鍛造成形装置および鍛造成形方法
【課題】プレス回転数が高速になっても安定した成形品の姿勢を保持でき、生産性に優れた鍛造成形装置および鍛造成形方法を提案する。
【解決手段】上方ダイス21と下方ダイス22とが重ね合わされた状態でキャビティ24が形成されている金型23が下降して、金型23のキャビティ24内に、下方パンチ26のみ又は下方パンチ26と上方パンチ25とが同じ速度で押し込まれてこのキャビティ24内のワークWを圧縮する。金型23の下降の下死点近傍において、下方パンチ26を下方ダイス22に対して相対的に固定する。これによって、キャビティ23内においてワークWが圧縮されてなる成形品Sと下方パンチ26との間の空間形成を規制する。
【解決手段】上方ダイス21と下方ダイス22とが重ね合わされた状態でキャビティ24が形成されている金型23が下降して、金型23のキャビティ24内に、下方パンチ26のみ又は下方パンチ26と上方パンチ25とが同じ速度で押し込まれてこのキャビティ24内のワークWを圧縮する。金型23の下降の下死点近傍において、下方パンチ26を下方ダイス22に対して相対的に固定する。これによって、キャビティ23内においてワークWが圧縮されてなる成形品Sと下方パンチ26との間の空間形成を規制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手の内側継手部材等の鍛造品を成形する鍛造成形装置および鍛造成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来には、例えば、トリポード型等速自在継手のトリポード部材を成形する場合、閉塞鍛造型にて鍛造成形する(特許文献1)。また、閉塞鍛造金型装置として、図15から図21に示すものがある。この場合の閉塞鍛造金型装置は、上方ダイス1と下方ダイス2とを有する金型3と、上方ダイス1と下方ダイス2とが重ね合わされた状態で形成されるキャビティ4に押し込まれる上方パンチ5及び下方パンチ6とを備える。
【0003】
また、下方ダイス2はダイスホルダ7にて保持され、このダイスホルダ7に、下方パンチ6を下方に押し下げる作用を持つシリンダ機構10が付設されている。この場合、ダイスホルダ7の下面に開口する軸方向孔を設け、この孔をもって前シリンダ機構10のシリンダ室11を構成している。また、このシリンダ室11にはピストンロッド12が嵌入されている。このピストンロッド12は支持体13に保持されている。支持体13は、下方パンチ6が内嵌される筒部13aと、この筒部13aの下部に設けられた外鍔部13bとからなり、この外鍔部13bからピストンロッド12が立設されている。そして、シリンダ室11には流体圧供給手段15が連設されている。
【0004】
下方パンチ6は、上部にパンチ部6aが形成され、下部に大径ボス部6bが形成されている。また、支持体13の筒部13aの内径面の上方開口側に小径部16が形成され、この小径部16の段差部16aが下方パンチ6の大径ボス部6bの段差部17に係合する。このため、流体圧供給手段15からシリンダ室11にエア圧が供給されることにより、下方パンチ6は下方へ押し下げられる。
【0005】
上方ダイス1には上方パンチ5が嵌入される孔18が設けられ、下方ダイス2には下方パンチ6が嵌入される孔部19が設けられている。また、孔18の下方開口部18aと、孔部19の上方開口部19aとで前記キャビティ4を構成し、上方パンチ5の下端面(パンチ部)5aにて、キャビティ4の上方開口部を塞ぎ、下方パンチ6のパンチ部6aがキャビティ4の下方開口部に突入状となってこの下方開口部を塞ぐ。
【0006】
次に、前記のように構成された閉塞鍛造金型装置にて、製品を鍛造成形する方法を説明する。まず図16に示すように、上方ダイス1と下方ダイス2とを離間させた開状態として、キャビティ4を構成する下方ダイス2の孔部19の開口部19aにワークWを投入する。この場合、下方パンチ6のパンチ部6aにてワークWを受けることになる。
【0007】
次に、上方ダイス1を下降させて、図17に示すように、この上方ダイス1の下面を下方ダイス2の上面に重ね合わせる。その後、図18に示すように、上方ダイス1と下方ダイス2とを下降させて、下方パンチ6のパンチ部をキャビティ4内に突入させる。これによって、キャビティ4内においてワークWを圧縮して製品を成形する。そして、図19から図22に示すように、上方ダイス1を上昇させた後、ノックアウトピン20を上昇させて下方パンチ6を上昇させることによって、製品(成形品)Sを取り出せばよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−343592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、前記装置においては、図18に示すように製品を成形した後、シリンダ室11の内圧のため、図19に示すように、下方パンチ6と製品(成形品)Sとの間に空間Kが形成される。このため、図20に示すように、上方ダイス1を上昇させた場合、この空間Kの容積が最大に拡大する。その後は、図21に示すように、この空間Kの容積が減少するが、空間Kが形成されたままである。このため、図22に示すように、下方パンチ6を上昇させて成形品Sを取り出す場合、成形品Sが下方ダイス2から離型されると、成形品Sの姿勢が不安定となり、成形品Sが金型3と下方パンチ6から離れ、飛び出し現象が現れる。
【0010】
このような飛出現象は鍛造プレス回転数が高速化するに伴い著しくなる。このため、このような閉塞鍛造での生産性の向上の妨げとなっていた。ところで、成形品の飛び出しを防ぐためには、成形品の下方パンチまたは下方ダイスとの食い付き力を高めればよい。食い付き力を高めるには、金型形状に工夫を凝らすか接触面を増加させればよい。しかしながら、下方パンチへの成形品の食い付き力を高めると搬送装置に負荷がかかることになる。また、下方ダイスとの食い付き力を高めると、成形荷重が増加して金型寿命が短くなる等の問題点があった、
【0011】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、プレス回転数が高速になっても安定した成形品の姿勢を保持でき、生産性に優れた鍛造成形装置および鍛造成形方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の鍛造成形装置は、上方ダイスと下方ダイスとを有する金型を備え、上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態でキャビティが形成されている前記金型が下降して、この金型のキャビティ内に下方パンチのみ又は下方パンチと上方パンチとが押し込まれて、このキャビティ内のワークを圧縮する鍛造成形装置であって、前記金型の下降の下死点近傍で前記下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定して、キャビティ内においてワークが圧縮されてなる成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制する固定機構を備えたものである。
【0013】
本発明の鍛造成形装置によれば、固定機構にて、成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制することができる。このため、成形品を金型から取り出す際の成形品の飛び出し現象を防止できる。
【0014】
