説明

鍛造機

【課題】実際に鍛造加工が行われる箇所で常に一定の条件でラムの動作特性を高精度に検出するとともに、得られた時系列データを保持、伝送することで経時特性変化の判定に供することができ、かつ取り扱いの容易な動作特性確認手段を備えた鍛造機を提供する。
【解決手段】基台と、ダイスホルダと、ダイスと、ラムと、パンチホルダと、パンチと、ラムの動作特性を確認する動作特性確認手段と、を備える鍛造機であって、動作特性確認手段は、ダイスホルダ及びパンチホルダの一方に装着される被検出部材(被検出治具5)と、他方に装着されるとともに、ラムの往復動に伴って変化する被検出部材(5)との関連を時系列的に検出する関連検出部(距離センサ76、78)及び、検出された時系列データを保持するデータ保持部及び、時系列データを表示手段に伝送するデータ伝送部(USB端子87)をもつ関連検出伝送手段(距離検出伝送治具8)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイスとパンチとにより鍛造加工を行う鍛造機に関し、より詳細にはパンチが装着されて往復動するラムの動作特性確認手段に関する。
【背景技術】
【0002】
圧造機を始めとする鍛造機では、ダイスと呼ばれる固定金型と、パンチと呼ばれる可動金型との間で、ワークを鍛造加工して所定形状の製品を製造している。ダイスは基台に設けられたダイスホルダに交換可能に装着され、また、パンチは基台に対して往復動するラム上に設けられたパンチホルダに交換可能に装着される構造が一般的になっている。ダイス及びパンチは、製造する製品形状に合わせて随時交換され、交換の都度両者の軸芯を一致させる芯出し調整と往復動方向のストローク調整とが必要とされている。この芯出し調整及びストローク調整の手間を軽減するために、本願出願人は特許文献1に位置検出装置およびプレス成形装置の技術を開示している。特許文献1のプレス成形装置は、基体に複数個の距離検出手段を設けてなる位置検出装置を可動ベース(ラム)に設けて、可動金型(パンチ)の二次元位置あるいは三次元位置を検出するようにしたものである。
【0003】
また、ラムは非常に多数回の往復動を行って製品を量産するものであるため、その動作特性を確認して経時特性変化や故障を検出することが重要とされている。動作特性の確認手段に相当するものとして、特許文献2に生産管理用モニタ装置が開示されている。この生産管理用モニタ装置は、鍛造機に限らず量産機械を対象としており、機械の状態の変化を一連の数値列として検出する手段と、検索用データを作成する手段、記憶手段、牽索手段、出力手段を備え、製品の不良品の牽索・選別や、機械の成型工程での作動不良などの検出・制御を行うことを目的としている。
【特許文献1】特許第30351756号公報
【特許文献2】特開2004−164635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された従来の位置検出装置は、ラム上におけるパンチの装着位置を検出して装着作業が良好に行われたか否かを確認するものであり、静止した基部上のダイスとの位置関係を直接確認する手段ではなかった。また、検出位置は、パンチとダイスとが対向して実際に鍛造加工が行われる箇所とは異なっており、より精度の高い位置検出が好ましいと考えられる。さらに、従来の位置検出装置には検出したデータを記録保持する機能が具備されていないので、パンチ交換時の調整作業には好適であっても、ラム動作の経時特性変化の判定に用いるには使い勝手が良好でなかった。
【0005】
一方、特許文献2の生産管理用モニタ装置では、データ収集装置として記憶装置を備えたパソコンを用いることで、データを記録保持することができる。しかしながら、このモニタ装置は、製品生産を行いながら検出を行うので、やはり加工が行われる箇所での検出は困難である。また、製品の種類に応じてパンチ及びダイスを交換すると、ラムの動作状況は微妙に変わるので、動作特性の良否を判定する判定条件を精度良く定めることが難しく、また、取り扱いがきわめて煩雑となる難があった。