説明

鋼片の圧延方法

【課題】鋼片の連続圧延において、ツイスターやローラーガイドを使用せずに、圧延材の断面内温度分布等によって発生する、最終圧延機から出てくる鋼片の捻じれを解消して圧延後の鋼片の曲がりを抑制する方法を提供することである。
【解決手段】少なくとも最終圧延機5Hと最終1台前圧延機4Vが孔型圧延ロールを備え、最終圧延機5Hと最終1台前圧延機4Vとの間にツイスターを設置しない鋼片の連続圧延過程で、予め鋼片B2の捻じれ角と最終1台前圧延機4Vのロール軸方向調整量を対応づけ、鋼片B2の捻じれ角を測定装置6で計測した値に基づいて、最終1台前圧延機4Vの孔型圧延ロールをロール軸方向に調整して鋼片B2の捻じれを解消するようにした。このようにすれば、比較的断面寸法の大きい鋼片圧延の場合でも、ツイスターとの接触や捻じりによる表面疵の発生を回避して圧延後の鋼片の曲がりを抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、線材、棒鋼などの条鋼の素材となる鋼片の熱間圧延工程で、最終圧延機の孔型から出てくる仕上げ鋼片の曲がりを抑制する圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線材、棒鋼など条鋼圧延の素材である鋼片は、一般に、連鋳片または鋼塊を均熱した後、分塊圧延工程で、230〜240mm角程度の鋼材(ブルーム)にまでリバース圧延された後、通常、数台の連続鋼片圧延機で、断面寸法が150〜200mm程度の鋼片に圧延される。従来、この鋼片の連続圧延機では、図4(a)にロール孔型G1およびG2の配列を示すように、H−H方式(水平−水平ロール孔型配列方式)の圧延機配列が採用され、素材Sおよび圧延材S1に対して圧下方向Pを交互に変えるため、圧延機間に、圧延材を90°捻るツイスターを設置して圧延が行なわれていた。しかし、このツイスターを使用した圧延では、圧延材に、ツイスターと接触することによるツイスター疵が発生する場合がある。このツイスター疵をなくすために、図4(b)にロール孔型G1およびG2aを示すように、圧延機(ロール孔型G2a)の方を90°交差させて配置し、圧延材S1を捻らずに直進させて圧延を行なうH−V方式(水平−垂直ロール孔型配列方式)の圧延機の配列が採用されてきている。
【0003】
前記鋼片の連続圧延機に供給される鋼材(ブルーム)は、上述のように、連鋳片または鋼塊からリバース圧延により、通常、230mm角程度まで断面寸法を減少させるため、圧延に時間を要し、加熱(均熱)過程で生じた温度分布に加えて、圧延中に圧延材断面内に発生する温度分布が大きくなる。このような素材Sおよび圧延材S1の断面内に生じる温度分布は、図5に模式的に示すように、上下等、一対の孔型ロール8、9のロール違いがなくても、孔型G内での不均一変形を助長して圧延材S1に捻じれ(捻れ角θ)が発生する原因となる。前記H−V方式の圧延機配列では、ツイスターを用いて圧延材を90°捻って次圧延機に導入する必要がない反面、前記温度分布などに起因する圧延材の捻じれの、ツイスターによる修正効果は得られなくなる。鋼片にこのような捻じれが発生すると、最終圧延機の出側での曲がりによる誘導性の問題からミスロールやガイドロールとのすり疵などの表面疵を引き起こす。また、圧延、冷却後の鋼片自体に曲がりが残存し、鋼片手入れ工程で、表面疵の検知や疵除去などに支障を生じ、さらに、後続の線材、棒鋼圧延工程における加熱炉内での鋼片の転回や粗圧延機列での圧延機間の捻じれなどの問題を引き起こす。
【0004】
上述のような圧延材の捻じれを防止するために、従来から、圧延機入側にローラーガイドを設置し、このガイドロールで圧延材を完全に固定支持する圧延方法が用いられている。また、例えば、特許文献1では、棒鋼圧延の仕上げスタンドの一対の垂直ロールの入側に、回転可能に支持されたガイド本体を有するツイスターガイドを設けたガイド装置を設置し、仕上げスタンドから出る製品(棒鋼)に捻じれがあると、それと反対方向に回転を付与することによって製品捻じれを矯正する圧延装置が開示されている。さらに、特許文献2では、圧延機の下流側に被圧延材料のプロフィール測定装置を配置し、外径寸法のズレやネジレを測定し、基準プロフィール(基準値)と比較して寸法不良やネジレに対する調節値を算出して、最下流側の圧延機または圧延機毎に圧延ロールのスラスト方向の位置を調節して寸法不良やネジレを是正する圧延方法が開示されている。一方、非特許文献1には、ロールの軸方向の調整は上下ロールの孔型を揃えるために行なうのが原則であるが、圧延材を90°あるいは45°ねじる必要のあるときには軸方向の調整で上下孔型の中心を若干ずらすことにより圧延材自身にねじりモーメントを与える場合があることが記載されている。
