説明

銅箔及びその製造方法、並びにTABテープ

【課題】
スズめっき層をフュージング処理してもボイドが発生し難く、且つエッチング性が良い銅箔を提供すること。
【解決手段】
未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔。電解液としてClイオン濃度が2.0mg/l以下、タンパク質濃度が0.5mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解する銅箔の製造方法。未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満で、該未処理銅箔の両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面が、該表面をX線回折分析して得られた回折線のうち(200)面の回折線の相対ピーク強度をI(200)、(111)面の回折線の相対ピーク強度をI(111)としたときに前記I(200)を前記I(111)で除して算出される相対強度比I(200)/I(111)が0.20以下である銅箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔及びその製造方法、並びにTABテープ及びその製造方法に関し、詳しくはTABテープ製造用銅箔及びその製造方法、並びにTABテープ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
TAB(Tape Automated Bonding)方式は、ICやLSI等の半導体素子の実装の自動化及び高速化を図る技術である。TAB方式は、具体的には、長尺状等のポリイミド等の可撓性絶縁フィルムに接着した銅箔をエッチングして該フィルム上にインナーリード及びアウターリードを含む銅リードを形成したTABテープを用い、基板のパッドと上記アウターリードのパッド、上記インナーリードのパッドと半導体素子のパッドとを、一括接続することにより、基板と半導体素子とを接続するものである。なお、本発明においてTAB方式とは、可撓性絶縁フィルムにデバイスホールを形成する通常のTAB方式に加え、可撓性絶縁フィルムにデバイスホールを形成しない以外は通常のTAB方式と同様であるCOF(Chip On Film)方式をも含む概念を意味する。従って、本発明においてTABテープは、COF方式で用いられるCOFテープをも含む概念で用いる。
【0003】
上記TABテープにおいて、上記インナーリードのパッドと半導体素子のパッドとの接続や上記アウターリードのパッドと基板のパッドとの接続は、はんだボール等のはんだ材料を介在させることにより行う。このため、インナーリードやアウターリードのパッドは、はんだ材料との濡れ性に優れたものであることが好ましく、通常は、インナーリードやアウターリードのパッドの表面にはんだとの濡れ性のよいスズめっきが施されている。なお、スズめっきは、インナーリードやアウターリードを形成する銅の表面酸化を抑制する効果も有するものである。
【0004】
しかし、銅リードに形成したスズめっき皮膜は、特に処理をしないと、時間経過と共に皮膜表面からひげ状の針状結晶からなるスズウィスカーが発生して回路の短絡の原因になる。このため、通常は、スズめっき皮膜に熱処理(フュージング処理)を行ってスズウィスカーの発生しないスズめっき皮膜を形成している。
【0005】
ところが、このようにフュージング処理を行うと、銅層とスズめっき層との界面にカーケンドール効果により形成されると思われるボイドが発生し易い。しかも、該ボイドは、原因は不明であるが種々ある低粗度箔のうち一部の種類のものに発生し易いことが判っていた。このため、このような種類の低粗度箔は、従来のような回路幅が大きいTABテープ用の銅箔としては十分な信頼性があり問題なく用いることができたものの、近年のようにファインピッチ化の要請により回路幅が小さくなったTABテープ用の銅箔としてはフュージング処理に対する回路の信頼性が十分でないため、使用し難くなってきている。
【0006】
これに対し、特許文献1(特開2002−16111号公報)には、銅箔の少なくとも光沢面側にニッケル、コバルト及びモリブデンからなる合金層を有するTABテープに用いる銅箔が開示されている。該銅箔を用いれば、信頼性の高いSnホイスカ及びカーケンドールボイドの抑制効果を有するTABテープが得られる。
【0007】
【特許文献1】特開2002−16111号公報(第2頁第1欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、銅表面にニッケル、コバルト及びモリブデンからなる合金層を形成するため、これら異種金属からなる合金層が回路形成時における銅箔のエッチング性を悪化させるという問題があった。
【0009】
従って、本発明の目的は、スズめっき層をフュージング処理してもボイドが発生し難く、且つエッチング性が良い銅箔を提供することにある。また、本発明の他の目的は、スズめっき層をフュージング処理してもボイドが発生し難いTABテープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情において、本発明者は鋭意検討を行った結果、所定の物性を有する銅箔を用いると、該銅箔の表面又は両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面に形成されるスズめっき層をフュージング処理してもボイドが発生し難くなることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者は、該銅箔を用いて作製したTABテープは、該銅箔から形成された銅回路上に形成されるスズめっき層をフュージング処理してもボイドが発生し難くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満であることを特徴とする銅箔を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔の製造方法であって、電解液としてClイオン濃度が0.5mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解することを特徴とする銅箔の