説明

錠剤マトリックスにおけるゾルピデムの多形転移

ゾルピデムヘミ酒石酸塩の多形の変換方法、該方法は、ゾルピデムヘミ酒石酸塩を含む錠剤を、熱および/または水分で処理することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ゾルピデムヘミ酒石酸塩(Zolpidem hemitartrate)を含む固体医薬製剤の製造方法に関し、より具体的には、本発明は、錠剤の製造工程で、ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形を所望の多形に変換することに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
抗不安、鎮静および催眠特性を有し、不眠の短期的処置にF.D.A.で承認されている既知の医薬であるゾルピデムは、以下の構造式:
【化1】

を有する。
【0003】
ゾルピデムを含む多くの医薬の固体は、様々な物理的形態、例えば、結晶形または無定形で存在する。多形は、同じ薬物物質の異なる結晶形の存在を表す。無定形固体は、分子の無秩序な配置からなり、識別可能な結晶格子を有さない。溶媒和物は、結晶構造中に組み込まれた一定量の溶媒を含有する結晶性固体である。組み込まれた溶媒が水であれば、溶媒和物は一般的に水和物としても知られている。
【0004】
当分野では、薬物分子の結晶形(多形)を、様々な環境条件下で、典型的には、水、有機溶媒、溶媒の混合物または溶媒の蒸気と接触させて、製造または転移できることが知られている。薬物分子の多形および/または溶媒和物は、様々な化学および/または物理特性を有し得る。例えば、多形および/または溶媒和物は、融点、化学的反応性、粒径、形状、流動特徴、固化、水和度または溶媒和度、光学的および電気的特性、蒸気圧および密度において、実質的に異なり得る。結果として、薬物分子のある種の多形は、所定の環境条件または選択された溶媒系において、他のものより安定である。
【0005】
医薬の固体中の多形を特徴付けるために、数々の方法が用いられてきた (H. Brittain. Methods for the Characterization of Polymorphs and Solvates, POLYMORPHISM IN PHARMACEUTICAL SOLIDS, H. G. Brittain (ed.), Marcel Dekker, Inc., New York, 1999, pp. 227-278)。最も一般的なものには、偏光顕微鏡(polarizing optical microscopy)および熱顕微鏡(thermomicroscopy)、示差走査熱量測定(DSC)および熱重量分析(TGA)などの熱分析方法、並びに固体状態の分光測定がある。多形の存在の決定的基準は、通常x線回折パターン(例えば粉末X線回折(pXRD)による)の比較による不同の結晶構造の証明によるが、顕微鏡、熱分析方法および固体状態のNMRなどの支持情報が一般的に使用される。
【0006】
多形は、薬物物質の加工性および最終生成物の品質に対して直接的な影響を有する。例えば、粒径、形状、流動特徴、融点、水和度または溶媒和度および固化傾向を含む物理的特性は、化学的処理、材料の取扱い、補助剤との適合性、混合物中での偏析、水性媒体中での薬物の溶解速度および最終投与形の安定性における困難の原因となり得る。ところが、多形転移による化学的特性の変化は、熱、光、水分、機械的取扱い、酸素および補助剤との相互作用などの環境要因により誘導される薬物の分解に影響を与え得る。この有害作用は、製造効率の損失(時間および費用)、製品の品質および不安定性を引き起こし得る。従って、投与形の開発において、適当な多形を利用するのが望ましい。
【0007】
ある多形から他のものへの変換の可能性が最も低いので、薬物物質の最も安定な多形がしばしば使用されるが、一方で、バイオアベイラビリティーを増強するために準安定な多形が使用され得る。ギブズ自由エネルギー、熱力学的活性および溶解性は、所定の温度および圧力条件下での相対的な多形の安定性の決定的な測定を提供する。
【0008】
特に準安定な多形を使用するとき、ある多形は、製造および保存の間に他のものに変換し得る。無定形は、熱力学的に結晶形より安定ではないので、無定形薬物物質からの不測の結晶化が起こり得る。高い移動性および水分と相互作用する能力のために、無定形の薬物物質は、また、より固相反応を受けやすい。固相反応には、固相の相変態、脱水/脱溶媒過程および化学反応が含まれる。
【0009】
加えて、様々な製造工程に曝されると、いくつかの薬物物質の相変換が起こり得る (H. G. Brittain and E. F. Fiese, Effect of Pharmaceutical Processing on Drug Polymorphs and Solvates, POLYMORPHISM IN PHARMACEUTICAL SOLIDS, H. G. Brittain (ed.), Marcel Dekker, Inc., New York, 1999, pp. 331-362)。粉砕操作は、薬物物質の多形の変換をもたらし得る。通常溶媒は水性である湿式造粒法の場合、無水物と水和物との間で、または異なる水和物間で、様々な変換に遭遇し得る。
【0010】
ある多形または多形の混合物または多形と無定形物質の混合物を、製剤化工程の間に最終投与形において望ましい多形に特異的に変換できる方法があるのが有利である。利益には、工程の簡略化、製造コストの削減、並びに、医薬有効成分および完成投与形の両方の加工の容易さの上昇が含まれる。
【0011】
