
前記硝酸銀を水に溶解させた水溶液を用意する工程と、
前記水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩と、前記水溶液とを混合する工程と、
前記アミン化合物と、前記硝酸銀および前記水酸基を1以上有する芳香族カルボン酸もしくはその塩を含む水溶液とを混合する工程とを含み、水中で前記硝酸銀を還元する銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の製造方法により製造された銀ナノ粒子と、前記銀ナノ粒子が分散した溶液とを有するインクジェット用インク。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載の製造方法により、前記銀ナノ粒子を製造し、この銀ナノ粒子が分散した分散液を得る工程と、
前記分散液を塗布して導電性膜を得る工程とを含む導電性膜の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の導電性膜の製造方法において、
導電性膜を得る前記工程では、前記分散液を塗布した後、焼成を行なわずに、60℃以下で乾燥を行ない、前記導電性膜を得る導電性膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−11014(P2013−11014A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−80544(P2012−80544)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】