説明

鋼材用エポキシ粉体塗料組成物及び被覆鋼材

【課題】低温衝撃性、接着耐久性等に優れ、さらに極低温環境下での使用を想定した冷熱サイクル試験に対しても十分な耐性のある被覆鋼材を提供する。
【解決手段】エポキシ当量が300〜750g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1)及びエポキシ当量が1,200〜5,500g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2)を含むエポキシ樹脂成分(A)及び硬化剤(B)を含有することを特徴とする鋼材用エポキシ粉体塗料組成物、及び該鋼材用エポキシ粉体塗料組成物を用いた被覆鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材、特にパイプライン用のポリオレフィン被覆鋼管のプライマーとして有用なエポキシ粉体塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石油や天然ガスなどの輸送にはパイプライン用鋼管が使用されている。パイプライン用鋼管は、大気中や地中、海中等の腐食環境下に敷設されて使用されるため、通常は防食処理が施されている。例えば、天然ガスに使用されるパイプライン用鋼管の防食処理として、アスファルト系、コールタール系、エナメル系、コールタールピッチ系及び石油アスファルト系等のれき青質塗覆装、またポリオレフィン系、エポキシ系及び3層被覆系等のプラスチック塗覆装がある。これら防食処理の中でも防食性能に優れる点から3層被覆系が現在パイプライン用鋼管の防食処理の主流となっている。
【0003】
3層被覆系の一般的な防食処理は、クロメート処理されたパイプライン用鋼管の外周面にエポキシ粉体塗料組成物、ポリオレフィン系接着剤、ポリオレフィン系被覆樹脂を順に被覆した構成をしており、このような防食処理をしたパイプライン用鋼管はポリオレフィン被覆鋼管と呼ばれる。このようなポリオレフィン被覆鋼管に使用されるエポキシ粉体塗料組成物として、例えば、特許文献1は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を特定割合で含むエポキシ樹脂成分、フェノール系硬化剤、イミダゾール系硬化促進剤および/またはイミダゾリン系硬化促進剤並びに、無機質充填材からなるエポキシ粉体塗料組成物に関する発明が開示されている。また、特許文献2には、ビスフェノールAもしくはF型エポキシ樹脂と硬化剤を触媒の存在下に硬化させてなる硬化物からなる主剤100質量部に対して、タンニン又はタンニン酸類を20質量部以下の量含有させてなることを特徴とするエポキシ粉体塗料組成物に関する発明が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−191954号公報
【特許文献2】特開2002−105393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら発明のエポキシ粉体塗料組成物は、通常の環境で使用されるポリオレフィン被覆鋼管に要求される防食性、付着性、陰極剥離性、低温衝撃性等の性能は満足しているものの、厚膜で使用した場合に−60℃程度の極低温環境下での付着性能等においては十分に満足するものではない。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、厚膜においても極低温での付着性に優れた鋼材用エポキシ粉体塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エポキシ当量が300〜750g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1)及びエポキシ当量が1,200〜5,500g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2)を含むエポキシ樹脂成分(A)及び硬化剤(B)を含有することを特徴とする鋼材用エポキシ粉体塗料組成物、及び該鋼材用エポキシ粉体塗料組成物を用いた被覆鋼材に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物によれば、低温衝撃性、接着耐久性等に優れ、さらに極低温環境下での使用を想定した冷熱サイクル試験に対しても十分な耐性のある被覆鋼材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物は、エポキシ当量が300〜750g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1)及びエポキシ当量が1,200〜5,500g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2)を含むエポキシ樹脂成分(A)及び硬化剤(B)を含有することを特徴とする。
【0010】
エポキシ樹脂成分(A)は、必須成分としてエポキシ当量が300〜750g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1)及びエポキシ当量が1,200〜5,500g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2)を含有する。
