説明

銅箔及びそれを用いた二次電池

【課題】二次電池の集電体に用いた場合に充放電によるクラックや破断の発生を防止した銅箔及びそれを用いた二次電池を提供する。
【解決手段】厚み5〜30μmであり、350℃で0.5時間焼鈍後に、加工硬化指数が0.3以上0.45以下となり、かつI(220)/I(200)が0.11以下となる銅箔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の集電体として好適な銅箔及びそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高く、比較的高い電圧を得ることができるという特徴を有し、ノートパソコン、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話等の小型電子機器用に多用されている。また、リチウムイオン二次電池は、電気自動車や一般家庭の分散配置型電源といった大型機器の電源としても利用が始められており、他の二次電池と比較して軽量でエネルギー密度が高いことから、各種の電源を必要とする機器で広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極体は一般に、巻回構造又は各電極を積層されたスタック構造を有している。リチウムイオン二次電池の正極は、アルミニウム箔製の集電体とその表面に設けられたLiCoO2、LiNiO2及びLiMn24等のリチウム複合酸化物を材料とする正極活物質から構成され、負極は銅箔製の集電体とその表面に設けられたカーボン等を材料とする負極活物質から構成されるのが一般的である。
【0004】
ところで、特に電極体を巻回する構造の電池では、充放電に伴う電極の膨張、収縮により、集電体にクラックが生じたり、破断しやすい。このため、負極集電体である銅箔の伸びを2〜15%に調整することで、破断を防止する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−208149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、伸びの大きい銅箔を電池の負極集電体に用いても、充放電によって集電体にクラックや破断が発生する場合があることが判明した。
すなわち、本発明は、二次電池の集電体に用いた場合に充放電によるクラックや破断の発生を防止した銅箔及びそれを用いた二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、銅箔の加工硬化指数(n値)が、二次電池の充放電サイクル寿命に影響することを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)厚み5〜30μmであり、加工硬化指数が0.3以上0.45以下で、かつI(220)/I(200)が0.11以下である銅箔、
(2)厚み5〜30μmであり、350℃で0.5時間焼鈍後に、加工硬化指数が0.3以上0.45以下となり、かつI(220)/I(200)が0.11以下となる銅箔、
(3)半軟化温度が150℃以下である(1)に記載の銅箔、
(4)JIS−C1100に規格するタフピッチ銅又はJIS−C1020に規格する無酸素銅からなる(1)〜(3)のいずれかに記載の銅箔、
(5)Agを500質量ppm以下、及び/又はSnを100質量ppm以下含有し、かつこれらの合計添加量を500質量ppm以下とする(4)に記載の銅箔、
(6)最終冷間圧延時の総加工度を85%以上とし、かつ前記最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量を以下の条件として圧延してなる(1)〜(5)のいずれかに記載の銅箔、
最終パスの2つ前の油膜当量;25000以下、最終パスの1つ前の油膜当量;30000以下、最終パスの油膜当量;35000以下
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の銅箔を集電体として用いた二次電池、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二次電池の集電体に用いた場合に充放電によるクラックや破断の発生を防止した銅箔が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る銅箔について説明する。なお、特に説明しない限り、%は質量%を表す。
【0010】
(加工硬化指数(n値))
本発明の銅箔は、加工硬化指数が0.3以上0.45以下である。
銅箔を二次電池の集電体に用いた場合に、銅箔の伸びでなく、加工硬化指数(n値)が二次電池の充放電サイクル寿命(充放電による集電体の破断やクラック)に影響する理由は以下のように考えられる。
まず、とりわけ電極体を巻回する構造の電池(円筒電池等)では、電極体を構成する負極集電体である銅箔が巻き取られて屈曲した状態で電池内に保持されている。そして、充放電によって集電体上の活物質層の膨張・収縮が繰り返されると、集電体である銅箔も変形するが、特に集電体の曲げ部が不均一に変形すると破断やクラックが発生し易い。