【特許文献1】特開2000−176529号公報
【特許文献2】特開2004−17131号公報
【非特許文献1】鉄鋼便覧(第3版(1980)、第3巻(2)、第873頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記のローラーガイドで圧延材を固定支持する方法では、比較的大断面の鋼片圧延においては、ローラーガイドで圧延材を保持することは困難なため、保持可能とするためにはガイド装置が大掛かりなものとなり、また、無理に圧延材を固定支持した場合には、圧延材の捻れによってローラガイド(ガイドローラ)と強く接触することになり、表面疵が発生するなどの問題があった。また、特許文献1に開示された圧延装置では、圧延材がツイスターガイドと接触することによる表面疵は避けられなく、圧延機をH−V方式で配列した表面疵防止の利点がなくなる。一方、特許文献3に開示された圧延方法では、一般に、圧延材の捻じれを、圧延ロールの軸方向の調整により制御することは、非特許文献1に記載されているように、周知であり、特許文献3に開示された圧延方法は、汎用されているプロフィール測定手段を用いて単に自動化する圧延方法が開示されているに過ぎない。
【0006】
そこで、この発明の課題は、鋼片の連続圧延において、ツイスターやローラーガイドを使用せずに、圧延材の断面内温度分布等によって発生する、最終圧延機から出てくる鋼片の捻じれを解消して圧延後の鋼片の曲がりを抑制する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、この発明では以下の構成を採用したのである。
【0008】
即ち、請求項1に係る鋼片の圧延方法は、少なくとも最終圧延機と最終1台前圧延機が孔型圧延ロールを備え、前記最終圧延機と最終1台前圧延機との間にツイスターを設置しない鋼片の連続圧延方法であって、少なくとも前記最終圧延機で圧延された鋼片の捻じれを計測し、この計測値に基づいて、前記最終1台前の圧延機の孔型圧延ロールを、ロール軸方向に調整して前記捻じれを解消するようにしたことを特徴とする。
【0009】
本発明者は、棒鋼や線材などの孔型圧延を行う場合に、上下等の一対のロール孔型の非対称性が圧延材に曲がりを生じさせることに着目し、この現象を比較的断面寸法の大きい鋼片圧延に利用して鋼片の曲がりを矯正することに想到した。図1(a)は、素材(圧延材)Sが傾いたりせずに理想的な角度で圧延機のロール孔型Gに入ってきたときでも、上ロール8と下ロール9とがロール軸方向にずれている場合(図1(a)では、上ロール8が図示右側にずれている)、圧延材S1に捻じりモーメントが与えられて、時計回りの回転が生じることを示している。図1(b)は、素材S(圧延材S1)の断面内に温度分布が生じている場合(例えば、図1(b)では素材右下面SLから左上面SUにかけて温度が低くなっている)、この素材Sがロール孔型Gで圧延されると、孔型内での不均一変形が助長されて圧延材S1は反時計回りに回転しようとする。しかし、図1(a)に示したように、上ロール8が図示右方向にずれているため、圧延材S1に時計回りの回転が与えられ、両者が打ち消しあって圧延材S1は回転せずに済む。
【0010】
したがって、上記のようにすれば、最終圧延機のロールが水平圧延ロールであるか垂直圧延ロールであるかにかかわらず、最終圧延機の上下または左右の圧延ロールのロール違いをなくした状態で、すなわち鋼片の仕上げ断面形状を損なわずに、またツイスターとの接触による表面疵の発生を回避して、比較的断面寸法の大きい圧延材断面内の温度分布等に起因して発生する鋼片の捻じれを解消し、圧延後の鋼片の曲がりを抑制することが可能となる。また、最終1台前の圧延機のロール違いにより圧延材に与えられたねじりモーメントにより、この圧延機と最終圧延機との間で、圧延材が鋼片の捻じれ方向と逆方向に緩やかに捻じれるため、比較的断面寸法が大きい圧延材であっても、ツイスターガイドで圧延材長手方向の局部的な位置でねじりを与える場合に比べて引張り応力の作用による表面疵発生のおそれもなくなる。
【0011】
