鋼板の表面品質判定方法および装置
【課題】鋼板の表面品質を鋼板全長に亘って正確に判定可能な、鋼板の表面品質判定方法および装置を提供することを課題とする。
【解決手段】搬送中の鋼板の板幅を測定するとともに、前記鋼板の表面の幅方向両端エッジ部をカメラで撮影する、板幅測定・エッジ撮影ステップと、撮影した画像を画像処理して、板幅方向のエッジおよびシーム疵を検出し、検出したシーム疵とエッジとの距離を算出する、シーム回り込み量算出ステップと、算出したシーム回り込み量と測定した板幅に基づいて、最終製品として有効な板幅を算出する、有効板幅算出ステップと、該有効板幅に基づいて、前記鋼板の表面品質の良否を判定する、表面品質判定ステップとを有する。
【解決手段】搬送中の鋼板の板幅を測定するとともに、前記鋼板の表面の幅方向両端エッジ部をカメラで撮影する、板幅測定・エッジ撮影ステップと、撮影した画像を画像処理して、板幅方向のエッジおよびシーム疵を検出し、検出したシーム疵とエッジとの距離を算出する、シーム回り込み量算出ステップと、算出したシーム回り込み量と測定した板幅に基づいて、最終製品として有効な板幅を算出する、有効板幅算出ステップと、該有効板幅に基づいて、前記鋼板の表面品質の良否を判定する、表面品質判定ステップとを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の表面品質を鋼板全長に亘って正確に判定可能な、鋼板の表面品質判定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板、特にステンレス鋼板の両幅エッジ部には、シーム疵と呼ばれる圧延方向に平行な線状疵が発生しやすい。このシーム疵の発生メカニズムは、スラブの側面に発生した疵や圧延工程で鋼板端部に発生した疵・凹凸状のしわ等が、板厚方向の圧下に伴って生ずる鋼板の幅広がりによって側面部から表面部へ回り込み、残存し生ずることが知られている。
【0003】
特に、ステンレス鋼板の熱間圧延ではシーム疵が発生しやすいため、シーム疵の発生を抑止する製造プロセスの工夫が種々なされている(たとえば、非特許文献1、特許文献1、2、3)。しかしながら、これらの方法では、シーム疵の発生を完全に防止することは困難であった。
【0004】
図2は、シーム疵およびシーム回り込み量を模式的に説明する図である。シーム疵は図2に示すように、圧延方向と平行に複数発生する場合が多く、その中でも品質保証上重要なのは、最もエッジから遠いシーム疵である。エッジからこのシーム疵までの距離Dを、通常、シーム回り込み量と称している。
【0005】
板幅をW、ワーク側およびドライブ側エッジにおけるシーム回り込み量をそれぞれD1、D2とした時、鋼板全長に亘って、W’=W−D1−D2が製品保証上の板幅下限値Waを下回らないように管理することが重要である。
【0006】
一方、ステンレス鋼板の表面疵を検査する方法は、様々な手法が採られている(たとえば特許文献4、5)ものの、いずれもシーム疵の検出に関する記述はない。これはシーム疵がエッジ近傍に発生するため、検査装置のエッジ不感帯に入ってしまって検出するのが困難なためである。
【0007】
すなわち、従来の表面検査装置では、鋼板のエッジから10mm程度以内の領域は、鋼板の蛇行や耳部欠陥あるいは表面汚れ等によって過検出が多くなるため、検査対象外とせざるを得ず、この領域にシーム疵が発生しても検出できないからである。
【0008】
上記の理由により従来は、シーム疵が鋼板の製品保証幅に入らないようにするため、鋼板の余幅を大き目にとっていた。さらに、検査員が鋼板の搬送方向の数箇所位置でラインを停止させ、手作業でシーム回り込み量を測定して製品保証幅内にシーム疵が発生していないことを確認していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「鉄と鋼」 Vol.82 No.1 p.58-62 (1996)
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−312904号公報
【特許文献2】特開2001−179309号公報
【特許文献3】特開2006−150404号公報
【特許文献4】特開平9−89802号公報
【特許文献5】特開2008−145373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述した製品の余幅を大き目にとるという従来法では、歩留りの低下を招いてしまうという生産効率上の問題があった。
【0012】
また、検査員が鋼板の搬送方向数箇所位置で検査・測定する方法では、鋼板の板幅およびシーム回り込み量は鋼板の搬送方向位置によって変動するため、鋼板全長に亘る品質保証が必ずしも十分ではなかった。さらに、この検査員の手作業による方法では、測定時にラインを停止させる必要があるため生産性を阻害するという問題や、コントラストの低いシーム疵の認識や板エッジからの距離測定に検査員による個人差が不可避的に発生するため、客観的な表面品質判定ができないという問題があった。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、鋼板の表面品質を鋼板全長に亘って正確に判定可能な、鋼板の表面品質判定方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は次の発明により解決される。
【0015】
[1]搬送中の鋼板の板幅を測定するとともに、前記鋼板の表面の幅方向両端エッジ部をカメラで撮影する、板幅測定・エッジ撮影ステップと、撮影した画像を画像処理して、板幅方向のエッジおよびシーム疵を検出し、検出したシーム疵とエッジとの距離を算出する、シーム回り込み量算出ステップと、算出したシーム回り込み量と測定した板幅に基づいて、最終製品として有効な板幅を算出する、有効板幅算出ステップと、該有効板幅に基づいて、前記鋼板の表面品質の良否を判定する、表面品質判定ステップとを有することを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【0016】