ここで、加工硬化指数は、材料の加工硬化挙動を示す値の1つであり、この値が大きいほど材料は加工硬化しやすい性質を持つ。材料は引張変形を受けると局部的にくびれを起こして破断するが、加工硬化係数が大きい材料では、くびれを起こした部分が加工硬化し、くびれ部が変形しにくくなる。そのため、変形し難いくびれ部に代わって、それ以外の部分が変形しはじめる。これを繰り返すことで、材料全体が均等に変形する。一方、伸びはそのような状況を考慮せずにマクロ的に捕らえた指標なので、伸びが大きいものでも加工硬化指数が大きいとは限らず、上記した集電体の曲げ部が均一に変形するか否かの指標とならない。
【0011】
そこで、本発明者らは、銅箔の加工硬化指数(n値)を規定することで、二次電池の充放電サイクル寿命を向上させることに成功した。
加工硬化指数(n値)は、降伏点以上の塑性変形域における応力とひずみとの関係を、以下の式1(Hollomonの式)で近似した場合の指数nで表される。
[真応力]=[材料定数]×[真ひずみ]n (1)
加工硬化指数は値が大きいほど局所変形が起こりにくく、変形を行ったときに破断しにくい。
【0012】
銅箔の加工硬化指数が0.3以上であると、銅箔を集電体に用いて充放電サイクルを繰り返した際に、銅箔に局所変形が起こりにくく、巻回された曲げ部全体で変形を担うので、銅箔が破断しにくい。但し、加工硬化指数が0.45を超える材料は、焼鈍後の強度が低く、取り扱い性が悪化するので好ましくない。
【0013】
(厚み)
なお、従来、構造部材のような厚みのある材料の絞り加工において、材料全体の均等な変形のしやすさの指標である加工硬化指数が用いられた例はあるが、銅箔のように薄い材料は絞り加工などの加工を行わないので、加工硬化指数を指標に用いることはなかった。
このようなことから、本発明の銅箔の厚みを5〜30μmに規定する。
【0014】
又、銅箔の厚みが5〜30μmと比較的薄い場合、材料表面に面した結晶粒の割合が多くなるため、変形によって導入された転位は結晶粒界に蓄積せず、材料表面から解放される割合が高くなる。このため銅箔の加工硬化指数は、比較的厚い材料に比べて低くなる。一方、加工硬化指数は、変形によって材料中に導入される転位の量と、転位の移動し易さとによって決まる。つまり、転位ループの発生源となるような析出物や、転位の移動を妨げる固溶元素及び結晶粒界が存在すると加工硬化指数は大きくなる。しかしながら、転位の移動を大きく妨げる程度の固溶元素や、析出物を生成しうる程度の合金元素の添加は導電率の低下を招くため、電池集電体として好ましくない。
【0015】
(組成)
そこで、本発明の銅箔は、JIS-C1100に規格するタフピッチ銅又はJIS-C1020に規格する無酸素銅を組成とすることが好ましい。上記した純銅に近い組成とすると、銅箔の導電率が低下せず、電池集電体に適する。銅箔に含まれる酸素濃度は、タフピッチ銅の場合は0.01〜0.05質量%、無酸素銅の場合は0.001質量%以下である。
さらに、Agを500質量ppm以下、及び/又はSnを100質量ppm以下含有し、かつこれらの合計添加量を500質量ppm以下としてもよい。銅箔にAg又はSnを添加すると、仕上げ圧延後の材料強度が高くなり、材料の取り扱い性が良好となる。銅箔へのAgとSnの合計添加量が500質量ppmを超えると、導電率が低下すると共に再結晶温度が上昇し、最終焼鈍において銅箔の表面酸化を抑えつつ再結晶焼鈍することが困難になる場合がある。なお、AgとSnの合計添加量の下限は特に規定しないが、通常、合計10質量ppm以上である。
【0016】
本発明の銅箔の加工硬化指数を上記範囲に調整する方法としては、最終冷間圧延時の総加工度を85%以上とし、かつ最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量を所定の条件として圧延することが挙げられる。
上記したように、多量の添加元素を用いて加工硬化指数を大きくすることは導電率を低下させる点で好ましくないことから、添加元素によらず、変形方向に対するすべり面の角度を制御することにより、加工硬化指数を大きくするこができることを本発明者らは見出した。
ここで、変形により印加される応力によって材料はすべり変形を起こすが、このときに複数の等価なすべり面が活動することにより加工硬化が増大する。このことを利用して、導電性を損なわずに加工硬化指数を高めることができる。
つまり、具体的には、銅箔の最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量を以下の条件として圧延する。
最終パスの2つ前の油膜当量;25000以下、最終パスの1つ前の油膜当量;30000以下、最終パスの油膜当量;35000以下
【0017】
なお、材料厚みが薄くなると油膜当量は大きくなる傾向にあるため、最終3パスにおける油膜当量の値は徐々に大きくなる。そこで、それぞれ厚みの異なる最終3パスについて、上記範囲に油膜当量を設定する必要がある。
