説明

銅包含物を含む超伝導エレメント及び複合材料及びその製造方法

【課題】改良された、すなわち、臨界電流密度jcが高い超伝導エレメントをブロンズ・ルートによって製造できる複合材料を提供する。
【解決手段】本発明は、Cu-Snブロンズ・マトリックス(2)と該ブロンズ・マトリックス(2)によって囲まれたフィラメント(3)とを含み、該フィラメント(3)がニオブ(= Nb)又はNb合金を含む複合材料(1)において、該フィラメント(3)が該Nb又はNb合金内に分布している0.3から20体積%の銅(= Cu)サブ構造(4)を含むことを特徴とする複合材料(1)に関する。この複合材料を用いて、ブロンズ・ルートによって、改善された臨界電流密度を有する超伝導エレメントを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu-Snブロンズ・マトリックス及びこのブロンズ・マトリックスによって囲まれるフィラメントとを含み、このフィラメントがニオブ(= Nb)又はNb合金を含む複合材料に関する。本発明は、また、超伝導エレメントを製造する方法に関する。本発明は、さらに、ブロンズ拡散プロセスに基づくブロンズ・ルートによって製造され、Nb3Snを含むフィラメントを有する超伝導エレメント、特にマルチフィラメント線に関する。
【背景技術】
【0002】
このような複合材料、超伝導エレメント、及びその製造方法は、例えば非特許文献1に記載されており、そこには、Nb3Snのブロンズ・ルートが記載されている。
【0003】
Nb3Snは少数の商業的に重要な超伝導物質の一つである。これは、特に高磁場コイル系の製造に用いられる。
【0004】
Nb3Snを製造するためには、基本的に3つの方法、すなわち、管内粉末(= PIT)プロセス、内部Sn拡散(= ISD)法、及びブロンズ・ルートである。ブロンズ・ルートは磁場コイル系の製造で特に重要である。
【0005】
ブロンズ・ルートの基本的な考え方は、Nbを含むフィラメントをCu-Snブロンズ・マトリックスに導入するということである。通常、いくつかの(再)結束及び延伸ステップが用いられる。この複合材料の通常600から730℃での最終焼鈍の間、ブロンズ・マトリックスからのSnがNbを含むフィラメントの中に拡散してNb3Snを形成する。Nbを含むフィラメントは大部分熔解する。
【0006】
ブロンズ・ルートで作られるNb3Sn線は、PIT又はISDによって作られるNb3Sn材料に比べて、所定の(約4Kの)温度値及び超伝導磁石コイル系に関連する(約15 Tという)磁場強度で臨界電流密度jcが比較的低い。このことは、ブロンズ・ルートで得られる最大磁場強度が比較的低いということを意味する。
【非特許文献1】V. Abacherliら, ASC 2004, Jacksonville (FL), Paper 4MR04
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、改良された、すなわち、臨界電流密度jcが高い超伝導エレメントをブロンズ・ルートによって製造できる複合材料を提供することにある。さらに、本発明の目的は、そのような超伝導エレメントの対応する製造方法を提供することにあり、そのような超伝導エレメント自体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
複合材料に関して、この目的は本発明によれば、最初に紹介したような複合材料であって、フィラメントがで0.3%から20体積%の銅(= Cu)サブ構造を有し、それらがNb又はNb合金内に分布していることを特徴とする複合材料によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合材料は、本発明によれば、超伝導エレメントを製造するために使用することを意図している。Nbを含むフィラメントにCuサブ構造を導入することによって、NbがNb3Snになる固体反応中にCuがNb3Sn材料の粒界に蓄積する可能性がある。高過ぎない濃度で、CuはNb3Sn材料の臨界電流密度jcにプラスの効果を及ぼす。