説明

銀器類の改良方法

【課題】銀または銀合金に特有の硫化銀や酸化銀の被膜などによる表面色調の劣化を可及的に阻止することのできる銀器類の改良方法を得ることを目的とする。
【解決手段】銀器類に、銀よりも低電位でかつイオン化したチタン又はチタンおよびバナジウムなどの金属元素を200℃〜300℃で焼き付けることを特徴とする。この方法によれば、銀メッキ(銀)表面にイオン結合したチタン又はチタンおよびバナジウムから供給される電子の還元作用によって銀の酸化作用を阻止できるだけでなく、酸化物や硫化物が付着しても簡単に洗い流すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀または銀を主成分とする合金で形成された銀器類の改良方法に関するものであり、一層詳細には、銀または銀合金に特有の硫化銀や酸化銀の被膜などによる表面色調の劣化を可及的に阻止することのできる銀器類の改良方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、銀あるいは銀を主成分とする合金は宝飾品や洋食器などとして広く使用されている。
しかし、このような銀器類は空気中の二酸化硫黄や硫化水素と反応してその表面にターニッシュ(硫化銀からなる被膜)を生成したり、酸素と反応した酸化銀の被膜などを生成するため、表面の色調が次第に黄色ないし黒色に変色してしまい、銀本来の美しい輝きが失われてしまうという問題点があった。
【0003】
そこで、表面に生成した被膜などを取り除く手段として、例えば、研磨剤で磨く(特許文献1)、あるいは還元剤を用いた酸洗剤に浸漬する(特許文献2)、さらには還元性を有する洗浄剤を使用する(特許文献3)など種々の方法が提案され、需要者の便宜に供されている。
【0004】
【特許文献1】 特開昭62−265399号公報
【特許文献2】 特開2003−27096号公報
【特許文献3】 特開平4−214884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、研磨剤としてリン酸水素カルシウムと酸化アルミニウムを使用することが提案されているが、研磨剤を使用すると銀器に対するダメージが大きく好ましい方法とはいえない。
【0006】
また、特許文献2は、還元剤により銀器の表面に生成した硫化銀を還元し銀に戻すことにより銀器の洗浄を行なっている。しかし、この酸洗剤も銀器に対するダメージが大きいという問題がある。また、一般的にはこのような酸洗剤においては、還元剤としてチオ尿素が用いられているが、このチオ尿素には発ガン性の問題が指摘されていることからも銀食器などにこのような洗剤を使用することは安全性の点で好ましくない。
【0007】
さらに、特許文献3では、炭酸塩、有機酸及び還元性物質を含有する洗浄剤が提案されている。この方法は、炭酸塩と有機酸の反応により発生する炭酸ガス発生時の微振動を洗浄に利用するものであるが、洗浄効果が十分ではなく、また還元性物質としてチオ尿素を使用しているため前述と同様に安全性の点で問題を有している。
【0008】
一方、アルカリにアルミニウムを作用させると、いわゆる発生基水素といわれる還元性を有する水素原子が生じることが知られている。そこでこのアルミニウムにアルカリを作用させて発生する水素ガスを利用して銀表面の硫化銀や酸化銀を除去することも検討されているが、洗浄効率が低く実際的な方法とは言えない。
【0009】
また、銀器類は純銀によるものは少なく、銅、亜鉛、ニッケル等の基材表面に銀メッキされたものや銀合金が広く使用されている。銀メッキ品や銀合金でない場合も、これら金属元素が銀中に不純物として少量含有されていることが多く、従って、単純に、銀器類にアルカリの洗浄剤を使用した場合、銀器類表面の傷やエッジ部分など基材部が露出している部分あるいは合金中や不純成分から、銅、亜鉛、ニッケルなど銀以外の金属成分が溶出し、この溶出成分が、洗浄過程中に銀器類の表面にメッキされた状態で再付着してしまう現象が生じて新たな変色が起きたり、再変色したようになるなど銀器類にダメージを与えてしまうという問題があった。
【0010】
