鋼製壁
【課題】鋼管矢板壁並みの高い剛性と鋼矢板壁並みの高い止水性を兼ね備える鋼製壁を、既存の施工機械から大型化せずに油圧圧入工法または回転圧入工法によって構築する。
【解決手段】先に構築された鋼矢板1から反力を取って鋼管2を油圧圧入または回転圧入することで、鋼矢板1に鋼管2がその長手方向を鋼矢板1の長手方向に沿わせて接するように設けられた鋼壁体3を構築する。このとき、鋼矢板1と鋼管2はその頭部で連結させてもよい。また、同じく鋼矢板1から反力を取って鋼管2を油圧圧入または回転圧入して、間隔をあけて鋼矢板1と鋼管2を並設し、その頭部で連結させて鋼製壁3を構築してもよい。
【解決手段】先に構築された鋼矢板1から反力を取って鋼管2を油圧圧入または回転圧入することで、鋼矢板1に鋼管2がその長手方向を鋼矢板1の長手方向に沿わせて接するように設けられた鋼壁体3を構築する。このとき、鋼矢板1と鋼管2はその頭部で連結させてもよい。また、同じく鋼矢板1から反力を取って鋼管2を油圧圧入または回転圧入して、間隔をあけて鋼矢板1と鋼管2を並設し、その頭部で連結させて鋼製壁3を構築してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留め工、締切工、護岸、埋立、堤防等で用いられる鋼製壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼矢板や鋼管矢板は、土留め工、締切工、護岸、埋立、堤防等の様々な工事で用いられている。鋼矢板と鋼管矢板は求められる剛性によって使い分けられる。一般に鋼矢板は剛性が低くてもよい場面、鋼管矢板は剛性の高いものが要求される場面で使用される。
【0003】
ここで、鋼管矢板は鋼矢板に比べて継手の余裕量が大きい。したがって、締切工や護岸などを構築する際に止水性が要求される場合には、一般に継手空間に袋詰めセメントモルタルを充填する方法が採用されている。この方法では、河川・港湾等の水辺環境で用いる場合にモルタルを詰める袋が破損するとモルタルが流出してしまう可能性がある。また、袋どうしの隙間が水みちになりうるので、厳しい止水性を求められる用途には必ずしも適さない。
【0004】
そこで、海面廃棄物処分場などの遮水性護岸等のように、処分場内部の水の漏洩防止が厳しく要求される場合の方策として、鋼管矢板の継手空間に漏れ防止対策を施され、この継手空間にモルタル等の充填剤が直接充填された構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようにモルタルを充填する場合は、鋼管矢板を地中に打ち込んだ後、継手内部の土砂をウォータージェット等で排土して、袋詰めモルタルやモルタルを継手内に充填するという作業を行う必要があり、現場作業に手間と時間とを要するという欠点を有している。
【0005】
これに対し、鋼矢板は、鋼管矢板に比べて剛性は低くなるものの、止水性に優れ、継手分の余裕量が小さく、何も対策を行わない状態であっても鋼管矢板と比べて止水性が高い。また、予め継手に膨潤性止水材を塗装しておくことにより、鋼矢板の止水性をさらに高めることもできる。この方法により、上記対策を行った鋼管矢板と同等以上の止水性能を発揮することが可能である上、現場作業の手間の省略が可能になる。
【0006】
鋼管矢板や鋼矢板は鋼製壁としてそれぞれ単独で用いる場合だけでなく、単独での欠点を補うため、工夫を施して使用される場合もある。例えば、鋼矢板の剛性を高める技術として、壁体を構成するU形(ハット形)鋼矢板にH形鋼を一体化して補剛された組合せ鋼矢板を用いる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような構造の組合せ鋼矢板は、通常バイブロハンマ工法で施工され、一部が油圧圧入工法で打設される。しかし、都市部などの振動・騒音の規制が厳しい条件ではバイブロハンマ工法を使用できるケースは限定される。特に、このような形状の組合せ鋼矢板は断面積が大きくなり、打設時の抵抗が大きくなるため、油圧圧入工法で打設しようとしても硬質地盤では施工が難しくなると考えられる。
【0007】
そこで、硬質地盤での打設のために、地盤を掘削するアースオーガ(掘削装置)を用いた工法を適用することが考えられている(例えば、特許文献3参照)。このように、新しい形態の鋼製壁を施工するには新たな施工方法の開発も必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3756755号公報
【特許文献2】特開2002−212943号公報
【特許文献3】特許第4074241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、鋼製壁としての剛性は、鋼矢板壁より鋼管矢板壁の方が高い。一方、継手における止水性能は、鋼管矢板壁より鋼矢板壁の方が容易に高められる。
そこで、止水性能を高くし易い鋼矢板壁に鋼管を組み合わせることにより、剛性と高い止水性能とを兼ね備えた鋼製壁を構築できる。ここで、鋼管を1枚の鋼矢板毎、具体的には1のハット形またはU形鋼矢板毎に用いれば、極めて高い剛性を有する鋼製壁を構築することができる。しかし、使用環境によってはそれほど高い剛性を必要としない場合もある。このような場合には、例えば、鋼管を2枚以上の鋼矢板毎に用いて鋼製壁を構築すればよい。
通常、鋼管を油圧圧入工法や回転圧入工法などの振動騒音の小さい工法で施工する場合、先に圧入した鋼管から反力をとって、次の鋼管を圧入していくため、鋼管の設置ピッチを大きくしようとすると施工機械も大型化する必要があるという課題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、鋼管矢板壁並みの高い剛性と鋼矢板壁並みの高い止水性を兼ね備える鋼製壁を、既存の施工機械から大型化せずに油圧圧入工法または回転圧入工法によって構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の鋼製壁は、複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、壁体の全てまたは一部の鋼矢板に鋼管がその長手方向を鋼矢板の長手方向に沿わせて接するように設けられ、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載の発明においては、鋼製壁が複数の鋼矢板を継手により連結した壁体(鋼矢板壁)と、この壁体の鋼矢板の長手方向に、長手方向を沿わせて接する鋼管からなる。
よって、鋼矢板の継手を連結した鋼矢板壁により鋼管矢板壁より高い止水性能をもつ鋼製壁を得ることが可能になる。さらに、高い剛性を有する鋼管が壁体に接することにより鋼管矢板壁と同等以上の高い剛性(断面性能)を持つ鋼製壁を得ることができる。
なお、鋼製壁の適用にあたっては、壁体の前面側に鋼管を配置する(鋼管が掘削側となる)場合には、鋼矢板が受けた土圧や水圧を長手方向にわたって連続的に鋼管へ伝達することができる。それに対して、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合には、条件によっては鋼矢板と鋼管が別々に挙動してしまう虞がある。したがって、鋼矢板と鋼管を連結しない場合には、土圧または水圧を受ける側と反対側に鋼管を設けるのが好ましい。
【0013】
鋼製壁の施工に際しては、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入する。鋼矢板を先行打設して鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁を構成する鋼矢板のうちの複数本の鋼矢板から反力を取って鋼管を鋼矢板に沿って圧入することで、鋼矢板壁に沿って任意の位置に鋼管が配置された鋼管列を設けることが可能となる。なお、先行打設する鋼矢板は油圧圧入で施工してもよいし、バイブロハンマ工法で施工してもよい。
【0014】
鋼矢板壁に沿って任意の位置に鋼管列を設ければ、止水性能に優れた鋼矢板壁を鋼管列で補強した構造と見ることができる。すなわち、鋼矢板と鋼管とを組み合わせた壁体になり、鋼矢板壁により高い止水性能を確保しつつ、鋼管列により高い断面性能を確保できる。この際に鋼管列における鋼管の位置により鋼矢板壁と鋼管列からなる壁体の断面性能を任意に設定することができる。すなわち、鋼管の位置を任意に設定できることから、適切な断面性能を有する壁体を構築することができるとともに、それにともなって適切なコストで壁体を構築することができる。
また、既設の鋼矢板壁からなる擁壁や護岸に対して、鋼矢板から反力を得て新たに鋼管を圧入する事により、例えば、河積(川の横断面の水の占める面積、または、計画高水位以下の河川流水断面積)増大のための掘削時の補強や、耐震性向上のための補強を行うこともできる。
【0015】
請求項2に記載の鋼製壁は、複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、壁体の全てまたは一部の鋼矢板に鋼管がその長手方向を鋼矢板の長手方向に沿って、壁体と間隔をあけて並べて設けられ、壁体と鋼管とが、両者の頭部で連結されており、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明においては、壁体と鋼管が一定の間隔をあけて並べて設けられているため、鋼管と鋼矢板が長手方向にわたって連続的にお互いに力を伝達することはない。
しかし、壁体と鋼管との間に間隔を設ければ、振動、騒音や変形を防止できる可能性が高まる。すなわち、間隔が狭いと、例えば、鋼管を打設する際に、施工中に鋼管の打設方向にずれが生じた場合に壁体に鋼管が接触してしまい、これが振動、騒音や変形の発生の要因になる可能性があるが、これらの発生を抑制することができる。
一方で、壁体と鋼管とが、その頭部で連結されている。頭部を連結し、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達が可能な構造とすれば、土圧や水圧の作用する向きに関わらず、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧などを分担して受け持つ構造となり、合理的でより安定的な壁体とすることができる。特に、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合でも、鋼管と鋼矢板の力の伝達を確保し、両者が別々に挙動することを防止して、安定的な壁体を構築することができる。
なお、鋼管と鋼矢板の間に間隔を設ける場合、その間隔が100mm〜200mm程度であれば、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みがそれほど増加することもなく、鋼管と鋼矢板を組合せた壁体としての安定性を損なうこともない。
【0017】
ここで、壁体頭部と鋼管頭部との連結手法は特に問わない。例えば、コーピング、溶接、ボルト、ドリルねじ等が挙げられ、必要に応じて複数の連結方法を併用することもできる。例えば、鋼管と壁体を跨るようにコンクリートが打設されるようにすれば、鋼管と壁体との間の天端が陥没する等の危険性が少ない上、美観にも優れる。
鋼製壁の施工に際しては、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入する。先に構築された鋼矢板壁からの反力を取って任意の位置に鋼管を圧入し鋼管列を設けることができる点は請求項1と同じである。
