説明

鋼板の曲げ加工装置、曲げ加工方法、曲げ加工プログラム

【課題】曲げ加工中に鋼板の板厚を推定して曲げ加工の精度を向上させることが可能な鋼板の曲げ加工装置、曲げ加工方法、曲げ加工プログラムを提供する。
【解決手段】曲げ加工装置10は、油圧シリンダ11とパンチ13と支持部14a,14bと角度センサ15a,15bと記憶部30と制御部20とを備えている。油圧シリンダ11は、ワークWの平面に対して垂直な方向へ押圧する。パンチ13は、油圧シリンダ11によってワークWに当接した状態で前進しワークWの曲げ加工を行う。支持部14a,14bは、パンチ13に対向配置され、曲げ加工が行われるワークWを支持する。角度センサ15a,15bは、ワークWの曲げ角度を検知する。記憶部30は、パンチ13の移動量に対するワークWの曲げ角度と板厚との関係を示すテーブルを保存する。制御部20は、角度センサ15a,15bにおいて検知された曲げ角度とパンチ13の移動量とに基づいてワークWの板厚を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の曲げ加工を行う曲げ加工装置、曲げ加工方法、曲げ加工プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業車両は、車両本体部と、車両本体部に取り付けられる作業機とを備えている。
車両本体部は、例えば、下部走行体と、下部走行体に旋回機構を介して旋回可能に装着される上部旋回体とを有する。
作業機は、互いに回動可能に接続されるブーム、アーム、バケットを有しており、上部旋回体に取り付けられる。そして、このような作業車両は、ブーム、アーム、バケットが油圧シリンダ等の駆動装置によって駆動されて揺動することによって、各種作業を行うことができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、左右の側板とこれらをつなぐつなぎ材とからなる主部の長手方向における両端に連結部を固着した構造の建設機械のブームまたはアームを仮組みするための治具について開示されている。
さらに、特許文献2には、作業機の支持部に対してブームの取付部の位置合わせを容易に行うことが可能なブーム載置台装置について開示されている。
【0004】
ところで、このようなブームの製造時には、屈曲部分を含む左右の側板をレーザ加工等によって形成した後、この側板の屈曲部分の形状に合わせて上板および下板をそれぞれ曲げ加工した上で、これらを溶接によって接合させたボックス構造が形成される。このとき、上下板の曲げ加工については、長手方向における一方の端部を基準にして、ロールベンダ等の曲げ加工装置を用いて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−188171号公報(平成14年7月5日公開)
【特許文献2】特開2004−195585号公報(平成16年7月15日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の曲げ加工装置では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示されたブームの製造において、上下の金型を含むプレス機械を用いてブームの上下板の曲げ加工を実施した場合には、板厚が不明な状態で曲げ加工すると、上金型を一定のストローク量で制御しても板厚の差によって曲げ角度が異なってしまうため、曲げ加工の精度が確保できない。
【0007】
本発明の課題は、曲げ加工中に鋼板の板厚を推定して、曲げ加工の精度を向上させることが可能な鋼板の曲げ加工装置、曲げ加工方法、曲げ加工プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る鋼板の曲げ加工装置は、押圧部と、金型部と、支持部と、角度センサと、記憶部と、板厚推定部と、を備えている。押圧部は、鋼板の平面に対して垂直な方向へ押圧する。金型部は、押圧部によって鋼板に対して当接した状態で前進して鋼板の曲げ加工を行う。支持部は、金型部に対向配置されており、金型部によって曲げ加工が行われる際に鋼板を支持する。角度センサは、鋼板の曲げ角度を検知する。記憶部は、金型部の移動量に対する鋼板の曲げ角度と板厚との関係を示すテーブルを保存する。板厚推定部は、角度センサにおいて検知された曲げ角度と金型部の移動量とに基づいて、鋼板の板厚を推定する。
【0009】
