説明

鋼板コイル梱包用緩衝材原紙及び鋼板コイル梱包用緩衝材

【課題】木材パルプのみを使用して、鋼板コイル等の金属製品包装時において、緩衝性に優れ、金属製品の内周または外周に巻いた際に折れや浮きの発生が少なく、さらに、輸送時や保管時等における外部からの水の浸漬、及び仮に浸漬した場合であっても破れが少ない、鋼板コイル梱包用緩衝材原紙及び緩衝材を提供する。
【解決手段】少なくとも表層及び裏層の2層の紙層を有し、原紙を構成する全ての層の原料パルプに機械パルプを30%以上配合し、テーバー剛度が60〜120mN・mである鋼板コイル梱包用緩衝材原紙、及びこの緩衝材原紙を用いて形成した鋼板コイル梱包用緩衝材原紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属コイルや金属シート等の金属を梱包するために用いられる鋼板コイル梱包用緩衝材原紙及びこの緩衝材原紙を用いた鋼板コイル梱包用緩衝材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼板コイルや、金属コイル、あるいは金属シート材等の円筒状に巻き上げられた金属製品等の輸送時に、金属製品等が損傷することを防止することを目的として、また金属製品等の防錆・防水を目的として、例えば特許文献1や特許文献2に示すような紙基材の包装材(以下、「包装紙」と言う。)で包装される。
【0003】
このような包装紙としては、従来より、防湿紙や防錆紙が主に使用されている。また、最近では、鋼板コイル等の金属製品の自動包装化が進んだことで、防錆性、破れ防止、及び緩衝性を兼ね備えた多層包装紙が主流となってきており、ラミネート加工紙、糸入り強化紙、樹脂クロス、さらにはクレープ加工紙等の貼合品が使用されてきている。なお、このような多層包装紙の基材としては、柔軟性の高いボロ綿や不織布、割布、組布等またはフィルムが使用されている。ここで、割布とは、スプリットファイバーで作った布であり、また、組布とは、糸や高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等が延伸されたテープヤーンを縦横に連続的に直交積層して格子状にしたものをホットメルト接着剤等で接着固定させた経緯直交不織布である。
【0004】
このような包装紙は、長期にわたり、金属製品の発錆・腐食を防止し、金属光沢を維持することに加え、鋼板コイル等の金属自体の重量が重く、荷役や輸送時の衝撃が大きいため、緩衝性及び包装紙自体の強度も要求される。
【0005】
しかしながら、このような従来の包装紙には、例えば特許文献2に示されるように、未晒クラフト紙の加工品が使用されることが多く、強度を確保できないという問題がある。また、多層包装紙は、基材を木材パルプ以外の素材を使用しなければならない、または、例えば特許文献3に示されるように多層構成の中でフィルム素材を使用することによる産業廃棄物処理等の環境配慮上の問題がある。
【0006】
特に鋼板コイル等の金属製品は、吊り具等で吊り上げて移動させることが多いが、その時や、金属製品が多段積みされる時に、吊り具装置と製品コイル、又は製品コイルと製品コイルとが、接触したり、衝突したり等することにより、包装紙が破れる等の損傷が生じることが多い。
【0007】
このため、包装紙を多層化し、厚みも厚物化したものを採用する等の対応がなされている。しかしながら、包装紙の多層化や厚物化は包装紙の高級化につながり、製造コストが高くなってしまうので、好ましいものではない。
【0008】
【特許文献1】特開2000−263669号公報
【特許文献2】特許第3014685号公報
【特許文献3】特開2000−281122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したような実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、木材パルプのみを使用して、鋼板コイル等の金属製品包装時において、緩衝性に優れ、金属製品の内周または外周に巻いた際に折れや浮きの発生が少なく、さらに、輸送時や保管時等における外部からの水の浸漬、及び仮に浸漬した場合であっても破れが少ない、鋼板コイル梱包用緩衝材原紙及び緩衝材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、少なくとも表層及び裏層の2層の紙層を有する鋼板コイル梱包用緩衝材原紙において、該鋼板コイル梱包用緩衝材原紙を構成する全ての層の原料パルプに機械パルプを30%以上配合し、テーバー剛度が60〜120mN・mであることを特徴とする鋼板コイル梱包用緩衝材原紙を提供することによって達成される。