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、実際に鍛造加工が行われる箇所で常に一定の条件でラムの動作特性を高精度に検出するとともに、得られた時系列データを保持、伝送することで経時特性変化の判定に供することができ、かつ取り扱いの容易な動作特性確認手段を備えた鍛造機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鍛造機は、基台と、該基台に設けられたダイスホルダと、該ダイスホルダに交換可能に装着されるダイスと、前記基台に対して往復動するラムと、該ラムに設けられたパンチホルダと、該パンチホルダに交換可能に装着されるとともに前記ダイスと組になって鍛造加工を行うパンチと、前記ラムの動作特性を確認する動作特性確認手段と、を備える鍛造機であって、前記動作特性確認手段は、前記ダイス及び前記パンチの一方に代えて前記ダイスホルダ及び前記パンチホルダの一方に装着される被検出部材と、前記ダイス及び前記パンチの他方に代えて前記ダイスホルダ及び前記パンチホルダの他方に装着されるとともに、前記ラムの往復動に伴って変化する前記被検出部材との関連を時系列的に検出する関連検出部及び、検出された時系列データを保持するデータ保持部及び、前記時系列データを表示手段に伝送するデータ伝送部をもつ関連検出伝送手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明は、本来ダイスとパンチとが装着される位置に被検出部材と関連検出伝送手段とを装着して対向させ、実際に鍛造加工が行われる箇所でラムの動作特性を確認することができるようにしたことを特徴としている。つまり、治具に相当する被検出部材及び関連検出伝送手段を用いることで、動作特性確認時の検出条件を常に一定に保つことができるので、位置関係などの関連の検出を高精度に行うことができる。さらに、関連検出伝送手段にデータ保持部及びデータ伝送部を設けてデータの記憶、管理を行えるようにして、経時特性変化の判定に供するようにし、また、バッテリ駆動とすることで配線ケーブルを不要として取り扱いを容易にしている。
【0009】
本発明は、基台、ダイスホルダ、ダイス、ラム、パンチホルダ、パンチを備える一般的な構造の鍛造機に適用することができ、さらに、往復動するラムの動作特性確認手段として被検出部材と関連検出伝送手段とを有している。本発明の鍛造機では、並行して同時に鍛造加工を行う工程数に制約はなく、複数組のダイスホルダとパンチホルダにそれぞれダイスとパンチとを装着し、ワークを次の工程に順送りするトランスファ装置を備えて、複数の工程からなる鍛造製品を製造する多段式鍛造機とすることができる。また、複数個の製品を同時に製造する複式鍛造機とすることもできる。ラムを往復駆動する動力源にも制約はなく、一般的な電動式や油圧式の動力源を用いることができる。
【0010】
被検出部材及び関連検出伝送手段は、組になって相互の関連を検出する治具に相当するものであり、どちらか一方がダイスホルダに装着され、他方がパンチホルダに装着される。したがって、装着される部位の形状は、ダイス及びパンチのそれに一致したものとすることが好ましい。被検出部材と関連検出伝送手段との関連を検出することは、ラムと基台との関連を検出することになり、ラムの動作特性を検出することに相当する。
【0011】
被検出部材は、相互の関連を検出する際に基準を示す部材であり、検出に好適な形状とすることができる。例えば、被検出部材が凹凸のない滑らかな被検出平面を有すると、関連検出伝送手段を正対させることにより相対距離の検出が高精度でかつ容易になる。また、被検出部材は、検出方式に適した材質とすることができる。例えば、光や音波などを検出媒体として往復反射を利用する方式では、被検出部材の被検出面の反射率を良好なものとすることができる。誘起される磁界や渦電流を検出する方式では、被検出部材には磁性体あるいは電気導体を用いることが条件となる。
【0012】
一方、関連検出伝送手段には、ラムの往復動に伴って変化する被検出部材との関連を時系列的に検出する関連検出部を設けることができる。関連検出部には、例えば、被検出部材との相対距離を検出する距離センサを用いることができる。さらに、関連検出伝送手段にはデータ保持部及びデータ伝送部を設けることができ、マイコンを始めとするIT技術を応用した装置を組み合わせて構成することができる。データ保持部は、関連検出部で検出された時系列データ、通常は一定のサンプリング時間間隔で得られたデータ列を記憶するものであり、一般的なメモリ装置を用いることができる。データ伝送部は、データ保持部の時系列データをリアルタイムであるいは後刻一括のバッチ処理で、表示手段に伝送するものであり、汎用の伝送装置を用いることができる。
【0013】