ここでは、鋼板に対して当接した状態で前進して曲げ加工を行う金型部の移動量に応じて、曲げ加工中の板厚を推定するために、予め金型部の移動量に対する鋼板の曲げ角度と板厚との関係を示すテーブルを記憶部に記憶させている。そして、板厚推定部が、曲げ加工中において、金型部の移動量と曲げ角度とをセンシングして、曲げ加工中の鋼板の板厚を推定する。
【0010】
ここで、鋼板の曲げ加工においては、金型部の移動量を一定にした場合でも、鋼板の板厚によって曲げ角度が変わるということが分かっている。よって、鋼板の板厚が分かっていない場合には、鋼板の曲げ角度を制御するためには、鋼板の板厚を把握することが特に重要である。
本発明の曲げ加工装置では、予め記憶された金型部の移動量に対する鋼板の曲げ角度、板厚の関係を示すテーブルを用いて、実際の曲げ加工時には、金型部の移動量(ストローク量)と曲げ角度とに基づいて、曲げ加工中の鋼板の板厚を推定する。
【0011】
これにより、実際の曲げ加工時において、板厚が異なる鋼板の曲げ加工を実施する場合でも、所定の移動量まで達した際に板厚の推定を行い、この板厚推定の結果に基づいて、金型部の移動量を調整することができる。この結果、曲げ加工を行う前に板厚を測定しなくても、曲げ加工の途中で認識した板厚の推定データに基づいて、より精度の高い曲げ加工を実施することができる。
【0012】
第2の発明に係る鋼板の曲げ加工装置は、第1の発明に係る鋼板の曲げ加工装置であって、鋼板の曲げ加工中に板厚推定部において推定された鋼板の板厚に基づいて、金型部の最終的な移動量を決定する押し込み量設定部を、さらに備えている。
ここでは、上述したように、曲げ加工の過程において、金型部が所定の移動量に達した際に板厚推定部において推定された板厚の推定データを用いて、金型部の最終的な移動量を決定する。
【0013】
ここで、本発明のようなプレス機械による曲げ加工では、曲げ加工後における鋼板のスプリングバック(曲げ加工前の状態へ戻ろうとする力)の大きさは、板厚に応じて変化する。具体的には、鋼板の板厚が大きい場合には、スプリングバックの量は大きく、逆に鋼板の板厚が小さい場合には、スプリングバックの量は小さい。
これにより、曲げ加工の途中で推定された鋼板の板厚の推定データに基づいて、曲げ加工後における鋼板のスプリングバックの影響まで考慮して、金型部の最終的な移動量を決定することで、より精度の高い曲げ加工を実施することができる。
【0014】
第3の発明に係る鋼板の曲げ加工装置は、第1または第2の発明に係る鋼板の曲げ加工装置であって、角度センサが取り付けられており、鋼板の長手方向における両端に追従するように回転しながら前記鋼板を支持する支持板を、さらに備えている。
ここでは、鋼板の曲げ加工時に長手方向における両端に追従するように回転しながら支持する支持板に、曲げ角度センサを設けている。
これにより、曲げ加工中に移動する鋼板の両端を支持板によって支持しながら、その支持板の回転量に基づいて曲げ角度を容易に検知することができる。
【0015】
第4の発明に係る鋼板の曲げ加工装置は、第1から第3の発明のいずれか1つに係る鋼板の曲げ加工装置であって、鋼板は、建設機械のブームを構成する上下板として用いられる。
ここでは、上板、下板および左右の側板によって構成されるボックス構造を有する建設機械のブームの上下板の曲げ加工を行う。
これにより、ブームの曲げ角度に応じて、精度良く上下板の曲げ加工を実施することができる。この結果、従来よりもブームの製造歩留まりを向上させることができる。
【0016】
第5の発明に係る鋼板の曲げ加工方法は、鋼板の平面に対して垂直な方向へ押圧する押圧部と、押圧部によって鋼板に対して当接した状態で前進して鋼板の曲げ加工を行う金型部と、鋼板の曲げ角度を検知する角度センサと、を備えた鋼板の曲げ加工装置による曲げ加工方法である。そして、本曲げ加工方法は、鋼板に対して金型部を当接させた状態で所定の移動量まで移動させるステップと、金型部が所定の移動量に達したときの鋼板の曲げ角度を角度センサから取得するステップと、角度センサから取得した曲げ角度と金型部の所定の移動量とに基づいて金型部の移動量に対する鋼板の曲げ角度と板厚との関係を示すテーブルを参照して鋼板の板厚を推定する板厚推定ステップと、を備えている。
【0017】
ここでは、鋼板の曲げ加工中に金型部の移動量が所定の移動量に達すると、曲げ角度を取得して、金型部の移動量に対する鋼板の曲げ角度と板厚との関係を示すテーブルに基づいて、鋼板の板厚を推定する。