前記下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構を備え、前記固定機構は、前記下方ダイスのダイスホルダに付設されて、前記シリンダ機構のシリンダ室内が大気圧状態において、シリンダ機構のピストンロッドに係合するプランジャ機構にて構成することができる。
【0015】
プランジャ機構がシリンダ機構のピストンロッドに係合することによって、下方ダイスと下方パンチとが固定される。このため、下方パンチの自重等による下降を防止して、成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制することができる。
【0016】
また、シリンダ機構は、上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態で、前記シリンダ機構のシリンダ室内が大気圧状態とする切換手段を備えるものとすることができる。このような切換手段を備えたものでは、切換手段にてシリンダ室内が大気状態となるようにすることによって、下方ダイスと下方パンチとの固定が安定する。すなわち、シリンダ室内が大気状態でなければ、シリンダ室の内圧が高まり、下方ダイスに対して下方パンチを固定しにくいものとなる。これに対して、シリンダ室内が大気状態であれば、シリンダ室の内圧が高まらず、下方ダイスに対して下方パンチを安定して固定することができる。
【0017】
プランジャ機構は、シリンダ機構のピストンロッドの係合凹部に係脱可能に係合する係合部と、この係合部を前記係合凹部側に弾性的に押圧する押圧部材を備えるものとすることができる。係合部がピストンロッドの係合凹部に対応した位置となった場合、押圧部材の弾性力によって係合部を係合凹部側に押圧し、係合部が係合凹部に係合する。また、係合部が押圧部材の弾性力に抗して反係合凹部側に押圧されれば、係合部の係合凹部からの係合状態が解除される。
【0018】
本発明の鍛造成形方法は、上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態でキャビティが形成されている前記金型が下降して、金型のキャビティ内に下方パンチのみ又は下方パンチと上方パンチとが同じ速度で押し込まれて、このキャビティ内のワークを圧縮する鍛造成形方法であって、前記金型の下死点近傍において、下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定して、キャビティ内においてワークが圧縮されてなる成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制するものである。
【0019】
本発明の鍛造成形方法によれば、成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制することができる。このため、成形品を金型から取り出す際の成形品の飛び出し現象を防止できる。
【0020】
前記鍛造成形方法において、金型の下死点直前において、下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構におけるシリンダ室内を大気圧状態とし、この状態で、下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定するのが好ましい。
【0021】
下死点が過ぎて、下方ダイスから上方ダイスが離間した後、下方パンチを上方へ駆動させて、下方ダイスから成形品を離型させ、その後、下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構にて、下方パンチを下方ダイスよりも相対的に押し下げて、次のワークを、下方ダイスに投入するのが好ましい。
【0022】
前記鍛造成形方法においては、成形品が等速自在継手の内側継手部材構成品であるように設定できる。ここで、内側継手部材構成品とは、ゼッパタイプやアンダーカットフリーの固定式等速自在継手の内側継手部材やトリポードタイプの摺動式等速自在継手の内側継手部材としてのトリポード部材等である。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、成形品を金型から取り出す際の成形品の飛び出し現象を防止できるので、ワーク投入及び成形品の取り出しを安定して行うことができる。このため、プレスの高速化に対応することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0024】
固定機構がプランジャ機構にて構成することによって、成形品と下方パンチとの間の空間形成を安定して規制することができ、特に、プランジャ機構が、係合部と、この係合部を前記係合凹部側に弾性的に押圧する押圧部材とを備えたものであれば、空間形成の規制を簡易な構成で行うことができ、低コスト化に寄与する。
【0025】
切換手段を備えたものでは、安定した鍛造成形装置の稼動が可能となって、生産性の向上を一層図ることができる。
【0026】
本発明の鍛造成形方法によって、内側継手部材やトリポード部材等の内側継手部材構成品を成形することができ、これらの生産性の向上を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態を示す鍛造成形装置の断面図である。
【図2】前記鍛造成形装置のプランジャ機構の正面図である。
【図3】前記鍛造成形装置の流体圧供給手段の回路図である。
【図4】前記鍛造成形装置のワーク投入状態の断面図である。
【図5】前記鍛造成形装置の金型合わせ状態の断面図である。
【図6】前記鍛造成形装置の金型プレス状態の断面図である。
【図7】前記鍛造成形装置の金型が下死点を越えた状態の断面図である。
【図8】前記鍛造成形装置の上方ダイスが離間した状態の断面図である。
【図9】前記鍛造成形装置のノックアウト途中の断面図である。
【図10】前記鍛造成形装置のノックアウト完了状態の断面図である。
【図11】前記鍛造成形装置の初期状態に戻した状態の断面図である。
【図12】前記鍛造成形装置にて成形された鍛造成形品を用いたトリポード型等速自在継手の横断面図である。
【図13】前記トリポード型等速自在継手の縦断面図である。
【図14】前記トリポード型等速自在継手の要部拡大図である。
【図15】前記鍛造成形品から成形されたトリポード部材の断面図である。
【図16】従来の鍛造成形装置のワーク投入状態の断面図である。
【図17】前記図16の鍛造成形装置の金型合わせ状態の断面図である。
【図18】前記図16の鍛造成形装置の金型プレス状態の断面図である。
【図19】前記図16の鍛造成形装置の金型が下死点を越えた状態の断面図である。
【図20】前記図16の鍛造成形装置の上方ダイスが離間した状態の断面図である。
【図21】前記図16の鍛造成形装置のノックアウト途中の断面図である。
【図22】前記図16の鍛造成形装置のノックアウト完了状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0029】
図1は本発明の鍛造成形装置を示し、この鍛造成形装置は、上方ダイス21と下方ダイス22とを有する金型23と、上方ダイス21と下方ダイス22とが重ね合わされた状態で形成されるキャビティ24に押し込まれる上方パンチ25及び下方パンチ26とを備える。
【0030】