前記被検出部材及び前記関連検出伝送手段の一方は矩形棒状とされ他方は矩形孔状とされて、前記ラムの往動に伴って前記一方が前記他方に挿入されることにより、前記ラムの往復動の方向を含んで互いに直交する三方向の距離を検出する、ようにしてもよい。
【0014】
被検出部材と関連検出伝送手段との関連として、両者の相対変位を例示することができる。そして、相対変位を直交する三方向で検出するために、検出部材及び関連検出伝送手段の一方を矩形棒状とし他方を矩形孔状として、矩形棒の外面または矩形孔の内面のいずれかに三方向の距離センサを設けることができる。このとき、ラムの往復動の方向の距離の時系列データはストローク特性を示し、往復動に直交する二方向の距離の時系列データは直交方向の変位すなわち直進度合いを示すことになり、きわめて高精度な動作特性が得られる。また、当然ながら、これらの三方向の距離の時系列データは、芯出し調整及びストローク調整に活用することもできる。
【0015】
前記関連検出伝送手段は、前記ラムが往復動するたびに前記関連の検出及び前記時系列データの保持を自動的に実行する連続動作モードを有する、ことが好ましい。
【0016】
前記関連の検出は、ラムが往復動するたびに手動で行うこともできるが、自動的に繰り返して実行されるようにしておくと操作が容易になって便利である。このために、関連検出伝送手段に連続動作モードを設けることができる。連続動作モードは、例えばオシロスコープで連続的に波形測定を行う際のオートトリガに類する機能によって実現することができる。つまり、関連検出部で何らかの変化を検出した直後からデータ保持部で一定長の時系列データを保持し、これを繰り返して行うようにすることができる。あるいは、ラムの動作開始情報を別ルートで関連検出伝送手段に受け渡し、外部トリガとしてデータ保持部を作動させる構成としても実現することができる。
【0017】
前記関連検出伝送手段は、装着状態で前記表示手段に無線伝送を行う無線伝送部、または取り外し後に前記表示手段に接続可能な伝送端子部、または着脱可能なメモリ装置のいずれかをデータ伝送部として有し、かつ、前記関連検出伝送手段は駆動源としてバッテリを内蔵する、ことが好ましい。
【0018】
関連検出伝送手段のデータ伝送部は、無線伝送部、伝送端子部、着脱可能なメモリ装置のいずれかとすることができる。無線伝送部は、時系列データを検出の都度リアルタイムで表示手段に伝送することができ、あるいは後刻バッチ処理で一括伝送することもできる。伝送端子部には、例えばUSB端子など汎用の有線伝送端子を用いることができる。伝送端子部を有する態様では、一連の検出を終えた後に関連検出伝送手段を取り外し、表示手段に伝送端子部を接続して一連の時系列データを伝送することができる。また、メモリ装置は、関連検出伝送手段内ではデータ保持部として作動し、後に表示手段でデータを共有できるように構成することができる。メモリ装置を有する態様では、検出により得られる時系列データがメモリ装置に記憶され、関連検出伝送手段を取り外した後にメモリ装置が表示手段に結合されて用いられる。
【0019】
また、関連検出伝送手段には、駆動源としてバッテリを内蔵することができる。関連検出伝送手段内で電圧値の異なる複数の電源が必要とされる場合には、バッテリの出力電圧を所望する別の電圧値に変換する電源変換部を設けるようにしてもよい。
【0020】
上述のようなデータ伝送部及びバッテリを有する態様では、データ伝送や電源供給のための配線が不要となって関連検出伝送手段をコードレス化することができ、装着や取り外しの取り扱いがきわめて容易になる。
【0021】
前記ダイスホルダ及び前記パンチホルダを複数組備え、前記被検出部材及び前記関連検出伝送手段は、いずれの前記組にも装着可能とされている、ようにしてもよい。
【0022】
ダイスホルダ及びパンチホルダを複数組備える多段式鍛造機あるいは複式鍛造機では、被検出部材及び関連検出伝送手段をいずれの組にも装着可能とすることができる。これにより、ラムの動作特性を複数箇所で確認することができて、検出及び判定の信頼性を向上することができる。
【0023】
前記表示手段により、前記ラムの往復動の前死点位置、往復動の時系列な変位を表すストローク特性、往復動の直進度合いを表す直進度特性、の少なくとも一項目が前記動作特性として表示される、ことでもよい。
【0024】
