説明

銀付き調皮革様シート

【課題】 天然皮革のような自然な風合い、折れシワおよび感性を有し、さらに長期着用によって変化する外観まで再現可能な銀付き調皮革様シートを提供する。
【解決手段】 平均単繊維繊度0.001〜1dtexのポリアミド繊維からなる三次元絡合不織布(A)に高分子弾性体(B)が含有されてなる皮革様シート基材、その少なくとも一方の表面には、ポリアミド繊維が該繊維の溶剤または膨潤剤により一部融着してなる層があり、更にその上の最表面には少なくとも1種類の高分子弾性体(C)を主成分とする層が存在し、さらにJIS−L1018により規定される通気度が0.5〜7cc/cm/秒であることを特徴とする銀付き調皮革様シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然皮革のような自然な風合い、折れシワ、感性を有する銀付き調皮革様シートに関する。特に、長期間の着用において表面が磨耗した場合にも天然皮革と同様にヌバック調あるいはスエード調の外観へと変化するため、天然皮革製品と同じ使用感を得ることができる高級な感性を有する銀付き調皮革様シートに関する。
【背景技術】
【0002】
銀付皮革様シートは、天然皮革を手本としてその風合いを追求し、衣料、靴および鞄等に用いられる高級素材から、ランドセルやボール等、使用用途に向け機能を追及した素材まで、幅広い分野がある。その中で、天然皮革を追求した高級素材は、ベースとなるシート状物の柔軟性や充実感を各種技術によって改良してきたが、銀面を形成する方法としては、従来から公知のポリウレタン樹脂を用いた湿式造面や乾式造面といった方法が主流である。
【0003】
湿式造面は、風合いが柔らかいものの造面層が厚くなるため、得られる銀付き調皮革様シートの風合いや感性は、造面層の湿式スポンジ構造が支配的となり、ベースに何を選択しても大きな差は得られにくく、天然皮革の感性とは異なるものとなる。
【0004】
一方、乾式造面は造面層の膜厚を薄くすることによってベースとの一体感が増し、ベースの選択やバランスによっては高級感のある銀付き調皮革様シートを得ることができるが、長期着用によって、表面の造面層が破れたり、フィルムとして剥がれ落ちたりする傾向があり、天然皮革の磨耗状態とは全く異なるため、いかにも人工的な素材であるという印象を脱することができなかった。
【0005】
その他、皮革様シートのベースとの一体感を増し、自然で天然皮革ライクな感性が得られる銀付き調皮革様シートとして、構成する極細繊維の表面を溶剤で溶解した後、プレスまたは熱プレスで皮膜化する方法がある(特許文献1および2を参照。)。しかしながら、これらの手法は構成する極細繊維を溶剤によって溶解した後にプレスによって完全に皮膜化した部分を有することが特徴であり、皮膜化した部分は風合いが硬くなったり、磨耗時にフィルムが剥がれるという問題があった。また完全にフィルム化された部分には、熱水中で揉んだり染色したりする工程で、比較的大きな深いシワが入ることが多く、外観品位が低下する傾向もあった。
【0006】
【特許文献1】特開平2−154078号公報
【特許文献2】特開平9−95869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、天然皮革のような自然な風合い、折れシワおよび感性を有する銀付き調皮革様シートにおいて、特に天然皮革と同様の着用感、すなわち長期着用によって外観が磨耗した場合にもヌバック調あるいはスエード調へと外観変化する素材について鋭意検討した結果、皮革様シートとして以下の構造をとることが最適であることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、平均単繊維繊度0.001〜1dtexのポリアミド繊維からなる三次元絡合不織布(A)に高分子弾性体(B)が含有されてなる皮革様シート基材、その少なくとも一方の表面には、ポリアミド繊維が該繊維の溶剤または膨潤剤により一部融着してなる層があり、更にその上の最表面には少なくとも1種類の高分子弾性体(C)を主成分とする層が存在し、さらにJIS−L1018により規定される通気度が0.5〜7cc/cm/秒であることを特徴とする銀付き調皮革様シートであり、さらに高分子弾性体(C)を主成分とする層が非連続的に存在していることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、天然皮革のような自然な風合い、折れシワおよび感性を有する銀付き調皮革様シートにおいて、特に天然皮革と同様の着用感、すなわち長期着用によって外観が磨耗した場合にもヌバック調あるいはスエード調へと外観変化する銀付き調皮革様シートが得られる。