【0011】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1)は、形成塗膜の硬化性及び鋼材への付着性等に寄与する。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1)としては、特に限定されるものではなく従来公知のものを使用することができる。例えば市販品として、jER−1001(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量450〜500g/eq)、jER−1002(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量600〜700g/eq)、エポトートYD−011(東都化成社製、エポキシ当量450〜500g/eq)、エポトートYD−901(東都化成社製、エポキシ当量450〜500g/eq)、エポトートYD−012(東都化成社製、エポキシ当量600〜700g/eq)、エポトートYD−902(東都化成社製、エポキシ当量600〜700g/eq)等が挙げられる。
【0012】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1)の含有量は、特に限定されるものではない。好ましい含有量はエポキシ樹脂成分(A)中に1〜70重量%の範囲、さらに好ましくは5〜60重量%の範囲であり、特に好ましくは10〜50重量%の範囲である。これら範囲の下限値は、冷熱サイクル耐性及び接着耐久性の点で意義がある。また、これら範囲の上限値は、貯蔵安定性及び冷熱サイクル耐性の点で意義がある。
【0013】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2)は、形成塗膜の柔軟性等に寄与する。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2)としては、特に限定されるものではなく従来公知のものを使用することができる。例えば市販品として、jER−1007(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量1,750〜2,200g/eq)、jER−1009(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量2,400〜3,300g/eq)、jER−1010(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量3,000〜5,000g/eq)、エポトートYD−907(東都化成社製、エポキシ当量1,300〜1,700g/eq)、エポトートYD−017(東都化成社製、エポキシ当量1,750〜2,100g/eq)、エポトートYD−909(東都化成社製、エポキシ当量1,800〜2,500g/eq)、エポトートYD−019(東都化成社製、エポキシ当量2,400〜3,300g/eq)、エポトートYD−7019(東都化成社製、エポキシ当量3,000〜4,000g/eq)、エポトートYD−6020(東都化成社製、エポキシ当量3,000〜5,000g/eq)、エポトートYD−020N(東都化成社製、エポキシ当量3,800〜4,000g/eq)等が挙げられる。
【0014】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2)の含有量は、特に限定されるものではない。好ましい含有量はエポキシ樹脂成分(A)中に30〜99重量%の範囲、さらに好ましくは40〜95重量%の範囲であり、特に好ましくは50〜90重量%の範囲である。これら範囲は、形成塗膜の柔軟性及び冷熱サイクル耐性の点で意義がある。
【0015】
また、エポキシ樹脂成分(A)として、上記エポキシ樹脂のほかに、本発明の効果を阻害しない範囲において他のエポキシ樹脂を併用することができる。例えば、上記(a−1)及び(a−2)以外のビスフェノールA型エポキシ樹脂が挙げられる。その他、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、多価アルコール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等も挙げられる。これらは単独で又は2種以上組合せて使用することもできる。
【0016】
硬化剤(B)は、エポキシ樹脂成分(A)のエポキシ基と反応する硬化剤であれば、特に限定されるものではなく従来公知のものを使用することができる。例えば、アミン系硬化剤、酸系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、フェノール系硬化剤、ジシアンジアミド系硬化剤、カチオン重合反応系硬化剤及びヒドラジン系硬化剤等が挙げられる。これらの中でもフェノール系硬化剤が、硬化性及び耐陰極剥離性の点から好ましい。これらは単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0017】