この効果は粒界におけるピン止め力が高くなることによる。現在の技術で知られているようなブロンズ・ルートでは、唯一のCu源はNbを含むフィラメントを囲むブロンズ・マトリックスである。Nbを含むフィラメントの表面にNb3Snの小さな層が形成されると、CuはNb3Snに実質的に不溶であり、フィラメント内部の深いところに形成されるNb3Snには到達しなくなる。これによって、現在の技術で知られているようにブロンズ・ルートによる材料におけるjc値が制限される。本発明では、CuはNb3Snが形成される前にNbフィラメント内部に導入され分布する。このことは、形成されるNb3Sn内のCuの量を直接制御することができるということを意味し、焼鈍中にフィラメントで新しく形成される拡散バリアはCu含有量に無関係になる。その結果、本発明の複合材料は、ブロンズ・ルートによってこの複合材料から作られるNb3Sn超伝導エレメントの内部で所望するCu含有量を選ぶことが可能であり、超伝導エレメントの臨界電流密度jcを最適化することができる。
【0010】
本発明の複合材料の有利な実施の形態では、フィラメントは10体積%未満のCuサブ構造、特に約1体積%のCuサブ構造を含む。この場合、複合材料から製造される超伝導エレメントは超伝導物質の高い体積比率を実現できる。Cu含有量が大きすぎると、超伝導相の体積比率がかなり低下し、得られる超伝導エレメントの効果が低下する。
【0011】
別の好ましい実施の形態では、Cuサブ構造は元素の銅を含み、特にCuサブ構造は少なくとも98体積%の純度、好ましくは少なくとも99.8体積%の純度の元素の銅を含む。Cuの純度が高いと、Cuを含む動きにくい金属間化合物ができにくくなるので、CuはNb3Snの粒界に到達し易くなる。
【0012】
本発明の複合材料の別の好ましい実施の形態では、フィラメントは少なくとも70体積%のNb又はNb合金、特に少なくとも90体積%のNb又はNb合金、好ましくは約98体積%のNb又はNb合金を含む。本発明によれば、フィラメントは金属Nb及び/又はあるNb合金及び/又はいくつかのNb合金を含むことができるということに注意されたい。
【0013】
特に好ましい実施の形態では、フィラメントは直接にブロンズ・マトリックスに埋め込まれる。これによってSnの拡散経路が短く保たれる。
【0014】
本発明の複合材料の別の実施の形態では、フィラメント又はフィラメントのグループは銅の殻内に、又はフィラメントの各グループ毎に銅の殻に収容され、銅の殻(単数又は複数)がブロンズ・マトリックス内に位置する。
【0015】
有利な実施の形態では、Cuサブ構造はNb又はNb合金内に均等に分布する、特にCuサブ構造はNb又はNb合金の粉末粒子内に分布する粉末粒子である。これによってNbを含むフィラメント内でのCuの均等な分布が可能になる。
【0016】
あるいはまた、きわめて好ましい実施の形態では、Cuサブ構造はCuスレッド(thread)を含む。Cuスレッドは、Nbを含むロッドと混合されたCuロッドの延伸などの標準的な手順によってフィラメントに導入することができる。好ましくは、断面で、Cuスレッドはフィラメント全体にわたって均等に分布する。さらに、Cuスレッドは互いに平行であることが好ましい。
【0017】
上記実施の形態の別の発展例では、Cuスレッドの直径は1から200 nmの間にあり、好ましくは5から100 nmの間、最も好ましくは約20から50 nmの間にある。このようなサイズでは、拡散プロセスが速やかに完了する。
【0018】
本発明の複合材料のやはり好ましい実施の形態は、フィラメントの直径が1から10μmの間、特に2から6μmの間、好ましくは約5μmであることを特徴とする。やはり、このようなサイズでは、拡散プロセスが速やかに完了する。
【0019】
本発明の複合材料の特に好ましい実施の形態は、フィラメントを含むNb又はNb合金が細長い中空パイプの形を有し、特に2から15μmという内径サイズ及び6から25μmという外径サイズを有し、中空パイプの内側表面は内側ブロンズ・コアと密接し、中空パイプの外側表面はまわりのブロンズ・マトリックスと密接していることを特徴とする。これによって拡散経路が短くなり、利用できるNbの完全な反応が容易になり加速される。
