説明

銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、銀銅合金焼結体の製造方法および銀銅合金焼結体

【課題】大気雰囲気下でも容易に変色せず、かつ、引張強度、曲げ強度、表面の硬さや伸び等にすぐれた銀銅合金焼結体を形成可能な銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物から製造した銀銅合金焼結体及び銀銅合金焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】銀含有粉末と酸素含有銅粉末とを含有する粉末成分と、バインダーと、水とを含む銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物であって、前記酸素含有銅粉末は粒子の中央部に純Cuが存在し該純Cuの表層部に酸化銅とが形成されているとともに、酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が0.7質量%以上80質量%以下の範囲とされており、また、酸化銅の合計は、酸素含有銅粉末全体に対して20質量%以上とされていることを特徴とする銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を焼成することで前記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、銀銅合金焼結体の製造方法および銀銅合金焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、指輪等に代表される銀製の宝飾品や美術工芸品等は、一般に、銀含有材料を鋳造又は鍛造することによって製造されている。しかしながら、近年、銀粉末を含んだ銀粘土(焼結体形成用の粘土状組成物)が市販されており、この銀粘土を任意の形状に成形した後に焼成することにより、任意の形状を有する銀の宝飾品や美術工芸品を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このような方法によれば、銀粘土を通常の粘土細工と同様に自由に造形を行うことができ、造形して得られた成形体を乾燥させた後、加熱炉を用いて焼成することにより、極めて簡単に銀製の宝飾品や美術工芸品等を製造することが可能となる。
【0003】
ところで、特許文献1に記載のような銀粘土は、一般に、純銀(純Ag)の粉末に、さらに、バインダーや水、必要に応じて界面活性剤等を加えて混練することによって得られる。しかしながら、純Agの銀粉末を用いた銀粘土を成形した後に加熱して銀焼結体を製造した場合には、純Ag自体の強度が弱いことから、得られた銀焼結体が強度特性に劣るものとなるという問題がある。
【0004】
前述のような強度特性の問題を解決するため、Agの成分比を92.5%とし、さらに、銅(Cu)等を含む銀合金として銀粉末を構成し、このような銀粉末にバインダー等を加えて混練することで得られる銀粘土を造形した後に焼成することで、所謂スターリングシルバーと呼ばれる銀焼結体を製造することも提案されている(例えば、特許文献2の実施例の欄等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4265127号公報
【特許文献2】特許第3274960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されたように、Ag−Cu合金であるスターリングシルバーからなる銀粘土においては、純Agの銀粉末を用いた銀焼結体に比べて強度特性は向上するものの、銀粘土中に含まれるCuが変質し易いことから銀粘土の色調が劣化しやすいといった問題があった。詳述すると、スターリングシルバーからなる銀粘土においては、室温、大気雰囲気下で保管した場合、銀粘土を製出してから数日経過した時点で既に変色が認められ、表面のみでなくその内部にまでわたって変色することになる。さらに、銀粘土を焼結して銀粘土焼結体を作る場合、銀粘土を焼結することによって体積が収縮し、密度の高い焼結体を作ることができるが、銀粘土を銅を含む銀粉末で構成した場合、焼結時の体積収縮量が少なく密度が十分に高くならず、強度特性にすぐれた焼結体を作ることの障害になっていた。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、大気雰囲気下でも容易に変色せず、かつ、引張強度、曲げ強度、表面の硬さ(以下、機械的強度と総称することがある)や伸び等にすぐれ、しかも、高密度の銀銅合金焼結体を形成可能な焼結体形成用の粘土状組成物、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、銀銅合金焼結体の製造方法および銀銅合金焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが前記問題を解決するために鋭意検討したところ、銀粘土(銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物)を構成する銀粘土用粉末(銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末)に関し、銀含有粉末と、酸素含有銅粉末とを含有する粉末として構成するとともに、酸素含有銅粉末の中央部を純Cuとし、その表層部に酸化銅を形成することにより、銀粘土(銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物)の変色を抑制できることを見出した。
さらに、このような銀粘土を用いて銀銅合金焼結体を製造した場合、焼結時の体積収縮が大きく密度の高い銀銅合金焼結体が得られることを見出した。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、以下に示す構成を有するものである。
【0009】
「(1) 銀粉末と酸素含有銅粉末とを含有する粉末成分と、バインダーと、水とを含む銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物であって、前記酸素含有銅粉末は粒子の中央部に純Cuが存在し該純Cuの表層部に酸化銅が形成されているとともに、酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が0.7質量%以上80質量%以下の範囲とされており、また、酸化銅の合計は、酸素含有銅粉末全体に対して20質量%以上とされていることを特徴とする銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
(2) 前記酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が0.7質量%以上50質量%以下の範囲とされおり、酸素含有銅粉末全体に対する酸化銅中のCuOの割合が2質量%以上95質量%以下の範囲とされていることを特徴とする(1)に記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
