説明

銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法、該方法を応用した銅微細配線ならびに銅薄膜の形成方法

【課題】表面酸化膜層を有する銅微粒子の分散液を利用して、微細なパターン描画後、比較的に低い温度下において、パターン中の表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子に還元処理を施し、生成する銅微粒子を焼成して、優れた導電性を示す銅微粒子焼結体型の微細形状導電体を形成する方法の提供。
【解決手段】平均粒子径1〜100nmの表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含む分散液を基板上に塗布した後、該塗布層中の微粒子を、例えば、1.5気圧以上に加圧条件下、水素分子を含む雰囲気中、200℃以上、300℃以下の温度に加熱し、水素分子を還元剤として利用する還元反応により、酸化被膜の還元を施し、得られる銅微粒子相互の焼結体層を形成する工程を、一連の加熱処理工程で実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な銅系配線パターン、あるいは極薄い膜厚の銅薄膜層を形成する方法に関し、より具体的には、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子、特には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子の分散液を利用して超ファインなパターン描画、あるいは薄膜塗布層形成後、描画パターン、あるいは薄膜塗布層中の表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子、特には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子に還元処理を施し、生成する銅微粒子、特には、銅ナノ粒子を焼成して、デジタル高密度配線に対応した低インピーダンスでかつ極めて微細な焼結体銅系配線パターン、あるいは極薄い膜厚の銅薄膜層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器関連分野において、利用される配線基板上の配線パターンの微細化が進んでいる。また、種々の電極パターン部の形成に利用される金属薄膜層に関しても、極薄い膜厚の金属薄膜層の活用が進められている。例えば、スクリーン印刷法を利用して、微細配線形成や薄膜形成を達成する際、超ファインなパターン描画、あるいは極薄い膜厚の薄膜塗布層形成に、極めて粒子径の小さな金属微粒子分散液の応用が図られている。現時点において、前記の用途に応用可能な、金および銀の微粒子分散液が既に商品化されている。
【0003】
なかでも、金属ナノ粒子を利用して、超ファインな配線パターンを形成する方法に関して、例えば、金ナノ粒子あるいは銀ナノ粒子を用いる際には、既に方法論が確立されている。具体的には、金ナノ粒子あるいは銀ナノ粒子を含む、超ファイン印刷用分散液を利用した極めて微細な回路パターンの描画と、その後、金属ナノ粒子相互の焼結を施すことにより、得られる焼結体型配線層において、配線幅および配線間スペースが5〜50μm、体積固有抵抗率が1×10-5Ω・cm以下の配線形成が可能となっている。しかしながら、金ナノ粒子を用いる際には、材料の金自体が高価であるため、かかる超ファイン印刷用分散液の作製単価も高くなり、汎用品として幅広く普及する上での、大きな経済的な障害となっている。一方、銀ナノ粒子を用いることで、前記分散液の作製単価は相当に低減できるものの、配線幅および配線間スペースが狭くなっていくにつれ、エレクトロマイグレーションに起因する断線が新たな問題として浮上している。
【0004】
このエレクトロマイグレーション現象に起因する断線を回避する上では、銅系配線の利用が有力であり、例えば、一層の高集積化に伴い、半導体素子上の配線パターンへの銅系材料の利用が広く検討されている。すなわち、銅は、金や銀と同様に高い導電性を示す上に、延性、展性も良好であるものの、そのエレクトロマイグレーションは、銀と比較すると格段に少ない。従って、微細な配線に伴い、電流密度が上昇した際、銅系配線の利用により、エレクトロマイグレーション現象に起因する断線を回避することが可能となる。
【0005】
すなわち、プリント配線基板においても、微細な配線パターンを金属微粒子、例えば、金属ナノ粒子相互の焼結を施すことにより得られる焼結体型金属配線層で作製する際、エレクトロマイグレーションの少ない銅の利用が望まれている。更には、銅は、金や銀と比較して、材料自体の単価も相当に安価であり、より汎用性の高い、微細な配線パターンを有するプリント配線基板におけるコスト抑制の観点でも、その利用が期待されている。
【0006】
貴金属である金や銀は、元来、比較的に酸化を受け難い特性を有しており、そのため、微粒子分散液を調製した際、含有される微粒子を、その表面に酸化皮膜を形成しない状態で維持することが容易である。一方、銅は、比較的に酸化を受け易い特性を有しており、微粒子分散液を調製した際、含有される微粒子は、短時間でその表面に形成された酸化皮膜を有した状態となる。特に、粒子径がより微細な銅ナノ粒子となると、相対的に表面積が増し、その表面に形成される酸化皮膜の厚さも増し、ナノサイズの粒子径の大半が酸化銅の表面酸化膜層へと変換されることも少なくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に説明するように、銅系配線は、材料自体安価であり、また、高い電流密度においても、エレクトロマイグレーションによる断線の回避、あるいは配線層厚の減少・変化が緩和できる利点を有しており、微細な配線パターンを有するプリント配線基板用の導電体層としての応用が検討されている。その際、微細な配線パターンの描画に適する、より粒子径の細かな銅微粒子分散液が要望されるが、その粒子径が微細になるとともに、その表面を覆う表面酸化膜層が相対的に厚くなり、かかる表面酸化膜層を還元して、良好な導電性を示す焼結体型銅配線層の作製を行う手法の開発が必要となっている。また、平均粒子径がより微細な銅微粒子では、表面から進行する酸化によって、微粒子の大半が酸化銅へと変換され、酸化銅の微粒子に相当するものとなることもある。従って、表面酸化膜層を有する銅微粒子に加えて、このような酸化銅微粒子に対しても、その分散液を用いて、微細な配線パターンを描画した塗布層に対して、低温で簡便に還元して、銅微粒子に復した後、かかる銅微粒子相互を緻密に焼結して、良好な導電性を示す焼結体型銅配線層の作製を行う手法の開発が必要となっている。
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するもので、本発明の目的は、安価で、かつエレクトロマイグレーションの少ない銅を導電媒体に利用する、微細な銅系配線パターン、あるいは極薄い膜厚の銅薄膜層を形成する際、かかる微細な配線パターンの描画、あるいは塗布薄膜形成に表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の分散液を使用し、前記分散液塗布層に含まれる表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子に対して、その表面の酸化銅被覆層が、300℃以下の加熱条件において、十分な還元処理がなされ、かつ、得られる銅微粒子相互の緻密な焼成処理を簡便に、また高い再現性で行うことが可能な、銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法、ならびに、該方法を適用して、微細な焼結体銅系配線パターン、あるいは極薄い膜厚の銅薄膜層を形成する方法を提供することにある。例えば、極めて微細な配線パターンの描画に適する、平均粒子径が100nm以下、例えば、平均粒子径1〜20nm程度のナノ粒子においては、その表面の酸化銅被覆層は、前記平均粒子径の半ば以上に達し、中心部に非酸化状態の銅が核として、若干残余するものの、全体としては、酸化銅のナノ粒子と見なせる状態に達するが、その場合でも、300℃以下の加熱条件において、十分な還元処理がなされ、かつ、得られる銅ナノ粒子相互の緻密な焼成処理が可能な、微細な焼結体銅系配線パターンを形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、先ず、分散液を基板上に塗布した後、その塗布層中に含有される銅ナノ粒子の表面を覆う酸化銅被膜層を、効果的に還元処理する手段について、鋭意研究を進めた。その際、例えば、平均粒子径1〜20nm程度のナノ粒子においては、その表面被膜層の層厚は、しばしば、その微細な平均粒子径の半ば以上に達し、従って、全体のナノ粒子に占める酸化銅の比率は高くなる結果、分散液中にテトラヒドロホウ酸ナトリウム(水素化ホウ素ナトリウム)などの無機水素化剤を予め配合する手法では、還元に必要な量の水素化剤を各部位に供給することができない場合もあることを見出した。かかる知見に基づき、更なる検討を進めた結果、ナノ粒子の平均粒子径に依存せず、所望の還元反応を完了する上では、塗布層を形成後、還元反応に関わる反応種を気相から供給し、作用させる手法がより適することを着想した。この手法では、前記還元反応によって、副生する酸素含有化合物自体は、気化・蒸散され、塗布層内に残留することがなく、加えて、還元反応に関わる反応種「還元剤」自体も、気体の形態であって、緻密に積層されているナノ粒子間の狭い隙間より深部へも到達できることが好ましいことを見出した。
【0010】
加えて、本発明者らは、還元性を有する気体である、水素分子を利用すると、加圧条件下、熱的還元反応によって、ナノ粒子表面の酸化銅被膜層の還元がなされ、また、その還元反応は、例えば、300℃以下においても十分な反応速度で進行することを見出した。加えて、水素分子は、加圧条件下においても、前記熱的還元反応における処理温度において、良好な拡散性を有する気体分子であり、緻密に積層されているナノ粒子間の狭い隙間より深部へも到達できることを確認した。一方、かかる還元反応によって表面に生成する非酸化状態の銅原子と、内部に存在する酸化銅分子との固相反応により、内部の酸化銅は非酸化状態の銅原子に変換され、代わって表面に酸化銅が生成され、結果的に、酸化銅被膜層は徐々に減少して、最終的には、ナノ粒子全体が、銅のナノ粒子に復することを見出した。この表面に酸化被膜のない銅ナノ粒子相互が接触すると、比較的に低温でも、速やかに焼結が進行し、塗布層全体が、銅ナノ粒子の緻密な焼結体層を形成することも確認した。一方、塗布層において、ナノ粒子間の隙間を満たしている、分散溶媒成分(有機溶剤成分)、また、該溶媒中に溶解されている有機添加物自体も流動性を有し、また、加圧条件下、加熱する際、蒸散可能である。そのため、加圧条件下、昇温段階において、これら有機物成分は徐々に蒸散し、結果として、ナノ粒子間の隙間が減少し、ナノ粒子相互が緻密に積層された構造となる。さらに、還元反応の結果、副生する反応生成物自体も流動性を有し、加圧条件下、加熱状態において、蒸散可能であるため、還元・焼結処理の進行とともに、焼結体層の表層上に速やかに押し出され、蒸散するため、得られる焼結体層における緻密な焼結構造の形成を阻害する要因ともならないことが確認された。
【0011】
本発明は、以上の一連の知見を総合することで、完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明にかかる銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法は、
基板上に銅ナノ粒子相互の焼結体層からなる微細な銅系配線パターンを形成する方法であって、
平均粒子径を1〜100nmの範囲に選択される、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子を含有する分散液を用いて、前記微細な配線パターンの塗布層を基板上に描画する工程と、
前記塗布層中に含まれる、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子に対して、表面酸化膜層または酸化銅を還元する処理を施し、さらに、還元処理を受けたナノ粒子の焼成を行って、焼結体層を形成する工程とを有し、
同一工程内で実施される、前記還元処理と焼成処理は、加熱温度を、150℃以上、300℃以下に選択して、水素ガス雰囲気下、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気下において、少なくとも1.1気圧以上に加圧された状態において行う
ことを特徴とする微細な銅系配線パターンの形成方法である。
【0013】
その際、分散液中に含有される、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子は、
少なくとも、前記表面酸化膜層は、酸化第一銅、酸化第二銅、またはこれら銅酸化物の混合物のいずれかを含んでなり、
また、該銅ナノ微粒子は、酸化第一銅、酸化第二銅、またはこれら銅の酸化物の混合物、ならびに金属銅のうち、2つ以上を含んでなる混合体状粒子である形態とできる。
【0014】
本発明の方法においては、一般に、前記還元処理と焼成処理における、水素ガス雰囲気、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気は、水素分子の含有率は、100体積%〜1体積%の範囲に選択されていることが望ましい。
【0015】
なお、前記還元処理と焼成処理における、水素分子を含有する混合気体の雰囲気は、
水素分子と、不活性気体の混合物であり、
該不活性気体は、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、あるいは、それらの二種以上を混合したものであることが好ましい。
【0016】
さらには、前記還元処理と焼成処理において、