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、本発明(2)において、前記硫酸−硫酸銅水溶液は、Cu2+イオン濃度が40g/l〜120g/l、フリーSO2−イオン濃度が100g/l〜200g/lであることを特徴とする銅箔の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔の製造方法であって、電解液としてClイオン濃度が2.0mg/l以下、タンパク質濃度が0.5mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解することを特徴とする銅箔の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、本発明(4)において、前記硫酸−硫酸銅水溶液は、Cu2+イオン濃度が40g/l〜120g/l、フリーSO2−イオン濃度が100g/l〜200g/lであることを特徴とする銅箔の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(6)は、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔の製造方法であって、電解液として、活性炭処理して得られる、Clイオン濃度が10mg/l〜50mg/l、タンパク質濃度が0.2mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解することを特徴とする銅箔の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(7)は、本発明(6)において、前記硫酸−硫酸銅水溶液は、Cu2+イオン濃度が40g/l〜120g/l、フリーSO2−イオン濃度が100g/l〜200g/lであることを特徴とする銅箔の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(8)は、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満で、該未処理銅箔の両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面が、該表面をX線回折分析して得られた回折線のうち(200)面の回折線の相対ピーク強度をI(200)、(111)面の回折線の相対ピーク強度をI(111)としたときに前記I(200)を前記I(111)で除して算出される相対強度比I(200)/I(111)が0.20以下であることを特徴とする銅箔を提供するものである。
【0019】
また、本発明(9)は、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満で、該未処理銅箔の両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面が、該表面をX線回折分析して得られた回折線のうち(200)面の回折線の相対ピーク強度をI(200)、(111)面の回折線の相対ピーク強度をI(111)としたときに前記I(200)を前記I(111)で除して算出される相対強度比I(200)/I(111)が0.20以下である銅箔の製造方法であって、電解液としてClイオン濃度が1.0mg/l〜2.0mg/l、タンパク質濃度が0.2mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解することを特徴とする銅箔の製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(10)は、本発明(9)において、前記硫酸−硫酸銅水溶液は、Cu2+イオン濃度が40g/l〜120g/l、フリーSO2−イオン濃度が100g/l〜200g/lであることを特徴とする銅箔の製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明(11)は、本発明(1)に記載の銅箔を用いて形成したことを特徴とするTABテープを提供するものである。
【0022】
また、本発明(12)は、本発明(8)に記載の銅箔を用いて形成したことを特徴とするTABテープを提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明(1)に係る銅箔は、Cl含有量の低い未処理銅箔を用いることにより、該銅箔の表面にスズめっき層を形成後、フュージング処理してもボイドが発生し難いから、TABテープ製造用銅箔として好適である。
【0024】
本発明(2)、本発明(4)又は本発明(6)に係る銅箔の製造方法によれば、本発明(1)に係る銅箔を効率よく製造することができる。
【0025】
また、本発明(3)に係る銅箔の製造方法によれば、本発明(2)に係る銅箔の製造方法に比べて、より効率よく本発明(1)に係る銅箔を製造することができる。
【0026】
また、本発明(5)に係る銅箔の製造方法によれば、本発明(4)に係る銅箔の製造方法に比べて、より効率よく本発明(1)に係る銅箔を製造することができる。
【0027】
また、本発明(7)に係る銅箔の製造方法によれば、本発明(6)に係る銅箔の製造方法に比べて、より効率よく本発明(1)に係る銅箔を製造することができる。
【0028】
本発明(8)に係る銅箔は、Cl含有量が低く、且つ、両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面が、該表面をX線回折分析して得られた回折線の相対強度比I(200)/I(111)が特定範囲内にある未処理銅箔を用いるから、本発明(1)に係る銅箔の奏する効果に加え、特に相対強度比I(200)/I(111)が特定範囲内にある銅箔表面においてボイドが発生し難くなり、該表面にスズめっき層を形成する構成のTABテープ製造用銅箔として好適である。
【0029】
本発明(9)に係る銅箔の製造方法によれば、本発明(8)に係る銅箔を効率よく製造することができる。
【0030】
また、本発明(10)に係る銅箔の製造方法によれば、本発明(9)に係る銅箔の製造方法に比べて、より効率よく本発明(8)に係る銅箔を製造することができる。
【0031】
本発明(11)に係るTABテープは、本発明(1)に係る銅箔を用いて形成することにより、該銅箔から形成された回路の表面にスズめっき層を形成後、フュージング処理してもボイドが発生し難い。