請求項2に係る鋼片の圧延方法は、前記計測値が鋼片の捻じれ角であり、この捻じれ角と前記最終1台前のロールの軸方向の調整量を予め対応づけておき、鋼片の圧延中に、計測した捻じれ角に基づいて、少なくとも前記最終1台前のロールを軸方向に調整することを特徴とする。
【0012】
このように、最終圧延機出側での鋼片の捻じれ角、すなわち捻じれ量と最終1パス前のロールの軸方向の調整量を予め対応付けておくことにより、圧延中に、鋼片の捻じれ角に対応した、最終1パス前のロール軸方向の調整量を求めて迅速にフィードバック制御を行なうことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
この発明では、鋼片の連続圧延工程で、最終圧延機で圧延された鋼片の捻じれの計測値に基づいて、少なくとも最終1台前の圧延機の孔型圧延ロールを、ロール軸方向に調整するようにしたので、鋼片の仕上げ断面形状を損なわずに、またツイスターとの接触や捻じりによる表面疵の発生を回避して、圧延材断面内の温度分布等に起因して発生する鋼片の捻じれを解消することが可能となる。また、最終圧延機出側での鋼片の捻じれ量(捻じれ角)と最終1パス前のロールの軸方向調整量を予め対応付けるようにしたので、圧延中に、鋼片の捻じれ角に対応した、前記ロール軸方向の調整量を求めてフィードバック制御を行ない、迅速に捻じれを解消することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、この発明の実施形態を、実施例を交えて、図2および図3に基づいて説明する。
【0015】
図2は、鋼片の連続圧延ライン1のレイアウトを示したものである。この連続圧延ライン1は、2ロール方式の水平圧延機1H、3H、5Hおよび垂直圧延機2V、4Vが、一例として、合計5台交互に直列(タンデム)配置され、最終圧延機5Hは水平圧延機、最終1台前の圧延機4Vは垂直圧延機となっている。最終圧延機5Hの下流側には、鋼片の捻じれ量を測定する手段として、例えば、光学的形状測定装置(特開2001−255125号公報参照)などの、捻じれ角(θ)測定装置6が設置されている。分塊圧延工程で、230〜240mm角程度に圧延された素材(ブルーム)B1は、加熱炉(図示省略)で、所要の圧延温度にまで加熱された後、前記圧延機1H、2V、3H、4V、5Hで、交互に、垂直方向および水平方向から圧下を受けて、断面寸法が150〜160mm角程度の鋼片B2に仕上げられる。そして、最終圧延機5Hから出てきた鋼片B2の捻じれ角(θ)が測定され、制御装置7を介して、最終1台前の圧延機4Vの作業側ロールが、予め求めて制御装置7に組み入れた、捻じれ角とロールの軸方向調整量とを対応付けた関係式またはテーブル値などの手段に基づいて、ロール軸方向に調整するフィードバック制御が行なわれる。このロール軸方向の調整は、例えば、一般に、2ロール方式圧延機のロール軸方向の調整機構として汎用されている、ターンバックルを用いたスラスト調整機構(図示省略)で、ターンバックルの調整ねじを、油圧または電動で伸縮させてチョックとロールを一緒に軸方向に移動させることにより、行なうことができる。以下に実施例について説明する。
【実施例】
【0016】
素材として、240mm角のブルームを所要の圧延温度(ブルーム1本内の最高温度:1100℃、最低温度:950℃、1本内温度差:150℃)に加熱した後、前記連続圧延ライン1で、240mm角→菱孔型(No.3圧延機3H:水平ロール)→菱孔型(No.4圧延機4H:垂直ロール)→角(155mm角)孔型(No.5圧延機5H:水平ロール)の孔型スケジュールで、155mm角の鋼片に圧延する過程で、最終圧延機(No.5圧延機5H)で圧延された鋼片(155mm角)の長手方向に等間隔の10箇所の位置での捻じれ量(捻じれ角θ)を、捻じれ角測定装置6で計測した。
【0017】
【表1】

【0018】
そして、表1に示すように、予め求めておいた、捻じれ角θと最終1台前の圧延機(No.4ロールスタンド)のロール軸方向の調整量taとを対応付けたテーブル値から、前記捻じれ角θに対応する調整量taを求めて、前記制御装置7により、No.4圧延機4Vの作業側ロール4aを軸方向に調整するフィードバック制御を行なった。
【0019】