【0018】
請求項3に記載の鋼製壁は、複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、壁体の全てまたは一部の鋼矢板に鋼管がその長手方向を鋼矢板の長手方向に沿わせて接するように設けられ、壁体と鋼管とが、両者の頭部で連結されており、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の発明においては、鋼製壁が複数の鋼矢板を継手により連結した壁体(鋼矢板壁)と、この壁体の鋼矢板の長手方向に、長手方向を沿わせて接する鋼管からなり、さらに、壁体と鋼管とが、その頭部で連結されている。
よって、上述の請求項1および請求項2に記載の発明の効果を得ることができる。すなわち、壁体の前面側に鋼管を配置する(鋼管が掘削側となる)場合には、鋼矢板が受けた土圧や水圧を長手方向にわたって連続的に鋼管へ伝達することができる。さらに、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合にも、頭部を連結し、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達が可能な構造とすれば、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧または水圧を分担して受け持つ構造となる。すなわち、土圧などの作用する向きに関わらず、合理的な壁体を構築することができる。
また、鋼管と鋼矢板が接して沿うことで、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みが最小限に抑えられる。ここで、壁体頭部と鋼管頭部との連結手法は特に問わない。例えば、コーピング、溶接、ボルト、ドリルねじ等が挙げられ、必要に応じて複数の連結方法を併用することもできる。例えば、鋼管と壁体を跨るようにコンクリートが打設されるようにすれば、鋼管と壁体との間の天端が陥没する等の危険性が少ない上、美観にも優れる。
【0020】
請求項4に記載の鋼製壁は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、複数設けられた前記鋼管の外径が同一であり、鋼管の板厚および鋼管どうしの間隔を変化させることによって、壁体内で剛性を変化させたことを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の発明においては、鋼管の外径を同一にすることにより、鋼矢板と鋼管を組合せた壁体の厚さを一定に保つことができる。また、鋼管を打設する際、施工機械における鋼管の把持装置のサイズ変更が不要となり、施工効率を上げることができる。
さらに、板厚、鋼管どうしの間隔を変化させることによって、壁体の剛性を場所によって任意に設定することができる。この場合、例えば、壁体の一部が低い鋼製壁を構築するとき、当該部分で剛性を小さくすることで、過剰な剛性になるのを防止することに加え、剛性から要求される根入れ長も小さくすることができ、それによりコストの低減を図ることもできる。
鋼管どうしの間隔の組合せを変化させる場合、例えば、3つの連続する鋼矢板に対して1つの鋼管の割合で鋼管を配置したり、2つの鋼矢板に対して1つの鋼管の割合で鋼管を配置したりすることでの剛性を変化させたりすることができる。
【0022】
請求項5に記載の鋼製壁は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、鋼矢板と鋼管とは、それぞれの長手方向の長さが互いに異なることを特徴とする。
鋼矢板に沿って鋼管が並べて設けられている壁体の鋼矢板の根入れ長は、壁体として鋼矢板のみを用いるときよりも小さく設定することもできる。通常、鋼矢板や鋼管矢板では、壁に作用する土圧や水圧に対して水平方向の抵抗を確保するために、その剛性に応じた根入れ長が設定されるが、鋼管が設けられた前記壁体では水平方向の抵抗を鋼管によって確保することが可能になるので、鋼矢板は止水や土留めのために必要な最低限の長さに留めることも可能になる。その場合、鋼矢板は前面側と背面側に作用する土圧が釣り合う点から1〜2m程度根入れしておけば十分な場合が多い。また、地下水の止水やボイリング防止のように、剛性は必要なく、壁の前面と背面の縁切りための根入れ長が必要な場合には、逆に鋼管より鋼矢板の方を深くしてもよい。
【0023】
請求項6に記載の鋼製壁は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、壁体は、山と谷とを繰り返す略波状に形成され、前記鋼管は、前記壁体の谷部分に入り込んで設けられたことを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の発明においては、壁体の谷部分に鋼管が入り込んでいるので、壁体の長さ方向に直交する方向に沿った鋼製壁の幅を狭くすることができる。よって、省スペースであり、スペース効率に優れる。
なお、山と谷とを繰り返す略波状に形成される壁体はハット形鋼矢板、U形鋼矢板、Z形鋼矢板などを使用することで形成すればよい。ただし、ハット形鋼矢板は、U形鋼矢板やZ形鋼矢板に比べて施工性に優れ、工費縮減、工期短縮を図ることができる。また、ハット形鋼矢板は継手部分で長手方向のズレが発生せず断面性能が効率的かつ明確で、鋼矢板で構築した壁体の凹凸数に対する継手の箇所数もU形鋼矢板やZ形鋼矢板などの各種鋼矢板の中で最小となるため、鋼管と鋼矢板を組み合せた壁体をより安定的な構造とし、施工の管理や精度の確保を容易にする効果が期待できる。このため、鋼矢板壁を構築するためにはハット形鋼矢板を用いることが好ましい。
【0025】
請求項7に記載の鋼製壁は、請求項6に記載の発明において、鋼管が設置された谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して鋼矢板から反力を取り、鋼管を油圧圧入または回転圧入して形成することを特徴とする。
【0026】
請求項7に記載の発明においては、鋼管が設置された谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して反力を取ると、杭圧入装置の大きさを小さくすることができる。また、鋼管は把持した部分に近い側に圧入する方が安定して施工する上でも好ましい。谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して反力を取りさえすればよいが、この場合反力が不十分になる場合もあるので、当該山部分の壁体と隣接する山部分で、設置される鋼管とは逆側の山部分の1または2の壁体も合わせて把持して反力を取ること、すなわち連続する山部分の2または3の壁体を把持して反力を取ることが好ましい。
【0027】
請求項8に記載の鋼製壁は、請求項6または請求項7に記載の発明において、壁体の一側面に連続的に並んで形成されている複数の谷部分に離散的に設けられていることを特徴とする。
【0028】
請求項8に記載の発明においては、鋼製壁にかかる圧力が比較的小さい場合や、使用される鋼矢板や鋼管の剛性が高い(例えば、鋼管径が大きい)場合には、例えば、鋼管を一つおきや二つおきの谷部分に配置することにより、離散的に鋼管を設けることで、すべての谷部分に鋼管が設けられる場合に比べ、鋼管の使用量を減らすことにより、コストの低減を図ることができる。
【0029】
請求項9に記載の鋼製壁は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、壁体は、山と谷とを繰り返す略波状に形成され、鋼管は、壁体の山部分に設けられたことを特徴とする。
【0030】
請求項9に記載の発明においては、請求項8に記載の発明の場合よりも、設置スペースが必要になる。しかし、鋼管径が谷部分のサイズに規制されることがなく、より大きな鋼管径の鋼管を用いることが可能になるので、高い剛性が要求される場合に有利になる。
なお、この場合も、山と谷とを繰り返す略波状に形成される壁体はハット形鋼矢板、U形鋼矢板、Z形鋼矢板などを使用することで形成すればよいが、上述の通りハット形鋼矢板を使用することが好ましい。
【0031】
請求項10に記載の鋼製壁は、請求項9に記載の発明において、鋼管が設置された山部分に隣接する谷部分の壁体を把持して鋼矢板から反力を取り、鋼管を油圧圧入または回転圧入することを特徴とする。
【0032】
請求項10に記載の発明においては、鋼管が設置された山部分に隣接する谷部分の壁体を把持して反力を取ると、杭圧入装置の大きさを小さくすることができる。また、鋼管は把持した部分に近い側に圧入する方が安定して施工する上でも好ましい。山部分に隣接する谷部分の壁体を把持して反力を取りさえすればよいが、この場合反力が不十分になる場合もあるので、当該谷部分の壁体と隣接する谷部分で、設置される鋼管とは逆側の谷部分の1または2の壁体も合わせて把持して反力を取ること、すなわち連続する谷部分の2または3の壁体を把持して反力を取ることが好ましい。
【0033】
請求項11に記載の鋼製壁は、請求項9または請求項10に記載の発明において、壁体の一側面に連続的に並んで形成されている複数の山部分に離散的に設けられていることを特徴とする。
【0034】
請求項11に記載の発明においては、鋼製壁にかかる圧力が比較的小さい場合や、使用される鋼矢板や鋼管の剛性が高い(例えば、鋼管径が大きい)場合には、例えば、鋼管を一つおきや二つおきの山部分に配置することにより、離散的に鋼管を設けることで、すべての山部分に鋼管が設けられる場合に比べ、鋼管の使用量を減らすことにより、コストの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、従来の鋼矢板壁と同様の高い止水性能を得られるとともに、鋼管矢板壁と同等以上の剛性を得ることができ、かつ、鋼管の箇所を任意に設定可能なことから、所望する断面性能を有する壁体を得られるとともに、所望する断面性能に見合ったコストで壁体を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る鋼製壁を示す要部の概略斜視図である。
【図3】(a),(b),(c)は、鋼管の施工方法を説明するための図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る鋼製壁の頭部連結部を示す概略平面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る鋼製壁の側面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る鋼製壁の頭部連結部を示す概略平面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る鋼製壁の側面図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である。
【図11】本発明の第5の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である。