(3) 前記酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が0.7質量%以上20質量%以下の範囲とされていることを特徴とする(1)に記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
(4) 前記CuOを酸素含有銅粉末全体に対して2質量%以上85質量%以下の範囲で含有していることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
(5) 前記CuOを酸素含有銅粉末全体に対して40質量%以上85質量%以下の範囲で含有していることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
(6) 前記酸素含有銅粉末の平均粒径が1μm以上25μm以下とされていることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
(7) (1)乃至(6)のいずれかに記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物に用いられる粘土状組成物用粉末であって、
前記粘土状組成物用粉末は、銀粉末と酸素含有銅粉末とを含み、前記酸素含有銅粉末は、粒子の中央部に純Cuが存在し該純Cuの表層部に酸化銅が形成されているとともに、酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が0.7質量%以上80質量%以下の範囲とされており、また、酸素含有銅粉末全体に対する酸化銅中のCuOの割合が2質量%以上95質量%以下の範囲とされており、酸化銅の合計は、酸素含有銅粉末全体に対して20質量%以上とされていることを特徴とする銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末。
(8) (7)の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末と、バインダー及び水を混合したバインダー剤とを混合して混練することを特徴とする銀銅合金焼結体用の粘土状組成物の製造方法。
(9) (1)乃至(6)のいずれかに記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を任意の形状に成形体とし該成形体を乾燥させた後に、還元雰囲気において、焼成を行うことにより、銀銅合金焼結体とすることを特徴とする銀銅合金焼結体の製造方法。
(10) 前記成形体を乾燥させた後に、大気雰囲気において480〜600℃の範囲の焼成温度で15分以上45分以下の時間で仮焼成を行った後、還元雰囲気において700〜820℃の範囲の焼成温度で、15分以上45分以下の時間で本焼成を行うことにより、銀銅合金焼結体とすることを特徴とする(9)に記載の銀銅合金焼結体の製造方法。
(11) 前記成形体を活性炭に埋め込んだ状態で本焼成を行うことを特徴とする(9)または(10)に記載の銀銅合金焼結体の製造方法。
(12) (9)乃至(11)のいずれかに記載の銀銅合金焼結体の製造方法を用いて製造された銀銅合金焼結体。」
に特徴を有するものである。
【0010】
本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物は、銀含有粉末と酸素含有銅粉末とを含有する粉末成分と、バインダーと、水とを含み、前記酸素含有銅粉末は粒子の中央部に純Cuが存在し該純Cuの表層部に酸化銅(CuO、CuO)が形成されていることを特徴としている。酸化銅は、純Cuに比べて化学的に安定していることから、大気雰囲気中において容易に変質(銅イオンの価数が変化)するおそれが少ない。このため、この銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の変色を抑制することができるのである。
【0011】
また、酸化銅中の酸素を利用することで、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物中のバインダーを燃焼させて除去することが可能となり、焼結を促進することができる。
【0012】
ここで、本発明における酸素含有銅粉末における純Cu、CuO、CuOの含有割合と前述した効果との関係について詳細に検討したところ、以下のような含有割合とした場合に前述した効果がより際だって発揮されることが確認された。
すなわち、酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が0.7質量%未満であると、焼結体を焼成した際の密度・強度が小さくなるため、密度・強度維持の観点から0.7質量%以上とすることが好ましい。一方、酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が80質量%を超えると純Cuの表面部のすべてを酸化銅で覆うことが出来ず、粘土状組成物の変色抑制効果が十分でないため、変色抑制効果の観点から80質量%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、50質量%以下とすることによって、純Cuの表面が十分に酸化銅で覆われるため、一層すぐれた変色抑制効果を発揮させることができる。
【0013】
また、酸素含有銅粉末全体に対する酸化銅中のCuOの割合が2質量%未満であると変色抑制効果が十分でないため、変色抑制効果の観点から2質量%以上とすることが好ましい。また、CuOは、CuOに比べて単位質量あたりの酸素の量が多いため、同じ酸素量を確保しようとした場合、CuOを増やした方が少ない質量で確保することが出来る。すなわち、軽量化の観点からは、CuOの量を増やした方が良く、40質量%以上とすることが好ましい。一方、95質量%を超えると、焼結体を焼成した際の体積収縮が少なくなり、焼結体の密度・強度が小さくなる。そのため、密度・強度維持の観点から95質量%以下とすることが好ましく、85質量%以下とすることが更に好ましい。
【0014】
また、変色抑制の観点から酸素含有銅粉末の粒子の中央部の純Cuの表層部は酸化銅(CuO、CuO)で覆われていることが好ましく、そのためには、酸素含有銅粉末全体に対する酸化銅(CuO、CuO)の含有割合を20質量%以上とすることが好ましい。
【0015】
また、銀含有粉末と酸素含有銅粉末の配合比は、銀含有粉末と酸素含有銅粉末の合量に占める酸素含有銅粉末の割合(質量比)が5〜20wt%とすることが好ましい。こうすることによって、例えば、質量比で銀が92.5%のスターリングシルバーと呼ばれる銀銅合金焼結体が得られ、銀粉末を用いた銀粘土を成形した後に焼成した銀焼結体に比べて、強度特性が向上する。
【0016】
前述のような配合比率で混合粉末を構成した場合、焼成後の焼結体の機械的強度を十分に向上させることができる。さらに、十分な伸び特性が奏されるとともに、銀銅合金焼結体が研磨後においても美麗な銀色を呈する。
【0017】
さらに、前述のような配合比率で混合粉末を構成した場合、酸化銅の酸素を利用することにより、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物に含まれるバインダーを燃焼させて除去することができる。