ここで、鋼板の曲げ加工においては、金型部の移動量を一定にした場合でも、鋼板の板厚によって曲げ角度が変わるということが分かっている。よって、鋼板の板厚が分かっていない場合には、鋼板の曲げ角度を制御するためには、鋼板の板厚を把握することが特に重要である。
【0018】
本発明の曲げ加工方法では、予め記憶された金型部の移動量に対する鋼板の曲げ角度、板厚の関係を示すテーブルを用いて、実際の曲げ加工時には、金型部を所定の移動量(ストローク量)まで移動させ、このときの鋼板の曲げ角度を取得して、曲げ加工中の鋼板の板厚を推定する。
これにより、実際の曲げ加工時において、板厚が異なる鋼板の曲げ加工を実施する場合でも、所定の移動量まで達した際に板厚の推定を行い、この板厚推定の結果に基づいて、金型部の移動量を調整することができる。この結果、曲げ加工を行う前に板厚を測定しなくても、曲げ加工の途中で認識した板厚の推定データに基づいて、より精度の高い曲げ加工を実施することができる。
【0019】
第6の発明に係る鋼板の曲げ加工方法は、第5の発明に係る鋼板の曲げ加工方法であって、板厚推定ステップにおいて推定された鋼板の板厚に基づいて、金型部の最終的な移動量を決定するステップと、をさらに備えている。
ここでは、上述したように、曲げ加工の過程において、金型部が所定の移動量に達した際に板厚推定部において推定された板厚の推定データを用いて、金型部の最終的な移動量を決定する。
【0020】
ここで、本発明のようなプレス機械による曲げ加工では、曲げ加工後における鋼板のスプリングバック(曲げ加工前の状態へ戻ろうとする力)の大きさは、板厚に応じて変化する。具体的には、鋼板の板厚が大きい場合には、スプリングバックの量は大きく、逆に鋼板の板厚が小さい場合には、スプリングバックの量は小さい。
これにより、曲げ加工の途中で推定された板厚の推定データに基づいて、曲げ加工後における鋼板のスプリングバックの影響まで考慮して、金型部の最終的な移動量を決定することで、より精度の高い曲げ加工を実施することができる。
【0021】
第7の発明に係る鋼板の曲げ加工プログラムは、鋼板の平面に対して垂直な方向へ押圧する押圧部と、押圧部によって鋼板に対して当接した状態で前進して鋼板の曲げ加工を行う金型部と、鋼板の曲げ角度を検知する角度センサと、を備えた鋼板の曲げ加工装置による曲げ加工方法をコンピュータに実行させる。そして、本曲げ加工プログラムは、鋼板に対して金型部を当接させた状態で所定の移動量まで移動させるステップと、金型部が所定の移動量に達したときの鋼板の曲げ角度を角度センサから取得するステップと、角度センサから取得した曲げ角度と金型部の所定の移動量とに基づいて金型部の移動量に対する鋼板の曲げ角度と板厚との関係を示すテーブルを参照して鋼板の板厚を推定する板厚推定ステップと、を備えた鋼板の曲げ加工方法をコンピュータに実行させる。
【0022】
ここでは、鋼板の曲げ加工中に金型部の移動量が所定の移動量に達すると、曲げ角度を取得して、金型部の移動量に対する鋼板の曲げ角度と板厚との関係を示すテーブルに基づいて、鋼板の板厚を推定する。
ここで、鋼板の曲げ加工においては、金型部の移動量を一定にした場合でも、鋼板の板厚によって曲げ角度が変わるということが分かっている。よって、鋼板の板厚が分かっていない場合には、鋼板の曲げ角度を制御するためには、鋼板の板厚を把握することが特に重要である。
【0023】
本発明の曲げ加工プログラムでは、予め記憶された金型部の移動量に対する鋼板の曲げ角度、板厚の関係を示すテーブルを用いて、実際の曲げ加工時には、金型部を所定の移動量(ストローク量)まで移動させ、このときの鋼板の曲げ角度を取得して、曲げ加工中の鋼板の板厚を推定する。
これにより、実際の曲げ加工時において、板厚が異なる鋼板の曲げ加工を実施する場合でも、所定の移動量まで達した際に板厚の推定を行い、この板厚推定の結果に基づいて、金型部の移動量を調整することができる。この結果、曲げ加工を行う前に板厚を測定しなくても、曲げ加工の途中で認識した板厚の推定データに基づいて、より精度の高い曲げ加工を実施することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る鋼板の曲げ加工装置によれば、曲げ加工を行う前に板厚を測定しなくても、曲げ加工中に認識した板厚の推定データに基づいて、より精度の高い曲げ加工を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る曲げ加工装置を示す正面図。
