説明

鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置

【課題】操作部材の全操作範囲にわたり、操作部材の操作量に応じてタッチ重さを増減することができ、タッチ重さの調整を容易に行うことができる鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置を提供する。
【解決手段】前後方向に移動自在のスライダ11と、支軸26を中心としてウェイト支持レール22に回動自在に支持されるとともに、ウェイト載置ピン7に載置された複数のウェイトレバー12と、移動自在に構成され、鍵盤2のタッチ重さを調整するために操作される操作ダイヤル13と、この操作ダイヤル13とスライダ11の間に設けられ、操作ダイヤル13の操作に連動してスライダ11を前後方向に移動させるとともに、操作ダイヤル13の操作量に対するスライダ11の移動量の変化度合が、ウェイトレバー12の支軸26がウェイト載置ピン7に近づくにつれ、より小さくなるように構成されたスライダ駆動機構14と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアノなどの鍵盤楽器に適用され、鍵盤のタッチ重さを調整する鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のタッチ重さ調整装置として、例えば、本出願人がすでに出願した特許文献1に開示されたものが知られている。このタッチ重さ調整装置は、アップライトピアノに適用された第3実施形態として、鍵ごとに設けられた複数のウェイトレバーと、これらのウェイトレバーを支持するとともに、前後方向にスライド自在のスライドレールと、このスライドレールに連結され、鍵盤のタッチ重さを調整するために操作されるアームなどを備えている。
【0003】
各ウェイトレバーは、前後方向に延び、その前端部においてスライドレールに回動自在に支持されるとともに、鍵の回動支点としてのバランスピンよりも後方の所定位置に突設されたレバー受けスクリューに載置されている。これにより、ウェイトレバーによる荷重がレバー受けスクリューを介して鍵に作用し、その荷重の分、鍵のタッチ重さが大きくなる。
【0004】
また、アームは、上下方向に延び、下端部においてピアノ本体に回動自在に支持されるとともに、長さ方向の中央部がスライドレールに連結されている。これにより、アームの上端部を前後方向に移動させると、スライドレールが前後方向に移動し、これと一体に、すべてのウェイトレバーも前後方向に移動する。
【0005】
以上のように構成されたタッチ重さ調整装置において、鍵盤のタッチ重さを大きくするように調整する場合、アームを、その上端部が後方に移動するように操作する。このアームの操作により、その操作量に応じて、スライドレールが後方に移動し、これと一体に、ウェイトレバーも後方に移動する。この場合、ウェイトレバーの前端部の回動支点が、ウェイトレバーを載置するレバー受けスクリューに近づき、レバー受けスクリューを介して鍵に作用する荷重が次第に増加する。これに伴い、鍵盤のタッチ重さも次第に大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−31464号公報(図4−5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このタッチ重さ調整装置では、タッチ重さが最も小さい状態から最も大きくなるようにアームを操作する場合、その操作当初から操作の中程にかけては、アームを操作した分、タッチ重さが大きくなるものの、その後、アームの操作終了に近づくにつれて、タッチ重さが急激に大きくなる。これは、次の理由による。すなわち、このタッチ重さ調整装置では、アームにスライドレールが直接、連結されているため、アームを操作した分、スライドレールとともにウェイトレバーが移動する。つまり、アームの操作範囲の全体にわたり、アームの操作量に対し、ウェイトレバーの移動量の変化度合がほぼ一定になっている。また、アームの操作により、ウェイトレバーの前端部の回動支点が、レバー受けスクリューに近づくと、ウェイトレバーのレバー受けスクリューよりも自由端(後端)側の部分の重量が次第に大きくなるとともに、その部分の重心とレバー受けスクリューとの距離も次第に大きくなる。このため、ウェイトレバーの回動支点回りのモーメントは、ウェイトレバーの回動支点がレバー受けスクリューに比較的近い範囲において、ウェイトレバーの回動支点がレバー受けスクリューに近づくにつれ、増加度合が大きくなる。それにより、レバー受けスクリューを介して鍵に作用する荷重の増加度合も大きくなることで、タッチ重さが急激に大きくなる。
【0008】
このように、上記のタッチ重さ調整装置では、アームの操作範囲において、アームの操作量とタッチ重さの増減度合が不一致になる範囲が存在するので、その範囲におけるタッチ重さの調整、特に微調整を行いにくい。したがって、このタッチ重さ調整装置には、改善の余地がある。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、操作部材の全操作範囲にわたり、操作部材の操作量に応じてタッチ重さを増減することができ、タッチ重さの調整を容易に行うことができる鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、各々が前後方向に延びるとともに中央付近において支点に回動自在に支持され、左右方向に並設された複数の鍵を有する鍵盤楽器において、鍵盤のタッチ重さを調整する鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置であって、複数の鍵の上方に左右方向に延びる錘支持部を有し、前後方向に移動自在のスライダと、鍵ごとに設けられ、各々が前後方向に延び、一端部において左右方向に延びる支軸を中心として錘支持部に回動自在に支持されるとともに、鍵の支点よりも後方の所定位置に設けられた載置部に載置され、対応する鍵に連動してそれぞれ回動する複数の錘と、移動自在に構成され、鍵盤のタッチ重さを調整するために操作される操作部材と、この操作部材とスライダの間に設けられ、操作部材の操作に連動してスライダを前後方向に移動させるとともに、操作部材の操作量に対するスライダの移動量の変化度合が、錘の支軸が鍵の載置部に近づくにつれ、より小さくなるように構成されたスライダ駆動機構と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、スライダの錘支持部が、左右方向に並設された複数の鍵の上方に左右方向に延びており、この錘支持部には、複数の錘が鍵ごとに連動して回動するように支持されている。具体的には、各錘は、前後方向に延び、一端部において左右方向に延びる支軸を中心として回動自在に支持されるとともに、鍵の支点よりも後方の所定位置に設けられた載置部に載置されている。これにより、錘による荷重が載置部を介して鍵に作用し、その荷重の分、鍵のタッチ重さが大きくなる。