前記加熱温度に達した際、気相の圧力を1.4気圧〜10気圧の範囲とする加圧状態を達成していることが好ましい。
【0017】
加えて、前記分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、ジアルキルアミンが、2質量部〜20質量部の範囲で含有されている状態を選択することが好ましい。特に、前記ジアルキルアミンは、二つのアルキル基は、炭素数5以上、9以下の範囲のジアルキルアミンから選択されていることが好ましい。
【0018】
あるいは、ジアルキルアミンに代えて、前記分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、トリアルキルアミンが、2質量部〜20質量部の範囲で含有されている状態を選択することもできる。その際、前記トリアルキルアミンは、含まれるアルキル基は、炭素数4以上、9以下の範囲に選択されていることが好ましい。
【0019】
さらに、前記分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、
付粘性成分として、沸点が150℃以上の、粘性を有する炭化水素溶媒が、20質量部〜3質量部の範囲で含有されていることが好ましい。例えば、付粘性成分として含有される、前記沸点が150℃以上の、粘性を有する炭化水素溶媒は、流動パラフィン、イソパラフィン、鉱物油、化学合成油、植物油からなる炭化水素溶媒から選択される一種、または、二種以上を混合したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法、ならびに、該方法を応用した微細な銅系配線パターンの形成方法、ならびに銅薄膜の形成方法では、表面に酸化膜層を有する銅ナノ粒子、あるいは、粒子全体にわたって酸化が進んだ酸化銅ナノ粒子を含む分散液を利用して描画される微細な配線パターン、あるいは薄い塗布膜に対して、該塗布層中のナノ粒子を、還元性気体である水素分子を含む雰囲気下で、加圧条件下、150℃以上、300℃以下の温度に加熱し、「還元剤」として、該水素分子を利用する還元反応により、酸化被膜を還元して、銅ナノ粒子とすることにより、その後、同一加熱条件において、再生された銅ナノ粒子相互の焼結体層形成を高い再現性で達成できる。この気相より供給される、「還元剤」として、水素分子を利用する、酸化銅被膜層の還元過程は、加圧条件下、300℃以下の低温において十分な反応速度で進行する。一方、還元反応に伴い、副生する水分子(H2O)は、150℃以上に加熱された状態となっており、ナノ粒子の表面から、速やかに離脱する。その結果、生成する銅ナノ粒子の表面は、金属面が露呈する状態となり、銅ナノ粒子相互の焼結も、高い効率と再現性で進行でき、銅ナノ粒子相互が緻密に焼結されている焼結体層を形成することができる。この加熱処理は、加圧条件下、150℃以上、300℃以下の低温において実施できるので、利用される基板材料に要求される耐熱性が大幅に緩和され、利用範囲が大きく広がる利点を有する。加えて、得られる微細な銅系配線は、銅自体、エレクトロマイグレーションの少ない導電性材料であるので、上記の微細な配線パターンにおいても、エレクトロマイグレーションに起因する配線厚さの減少、断線の発生を抑制できる。さらには、「還元剤」として利用される水素分子は、高い拡散性を有する気体であり、効率よく気相より供給されるので、作製する対象の微細な焼結体型の銅系配線層、あるいは、極薄い膜厚さの銅薄膜層の形状、サイズ、あるいは、配置位置に依存することなく、目的とする銅微粒子焼結体型の微細形状導電体を作製できるという利点も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を詳しく説明する。
【0022】
本発明にかかる銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法では、所望の微細形状に描画塗布された塗布層に含まれる銅微粒子の表面に存在する酸化銅被膜層または酸化銅微粒子を、特に、水素分子を利用して還元する。この、第一の処理過程では、不活性気体中に混合されている、水素分子の存在下、加圧条件下、加熱温度を300℃以下に選択して、加熱処理を行う。塗布層中に含まれる該微粒子表面に対して、気相から供給される、水素分子を「還元剤」として作用させることで、加圧条件下、加熱温度が、300℃以下と低温であっても、表面の酸化銅の還元反応が速やかに進行する。一旦、表面に生成した、非酸化状態の銅原子と、その内部に存在する酸化銅分子との固相反応により、内部の酸化銅は非酸化状態の銅原子に変換され、代わって表面に酸化銅が生成される。引き続き、この表面に生成された酸化銅は、継続して供給される水素分子を「還元剤」とする還元反応によって、非酸化状態の銅原子まで還元される。前記の一連の反応サイクルが繰り返される結果、当初は、微粒子の内部まで達していた酸化銅被膜層は徐々に減少して、最終的には、微粒子全体が、銅ナノ粒子に復する。
【0023】
仮に、この銅ナノ粒子に復した状態を、加熱下、再び大気中の酸素分子などに一定時間以上接触させると、再び表面酸化膜が生じる。それを避けるため、本発明の方法では、加圧条件、加熱下、水素分子を含む雰囲気に保ち、再生された銅ナノ粒子相互の融着を行わせる。再生された銅ナノ粒子では、その表面全体に、表面マイグレーション可能な銅原子が存在しているため、銅ナノ粒子相互の接触点には、表面マイグレーションによって、周囲から銅原子が供給される。その結果、二つの銅ナノ粒子は相互に一体化され、塗布膜全体にわたり、緻密な焼結体層を形成することが可能となる。
【0024】
まず、本発明の方法では、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液を用いて、目的とする微細形状導電体の平面形状パターンに合わせて、該分散液の塗布層を描画する。その際、分散質とする表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の平均粒子径は、100nm以下であり、極めて微細な配線パターンの形成にも応用できる。
【0025】
例えば、本発明にかかる微細な銅系配線パターンの形成方法では、第一に、極めて微細な配線パターンを形成した際に、その最小な配線幅の部分において、最も顕著に見出されるエレクトロマイグレーション現象に起因する断線を回避する目的で、焼結体銅系配線を利用するものであり、その配線パターンの最小の配線幅を、0.1〜50μmの範囲、実用的には、5〜50μmの範囲に、対応させて、最小の配線間スペースを、0.1〜50μmの範囲、実用的には、5〜50μmの範囲に選択する際に、より好適な方法となる。
【0026】
前記最小の配線幅を考慮して、その精度に対応可能な、焼結体層の形成に用いる銅微粒子として、少なくとも、平均粒子径が100nm以下のナノ粒子を利用している。一方、前記数μm程度の最小の配線幅に対応して、焼結体層の膜厚もサブμm〜数μmの範囲に選択される。そのため、かかる膜厚における平坦性を十分に満足させる観点からも、使用する表面に酸化銅被膜層を有するナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmの範囲に、より好ましくは、1〜20nmの範囲に選択する。少なくとも、本発明にかかる微細配線パターンの形成方法は、前記の極めて微細な配線パターンを、ナノ粒子の分散液を用いて、高い配線幅の均一性で描画する上では、使用するナノ粒子の平均粒子径は、目標とする最小の配線幅ならびに最小の配線間スペースに対して、その1/10以下に選択することが望ましい。同時に、最小の配線幅に応じて、焼結体銅系配線層の層厚も適宜決定されるが、通常、最小の配線幅と比較し、配線層の層厚は有意に小さな形態である。その際、ナノ粒子の平均粒子径を、1〜100nmの範囲に、より好ましくは、1〜20nmの範囲に選択することで、配線層の層厚のバラツキ、局所的な高さの不均一を抑制することが可能となる。
【0027】
本発明にかかる銅薄膜の形成方法は、使用する表面に酸化銅被膜層を有する銅ナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmの範囲に、より好ましくは、1〜20nmの範囲に選択することで、平均膜厚がサブμm〜数μmの極薄い銅薄膜を形成する際、高い膜厚の均一性、制御性を達成できる。一方、本発明にかかる銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法は、例えば、平均膜厚が数μm〜10数μm程度の銅薄膜の形成にも適用できる。
【0028】
なお、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液中に含有される、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子は、少なくとも、前記表面酸化膜層は、酸化第一銅、酸化第二銅、またはこれら銅酸化物の混合物のいずれかを含んでなり、また、該ナノ粒子は、酸化第一銅、酸化第二銅、またはこれら銅の酸化物の混合物、ならびに金属銅のうち、2つ以上を含んでなる混合体状微粒子であってもよい。特に、含有される表面酸化膜層を有する銅微粒子として、平均粒子径が100nm以下の表面に酸化銅被膜層を有する銅ナノ粒子が含まれる際には、かかる銅ナノ粒子の表面は、酸化銅被膜層で均一に被覆される形態とすることで、分散液中において、ナノ粒子の金属表面が直接接触して、相互に融合した凝集体の形成を引き起こす現象を回避することが可能となる。
【0029】
本発明にかかる銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法では、銅微粒子相互の電気的な接触を、焼結体形成で達成するので、利用する分散液中には、バインダーとなる樹脂成分を配合しない組成とされる。従って、分散液中に含まれる分散媒体は、かかる分散液を塗布して、目的の微細なパターン形状の塗布膜層の形成に利用可能な分散溶媒であれば、種々の分散溶媒が利用可能である。
【0030】
一方、下記する、加圧条件下、加熱処理を実施する際、塗布膜層内部に対して、気相から供給される水素分子が作用可能である必要があり、加圧条件下、かかる加熱処理温度において、蒸散がなされる分散溶媒であることが必要となる。
【0031】
従って、利用される分散溶媒は、室温では、液状である必要があり、融点は、少なくとも、20℃以下、好ましくは、10℃以下であり、一方、300℃以下に選択される加熱処理温度では、高い蒸散性を示す必要もある。従って、分散溶媒として利用する有機溶剤の沸点は、少なくとも、350℃以下、好ましくは、300℃以下であることが好ましい。但し、その沸点が、100℃を下回ると、塗布膜層の描画を行う過程で、分散溶媒の蒸散が相当に進行するため、塗布膜層に含有される表面酸化膜層を有する銅微粒子の量にバラツキを引き起こす要因ともなる。従って、分散溶媒には、沸点が、少なくとも、100℃以上、300℃以下の範囲である有機溶剤を選択することがより好ましい。
【0032】
表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液の調製に利用される分散溶媒には、例えば、テトラデカン(融点5.86℃、沸点253.57℃)などの高い沸点を有する鎖式炭化水素溶媒、トルエン(沸点110.6℃)を利用することができる。
【0033】
一方、分散液を塗布する際、分散液全体の流動性が高いと、横方向の拡がりが大きく、微細な線幅の描画が困難となる。すなわち、分散液全体の粘度を、描画する塗布膜層の形状精度、例えば、最小の線幅に応じて、適宜調整する必要がある。分散液全体に粘性を付与する目的で、分散溶媒中に付粘性成分を添加することができる。また、分散溶媒として利用する有機溶剤として、粘性を有する炭化水素溶媒を利用することができる。例えば、付粘性成分としての機能を有する炭化水素溶媒として、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素;沸点:300℃以上 50%蒸留性状 約450℃)、イソパラフィン(分岐炭化水素;水素添加ポリブテン(イソブテン/ブテン共重合体);沸点:250℃以上 50%蒸留性状 約316℃)などを利用することができる。また、流動パラフィン、イソパラフィンは、その炭素数が異なる複数の成分からなる混合物であり、個々の成分の沸点は、その炭素数に依存して異なっている。加熱処理を進める際、徐々に蒸散するが、含有されている高沸点成分が残余し、付粘性成分としての機能を有する。従って、含有されている高沸点成分の含有比率の指標:50%蒸留性状の値が、少なくとも、250℃以上、好ましくは、300℃以上、500℃以下の流動パラフィン、イソパラフィンを利用することが望ましい。さらには、複数の成分の混合物の形態をとる、鉱物油、化学合成油、植物油のうち、含有されている高沸点成分の含有比率の指標:50%蒸留性状の値が、少なくとも、250℃以上、好ましくは、300℃以上、500℃以下のものも利用できる。例えば、沸点300℃以上の植物油の例として、オレイン酸メチル(沸点:320〜340℃)、オレイン酸エチル等の脂肪酸エステル(沸点:340℃〜360℃)、ジオクチルフタレート(沸点:384℃)、セバシン酸ジエチル(沸点:318℃)、セバシン酸ジブチル(沸点:330〜350℃)、スクワラン(沸点:440〜460℃)などをあげることができる。
【0034】
この付粘性成分は、通常、高い沸点を示す液状の有機物であるため、例えば、分散溶媒中に含まれる、比較的に沸点の低い他の溶剤成分と比較すると、蒸散性は劣っている。従って、分散液の塗布膜を、加圧条件下で、加熱する際、その昇温過程において、比較的に沸点の低い他の溶剤成分の蒸散が先に進み、分散溶媒全体の量が減少した段階でも、相当の比率で残留する。温度の上昇とともに、付粘性成分の流動性が徐々に増すため、分散液の塗布膜全体の膜厚を平均化させる機能を発揮する。すなわち、分散溶媒全体の量が減少するに伴って、塗布膜全体の膜厚が低減するが、その際、付粘性成分の徐々に流動性が増すため、分散液の厚さが均一化されるように、分散質の表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の積層構造が構成される。換言するならば、加熱処理が進行し、分散溶媒が蒸散した段階では、残余している付粘性成分は、バインダー、レベリング剤の機能を発揮する。最終的に、この付粘性成分も蒸散すると、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子が緻密の積層された構造となっている。