図3は、上記ロール軸方向の調整後の、最終圧延機(No.5圧延機5H)で圧延された155mm角鋼片のTopからBottomにかけての捻じれ量(捻じれ角θa)を、ロール軸方向の調整無のときと比較して示したものである。ロール軸方向の調整無の場合には、鋼片のTopからBottomにかけて、捻じれ角度θaが大きくなり、最終圧延機(No.5圧延機5H)からでてきた鋼片の曲がりの許容範囲以下になる捻じれ角度を超えているが、上述のロール軸方向の調整を、表1のテーブル値に基づいて圧延材(鋼片)1本内でのフィードバック制御により行なうと、調整1本目の鋼片の中程からBottomにかけて捻じれ量(捻じれ角)が殆んどなくなり、調整後2本目からは、鋼片のTopからBottomにかけて、捻じれ量(ねじれ角)がなくなって、捻じれが解消していることがわかる。
【0020】
なお、前記のロール軸方向の調整は、必ずしも最終1台前の圧延機に限らず、例えば、前記素材Sの断面内の温度分布、すなわち前記連続圧延ライン1の入側での断面内温度分布が大きい場合には、最終1台前圧延機の上流側の圧延機間で圧延材S1の捻じれが大きくなって次の圧延機に正常に噛み込むことができず、折れ込みなどの表面疵の発生やミスロールの誘発の危険性があるため、必要に応じて、この上流側の圧延機のロールを併せて調整するようにすることも可能である。また、最終圧延機出側の圧延材S1の捻じれが極端に大きい場合には、最終1台前圧延機のロールの軸方向の調整のみでは、この大きな捻じれを吸収できないため、前記上流側の圧延機および/または最終圧延機のロールを併せて軸方向調整するようにすることも可能である。さらに、前記連続圧延ライン1の入側で、素材(ブルーム)の表面温度分布を計測し、予め対応付けておいた、表面温度分布−最初の圧延機(例えば、図2で圧延機1Hなど)のロール軸方向の調整量の関係に基づいて、前記最初の圧延機のロール軸方向の調整量をフィードフォワード制御することも可能である。このフィードフォワード制御と上記のフィードバック制御を組み合わせることにより、さらに精度のよい捻じれの制御が可能となる。
【0021】
本発明は、鋼片圧延のみならず、例えば、線材、棒鋼の粗列圧延機間での圧延材の捻じれの解消にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)ロール違いによって圧延材が回転する様子を模式的に示す説明図である。(b)圧延材断面内の温度分布に回転がロール違いによって相殺されることを模式的に示す説明図である。
【図2】連続鋼片圧延ラインの一例を示す説明図である。
【図3】ロール軸調整によって、鋼片の捻じれが解消する推移を示す説明図である。
【図4】(a)従来のH−H方式圧延での圧延材の90度捻じりを示す説明図である。(b)H−V方式圧延により、圧延材の90度捻りが不要となることを示す説明図である。
【図5】素材(圧延材)の温度分布により、圧延材に捻じりが発生する様子を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1:鋼片連続圧延ライン 1H、3H、5H:水平圧延機
2V、4V:垂直圧延機 1a〜5a:孔型ロール
6:捻じれ角測定装置 7:制御装置 8:上ロール 9:下ロール
G、G1、G2:孔型 P:圧下方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも最終圧延機と最終1台前圧延機が孔型圧延ロールを備え、前記最終圧延機と最終1台前圧延機との間にツイスターを設置しない鋼片の連続圧延方法であって、前記最終圧延機で圧延された鋼片の捻じれを計測し、この計測値に基づいて、少なくとも前記最終1台前の圧延機の孔型圧延ロールを、ロール軸方向に調整して前記捻じれを解消するようにしたことを特徴とする鋼片の圧延方法。
【請求項2】
前記計測値が鋼片の捻じれ角であり、この捻じれ角と前記最終1台前のロールの軸方向の調整量を予め対応づけておき、鋼片の圧延中に、計測した捻じれ角に基づいて、少なくとも前記最終1台前のロールを軸方向に調整することを特徴とする請求項1に記載の鋼片の圧延方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−290006(P2007−290006A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120898(P2006−120898)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】