【0018】
さらに、本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物における酸素含有粉末の粒径は、粉末間の焼結性を支配する要因の一つである。本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物における酸素含有粉末の平均粒径は、1μm未満であると粒子の中央部に純銅を残して酸化することが難しく、高密度の焼結体が得られにくく、一方、25μmを超えると、焼結性が低く、高密度の焼結体を得ることが困難になる。したがって、酸素含有粉末の平均粒径は、1μm以上25μm以下の範囲であることが好ましい。
この場合、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を焼成して得られる銀銅合金焼結体の機械的強度及び伸び等を向上させることが可能となる。
【0019】
さらに、本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物は、必要に応じてさらに油脂および界面活性剤のうち少なくとも一方が添加されていても良い。
また、本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物は、前記バインダーを、セルロース系バインダー、ポリビニール系バインダー、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、樹脂系バインダー、澱粉、ゼラチン、小麦粉の内の、少なくとも1種又は2種以上の組み合わせで構成しても良い。また、前記の中でも、セルロース系バインダー、特に水溶性セルロースから構成することが最も好ましい。
前記界面活性剤の種類は特に限定されるものではなく、通常の界面活性剤を使用することができる。
前記油脂としては、例えば、有機酸(オレイン酸、ステアリン酸、フタル酸、パルミチン酸、セパシン酸、アセチルクエン酸、ヒドロキシ安息香酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、カプロン酸、エナント酸、酪酸、カプリン酸)、有機酸エステル(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ヘキシル基、ジメチル基、ジエチル基、イソプロピル基、イソブチル基を有する有機酸エステル)、高級アルコール(オクタノール、ノナノール、デカノール)、多価アルコール(グリセリン、アラビット、ソルビタン)、エーテル(ジオクチルエーテル、ジデシルエーテル)等を挙げることができる。
【0020】
本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末は、前述の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物に用いられる粘土状組成物用粉末であって、銀含有粉末と酸素含有銅粉末とを含み、前記酸素含有銅粉末は粒子の中央部に純Cuが存在し該純Cuの表層部に酸化銅が形成されていることを特徴とする。
さらに、本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末は、中央部に純Cuが存在し表層部に酸化銅が形成されている酸素含有銅粉末と銀含有粉末の合量に占める酸素含有銅粉末の割合(質量%)が5〜20wt%であることが変色抑制・強度特性・色調などの観点から好ましい。
また、本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末は、酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が焼結体の密度・強度維持の観点(下限)および粘土状組成物の変色抑制の観点(上限)から0.7質量%以上80質量%以下の範囲とされており、また、酸素含有銅粉末全体に対する酸化銅中のCuOの割合が変色抑制の観点(下限)および密度・強度維持の観点(上限)から2質量%以上95質量%以下の範囲とされており、酸化銅(CuO、CuO)の合計は、変色抑制の観点、すなわち、純Cuの表面部が酸化銅によって覆われるという条件から酸素含有銅粉末全体に対して20質量%以上とされていることが好ましい。
前記構成の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末によれば、前記の課題を克服した銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を構成することが可能となり、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の変色を確実に防止することが可能となる。
【0021】
本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法は、前述の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末と、バインダー及び水を混合したバインダー剤とを混合して混練することを特徴としている。
この構成の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法によれば、酸素含有銅粉末を有し、変色し難い銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を製造することが可能となる。
【0022】
本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を成形し乾燥させた後に、還元雰囲気において、焼成することによって、銀銅合金焼結体が得られることを特徴とする。
この構成の銀銅合金焼結体によれば、前述した構成の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を焼成したものであることから、純Ag粉末からなる銀粘土を焼成したものに比べて、機械的強度を向上させることができる。すなわち、前述の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を加熱焼成して得られた銀銅合金焼結体は、すぐれた機械的強度や伸び等を備えることになる。
【0023】
本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を用いた銀銅合金焼結体の製造方法は、前述の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を任意の形状に成形することで成形体とし、この成形体を乾燥させた後に、還元雰囲気において、焼成を行うことにより、銀銅合金焼結体とすることを特徴としている。
前記構成の銀銅合金焼結体の製造方法によれば、前述の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を成形した後、乾燥処理や加熱焼成処理を行うことにより、機械的強度や伸び等にすぐれた銀銅合金焼結体を製造することができる。
【0024】