【0035】
上記のバインダー、レベリング剤の機能を発揮するため、付粘性成分として利用される、炭化水素溶媒は、沸点は、少なくとも、150℃以上、好ましくは、200℃以上であることが望ましい。一方、かかる付粘性成分の配合量は、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の含有量に応じて、これら微粒子が集積した際、バインダーとして機能する上では、少なくとも、その隙間を充填可能な量であることが好ましい。なお、最終的に、焼結処理を進める際には、残余している付粘性成分の量が不必要に多いと、還元処理が施された銅微粒子が付粘性成分を分散溶媒として、離散的に分散された状態となる。その場合、還元処理が施された銅微粒子が沈降し、相互に緻密な接触を達成することに対して、付粘性成分は、その阻害要因となる場合がある。従って、還元処理が施された銅微粒子が集積する際、最蜜充填状態を達成した場合に、その隙間を占めるに必要な量の付粘性成分が、加熱処理を開始する時点で残留していることが好ましい。例えば、還元処理が施された銅微粒子の体積の総和:VCuに対して、配合される付粘性成分の体積:V1は、VCu:V1の比率が、少なくとも、30:70〜70:30の範囲、好ましくは、50:50〜70:30の範囲に選択することが望ましい。あるいは、分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、付粘性成分が、20質量部〜2質量部の範囲、好ましくは、10質量部〜2質量部の範囲で含有されている状態とすることが望ましい。
【0036】
加えて、本発明では、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液中には、水素分子を「還元剤」として利用する還元過程において、その還元過程に関与する成分として、第2アミンを添加する。この第2アミンは、分散液中において、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子が均一な分散状態を示す上で、その分散剤としての機能を有する。すなわち、表面酸化膜層を有する銅微粒子の表面は、一般に、酸化銅(II):CuOが表出しているが、このCuOに対して、第2アミン中に存在する>NHの構造を利用して、>NH…OCuの形態で分子間結合を形成する。また、部分的に、金属銅原子Cuが表面に存在する場合には、第2アミン中に存在する>NHの構造において、窒素原子の孤立電子対を利用して、>(H)N:CuOの形態で、配位的な結合を形成する。その結果、表面酸化膜層を有する銅微粒子の表面は、第2アミン分子によって、被覆された状態として、分散溶媒中に分散される。分散溶媒として、炭化水素溶媒を利用する場合、該第2アミン中に存在する炭化水素基部分に起因する溶媒分子との親和性を利用して、分散剤としての機能を発揮する。
【0037】
第2アミン分子は、炭化水素溶媒に対して、親和性は有するため、添加された第2アミンの一部が、炭化水素溶媒中に溶解している。本発明においては、第2アミン分子を、分散液中において、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の分散性を保持する分散剤として利用するため、均一な被覆状態を達成可能な添加量とする。この第2アミン分子は、平均粒子径100nm以下のナノ粒子表面を被覆するため、分散溶媒中に溶存している濃度と、この表面上の付着密度とは平衡した状態となる。CuOに対して、>NH…OCuの形態で分子間結合を形成する、あるいは、Cuに対して、>(H)N:CuOの形態で、配位的な結合を形成する上では、アミン窒素原子に置換する炭化水素基は、電子供与性を有するものが好ましい。従って、本発明では、第2アミンとして、HN(CH2R’)2の形状を有するアミンを利用することが好ましい。その際、アミン窒素原子上に置換する炭化水素基(−CH2R’)の相互間で、立体障害を誘起することが懸念されないものが好ましい。従って、NH(CH2R’)2と表記可能なジアルキルアミンを選択することが好ましい。
【0038】
分散液中に添加するジアルキルアミンの量は、分散溶媒中における濃度を適正な範囲に設定するように選択する。分散溶媒の種類、分散質のナノ粒子に対する、分散溶媒の量比と、該分散溶媒中での溶解度を考慮して、ジアルキルアミンの添加比率を適宜選択する。好ましくは、加圧条件下、温度を上昇させて、分散溶媒を徐々に蒸散させる際、この分散液の液相中における、ジアルキルアミンの濃度が徐々に上昇し、ナノ粒子表面を被覆している状態を保持する形態とする。その観点から、分散液の液相中には、当初から、高濃度でジアルキルアミンが含有されている状態とすることが好ましい。具体的には、分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、ジアルキルアミンが、2質量部〜20質量部の範囲、好ましくは、3質量部〜15質量部の範囲で含有されている状態とすることが好ましい。
【0039】
また、利用されるジアルキルアミンの蒸散が、分散溶媒の蒸散よりも、顕著に早く進むことは望ましくない。一方、還元処理が終了し、焼結処理に移行する際、蒸散せず、多量のジアルキルアミンが残留することは望ましくない。従って、利用されるジアルキルアミンは、沸点が、少なくとも、100℃以上、好ましくは、200℃以上、300℃以下のものを利用することが望ましい。ジアルキルアミンとして、二つのアルキル基は、炭素数5以上、9以下の範囲のジアルキルアミンが好適に利用できる。特には、炭素数5以上、9以下の範囲のアルキル基を持ち、HN(CH2R’)2の形状を有するジアルキルアミン、例えば、ビス(2−エチルヘキシル)アミン((CH3−CH2−CH2−CH2−CH(C25)−CH22NH;沸点:281℃)などを利用することができる。
【0040】
さらには、上記の第2アミンに代えて、水素分子を「還元剤」として利用する還元過程において、その還元過程に関与する成分として、第3アミンを利用することもできる。この第3アミンとして、Cuに対して、R3N:CuOの形態で、配位的な結合を形成する上では、アミン窒素原子に置換する炭化水素基は、電子供与性を有するものが好ましい。従って、本発明では、第3アミンとして、N(CH2R’)3の形状を有するアミンを利用することが好ましい。その際、アミン窒素原子上に置換する炭化水素基(−CH2R’)の相互間で、立体障害を誘起することが懸念されないものが好ましい。従って、N(CH2R’)3と表記可能なトリアルキルアミンを選択することが好ましい。
【0041】
分散液中に添加するトリアルキルアミンの量は、分散溶媒中における濃度を適正な範囲に設定するように選択する。分散溶媒の種類、分散質のナノ粒子に対する、分散溶媒の量比と、該分散溶媒中での溶解度を考慮して、トリアルキルアミンの添加比率を適宜選択する。好ましくは、加圧条件下、温度を上昇させて、分散溶媒を徐々に蒸散させる際、この分散液の液相中における、トリアルキルアミンの濃度が徐々に上昇し、ナノ粒子表面を被覆している状態を保持する形態とする。その観点から、分散液の液相中には、当初から、高濃度でトリアルキルアミンが含有されている状態とすることが好ましい。具体的には、分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、トリアルキルアミンが、2質量部〜20質量部の範囲、好ましくは、3質量部〜15質量部の範囲で含有されている状態とすることが好ましい。
【0042】
また、利用されるトリアルキルアミンの蒸散が、分散溶媒の蒸散よりも、顕著に早く進むことは望ましくない。一方、還元処理が終了し、焼結処理に移行する際、蒸散せず、多量のトリアルキルアミンが残留することは望ましくない。従って、利用されるトリアルキルアミンは、沸点が、少なくとも、100℃以上、好ましくは、200℃以上、300℃以下のものを利用することが望ましい。トリアルキルアミンとして、そのアルキル基を、炭素数4以上、9以下の範囲に選択するものが好適に利用できる。
【0043】
場合によっては、この微粒子分散液を配線形成に用いる場合、分散液を均一分散化、高濃度化、液粘度の調整を行うために、粘度調整用のチキソ剤あるいは希釈用の有機溶剤を添加し、さらに混合・攪拌して、塗布、描画に用いる微粒子分散液を調製することもできる。一方、表面に酸化銅被膜層を有する銅微粒子、あるいは酸化銅微粒子自体は、その表面に存在する酸化膜被覆のため、互いに接触しても、微粒子間の融着は起こらず、凝集体形成など、均一な分散特性を阻害する現象は生じないものとなっている。従って、描画した塗布層中では、分散溶媒の蒸散とともに酸化銅被膜層を有する銅微粒子は、沈積・乾固して、最終的に緻密な積層状態を達成できる。
【0044】
また、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液を用いて、所望の配線パターンを基板上に描画する手法としては、従来から、金属微粒子を含有する分散液を利用する微細配線パターンの形成において利用される、スクリーン印刷、インクジェット印刷、または転写印刷のいずれの描画手法をも、同様に利用することができる。具体的には、目的とする微細配線パターンの形状、最小の配線幅、配線層の層厚を考慮した上で、これらスクリーン印刷、インクジェット印刷、または転写印刷のうち、より適するものを選択することが望ましい。
【0045】
一方、利用する該微粒子を含有する分散液は、採用する描画手法に応じて、それぞれ適合する液粘度を有するものに、調製することが望ましい。例えば、微細配線パターンの描画にスクリーン印刷を利用する際には、該微粒子を含有する分散液は、その液粘度を、30〜300 Pa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。また、転写印刷を利用する際には、液粘度を、3〜300 Pa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。インクジェット印刷を利用する際には、液粘度を、1〜100 mPa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。該微粒子を含有する分散液の液粘度は、用いる微粒子の平均粒子径、分散濃度、用いている分散溶媒の種類に依存して決まり、前記の三種の因子を適宜選択して、目的とする液粘度に調節することができる。
【0046】
基板上に形成される表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液の塗布膜層に対して、加圧条件下、水素ガス雰囲気下、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気下において、加熱処理を行うことによって、還元処理と、その後の焼成処理を行う。この還元処理を進める第一の処理過程では、水素分子を「還元剤」として利用し、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の還元がなされる。かかる還元過程では、下記の二つの経路を介して、酸化銅:CuOから金属銅:Cuへの還元がなされる可能性がある。その際、本発明では、分散液中に添加される、第2アミン分子、例えば、NH(CH2R’)2と表記可能なジアルキルアミンが関与する還元反応を主に利用する。このNH(CH2R’)2と表記可能なジアルキルアミンが関与する還元反応を以下に説明する。
【0047】
NH(CH2R’)2と表記可能な第2アミン分子が関与する、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、下記の二つのメカニズム、第一の機構と第二の機構によっていると推定される。
【0048】
表面酸化皮膜の最表面は、酸化銅(II):CuOの状態と考えられる。このCuOの還元は、系内に共存している、第2アミン:NH(CH2R’)2と水素分子(H2)が関与する、第一の機構は、下記の二段階のステップを介して、進行すると考えられる。
【0049】
(i) CuO+HN(CH2R’)2
→〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕+H2
(ii) 〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕+H2
→Cu+HN(CH2R’)2
まず、ステップ(i)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、NH(CH2R’)2と表記可能な第2アミンが、>NH…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
【0050】
(i-1) CuO+HN(CH2R’)2→〔CuO…HN(CH2R’)2
その後、以下の部分還元が進行する。
【0051】
(i-2) 〔CuO…HN(CH2R’)2〕→〔>N・…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[・N(CH2R’)2]中、隣接する−CH2−の水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
【0052】
(i-3) 〔>N・…HOCu(I)〕
→〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕+H2
【0053】
【化1】