ゾルピデムヘミ酒石酸塩は、数種の多形で存在することが知られており、その中で、A、B、C、D、E、F、GおよびH形が知られている。Teva Pharmaceutical Industries, Ltd のWO01/80857A1参照。Teva Pharmaceutical Industries, Ltd. は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸エチルなどとの溶媒和によりゾルピデム多形を変換する方法を開示した。開示された方法の結果は、特に製造スケールで、しばしば再現不可能である。その開示では、多形Eは、水または溶媒接触から単離された他の多形から変換された。その方法で要求される余分な化学処理段階および溶媒回収段階の必要性は、製造コストを高め得る。さらに、いくつかの多形は、それらの物理的特性のために、特に処理が困難である。
【0012】
ゾルピデムヘミ酒石酸塩も、外界の保存条件下で、多形転移を受け得る。我々は、pXRD分析の結果によると、本革新者らの生成物中にゾルピデム多形Eを見出した;しかしながら、出発物質は、欧州薬局方の研究書によると、多形Aであるべきである。一貫した放出プロフィールおよびバイオアベイラビリティーを提供するために、完成生成物中に一貫した多形Eを有するのが望ましい。
【発明の開示】
【0013】
本発明の概要
本発明の様々な態様の中には、投与量製剤化工程における、錠剤マトリックス中のゾルピデムヘミ酒石酸塩の多形転移の方法がある。投与量製剤化工程における錠剤中の多形の変換は、活性物質の最終投与形への製剤化に先立ち所望の形態を産生する化学的工程の必要性を排除する。
【0014】
本発明の他の態様は、錠剤または粒子などの物質を被覆する工程における、ゾルピデムヘミ酒石酸塩の多形転移の方法である。ある実施態様では、転移は、噴霧乾燥工程において、ゾルピデムヘミ酒石酸塩の多形を安定な多形に変換することからなる。
【0015】
従って、簡潔に述べると、本発明は、ゾルピデムヘミ酒石酸塩をゾルピデムヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換する方法であって、ゾルピデムヘミ酒石酸塩を含む錠剤を製造し、錠剤を一定量の溶媒で溶媒和させてゾルピデムヘミ酒石酸塩をゾルピデムヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換することを含む方法を対象とする。
【0016】
本発明は、さらに、ゾルピデムヘミ酒石酸塩をゾルピデムヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換する方法であって、その化合物のヘミ酒石酸塩を含む錠剤を製造し、錠剤を加熱して、その化合物のヘミ酒石酸塩をその化合物のヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換することを含む方法を対象とする。
【0017】
本発明は、また、さらに、ゾルピデムヘミ酒石酸塩をゾルピデムヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換する方法であって、ゾルピデムヘミ酒石酸塩を含む被覆溶液を製造し、錠剤を被覆溶液で被覆してゾルピデムヘミ酒石酸塩をゾルピデムヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換することを含む方法を対象とする。
【0018】
本発明の他の態様を、下記により詳細に記載する。
【0019】
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明は、全体的工程を簡略化し、製造コストを削減し、生成物の品質を改良するために、様々な多形で存在するゾルピデムヘミ酒石酸塩を、投与形の製剤化工程の間に所望の多形に転移させる方法に関する。特に、本発明は、ゾルピデムヘミ酒石酸塩の様々な多形または無定形物質を、錠剤マトリックス中で所望の多形に変換する方法を含む。本明細書で論ずるゾルピデム多形は、Teva Pharmaceutical Industries, Ltd.のWO01/80857A1で特定されるものであることに留意されたい。その開示の全体をあらゆる目的で出典明示により本明細書の一部とする。
【0020】
本発明によると、その多形のいずれかの、または多形の混合物としての、または不定形物質としてのゾルピデムヘミ酒石酸塩を、適当な医薬補助剤と混合し、ゾルピデムヘミ酒石酸塩を含む錠剤を形成させ、次いでそれをさらなる処理に付し、様々な多形を所望の多形、例えば、多形C、多形Dまたは好ましくは多形Eに変換する。典型的な医薬補助剤には、ラクトース、フルクトース、マルトデキストリン、マルトース、マンニトール、ソルビトール、スクロースおよびそれらの混合物などの糖;クエン酸、酒石酸、グリコール酸およびこれらの混合物を含む有機酸;酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩およびこれらの混合物を含むバッファー;微結晶セルロース(MCC, Avicel(登録商標), available from FMC Corporation)、ヒドロキシメチルプロピルセルロース(HMPC, Opadry(登録商標), available from Colorcon)、エチルセルロース、プロピルセルロース、スターチ、スターチグリコール酸ナトリウムおよびこれらの混合物を含むポリマー性物質;および、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤が含まれる。好ましくは、補助剤は、多形転移を助長するように選択する。より好ましくは、医薬補助剤には、ラクトース、ステアリン酸マグネシウムおよび微結晶セルロースおよび/またはスターチグリコール酸ナトリウムが含まれる。ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形および医薬担体を、当分野で知られている方法に従い、乾式で配合し、錠剤に打錠できる。打錠された錠剤は、典型的には、約120mgの重さであり、約5mgないし約10mgのゾルピデムヘミ酒石酸塩を含む。