表示手段は、伝送された時系列データを数値情報あるいはグラフなどの形態で表示するものであり、ディスプレー装置をもつ汎用のパソコンなどを用いることができる。例えば、前述の三方向の距離を検出する態様では、ラムの往復動の方向の距離が最も小さくなった前死点位置を示す数値情報を表示することができる。あるいは、経過時間と往復動の方向の距離との関係であるストローク特性や、経過時間と直交方向の変位との関係である直進度特性を、グラフに表示することができる。
【0025】
前記表示手段により、前記ラムの前記動作特性の経時変化が判定される、ことでもよい。表示手段には、経時特性変化の判定機能を設けることもできる。例えば、良否を判定するための判定基準値をあらかじめ設定しておき、時系列データが得られる都度、判定基準値と比較判定するように構成することができる。あるいは、初回作動時の良好な動作特性の時系列データを基準として、以降に検出された時系列データが許容範囲を超えて変移した場合に経時変化ありと判定するように構成することもできる。
【0026】
以上説明した本発明の鍛造機では、定期や臨時の保守点検時やダイス及びパンチを交換する際に、被検出部材と関連検出伝送手段とを装着し、ラムを動作させて関連を検出し動作特性を確認することができる。このとき、ワークのない無負荷の一定条件であるので、検出は高精度となる。さらに、得られる時系列データは表示手段に伝送されて表示、記憶することができるので、判定基準値や過去のデータとの比較が容易に行える。
【発明の効果】
【0027】
本発明の鍛造機は、ダイス及びパンチに代えて装着する被検出部材及び関連検出伝送手段を備えるので、実際に鍛造加工が行われる箇所で常に一定の条件でラムの動作特性を高精度に検出することができる。とりわけ、被検出部材及び関連検出伝送手段の一方を矩形棒状とし他方を矩形孔状とした態様では、きわめて高精度な動作特性としてストローク特性及び直進度特性を得ることができる。また、得られた時系列データを保持するデータ保持部と、表示手段に時系列データを伝送するデータ伝送部と、を備えるので、時系列データを経時特性変化の判定に供することができる。さらに、関連検出伝送手段にバッテリを内蔵する態様ではコードレス化が可能となるため、装着や取り外しが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明を実施するための最良の形態を、図1〜図7を参考にして説明する。本発明は各種構造の鍛造機に適用可能であるが、鍛造機の一例である圧造機を代表例として図1に示して説明する。図1は、本発明の実施例の圧造機の基本的な構造を説明する側面断面図である。本発明の圧造機1は、基台2、ダイスホルダ31を有するダイスブロック3、ダイス32、ラム4、パンチホルダ51を有するパンチブロック5、パンチ52、を備え、圧造加工を行うように構成されている。加えて、本発明の圧造機1は治具として、図2に示される被検出治具6と、図3に示される距離検出伝送治具7と、を備えている。
【0029】
図1に一部が示される基台2は、圧造機1の全体形状を定めるとともに各部を保持する枠体である。基台の図中右側には紙面表裏方向に延びるダイスブロック3が設けられている。そしてダイスブロック3の中間高さには紙面左右に平行し表裏方向に並んで7個のダイスホルダ31が形成され、各ダイスホルダ31にはそれぞれ図中左方からダイス32が挿入されて上側から装着ねじ33によって固定され、装着されている。ラム4は、基台2に対して図中左右に往復動するように構成されている。ラム4の図中右側には位置調整部41を介してパンチブロック5が設けられている。パンチブロック5も紙面表裏方向に延設され、中央下部には7個のパンチホルダ51がダイスホルダ31に対向して形成され、各パンチホルダ51にはそれぞれ図中右方からパンチ52が挿入されて上側から装着ねじ53によって固定され、装着されている。そして、向かい合う7組のダイス32とパンチ52とが組になり、それぞれ圧造加工を行うようになっている。
【0030】
被検出治具6は、被検出部材に相当するものであり、いずれかのパンチ52に代えて、いずれかのパンチホルダ51に装着できるようになっている。図2は、被検出治具6を説明する斜視図である。図示されるように、被検出治具6は、略円柱状の治具本体部61と、その軸心に設けられる矩形筒状の被検出筒部65とで形成されている。治具本体部61はパンチ52と同一長、同一外径であり、上部には楔状に切り欠かれた切欠き楔部62が形成されている。切欠き楔部62は、装着ねじ53によって固定されることにより、被検出治具6の姿勢を保つ役割を有している。被検出筒部65は、治具本体部61の円柱端面の中心から軸方向に突設されている。被検出筒部65は金属で形成され、矩形筒状であって、その内側の矩形孔66は一辺L1の正方形断面で、深さDとなっている。