また、下方ダイス22はダイスホルダ27にて保持され、このダイスホルダ27に、下方パンチ26を下方に押し下げる作用を持つシリンダ機構30が付設されている。この場合、ダイスホルダ27の下面に開口する軸方向孔を設け、この孔をもって前記シリンダ室31を構成している。また、このシリンダ室31にはピストンロッド32が嵌入されている。このピストンロッド32は支持体33に保持されている。支持体33は、下方パンチ26が内嵌される筒部33aと、この筒部33aの下部に設けられた外鍔部33bとからなり、この外鍔部33bからピストンロッド32が立設されている。また、シリンダ室31には流体圧供給手段35が連設されている。この場合、バランス性を考慮して、ピストンロッド32が嵌入されるシリンダ室31を周方向に沿って所定ピッチで複数(例えば、3個)が配設される。
【0031】
下方パンチ26は、上部にパンチ部26aが形成され、下部に大径ボス部26bが形成されている。また、支持体33の筒部33aの内径面の上方開口側に小径部36が形成され、この小径部36の段差部36aが下方パンチ26の大径ボス部26bの段差部37に係合する。
【0032】
ところで、上方ダイス21には上方パンチ25が嵌入される孔40が設けられ、下方ダイス22には下方パンチ26が嵌入される孔部41が設けられている。また、孔40の下方開口部40aと、孔部41の上方開口部41aとで前記キャビティ24を構成し、上方パンチ25の下端面(パンチ部)25aにて、キャビティ24の上方開口部を塞ぎ、下方パンチ26のパンチ部26aがキャビティ24の下方開口部に突入状となってこの下方開口部を塞ぐ。
【0033】
流体圧供給手段35は切換手段Cとしての切換弁45とリリーフ弁46とを備える。そして、図3(b)に示す状態に切換弁45を切り換えれば、図外のエア供給源からコック47を介して、この流体圧供給手段35にエアが供給される。これによって、切換弁45を介して、ダイスホルダ27に開設された通路48にエアが導入され、この通路48からシリンダ室31内に供給される。また、図3(a)に示す状態に切換弁45を切り換えれば、エア供給源からの流体圧供給手段35へのエア供給が停止し、シリンダ室31内が大気状態となる。
【0034】
ところで、この鍛造成形装置には、シリンダ機構30のピストンロッド32を所定上下位置に固定する固定機構Kが設けられている。すなわち、固定機構Kは、下方ダイス22のダイスホルダ27に付設されるプランジャ機構50にて構成される。図2に示すように、プランジャ機構50は、ダイスホルダ27の設けられる径方向に延びる孔部51に配置されるものであって、ピストンロッド32に設けられた係合凹部(周方向凹溝)52に係合する係合部53と、この係合部53を係合凹部52側へ弾性的に押圧する押圧部材54とを備える。具体的には、係合部53はボール体からなり、押圧部材54はコイルスプリングからなる。孔部51の外径側開口部は栓部材55にて塞がれ、この栓部材55と係合部53との間に押圧部材54が介在され、これによって、係合部53が係合凹部52側、つまり矢印A方向に弾性的に押圧される。なお、このプランジャ機構50は、ピストンロッド32に対応して周方向に沿って複数(例えば、3個)が配設される。
【0035】
また、係合凹部52はその断面形状が半円形とされ、その底面の曲率半径を、球体の係合部53の半径と略同一に設定している。このため、例えば、図4や図5等に示す状態(係合部53が係合凹部52に係合していない状態)からピストンロッド32に対してダイスホルダ27が下降すれば、係合部53が押圧部材54にて矢印A方向に押圧された状態でピストンロッド32の表面を転動し、係合凹部52に対応することによって、図6等に示すように、係合部53が係合凹部52に係合する。このように、係合部53が係合凹部52に係合すれば、下方ダイス22と下方パンチ26とが固定されることになる。
【0036】
この図6に示す状態から、ピストンロッド32に対してダイスホルダ27が上昇すれば、係合部53が球体でかつ転動自在であるので、この上昇によって、係合部53は押圧部材54の弾性力に抗してピストンロッド32の表面に乗り上げることになる。その後は、ピストンロッド32の表面を係合部53が転動して、図4や図5等に示した状態に戻る。
【0037】
次に、前記のように構成された鍛造成形装置を用いた鍛造成形方法を説明する。成形品Sとしては、例えば、等速自在継手のトリポード部材等を構成するための鍛造成形品である。まず、図4に示すように、上方ダイス21と下方ダイス22と離間させた金型開状態として、下方ダイス22の孔部41の上方開口部41aのワークWを投入する。この際、下方パンチ26は、そのパンチ部26aが、上方ダイス1と下方ダイス2とが重ね合わされた際に形成されるキャビティ24内に突入されない上下方向位置とされ、このパンチ部26aにてワークWを受ける。この状態では、流体圧供給手段35からシリンダ機構30のシリンダ室31にエア圧を供給して、下方パンチ26を押し下げておく。
【0038】
次に、図5に示すように、上方ダイス21と下方ダイス22と重ね合わせるとともに、図3(b)に示す状態から切換弁45を図3(a)に示す状態に切り換えて、シリンダ室31内を大気状態とする。その後、重ね合わされた上方ダイス21と下方ダイス22とを図6に示すように下降させる。これによって、キャビティ24が形成され、このキャビティ24内に下方パンチ26のパンチ部26aが突入状となる。このため、キャビティ24内においてワークWが圧縮されて製品(成形品)Sが成形される。
【0039】
この状態では、ピストンロッド32に対してダイスホルダ27が下降して、固定機構Kの係合部53がピストンロッド32の係合凹部52に係合する。すなわち、金型23の下死点(プレス角度が180°)に到達する直前(例えば、プレス角度が170°)に固定機構Kによるロックが行われる。これによって、下方ダイス2と下方パンチ26とがロックされる。
【0040】
その後、下死点に到達した後、金型23が図7に示すように上昇する。この際、下方ダイス2と下方パンチ26とがロックされているので、成形品Sに対して、下方パンチ26が下降せず、前記図15に示すような空間Kが形成されない。なお、この図7は、プレス角度が180°から190°である。
【0041】
次に、図8及び図9に示すように、上方ダイス21を下方ダイス22から離型させる。図8はプレス角度が190°の状態を示し、図9はプレス角度が190°〜250°の状態を示している。その後、図10及び図11に示すように、ノックアウトピン60を上昇させて、下方パンチ26を上昇させる。これによって、成形品Sを下方ダイス2の開口部41aから押し出して、この金型23から取り出す。
【0042】
その後は、切換弁45を図3(b)に示す状態に切換えて、シリンダ機構30のシリンダ室31にエア圧を供給する。これによって、下方パンチ26を押し下げて、次のワークWの投入開始状態に戻す。
【0043】
以上のサイクルを順次繰り返すことによって、ワークWを成形品Sに成形していくことができる。このため、本発明によれば、固定機構Kにて、成形品Sと下方パンチ26との間の空間形成を規制することができる。これによって、成形品Sを金型23から取り出す際の成形品Sの飛び出し現象を防止でき、ワークW投入及び成形品Sの取り出しを安定して行うことができる。従って、プレスの高速化に対応することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0044】
