説明

鋼管とアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接方法

【目的】直径50mm以上、肉厚5mm未満の鋼管と2%未満のMgを含有するアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接において、優れた継手強度を得ることができる鋼管とアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接方法を提供する。
【構成】鋼管とアルミニウム合金中空部材の端面同士を突き合わせ、摩擦圧力(P1)で相対的回転摩擦を行う摩擦工程と、摩擦工程終了後回転ブレーキをかけながらP1以上のアプセット圧力(P2)を負荷するアプセット工程からなり、摩擦工程終了後に回転ブレーキをかけるとともに圧力がP1からP2に切り換わる際、P2到達時間tを1.2≦1/(t/t)≦2(t:回転ブレーキをかけてから停止までの時間)の範囲とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管とアルミニウム合金中空部材、とくに直径50mm以上、肉厚5mm未満の鋼管と2%未満のMgを含有するアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のプロペラシャフト、アクスルハウジング、トーションバーなどにおいて、鋼製中空部材で構成されていた部材を部分的にアルミニウム合金中空部材に置換した構造を実現するためには、両者を接合する必要があるが、鋼とアルミニウム合金をMIG溶接、TIG溶接あるいは電子ビーム溶接などの溶融溶接で接合しようとすると、鉄とアルミニウムが脆い金属間化合物を形成するため接合が不可能となる。
【0003】
一方、摩擦圧接は接合時に液相を形成しないため、鋼とアルミニウム合金を接合できる数少ない方法であるが、実際には、鋼とアルミニウム合金の摩擦圧接は容易でなく、アルミニウム合金母材強度に近い継手強度を得られていないのが現状であり、接合強度改善のために多くの提案が行われているが(例えば特許文献1参照)、自動車部材の接合に適用するためには、接合強度をさらに向上させることが望まれている。
【特許文献1】特願2004−08664
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、直径50mm以上、肉厚5mm未満の鋼管と、Al−Cu系(2000系)、Al−Mn系(3000系)、Al−Si−Mg系(6000系)など2%未満のMgを含有するアルミニウム合金の中空部材とを摩擦圧接する方法についての研究過程において、摩擦圧力(P1)、摩擦時間(T1)、アプセット圧力(P2)とともに、P1からP2に切り替わる過程における条件が接合強度に影響することを見出した。
【0005】
本発明は、上記の知見に基づいて試験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、直径50mm以上、肉厚5mm未満の鋼管と2%未満のMgを含有するアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接において、優れた継手強度が得られ、自動車部材の接合にも好適に適用し得る鋼管とアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1による鋼管とアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接方法は、直径50mm以上、肉厚5mm未満の炭素鋼管または合金鋼管と2%未満のMgを含有するアルミニウム合金中空部材を摩擦圧接する方法であって、鋼管とアルミニウム合金中空部材の端面同士を突き合わせ、摩擦圧力(P1)で相対的回転摩擦を行う摩擦工程と、摩擦工程終了後回転ブレーキをかけながらP1以上のアプセット圧力(P2)を負荷するアプセット工程とを含み、摩擦工程終了後に回転ブレーキをかけるとともに圧力がP1からP2に切り換わる際、P2到達時間tを1.2≦1/(t/t)≦2(t:回転ブレーキをかけてから停止までの時間)の範囲とすることを特徴とする。
【0007】