【0012】
また、操作部材の操作に連動して、スライダ駆動機構によってスライダが前後方向に駆動され、これと一体に、すべての錘も前後方向に移動する。この場合、錘の支軸が鍵の載置部に近づくときには、載置部を境とする錘の自由端側の部分の重量が次第に大きくなるとともに、その部分の重心と載置部との距離も次第に大きくなる。このため、錘の支軸回りのモーメントは、その支軸が載置部に近いほど大きくなり、特に、錘の支軸が載置部に比較的近い範囲では、支軸が載置部に近づくにつれ、上記モーメントの増加度合がより大きくなる。これにより、載置部を介して鍵に作用する錘の荷重も、錘の支軸が載置部に近いほど大きくなり、錘の支軸が載置部に比較的近い範囲において、支軸が載置部に近づくにつれ、荷重の増加度合がより大きくなる。
【0013】
また、上記のスライダ駆動機構は、操作部材の操作量に対するスライダの移動量の変化度合が、錘の支軸が鍵の載置部に近づくにつれ、より小さくなるように構成されている。このため、上述した荷重の増加度合の増大と、スライダ駆動機構によるスライダの移動量の変化度合の減少との相殺により、操作部材の操作量に対する荷重の増加度合の増大を抑制することができる。これにより、錘の支軸が載置部に比較的近い範囲を含めて、操作部材の操作量に対し、荷重の変化がほぼ線形な関係を有することとなり、その結果、鍵盤のタッチ重さの変化もほぼ線形な関係を有する。したがって、本発明によれば、操作部材の全操作範囲にわたり、操作部材の操作量に応じてタッチ重さを増減することができ、タッチ重さの調整を容易に行うことができる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置において、スライダ駆動機構は、操作部材の操作に連動して、スライダの移動方向に対して直交する方向に延びる回動軸を中心に回動自在に構成され、回動軸から径方向に所定距離、離れた位置の係合部を介して、スライダに係合する回動部材を有し、回動部材の回動に伴い、係合部を介してスライダが移動することによって、錘の支軸が鍵の載置部に最接近したときに、係合部が回動軸に対し、前後方向において前方または後方から対向することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、スライダ駆動機構が、スライダの移動方向に対して直交する方向に延びる回動軸を中心に回動自在の回動部材を有しており、この回動部材が操作部材の操作に連動して回動する。また、この回動部材には、回動軸から径方向に所定距離、離れた位置に係合部が設けられ、この係合部にスライダが係合している。操作部材の操作により、回動部材が回動し、それに伴い、係合部を介してスライダが移動する。そして、このスライダとともに移動する錘の支軸が鍵の載置部に最接近したときに、回動部材の係合部が、回動軸に対し、前後方向において前方または後方から対向する。
【0016】
この場合、回動部材の回動角度が、操作部材の操作量に応じて変化するのに対し、回動部材の係合部の前後方向の移動量は、次のように決まる。すなわち、例えば、回動部材の回動軸が上下方向に延び、その回動軸に対し、回動部材の係合部が、左右方向において左方または右方から対向するときの位置を基準位置(値0)とすると、係合部の前後方向の移動量は、回動軸から係合部までの距離に、回動部材の回動角度の正弦値を乗じた値となる。つまり、係合部の前後方向の移動量は、上記基準位置からの回動部材の回動角度が大きいほど、増加し、係合部が回動軸に対し、前後方向において前方または後方から対向する位置に近づくにつれ、移動量の変化度合が小さくなる。したがって、上記のような回動部材を有するスライダ駆動機構を用いることにより、前述した請求項1の作用、効果を容易に実現することができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置において、操作部材は、上下方向および左右方向の一方に延びる軸線を中心として回動自在に構成されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、操作部材が、上下方向および左右方向の一方に延びる軸線を中心として回動自在であるので、タッチ重さの調整の際には、操作部材を時計方向または反時計方向に回すことにより、タッチ重さの調整を容易に行うことができる。また、例えば、操作部材を、それ自身の中心を通る軸線を中心として回動する、いわゆるダイヤル式に構成することにより、例えば前後方向などに移動させるタイプの操作部材に比べて、操作部材の設置スペースを小さくでき、それにより、鍵盤楽器の外観を良好に維持することができる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1または2に記載の鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置において、操作部材は、前後方向に移動自在に構成されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、操作部材が、前後方向に移動自在であるので、タッチ重さの調整の際には、操作部材を前方または後方に移動させることにより、タッチ重さの調整を容易に行うことができる。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置において、操作部材を、操作により移動した任意の位置にロックするロック機構を、さらに備えていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、タッチ重さの調整の際に、操作部材を移動させながら操作し、鍵盤のタッチ重さを所望のタッチ重さに設定する。そして、ロック機構により、操作部材をロックする。このように、操作部材をロックすることにより、鍵盤のタッチ重さを、設定した所望のタッチ重さに容易に維持することができる。また、演奏に伴う鍵盤楽器の振動などで操作部材が動いてしまうことがなく、演奏中もタッチ重さを安定して維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態によるタッチ重さ調整装置を適用したアップライトピアノの鍵盤、およびその周囲を部分的に示しており、(a)平面図、(b)左側面図である。