[2]上記[1]に記載の鋼板の表面品質判定方法において、前記シーム回り込み量算出ステップでは、前記画像から板幅方向の1次元輝度プロフィールを求めた後、搬送方向に平均することによって1次元輝度平均プロフィールを求め、さらにシェーディング補正を施した後、所定しきい値によりシーム疵を検出し、検出したシーム疵のうちエッジから最も遠いシーム疵とエッジとの距離を算出することを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【0017】
[3]上記[1]または[2]に記載の鋼板の表面品質判定方法において、前記有効板幅算出ステップでは、ワーク側のシーム回り込み量D1、ドライブ側のシーム回り込み量D2、および板幅測定値Wとから有効板幅W’=W-D1-D2を求め、前記表面品質判定ステップでは、W’と板幅許容下限値Waを比較し、(1)鋼板全長に亘りW’≧Waの場合は、合格と判定する、(2)鋼板の先尾端近傍のみW’<Waとなる場合は、その箇所を除去して合格と判定する、(3)鋼板の先尾端近傍以外でW’<Waとなる箇所がある場合は、不合格と判定する、ことを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【0018】
[4]搬送中の鋼板の板幅を測定する板幅計と、前記鋼板の表面の幅方向両端エッジ部を撮影するカメラと、該カメラ撮影画像から両端部における板エッジとシーム疵との距離であるシーム回り込み量を算出する画像処理装置と、算出したシーム回り込み量と測定した板幅に基づいて、前記鋼板の表面品質の良否を判定する合否判定装置とを具備することを特徴とする鋼板の表面品質判定装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、鋼板の搬送方向の複数位置において、該鋼板の板幅を測定するとともに、該鋼板の幅エッジ部をカメラで撮影し、カメラ撮影画像から板エッジ部とシーム疵部の距離を算出し、これら複数位置における板幅および両幅エッジ部のシーム疵部とエッジ部の距離に基づいて、表面品質の良否を判定するようにしたので、鋼板の搬送方向の測定箇所を容易に増やすことができ、実質上鋼板全長に亘って表面品質の判定が可能になった。これは、板幅やシーム回り込み量が搬送方向で大きく変動する場合には、特に大きな効果が得られる。
【0020】
また、客観的に一定の基準でシーム回り込み量の測定および表面品質の判定ができるようになったため、測定者による個人差を排除でき、信頼性の高い表面品質判定が可能となった。
【0021】
また、鋼板全長に亘る信頼性の高い判定ができるようになったため、必要以上に鋼板の余幅をとらずにすむようになり、歩留りを向上できるようになった。
【0022】
さらに、搬送中の鋼板を停止することなく表面品質が判定できるため、生産性の向上が図れるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る鋼板の表面品質判定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図2】シーム疵およびシーム回り込み量を模式的に説明する図である。
【図3】本発明における評価値である有効板幅を模式的に説明する図である。
【図4】シーム回り込み量の算出手順例を示すフローチャートである。
【図5】シーム回り込み量の算出例を模式的に説明する図である。
【図6】本発明の表面品質判定例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の有効板幅算出例を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る鋼板の表面品質判定装置の構成例を模式的に示す図である。
【図9】本発明に係る鋼板の表面品質判定装置の機器配置例を模式的に示す図である。
【図10】本発明における照明およびカメラの配置例を模式的に示す図である。
【図11】本実施例における測定機器配置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明に係る鋼板の表面品質判定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。以下、図1に基づいて本発明に係る鋼板の表面品質判定方法の詳細を順次説明する。
【0025】
まず、鋼板の搬送方向先端から距離xの位置における板幅W(x)を板幅計で測定するとともに、該位置xにおける鋼板表面の両幅エッジ部をカメラで撮影する(Step.01板幅測定・エッジ撮影)。板幅計としては、周知の光学式の板幅計を用いることができる。また、エッジ部の撮像には、汎用の照明とカメラを用いて板エッジ部を含む鋼板の画像を採取すればよく、カメラとしてはラインセンサカメラあるいはエリアセンサカメラを用いることができる。
【0026】
板幅が大きく変動するラインにおいては、板幅方向2台のカメラをそれぞれ想定される左右の板エッジ部にプリセットして画像を採取するようにしてもよい。搬送方向における、鋼板の板幅測定位置とカメラ撮影位置とは互いに近接した位置で行うようにするとよい。
【0027】
次に、各エッジ部画像を画像処理して、ワーク側のシーム回り込み量D1(x)、およびドライブ側のシーム回り込み量D2(x)を算出する(Step.02シーム回り込み量算出)。具体的な画像処理内容を、以下に示す。
【0028】
(1)画像内での板幅方向のエッジ位置Peを判定する。
(2) シーム疵を検出する。
(3) 検出したシーム疵のうち板エッジから最も遠いシーム疵の画像内での位置Psを判定する。
(4) 板エッジ位置Peと最内側シーム疵位置Psとの差に、カメラの板幅方向の分解能を乗じて、板エッジから最内側シーム疵までの距離(シーム回りこみ量)Dを求める。
(5) 左右の各板エッジに対して、上記(1)〜(4)でそれぞれシーム回りこみ量D1、D2を求める。
【0029】
次に、上記Step.01で測定した板幅W(x)、およびStep.02で算出したシーム回り込み量D1(x)、D2(x)を用いて、次の(1)式で示す有効板幅W’(x)を算出する(Step.03有効板幅算出)(図3参照)。
【0030】
【数1】
【0031】