固定機構Kをプランジャ機構50にて構成することによって、成形品Sと下方パンチ26との間の空間形成を安定して規制することができ、特に、プランジャ機構50が、係合部53と、この係合部53を係合凹部52側に弾性的に押圧する押圧部材54とを備えたものであれば、空間形成の規制を簡易な構成で行うことができ、低コスト化に寄与する。
【0045】
切換手段Cを備えたものでは、安定した鍛造成形装置の稼動が可能となって、生産性の向上を一層図ることができる。
【0046】
図12から図14に前記鍛造成形装置にて成形した鍛造成形品を用いたトリポード型等速自在継手を示す。リポード型等速自在継手は、外側継手部材210と内側継手部材であるトリポード部材220とローラ230とで主要部が構成されている。連結すべき駆動側と従動側の二軸の一方の軸(駆動軸)が外側継手部材210の底部から一体的に延び、他方の軸(図示せず)がトリポード部材220(図15参照)と結合される。
【0047】
外側継手部材210は一端が開口した有底筒状で、その内周に軸方向に延びる三本のトラック溝212が円周方向等間隔に形成されている。トリポード部材220は円筒状のボス部222から半径方向外側に突出した三本の脚軸224を有し、これら脚軸224が外側継手部材210のトラック溝212に挿入され、そのトラック溝212と係合してトルク伝達を行う。脚軸224には針状ころ240を介してローラ230が回転自在に外嵌され、このローラ230がトラック溝212の互いに対向する一対のローラ案内面214に沿って転動することで連結二軸間の角度変位と軸方向変位を円滑にする。なお、ボス部222には、軸孔(スプライン付き)222aが形成されている。
【0048】
図14は図12の部分拡大図で、脚軸224、針状ころ240およびローラ230を示す。脚軸224の外周面は針状ころ240の内側転動面を構成し、ローラ230の内周面は針状ころ240の外側転動面を構成している。複数の針状ころ240は、脚軸224の外周面とローラ230の内周面との間に総ころ状態で配設されている。
【0049】
これら針状ころ240は、脚軸224の付け根部に外嵌されたインナワッシャ250と半径方向内側で接すると共に、脚軸224の先端部に外嵌されたアウタワッシャ260と半径方向外側で接している。このアウタワッシャ260は、脚軸224の先端部に形成された環状溝226に丸サークリップ等の止め輪270を嵌合させることにより抜け止めされている。
【0050】
このトリポード部材220は、図1等に記載された鍛造成形装置にて成形された鍛造成形品にて構成される。すなわち、鍛造成形品を成形した後、軸孔222aに対応する部位の穴抜きを行い、次に、脚軸224に、止め輪270が嵌合する環状溝226等を形成することにトリポード部材220が成形される。
【0051】
本発明の鍛造成形方法によって、等速自在継手のトリポード部材等の内側継手部材構成品を成形することができ、これらの生産性の向上を達成できる。
【0052】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、成形品Sとしては、等速自在継手の内側継手部材構成品に限るものではなく、他の種々の鍛造成形品(鍛造製品)とすることができる。トリポード型等速自在継手として、前記実施形態では、ローラが1つのシングルローラタイプであったが、ローラが2つのダブルローラタイプであってもよい。
【0053】
前記実施形態では、下方パンチ26のみがキャビティ24内に押し込まれるものであったが、下方パンチ26と上方パンチ25とが押し込まれるものであってもよい。シリンダ機構30として前記実施形態では、エアを用いるエアシリンダ機構であったが、油圧シリンダ機構であってもよい。また、固定機構Kにてロックする位置として、前記実施形態ではプレス角度が170°であったが、もちろんこの位置に限らない。
【符号の説明】
【0054】
21 上方ダイス
22 下方ダイス
23 金型
24 キャビティ
25 上方パンチ
26 下方パンチ
30 シリンダ機構
31 シリンダ室
32 ピストンロッド
50 プランジャ機構
52 係合凹部
53 係合部
54 押圧部材
C 切換手段
K 固定機構
S 成形品
W ワーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手の内側継手部材等の鍛造品を成形する鍛造成形装置および鍛造成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来には、例えば、トリポード型等速自在継手のトリポード部材を成形する場合、閉塞鍛造型にて鍛造成形する(特許文献1)。また、閉塞鍛造金型装置として、図15から図21に示すものがある。この場合の閉塞鍛造金型装置は、上方ダイス1と下方ダイス2とを有する金型3と、上方ダイス1と下方ダイス2とが重ね合わされた状態で形成されるキャビティ4に押し込まれる上方パンチ5及び下方パンチ6とを備える。
【0003】
また、下方ダイス2はダイスホルダ7にて保持され、このダイスホルダ7に、下方パンチ6を下方に押し下げる作用を持つシリンダ機構10が付設されている。この場合、ダイスホルダ7の下面に開口する軸方向孔を設け、この孔をもって前シリンダ機構10のシリンダ室11を構成している。また、このシリンダ室11にはピストンロッド12が嵌入されている。このピストンロッド12は支持体13に保持されている。支持体13は、下方パンチ6が内嵌される筒部13aと、この筒部13aの下部に設けられた外鍔部13bとからなり、この外鍔部13bからピストンロッド12が立設されている。そして、シリンダ室11には流体圧供給手段15が連設されている。
【0004】
下方パンチ6は、上部にパンチ部6aが形成され、下部に大径ボス部6bが形成されている。また、支持体13の筒部13aの内径面の上方開口側に小径部16が形成され、この小径部16の段差部16aが下方パンチ6の大径ボス部6bの段差部17に係合する。このため、流体圧供給手段15からシリンダ室11にエア圧が供給されることにより、下方パンチ6は下方へ押し下げられる。
【0005】
上方ダイス1には上方パンチ5が嵌入される孔18が設けられ、下方ダイス2には下方パンチ6が嵌入される孔部19が設けられている。また、孔18の下方開口部18aと、孔部19の上方開口部19aとで前記キャビティ4を構成し、上方パンチ5の下端面(パンチ部)5aにて、キャビティ4の上方開口部を塞ぎ、下方パンチ6のパンチ部6aがキャビティ4の下方開口部に突入状となってこの下方開口部を塞ぐ。
【0006】
次に、前記のように構成された閉塞鍛造金型装置にて、製品を鍛造成形する方法を説明する。まず図16に示すように、上方ダイス1と下方ダイス2とを離間させた開状態として、キャビティ4を構成する下方ダイス2の孔部19の開口部19aにワークWを投入する。この場合、下方パンチ6のパンチ部6aにてワークWを受けることになる。
【0007】