【0054】
その際、表面の生成される銅原子に対して、N(CH2R’)=CHR’分子は、その−HC=N−部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕となる。
【0055】
【化2】

【0056】
その状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素付加反応が進行する。すなわち、銅原子が、触媒中心として機能して、N(CH2R’)=CHR’分子は、その−HC=N−部分への水素付加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii)の水素付加反応によって、第2アミン:NH(CH2R’)2の再生が行われる。
【0057】
微視的には、表面で生成される銅原子Cu(0)の下層には、CuOが存在しているため、Cu(0)−O−Cu(II)は、Cuδ+−O−Cu(2-δ)+の状況にある。そのため、上述するπ−配位子型の配位を行った状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕を形成することが可能となっている。
【0058】
このステップ(i)+ステップ(ii)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
【0059】
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
【0060】
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i+ii)〜(iv)の素過程が繰り返される。
【0061】
すなわち、ステップ(ii)で再生される第2アミン:NH(CH2R’)2は、このナノ粒子表面において、一旦、再生された銅原子Cu(0)に対して、そのアミノ窒素原子上に存在する孤立電子対を利用して、配位的な結合を形成する。一方、前記ステップ(iii)〜(iv)によって、該銅原子Cu(0)が酸化銅(II):CuOに変換されると、再び、酸化銅(II):CuOのOに対して、第2アミン:NH(CH2R’)2が、>NH…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。結果として、表面酸化皮膜が水素分子を「還元剤」として利用する還元反応によって、消失し、完全に銅ナノ粒子への再生される間は、ナノ粒子の表面は、実質的に、第2アミン:NH(CH2R’)2によって、継続的に被覆された状態に維持される。
【0062】
還元処理が完了し、完全に銅ナノ粒子に再生されると、銅原子Cu(0)に対して、そのアミノ窒素原子上に存在する孤立電子対を利用して、配位的な結合を形成している、第2アミン:NH(CH2R’)2は、徐々に熱的に離脱する。その結果、再生された銅ナノ粒子相互の金属表面が接触し、第二の処理過程である焼成処理が進行する。
【0063】
なお、この第二の工程で利用されている、加圧条件下、水素分子を含む雰囲気中、水素分子の含有比率が高くなると、下記する第二の機構を介する還元反応が生じる頻度が増す。この第二の機構は、下記の二段階のステップを介して、進行すると考えられる。
【0064】
(v) CuO+HN(CH2R’)2
→〔Oδ-−Cuδ+:NH(CH2R’)2
(vi) 〔Oδ-−Cuδ+:NH(CH2R’)2〕+H2
→〔H2Oδ-…Cuδ+:NH(CH2R’)2
→H2O↑+Cu+HN(CH2R’)2
先ず、表面酸化皮膜の表面に存在する酸化銅(II):CuOを考慮すると、表面に存在している銅(II)に対して、第2アミン:NH(CH2R’)2が、そのアミン窒素原子上の孤立電子対を利用して、配位する。その際、Oδ-−Cuδ+の分極が引き起こされる。この時、加圧条件下、水素分子の分圧が高いと、銅(II)に隣接する酸素原子に対して、気相から、水素分子(H2)が直接作用することが可能となる。
【0065】
【化3】

【0066】
銅(II)に隣接する酸素原子と、水素分子(H2)との反応によって、水分子(H2O)が生成される。その過程で、結果的に、隣接する銅(II)は、銅原子Cu(0)へと還元される。一方、生成した水素分子(H2)は、表面から脱離し、気相中に移行する。
【0067】
【化4】