【0020】
この実施の形態の別の発展例では、内側ブロンズ・コアはTa又はTa合金のコアを含む。Taは、生成されるNb3Sn相のBc2値を増加させる。
【0021】
本発明の複合材料のある好ましい実施の形態では、Cu-Snブロンズは15から24重量%の間のSnを含む。高いSn含有量はSn拡散を加速する。
【0022】
本発明の範囲には、上述のような本発明の複合材料から出発して超伝導エレメント、特にマルチフィラメント線を製造する方法も含まれ、この方法では、
最初のステップで、複合材料が300から750℃までの間の温度で押し出され、
続く冷間又は熱間加工及び焼鈍ステップで、複合材料は温度処理によってフィラメントと平行に延伸されて軟化され、
続く積層ステップで、先行する冷間又は熱間加工ステップからの多数の延伸された複合材料が束ねられ、
押出し、延伸、焼鈍、及び積層の各ステップが一回以上繰り返され、
続いて、中間焼鈍プロセスを含む最終延伸プロセスで、複合材料は最終の長さに延伸され、固体拡散反応を含む熱処理によって超伝導相が得られる。
【0023】
このように、本発明の複合材料をブロンズ・ルートに基づく方法で用いて、Nb3Snの超伝導エレメントを所望のCu含有量で製造し、最適な、すなわち、最大の臨界電流密度を達成することができる。
【0024】
本発明の方法のある変形例では、冷間又は熱間加工ステップの少なくとも一部に先行して520から750℃での中間焼鈍及び30秒以内の100℃以下の温度への急速冷却(=「急速中間焼き入れ」)が行われる。焼鈍温度は通常のCu-Sn再結晶温度よりも高い。急速中間焼き入れによって、超伝導エレメントの高い臨界温度Tcと高い上方臨界磁場強度Bc2が得られる。
【0025】
本発明の方法の別の変形例では、変形ステップの少なくとも一部は、520から750℃までの間の温度領域での等温的な熱間圧延によって行われる。やはり、この温度はCu-Snブロンズ・マトリックスの再結晶温度よりも高い。このやり方でも、超伝導エレメントの高い臨界温度Tcと高い上方臨界磁場強度Bc2が得られる。
【0026】
さらに、ブロンズ拡散プロセスに基づくブロンズ・ルートによって製造されるNb3Snを含み、フィラメントが0.3から30体積%の銅(= Cu)を含むことを特徴とする超伝導エレメント、特にマルチフィラメント線も本発明の範囲内にある。現在の技術で知られているブロンズ・ルートでは、Nb3Snを含むフィラメントは少量、すなわち、0.2体積%より少ない量の銅しか含まない。ブロンズ・ルートで製造される超伝導エレメントで高いCu含有量を実現することは、上述したような本発明の複合材料を用いてはじめて可能になる。このように、本発明の応用は、ブロンズ・ルートと高い銅含有量によって得られる特性を有する超伝導エレメントにあると認識される。高い銅含有量によって、超伝導エレメントで高い臨界電流密度が利用できるようになる。
【0027】
本発明の超伝導エレメントの好ましい実施の形態では、フィラメントは体積で10%未満のCu、特に約2体積%のCuを含む。これらの値は、高い臨界電流密度を可能にする。
【0028】
本発明の超伝導エレメントの別の好ましい実施の形態では、フィラメントの直径は1から10μmの間、特に2から6μmの間、好ましくは約5μmである。これらのパラメーターは実証されている。
【0029】
本発明の超伝導エレメントの別の好ましい実施の形態は、上で述べたような本発明の方法によって製造されることを特徴とする。
【0030】
その他の利点は、以下の説明と添付された図面から明らかになる。上で述べた特徴及び以下で説明される特徴は、本発明に従って個別的にも又は任意の組み合わせによっても利用できる。上述した実施の形態はすべてを尽くすものではなく、本発明の説明のための例示的性格をもつものと理解すべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[現在の技術におけるブロンズ・ルートによるNb3Sn材料の製造]