【図2】図1の曲げ加工装置の制御部内に形成される制御ブロック図。
【図3】図1の曲げ加工装置によるブームの製造方法の流れを示すフローチャート。
【図4】図1の曲げ加工装置にワーク(上下板)が搬入されてきた状態を示す正面図。
【図5】(a),(b)は、図面上のワークのサイズと実際に搬入されてきたワークのサイズとを比較して、曲げ中心の位置を設定することを示す平面図。
【図6】図1の曲げ加工装置において、曲げ中心位置が金型部の真下に来るようにワークがセットされた状態を示す正面図。
【図7】図1の曲げ加工装置において、曲げ中心位置に金型部を当接させた状態で押圧して曲げ加工を行う状態を示す正面図。
【図8】図1の曲げ加工装置による曲げ加工の角度について説明する説明図。
【図9】図1の曲げ加工装置によって曲げ加工された際に突起マーカによってマーキングされた上下板の表面を示す平面図。
【図10】(a)〜(e)は、図1の曲げ加工装置によって曲げ加工された上下板と側板とを組み合わせて仮組みする際の流れを示す図。
【図11】図1の曲げ加工装置による鋼板の板厚推定の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係る鋼板の曲げ加工装置、曲げ加工方法、曲げ加工プログラムについて、図1〜図11を用いて説明すれば以下の通りである。
なお、本実施形態では、油圧ショベル等の建設機械に作業機の一部として搭載され、左右の側板と下板および上板とを組み合わせたボックス構造を有するブームの製造工程のうち、特に、ブーム(側板)の屈曲部分の形状に合わせてワーク(上下板用鋼板)Wの曲げ加工を行う工程から仮組み、溶接までの工程について説明する。
ここで、ワークWは、上下板として曲げ加工等の処理が施される鋼板であって、8mm〜16mm程度の板厚を有している。本実施形態では、左右の側板と仮組みされるまでの上板あるいは下板の状態をワークWと呼ぶものとする。
【0027】
[曲げ加工装置10全体の構成]
本実施形態に係る曲げ加工装置10は、ブームBのボックス構造を構成する上下板Wa,Wbとなる鋼板(ワークW)に対してブームの屈曲部分の形状に合わせて曲げ加工を行う装置であって、図1に示すように、油圧シリンダ(押圧部)11、上ラム12、パンチ(金型部)13、支持部14a,14b、角度センサ15a,15b、ダイクッション16、支持板17a,17b、ガイドローラ18a,18b、制御部(曲げ中心位置設定部、搬送制御部、板厚推定部、押し込み量設定部)20、搬送部21、光電管(検知センサ)22および記憶部30を備えている。
【0028】
油圧シリンダ11は、ワークWの平面に対して垂直な方向にパンチ13を移動させ、ワークWに対してパンチ13を当接させた状態で押圧することで、ワークWを所望の形状に曲げ加工する。
上ラム12は、油圧シリンダ11とパンチ13との間に設けられており、曲げ加工時には、パンチ13とともに上下方向において往復移動する。
【0029】
パンチ(金型部)13は、曲げ加工の対象となるワークWに対して当接して移動することで曲げ加工を行う。また、パンチ13は、ワークWに当接する側に、曲げ角度を規定する湾曲部を有している。
支持部14a,14bは、ワークWを下方から支持する一対の支持台であって、押圧中心位置Xに配置されたダイクッション16を挟み込むように配置されている。
【0030】
角度センサ15a,15bは、支持部14a,14bの先端部分、つまりワークWを支持する支持板17a,17b側に設けられており、支持板17a,17bの回転角度に基づいてワークWの曲げ角度を検知する。
ダイクッション16は、パンチ13によって押圧される押圧中心位置X上に配置されており、ワークWの曲げ中心位置を下方から支持する。また、ダイクッション16は、パンチ13の下降に伴って上下に移動可能となっており、パンチ13との間にワークWを挟みこんだ状態で支持部14a,14bに対して下方へ移動することで、ワークWの曲げ加工を行う。さらに、ダイクッション16は、ワークWと対向する面に、曲げ中心位置Cの位置にマーキングする突起マーカ16aを有している。突起マーカ16aは、ワークWの面に向かって突出する突起状の部材であって、ワークWの幅方向に沿って3つ設けられている。これにより、曲げ加工装置10によって曲げ加工されたワークWにおける曲げ中心の位置にマーク(印)M(図9参照)を付与することができる。このため、後述する仮組み工程において、正確に曲げ中心位置を把握した上で、ワークWを仮組み装置50にセットすることができる。
【0031】
