説明

鋳造装置、及び、鋳造方法

【課題】抜き勾配がなくても鋳造後の製品からの中子の抜け性を良くする鋳造装置、及び、鋳造方法を提供する。
【解決手段】抜き勾配が形成されていないオーステナイト系ステンレス材で形成された中子20を鋳型10内に配置し該鋳型内に鋳鉄Mを注湯し、熱膨張係数が大きく、表面安定性に優れ、熱間強度の高いオーステナイト系ステンレス材で形成した金属製の中子の特性を活用することにより、冷却後に置き中子を引き抜くことが出来、中子の表面にメッキを施す等の前処理を施す必要がなく、中空の鋳抜き穴を有する製品を鋳造可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空の鋳抜き孔を有する製品を鋳造する鋳造装置、及び、鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金型鋳造製の製品の中空の鋳抜き孔は、砂中子を用い鋳抜いて成形しており以下の問題点がある。まず、砂中子は、1ショットごとの使い捨てのためコストが高い。また、砂中子のバインダーの燃焼ガス、或いは、大気中より吸蔵したガスのため、製品内部に欠陥が発生する可能性があり、これを防止するためにガス吸引装置が必要となり、作業性がわるい。また、砂落とし工程が必要となり、工程数が増加する。また、砂中子は折れやすく、中子を自動で鋳型内に配置するための速度を上げることができない。
この対策として、繰り返し使用できる、金属製の置き中子、もしくは、金属製の鋳抜きピンを使用する方法がある。繰り返し使用できる金属製の中子、或いは、ピンを使用する場合、鋳鉄の凝固後、製品より引き抜く必要がある。鋳鉄の製品部は凝固後、収縮するため、金属製の中子、或いは、ピンを引き抜くために、抜き勾配を設ける必要がある。そのため、製品の後加工で、抜き勾配をなくする仕上げをする必要があり、サイクルタイムが長くなるという問題がある。
この問題を解決するために、格別に抜け勾配を付けずとも製品との離れ性が良く、後加工で抜け勾配をなくする仕上げ加工を行わずとも済むダイカスト用中子ピンを提供することを課題とし、ピン表面の表面粗さをRmax=1μm以下に研磨してなる中子ピンが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−335761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表面粗さを小さくした置き中子を製作しても、繰り返し使用するうちに、打痕、擦り傷、溶湯の付着などによって表面粗さが大きくなっていき、製品からの抜け性が悪化する恐れがある。また、置き中子の全長軸長が長くなり、製品からの離型時のストロークが大きい場合、表面粗さを小さくしただけでは、製品からの離型は困難である。
本発明は、上述した従来の技術が有する課題を解消し、抜き勾配がなくても鋳造後の製品からの抜け性が良い中子を用いた鋳造装置、及び、鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、抜き勾配が形成されていないオーステナイト系ステンレス材で形成された中子を鋳型内に配置し該鋳型内に鋳鉄を注湯して中空の鋳抜き穴を有する製品を鋳造可能としたことを特徴とする。
この構成によれば、中子を熱膨張係数の大きいオーステナイト系ステンレス材で形成したため、中子に抜き勾配を形成せずとも、オーステナイト系ステンレス材の熱間と冷間との寸法差を利用して鋳造製品冷却後に中子を引き抜くことができる。これによって、製品の後加工で、抜き勾配をなくする仕上げをする必要がなく、サイクルタイムの短縮を図ることができる。また、この構成によれば、オーステナイト系ステンレス材は、熱間強度が高いため、溶湯の熱で中子が高温になっても、中子の強度が下がることがなく、鋳造時に中子が溶湯の熱で曲がってしまうことがない。さらに、オーステナイト系ステンレス材は表面安定性が高いため、中子の表層に溶湯が触れても、化学的に反応することがなく、中子の表面に損傷が生じない。これによって、製品冷却後に引き抜いた中子を繰り返し再利用することができ、コストの削減を図ることができる。
【0006】
この構成において、前記製品はカムを一体化した鋳鉄中空カムシャフトである構成としても良い。