また、本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を用いた銀焼結体の製造方法は、粘土状組成物を任意の形状に成形体とし該成形体を乾燥させた後に、還元雰囲気において、焼成を行うことにより、銀銅合金焼結体とすることを特徴としている。
【0025】
さらに、前記製造方法において、成形体を乾燥させた後に、大気圧雰囲気において480〜600℃の範囲の焼成温度で15分以上45分以下の時間で仮焼成を行った後、還元雰囲気において700〜820℃の範囲の焼成温度で、15分以上45分以下の時間で本焼成を行うことが好ましい。
【0026】
この構成の銀銅合金焼結体の製造方法によれば、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の成形体の焼成条件を、前述のように限定していることから、バインダーを完全に焼失させて焼結を確実に行うことができる。
【0027】
ここで、本発明の銀銅合金焼結体の製造方法においては、前述のように酸素含有銅粉末を含む銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を用いていることから、酸素含有銅粉末中の酸素を利用することにより、成形体の内部でバインダーを確実に燃焼させることが可能となる。
特に、酸素含有銅粉末として酸化銅(II)(CuO)を含む場合には、酸素の含有量が比較的多くなることから、焼結を促進することができる。
【0028】
また、本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を用いた銀銅合金焼結体の製造方法は、前記成形体を活性炭中に埋め込んだ状態で焼成を行うことを一実施態様としている。
この構成の銀銅合金焼結体の製造方法によれば、活性炭による還元により、成形体の焼結を促進することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物によれば、前記構成及び作用により、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の変色を抑制することができるとともに、成形後に加熱焼成して得られる銀銅合金焼結体の機械的強度や伸び等を向上させることが可能となる。
本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末によれば、前記構成及び作用により、この銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末を用いた焼結体形成用の粘土状組成物を構成することで、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の変色を抑制することができる。
本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法によれば、前述の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を確実に製造することが可能となる。
本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を用いた銀銅合金焼結体によれば、純Ag粉末からなる銀粘土を焼成したものに比べて、機械的強度を向上させることができる。
また、本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を用いた銀銅合金焼結体の製造方法によれば、前記構成の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を用いて成形した後、規定条件で乾燥処理や焼成を行うことにより、機械的強度や伸び等にすぐれた銀銅合金焼結体を製造することができる。また、焼成前後において体積収縮が大きく、密度が大きくなり、強度も大きくなるという本発明に特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法を示す概略図である。
【図2】本発明の銀銅合金焼結体の製造方法の一実施態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明に係る銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、銀銅合金焼結体の製造方法及び銀銅合金焼結体の一実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
なお、本実施形態では、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を銀粘土と、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末を銀粘土用粉末と称して説明する。
【0032】
[銀粘土用粉末]
本実施形態に係る銀粘土用粉末は、銀を含む銀含有粉末と、銅を含む酸素含有銅粉末を含むものである。
そして酸素含有銅粉末は粒子の中央部に純Cuが存在し、その純Cuの表層部には酸化銅(CuO、CuO)が形成されている。
このような銀粘土用粉末を用いて、後述する添加物を加えて混練して銀粘土を構成することにより、加熱焼成して得られた銀銅合金焼結体において、銀と銅が合金化することによって、機械的強度や伸び等が向上するとともに、純Cuの表層部が化学的に安定な酸化銅で覆われていることから銀粘土の変色を抑制できるといった効果が得られるものである。
【0033】
本実施形態に係る銀粘土用粉末においては、酸素含有銅粉末として純Cuの表層部に酸化銅(CuO、CuO)を形成した粉末を使用する。こうすることによって、前述したように、変色を抑制できるといった効果が得られるとともに、すべてを酸化銅粉末とした場合に比べ、焼結した際の体積収縮を大きくすることが出来、密度を大きくすることが出来る。その結果、機械的強度の向上が実現できる。また、銀含有粉末としては、Ag粉末、あるいは、Ag−Cu合金粉末等を適用することが可能である。
そして、酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの含有割合は0.7質量%以上80質量%以下の範囲であることが好ましく、また、0.7質量%以上50質量%以下の範囲であることが更に好ましく、また、0.7質量%以上20質量%以下であることがより一層好ましい。
また、酸素含有銅粉末全体に対して、CuOの割合は2質量%以上95質量%以下の範囲で含有し、酸化銅(CuO、CuO)の合計は、20質量%以上とされていることが好ましい。更に好ましくは、CuOの割合は40質量%以上85質量%以下の範囲で含有していることが望ましい。
ここで、Cuは、焼結中において銀銅合金焼結体のAgと合金化することにより強度向上効果を有する元素である。また、前述のスターリングシルバーとよばれる銀銅合金と同組成の銀銅合金焼結体を得るためには、銀含有粉末と酸素含有銅粉末との混合比率を質量比で9:1とする。こうして得られた銀粘土を焼成して得られる銀銅合金焼成体は、機械的強度が銀焼結体に比べ格段に優れており伸び特性にも優れている。また、前述したような銀粘土を用いて銀銅合金焼結体を製造した場合、銀粘土を成形して得られる成形体を焼成する過程で、成形体が大きく体積収縮するため、密度の高い焼結体が得られ、機械的強度が向上する。