シーム疵は有害な欠陥であるため、最終製品にこれが混入してはならない。したがって、シーム疵部分は下工程のトリミング装置で切断するなどの措置を行うが、上記W’(x)はトリム後の板幅は高々W’(x)以下になることを示している。
【0032】
最後に、鋼板全長に亘る上記W’(x)の値に基づいて、鋼板の表面品質を判定する(Step.04表面品質判定)。鋼板の板幅およびシーム回り込み量は、搬送方向の各位置によって変動するため、搬送方向のできるだけ多くの位置でW’(x)の値を評価することが望ましい。Step.04では、鋼板の全長に亘って、W’(x)の値が所定の合格基準を満たしているかどうかを判定するものである。
【0033】
次に、Step.02シーム回り込み量算出における画像処理の具体的手順および内容の一例を、図4、図5を参照して説明する。図4は、シーム回り込み量の算出手順例を示すフローチャートである。また、図5は、シーム回り込み量の算出例を模式的に説明する図である。
【0034】
まず、鋼板表面の幅エッジ画像内で、板幅方向の1次元輝度プロフィールを搬送方向に沿って平均化し、搬送方向の1次元輝度平均プロフィールを求める(Step.21)。シーム疵はその生成過程にも依存するが、一般に0.1mm以下の非常に細い疵である場合が多いため、一般に画像コントラストが低くなり、S/Nも低くなる。
【0035】
そこで、シーム疵が搬送方向と平行な線状疵であるという特性を利用して、上記のように搬送方向に沿って輝度を平均化するのが有効である。図5に低コントラストのシーム疵を輝度平均化によって顕在化させる例を示す。図の左に示す画像内には低コントラストの2本のシーム疵がエッジ近くに辛うじて認められるものの、図(a)〜(c)に示すような、板幅方向の1次元輝度プロフィールからは、シーム疵を地合ノイズと分離して抽出することは困難である。
【0036】
しかしながら、画像の縦方向(搬送方向)に沿って各1次元輝度プロフィールを積算して平均化することにより、図5(d)に示すように、輝度がランダムな地合ノイズが相殺され、シーム疵部分が認識できるようになる。
【0037】
次に、1次元輝度平均プロフィールにシェーディング補正を施して、照明ムラを除去する(Step.22)。シェーディング補正により照明ムラなどの空間的に低周波の輝度変動が削減され、シーム疵のような高周波輝度変動部が強調される。この結果図5 (e)に示すように、シーム疵を地合ノイズと明瞭に分離して抽出できるようになる。
次に、シェーディング補正前あるいはシェーディング補正後の1次元輝度平均プロフィールから、板エッジ部位置Peを求める(Step.23)。板エッジも搬送方向に平行であるから、板エッジの検出にも1次元輝度平均プロフィールを利用するのが好適である。板エッジ位置の認識法としては、たとえばシェーディング補正前の1次元輝度平均プロフィールにおいて板外部と板内部との中間輝度をしきい値として、この値を越える箇所を板エッジとして認識する。また、シェーディング補正後の1次元輝度平均プロフィールに所定のしきい値処理を施して認識するようにしてもよい。
次に、シェーディング補正後の1次元輝度平均プロフィールを、予め設定するしきい値によって2値化してシーム疵を抽出し、板エッジから最も遠くにあるシーム疵の位置Psを求める(Step.24)(図5(e)参照)。
【0038】
最後に、シーム回り込み量Dを、次の(2)式によって算出する(Step.25)。
【0039】
【数2】
【0040】
ここで、Resはカメラの板幅方向の分解能であり、PeおよびPsの単位は画素数、Resの単位はmm/画素である。
【0041】
次に、Step.04における表面品質判定の具体例を、図6に基づいて説明する。
まず、搬送方向長さがLの鋼板に対して、搬送方向x(0≦x≦L)の位置で有効板幅W’(x)を計測する(Step.41)。L=700mの鋼板の場合、たとえば、xとして2mピッチで計測する。
次に、鋼板全長に亘るW’(x)の値と板幅下限値Waを比較し、次のように鋼板の合否を判定する(Step.42)。
【0042】
(1)全長に亘って、W’(x)≧Waを満たす場合
⇒その鋼板を合格と判定する。
【0043】
(2)鋼板の先尾端部のみW’(x)<Waとなる箇所があり、それ以外ではW’(x)≧Waを満たす場合
⇒W’(x)<Waとなる箇所(不合格箇所)を除去して、残りの部分を合格とする。
【0044】
(3)鋼板の先尾端部以外で W’(x)<Waとなる箇所がある場合
⇒その鋼板を不合格と判定する。
【0045】
上記Waは、各鋼板の製品保証幅にトリム余裕代などを加えたものであり、有効板幅W’(x)がこれを下回ることは、製品保証幅を満たさなくなる、あるいは製品にシーム疵が含まれる恐れが出ることを意味する。そこで上記(3)は、鋼板の先尾端部以外でこのような不良箇所が存在する場合、その鋼板を不合格と判定するものである。
【0046】
以上の説明では、説明の便宜上、鋼板の片面についての表面品質判定法について述べたが、実際は鋼板の両面に対して上記の方法を適用するのが好ましい。
【0047】
図7に、鋼板両面の表面品質を判定する際の有効板幅W’(x)の算出法を示す。すなわち、鋼板オモテ面のワーク側シーム回り込み量D1t(x)とドライブ側シーム回り込み量D2t(x)、および鋼板ウラ面のワーク側シーム回り込み量D1b(x)とドライブ側シーム回り込み量D2b(x)をそれぞれ測定する(Step.51)。そして、搬送方向各位置xにおいて、有効板幅W’(x)を次の(3)式によって求める(Step.52)。
【0048】
【数3】
【0049】
ここで、 Max{ D1t(x), D1b(x) }は,D1t(x)とD1b(x)の大きい方の値を意味している。
【0050】
このような処理によって、たとえば、オモテ面はワーク側に、ウラ面はドライブ側にそれぞれシーム回り込み量が大きい場合などにも適切な判定をすることが可能である。
【0051】
図8は、本発明に係る鋼板の表面品質判定装置の構成例を模式的に示す図である。以下、図8に基づいて、本発明に係る鋼板の表面品質判定装置の詳細について説明する。
【0052】