【0032】
本発明(12)に係るTABテープは、本発明(8)に係る銅箔を用いて形成することにより、本発明(11)に係るTABテープの奏する効果に加え、特に相対強度比I(200)/I(111)が特定範囲内にある銅箔表面が回路の表面となる構成のTABテープにおいてよりボイドが発生し難くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[本発明に係る銅箔]
本発明に係る銅箔は、未処理銅箔中のCl含有量が特定範囲内にある銅箔(以下、「第1の銅箔」ともいう)、及び未処理銅箔中のCl含有量が特定範囲内にあって、該未処理銅箔の両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面の上記相対強度比I(200)/I(111)が特定範囲内にある銅箔(以下、「第2の銅箔」ともいう)を含む。以下、これらを分けて説明する。
【0034】
(第1の銅箔)
まず、第1の銅箔について説明する。第1の銅箔は、未処理銅箔中のCl含有量が特定範囲内にある。ここで未処理銅箔とは、コブ処理、ヤケめっき等の粗化処理を行う前の状態にある全ての銅箔を含む意味で用いる。すなわち、本発明において、未処理銅箔は、粗化処理前に研磨処理等の処理が行われたもの等も含む概念であり、例えば、未処理銅箔が電解銅箔であれば、電解製造後且つ粗化処理前に機械研磨や化学研磨等の研磨処理を行うことにより粗面の粗度を低下させたものも、本発明における未処理銅箔に該当する。第1の銅箔における未処理銅箔としては、未処理電解銅箔でも未処理圧延銅箔でもよく、特に限定されない。
【0035】
第1の銅箔において、未処理銅箔の物性は、銅箔中のCl含有量が後述のように特定範囲内にあるものであればよく、常態及び熱間における抗張力、常態及び熱間における伸び、硬さ、結晶粒の大きさ並びに銅の結晶の配向性等に、特に限定されるものではない。すなわち、第1の銅箔は、例えば、IPC規格IPC−MF−150のグレード1〜グレード3に記載のいずれの電解銅箔であってもよいし、グレード5又はグレード6に記載のいずれの圧延銅箔であってもよい。
【0036】
また、未処理銅箔は、表面粗度について特に限定されるものではなく、粗度の高い銅箔から低粗度銅箔までのいずれであってもよい。なお、第1の銅箔において低粗度銅箔とは、圧延銅箔にあっては全ての圧延銅箔、電解銅箔にあっては、電解製造直後の厚さ18μmの銅箔、すなわち電解製造後に表面粗度を変化させる研磨処理等を何ら行わない厚さ18μmの銅箔において粗面の粗度RzJISが3.5μm以下になる組成及び結晶構造を有する未処理電解銅箔、並びに、電解製造後に表面粗度を変化させる研磨処理等を行った銅箔であって銅箔の厚さにかかわらず粗面の粗度RzJISが3.5μm以下になっている未処理電解銅箔のいずれも含む意味で用いる。本明細書において粗度RzJISとは、JIS B0601−2001に規定される十点平均粗さを意味する。
【0037】
なお、未処理電解銅箔が、電解製造直後の厚さ18μmの銅箔において粗面の粗度RzJISが3.5μm以下になる組成及び結晶構造を有するものである場合、該未処理電解銅箔の粗面の粗度RzJISが未処理電解銅箔の厚さにほぼ比例して増減する。このため、該未処理電解銅箔の厚さが18μmより大きい場合、例えば35μmである場合には、粗面の粗度RzJISが上記のように3.5μm以下にならないこともある。しかし、このような場合でも、未処理電解銅箔の電解条件のうち電解時間以外の電解条件、例えば電解液組成及び電流密度が同様である場合は、電解銅箔の厚さの差異に関わらず未処理電解銅箔自体の組成及び結晶構造はほぼ同様であるため、本発明においては未処理の低粗度電解銅箔と判断する。
【0038】
第1の銅箔は、該未処理銅箔中のCl含有量が、30ppm未満、好ましくは20ppm未満、さらに好ましくは10ppm未満である。Cl含有量が該範囲内にあると、スズめっき後のフュージング処理でボイドが発生し難いため好ましい。
【0039】
第1の銅箔は、Cu以外の金属成分やCl以外の元素、例えばC、N等を、これら元素の含有量の合計量の重量基準で、通常200ppm以下、好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下含有していてもよい。
【0040】
第1の銅箔は、必要により、銅箔表面のいずれか又は両方に防錆処理を行ってもよい。該防錆処理を行うと、銅箔を製造してからTABテープのポリイミド等の可撓性絶縁フィルムに接着するまでの間の防錆性がよくなるため好ましい。ただし、該防錆処理は、TABテープの製造の際の表面へのスズめっきの障害にならない組成、厚さのものであることが必要である。
【0041】
防錆処理としては、無機防錆処理又は有機防錆処理のいずれか又は両方が挙げられる。無機防錆処理としては、例えば、亜鉛、ニッケル及びスズ等の金属元素の少なくとも1種を用いた金属防錆処理やクロメート処理等が挙げられる。
【0042】
なお、金属防錆処理が亜鉛、ニッケル及びスズ等の金属元素を2種以上組み合わせたものである場合、金属防錆処理により形成される金属防錆処理層は、各金属元素からなる防錆処理層が複数形成された複層構造を有するものであってもよいし、防錆処理形成時又は複層構造の防錆処理層形成後の熱処理等により合金化して単層構造を有するものであってもよい。また、無機防錆処理は、金属防錆処理後にクロメート処理を行うと、防錆処理層の防錆性がより高くなるため好ましい。
【0043】
有機防錆処理層を形成する有機防錆処理としては、例えば、シランカップリング剤、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。無機防錆処理と有機防錆処理とを組み合わせて行う場合には、無機防錆処理層の形成後に有機防錆処理層を形成することが好ましい。上記無機処理及び有機処理の処理方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0044】
第1の銅箔は、未処理銅箔中のCl含有量が特定量未満であるため、銅箔の両表面において、例えば未処理銅箔が電解銅箔であれば、該銅箔の光沢面及び粗面の両表面において、スズめっき層をフュージング処理してもボイドが発生し難い。第1の銅箔は、例えば、下記の本発明に係る第1の銅箔の製造方法により製造することができる。