【図12】本発明の第6の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1および図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る鋼製壁3は、鋼矢板としてのハット形鋼矢板1と鋼管2とを組み合わせて構成されており、ハット形鋼矢板1の長手方向に、長手方向を沿わせて鋼管2が接している。ここでは、ハット形鋼矢板1および鋼管2がそれらの長手方向が互い平行にされているとともに、それらの長手方向が鉛直方向になっている。
【0038】
ハット形鋼矢板1は、ウェブ1aと、ウェブ1aの両側縁からそれぞれ互いに広がるように斜めに延出する一対のフランジ1bと、左右のフランジ1bの先端からウェブ1aと平行に左右に延出する一対のアーム1cと、アーム1cの先端に設けられた継手1dとを備えている。鋼管2は、その外周面がハット形鋼矢板1の谷側の側面に接している。例えば、鋼管2はハット形鋼矢板1のウェブ1aの谷側に接した状態になっている。この鋼管2は、その一部がハット形鋼矢板1で構成される壁体の一方の側面の谷部分に入り込んだ状態になっている。
【0039】
複数のハット形鋼矢板1は、その継手1dどうしを連結して一列に並べられて鋼矢板壁を構築した状態になっている。また、ハット形鋼矢板1および鋼管2は地盤に打設されている。
【0040】
この鋼製壁3では、ハット形鋼矢板1と鋼管2とが長手方向を沿わせて接するように配置されていることによって、壁体の前面側に鋼管を配置する(鋼管が掘削側となる)場合には、鋼矢板が受けた土圧や水圧を長手方向にわたって連続的に鋼管へ伝達することができる。それに対して、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合には、条件によっては鋼矢板と鋼管が別々に挙動してしまう虞がある。したがって、鋼矢板と鋼管を連結しない場合には、土圧または水圧を受ける側と反対側に鋼管を設けるのが好ましい。
【0041】
図1では、全てのハット形鋼矢板1に対し鋼管2がそれぞれ接する構造になっている。しかし、剛性が許容される範囲であれば、ハット形鋼矢板1に対して、1つおきに鋼管2を組み合わせるなどして、鋼管2を間引くこともできる(つまり、鋼管を離散的に配置することもできる)。
【0042】
以上により、鋼製壁3は、鋼矢板からなる鋼矢板壁の継手部で高い止水性能を得ることができ、鋼管2により高い剛性を得ることができる。
また、鋼矢板の剛性、鋼管の外径、鋼管の板厚、鋼管どうしの間隔などを変化させることによって、壁体の剛性を場所によって任意に設定することができる。この場合、壁高(壁体の高さ)が低い部分で過剰な剛性になるのを防止することに加え、剛性から要求される根入れ長も小さくすることができ、それによりコストの低減を図ることができる。
さらに、この実施形態の鋼製壁3においては、水平方向の抵抗を鋼管によって取っているので、鋼矢板の根入れ長は止水や土留めのために必要な最低限の長さに留めることができる。その場合、鋼矢板は前面と背面に作用する土圧が釣り合う点から1m〜2m程度根入れしておけば十分な場合が多く、壁体として鋼矢板のみを用いるときよりも小さくてよい。また、地下水の止水やボイリング防止のように、剛性は必要なく、壁体の前背面の縁切りための根入れ長が必要な場合には、逆に鋼管より鋼矢板の方を深くしてもよい。
【0043】
次に、第1の実施形態の鋼製壁3の施工方法について説明する。
まず、図3(a)に示すように、例えば、ハット形鋼矢板、U形鋼矢板、Z形鋼矢板等の鋼矢板のうちのいずれかの鋼矢板1からなる鋼矢板壁を構築する。なお、図3(a)においては、ハット形鋼矢板1からなる鋼矢板壁を構築している。
【0044】
また、この実施形態では、鋼矢板壁の構築方法として、先に圧入された複数本の鋼矢板1から反力を取って次の鋼矢板1を圧入する油圧圧入工法を用いるが、他の工法で鋼矢板1を打設するものとしてもよい。
鋼矢板壁では、周知のように隣り合う鋼矢板1どうしが継手1dで接合されており、土留めが可能で、かつ、所定レベルの止水性能が確保されている。なお、周知の方法により比較的容易に止水性能をさらに高めることも可能である。
【0045】
次いで、鋼矢板壁を構築した後に、図2(b)に示すように、鋼管の施工方法として、構築された鋼矢板壁の長さの範囲内に、鋼管2を地盤に圧入する。この際には、上述の油圧圧入工法または回転圧入工法を用いる。すなわち、既に構築された鋼矢板壁の鋼矢板1から反力を取って鋼管2を圧入または回転圧入する。その際、鋼管が設置された山部分に隣接する谷部分の鋼矢板壁(壁体)を把持して反力を取ることが好ましい。こうすると、杭圧入装置の大きさを小さくすることができる。また、鋼管は把持した部分に近い側に圧入する方が安定して施工することができる。
【0046】
杭圧入装置(杭回転圧入装置)は、周知の装置であり、先に圧入された杭から反力を取って、順次杭を圧入していくとともに構築された部分を自走して先に進んでいく装置であり、連続して多数の杭が圧入された状態になる鋼矢板や鋼管矢板の施工に適した装置である。また、連続して一列に施工される杭ならば鋼矢板や鋼管矢板に限らず施工が可能である。ただし、隣り合う杭間の距離に限界があり、杭を列状に並べて施工した際に、杭のピッチが限定される。
【0047】
しかし、この実施形態では、既に構築された鋼矢板壁を構成する鋼矢板1から反力を取るので、構築された鋼矢板壁の施工延長の範囲で、鋼矢板壁の近傍なら任意のピッチで鋼管2を圧入することが可能である。
この実施形態の壁体の構築方法における鋼管の施工方法においては、鋼管2の圧入または回転圧入に際して、基本的に鋼矢板壁に略当接するように鋼管2を圧入または回転圧入する。なお、鋼矢板1に鋼管2が完全に接している必要はなく、極めて近接した状態になっていればよい。
【0048】
ここでは、鋼管2を鋼矢板壁に沿って順次並べて圧入または回転圧入することにより、鋼管列2,2,2・・・を構築する。なお、鋼矢板壁の二つの側面側にそれぞれ鋼管2を圧入するものとしてもよい。
【0049】
この実施形態で用いられる杭圧入装置または杭回転圧入装置は、既設の鋼矢板1から反力を取って鋼管2を圧入または回転圧入する構成を有する装置である。このため、既に打設した鋼管から反力を得て次の鋼管を圧入する従来の方法とは異なり、鋼管の配置に関する自由度を大きく向上させることができる。すなわち、既に打設した鋼管から反力を得る場合、鋼管の設置ピッチを大きくしようとすると施工機械も大型化する必要があるが、既設の連続する鋼矢板壁から反力を得て鋼管を圧入することで鋼矢壁に沿って自由に鋼管を設置できるようになり、設置ピッチを大きくしたり、必要な壁体の剛性に応じて途中でピッチを変更したりすることが容易に行えるようになる。
【0050】
また、鋼矢板、鋼管の両者とも既存の鋼矢板壁を把持装置で把持することによって反力を得ながら次の鋼矢板や鋼管を圧入するため、次に圧入する鋼矢板や鋼管を把持する把持装置のみを取り換えることにより、1台の施工機械で鋼矢板と鋼管の両者を施工することができるようになり、施工コストや工期を大幅に低減可能になる。
【0051】
また、鋼管を回転圧入した場合には、施工時に必要な既存の鋼矢板壁からの反力を小さくすることがきるため、比較的剛性の小さな鋼矢板壁からの反力でも鋼管を容易に設置できるようになったり、所要の反力を得るために必要な鋼矢板の根入れ長を小さくしたりする効果が得られる。
【0052】
さらに、硬質地盤に鋼管を打設する場合、アースオーガ等の掘削装置やウォータージェットを併用しなくても、鋼管15を圧入可能になる。アースオーガ等を併用すると、施工機械が大きくなり、それに伴いクレーン等も大きくなり建設コストが上がる。また、ウォータージェットを用いると、周辺地盤を緩めたりする可能性がある上に、泥水を一時的に貯留するためのスペースや循環使用するための装置などが必要になったり,最終的に処分したりすることが必要になり、コストアップにつながる。
【0053】
このような鋼矢板壁の構築方法により、図1、図3(c)に示すように、鋼矢板壁と任意の位置に配された鋼管列2,2,2・・・とからなる鋼製壁を構築することができる。
【0054】
この鋼製壁3にあっては、上述のように、鋼矢板(ハット形鋼矢板1)から矢板壁が形成されるとともに、鋼矢板に接する鋼管2により矢板壁が補剛された状態になる。よって、鋼矢板からなる鋼矢板壁の継手部分で高い止水性能を得ることができるとともに、鋼管2により高い剛性を得ることができる。
【0055】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図4から図6に示すように、本発明の第2の実施形態に係る鋼製壁3は、鋼矢板としてのハット形鋼矢板1と鋼管2とを組み合わせて構成されている。複数のハット形鋼矢板1を連結して構成される壁体(矢板壁)4の長手方向に沿って、複数の鋼管2が1列に互いに間隔をあけて並べて配置されている。また、ハット形鋼矢板1および鋼管2がそれらの長手方向が互い平行にされているとともに、それらの長手方向が鉛直方向になっている。
ハット形鋼矢板1は、ウェブ1aと、ウェブ1aの両側縁からそれぞれ互いに広がるように斜めに延出する一対のフランジ1bと、左右のフランジ1bの先端からウェブ1aと平行に左右に延出する一対のアーム1cと、アーム1cの先端に設けられた継手1dとを備えている。
【0056】
また、ハット形鋼矢板1と、鋼管2とは接しておらず、ハット形鋼矢板1と、鋼管2との間に間隔があけられた状態になっている。また、この鋼管2は、その一部がハット形鋼矢板1で構成される壁体の一方の側面の谷部分になる凹部に入り込んだ状態になっている。
【0057】
複数のハット形鋼矢板1は、その継手1dどうしを連結して一列に並べられて鋼矢板壁としての上述の壁体4を構築している。また、ハット形鋼矢板1および鋼管2は地盤に打設されている。
【0058】
この鋼製壁3では、図5および図6に示すようにハット形鋼矢板1からなる壁体4の頭部と、鋼管2の頭部とがコーピング5により連結されている。すなわち、壁体4の頭部と、鋼管2の頭部とを巻き込んで打設されるコンクリートによりコーピング5が設けられている。このコーピング5になるコンクリート内に壁体4の頭部と、鋼管2の頭部とが入り込んでいることにより、壁体4の頭部と、鋼管2の頭部とが連結して固定されている。また、頭部の連結には必要に応じて他の連結部材を併用してもよい。
【0059】
また、壁体4に対して、鋼管2が壁体の背面側(土圧が作用する側)に配置されている。頭部での連結がなければ、土圧および水圧により、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示す可能性があるが、頭部を連結することで、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達を可能とし、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧や水圧を分担して受け持つ構造となっている。
さらに、ハット形鋼矢板1からなる壁体4と、鋼管2との間には、先に施工された壁体4に対して、後から施工する鋼管2が施工中に接触しない程度の間隔が設けられている。なお、鋼管と鋼矢板の間に間隔を設ける場合、その間隔が100mm〜200mm程度であれば、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みがそれほど増加することもなく、鋼管と鋼矢板を組合せた壁体としての安定性を損なうこともない。また、施工機械の大型化や施工時安定性の低下をまねく恐れも小さい。
