説明

鍵盤楽器及び操作子反力適正化システム

【課題】力覚制御用基礎情報に忠実な反力付与を実現する。
【解決手段】制御用テーブル群TAに基礎テーブル群T0をセットし、駆動条件Jで、測定用アクチュエータにより鍵を押離鍵駆動すると同時に、制御用テーブル群TAに基づき、反力用アクチュエータにより鍵を離鍵方向に付勢するように反力駆動し、このときに測定用アクチュエータが鍵から受ける実反力を検出して実反力パターンtB(J)を求める。そして、目標反力パターンt0におけるF値{t0}と、実反力パターンtB(J)におけるF値{tB(J)}との、対応するもの同士の差分が小さくなるように、制御用テーブル群TA中の各テーブルにおいて、目標反力パターンtA(J)におけるF値{tA(J)}に対応するF値を個々に補正することで、制御用テーブル群TAを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵、ペダル等の操作子の操作に対して付与すべき反力を力覚制御用情報に基づいて制御する鍵盤楽器及び操作子反力適正化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、電子ピアノ等の鍵盤楽器において、鍵等の操作子に対して、バネ等とは別に、ソレノイド等を用いて反力を与え、その反力を制御することで、アコースティックピアノの鍵等が持つ複雑な力覚の再現を目指した力覚制御装置が知られている。
【0003】
この装置では、押離鍵操作において、鍵を駆動して操作に対する反力を付与するためのドライブアクチュエータを、例えば、鍵を離鍵方向に駆動できるような位置に設ける。また、付与する力覚を決定するための力覚制御用基礎情報として、ドライブアクチュエータで発生させるべき反力を記憶した力覚テーブルを予め取得しておく。そして、奏者による押離鍵時の鍵の位置、速度、加速度を検出乃至変換により得て、上記力覚テーブルを参照して、上記得た位置、速度、加速度の情報から鍵に付与すべき反力を決定し、その反力に基づいて、鍵位置に応じてドライブアクチュエータを制御することで、適切な力覚を与える。
【0004】
上記力覚テーブルは、例えば、関連するパラメータ(鍵の位置、速度、加速度、鍵に与える駆動信号の値等)を個々に変化させる等によって、試行錯誤により感覚的に作り出される。
【特許文献1】特開平10−177378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記力覚テーブルを作り出す際、それが利用される鍵盤楽器の個々の抵抗等による反力の誤差要因(鍵回動軸の摩擦、ドライブアクチュエータのソレノイドの推力特性による誤差等)までは通常考慮していないため、上記力覚テーブルで規定される目標反力と、実際にその鍵盤楽器の操作子の操作に対して指にかかる実反力とが必ずしも一致しない。そのため、上記力覚テーブルを実際に利用する鍵盤楽器において、上記力覚テーブルで規定される目標反力を中実に再現することが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、力覚制御用基礎情報に忠実な反力付与を実現することができる鍵盤楽器及び操作子反力適正化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の鍵盤楽器は、操作子(3)と、前記操作子を駆動することで該操作子の操作に対する反力を生じさせる第1駆動手段(20)と、力覚制御に用いるための力覚制御用情報(TA)であって力覚制御用基礎情報(T0)に基づくものを記憶する記憶手段(26)と、前記操作子が操作された場合に、前記記憶手段に記憶された力覚制御用情報に基づいて前記第1駆動手段を制御することで、前記操作子の操作に対して前記第1駆動手段が発生させる反力を目標反力に制御する第1制御手段(41)と、前記第1駆動手段とは別個に設けられ、前記操作子を駆動する第2駆動手段(30)と、前記第2駆動手段を所定条件(J)で制御する第2制御手段(42)と、前記操作子が、前記第2制御手段の制御に従って前記第2駆動手段により駆動され且つ前記第1制御手段の制御に従って前記第1駆動手段により駆動されているときに、前記第2駆動手段が前記操作子から受ける実反力を検出する反力検出手段(37)と、前記操作子が、前記第2制御手段の制御に従って前記第2駆動手段により駆動され且つ前記第1制御手段の制御に従って前記第1駆動手段により駆動されているときにおける、前記第1制御手段の目標反力と前記反力検出手段により検出された実反力との差分が小さくなるように、前記記憶手段に記憶された力覚制御用情報を補正する補正手段(43)とを有することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、力覚制御用情報を補正することで鍵盤楽器の操作子操作に対する反力の誤差要因を吸収し、第1駆動手段による実反力を元の力覚制御用情報(力覚制御用基礎情報)で規定される目標反力に近づけることができる。よって、力覚制御用基礎情報に忠実な反力付与を実現することができる。