硬化剤(B)の含有量は、特に限定されるものではない。好ましい含有量はエポキシ樹脂成分(A)中のエポキシ基1当量に対して硬化剤中のエポキシ基と反応する基が0.5〜1.5当量の範囲であり、さらに好ましくは0.8〜1.3当量の範囲である。これら範囲は、冷熱サイクル耐性、低温衝撃性、貯蔵安定性の点で意義がある。
【0018】
本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物は、さらに充填剤(C)を含有することができる。充填剤としては、特に限定されるものではなく従来公知のものを使用することができる。例えば、着色顔料(酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ、酸化鉄等)、体質顔料(炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、メタケイ酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク、マイカ等)、防錆顔料(リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム等)等が挙げられる。
【0019】
充填剤(C)の含有量は特に限定されるものではない。好ましい含有量はエポキシ樹脂成分(A)に対して10〜60重量%の範囲であり、さらに好ましくは20〜50重量%の範囲である。これら範囲は、貯蔵安定性、冷熱サイクル耐性の点で意義がある。
【0020】
本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物は、さらに硬化触媒を含有することができる。硬化触媒としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものが使用できる。具体的には、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−〔2'−メチルイミダゾリル−(1')〕−エチル−S−トリアジン等のイミダゾール化合物;2−メチルイミダゾリン、2−エチルイミダゾリン、2−ヘプチルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン−イソシアヌル酸付加物、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリン等のイミダゾリン化合物等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0021】
硬化触媒の含有量は特に限定されるものではない。好ましい含有量は硬化剤(B)に対して0.1〜10重量%であり、さらに好ましくは1〜5重量%である。これら範囲は硬化性、塗装作業性の点で意義がある。
【0022】
さらに本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物は、分散剤、表面調整剤、揺変剤等の添加剤を含有することができる。
【0023】
本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物は、形成塗膜の20℃におけるヤング率が15,000kgf/cm以下、破断伸び率が10%以上及び熱収縮応力が130kgf/cm以下であることが好ましい。さらに好ましい範囲は、形成塗膜の20℃におけるヤング率が8,000〜12,000kgf/cm、破断伸び率が13〜35%及び熱収縮応力が60〜130kgf/cmの範囲である。これら範囲であれば冷熱サイクル耐性をさらに向上させることが期待できる。これらの物性を満たす塗膜は、本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物の上記各成分及び含有量を適宜選択することにより形成することが可能である。
【0024】
ここで、ヤング率は以下の方法により求める。鋼材用エポキシ粉体塗料組成物をガラス板上に膜厚が150μmになるように塗装し、所定の条件で加熱し硬化させた後、ガラス板からその塗膜を剥離し、長さ30mm、巾5mmの短冊状に裁断する。測定機器として「テンシロンUTM−II−20」(オリエンテック社製、商品名)を使用し、塗膜を測定長さが20mmとなるように測定機器に取り付け、温度20℃において引張り速度8mm/分で測定する。測定結果の、ストレス−ストレイン曲線の立ち上がり時の曲線の傾きがヤング率であり、単位はkgf/cmである。
【0025】
破断伸び率は、上記ヤング率の測定に用いた機器を使用して測定する。上記と同様に作成した膜厚150μm、長さ30mm、巾5mmの塗膜を、塗膜の測定長さが20mmとなるように測定機器に取り付け、温度20℃において引張り速度8mm/分で引張る。塗膜が破断した時の測定長さを試験前の測定長さと比較して次式により破断伸び率を求める。
破断伸び率(%)=[(破断した時の塗膜の測定長さ)−(測定前の塗膜の測定長さ)]/[(測定前の塗膜の測定長さ)×100]
【0026】