【0045】
[本発明に係る第1の銅箔の製造方法]
本発明に係る第1の銅箔の製造方法は、第1の方法が、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔の製造方法であって、電解液としてClイオン濃度が0.5mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液(以下、「第1の硫酸−硫酸銅水溶液」ともいう。)を用いて電解する方法(以下、「第1の製造方法」ともいう。)であり、第2の方法が、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔の製造方法であって、電解液としてClイオン濃度が2.0mg/l以下、タンパク質濃度が0.5mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液(以下、「第2の硫酸−硫酸銅水溶液」ともいう。)を用いて電解する方法(以下、「第2の製造方法」ともいう。)であり、第3の方法が、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔の製造方法であって、電解液として、活性炭処理して得られる、Clイオン濃度が10mg/l〜50mg/l、タンパク質濃度が0.2mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液(以下、「第3の硫酸−硫酸銅水溶液」ともいう。)を用いて電解する方法(以下、「第3の製造方法」ともいう。)である。
【0046】
(第1の製造方法)
第1の製造方法について説明する。該方法において電解液として用いられる第1の硫酸−硫酸銅水溶液は、イオンとして実質的にCu2+及びSO2−のみを含む水溶液である。ここで、本発明で用いられる第1の硫酸−硫酸銅水溶液がClイオンを実質的に含まないとは、第1の硫酸−硫酸銅水溶液中のClイオン濃度が、0.5mg/l以下、好ましくは0.3mg/l以下、さらに好ましくは0.1mg/l以下であることを意味する。該Clイオン濃度が0.5mg/lを超えると、電解して得られる第1の銅箔がボイド発生の抑制効果を十分に発現し難くなるため好ましくない。
【0047】
第1の硫酸−硫酸銅水溶液は、上記Cu2+、SO2−又はClイオン以外の添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、例えば、タンパク質等の有機物が挙げられる。また、タンパク質としては、例えば、ゼラチン、にかわ等が挙げられる。添加剤がタンパク質である場合、第1の硫酸−硫酸銅水溶液はタンパク質を、通常5mg/l以下、好ましくは3mg/l以下の範囲内で含むことができる。なお、タンパク質の含有量が5mg/lを超えると、純銅めっき層が硬くて脆くなり易いため好ましくない。
【0048】
本発明で用いられる第1の硫酸−硫酸銅水溶液は、Cu2+イオン濃度が、通常40g/l〜120g/l、好ましくは60g/l〜100g/lである。Cu2+イオン濃度が40g/l未満であると、電解してもヤケめっきになり易く緻密な銅層を形成し難いため好ましくない。また、Cu2+イオン濃度が120g/lを超えると、硫酸銅の結晶が析出し易くなるため好ましくない。
【0049】
また、本発明で用いられる第1の硫酸−硫酸銅水溶液は、フリーSO2−イオン濃度が、通常100g/l〜200g/l、好ましくは120g/l〜180g/lである。ここでフリーSO2−濃度とは、第1の硫酸−硫酸銅水溶液中のCu2+濃度をCuSOに換算して得られるSO2−濃度を、第1の硫酸−硫酸銅水溶液中に含まれる全SO2−濃度から減じた残余のSO2−濃度を示す。フリーSO2−イオン濃度が100g/l未満であると溶液抵抗が高くなるため好ましくない。また、フリーSO2−イオン濃度が200g/lを超えると、第1の銅箔に析出異常が生じ易いため好ましくない。
【0050】
本発明で用いられる第1の硫酸−硫酸銅水溶液は、例えば、純水に硫酸を添加した後、硫酸銅を溶解したり、銅くず等の銅原料を希硫酸又は第1の硫酸−硫酸銅水溶液で溶解したりすることにより得られる。
【0051】
第1の製造方法は、上記第1の硫酸−硫酸銅水溶液を電解液として用いて電解して、第1の銅箔を形成する。
【0052】
上記第1の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解する際、上記第1の硫酸−硫酸銅水溶液の液温を、通常40℃〜60℃、好ましくは45℃〜55℃とする。液温が40℃未満であると第1の銅箔の粗面の表面粗度が高くなり易いため好ましくなく、また、液温が60℃を超えると塩化ビニル製配管等の設備の老朽化が加速され易いため好ましくない。
【0053】
上記第1の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解する際、電解電流密度は、通常40A/dm〜70A/dm、好ましくは50A/dm〜60A/dmである。電解電流密度が40A/dm未満であると析出速度が遅すぎて銅箔の製造コストが高くなり易いため好ましくなく、また、電解電流密度が70A/dmを超えると第1の銅箔に析出異常が生じ易いため好ましくない。
【0054】
(第2の製造方法)
第2の製造方法について説明する。該方法は、第1の製造方法において上記第1の硫酸−硫酸銅水溶液に代えて第2の硫酸−硫酸銅水溶液を用いる以外は条件及びその条件を規定した理由が同様である。第2の硫酸−硫酸銅水溶液は、Clイオン濃度が、2.0mg/l以下、好ましくは1.0mg/l以下である。該Clイオン濃度が2.0mg/lを超えると、電解して得られる第1の銅箔がボイド発生の抑制効果を十分に発現し難くなるため好ましくない。
【0055】
第2の硫酸−硫酸銅水溶液は、タンパク質濃度が、0.5mg/l以下、好ましくは0.3mg/l以下である。タンパク質濃度が0.5mg/lを超えると、電解して得られる第1の銅箔がボイド発生の抑制効果を十分に発現し難くなるため好ましくない。
【0056】
(第3の製造方法)