図8において、照明2a、カメラ3a、および画像処置装置5aは、鋼板1のオモテ面のシーム疵を検出してそのエッジからの距離を算出するものである。カメラ3aは、1台のカメラで全幅を撮影するようにしてもよいが、図9に示すように鋼板の両端部を撮影する2台のカメラで構成する様にしてもよい。板幅が大きく変動するラインにおいては、両端のカメラの幅方向位置を鋼板の予想板幅に応じて、板幅方向にスライドしてプリセットするようにしてもよい。
【0053】
照明2aは、図9に示すように板幅全長を線状に照射する線状光源が適しているが、これに限るものではなく、たとえば鋼板の両端部を局所的に照射する2台の面状光源で構成してもよい。また、カメラによって十分な感度で撮影できる場合には、照明を省略することも可能である。
【0054】
カメラ3aは、エリアセンサカメラまたはラインセンサカメラを用いることができる。カメラの視野は、鋼板1のエッジ部、および予想されるシーム疵の発生範囲(たとえばエッジから30mm以内)をカバーするように設定する。カメラによって搬送される鋼板の表面エッジ部を、一定の時間間隔で、あるいは、鋼板搬送距離に同期させて一定の距離間隔で撮影する。撮影する頻度は、鋼板の板幅の変動やシーム疵の発生位置の変動度合いに依存して決めるのがよいが、たとえば鋼板が2m移動する度に撮影するなどとする。照明とカメラの配置としては、正反射を避けた光学配置が適当であり、たとえば図10に示すように、入射角10°、受光角50°とするのがよい。
【0055】
画像処理装置5aは、カメラ3aで撮影した画像から、両端部における板エッジとシーム疵との距離を算出する。具体的な算出方法については前述したとおりである(図4および図5参照)。
【0056】
一方、照明2b、カメラ3bおよび画像処置装置5bは、ウラ面のシーム疵を検出してそのエッジからの距離を算出するものであり、その機能や構成は上述のオモテ面と同様である。
【0057】
板幅計4は、鋼板の板幅を測定するものであり、周知の光学式の板幅計を用いることができる。搬送方向における、鋼板の板幅測定位置とカメラ撮影位置とは互いに近接した位置で行うようにするとよい。
【0058】
合否判定装置6は、鋼板1の全長に亘る、画像処理装置5a、画像処理装置5bおよび板幅計4の出力から、有効板幅W’を算出し、前述の方法により鋼板の表面品質の良否を判定するものである。
なお、画像処理装置5aと画像処理装置5bは、画像処理ボードを搭載した単一のコンピュータによって構成することができる。また、合否判定装置6と画像処理装置5a、5bも同一のコンピュータで兼用することも可能である。
【実施例】
【0059】
本発明をステンレス鋼板の酸洗ラインに適用した実施例について述べる。図11は、本実施例における測定機器配置を模式的に示す図である。酸洗ラインの出側コイラー前に照明とカメラで構成する板幅計を設置して、鋼板の板幅を2mピッチで全長に亘り測定するようにした。この板幅計の上流位置近傍に、線状照明とCCDラインセンサカメラで構成する撮像装置を表裏面それぞれ板幅方向2個ずつ設置して、2mピッチで全長に亘り板エッジ部画像を採取した。鋼板搬送方向の板幅計測定位置とエッジ部撮影位置は、鋼板搬送をトラッキングすることによって、正確に同一位置になるように制御した。なお、照明とカメラの配置は、図10に示す角度に設定した。
【0060】
シーム回り込み量の算出は、前述した図4に示す手順で、また表面品質の判定は前述した、前述した図6および図7に示す手順で、それぞれ実施した。本発明による効果を調査するため、本発明によって表面品質を判定した鋼板を、別の検査ラインに送り、鋼板の搬送方向10箇所でラインを停止させて、検査員の手作業によるシーム回り込み量の測定を行った。
【0061】
この結果、本発明による測定結果は検査員による測定結果と標準偏差σ=0.3mmの精度で一致することが確認された。この結果、本発明の方法により、ラインを停止させることなく、また鋼板全長に亘ってシーム回り込み量を高精度で検出可能なことが実証された。また、検査ラインで停止測定をした10箇所の中間位置に有効板幅W’が極小となる現象が発生したケースがあり、従来の判定法では見逃すような表面品質不具合も、本発明による方法で検知できることも確認された。
【符号の説明】
【0062】
1 鋼板
2a、b 照明
3a、b カメラ
4 板幅計
5a、b 画像処理装置
6 合否判定装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の表面品質を鋼板全長に亘って正確に判定可能な、鋼板の表面品質判定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板、特にステンレス鋼板の両幅エッジ部には、シーム疵と呼ばれる圧延方向に平行な線状疵が発生しやすい。このシーム疵の発生メカニズムは、スラブの側面に発生した疵や圧延工程で鋼板端部に発生した疵・凹凸状のしわ等が、板厚方向の圧下に伴って生ずる鋼板の幅広がりによって側面部から表面部へ回り込み、残存し生ずることが知られている。
【0003】
特に、ステンレス鋼板の熱間圧延ではシーム疵が発生しやすいため、シーム疵の発生を抑止する製造プロセスの工夫が種々なされている(たとえば、非特許文献1、特許文献1、2、3)。しかしながら、これらの方法では、シーム疵の発生を完全に防止することは困難であった。
【0004】
図2は、シーム疵およびシーム回り込み量を模式的に説明する図である。シーム疵は図2に示すように、圧延方向と平行に複数発生する場合が多く、その中でも品質保証上重要なのは、最もエッジから遠いシーム疵である。エッジからこのシーム疵までの距離Dを、通常、シーム回り込み量と称している。
【0005】
板幅をW、ワーク側およびドライブ側エッジにおけるシーム回り込み量をそれぞれD1、D2とした時、鋼板全長に亘って、W’=W−D1−D2が製品保証上の板幅下限値Waを下回らないように管理することが重要である。
【0006】
一方、ステンレス鋼板の表面疵を検査する方法は、様々な手法が採られている(たとえば特許文献4、5)ものの、いずれもシーム疵の検出に関する記述はない。これはシーム疵がエッジ近傍に発生するため、検査装置のエッジ不感帯に入ってしまって検出するのが困難なためである。
【0007】