この構成によれば、中子を表面安定性の高いオーステナイト系ステンレス材を使用しているため、鋳鉄中空カムシャフトの中空部の表面が荒れることがなく、カムシャフトの重さのバランスが安定するため、カムシャフトの回転バランスの向上を図ることができる。
【0007】
また、本発明は、抜き勾配が形成されていないオーステナイト系ステンレス材で形成された中子を鋳型内に配置し該鋳型内に鋳鉄を注湯し冷却後に置き中子を引き抜いて中空の鋳抜き穴を有する製品を鋳造することを特徴とする。
この構成によれば、熱膨張係数が大きく、表面安定性に優れ、熱間強度の高いオーステナイト系ステンレス材で形成した金属製の中子を用いたため、中子を鋳型に配置する前に、中子の表面にメッキを施す等の前処理を施す必要がなく、さらに、中子によって形成された抜き勾配をなくする後加工を製品に施す必要もないため、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、オーステナイト系ステンレス材で形成された中子を鋳型内に配置し該鋳型内に鋳鉄を注湯して中空の鋳抜き穴を有する製品を鋳造するため、熱膨張が大きいオーステナイト系ステンレス材の熱間と冷間との寸法差を利用して、中子の表面粗さや引き抜き長さに関係なく、抜き勾配がなくても鋳造後の製品からの中子の抜け性を良くすることができるという効果を奏する。
また、オーステナイト系ステンレス材は、表面安定性に優れているため、オーステナイト系ステンレス材の中子によって形成された鋳鉄中空カムシャフトの中空部の表面が荒れることがなく、カムシャフトの重さのバランスが安定するため、カムシャフトの回転バランスの向上を図ることができる。
また、オーステナイト系ステンレス材は、熱間強度が高いため、鋳造時に中子が溶湯の熱で高温になっても、中子の強度が下がることがなく、中子が溶湯の流入する勢いで曲がってしまうことがないため、狙った形状に中空部を形成することができる。
さらに、鋳造時に表面に損傷を負うことがなく、溶湯の熱で曲がることがないオーステナイト系ステンレス材で形成された金属製の置き中子は、鋳造後の製品から引き抜いて繰り返し使用することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の鋳造装置の構造を示す断面図である。
【図2】カムシャフトの構造を示す断面図である。
【図3】中子材質の特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用した実施形態に係る鋳造装置1の構造を示す断面図である。鋳造装置1は、鋳型10と、中子20とから構成される。鋳型10は、熱伝導率の高い銅合金等から形成され、鋳造製の製品を成形するための製品キャビティ11を備える。鋳型10は、また、溶湯を受ける受口12と、この受口12から下方に伸びる湯口13と、湯口13から、製品キャビティ11の入り口である製品ゲート15につながる湯道14と、製品キャビティ11の上部に設けられた湯だまり16と、を備える。鋳型10には、一度に複数の製品を鋳造するために、複数の製品キャビティ11が形成されている。
【0011】
製品キャビティ11は、本実施形態においては、鋳鉄中空の回転体の製品、例えばカムシャフト30を作製するための鋳造空間であり、製品キャビティ11の上部に設けられた湯だまり16には、製品の凝固による収縮分を補うために鋳型10内に余分に注入された溶湯が溜まるように構成されている。
【0012】
カムシャフト30は、図2に示すように、中空部(鋳抜き孔)31、コマ32、シャフト表面33を備える。中空部31は、カムシャフト30の軽量化、及び、カムシャフト30の慣性質量の低減のために設けられるカムシャフト30は、中空部31を備えるため、中空部31とシャフト表面33の間の肉厚が薄い薄肉の製品となる。
【0013】
中空部31は、図1に示すように、製品キャビティ11内に配置された中子20によって鋳抜かれて形成される。中子20は、略真円の円柱状に形成され、中子20の中心がカムシャフト30の回転軸中心と同心になるように配置される。中子20によって、カムシャフト30の中空の鋳抜き穴が、1本の真っ直ぐな深穴形状に形成される。詳述すると、まず、製品キャビティ11に中子20を配置して、鋳型10を閉じた後、不図示の鋳鉄炉にて溶解されたFCD700材等の鋳鉄溶湯Mを、取鍋Lを用いて例えば溶湯温度1380度で、受口12から温度制御された鋳型10内に注湯する。中子20は、製品キャビティ11内に注湯された鋳鉄溶湯Mによって鋳包まれる。次に、所定時間のキュアタイムの後に製品キャビティ11からカムシャフト30を離型する。中子20は、カムシャフト30の離型時にはカムシャフト30内に挿入されたままとなる置き中子であり、中子20は、カムシャフト30を常温まで冷却した後に、引き抜かれ、中空部31が形成される。