【図2】操作ダイヤルの操作による回動レバーの動作を説明するための説明図であり、(a)タッチ重さが最小になるときの状態、(b)タッチ重さが最大になるときの状態を示す。
【図3】タッチ重さ調整装置におけるウェイトレバーの位置を説明するための説明図であり、図2(a)および(b)にそれぞれ対応する位置を示す。
【図4】ウェイトレバーを載置するウェイト載置ピンの位置と、鍵に作用する荷重との関係を示すグラフ図である。
【図5】(a)ウェイト載置ピンの移動量と鍵に作用する荷重との関係を示すグラフ図、(b)回動レバーの基準位置からの回転角度とウェイト載置ピンの移動量との関係を示すグラフ図、(c)操作ダイヤルの操作量とタッチ重さとの関係を示すグラフ図である。
【図6】スライダ駆動機構の変形例を示す平面図である。
【図7】スライダ駆動機構の変形例を示す平面図である。
【図8】本発明の第2実施形態によるタッチ重さ調整装置を示す平面図であり、(a)タッチ重さが最小になるときの状態、(b)タッチ重さが最大になるときの状態を示す。
【図9】本発明の第3実施形態によるタッチ重さ調整装置を示す左側面図であり、(a)タッチ重さが最小になるときの状態、(b)タッチ重さが最大になるときの状態を示す。
【図10】操作ダイヤルのロック機構を示す図であり、(a)非ロック状態、(b)ロック状態を示す。
【図11】操作レバーのロック機構を示す図であり、(a)平面図、(b)ロック状態、(c)非ロック状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態によるタッチ重さ調整装置を適用したアップライトピアノ(以下、単に「ピアノ」という)の鍵盤、およびその周囲を部分的に示している。同図に示すように、このピアノ1(鍵盤楽器)は、複数の鍵2a(図1(a)では3つのみ図示)を有する鍵盤2と、鍵2aごとに設けられ、押鍵に伴って作動する複数のアクション3(図1(a)では省略、図1(b)において1つのみ図示)と、鍵盤2のタッチ重さを調整するタッチ重さ調整装置4などを備えている。
【0025】
鍵盤2は、棚板(図示せず)に載置された井桁状の筬(筬中5のみ図示)に下方から支持されている。具体的には、鍵盤2の複数の鍵2aは、左右方向(図1(a)の上下方向)に並設されており、各鍵2aが、前後方向(図1の左右方向)に延びるとともに、長さ方向の中央付近において、筬中5に立設されたバランスピン6(支点)に回動自在に支持されている。また、鍵2aには、バランスピン6よりも後方(図1の左方)の所定位置に、上方に突出し、後述するウェイトレバー12を載置するウェイト載置ピン7(載置部)が固定されている。各アクション3は、鍵2aの押鍵力をハンマー(図示せず)に伝達するものであり、鍵2aの後端部にキャプスタン8を介して載置された回動自在のウィッペン3aと、このウィッペン3aに回動自在に支持されたジャック3bなどを有している。押鍵により、対応するアクション3のウィッペン3aやジャック3bなどが回動することでハンマーが回動し、そのハンマーによる打弦により、ピアノ1が発音する。
【0026】
タッチ重さ調整装置4は、前後方向に移動自在のスライダ11と、鍵2aごとに設けられ、スライダ11に支持された複数のウェイトレバー12(錘)と、鍵盤2のタッチ重さを調整するために操作される操作ダイヤル13(操作部材)と、この操作ダイヤル13の操作に連動し、スライダ11を前後方向に駆動するスライダ駆動機構14とを備えている。
【0027】
スライダ11は、鍵盤2の両側に上下方向に延びるように配置された左右2つの支柱21(図1(b)において左側のもののみ図示)と、鍵盤2の上方において、両支柱21、21間にわたって左右方向に延び、左右の端部が、対応する支柱21の上端部にそれぞれ固定されたウェイト支持レール22(錘支持部)とを有している。各支柱21は、側面形状が逆T字状に形成されており、前後方向に延びるように棚板上に取り付けられたガイドレール23に、ベアリング24を介して前後方向に移動自在に支持されている。また、ウェイト支持レール22は、その長さ方向に沿って、所定の間隔ごとに後方に突設され、ウェイトレバー12をそれぞれ支持する複数のウェイト支持部22a(図1(a)では3つのみ図示)を有している。
【0028】
各ウェイトレバー12は、前後方向に所定長さ延び、角柱状に形成されたレバー部27と、このレバー部27の上面後端部に固定されたウェイト本体28とで構成されている。レバー部27は、前端部が二股状に形成されており、この前端部の内側にウェイト支持レール22のウェイト支持部22aを間にした状態で、これらを貫通しかつ左右方向に延びる支軸26を中心として、ウェイト支持部22aに回動自在に支持されている。また、ウェイト本体28は、鉄などの金属をブロック状に形成したものであり、所定の重量を有している。
【0029】
以上のように構成されたウェイトレバー12は、対応する鍵2aのウェイト載置ピン7に載置されている。これにより、ウェイトレバー12による荷重がウェイト載置ピン7を介して鍵2aに作用し、その荷重の分、鍵2aのタッチ重さが大きくなる。
【0030】
操作ダイヤル13は、所定の径および高さを有する円柱状に形成されており、鍵盤2の左方に配置された拍子木(図示せず)上に設けられている。また、操作ダイヤル13は、その下面の中心から下方に所定長さ延び、拍子木を貫通する回動軸29を有しており、この回動軸29を中心として、これと一体に、図1(a)の時計方向および反時計方向に回動自在になっている。
【0031】
スライダ駆動機構14は、水平に所定長さ延び、基部が上記回動軸29の下端部に固定された回動レバー30(回動部材)と、前後方向に所定長さ延び、後端部が左側の支柱21の下端部に接続されるとともに、前端部が回動レバー30の先端部に係合し、それにより、スライダ11と回動レバー30を連結する連結部材31とを有している。
【0032】
回動レバー30には、その先端部に、下方に突出する係合凸部30a(係合部)が設けられている。また、連結部材31には、その前端部に、左方に開放し、平面形状がU字状の係合溝31aが形成されている。この係合溝31aは、回動レバー30よりも若干長く形成されており、内側に回動レバー30の係合凸部30aが摺動自在に係合している。
【0033】