さらには、銀器類のうち、特に銀食器は、食材由来の有機物汚れなどが付着しており、この汚れは前記したような従来の銀器類用洗浄剤では、十分に洗浄することができないなどの指摘もあった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ところで、発明者は、醗酵技術を利用して植物の種子などに含まれる鉱物質(=金属元素=ミネラル成分)を電解質として解離(イオン化)させる画期的な方法を開発するとともに静電磁場と有機酸溶液を利用してミネラル含有物質から人体に悪影響や刺激のないミネラルを解離(イオン化)する方法の登録も得ている。そしてこれらの方法を利用することにより従来では考えられなかった、例えば、金、銀、銅、マグネシウム、亜鉛、マンガン、アルミニウム、ステンレス、プラチナなど多種多様の金属元素を電解質として解離(イオン化)する技術も確立するに至っている。
【0012】
また、金属元素においては標準電極電位の高い元素から低い元素に向かって電流が流れ、低い元素から高い元素へは電子(エレクトロン−e)が供給されることが公知であるが、この電子の流れというのは酸化作用と反対の還元作用を呈することも知られている。
【0013】
そこで、この発明では、銀よりも標準電極電位が低く(低電位)かつイオン化した金属元素を銀器類に200℃〜300℃で焼き付け、この金属元素から銀器類の組成分としての銀(銀メッキ部分)に電子(エレクトロン−e)を供給するように構成することにより、銀と酸素が結びつく酸化作用を可及的に阻止して銀本来の美しい輝きと色合いを保持しようとするものである。
【0014】
この場合、銀よりも標準電極電位が低く(低電位)かつイオン化した金属元素としてはチタン又はチタンおよびバナジウムを使用するのが好適であり、具体的には、澱粉および/もしくは穀類と、金属元素としてのチタン又はチタンおよびバナジウムを含むイオン性固体あるいは微細化粉末とを所定の割合で混合した原料に浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより原料中に含まれるチタン又はチタンおよびバナジウムを解離させ、さらに濾過してイオン化チタン又はイオン化チタンおよびイオン化バナジウムを1.0wt%〜4.0wt%程度含有する醗酵熟成液を使用する。
【0015】
一方、リペアが必要な銀器類の場合は、この銀器類を洗浄したのち羽布で研磨し、ついで常法により銀メッキ処理を施し、さらに金属元素としての銀よりも低電位でかつイオン化した金属元素を200℃〜300℃で焼き付けることにより所期の目的を達成する。
【0016】
この場合も、銀より標準電極電位が低く(低電位)かつイオン化した金属元素として、チタン又はチタンおよびバナジウムを使用するのが好適であり、具体的には、澱粉および/もしくは穀類と、金属元素としてのチタン又はチタンおよびバナジウムを含むイオン性固体あるいは微細化粉末とを所定の割合で混合した原料に浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより原料中に含まれるチタン又はチタンおよびバナジウムを解離させ、さらに濾過してイオン化チタン又はイオン化チタンおよびイオン化バナジウムを1.0wt%〜4.0wt%程度含有する醗酵熟成液を使用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る銀器類の改良方法によれば、銀メッキ(銀)表面に、銀よりも低電位の解離(イオン化)したチタンTi又はチタンTiおよびバナジウムVをイオン結合+イオンコーティングしたので、チタンTi又はチタンTiおよびバナジウムVから銀Agメッキ部分などに電子(エレクトロン −e)が供給される還元作用によって銀Agと酸素が結びつく酸化作用を阻止できるだけでなく、酸化物や硫化物が銀Ag表面にあったとしても簡単に洗い流せるので表面の色調のくすみや変色などを可及的に阻止することができるものである。
【0018】
また、リペアの場合は、磨き粉処理などによるメッキ表面の損傷を阻止できるだけでなく、従来に比較して銀メッキの磨き処理に係わる人件費、光熱費、材料費の低減などにより維持管理の経費節減を図ることができる。
【0019】
さらには、銀器類自体の抗酸化作用とともに表面硬度の増強も図ることができ、研磨剤と洗浄水による環境汚染等も防止することができるなど種々の効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明に係る銀器類の改良方法につき最良の形態を例示し、以下詳細に説明する。
すなわち、図1において、本実施の形態においては被改良銀器類として、ニッケル合金の表面に銀メッキを施した、所謂、ニッケルシルバー製の食器皿10を使用するものとする。
【0021】