支持板17a,17bは、ワークWの両端を下方から支持するとともに、パンチ13の下降に伴ってワークWが曲げられていくと回転軸を中心に回転することで、曲げ加工中におけるワークWの両端の動きに追従して回動する。つまり、支持板17a,17bは、曲げ加工前のワークWの搬入時には、水平方向に沿って配置されており、曲げ加工の進行に伴ってワークWの両端に当接した状態で下方から支持するように回動する。
【0032】
ガイドローラ18a,18bは、支持板17a,17b上にワークWが搬送されてくる際にワークWを所望の方向へ誘導するために、支持板17a,17bの上方に所定の隙間を介して配置されている。なお、このガイドローラ18a,18bは、ワークWが搬入されてきて支持板17a,17b上において位置決めされた後、図示しない油圧シリンダ等によって所定の退避位置へ移動する。
【0033】
制御部20は、曲げ加工装置10の全般的な制御を行うとともに、図1に示すように、角度センサ15a,15b、搬送部21および光電管22に接続されている。また、制御部20は、図3に示すフローチャートに従って、ワークWの曲げ加工を実施する。なお、制御部20によって形成される制御ブロックや詳しい制御の内容については、後段にて詳述する。
【0034】
搬送部21は、図4に示すように、曲げ加工前のワークWを、支持部14a,14b上に搬送する搬送装置であって、複数の搬送ローラ21aによって所望の方向へワークWを搬送する。
光電管(検知センサ)22は、搬送部21と支持部14a,14bとの間に配置されており、搬送部21によって搬送されてきたワークWに対して下方から光を照射し、その反射光を検出するか否かによってワークWの端部を検知する。
【0035】
記憶部30は、図面上のワークWの寸法(長さ、幅、曲げ中心位置等)のデータや、パンチ13のストローク量(移動量)に対するワークWの曲げ角度と板厚との関係を示す各テーブルを格納している。これらのテーブルには、例えば、曲げ角度と板厚との関係を示す第1テーブルと、板厚とパンチ13の押し込み量との関係を示す第2テーブルと、が含まれる。
【0036】
(制御部20)
本実施形態では、制御部20が、記憶部30内に記憶されている各種プログラムを読み込んで、図2に示すように、曲げ中心位置設定部20a、板厚推定部20b、搬送制御部20cおよび押し込み量設定部20dを形成する。
搬送制御部20cは、所定の搬送速度によって、長手方向に沿ってワークWを曲げ加工装置1内へ搬送する際の搬送制御を行う。また、搬送制御部20cは、ワークWの長さを測定する際に必要なワークWの先端部と後端部とを光電管22によって検知できるように、ワークWの搬送を制御する。
【0037】
曲げ中心位置設定部20aは、光電管22においてワークWの両端が検知されたタイミングと搬送部21における搬送速度とに基づいて、搬送部21によって搬送されてきたワークWの実際の長さを測定する。そして、曲げ中心位置設定部20aは、測定されたワークWの実際の長さと図面上の上下板W1(図5(a)参照)とを比較して、図面上の上下板W1の曲げ中心位置Cに基づいて、搬送されてきたワークWの曲げ中心の位置C’を設定する。
【0038】
ここで、曲げ加工の対象となっている鋼板(ワークW)は、一般的に、切り板精度の低いものが用いられており、長さにバラつきがある。よって、本実施形態では、曲げ加工前に、各鋼板の長手方向における寸法(長さ)を自動的に測定することで、曲げ中心の位置を正確に設定することができる。
具体的には、図5(a)および図5(b)に示すように、図面上の上下板W1の長さと比較して、搬送されてきたワークWの長さの差dがある場合には、図面上の上下板W1の曲げ中心位置Cを基準にして、d/2だけ右寄りに移動した位置に、ワークWの曲げ中心位置を設定する。なお、ワークWの長さが図面上の上下板W1の長さよりも小さい場合でも、同様に曲げ中心位置の設定が可能である。
【0039】
これにより、曲げ加工の対象となる鋼板の切り板精度が低い場合でも、正確に曲げ中心の位置を設定することができる。
板厚推定部20bは、予め設定された所定のパンチ移動量と、記憶部30に格納されている曲げ角度と板厚との関係を示す第1テーブルと、に基づいて、現在、曲げ加工中のワークWの板厚を測定する。なお、上記所定のパンチ移動量とは、パンチ13が移動原点にある位置からの移動量を意味している。
【0040】