例えば、最終冷間圧延において圧延油粘度と材料降伏応力が全パスで等しいとすると、油膜当量は、(圧延速度)/(噛み込み角)に比例する。そして、材料厚みが薄くなると噛み込み角は小さくなるため、最終パスに近づくほど油膜当量は大きくなる傾向にある。また生産性を保つためには、材料長さの長い最終パスに近づくほど圧延速度を上げる必要があり、これによっても最終パスに近づくほど油膜当量は大きくなる傾向にある。この場合、最終冷間圧延における最終パスの2つ前のパスおよび1つ前のパスでの油膜当量が35000より大きくなると、最終パスで油膜当量のみを低く抑えても充分な効果を得ることができない。このようなことから、最終冷間圧延における最終3パスにおける油膜当量を上記範囲に管理している。
さらに、油膜当量を低減するために、最終冷間圧延における最終パスの圧延加工度を25%以上にするのが良い。
【0018】
なお、上記油膜当量は下記式で表される。
(油膜当量)={(圧延油粘度、40℃の動粘度;cSt)×(圧延速度;m/分)}/{(材料の降伏応力;kg/mm)×(ロール噛込角;rad)}
圧延油粘度は4.0〜8.0cSt程度、圧延速度200〜600m/分、ロールの噛込角は例えば0.0005〜0.005rad、好ましくは0.001〜0.04radとすることができる。
【0019】
(I(220)/I(200))
本発明の実施形態に係る銅箔において、圧延面のX線回折を行ったとき、それぞれ(220)面及び(200)面の強度の積分値(I)の比I(220)/I(200)が0.11以下である。
純銅型の銅の再結晶集合組織は、表面方向に(200)面が向くことが特徴であるが、このとき圧延方向及び圧延直角方向にも(200)面が向く。一般に銅箔を曲げる場合は、圧延方向(RD)又は圧延直角方向(TD)に曲げ軸を取るが、このとき銅箔にかかる変形によって銅の主すべり面である{111}面が多重すべりを生じ、高い加工硬化指数が得られる。一方、(200)面以外の結晶方位である(220)面の配向度が高くなると、充分な多重すべりが起こらず、高い加工硬化指数が得られない。以上から、 (200)面の配向度が高く、かつ、(220)面の配向度が低くなる、すなわち、その比I(220)/I(200)が低くなると良く、その比が0.11以下であるのが好ましい。
ここで、純銅型の銅の再結晶集合組織は、ND方向(圧延面法線方向)、RD方向、TD方向の各方向に{001}方位を向けることから、曲げ方向であるRD方向、TD方向を代用して測定の容易なND方向の(200)面回折強度を指標として用いる。
【0020】
又、加工硬化指数を規定範囲に調整するため、焼鈍によって充分に再結晶組織を得る必要がある。再結晶が不十分の場合には、加工硬化指数を上記範囲に調整することが難しいことから、銅箔の半軟化温度を150℃以下にすることが好ましい。充分に再結晶組織を得るためには、銅箔の組成と加工度を調整して再結晶温度を適切に管理する必要があるが、銅箔の組成と加工度を上記範囲に規定すれば、再結晶温度が130〜200℃程度となり、半軟化温度を150℃以下とすることができる。
ここで、未再結晶組織は加工ひずみが残留しており、すでに加工硬化しているために曲げ変形による加工硬化がしにくく、加工硬化指数が小さくなり、曲げ性が悪くなる。加工硬化指数を大きな値にするには、銅箔を集電体として活物質を塗布後に乾燥加熱した状態が加工硬化してない状態、すなわち加工歪が除去された状態である必要がある。言い換えれば、活物質の塗布及び乾燥過程で銅箔は熱処理を受けるが、その熱処理により歪が除去され、再結晶することが必要となる。そして、銅箔の半軟化温度が150℃以下であれば、活物質の塗布及び乾燥過程で受ける程度の熱処理によっても銅箔の再結晶が期待でき、加工硬化指数を大きくすることができる。
【0021】
なお、本発明の銅箔としては、既に熱処理等がされて加工硬化指数及びI(220)/I(200)が上記範囲であるものの他、350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数及びI(220)/I(200)が上記範囲となる未再結晶の銅箔も含む。ここで、350℃で0.5時間焼鈍は、銅箔への活物質の塗工後の乾燥工程の加熱を模したものであり、特に、活物質として充放電による膨張、収縮が大きい合金系材料を用いる場合にはバインダーとして一般にポリイミド系が用いられ、この時の銅箔集電体に活物質を塗工した後の加熱条件を模したためである。なお、焼鈍は非酸化性雰囲気にて行なうのが好ましい。
さらに、250℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数についても0.3以上0.45以下であることが好ましい。これは、活物質として黒鉛系活物質を用いる場合には、銅箔集電体に活物質を塗工した後の加熱温度が一般に250℃以下程度であるからである。
ここで、加熱によって銅箔が再結晶すると加工硬化指数が大きくなるため、350℃より低温の250℃で加工硬化指数が0.3以上であれば、350℃でも加工硬化指数が0.3以上となる。
