説明

鋼材の強度増強方法

【課題】鉄筋コンクリートなどの状態で構造物の建築要素として用いられる鋼材の強度が増加できるようにする。
【解決手段】まず、ステップS10で、コンクリート中に埋設された鋼材に第1電極を接続する。次に、ステップS102で、コンクリートに第2電極を接して設ける。以上のように各電極を接続した後、ステップS103で、鋼材に熱力学的平衡量以上の水素が含まれる状態となる電流を、第1電極を陰極として第1電極および第2電極の間に流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の水素による脆化を防止して鋼材の強度を増加する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材(鉄鋼)は、鉄骨や鉄筋などとして建築物などの建築要素(固定構造体)の部材として用いられている。この鋼材が、構造体が配置されている環境の影響で発生した水素により脆化して、強度が低下する場合があることが知られている。一方で、熱力学的平衡量以上の可飽和の水素を含む鋼材は、強度が向上することが確認されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】村上 敬宜、「水素脆化メカニズムと水素機器強度設計の考え方」、電力中央研究所材料科学シンポジウム2010予稿集、43−62頁、2010年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、水素を過飽和の状態にすることで、鋼材の水素脆化が抑制され強度が増大することが見いだされているが、例えば、bcc結晶構造の金属では、結晶格子内の水素が拡散する速度が大きく、過飽和の状態を保つことは難しい。また、マルテンサイト系の高強度鋼では、常温(20〜25℃)では、水素は数日でmmオーダーの移動をし、「拡散性水素」として知られるトラップエネルギー準位の小さい成分の水素が、鋼材の内外の出入りを繰り返す。
【0005】
このため、鋼材を水素が過飽和となる状態に保つことは、容易ではないという問題がある。また、鉄筋コンクリートなど、コンクリート中に埋設されている鋼材においては、上述した鋼材を水素が過飽和となる状態に保つことは特に困難である。このように、従来の技術では、含有する水素を可飽和の状態とすることで、鉄筋コンクリートなどの状態で構造物の建築要素として用いられる鋼材の強度を増加することは、容易ではないという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、鉄筋コンクリートなどの状態で構造物の建築要素として用いられる鋼材の強度が増加できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る鋼材の強度増強方法は、コンクリート中に埋設された鋼材に第1電極を接続し、コンクリートに第2電極を接して設け、第1電極を陰極として第1電極および第2電極の間に電流を流して鋼材表面において水の電気分解により水素を発生させ、鋼材に熱力学的平衡量以上の水素が含まれる状態とする。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、鋼材に接続する第1電極を陰極として第1電極および第2電極の間に電流を流すようにしたので、鉄筋コンクリートなどの状態で構造物の建築要素として用いられる鋼材の強度が増加できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における鋼材の強度増強方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図2は、実施の形態における鋼材の強度増強方法を実現する装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における鋼材の強度増強方法を説明するためのフローチャートである。まず、ステップS10で、コンクリート中に埋設された鋼材に第1電極を接続する。次に、ステップS102で、コンクリートに第2電極を接して設ける。以上のように各電極を接続した後、ステップS103で、第1電極を陰極として第1電極および第2電極の間に電流を流し、鋼材表面において水の電気分解により水素を発生させ、鋼材に熱力学的平衡量以上の水素が含まれる状態とする。
【0011】
コンクリートには水が含まれているため、埋設されている鋼材が陰極側となるように電流を流すことで、鋼材表面において水の電気分解により水素を発生させれば、鋼材表面近傍における水素分圧を高めることができる。これにより、鋼材内部からの水素の放出を抑制し、鋼材内部においては、熱力学的平衡量以上の可飽和の水素が含まれた状態とする。このように、本実施の形態によれば、鋼材中の水素を可飽和とすることができるので、コンクリート中に埋設された鋼材の強度を増加させることができる。
【0012】
次に、上述した方法を実現する装置について、図2を用いて説明する。図2は、実施の形態における鋼材の強度増強方法を実現する装置の構成を示す構成図である。この装置は、まず、コンクリート201中に埋設された鋼材202に接続する第1電極203を備える。また、コンクリート201に接して設けられた第2電極204を備える。第2電極204は、コンクリート201に埋設してもよい。また、第1電極203を陰極側として、第1電極203と第2電極204との間に電流を流す直流電源205を備える。
【0013】
ここで、第1電極203は、コンクリート201のアルカリ性でマイナス極(陰極)とした時に容易に溶解しないような材料を用いれば好適であり、例えば、炭素から構成すればよい。また、第2電極204は、コンクリート201のアルカリ性でプラス極とした時に容易に溶解しない材料を用いれば好適であり、例えば、炭素および白金から構成すればよい。
【0014】
直流電源205は、例えば、乾電池から構成すればよい。また、燃料電池および太陽電池であってもよい。また、商用の交流電源を整流して直流とする電源であってもよい。前述したように、鋼材202に熱力学的平衡量以上の水素が含まれる状態とするためには、2つの電極間に、例えば1mA/cm2の電流を流せばよい。この電流値は、コンクリート201の抵抗、および電気分解により発生する水素の量を計算して適宜設計すればよい。
【0015】
上述した本発明により、コンクリートに埋設されている鋼材(鉄鋼)に、常時水素を供給することができるため、過飽和の状況を保つことができ、鋼材の強度を増加させることができる。なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0016】
201…コンクリート、202…鋼材、203…第1電極、204…第2電極、205…直流電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート中に埋設された鋼材に第1電極を接続する第1ステップと、
前記コンクリートに第2電極を接して設ける第2ステップと、
前記第1電極を陰極として前記第1電極および前記第2電極の間に電流を流して前記鋼材表面において水の電気分解により水素を発生させ、前記鋼材に熱力学的平衡量以上の水素が含まれる状態とする第3ステップと
を備えることを特徴とする鋼材の強度増強方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−202058(P2012−202058A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65877(P2011−65877)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】