その他、鋼矢板および鋼管のそれぞれの根入れ長については、上述の第1の実施形態の鋼製壁3についての根入れの考え方と同様である。
【0060】
次に、第2の実施形態の鋼製壁3の施工方法について説明する。ただし、鋼矢板1および鋼管2の圧入については、鋼矢板1と鋼管2の間隔をあけて圧入すること以外は上述の第1の実施形態の鋼製壁3の施工方法と同じであるので省略し、以下では鋼矢板1(壁体4)と鋼管2とを打設した後の施工について説明する。
【0061】
鋼矢板1(壁体4)と鋼管2とを打設した後、壁体4の鋼管2とを跨ってコーピング5を打設する。これにより、壁体4の頭部と鋼管2の頭部とが連結される、これにより、少なくとも水平方向の力の伝達が可能となり、土圧の作用する向きに関わらず、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧や水圧を分担して受け持つ構造となり、合理的でより安定的な壁体とすることができる。
【0062】
図4から図6に示す実施形態では、壁体4の各ハット形鋼矢板1毎(壁体4の凹部毎)に、鋼管2が配置されているが、求められる強度によっては、全てのハット形鋼矢板1に鋼管2を配置する必要はなく、例えば、鋼管2を一つおきや二つおきのハット形鋼矢板1毎(一つおきや二つおきの凹部毎)に、配置するものとしてもよい。但し、鋼管2が壁体4の長手方向に沿って並べられた状態で、鋼管2の配置が略均等になっていることが好ましい。
【0063】
壁体4を構成する鋼矢板は、ハット形鋼矢板1に限られるものではなく、U形鋼矢板、Z形鋼矢板等の各種鋼矢板を用いることができるが、上述の通りハット形鋼矢板を用いるのが好ましい。
【0064】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図7から図9に示すように、第3の実施形態に係る鋼製壁3は、鋼矢板としてのハット形鋼矢板1と鋼管2とを組み合わせて構成されている。複数のハット形鋼矢板1の長手方向に、長手方向を沿わせて鋼管2が接している。ここでは、ハット形鋼矢板1および鋼管2がそれらの長手方向が互い平行にされているとともに、それらの長手方向が鉛直方向になっている。
さらに、ハット形鋼矢板1は、ウェブ1aと、ウェブ1aの両側縁からそれぞれ互いに広がるように斜めに延出する一対のフランジ1bと、左右のフランジ1bの先端からウェブ1aと平行に左右に延出する一対のアーム1cと、アーム1cの先端に設けられた継手1dとを備えている。鋼管2は、その外周面がハット形鋼矢板1の谷側の側面に接している。例えば、鋼管2はハット形鋼矢板1のウェブ1aの谷側に接した状態になっている。また、鋼管2の径は、ハット形鋼矢板1の幅よりも狭くなっている。この鋼管2は、その一部がハット形鋼矢板1で構成される壁体4の一方の側面の谷部分に入り込んだ状態になっている。
【0065】
複数のハット形鋼矢板1は、その継手1dどうしを連結して一列に並べられて鋼矢板壁を構築した状態になっている。また、ハット形鋼矢板1および鋼管2は地盤に打設されており、鋼矢板壁の頭部と鋼管の頭部がコンクリートによって連結されている。
【0066】
この鋼製壁3では、壁体の前面側に鋼管を配置する(鋼管が掘削側となる)場合には、鋼矢板が受けた土圧および水圧を長手方向にわたって連続的に鋼管へ伝達することができる。さらに、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合にも、頭部を連結し、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達が可能な構造とすれば、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧や水圧を分担して受け持つ構造となる。すなわち、土圧の作用する向きに関わらず、合理的な壁体を構築することができる。
また、鋼管と鋼矢板が接して沿うことで、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みが最小限に抑えられる。ここで、壁体頭部と鋼管頭部との連結手法は特に問わない。例えば、コーピング、溶接、ボルト、ドリルねじ等が挙げられ、必要に応じて複数の連結方法を併用することもできる。例えば、鋼管と壁体を跨るようにコンクリートが打設されるようにすれば、鋼管と壁体との間の天端が陥没する等の危険性が少ない上、美観にも優れる。
その他、鋼矢板および鋼管のそれぞれの根入れ長については、上述の第1の実施形態の鋼製壁3についての根入れの考え方と同様である。
【0067】
図7では、全てのハット形鋼矢板1に対し鋼管2がそれぞれ接する構造になっているが、剛性が許容される範囲であれば、ハット形鋼矢板1に対して、1つおきに鋼管2を組み合わせるなどして、鋼管2を間引くこともできる(つまり、鋼管を離散的に配置することもできる)。
以上により、鋼製壁3は、鋼矢板からなる鋼矢板壁の継手部で高い止水性能を得ることができ、鋼管2により高い剛性を得ることができる。
また、鋼矢板の剛性、鋼管の外径、鋼管の板厚、鋼管どうしの間隔などを変化させることによって、壁体の剛性を場所によって任意に設定することができる。この場合に壁高(壁体の高さ)が低い部分で過剰な剛性になるのを防止することに加え、剛性から要求される根入れ長も小さくすることができ、それによりコストの低減を図ることができる。
【0068】
次に、第3の実施形態の鋼製壁3の施工方法に関し、鋼矢板1および鋼管2の圧入については、上述の第1の実施形態の鋼製壁3の施工方法と同じであり、鋼矢板1(壁体4)と鋼管2とを打設した後の連結施工については、上述の第2の実施形態のコーピング5の施工方法と同じであるので、説明を省略する。
【0069】
壁体4を構成する鋼矢板は、ハット形鋼矢板1に限られるものではなく、U形鋼矢板、Z形鋼矢板等の各種鋼矢板を用いることができるが、上述の通りハット形鋼矢板を用いるのが好ましい。
【0070】
さらに、以下では、本発明の鋼製壁の様々な態様について説明する。
上述の鋼製壁は、鋼製壁3において、鋼管2がハット形鋼矢板1の谷側のウェブ1aに接していたのに対して、図10に示す第4の実施形態に係る鋼製壁3は、鋼管2がハット形鋼矢板1の山側のウェブ1aに接するようにしたものである。すなわち、鋼管2は、鋼矢板壁の一方の側面の山部分に接している。
鋼製壁3において、鋼管2とハット形鋼矢板1とを接するように設けず、間隔をあけて並べて設ける構造とすることもできる。この場合には、ハット形鋼矢板(壁体)と鋼管が頭部で連結させる必要がある。
【0071】
また、図11に示す第5の実施形態に係る鋼製壁3は、U形鋼矢板を用いたものである。この鋼製壁では、U形鋼矢板の有効幅に対して鋼管2の径を大きくしたものであり、鋼管2を大断面としたことにより、鋼管2が高い剛性を有するものになる。
鋼管2は、2のU形鋼矢板により形成される谷部分に入り込み、1のU形鋼矢板のフランジ1bの外側に接触した状態となっている。
また、鋼管2は、各谷部分に配置されるのではなく、1つおきの谷部分に配置されるようになっている。なお、谷部分に対して2つおき等のように1つおきより広い間隔があくように鋼管2を配置してもよい。
【0072】
さらに、図12に示す第6の実施形態に係る鋼製壁3は、板厚が異なる鋼管を用いたものである。このような鋼製壁では、例えば、近傍に構造物や盛土などが存在する場合などで、連続する壁体の中で作用土圧などが変化する場合に、壁体4の位置によって剛性を変えることができる。また、設けられる鋼管の外形は同一であり、鋼管の外形に合わせて杭圧入装置(鋼管の把持装置)を変更しなくてもよいので、施工上も有利である。
【符号の説明】
【0073】
1 鋼矢板(ハット形鋼矢板、U形鋼矢板)
2 鋼管
3 鋼製壁
4 壁体(矢板壁)
5 コーピング
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留め工、締切工、護岸、埋立、堤防等で用いられる鋼製壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼矢板や鋼管矢板は、土留め工、締切工、護岸、埋立、堤防等の様々な工事で用いられている。鋼矢板と鋼管矢板は求められる剛性によって使い分けられる。一般に鋼矢板は剛性が低くてもよい場面、鋼管矢板は剛性の高いものが要求される場面で使用される。
【0003】
ここで、鋼管矢板は鋼矢板に比べて継手の余裕量が大きい。したがって、締切工や護岸などを構築する際に止水性が要求される場合には、一般に継手空間に袋詰めセメントモルタルを充填する方法が採用されている。この方法では、河川・港湾等の水辺環境で用いる場合にモルタルを詰める袋が破損するとモルタルが流出してしまう可能性がある。また、袋どうしの隙間が水みちになりうるので、厳しい止水性を求められる用途には必ずしも適さない。
【0004】
そこで、海面廃棄物処分場などの遮水性護岸等のように、処分場内部の水の漏洩防止が厳しく要求される場合の方策として、鋼管矢板の継手空間に漏れ防止対策を施され、この継手空間にモルタル等の充填剤が直接充填された構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようにモルタルを充填する場合は、鋼管矢板を地中に打ち込んだ後、継手内部の土砂をウォータージェット等で排土して、袋詰めモルタルやモルタルを継手内に充填するという作業を行う必要があり、現場作業に手間と時間とを要するという欠点を有している。
【0005】
これに対し、鋼矢板は、鋼管矢板に比べて剛性は低くなるものの、止水性に優れ、継手分の余裕量が小さく、何も対策を行わない状態であっても鋼管矢板と比べて止水性が高い。また、予め継手に膨潤性止水材を塗装しておくことにより、鋼矢板の止水性をさらに高めることもできる。この方法により、上記対策を行った鋼管矢板と同等以上の止水性能を発揮することが可能である上、現場作業の手間の省略が可能になる。
【0006】
鋼管矢板や鋼矢板は鋼製壁としてそれぞれ単独で用いる場合だけでなく、単独での欠点を補うため、工夫を施して使用される場合もある。例えば、鋼矢板の剛性を高める技術として、壁体を構成するU形(ハット形)鋼矢板にH形鋼を一体化して補剛された組合せ鋼矢板を用いる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような構造の組合せ鋼矢板は、通常バイブロハンマ工法で施工され、一部が油圧圧入工法で打設される。しかし、都市部などの振動・騒音の規制が厳しい条件ではバイブロハンマ工法を使用できるケースは限定される。特に、このような形状の組合せ鋼矢板は断面積が大きくなり、打設時の抵抗が大きくなるため、油圧圧入工法で打設しようとしても硬質地盤では施工が難しくなると考えられる。
【0007】
そこで、硬質地盤での打設のために、地盤を掘削するアースオーガ(掘削装置)を用いた工法を適用することが考えられている(例えば、特許文献3参照)。このように、新しい形態の鋼製壁を施工するには新たな施工方法の開発も必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3756755号公報
【特許文献2】特開2002−212943号公報
【特許文献3】特許第4074241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、鋼製壁としての剛性は、鋼矢板壁より鋼管矢板壁の方が高い。一方、継手における止水性能は、鋼管矢板壁より鋼矢板壁の方が容易に高められる。