次に、図2〜図5を参照しながら、鍵盤2のタッチ重さを調整する際のタッチ重さ調整装置4の動作について説明する。図2(a)は、操作ダイヤル13およびその周囲を示しており、タッチ重さが最小になるときの状態である。この状態では、回動レバー30は、左右方向に延びていて、係合凸部30aが、回動軸29に対し、左右方向において左方から対向している。すなわち、係合凸部30aは、回動軸29の左側の真横に位置している(以下、このときの回動レバー30および操作ダイヤル13の位置を「基準位置」という)。また、この状態では、図3(a)に示すように、ウェイトレバー12の下面後端部が、鍵2aのウェイト載置ピン7に載置されている。
【0034】
図2(a)に示す状態から、操作ダイヤル13を時計方向に回すと、回動軸29を介して、回動レバー30が操作ダイヤル13と一体に回動する。この場合、回動レバー30の係合凸部30aが、後方(図2の上方)に移動するのに伴い、係合凸部30aに係合する連結部材31も後方に移動する。これにより、図3に示すように、スライダ11も後方(図3の左方)に移動し、これに支持されたすべてのウェイトレバー12も後方に移動する。このようにウェイトレバー12が後方に移動することにより、その前端部の支軸26が、ウェイトレバー12を載置するウェイト載置ピン7に近づく。換言すると、そのウェイト載置ピン7が、相対的にウエイトレバー12の支軸26に近づく。
【0035】
図4は、ウェイトレバー12に対するウェイト載置ピン7の位置と、これを介して鍵2aに作用する荷重との関係を示している。同図に示すように、ウェイト載置ピン7が、相対的にウェイトレバー12の支軸26に近づくにつれ、ウェイト載置ピン7を介して鍵2aに作用するウェイトレバー12の荷重が次第に大きくなる。これは、前述したように、ウェイト載置ピン7がウェイトレバー12の支軸26に近づくと、ウェイト載置ピン7を境とするウェイトレバー12の自由端(後端)側の部分の重量およびその部分の重心とウェイト載置ピン7との距離が次第に大きくなることで、ウェイトレバー12の支軸26回りのモーメントが次第に大きくなるからである。
【0036】
このように、ウェイト載置ピン7を介して鍵2aに作用する荷重が増大するのに伴い、鍵2aのタッチ重さも増大する。そして、操作ダイヤル13をさらに回し、図2(b)に示すように、回動レバー30が基準位置から90°回動すると、係合凸部30aが、回動軸29に対し、前後方向において後方から対向する。すなわち、係合凸部30は、回動軸29の真後ろに位置する。この場合、図3(b)に示すように、ウェイト載置ピン7は、ウェイトレバー12の支軸26に最接近し、これにより、ウェイト載置ピン7を介して鍵2aに作用する荷重が最大になることで、タッチ重さも最大になる。
【0037】
また、図4および図5(a)に示すように、ウェイト載置ピン7がウェイトレバー12の支軸26に比較的近い範囲では、前記モーメントの増加度合がより大きくなるため、鍵2aに作用する荷重の増加度合もより増大する。これに対し、操作ダイヤル13の回動操作に伴うウェイトレバー12の移動量、換言すると、ウェイトレバー12に対し相対的に移動するウェイト載置ピン7の移動量(以下「ウェイト載置ピン7の移動量」という)は、図5(b)に示すように、基準位置(同図の0°)からの操作ダイヤル13の回動角度が大きいほど、増加する。しかし、ウェイト載置ピン7の移動量は、操作ダイヤル13の回動角度が90°、すなわち、回動レバー30の係合凸部30aが回動軸29の真後ろの位置(図2(b)参照)に近づくにつれ、増加度合がより小さくなる。これは、ウェイト載置ピン7の移動量が、回動レバー30における回動軸29から係合凸部30aまでの距離に、回動レバー30の回動角度の正弦値を乗じた値になるためである。したがって、ウェイトレバー12の移動量の増加度合は、ウェイト載置ピン7がウェイトレバー12の支軸26に比較的近い範囲において、前述した荷重の増加度合の変化とは逆に、より小さくなる。
【0038】
以上により、タッチ重さが最も小さい状態から最も大きくなるように操作ダイヤル13を操作する場合、操作ダイヤル13を時計方向に回動操作し、回動レバー30が基準位置から回動し始めると、操作ダイヤル13の操作当初から操作の中程にかけては、その操作量に応じて、すべてのウェイトレバー12が後方に移動し、したがって、タッチ重さも、操作ダイヤル13の操作量に応じて次第に大きくなる。その後、操作ダイヤル13の操作終了に近づくにつれて、ウェイト載置ピン7を介して鍵2aに作用するウェイトレバー12の荷重の増加度合が上昇するものの、ウェイトレバー12の移動量の増加度合が低下するため、これらの相殺により、操作ダイヤル13の操作量に対する荷重の増加度合の増大を抑制することができる。これにより、ウェイト載置ピン7がウェイトレバー12の支軸26に比較的近い範囲を含めて、操作ダイヤル13の操作量に対し、上記荷重の変化がほぼ線形な関係を有することとなり、その結果、図5(c)に示すように、鍵盤2のタッチ重さの変化もほぼ線形な関係を有する。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、タッチ重さの増減量が、操作ダイヤル13の操作量に対してほぼ線形な関係を有するので、操作ダイヤル13の全操作範囲にわたり、その操作量に応じてタッチ重さを増減することができ、タッチ重さの調整を、微調整も含めて容易に行うことができる。また、操作ダイヤル13は、それ自体が回動操作されるダイヤル式のものであるので、拍子木上の設置スペースを比較的小さくでき、それにより、ピアノ1の外観を良好に維持することができる。
【0040】
図6は、スライダ駆動機構の変形例を示しており、このスライダ駆動機構41は、スライダ11と回動レバー30を、ワイヤを介して連結するタイプのものである。同図に示すように、スライダ駆動機構41は、ワイヤ42と、このワイヤ42を内部に通した状態で案内するワイヤガイド43と、このワイヤガイド43とスライダ11の左側の支柱21との間に配置され、スライダ11を後方に付勢するばね44などを備えている。
【0041】
ワイヤ42は、前後方向に所定長さ延びるように配置され、前端部が回動レバー30の先端部のワイヤ取付部30b(係合部)に、後端部がスライダ11の支柱21の前端部に設けられた取付部21aに取り付けられている。ワイヤガイド43は、前後方向に延びる円筒状に形成され、棚板上に固定された状態で、支柱21と回動レバー30との間に配置されている。
【0042】
ばね44は、コイルばねで構成され、その内側にワイヤ42を通した状態で、前端部がワイヤガイド43の後端部に取り付けられ、後端部が支柱21の前記取付部21aに取り付けられている。また、回動レバー30とワイヤガイド43との間には、ワイヤ42が摺接し、これにテンションを付与しながらワイヤ42を円滑に案内するガイド部材45が設けられている。