具体的には、支持部14a,14b上にセットされたワークWに対して当接するまでパンチ13を下降させ(図6参照)、さらに下降させていくと、図7に示すように、ワークWの両端が持ち上げられていく。ここで、支持板17a,17bは、持ち上げられていくワークWの両端に追従するように回転軸を中心にして回動することで、曲げ加工中のワークWの両端を下方から支持する。
【0041】
このとき、パンチ13が所定の移動量に達すると、板厚推定部20bは、角度センサ15a,15bにおいて検知された曲げ角度を取得する。そして、板厚推定部20bは、記憶部30に格納されている、ワークWの曲げ角度と板厚との関係を示す第1テーブルに基づいて、現在、曲げ下降中のワークWの板厚を推定する。
押し込み量設定部20dは、板厚推定部20bにおいて推定されたワークWの板厚に基づいて、ワークW板の板厚とパンチ13の押し込み量との関係を示す第2テーブルを参照して、最終的なパンチ13の押し込み量を設定する。つまり、押し込み量設定部20dでは、ワークWの板厚ごとに異なる曲げ加工後に生じるスプリングバックの影響を考慮して、ワークWの板厚に対して最適なパンチ13の押し込み量を設定する。これにより、曲げ加工後におけるワークWの曲げ状態を、所望の形状に近づけることができる。
【0042】
<上板・下板の曲げ加工>
本実施形態の曲げ加工装置10では、上述した構成を用いて、図3に示すフローチャートに従って、曲げ加工を行う。
まず、ステップS1では、曲げ加工装置10内において、搬送部21によって、ワークWを支持部14a,14bの方へ搬送する。
【0043】
ステップS2では、所定の搬送速度において長手方向に沿って搬送されてくるワークWの先端部と後端部とを検知したタイミングによって、ワークWの長手方向における寸法(長さ)を測定する。具体的には、ワークWの先端部と後端部とを検知した時間差と搬送速度とに基づいて、ワークWの長さを測定する。よって、本実施形態では、ワークWの搬入時には、一旦、ワークWの後端部分が光電管22の上部を通過するまでワークWを搬送しておき、ワークWの曲げ中心位置を押圧中心位置Xに合わせるように、再度、ワークWを所望の方向へ搬送する。
【0044】
ステップS3では、ステップS2において測定されたワークWの長さと、図面上の上下板W1の長さとを比較して、ワークWの曲げ中心位置C’の位置を設定する。具体的には、図5(a)および図5(b)に示すように、ワークWと図面上の上下板W1との長さの差dの場合には、ワークWの両端にそれぞれ寸法誤差が分散されるように、d/2だけ右寄りの位置に、ワークWの曲げ中心位置C’を設定する。
【0045】
ステップS4では、図6に示すように、ステップS3において設定された曲げ中心位置C’が、曲げ加工装置50の押圧中心位置X上に来るように、搬送部21を制御する。
これにより、ワークWごとに設定された曲げ中心位置C’と曲げ加工装置10の押圧中心位置Xとを合わせた状態で、曲げ加工を実施することができる。この結果、長さにバラつきのあるワークWの曲げ加工を行う際に一方の端部を基準にして曲げ加工を行う場合と比較して、両端に寸法誤差が分散されることになるため、他方の端部に寸法誤差が集中することはない。よって、ブームの製造歩留まりを向上させることができる。
【0046】
ステップS5では、パンチ13をワークWの上面に当接させた状態で押圧する。
ステップS6では、パンチ13が所定の移動量に達したか否かを判定する。ここで、パンチ13が所定の移動量に達した場合には、一旦、パンチ13の下降を停止して、ステップS7に移行する。
ステップS7では、パンチ13の上記所定の移動量とこのときの角度センサ15a,15bからの出力値に基づいて、記憶部30に格納されている第1テーブルを参照して、ワークWの板厚を推定する。
【0047】
具体的には、図11のフローチャートに示すように、ステップS21において、パンチ13が所定の移動量に達すると、ステップS22において、制御部20は、角度センサ15a,15bからそのときのワークWの曲げ角度を取得する。
次に、ステップS23において、制御部20は、記憶部30にアクセスする。
次に、ステップS24において、制御部20は、パンチ13の移動量と曲げ角度とに基づいて、第1テーブルを参照して曲げ加工中のワークWの板厚を推定する。
【0048】
ステップS8では、ステップS7において推定されたワークWの板厚に基づいて、ワークWの板厚とパンチ13の押し込み量との関係を示す第2テーブルを参照して、パンチ13の最終的な移動量を設定し、一旦停止させていたパンチ13を再度移動させる。