一方、容器12には、例えば、水道水(Tapwater)を逆浸透膜(RO)で濾過することにより不純物を可及的に除去した浄水に、銀よりも低電位の金属イオン含有液、すなわち、チタンTiをイオンとして含有するイオン化チタン含有液14を5.0wt%の濃度で溶解した金属イオン処理水16を準備する。
この場合、イオン化チタン含有液14は、澱粉および/もしくは穀類と、金属元素としてのチタンを含むイオン性固体あるいは微細化粉末とを所定の割合で混合した原料に浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより混合原料中に含まれるチタンを解離させ、さらに濾過して解離(イオン化)したチタンを1.0wt%〜4.0wt%含有する醗酵熟成液を使用するものとする。
【0022】
なお、本実施の形態においては、金属イオン含有液としてイオン化チタン含有液14を使用したが、同様の手順により醗酵熟成して得られたイオン化バナジウム含有液を混合したイオン化チタンおよびイオン化バナジウム含有液なども好適に使用することができ、この場合は、バナジウムの作用により被改良品としての食器皿10の硬度を増強することができるので耐久性の向上も図ることができる。
【0023】
また、金属イオン処理液16に対するイオン化チタン含有液14の濃度が0.10wt%以下になると食器皿10の改良に長時間を要するので効率が低下し、また、迅速な改質をする必要がある場合には浄水で希釈することなくイオン化チタン含有液14をそのまま(100wt%)を容器12に入れて処理すれば極めて効率的な改良を施すことが可能であるが、その濃度が5.0wt%を超えると費用対効果の面から好ましいとはいえない。
【0024】
このようにして金属イオン処理水16の準備ができたら、食器皿10を電気炉などの加熱装置18によって加熱した後、この食器皿10を容器12中の金属イオン処理水(常温)16に投入して解離(イオン化)しているチタンを焼き付ける。この作業は食器皿10を加熱することにより組成としての金属元素の分子運動を活発化させ、この活発な状態において金属イオン処理水14にイオン(電解質)として解離しているチタンをその銀メッキ表面に架橋ないしはコーティングをするものである(図2参照)。
この場合、加熱装置18による食器皿10の加熱温度としては約250℃で3分〜5分間程度が好ましいが、銀器類がハンダ製品の場合は200℃以下での加熱とし、それ以外の製品は300℃を上限とするのが好ましい。
【0025】
一方、別の容器20には、前記と同様に逆浸透膜(RO)で不純物を可及的に除去した浄水に前記のイオン化チタン含有液14を0.1wt%溶解して調整した第2金属イオン処理水(常温)22を用意しておき、前記金属イオン処理水16に浸漬した直後の食器皿10をこの第2イオン処理水22に浸漬することにより、食器皿10に付着している(金属イオン処理水16中に含まれていた)有機酸などの洗浄を行う。
【0026】
このように処理して得られた食器皿24は、その基材表面の銀Agメッキ部分にチタンTiがイオン結合してコーティングされることになるが、前記チタンTiは銀Agとの標準電極電位の違いから銀Agメッキ部分からチタンTiには電流が流れ、一方、チタンTiから銀Agメッキ部分には電子(エレクトロン−e)が供給され続けて銀Agメッキ部分には還元作用が生じ、従って、銀Agメッキ部分には酸化被膜などが生じにくくなり、使用などによって、仮に、酸化被膜や硫化物が生じたり残留したとしてもチタンTiがイオン結合してコーティングされた部分に乗っている状態にすぎないため中性洗剤などで簡単に洗い流すことができ、表面の色調のくすみや変色を可及的に阻止することができるものである(図3参照)。
【0027】
なお、得られた食器24を、蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメント(株)製、マイクロエレメントモニターSEA5120、大阪市立工業研究所)により定性分析を行ったところ、銅、亜鉛、銀とともにチタンの存在が確認された。
【0028】
次に、前記の処理により得られた食器皿24と、未処理の同じ食器皿10における銀メッキの耐変色試験(大阪市立工業研究所)を行った。
まず、未処理の食器皿10および処理済の食器皿24の一部に鶏卵の卵黄を綿棒で塗布し、条件1(60℃、相対湿度90%で1週間放置)および条件2(100℃乾燥雰囲気に1時間放置したのち、40℃、相対湿度90%で24時間放置)で腐食促進試験を行い、各食器皿の変色および腐食の有無を目視観察により評価した。