【0068】
次いで、同様に、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
【0069】
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(iii)+(iv)と、ステップ(v)+(vi)の素過程が繰り返されると、第2アミン:NH(CH2R’)2によって、促進される還元反応が進行する。
【0070】
この第二の機構は、水素分子(H2)が表面に到達することで進行する反応であり、表面に到達する頻度が高い場合、換言するならば、加圧条件下、水素分子の分圧が高い場合に、その頻度が高くなる。一方、第一の機構は、初期のステップでは、水素分子(H2)は関与しておらず、加圧条件下、水素分子の分圧が相対的に低い場合にも、進行可能な反応である。
【0071】
本発明では、第2アミン:NH(CH2R’)2を利用する際には、上記の第一の機構と第二の機構の双方が寄与するが、特に、第一の機構の寄与が主要な比率を占める条件を選択する。すなわち、第二の工程における、還元処理と、その後の焼成処理を行う際、加熱温度を、150℃以上、300℃以下に選択して、水素ガス雰囲気下、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気下において、少なくとも、1.1気圧以上に加圧された状態、好ましくは、1.4気圧以上に加圧された状態を選択している。その際、水素ガス雰囲気下、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気は、水素分子の含有率は、1体積%〜100体積%の範囲、好ましくは、2体積%〜100体積%の範囲に選択することが望ましい。例えば、水素分子を含有する混合気体の雰囲気を利用する場合、その水素分子の含有率に応じて、加圧条件を選択する。すなわち、還元処理のため、加熱を行っている際、その加熱された雰囲気中における水素ガス分圧は、0.1気圧以上、より好ましくは、0.2気圧以上であることが好ましい。具体的は、還元性雰囲気中に含まれる水素ガスの含有比率:CH2%と、加熱状態における圧力:P気圧から、算出される水素ガス分圧:PH2気圧=(CH2/100)×Pを、0.1気圧以上、より好ましくは、0.2気圧以上に選択する。
【0072】
一方、本発明において、第3アミン:N(CH2R’)3を利用する際には、上記の第二の機構の寄与のみとなる。従って、第一の機構の促進に好適な条件を選択する。すなわち、還元処理と、その後の焼成処理を行う際、加熱温度を、150℃以上、300℃以下に選択して、水素ガス雰囲気下、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気下において、少なくとも、1.1気圧以上に加圧された状態、好ましくは、1.4気圧以上に加圧された状態を選択している。その際、水素ガス雰囲気下、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気は、水素分子の含有率は、1体積%〜100体積%の範囲、好ましくは、2体積%〜100体積%の範囲に選択することが望ましい。例えば、水素分子を含有する混合気体の雰囲気を利用する場合、その水素分子の含有率に応じて、加圧条件を選択する。すなわち、還元処理のため、加熱を行っている際、その加熱された雰囲気中における水素ガス分圧は、0.1気圧以上、より好ましくは、0.2気圧以上であることが好ましい。
【0073】
なお、前記還元処理と焼成処理における、水素分子を含有する混合気体の雰囲気は、水素分子と不活性気体の混合物とする。すなわち、前記不活性気体は、水素分子を希釈する役割を有するが、一旦、換言された銅ナノ粒子の表面に対して、加熱状態で銅原子と何らの反応を起こすことも無いものとする。水素分子の希釈ガスとして、利用される該不活性気体としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、あるいは、それらの二種以上を混合したものであることが好ましい。特には、該不活性気体としては、加熱状態で銅ナノ粒子表面に吸着を起こすこともない、希ガス分子:ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、あるいは、それらの二種以上を混合したものを使用することがより好ましい。
【0074】
加圧条件下、加熱すると、更に、圧が上昇する。その際、加熱温度に達した際、気相の圧力を1.4気圧〜10気圧の範囲、特には、2気圧〜10気圧の範囲とする加圧状態を達成していることが好ましい。加圧条件下、温度を上昇させる際、分散溶媒を蒸散させるが、例えば、その段階で、10気圧を超える状態となっていると、分散溶媒の種類によっては、完全に蒸散していない状態となる場合もある。前記の加圧条件の範囲であれば、加熱温度に達した時点では、分散溶媒の蒸散が完了した状態となる。一方、気相の圧力を1.4気圧〜10気圧の範囲、より好ましくは、2気圧〜10気圧の範囲とすることで、表面酸化皮膜の表面に、化学的な吸着状態(酸化銅との水素結合を介した配位状態)を達成する、第2アミン:NH(CH2R’)2の離脱を十分に抑制する効果が得られる。また、この加圧条件下では、圧力上昇を伴う反応は、抑制を受ける。上述する第二の機構、第一の機構は共に、還元反応が進行する間は、「還元剤」として使用する、水素分子(H2)から、水分子(H2O)が生成するため、実質的に圧力上昇を回避している。
【0075】
また、この加圧条件では、水素分子の分圧は、例えば、(20体積%、10気圧)では、2気圧以下となっており、第二の機構と比較して、上述する第一の機構の寄与を高くする目的にも適合する範囲となっている。
【0076】
一方、還元反応が完了すると、銅ナノ粒子表面の銅原子に配位的な結合を行っている、第2アミン:NH(CH2R’)2の離脱が徐々に進む際、10気圧以下の加圧条件は、顕著な抑制因子とはならない。
【0077】
配線パターンの描画は、表面に酸化銅被膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子を含む分散液を用いて実施できるため、その微細な描画特性は、従来の、金、銀のナノ粒子を利用する微細な配線パターン形成と遜色の無いものとなる。具体的には、形成される微細な配線パターンは、最小配線幅を、1〜50μmの範囲、実用的には、5〜50μmの範囲、対応する最小の配線間スペースを、1〜50μmの範囲、実用的には、5〜50μmの範囲に選択して、良好な線幅均一性・再現性を達成することができる。加えて、得られる配線層は、界面に酸化物皮膜の介在の無い、銅ナノ粒子の焼結体層となり、前記の最小配線幅における、その体積固有抵抗率も、10×10-6Ω・cm以下とすることができ、良好な導通特性を達成できる。また、銅薄膜の形成に応用する際には、形成される銅薄膜の平均膜厚は、2〜20μmの範囲、実用的には、3〜15μmの範囲に選択して、良好な表面平坦性と膜厚の均一性を高い再現性で達成することができる。
【0078】
加えて、形成される焼結体層は、銅自体は、エレクトロマイグレーションの少ない導電性材料であるので、上記の微細な配線パターンにおいても、エレクトロマイグレーションに起因する配線厚さの減少、断線の発生を抑制できる。
【0079】
また、還元処理、焼成処理工程における加熱処理温度は、還元処理に関与する、第2アミン(ジアルキルアミン)の反応性、また、「還元剤」として利用する水素分子の反応性を考慮して、適宜選択すべきものである。加熱時の加圧条件を、1.4気圧〜10気圧の範囲、特には、2気圧〜10気圧の範囲に選択する場合、少なくとも、300℃以下の範囲で、例えば、150℃以上、通常、200℃以上の範囲に選択することが好ましい。加えて、処理装置内に設置される基板自体の材質に応じた耐熱特性を満足する温度範囲内、300℃以下、例えば、200℃〜300℃の範囲に維持されるように、温度の設定・調節を行う。
【0080】
還元処理の進行速度は、前記の設定温度、「還元剤」として利用する、水素分子の分圧、加圧条件、添加されている第2アミンの種類などの条件に依存する。勿論、還元処理が完了するまでに要する時間は、銅ナノ粒子の表面に存在している表面酸化皮膜の厚さに依存している。これらの条件を考慮した上で、一般に、還元処理と焼成処理の時間合計は、10分間〜1時間の範囲、好ましくは、20分間〜1時間の範囲に選択することが可能である。具体的には、酸化銅ナノ粒子の平均粒子径、あるいは、銅ナノ粒子表面を覆う酸化銅被膜層の厚さを考慮した上で、その還元に要する時間を調整するため、設定温度、水素分子の分圧、加圧条件、添加されている第2アミンの種類を適宜選択する。
【0081】
本発明の方法では、第一の処理過程において、銅微粒子表面を覆う酸化銅被膜層を還元除去して、銅微粒子に復する。その時点では、銅微粒子の表面は、銅原子に対して、配位的な結合形成が可能な、孤立電子対を有する窒素原子を含んでいる第2アミン(ジアルキルアミン)によって、相当の部分が被覆された状態となっている。すなわち、上述する還元過程に関与する第2アミン(ジアルキルアミン)は、表面酸化皮膜層が一掃された後は、〔CuO…HN(CH2R’)2〕という形態ではなく、一旦は、〔Cu…NH(CH2R’)2〕という形態を構成する。しかし、その後、第二の処理過程では、徐々に、この配位的な結合を解消して、表面から第2アミン:HN(CH2R’)2の離脱が進行する。そして、銅ナノ粒子相互の接触が可能となり、銅ナノ粒子相互の焼結が進行する。
【0082】
実際には、塗布層中に含まれる銅ナノ粒子の表面に存在している表面酸化皮膜の厚さは、分布を有しているため、個々の銅ナノ粒子で、第一の処理過程が完了する時間には、有る程度のバラツキが生じる。しかしながら、塗布層全体として、上述する処理時間の間には、第一の処理過程を終え、第二の処理過程が十分に進行した状態となる。
【0083】
なお、第二の処理過程では、再生された銅ナノ粒子の表面の相当の部分を被覆している第2アミンの離脱とともに、銅ナノ粒子相互の焼結が進行する。その際、第2アミンの離脱速度は、処理を行う系内の加圧条件ならびに加熱温度に依存する。加熱時の加圧条件を、1.4気圧〜10気圧の範囲(1.4×103 hPa〜10×103 hPaの範囲)に選択する場合、少なくとも、300℃以下の範囲で、例えば、150℃以上、通常、200℃以上の範囲に選択すると、第2アミン(ジアルキルアミン)の離脱が十分に進行可能な条件となる。
【0084】
一方、分散溶媒、あるいは、付粘性成分として利用される炭化水素化合物は、ナノ粒子表面を被覆している表面酸化皮膜中のCuO、あるいは、部分的に存在しているCu表面とは、極弱い相互作用を示すのみである。そのため、加圧条件下、昇温過程において、分散溶媒、あるいは、付粘性成分として利用される炭化水素化合物の蒸散は、相対的に速やかに進行する。分散溶媒、あるいは、付粘性成分として利用される炭化水素化合物の蒸散が進むにつれて、単位面積当たりの塗布膜を形成するペースト状の分散液の体積が減少する。すなわち、加熱処理前の塗布膜の膜厚から、その膜厚の均一性を保ったまま、膜厚が徐々に低減する。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。これらの実施例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明はこれら実施例により限定を受けるものではない。
【0086】
(実施例1)
市販されている銅の超微粒子分散液(商品名:独立分散超微粒子パーフェクトカッパー真空治金(株))、具体的には、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子100質量部、アルキルアミンとして、ドデシルアミン(分子量185.36,沸点:248℃)15質量部、有機溶剤(分散溶媒)として、トルエン(沸点:110.6℃)75質量部を含む、平均粒径5nmの表面酸化被膜層を有する銅ナノ粒子の分散液を利用した。
【0087】
この分散液100質量部に、メタノール(沸点:64.65℃)100質量部を加える。極性溶媒のメタノールを加えると、含有されている表面に酸化皮膜を有する銅微粒子は沈降する。同時に、ドデシルアミンの大半は、メタノールによって溶離されて、混合溶媒中に溶解した状態となる。その後、沈降している表面に酸化皮膜を有する銅微粒子と、液相成分を、デカンテーテーション処理によって分離する。この段階では、沈降している、表面に酸化皮膜を有する銅微粒子は、残余する液相成分に浸されている状態となる。すなわち、容器の底に沈降している、表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の体積に対して、約2倍の体積の液相成分が残余した状態である。
【0088】
さらに、含有される銅微粒子80質量部当たり、アミン化合物として、ビス(2−エチルヘキシル)アミン(沸点:281℃)を4質量部、付粘性成分として、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素;沸点:300℃以上、50%蒸留性状 約450℃)を4質量部添加する。これらを混合した後、室温(25℃)において、減圧処理を施し、メタノール(沸点:64.65℃)ならびにトルエン(沸点:110.6℃)を除去する。攪拌して調製されたペーストに対して、その粘度を調整するため、チキソ剤もしくは希釈溶剤(テトラデカン:沸点 253.57℃)を加えて、その粘度をおよそ80Pa・sに調整する。
【0089】
なお、作製されるペーストの組成は、銅微粒子中の銅60質量部、(分散剤ドデシルアミンと残余するトルエン)20質量部、ビス(2−エチルヘキシル)アミン4質量部、流動パラフィン4質量部、希釈溶剤(テトラデカン)12質量部の比率である。作製されるペースト中に含有される、固形成分の銅微粒子と、他の有機物成分の体積比率は、1:6〜7となっている。
【0090】
[塗布層の形成、および還元・焼成処理条件]
基板表面上にペースト状の分散液を、幅0.3cm、長さ2cm、目標塗布層厚60μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成する。オートクレーブ内に、前記塗布層形成を終えた基板を設置した後、オートクレーブ内をアルゴン96%−水素4%ガスで満たし、還元ガス雰囲気下とする。該還元ガスの充填により、オートクレーブ内を常温(25℃=298K)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧する。加圧・封入状態のオートクレーブ内温度を、約1時間を要して、温度240℃(513K)まで加熱し、30分間保持する。なお、240℃に加熱時、オートクレーブ内の内圧は、約8.5気圧(8.5×103 hPa)まで上昇させている。その後、降温過程は、自然冷却による。なお、内部温度が、50℃以下に降下するのに、約45分間を要した。
【0091】
冷却後、オートクレーブ内壁には、多量の有機分が付着している。加圧条件下において、加熱を行う過程において、ペースト中に含有される溶剤成分(トルエン、テトラデカン)の揮発、ならびに、その他の有機物(アミン類、流動パラフィン)の離脱・気化が進行していると判断される。その際、沸点の低い溶剤成分は、加圧条件下では、大気圧下における沸点と比較すると、沸点が上昇しており、昇温過程で徐々に蒸散する。従って、塗布層の膜厚は、溶剤成分の蒸散に伴って、徐々に減少する。また、その他の有機物(アミン類、流動パラフィン)は、高い沸点を有しており、その蒸散は、さらに緩やかに進行する。従って、昇温過程において、含有されている有機物成分が急激に気化することはなく、全体の膜厚は、均一性を保ったまま、徐々に減少していると推定される。最終的に、形成される銅超微粒子焼結体層の膜厚は、ペースト塗布層の平均膜厚(実測値)に対して、およそ、1/5以下まで減少している。
【0092】
[銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率測定および断面観察]
得られた銅超微粒子焼結体層の形状は、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚10.6μmであった。この銅超微粒子焼結体層を、平均膜厚10.6μmを有する均一な薄膜層と見做して、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、6.1 μΩ・cmであった。
【0093】
本実施例で得られた銅超微粒子焼結体層に付いて、得られた焼結体層の微視的な構造をFIBで断面観察した。その結果、銅微粒子相互が密に焼結され、バルク状の緻密な焼結体層を形成していることが確認された。
【0094】
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例1において、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、下記のメカニズムによっていると推定される。
【0095】
表面酸化皮膜の最表面は、酸化銅(II):CuOの状態と考えられる。このCuOの還元は、系内に共存している、ビス(2−エチルヘキシル)アミンと水素分子(H2)が関与する下記の二段階のステップを介して、進行すると考えられる。
【0096】
(i) CuO+HN(CH2CH(C25)C492
→〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕+H2
(ii) 〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕+H2
→Cu+HN(CH2CH(C25)C492
まず、ステップ(i)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、ビス(2−エチルヘキシル)アミンが、>NH…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
【0097】
(i-1) CuO+HN(CH2R’)2→〔CuO…HN(CH2R’)2
その後、以下の部分還元が進行する。
【0098】
(i-2) 〔CuO…HN(CH2R’)2〕→〔>N・…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[・N(CH2R’)2]中、隣接する−CH2−の水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
【0099】
(i-3) 〔>N・…HOCu(I)〕
→〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕+H2
【0100】
【化5】

【0101】
その際、表面の生成される銅原子に対して、N(CH2R’)=CHR’分子は、その−HC=N−部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕となる。
【0102】
【化6】

【0103】
その状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素付加反応が進行する。すなわち、銅原子が、触媒中心として機能して、N(CH2R’)=CHR’分子は、その−HC=N−部分への水素付加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii)の水素付加反応によって、ビス(2−エチルヘキシル)アミンの再生が行われる。
【0104】
微視的には、表面で生成される銅原子Cu(0)の下層には、CuOが存在しているため、Cu(0)−O−Cu(II)は、Cuδ+−O−Cu(2-δ)+の状況にある。そのため、上述するπ−配位子型の配位を行った状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕を形成することが可能となっている。
【0105】
このステップ(i)+ステップ(ii)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
【0106】
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
【0107】
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i+ii)〜(iv)の素過程が繰り返される。
【0108】
さらには、CuOの還元は、系内に流動パラフィンの主要な構成成分であるアルキルナフテンが存在しているので、アルキルナフテン(例えば、C611−CH2−R)と水素分子(H2)が関与する下記の二段階のステップを介する過程も寄与していると考えられる。
【0109】
(i’) CuO+C611−CH2−R→〔C610=CH−R:Cu〕+H2
(ii’) 〔C610=CH−R:Cu〕+H2→Cu+C611−CH2−R
まず、ステップ(i’)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、シクロアルキル環上のメチン水素(>CH−CH2−R)が、>C(−CH2−R)−H…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
【0110】
(i’-1) CuO+>CH−CH2−R→〔>C(−CH2−R)−H…OCu〕
【0111】
【化7】