すなわち、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物中に含有される純Cu、CuO、CuO量が前記範囲となるように、銀を含む銀含有粉末の成分、酸素含有銅粉末の成分を考慮し、これら銀含有粉末と酸素含有銅粉末との混合比率を調整して、銀粘土を構成することが好ましい。
【0034】
なお、本実施形態では、酸素含有銅粉末として純Cu、CuO、CuO粉を使用し、銀含有粉末としてAg粉を使用した。そして、酸素含有銅粉末全体に対してCuO粉を2質量%以上95質量%以下の範囲で含有し、残部がCuOと純Cuと不可避不純物とし、この酸素含有銅粉末に対して質量比で9倍の銀含有粉末を混合して銀粘土用粉末とした。
酸素含有銅粉末は、球状の純Cuを大気雰囲気下で後述するような所定温度、所定時間で熱処理することによって得ることが出来る。
以下、本実施形態に係る銀粘土用粉末に含有される、Ag粉および酸素含有銅粉末の粒径について説明する。
本実施形態においては、Ag粉および酸素含有銅酸化物の粒径については、特に限定されるものではないが、添加物としてのバインダー剤を加えて混練することで銀粘土とした場合の、成形性等の諸特性を考慮し、以下に示す範囲の粒径とすることが好適である。
【0035】
Ag粉の平均粒径は、25μm以下であることが好ましい。Ag粉の平均粒径をこの範囲とすることにより、銀粘土を焼成して得られる銀銅合金焼結体の色調が良好となり、また、前述したような、銀銅合金焼結体の機械的強度及び伸び等を向上させる効果が安定して得られる。
Ag粉の平均粒径が25μmを超えると、銀銅合金焼結体の色調が劣化したり、機械的強度を向上させる効果が小さくなったりするおそれがある。また、Ag粉の平均粒径が25μmを超えると、粉末の焼結性が低下することから、長時間にわたる焼成時間を要してしまうとともに、銀銅合金焼結体の加工性に悪影響を及ぼす可能性があり、好ましくない。
なお、平均粒径の下限については特に定めないが、Ag粉の平均粒径を1μm以下とすることは工業生産的にコスト高となるおそれがあり、また、装置の限界等も考慮し、これを下限とすることが好ましい。
また、同様の観点から、Ag粉の平均粒径は、1μm以上20μm以下の範囲であることがより好ましく、3μm以上10μm以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0036】
酸素含有銅粉末の平均粒径は、25μm以下であることが好ましい。CuO粉の平均粒径をこの範囲とすることにより、前述したような、銀銅合金焼結体の機械的強度及び伸び等を向上させる効果が安定して得られる。
酸素含有銅粉末の平均粒径が25μmを超えると、銀銅合金焼結体の機械的強度を向上させる効果が得られ難くなるおそれがある。また、酸素含有銅粉末の平均粒径が25μmを超えると、前記Ag粉の場合と同様、粉末の焼結性が低下することから、長時間にわたる焼成時間を要してしまうとともに、銀銅合金焼結体の加工性に悪影響を及ぼす可能性があり、好ましくない。
なお、前記Ag粉と同様、平均粒径の下限は特に定めないが、装置の限界や工業生産的なコストの観点から、酸素含有銅粉末の平均粒径は1μmを下限とすることが好ましい。
また、同様の観点から、酸素含有銅粉末の平均粒径は、1μm以上20μm以下の範囲であることがより好ましく、3μm以上10μm以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0037】
さらに、本実施形態においては、銀粘土用粉末を構成するAg粉および酸素含有銅粉末の平均粒径を、前記の如く所定粒径以下に制限することにより、銀粘土の成形体を焼成する際の焼結性が高められるので、後述の焼成における処理温度を低温にすることが可能となる。
【0038】
なお、前述のような粉末の平均粒径を測定する方法としては、例えば、公知のマイクロトラック法を用いることができる。また、本実施形態では、d50(メジアン径)を平均粒径とした。
【0039】
[銀粘土]
次に、本実施形態の銀粘土について説明する。
本実施形態に係る銀粘土は、前記構成の銀粘土用粉末と、バインダー(本実施形態では有機バインダー)と、水とを含む。
例えば、本実施形態に係る銀粘土は、前記構成の銀粘土用粉末を70質量%以上95質量%以下の範囲で含有し、さらに、有機バインダーと水とを含むバインダー剤を5質量%以上30質量%以下の範囲で含有するものである。ここで、バインダー剤には、有機バインダーおよび水の他に、必要に応じて界面活性剤や油脂が添加されていてもよい。
この銀粘土は、化学的に安定な酸素含有銅粉末と、Ag粉とを含有した粉末成分を含む銀粘土であることから、大気雰囲気下において変色が抑制されることになる。
【0040】
本実施形態に係る銀粘土に用いられる有機バインダーとしては、特に限定されず、銀粘土用粉末をつなぎとめて粘土状組成物とできる有機物が利用できる。例えば、セルロース系バインダー、ポリビニール系バインダー、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、樹脂系バインダー、澱粉、ゼラチン、小麦粉の内の、少なくとも1種又は2種以上の組み合わせで構成して用いることが好ましい。また、前記の中でも、セルロース系バインダー、特に水溶性セルロースを用いることが最も好ましい。
前記界面活性剤は特に限定されるものではなく、通常の界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコール等)を使用することができる。
【0041】
また、油脂の種類としても、特に限定されないが、例えば、有機酸(オレイン酸、ステアリン酸、フタル酸、パルミチン酸、セパシン酸、アセチルクエン酸、ヒドロキシ安息香酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、カプロン酸、エナント酸、酪酸、カプリン酸)、有機酸エステル(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ヘキシル基、ジメチル基、ジエチル基、イソプロピル基、イソブチル基を有する有機酸エステル)、高級アルコール(オクタノール、ノナノール、デカノール)、多価アルコール(グリセリン、アラビット、ソルビタン)、エーテル(ジオクチルエーテル、ジデシルエーテル)等を挙げることができる。
【0042】
以下に、前述した本実施形態に係る銀粘土を製造する方法の一例について、図1に示す模式図を参照しながら説明する。
本実施形態に係る銀粘土5の製造方法は、前記の銀粘土用粉末1を70質量%以上95質量%以下、有機バインダーと水とを含むバインダー剤2を5質量%以上30質量%以下として混練する方法である。
【0043】
本実施形態で説明する銀粘土5の製造方法では、まず、純Cuを大気雰囲気中で300〜500℃の温度で1〜12時間熱処理する。純Cuを300℃1時間の条件で熱処理すると、純Cuの表面が酸化されてCuOになる。生成されるCuOの量は、酸素含有銅粉末全体に対して質量にして24.9%である(実施例1)。また、300℃1時間の熱処理に続いて340℃1時間の熱処理を行うと、更に酸化が進んで、酸素含有銅粉末全体に対して質量にして48.2%のCuOと2.0%のCuOが生成される(実施例2)。同様にして表1に示すように、熱処理温度と熱処理時間を変えて、各種の酸素含有粉末を製造した(実施例3〜5)。