熱収縮応力は以下の方法により求める。上記ヤング率の測定と同様の作成方法にて、膜厚150μm、長さ30mm、巾5mmの塗膜を作成する。熱収縮応力測定装置「RS−20C」(レスカ社製、商品名)に、塗膜の測定長さが20mmとなるように取り付け、熱収縮応力の測定を行う。測定は、雰囲気温度100℃での応力測定値を0kgfに調整し、その後自然放冷により40℃まで温度を下げる。記録計に示された応力値を温度に対してプロットし、40℃、50℃及び60℃の点から最小二乗法により直線αを求める。求めた直線αより20℃での応力値を読み取り、熱収縮応力値とする。
【0027】
本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法で製造することができる。例えば、上記した各成分をヘンシェルミキサー等で乾式混合した後、2軸エクストルーダー等の溶融混合分散機を使用して溶融混合した後、次いで冷却、粗粉砕、アトマイザー、ジェットミル等の微粉砕器で粉砕し、次いでろ過することにより製造される。製造された鋼材用エポキシ粉体塗料組成物の平均粒子径は、好ましくは平均粒子径10〜100μmの範囲、さらに好ましくは40〜70μmの範囲である。これら範囲の下限値は、塗装作業性の点で意義がある。またこれら範囲の上限値は、塗膜の平滑性の点で意義がある。
【0028】
本発明の被覆鋼材は、鋼材表面に上記の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物からなる塗膜、ポリオレフィン接着剤層、及びポリオレフィン被覆樹脂層を順次積層してなる。
【0029】
鋼材は、炭素鋼あるいはステンレス鋼等の合金鋼でできた鋼材であり、形状は板状、パイプ状及び箱状のいずれであってもよい。また、鋼材の表面には必要に応じてアルカリ脱脂・酸洗処理又はブラスト処理などの除錆処理を施してもよい。さらに、優れた防食性を付与するためにクロメート処理、燐酸塩処理などの表面処理を施してもよい。
【0030】
上記鋼材上には本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物からなる塗膜が積層される。塗膜の膜厚は、鋼材の用途によって適宜選択することができる。好ましくは30〜1000μmの範囲であり、さらに好ましくは40〜600μmの範囲である。
【0031】
塗布及び硬化方法は特に限定されるものではなく従来公知の方法で行うことができる。鋼材の形状がパイプ状の鋼管である場合、例えば、高周波誘導加熱やバーナー加熱などで鋼管表面を予熱し、その外面に本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物を静電塗装、摩擦帯電塗装又は流動浸漬塗装等することにより塗布・硬化を行うことができる。また、鋼管の外面に鋼材用エポキシ粉体塗料組成物を常温で塗布したのち鋼管を加熱して硬化してもよい。硬化条件は、特に限定されるものではなく、通常120〜400℃で1〜40分の範囲で行うことができる。
【0032】
上記で形成された塗膜の上に、ポリオレフィン接着剤層が積層される。ポリオレフィン接着剤層に使用されるポリオレフィン接着剤は、特に限定されるものではなく従来公知のものを使用することができる。例えば、塗膜との密着性及びポリオレフィン被覆樹脂層との融着性の点から変性ポリエチレン樹脂を使用することが好ましい。
【0033】
ポリオレフィン接着剤層の厚みは、特に限定されるものではなく、被覆鋼材の用途に応じて適宜選択することができる。好ましくは50〜400μm、さらに好ましくは100〜300μmの範囲である。
【0034】
上記接着層の上に、ポリオレフィン被覆樹脂層が積層される。ポリオレフィン被覆樹脂層に使用される樹脂は、特に限定されるものではなく従来公知のものを使用することができる。例えば、低密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂等のポリエチレン樹脂;ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂は少量のアクリル酸等のビニルモノマー若しくは他のオレフィンとの共重合体であってもよい。
【0035】
また上記ポリオレフィン被覆樹脂には必要により、例えば、着色顔料(酸化チタン、カーボンブラック等)、体質顔料(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー等)、補強材(ガラスフレーク等)、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を添加することができる。
【0036】
ポリオレフィン被覆樹脂層の厚みは、特に限定されるものではなく、被覆鋼材の用途に応じて適宜選択することができる。好ましくは2〜20mm、さらに好ましくは3〜10mmの範囲である。
【0037】