そのため、従来から天然皮革が用いられ、長年の使用によって表面が磨り減ってきても「製品の味」として愛用されるような衣料、鞄等の用途に特に有効に使用することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリアミド繊維は、平均単繊維繊度0.001〜1dtexの繊度であることが必須要件である以外は、可紡性のポリアミドを紡出した繊維であれば、繊維長は10〜100mm程度にカットされた短繊維から、紡糸ノズルから紡出された繊維をそのまま捕集ネット上に吹付けた長繊維まで、特に限定はない。繊度については、得られる銀付き調皮革様シートの感性、銀面の外観、強度物性に影響することがわかっている。すなわち、平均単繊維繊度が0.001dtex未満では、ポリアミド繊維を溶剤または膨潤剤で溶融する際に、繊維が細すぎて銀面化しにくくなる傾向があり、さらに得られる皮革様シート自体の強度物性も低下する傾向がある。逆に平均単繊維繊度が1dtexを超えると、銀面状にピンホールが目立つようになったり、皮革様シートの感性が低下する傾向があるため好ましくない。より好適な範囲は平均単繊維繊度0.05〜0.5dtexである。ポリアミド繊維は、これら繊度の範囲内であれば、2種類以上の繊度のものを用いることもできる。特に、比較的銀面の形成しやすい高い繊度を有する繊維からなる不織布を表面付近にのみ配置し、高感性を有する低い繊度の繊維からなる不織布を主体とする構造をとる等求める感性や外観に応じて組み合わせが可能である。
【0011】
ポリアミドからなる極細繊維を用いる場合の製造方法としては、公知の方法を用いることが可能である。例えば、相溶性を有しておらず、溶解性または分解性の異なる2種類以上のポリマーを使用して、公知の混合紡糸法や複合紡糸法等の紡糸方法により、断面形状が海島構造や分割可能な貼合せ構造となっている極細繊維発生型繊維を得て、そしてその繊維の一部(例えば海成分)を抽出または分解除去、貼合せ部を剥離して極細繊維とする方法が好ましく用いられる。
【0012】
繊維を構成するポリアミド樹脂としては、特に限定されるものではないが、ナイロン−6、ナイロン−66およびナイロン−610等が挙げられる。また極細繊維発生型繊維から極細繊維を得る場合の相手の樹脂としては、ポリアミドと相溶性を有しておらず、溶解性または分解性の異なる樹脂であれば特に限定するものではなく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類が好ましく挙げられる。
また、これらのポリアミドからなる樹脂には、紡糸の際の安定性を損なわない範囲で、カーボンブラック等の着色剤や公知の安定化剤を添加してもない。
【0013】
ポリアミド繊維からなる三次元絡合不織布(A)を製造する方法としては、短繊維を用いる場合、従来公知の方法により、紡糸、延伸、熱処理、捲縮、カット等の処理を行って、同繊維の原綿を作製し、かかる原綿を、カードで解繊し、ウェーバーでランダムウェブまたはクロスラップウェブに形成する。得られたウェブを必要に応じて積層し、所望の重さにする。また、長繊維の場合には、紡糸した繊維を固化する前に空気流で延伸しながら捕集ネットに吹付けてウェブを作製する。必要に応じて、クロスラップウェブを形成する場合もある。ウェブの重さは、目的とする最終的な用途分野に応じて適宜選択され、一般的に100〜3000g/mの範囲が好ましい。また低コスト化などの目的で、必要とする重量の約2倍の三次元絡合不織布(A)に弾性重合体溶液(B)を含浸・凝固させた後にバンドナイフなどにより厚さ方向に分割することにより、効率よく1度に2枚の基材を製造することもできる。ウェブの積層に次いで公知の手段、たとえばニードルパンチング法や高圧水流噴射法等を用いて絡合処理を施して、三次元絡合不織布(A)を形成する。ニードルパンチング数及びニードルパンチング条件は使用針の形状やウェブの厚みにより異なるが、一般的には200〜2500パンチ/cmの範囲で設定するのがよい。
【0014】
