説明

鋼板の安定通板方法

【課題】例えば連続式酸洗ラインのように、鋼板を通板させるラインであって、ライン入側にピンチロールとレベラーを備えたラインにおいて、鋼板の蛇腹状態の発生や鋼板の蛇行によるエッジ損傷の発生といった通板異常を的確に抑止して、鋼板を安定して通板させることができる鋼板の安定通板方法を提供する。
【解決手段】鋼板2の先端2aがピンチロール12とレベラー14を通板する際にはピンチロール12で鋼板2を挟み込み、鋼板2の先端2aがレベラー14を通過した後はピンチロール12を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば連続式酸洗ラインのように、鋼板(鋼帯)を通板させるラインであって、ライン入側にピンチロールとレベラーを備えたラインにおいて、鋼板を安定して通板させることができる鋼板の安定通板方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板(鋼帯)を通板させるラインとして、例えば、連続式酸洗ラインがある。連続式酸洗ラインでは、複数のコイル(コイル状の鋼帯)を順次巻き戻しながら、前材の尾端と次材の先端を溶接することで、鋼帯をラインに連続装入し、ライン内を連続的に通板させて高能率な酸洗作業を達成するようにしている。
【0003】
このような連続式酸洗ラインにおいては、図1に示すように、ライン入側に、コイル1を巻き戻して払い出すペイオフリール(アンコイラー)11と、ペイオフリール11から払い出された鋼帯(鋼板)2を上下方向に挟みながら前方に送り込むピンチロール12(下ピンチロール12a、上ピンチロール12b)と、ピンチロール12を通過した鋼板2を矯正するレベラー(アンコイラーレベラー)14が設置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、レベラー14は、鋼板2の先端部・尾端部の形状矯正を図って溶接性の向上を行うとともに、鋼板2の定常部に関しては、全長に渡る適度な形状矯正を行うことで通板性の改善を行っている。
【0005】
なお、図1では、レベラー14は、No.1下ロール14a、No.1上ロール14b、No.2下ロール14c、No.2上ロール14d、No.3下ロール14e、No.3上ロール14fの計6個のロールを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−169951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の連続式酸洗ラインのように、ライン入側に、ペイオフリール11とピンチロール12とレベラー14を備えたラインにおいては、ペイオフリール11から払い出された鋼板2の先端部を順次ピンチロール12とレベラー14を通板させる際に、ある頻度で、図2に示すように、レベラー14とピンチロール12の間で鋼板2が蛇腹状態9になって詰まることがある。この現象は、鋼板2の先端部によらず定常部の通板中でも発生し、通板異常になる。なお、図2において、13はピンチロール12の回転用モータであり、15はレベラー14の回転用モータである。
【0008】
また、時には、鋼板2が通板中に蛇行して、レベラー14内で鋼板2のエッジが損傷するという通板異常が生じることもある。
【0009】
そして、上記のような通板異常が生じると、その復旧作業のためにラインの稼動率が低下してしまう。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、例えば連続式酸洗ラインのように、鋼板を通板させるラインであって、ライン入側にピンチロールとレベラーを備えたラインにおいて、鋼板の蛇腹状態の発生や鋼板の蛇行によるエッジ損傷の発生といった通板異常を的確に抑止して、鋼板を安定して通板させることができる鋼板の安定通板方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者は、まず、図2に示したような鋼板の蛇腹状態が発生する現象について詳細に観察・検討を行った。その結果、以下のようなメカニズムで鋼板の蛇腹状態が発生することを突き止めた。
【0012】
すなわち、鋼板の長手方向位置に関わらず、鋼板を加減速するタイミングで、レベラーとピンチロールの間で鋼板に高さ5mm相当の極少量の段差部(盛り上がり)が発生し、その極少量の段差部を起点にして、レベラー入口で鋼板に2枚折れが発生し、その2枚折れになった鋼板部分に後続の鋼板部分が次々に押し込まれて蛇腹状態が発生する。
【0013】
このように、鋼板を加減速するタイミングで、上記の段差部(2枚折れや蛇腹の起点)が発生するのは、鋼板を加減速するタイミングではレベラーに対してピンチロールの方が駆動系の抵抗やロールの質量等を原因とするロール回転の慣性の差による鋼板の送り量が大きくなるためと推察される。そして、鋼板を加減速した以降はレベラーとピンチロールの鋼板の送り量は一定になるので、鋼板の加減速で生じた上記の段差部は除去されず、2枚折れの発生を経て、蛇腹状態の発生につながってしまう。
【0014】
そこで、本発明者は、上記のようなメカニズムで発生する鋼板の蛇腹状態を抑止するためには、ピンチロールによる鋼板の挟み込みを鋼板の先端部がレベラーを通板し終わるまでに完了して、鋼板の加減速が頻繁に生じる鋼板の定常部ではピンチロールを開放することによって、2枚折れや蛇腹の起点となる段差部が発生しないようにすればよいとの考えに至った。
【0015】
また、通常、ピンチロールは、そのロール両端を個別のエアシリンダーで圧下する形式であるため、ロール両端の圧下が必ずしも同時に実施されるわけではなく、そのような不均等のピンチロールによる拘束が鋼板の形状によって蛇行を誘発すると考えられることから、上記のように鋼板の定常部ではピンチロールを開放することで、鋼板の蛇行の発生を抑制して、鋼板エッジ部の損傷を防止できるとの考えに至った。
【0016】
上記のような考え方に基づいて、本発明は以下のような特徴を有している。
【0017】