超伝導Nb3Sn線は、通常、管内粉末(PIT)プロセス、内部Sn拡散(ISD)法、又はブロンズ・ルートによって製造される。
【0032】
ブロンズ・ルートでは、いくつかのニオブ(Nb)又はニオブ−タンタル(Nb-Ta)ロッドが、主に銅(Cu)及び錫(Sn)と少量のチタン(Ti)とを含むブロンズ・マトリックスに挿入される。押出し、結束、及び別のブロンズ間への挿入を繰り返すことによって、多数のNb又はNbTaファイバー又はフィラメントがブロンズ・マトリックスに埋め込まれた延性の線又は複合材料が得られる。熱伝導性を改善するために、純銅も少し線に導入され、TaバリアによってCu-Snブロンズから隔離されて反応熱処理の際の汚染が防止される。
【0033】
次に、線を所望の形、例えば線を巻いてコイルにする。その後、線は約600から700℃で焼鈍される。この固体拡散反応の間、Cu-Snブロンズから出て来るSnがNb又はNbTaファイバーに拡散してNb3Snを形成する。これは、化学量論的な組成では18 Kという転移温度で超伝導性になる。Nb3Sn相はA15相とも呼ばれる。
【0034】
通常、Nb又はNbTaは完全にはNb3Snにまで反応しないで、多少のNb(又はNbTa)は反応せずにフィラメントの中央に残る。Nb3Sn相の内部には濃度勾配が生じ、ブロンズ・マトリックスとの界面における25原子% Snから反応していない中央のNb又はNbTaコアで17原子% Snまで変化している[1]。
【0035】
低Sn含有量のNb3Sn相は超伝導特性が劣っており、Tc = 6 KそしてBc2 = 7 Tである。したがって、Nb3Sn相のSn含有量が高く均一であることが望ましい。Nb3Sn相のSn含有量は、焼鈍温度(=反応温度)を上げ、且つ/又は、焼鈍時間(=反応時間)を長くすることによって、増加する。しかし、これによって粒子の成長が促進され、それが再びフィラメントの電流搬送性能を低下させる。したがって、臨界電流密度の最大値は、温度と時間という二つのパラメーターを変えて最適化させることによって得られる。
【0036】
[発明の科学的背景]
所定値の温度(T)及び磁場(B)におけるNb3Sn線の臨界電流密度(Jc)の挙動は磁束のピン止め及び上方臨界磁場(Bc2)の双方によって影響される。
【0037】
上方臨界磁場Bc2 Nb3Snの上方臨界磁場Bc2の値は電子の平均自由行程によって影響され、それはさらに超伝導転移温度Tcのすぐ上の比電気抵抗の値ρ0に依存する。ρ0の増強、それによるBc2の増強は、1980年以降いろいろな研究者によって行われて成功している。Ta及び/又はTiとの合金によって、4.2 KでのBc2の値は、二元化合物Nb3Snの値20 Tから26 Tに増加することが見出された[2]。
【0038】
磁束ピン止め 磁束ピン止めの作用はNb3Snの粒界における転位の密度と相関することが認められている。粒子が小さいことがJcの高い値に対応し、したがって、Lorentzのピン止め力Fp = Jc x B(ここでBは印加される磁場)の高い値に対応することは良く調べられている。例えば、200, 85, 及び40 nmという粒径は、それぞれ、Fp = 2.5, 5.1, 及び6.8 x 1010 Nm-3というLorentz力に対応している[3]。
【0039】
磁束ピン止めと電子平均自由行程の双方の作用を合わせた効果は繰り返し確認されており、原理的には十分に良く理解されている。しかし、いろいろなタイプのNb3Sn線の間のJc対Bの変化の比較は相当な違いを示している。内部Sn拡散、管内粉末、及びブロンズ・ルートの各方法を用いて調製されたNb3Sn線の比粒界ピン止め力(Qgb)が、印加される磁場の関数として、図1に示されている[4]。内部Sn拡散及びPITによる線に比べてブロンズ・ルートの線では、それは磁場の小さな値の方でずっと小さな増加を示している。印加される磁場の関数として対応するJc値を表したプロットは、高い磁場に外挿されたJc値がすべての線タイプで同じオーダーの大きさに成り、同じようなBc2の値に対応することを示している[5]。したがって、低い磁場における大きな差(図1)の理由は、粒界における個別特定の条件から生じたとしか考えられない。