三次元絡合不織布(A)は、高分子弾性体(B)の含有処理に先立って、必要に応じて熱プレスなどの公知の方法により表面の平滑化処理を行うこともできる。三次元絡合不織布(A)を構成する繊維が、たとえばポリエチレンを海成分とする海島型極細繊維発生型繊維から極細化されてなる繊維である場合には、熱プレスにより海成分のポリエチレンを溶融させ、繊維同士を融着させることによりきわめて表面平滑性に優れた三次元絡合不織布(A)とすることが出来る。
【0015】
次に三次元絡合不織布(A)に含有させる高分子弾性体(B)について説明する。
本発明の高分子弾性体(B)はスチレンーブタジエン共重合体、アクリロニトリルーブタジエン共重合体、ポリウレタンエラストマー、その他の合成ゴム或いはこれらの混合物等公知の弾性重合体を用いることが可能である。中でも風合いが優れる点からポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。好ましいポリウレタン樹脂としては、ソフトセグメントとして、ジオールとジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とを反応させて得られるポリエステル系ジオール、ポリラクトン系ジオール、ポリカーボネート系ジオール、ポリエーテル系ジオール、およびポリエーテルエステル系ジオール等からなる群から選ばれた数平均分子量が500〜5000の少なくとも1種類のポリマージオールを使用し、これとジイソシアネート化合物と低分子鎖伸長剤とを反応させて得られる、いわゆるセグメント化ポリウレタンが挙げられる。
【0016】
ソフトセグメントを構成する上記ポリマージオールの合成に用いられるジオール化合物としては、耐久性あるいは皮革様の風合いの点で炭素数6以上10以下の脂肪族化合物が好ましく、たとえば、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどが挙げられる。またジカルボン酸の代表例としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0017】
ポリマージオールの数平均分子量が500未満の場合には、柔軟性に欠け、天然皮革様の風合いが得られないため好ましくない。またポリマージオールの数平均分子量が5000を越える場合には、ウレタン基濃度が減少するため柔軟性及び耐久性、耐熱性、耐加水分解性においてバランスのとれた皮革様シートが得られにくい。ジイソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の芳香族、脂肪族、脂環族系のジイソシアネート化合物が挙げられる。
【0018】
また低分子鎖伸長剤としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、N−メチルジエタノールアミン、エチレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミンなどの分子量が300以下の活性水素原子を2個有する低分子化合物が挙げられる。
【0019】
ポリウレタンの合成方法としては、ワンショット法であっても、プレポリマー法であってもよい。
また必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で高分子弾性体(B)には、凝固調節剤、安定剤などを添加してもよく、更に他のポリマーを併用しても構わない。さらに、カーボンブラックや染料などの着色剤を添加してもよい。
【0020】
絡合不織布に高分子弾性体(B)を含有させる方法については特に限定されないが、ポリウレタンを含有させる場合、風合いのバランスの点から絡合不織布にジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す場合もある。)等で代表されるポリウレタンの良溶媒で希釈するポリウレタン溶液、あるいはポリウレタンの水分散液を直接含浸させ、必要によりマングルで絞る方法や、ポリウレタン溶液、あるいはポリウレタンの水分散液をコーターでコーティングしながらしみ込ませる方法などが好ましい。含浸させたポリウレタン液を湿式凝固又は乾式凝固させることによりポリウレタンを絡合不織布に含有させるが、特に天然皮革様の風合いや触感が得られることから湿式凝固法が好ましい。そして、天然皮革様の柔軟な風合いの点から、三次元絡合不織布(A)を構成する繊維と高分子弾性体(B)との質量比率は、30/70〜90/10の範囲が好ましく、更に好ましくは35/65〜80/20の範囲内である。この範囲より繊維の比率が低くなりすぎると、皮革様シート基材がゴムライクな風合いとなり、繊維の比率が高くなりすぎるとペーパーライクな風合いになるため、目標とする天然皮革様の風合いが得られ難い。