すなわち、従来の表面検査装置では、鋼板のエッジから10mm程度以内の領域は、鋼板の蛇行や耳部欠陥あるいは表面汚れ等によって過検出が多くなるため、検査対象外とせざるを得ず、この領域にシーム疵が発生しても検出できないからである。
【0008】
上記の理由により従来は、シーム疵が鋼板の製品保証幅に入らないようにするため、鋼板の余幅を大き目にとっていた。さらに、検査員が鋼板の搬送方向の数箇所位置でラインを停止させ、手作業でシーム回り込み量を測定して製品保証幅内にシーム疵が発生していないことを確認していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「鉄と鋼」 Vol.82 No.1 p.58-62 (1996)
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−312904号公報
【特許文献2】特開2001−179309号公報
【特許文献3】特開2006−150404号公報
【特許文献4】特開平9−89802号公報
【特許文献5】特開2008−145373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述した製品の余幅を大き目にとるという従来法では、歩留りの低下を招いてしまうという生産効率上の問題があった。
【0012】
また、検査員が鋼板の搬送方向数箇所位置で検査・測定する方法では、鋼板の板幅およびシーム回り込み量は鋼板の搬送方向位置によって変動するため、鋼板全長に亘る品質保証が必ずしも十分ではなかった。さらに、この検査員の手作業による方法では、測定時にラインを停止させる必要があるため生産性を阻害するという問題や、コントラストの低いシーム疵の認識や板エッジからの距離測定に検査員による個人差が不可避的に発生するため、客観的な表面品質判定ができないという問題があった。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、鋼板の表面品質を鋼板全長に亘って正確に判定可能な、鋼板の表面品質判定方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は次の発明により解決される。
【0015】
[1]搬送中の鋼板の板幅を測定するとともに、前記鋼板の表面の幅方向両端エッジ部をカメラで撮影する、板幅測定・エッジ撮影ステップと、撮影した画像を画像処理して、板幅方向のエッジおよびシーム疵を検出し、検出したシーム疵とエッジとの距離を算出する、シーム回り込み量算出ステップと、算出したシーム回り込み量と測定した板幅に基づいて、最終製品として有効な板幅を算出する、有効板幅算出ステップと、該有効板幅に基づいて、前記鋼板の表面品質の良否を判定する、表面品質判定ステップとを有することを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【0016】
[2]上記[1]に記載の鋼板の表面品質判定方法において、前記シーム回り込み量算出ステップでは、前記画像から板幅方向の1次元輝度プロフィールを求めた後、搬送方向に平均することによって1次元輝度平均プロフィールを求め、さらにシェーディング補正を施した後、所定しきい値によりシーム疵を検出し、検出したシーム疵のうちエッジから最も遠いシーム疵とエッジとの距離を算出することを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【0017】
[3]上記[1]または[2]に記載の鋼板の表面品質判定方法において、前記有効板幅算出ステップでは、ワーク側のシーム回り込み量D1、ドライブ側のシーム回り込み量D2、および板幅測定値Wとから有効板幅W’=W-D1-D2を求め、前記表面品質判定ステップでは、W’と板幅許容下限値Waを比較し、(1)鋼板全長に亘りW’≧Waの場合は、合格と判定する、(2)鋼板の先尾端近傍のみW’<Waとなる場合は、その箇所を除去して合格と判定する、(3)鋼板の先尾端近傍以外でW’<Waとなる箇所がある場合は、不合格と判定する、ことを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【0018】
[4]搬送中の鋼板の板幅を測定する板幅計と、前記鋼板の表面の幅方向両端エッジ部を撮影するカメラと、該カメラ撮影画像から両端部における板エッジとシーム疵との距離であるシーム回り込み量を算出する画像処理装置と、算出したシーム回り込み量と測定した板幅に基づいて、前記鋼板の表面品質の良否を判定する合否判定装置とを具備することを特徴とする鋼板の表面品質判定装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、鋼板の搬送方向の複数位置において、該鋼板の板幅を測定するとともに、該鋼板の幅エッジ部をカメラで撮影し、カメラ撮影画像から板エッジ部とシーム疵部の距離を算出し、これら複数位置における板幅および両幅エッジ部のシーム疵部とエッジ部の距離に基づいて、表面品質の良否を判定するようにしたので、鋼板の搬送方向の測定箇所を容易に増やすことができ、実質上鋼板全長に亘って表面品質の判定が可能になった。これは、板幅やシーム回り込み量が搬送方向で大きく変動する場合には、特に大きな効果が得られる。
【0020】
また、客観的に一定の基準でシーム回り込み量の測定および表面品質の判定ができるようになったため、測定者による個人差を排除でき、信頼性の高い表面品質判定が可能となった。
【0021】
また、鋼板全長に亘る信頼性の高い判定ができるようになったため、必要以上に鋼板の余幅をとらずにすむようになり、歩留りを向上できるようになった。
【0022】
さらに、搬送中の鋼板を停止することなく表面品質が判定できるため、生産性の向上が図れるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る鋼板の表面品質判定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図2】シーム疵およびシーム回り込み量を模式的に説明する図である。
【図3】本発明における評価値である有効板幅を模式的に説明する図である。
【図4】シーム回り込み量の算出手順例を示すフローチャートである。