また、比較のために、純Cuを大気雰囲気中で300℃1時間→340℃3時間→500℃12時間の条件で熱処理したものを作成した。この場合、酸素含有銅粉末全体に対して質量にして、4.9%のCuOと95.1%のCuOが生成された(比較例1)。前述した実施例1〜5および比較例1の粉末の平均粒径は、いずれもマイクロトラック法で計測して5μmであった。
次に、粒径が銀銅合金焼結体の機械的特性などに与える影響を調べるため、比較のために粒径0.5μmの純Cuを300℃1時間の条件で熱処理したものを作成した。この場合、酸素含有銅粉末全体に対して質量にして1.7%のCuOと98.3%のCuOが生成される(比較例2)。また、粒径100μmの純Cuを300℃1時間→340℃3時間→500℃3時間の条件で熱処理したものを作成した。この場合、酸素含有銅粉末全体に対して質量にして20.8%のCuが残存し、39.5%のCuOと39.7%のCuOが生成される(比較例3)。さらに、粒径5μmの純Cuを300℃1時間→340℃3時間→500℃6時間の条件で熱処理したものを製造した。この場合、酸素含有銅粉末全体に対して質量にして、16.3%のCuOと83.7%のCuOが生成される(比較例4)。
【0044】
次に、図1に示すように、Ag粉末1A、酸素含有銅粉末1Bの各々を、規定分量で混合装置50の中に導入する。この際、例えば、Ag粉末1A(平均粒径5μm:マイクロトラック法;アトマイズ粉)を90.0質量%、酸素含有銅粉末1B(平均粒径5μm:マイクロトラック法)を10.0質量%として導入する。
そして、混合装置50内で、前記各材料粉末を混合することにより、銀粘土用粉末1が得られる。
【0045】
次いで、図1に示すように、混合装置50内の銀粘土用粉末1に対して、バインダー剤2を添加する。この際、例えば、バインダー剤2の添加量を、{銀粘土用粉末1の総重量:バインダー剤2=9:1}程度とすることができる。
ここで、バインダー剤2は、有機バインダーを11質量%以上17質量%以下、油脂を5質量%以下、界面活性剤を2質量%以下、残部を水とした配合で混合したものとされている。
そして、混合装置50内において、銀粘土用粉末1とバインダー剤2と混合して混練することにより、銀粘土5が得られる。
【0046】
[銀銅合金焼結体]
本実施形態に係る銀銅合金焼結体は、前記構成の銀粘土5を任意の形状に造形、成形した後、後述の条件で焼成することによって得られるものである。
この銀銅合金焼結体は、すぐれた機械的強度を有しているので、例えば、大きな外力が加えられた場合であっても、割れや破断が生じたりするのを抑制することが可能となる。また、本実施形態に係る銀銅合金焼結体は、すぐれた機械的強度とともに高い伸びを有しているので、例えば、焼成後の銀銅合金焼結体に対して曲げを伴う追加加工を施した場合でも、亀裂や破断等が生じるのを抑制することが可能となる。
【0047】
以下に、前述したような本実施形態に係る銀銅合金焼結体を製造する方法の一例について、図2(a)〜(d)の模式図を参照しながら説明する。
本実施形態に係る銀銅合金焼結体10の製造方法は、前記構成の銀粘土5を任意の形状に成形することで成形体51とし、次いで、この成形体51を、例えば、室温〜150℃の温度で、30分〜24時間で乾燥処理し、次いで、必要に応じて、大気雰囲気において480〜600℃の範囲の仮焼成を行った後、成形体51を、還元雰囲気において、720〜820℃の温度で、15〜45分の時間で焼成を行うことによって銀銅合金焼結体10とする方法である。ここで、前記焼成を行う方法としては、例えば、乾燥処理した成形体51を活性炭中に埋め込んだ状態とした後、720〜820℃の温度で、15〜45分の時間で、還元雰囲気において焼成を行う方法を採用することができる。
【0048】
まず、図2(a)に示すように、銀粘土5を、例えば、スタンパやプレス成形、押出成形等による機械加工、あるいは、作業者の手加工等により、任意の形状に造形、成形して成形体51とする。
次いで、図2(b)に示すように、電気炉80に成形体51を投入して乾燥処理を行うことにより、水分等を除去する。
この際の乾燥温度としては、効果的に乾燥処理を行う観点から、例えば、室温あるいは80℃程度の温度から150℃までの範囲の温度とすることが好ましい。また、同様の観点から、乾燥処理を行う時間は、例えば、30〜720分、より好ましくは30〜90分の範囲の時間とし、一例として、乾燥温度:100℃程度で、乾燥時間:60分程度とした条件で乾燥処理を行うことができる。
【0049】
次いで、図2(c)に示すように、成形体51に対して焼成を施すことにより、銀銅合金焼結体10とする。このとき、銀粘土用粉末に含まれる酸化銅の酸素を利用することで、銀粘土に含まれる有機バインダーが燃焼することになり、この有機バインダーを除去することが可能となる。
ここで、「酸化銅の酸素を利用する」とは、CuOまたはCuOが焼成中に熱分解することにより酸素を放出し、この酸素が有機バインダーの燃焼に寄与することを示す。
また、本実施形態においては、図示例のような装置を用いることにより、成形体51に対して焼成を施すことで銀銅合金焼結体10を製造する方法を採用することができる。
【0050】
この際、まず、成形体51を、陶器製の焼成容器60中に充填された活性炭61中に埋め込む。この際、成形体51を完全に埋め込むことと、活性炭が燃焼した場合に成形体51が外部に露出するのを防止するため、焼成容器60中の活性炭61の表面から成形体51までの距離を10mm以上確保することが好ましい。
そして、内部において成形体51が活性炭61中に埋め込まれた状態の焼成容器60を電気炉80に投入し、前述したように、720〜820℃の範囲の温度で、15〜45分の時間で加熱することで、焼成を行う。
【0051】
そして、例えば、図2(d)に示すように、焼成によって得られた銀銅合金焼結体10に対し、必要に応じて、表面研磨や装飾処理等、後加工を施して製品とすることができる。
【0052】
なお、図2(a)〜(d)に示す例においては、図示並びに説明の都合上、銀粘土5を成形して得られる成形体51及び銀銅合金焼結体10を略ブロック状に形成しているが、美術性を兼ね備えた種々の形状とすることができることは言うまでも無い。
また、本実施形態においては、乾燥処理や焼成の各工程において、電気炉を用いる例を説明しているが、これに限定されるものではなく、例えば、ガス加熱装置等、安定した加熱条件管理が可能なものであれば、何ら制限無く採用することができる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態である銀粘土用粉末1によれば、前記構成及び作用により、この銀粘土用粉末1を用いた銀粘土5を構成することで、成形後に乾燥処理を行ってから、加熱焼成して得られる銀焼結体10の機械的強度や伸び等を向上させることが可能となる。さらに、銀粘土5に含まれる純Cuの表面が酸化銅に覆われているため、大気雰囲気下においてCuが容易に変質することがなく、銀粘土5の変色を抑制することができる。