【0022】
本発明の銅箔を、二次電池の集電体(特に負極集電体)に用いると好ましい。
本発明の銅箔が適用される二次電池としては特に限定されないが、好ましくはリチウムイオン二次電池を用いることができる。リチウムイオン二次電池としては負極に金属リチウムを使用する電池の他、金属リチウムを電池内に含まずに電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う電池が含まれる。リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、限定的ではないが、炭素、珪素、スズ、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、アルミニウム、インジウム、リチウム、酸化珪素、酸化スズ、チタン酸リチウム、窒化リチウム、インジウムを固溶した酸化スズ、あるいはこれら2種類以上を組み合わせた合金等が挙げられる。
二次電池としては、電極体(負極と正極とをセパレータで挟んだもの)を巻回した構造又は各電極体を積層したスタック構造が挙げられる。
【0023】
本発明の銅箔は、例えば、電気銅に必要に応じて合金元素を添加してインゴット(通常、厚み100〜300mm)を鋳造し、このインゴットを熱間圧延した後(通常、熱間圧延後の厚み5〜20mm)、冷間圧延と焼鈍を繰り返し、さらに最終冷間圧延で所定の厚みに仕上げて製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
(実施例1)
[銅箔の製造]
無酸素銅(JIS−C1020:表1で「OFC」と表示)又はタフピッチ銅(JIS−C1100:表1で「TPC」と表示)を溶解し、必要に応じてAg又はSnを表1に示す量投入して厚さ20mm、幅60mmのインゴットを鋳造し、熱間圧延により10mmまで圧延した。
次に、焼鈍と冷間圧延を繰り返して表1の厚みまで圧延して銅箔を得た。なお、軟化温度を調整するため、最終冷間圧延時の総加工度を85%以上とし、かつ表面粗さを低減するために、表面が平滑(ロール軸方向でRa≦0.1μm)なロールを用いて最終冷間圧延した。最終冷間圧延の圧延油粘度を4.0〜8.0cSt程度とし、圧延速度200〜600m/分、ロールの噛込角0.003〜0.03radの範囲で調整し、最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量を、最終パスの2つ前の油膜当量;25000以下、最終パスの1つ前の油膜当量;30000以下、最終パスの油膜当量; 35000以下となるようにした。
【0025】
<加工硬化指数>
得られた銅箔を、それぞれ250℃×0.5時間、及び350℃×0.5時間で非酸化性雰囲気にて焼鈍した後に引張試験(JIS−Z2241に準拠)を行い、加工硬化指数を求めた。なお、加工硬化指数は、材料が降伏した後の均一伸びと応力とを用いて求める必要があるため、伸び2%から最大応力点までの値を用いた。そして、測定した伸び及び応力から求めた真ひずみと、真応力との両対数グラフを最小自乗法で近似し、グラフの傾きから加工硬化指数を求めた。真ひずみと真応力は以下の式で求めた。
[真ひずみ]=ln(1+[ひずみ])
[真応力]=(1+[真ひずみ])×[応力]
【0026】
<半軟化温度>
得られた銅箔を、それぞれ100〜400℃×0.5時間で非酸化性雰囲気にて焼鈍した後に引張試験を行い、熱処理条件に対する強度(引張り強さ)を求めた。焼鈍後の強度が、圧延上がり(焼鈍前)の強度と、完全に軟化(400℃で30分間焼鈍)した状態の強度の中間の値となる焼鈍温度を、半軟化温度とした。
【0027】
<I(220)/I(200)>
得られた銅箔を、350℃×0.5時間および250℃×0.5時間で非酸化性雰囲気にて焼鈍した後,圧延面のX線回折を行い、それぞれ(220)面及び(200)面の回折ピーク強度の積分値(I)を求めた。
【0028】
[充放電サイクル寿命]
得られた銅箔を負極集電体に用い、定格容量が1Ahの18650サイズの円筒電池型リチウムイオン二次電池を以下の手順で作製し、充放電サイクル寿命を測定した。
(1)負極活物質として平均粒径15μmの天然黒鉛、バインダーとしてPVDFを重量比92:8の比率でNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを銅箔上に塗布後、90℃で30分間乾燥させ、さらに120℃で10分乾燥させた。これを銅箔の片面あたり2回繰返し、銅箔両面に負極活物質層を形成した。さらに、加圧プレスにより、活物質の密度1.4g/cm3、活物質の厚み80μmの電極を形成した。
(2)正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)、バインダーとしてPVDF、導電助剤としてアセチレンブラックを重量比92:4:4の比率でNMPに分散させてスラリーを調製した。このスラリーを厚み20μmのアルミ箔上に塗布後、120℃で30分乾燥させた。これをアルミ箔の片面あたり2回繰返し、アルミ箔両面に正極活物質層を形成した。さらに、加圧プレスにより、活物質の密度3.2g/cm3、活物質の厚み75μmの電極を作製した。