【0009】
好ましくは、前記補正手段は、前記第1制御手段の目標反力と前記反力検出手段により検出された実反力との一致/不一致を判定し、両者の一致を判定するまで前記力覚制御用情報の補正を繰り返す(請求項2)。この構成によれば、実反力を力覚制御用基礎情報で規定される目標反力に極力近づけ、一層忠実な反力付与を実現することができる。
【0010】
上記目的を達成するために本発明の請求項3の操作子反力適正化システムは、操作子(101)と、前記操作子を駆動することで該操作子の操作に対する反力を生じさせる第1駆動手段(120)と、力覚制御に用いるための力覚制御用情報(TA)であって力覚制御用基礎情報(T0)に基づくものを記憶する記憶手段と、前記操作子が操作された場合に、前記記憶手段に記憶された力覚制御用情報に基づいて前記第1駆動手段を制御することで、前記操作子の操作に対して前記第1駆動手段が発生させる反力を目標反力に制御する第1制御手段(141)とを有する力覚制御付き鍵盤楽器(100)に用いられる操作子反力適正化システムであって、反力測定装置(140)と、反力補正装置(143)とを有し、前記反力測定装置は、前記操作子を駆動する第2駆動手段(130)と、前記第2駆動手段を所定条件(J)で制御する第2制御手段(142)と、前記操作子が、前記第2制御手段の制御に従って前記第2駆動手段により駆動され且つ前記第1制御手段の制御に従って前記第1駆動手段により駆動されているときに、前記第2駆動手段が前記操作子から受ける実反力を検出する反力検出手段(131)とを有し、前記反力補正装置は、前記操作子が、前記第2制御手段の制御に従って前記第2駆動手段により駆動され且つ前記第1制御手段の制御に従って前記第1駆動手段により駆動されているときにおける、前記第1制御手段の目標反力と前記反力検出手段により検出された実反力との差分が小さくなるように、前記記憶手段に記憶された力覚制御用情報を補正することを特徴とする。
【0011】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1によれば、力覚制御用基礎情報に忠実な反力付与を実現することができる。
【0013】
本発明の請求項3によれば、力覚制御用基礎情報を利用する鍵盤楽器において、当該力覚制御用基礎情報に忠実な反力付与を実現することができる。また、力覚制御用情報の補正機能を有しない鍵盤楽器においても、力覚制御用情報の補正を適用でき、より汎用的な鍵盤楽器において力覚制御用基礎情報に忠実な反力付与を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る鍵盤装置の構成を、ある1つの鍵に着目して示した断面図である。本鍵盤装置1は、回動軸2を中心に回動するシーソー型の鍵3を複数有する電子鍵盤楽器である。以降、鍵3の奏者側(同図右側)を「前方」と称する。
【0016】
鍵盤装置1は、1つの制御ユニット40と、それぞれ各鍵3ごとに設けられた反力用アクチュエータ20及び測定用アクチュエータ30とを有する。反力用アクチュエータ20は、対応する鍵3を離鍵方向に付勢するように駆動することで、該鍵3の指等による操作に対する反力を生じさせるためのものである。なお、鍵盤装置1には、アコースティックピアノにあるようなアクション機構は備えられておらず、適当な押離鍵反力は専ら反力用アクチュエータ20によって得られる。
【0017】
一方、測定用アクチュエータ30は、反力用アクチュエータ20とは別個に設けられ、対応する鍵3を押鍵方向に付勢するように駆動することで、自身にかかる押離鍵反力に相当する反力を鍵3の運動を介して検出するためのものである。これら反力用アクチュエータ20及び測定用アクチュエータ30については、黒鍵、白鍵のいずれに対応するものについてもそれぞれ構成が同様であるので、各1つの構成を代表して説明する。
【0018】
反力用アクチュエータ20は、対応する鍵3の前端部の下方に配置されている。反力用アクチュエータ20は、上下方向に移動自在なプランジャ22を有し、プランジャ22の周りには、駆動用のソレノイドコイル21が巻装されている。プランジャ22の上端部には、鍵3の前端部下面3aを突き上げ駆動する駆動部材23が固定されている。プランジャ22の下方にはコイルスプリング25が設けられ、プランジャ22が上方に常に付勢sれている。これにより、押離鍵時において、駆動部材23が、鍵3の前端部下面3aに常に当接する。反力用アクチュエータ20にはまた、プランジャ22の位置、ひいては鍵3の位置を検出するキー位置センサ24が設けられている。
【0019】