【0021】
ゾルピデムヘミ酒石酸塩をその多形のいずれかで含む錠剤を、制御された工程条件下で熱および/または環境の水分に付すことにより、多形転移を実施できる。それらの錠剤を、温度、相対湿度および他の条件を制御できる環境チャンバー中に置くことができる。例えば、環境チャンバーは、温度および湿度の制御を可能にするオーブンであり得、錠剤を約40℃、好ましくは少なくとも約50℃、より好ましくは少なくとも約65℃を超える温度に加熱できる。加熱中に、相対湿度が少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%であるように相対湿度を制御できる。好ましくは、湿気のある大気は、水蒸気を含む。ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形を、これらの条件に従い錠剤マトリックス内で所望の安定な多形に変換できる。例えば、比較的乾燥した条件下での熱処理を使用して、ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形を好ましくは多形Cに変換できることが見出された。熱および湿気による処理下で、ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形は、好ましくは多形Dに変換する。
【0022】
錠剤マトリックス内のゾルピデムヘミ酒石酸塩多形を、制御された乾燥を伴う高水分または湿潤処理により、多形Eに変換できる。湿潤処理は、その処理が錠剤の完全性を損なわずに錠剤全体に亘り十分な湿潤を達成する条件で、噴霧または浸漬により行うことができる。十分な湿潤を達成するために、水流速度、空気流、および乾燥温度などの工程条件の均衡を保ち、コーティングパンまたは他の設備のサイズ、バッチのサイズ、錠剤の形状および錠剤の硬さに応じて最適化する。水流速度、空気流および乾燥温度の正確な値は、上記のパラメーターに応じて変動するが、錠剤全体に水分を分散させ、同時に乾燥させるために、十分に錠剤を湿らせるようにこれらを調整することが重要である。好ましくは、錠剤を水で湿らせる。例示的な湿潤工程では、錠剤をコーティングパンに入れ、回転させ、穏やかな加熱および空気流速度の条件下で水の噴霧により湿らせる。好ましくは、錠剤を硬くし、また錠剤の吸湿性を高めるために、Opadry(登録商標)として販売されているHMPCで錠剤を被覆する。好ましくは、錠剤の完全性を損なわずにゾルピデムヘミ酒石酸塩多形を多形Eに変換するのに十分な湿潤のために、錠剤が少なくとも約5重量%の水を吸収するように工程条件を最適化する。約25℃ないし約45℃の温度で、約22CFMの入口空気流で、そして約10rpmのパン回転速度での湿潤が、錠剤に約5重量%の水を吸収させるのに十分であることが見出された。
【0023】
好ましくは上記の方法で製造した多形Eを含む湿った錠剤を、少なくとも約50℃、より好ましくは少なくとも約80℃の温度で熱処理し、多形Eを異なる多形、例えば多形Cに変換できることも見出された。
【0024】
あるいは、多形転移は、被覆工程において、プラセボ錠剤を、ゾルピデムヘミ酒石酸塩をその多形のいずれかで、または多形の混合物として、または無定形物質として含む溶液または分散物で噴霧することにより実施できる。スラリー製造および被覆工程の結果、ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形は被覆錠剤中で実質的に多形Eに変換される。
【0025】
被覆溶液を製造するために、水、水性溶液または水と少量の医薬的に許容し得る溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、または酢酸エチルとの混合物中に、ゾルピデムヘミ酒石酸塩を溶解または懸濁する。好ましくは、溶媒は水である。ゾルピデムヘミ酒石酸塩を含む水性溶液は、Opadry(登録商標)などのポリマー性結合剤も含み得る。
【0026】
ゾルピデムヘミ酒石酸塩溶液で被覆するのに有用な支持体は、好ましくは、錠剤または固体投与形の粒子の製造に一般的に使用される医薬補助剤を含む丸剤または錠剤である。そのような補助剤には、上記のものが含まれる。好ましくは、プラセボ錠剤は、ラクトース、微結晶セルロースおよびステアリン酸マグネシウムを含む。他の好ましいプラセボ錠剤製剤は、ラクトース、微結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシメチルプロピルセルロースおよびスターチグリコール酸ナトリウムを含む。好ましくは、被覆に適する支持体は、水、水性溶液または溶媒の混合物を適用したとき、十分な完全性および水吸収能力を示す。
【0027】
適当な溶媒系中のゾルピデムヘミ酒石酸塩の水性溶液、または、ゾルピデムヘミ酒石酸塩の懸濁液を、コーティングパンまたは流動床被覆機などの常套の噴霧被覆設備を使用して、支持体に適用できる。ゾルピデムヘミ酒石酸塩を含む溶液でプラセボ錠剤を噴霧被覆することにより、ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形Eを含む活性のある錠剤が得られることが見出された。
【実施例】
【0028】
以下の実施例は、本発明の実施をさらに例示説明する。
【0029】
実施例1.錠剤の製造
ゾルピデムヘミ酒石酸塩(多形A)、ラクトースおよびステアリン酸マグネシウムを、ビーカー中で徹底的に混合した。各成分の量を表1に示す。粉末混合物を打錠機(Korsch PH106)に供給し、0.3437インチ深のカップ形の型を使用して打錠し、錠剤を製造した。各錠剤は約120mgの重量であり、約10kPaの硬度を有した。
表1.
ゾルピデムヘミ酒石酸塩形態Aの錠剤組成
【表1】

