説明

鋼板コンクリート構造物及びその構築方法

【課題】
鋼板コンクリート製構造物に装備した埋込金物への振動遮断を達成する。
【解決手段】
鋼板コンクリート製の壁の表面鋼板10に埋込金物2よりやや大きな開口1を設け、その開口1の内側にその埋込金物2をその表面鋼板10と間隔をあけて設置する。表面鋼板9,10の間にコンクリート15を打設してその間隔にもコンクリート15を充填する。このようにして埋込金物2と表面鋼板10との直接的な接触を避けて、配管6から表面鋼板10を伝播してくる振動の埋込金物2への伝播を減衰する。そのために、埋込金物に固定した電気・計装品5が振動によって障害を引き起こすことを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板コンクリート構造物及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の建屋を建設する際には、その建屋の壁等を鋼板コンクリート構造で製作する場合がある。その鋼板コンクリート構造の壁に機器や配管等の設備を支持する方法として、次の方法が知られている。即ち、壁を構成するコンクリートに埋込金物のスタッド部分を埋め込み、更にその壁の表面鋼板に埋込金物の表面鋼板を溶着させて固定し、その埋込金物の表面鋼板にサポートを介して間接的に或いは直付けにて機器を固定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−198885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋼板コンクリート製の建屋では、例えば、鋼板コンクリート製の壁を貫通する配管や、鋼板コンクリート製の壁から支持されている配管が、その配管に接続されているポンプ等の機器振動や流体振動等の影響で振動し得る場合、鋼板コンクリート製の壁の表面鋼板にその振動が伝播する。その振動は埋込金物と表面鋼板との溶着部を介して埋込金物に伝播する。その振動が埋込金物に伝播すると、埋込金物を介して壁に支持した機器や配管等の設備にも伝播する。
【0005】
鋼板コンクリート製の壁の表面鋼板と埋込金物は溶着して結合している。その表面鋼板に埋込金物を溶着している場合には、特に振動伝達レベルが高くなってしまうことが懸念される。
【0006】
そこで鋼板コンクリート製の壁にて埋込金物から支持される設備が振動に対して脆弱な場合、例えば計器やスイッチ等の電気・計装品の場合、振動を受けたことに起因して不正な測定結果や誤信号を発信し得ることを極力回避しなければならない。
【0007】
したがって、鋼板コンクリート製の壁から埋込金物を介して電気・計装品を支持する場合には、埋込金物に振動が伝播することを回避する支持構造が求められる。特に、電気・計装品については機器・配管系とは異なり、振動に対する構造強度の健全性に加え、スイッチ部等に対する機能健全性が要求される。スイッチ部の固有振動数は、機器・配管系よりも高く、構造強度で考慮すべき振動数領域を超えた範囲の振動で共振に至ることが懸念される。これを回避する為には、振動伝達経路を絶つ必要がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、鋼板コンクリート製の構造物に埋込金物を介して設備を設置する際に、その設備にその構造物から振動を伝播することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するために、コンクリートと、前記コンクリートの表面に設けた表面鋼板と、前記表面鋼板に対して間隔をあけ、且つ前記コンクリートに固定した埋込金物とを備えた鋼板コンクリート製構造物が採用され、その鋼板コンクリート製構造物は、鋼板コンクリート構造物の表面に設けられる表面鋼板に開口を設ける過程と、前記開口の内側に前記表面鋼板から間隔を開けて埋込金物を配置する過程と、前記表面鋼板と前記埋込金物とに沿ってコンクリートを施工して前記表面鋼板と前記埋込金物とを前記コンクリートに固定する過程とを経て構築される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鋼板コンクリート製の構造物の表面鋼板が振動した場合においても、その表面鋼板からその構造物に設置した埋込金物を分離させてその振動のその埋込金物への振動伝播を極力遮断できることにより、その埋込金物に間接的に或いは直接的に設置された設備の健全性を確保しながら、その設備の鋼板コンクリート製構造物への設置を可能にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施例においては、本発明の目的を次のような手法で達成している。