次に、上方ダイス1を下降させて、図17に示すように、この上方ダイス1の下面を下方ダイス2の上面に重ね合わせる。その後、図18に示すように、上方ダイス1と下方ダイス2とを下降させて、下方パンチ6のパンチ部をキャビティ4内に突入させる。これによって、キャビティ4内においてワークWを圧縮して製品を成形する。そして、図19から図22に示すように、上方ダイス1を上昇させた後、ノックアウトピン20を上昇させて下方パンチ6を上昇させることによって、製品(成形品)Sを取り出せばよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−343592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、前記装置においては、図18に示すように製品を成形した後、シリンダ室11の内圧のため、図19に示すように、下方パンチ6と製品(成形品)Sとの間に空間Kが形成される。このため、図20に示すように、上方ダイス1を上昇させた場合、この空間Kの容積が最大に拡大する。その後は、図21に示すように、この空間Kの容積が減少するが、空間Kが形成されたままである。このため、図22に示すように、下方パンチ6を上昇させて成形品Sを取り出す場合、成形品Sが下方ダイス2から離型されると、成形品Sの姿勢が不安定となり、成形品Sが金型3と下方パンチ6から離れ、飛び出し現象が現れる。
【0010】
このような飛出現象は鍛造プレス回転数が高速化するに伴い著しくなる。このため、このような閉塞鍛造での生産性の向上の妨げとなっていた。ところで、成形品の飛び出しを防ぐためには、成形品の下方パンチまたは下方ダイスとの食い付き力を高めればよい。食い付き力を高めるには、金型形状に工夫を凝らすか接触面を増加させればよい。しかしながら、下方パンチへの成形品の食い付き力を高めると搬送装置に負荷がかかることになる。また、下方ダイスとの食い付き力を高めると、成形荷重が増加して金型寿命が短くなる等の問題点があった、
【0011】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、プレス回転数が高速になっても安定した成形品の姿勢を保持でき、生産性に優れた鍛造成形装置および鍛造成形方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の鍛造成形装置は、上方ダイスと下方ダイスとを有する金型を備え、上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態でキャビティが形成されている前記金型が下降して、この金型のキャビティ内に下方パンチのみ又は下方パンチと上方パンチとが押し込まれて、このキャビティ内のワークを圧縮する鍛造成形装置であって、前記金型の下降の下死点近傍で前記下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定して、キャビティ内においてワークが圧縮されてなる成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制する固定機構を備えたものである。
【0013】
本発明の鍛造成形装置によれば、固定機構にて、成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制することができる。このため、成形品を金型から取り出す際の成形品の飛び出し現象を防止できる。
【0014】
前記下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構を備え、前記固定機構は、前記下方ダイスのダイスホルダに付設されて、前記シリンダ機構のシリンダ室内が大気圧状態において、シリンダ機構のピストンロッドに係合するプランジャ機構にて構成することができる。
【0015】
プランジャ機構がシリンダ機構のピストンロッドに係合することによって、下方ダイスと下方パンチとが固定される。このため、下方パンチの自重等による下降を防止して、成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制することができる。
【0016】
また、シリンダ機構は、上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態で、前記シリンダ機構のシリンダ室内が大気圧状態とする切換手段を備えるものとすることができる。このような切換手段を備えたものでは、切換手段にてシリンダ室内が大気状態となるようにすることによって、下方ダイスと下方パンチとの固定が安定する。すなわち、シリンダ室内が大気状態でなければ、シリンダ室の内圧が高まり、下方ダイスに対して下方パンチを固定しにくいものとなる。これに対して、シリンダ室内が大気状態であれば、シリンダ室の内圧が高まらず、下方ダイスに対して下方パンチを安定して固定することができる。
【0017】
プランジャ機構は、シリンダ機構のピストンロッドの係合凹部に係脱可能に係合する係合部と、この係合部を前記係合凹部側に弾性的に押圧する押圧部材を備えるものとすることができる。係合部がピストンロッドの係合凹部に対応した位置となった場合、押圧部材の弾性力によって係合部を係合凹部側に押圧し、係合部が係合凹部に係合する。また、係合部が押圧部材の弾性力に抗して反係合凹部側に押圧されれば、係合部の係合凹部からの係合状態が解除される。
【0018】
本発明の鍛造成形方法は、上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態でキャビティが形成されている前記金型が下降して、金型のキャビティ内に下方パンチのみ又は下方パンチと上方パンチとが同じ速度で押し込まれて、このキャビティ内のワークを圧縮する鍛造成形方法であって、前記金型の下死点近傍において、下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定して、キャビティ内においてワークが圧縮されてなる成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制するものである。
【0019】
本発明の鍛造成形方法によれば、成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制することができる。このため、成形品を金型から取り出す際の成形品の飛び出し現象を防止できる。
【0020】
前記鍛造成形方法において、金型の下死点直前において、下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構におけるシリンダ室内を大気圧状態とし、この状態で、下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定するのが好ましい。
【0021】
下死点が過ぎて、下方ダイスから上方ダイスが離間した後、下方パンチを上方へ駆動させて、下方ダイスから成形品を離型させ、その後、下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構にて、下方パンチを下方ダイスよりも相対的に押し下げて、次のワークを、下方ダイスに投入するのが好ましい。
【0022】
前記鍛造成形方法においては、成形品が等速自在継手の内側継手部材構成品であるように設定できる。ここで、内側継手部材構成品とは、ゼッパタイプやアンダーカットフリーの固定式等速自在継手の内側継手部材やトリポードタイプの摺動式等速自在継手の内側継手部材としてのトリポード部材等である。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、成形品を金型から取り出す際の成形品の飛び出し現象を防止できるので、ワーク投入及び成形品の取り出しを安定して行うことができる。このため、プレスの高速化に対応することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0024】