【0014】
中子20は、主成分がクロムとニッケルとからなるオーステナイト系ステンレス材、例えばSUS304、で形成される金属製の置き中子である。中子20には、抜き勾配は形成されていない。また、中子20には、表面コーティングは施されていない。さらに、中子20は、鋳型10内に配置する前に冷却等をせず、常温におかれていた中子20が鋳型10内に配置される。
【0015】
図3は、鋳鉄溶湯に対しての融点、及び、コスト等の条件に基づいて選択した、中子20として利用可能な金属である、オーステナイト系ステンレス材、フェライト系ステンレス材、フェライト系スチール材、フェライト系スチール材の表面にメッキを施した材質、及び、純銅の特性を示す図である。SUS304は、オーステナイト系ステンレス材である。SUS430は、フェライト系ステンレス材である。S45Cは、フェライト系スチール材である。S45C+Snメッキは、フェライト系スチール材の表面に錫メッキを施した材質である。S45C+Niメッキは、フェライト系スチール材の表面にニッケルメッキを施した材質である。純Cuは、純銅である。
【0016】
図3に示すように、SUS304の熱膨張係数は、純Cuと同じ高さであり、他の材質の膨張係数よりも著しく高い。熱膨張係数が高いということは、つまり、熱間と冷間との寸法差が大きいという事である。製品であるカムシャフト30は、冷却(凝固)によって収縮する。そのため、中子20を熱膨張係数が低い材質で形成した場合には、カムシャフト30が凝固するさいに、中子20が、カムシャフト30によって抱き込まれるように拘束されてしまう。SUS304、或いは、純Cuを中子20の材質に用いた場合には、熱膨張係数が高いため、熱間と冷間との寸法差が大きく、カムシャフト30が凝固時に収縮しても、中子20がカムシャフト30によって拘束されることがない。よって、中子20に抜き勾配を形成しなくても、中子20をカムシャフト30の冷却後に引き抜いて、容易に取り出すことができる。
また、図3に示すように、SUS304の抗張力は、他の材質と比べて高い。SUS304は、抗張力が490MPa以上の高張力鋼であり、強度の高い材質である。強度の高いSUS304を中子20の材質として用いることで、中子20を繰り返し再利用することが可能となる。
【0017】
さらに、図3に示すように、SUS304、及び、SUS430の表面安定性は、S45Cの表面にメッキを施した材質と略同じか、或いは、それ以上である。これは、ステンレス材においては、ステンレス材に含まれるクロムと空気中の酸素とが結びつくことによって、ステンレス材の表層に不動態膜が生成されるためである。中子20の表層は、溶湯に触れるため、表面安定性が悪いと、溶湯と化学的に反応し、ガス欠陥が発生して、カムシャフト30中に空孔等が形成される場合がある。純Cuは、熱膨張係数は高いが、表面安定性が悪いため、中子20の材質としては適していない。
また、表面安定性が高い材質で中子20を形成することで、カムシャフト30の製品表面の荒れを防ぐことができるため、カムシャフト30の重さのバランスを安定させることができ、カムシャフト30の回転バランスの向上を図ることができる。
【0018】
上述した、熱膨張係数の高さ、抗張力の高さ、及び、表面安定性の良さから、SUS304は、鋳鉄溶湯に対しての融点、及び、コスト等の条件に基づいて選択した金属材質の中で最も金属性の置き中子の材質として適していると判明した。
さらに、図示は省略したが、SUS304は、熱間強度が高いため、SUS304から形成された中子20は、溶湯の熱で熱せられても、強度が高温によって下がることがなく、溶湯の流れで中子20が曲がってしまうことがない。よって、溶湯の熱による中子20の曲がりを防止して、狙った形状の中空部31を形成することができる。
【0019】
SUS304と比べて、フェライト系ステンレス材であるSUS430は、表面安定性は良いものの、熱膨張係数が高くない。よって、SUS430で形成した中子20を用いた場合には、カムシャフト30を常温まで冷却したさいに、中子20が製品によって抱き込まれるように拘束されてしまう可能性があり、SUS430は、中子20の材質としては適していない。