(1)鋼板コンクリート製の壁などの構造物の表面鋼板9,10の振動をその構造物に設置した埋込金物2に伝播させないために、その表面鋼板9,10とその埋込金物2を分離させる。つまりその表面鋼板9,10にその埋込金物2よりやや大きな開口1を設け、その開口1の内側にその埋込金物2をその表面鋼板9,10と間隔をあけて設置する。
(2)また、好ましくは、上記(1)に加えて、表面鋼板9,10に設けた開口1によるその構造物の構造部材としての引張強度低下を防止するため、鋼板コンクリート製の構造物のコンクリート15に埋設される鉄筋(補強筋)14にてその開口1の部分とその周辺を補強する。
(3)より好ましくは、上記(1)に加えて、鋼板コンクリート製の構造物を施工する際、スタッド12やタイバー7を装着した表面鋼板9,10でコンクリート15を打設する枠組み(コンクリート型枠)を形成し、その枠組みの内側にコンクリート15を充填する。その際、上記(1)で示した構造の場合、表面鋼板9,10に開口1があり、開口1の縁と埋込金物2とは間隔があるため、コンクリート15がその間隔から流出する懸念がある。そこでその表面鋼板9,10に開口1を塞ぐように仮設の蓋4を設置し、その蓋4に埋込金物2を着脱自在に取付け、必要によっては上記(2)で言及した開口部の補強筋
14とも一体化して枠組みを構築し、その枠組みにコンクリート15を打設する。
【実施例1】
【0012】
原子力発電所の建屋は、図1に示す鋼板コンクリート製の壁を、鋼板コンクリート製構造物として有する。その壁は、概ね次に記載の構成を有する。即ち、互いに対面し合う表面鋼板9,10が存在し、その表面鋼板9,10のコンクリートに接する側の面には、複数のスタッド12が固定される。このスタッド12はコンクリート15に埋設固定されている。
【0013】
その表面鋼板10には、矩形の開口1が形成されている。その開口1の縁端と間隔を開けてその開口の内側に埋込金物2が配置されている。埋込金物2は片面が表面に露出している鋼板11と、その鋼板11のコンクリート15に接する面に固定された複数のスタッド13とから構成されている。そのスタッド13もコンクリート15に埋設固定されている。その埋込金物2の鋼板11とスタッド13は、表面鋼板9,10と接することは無く、表面鋼板9,10から分離している。
【0014】
その埋込金物2の鋼板11の露出した面には、振動に対して脆弱な性質の電気・計装品5が設備として取付けられている。その埋込金物2のスタッド13は、設備を確実に支持する必要もあって、表面鋼板9,10のスタッド12よりもコンクリート15中に深く埋設できる大形のものとされている。
【0015】
表面鋼板9,10は鋼板コンクリート製の壁の強度を担う構造部材であるが、その構造部材に開口1を設けることによる強度の低下を補う必要のある場合には、図2のように鉄筋(補強筋)14を各スタッド12,13と縦横に立体的に交差させて配筋を施す。その配筋の施工位置は開口1に隣接(壁の厚さの中央よりも開口1寄りの部位)した個所であり、コンクリート15中に埋設させてある。このようにすることにより、鉄筋14は表面鋼板10が開口1部で欠落していることによる強度低下(特に表面鋼板10が引張される方向の強度低下)を補っている。
【0016】
鋼板コンクリート製の壁には、埋込金物2に隣接して配管6がその壁を、壁の厚さ方向に貫通して設置されている。この配管6には、図示していないポンプが接続され、そのポンプでポンピングされた流体が流されている。そのため、ポンプの機器振動や流体振動等の影響で配管6が振動し、表面鋼板9,10にその振動が伝播する。また、その振動はコンクリート15にも伝播するが、コンクリート15の振動減衰率が表面鋼板9,10の振動減衰率よりも大きいので、比較的には表面鋼板9,10に伝播する振動が埋込金物2に取付けた設備に大きな影響を与える。
【0017】
このような構造の鋼板コンクリート製の壁においては、次のようにして埋込金物2への振動伝播を遮断する。即ち、壁の表面を形成している表面鋼板9,10に何等かの振動が伝播すると、その振動の伝播経路が開口1で形成された埋込金物2の鋼板11と表面鋼板10との間隔で遮断される。そのため、振動が表面鋼板10から埋込金物2へ伝播しにくい。
【0018】
その振動が表面鋼板10から埋込金物2へ伝播しようとしても、表面鋼板10と埋込金物2の鋼板11との両鋼板の間隔がコンクリート15で充填されている場合には、そのコンクリート15と表面鋼板10及びそのコンクリート15と埋込金物2の鋼板11との複数の接触境界が存在し、その境界を振動が伝播する際に、振動が境界の無い鋼板の連続体に比較して、大きく減衰される。表面鋼板10と埋込金物2の鋼板11との両鋼板の間隔が何も充填されない空間、或いは振動をコンクリート15よりも伝播させにくい部材で充填してある場合には、表面鋼板10から埋込金物2の鋼板11への振動伝播が一層良く遮断できる。