そこで、止水性能を高くし易い鋼矢板壁に鋼管を組み合わせることにより、剛性と高い止水性能とを兼ね備えた鋼製壁を構築できる。ここで、鋼管を1枚の鋼矢板毎、具体的には1のハット形またはU形鋼矢板毎に用いれば、極めて高い剛性を有する鋼製壁を構築することができる。しかし、使用環境によってはそれほど高い剛性を必要としない場合もある。このような場合には、例えば、鋼管を2枚以上の鋼矢板毎に用いて鋼製壁を構築すればよい。
通常、鋼管を油圧圧入工法や回転圧入工法などの振動騒音の小さい工法で施工する場合、先に圧入した鋼管から反力をとって、次の鋼管を圧入していくため、鋼管の設置ピッチを大きくしようとすると施工機械も大型化する必要があるという課題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、鋼管矢板壁並みの高い剛性と鋼矢板壁並みの高い止水性を兼ね備える鋼製壁を、既存の施工機械から大型化せずに油圧圧入工法または回転圧入工法によって構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の鋼製壁は、複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、壁体の全てまたは一部の鋼矢板に鋼管がその長手方向を鋼矢板の長手方向に沿わせて接するように設けられ、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載の発明においては、鋼製壁が複数の鋼矢板を継手により連結した壁体(鋼矢板壁)と、この壁体の鋼矢板の長手方向に、長手方向を沿わせて接する鋼管からなる。
よって、鋼矢板の継手を連結した鋼矢板壁により鋼管矢板壁より高い止水性能をもつ鋼製壁を得ることが可能になる。さらに、高い剛性を有する鋼管が壁体に接することにより鋼管矢板壁と同等以上の高い剛性(断面性能)を持つ鋼製壁を得ることができる。
なお、鋼製壁の適用にあたっては、壁体の前面側に鋼管を配置する(鋼管が掘削側となる)場合には、鋼矢板が受けた土圧や水圧を長手方向にわたって連続的に鋼管へ伝達することができる。それに対して、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合には、条件によっては鋼矢板と鋼管が別々に挙動してしまう虞がある。したがって、鋼矢板と鋼管を連結しない場合には、土圧または水圧を受ける側と反対側に鋼管を設けるのが好ましい。
【0013】
鋼製壁の施工に際しては、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入する。鋼矢板を先行打設して鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁を構成する鋼矢板のうちの複数本の鋼矢板から反力を取って鋼管を鋼矢板に沿って圧入することで、鋼矢板壁に沿って任意の位置に鋼管が配置された鋼管列を設けることが可能となる。なお、先行打設する鋼矢板は油圧圧入で施工してもよいし、バイブロハンマ工法で施工してもよい。
【0014】
鋼矢板壁に沿って任意の位置に鋼管列を設ければ、止水性能に優れた鋼矢板壁を鋼管列で補強した構造と見ることができる。すなわち、鋼矢板と鋼管とを組み合わせた壁体になり、鋼矢板壁により高い止水性能を確保しつつ、鋼管列により高い断面性能を確保できる。この際に鋼管列における鋼管の位置により鋼矢板壁と鋼管列からなる壁体の断面性能を任意に設定することができる。すなわち、鋼管の位置を任意に設定できることから、適切な断面性能を有する壁体を構築することができるとともに、それにともなって適切なコストで壁体を構築することができる。
また、既設の鋼矢板壁からなる擁壁や護岸に対して、鋼矢板から反力を得て新たに鋼管を圧入する事により、例えば、河積(川の横断面の水の占める面積、または、計画高水位以下の河川流水断面積)増大のための掘削時の補強や、耐震性向上のための補強を行うこともできる。
【0015】
請求項2に記載の鋼製壁は、複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、壁体の全てまたは一部の鋼矢板に鋼管がその長手方向を鋼矢板の長手方向に沿って、壁体と間隔をあけて並べて設けられ、壁体と鋼管とが、両者の頭部で連結されており、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明においては、壁体と鋼管が一定の間隔をあけて並べて設けられているため、鋼管と鋼矢板が長手方向にわたって連続的にお互いに力を伝達することはない。
しかし、壁体と鋼管との間に間隔を設ければ、振動、騒音や変形を防止できる可能性が高まる。すなわち、間隔が狭いと、例えば、鋼管を打設する際に、施工中に鋼管の打設方向にずれが生じた場合に壁体に鋼管が接触してしまい、これが振動、騒音や変形の発生の要因になる可能性があるが、これらの発生を抑制することができる。
一方で、壁体と鋼管とが、その頭部で連結されている。頭部を連結し、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達が可能な構造とすれば、土圧や水圧の作用する向きに関わらず、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧などを分担して受け持つ構造となり、合理的でより安定的な壁体とすることができる。特に、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合でも、鋼管と鋼矢板の力の伝達を確保し、両者が別々に挙動することを防止して、安定的な壁体を構築することができる。
なお、鋼管と鋼矢板の間に間隔を設ける場合、その間隔が100mm〜200mm程度であれば、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みがそれほど増加することもなく、鋼管と鋼矢板を組合せた壁体としての安定性を損なうこともない。
【0017】
ここで、壁体頭部と鋼管頭部との連結手法は特に問わない。例えば、コーピング、溶接、ボルト、ドリルねじ等が挙げられ、必要に応じて複数の連結方法を併用することもできる。例えば、鋼管と壁体を跨るようにコンクリートが打設されるようにすれば、鋼管と壁体との間の天端が陥没する等の危険性が少ない上、美観にも優れる。
鋼製壁の施工に際しては、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入する。先に構築された鋼矢板壁からの反力を取って任意の位置に鋼管を圧入し鋼管列を設けることができる点は請求項1と同じである。
【0018】
請求項3に記載の鋼製壁は、複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、壁体の全てまたは一部の鋼矢板に鋼管がその長手方向を鋼矢板の長手方向に沿わせて接するように設けられ、壁体と鋼管とが、両者の頭部で連結されており、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の発明においては、鋼製壁が複数の鋼矢板を継手により連結した壁体(鋼矢板壁)と、この壁体の鋼矢板の長手方向に、長手方向を沿わせて接する鋼管からなり、さらに、壁体と鋼管とが、その頭部で連結されている。
よって、上述の請求項1および請求項2に記載の発明の効果を得ることができる。すなわち、壁体の前面側に鋼管を配置する(鋼管が掘削側となる)場合には、鋼矢板が受けた土圧や水圧を長手方向にわたって連続的に鋼管へ伝達することができる。さらに、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合にも、頭部を連結し、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達が可能な構造とすれば、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧または水圧を分担して受け持つ構造となる。すなわち、土圧などの作用する向きに関わらず、合理的な壁体を構築することができる。
また、鋼管と鋼矢板が接して沿うことで、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みが最小限に抑えられる。ここで、壁体頭部と鋼管頭部との連結手法は特に問わない。例えば、コーピング、溶接、ボルト、ドリルねじ等が挙げられ、必要に応じて複数の連結方法を併用することもできる。例えば、鋼管と壁体を跨るようにコンクリートが打設されるようにすれば、鋼管と壁体との間の天端が陥没する等の危険性が少ない上、美観にも優れる。
【0020】
請求項4に記載の鋼製壁は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、複数設けられた前記鋼管の外径が同一であり、鋼管の板厚および鋼管どうしの間隔を変化させることによって、壁体内で剛性を変化させたことを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の発明においては、鋼管の外径を同一にすることにより、鋼矢板と鋼管を組合せた壁体の厚さを一定に保つことができる。また、鋼管を打設する際、施工機械における鋼管の把持装置のサイズ変更が不要となり、施工効率を上げることができる。
さらに、板厚、鋼管どうしの間隔を変化させることによって、壁体の剛性を場所によって任意に設定することができる。この場合、例えば、壁体の一部が低い鋼製壁を構築するとき、当該部分で剛性を小さくすることで、過剰な剛性になるのを防止することに加え、剛性から要求される根入れ長も小さくすることができ、それによりコストの低減を図ることもできる。
鋼管どうしの間隔の組合せを変化させる場合、例えば、3つの連続する鋼矢板に対して1つの鋼管の割合で鋼管を配置したり、2つの鋼矢板に対して1つの鋼管の割合で鋼管を配置したりすることでの剛性を変化させたりすることができる。
【0022】
請求項5に記載の鋼製壁は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、鋼矢板と鋼管とは、それぞれの長手方向の長さが互いに異なることを特徴とする。
鋼矢板に沿って鋼管が並べて設けられている壁体の鋼矢板の根入れ長は、壁体として鋼矢板のみを用いるときよりも小さく設定することもできる。通常、鋼矢板や鋼管矢板では、壁に作用する土圧や水圧に対して水平方向の抵抗を確保するために、その剛性に応じた根入れ長が設定されるが、鋼管が設けられた前記壁体では水平方向の抵抗を鋼管によって確保することが可能になるので、鋼矢板は止水や土留めのために必要な最低限の長さに留めることも可能になる。その場合、鋼矢板は前面側と背面側に作用する土圧が釣り合う点から1〜2m程度根入れしておけば十分な場合が多い。また、地下水の止水やボイリング防止のように、剛性は必要なく、壁の前面と背面の縁切りための根入れ長が必要な場合には、逆に鋼管より鋼矢板の方を深くしてもよい。
【0023】
請求項6に記載の鋼製壁は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、壁体は、山と谷とを繰り返す略波状に形成され、前記鋼管は、前記壁体の谷部分に入り込んで設けられたことを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の発明においては、壁体の谷部分に鋼管が入り込んでいるので、壁体の長さ方向に直交する方向に沿った鋼製壁の幅を狭くすることができる。よって、省スペースであり、スペース効率に優れる。