【0029】

【0030】

【0031】
上記結果から、処理済の食器皿24は、未処理の食器皿10に比べると硫化物による腐食に対して耐性が認められ、従って、錆びにくく腐食しにくい銀器に改良され、銀の損傷を軽減することでのその寿命を延ばすことができることが解った。
【0032】
なお、本実施の形態においては銀器類として未使用の食器皿10の改良方法につき説明したが、補修(リペア)が必要な食器皿(銀器類)26の場合は、図4に示すように、この食器皿26をまず洗浄して、必要に応じて板金ないしは溶接修理を行い、ついでこの食器皿26を羽布により研磨し、さらに定法により3.8μm程度の銀Agメッキを行うことにより前処理を行い、得られた前処理食器皿28を先に説明した図1の手順に移行してリペアを行えば良い。
【0033】
さらには、金属元素としての銀よりも低電位でかつイオン化した金属元素としてチタン又はチタンおよびバナジウムを例示して説明したが、銀よりも低電位でかつイオン化した金属元素であれば、他の種々の金属元素も好適に使用できること言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る銀器類の改良方法における最良の形態を示す概略手順説明図である。
【図2】図1に示す食器皿における断面部分の模式説明図である。
【図3】図1に示す食器皿における電子と電流の流れを示す説明図である。
【図4】本発明に係る銀器類のリペア方法における前処理の手順説明図である。
【符号の説明】
【0035】
10…食器皿(未処理)
12…容器
14…イオン化チタン含有液
16…金属イオン処理液
18…加熱装置、
20…容器
22…第2金属イオン処理液
24…処理済食器皿
26…被リペア食器皿
28…前処理食器皿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀器類に、金属元素としての銀よりも低電位でかつイオン化した金属元素を200℃〜300℃で焼き付けることを特徴とする銀器類の改良方法。
【請求項2】
イオン化した金属元素としてチタン又はチタンおよびバナジウムを使用することからなる請求項1に記載の銀器類の改良方法。
【請求項3】
イオン化した金属元素としてのチタン又はチタンおよびバナジウムは、澱粉および/もしくは穀類と、金属元素としてのチタン又はチタンおよびバナジウムを含むイオン性固体あるいは微細化粉末とを所定の割合で混合した原料に浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより原料中に含まれるチタン又はチタンおよびバナジウムを解離させ、さらに濾過してイオン化チタン又はイオン化チタンおよびイオン化バナジウムを1.0wt%〜4.0wt%含有する醗酵熟成液である請求項2に記載の銀器類の改良方法。
【請求項4】
リペアが必要な銀器類を洗浄したのち羽布で研磨し、ついでこの銀器類に常法により銀メッキ処理を施し、さらに金属元素としての銀よりも低電位でかつイオン化した金属元素を200℃〜300℃で焼き付けることを特徴とする銀器類のリペア方法。
【請求項5】
銀よりも低電位でかつイオン化した金属元素としてチタン又はチタンおよびバナジウムを使用することからなる請求項4に記載の銀器類のリペア方法。
【請求項6】
イオン化した金属元素としてのチタン又はチタンおよびバナジウムは、澱粉および/もしくは穀類と、金属元素としてのチタン又はチタンおよびバナジウムを含むイオン性固体あるいは微細化粉末とを所定の割合で混合した原料に浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより原料中に含まれるチタン又はチタンおよびバナジウムを解離させ、さらに濾過してイオン化チタン又はイオン化チタンおよびイオン化バナジウムを1.0wt%〜4.0wt%含有する醗酵熟成液である請求項5に記載の銀器類のリペア方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−50682(P2008−50682A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257991(P2006−257991)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(591135200)
【出願人】(506321698)
【Fターム(参考)】