【0021】
海島構造繊維からなる極細繊維発生型繊維を用いた場合には、三次元絡合不織布(A)に高分子弾性体(B)を含浸した後に、高分子弾性体(B)及び極細繊維発生型繊維の島成分に対しては、非溶剤でかつ極細繊維発生型繊維の海成分に対しては溶剤または分解剤として働く液体で処理することにより極細繊維発生型繊維を極細繊維束に変成し、極細繊維絡合不織布と高分子弾性体(B)からなる皮革様シート基材とする。もちろん、高分子弾性体(B)を含浸するに先立って、極細繊維発生型繊維を極細繊維束に変成する方法を用いて皮革様シート基材とすることもできる。また剥離性の分割型複合繊維を用いた場合には、剥離を促進する液で処理することにより繊維構成ポリマーの界面で剥離させ、極細繊維束とする方法も可能である。
【0022】
このようにして得られた皮革様シート基材は、その少なくとも片面を起毛し、さらに整毛して一旦、スエード調皮革様シート基材とする。起毛方法は、サンドペーパーや針布によるバフ処理等で代表される公知の方法により行うが、表面の立毛繊維の緻密性を向上させるため320〜600番手のサンドペーパーを用いてバフ処理を行うことが好ましい。
【0023】
次に、ポリアミド繊維が該繊維の溶剤または膨潤剤により一部融着してなる層について説明する。本発明においては、皮革様シート基材を構成するポリアミド繊維のうち、皮革様シート基材の表面に少なくとも存在するポリアミド繊維が溶剤または膨潤剤により一部融着して層を形成していることが必須である。一部融着とは繊維がそのままの形態を保持している部分と繊維間が接着している部分とを有することであり、完全にフィルム化して繊維の原型を留めていない状態とは異なる状態を意味する。
【0024】
ポリアミド繊維を一部融着させる方法としては、フェノール系化合物を10〜50質量%含有する溶液をグラビアやスプレー等で点状塗布するする方法が用いられる。フェノール系化合物としてはレゾルシンが好ましく、レゾルシンを溶解する溶媒としては、水や低級アルコール、またはその混合液が用いられ、特に好ましくは水とイソプロピルアルコールの混合液が用いられる。水とイソプロピルアルコールの混合比率は特に限定されないが、イソプロピルアルコールの比率が多くなるにつれて、シートへの浸透が大きくなるためにポリアミド繊維が溶解膨潤されやすく、それに伴って銀面が形成されやすくなるため、用途や目的に応じて調整するのが好ましい。
【0025】
本発明においては、銀面感を強調するための熱プレスを行わない。熱プレスは表面のポリアミド繊維が一部融着してなる層をフィルム化し銀面感を向上させる効果があるが、一方で風合いの硬化が必至であり、また得られた銀付き調皮革様シートを染色したり、熱水中で揉み処理を行うことによって、表面に大きくかつ深い大きなシワが発生するために高級感が得られ難く、長期着用によって外観が磨耗した場合にもヌバック調あるいはスエード調へと外観変化する銀付き調皮革様シートが得られない。
【0026】
本発明においては、銀面感を補う必要が有るため、最表面に少なくとも1種類の高分子弾性体(C)を主成分とする層が存在する。高分子弾性体(C)は、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン−イソプレンやスチレン−ブタジエンブロック共重合体水添物等のエラストマーや、これら樹脂をベースに種々の添加剤を添加したもの、他種ポリマーをブレンドしたポリマーアロイ等制限はなく、例えば磨耗性を強化するためにはポリウレタン樹脂を選択したり、風合いを重視するためにポリアミド樹脂を選択したり、さらには、オイルタッチを再現するためにスチレン−イソプレンブロック共重合体の水添物とパラフィンオイルをブレンドしたコンパウンドを選択したり、その選択は自由である。また、本発明の銀付き調皮革様シートは、通常染色して用いられるが、高分子弾性体(C)は、染色後に付与しても構わない。
また必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で高分子弾性体(C)には、凝固調節剤、安定剤などを添加してもよく、さらに、カーボンブラックや染料などの着色剤を添加してもよい。
【0027】