また、本実施形態である銀粘土5によれば、前記構成の銀粘土用粉末1を用いて混練して得られるものであることから、前記同様、成形後に加熱焼成して得られる銀銅合金焼結体10の機械的強度や伸び等を向上させることができる。さらに、Cuを酸化銅(CuO、CuO)によって表面を覆った状態で銀粘土5中に含んでいるので、銀粘土5の変色を抑制することができる。
さらに、本実施形態である銀銅合金焼結体10の製造方法によれば、前記構成の銀粘土5を用いて成形した後、規定条件で乾燥処理や焼成を行うことにより、機械的強度や伸び等にすぐれた銀銅合金焼結体10を製造することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、Ag粉と酸素含有銅粉末とからなる銀粘土用粉末として説明したが、これに限定されることはなく、Ag−Cu合金粉末等と、酸素含有銅粉末とを含む銀粘土用粉末としてもよい。あるいは、Ag粉末と酸素含有銅粉末の他にCu粉末やAg−Cu合金粉末を加えたものであってもよい。この場合、Ag粉末に加えるCu粉末、Ag−Cu合金粉末に含まれる金属Cuの含有量は、銀粘土用粉末全体に対して2質量%以下とすることが好ましい。これにより、銀粘土の変色を確実に抑制することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を示して、本発明の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物の製造方法、銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を用いた銀銅合金焼結体および銀銅合金焼結体の製造方法について更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものでは無い。
【0056】
まず、以下の手順で銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末(以下、銀粘土用粉末と称す)を作製した。銀粘土用粉末の作製にあたっては、純Cu粉末(平均粒径5μm:マイクロトラック法)を大気雰囲気中で表1に示すような熱処理温度と熱処理時間を用いて熱処理を行った。出来上がった酸素含有銅粉末の粒子の断面をEPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて観察したところ、純Cuの表面に酸化銅(CuO、CuO)が形成されているのが確認された。また、各酸素含有銅粉末についてXRD(X線回折)を用いてCu、CuO、CuOの割合を算出した。算出方法は、Cu、CuOについて、あらかじめ検量線を作っておき、各サンプルのピーク強度と比較して算出した。CuOについては、Cu、CuOを引いた残部として求めた。その結果を同じく表1に示す。
【0057】
次に、Ag粉末(平均粒径5μm:マイクロトラック法;アトマイズ粉)と、前述した酸素含有銅粉末とを、質量比で9:1の割合で混ぜて、実施例1〜5の銀粘土用粉末を得た。比較のために表1に示すように熱処理条件を変えて、酸素含有銅粉末中のCu、CuO、CuOの割合が、本発明の条件に含まれないもの(比較例1、4)、粒径を変えたもの(比較例2、3)、純Cu粉を熱処理せずに用いるもの(従来例)についても、前記と同様にAg粉末と混ぜて銀粘土粉末を得た。
【0058】
次に、有機バインダー、水、界面活性剤および油脂を混合してバインダー剤とする。そして、前記手順で得られた銀粘土用粉末を混合装置内に残した状態で、バインダー剤を添加して混練することによって銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物(以下、銀粘土と称す)を作製した。
【0059】
ここで、バインダー剤は、有機バインダーとしてメチルセルロースを15質量%、油脂として有機酸の一種であるオリーブ油を3質量%、界面活性剤としてポリエチレングリコールを1質量%、残部が水となる配合とした。
そして、銀粘土用粉末を85質量%、前述のバインダー剤を15質量%として混練し、銀粘土とした。
【0060】
次に、前記手順で得られた銀粘土を成形することにより、直径約1.2mmで長さ約50mmの寸法(焼成前)を有するワイヤー状成形体、並びに、長さ約30mm、幅約3mm、厚さ約3mmの寸法(焼成前)を有する角柱状成形体を作製した。
次いで、図2(b)に示すように、前記ワイヤー状成形体および角柱状成形体の各成形体51を発明例毎に同時に電気炉(Orton:evenheat kiln inc.)80に投入し、乾燥温度を100℃とし、乾燥時間を60分とした条件で乾燥処理を行うことにより、前記各成形体51に含まれる水分等を除去した。
なお、図2においては、成形体51として1個の角柱状成形体のみを図示しており、ワイヤー状成形体の図示は省略している。
【0061】
ここで、本発明例1〜5、比較例1〜4、従来例のすべてのサンプルについて、電気炉80を用いて、大気雰囲気中において540℃の温度で30分間の仮焼工程を行うことにより、脱バインダー処理を行った。
【0062】
次いで、各成形体51に対してサンプル毎に活性炭還元雰囲気で760℃の温度で焼成を施すことにより、銀銅合金焼結体を作製した。
具体的には、図2(c)に示すように、内部に活性炭61が充填された陶器製の焼成容器60を用意し、各成形体51を活性炭61中に埋め込んだ。この際、活性炭61の表面から各成形体51までの距離を約10mmとした。
そして、各成形体51が活性炭61中に埋め込まれた状態の焼成容器60を電気炉80に投入し、全てのサンプル共通で加熱温度:760℃、加熱時間:30分として本焼成を行うことにより、ワイヤー状および角柱状の銀銅合金焼結体10を作製した。
【0063】
[評価方法]
作製した銀粘土及び銀銅合金焼結体について、以下のような評価試験を行った。
まず、銀粘土の変色については、所定量(10g)の銀粘土を採取し、この銀粘土を透明なポリエチレンフィルムで包んだ板材で挟み、厚さ3mmとなるように押し潰した。そして、室温、大気雰囲気下で保管して変色の有無を目視によって観察して評価した。
【0064】
銀銅合金焼結体の機械的特性として、以下の試験方法によって、横方向収縮、長さ方向収縮、高さ方向収縮、体積収縮、密度を測定した。
【0065】
横方向収縮、長さ方向収縮、高さ方向収縮に関しては、サンプルの焼成前の横方向長さ、長さ方向長さ、高さ方向長さを測定し、焼成後の横方向長さ、長さ方向長さ、高さ方向長さを測定し、それらをそれぞれ比較することにより求めた。
【0066】
体積収縮については、焼成前のサンプルの体積を計測し、焼成後の体積を測定し、それらをそれぞれ比較することにより求めた。
【0067】
また、密度は、チョウバランス社製自動比重測定装置「アルキメデス(駆動部SA301、データ処理部SA601)」によって測定した。
【0068】
表1に、本発明例1〜5、従来例、比較例1〜4の平均粒径、熱処理条件、評価結果の一覧を示す。
【0069】
【表1】

【0070】
[評価結果]