【0043】
このように構成されたスライダ駆動機構41を備えたタッチ重さ調整装置4では、例えば、図6に示す状態から、操作ダイヤル13を反時計方向に回動させると、これと一体に回動レバー30も回動する。これに伴い、ワイヤ42が前方に引き出されるとともに、これに連結されたスライダ11が、ばね44の付勢力に抗して、前方に駆動される。これにより、ウェイトレバー12が前方に移動し、鍵盤2のタッチ重さが小さくなる。一方、図6に示す状態から、操作ダイヤル13を、時計方向に回動させると、ワイヤ42が後方に送り出されるとともに、スライダ11がばね44の付勢力により、後方に駆動される。これにより、ウェイトレバー12が後方に移動し、鍵盤2のタッチ重さが大きくなる。
【0044】
以上のように、このスライダ駆動機構41を備えたタッチ重さ調整装置4によれば、前記スライダ駆動機構14を備えた場合と同様、操作ダイヤル13の全操作範囲にわたり、その操作量に応じてタッチ重さを増減でき、タッチ重さを容易に調整することができる。また、スライダ駆動機構41では、スライダ11と回動レバー30の間を、ワイヤ42を介して連結するので、操作ダイヤル13の設置位置の自由度を高めることができ、ピアノの種類や機種に柔軟に対応することができる。
【0045】
図7は、スライダ駆動機構の他の変形例を示しており、このスライダ駆動機構51は、操作ダイヤル13の回動軸29と回動レバー30を、ギヤを介して連結するタイプのものである。スライダ駆動機構51は、回動軸29に固定された小径ギヤ52と、これに噛み合うとともに、回動レバー30の回動支点としての支軸30cに固定された大径ギヤ53とを備えている。
【0046】
小径ギヤ52および大径ギヤ53は、いずれも平歯車であり、大径ギヤ53が、小径ギヤ52のほぼ2倍の径を有している。また、大径ギヤ53が固定された回動レバー30の先端部には、前記スライダ駆動機構14の回動レバー30と同様の係合凸部30a、または前記スライダ駆動機構41の回動レバー30と同様のワイヤ取付部30bが設けられる。したがって、回動レバー30は、前者の場合には、スライダ駆動機構14と同様、係合凸部30aを介して連結部材31に係合し、後者の場合には、スライダ駆動機構41と同様、ワイヤ取付部30bを介して、ワイヤ42に連結される。
【0047】
このように構成されたスライダ駆動機構51を備えたタッチ重さ調整装置4では、例えば、図7に示す状態から、操作ダイヤル13を時計方向に回動させると、両ギヤ52、53を介して、回動レバー30が反時計方向に回動する。これに伴い、連結部材31またはワイヤ42を介してスライダ11が前方に駆動され、これとともにウェイトレバー12が前方に移動し、鍵盤2のタッチ重さが小さくなる。一方、図7に示す状態から、操作ダイヤル13を反時計方向に回動させると、回動レバー30が時計方向に回動し、これに伴い、スライダ11が後方に駆動される。これにより、ウェイトレバー12が後方に移動し、鍵盤2のタッチ重さが大きくなる。
【0048】
以上のように、このスライダ駆動機構51を備えたタッチ重さ調整装置4によれば、前記スライダ駆動機構14または41を備えた場合と同様、操作ダイヤル13の全操作範囲にわたり、その操作量に応じてタッチ重さを増減でき、タッチ重さを容易に調整することができる。また、スライダ駆動機構51では、大径ギヤ53の径が、小径ギヤ52のそれのほぼ2倍であるため、回動レバー30を90°回動させるために、操作ダイヤル13を約180°回動させることになる。このように操作ダイヤル13の操作量が増大することにより、タッチ重さの微調整を行いやすくでき、タッチ重さの調整をより一層容易に行うことができる。
【0049】
次に、図8を参照しながら、本発明の第2実施形態によるタッチ重さ調整装置について説明する。同図(a)に示すように、本実施形態によるタッチ重さ調整装置61は、第1実施形態の回動操作タイプの操作ダイヤル13と異なり、スライド操作タイプの操作レバー62(操作部材)を採用したものである。なお、以下の説明では、前述した第1実施形態のタッチ重さ調整装置4と同一の構成部品については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略するものとする。
【0050】
このタッチ重さ調整装置61は、操作レバー62と、この操作レバー62とスライダ11とを連結し、操作レバー62の操作に連動してスライダ11を前後方向に駆動するスライダ駆動機構63とを備えている。
【0051】
操作レバー62は、上下方向(図8の表裏方向)に所定長さ延びるレバー本体62aを有しており、その上端部につまみ部62bが設けられている。レバー本体62aは、細長い角柱状に形成されており、拍子木に設けられたレバーガイド64の前後方向に延びるガイド孔64aを貫通するとともに、下端部が棚板上に設けられたガイドレール(図示せず)によって、前後方向にスライド自在に支持されている。
【0052】
スライダ駆動機構63は、操作レバー62とスライダ11との間に回動自在に設けられた回動レバー66(回動部材)と、レバー本体62aの下端部に固定されるとともに、回動レバー66に係合するレバー側係合部材67と、スライダ11の左側の支柱21に接続されるとともに、回動レバー66に係合するスライダ側係合部材68とを有している。
【0053】
回動レバー66は、平面形状が所定の屈曲角度(例えば135°)を有するV字状に形成されており、その屈曲部分において、棚板から上方に突出する回動軸66a(回動軸)を中心として回動自在に支持されている。また、回動レバー66の上面には、操作レバー62側の先端部に、上方に突出するレバー側係合凸部66bが設けられるとともに、スライダ11側の先端部に、上方に突出するスライダ側係合凸部66c(係合部)が設けられている。
【0054】
レバー側係合部材67は、平面形状が左右方向に延びかつ右方に開放するU字状の係合溝67aを有している。この係合溝67aには、回動レバー66のレバー側係合凸部66bが摺動自在に係合している。一方、スライダ側係合部材68は、平面形状が左右方向に延びかつ左方に開放するU字状の係合溝68aを有している。この係合溝68aには、回動レバー66のスライダ側係合凸部66cが摺動自在に係合している。
【0055】