ただし、これら最表面に塗布する高分子弾性体(C)は、非連続で塗布することが好ましい。最表面を構成する層の硬さは、選択する高分子弾性体(C)の硬さへの依存が大きいが、特にフィルム化して連続層になると一段と硬さを増し、銀付き調皮革様シートの感性を低下させる傾向があるために好ましくない。さらには、銀付表面の磨耗により、フィルムが剥がれる傾向があり、品位が低下する。非連続で塗布する方法としては、グラビアやスプレー法が好適であるが、塗布段数や塗布量にはポリアミド繊維の融着と相互に関係する。
そして、それらの塗布量に関して、フェノール系化合物によるポリアミド繊維の融着状態を制御する為のフェノール系化合物の塗布量と最表面に塗布する高分子弾性体(C)の塗布量が、JIS L1018で規定される特定の通気度とするように塗布することで銀面感と感性を両立することを本発明者らは見出した。すなわち、JIS L1018で規定される通気度を0.5〜7cc/cm/秒とすることが必須である。通気度が0.5cc/cm/秒よりも小さい場合、ポリアミド繊維の融着が強すぎるまたは組成物(C)の塗布量が多すぎるため、表面あるいは最表面を構成する層が硬くなり、染色後に深く大きなシワが目立つ傾向がある。逆に通気度が7cc/cm/秒よりも大きい場合、銀面感が不足する。
【0028】
このような通気性を確保するための塗布条件としては、上記通気度の範囲を維持する必要があり、その手段としては、レゾルシンで代表されるフェノール系化合物によるポリアミド繊維の融着度合い、その後最表面として塗布する高分子弾性体(C)の量によって異なるために、一概には言えないが、グラビア方式による塗布を例にとれば、例えばレゾルシン20%をイソプロピルアルコール/水=40/40%の比率で溶解した溶液を150meshのグラビアで1段、液付着量で15g/m程度付着させ、ポリアミド繊維を一部融着させた後、ポリウレタンの10%DMF溶液を150meshのグラビアロールで1段〜3段塗布した場合に、目的の通気度を達成することがわかっている。
【0029】
本発明の銀付き調皮革様シートは、通常90℃程度の熱水中で染色することが好ましい。通気度を上記範囲に調整した場合、銀面と基体を構成する層との微妙な収縮率差によって、細かなシュリンク皺が発生し、それが天然皮革のような自然なシボ感を発現させる。
【0030】
この様にして得られる本発明の銀付き調皮革様シートは、皮革様シート基材表面を構成するポリアミド繊維あるいはその起毛繊維を一部融着することによって、銀面感を表現し、さらに最表層の高分子弾性体(C)によって銀面の保護と用途に応じた性能を付与することによって、従来の銀付き調皮革様シートでは達成できなかった長期着用による外観の変化まで天然皮革に合わせることができ、長年に渡って人間が愛用してきた天然皮革製品の着用感まで再現することが可能な銀付き調皮革様シートであるため、応用可能な広い用途の中でも特に衣料、鞄など、長期にわたって愛用する用途において、好適な銀付き調皮革様シートとなる。
【0031】
以下に、本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されない。なお、以下の実施例および比較例において、各種物性の測定および評価は次のようにして行った。
【0032】
平均単繊維繊度
皮革様シートの表面又は断面を、電子顕微鏡にて500〜2000倍程度の倍率で観察して繊維径を実測し、その実測値から単繊維繊度(デシテックス)を求めた。
【0033】
通気度
JIS L1018により測定した。
【0034】
風合い・外観
本発明者らが、皮革様シートを触感および目視で評価した。
【0035】
製造例1
ナイロン−6とポリエチレンをチップの状態で50:50の質量比で混合して押出機により溶融紡糸を行い、ポリエチレンが海成分でナイロン−6が島成分となっている海島構造繊維を紡糸し、延伸、捲縮、カットして、繊度4dtex、繊維長51mmのステープルを作製し、ウェーバーでクロスラップを作りニードルパンチング機を用いて700パンチ/cmのニードルパンチングを施して三次元絡合不織布を得た。この不織布に、平均分子量2000のポリ3メチルペンタンアジペートジオールとポリエチレングリコールをソフトセグメント用のポリマージオールとするポリウレタン樹脂のジメチルホルムアミド溶液を含浸し、湿式凝固させた後、繊維の海成分であるポリエチレンをパークロルエチレンで抽出し、目付450g/m、厚み1.3mm、ポリウレタン樹脂と繊維の比率が40/60の皮革様シート基材を得た。得られた皮革様シート基材のナイロン極細繊維の繊度は、平均単繊維繊度0.006dtexであった。得られた皮革様シート基材の片面をサンドペーパーにてバフ処理をして皮革様シート基材の表面に存在するナイロン極細繊維を起毛し、立毛表面を有したスエード調皮革様シート基材を得た。