測定用アクチュエータ30は、対応する鍵3の後端部の下方に配置されている。測定用アクチュエータ30は、上下方向に移動自在なプランジャ32を有し、プランジャ32の上端部には、鍵3の後端部下面3bを突き上げ駆動する駆動部材33が固定され、プランジャ32の下端部にはマグネット棒35が固定されている。プランジャ32の周りには、駆動用のソレノイドコイル31が巻装され、マグネット棒35の周りには、速度検出用のソレノイドコイル36が巻装されている。測定用アクチュエータ30にはまた、プランジャ32の位置、ひいては鍵3の位置を検出するキー位置センサ34が設けられている。
【0020】
制御ユニット40は、反力制御部41、反力測定部42及び反力補正部43を有する。詳細は後述するが、反力制御部41は、力覚制御用基礎情報としての後述する基礎テーブル群T0(図3参照)を格納していると共に、基礎テーブル群T0に基づく力覚制御用情報としての制御用テーブル群TAを用いて反力用アクチュエータ20を駆動制御する。また、反力測定部42は、駆動条件Jを随時変更しつつ、駆動条件Jで測定用アクチュエータ30を駆動制御する。
【0021】
反力制御部41は、制御用テーブル群TAに従って、各時刻における鍵3の位置に対応した位置制御データを生成し、その位置制御データに応じた励磁電流として電流指示値uA(t)を生成し、反力用アクチュエータ20に供給する。反力測定部42は、駆動条件Jに基づく各時刻における鍵3の位置に対応した位置制御データを生成し、その位置制御データに応じた励磁電流として電流指示値uB(t)を生成し、測定用アクチュエータ30に供給する。これら電流指示値uA(t)、uB(t)は、実際には、両アクチュエータ20、30のそれぞれのソレノイドコイル21、31に流すべき平均電流の目標値に応じたデューティ比となるようにパルス幅変調を施したPWM信号である。
【0022】
キー位置センサ24、34により検出される信号は、鍵3の現在位置(プランジャ22、32の各ストローク位置にも相当)を示す位置信号xA、xB(mm)として反力制御部41、反力測定部42にそれぞれ供給される。また、測定用アクチュエータ30において、マグネット棒35がプランジャ32と共に上下移動することで、ソレノイドコイル36の電流が変化し、この電流変化が、鍵3の現在位置における鍵3の移動速度を示す速度信号vB(mm/sec)として反力測定部42に供給される。
【0023】
さらに、鍵盤装置1には、ホール素子等で成る供給電流センサ37が設けられる。供給電流センサ37は、測定用アクチュエータ30による鍵3の駆動時において、鍵3を現在位置に位置させるために反力測定部42からソレノイドコイル31に供給されている電流値を、鍵3の現在位置における必要入力電流値iB(A;アンペア)として検出する。後述するように、必要入力電流値iBは、鍵3乃至プランジャ32を現在位置に駆動するために必要である推力に相当するものであり、例えば、押離鍵という観点からみれば、鍵3の押離鍵時の反力に相当する値である。この必要入力電流値iBは、後述するテーブル群補正処理(図5)において、補正部43により反力F(g)に変換されて用いられる。ここで、反力Fをロードセルで直接測定することも可能であるが、ソレノイドコイル31に供給された必要入力電流値iBから反力Fを求めるようにしたことで、ロードセルが有するロスの問題が解消され、検出精度が向上している。
【0024】
反力制御部41、反力測定部42は、制御用テーブル群TA、駆動条件Jに基づくそれぞれの位置制御データと、位置信号xA、xBとを比較し、両者がそれぞれ一致するように電流指示値uA(t)、uB(t)を随時更新して出力することでサーボ制御を行う。
【0025】
反力制御部41による反力発生制御、すなわち力覚制御においては、鍵3を指で操作するとき、反力制御部41は、位置信号xAを逐次検出すると共に、位置信号xAの微分により速度信号vAを、さらに速度信号vAの微分により加速度信号aA(mm/s)を、逐次演算して得る。これと並行して、反力制御部41は、制御用テーブル群TAを参照し、上記各検出値に基づき、反力Fを鍵に付与すべき反力として決定する。なお、制御用テーブル群TAにおいて、離散的であって存在しない中間値に関しては、補間処理により適値を求める。そして、上記決定した反力Fを発生させるように、それに応じた駆動信号を反力用アクチュエータ20のソレノイドコイル21に供給する。すると、プランジャ22が上昇し、駆動部材23が対応する鍵3の前端部3aを突き上げる。これにより、各時刻において制御用テーブル群TAで逐次規定される反力F(以下、「目標反力」と称する)を、その時刻において発生させるべき反力の目標値として鍵3が制御される。
【0026】