ステップS9では、図7に示すように、ステップS8において設定された最終的な押し込み量(移動量)に到達するまで、パンチ13を移動させ、最終的な移動量まで達するとステップS10へ移行する。
【0049】
ここで、曲げ加工装置10による曲げ加工後のワークWのスプリングバック(曲げ加工前の状態へ戻ろうとする力)の大きさは、板厚に応じて変化する。具体的には、ワークWの板厚が大きい場合には、スプリングバックの量は大きく、逆に板厚が小さい場合には、スプリングバックの量は小さい。
本実施形態の曲げ加工装置10では、曲げ加工時における曲げ形状は、図8に示すように、ワークWの板厚の大小に応じて変化する曲げ加工後のスプリングバックの程度を考慮して、半径R1の円において曲げ角度θ1になるように設定される。つまり、曲げ形状は、パンチ13のR面、曲げ角度によって決まるが、図8に示すように、ブームの曲げ湾曲線を半径R2の円の一部であって中心角θ2の円弧部分であるとすると、本実施形態では、曲げ加工時における曲げ湾曲線を、半径R1の円の一部であって中心角θ1の円弧部分になるように設定する。そして、R1,R2およびθ1,θ2の関係は、以下の関係式を満たす。
R1×θ1=R2×θ2
【0050】
これにより、ワークWの板厚に応じたスプリングバックの量を考慮して、高精度なワークWの曲げ加工を実施することができる。よって、後述する仮組み工程において、上下板Wa,Wbをクランプした際に、左右の側板Sに対して精度良く合わせることができる。
以上の工程により、ワークWの曲げ加工が完了する。このとき、曲げ加工後のワークWには、図9に示すように、押圧中心位置(曲げ中心位置)に設けられた突起マーカ16aによって形成されたマークMが3つ形成される。
【0051】
ステップS10では、曲げ加工時にワークWの曲げ中心位置に形成されたマークMを基準にして、図10(a)に示す仮組み装置50を用いて、左右の側板Sと上下板Wa,Wbとを溶接するための仮組み、仮溶接を行う。
具体的には、まず、治具51a〜51e上に、曲げ加工されたワークW(下板Wa)をセットする。このとき、下板WaのマークM(曲げ中心位置)の位置が、仮組み装置50における仮組み中心位置Yに合致するように下板Waをセットする。
【0052】
次に、図10(b)に示すように、下板Waを治具51a〜51e上にクランプする。
次に、図10(c)に示すように、仮組み中心位置Yを基準にして、左右の側板S,Sをセットする。このとき、図示しない治具を用いて、左右の側板S,Sが左右両側からクランプされる。
次に、図10(d)に示すように、ブーム両端に設けられる接続部52,53をセットする。なお、この接続部52,53は、鋳物成形品である。
【0053】
次に、図10(e)に示すように、左右の側板S,S上に、上板Wbをセットする。このとき、図示しない治具を用いて、上板Wbが上側からクランプされる。そして、この状態で、左右の側板S,Sに対して下板Wa,上板Wbを仮溶接して固定する。
ステップS11では、図10(e)に示すように、仮溶接された左右の側板S,Sと上下板Wa,Wbとを、本溶接によって固定することで、高精度にボックス構造を有するブームを製造することができる。
【0054】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0055】
(A)
上記実施形態では、ワークWの曲げ角度を検知するセンサとして、支持板17a,17bの回転角度に基づいてワークWの曲げ角度を検知する角度センサ15a,15bを用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、支持板に対して取り付けられた支持板の傾きを検知する角度センサを用いてもよい。
【0056】
(B)
上記実施形態では、油圧ショベル等の建設機械に搭載されるブームの上下板の曲げ加工に対して、本発明の曲げ加工装置を適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、建設機械に使用される鋼板に限らず、他の用途に使用される鋼板の曲げ加工に対しても、同様に本発明の適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の鋼板の曲げ加工装置は、曲げ加工を行う前に板厚を測定しなくても、曲げ加工中に認識した板厚の推定データに基づいて、より精度の高い曲げ加工を実施することができるという効果を奏することから、建設機械に使用される鋼板だけでなく、さまざまな用途に使用される鋼板の曲げ加工に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 曲げ加工装置