請求項2による鋼管とアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接方法は、直径50mm以上、肉厚5mm未満の炭素鋼管または合金鋼管と2%未満のMgを含有するアルミニウム合金中空部材をを摩擦圧接する方法であって、鋼管とアルミニウム合金中空部材の端面同士を突き合わせ、摩擦圧力(P1)を10〜80MPa、摩擦時間(T2)を0.02〜0.2sとして相対的回転摩擦を行う摩擦工程と、摩擦工程終了後回転ブレーキをかけながら80〜160MPaのアプセット圧力(P2)を負荷するアプセット工程とを含み、前記相対回転摩擦における一方の周速を1.5〜3.5m/sの範囲とし、摩擦工程終了後に回転ブレーキをかけるとともに圧力がP1からP2に切り換わる際、P2到達時間tを1.2≦1/(t/t)≦2(t:回転ブレーキをかけてから停止までの時間)の範囲とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、直径50mm以上、肉厚5mm未満の鋼管と2%未満のMgを含有するアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接において、優れた継手強度が得られ、自動車部材の接合にも好適に適用し得る鋼管とアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、直径50mm以上、肉厚5mm未満の鋼管と、Al−Cu系(2000系)、Al−Mn系(3000系)、Al−Si−Mg系(6000系)など2%未満のMgを含有するアルミニウム合金の中空部材との摩擦圧接方法である。通常、鋼とアルミニウム合金を密着した状態で高温に曝すと界面に脆弱なFe−Al金属間化合物が生成し、ごく短時間高温にさらされる摩擦圧接においても金属間化合物が発生し易くなるが、Mg含有量が2%未満のアルミニウム合金においては、接合性に有害なFe−Al金属間化合物の発生および成長が抑制されることが認められた。
【0010】
本発明においては、アプセット工程で金属間化合物を排出する必要がなく、アプセット圧力P2を大きく取るにもかかわらずアプセット過程で生じるバリの量を小さくするとともにバリの流れを管の内径側と外径側で均一にすることができ、高い引張強さをそなえた継手を得ることができる。
【0011】
(摩擦圧力P1)
摩擦工程においては、接合する突き合わせた材料の端面部を加熱することが目的であり、摩擦時間T1で入熱量が制御されるため、P1の大きさは強く制限されることはなく広範囲な値を取ることができる。実用上は、10MPa≦P1≦80MPaの範囲が好ましい。10MPa未満では金属結合に必要な加熱を得るために時間を要すため、界面のアルミニウム合金が酸化し易くなり、また加熱域が界面から離れた距離まで広がり易くなって接合強度低下の原因となる。80MPaを越えると、P1≦P2の条件があるためP2の利用域を制限してしまい実用的でなくなる。但し、P1が大きくなると界面が高温になり易くなるため、20MPa≦P1≦60MPaの範囲がさらに好ましい。
【0012】
(摩擦時間T1)
突き合わせた材料の端面(接合面)を、P1の圧力でT1の時間だけ回転摩擦することにより接合する端面を加熱する。端面部のみを局所的に加熱することが望ましく、T1は必要最小限がよい。そのためにT1は0.02〜0.2sの範囲で行う。接合面を加熱する制御方法として、設定した摩擦寄り代U1が発生するまでP1の圧力で回転摩擦を続けるU1制御方法(特許文献1)と、上記のT1を特定範囲とするT1制御方法があるが、必要最小限の微量な入熱を制御するにはT1制御方法が好ましい。この理由は、T1が0.02〜0.2sに相当する入熱をU1制御方法で制御しようとするとU1が0.5mm程度以下になってU1の検出精度が悪くなるためである。
【0013】
T1が0.02s未満では接合に必要な加熱が得難い。T1が0.2sを越えると、加熱が過剰となり界面近傍の軟化が顕著になるとともに軟化域が広がる、界面の酸化層の生成を引起す、その間に発生するバリが直後のアプセット時に発生するバリのメタルフローの不均一さを誘導する、などの悪影響が現れてくる。
【0014】
(アプセット圧力P2)