固定機構がプランジャ機構にて構成することによって、成形品と下方パンチとの間の空間形成を安定して規制することができ、特に、プランジャ機構が、係合部と、この係合部を前記係合凹部側に弾性的に押圧する押圧部材とを備えたものであれば、空間形成の規制を簡易な構成で行うことができ、低コスト化に寄与する。
【0025】
切換手段を備えたものでは、安定した鍛造成形装置の稼動が可能となって、生産性の向上を一層図ることができる。
【0026】
本発明の鍛造成形方法によって、内側継手部材やトリポード部材等の内側継手部材構成品を成形することができ、これらの生産性の向上を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態を示す鍛造成形装置の断面図である。
【図2】前記鍛造成形装置のプランジャ機構の正面図である。
【図3】前記鍛造成形装置の流体圧供給手段の回路図である。
【図4】前記鍛造成形装置のワーク投入状態の断面図である。
【図5】前記鍛造成形装置の金型合わせ状態の断面図である。
【図6】前記鍛造成形装置の金型プレス状態の断面図である。
【図7】前記鍛造成形装置の金型が下死点を越えた状態の断面図である。
【図8】前記鍛造成形装置の上方ダイスが離間した状態の断面図である。
【図9】前記鍛造成形装置のノックアウト途中の断面図である。
【図10】前記鍛造成形装置のノックアウト完了状態の断面図である。
【図11】前記鍛造成形装置の初期状態に戻した状態の断面図である。
【図12】前記鍛造成形装置にて成形された鍛造成形品を用いたトリポード型等速自在継手の横断面図である。
【図13】前記トリポード型等速自在継手の縦断面図である。
【図14】前記トリポード型等速自在継手の要部拡大図である。
【図15】前記鍛造成形品から成形されたトリポード部材の断面図である。
【図16】従来の鍛造成形装置のワーク投入状態の断面図である。
【図17】前記図16の鍛造成形装置の金型合わせ状態の断面図である。
【図18】前記図16の鍛造成形装置の金型プレス状態の断面図である。
【図19】前記図16の鍛造成形装置の金型が下死点を越えた状態の断面図である。
【図20】前記図16の鍛造成形装置の上方ダイスが離間した状態の断面図である。
【図21】前記図16の鍛造成形装置のノックアウト途中の断面図である。
【図22】前記図16の鍛造成形装置のノックアウト完了状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0029】
図1は本発明の鍛造成形装置を示し、この鍛造成形装置は、上方ダイス21と下方ダイス22とを有する金型23と、上方ダイス21と下方ダイス22とが重ね合わされた状態で形成されるキャビティ24に押し込まれる上方パンチ25及び下方パンチ26とを備える。
【0030】
また、下方ダイス22はダイスホルダ27にて保持され、このダイスホルダ27に、下方パンチ26を下方に押し下げる作用を持つシリンダ機構30が付設されている。この場合、ダイスホルダ27の下面に開口する軸方向孔を設け、この孔をもって前記シリンダ室31を構成している。また、このシリンダ室31にはピストンロッド32が嵌入されている。このピストンロッド32は支持体33に保持されている。支持体33は、下方パンチ26が内嵌される筒部33aと、この筒部33aの下部に設けられた外鍔部33bとからなり、この外鍔部33bからピストンロッド32が立設されている。また、シリンダ室31には流体圧供給手段35が連設されている。この場合、バランス性を考慮して、ピストンロッド32が嵌入されるシリンダ室31を周方向に沿って所定ピッチで複数(例えば、3個)が配設される。
【0031】
下方パンチ26は、上部にパンチ部26aが形成され、下部に大径ボス部26bが形成されている。また、支持体33の筒部33aの内径面の上方開口側に小径部36が形成され、この小径部36の段差部36aが下方パンチ26の大径ボス部26bの段差部37に係合する。
【0032】
ところで、上方ダイス21には上方パンチ25が嵌入される孔40が設けられ、下方ダイス22には下方パンチ26が嵌入される孔部41が設けられている。また、孔40の下方開口部40aと、孔部41の上方開口部41aとで前記キャビティ24を構成し、上方パンチ25の下端面(パンチ部)25aにて、キャビティ24の上方開口部を塞ぎ、下方パンチ26のパンチ部26aがキャビティ24の下方開口部に突入状となってこの下方開口部を塞ぐ。
【0033】
流体圧供給手段35は切換手段Cとしての切換弁45とリリーフ弁46とを備える。そして、図3(b)に示す状態に切換弁45を切り換えれば、図外のエア供給源からコック47を介して、この流体圧供給手段35にエアが供給される。これによって、切換弁45を介して、ダイスホルダ27に開設された通路48にエアが導入され、この通路48からシリンダ室31内に供給される。また、図3(a)に示す状態に切換弁45を切り換えれば、エア供給源からの流体圧供給手段35へのエア供給が停止し、シリンダ室31内が大気状態となる。
【0034】
ところで、この鍛造成形装置には、シリンダ機構30のピストンロッド32を所定上下位置に固定する固定機構Kが設けられている。すなわち、固定機構Kは、下方ダイス22のダイスホルダ27に付設されるプランジャ機構50にて構成される。図2に示すように、プランジャ機構50は、ダイスホルダ27の設けられる径方向に延びる孔部51に配置されるものであって、ピストンロッド32に設けられた係合凹部(周方向凹溝)52に係合する係合部53と、この係合部53を係合凹部52側へ弾性的に押圧する押圧部材54とを備える。具体的には、係合部53はボール体からなり、押圧部材54はコイルスプリングからなる。孔部51の外径側開口部は栓部材55にて塞がれ、この栓部材55と係合部53との間に押圧部材54が介在され、これによって、係合部53が係合凹部52側、つまり矢印A方向に弾性的に押圧される。なお、このプランジャ機構50は、ピストンロッド32に対応して周方向に沿って複数(例えば、3個)が配設される。
【0035】
また、係合凹部52はその断面形状が半円形とされ、その底面の曲率半径を、球体の係合部53の半径と略同一に設定している。このため、例えば、図4や図5等に示す状態(係合部53が係合凹部52に係合していない状態)からピストンロッド32に対してダイスホルダ27が下降すれば、係合部53が押圧部材54にて矢印A方向に押圧された状態でピストンロッド32の表面を転動し、係合凹部52に対応することによって、図6等に示すように、係合部53が係合凹部52に係合する。このように、係合部53が係合凹部52に係合すれば、下方ダイス22と下方パンチ26とが固定されることになる。
【0036】
この図6に示す状態から、ピストンロッド32に対してダイスホルダ27が上昇すれば、係合部53が球体でかつ転動自在であるので、この上昇によって、係合部53は押圧部材54の弾性力に抗してピストンロッド32の表面に乗り上げることになる。その後は、ピストンロッド32の表面を係合部53が転動して、図4や図5等に示した状態に戻る。
【0037】
次に、前記のように構成された鍛造成形装置を用いた鍛造成形方法を説明する。成形品Sとしては、例えば、等速自在継手のトリポード部材等を構成するための鍛造成形品である。まず、図4に示すように、上方ダイス21と下方ダイス22と離間させた金型開状態として、下方ダイス22の孔部41の上方開口部41aのワークWを投入する。この際、下方パンチ26は、そのパンチ部26aが、上方ダイス1と下方ダイス2とが重ね合わされた際に形成されるキャビティ24内に突入されない上下方向位置とされ、このパンチ部26aにてワークWを受ける。この状態では、流体圧供給手段35からシリンダ機構30のシリンダ室31にエア圧を供給して、下方パンチ26を押し下げておく。