【0011】
また、本発明の上記目的は、前記原料パルプの離解フリーネスを300〜450ccとし、また透気度が15〜80秒であり、かつ密度が0.35〜0.60g/cmであることを特徴とする鋼板コイル梱包用緩衝材原紙を提供することによって、効果的に達成される。
【0012】
また、本発明の上記目的は、湿潤引張強度残存率が15〜40%であることを特徴とする鋼板コイル梱包用緩衝材原紙を提供することによって、より効果的に達成される。
【0013】
また、本発明の上記目的は、前記に記載の鋼板コイル梱包用緩衝材原紙の片面に樹脂層を設けた後、前記樹脂層の上から前記原紙にエンボス加工を施しエンボスが形成された上層部と、樹脂層を有する紙または板紙から成る下層部とを少なくとも有し、前記上層部の前記鋼板コイル梱包用緩衝材原紙と、前記下層部の前記紙または板紙とを接着剤を介して貼着して形成したことを特徴とする鋼板コイル梱包用緩衝材を提供することによって、より効果的に達成される。
【0014】
また、本発明の上記目的は、前記上層部と前記下層部との間に、中層部として、エンボス加工が施された前記コイル梱包用緩衝材原紙を1枚または複数枚設けたことを特徴とする鋼板コイル梱包用緩衝材を提供することによって、より効果的に達成される。
【0015】
さらにまた、本発明の上記目的は、前記エンボスは、その個数が200〜600個/10cmであって、底部の合計面積が8.4〜50.4mm/10cmであり、深さが0.2〜0.8mmであることを特徴とする鋼板コイル梱包用緩衝材を提供することによって、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、少なくとも表層及び裏層の2層の紙層し、原紙を構成する全ての層の原料パルプに機械パルプを30%以上配合し、テーバー剛度を60〜120mN・mとしたので、木材パルプのみを使用して、鋼板コイル等の金属製品包装時において、緩衝性に優れ、金属製品の内周または外周に巻いた際に折れや浮きの発生が少なく、さらに、輸送時や保管時等における外部からの水の浸漬、及び仮に浸漬した場合であっても破れが少ない、鋼板コイル梱包用緩衝材原紙及び緩衝材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る多層構造の鋼板コイル梱包用緩衝材原紙及び鋼板コイル梱包用緩衝材について詳細に説明する。なお、本発明に係る低密度緩衝材原紙は、以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲内において、その構成を適宜変更出来ることはいうまでもない。
【0018】
本発明に係る鋼板コイル梱包用緩衝材原紙(以下、「本緩衝材原紙」という。)は、表層と、裏層と、この表裏層間に設けられた1層の中間層との3層の紙層を有するように多層抄きにより構成されている。
【0019】
本緩衝材原紙は、表層と裏層と中層との原料配合を同一にすると、単層で構成することも可能である。しかしながら、本緩衝材原紙は、円筒状に巻き上げられた鋼板コイルを包装する包装紙である緩衝材の構成材料として主に使用されるため、緩衝材原紙にも緩衝性を有することが求められている。従って、緩衝材原紙の紙厚を0.777mm以上、好ましくは0.777〜1.378mm、より好ましくは0.866〜1.00mmとする必要がある。なお、原紙の紙厚が0.777mm未満であると、エンボス加工時において紙裂けが発生するという問題が生じる。一方、原紙の紙厚が1.378mmを超えると、紙厚がありすぎてしまい、例えば小径の円筒状に巻き上げられた鋼板コイルを包装する際、紙表面にエミが発生するという問題が生じる。
【0020】
また、紙厚を上記範囲にするためには緩衝材原紙の米坪を400g/m以上とする必要がある。しかしながら、このように400g/m以上という高米坪を単層で抄造すると、米坪及び紙厚を巾方向及び流れ方向で均一に調整することが難しくなり、これにより、緩衝材原紙の緩衝性にバラツキが生じてしまう。従って、本緩衝材原紙は少なくとも表層及び裏層の2層の紙層を有する多層抄きで抄造される。
【0021】