ポリオレフィン接着剤層及びポリオレフィン被覆樹脂層を形成する方法は、特に限定されるものではなく従来公知の方法で行うことができる。例えば、鋼管に積層する場合、予め鋼管を高周波誘導加熱やバーナー加熱などで鋼管表面を予熱し、そこへ本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物を塗布し、さらにポリオレフィン接着剤層及びポリオレフィン被覆樹脂層を形成する方法等が挙げられる。ポリオレフィン接着層及びポリオレフィン被覆樹脂層は、それぞれ単独で、溶融丸ダイ押出し被覆法又は溶融Tダイ押出し被覆法等により形成することができる。また、溶融丸ダイ共押出し被覆法又は溶融Tダイ共押出し被覆法等により、両層を一度に形成することもできる。また、あらかじめポリオレフィン接着剤層及びポリオレフィン被覆樹脂層が一体となった層からなるシートを用い、そのシートを、鋼材上に積層された本発明の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物からなる塗膜上に、ポリオレフィン接着剤層が接するように積層してもよい。積層する際の温度は、余熱温度等により任意に設定することができるが、通常、鋼材表面温度は150〜230℃である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」及び「%」は、別記しない限り「重量部」及び「重量%」を示す。
【0039】
実施例1
エポキシ粉体塗料組成物の製造
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1)(注1)7重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2)(注2)93重量部、フェノール系硬化剤(注3)13重量部、イミダゾール系触媒(注4)0.39重量部及び表面調整剤(注5)1重量部をヘンシェルミキサーで前混合し、ついでブスコニーダーPLK−46で溶融混練した後、冷却、粉砕、ろ過して平均粒子径50μmの実施例1のエポキシ粉体塗料組成物を製造した。
(注1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1):jER−1002、ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量約650g/eq
(注2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2):jER−1007、ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量約1,975g/eq
(注3)フェノール系硬化剤:jERキュア 171N、ジャパンエポキシレジン社製、フェノール性OH基約4.5meq/g
(注4)イミダゾール系触媒:2−メチルイミダゾール、四国化成工業社製
(注5)表面調整剤:レジフローP−67、ESTRON CHEMICAL社製
【0040】
ヤング率の測定
上記で製造したエポキシ粉体塗料組成物をガラス板に膜厚が150μmになるように塗装し、200℃、10分加熱し硬化させた後、ガラス板からその塗膜を剥離し、長さ30mm、巾5mmの短冊状に裁断した。測定機器として「テンシロンUTM−II−20」(オリエンテック社製、商品名)を使用し、塗膜を測定長さが20mmとなるように測定機器に取り付け、温度20℃において引張り速度8mm/分で測定した。測定結果の、ストレス−ストレイン曲線の立ち上がり時の曲線の傾きがヤング率であり、単位はkgf/cmである。測定結果を表1に示した。
【0041】
破断伸び率の測定
上記ヤング率の測定に用いた機器を使用して測定した。ヤング率の測定の場合と同様の方法で作成した膜厚150μm、長さ30mm、巾5mmの塗膜を、塗膜の測定長さが20mmとなるように測定機器に取り付け、温度20℃において引張り速度8mm/分で引張った。塗膜が破断した時の測定長さを試験前の測定長さと比較して次式により破断伸び率を求めた。
破断伸び率(%)=[(破断した時の塗膜の測定長さ)−(測定前の塗膜の測定長さ)]/[(測定前の塗膜の測定長さ)×100]
測定結果を表1に示した。
【0042】
熱収縮応力の測定
上記ヤング率の測定と同様の作成方法にて、膜厚150μm、長さ30mm、巾5mmの塗膜を作成した。熱収縮応力測定装置「RS−20C」(レスカ社製、商品名)に、塗膜の測定長さが20mmとなるように取り付け、熱収縮応力の測定を行った。測定は、雰囲気温度100℃での応力測定値を0kgfに調整し、その後自然放冷により40℃まで温度を下げた。記録計に示された応力値を温度に対してプロットし、40℃、50℃及び60℃の点から最小二乗法により直線αを求めた。求めた直線αより20℃での応力値を読み取り、熱収縮応力値とした。測定結果を表1に示した。
【0043】
低温衝撃性試験
コスマー100(商品名、関西ペイント社製、クロメート処理剤)を塗布したブラスト鋼板(サイズ9mmT×100mm×150mm)を200℃に予熱しておき、上記で製造したエポキシ粉体塗料組成物を、静電塗装機を用いて膜厚350μmになるよう塗装し試験板を作成した。試験はJIS K−5600 5−3の耐おもり落下性試験(デュポン式)に準じて、落錘重量2,000g、撃心の尖端直径1/2インチ、落錘高さ50cmの条件にて試験温度−30℃にて塗膜に衝撃を与えた。
試験結果を以下の基準にて目視で評価した。評価結果を表1に示した。
○:塗面にワレ・浮きが認められない
△:塗面にワレはないが、わずかに塗膜が浮き上がっている
×:塗面にワレが認められる
【0044】
接着耐久性試験