なお、山と谷とを繰り返す略波状に形成される壁体はハット形鋼矢板、U形鋼矢板、Z形鋼矢板などを使用することで形成すればよい。ただし、ハット形鋼矢板は、U形鋼矢板やZ形鋼矢板に比べて施工性に優れ、工費縮減、工期短縮を図ることができる。また、ハット形鋼矢板は継手部分で長手方向のズレが発生せず断面性能が効率的かつ明確で、鋼矢板で構築した壁体の凹凸数に対する継手の箇所数もU形鋼矢板やZ形鋼矢板などの各種鋼矢板の中で最小となるため、鋼管と鋼矢板を組み合せた壁体をより安定的な構造とし、施工の管理や精度の確保を容易にする効果が期待できる。このため、鋼矢板壁を構築するためにはハット形鋼矢板を用いることが好ましい。
【0025】
請求項7に記載の鋼製壁は、請求項6に記載の発明において、鋼管が設置された谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して鋼矢板から反力を取り、鋼管を油圧圧入または回転圧入して形成することを特徴とする。
【0026】
請求項7に記載の発明においては、鋼管が設置された谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して反力を取ると、杭圧入装置の大きさを小さくすることができる。また、鋼管は把持した部分に近い側に圧入する方が安定して施工する上でも好ましい。谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して反力を取りさえすればよいが、この場合反力が不十分になる場合もあるので、当該山部分の壁体と隣接する山部分で、設置される鋼管とは逆側の山部分の1または2の壁体も合わせて把持して反力を取ること、すなわち連続する山部分の2または3の壁体を把持して反力を取ることが好ましい。
【0027】
請求項8に記載の鋼製壁は、請求項6または請求項7に記載の発明において、壁体の一側面に連続的に並んで形成されている複数の谷部分に離散的に設けられていることを特徴とする。
【0028】
請求項8に記載の発明においては、鋼製壁にかかる圧力が比較的小さい場合や、使用される鋼矢板や鋼管の剛性が高い(例えば、鋼管径が大きい)場合には、例えば、鋼管を一つおきや二つおきの谷部分に配置することにより、離散的に鋼管を設けることで、すべての谷部分に鋼管が設けられる場合に比べ、鋼管の使用量を減らすことにより、コストの低減を図ることができる。
【0029】
請求項9に記載の鋼製壁は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、壁体は、山と谷とを繰り返す略波状に形成され、鋼管は、壁体の山部分に設けられたことを特徴とする。
【0030】
請求項9に記載の発明においては、請求項8に記載の発明の場合よりも、設置スペースが必要になる。しかし、鋼管径が谷部分のサイズに規制されることがなく、より大きな鋼管径の鋼管を用いることが可能になるので、高い剛性が要求される場合に有利になる。
なお、この場合も、山と谷とを繰り返す略波状に形成される壁体はハット形鋼矢板、U形鋼矢板、Z形鋼矢板などを使用することで形成すればよいが、上述の通りハット形鋼矢板を使用することが好ましい。
【0031】
請求項10に記載の鋼製壁は、請求項9に記載の発明において、鋼管が設置された山部分に隣接する谷部分の壁体を把持して鋼矢板から反力を取り、鋼管を油圧圧入または回転圧入することを特徴とする。
【0032】
請求項10に記載の発明においては、鋼管が設置された山部分に隣接する谷部分の壁体を把持して反力を取ると、杭圧入装置の大きさを小さくすることができる。また、鋼管は把持した部分に近い側に圧入する方が安定して施工する上でも好ましい。山部分に隣接する谷部分の壁体を把持して反力を取りさえすればよいが、この場合反力が不十分になる場合もあるので、当該谷部分の壁体と隣接する谷部分で、設置される鋼管とは逆側の谷部分の1または2の壁体も合わせて把持して反力を取ること、すなわち連続する谷部分の2または3の壁体を把持して反力を取ることが好ましい。
【0033】
請求項11に記載の鋼製壁は、請求項9または請求項10に記載の発明において、壁体の一側面に連続的に並んで形成されている複数の山部分に離散的に設けられていることを特徴とする。
【0034】
請求項11に記載の発明においては、鋼製壁にかかる圧力が比較的小さい場合や、使用される鋼矢板や鋼管の剛性が高い(例えば、鋼管径が大きい)場合には、例えば、鋼管を一つおきや二つおきの山部分に配置することにより、離散的に鋼管を設けることで、すべての山部分に鋼管が設けられる場合に比べ、鋼管の使用量を減らすことにより、コストの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、従来の鋼矢板壁と同様の高い止水性能を得られるとともに、鋼管矢板壁と同等以上の剛性を得ることができ、かつ、鋼管の箇所を任意に設定可能なことから、所望する断面性能を有する壁体を得られるとともに、所望する断面性能に見合ったコストで壁体を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る鋼製壁を示す要部の概略斜視図である。
【図3】(a),(b),(c)は、鋼管の施工方法を説明するための図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る鋼製壁の頭部連結部を示す概略平面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る鋼製壁の側面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る鋼製壁の頭部連結部を示す概略平面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る鋼製壁の側面図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である。
【図11】本発明の第5の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である。
【図12】本発明の第6の実施形態に係る鋼製壁を示す要部概略平面図である
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1および図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る鋼製壁3は、鋼矢板としてのハット形鋼矢板1と鋼管2とを組み合わせて構成されており、ハット形鋼矢板1の長手方向に、長手方向を沿わせて鋼管2が接している。ここでは、ハット形鋼矢板1および鋼管2がそれらの長手方向が互い平行にされているとともに、それらの長手方向が鉛直方向になっている。
【0038】
ハット形鋼矢板1は、ウェブ1aと、ウェブ1aの両側縁からそれぞれ互いに広がるように斜めに延出する一対のフランジ1bと、左右のフランジ1bの先端からウェブ1aと平行に左右に延出する一対のアーム1cと、アーム1cの先端に設けられた継手1dとを備えている。鋼管2は、その外周面がハット形鋼矢板1の谷側の側面に接している。例えば、鋼管2はハット形鋼矢板1のウェブ1aの谷側に接した状態になっている。この鋼管2は、その一部がハット形鋼矢板1で構成される壁体の一方の側面の谷部分に入り込んだ状態になっている。
【0039】
複数のハット形鋼矢板1は、その継手1dどうしを連結して一列に並べられて鋼矢板壁を構築した状態になっている。また、ハット形鋼矢板1および鋼管2は地盤に打設されている。
【0040】
この鋼製壁3では、ハット形鋼矢板1と鋼管2とが長手方向を沿わせて接するように配置されていることによって、壁体の前面側に鋼管を配置する(鋼管が掘削側となる)場合には、鋼矢板が受けた土圧や水圧を長手方向にわたって連続的に鋼管へ伝達することができる。それに対して、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合には、条件によっては鋼矢板と鋼管が別々に挙動してしまう虞がある。したがって、鋼矢板と鋼管を連結しない場合には、土圧または水圧を受ける側と反対側に鋼管を設けるのが好ましい。
【0041】
図1では、全てのハット形鋼矢板1に対し鋼管2がそれぞれ接する構造になっている。しかし、剛性が許容される範囲であれば、ハット形鋼矢板1に対して、1つおきに鋼管2を組み合わせるなどして、鋼管2を間引くこともできる(つまり、鋼管を離散的に配置することもできる)。
【0042】
以上により、鋼製壁3は、鋼矢板からなる鋼矢板壁の継手部で高い止水性能を得ることができ、鋼管2により高い剛性を得ることができる。
また、鋼矢板の剛性、鋼管の外径、鋼管の板厚、鋼管どうしの間隔などを変化させることによって、壁体の剛性を場所によって任意に設定することができる。この場合、壁高(壁体の高さ)が低い部分で過剰な剛性になるのを防止することに加え、剛性から要求される根入れ長も小さくすることができ、それによりコストの低減を図ることができる。
さらに、この実施形態の鋼製壁3においては、水平方向の抵抗を鋼管によって取っているので、鋼矢板の根入れ長は止水や土留めのために必要な最低限の長さに留めることができる。その場合、鋼矢板は前面と背面に作用する土圧が釣り合う点から1m〜2m程度根入れしておけば十分な場合が多く、壁体として鋼矢板のみを用いるときよりも小さくてよい。また、地下水の止水やボイリング防止のように、剛性は必要なく、壁体の前背面の縁切りための根入れ長が必要な場合には、逆に鋼管より鋼矢板の方を深くしてもよい。
【0043】
次に、第1の実施形態の鋼製壁3の施工方法について説明する。
まず、図3(a)に示すように、例えば、ハット形鋼矢板、U形鋼矢板、Z形鋼矢板等の鋼矢板のうちのいずれかの鋼矢板1からなる鋼矢板壁を構築する。なお、図3(a)においては、ハット形鋼矢板1からなる鋼矢板壁を構築している。
【0044】
また、この実施形態では、鋼矢板壁の構築方法として、先に圧入された複数本の鋼矢板1から反力を取って次の鋼矢板1を圧入する油圧圧入工法を用いるが、他の工法で鋼矢板1を打設するものとしてもよい。
鋼矢板壁では、周知のように隣り合う鋼矢板1どうしが継手1dで接合されており、土留めが可能で、かつ、所定レベルの止水性能が確保されている。なお、周知の方法により比較的容易に止水性能をさらに高めることも可能である。
【0045】
次いで、鋼矢板壁を構築した後に、図2(b)に示すように、鋼管の施工方法として、構築された鋼矢板壁の長さの範囲内に、鋼管2を地盤に圧入する。この際には、上述の油圧圧入工法または回転圧入工法を用いる。すなわち、既に構築された鋼矢板壁の鋼矢板1から反力を取って鋼管2を圧入または回転圧入する。その際、鋼管が設置された山部分に隣接する谷部分の鋼矢板壁(壁体)を把持して反力を取ることが好ましい。こうすると、杭圧入装置の大きさを小さくすることができる。また、鋼管は把持した部分に近い側に圧入する方が安定して施工することができる。
【0046】