本緩衝材原紙を構成する各層の原料パルプには、機械パルプを30重量%以上配合する。これにより、本緩衝材原紙を低密度にすることができ、吸液性やクッション性を付与することが容易となる。また、本緩衝材原紙のJIS−P8125(2000)に準拠して測定したテーバー剛度を60〜120mN・m、好ましくは60〜100mN・mとすることができる。なお、テーバー剛度が60mN・m未満であると鋼板コイル包装時の折れ・浮きは発生しないが、サイズ剤の効果を得にくく、外部から水が浸透しやすくなるため、防水性・防錆性が低下し、鋼板コイルの包装紙としての機能が低下すると共に、緩衝材原紙のエンボス加工時に原紙の破れが発生してしまう。一方、テーバー剛度が120mN・mを超えると、鋼板コイル包装時に折れ・浮きが発生する。
【0022】
なお、本緩衝材原紙を構成する全層の原料パルプ中に機械パルプを30%重量以上の同量配合することが良い。これにより本緩衝材原紙に吸液性やクッション性を付与する際に、巾方向及び流れ方向における原料パルプの配向のバラツキを抑えることができる。また、本緩衝材原紙に用いることができる機械パルプとしては、TMPやPGW等、種々のものを用いることができる。
【0023】
また、本緩衝材原紙の表層、裏層ならびに中層に使用される原料パルプは、機械パルプが30重量%以上配合されていれば、その他のパルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の木材繊維を主原料として、化学的に処理されたパルプ、木材以外の繊維原料であるケナフ、麻等非木材パルプを主原料として化学的に処理されたパルプ等、種々のバージンパルプを用いることができる。
【0024】
また、上記バージンパルプ以外にも、クラフトパルプ、セミケミカルパルプ、酵素漂白パルプを含むオフィス上物古紙を脱墨、漂白したパルプ、牛乳パック古紙上質断裁落ち古紙、コート断裁落ち古紙、上白、特白、中白等の未印刷、地券、新段、新聞、クラフト封筒、模造、雑誌古紙から得られる回収パルプ等の種々の古紙パルプについても用いることができる。また、機械パルプを含有していない古紙パルプが好ましいが、機械パルプを含有している新聞古紙等を用いることもできる。これにより本緩衝材原紙を低密度で嵩高なものにすることがより容易となる。
【0025】
しかしながら、後述するように、本緩衝材原紙においては、その少なくとも片面にはラミネート加工が施されるか、または接着剤層が設けられる。このため、嵩高性及びクッション性の観点から、すなわち2次加工による紙厚低下の影響が少ないことから機械パルプと新聞古紙との組合せが好ましく、機械パルプ30〜50%と、新聞古紙パルプ50〜70%との組合せが最も好ましい。
【0026】
また、本緩衝材原紙の表層、裏層及び中層に使用される原料パルプは、濾水度を250〜500cc、好ましくは300〜450ccに調整することが好ましい。なお、濾水度が500ccを超えると、テーバー剛度を上述したように本願の所望の範囲である120mN・m以下とすることができない。一方、濾水度が250cc未満であると、テーバー剛度が低下し、60mN・m未満となってしまい、本願の所望とするテーバー剛度を得ることができない。
【0027】
なお、本明細書において、濾水度とはJIS−P8220(1998)離解方法に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、JIS−P8121(1995)パルプのろ水度試験方法に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて測定した値である。また、上記原料パルプの濾水度の調整方法としては、例えばシングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、コニカルリファイナー等の公知の叩解機を使用することができる。
【0028】
これにより、本緩衝材原紙は、JIS−P8117(1998)に記載の「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法に準拠して測定した透気度(以下、単に「透気度」と言う。)が15〜80秒である。透気度が15秒未満であるとエンボス加工時において紙が裂けてしまう。一方、透気度が80秒を超えるとエンボス加工を施す際に必要な柔軟性を確保することができない。
【0029】
また、本緩衝材原紙は、密度を0.35〜0.60g/cmと、低密度にすることが好ましい。しかしながら、密度が0.35g/cm未満であるとエンボス加工時に層間が剥離してしまう。一方、密度が0.60g/cmを超えるとエンボス加工後に必要な剛性が得られない。
【0030】
また、本緩衝材原紙を形成する表層、中層、及び裏層の原料パルプにはサイズ剤、湿潤紙力増強剤、硫酸バンドが添加される。
【0031】