【0030】
実施例2.熱および水分処理によるゾルピデム多形の変換
実施例1の錠剤のサンプルを、オーブン中、65℃で、18時間加熱した。別の錠剤サンプルを、湿度制御オーブン中で加熱した(75%相対湿度、50℃、24時間)。上記処理したサンプル、並びに、実施例1由来の非処理粉末混合物および非処理錠剤を、粉末X線回折(pXRD)により分析した。
【0031】
pXRD分析の結果は、非処理粉末混合物および非処理錠剤中のゾルピデムヘミ酒石酸塩は、多形Aのままであることを示した。65℃で処理した錠剤中のゾルピデムヘミ酒石酸塩は、多形Cに転移した。熱および水分で処理したゾルピデムヘミ酒石酸塩は、多形Dに転移した。結果を表2に示す。
表2
熱処理の結果
【表2】

【0032】
実施例3.水処理による多形Aから多形Eへのゾルピデム多形の変換
ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形Aを含有する錠剤(実施例1)を、ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形Aを安定な多形Eに変換するために、以下のプロトコールに従って処理した:
1.ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形A、ラクトース316および微結晶セルロース(Avicel(登録商標) PH 200)を、V型の配合機に入れ、5分間混合した。各成分の量を表3aに示す。
2.ステアリン酸マグネシウム(表3aに示す量)を粉末に添加し、粉末をさらに3分間混合した。
3.工程2由来の粉末混合物を、打錠機(Manesty Beta 打錠機 (No. 59348 のパンチ))で、表3bに示すパラメーターを使用して、120mgの錠剤に打錠した。Force Feeder を適用し、錠剤を6kNの圧縮力で圧縮した。硬度試験装置により錠剤の硬度を測定した。平均硬度は約5kPaであった。
4.工程3由来のゾルピデムヘミ酒石酸塩多形Aの錠剤を、コーティングパンに入れ、それを表3cに示すパラメーターを使用して作動させた。
5.噴霧器により水を適用し、錠剤表面を湿らせた。錠剤表面を十分に湿らせたら、パンを停止させた。錠剤をすぐに被覆機から取り出し、Ziploc バック中に密封した。
6.錠剤の多形をpXRDにより24時間後に決定した。
【0033】
低速噴霧条件下で、錠剤が1重量%のみの水を吸収するとき、24時間後に錠剤に検出可能な多形の変化はなかった。水噴霧方法を再度繰り返した。錠剤の水含有量は約5重量%に増加した。錠剤サンプルをpXRDにより分析し、ゾルピデムヘミ酒石酸塩は多形Eに変換したと判明した。表3d参照。
表3a
ゾルピデムヘミ酒石酸塩形態Aを含有する錠剤組成物
【表3】