【図5】シーム回り込み量の算出例を模式的に説明する図である。
【図6】本発明の表面品質判定例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の有効板幅算出例を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る鋼板の表面品質判定装置の構成例を模式的に示す図である。
【図9】本発明に係る鋼板の表面品質判定装置の機器配置例を模式的に示す図である。
【図10】本発明における照明およびカメラの配置例を模式的に示す図である。
【図11】本実施例における測定機器配置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明に係る鋼板の表面品質判定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。以下、図1に基づいて本発明に係る鋼板の表面品質判定方法の詳細を順次説明する。
【0025】
まず、鋼板の搬送方向先端から距離xの位置における板幅W(x)を板幅計で測定するとともに、該位置xにおける鋼板表面の両幅エッジ部をカメラで撮影する(Step.01板幅測定・エッジ撮影)。板幅計としては、周知の光学式の板幅計を用いることができる。また、エッジ部の撮像には、汎用の照明とカメラを用いて板エッジ部を含む鋼板の画像を採取すればよく、カメラとしてはラインセンサカメラあるいはエリアセンサカメラを用いることができる。
【0026】
板幅が大きく変動するラインにおいては、板幅方向2台のカメラをそれぞれ想定される左右の板エッジ部にプリセットして画像を採取するようにしてもよい。搬送方向における、鋼板の板幅測定位置とカメラ撮影位置とは互いに近接した位置で行うようにするとよい。
【0027】
次に、各エッジ部画像を画像処理して、ワーク側のシーム回り込み量D1(x)、およびドライブ側のシーム回り込み量D2(x)を算出する(Step.02シーム回り込み量算出)。具体的な画像処理内容を、以下に示す。
【0028】
(1)画像内での板幅方向のエッジ位置Peを判定する。
(2) シーム疵を検出する。
(3) 検出したシーム疵のうち板エッジから最も遠いシーム疵の画像内での位置Psを判定する。
(4) 板エッジ位置Peと最内側シーム疵位置Psとの差に、カメラの板幅方向の分解能を乗じて、板エッジから最内側シーム疵までの距離(シーム回りこみ量)Dを求める。
(5) 左右の各板エッジに対して、上記(1)〜(4)でそれぞれシーム回りこみ量D1、D2を求める。
【0029】
次に、上記Step.01で測定した板幅W(x)、およびStep.02で算出したシーム回り込み量D1(x)、D2(x)を用いて、次の(1)式で示す有効板幅W’(x)を算出する(Step.03有効板幅算出)(図3参照)。
【0030】
【数1】
【0031】
シーム疵は有害な欠陥であるため、最終製品にこれが混入してはならない。したがって、シーム疵部分は下工程のトリミング装置で切断するなどの措置を行うが、上記W’(x)はトリム後の板幅は高々W’(x)以下になることを示している。
【0032】
最後に、鋼板全長に亘る上記W’(x)の値に基づいて、鋼板の表面品質を判定する(Step.04表面品質判定)。鋼板の板幅およびシーム回り込み量は、搬送方向の各位置によって変動するため、搬送方向のできるだけ多くの位置でW’(x)の値を評価することが望ましい。Step.04では、鋼板の全長に亘って、W’(x)の値が所定の合格基準を満たしているかどうかを判定するものである。
【0033】
次に、Step.02シーム回り込み量算出における画像処理の具体的手順および内容の一例を、図4、図5を参照して説明する。図4は、シーム回り込み量の算出手順例を示すフローチャートである。また、図5は、シーム回り込み量の算出例を模式的に説明する図である。
【0034】
まず、鋼板表面の幅エッジ画像内で、板幅方向の1次元輝度プロフィールを搬送方向に沿って平均化し、搬送方向の1次元輝度平均プロフィールを求める(Step.21)。シーム疵はその生成過程にも依存するが、一般に0.1mm以下の非常に細い疵である場合が多いため、一般に画像コントラストが低くなり、S/Nも低くなる。
【0035】
そこで、シーム疵が搬送方向と平行な線状疵であるという特性を利用して、上記のように搬送方向に沿って輝度を平均化するのが有効である。図5に低コントラストのシーム疵を輝度平均化によって顕在化させる例を示す。図の左に示す画像内には低コントラストの2本のシーム疵がエッジ近くに辛うじて認められるものの、図(a)〜(c)に示すような、板幅方向の1次元輝度プロフィールからは、シーム疵を地合ノイズと分離して抽出することは困難である。
【0036】
しかしながら、画像の縦方向(搬送方向)に沿って各1次元輝度プロフィールを積算して平均化することにより、図5(d)に示すように、輝度がランダムな地合ノイズが相殺され、シーム疵部分が認識できるようになる。
【0037】
次に、1次元輝度平均プロフィールにシェーディング補正を施して、照明ムラを除去する(Step.22)。シェーディング補正により照明ムラなどの空間的に低周波の輝度変動が削減され、シーム疵のような高周波輝度変動部が強調される。この結果図5 (e)に示すように、シーム疵を地合ノイズと明瞭に分離して抽出できるようになる。
次に、シェーディング補正前あるいはシェーディング補正後の1次元輝度平均プロフィールから、板エッジ部位置Peを求める(Step.23)。板エッジも搬送方向に平行であるから、板エッジの検出にも1次元輝度平均プロフィールを利用するのが好適である。板エッジ位置の認識法としては、たとえばシェーディング補正前の1次元輝度平均プロフィールにおいて板外部と板内部との中間輝度をしきい値として、この値を越える箇所を板エッジとして認識する。また、シェーディング補正後の1次元輝度平均プロフィールに所定のしきい値処理を施して認識するようにしてもよい。
次に、シェーディング補正後の1次元輝度平均プロフィールを、予め設定するしきい値によって2値化してシーム疵を抽出し、板エッジから最も遠くにあるシーム疵の位置Psを求める(Step.24)(図5(e)参照)。