サイズ剤については、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、弱酸性ロジンエマルジョンサイズ剤が一般的に使用され、コッブサイズ度(2分)で20〜40g/mが確保できれば、上記記載のサイズ剤を適宜変更しても良いが、低添加量であっても、最もサイズ発現性の高い弱酸ロジンエマルジョンサイズ剤を使用するのが望ましい。
【0032】
また、湿潤紙力増強剤としては、ポリアミド樹脂、ポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂、ポリアミド−ポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂、エポキシ化ポリアミド樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、アルデヒドデンプン、ケトンアルデヒド樹脂等が一般的に用いられ、必要に応じて2種類以上を併用することもできる。
【0033】
湿潤紙力増強剤を添加することによって、本緩衝材原紙の縦方向における湿潤引張強度残存率を15〜40%とすることが好ましい。これにより、本緩衝材原紙を用いて形成される緩衝材を、緩衝性に優れたものとすることができる。従って、このような緩衝材を鋼板コイルの内周または外周に巻いて包装する際にも緩衝材の折れや浮きが発生することを防止できるとともに、このような緩衝材で包装された鋼板コイルを輸送する際においても、外部からの水の浸漬を防止することができ、またたとえ水が浸漬した場合であっても、包装紙である緩衝材が破れることを防止することができる。
【0034】
なお、縦方向における湿潤引張強度残存率が15%未満の場合は湿潤引張強度(縦)が低いため、例えば外部から水が浸漬してきた場合に、緩衝材の破れが発生する、すなわち緩衝材原紙が破れてしまう。一方、縦方向における湿潤引張強度残存率が40%を超える場合には、外部から浸漬してきた水分によって緩衝材原紙が破れることは殆どないが、テーバー剛度が高くなってしまうため、このような緩衝材原紙を用いた緩衝材を鋼板コイルの包装紙として用いると、包装の際に緩衝材の折れや浮きが発生してしまう。
【0035】
なお、本願でいう縦方向における湿潤引張強度残存率とは、下記(式1)により算出した値である。
(式1)
湿潤引張強度残存率(%)=(湿潤引張強度(縦)/乾燥引張強度(縦))×100
【0036】
また、本緩衝材原紙には、この他、必要に応じて歩留向上剤、濾水性向上剤、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤、発泡剤等の抄紙用内添助剤を適宜配合することができる。
【0037】
本緩衝材原紙の抄紙方法については、特に限定されるものではなく、酸性抄紙法、中性抄紙法、アルカリ性抄紙法のいずれであってもよい。また、抄紙機も特に限定されるものではなく、例えば長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機、ヤンキー抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等の当分野における公知の種々な抄紙機を適宜使用することができる。
【0038】
次に、上述した本発明に係る鋼板コイル梱包用緩衝材原紙を用いて形成された、本発明に係る鋼板コイル梱包用緩衝材(以下、「本緩衝材」と言う。)について説明する。
【0039】
本緩衝材1は、図1に示すように、上述した本緩衝材原紙2の片面に樹脂層3を設けた後、樹脂層3の上から樹脂層3及び本緩衝材原紙2にエンボス加工を施しエンボス4が形成された上層部5と、樹脂層6を有する紙または板紙7から成る下層部8とにより構成されている。そして、本緩衝材1は、図1に示すように、本緩衝材原紙2と、紙または板紙7とを接着剤9を介して貼着することによって、上層部5と下層部8とを貼合して形成される。なお、本緩衝材1の厚さは2〜4mmであることが必要である。これにより、鋼板コイルを包装する場合に必要な緩衝性を確保することができる。
【0040】
このように、上層部8を構成する樹脂層3及び本緩衝材原紙2にエンボス4を形成することにより、本緩衝材1を、鋼板コイル等の包装紙として用いても、緩衝性を有するとともに柔軟性を有するようになり、鋼板コイル等の包装時において、緩衝材の折れや浮きが発生しない。また、本緩衝材1の表面が樹脂層3、裏面が樹脂層6となるように構成することにより、輸送や保管等の際に、外部からの水の浸漬を防止し、鋼板コイルが錆びることをより防止することができる。また仮に水が緩衝材に浸漬した場合であっても破れを少なくすることができる。