【0031】
一方、距離検出伝送治具7は、関連検出伝送手段に相当するものであり、いずれかのダイス32に代えて、いずれかのダイスホルダ51に装着し、被検出治具6と対向させることができるようになっている。図3は、距離検出伝送治具7を説明する斜視図である。図示されるように、距離検出伝送治具7は、略円柱状の治具本体部71と、その軸心に突設される矩形棒状の検出部75と、治具本体部71内に設けられる電子回路部8と、で形成されている。治具本体部71はダイス32と同一長、同一外径であり、上部には楔状に切り欠かれた切欠き楔部72、及び軸心に向かうタップ孔73が形成され、下部には軸長方向に係止溝74が形成されている。切欠き楔部72は、装着ねじ33によって固定されることにより、距離検出伝送治具7の姿勢を保つ役割を有している。タップ孔73は、ねじを絞め込むことにより、検出部75の軸長方向の傾きを微調整する役割を有している。また、係止溝74は、距離検出伝送治具7の不要な回転を禁止する役割を有している。
【0032】
検出部75は、関連検出部に相当するものであり、治具本体部71の円柱端面の中心から軸方向に突設され、一辺L2の正方形断面を有する矩形棒状とされている。検出部75の一辺L2は被検出治具6の矩形孔66の一辺L1よりも小とされ、検出部75が矩形孔66に挿入されるようになっている。検出棒部75の軸方向先端面には、軸方向距離センサ76が設けられ、直交する2つの側面には、それぞれ水平方向距離センサ77、垂直方向距離センサ78が設けられている。3個の距離センサ76、77、78は、それぞれコイル部と磁界検出部とをもつ電磁式であり、接近する金属体との距離を(1/100)mmオーダの精度で検出するものである。
【0033】
電子回路部8は、データ保持部及びデータ伝送部に相当するものであり、関連検出部の一部及び電源部をも含んでいる。図4は、距離検出伝送治具7に内蔵される電子回路部8の構成を説明する結線図である。電子回路部8は、CPU81、3組の渦電流発振アンプ82〜84、3個のホールセンサ85、スタートスイッチ86、USB端子87、電源部88で構成されている。
【0034】
CPU81は、制御部、演算部、メモリ部、及び入出力部を備えた、いわゆるマイクロコンピュータであって、ソフトウェアで動作するようになっている。3組の渦電流発振アンプ82〜84は、CPU81に制御されて距離センサ76、77、78のコイル部に電源を供給するものである。そして、距離センサ76、77、78の磁界検出部で検出された信号は、CPU81に取り込まれA/D変換され、時系列データとしてメモリ部に保持されるようになっている。3個のホールセンサ85は、ダイスブロック3内におけるダイスホルダ31を特定するものである。詳述すると、7個のダイスホルダ31にはそれぞれ3個のマグネット35が設けられ、極性の並び方がすべて異なっている。ホールセンサ85は、このマグネット35の極性を検出してCPU81に受け渡し、3ビット8箇所までの特定が行えるようになっている。
【0035】
スタートスイッチ86は、距離センサ76、77、78による検出と時系列データの保持を連続して行う連続動作モードを設定するものである。スタートスイッチ86には、保持形のスイッチが用いられ、一度押下されると連続動作モードが設定され、再度押下されると停止するようになっている。連続動作モードでは、CPU81は、距離センサ76、77、78のいずれかの出力が変化し始めたときに、時系列データを保持する制御を行うようになっている。USB端子87は、CPU81から表示手段9へ時系列データを伝送するための端子である。電源部88は、電子回路部8全体に電源を供給するものであり、バッテリ881、昇圧回路882、反転回路883からなっている。バッテリ881の端子電圧V1は、逆流防止用のダイオード884を経由してUSB端子87に供給され伝送用途に用いられている。また、端子電圧V1は昇圧回路882に入力されて、昇圧回路882は昇圧作用により正極電源電圧+V2を生成し、反転回路883に入力している。反転回路883は正極電源電圧+V2を反転して負極電源電圧−V2を生成している。正極電源電圧+V2及び負極電源電圧−V2は、電子回路部8内の各部に供給されて、各部を駆動するようになっている。