アプセット圧力P2は、鋼管とアルミニウム合金中空部材との間の結合の強さに強く影響する因子である。鋼とアルミニウム合金の界面の金属結合を強くするためにはP2は高いほうが望ましい。但し、P2が過剰になると全寄り代も大きくなってアルミニウム合金管など中空部材の径内外に生じるバリの流れの不均一さが増加し、界面に半径方向のせん断力が残留して接合強度が低下する。更にはアルミニウム合金中空部材の界面近傍が変形し真円度も乱れてくる。P2の上限はバリの流れの不均一さが顕著に現れない大きさで材料の変形抵抗に関係するが、P2の負荷の仕方によって接合強度を高めることができる。
【0015】
摩擦工程後、アプセット工程に移行し回転ブレーキをかけるが、直ちにP2への負荷を開始せずに微小時間だけP1を維持したのちP2を負荷する方式(P2遅れ)や、直ちにP2への負荷を開始するがP2に達するまでの速度をゆっくりさせる方式(P2スロープ)などがある(図1参照)。Mg量が2%以下のアルミニウム合金に対しては、後者のP2スロープを適用した場合P2の上限がより高まり接合力の増加に効果がある。P2スロープを設定した条件下において、高い接合力の得られるP2は、80〜160MPaである。80MPaより低いと接合強度が不十分となり易く、160MPaより高いと寄り代の増加に伴ってバリの流れの不均一さが増加し易く強度が低下する。
【0016】
(P2スロープ)
上記のとおり、P2スロープはP2に達するまでの速度をゆっくりさせるために設定する。P2スロープを設定することでアプセット過程中の寄り代を減少させることができる。また、寄り代を定めたときP2を高めることができる。P2スロープは1/(t/t)で定義される。これは圧力の傾きの大きさを意味する(図2参照)ものであり、tはP1がP2に達する時間、tは回転が停止するのに要する時間で装置能力によるが通常0.4〜0.6s程度である。P2スロープを設定しなければ、装置の油圧系が許す最大速度、およそP2スロープが3程度で昇圧する。
【0017】
P2スロープ値の下限は、回転が停止する少し前にP2に到達する傾きで、1/(t/t)=1.2である。このときP2がかかった状態で少量回転し停止する。傾きが1.2より小さくなるとP2がかかった状態での回転量が小さくなって接合力が低下し、1より小さくなればP2に到達する前に回転が停止するので著しく強度が低下する。1.2より大きくなるとP2がかかった状態での回転量が増加し接合力も増加するが、1.5〜1.7程度で極大値となった以後は全寄り代が過剰になって接合力は減少し始める。1/(t/t)が2を越えるとP2スロープ設定の効果がなくなる。
【0018】
(回転速度)
回転の周速は摩擦過程における発熱速度と寄り代の大きさに大きく影響する。相対回転摩擦における一方の周速を1.5〜3.5m/sの範囲とすることにより接合力がより高められる。周速が1.5m/s未満では金属結合に必要な加熱を得ることができ難く、周速が3.5m/sを越えるとアプセット過程のときに寄り代が大きくなって不均一な変形が起こり易くなる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
実施例1
鋼管STKM13A(外径60mm、厚さ3.1mm、長さ150mm)とアルミニウム合金管6061−T6(外径60mm、厚さ3.1mm、長さ150mm)の組合せでブレーキ式回転摩擦圧接機を使用して両材の端面を摩擦圧接した。圧接条件を表1に示す。回転する鋼管にアルミニウム管を摩擦圧力P1でT1時間摩擦させた後、回転ブレーキをかけ同時にP1からアプセット圧力P2へ切り替えた。ここでP1からP2に変化するときの圧力変化勾配、すなわちP2スロープを種々変更した。回転ブレーキをかけてから回転が完全に停止するまでの時間tは0.5秒であった。圧力の実際はP1からP2に直線的に変化するのでなく、設定したP2をオーバーした後に振動波形を描いてP2に落ち着くので、P2スロープの定義は、最初のピーク圧力が発生するまでの傾きとした(図3参照)。
【0021】
接合後、管を縦に切断して短冊形の試験片を切り出し、接合材の引張試験を実施した。引張試験結果を表1に示す。表1に示すように、試験材No.1〜8はP2スロープのみを変更しているが、P2スロープ値が1.5の試験材No.5で引張強さが極大になり、P2スロープ値が1.5より大きくても小さくても引張強さは低下している。
【0022】
P2スロープ値が本発明の条件を外れたものには下線を付した。P2スロープ値が本発明の条件を外れた試験材No.1〜3、7〜8は引張強さが劣っている。No.9〜11は回転数(回転速度)を変更しているが、P2スロープが本発明の条件内であっても回転数が本発明の条件を外れた場合には引張強さが劣る(No.11)。