【0038】
最後に、シーム回り込み量Dを、次の(2)式によって算出する(Step.25)。
【0039】
【数2】
【0040】
ここで、Resはカメラの板幅方向の分解能であり、PeおよびPsの単位は画素数、Resの単位はmm/画素である。
【0041】
次に、Step.04における表面品質判定の具体例を、図6に基づいて説明する。
まず、搬送方向長さがLの鋼板に対して、搬送方向x(0≦x≦L)の位置で有効板幅W’(x)を計測する(Step.41)。L=700mの鋼板の場合、たとえば、xとして2mピッチで計測する。
次に、鋼板全長に亘るW’(x)の値と板幅下限値Waを比較し、次のように鋼板の合否を判定する(Step.42)。
【0042】
(1)全長に亘って、W’(x)≧Waを満たす場合
⇒その鋼板を合格と判定する。
【0043】
(2)鋼板の先尾端部のみW’(x)<Waとなる箇所があり、それ以外ではW’(x)≧Waを満たす場合
⇒W’(x)<Waとなる箇所(不合格箇所)を除去して、残りの部分を合格とする。
【0044】
(3)鋼板の先尾端部以外で W’(x)<Waとなる箇所がある場合
⇒その鋼板を不合格と判定する。
【0045】
上記Waは、各鋼板の製品保証幅にトリム余裕代などを加えたものであり、有効板幅W’(x)がこれを下回ることは、製品保証幅を満たさなくなる、あるいは製品にシーム疵が含まれる恐れが出ることを意味する。そこで上記(3)は、鋼板の先尾端部以外でこのような不良箇所が存在する場合、その鋼板を不合格と判定するものである。
【0046】
以上の説明では、説明の便宜上、鋼板の片面についての表面品質判定法について述べたが、実際は鋼板の両面に対して上記の方法を適用するのが好ましい。
【0047】
図7に、鋼板両面の表面品質を判定する際の有効板幅W’(x)の算出法を示す。すなわち、鋼板オモテ面のワーク側シーム回り込み量D1t(x)とドライブ側シーム回り込み量D2t(x)、および鋼板ウラ面のワーク側シーム回り込み量D1b(x)とドライブ側シーム回り込み量D2b(x)をそれぞれ測定する(Step.51)。そして、搬送方向各位置xにおいて、有効板幅W’(x)を次の(3)式によって求める(Step.52)。
【0048】
【数3】
【0049】
ここで、 Max{ D1t(x), D1b(x) }は,D1t(x)とD1b(x)の大きい方の値を意味している。
【0050】
このような処理によって、たとえば、オモテ面はワーク側に、ウラ面はドライブ側にそれぞれシーム回り込み量が大きい場合などにも適切な判定をすることが可能である。
【0051】
図8は、本発明に係る鋼板の表面品質判定装置の構成例を模式的に示す図である。以下、図8に基づいて、本発明に係る鋼板の表面品質判定装置の詳細について説明する。
【0052】
図8において、照明2a、カメラ3a、および画像処置装置5aは、鋼板1のオモテ面のシーム疵を検出してそのエッジからの距離を算出するものである。カメラ3aは、1台のカメラで全幅を撮影するようにしてもよいが、図9に示すように鋼板の両端部を撮影する2台のカメラで構成する様にしてもよい。板幅が大きく変動するラインにおいては、両端のカメラの幅方向位置を鋼板の予想板幅に応じて、板幅方向にスライドしてプリセットするようにしてもよい。
【0053】
照明2aは、図9に示すように板幅全長を線状に照射する線状光源が適しているが、これに限るものではなく、たとえば鋼板の両端部を局所的に照射する2台の面状光源で構成してもよい。また、カメラによって十分な感度で撮影できる場合には、照明を省略することも可能である。
【0054】
カメラ3aは、エリアセンサカメラまたはラインセンサカメラを用いることができる。カメラの視野は、鋼板1のエッジ部、および予想されるシーム疵の発生範囲(たとえばエッジから30mm以内)をカバーするように設定する。カメラによって搬送される鋼板の表面エッジ部を、一定の時間間隔で、あるいは、鋼板搬送距離に同期させて一定の距離間隔で撮影する。撮影する頻度は、鋼板の板幅の変動やシーム疵の発生位置の変動度合いに依存して決めるのがよいが、たとえば鋼板が2m移動する度に撮影するなどとする。照明とカメラの配置としては、正反射を避けた光学配置が適当であり、たとえば図10に示すように、入射角10°、受光角50°とするのがよい。
【0055】
画像処理装置5aは、カメラ3aで撮影した画像から、両端部における板エッジとシーム疵との距離を算出する。具体的な算出方法については前述したとおりである(図4および図5参照)。
【0056】
一方、照明2b、カメラ3bおよび画像処置装置5bは、ウラ面のシーム疵を検出してそのエッジからの距離を算出するものであり、その機能や構成は上述のオモテ面と同様である。
【0057】
板幅計4は、鋼板の板幅を測定するものであり、周知の光学式の板幅計を用いることができる。搬送方向における、鋼板の板幅測定位置とカメラ撮影位置とは互いに近接した位置で行うようにするとよい。
【0058】
合否判定装置6は、鋼板1の全長に亘る、画像処理装置5a、画像処理装置5bおよび板幅計4の出力から、有効板幅W’を算出し、前述の方法により鋼板の表面品質の良否を判定するものである。
なお、画像処理装置5aと画像処理装置5bは、画像処理ボードを搭載した単一のコンピュータによって構成することができる。また、合否判定装置6と画像処理装置5a、5bも同一のコンピュータで兼用することも可能である。
【実施例】
【0059】
本発明をステンレス鋼板の酸洗ラインに適用した実施例について述べる。図11は、本実施例における測定機器配置を模式的に示す図である。酸洗ラインの出側コイラー前に照明とカメラで構成する板幅計を設置して、鋼板の板幅を2mピッチで全長に亘り測定するようにした。この板幅計の上流位置近傍に、線状照明とCCDラインセンサカメラで構成する撮像装置を表裏面それぞれ板幅方向2個ずつ設置して、2mピッチで全長に亘り板エッジ部画像を採取した。鋼板搬送方向の板幅計測定位置とエッジ部撮影位置は、鋼板搬送をトラッキングすることによって、正確に同一位置になるように制御した。なお、照明とカメラの配置は、図10に示す角度に設定した。
【0060】