【0038】
次に、図5に示すように、上方ダイス21と下方ダイス22と重ね合わせるとともに、図3(b)に示す状態から切換弁45を図3(a)に示す状態に切り換えて、シリンダ室31内を大気状態とする。その後、重ね合わされた上方ダイス21と下方ダイス22とを図6に示すように下降させる。これによって、キャビティ24が形成され、このキャビティ24内に下方パンチ26のパンチ部26aが突入状となる。このため、キャビティ24内においてワークWが圧縮されて製品(成形品)Sが成形される。
【0039】
この状態では、ピストンロッド32に対してダイスホルダ27が下降して、固定機構Kの係合部53がピストンロッド32の係合凹部52に係合する。すなわち、金型23の下死点(プレス角度が180°)に到達する直前(例えば、プレス角度が170°)に固定機構Kによるロックが行われる。これによって、下方ダイス2と下方パンチ26とがロックされる。
【0040】
その後、下死点に到達した後、金型23が図7に示すように上昇する。この際、下方ダイス2と下方パンチ26とがロックされているので、成形品Sに対して、下方パンチ26が下降せず、前記図15に示すような空間Kが形成されない。なお、この図7は、プレス角度が180°から190°である。
【0041】
次に、図8及び図9に示すように、上方ダイス21を下方ダイス22から離型させる。図8はプレス角度が190°の状態を示し、図9はプレス角度が190°〜250°の状態を示している。その後、図10及び図11に示すように、ノックアウトピン60を上昇させて、下方パンチ26を上昇させる。これによって、成形品Sを下方ダイス2の開口部41aから押し出して、この金型23から取り出す。
【0042】
その後は、切換弁45を図3(b)に示す状態に切換えて、シリンダ機構30のシリンダ室31にエア圧を供給する。これによって、下方パンチ26を押し下げて、次のワークWの投入開始状態に戻す。
【0043】
以上のサイクルを順次繰り返すことによって、ワークWを成形品Sに成形していくことができる。このため、本発明によれば、固定機構Kにて、成形品Sと下方パンチ26との間の空間形成を規制することができる。これによって、成形品Sを金型23から取り出す際の成形品Sの飛び出し現象を防止でき、ワークW投入及び成形品Sの取り出しを安定して行うことができる。従って、プレスの高速化に対応することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0044】
固定機構Kをプランジャ機構50にて構成することによって、成形品Sと下方パンチ26との間の空間形成を安定して規制することができ、特に、プランジャ機構50が、係合部53と、この係合部53を係合凹部52側に弾性的に押圧する押圧部材54とを備えたものであれば、空間形成の規制を簡易な構成で行うことができ、低コスト化に寄与する。
【0045】
切換手段Cを備えたものでは、安定した鍛造成形装置の稼動が可能となって、生産性の向上を一層図ることができる。
【0046】
図12から図14に前記鍛造成形装置にて成形した鍛造成形品を用いたトリポード型等速自在継手を示す。リポード型等速自在継手は、外側継手部材210と内側継手部材であるトリポード部材220とローラ230とで主要部が構成されている。連結すべき駆動側と従動側の二軸の一方の軸(駆動軸)が外側継手部材210の底部から一体的に延び、他方の軸(図示せず)がトリポード部材220(図15参照)と結合される。
【0047】
外側継手部材210は一端が開口した有底筒状で、その内周に軸方向に延びる三本のトラック溝212が円周方向等間隔に形成されている。トリポード部材220は円筒状のボス部222から半径方向外側に突出した三本の脚軸224を有し、これら脚軸224が外側継手部材210のトラック溝212に挿入され、そのトラック溝212と係合してトルク伝達を行う。脚軸224には針状ころ240を介してローラ230が回転自在に外嵌され、このローラ230がトラック溝212の互いに対向する一対のローラ案内面214に沿って転動することで連結二軸間の角度変位と軸方向変位を円滑にする。なお、ボス部222には、軸孔(スプライン付き)222aが形成されている。
【0048】
図14は図12の部分拡大図で、脚軸224、針状ころ240およびローラ230を示す。脚軸224の外周面は針状ころ240の内側転動面を構成し、ローラ230の内周面は針状ころ240の外側転動面を構成している。複数の針状ころ240は、脚軸224の外周面とローラ230の内周面との間に総ころ状態で配設されている。
【0049】
これら針状ころ240は、脚軸224の付け根部に外嵌されたインナワッシャ250と半径方向内側で接すると共に、脚軸224の先端部に外嵌されたアウタワッシャ260と半径方向外側で接している。このアウタワッシャ260は、脚軸224の先端部に形成された環状溝226に丸サークリップ等の止め輪270を嵌合させることにより抜け止めされている。
【0050】
このトリポード部材220は、図1等に記載された鍛造成形装置にて成形された鍛造成形品にて構成される。すなわち、鍛造成形品を成形した後、軸孔222aに対応する部位の穴抜きを行い、次に、脚軸224に、止め輪270が嵌合する環状溝226等を形成することにトリポード部材220が成形される。
【0051】
本発明の鍛造成形方法によって、等速自在継手のトリポード部材等の内側継手部材構成品を成形することができ、これらの生産性の向上を達成できる。
【0052】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、成形品Sとしては、等速自在継手の内側継手部材構成品に限るものではなく、他の種々の鍛造成形品(鍛造製品)とすることができる。トリポード型等速自在継手として、前記実施形態では、ローラが1つのシングルローラタイプであったが、ローラが2つのダブルローラタイプであってもよい。
【0053】
前記実施形態では、下方パンチ26のみがキャビティ24内に押し込まれるものであったが、下方パンチ26と上方パンチ25とが押し込まれるものであってもよい。シリンダ機構30として前記実施形態では、エアを用いるエアシリンダ機構であったが、油圧シリンダ機構であってもよい。また、固定機構Kにてロックする位置として、前記実施形態ではプレス角度が170°であったが、もちろんこの位置に限らない。
【符号の説明】
【0054】
21 上方ダイス
22 下方ダイス
23 金型
24 キャビティ
25 上方パンチ
26 下方パンチ
30 シリンダ機構
31 シリンダ室
32 ピストンロッド
50 プランジャ機構
52 係合凹部
53 係合部
54 押圧部材
C 切換手段
K 固定機構
S 成形品
W ワーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方ダイスと下方ダイスとを有する金型を備え、上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態でキャビティが形成されている前記金型が下降して、この金型のキャビティ内に下方パンチのみ又は下方パンチと上方パンチとが押し込まれて、このキャビティ内のワークを圧縮する鍛造成形装置であって、