【0034】
表3b
錠剤化パラメーター
【表4】

表3c
Accela Cota コーティングパンのパラメーター
【0035】
【表5】

【0036】
表3d
水の取り込みによる多形転移の結果
【表6】

【0037】
実施例4.熱処置によるゾルピデム多形の多形Eから多形Cへの変換
実施例3由来の錠剤を、オーブン中、80℃で終夜加熱し、pXRDにより分析した。錠剤中のゾルピデムヘミ酒石酸塩多形Eは、多形Cに変換した。
【0038】
実施例5.多形Eのゾルピデムヘミ酒石酸塩を有する被覆プラセボ錠剤の製造
表4aに示す成分を有するプラセボ錠剤を製造した。以下のプロトコールに従い、錠剤を製造した:
1.微結晶セルロース (Avicel(登録商標) PH200) およびラクトース316をV型配合機に入れ、粉末を5分間混合した。
2.ステアリン酸マグネシウムを添加し、粉末をさらに3分間混合した。
3.表4bに示すパラメーターを使用して、粉末混合物を錠剤に圧縮した(Manesty Beta 打錠機) 。Force Feeder を使用し、錠剤を7kNの圧縮力で圧縮した。錠剤は約120mgの重量であり、約5kPaの硬度を有した。
4.多形Aとしてのゾルピデムヘミ酒石酸塩および Opadry(登録商標) (Colorcon)を含有する被覆用分散物を製造した。被覆の組成を表4cに示す。
5.錠剤(600g)をコーティングパンに入れ、表4dに示す被覆パラメーターを使用して被覆した。活性のある懸濁液をプラセボ錠剤に噴霧した。
【0039】
工程5由来の錠剤は、pXRDによりゾルピデムヘミ酒石酸塩多形Eを含有すると示された。
表4a
プラセボ錠剤の組成
【表7】