杭圧入装置(杭回転圧入装置)は、周知の装置であり、先に圧入された杭から反力を取って、順次杭を圧入していくとともに構築された部分を自走して先に進んでいく装置であり、連続して多数の杭が圧入された状態になる鋼矢板や鋼管矢板の施工に適した装置である。また、連続して一列に施工される杭ならば鋼矢板や鋼管矢板に限らず施工が可能である。ただし、隣り合う杭間の距離に限界があり、杭を列状に並べて施工した際に、杭のピッチが限定される。
【0047】
しかし、この実施形態では、既に構築された鋼矢板壁を構成する鋼矢板1から反力を取るので、構築された鋼矢板壁の施工延長の範囲で、鋼矢板壁の近傍なら任意のピッチで鋼管2を圧入することが可能である。
この実施形態の壁体の構築方法における鋼管の施工方法においては、鋼管2の圧入または回転圧入に際して、基本的に鋼矢板壁に略当接するように鋼管2を圧入または回転圧入する。なお、鋼矢板1に鋼管2が完全に接している必要はなく、極めて近接した状態になっていればよい。
【0048】
ここでは、鋼管2を鋼矢板壁に沿って順次並べて圧入または回転圧入することにより、鋼管列2,2,2・・・を構築する。なお、鋼矢板壁の二つの側面側にそれぞれ鋼管2を圧入するものとしてもよい。
【0049】
この実施形態で用いられる杭圧入装置または杭回転圧入装置は、既設の鋼矢板1から反力を取って鋼管2を圧入または回転圧入する構成を有する装置である。このため、既に打設した鋼管から反力を得て次の鋼管を圧入する従来の方法とは異なり、鋼管の配置に関する自由度を大きく向上させることができる。すなわち、既に打設した鋼管から反力を得る場合、鋼管の設置ピッチを大きくしようとすると施工機械も大型化する必要があるが、既設の連続する鋼矢板壁から反力を得て鋼管を圧入することで鋼矢壁に沿って自由に鋼管を設置できるようになり、設置ピッチを大きくしたり、必要な壁体の剛性に応じて途中でピッチを変更したりすることが容易に行えるようになる。
【0050】
また、鋼矢板、鋼管の両者とも既存の鋼矢板壁を把持装置で把持することによって反力を得ながら次の鋼矢板や鋼管を圧入するため、次に圧入する鋼矢板や鋼管を把持する把持装置のみを取り換えることにより、1台の施工機械で鋼矢板と鋼管の両者を施工することができるようになり、施工コストや工期を大幅に低減可能になる。
【0051】
また、鋼管を回転圧入した場合には、施工時に必要な既存の鋼矢板壁からの反力を小さくすることがきるため、比較的剛性の小さな鋼矢板壁からの反力でも鋼管を容易に設置できるようになったり、所要の反力を得るために必要な鋼矢板の根入れ長を小さくしたりする効果が得られる。
【0052】
さらに、硬質地盤に鋼管を打設する場合、アースオーガ等の掘削装置やウォータージェットを併用しなくても、鋼管15を圧入可能になる。アースオーガ等を併用すると、施工機械が大きくなり、それに伴いクレーン等も大きくなり建設コストが上がる。また、ウォータージェットを用いると、周辺地盤を緩めたりする可能性がある上に、泥水を一時的に貯留するためのスペースや循環使用するための装置などが必要になったり,最終的に処分したりすることが必要になり、コストアップにつながる。
【0053】
このような鋼矢板壁の構築方法により、図1、図3(c)に示すように、鋼矢板壁と任意の位置に配された鋼管列2,2,2・・・とからなる鋼製壁を構築することができる。
【0054】
この鋼製壁3にあっては、上述のように、鋼矢板(ハット形鋼矢板1)から矢板壁が形成されるとともに、鋼矢板に接する鋼管2により矢板壁が補剛された状態になる。よって、鋼矢板からなる鋼矢板壁の継手部分で高い止水性能を得ることができるとともに、鋼管2により高い剛性を得ることができる。
【0055】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図4から図6に示すように、本発明の第2の実施形態に係る鋼製壁3は、鋼矢板としてのハット形鋼矢板1と鋼管2とを組み合わせて構成されている。複数のハット形鋼矢板1を連結して構成される壁体(矢板壁)4の長手方向に沿って、複数の鋼管2が1列に互いに間隔をあけて並べて配置されている。また、ハット形鋼矢板1および鋼管2がそれらの長手方向が互い平行にされているとともに、それらの長手方向が鉛直方向になっている。
ハット形鋼矢板1は、ウェブ1aと、ウェブ1aの両側縁からそれぞれ互いに広がるように斜めに延出する一対のフランジ1bと、左右のフランジ1bの先端からウェブ1aと平行に左右に延出する一対のアーム1cと、アーム1cの先端に設けられた継手1dとを備えている。
【0056】
また、ハット形鋼矢板1と、鋼管2とは接しておらず、ハット形鋼矢板1と、鋼管2との間に間隔があけられた状態になっている。また、この鋼管2は、その一部がハット形鋼矢板1で構成される壁体の一方の側面の谷部分になる凹部に入り込んだ状態になっている。
【0057】
複数のハット形鋼矢板1は、その継手1dどうしを連結して一列に並べられて鋼矢板壁としての上述の壁体4を構築している。また、ハット形鋼矢板1および鋼管2は地盤に打設されている。
【0058】
この鋼製壁3では、図5および図6に示すようにハット形鋼矢板1からなる壁体4の頭部と、鋼管2の頭部とがコーピング5により連結されている。すなわち、壁体4の頭部と、鋼管2の頭部とを巻き込んで打設されるコンクリートによりコーピング5が設けられている。このコーピング5になるコンクリート内に壁体4の頭部と、鋼管2の頭部とが入り込んでいることにより、壁体4の頭部と、鋼管2の頭部とが連結して固定されている。また、頭部の連結には必要に応じて他の連結部材を併用してもよい。
【0059】
また、壁体4に対して、鋼管2が壁体の背面側(土圧が作用する側)に配置されている。頭部での連結がなければ、土圧および水圧により、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示す可能性があるが、頭部を連結することで、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達を可能とし、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧や水圧を分担して受け持つ構造となっている。
さらに、ハット形鋼矢板1からなる壁体4と、鋼管2との間には、先に施工された壁体4に対して、後から施工する鋼管2が施工中に接触しない程度の間隔が設けられている。なお、鋼管と鋼矢板の間に間隔を設ける場合、その間隔が100mm〜200mm程度であれば、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みがそれほど増加することもなく、鋼管と鋼矢板を組合せた壁体としての安定性を損なうこともない。また、施工機械の大型化や施工時安定性の低下をまねく恐れも小さい。
その他、鋼矢板および鋼管のそれぞれの根入れ長については、上述の第1の実施形態の鋼製壁3についての根入れの考え方と同様である。
【0060】
次に、第2の実施形態の鋼製壁3の施工方法について説明する。ただし、鋼矢板1および鋼管2の圧入については、鋼矢板1と鋼管2の間隔をあけて圧入すること以外は上述の第1の実施形態の鋼製壁3の施工方法と同じであるので省略し、以下では鋼矢板1(壁体4)と鋼管2とを打設した後の施工について説明する。
【0061】
鋼矢板1(壁体4)と鋼管2とを打設した後、壁体4の鋼管2とを跨ってコーピング5を打設する。これにより、壁体4の頭部と鋼管2の頭部とが連結される、これにより、少なくとも水平方向の力の伝達が可能となり、土圧の作用する向きに関わらず、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧や水圧を分担して受け持つ構造となり、合理的でより安定的な壁体とすることができる。
【0062】
図4から図6に示す実施形態では、壁体4の各ハット形鋼矢板1毎(壁体4の凹部毎)に、鋼管2が配置されているが、求められる強度によっては、全てのハット形鋼矢板1に鋼管2を配置する必要はなく、例えば、鋼管2を一つおきや二つおきのハット形鋼矢板1毎(一つおきや二つおきの凹部毎)に、配置するものとしてもよい。但し、鋼管2が壁体4の長手方向に沿って並べられた状態で、鋼管2の配置が略均等になっていることが好ましい。
【0063】
壁体4を構成する鋼矢板は、ハット形鋼矢板1に限られるものではなく、U形鋼矢板、Z形鋼矢板等の各種鋼矢板を用いることができるが、上述の通りハット形鋼矢板を用いるのが好ましい。
【0064】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図7から図9に示すように、第3の実施形態に係る鋼製壁3は、鋼矢板としてのハット形鋼矢板1と鋼管2とを組み合わせて構成されている。複数のハット形鋼矢板1の長手方向に、長手方向を沿わせて鋼管2が接している。ここでは、ハット形鋼矢板1および鋼管2がそれらの長手方向が互い平行にされているとともに、それらの長手方向が鉛直方向になっている。
さらに、ハット形鋼矢板1は、ウェブ1aと、ウェブ1aの両側縁からそれぞれ互いに広がるように斜めに延出する一対のフランジ1bと、左右のフランジ1bの先端からウェブ1aと平行に左右に延出する一対のアーム1cと、アーム1cの先端に設けられた継手1dとを備えている。鋼管2は、その外周面がハット形鋼矢板1の谷側の側面に接している。例えば、鋼管2はハット形鋼矢板1のウェブ1aの谷側に接した状態になっている。また、鋼管2の径は、ハット形鋼矢板1の幅よりも狭くなっている。この鋼管2は、その一部がハット形鋼矢板1で構成される壁体4の一方の側面の谷部分に入り込んだ状態になっている。
【0065】
複数のハット形鋼矢板1は、その継手1dどうしを連結して一列に並べられて鋼矢板壁を構築した状態になっている。また、ハット形鋼矢板1および鋼管2は地盤に打設されており、鋼矢板壁の頭部と鋼管の頭部がコンクリートによって連結されている。
【0066】
この鋼製壁3では、壁体の前面側に鋼管を配置する(鋼管が掘削側となる)場合には、鋼矢板が受けた土圧および水圧を長手方向にわたって連続的に鋼管へ伝達することができる。さらに、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合にも、頭部を連結し、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達が可能な構造とすれば、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧や水圧を分担して受け持つ構造となる。すなわち、土圧の作用する向きに関わらず、合理的な壁体を構築することができる。
また、鋼管と鋼矢板が接して沿うことで、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みが最小限に抑えられる。ここで、壁体頭部と鋼管頭部との連結手法は特に問わない。例えば、コーピング、溶接、ボルト、ドリルねじ等が挙げられ、必要に応じて複数の連結方法を併用することもできる。例えば、鋼管と壁体を跨るようにコンクリートが打設されるようにすれば、鋼管と壁体との間の天端が陥没する等の危険性が少ない上、美観にも優れる。
その他、鋼矢板および鋼管のそれぞれの根入れ長については、上述の第1の実施形態の鋼製壁3についての根入れの考え方と同様である。
【0067】
図7では、全てのハット形鋼矢板1に対し鋼管2がそれぞれ接する構造になっているが、剛性が許容される範囲であれば、ハット形鋼矢板1に対して、1つおきに鋼管2を組み合わせるなどして、鋼管2を間引くこともできる(つまり、鋼管を離散的に配置することもできる)。