【0112】
その後、以下の部分還元が進行する。
【0113】
(i’-2) 〔>C(−CH2−R)−H…OCu〕→〔>C・(−CH2−R)…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[>C・(−CH2−R)]から、隣接するアルキル基(−CH2−R)のメチレン(−CH2−)から水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
【0114】
(i’-3) 〔>C・(−CH2−R)…HOCu(I)〕→〔>C=CH−R:Cu〕+H2
【0115】
【化8】

【0116】
その際、表面の生成される銅原子に対して、C610=CH−R分子は、そのC=C部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔C610=CH−R:Cu〕となる。
【0117】
【化9】

【0118】
その状態〔C610=CH−R:Cu〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素付加反応が進行する。すなわち、銅原子が、触媒中心として機能して、C610=CH−R分子は、そのC=C部分への水素付加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii’)の水素付加反応によって、アルキルナフテン(例えば、C611−CH2−R)の再生が行われる。
【0119】
微視的には、表面で生成される銅原子Cu(0)の下層には、CuOが存在しているため、Cu(0)−O−Cu(II)は、Cuδ+−O−Cu(2-δ)+の状況にある。そのため、上述するπ−配位子型の配位を行った状態〔C610=CH−R:Cu〕を形成することが可能となっている。
【0120】
このステップ(i’)+ステップ(ii’)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
【0121】
(i’+ii’) CuO+H2→Cu+H2
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
【0122】
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i’+ii’)〜(iv)の素過程も繰り返される。
【0123】
その際、反応系が加圧条件下に保たれているため、全体の圧力の上昇を回避する上記の反応が進行可能である。仮に、反応系が開放系であれば、生成するN(CH2R’)=CHR’分子、HCHO分子が気相に移行しても、圧力上昇が引き起こされない。その場合、ナノ粒子表面に生成する銅原子に対して、π−配位子型の配位を行った状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕、〔C610=CH−R:Cu〕に留まる比率は、極端に低下する。従って、ステップ(ii)、ステップ(ii’)の素過程の進行頻度は極端に少なくなる。一方、反応系を加圧条件下に保たれている場合、π−配位子型の配位を行った状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕、〔C610=CH−R:Cu〕に留まる比率は、高くなっている。その結果、上記のステップ(i+ii)〜(iv)の素過程、ステップ(i’+ii’)〜(iv)の素過程を繰り返させることが可能となっている。
【0124】
また、第2アミンであるHN(CH2CH(C25)C492を利用することによって、ステップ(i-3)において、二つのアルキル基のいずれから水素原子の移動が生じてもよい状態となっている。換言すると、立体配置に対する依存性が無く、ステップ(i)の反応性も高くなっている。結果的に、π−配位子型の配位を行った状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕を形成する効率を高く保つ効果が発揮されている。すなわち、第2アミン:HN(CH2R’)2を利用すると、隣接する炭素原子上からの水素原子の転移過程では、立体配置に対する依存性する反応性の低下要因がなくなっている。また、その後、銅原子上にπ−配位子型の配位を維持する際にも、立体障害による、効率の低下も回避される。
【0125】
一方、アルキルナフテン(例えば、C611−CH2−R)が関与する過程でも、ステップ(i’-3)において、水素原子の移動が速やかに進行する。また、立体障害を引き起こす原子団を内在していないため、π−配位子型の配位を行った状態〔C610=CH−R:Cu〕を形成する効率を高く保つ効果が発揮されている。但し、アルキルナフテン(例えば、C611−CH2−R)が関与する過程は、シクロアルキル環上のメチン水素(>CH−CH2−R)と、隣接するアルキル基(−CH2−R)のメチレン基(−CH2−)上の水素原子とがcis−配向を示す場合に起こる。そのような配向を示す頻度は制限されており、全体の還元反応に対する寄与がさほど高くない。
【0126】
銅の密度は、8.92g/cm3であるが、酸化銅(II)の密度は、6.31g/cm3であり、還元が完了すると、表面酸化皮膜を有する銅ナノ粒子の嵩は、最大、7/10まで減少する。付粘性成分として配合されている流動パラフィンは、沸点:300℃以上、50%蒸留性状 約450℃であり、上記還元処理の加熱を行った時点では、流動パラフィンの大部分、少なくとも、その高沸点(沸点:450℃以上に相当)成分は、蒸散せずに残余している。すなわち、銅ナノ粒子:6.7容当たり、流動パラフィンが、最大、4.4容、少なくとも、その流動パラフィン中の高沸点成分が、2.2容は残余している。従って、銅ナノ粒子:6.7容が最蜜充填状態に類する配置をとる際、銅ナノ粒子の間に存在する隙間空間:2〜4容を、残余している流動パラフィンのみでも、十分に充填可能な状態となっている。すなわち、加熱処理を進める間に、希釈溶媒(テトラデカン)が蒸散しても、付粘性成分として配合されている流動パラフィンによって、還元中の銅ナノ粒子は浸漬された状態に維持される。そのため、銅ナノ粒子を含む塗布層全体として、希釈溶媒(テトラデカン)の蒸散、還元に伴う銅ナノ粒子の嵩の減少が進行する間、乾燥による「ひび割れ」が入った形状となることが回避される。最終的には、還元された銅ナノ粒子相互の融着と、焼結が進行するが、得られる導電体層は、「ひび割れ」が存在しない、一体的に焼結体層を構成している状態となる。
【0127】
すなわち、配合されている流動パラフィンの最も重要な機能は、加熱処理を進める間、塗布膜中に含まれる銅ナノ粒子相互を蜜に繋ぎ止める「粘性」を具えた「バインダー成分」としての役割である。
【0128】
一方、ジアルキルアミンの相当部分は、加熱処理の間も、流動パラフィンと混和した状態で、塗布膜中に含まれる銅ナノ粒子表面の酸化皮膜を還元する過程を「触媒」している。このジアルキルアミンの蒸散に対しても、より高い沸点を示す、流動パラフィンと混和した状態を維持することによって、抑制されている。従って、塗布膜中に含まれる銅ナノ粒子全体の還元処理を速やかに行うことができる。
【0129】
(実施例2〜5)
実施例1で調製されるペースト状の分散液を用いて、平均塗布層厚さの種々に変更して、銅超微粒子焼結体層の作製を行った。なお、ペースト状の分散液の塗布後、還元・焼結処理の手順、条件は、実施例1に記載の条件に準じている。各実施例の還元・焼結処理条件を、表1に纏めて示す。作製された銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、体積固有抵抗率の測定も、実施例1に記載の条件に準じている。表1に、各実施例の平均塗布層膜厚、銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、ならびに、体積固有抵抗率の測定結果を纏めて示す。
【0130】
平均塗布層膜厚に対して、形成される銅超微粒子焼結体層の平均膜厚は、1/6〜1/5の範囲となっている。一方、形成される銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率の測定値は、若干のバラツキは見られるが、いずれも10μΩ・cm以下である。具体的には、7.1μΩ・cm〜5.7μΩ・cmの範囲、すなわち、6μΩ・cm程度となっている。形成される銅超微粒子焼結体層は、銅超微粒子相互が融着して、緻密なネットワーク状の導電経路を形成している。焼結体層を構成する銅超微粒子本来の平均粒径は、5nmであり、各銅超微粒子相互の融着部位は、平均粒径の1/4〜1/3程度のサイズであり、この狭い融着部位における「接触抵抗」に起因する、抵抗が、全体の抵抗値の大半を占める。銅自体の体積固有抵抗率1.673μΩ・cm(20℃)と対比すると、1/4程度の電気伝導性しか示さないが、前記の「接触抵抗」の影響を考慮すると、焼結体層全体としては、緻密なネットワーク状の導電経路を形成している結果、十分に高い導電性が達成されている。
【0131】
【表1】

【0132】
(実施例6,7)
実施例1に記載するペースト状の分散液の調製手順に準じて、実施例1における流動パラフィンの添加比率:含有される銅微粒子80質量部当たり、4質量部を、実施例6では、その1/2(2質量部)、実施例7では、1/4(1質量部)に変更して、ペースト状の分散液を調製している。
【0133】
すなわち、実施例6において作製されるペーストの組成は、銅微粒子60質量部、(分散剤ドデシルアミンと残余するトルエン)20質量部、ビス(2−エチルヘキシル)アミン5質量部、流動パラフィン(5/2)質量部、希釈溶剤(テトラデカン)10質量部の比率である。また、実施例7において作製されるペーストの組成は、銅微粒子60質量部、(分散剤ドデシルアミンと残余するトルエン)20質量部、ビス(2−エチルヘキシル)アミン5質量部、流動パラフィン(5/4)質量部、希釈溶剤(テトラデカン)10質量部の比率である。
【0134】
実施例6で作製されるペースト状の分散液では、「水素分子」を「還元剤」とする還元過程において、その還元のための加熱処理を完了した時点で、銅ナノ粒子:6.7容当たり、流動パラフィンが、最大、(5.6)/2容が、少なくとも、その流動パラフィン中の高沸点成分に相当する(2.8)/2容は、残余している。そのため、還元のための加熱処理の段階で、希釈溶媒(テトラデカン)が蒸散しても、ビス(2−エチルヘキシル)アミン、ならびに、付粘性成分として配合されている流動パラフィンの混合液によって、還元中の銅ナノ粒子は浸漬された状態に維持される。特に、銅ナノ粒子:6.7容当たり、流動パラフィンが(5.6)/2容浸潤している状態は、概ね、最蜜充填状態の銅ナノ粒子の間隙を流動パラフィンが占めている状態に相当している。
【0135】
結果的には、実施例6で作製されるペースト状の分散液を利用して形成される焼結体層では、流動パラフィンがバインダー成分として機能する結果、実施例1のペースト状の分散液で作製される焼結体層よりも、銅ナノ粒子はより高いパッキング状態が達成される。そのため、実施例6で得られる銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率は、実施例1で得られる銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率よりも、小さな値となっている。
【0136】
一方、実施例7で作製されるペースト状の分散液では、「水素分子」を「還元剤」とする還元過程において、その還元のための加熱処理を完了した時点で、銅ナノ粒子:6.7容当たり、流動パラフィンが、最大、(5.6)/4容が、少なくとも、その流動パラフィン中の高沸点成分に相当する(2.8)/4容は、残余している。特に、銅ナノ粒子:6.7容当たり、流動パラフィンが(5.6)/4容浸潤している状態では、最蜜充填状態の銅ナノ粒子の間隙の約1/2に相当する量しか、流動パラフィンが存在していない。従って、この流動パラフィン量では、バインダー成分として機能する流動パラフィンが、塗布層全体を連結することができない。その結果、銅ナノ粒子を含む塗布層全体として、希釈溶媒(テトラデカン)の蒸散、還元に伴う銅ナノ粒子の嵩の減少が進行する間、乾燥による「ひび割れ」が入った形状となる。最終的には、還元された銅ナノ粒子相互の融着と、焼結が進行するが、得られる導電体層では、さらに「ひび割れ」が拡大し、焼結体層は、「ひび割れ」部分で、断裂された状態となる。勿論、分断されている、個々の焼結体層の部分領域は、良好な導電性を示すは、「ひび割れ」部分で、断裂された状態となっているため、全体としては、導通が達成できないものとなっている。見かけ上、焼結体層中に、「クラック」が発生した状態となっている。
【0137】
下記の表2に、表2に纏めて示す。作製された銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、体積固有抵抗率の測定も、実施例1に記載の条件に準じている。表2に、各実施例の還元・焼結処理条件、配合された流動パラフィン量、さらには、各実施例の平均塗布層膜厚、銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、ならびに、体積固有抵抗率の測定結果を纏めて示す。
【0138】
配合される流動パラフィン量を最適化すると、銅ナノ粒子はより高いパッキング状態で焼結する状態を達成できる。一方、その最適な条件を超えて、配合される流動パラフィン量を低減させると、流動パラフィンによる「バインダー」効果が発揮されず、焼結体層中に、「クラック」が発生した状態となることが判る。
【0139】
【表2】

