説明

銀ペースト

【課題】微細配線を印刷した後、200℃以下の温度で焼成可能で、良好な印刷性および基板に対する焼成膜の良好な密着性が得られる銀ペーストを提供する。
【解決手段】1級アミンで被覆された平均粒子径DTEMが4〜20nmの銀粒子と、その分散媒からなり、銀粒子は下記(1)式で定義されるCV値が40%以下となる粒度分布を有し、粘度が20〜100Pa・Sである銀ペースト。上記1級アミンとしては沸点が70〜380℃のものが使用される。分散媒には、分子量が100〜300、沸点が180〜300℃の炭化水素または高級アルコールが使用される。ペースト組成物中の銀濃度を70〜90質量%とすることが好ましい。
CV値=100×[粒子径の標準偏差σD]/[平均粒子径DTEM] ……(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷等で微細配線を形成するのに適した銀ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品などの電極や回路を形成する方法として、銀粉などの金属粉末をガラスフリットや無機酸化物とともに有機ビヒクル中に分散させたペーストを、印刷などの手法で基板上に描画して所定のパターンを形成し、その後、基板を加熱することによって有機成分を除去するとともに金属粒子同士を焼結させて導電膜を形成する、いわゆる厚膜ペースト法が広く用いられている。
【0003】
金属粒子の粒径が数nm程度に小さくなると、融点が低下する。そのため、粒径が数nmの程度の金属粒子を使用して導電膜を形成すると、粒径が数μm程度の金属粒子を使用した場合に比べ、微細な配線の描画が可能になるだけではなく、300℃以下といった低温で焼成しても金属粒子同士を焼結させることができる。
【0004】
しかし、300℃以下といった低温焼成によると基板に対する導電膜の密着性が悪いという問題があった。また最近では、さらに低温での焼成が望まれるようになってきた。
【0005】
特許文献1には、金属微粒子表面をそれに含まれる金属元素と配位可能な有機化合物で被覆して、その金属微粒子を液体中に安定に分散させ、かつ焼成時に有機化合物が捕捉される捕捉物質を含有したペースト組成物が開示されている。特許文献2には、ITO膜表面、あるいはITO膜の下地基板とするガラス基板表面に下地層用のクロム、マンガンなどの遷移金属薄膜を湿式で形成し、この遷移金属の薄膜が有する高い密着性を利用して、その上に形成する導電膜の密着性を改善する手法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3900248号公報
【特許文献2】特開2005−293937号公報
【特許文献3】特開2006−213955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法で作成した銀粒子分散液では、ガラス基板・フィルム上に印刷し回路形成を行った場合には、焼成温度を低下させると膜の導電性が不十分となり、基板との密着性を十分に確保することも難しい。このため、200℃より高い温度で焼成する必要がある。また、特許文献1に示されているペースト溶剤では、ペースト中の銀粒子比率が非常に低く、回路パターンに「にじみ」が生じやすい。また、沸点が180℃未満と低い溶剤を希釈剤として使用するので、印刷時に溶剤が揮発し、連続印刷時には粘度が上昇してスクリーン版に銀粒子が詰まることが予想される。
【0008】
特許文献2に開示の遷移金属薄膜を下地層として形成する方法では、その遷移金属が銀配線中の不純物になると考えられ、銀のマイグレーションを引き起こす可能性が高いことが予想される。また、下地層を形成する工程も増える。
【0009】
昨今要求されている「微細配線」は、線幅が20〜100μmと非常に細いものであり、これまでの銀ナノ粒子インクの場合、粘度が高くなるとインクがスクリーン版の中に入らず、かすれが生じていた。また粘度を低くするとインクがスクリーン版の配線パターンよりも広い線幅になり、目的の線幅を得ることが困難であった。
【0010】
本発明は、上記のような問題を解消することができる銀ペーストとして、200℃以下の温度で焼成可能で、良好な印刷性、および基板に対する焼成膜の良好な密着性が得られるものを提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、1級アミンで被覆された平均粒子径DTEMが4〜20nmの銀粒子と、その分散媒からなり、銀粒子は下記(1)式で定義されるCV値が40%以下となる粒度分布を有し、粘度が20〜100Pa・Sである銀ペーストによって達成される。上記1級アミンとしては沸点が70〜380℃のものが使用される。分散媒には、分子量が100〜300、沸点が180〜300℃の炭化水素または高級アルコールが使用される。ペースト組成物中の銀濃度を70〜90質量%とすることが好ましい。
CV値=100×[粒子径の標準偏差σD]/[平均粒子径DTEM] ……(1)
【0012】
ここで、平均粒子径DTEMは、ペーストを構成する銀粒子が分散した媒体についてTEM(透過型電子顕微鏡)観察を行うことによって、画像から求まる平均粒子径である。具体的には、TEMにより倍率60万倍で観察される粒子のうち、画像上で重なっていない独立した粒子をランダムに300個選択して粒子径を求め、その平均値をとることでDTEMを求めることができる。個々の銀粒子の粒子径は画像上に現れている最も長い部分の径を採用する。後述実施例では、TEMとして日本電子株式会社製JEM−2010を用いた。