次に、タッチ重さ調整装置61の動作について説明する。図8(a)は、タッチ重さが最小になるときの状態であり、この状態では、操作レバー62およびレバー側係合部材67が、ガイド孔64aの後端(同図(a)の上端)付近に位置している。また、この状態では、回動レバー66は、レバー側係合凸部66bが回動軸66aの左斜め後方に位置するとともに、スライダ側係合凸部66cが回動軸66aの右側の真横に位置している(以下、このときの回動レバー66の位置を「基準位置」という)。
【0056】
この状態から、つまみ部62bをつまんで、操作レバー62を前方にスライドさせると、これと一体にレバー側係合部材67が前方に移動し、これに伴い、回動レバー66が回動軸66aを中心に反時計方向に回動する。また、この回動レバー66の回動に伴い、スライダ側係合部材68が後方に移動し、これと一体に、スライダ11およびこれに支持されたすべてのウェイトレバー12が後方に移動する。これにより、第1実施形態と同様、ウェイト載置ピン7を介して鍵2aに作用する荷重が増大するのに伴い、鍵2aのタッチ重さが増大する。
【0057】
そして、操作レバー62を、さらに前方にスライドさせ、図8(b)に示すように、操作レバー62がガイド孔64aの前端付近に達し、回動レバー66が基準位置から90°回動すると、スライダ側係合凸部66cが回動軸66aの真後ろに位置する。この場合、第1実施形態と同様、ウェイト載置ピン7が、相対的にウェイトレバー12の支軸26に最接近し、これにより、ウェイト載置ピン7を介して鍵2aに作用する荷重が最大になることで、タッチ重さも最大になる。また、このタッチ重さ調整装置61では、第1実施形態と同様、操作レバー62の操作量に対し、上記荷重の変化がほぼ線形な関係を有することとなり、鍵盤2のタッチ重さの変化もほぼ線形な関係を有する。
【0058】
以上のように、本実施形態によれば、タッチ重さの増減量が、操作レバー62の操作量に対してほぼ線形な関係を有するので、操作レバー62の全操作範囲にわたり、その操作量に応じてタッチ重さを増減することができ、第1実施形態と同様、タッチ重さの調整を容易に行うことができる。
【0059】
次に、図9を参照しながら、本発明の第3実施形態によるタッチ重さ調整装置について説明する。同図(a)に示すように、本実施形態によるタッチ重さ調整装置71は、回動操作タイプの操作レバー72(操作部材)を採用したものである。なお、以下の説明では、第2実施形態と同様、前述した第1実施形態のタッチ重さ調整装置4と同一の構成部品については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略するものとする。
【0060】
このタッチ重さ調整装置71は、操作レバー72と、この操作レバー72とスライダ11とを連結し、操作レバー72の操作に連動してスライダ11を前後方向に駆動するスライダ駆動機構73とを備えている。
【0061】
操作レバー72は、上下方向に所定長さ延びるレバー本体72aを有しており、その上端部につまみ部72aが設けられている。レバー本体72aは、その下端部において、スライダ駆動機構73の後述する円盤74の外周部に固定されている。
【0062】
スライダ駆動機構73は、側面形状が所定長さの径を有する円形に形成され、左右方向に延びる回動軸74aを中心に回動自在の円盤74(回動部材)と、円盤74に係合し、この円盤74とスライダ11を連結する連結部材75とを有している。円盤74の左側面には、回動軸74aから径方向に所定距離、離れ、外方に突出する係合凸部74b(係合部)が設けられている。一方、連結部材75には、その前端部に、上方に開放し、側面形状がU字状の係合溝75aが形成されている。この係合溝75aは、円盤74の径よりも若干長く形成されており、内側に円盤74の係合凸部74bが摺動自在に係合している。
【0063】
このように構成されたタッチ重さ調整装置71において、図9(a)は、タッチ重さが最小になるときの状態である。この状態では、操作レバー72が後方(同図の左方)に傾斜するとともに、円盤74の係合凸部74bが回動軸74aの真下に位置している(以下、このときの円盤74の位置を「基準位置」という)。
【0064】
この状態から、つまみ部72bをつまんで、操作レバー72を前方に操作すると、これと一体に、円盤74がその回動軸74aを中心に時計方向に回動する。この場合、円盤74の係合凸部74bが、後方に移動するのに伴い、係合凸部74bに係合する連結部材75も後方に移動し、これと一体に、スライダ11およびこれに支持されたすべてのウェイトレバー12が後方に移動する。これにより、第1および第2実施形態と同様、ウェイト載置ピン7を介して鍵2aに作用する荷重が増大するのに伴い、鍵2aのタッチ重さが増大する。
【0065】
そして、操作レバー72を、さらに前方に操作し、操作レバー72が図9(b)に示す位置に達し、円盤74が基準位置から90°回動すると、係合凸部74bが、回動軸74aの真後ろに位置する。この場合、第1および第2実施形態と同様、ウェイト載置ピン7が、相対的にウェイトレバー12の支軸26に最接近し、これにより、ウェイト載置ピン7を介して鍵2aに作用する荷重が最大になることで、タッチ重さも最大になる。また、このタッチ重さ調整装置71では、第1および第2実施形態と同様、操作レバー72の操作量に対し、上記荷重の変化がほぼ線形な関係を有することとなり、鍵盤2のタッチ重さの変化もほぼ線形な関係を有する。
【0066】
以上のように、本実施形態によれば、タッチ重さの増減量が、操作レバー72の操作量に対してほぼ線形な関係を有するので、操作レバー72の全操作範囲にわたり、その操作量に応じてタッチ重さを増減することができ、第1および第2実施形態と同様、タッチ重さの調整を容易に行うことができる。
【0067】
また、以上の各実施形態のタッチ重さ調整装置4、61および71において、設定したタッチ重さを保持するために、前述した操作ダイヤルや操作レバーをロックするロック機構を設けてもよい。
【0068】
図10は、回動操作タイプの操作ダイヤルに適用したロック機構を示している。同図(a)に示すように、このロック機構81は、押し下げ可能な操作ダイヤル82と、操作ダイヤル82の側方(同図では左方)に設けられ、操作ダイヤル82を回動不能にロックするためのロック部材83と、操作ダイヤル82の下方に設けられ、これを押し下げられた状態に保持するための保持機構84などを備えている。
【0069】
操作ダイヤル82は、平面形状が円形に形成され、周縁部が垂下するダイヤル本体91と、このダイヤル本体91の中心から下方に所定長さ延びる回動軸92とを有し、縦断面がほぼT字状に形成されている。ダイヤル本体91の周縁部の下端部には、その周方向に沿って、ロック部材83の後述する係合凹部83aに係合可能な多数の係合歯91aが設けられている。