11 油圧シリンダ(押圧部)
12 上ラム
13 パンチ(金型部)
14a,14b 支持部
15a,15b 角度センサ
16 ダイクッション
16a 突起マーカ(マーキング部)
17a,17b 支持板
18a,18b ガイドローラ
20 制御部
20a 曲げ中心位置設定部
20b 板厚推定部
20c 搬送制御部
20d 押し込み量設定部
21 搬送部
21a 搬送ローラ
22 光電管(検知センサ)
30 記憶部
50 仮組み装置
51 治具
52 接続部
53 接続部
C 曲げ中心位置
d 差
M マーク(印)
S 側板
W ワーク(上下板、鋼板)
Wa 下板
Wb 上板
W1 図面上の上下板
X 押圧中心位置
Y 仮組み中心位置
R1,R2 半径
θ1,θ2 中心角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の平面に対して垂直な方向へ押圧する押圧部と、
前記押圧部によって前記鋼板に対して当接した状態で前進して前記鋼板の曲げ加工を行う金型部と、
前記金型部に対向配置されており、前記金型部によって曲げ加工が行われる際に前記鋼板を支持する支持部と、
前記鋼板の曲げ角度を検知する角度センサと、
前記金型部の移動量に対する前記鋼板の曲げ角度と板厚との関係を示すテーブルを保存する記憶部と、
前記角度センサにおいて検知された曲げ角度と前記金型部の移動量とに基づいて、前記鋼板の板厚を推定する板厚推定部と、
を備えている鋼板の曲げ加工装置。
【請求項2】
前記鋼板の曲げ加工中に前記板厚推定部において推定された前記鋼板の板厚に基づいて、前記金型部の最終的な移動量を決定する押し込み量設定部を、
さらに備えている、
請求項1に記載の鋼板の曲げ加工装置。
【請求項3】
前記角度センサが取り付けられており、前記鋼板の長手方向における両端に追従するように回転しながら前記鋼板を支持する支持板を、
さらに備えている、
請求項1または2に記載の鋼板の曲げ加工装置。
【請求項4】
前記鋼板は、建設機械のブームを構成する上下板として用いられる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の鋼板の曲げ加工装置。
【請求項5】
鋼板の平面に対して垂直な方向へ押圧する押圧部と、前記押圧部によって前記鋼板に対して当接した状態で前進して前記鋼板の曲げ加工を行う金型部と、前記鋼板の曲げ角度を検知する角度センサと、を備えた鋼板の曲げ加工装置による曲げ加工方法であって、
前記鋼板に対して前記金型部を当接させた状態で所定の移動量まで移動させるステップと、
前記金型部が所定の移動量に達したときの前記鋼板の曲げ角度を、前記角度センサから取得するステップと、
前記角度センサから取得した曲げ角度と前記金型部の前記所定の移動量とに基づいて、前記金型部の移動量に対する前記鋼板の曲げ角度と板厚との関係を示すテーブルを参照して、前記鋼板の板厚を推定する板厚推定ステップと、
を備えている鋼板の曲げ加工方法。
【請求項6】
前記板厚推定ステップにおいて推定された前記鋼板の板厚に基づいて、前記金型部の最終的な移動量を決定するステップと、
をさらに備えている、
請求項5に記載の鋼板の曲げ加工方法。
【請求項7】
鋼板の平面に対して垂直な方向へ押圧する押圧部と、前記押圧部によって前記鋼板に対して当接した状態で前進して前記鋼板の曲げ加工を行う金型部と、前記鋼板の曲げ角度を検知する角度センサと、を備えた鋼板の曲げ加工装置による曲げ加工方法をコンピュータに実行させる鋼板の曲げ加工プログラムであって、
前記鋼板に対して前記金型部を当接させた状態で所定の移動量まで移動させるステップと、
前記金型部が所定の移動量に達したときの前記鋼板の曲げ角度を、前記角度センサから取得するステップと、
前記角度センサから取得した曲げ角度と前記金型部の前記所定の移動量とに基づいて、前記金型部の移動量に対する前記鋼板の曲げ角度と板厚との関係を示すテーブルを参照して、前記鋼板の板厚を推定する板厚推定ステップと、
を備えている鋼板の曲げ加工方法をコンピュータに実行させる鋼板の曲げ加工プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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