表1に示すように、本発明例1〜5の銀粘土は、室温、大気雰囲気下で保管した場合であっても、純銅を銀粘土中に混合した従来例とは異なり、銀粘土の通常の保管期間の間、変色は認められなかった。
【0071】
また、本発明例1〜5の銀粘土を成形、焼成した銀銅合金焼結体においては、体積収縮が大きいため密度が高く、機械的強度がすぐれていることが明らかである。
また、機械的強度の指標となる密度も、純Agを用いた銀焼結体(8.6g/cm)と同等またはそれ以上の値を示すことが明らかとなった。
【0072】
また、酸化銅の含有割合が酸素含有銅粉末に対して20質量%以上とされた本発明例1〜5については、十分な強度の銀銅合金焼結体が得られることが確認された。これは、本焼成工程において、酸化銅中の酸素によって有機バインダーが燃焼して除去されるためであると推測される。
さらに、本発明の実施例のうち、本焼成後の密度が最も低かった実施例5について焼結体中の酸素濃度を高周波炉加熱−赤外線吸収法で測定した。その結果、860ppmであり、酸化銅が十分に還元していることが裏付けられた。実施例5よりも密度の高い実施例1〜5に関しては、酸素濃度の計測は行っていないが、実施例5以上に酸化銅が還元していることは明らかである。
【0073】
前述のように、本発明例の銀銅合金焼結体は、銀粘土の状態では、銀粘土中の銅粉末は、表面が酸化銅で覆われており変色抑制効果を奏するとともに、焼成過程では、酸化銅が完全に還元し、焼結体となった状態では、ほとんど酸素が含まれていない銀銅合金焼結体が形成され、高密度で機械的強度が高い銀銅合金焼結体が得られることが確認できた。
すなわち、本発明の銀銅合金焼結体用の粘土状組成物は、焼成前の保管時に高い変色抑制効果を奏するとともに、焼成時に酸化銅が完全に還元することにより、高密度で機械的強度にすぐれた焼結体が得られるという効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0074】
1 銀粘土用粉末(銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末)
1A Ag粉末
1B 酸素含有銅粉末
5 銀粘土(銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物)
51 成形体
10 銀銅合金焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀含有粉末と酸素含有銅粉末とを含有する粉末成分と、バインダーと、水とを含む銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物であって、前記酸素含有銅粉末は粒子の中央部に純Cuが存在し該純Cuの表層部に酸化銅が形成されているとともに、酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が0.7質量%以上80質量%以下の範囲とされており、また、酸化銅の合計は、酸素含有銅粉末全体に対して20質量%以上とされていることを特徴とする銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項2】
前記酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が0.7質量%以上50質量%以下の範囲とされており、また、酸素含有銅粉末全体に対する酸化銅中のCuOの割合が2質量%以上95質量%以下の範囲とされていることを特徴とする請求項1に記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項3】
前記酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が0.7質量%以上20質量%以下の範囲とされていることを特徴とする請求項1に記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項4】
前記CuOを酸素含有銅粉末全体に対して2質量%以上85質量%以下の範囲で含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項5】
前記CuOを酸素含有銅粉末全体に対して40質量%以上85質量%以下の範囲で含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項6】
前記酸素含有銅粉末の平均粒径が1μm以上25μm以下とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物に用いられる粘土状組成物用粉末であって、
前記粘土状組成物用粉末は、銀含有粉末と酸素含有銅粉末とを含み、前記酸素含有銅粉末は、粒子の中央部に純Cuが存在し該純Cuの表層部に酸化銅が形成されているとともに、酸素含有銅粉末全体に対する純Cuの割合が0.7質量%以上80質量%以下の範囲とされており、また、酸素含有銅粉末全体に対する酸化銅中のCuOの割合が2質量%以上95質量%以下の範囲とされており、酸化銅の合計は、酸素含有銅粉末全体に対して20質量%以上とされていることを特徴とする銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末。
【請求項8】
請求項7の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物用粉末と、バインダー及び水を混合したバインダー剤とを混合して混練することを特徴とする銀銅合金焼結体用の粘土状組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の銀銅合金焼結体形成用の粘土状組成物を任意の形状に成形体とし該成形体を乾燥させた後に、還元雰囲気において、焼成を行うことにより、銀銅合金焼結体とすることを特徴とする銀銅合金焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記成形体を乾燥させた後に、大気雰囲気において480〜600℃の範囲の焼成温度で15分以上45分以下の時間で仮焼成を行った後、還元雰囲気において700〜820℃の範囲の焼成温度で、15分以上45分以下の時間で本焼成を行うことにより、銀銅合金焼結体とすることを特徴とする請求項9に記載の銀銅合金焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記成形体を活性炭に埋め込んだ状態で本焼成を行うことを特徴とする請求項9または請求項10に記載の銀銅合金焼結体の製造方法。
【請求項12】
請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の銀銅合金焼結体の製造方法を用いて製造した銀銅合金焼結体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−49875(P2013−49875A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186777(P2011−186777)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】