【実施例1】
【0036】
製造例1で得られたスエード調皮革様シート基材の表面に、レゾルシン/水/イソプロピルアルコール=30/35/35の組成の溶液を、150メッシュのグラビアコーターを用いて1段塗布し、さらに、ポリウレタン樹脂(SSTC−6000:大日精化工業株式会社製)を200メッシュのグラビアロールで1段塗布した。この銀付き調皮革様シートの通気度は3.2cc/cm/秒であった。この銀付き調皮革様シートをウインス染色機を用いて次の条件で染色すると、細かく自然なシュリンクシボを有する銀付き調皮革様シートとなり、柔軟で、一体感のある高級な風合いであった。
染色条件
染料 : Lanacron Brown S−GR(Ciba−Geigy(株)製) 5%owf
Irgalan Yellow GRL(Ciba−Geigy(株)製) 2%owf
浴比 : 1:30
染色温度: 90℃
また、約2ヶ月間の着用において部分的に表面が磨耗してきた状態が天然皮革と同様にヌバック調あるいはスエード調の外観へと変化したものとなり、天然皮革製品と同じ使用感を得ることができた。
【実施例2】
【0037】
製造例1で得られたスエード調皮革様シート基材の表面に、レゾルシン/水/イソプロピルアルコール=20/30/50の組成の溶液を、140メッシュのグラビアコーターを用いて1段塗布したのち、実施例と同様の方法により染色を行った。その後さらに、ポリウレタン樹脂(SSTC−6000:大日精化工業株式会社製)を150メッシュのグラビアロールで1段塗布した。この銀付き調皮革様シートの通気度は4.5cc/cm/秒であった。得られた銀付き調皮革様シートは、細かく自然なシュリンクシボを有する銀付き調皮革様シートとなり、柔軟で、一体感のある高級な風合いであった。
また、約2ヶ月間の着用において部分的に表面が磨耗してきた状態が天然皮革と同様にヌバック調あるいはスエード調の外観へと変化したものとなり、天然皮革製品と同じ使用感を得ることができた。
【0038】
比較例1
製造例1で得られたスエード調皮革様シート基材の表面に、実施例1と同様にレゾルシン/水/イソプロピルアルコール=30/35/35の組成の溶液を、150メッシュのグラビアコーターを用いて1段塗布した後に、150℃、3kg/cmのプレス圧で梨地のエンボスを行った。その後さらに、ポリウレタン樹脂(SSTC−6000:大日精化製)を200メッシュのグラビアコーターで1段塗布した。この銀付き調皮革様シートは表面平滑性に優れたものであり、通気度は0.2cc/cm/秒であった。この銀付き調皮革様シートを実施例1と同様にウインス染色機で染色すると、大きく深いシワが発生しており、外観の高級感に欠けていた。また、銀面層が硬く感じ、銀付き調皮革様シートとしてのバランスが悪いため風合いも今一つであった。
【0039】
比較例2
製造例1で得られたスエード調皮革様シート基材の表面に、レゾルシン/水/イソプロピルアルコール溶液を塗布しない以外は実施例1と同様に処理した。得られた皮革様シートの通気度は8.5cc/cm/秒であったが、銀付き調と表現できるほどの銀面感ではなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維繊度0.001〜1dtexのポリアミド繊維からなる三次元絡合不織布(A)に高分子弾性体(B)が含有されてなる皮革様シート基材、その少なくとも一方の表面には、ポリアミド繊維が該繊維の溶剤または膨潤剤により一部融着してなる層があり、更にその上の最表面には少なくとも1種類の高分子弾性体(C)を主成分とする層が存在し、さらにJIS−L1018により規定される通気度が0.5〜7cc/cm/秒であることを特徴とする銀付き調皮革様シート。
【請求項2】
高分子弾性体(C)を主成分とする層が非連続的に存在している請求項1記載の銀付き調皮革様シート。


【公開番号】特開2007−138313(P2007−138313A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330987(P2005−330987)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】