【0036】
次に、実施例の圧造機1における被検出治具6及び距離検出伝送治具7の使用方法及び作用について、図5を参考にして説明する。図5は、圧造機1のパンチ52及びダイス32を取り外して被検出治具6及び距離検出伝送治具7を装着したときの配置を示す側面断面図である。図5の左側の被検出治具6は、ラム4側のパンチホルダ52に装着され、ラムの往復動とともに図中左右に動作するようになっている。また、図中右側の距離検出伝送治具7は、基台2側のダイスホルダ22に装着されて静止している。そして、図5に示されるように、往動する被検出治具6の被検出筒部65は距離検出伝送治具7の検出部75の外側に移動する、すなわち、検出部75が被検出筒部65に挿入されるようになっている。さらに、検出部75の先端面の軸方向距離センサ76は、正対する被検出筒部65の軸方向の内底面との距離を検出するようになっており、側面の水平方向距離センサ77(図示されず)及び垂直方向距離センサ78は、それぞれ正対する被検出筒部65の内側面との距離を検出するようになっている。
【0037】
ここで、距離検出伝送治具7のスタートスイッチ86を押下して連続動作モードを設定した後に装着し、加工用のワークを用いない無負荷状態でラム4を往復動作させると、3つの距離センサ76、77、78により相対的な距離の変化が検出されて時系列データが得られ、電子回路部8のCPU81のメモリ部に保持される。次に、距離検出伝送治具7を取り外し、電子回路部8のUSB端子87を表示手段9に接続することで、時系列データを伝送することができる。図6は、距離検出伝送治具7で検出されて表示手段9に表示される時系列データを模式的に表す図であり、(1)はストローク特性、(2)は水平方向直進度特性、(3)は垂直方向直進度特性をそれぞれ示している。図中の横軸は1回の往復動における共通の時間軸tであり、縦軸はそれぞれの距離センサ76、77、78で検出された軸方向距離LS、水平方向距離LH、垂直方向距離LV、を示している。
【0038】
図6(1)のストローク特性において、グラフの最も下降している箇所が前死点FDである。グラフは、前死点FDを挟む前後で対称であり、かつ滑らかな正弦波状を呈していることから、ラム4は滑らかに往復動していると判断することができる。なお、グラフの前側tF及び後側tRの領域では、被検出治具6と距離検出伝送治具7とが遠く離れて軸方向距離センサ76の測定範囲を外れているため、グラフが平坦になっている。(2)の水平方向直進度特性及び(3)の垂直方向直進度特性において注目すべきは、前死点FDを挟む前後におけるグラフの平坦の度合いである。つまり、グラフが上下に振れずに平坦であれば、ラム4が上下や左右に変位することなく、軸方向にのみに変位していると判断することができる。なお、グラフの前側tF及び後側tRの傾斜部分は、検出部75が被検出筒部65に挿入される途中で、水平方向距離センサ77及び垂直方向距離センサ78が被検出筒部65に正対する途中経過を示すものであり、直進度には関係しない。
【0039】
また、図7は、図6(3)の垂直方向距離LVを拡大して示した垂直方向直進度特性である。図7において、実線(A)の平坦な特性はラムが水平に往復動していることを示している。また、一点鎖線(B)は前死点FD以前にわずかに低めで、前死点FD以降にわずかに高めの傾向となっている。つまり、ミクロに視ると、ラムは斜め下方から前死点に入り、斜め上方に抜け出てゆく動作特性であることがわかる。さらに、破線(C)は波打っており、ラムが往復動する際、わずかに上下に振動することがわかる。このように、本発明は、ラムの直進性の微妙な変化をも検出することができ、動作特性の判定に有効である。
【0040】
表示手段9によりラム4の動作特性を判定する場合、上述のようにストローク特性及び直進度特性の対称性や滑らかさに注目して判定することができる。つまり、本発明では無負荷で動作させ治具で検出することにより、鍛造加工を行いながらの検出する場合と比較して、安定した動作特性を高精度に検出し確実に良否を判定することができる。さらに、本発明では、伝送された時系列データを保存、管理できるので、例えば表示手段9で新旧のデータを重ねて表示することにより、経時特性変化を明確かつ容易に把握することができ、判定の精度は一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例の圧造機の基本的な構造を説明する側面断面図である。