【0070】
一方、回動軸92は、上下方向に延びる円筒状のスリーブ93に遊挿された状態で、このスリーブ93とともに、所定形状の支持部材94を貫通するように配置されている。また、回動軸92の下端部には、下方に向かってテーパ状に形成されたテーパ部92aが設けられ、このテーパ部92aの直ぐ上に、周方向の全体にわたって外方に開放する係止凹部92bが設けられている。また、回動軸92には、その長さ方向の中央よりも若干上側の位置に、外方に突出し、スリーブ93の上下方向に延びる長孔93aに摺動自在に係合する係合凸部92cが設けられている。スリーブ93は、前記支持部材94に対し、上下方向に不動にかつ回動自在に支持されており、前記回動レバー30の基部に貫通した状態で、これに固定されている。また、回動軸92およびスリーブ93の周囲には、ダイヤル本体91と支持部材94の間に、操作ダイヤル82を上方に付勢するコイルばねが95設けられている。
【0071】
このように構成された操作ダイヤル82は、スリーブ93に対し、その長孔93aの長さ分、上下方向に移動可能であり、また、操作ダイヤル82が回動操作されるのに伴い、回動軸92と一体に、スリーブ93が回動し、それに伴い、回動レバー30も回動する。なお、操作ダイヤル82の回動軸92は、スリーブ93に対し、上下方向に移動可能でかつ一体に回動できるように構成されていればよいので、例えば、回動軸92の横断面を、矩形状や星形などに形成するとともに、スリーブ93の横断面を、回動軸92のそれと相補的な形状を有するようにしてもよい。この場合には、回動軸92の係合凸部92cおよびスリーブ93の長孔93aを省略することができる。
【0072】
ロック部材83は、拍子木に嵌め込まれており、ダイヤル本体91の側方から下方に回り込むような形状を有している。また、ロック部材83には、ダイヤル本体91側の下端部に、ダイヤル本体91の係合歯91aに下方から対向し、上方に開放する所定深さの係合凹部83aが形成されている。
【0073】
保持機構84は、操作ダイヤル82の回動軸92の下方に配置されており、下端部の水平な支軸(図示せず)を中心として回動自在の一対の係止爪84a、84aを有している。両係止爪84a、84aは、上記支軸の付近が回動軸92のテーパ部92aで上方から押圧されることにより、回動軸92の係止凹部92bに両側から嵌り込むように係止することで、操作ダイヤル82の上方への移動を阻止するように構成されている。また、これらの係止爪84a、84aは、上記の状態から、さらに押圧されることにより、係止凹部92bとの係合を解除することで、操作ダイヤル82の上方への移動を許容するように構成されている。
【0074】
以上のように構成されたロック機構81を備えたタッチ重さ調整装置4では、前述した第1実施形態の操作ダイヤル13と同様、操作ダイヤル82を回し、鍵盤2のタッチ重さを所望のタッチ重さに設定することができる。この設定の後、操作ダイヤル82を、コイルばね95の付勢力に抗して上方から押圧すると、図10(b)に示すように、ダイヤル本体91のいずれかの係合歯91aがロック部材83の係合凹部83aに噛み合うとともに、保持機構84の両係止爪84a、84aが回動軸92の下端部の係止凹部92bを係止する。この状態では、ダイヤル本体91の係合歯91aがロック部材83の係合凹部83aに噛み合った状態に保持されるので、操作ダイヤル82が回動不能にロックされる。
【0075】
一方、この操作ダイヤル82のロックを解除する場合には、操作ダイヤル82を一旦、上方から押圧する。これにより、保持機構84の両係止爪84a、84aによる回動軸92の係止が解除され、コイルばね95で操作ダイヤル82が押し上げられることにより、ダイヤル本体91の係合歯91aがロック部材83の係合凹部83aから外れる。このようにして、ロックが解除された操作ダイヤル82では、回動操作が可能となり、タッチ重さの調整が可能となる。
【0076】
以上のように、ロック機構81を備えたタッチ重さ調整装置4によれば、操作ダイヤル82を操作し、所望のタッチ重さに設定した状態で、操作ダイヤル82をロック状態にすることにより、鍵盤2のタッチ重さを、設定した所望のタッチ重さに維持することができる。また、演奏に伴うピアノ1の振動などで操作ダイヤル82が動いてしまうことがなく、演奏中もタッチ重さを安定して維持することができる。
【0077】
図11は、スライド操作タイプの前記操作レバー62に適用したロック機構101を示している。同図(a)および(b)に示すように、このロック機構101は、前後方向(同図(a)の上下方向)にスライド自在の操作レバー62の右方に設けられたロックレバー102と、操作レバー62を案内するとともに、ロックレバー102が係合することによって、操作レバー62をスライド不能にロックするためのレバーガイド103などを備えている。
【0078】
図11(b)に示すように、ロックレバー102は、操作レバー62のレバー本体62aに沿って上下方向に延びる所定形状を有している。具体的には、ロックレバー102は、その上端部および下端部がレバー本体62aから所定間隔を隔てるとともに、中央部がレバー本体62aに近接するように配置され、その中央部において、前後方向に延びる支軸104を中心に回動可能な状態で、レバー本体62aに取り付けられている。また、ロックレバー102の下端部は、レバーガイド103の上方から右方に回り込むように形成されており、レバーガイド103の後述する係合凹部103aに係合可能な係合歯102aを有している。また、ロックレバー102の上端部とレバー本体62aとの間には、ロックレバー102を図11(b)の時計方向に回動するように付勢するばね105が設けられている。
【0079】
レバーガイド103は、平面形状が前後方向に延びる矩形状に形成されており、操作レバー62を案内するための前後方向に延びるガイド孔103aを有している。また、レバーガイド103の右縁部には、その長さ方向に沿って、ロックレバー102の係合歯102aが係合可能な多数の係合凹部103bが設けられている。そして、ロックレバー102の下端部の係合歯102aが、レバーガイド103の係合凹部103bのいずれかに噛み合うことにより、操作レバー62がスライド不能にロックされる。
【0080】