【0041】
また、樹脂層3及び樹脂層6の形成に使用可能な樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン酢酸ビニル樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、エチレンアクリル酸樹脂、エチレンメタクリル樹脂、エチレンアクリル酸メチル樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエステル等があげられる。
【0042】
なお、本緩衝材原紙2の片面に樹脂層3を形成する方法、及び紙または板紙7の片面に樹脂層6を形成する方法については、樹脂をTダイからフィルム状に押し出して形成する方法、樹脂を線状に押出ラミネート加工する方法等、公知の手段を用いることができる。なお、樹脂層3,6の膜厚は10〜30μm、特に20μmが好ましい。樹脂層3,6の膜厚が10μm未満であると十分な防水効果を保つことができない。一方、樹脂層3,6の膜厚が30μmを超えると製造コストがアップしてしまう。
【0043】
また、下層部8を構成する紙又は板紙7としては、公知の種々の紙又は板紙を用いることができる。しかしながら、紙又は板紙7が特に低密度である場合、そのまま本緩衝材原紙2に貼り合わせても、紙又は板紙7が湾曲しなかったり、または湾曲した場合においても鋼板コイルの内周又は外周に巻く際に折れてしまい、コイルと緩衝材(包装紙)との間に隙間が出来たり、シワが入りやすくなる。従って、公知の種々の紙又は板紙の中でも、特にクラフト紙、ライナーを用いることが好ましい。また、緩衝材原紙2に低密度の紙又は板紙を貼着して緩衝材1を形成する場合、上記折れやシワの発生を防止ないしは低減する方法としては、本緩衝材原紙2に貼着される紙又は板紙7にプレス加工を施して嵩を出したり、あるいは紙又は板紙のテーバー剛度を下げることが考えられる。
【0044】
なお、上層部5と下層部8とを貼合する際に使用可能な接着剤9としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン酢酸ビニル樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、エチレンアクリル酸樹脂、エチレンメタクリル樹脂、エチレンアクリル酸メチル樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエステル等があげられる。
【0045】
また、上層部5を形成する本緩衝材原紙2及び樹脂層3に形成するエンボス4は、個数が200〜600個/10cmであって、エンボス4の底部の合計面積が8.4〜50.4mm/10cmであり、かつ深さが0.2〜0.8mm、好ましくは0.1〜1.0mm、より好ましくは0.2〜0.8mmである。このようなエンボス4を形成することにより、本緩衝材1を、より緩衝性に優れるものとすることができ、本緩衝材1が鋼板コイルの包装紙として用いられ、鋼板コイルの内周または外周に巻かれた際においても折れや浮きが発生することを防止することができる。
【0046】
なお、エンボスの個数が200個/10cm未満の場合には、エンボス加工後の緩衝材原紙2の剛性が強すぎるという問題が発生する。一方、エンボスの個数が600個/10cmより多い場合には、エンボス加工後の緩衝材原紙2の剛性が弱くなるという傾向がある。
【0047】
エンボス4の底部の合計面積が50.4mm/10cm超えると、上層部8に形成されるエンボス4(凹部)の合計面積が大きくなるが、この凹部は他の部分(エンボスが形成されていない部分)よりも厚みが薄くなっている。従って、このような上層部8を有する緩衝材1で鋼板コイル等を包装すると、鋼板コイル等の輸送時、緩衝材1が破れてしまう場合があることに加え、包装時に浮きや折れが発生する。一方、エンボス4の底部の合計面積が8.4mm/10cm未満であると、上層部8に形勢されるエンボス4の合計面積が小さすぎるため、このような上層部8を有する緩衝材1で包装された鋼板コイル等は、その輸送時において緩衝材1の破れは発生しないが、柔軟性を得にくく、鋼板コイルを包装する際に折れや浮き等が発生しやすくなる。
【0048】
また、エンボス4の深さが0.2mm未満であると、緩衝材原紙2のテーバー剛度を本発明の所望とする120mN・m以下とすることができない。従って、このような緩衝材原紙2を用いて形成された緩衝材1で鋼板コイルを包装すると、包装の際に緩衝材1の折れや浮きが発生しやすくなる。一方、緩衝材原紙2の厚さが約1000μm(約1mm)、緩衝材原紙の表面上に形成される樹脂層3の厚さが10〜30μmであるため、エンボス4の深さが0.8mmを超えると、紙の伸びを考慮しても、緩衝材原紙2が破れてしまう場合がある。