第3の製造方法について説明する。該方法は、第1の製造方法において上記第1の硫酸−硫酸銅水溶液に代えて第3の硫酸−硫酸銅水溶液を用いる以外は条件及びその条件を規定した理由が同様である。第3の硫酸−硫酸銅水溶液は、活性炭処理して得られる電解液である。活性炭処理とは、電解液を活性炭に接触させる処理をいい、例えば、内部に活性炭が充填され該活性炭を通過した電解液が糸巻きフィルター等を介して排出される構造の活性炭塔に電解液を通す方法が挙げられる。
【0057】
また、第3の硫酸−硫酸銅水溶液は、Clイオン濃度が10mg/l〜50mg/l、好ましくは20mg/l〜40mg/lである。Clイオン濃度が上記範囲外であると、電解して得られる第1の銅箔がボイド発生の抑制効果を十分に発現し難くなるため好ましくない。
【0058】
また、第3の硫酸−硫酸銅水溶液は、活性炭処理を行ったものであるためタンパク質を実質的に含まないものであり、タンパク質濃度が0.2mg/l以下、好ましくは0.1mg/l以下である。タンパク質濃度が上記範囲外であると、電解して得られる第1の銅箔がボイド発生の抑制効果を十分に発現し難くなるため好ましくない。
【0059】
第1の銅箔は、例えばTABテープ作製原料の銅箔等に用いることができる。
【0060】
(第2の銅箔)
次に、第2の銅箔について説明する。第2の銅箔は、未処理銅箔中のCl含有量が特定範囲内にあって、未処理銅箔の両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面の後述の相対強度比I(200)/I(111)が特定範囲内にある。第2の銅箔における未処理銅箔とは、コブ処理、ヤケめっき等の粗化処理をしていない電解銅箔を意味する。
【0061】
第2の銅箔において、未処理銅箔の物性は、上記相対強度比I(200)/I(111)が特定範囲内にあり、且つ銅箔中のCl含有量が特定範囲内にある電解銅箔であればよく、常態及び熱間における抗張力、常態及び熱間における伸び、硬さ並びに結晶粒の大きさ等に、特に限定されるものではない。すなわち、第2の銅箔は、例えば、IPC規格IPC−MF−150のグレード1〜グレード3に記載のいずれの電解銅箔であってもよい。
【0062】
また、第2の銅箔において、未処理銅箔の表面粗度にも特に限定されるものではなく、第1の銅箔と同様に粗度の高い銅箔から低粗度銅箔までのいずれであってもよい。なお、第2の銅箔において低粗度銅箔とは、電解製造直後の厚さ18μmの銅箔、すなわち電解製造後に表面粗度を変化させる研磨処理等を何ら行わない厚さ18μmの銅箔において粗面の粗度RzJISが3.5μm以下になる組成及び結晶構造を有する未処理電解銅箔、並びに、電解製造後に表面粗度を変化させる研磨処理等を行った銅箔であって銅箔の厚さにかかわらず粗面の粗度RzJISが3.5μm以下になっている未処理電解銅箔のいずれも含む意味で用いる。また、未処理電解銅箔の判断基準は第1の銅箔と同様である。
【0063】
第2の銅箔は、未処理銅箔の両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面が、該表面をX線回折分析して得られた回折線のうち(200)面の回折線の相対ピーク強度をI(200)、(111)面の回折線の相対ピーク強度をI(111)としたときに前記I(200)を前記I(111)で除して算出される相対強度比I(200)/I(111)が0.20以下、好ましくは0.17以下である。相対強度比が該範囲内にあると、該特性を有する表面に形成したスズめっき層をフュージング処理してもボイドが発生し難いため好ましい。
【0064】
ここで、未処理銅箔の両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面は、未処理銅箔の両表面であってもよく、光沢面だけであってもよく、また粗面だけであってもよい。
【0065】
第2の銅箔は、該未処理銅箔中のCl含有量が、30ppm未満、好ましくは20ppm未満、さらに好ましくは10ppm未満である。Cl含有量が該範囲内にあると、スズめっき後のフュージング処理でボイドが発生し難いため好ましい。
【0066】
第2の銅箔は、Cu以外の金属成分やCl以外の元素、例えばC、N等を、これら元素の含有量の合計量の重量基準で、通常200ppm以下、好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下含有していてもよい。
【0067】
また、第2の銅箔は、必要により、銅箔表面のいずれか又は両方に防錆処理を行ってもよい。該防錆処理は、第1の銅箔で述べたことと同様であるため説明を省略する。
【0068】
第2の銅箔は、銅箔中のCl含有量が上記特定量未満であるため、銅箔の両表面において、該銅箔の光沢面及び粗面の両表面において、スズめっき層をフュージング処理してもボイドが発生し難いが、これらの表面のうちでも、特に、相対強度比が上記範囲内にある表面において、スズめっき層のフュージング処理後のボイド発生の抑制効果をより強く発現する。第2の銅箔は、例えば、下記の本発明に係る第2の銅箔の製造方法により製造することができる。
【0069】
[本発明に係る第2の銅箔の製造方法]
本発明に係る第2の銅箔の製造方法は、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満で、該未処理銅箔の両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面が、該表面をX線回折分析して得られた回折線のうち(200)面の回折線の相対ピーク強度をI(200)、(111)面の回折線の相対ピーク強度をI(111)としたときに前記I(200)を前記I(111)で除して算出される相対強度比I(200)/I(111)が0.20以下である銅箔の製造方法であって、電解液としてClイオン濃度が1.0mg/l〜2.0mg/l、タンパク質濃度が0.2mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液(以下、「第4の硫酸−硫酸銅水溶液」ともいう。)を用いて電解する方法(以下、「第4の製造方法」ともいう。)である。
【0070】
(第4の製造方法)
第4の製造方法について説明する。該方法は、第1の製造方法において上記第1の硫酸−硫酸銅水溶液に代えて第4の硫酸−硫酸銅水溶液を用いる以外は条件及びその条件を規定した理由が同様である。第4の硫酸−硫酸銅水溶液は、Clイオン濃度が1.0mg/l〜2.0mg/l、好ましくは1.5mg/l〜2.0mg/lである。該Clイオン濃度が2.0mg/lを超えると、電解して得られる第2の銅箔がボイド発生の抑制効果を十分に発現し難くなるため好ましくない。