以上により、鋼製壁3は、鋼矢板からなる鋼矢板壁の継手部で高い止水性能を得ることができ、鋼管2により高い剛性を得ることができる。
また、鋼矢板の剛性、鋼管の外径、鋼管の板厚、鋼管どうしの間隔などを変化させることによって、壁体の剛性を場所によって任意に設定することができる。この場合に壁高(壁体の高さ)が低い部分で過剰な剛性になるのを防止することに加え、剛性から要求される根入れ長も小さくすることができ、それによりコストの低減を図ることができる。
【0068】
次に、第3の実施形態の鋼製壁3の施工方法に関し、鋼矢板1および鋼管2の圧入については、上述の第1の実施形態の鋼製壁3の施工方法と同じであり、鋼矢板1(壁体4)と鋼管2とを打設した後の連結施工については、上述の第2の実施形態のコーピング5の施工方法と同じであるので、説明を省略する。
【0069】
壁体4を構成する鋼矢板は、ハット形鋼矢板1に限られるものではなく、U形鋼矢板、Z形鋼矢板等の各種鋼矢板を用いることができるが、上述の通りハット形鋼矢板を用いるのが好ましい。
【0070】
さらに、以下では、本発明の鋼製壁の様々な態様について説明する。
上述の鋼製壁は、鋼製壁3において、鋼管2がハット形鋼矢板1の谷側のウェブ1aに接していたのに対して、図10に示す第4の実施形態に係る鋼製壁3は、鋼管2がハット形鋼矢板1の山側のウェブ1aに接するようにしたものである。すなわち、鋼管2は、鋼矢板壁の一方の側面の山部分に接している。
鋼製壁3において、鋼管2とハット形鋼矢板1とを接するように設けず、間隔をあけて並べて設ける構造とすることもできる。この場合には、ハット形鋼矢板(壁体)と鋼管が頭部で連結させる必要がある。
【0071】
また、図11に示す第5の実施形態に係る鋼製壁3は、U形鋼矢板を用いたものである。この鋼製壁では、U形鋼矢板の有効幅に対して鋼管2の径を大きくしたものであり、鋼管2を大断面としたことにより、鋼管2が高い剛性を有するものになる。
鋼管2は、2のU形鋼矢板により形成される谷部分に入り込み、1のU形鋼矢板のフランジ1bの外側に接触した状態となっている。
また、鋼管2は、各谷部分に配置されるのではなく、1つおきの谷部分に配置されるようになっている。なお、谷部分に対して2つおき等のように1つおきより広い間隔があくように鋼管2を配置してもよい。
【0072】
さらに、図12に示す第6の実施形態に係る鋼製壁3は、板厚が異なる鋼管を用いたものである。このような鋼製壁では、例えば、近傍に構造物や盛土などが存在する場合などで、連続する壁体の中で作用土圧などが変化する場合に、壁体4の位置によって剛性を変えることができる。また、設けられる鋼管の外形は同一であり、鋼管の外形に合わせて杭圧入装置(鋼管の把持装置)を変更しなくてもよいので、施工上も有利である。
【符号の説明】
【0073】
1 鋼矢板(ハット形鋼矢板、U形鋼矢板)
2 鋼管
3 鋼製壁
4 壁体(矢板壁)
5 コーピング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、
前記壁体の全てまたは一部の前記鋼矢板に鋼管がその長手方向を前記鋼矢板の長手方向に沿わせて接するように設けられた鋼製壁であって、
壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、前記壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする鋼製壁。
【請求項2】
複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、
前記壁体の全てまたは一部の前記鋼矢板に鋼管がその長手方向を前記鋼矢板の長手方向に沿って、前記壁体と間隔をあけて並べて設けられ、
前記壁体と前記鋼管とが、両者の頭部で連結されている鋼製壁であって、
壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、前記壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする鋼製壁。
【請求項3】
複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、
前記壁体の全てまたは一部の前記鋼矢板に鋼管がその長手方向を前記鋼矢板の長手方向に沿わせて接するように設けられ、
前記壁体と前記鋼管とが、両者の頭部で連結されている鋼製壁であって、
壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、前記壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする鋼製壁。
【請求項4】
複数設けられた前記鋼管の外径が同一であり、鋼管の板厚および/または鋼管どうしの間隔を変化させることによって、壁体内で剛性を変化させたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鋼製壁。
【請求項5】
前記鋼矢板と前記鋼管とは、それぞれの長手方向の長さが互いに異なることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鋼製壁。
【請求項6】
前記壁体は、山と谷とを繰り返す略波状に形成され、前記鋼管は、前記壁体の谷部分に入り込んで設けられたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の鋼製壁。
【請求項7】
鋼管が設置された谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して鋼矢板から反力を取り、鋼管を油圧圧入または回転圧入することを特徴とする請求項6に記載の鋼製壁。
【請求項8】
前記鋼管は、前記壁体の一側面に連続的に並んで形成されている複数の谷部分に離散的に設けられていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の鋼製壁。
【請求項9】
前記壁体は、山と谷とを繰り返す略波状に形成され、前記鋼管は、前記壁体の山部分に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の鋼製壁。
【請求項10】
鋼管が設置された山部分に隣接する谷部分の壁体を把持して鋼矢板から反力を取り、鋼管を油圧圧入または回転圧入することを特徴とする請求項9に記載の鋼製壁。
【請求項11】
前記鋼管は、前記壁体の一側面に連続的に並んで形成されている複数の山部分に離散的に設けられていることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の鋼製壁。
【請求項1】
複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、
前記壁体の全てまたは一部の前記鋼矢板に鋼管がその長手方向を前記鋼矢板の長手方向に沿わせて接するように設けられた鋼製壁であって、
壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、前記壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする鋼製壁。
【請求項2】
複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、
前記壁体の全てまたは一部の前記鋼矢板に鋼管がその長手方向を前記鋼矢板の長手方向に沿って、前記壁体と間隔をあけて並べて設けられ、
前記壁体と前記鋼管とが、両者の頭部で連結されている鋼製壁であって、
壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、前記壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする鋼製壁。
【請求項3】
複数の鋼矢板が継手により連結されて壁体が設けられるとともに、
前記壁体の全てまたは一部の前記鋼矢板に鋼管がその長手方向を前記鋼矢板の長手方向に沿わせて接するように設けられ、
前記壁体と前記鋼管とが、両者の頭部で連結されている鋼製壁であって、
壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入することにより、前記壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする鋼製壁。
【請求項4】
複数設けられた前記鋼管の外径が同一であり、鋼管の板厚および/または鋼管どうしの間隔を変化させることによって、壁体内で剛性を変化させたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鋼製壁。
【請求項5】
前記鋼矢板と前記鋼管とは、それぞれの長手方向の長さが互いに異なることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鋼製壁。
【請求項6】
前記壁体は、山と谷とを繰り返す略波状に形成され、前記鋼管は、前記壁体の谷部分に入り込んで設けられたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の鋼製壁。
【請求項7】
鋼管が設置された谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して鋼矢板から反力を取り、鋼管を油圧圧入または回転圧入することを特徴とする請求項6に記載の鋼製壁。
【請求項8】
前記鋼管は、前記壁体の一側面に連続的に並んで形成されている複数の谷部分に離散的に設けられていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の鋼製壁。
【請求項9】
前記壁体は、山と谷とを繰り返す略波状に形成され、前記鋼管は、前記壁体の山部分に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の鋼製壁。
【請求項10】
鋼管が設置された山部分に隣接する谷部分の壁体を把持して鋼矢板から反力を取り、鋼管を油圧圧入または回転圧入することを特徴とする請求項9に記載の鋼製壁。
【請求項11】
前記鋼管は、前記壁体の一側面に連続的に並んで形成されている複数の山部分に離散的に設けられていることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の鋼製壁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−104282(P2013−104282A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251141(P2011−251141)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000141521)株式会社技研製作所 (83)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000141521)株式会社技研製作所 (83)
【Fターム(参考)】
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