【0040】
通常、商業的なブロンズ・ルートNb3Sn線の超伝導層の厚さは約1から2μmであり、粒径は80から150 nmの間にある[2]。粒界におけるミクロ構造が詳しく論じられている報告はほんの少数しかない。オージェ電子分光法(AES)によって、粒界におけるCuの蓄積(高々1.5原子%に達する)がブロンズ・ルートで処理されたNb3Sn線で観測されている。添加物Ti及びTaはNb3Sn結晶構造においてNbを置換し、これにより、Bc2が増加することは良く知られている。この状況はCuでは全く異なり、CuはNb3Sn中でほぼ完全に不溶であり、したがって、Tiと対照的にもっぱら粒界に存在する。Rodoriguez [7]は、商業的な二元及び合金Nb3Sn線についての分解能約2nmのTEM顕微鏡観測によって粒界における化学組成を分析した。彼らの結果は、Cuが粒界にのみ存在するということを示唆している。これは、20 nmの厚さの層における粒界が電子エネルギー損失分光法(EELS)で分析された我々のサンプルで確認された。
【0041】
粒界の幅と磁束ピン止め力の関係がYetter [8] によって研究され、彼はPb/Bi薄膜におけるJc(したがって、ピン止め力Fp)と粒界の幅との相関を明らかにした。この結果は、Welchの理論的予測[9]、すなわち、非常に狭い粒界の幅ではピン止め力Fpは低いが、粒界の幅と共にピン止め力Fpは最大値Fp(max) まで増大するという予測と定性的に一致している。それ以上の粒界幅の拡大は、図2に示されているようなFpの減少をもたらす。図2では、比ピン止め力が不純物パラメーターα=0.882ξ0/le、すなわち、コヒーレンス長さξ0と電子平均自由行程leの比の関数としてプロットされている。粒界の幅の関数としての比ピン止め力は、コヒーレンス長さの1.5倍で最大値を示している(破線の曲線)。もっと広いか又は狭い粒界の場合(点破線及び実線)、ピン止め力、したがって臨界電流、は減少する。
【0042】
Rodoriguezら[8]は、合金線(Nb, Ti, Ta)3Snで、粒界を超えて添加物Ta、及び特にTiの組成がNb及びSnよりも広い範囲で局所的な変化を示すことを明らかにした。しかし、Ta及び/又はTiとの合金は、Bc2がますます支配的になる高い磁場(B>18 T)でのみ高いJcをもたらすことに注意されたい。
【0043】
粒界の影響が支配的である中間磁場、すなわち、12から16 Tにおける用途では、粒界領域におけるCuの量を最適化することが重要である。言い換えると、粒界におけるCu含有量を最適化することによって最大のJc値に対応する粒界の条件を実験的に見つけなければならない。これは、製造プロセスにおいてCu含有量の変化を制御できる場合にのみ可能である。この問題は、ある量のCuの存在が600から700℃の温度領域でNb3Sn相の形成に絶対に必要な条件であることを思い出して、各製造方法でNb3Sn形成メカニズムを比較することによってしか答えられない。Cuなしでは、Nb3Sn形成の温度はずっと高く、900℃程度になる。したがって、ISD法とPIT法の双方でのNb3Sn形成条件はブロンズ・ルートに比べてかなり多量のSnとCuを許すだけでなく、対応する組成を独立に変えることができ、最大のJc値のための最適条件に到達することができる。その結果、多量のSn、そしてNbを導入することができ、従来のブロンズ・ルート線に比べて高いNb3Sn含有量が得られる。
【0044】
従来のブロンズ・ルート線では状況は全く異なり、Sn及びCu含有量は、どちらもCu-Snブロンズ中のSnの溶解限界に関係し、15.6重量% Snに近い。さらに、Nb3Sn相の形成に必要なCuの源は、フィラメントの外側のCu-Snブロンズにあり、フィラメントの内側のNb3Sn形成の前線におけるCuの存在は、Cu-SnブロンズからNb又はNbTaコアへのある量のSnとCu(<2重量%)の同時移動による。以下で、ブロンズ・ルートNb3Sn線におけるA15粒界でそれだけの量のCuをどのようにして制御された仕方で導入するかを示す。