【0013】
標準偏差σDを算出するための個々の粒子の粒子径は、平均粒子径DTEMを求める際に測定された粒子の粒子径を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の銀ペーストは、微細配線を容易に形成でき、低温焼成においても基材に対して高い密着性が得られる。この銀ペーストは有機ELのITO膜上の補助電極、Si太陽電池の集電極、ポリイミドフィルムおよびガラス基板上に形成する回路配線等の形成に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ペースト中の銀粒子自体は、特許文献3に開示される方法によって合成することができる。すなわち、沸点が85〜150℃のアルコール中で銀塩を有機保護材の存在下で還元処理することによって、粒子径が非常に揃った平均粒子径4〜20nmの銀粒子が合成され、その後、遠心分離機を用いた固液分離と洗浄を繰り返す工程を実施することで所定のCV値を持つ銀微粉を得ることができる。
【0016】
ここでいう平均粒子径は前述のDTEMである。平均粒子径が4nm未満の場合、粒子表面に存在する有機物(界面活性剤)の相対的な割合がどうしても多くなりすぎてしまい、銀濃度が例えば70%以上と高い、印刷に適したペースト状態を得ることが困難になる。一方、平均粒子径が20nmを超えて大きくなると、描画した回路パターンの膜を200℃以下といった低温で焼成した場合、緻密な膜を形成することができず、導電性低下や基板との密着性低下の要因となる。したがって、銀粒子の平均粒子径は4〜20nmであることが必要であるが、6〜10nmの範囲であることがより好ましい。
【0017】
CV値は前記(1)式によって定義されるものであり、本発明ではCV値が40%以下であることが必要である。CV値がそれを超えて大きくなると、粒子がペースト中に単分散した状態を実現することが難しくなる。そのようなペーストを用いると、焼成後の膜表面が緻密になりにくく、表面の凹凸が大きくなる。CV値は20%以下であることがより好ましい。
【0018】
銀粒子の表面を覆う有機被覆材物(界面活性剤)としては、飽和炭化水素やアミンが使用できるが、なかでも1級アミンが好ましい。その沸点は室温での揮発が問題にならない程度に高いことが望まれる。沸点が低すぎると室温で揮発してペーストの保存安定性が悪くなり、良好な印刷が不可能となる。一方、沸点があまり高いと200℃以下の温度で焼成した場合に揮発・除去が不十分となり、焼成膜の導電性が低下する。種々検討の結果、銀粒子の表面を覆う有機物は沸点が70〜380℃であることが望ましく、沸点100〜350℃の有機物とりわけ1級アミンを使用することがより好ましく、沸点150〜350℃のものが一層好ましい。
【0019】
そのような有機被覆物として、オレイルアミン(C918=C917NH2)が特に好適であり、また、より分子量の小さい1級アミンとしてオクチルアミン(C817NH2)なども好適な対象となる。
【0020】
ペーストを作るための分散媒(溶剤)は、スクリーン印刷で微細配線を安定的に印刷するために、上記の界面活性剤で被覆された銀粒子が極めて良好な分散(すなわち単分散)を呈する物質を選定する必要がある。分散性が少しでも悪いとスクリーン印刷で微細配線を安定的に印刷することが難しくなる。
【0021】
分散媒の種類としては、飽和もしくは不飽和炭化水素、または極性の小さい高級アルコールを用いることができる。これらのうち1種を単独で使用してもよいし、2種以上の物質を使用してもよい。
【0022】
以下のような物質が分散媒として使用できる。
(炭化水素)
アミルベンゼン、1,2ジエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、ケロシン、ドデカン、ドデシルベンゼン、n−トリデカン、n−テトラデカン、n−ノナデカン、n−ヘキサデカン、n−ペンタデカンなど
(高級アルコール)
2エチルヘキサノール、n−オクタノール、テルピネオール、ベンジルアルコール、テキサノール、1,6ヘキサンジオールなど
【0023】
ペースト中に占める分散媒の割合は、5質量%以上を確保することが望ましい。それより少ないとペースト化しにくい。一方、分散媒が多すぎるとスクリーン印刷した配線の線幅がスクリーン版の開口部の線幅よりも広がりやすくなり、その場合、所望の線幅が得られない。種々検討の結果、分散媒の割合は30質量%以下とすべきであり、20質量%以下であることがより好ましい。なお、銀濃度が70質量%以上であるときは、当然、分散媒の割合は30%に満たないし、銀濃度が80質量%以上であるときは、当然、分散媒の割合は20%に満たない。
【0024】