【0019】
このように、何等かの振動源から鋼板コンクリート製の壁に伝播した振動を埋込金物2にまで伝播させることを阻止することができるので、振動に対して脆弱な電気・計装品5等の設備を埋込金物2へ溶接により溶着で取付けることが可能となった。
【0020】
このような鋼板コンクリート製の壁の構築方法は次のように施工される。即ち、図1に示すように、電気・計装品5を支持するための埋込金物2を設置する箇所の近傍に、表面鋼板10の振動源となり得る配管6が貫通している場合、その埋込金物2の壁への設置個所に該当する表面鋼板10の部分を切り欠いてあらかじめ開口1を設けておく。その表面鋼板10には、コンクリート15と接する側の面にスタッド12を固定しておく。埋込金物2にもコンクリート15と接する面にスタッド13を固定しておくことで、コンクリート15に埋込金物2を固定させ、電気・計装品やその他の機器や配管の支持に耐え得るものとする。そのため、埋込金物2に固定されるスタッド13は表面鋼板9,10に固定したスタッド12よりも長くて引き抜き強度が高められている。
【0021】
表面鋼板10を切り欠いて形成した開口1は、埋込金物2の外形、即ち埋込金物2の鋼板11の板面、よりもやや大きな開口面寸法とすることにより、埋込金物2の鋼板11を開口1の内側に配置した際に、埋込金物2の鋼板11の縁と開口1の縁との間に間隔を有して完全に分離できるものとする。このようにして、埋込金物2と表面鋼板10とを分離して配置する。
【0022】
鋼板コンクリート製の構造物における表面鋼板9,10は、従来の鉄筋コンクリート製の構造物における鉄筋の役割を担っている。即ち圧縮応力を受け持つコンクリート15に対して鉄筋は引張応力を受け持っている。同様に鋼板コンクリート製の構造物においては表面鋼板9,10が引張応力を受け持っている。そのため表面鋼板10に開口1を設ける事は構造部材に欠陥を生じさせることになる。そこで図2に示すように開口1に沿って鉄筋14を縦横に組み入れ、その鉄筋14を開口部の強度を補う補強筋とすることで構造部材としての成立性を確保する。
【0023】
次に、表面鋼板10の開口1に埋込金物2を仮に組み付ける作業を行う。鋼板コンクリート製の壁を施工する際、表面鋼板10の開口1の縁と埋込金物2の鋼板11の縁との間は間隔があいているため、表面鋼板9,10間に充填中のコンクリートがその間隔から固まる前に漏出する不具合が生じる。そこで開口1に仮設の蓋4を設置して開口1を塞ぐ。仮設の蓋4は、コンクリート15の打設荷重に耐えられれば良く、鋼板,ベニヤ板等が使用できる。
【0024】
仮設の蓋4に鋼板を用いる場合には、図3のように、埋込金物2を蓋4へボルト16によって着脱自在に締結し、しかる後に蓋4の縁を表面鋼板10に溶接して固定する。埋込金物2と蓋4とを締結するボルト16は、図3に表示した蓋4の右側からボルト16をねじ込んで、埋込金物2の鋼板11と蓋4とを締結して両者を密着させておく。また、蓋4を表面鋼板10に溶接する際には、開口1の縁と鋼板11の縁との間に間隔が生じるように蓋4の表面鋼板10への溶接位置を設定する。
【0025】
鋼板コンクリート製の壁のもう一方の表面に施工される表面鋼板9を用意し、その表面鋼板9のコンクリート15に接する面にスタッド12を固定する。このように用意された二枚の表面鋼板9,10は、壁を構築する位置に、スタッド12同士が向かい合うように平行に立てられる。
【0026】
その後に、二枚の表面鋼板9,10の間にコンクリート15が流し込まれてコンクリート15が打設される。そのコンクリー15が固化してある程度の強度が発揮できるようになるまでのコンクリート15の養生期間が終わり次第、蓋4の表面鋼板10への溶着部分を削るなどして表面鋼板10と蓋4とを切り離す。その後に蓋4と埋込金物2の鋼板11を固定するボルト16を抜いて蓋4とボルト16を撤去する。このようにすると、表面鋼板10と鋼板11との間にコンクリート15が充填された間隔を置いて、表面鋼板10に対して埋込金物2が分離されている鋼板コンクリート製の壁が構築される。その後に、図4に示すように、埋込金物2の鋼板11へ電気・計装品5を溶接によって溶着して固定する。
【0027】
蓋4がベニヤ板であったり、溶接熱の影響を表面鋼板10に与えたくない場合には、ボルト16で蓋4に埋込金物2を締結して密着させ、その蓋4と開口1の無い側の表面鋼板9にタイバー7を通す。その際には、タイバー7と開口1の縁との間及びタイバー7と鋼板11の縁との間に間隔が生じて互いに直接接触しあわないようにタイバー7の位置が設定される。そのタイバー7の両端にナット8を螺合し、そのナット8を締めてタイバー7とナット8で表面鋼板10へ蓋4を固定し、図5のように、蓋4で開口1を塞ぐ。
【0028】