【0045】
[本発明によるブロンズ・ルートの改良]
最適なCuドーピングで磁束のピン止めを強化したブロンズ・ルート線は、20体積%、好ましくは約10重量%にまで達するCuをNb又はNbTaフィラメントの内側に導入することによって作ることができる。CuはNbにもNbTaにも溶解しないが、Cu-15.6重量%Sn, Cu-15.6重量%Sn-0.25重量%Ti, 又はCu-5.6重量%Sn-0.5重量%Ti,という組成の商業的に入手できるブロンズからスタートして線の中で一様なCu 分布を得る一連の方法が提案され、対応するNb又はNbTa含有量は25から28重量%である。本発明は、また、24重量%までのもっと高いSn含有量にも適用できるが、これは係属中の欧州特許出願04021982.6及び04021983.4に記載されている特別な変形手順によってしか変形できない。
【0046】
以下では、Cu含有物を導入するためのいくつかの方法を説明する。
【0047】
1.厚さが50から500 nmまでの間のCu含有物(ナノ含有物)は、CuコアをNb又はNbTaロッドに加えることによって導入される。これは、製造プロセスの初めに補助押出しステップによって行われる。Cuコアの数は1から19まで変えられるが、37も可能である。追加の押出しステップは、変形プロセスで、Cuコアの厚さとCu含有物の間のNbの厚さの双方のサイズに、どちらもコヒーレンス長さξ0のサイズに近くなるように、縮小比が強50倍を超えて高める。Cu/Nb複合材料においてCu含有物がこのように微小な寸法に縮小されることはBevk [10] 及びEagar [11] によって実証された。本発明の場合、Nb又はNbTaロッドの内側のCu含有量は、0.1から10重量%まで変わる。このように低いCu含有量を選ぶのは、フィラメント断面の超伝導部分をできるだけ大きく維持するためである。さらに、それによって近接効果も減少する。
【0048】
2.化学量論的なNb3Snブロンズ・コアの量を増大すべく、ブロンズ・ルートのフィラメントとして機械的に強化されたCu-Nbチューブを使用することは、係属中の欧州特許04004605.4に記載されている。項目1と同様に、50から500 nmの間の厚さのCu含有物(ナノ含有物)は、中央のCu-Snを含むNb又はNbTaチューブに混合CuNbコアを加えることによって導入される。Cu含有物の最終的な寸法並びにNb又はNbTaチューブ中のその含有量は項目1と同じである。
【0049】
3.Cu含有物は、粉末冶金[12] によって、サイズが40から200μmまでの間のNb及びCu粉末から出発してフィラメントに導入される。このプロセスは、最初の押出しステップを回避できるという利点があるが、粉末表面に吸収される酸素を最小にするために特別な注意を払う必要がある。酸素は、中間焼鈍でNb又はNbTaの中に移動し、硬化させて変形を難しくすることになる。
【0050】
4.Cu包含物は、10重量%までのCuを含むNb-Cu合金のその場(in situ)での溶融[13] によって導入される。元の樹状結晶サイズは、冷却速度によるが100ミクロンのオーダーである。このプロセスは、最初の押出ステップを回避できるという利点がある。さらに、微細粉末に比べて、溶融手順で入り込む酸素は少ない。
【0051】
項目1から4までは、中間的な磁場の領域でJcの変化を改善するためのCuの導入を記述している。反応した線のNb3Snの量を最大にするようにCu含有量がある最大値を超えないことが重要である。最近、Rodriguez ら[14] は、Nbの寸法がナノメートル領域にあるCu-Nb超伝導複合材料線の調製を発表した。彼らは、また、この複合材料を用いてNb3Sn線を製造する仕方も報告しているが、臨界電流密度、引き起こされる近接効果については何もデータを示さなかった。しかし、彼らの状況は本発明の状況と全く異なる。我々の場合、最初のNb-CuロッドのCu含有量は20体積%を超えてはならないが、Rodriguez et al.[14] は64重量%という高いCu含有量を用いていた。このようにきわめて高いCu含有量と結びついた近接効果は、本発明の場合と異なり大きな問題になる。