(3)以上のように作製した正極と負極の間に、厚さ20μmの多孔質ポリエチレンフィルムからなるセパレータを介在させた状態で巻回し、電池ケースに収納した。
(4)上記電池ケースの蓋に、正極の電極リードを接続した後、溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比2:3、電解質として1mol/LのLiPF6を溶解した非水電解液を電池ケース内に注液し、電池缶の蓋をかしめて封口して円筒型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0029】
作製した18650サイズの円筒型電池につき、25℃の環境下で充電と放電のサイクルを繰り返し、容量維持率を調べた。2回目の充放電を初期容量とし、初期容量に対して放電容量が80%以下に低下するまでの充放電サイクル数につき、100回未満を「×」、100〜300回を「△」、300回を超えたものを「○」としてサイクル特性を評価した。サイクル寿命の評価が○、△であれば実用上問題はない。
充放電条件は、1A定電流で4.2Vまで充電してから4.2Vの定電流で、充電時間が2時間となるまでとし、放電は1Aの定電流で、3.0Vまでとした。
【0030】
得られた結果を表1に示す。なお、表1の組成において、OFC及びTPCは、それぞれ無酸素銅及びタフピッチ銅(JIS H3100)を示し、Ag100ppmTPCは、タフピッチ銅にAgを100質量ppm添加したものを示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数が0.3以上、かつI(220)/I(200)が0.11以下である実施例1〜14の場合、充放電サイクル寿命に優れたものとなった。また、実施例15〜17は、負極スラリーを集電体に塗工する前に、予め250℃で30分間焼鈍し、再結晶させたものであり、加工硬化指数が0.3以上、かつI(220)/I(200)が0.11以下であるため、充放電サイクル寿命に優れたものとなった。
【0033】
一方、最終冷間圧延時の総加工度を85%未満とした比較例2、3、4の場合、350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数が0.3未満となり、充放電サイクル寿命が劣化した。
又、銅箔中のSnの添加量が100質量ppmを超えた比較例1の場合、350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数が0.3未満となり、充放電サイクル寿命が劣化した。これは、半軟化温度が150℃を超えたためと考えられる。
最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量として、最終パスの1つ前の油膜当量;30000を超え、最終パスの油膜当量が35000を超えた比較例5の場合、加工硬化指数が0.45を超え、負極集電体に用いる際に銅箔にシワが発生して活物質の塗布ができず、充放電サイクル寿命の試験が行えなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み5〜30μmであり、加工硬化指数が0.3以上0.45以下で、かつI(220)/I(200)が0.11以下である銅箔。
【請求項2】
厚み5〜30μmであり、350℃で0.5時間焼鈍後に、加工硬化指数が0.3以上0.45以下となり、かつI(220)/I(200)が0.11以下となる銅箔。
【請求項3】
半軟化温度が150℃以下である請求項2に記載の銅箔。
【請求項4】
JIS−C1100に規格するタフピッチ銅又はJIS−C1020に規格する無酸素銅からなる請求項1〜3のいずれかに記載の銅箔。
【請求項5】
さらに、Agを500質量ppm以下、及び/又はSnを100質量ppm以下含有し、かつこれらの合計添加量を500質量ppm以下とする請求項4に記載の銅箔。
【請求項6】
最終冷間圧延時の総加工度を85%以上とし、かつ前記最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量を以下の条件として圧延してなる請求項1〜5のいずれかに記載の銅箔。
最終パスの2つ前の油膜当量;25000以下、最終パスの1つ前の油膜当量;30000以下、最終パスの油膜当量;35000以下
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の銅箔を集電体として用いた二次電池。

【公開番号】特開2012−201965(P2012−201965A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70213(P2011−70213)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】