[1]鋼板を通板させるラインであって、ライン入側にピンチロールとレベラーを備え、前記レベラーで鋼板を矯正するラインにおいて、鋼板の先端が前記ピンチロールと前記レベラーを通板する際には前記ピンチロールで鋼板を挟み込み、鋼板の先端が前記レベラーを通過した後は前記ピンチロールを開放することを特徴とする鋼板の安定通板方法。
【0018】
[2]鋼板を通板させるラインは、連続式酸洗ラインであることを特徴とする前記[1]に記載の鋼板の安定通板方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、例えば連続式酸洗ラインのように、ライン入側にピンチロールとレベラーを備えたラインにおいて、鋼板の加減速が頻繁に生じる鋼板の定常部ではピンチロールを開放するようにしているので、ピンチロールに起因する、鋼板の蛇腹状態の発生や鋼板の蛇行によるエッジ損傷の発生といった通板異常が的確に抑止され、鋼板を安定して通板させることができる。その結果、上記のような通板異常を回復するための復旧作業が回避され、ラインの稼動率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】連続式酸洗ラインのライン入側を示す図である。
【図2】連続式酸洗ラインのライン入側における鋼板の蛇腹状態を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における鋼板の通板手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
まず、この実施形態において対象とするラインは、前述の連続式酸洗ラインであり、複数のコイル(コイル状の鋼帯)を順次巻き戻しながら、前材の尾端と次材の先端を溶接することで、鋼帯をラインに連続装入し、ライン内を連続的に通板させて高能率な酸洗作業を達成するようにしている。
【0023】
そして、図1に示したように、ライン入側に、コイル1を巻き戻して払い出すペイオフリール(アンコイラー)11と、ペイオフリール11から払い出された鋼帯(鋼板)2を上下方向に挟みながら前方に送り込むピンチロール12(下ピンチロール12a、上ピンチロール12b)と、ピンチロール12を通過した鋼板2を矯正するレベラー(アンコイラーレベラー)14が設置されている。
【0024】
ここで、レベラー14は、鋼板2の先端部・尾端部の形状矯正を図って溶接性の向上を行うとともに、鋼板2の定常部に関しては、全長に渡る適度な形状矯正を行うことで通板性の改善を行っている。
【0025】
その上で、この実施形態においては、鋼板2の先端がピンチロール12とレベラー14を通板する際にはピンチロール12で鋼板2を挟み込み、鋼板2の先端がレベラー14を通板した後はピンチロール12を開放するようにしている。
【0026】
すなわち、図3に示すように、以下の(S1)〜(S4)の手順で鋼板2を通板させるようにしている。
【0027】
(S1)まず、図3(a)に示すように、ペイオフリール11に設置されたコイル1から鋼板2の先端2aを引き出して、通板の準備を行う。
【0028】
(S2)次に、図3(b)に示すように、鋼板2の先端2aをピンチロール12まで通板させる。その際にピンチロール12で鋼板2を挟み込む。
【0029】
(S3)次に、鋼板2の先端2aをレベラー14内に通板させて、鋼板2の形状矯正を開始する。そして、図3(c)に示すように、鋼板2の先端2aがレベラー14を通板し終わったら、図3(d)に示すように、ピンチロール12を開放する。
【0030】
(S4)その後は、図3(d)に示すように、ピンチロール12を開放した状態で鋼板2を通板させながら、鋼板2の形状矯正を行う。
【0031】
以上のような手順で鋼板2の通板を行うことによって、鋼板2の加減速が頻繁に生じる鋼板2の定常部ではピンチロール12が開放されるので、従来は、鋼板2を加減速するタイミングで、レベラー14とピンチロール12の間で発生していた鋼板2の段差部(盛り上がり)が発生しなくなり、その段差部を起点とした鋼板2の2枚折れや蛇腹状態も発生しなくなる。また、ピンチロール12の拘束が誘発していた鋼板2の蛇行も回避されるので、鋼板2の蛇行によるエッジ損傷もなくなる。
【0032】
このようにして、この実施形態においては、鋼板2の蛇腹状態9の発生や鋼板2の蛇行によるエッジ損傷の発生といった通板異常が的確に抑止され、鋼板2を安定して通板させることができる。その結果、上記のような通板異常を回復するための復旧作業が回避され、ラインの稼動率を向上させることができる。
【0033】
なお、この実施形態では、連続式酸洗ラインを対象にして述べたが、本発明は、それに限定されるものではなく、鋼板を通板させるラインであって、ライン入側にピンチロールとレベラーを備え、前記レベラーで鋼板を矯正するラインに対して適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 コイル(コイル状の鋼帯)
2 鋼板(鋼帯)
2a 鋼板の先端
9 鋼板の蛇腹状態
11 ペイオフリール
12 ピンチロール
12a 下ピンチロール
12b 上ピンチロール
13 ピンチロールの回転用モータ
14 レベラー(アンコイラーレベラー)
14a〜14f レベラーのロール
15 レベラーの回転用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を通板させるラインであって、ライン入側にピンチロールとレベラーを備え、前記レベラーで鋼板を矯正するラインにおいて、鋼板の先端が前記ピンチロールと前記レベラーを通板する際には前記ピンチロールで鋼板を挟み込み、鋼板の先端が前記レベラーを通過した後は前記ピンチロールを開放することを特徴とする鋼板の安定通板方法。
【請求項2】
鋼板を通板させるラインは、連続式酸洗ラインであることを特徴とする請求項1に記載の鋼板の安定通板方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−25291(P2011−25291A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174839(P2009−174839)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】