【0052】
図3は、本発明による超伝導エレメントを製造するための複合材料1を示す。複合材料1は、いくつかのフィラメント3を含むCu-Snブロンズ・マトリックス2を含む。これらのフィラメント3は実質的にNb又はNb合金から成り、このNb又はNb合金は銅サブ構造4のためのフィラメント・マトリックス5を形成し、銅サブ構造4はこのフィラメント・マトリックス5の内部に埋め込まれる。
【0053】
複合材料1を用いて、Nb3Snを超伝導物質として超伝導エレメント、特に超伝導磁石コイル用の線を製造することができる。このために、複合材料は通常600から730℃の温度で焼鈍される。その前に、複合材料1を束ねて延伸し、最終的な超伝導エレメントでより多くの超伝導フィラメントが得られるようにすることができる。最終焼鈍の間、銅サブ構造4からのCuが新しく形成されるNb3Sn物質に、すなわち、その粒界に入り込む。Nb3Sn物質の臨界電流密度に関して最適化された所望のCu含有量を得ることができる。
【0054】
要約すると、本発明はNb3Snを含む超伝導エレメント、特にマルチフィラメント線、であって、少なくとも一回の押出しステップによって得られる細長いCu包含物がフィラメント体積全体にわたって微細に分布した、Nb又はNb合金、特にNbTaから成る予備フィラメント構造から固体拡散反応によって得られる少なくとも一つの超伝導フィラメントを含み、該Nb又はNbTa表面はCu及びSnを含むまわりのブロンズ・マトリックスと密接している超伝導エレメントを提供する。
【0055】
参照文献
1. Klemmら, Supercond. Sci. Technol., 3, 249-254 (1990).
2. K. Tachikawa, ≪Filamentary A15 superconductors≫, Ed. M. Suenaga and A. F. Clark, Cryogenic Material Series, 1980, p. 1-16.
3. W. Schauer及びW. schelb, “Improvement of Nb3Sn High Field Critical Current by a Two Stage Treatment”, IEEE Trans. Magn., MAG-17, 374 (1981).
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6. D. B. Smathers及び D. Larbalestier, Adv. Cryo. Engrg., 28, 415-423 (1982).
7. D. Rodriguezら, IEEE Trans. Appl. Supercond., 5, 1607-1610 (1995).
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9. O. Welch, IEEE Trans. on Mag. MAG-21, 827-830 (1985).
10. J. Bevk, “Ultrafine Filamentary Composites”, Annual Rev. of Materials Science, Vol. 13 (1993) 319-338.
11. T. W. Eagar, IEEE Trans. Nucl. Sci., 20, 742 (1973).
12. R. Flukigerら, “High Jc in cold-powder metallurgy processed superconducting Cu-Nb composites”, Appl. Phy. Let. 34 (1979) 763-766.
13. R. Rodberge, S. Foner, E. J. McNiff, Jr., B. B. Schwartz, “Improvement of “in situ” multifilamentary Nb3Sn superconducting wires”, Appl. Phys. Lett. 34 (1979) 111