【0023】
【表1】

【0024】
鋼管STKM13A(外径60mm、厚さ3.1mm、長さ150mm)と合金種の異なる表2のアルミニウム合金管(外径60mm、厚さ3.1mm、長さ150mm)を、実施例1と同じブレーキ式回転摩擦圧接機を使用して摩擦圧接した。圧接条件は、P1:40MPa、T1:0.04s、回転数:1000rpm、P2スロープ:1.3、P2:表2の試験材No.1〜4、7では120MPa、No.5〜6では80MPaとした。No.5、6のP2を小さくしたのは、材料の強度が小さいため他の材料と同じP2(120MPa)では過剰であるためである。P2スロープの定義は実施例1と同じである。
【0025】
接合後、管を縦に切断して短冊形の試験片を切り出し、接合材の引張試験を実施した。引張試験結果を表2に示す。表2に示すように、本発明に従う試験材No.1〜4は接合材の引張強さが高い。また、No.5の接合材の引張強さは176MPaであるが、母材の引張強さとの比、すなわち継手効率は85%と高くなっている。これに対して、試験材No.6、7はMgを2%以上含有する合金であるため(No.6:2.8%、No.7:2.5%)、接合材の引張強さ、継手効率ともきわめて劣っている。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例3
鋼管STKM13A(外径50mm、厚さ2.4mm)を回転側とし、これと端面が鋼管と同形状の中空部位を有する6082合金鍛造材を摩擦圧接した(断面:図4)。条件は、P1:25MPa、P2:110MPa、T1:0.05s、N:900rpm、ブレーキタイミングP2L:0s、P2スロープ値1/(t/t):1.5 (t0: 0.55s)、T2:10sとした。圧接後,ねじり試験を実施したところ、5000N・mのトルク負荷でも接合部は破断しなかった。また、試験片を切り出して引張試験したところ引張強さは283MPaと高い値であった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】摩擦圧接におけるP2スロープとP2遅れとを説明するための図である。
【図2】摩擦圧接におけるP2スロープの定義を説明するための図である。
【図3】実施例1におけるP2スロープの定義を説明するための図である。
【図4】実施例3の摩擦圧接後の縦断面を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径50mm以上、肉厚5mm未満の炭素鋼管または合金鋼管と2%(質量%、以下同じ)未満のMgを含有するアルミニウム合金中空部材を摩擦圧接する方法であって、鋼管とアルミニウム合金中空部材の端面同士を突き合わせ、摩擦圧力(P1)で相対的回転摩擦を行う摩擦工程と、摩擦工程終了後回転ブレーキをかけながらP1以上のアプセット圧力(P2)を負荷するアプセット工程とを含み、摩擦工程終了後に回転ブレーキをかけるとともに圧力がP1からP2に切り換わる際、P2到達時間tを1.2≦1/(t/t)≦2(t:回転ブレーキをかけてから停止までの時間)の範囲とすることを特徴とする鋼管とアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接方法。
【請求項2】
直径50mm以上、肉厚5mm未満の炭素鋼管または合金鋼管と2%未満のMgを含有するアルミニウム合金中空部材をを摩擦圧接する方法であって、鋼管とアルミニウム合金中空部材の端面同士を突き合わせ、摩擦圧力(P1)を10〜80MPa、摩擦時間(T2)を0.02〜0.2sとして相対的回転摩擦を行う摩擦工程と、摩擦工程終了後回転ブレーキをかけながら80〜160MPaのアプセット圧力(P2)を負荷するアプセット工程とを含み、前記相対回転摩擦における一方の周速を1.5〜3.5m/sの範囲とし、摩擦工程終了後に回転ブレーキをかけるとともに圧力がP1からP2に切り換わる際、P2到達時間tを1.2≦1/(t/t)≦2(t:回転ブレーキをかけてから停止までの時間)の範囲とすることを特徴とする鋼管とアルミニウム合金中空部材の摩擦圧接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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