【0049】
また、本緩衝材は以下のようにその構成を変更することもできる。図2は、本発明の他の実施形態に係る緩衝材1A(以下、「本緩衝材1A」という。)の概略断面図である。図示するように、本緩衝材1Aは、上層部5と下層部8との間に中層部10を設けて構成している。なお、本緩衝材1Aは、中層部10を設けたことを除くその他の点は、上述した本緩衝材1と実質的に同一であるので、以下では緩衝材1と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
すなわち、本緩衝材1Aは、上層部5と、中層部10と、下層部8とにより構成されている。中層部10は、上層部8と同じパターンのエンボスが形成された1枚の本緩衝材原紙2により構成されている。このように中層部10を設けることにより、本緩衝材1Aをより緩衝性に優れるものとすることができ、鋼板コイルの外周または内周、特に湾曲の条件の厳しい内周に沿って巻き付けられても、隙間無く、密着して鋼板コイルを包装することができる。
【0051】
なお、本緩衝材1Aでは、中層部10を構成する本緩衝材原紙2には樹脂層を設けていないが、上層部8と同様に、樹脂層が設けられた本緩衝材原紙2を用いて中層部10を構成してもよい。これにより、本緩衝材1Aの防水性・防錆性をより優れたものとすることができる。
【0052】
さらにまた、図3に、本発明の他の実施形態に係る緩衝材1B(以下、「本緩衝材1B」と言う。)の概略断面図で示すような構成とすることもできる。すなわち、中層部10を、本緩衝材原紙2を複数枚用いて構成しても良く、この場合、本緩衝材原紙2は、上述した接着剤9を介して貼合される。なお、この場合においても、上層部8と同様に、樹脂層が設けられた本緩衝材原紙2を用いて中層部10を構成してもよい。
【実施例】
【0053】
本発明に係る緩衝材原紙及び緩衝材の効果を確認するため、各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行なった。なお、本実施例において、配合、濃度等を示す数値は、固形分または有効成分の質量基準の数値である。また、本実施例で示すパルプ・薬品等は一例にすぎないので、本発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではなく、適宜選択可能であることはいうまでもない。
【0054】
本発明に係る26種類の緩衝材原紙及び緩衝材(これを「実施例1」ないし「実施例26」とする)と、これらの実施例1ないし実施例26と比較検討するために、3種類の緩衝材原紙及び緩衝材(これを「比較例1」ないし「比較例3」とする)を表1に示すような構成で作製した。
【0055】
【表1】

【0056】
〔実施例1〕
(原紙の作成)
<原料パルプスラリー>
機械パルプ(TMP)100質量%を用い、ダブルディスクリファイナーでカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)を450ccに調整した原料に、サイズ剤を対パルプ固形分換算で2質量%添加し、湿潤紙力増強剤を対パルプ固形分換算で0.25質量%添加した。なお、サイズ剤として、星光PMC株式会社製の商品名「AL−1344」の弱酸性ロジンエマルジョンサイズ剤を用い、湿潤紙力増強剤として、星光PMC株式会社製の商品名「WS4024」を用いた。
【0057】
この原料パルプスラリーを用いて円網5層抄紙機にて、表層、3層の中層、および裏層の5層の紙層からなり、坪量が450g/mである緩衝材原紙を作製した。
【0058】
<緩衝材の作製>
まず、上記のように得られた緩衝材原紙の表層の表面に、樹脂を塗工して樹脂層を形成する。なお、樹脂層の厚みは20μmとなるように樹脂を塗工した。また、樹脂としてはポリエチレンを用いた。緩衝材原紙の表面にラミネート加工を施して樹脂層を形成した後、樹脂層の上からエンボス加工を施して樹脂層及び緩衝材原紙にエンボスを形成し、上層部を形成する。また、中層部として、緩衝材原紙1枚を用い、上層部と同様のエンボス加工を施してエンボスを形成する。さらに、下層部を構成する紙または板紙としてクラフト紙を用い、クラフト紙の片面にラミネート加工を施して樹脂層を形成する。その後、上層部と中層部と下層部とを、接着剤を用いてそれぞれ貼合して緩衝材(実施例1)を形成した。
【0059】