14. D. Rodriguezら, ASC 2004での講演.
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】現在の技術で知られているISD、PIT、及びブロンズ・ルートによって製造されるNb3Sn線の比粒界ピン止め力をプロットした図である(D. Larbalastier et al. [4] による)。
【図2】3つの粒界幅についてPb/Bi膜における比ピン止め力を不純物パラメーターaに対してプロットした図である(D. Welch [9] による)。
【図3】本発明に従って超伝導エレメントを製造するための本発明の複合材料を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 複合材料
2 Cu-Snブロンズ・マトリックス
3 フィラメント
4 銅サブ構造
5 フィラメント・マトリックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu-Snブロンズ・マトリックス(2)と該ブロンズ・マトリックス(2)によって囲まれたフィラメント(3)とを含み、該フィラメント(3)がニオブ(= Nb)又はNb合金を含む複合材料(1)において、該フィラメント(3)は該Nb又はNb合金内に分布している0.3から20体積%の銅(= Cu)サブ構造(4)を含むことを特徴とする複合材料(1)。
【請求項2】
該フィラメント(3)は、10体積%未満のCuサブ構造(4)、特に約1体積%のCuサブ構造(4)を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合材料(1)。
【請求項3】
該Cuサブ構造(4)は元素の銅を含み、特に該Cuサブ構造(4)は少なくとも98体積%の純度の、好ましくは少なくとも99.8体積%の純度の元素の銅を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材料(1)。
【請求項4】
該フィラメント(3)は、少なくとも70体積%のNb又はNb合金、特に少なくとも90体積%のNb又はNb合金、好ましくは約98体積%のNb又はNb合金を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複合材料(1)。
【請求項5】
該フィラメント(3)は、該ブロンズ・マトリックス(2)内に直接埋め込まれていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合材料(1)。
【請求項6】
該フィラメント(3)又はフィラメント(3)のグループは、銅の殻(shell)又はフィラメント(3)の各グループの殻の内部に収容され、該銅の殻(単数又は複数)はブロンズ・マトリックス(2)内に位置することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合材料(1)。
【請求項7】
該Cuサブ構造(4)は該Nb又は該Nb合金の中に均等に分布し、特に該Cuサブ構造(4)がNb又はNb合金粉末粒子内に分布する粉末粒子であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の複合材料(1)。
【請求項8】
該Cuサブ構造(4)はCuスレッドを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の複合材料(1)。
【請求項9】
該Cuスレッドは、直径が1から200 nmの間、好ましくは5 から100 nmの間、最も好ましくは約20から50 nmまでの間にあることを特徴とする請求項8に記載の複合材料(1)。
【請求項10】
該フィラメント(3)は、直径が1から10μmの間、特に2から6μmの間にあり、好ましくは約5μmであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の複合材料(1)。
【請求項11】
該Nb又はNb合金を含むフィラメント(3)は細長い中空パイプの形を有し、該中空パイプの内側表面は内側ブロンズ・コアと密接し、該中空パイプの外側表面は、囲んでいるブロンズ・マトリックス(2)と密接していることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の複合材料(1)。
【請求項12】
該内側ブロンズ・コアはTa又はTa合金のコアを含むことを特徴とする請求項11に記載の複合材料(1)。
【請求項13】
該Cu-Snブロンズは15から24重量%のSnを含むことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の複合材料(1)。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の複合材料(1)から出発して超伝導エレメント、特にマルチフィラメント線を製造する方法であって、
最初のステップで、該複合材料(1)が300から750℃の間の温度で押し出され、
続く冷間又は熱間加工及び焼鈍ステップで、該複合材料(1)は温度処理によって該フィラメント(3)と平行に延伸されて軟化され、
続く積層ステップで、先行する冷間又は熱間加工ステップからの多数の延伸された該複合材料(1)が束ねられ、
該押出し、延伸、焼鈍、及び積層の各ステップが一回以上繰り返され、
続いて、中間焼鈍プロセスを含む最終延伸プロセスで、該複合材料(1)は最終の長さに延伸され、固体拡散反応を含む熱処理によって超伝導相が得られることを特徴とする方法。
【請求項15】
該冷間又は熱間加工及び焼鈍ステップの少なくとも一部に先行して520から750℃の間での中間焼鈍及び30秒以内の100℃以下への急速冷却(=「急速中間焼き入れ」)が行われることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該変形するステップの少なくとも一部が520から750℃までの間の温度で等温的な熱間圧延によって行われることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
ブロンズ拡散プロセスに基づいてブロンズ・ルートによって製造され、Nb3Snを含むフィラメントを有する超伝導エレメント、特にマルチフィラメント線において、
該フィラメントは、0.3から30体積%までの間の銅(= Cu)を含むことを特徴とする超伝導エレメント。
【請求項18】
該フィラメントは、10体積%未満のCu、特に約2体積%のCuを含むことを特徴とする請求項17に記載の超伝導エレメント。
【請求項19】
該フィラメントは、直径が1から10μmの間、特に2から6μmの間にあり、好ましくは約5μmであることを特徴とする請求項17又は18に記載の超伝導エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−27089(P2007−27089A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−125560(P2006−125560)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(591148048)ブルーカー バイオシュピン アー・ゲー (53)
【Fターム(参考)】