【0071】
第4の硫酸−硫酸銅水溶液は、タンパク質濃度が0.2mg/l以下、好ましくは0.1mg/l以下である。タンパク質濃度が0.2mg/lを超えると、電解して得られる第2の銅箔がボイド発生の抑制効果を十分に発現し難くなるため好ましくない。
【0072】
第2の銅箔は、例えばTABテープ作製原料の銅箔等に用いることができる。
【0073】
[本発明に係るTABテープ]
本発明に係るTABテープは、上記第1の銅箔を用いて形成したTABテープ(以下、「第1のTABテープ」ともいう)、及び上記第2の銅箔を用いて形成したTABテープ(以下、「第2のTABテープ」ともいう)を含む。以下、これらを分けて説明する。
【0074】
(第1のTABテープ)
まず、第1のTABテープについて説明する。第1のTABテープは、上記第1の銅箔を用いて形成したものである。本明細書においてTABテープとは、上述のとおり、可撓性絶縁フィルムにデバイスホールが形成された通常のTABテープ、及びデバイスホールが形成されていないいわゆるCOFテープの両者を含む概念である。
【0075】
該TABテープとしては、例えば、可撓性絶縁フィルム/接着剤/銅回路の3層構造を有する3層TABテープ及び可撓性絶縁フィルム/銅回路の2層構造を有する2層TABテープが挙げられる。ここで銅回路とは、接着剤を用いて又は用いないで可撓性絶縁フィルムと接着された第1の銅箔をエッチングして得られる回路である。なお、第1の銅箔は、特定の表面だけでなく内部まで含めた銅箔全体にボイド発生抑制の効果があるから、銅箔から形成されたの銅回路は、その表面全体においてボイド発生抑制の効果がある。
【0076】
第1の銅箔から形成された銅回路は、その表面にスズめっき層が形成され、該スズめっき層はスズウィスカーの発生を防止するために熱処理(フュージング処理)が施される。フュージング処理の条件としては、公知の方法を採用することができる。なお、スズめっき層は、フュージング処理により層中のスズの全部又は一部と銅回路の銅とが合金化して、スズめっき層の全部又は一部がCuSn層やCuSn層等を形成する。本発明において、スズめっき層は、1層構造である必要はなく、例えば、CuSn層とCuSn層との2層構造であってもよい。第1のTABテープにおいて、スズめっき層の厚さは、特に限定されない。第1の銅箔を用いて第1のTABテープを製造する方法としては、公知の方法において、通常の銅箔に代えて第1の銅箔を用いる方法を採用することができる。
【0077】
(第2のTABテープ)
次に、第2のTABテープについて説明する。第2のTABテープは、第1のTABテープにおいて、第1の銅箔に代えて第2の銅箔を用いたものであり、これ以外は同様である。ただし、ボイド発生抑制の効果が、第1の銅箔では特定の表面だけでなく内部まで含めた銅箔全体において発現するのに対し、第2の銅箔では第1の銅箔と同様に内部まで含めた銅箔全体において発現するものの、相対強度比が上記範囲内にある表面においてより発現するから、第2のTABテープにおける第2の銅箔から形成された銅回路は、スズめっき層の形成される表面が、第2の銅箔において相対強度比Iが特定範囲内にある表面に一致していることが好ましい。これらの点以外は、第2のTABテープは第1のTABテープと同様であるため説明を省略する。
【0078】
第1のTABテープ及び第2のTABテープはそのまま又は適宜加工してTABテープとして使用することができる。
【0079】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【実施例1】
【0080】
銅箔を作製する電解装置として、アノード−カソード間の流路が断面矩形であり、且つ循環ポンプを用いてアノード−カソード間に電解液を連続して供給しつつ電解可能な下記仕様のものを用いた。
・槽内液量 :4.5l
・アノード面及びカソード面の大きさ :6cm×11cm
・アノードの材質 :DSE
・カソードの材質 :チタン板
・アノード−カソード間の距離 :5mm
【0081】
電解液として、純水に、硫酸及び硫酸銅5水和物を添加し溶解して、表1に示す組成の溶液(電解液A)を調製した。電解液Aを用い、下記条件で電解してカソード上に厚さ35μmの銅箔
(銅箔A)を得た。
得られた銅箔の諸物性(銅箔中のCl濃度及び銅箔中のC濃度)を測定した。また、得られた銅箔の光沢面につき、X線回折分析装置(パナリティカル株式会社製、X‘Pert PRO)を用いて、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面及び(400)面の各回折線の相対ピーク強度を測定した。また、(200)面の相対ピーク強度I(200)を(111)面の相対ピーク強度I(111)で除してピーク強度比I(200)/I(111)を算出した。これらの結果を表2及び表3に示す。また、X線回折分析結果については図1に示す。
・銅電解液の温度 :52℃
・電解電流密度 :50A/dm
・電解時間 :190秒
【0082】
シプレイ・ファーイースト株式会社製TIMPOSIT XP−LT34Gを用いて、得られた銅箔(銅箔A)の光沢面に無電解スズめっきを行い、厚さ0.5μmのスズめっき皮膜を形成した。スズめっき皮膜を形成した銅箔(スズめっき皮膜形成銅箔)を、160℃で1時間加熱した後、さらに120℃で1時間加熱した(フュージング処理)。
フュージング処理後のスズめっき皮膜形成銅箔について、集束イオンビーム装置(FIB)で断面観察試料を作製し、その際に放出された2次電子を走査型イオン顕微鏡(SIM)で観察した。結果を図6に示す。また、SIM観察に基づいてボイドの発生状況を評価した。結果を表3に示す。ボイドの評価は5段階評価とし、評価3以上をボイドが少ない良好なものと評価した。
【0083】
図6には、図の上側より順に、図面上において全体が均一なグレーに見えるスズめっき層(CuSn層)(2)、該スズめっき層(CuSn層)(2)の下に位置し、柱状に成長した金属組織を有するスズめっき層(CuSn層)(3)、該スズめっき層(CuSn層)(3)の下に位置し、非常に大きく且つ成長方向がランダムな金属組織を有する銅箔層(4a)が観察される。