【0140】
(実施例8)
実施例1で調製されるペースト状の分散液を用いて、還元・焼結処理条件を変更して、銅超微粒子焼結体層の作製を行っている。なお、ペースト状の分散液の塗布後、還元・焼結処理の手順は、加熱処理温度を200℃に変更し、その温度で保持する処理時間を15分間に短縮している。また、昇温時の昇温速度、ならびに、降温時の降温速度に関しては、変更していないため、結果的に、昇温時間は、55分間と、降温時間は、35分間と、それぞれ短くなっている。また、加熱処理時の加圧条件は、加熱処理温度を200℃に変更したため、約7.5気圧(7.5×103 hPa)となっている。
【0141】
各実施例の還元・焼結処理条件を、表3に纏めて示す。作製された銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、体積固有抵抗率の測定も、実施例1に記載の条件に準じている。表3に、各実施例の平均塗布層膜厚、銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、ならびに、体積固有抵抗率の測定結果を纏めて示す。
【0142】
加熱処理温度を200℃に低下させ、また、処理時間も15分間と減少させているため、還元反応自体は、完了しているものの、残余している有機物成分の総量は増加している。その結果、焼結が開始する時点において、銅ナノ粒子相互のパッキング状態は、実施例1におけるパッキング状態よりも、若干、疎な状態となっている。同時に、焼結温度自体も200℃で実施しており、銅ナノ粒子相互の焼結部位の接触抵抗は若干高くなっている。すなわち、実施例8の還元・焼結処理条件で作製された銅超微粒子焼結体層で測定される、体積固有抵抗率は、11.1μΩ・cmとなっており、実施例1の銅超微粒子焼結体層で測定される、体積固有抵抗率より若干高い値となっている。
【0143】
【表3】

【0144】
(参考例1〜4)
実施例1に記載するペースト状の分散液の調製手順に準じて、実施例1において、ジアルキルアミンとして配合している、ビス(2−エチルヘキシル)アミン(沸点:281℃)に代えて、参考例2では、トリス−2エチルヘキシルアミン(T−2EHAm;沸点:178℃)を、参考例3では、トリス−ブチルアミン(T−BAm;沸点:2148℃)を用い、一方、参考例4では、アミンを配合しない条件で、それぞれ、ペースト状の分散液を調製している。さらに、実施例1において、ジアルキルアミンとして配合している、ビス(2−エチルヘキシル)アミン(沸点:281℃)に代えて、参考例1では、ビス−ブチルアミン(D−BAm;沸点:161℃)を用いて、ペースト状の分散液を調製している。
【0145】
その際、参考例2、参考例3、参考例1のペースト状の分散液は、配合するアミンの種類は異なるが、それ以外の点に関しては、ペースト状の分散液の組成は、実施例1と本質的に同じとされている。一方、参考例4のペースト状の分散液の組成は、銅微粒子60質量部、(分散剤ドデシルアミンと残余するトルエン)20質量部、流動パラフィン5質量部、希釈溶剤(テトラデカン)10質量部の比率である。
【0146】
参考例2〜参考例4、ならびに参考例1で調製されるペースト状の分散液を用いて、それぞれ、実施例8に記載する還元・焼結処理条件を用いて、銅超微粒子焼結体層の作製を行っている。
【0147】
実施例8、参考例2〜参考例4、ならびに参考例1の還元・焼結処理条件を、配合しているアミンの種類と沸点を、表4に纏めて示す。作製された銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、体積固有抵抗率の測定は、実施例1に記載の条件に準じている。表4に、実施例8、参考例2〜参考例4、ならびに参考例1で作製される銅超微粒子焼結体層の平均塗布層膜厚、銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、ならびに、体積固有抵抗率の測定結果を纏めて示す。
【0148】
ペースト状の分散液中に配合するジアルキルアミンに代えて、トリアルキルアミンを配合している参考例2、3においては、銅超微粒子焼結体層の作製はなされているが、その体積固有抵抗率は、実施例8と比較し、約3倍以上となっている。また、ジアルキルアミンを配合していない、参考例4においても、焼結体層の作製はなされているが、その体積固有抵抗率は、実施例8と比較し、約10倍以上となっている。
【0149】
一方、ペースト状の分散液中に配合するジアルキルアミンとして、加熱処理温度よりも有意に低い沸点を示すビス−ブチルアミンを配合している、参考例1では、銅超微粒子焼結体層の作製はなされているが、その体積固有抵抗率は、実施例8と比較し、約2倍となっている。但し、参考例1で作製される銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率を、比較例2の値と比較すると、少なくとも、1/3程度となっている。
【0150】
従って、ペースト状の分散液中に、ジアルキルアミンを配合することで、上記の還元過程を経て、「水素分子」を還元剤とする酸化銅(II)の還元が速やかに進行することが確認される。その際、利用する加熱処理温度よりも、沸点が有意に低いジアルキルアミンを配合すると、昇温の過程で、かかるジアルキルアミンの蒸散が進行する結果、実際の還元処理において、利用可能なジアルキルアミンの残留量は僅かになっていると推定される。その結果、配合されているジアルキルアミンが関与する還元過程の進行速度が実効的に低下されている。その影響によって、参考例1で作製されている銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率は、実施例8の値よりも、高くなっていると推断される。
【0151】
従って、利用する加熱処理温度よりも、沸点が高い、ビス(2−エチルヘキシル)アミン(沸点:281℃)を利用すると、より好ましい結果が得られている。
【0152】
【表4】

【0153】
(実施例9、10)
実施例1に記載するペースト状の分散液の調製手順に準じて、実施例1において、付粘性成分として配合している、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素;沸点:300℃以上 50%蒸留性状 約450℃)に代えて、実施例9では、イソパラフィン(分岐炭化水素;水素添加ポリブテン(イソブテン/ブテン共重合体):50%蒸留性状 約233℃)を、実施例10では、イソパラフィン(50%蒸留性状 約316℃)を用いて、それぞれ、ペースト状の分散液を調製している。
【0154】
実施例9、ならびに実施例10で調製されるペースト状の分散液を用いて、それぞれ、実施例8に記載する還元・焼結処理条件を用いて、銅超微粒子焼結体層の作製を行っている。
【0155】
実施例9、ならびに実施例10の還元・焼結処理条件、配合しているイソパラフィンの「50%蒸留性状の温度」を、表5に纏めて示す。作製された銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、体積固有抵抗率の測定は、実施例1に記載の条件に準じている。表5に、実施例9、ならびに実施例10で作製される銅超微粒子焼結体層の平均塗布層膜厚、銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、ならびに、体積固有抵抗率の測定結果を纏めて示す。
【0156】
ペースト状の分散液中に配合する流動パラフィンに代えて、イソパラフィン(50%蒸留性状 約233℃)を配合している実施例9においては、作製される銅超微粒子焼結体層には、「クラック」が多発している。発生した「クラック」は、前記実施例7において発生する「クラック」と同様なものである。すなわち、この比較的に沸点が低いイソパラフィン(50%蒸留性状 約233℃)は、加熱処理温度を200℃に選択する条件でも、その昇温段階で、その蒸散が進み、加熱処理温度に達する時点では、残留するイソパラフィン量は、相当低減していると推定される。
【0157】
一方、ペースト状の分散液中に配合する流動パラフィンに代えて、イソパラフィン(50%蒸留性状 約316℃)を配合している実施例10においては、作製される銅超微粒子焼結体層には、「クラック」の発生は見出せない。すなわち、この比較的に沸点が高いイソパラフィン(50%蒸留性状 約316℃)は、加熱処理温度を200℃に選択する条件では、その昇温段階で、その蒸散が僅かに進むのみである。従って、加熱処理温度に達する時点で、塗布膜中に残留するイソパラフィン量は、当初の配合量より若干減少すると推定される。
【0158】
従って、実施例10で作製される銅超微粒子焼結体層は、実施例8で作製される銅超微粒子焼結体層と比較し、体積固有抵抗率はより低い値となっている。
【0159】
【表5】

【0160】
(実施例11〜14)
実施例1に記載するペースト状の分散液の調製手順に準じて、実施例1において、付粘性成分として配合している、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素;沸点:300℃以上 50%蒸留性状 約450℃)に代えて、実施例11〜14では、別種の流動パラフィンを用いて、それぞれ、ペースト状の分散液を調製している。付粘性成分として配合する流動パラフィンの種類と「50%蒸留性状 温度」は、それそれ、実施例11は、P−55(50%蒸留性状 約375℃)、実施例12は、P−70(50%蒸留性状 約393℃)、実施例13は、P−85(50%蒸留性状 約410℃)、実施例14は、P−120(50%蒸留性状 約425℃)である。
【0161】
実施例11〜実施例14で調製されるペースト状の分散液を用いて、それぞれ、実施例8に記載する還元・焼結処理条件を用いて、銅超微粒子焼結体層の作製を行っている。
【0162】
実施例11〜実施例14の還元・焼結処理条件、配合している流動パラフィンの種類、「50%蒸留性状の温度」を、表6に纏めて示す。作製された銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、体積固有抵抗率の測定は、実施例1に記載の条件に準じている。表6に、実施例11〜実施例14で作製される銅超微粒子焼結体層の平均塗布層膜厚、銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、ならびに、体積固有抵抗率の測定結果を纏めて示す。
【0163】
ペースト状の分散液中に配合する流動パラフィンの「50%蒸留性状の温度」は、いずれも350℃以上であり、加熱処理温度を200℃に選択する条件でも、その昇温段階で、低沸点の成分の蒸散は進み、加熱処理温度に達する時点では、残留する流動パラフィン量は、若干減少していると推定される。また、「50%蒸留性状の温度」が低いものほど、残留する流動パラフィン量は少なくなっている。但し、「50%蒸留性状の温度」は、いずれも350℃以上であり、残留する流動パラフィン量は、少なくとも、含有される銅微粒子80質量部当たり、2質量部以上である。
【0164】
残留する流動パラフィン量と、作製される銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率を対比させると、残留する流動パラフィン量が、含有される銅微粒子80質量部当たり、2質量部以上4質量部以下の範囲では、残留する流動パラフィン量はより少なくなっている、実施例11の体積固有抵抗率が最も低い値を示している。恐らく、残留する流動パラフィン量が多い場合、焼結過程において、銅ナノ粒子が最蜜充填状態に類する凝集を起こす際、余剰な流動パラフィン量が反って、阻害要因となることを示唆している。
【0165】
【表6】