以上のように構成されたロック機構101を備えたタッチ重さ調整装置61では、タッチ重さを調整する場合、操作レバー62のつまみ部62bをつまむとともに、ロックレバー102の上端部を、ばね105の付勢力に抗して、操作レバー62側に押圧する。これにより、図11(c)に示すように、ロックレバー102は、操作レバー62に対し、上端部が近づくとともに下端部が離れるように若干回動することによって、係合歯102aがレバーガイド103の係合凹部103bから外れ、それにより、操作レバー62のロックが解除される。そして、ロックレバー102を押圧した状態のまま、操作レバー62を前後方向にスライドさせることにより、鍵盤2のタッチ重さを所望のタッチ重さに設定することができる。この設定の後、操作レバー62(ロックレバー102を含む)から手を離すと、ばね105の復元力により、ロックレバー102が元の状態に復帰し、その下端部の係合歯102aが、レバーガイド103の係合凹部103bに噛み合うことによって、操作レバー62がロックされる。
【0081】
以上のように、ロック機構101を備えたタッチ重さ調整装置61によれば、前記ロック機構81を備えたタッチ重さ調整装置4と同様、鍵盤2のタッチ重さを、設定した所望のタッチ重さに安定して維持することができる。また、操作レバー62を操作し、所望のタッチ重さに設定した後、操作レバー62から手を離すだけで、操作レバー62を簡単にロックすることができる。なお、このロック機構101とほぼ同様に構成されたロック機構により、前記第3実施形態の操作レバー72もロックすることが可能である。
【0082】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。実施形態では、アップライトピアノに適用したタッチ重さ調整装置4、61および71を例示したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えばグランドピアノなどのアコースティックピアノはもちろん、アコースティックピアノと同様の鍵盤、すなわち各鍵が長さ方向の中央付近において回動自在に支持された鍵盤を備えた電子ピアノなどにも適用することが可能である。
【0083】
また、実施形態では、スライダ11のウェイト支持レール22に、ウェイトレバー12の前端部が支持されるように構成したが、ウェイトレバー12の後端部が支持されるように構成することも可能である。ただしこの場合、タッチ重さが最大になるときに、第1実施形態の回動レバー30の係合凸部30aや、第2実施形態の回動レバー66のスライダ側係合凸部66c、第3実施形態の円盤74の係合凸部74bが、回動軸29、66a、74aに対し、前後方向において前方から対向する位置、すなわち回動軸29、66a、74aの真正面に位置するように、操作ダイヤル13や操作レバー62、72、回動レバー30、66、円盤74などを適宜、変更する必要がある。また、実施形態で示したタッチ重さ調整装置4、61、71の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 ピアノ(鍵盤楽器)
2 鍵盤
2a 鍵
4 タッチ重さ調整装置
6 バランスピン(支点)
7 ウェイト載置ピン(載置部)
11 スライダ
12 ウェイトレバー(錘)
13 操作ダイヤル(操作部材)
14 スライダ駆動機構
22 ウェイト支持レール(錘支持部)
26 支軸
29 回動軸
30 回動レバー(回動部材)
30a 係合凸部(係合部)
41 スライダ駆動機構
51 スライダ駆動機構
61 タッチ重さ調整装置
62 操作レバー(操作部材)
63 スライダ駆動機構
66 回動レバー(回動部材)
66a 回動軸
66c スライダ係合凸部(係合部)
71 タッチ重さ調整装置
72 操作レバー(操作部材)
73 スライダ駆動機構
74 円盤(回動部材)
74a 回動軸
74b 係合凸部(係合部)
81 ロック機構
82 操作ダイヤル(操作部材)
101 ロック機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が前後方向に延びるとともに中央付近において支点に回動自在に支持され、左右方向に並設された複数の鍵を有する鍵盤楽器において、鍵盤のタッチ重さを調整する鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置であって、
前記複数の鍵の上方に左右方向に延びる錘支持部を有し、前後方向に移動自在のスライダと、
前記鍵ごとに設けられ、各々が前後方向に延び、一端部において左右方向に延びる支軸を中心として前記錘支持部に回動自在に支持されるとともに、前記鍵の前記支点よりも後方の所定位置に設けられた載置部に載置され、対応する前記鍵に連動してそれぞれ回動する複数の錘と、
移動自在に構成され、前記鍵盤のタッチ重さを調整するために操作される操作部材と、
この操作部材と前記スライダの間に設けられ、前記操作部材の操作に連動して前記スライダを前後方向に移動させるとともに、前記操作部材の操作量に対する前記スライダの移動量の変化度合が、前記錘の前記支軸が前記鍵の前記載置部に近づくにつれ、より小さくなるように構成されたスライダ駆動機構と、
を備えていることを特徴とする鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置。
【請求項2】
前記スライダ駆動機構は、前記操作部材の操作に連動して、前記スライダの移動方向に対して直交する方向に延びる回動軸を中心に回動自在に構成され、当該回動軸から径方向に所定距離、離れた位置の係合部を介して、前記スライダに係合する回動部材を有し、
当該回動部材の回動に伴い、前記係合部を介して前記スライダが移動することによって、前記錘の前記支軸が前記鍵の前記載置部に最接近したときに、前記係合部が前記回動軸に対し、前後方向において前方または後方から対向することを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置。
【請求項3】
前記操作部材は、上下方向および左右方向の一方に延びる軸線を中心として回動自在に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置。
【請求項4】
前記操作部材は、前後方向に移動自在に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置。
【請求項5】
前記操作部材を、操作により移動した任意の位置にロックするロック機構を、さらに備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の鍵盤楽器のタッチ重さ調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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