シーム回り込み量の算出は、前述した図4に示す手順で、また表面品質の判定は前述した、前述した図6および図7に示す手順で、それぞれ実施した。本発明による効果を調査するため、本発明によって表面品質を判定した鋼板を、別の検査ラインに送り、鋼板の搬送方向10箇所でラインを停止させて、検査員の手作業によるシーム回り込み量の測定を行った。
【0061】
この結果、本発明による測定結果は検査員による測定結果と標準偏差σ=0.3mmの精度で一致することが確認された。この結果、本発明の方法により、ラインを停止させることなく、また鋼板全長に亘ってシーム回り込み量を高精度で検出可能なことが実証された。また、検査ラインで停止測定をした10箇所の中間位置に有効板幅W’が極小となる現象が発生したケースがあり、従来の判定法では見逃すような表面品質不具合も、本発明による方法で検知できることも確認された。
【符号の説明】
【0062】
1 鋼板
2a、b 照明
3a、b カメラ
4 板幅計
5a、b 画像処理装置
6 合否判定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送中の鋼板の板幅を測定するとともに、前記鋼板の表面の幅方向両端エッジ部をカメラで撮影する、板幅測定・エッジ撮影ステップと、
撮影した画像を画像処理して、板幅方向のエッジおよびシーム疵を検出し、検出したシーム疵とエッジとの距離を算出する、シーム回り込み量算出ステップと、
算出したシーム回り込み量と測定した板幅に基づいて、最終製品として有効な板幅を算出する、有効板幅算出ステップと、
該有効板幅に基づいて、前記鋼板の表面品質の良否を判定する、表面品質判定ステップとを有することを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼板の表面品質判定方法において、
前記シーム回り込み量算出ステップでは、
前記画像から板幅方向の1次元輝度プロフィールを求めた後、搬送方向に平均することによって1次元輝度平均プロフィールを求め、さらにシェーディング補正を施した後、所定しきい値によりシーム疵を検出し、検出したシーム疵のうちエッジから最も遠いシーム疵とエッジとの距離を算出することを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鋼板の表面品質判定方法において、
前記有効板幅算出ステップでは、
ワーク側のシーム回り込み量D1、ドライブ側のシーム回り込み量D2、および板幅測定値Wとから有効板幅W’=W-D1-D2を求め、
前記表面品質判定ステップでは、
W’と板幅許容下限値Waを比較し、(1)鋼板全長に亘りW’≧Waの場合は、合格と判定する、(2)鋼板の先尾端近傍のみW’<Waとなる場合は、その箇所を除去して合格と判定する、(3)鋼板の先尾端近傍以外でW’<Waとなる箇所がある場合は、不合格と判定する、ことを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【請求項4】
搬送中の鋼板の板幅を測定する板幅計と、
前記鋼板の表面の幅方向両端エッジ部を撮影するカメラと、
該カメラ撮影画像から両端部における板エッジとシーム疵との距離であるシーム回り込み量を算出する画像処理装置と、
算出したシーム回り込み量と測定した板幅に基づいて、前記鋼板の表面品質の良否を判定する合否判定装置とを具備することを特徴とする鋼板の表面品質判定装置。
【請求項1】
搬送中の鋼板の板幅を測定するとともに、前記鋼板の表面の幅方向両端エッジ部をカメラで撮影する、板幅測定・エッジ撮影ステップと、
撮影した画像を画像処理して、板幅方向のエッジおよびシーム疵を検出し、検出したシーム疵とエッジとの距離を算出する、シーム回り込み量算出ステップと、
算出したシーム回り込み量と測定した板幅に基づいて、最終製品として有効な板幅を算出する、有効板幅算出ステップと、
該有効板幅に基づいて、前記鋼板の表面品質の良否を判定する、表面品質判定ステップとを有することを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼板の表面品質判定方法において、
前記シーム回り込み量算出ステップでは、
前記画像から板幅方向の1次元輝度プロフィールを求めた後、搬送方向に平均することによって1次元輝度平均プロフィールを求め、さらにシェーディング補正を施した後、所定しきい値によりシーム疵を検出し、検出したシーム疵のうちエッジから最も遠いシーム疵とエッジとの距離を算出することを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鋼板の表面品質判定方法において、
前記有効板幅算出ステップでは、
ワーク側のシーム回り込み量D1、ドライブ側のシーム回り込み量D2、および板幅測定値Wとから有効板幅W’=W-D1-D2を求め、
前記表面品質判定ステップでは、
W’と板幅許容下限値Waを比較し、(1)鋼板全長に亘りW’≧Waの場合は、合格と判定する、(2)鋼板の先尾端近傍のみW’<Waとなる場合は、その箇所を除去して合格と判定する、(3)鋼板の先尾端近傍以外でW’<Waとなる箇所がある場合は、不合格と判定する、ことを特徴とする鋼板の表面品質判定方法。
【請求項4】
搬送中の鋼板の板幅を測定する板幅計と、
前記鋼板の表面の幅方向両端エッジ部を撮影するカメラと、
該カメラ撮影画像から両端部における板エッジとシーム疵との距離であるシーム回り込み量を算出する画像処理装置と、
算出したシーム回り込み量と測定した板幅に基づいて、前記鋼板の表面品質の良否を判定する合否判定装置とを具備することを特徴とする鋼板の表面品質判定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−149699(P2011−149699A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8668(P2010−8668)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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