また、実施例2〜26及び比較例1〜3を表1に示す条件以外は実施例1と同様に作製して緩衝材原紙及び緩衝材を得た。なお、実施例2〜26、及び比較例1〜2は、原料パルプに新聞古紙パルプを用いているが、この新聞古紙パルプは、機械パルプを含まない古紙パルプを用いた。
【0060】
なお、表1中の「CSF(cc)」とは、JIS−P8220(1998)に準拠して、ダブルディスクリファイナー(DDR)にて試料を離解処理した後、JIS−P8121(1995)のろ水度試験方法に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて測定したカナダ標準ろ水度の値である。
【0061】
また、「坪量(g/m)」とは、樹脂層を形成し、エンボス加工を付与する前の各試料全層、すなわち緩衝材原紙全体の坪量で、JIS−8142(2005)に記載の「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した値である。
【0062】
「紙厚(μm)」とは、JIS−P8118(1998)に記載の「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した値である。
【0063】
「密度(g/cm)」とは、JIS−P8142(2005)に記載の「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した厚さから算出した値である。
【0064】
「透気度(秒)」は、JIS−P8117(1998)に記載の「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法に準拠して測定した値である。
【0065】
「テーバー剛度(mN・m)」とは、JIS−P8125(2000)に記載の「紙及び板紙−こわさ試験方法−テーバーこわさ試験機法」に準拠して測定した値である。
【0066】
「湿潤引張強度残存率(%)」とは、JIS−P8135(1998)に記載の「紙及び板紙−湿潤引張強さ試験方法」に準拠して測定した湿潤引張強度(縦)と、JIS−P8113(1998)に記載の「紙及び板紙−引張特性の試験方法」に準拠して測定した引張り強度(縦)とから、JIS−P8135(1998)に記載の「紙及び板紙−湿潤引張強さ試験方法」の「8.2湿潤引張強さ残留率の算出方法」に準拠して算出した縦方向の値である。
【0067】
「コッブサイズ度(2分)(g/m)」とは、JIS−P8140(1998)に記載の「紙及び板紙−吸水度試験方法−コッブ法」に準拠して2分間水と接触させた試料の表側(樹脂層が設けられる側)を測定した値である。
【0068】
また、表2中の「エンボスの個数(個/10cm)」とは、エンボス加工を施した後の試料(すなわち緩衝材)をA4サイズに切り出し、片面のエンボスの頂点の数を目視で測定し、10cmに換算した数値である。
【0069】
また、「面積(mm)」とは、各試料10cmあたりのエンボスの底部の合計面積であり、エンボスの1つの底部の寸法を測定して面積を出し、10cmあたりのエンボスの個数を乗じて10cmあたりに換算した数値である。
【0070】
また、「深さ(mm)」とは、各試料に形成されたエンボスの深さであり、エンボス加工を施したサンプルの片面の頂点部分ともう片面(反対面)の頂点部分の深さを測定した数値である。
【0071】
また、「樹脂層の厚さ(μm)」とは、まず、樹脂層を形成した後のサンプルの厚さを、JIS−P8118(1998)に記載の「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定し、樹脂層を形成する前のサンプルの厚さ(原紙の紙厚)との差異を、樹脂層の膜厚として算出した値である。
【0072】
また、「厚み(mm)」とは、エンボス加工と、貼合工程を終了した最終サンプル(緩衝材)の厚さを、JIS−P8118(1998)に記載の「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した値である。
【0073】
さらにまた、表2中の「コッブサイズ度(2分)(g/m)」とは、最終サンプル(緩衝材)について、JIS−P8140(1998)に記載の「紙及び板紙−吸水度試験方法−コッブ法」に準拠して2分間水と接触させた最終サンプルの表側を測定した値である。
【0074】
また、表2中の「加工適正」とは、原紙にエンボス加工を施した後のサンプルのエンボスの凸部の破れを目視で評価したものである。その評価基準は下記の通りとした。
○:原紙に破れ・穴がない。