図6より、スズめっき層(CuSn層)(3)と銅箔層(4a)との界面近傍には、後述の比較例1等に見られるようなボイド(5)の発生が少ないことが判る。
【実施例2】
【0084】
(電解液の調製)
純水に、硫酸、硫酸銅5水和物及び濃塩酸を添加し溶解して、表1に示す組成の溶液(電解液B)を調製した。
(銅箔の作製)
電解液Aに代えて表1に示す組成の電解液Bを用いた以外は実施例1と同様にして、銅箔(銅箔B)及びフュージング処理後のスズめっき皮膜形成銅箔を得た。
得られた銅箔について、実施例1と同様にして諸物性を測定した。また、得られた銅箔の光沢面につき、実施例1と同様にして、X線回折分析を行い、各回折線の相対ピーク強度を測定し、ピーク強度比I(200)/I(111)を算出した。これらの結果を表2及び表3に示す。また、X線回折分析結果については図2に示す。また、得られたフュージング処理後のスズめっき皮膜形成銅箔について、実施例1と同様にしてSIM観察を行った。結果を図7に示す。また、SIM観察に基づいてボイドの発生状況を評価した。結果を表3に示す。
【0085】
図7には、図の上側より順に、スズめっき層(CuSn層)(2)上の一部に存在し、図面上において白い斑点を含みつつ全体として黒く見えるスズめっき層(Sn層)(1)、該スズめっき層(Sn層)(1)の下に位置し、全体が均一なグレーに見えるスズめっき層(CuSn層)(2)、該スズめっき層(CuSn層)(2)の下に位置し、柱状に成長した金属組織を有するスズめっき層(CuSn層)(3)、該スズめっき層(CuSn層)(3)の下に位置し、非常に大きく且つ成長方向がランダムな金属組織を有する銅箔層(4b)が観察される。
図7より、スズめっき層(CuSn層)(3)と銅箔層(4b)との界面近傍には、後述の比較例1等に見られるようなボイド(5)の発生が観察されないことが判る。
【実施例3】
【0086】
(電解液の調製)
純水に、硫酸、硫酸銅5水和物及びゼラチン(新田ゼラチン株式会社製UDB)を添加し溶解して、表1に示す組成の溶液(電解液C)を調製した。
(銅箔の作製)
電解液Aに代えて表1に示す組成の電解液Cを用いた以外は実施例1と同様にして、銅箔(銅箔C)及びフュージング処理後のスズめっき皮膜形成銅箔を得た。
得られた銅箔について、実施例1と同様にして諸物性を測定した。また、得られた銅箔の光沢面につき、実施例1と同様にして、X線回折分析を行い、各回折線の相対ピーク強度を測定し、ピーク強度比I(200)/I(111)を算出した。これらの結果を表2及び表3に示す。また、X線回折分析結果については図3に示す。また、得られたフュージング処理後のスズめっき皮膜形成銅箔について、実施例1と同様にしてSIM観察を行った。結果を図8に示す。また、SIM観察に基づいてボイドの発生状況を評価した。結果を表3に示す。
【0087】
図8には、図の上側より順に、全体が均一なグレーに見えるスズめっき層(CuSn層)(2)、該スズめっき層(CuSn層)(2)の下に位置し、柱状に成長した金属組織を有するスズめっき層(CuSn層)(3)、該スズめっき層(CuSn層)(3)の下に位置し、大きく且つ成長方向がランダムな金属組織を有する銅箔層(4c)が観察される。
図8より、スズめっき層(CuSn層)(3)と銅箔層(4c)との界面近傍には、後述の比較例1等に見られるようなボイド(5)の発生が非常に少ないことが判る。
【実施例4】
【0088】
(電解液の調製)
実施例3と別に電解液Cを調製し、容器中の電解液C4lに、活性炭(キャタラー工業株式会社製)を50g/l添加し、3時間攪拌した後、濾過により活性炭を分離して、表1に示す組成の溶液(電解液D)を調製した。
(銅箔の作製)
電解液Aに代えて表1に示す組成の電解液Dを用いた以外は実施例1と同様にして、銅箔(銅箔D)及びフュージング処理後のスズめっき皮膜形成銅箔を得た。
得られた銅箔について、実施例1と同様にして諸物性を測定した。また、得られた銅箔の光沢面につき、実施例1と同様にして、X線回折分析を行い、各回折線の相対ピーク強度を測定し、ピーク強度比I(200)/I(111)を算出した。これらの結果を表2及び表3に示す。また、X線回折分析結果については図4に示す。また、得られたフュージング処理後のスズめっき皮膜形成銅箔について、実施例1と同様にしてSIM観察を行った。結果を図9に示す。また、SIM観察に基づいてボイドの発生状況を評価した。結果を表3に示す。
【0089】
図9には、図の上側より順に、スズめっき層(CuSn層)(2)上の一部に存在し、図面上において白い斑点を含みつつ全体として黒く見えるスズめっき層(Sn層)(1)、該スズめっき層(Sn層)(1)の下に位置し、全体が均一なグレーに見えるスズめっき層(CuSn層)(2)、該スズめっき層(CuSn層)(2)の下に位置し、柱状に成長した金属組織を有するスズめっき層(CuSn層)(3)、該スズめっき層(CuSn層)(3)の下に位置し、大きく且つ成長方向がランダムな金属組織を有する銅箔層(4d)が観察される。
図9より、スズめっき層(CuSn層)(3)と銅箔層(4d)との界面近傍には、後述の比較例1等に見られるようなボイド(5)の発生が少ないことが判る。
【比較例1】
【0090】
(電解液の調製)
純水に、硫酸、硫酸銅5水和物、濃塩酸及びゼラチン(新田ゼラチン株式会社製UDB)を添加し溶解して、表1に示す組成の溶液(電解液E)を調製した。
(銅箔の作製)
電解液Aに代えて表1に示す組成の電解液Eを用いた以外は実施例1と同様にして、銅箔(銅箔E)及びフュージング処理後のスズめっき皮膜形成銅箔を得た。
得られた銅箔について、実施例1と同様にして諸物性を測定した。また、得られた銅箔の光沢面につき、実施例1と同様にして、X線回折分析を行い、各回折線の相対ピーク強度を測定し、ピーク強度比I(200)/I(111)を算出した。これらの結果を表2及び表3に示す。また、X線回折分析結果については図5に示す。また、得られたフュージング処理後のスズめっき皮膜形成銅箔について、実施例1と同様にしてSIM観察を行った。結果を図10に示す。また、SIM観察に基づいてボイドの発生状況を評価した。結果を表3に示す。
【0091】