【図2】被検出部材に相当する被検出治具を説明する斜視図である。
【図3】関連検出伝送手段に相当する距離検出伝送治具を説明する斜視図である。
【図4】図3の距離検出伝送治具に内蔵される電子回路部の構成を説明する結線図である。
【図5】図1の圧造機に被検出治具及び距離検出伝送治具を装着したときの配置を示す側面断面図である。
【図6】距離検出伝送治具で検出されて表示手段に表示される時系列データを模式的に表す図であり、(1)はストローク特性、(2)は水平方向直進度特性、(3)は垂直方向直進度特性をそれぞれ示している。
【図7】図6(3)の垂直方向距離を拡大して示した垂直方向直進度特性である。
【符号の説明】
【0042】
1:圧造機(鍛造機の一例)
2:基台
3:ダイスブロック 31:ダイスホルダ 32:ダイス
4:ラム
5:パンチブロック 51:パンチホルダ 52:パンチ
6:被検出治具(被検出部材)
61:治具本体部 65:被検出筒部
7:距離検出伝送治具(関連検出伝送手段)
71:治具本体部 75:検出部 76:軸方向距離センサ
77:水平方向距離センサ 78:垂直方向距離センサ
8:電子回路部
81:CPU 82〜84:渦電流発振アンプ
85:ホールセンサ 86:スタートスイッチ 87:USB端子
88:電源部
FD:前死点 LS:軸方向距離 LH:水平方向距離 LV:垂直方向距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、該基台に設けられたダイスホルダと、該ダイスホルダに交換可能に装着されるダイスと、前記基台に対して往復動するラムと、該ラムに設けられたパンチホルダと、該パンチホルダに交換可能に装着されるとともに前記ダイスと組になって鍛造加工を行うパンチと、前記ラムの動作特性を確認する動作特性確認手段と、を備える鍛造機であって、
前記動作特性確認手段は、
前記ダイス及び前記パンチの一方に代えて前記ダイスホルダ及び前記パンチホルダの一方に装着される被検出部材と、
前記ダイス及び前記パンチの他方に代えて前記ダイスホルダ及び前記パンチホルダの他方に装着されるとともに、前記ラムの往復動に伴って変化する前記被検出部材との関連を時系列的に検出する関連検出部及び、検出された時系列データを保持するデータ保持部及び、前記時系列データを表示手段に伝送するデータ伝送部をもつ関連検出伝送手段と、
を有することを特徴とする鍛造機。
【請求項2】
前記被検出部材及び前記関連検出伝送手段の一方は矩形棒状とされ他方は矩形孔状とされて、前記ラムの往動に伴って前記一方が前記他方に挿入されることにより、前記ラムの往復動の方向を含んで互いに直交する三方向の距離を検出する請求項1に記載の鍛造機。
【請求項3】
前記関連検出伝送手段は、前記ラムが往復動するたびに前記関連の検出及び前記時系列データの保持を自動的に実行する連続動作モードを有する、請求項1または2のいずれか一項に記載の鍛造機。
【請求項4】
前記関連検出伝送手段は、装着状態で前記表示手段に無線伝送を行う無線伝送部、または取り外し後に前記表示手段に接続可能な伝送端子部、または着脱可能なメモリ装置のいずれかをデータ伝送部として有し、かつ、前記関連検出伝送手段は駆動源としてバッテリを内蔵する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鍛造機。
【請求項5】
前記ダイスホルダ及び前記パンチホルダを複数組備え、前記被検出部材及び前記関連検出伝送手段は、いずれの前記組にも装着可能とされている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の鍛造機。
【請求項6】
前記表示手段により、前記ラムの往復動の前死点位置、往復動の時系列な変位を表すストローク特性、往復動の直進度合いを表す直進度特性、の少なくとも一項目が前記動作特性として表示される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の鍛造機。
【請求項7】
前記表示手段により、前記ラムの前記動作特性の経時変化が判定される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の鍛造機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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