まず以下の方法によりJIS K6850に定める単純重ね合わせ試験片を作成した。コスマー100を塗布したブラスト鋼板a(厚さ2.3mm×巾25mm×長さ100mm)を200℃に予熱しておき、上記で製造したエポキシ粉体塗料組成物を、静電塗装機を用いて上記ブラスト鋼板a端部の一定面積(巾25mm、長さ13mm)へ塗装した。このときの膜厚は300μmである。次に200℃に予熱した同サイズのコスマー100を塗布したブラスト鋼板bの端部と、前記ブラスト鋼板aの塗装部分を重ね合わせた後、200℃で10分保持し接着部分が巾25mm、長さ13mmの単純重ね合わせ試験片を作成した。
続いて上記で作成した試験片を用いて接着耐久性試験を行った。試験機器として「AUTOGRAPH AG−200B」(島津製作所社製、商品名)を使用し、温度20℃において引張り速度10mm/分で試験片の両端を引張り、接着面が剥がれる際の力を測定した。測定結果を表1に示した。
【0045】
冷熱サイクル試験
まず、コスマー100を塗布したブラスト鋼板(厚さ9mm×100mm×150mm)を用いて、次の工程により被覆鋼板を作成した。ブラスト鋼板を200℃に予熱しておき、上記で製造したエポキシ粉体塗料組成物を、静電塗装機を用いて所定膜厚(100μmまたは350μm)になるよう塗装した。塗装後約1分の後、変性ポリエチレン樹脂接着剤層及びポリエチレン被覆樹脂層が一体となった層からなるシート(厚さ5mm)を気泡が入らないように塗膜上に圧着し、被覆鋼板を作成した。
続いて作成した被覆鋼板を、ドライアイスで−60℃に冷却したエタノールに8時間浸漬し、取り出した後すぐに25℃の水に15時間浸漬、さらに取り出した後23℃の室内で1時間放置すること、を1サイクルとして冷熱サイクル試験を行った。評価は、ブラスト鋼板とエポキシ塗膜層間が剥離しているかを1サイクル毎に目視で確認することにより行い、剥離するまでのサイクル数を試験結果とした。なお、試験は最大15サイクルまで行った。測定結果を表1に示した。
【0046】
実施例2〜8、比較例1〜6
エポキシ粉体塗料組成物の組成を表1の各実施例、比較例の組成に変えた以外は実施例1と同様の方法で実施例2〜8、比較例1〜6の各エポキシ粉体塗料組成物を製造し、上記各測定・試験に供した。評価・試験結果を表1に示した。
【0047】
【表1】

(注6)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−3):jER−1004、ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量約920g/eq
(注7)o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:jER−157S70、ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量約220g/eq

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ当量が300〜750g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1)及びエポキシ当量が1,200〜5,500g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2)を含むエポキシ樹脂成分(A)及び硬化剤(B)を含有することを特徴とする鋼材用エポキシ粉体塗料組成物。
【請求項2】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−1)をエポキシ樹脂成分(A)中に1〜70重量%含む請求項1記載の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物。
【請求項3】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(a−2)をエポキシ樹脂成分(A)中に30〜99重量%含む請求項1又は2記載の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物。
【請求項4】
硬化剤(B)がフェノール系硬化剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物。
【請求項5】
充填剤(C)を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物。
【請求項6】
形成塗膜の20℃におけるヤング率が15,000kgf/cm以下、破断伸び率が10%以上及び熱収縮応力が130kgf/cm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物。
【請求項7】
鋼材表面に
(1)請求項1〜6のいずれか1項に記載の鋼材用エポキシ粉体塗料組成物からなる塗膜、(2)ポリオレフィン接着剤層、及び(3)ポリオレフィン被覆樹脂層を順次積層してなることを特徴とする被覆鋼材。

【公開番号】特開2008−231177(P2008−231177A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70045(P2007−70045)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】