【0040】
表4b
錠剤化パラメーター
【表8】

【0041】
表4c
活性のある被覆の組成
【表9】

【0042】
表4d
被覆工程のパラメーター
【表10】

【0043】
実施例6.ゾルピデムヘミ酒石酸塩多形Eで被覆された錠剤の安定性試験
実施例5の被覆錠剤中のゾルピデムヘミ酒石酸塩多形Eの安定性を試験するために、錠剤を以下の後処理工程に付した:
1.約1000μmグレードの篩 (2A062G03123139) およびインペラー(2A1601173) を備えた CoMil を使用して、実施例5由来の錠剤サンプル(1kg)を粉砕した。機械を1300rpmで運転した。生成物は粒状形態であった。
2.顆粒を微結晶セルロース(Avicel(登録商標) PH 200)およびラクトースと5分間配合した。組成を表5aに示す。
3.ステアリン酸マグネシウムを粉末混合物に添加し、粉末混合物をさらに3分間混合した。
4.表5bに示すパラメーターを使用して、粉末混合物を圧縮した(Manesty Beta 打錠機)。
【0044】
pXRDにより錠剤を分析した。それは、ゾルピデムヘミ酒石酸塩が多形Eのままであることを示した。
表5a
錠剤組成
【表11】

【0045】
表5b
錠剤化パラメーター
【表12】

【0046】
実施例7.ゾルピデムヘミ酒石酸塩を多形Eで有する被覆プラセボ錠剤の製造
以下の工程に従ってプラセボ錠剤(製造は実施例5に記載)を被覆するために、数種の多形(A、CおよびD)の混合物を有するゾルピデムヘミ酒石酸塩を使用した:
1.1時間撹拌することにより、ゾルピデムヘミ酒石酸塩(80g)および水(1700g)を含有する活性のある溶液を製造した。
2.Opadry(登録商標)(34g)を活性のある溶液に添加し、溶液を1時間撹拌した。錠剤を製造するための成分を表6aに示す。
3.プラセボ錠剤(600g、各錠剤は122mgの重量である)を、コーティングパンに入れ、段階2の活性のある溶液で、表6bに記載の被覆パラメーターを使用して被覆し、表6cに示す組成を有する錠剤を得た。
4.約1000μmの格子の篩(2A062G03123139)およびインペラー(2A1601173) を有する CoMil を1300rpmで使用して、被覆錠剤を粉砕し、顆粒を得た。
5.顆粒を Avicel(登録商標)(50g)およびラクトース(150g)と配合し、5分間混合した。
6.ステアリン酸マグネシウム(4.28g)を添加し、混合物をさらに3分間混合した。混合物の総合的組成を表6dに示す。
7.打錠機(Manesty Beta press)を使用し、表6eに示すパラメーターを使用して、配合した物質を錠剤に打錠した。
【0047】
得られる被覆錠剤中のゾルピデムヘミ酒石酸塩は、pXRD分析により、多形Eであると判明した。
表6a
錠剤組成
【表13】

【0048】
表6b
被覆工程のパラメーター
【表14】

【0049】
表6c
錠剤組成
【表15】

【0050】
表6d
最終錠剤組成
【表16】

【0051】
表6e
錠剤化パラメーター
【表17】

【0052】
上記に照らして、本発明のいくつかの目的が達成され、他の有利な結果が得られたことが理解されるであろう。
【0053】
本発明の要素または好ましい実施態様を紹介するとき、冠詞「ある(a)」「ある(an)」「その(the)」および「該(said)」は、1個またはそれ以上のそれらの要素があることを意味すると意図している。用語「含む」「包含する」および「有する」は、包含的であり、列挙した要素の他にさらなる要素があり得ることを意味すると意図している。
【0054】
本発明の範囲から逸脱せずに、上記において様々な変更を行い得るので、上記に含まれ、添付の図面に示される全ての事項は例示的であり、限定的な意味ではないと意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造:
【化1】