また、フェライト系スチール材であるS45Cは、熱膨張係数が低く、表面安定性も悪いため、中子20の材質としては適していない。
【0020】
S45Cの表面に錫(Sn)メッキ、或いは、ニッケル(Ni)メッキを施した中子20を使用した場合には、中子20の表面安定性が向上し、また、メッキが溶湯中で熔解するため、中子20の抜け性も向上されるが、1ショット毎に、中子20を製品キャビティ11内に配置する前に、中子20の表面にメッキを施す前処理を行う必要があり、繰り返して中子20を再利用という点では、工程が増し、不十分である。
中子20の材質として純Cuを用いた場合には、熱膨張係数は高いものの、表面安定性が良くないため、カムシャフト30の中空部31の表面が荒れ、また、熱間強度が低いので曲がる。そのため、カムシャフト30の重さのバランスが不安定になることが考えられるため、純銅は中子20の材質としては適していない。
【0021】
以上説明したように、本実施形態によれば、中子20を表面コーティングの施されていない金属製としたことで、中子を表面コーティングを施す等の前処理無しで繰り返し使用することができるようになり、中子20が金属のため、扱いやすく、中子20の鋳型へのセットが迅速にでき、中子20を鋳型内に配置するまでにかかる時間が短縮されるため、結果的にラインのサイクルタイムの短縮を図ることができる。
また、本実施形態によれば、砂中子に換えて、中子20を金属製としたことで、中子20が再利用可能となり、製造コストの削減を図ることができる。
また、本実施形態によれば、中子20を金属の中でも、熱膨張係数の高いオーステナイト系ステンレス材で形成したため、中子20に抜き勾配を形成しなくても、中子20の熱間と冷間との寸法差を利用して、製品冷却後に中子20を容易に製品から引き抜くことができる。これによって、製品の後加工で、抜き勾配をなくする仕上げをする必要がなく、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0022】
また、本実施形態によれば、中子20をオーステナイト系ステンレス材で形成したため、中子20の表層に不動態膜が生成され、中子20の表面安定性を向上することができ、砂中子を使用した場合の砂起因のガス欠陥の発生、或いは、金属の酸化層と溶湯が触れることによるガス欠陥の発生を防ぐことができ、品質歩留まりを向上することができる。また、中子20をオーステナイト系ステンレス材で形成したため、中子20に表面コーティングを施すなどの表面処理を行わなくても中子20の表面安定性を得ることができ、中空部31の表面が荒れることがないため、カムシャフト30の重さのバランスが安定し、カムシャフト30の回転バランスの向上を図ることができる。
また、本実施形態によれば、砂中子に換えて、中子20を金属製としたことで、中子砂落としを行う必要がなく、さらに、砂処理を廃止することができため、製造工程で砂の使用がなくなり、作業環境の改善を図ることができる。
【符号の説明】
【0023】
1 鋳造装置
10 鋳型
20 中子
30 カムシャフト(製品)
31 中空部(鋳抜き孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抜き勾配が形成されていないオーステナイト系ステンレス材で形成された中子を鋳型内に配置し該鋳型内に鋳鉄を注湯して中空の鋳抜き穴を有する製品を鋳造可能としたことを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
前記製品はカムを一体化した鋳鉄中空カムシャフトであることを特徴とする請求項1に記載の鋳造装置。
【請求項3】
抜き勾配が形成されていないオーステナイト系ステンレス材で形成された中子を鋳型内に配置し該鋳型内に鋳鉄を注湯し冷却後に置き中子を引き抜いて中空の鋳抜き穴を有する製品を鋳造することを特徴とする鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−161800(P2012−161800A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21680(P2011−21680)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】