【0166】
(実施例15〜18)
実施例1に記載するペースト状の分散液の調製手順に準じて、付粘性成分として配合している、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素;沸点:300℃以上 50%蒸留性状 約450℃)の配合量を変えて、実施例16では、ペースト状の分散液を調製している。含有される銅微粒子80質量部当たり、付粘性成分として配合する流動パラフィンの配合量は、実施例16は、3質量部である。
【0167】
すなわち、実施例16で作製されるペーストの組成は、銅微粒子60質量部、(分散剤ドデシルアミンと残余するトルエン)20質量部、ビス(2−エチルヘキシル)アミン5質量部、流動パラフィン(15/4)質量部、希釈溶剤(テトラデカン)10質量部の比率である。
【0168】
実施例15では、実施例1で調製されるペースト状の分散液を、実施例17では、実施例6で調製されるペースト状の分散液を、実施例18では、実施例7で調製されるペースト状の分散液を、それぞれ用いている。
【0169】
実施例15〜実施例18では、前記のペースト状の分散液を利用して、100%水素ガス雰囲気下、加熱処理温度を200℃に選択して、銅超微粒子焼結体層の作製を行っている。なお、各実施例の還元・焼結処理条件、ペースト状の分散液に配合されている流動パラフィンの量を、表7に纏めて示す。作製された銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、体積固有抵抗率の測定も、実施例1に記載の条件に準じている。表7に、各実施例の平均塗布層膜厚、銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、ならびに、体積固有抵抗率の測定結果を纏めて示す。
【0170】
実施例8においては、Ar/H2(4%)混合ガスの還元ガス雰囲気を使用しているが、実施例15では、100%水素ガス雰囲気を使用している。実施例15で作製された銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率は、7.1μΩ・cmとなっている。
【0171】
一方、実施例7で調製されるペースト状の分散液を使用して、実施例18で作製された銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率の評価結果は、307μΩ・cmとなっている。この実施例18で作製された銅超微粒子焼結体層を観察したところ、実施例7で作製された銅超微粒子焼結体層と同様に、「クラック」の発生が確認されている。すなわち、「クラック」の発生によって、導通経路が寸断されている結果、見かけ上、高い体積固有抵抗率を示していることが判明した。
【0172】
上記の還元・焼成処理条件においては、含有される銅微粒子80質量部当たり、付粘性成分として配合する流動パラフィンの配合量を3質量部に選択している、実施例16のペースト状の分散液を使用する際に、最も低い体積固有抵抗率が得られている。
【0173】
実施例16で作製されるペースト状の分散液では、「水素分子」を「還元剤」とする還元過程において、その還元のための加熱処理を完了した時点で、銅ナノ粒子:6.7容当たり、流動パラフィンが、最大、3・(5.6)/4容が、少なくとも、その流動パラフィン中の高沸点成分に相当する3・(2.8)/4容は、残余している。そのため、還元のための加熱処理の段階で、希釈溶媒(テトラデカン)が蒸散しても、ビス(2−エチルヘキシル)アミン、ならびに、付粘性成分として配合されている流動パラフィンの混合液によって、還元中の銅ナノ粒子は浸漬された状態に維持される。特に、銅ナノ粒子:6.7容当たり、流動パラフィンが、{3・(5.6)/4+3・(2.8)/4}/2=9・(2.8)/8容浸潤している状態は、まさに、最蜜充填状態の銅ナノ粒子の間隙を流動パラフィンが占めている状態に相当している。
【0174】
すなわち、還元処理が終了し、焼成処理に移行する際、最蜜充填状態の銅ナノ粒子の間隙を流動パラフィンが丁度占めている状態となっていると、最終的に形成される銅超微粒子焼結体層は、最も緻密に銅ナノ粒子相互が接触している状態となる。その状態で焼成が進行すると、得られる銅超微粒子焼結体層の導電性は最も優れたものとなる。
【0175】
【表7】

【0176】
(実施例19、20)
実施例19,20では、実施例1で調製されるペースト状の分散液を用いて、還元・焼結処理を100%水素ガス雰囲気下、加熱処理温度を200℃に選択して、加熱処理時の加圧条件を変えて、銅超微粒子焼結体層の作製を行っている。なお、各実施例の還元・焼結処理条件、ペースト状の分散液に配合されている流動パラフィンの量を、表8に纏めて示す。作製された銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、体積固有抵抗率の測定も、実施例1に記載の条件に準じている。表8に、各実施例の平均塗布層膜厚、銅超微粒子焼結体層の平均膜厚、ならびに、体積固有抵抗率の測定結果を纏めて示す。
【0177】
加熱処理時の圧力は、実施例15では、7.5kg/cm2(7.5×103 hPa)であるが、実施例19では、3.5kg/cm2(3.5×103 hPa)、実施例20では、2.5kg/cm2(2.5×103 hPa)となっている。すなわち、加熱処理時の水素ガス分圧は、実施例15では、7.5kg/cm2(7.5×103 hPa)であるが、実施例19では、3.5kg/cm2(3.5×103 hPa)、実施例20では、2.5kg/cm2(2.5×103 hPa)となっている。
【0178】
その際、塗布膜層中に含まれる、ジアルキルアミン、流動パラフィンは、昇温過程中に、その一部蒸散する。その蒸散速度は、温度と、気相の圧力に依存しており、加熱処理時の温度が同じ場合、気相の圧力が低下していると、蒸散速度が増す。従って、実施例15と比較し、実施例19においては、昇温過程中おける、ジアルキルアミン、流動パラフィンの蒸散量は増している。さらに、実施例20では、実施例19と比較して、昇温過程中おける、ジアルキルアミン、流動パラフィンの蒸散量は増している。
【0179】
還元処理が終了し、焼結処理に移行する時点において、塗布膜層中に残余している流動パラフィンの量を考えると、実施例15における流動パラフィンの残留量と比較し、実施例19、実施例20における流動パラフィンの残留量は少なくなっている。
【0180】
実施例15で作製される銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率と比較し、実施例19、実施例20で作製される銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率は、いずれも低減している。この現象は、実施例15で作製される銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率と比較し、実施例16で作製される銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率が低減している状況と類似している。従って、実施例19、実施例20における、体積固有抵抗率の低減も、焼結処理に移行する時点において、塗布膜層中に残余している流動パラフィンの量の差違に起因していると推定される。すなわち、実施例19、実施例20においては、焼結処理に移行する時点において、塗布膜層中に残余している流動パラフィンの量は、実施例16の場合と同程度となっていると推定される。還元処理が終了し、焼成処理に移行する際、最蜜充填状態の銅ナノ粒子の間隙を流動パラフィンが丁度占めている状態となっていると、最終的に形成される銅超微粒子焼結体層は、最も緻密に銅ナノ粒子相互が接触している状態となる。その状態で焼成が進行すると、得られる銅超微粒子焼結体層の導電性は最も優れたものとなる。
【0181】
一方、実施例19、実施例20においては、ジアルキルアミンとして配合している、ビス(2−エチルヘキシル)アミンに関しても、蒸散量は増しているが、残留しているビス(2−エチルヘキシル)アミンの量は、上記する触媒反応的な経路を経る還元過程を推進する上では、十分な量となっていると判断される。その際、実施例19、実施例20においては、実施例15と比較すると、水素ガス分圧は、減少しているが、Ar/H2(4%)混合ガスの還元ガス雰囲気を使用している、実施例8と比較すると、十分に高いものとなっている。その結果、上記の触媒反応的な経路を経る還元過程を利用しているため、残留しているビス(2−エチルヘキシル)アミンの量の減少があっても、全体の還元反応を完了することが可能となっている。
【0182】
なお、実施例19と実施例20の間における、体積固有抵抗率の差違は、実施例20における流動パラフィンの残留量は、焼成処理に移行する際、最蜜充填状態の銅ナノ粒子の間隙を流動パラフィンが丁度占めている状態により適合しており、最終的に形成される銅超微粒子焼結体層は、最も緻密に銅ナノ粒子相互が接触している状態となっていることを示唆している。
【0183】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明にかかる銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法、ならびに、該方法を応用した微細な銅系配線パターンの形成方法、あるいは銅薄膜の形成方法は、電子機器における電子部品の実装に利用されるプリント配線基板を作製する際、例えば、配線の配線幅は50μm以下、かつ配線間スペースは50μm以下である微細な回路パターン用の導電体層の作製に好適に利用できる。特には、形成される膜厚が20μm以下、5μmまでの範囲に適用する際、体積固有抵抗率が10μΩ・cm程度である優れた電導性を有する銅微粒子焼結体型の微細形状導電体層を、高い再現性と生産性で作製可能な手段として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に銅ナノ粒子相互の焼結体層からなる微細な銅系配線パターンを形成する方法であって、
平均粒子径を1〜100nmの範囲に選択される、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子を含有する分散液を用いて、前記微細な配線パターンの塗布層を基板上に描画する工程と、
前記塗布層中に含まれる、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子に対して、表面酸化膜層または酸化銅を還元する処理を施し、さらに、還元処理を受けたナノ粒子の焼成を行って、焼結体層を形成する工程とを有し、
同一工程内で実施される、前記還元処理と焼成処理は、加熱温度を、150℃以上、300℃以下に選択して、水素ガス雰囲気下、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気下において、少なくとも1.1気圧以上に加圧された状態において行う
ことを特徴とする微細な銅系配線パターンの形成方法。
【請求項2】
分散液中に含有される、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子は、
少なくとも、前記表面酸化膜層は、酸化第一銅、酸化第二銅、またはこれら銅酸化物の混合物のいずれかを含んでなり、
また、該銅ナノ微粒子は、酸化第一銅、酸化第二銅、またはこれら銅の酸化物の混合物、ならびに金属銅のうち、2つ以上を含んでなる混合体状粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元処理と焼成処理における、水素ガス雰囲気、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気は、水素分子の含有率は、1体積%〜100体積%の範囲に選択されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記還元処理と焼成処理における、水素分子を含有する混合気体の雰囲気は、
水素分子と、不活性気体の混合物であり、
該不活性気体は、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、あるいは、それらの二種以上を混合したものである
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記還元処理と焼成処理において、
前記加熱温度に達した際、気相の圧力を1.4気圧〜10気圧の範囲とする加圧状態を達成している
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、ジアルキルアミンが、2質量部〜20質量部の範囲で含有されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ジアルキルアミンは、二つのアルキル基は、炭素数5以上、9以下の範囲のジアルキルアミンから選択されている
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、トリアルキルアミンが、2質量部〜20質量部の範囲で含有されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記トリアルキルアミンは、含まれるアルキル基は、炭素数4以上、9以下の範囲に選択されている
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、
付粘性成分として、沸点が150℃以上の、粘性を有する炭化水素溶媒が、20質量部〜2質量部の範囲で含有されている
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
付粘性成分として含有される、前記沸点が150℃以上の、粘性を有する炭化水素溶媒は、流動パラフィン、イソパラフィン、鉱物油、化学合成油、植物油からなる炭化水素溶媒から選択される一種、または、二種以上を混合したものである
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。

【公開番号】特開2008−146991(P2008−146991A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332126(P2006−332126)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】