ペーストの粘度は、スクリーン印刷で良好な印刷性を得るうえで、20〜100Pa・Sの範囲であることが望ましい。粘度が低すぎるとスクリーン印刷時にスクリーンパターンの線幅よりも広い幅の線が描画されてしまう。粘度が高すぎるとペーストが印刷機のスキージ上で流動しなくなってスクリーンにペーストが入らず、結果的に印刷した線がかすれるといった不具合が生じてしまう。より好ましいペースト粘度の範囲は30〜70Pa・Sである。粘度は、分散媒の種類や配合割合によってコントロールすることができる。なお、後述の表1に示されるNo.1とNo.4で粘度が異なるのは、有機被覆材の量が相違することにより、分散媒の配合量に差が生じているためである。
【0025】
ペースト中の銀濃度が低いと、印刷により形成した膜には分散媒や有機被覆材の量が相対的に多くなるので、低温で焼成したときに分散媒や有機被覆材の揮発・除去が不十分となって導電性を確保することが難しくなる。逆に銀濃度が高すぎると、良好な粘度を実現できない。種々検討の結果、ペースト中の銀濃度は70〜90質量%の範囲とすることが望ましいことがわかった。上記の方法で得られる粒子径の揃った銀微粉を用いると、このような高い銀濃度において単分散を実現することができるのである。ペースト中の銀濃度は、ICPまたは熱分析(TG−DTA)でペーストを分析することにより求めることができる。
【0026】
本発明の銀ペーストをITO膜上に印刷し、焼成した場合には、ITO膜(基板)と高い密着性を有する銀導電膜が得られる。その理由については未解明の部分も多いが、銀粒子表面に被覆されている1級アミンが焼成時に還元剤として働き、ITO膜の表層酸素を還元するため、ITO膜面が活性し、銀ペーストの焼成時に密着性が高まることが考えられる。また、CV値が小さいことにより銀濃度の高い膜を印刷することができ、その結果、緻密な配線膜が形成されて銀配線とITO膜の密着性が高くなることが考えられる。
【0027】
ポリイミドフィルムとの密着性に関しても同様に、銀粒子表面に被覆されている1級アミンが焼成時に還元剤として働き、界面のポリイミドの表層酸素を還元するため、ポリイミドの膜面が活性化し、銀ペーストの焼成時に密着性が高まることが考えられる。
【実施例】
【0028】
表1に示す銀微粉を、特許文献3に開示の方法(上述)に準拠して作製した。これを、表1に記載の分散媒(溶剤)に均一に分散させて、銀ペーストを得た。銀微粉と分散媒との混合には、混練脱泡撹拌機(シンキー社製;AR−250)を用い、所定の組成で銀微粉と分散媒の合計が100gとなるように容器に充填した。撹拌時間を60秒、脱泡時間を60秒として処理し、所定のペーストを得た。ペースト中の銀濃度は、ICPでペーストを分析することにより求めた。ペーストの粘度は、ブルックフィールド社製のコーンプレート型回転粘度計(型番DVIII、コーンcp52型)を用いて試料温度25℃で測定した。この銀ペーストを用いて、スクリーン印刷機(マイクロ−テック社製;MT−320T)およびグラビア印刷機(松尾産業社製;KPPグラビアシステム)により、それぞれITO膜およびポリイミドフィルムに配線膜を印刷した。印刷の線幅は50μm、スペース幅は50μmとした。得られた印刷物をホットプレートを用いて大気中200℃で焼成した。焼成時間は60分とした。
【0029】
印刷性評価と、焼成膜の密着性評価を行った。
印刷性は、焼成前の印刷物において、配線に断線が見られないものを○(良好)それ以外を×(不良)と評価した。
密着性は、焼成により得られた配線にセロハン粘着テープ(ニチバン社製;No.405)を圧着した後に剥離させ、配線の剥離が認められないものを○(良好)、それ以外を×(不良)と評価した。
結果を表1中に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から判るように、本発明例のものは印刷性、密着性とも良好であった。
【0032】
これに対し、比較例であるNo.21は銀微粉の平均粒子径が小さすぎたことにより、密着性に劣った。No.22は分散媒として沸点が低すぎる物質を用いたことにより、乾燥が速すぎ、印刷性および密着性に劣った。No.23は銀微粉の平均粒子径が大きすぎたことにより、密着性に劣った。No.24はペーストの粘度を高くしすぎたことにより、印刷性および密着性に劣った。No.25は銀微粉のCV値が大きすぎたことにより、印刷性および密着性に劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1級アミンで被覆された平均粒子径4〜20nmの銀粒子と、分散媒からなり、銀粒子は下記(1)式で定義されるCV値が40%以下となる粒度分布を有し、粘度が20〜100Pa・Sである銀ペースト。
CV値=100×[粒子径の標準偏差σD]/[平均粒子径DTEM] ……(1)
【請求項2】
前記アミンは、沸点が70〜380℃である、請求項1に記載の銀ペースト。
【請求項3】
前記分散媒は、分子量が100〜300、沸点が180〜300℃の炭化水素または高級アルコールである請求項1または2に記載の銀ペースト。
【請求項4】
ペースト組成物中の銀濃度が70〜90質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の銀ペースト。

【公開番号】特開2009−16201(P2009−16201A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177250(P2007−177250)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】