△:原紙に破れは無いが、ラミフィルムに破損箇所がある。
×:原紙とラミ両方に破れがある。
【0075】
また、「柔軟性」とは、半径150mmの紙管を使用し、最終サンプルである緩衝材を内周に巻きつけた場合の折れと浮きの発生状況を、目視で評価したものである。その評価基準は下記の通りとした。
1:ところどころ強い折れが生じ、サンプルが紙管の内周に密着しない。
2:折れが3箇所以上生じ、サンプルと紙管の内周に隙間が生じる。
3:折れが1〜2箇所生じるが、サンプルは紙管の内周に密着する。
4:サンプルが紙管の内周に隙間なく密着するが、シワが入る。
5:サンプルが紙管の内周に隙間なく密着するとともに、シワが入らない。
【0076】
さらにまた、「水浸透性」とは、緩衝材の防錆効果及び防水効果を評価したもので、サンプルの表面に50ccの水を30分間浸漬させた後、裏面や断面等の浸漬面以外からの水分の浸漬状況を目視で評価したものである。
○:浸漬面以外からの浸透がない。
△:浸漬面以外からの浸透がややあるが、製品レベルで問題がない。
×:浸漬面以外からの浸透がある。
【0077】
【表2】

【0078】
表2から本発明に係る緩衝材原紙、及びこの緩衝材原紙を用いて形成した緩衝材であると、鋼板コイル等の金属製品包装時において、緩衝性に優れ、金属製品の内周または外周に巻いた際に折れや浮きの発生が少なく、さらに、輸送時や保管時等における外部からの水の浸漬、及び仮に浸漬した場合であっても破れが少ないということが分かる。

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る鋼板コイル梱包用緩衝材の概略断面図である。
【図2】本発明の変更例に係る鋼板コイル梱包用緩衝材の概略断面図である。
【図3】本発明の変更例に係る鋼板コイル梱包用緩衝材の概略断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1,1A,1B 鋼板コイル梱包用緩衝材
2 鋼板コイル梱包用緩衝材原紙
3 鋼板コイル梱包用緩衝材原紙に設けられた樹脂層
4 エンボス
5 上層部
6 紙又は板紙に設けられた樹脂層
7 紙又は板紙
8 下層部
9 接着剤
10 中層部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層及び裏層の2層の紙層を有する鋼板コイル梱包用緩衝材原紙において、
該鋼板コイル梱包用緩衝材原紙を構成する全ての層の原料パルプに機械パルプを30%以上配合し、
テーバー剛度が60〜120mN・mであることを特徴とする鋼板コイル梱包用緩衝材原紙。
【請求項2】
前記原料パルプの離解フリーネスを300〜450ccとし、また透気度が15〜80秒であり、かつ密度が0.35〜0.60g/cmであることを特徴とする請求項1に記載の鋼板コイル梱包用緩衝材原紙。
【請求項3】
湿潤引張強度残存率が15〜40%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋼板コイル梱包用緩衝材原紙。
【請求項4】
前記請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の鋼板コイル梱包用緩衝材原紙の片面に樹脂層を設けた後、前記樹脂層の上から前記原紙にエンボス加工を施しエンボスが形成された上層部と、
樹脂層を有する紙または板紙から成る下層部とを少なくとも有し、
前記上層部の前記鋼板コイル梱包用緩衝材原紙と、前記下層部の前記紙または板紙とを接着剤を介して貼着して形成したことを特徴とする鋼板コイル梱包用緩衝材。
【請求項5】
前記上層部と前記下層部との間に、中層部として、エンボス加工が施された前記コイル梱包用緩衝材原紙を1枚または複数枚設けたことを特徴とする請求項4に記載の鋼板コイル梱包用緩衝材。
【請求項6】
前記エンボスは、その個数が200〜600個/10cmであって、底部の合計面積が8.4〜50.4mm/10cmであり、深さが0.2〜0.8mmであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の鋼板コイル梱包用緩衝材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−286439(P2009−286439A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141171(P2008−141171)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】