図10には、図の上側より順に、全体が均一なグレーに見えるスズめっき層(CuSn層)(2)、該スズめっき層(CuSn層)(2)の下に位置し、柱状に成長した金属組織を有するスズめっき層(CuSn層)(3)、該スズめっき層(CuSn層)(3)の下に位置し、比較的小さく且つ成長方向がランダムな金属組織を有する銅箔層(4e)が観察される。
図10より、スズめっき層(CuSn層)(3)と銅箔層(4e)との界面近傍には、ボイド(5)の発生が多数観察されることが判る。
【0092】
実施例1〜実施例4及び比較例1より、銅箔中のCl含有量が少ない場合、及び銅箔中のCl含有量が少なく且つ上記相対強度比が特定範囲内にあるものは、フュージング処理後のボイドの発生を抑制できることが判る。
【0093】

【表1】

【0094】

【表2】

【0095】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係る銅箔は、例えば、TABテープ製造用の銅箔に用いることができる。本発明に係る銅箔の製造方法は、本発明に係る銅箔の製造に用いることができる。本発明に係るTABテープは、そのまま又は適宜加工してTABテープとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、実施例1のX線回折分析結果である。
【図2】図2は、実施例2のX線回折分析結果である。
【図3】図3は、実施例3のX線回折分析結果である。
【図4】図4は、実施例4のX線回折分析結果である。
【図5】図5は、比較例1のX線回折分析結果である。
【図6】図6は、実施例1のSIM写真である。
【図7】図7は、実施例2のSIM写真である。
【図8】図8は、実施例3のSIM写真である。
【図9】図9は、実施例4のSIM写真である。
【図10】図10は、比較例1のSIM写真である。
【符号の説明】
【0098】
1 スズめっき層(Sn層)
2 スズめっき層(CuSn層)
3 スズめっき層(CuSn層)
4、4a、4b、4c、4d、4e 銅箔層
5 ボイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満であることを特徴とする銅箔。
【請求項2】
未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔の製造方法であって、電解液としてClイオン濃度が0.5mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解することを特徴とする銅箔の製造方法。
【請求項3】
前記硫酸−硫酸銅水溶液は、Cu2+イオン濃度が40g/l〜120g/l、フリーSO2−イオン濃度が100g/l〜200g/lであることを特徴とする請求項2に記載の銅箔の製造方法。
【請求項4】
未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔の製造方法であって、電解液としてClイオン濃度が2.0mg/l以下、タンパク質濃度が0.5mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解することを特徴とする銅箔の製造方法。
【請求項5】
前記硫酸−硫酸銅水溶液は、Cu2+イオン濃度が40g/l〜120g/l、フリーSO2−イオン濃度が100g/l〜200g/lであることを特徴とする請求項4に記載の銅箔の製造方法。
【請求項6】
未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満である銅箔の製造方法であって、電解液として、活性炭処理して得られる、Clイオン濃度が10mg/l〜50mg/l、タンパク質濃度が0.2mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解することを特徴とする銅箔の製造方法。
【請求項7】
前記硫酸−硫酸銅水溶液は、Cu2+イオン濃度が40g/l〜120g/l、フリーSO2−イオン濃度が100g/l〜200g/lであることを特徴とする請求項6に記載の銅箔の製造方法。
【請求項8】
未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満で、該未処理銅箔の両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面が、該表面をX線回折分析して得られた回折線のうち(200)面の回折線の相対ピーク強度をI(200)、(111)面の回折線の相対ピーク強度をI(111)としたときに前記I(200)を前記I(111)で除して算出される相対強度比I(200)/I(111)が0.20以下であることを特徴とする銅箔。
【請求項9】
未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満で、該未処理銅箔の両表面のうち少なくともスズめっき層の形成される表面が、該表面をX線回折分析して得られた回折線のうち(200)面の回折線の相対ピーク強度をI(200)、(111)面の回折線の相対ピーク強度をI(111)としたときに前記I(200)を前記I(111)で除して算出される相対強度比I(200)/I(111)が0.20以下である銅箔の製造方法であって、電解液としてClイオン濃度が1.0mg/l〜2.0mg/l、タンパク質濃度が0.2mg/l以下の硫酸−硫酸銅水溶液を用いて電解することを特徴とする銅箔の製造方法。
【請求項10】
前記硫酸−硫酸銅水溶液は、Cu2+イオン濃度が40g/l〜120g/l、フリーSO2−イオン濃度が100g/l〜200g/lであることを特徴とする請求項9に記載の銅箔の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の銅箔を用いて形成したことを特徴とするTABテープ。
【請求項12】
請求項8に記載の銅箔を用いて形成したことを特徴とするTABテープ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−52441(P2006−52441A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234792(P2004−234792)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】