前記金型の下降の下死点近傍で前記下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定して、キャビティ内においてワークが圧縮されてなる成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制する固定機構を備えたことを特徴とする鍛造成形装置。
【請求項2】
前記下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構を備え、前記固定機構は、前記下方ダイスのダイスホルダに付設されて、前記シリンダ機構のシリンダ室内が大気圧状態において、シリンダ機構のピストンロッドに係合するプランジャ機構にて構成したことを特徴とする請求項1に記載の鍛造成形装置。
【請求項3】
シリンダ機構は、上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態で、前記シリンダ機構のシリンダ室内が大気圧状態とする切換手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鍛造成形装置。
【請求項4】
プランジャ機構は、シリンダ機構のピストンロッドの係合凹部に係脱可能に係合する係合部と、この係合部を前記係合凹部側に弾性的に押圧する押圧部材を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の鍛造成形装置。
【請求項5】
上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態でキャビティが形成されている金型が下降して、金型のキャビティ内に下方パンチのみ又は下方パンチと上方パンチとが同じ速度で押し込まれて、このキャビティ内のワークを圧縮する鍛造成形方法であって、
前記金型の下降の下死点近傍において、下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定して、キャビティ内においてワークが圧縮されてなる成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制することを特徴とする鍛造成形方法。
【請求項6】
金型の下降の下死点直前において、下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構におけるシリンダ室内を大気圧状態とし、この状態で、下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定することを特徴とする請求項5に記載の鍛造成形方法。
【請求項7】
下死点が過ぎて、下方ダイスから上方ダイスが離間した後、下方パンチを上方へ駆動させて、下方ダイスから成形品を離型させ、その後、下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構にて、下方パンチを下方ダイスよりも相対的に押し下げて、次のワークを、下方ダイスに投入することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の鍛造成形方法。
【請求項8】
前記成形品が等速自在継手の内側継手部材構成品であることを特徴とする請求項6〜請求項7のいずれか1項に記載の鍛造成形方法。
【請求項1】
上方ダイスと下方ダイスとを有する金型を備え、上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態でキャビティが形成されている前記金型が下降して、この金型のキャビティ内に下方パンチのみ又は下方パンチと上方パンチとが押し込まれて、このキャビティ内のワークを圧縮する鍛造成形装置であって、
前記金型の下降の下死点近傍で前記下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定して、キャビティ内においてワークが圧縮されてなる成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制する固定機構を備えたことを特徴とする鍛造成形装置。
【請求項2】
前記下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構を備え、前記固定機構は、前記下方ダイスのダイスホルダに付設されて、前記シリンダ機構のシリンダ室内が大気圧状態において、シリンダ機構のピストンロッドに係合するプランジャ機構にて構成したことを特徴とする請求項1に記載の鍛造成形装置。
【請求項3】
シリンダ機構は、上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態で、前記シリンダ機構のシリンダ室内が大気圧状態とする切換手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鍛造成形装置。
【請求項4】
プランジャ機構は、シリンダ機構のピストンロッドの係合凹部に係脱可能に係合する係合部と、この係合部を前記係合凹部側に弾性的に押圧する押圧部材を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の鍛造成形装置。
【請求項5】
上方ダイスと下方ダイスとが重ね合わされた状態でキャビティが形成されている金型が下降して、金型のキャビティ内に下方パンチのみ又は下方パンチと上方パンチとが同じ速度で押し込まれて、このキャビティ内のワークを圧縮する鍛造成形方法であって、
前記金型の下降の下死点近傍において、下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定して、キャビティ内においてワークが圧縮されてなる成形品と下方パンチとの間の空間形成を規制することを特徴とする鍛造成形方法。
【請求項6】
金型の下降の下死点直前において、下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構におけるシリンダ室内を大気圧状態とし、この状態で、下方パンチを下方ダイスに対して相対的に固定することを特徴とする請求項5に記載の鍛造成形方法。
【請求項7】
下死点が過ぎて、下方ダイスから上方ダイスが離間した後、下方パンチを上方へ駆動させて、下方ダイスから成形品を離型させ、その後、下方パンチを下方に押し下げる作用を成すシリンダ機構にて、下方パンチを下方ダイスよりも相対的に押し下げて、次のワークを、下方ダイスに投入することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の鍛造成形方法。
【請求項8】
前記成形品が等速自在継手の内側継手部材構成品であることを特徴とする請求項6〜請求項7のいずれか1項に記載の鍛造成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
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【公開番号】特開2012−55918(P2012−55918A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200036(P2010−200036)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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