を有する化合物のヘミ酒石酸塩を、該化合物のヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換する方法であって、
該化合物のヘミ酒石酸塩を含む錠剤を製造すること;および、
該錠剤を一定量の溶媒で溶媒和させ、該化合物のヘミ酒石酸塩を、該化合物のヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換すること、
を含む方法。
【請求項2】
溶媒が液体または蒸気である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒が水蒸気である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
溶媒が液体の水である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
水が錠剤の少なくとも約5重量%を占めるように錠剤が水を吸収する、請求項2、請求項3または請求項4に記載の方法。
【請求項6】
所望の多形が多形Eである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該化合物のヘミ酒石酸塩を、水蒸気を含む約50%より高い相対湿度を有する大気に曝すことにより、該化合物のヘミ酒石酸塩を溶媒和させる、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
錠剤を少なくとも約40℃に加熱することをさらに含む、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
所望の多形が多形Dである、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
錠剤が、ラクトース、フルクトース、マルトデキストリン、マルトース、マンニトール、ソルビトール、スクロース、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩、微結晶セルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、スターチ、スターチグリコール酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウムおよびこれらの組合せからなる群から選択される補助剤をさらに含む、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
錠剤が、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、スターチ、スターチグリコール酸ナトリウムおよび微結晶セルロースをさらに含む、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
構造:
【化2】

を有する化合物のヘミ酒石酸塩を、該化合物のヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換する方法であって、
該化合物のヘミ酒石酸塩を含む錠剤を製造すること;および、
錠剤を加熱し、該化合物のヘミ酒石酸塩を、該化合物のヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換すること、
を含む方法。
【請求項13】
錠剤を少なくとも約50℃に加熱する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
錠剤が、ラクトース、フルクトース、マルトデキストリン、マルトース、マンニトール、ソルビトール、スクロース、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩、微結晶セルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、スターチ、スターチグリコール酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウムおよびこれらの組合せからなる群から選択される補助剤をさらに含む、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項15】
錠剤が、ラクトース、ステアリン酸マグネシウムおよびヒドロキシメチルプロピルセルロースを含む、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項16】
錠剤が、ラクトース、セルロースおよびステアリン酸マグネシウムを含む、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項17】
所望の多形が多形Cである、請求項12ないし請求項16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
構造:
【化3】

を有する化合物のヘミ酒石酸塩を、該化合物のヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換する方法であって、
該化合物のヘミ酒石酸塩を含む被覆溶液を製造すること;および、
錠剤を該被覆溶液で被覆し、該化合物のヘミ酒石酸塩を、該化合物のヘミ酒石酸塩の所望の多形に変換すること、
を含む方法。
【請求項19】
該化合物のヘミ酒石酸塩を液体の水に溶解することにより被覆溶液を製造する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
被覆溶液がさらにヒドロキシメチルプロピルセルロースを含む、請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
錠剤が、ラクトース、微結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシメチルプロピルセルロースおよびスターチグリコール酸ナトリウムを含む、請求項18ないし請求項20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
錠剤が、ラクトース、微結晶セルロースおよびステアリン酸マグネシウムを含む、請求項18ないし請求項20のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
該被覆溶液を錠剤に噴霧することにより錠剤を被覆する、請求項19ないし請求項22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
所望の多形が多形Eである、請求項18ないし請求項23のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2009−511627(P2009−511627A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536591(P2008−536591)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/037586
【国際公開番号】WO2007/047047
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(595181003)マリンクロッド・インコーポレイテッド (203)
【氏名又は名称原語表記】Mallinckrodt INC.
【Fターム(参考)】