その後にコンクリート15を2枚の表面鋼板9,10の間に打設して図5のようにコンクリート15を固化させる。その後に、蓋4と埋込金物2の鋼板11とを締結していたボルト16を抜いて埋込金物2と蓋4との締結を解除する。その後に、タイバー7からナット8を外して表面鋼板から蓋4を撤去する。その後に、電気・計装品5を溶接で埋込金物2の鋼板11へ溶着する。
【0029】
以上の実施例では、建屋の壁を鋼板コンクリート製で構築する際について述べたが、同様な実施例にて、例えば原子力発電所で鋼板コンクリートを採用したタービン架台を構築することができる。この場合には、タービン架台には発電機やタービンが設置されているので、発電機やタービンの回転による周期的な振動が継続してタービン架台に伝播する。しかし、タービン架台の梁や柱を、図1〜図5に基づいて既述したと同等に構築すると、周期的な振動が継続して伝播するタービン架台にも電気・計装品の設置が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、建屋の壁やタービン架台などの鋼板コンクリート製の構造物に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)図は、本発明の実施例による鋼板コンクリート製の壁の断面図であり、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【図2】本発明の実施例による補強筋を有する鋼板コンクリート製の壁の断面図である。
【図3】(a)図は、図2に示した壁の構築の一過程における壁の状態を示した壁の断面図であり、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【図4】(a)図は、図3の壁の構築過程を経て出来上がった壁に電器・計装品を設置した状態の壁の断面図であり、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【図5】(a)図は、タイバーを用いて本発明の実施例による鋼板コンクリート製の壁を構築する過程における壁の断面図であり、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【符号の説明】
【0032】
1…開口、2…埋込金物、4…蓋、5…電気・計装品、6…配管、7…タイバー、8…ナット、9,10…表面鋼板、11…鋼板、12,13…スタッド、14…鉄筋、15…コンクリート、16…ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートと、
前記コンクリートの表面に設けた表面鋼板と、
前記表面鋼板に対して間隔をあけ、且つ前記コンクリートに固定した埋込金物と、
を備えた鋼板コンクリート製構造物。
【請求項2】
請求項1において、前記コンクリートの厚みの中央よりも前記埋込金物に寄せて前記コンクリート内に配筋を施してある鋼板コンクリート製構造物。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記埋込金物に電気・計装品を設置してある鋼板コンクリート製構造物。
【請求項4】
鋼板コンクリート構造物の表面に設けられる表面鋼板に開口を設ける過程と、
前記開口の内側に前記表面鋼板から間隔を開けて埋込金物を配置する過程と、
前記表面鋼板と前記埋込金物とに沿ってコンクリートを施工して前記表面鋼板と前記埋込金物とを前記コンクリートに固定する過程と、
を有する鋼板コンクリート製構造物の構築方法。
【請求項5】
請求項4において、前記開口部分に前記コンクリートに埋設される位置で配筋を施し、しかる後に前記コンクリートを施工して前記開口部分の補強を行う過程を有する鋼板コンクリート製構造物の構築方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5において、前記開口を蓋で塞いでから前記コンクリートを施工し、その後に前記蓋を前記開口から撤去する過程を有する鋼板コンクリート製構造物の構築方法。
【請求項7】
請求項6において、前記蓋に前記埋込金物を取付けた状態で前記コンクリートを施工し、しかる後に前記埋込金物の前記蓋への取付けを解除し、前記解除によって前記埋込金物から分離した前記蓋を前記開口から撤去する過程を有する鋼板コンクリート構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−9244(P2006−9244A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183187(P2004−183187)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】