反力制御部41は、通常、上記のように、指による演奏操作に対して力覚制御を行うが、本実施の形態では、指に代わり、測定用アクチュエータ30で鍵3を駆動条件Jで駆動したときに反力用アクチュエータ20に力覚制御を行わせ、そのときの測定用アクチュエータ30が受ける反力を測定することで、反力用アクチュエータ20が実際に発生させている反力を推定し、さらには制御用テーブル群TAを補正する。その詳細は後述する。
【0027】
図2は、鍵盤装置1の制御機構の構成を示すブロック図である。
【0028】
鍵盤装置1の制御機構は、CPU11に、バス15を通じて、上記した反力用アクチュエータ20、測定用アクチュエータ30、キー位置センサ24、34、供給電流センサ37のほか、鍵盤部KB、ROM12、RAM13、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)インターフェイス(MIDII/F)14、タイマ16、表示部17、外部記憶装置18、操作部19、音源回路27、効果回路28、通信インターフェイス(通信I/F)9及びハードディスクドライブ(HDD)26が接続されて構成される。音源回路27には効果回路28を介してサウンドシステム29が接続されている。
【0029】
CPU11は、鍵盤装置1全体の制御を司る。ROM12は、CPU11が実行する制御プログラムやテーブルデータ等の各種データを記憶する。RAM13は、演奏データ、テキストデータ等の各種入力情報、各種フラグやバッファデータ及び演算結果等を一時的に記憶する。MIDII/F14は、不図示のMIDI機器等からの演奏データをMIDI信号として入力する。タイマ16は、タイマ割り込み処理における割り込み時間や各種時間を計時する。表示部17は、例えばLCDを含んで構成され、楽譜等の各種情報を表示する。外部記憶装置18は、フレキシブルディスク、フラッシュメモリ等の不図示の可搬記憶媒体に対してアクセス可能に構成され、これら可搬記憶媒体に対して演奏データ等のデータを読み書きすることができる。操作部19は、不図示の各種操作子を有し、自動演奏のスタート/ストップの指示、曲選択等の指示、各種設定等を行う。HDD26は、上記制御プログラムを含む各種アプリケーションプログラムや演奏データ等の各種データを記憶する。鍵盤部KBには、上記鍵3が含まれる。
【0030】
音源回路27は、演奏データを楽音信号に変換する。効果回路28は、音源回路27から入力される楽音信号に各種効果を付与し、DAC(Digital-to-Analog Converter)やアンプ、スピーカ等で構成されるサウンドシステム29が、効果回路28から入力される楽音信号等を音響に変換する。通信I/F9は、通信ネットワークを介してサーバコンピュータ(図示せず)とデータの送受信を行う。
【0031】
制御ユニット40の機能は、実際には、CPU11、タイマ16、ROM12、RAM13、HDD26、外部記憶装置18、通信I/F9等の協働作用によって実現される。
【0032】
図3は、基礎テーブル群T0の概念を示す図である。基礎テーブル群T0は、上記特許文献1(特開平10−177378号公報)等に示されるように、実測等によって生成されたものが予め取得され、例えば、HDD26に格納される。基礎テーブル群T0の入手手法は問わない。同図に示すように、基礎テーブル群T0は、各鍵3毎に構成され、第1基礎テーブル群63、第2基礎テーブル群64及び第3基礎テーブル群65から成る。
【0033】
第1基礎テーブル群63は、位置信号xA及び速度信号vAをパラメータとして発生すべき反力Fを規定するテーブルである。すなわち、第1基礎テーブル群63は、横軸であるX軸が位置信号xA、縦軸であるY軸が反力Fとなっている2次元データであって速度信号vAを段階的に(例えば、128段階)変えたものを、奥行き方向の軸であるZ軸方向に複数(n個;例えば128個)配列して構成されている(63(1)〜63(n))。同様に、第2基礎テーブル群64は、X軸が位置信号vA、Y軸が反力Fとなっている2次元データであって位置信号xAを段階的に変えたものをZ軸方向にn個配列して構成されている(64(1)〜64(n))。同様に、第3基礎テーブル群65(65(1)〜65(n))は、X軸が加速度信号aA(mm/s)、Y軸が反力F、Z軸方向が位置信号xAとなっている。
【0034】
図4は、iB−F変換テーブルを示す図である。このテーブルは、鍵盤装置1に測定用アクチュエータ30を装着した場合を想定して予め実測することで生成される。すなわち、測定用アクチュエータ30において、駆動信号により、プランジャ32がある推力で駆動されるようにしたときにおける、プランジャ32の位置を示す位置信号xB(mm)とソレノイドコイル31に供給する必要があった電流値である必要入力電流値iB(A)との関係を実測して得る。位置信号xBはキー位置センサ34により実測され、必要入力電流値iBは供給電流センサ37により実測される。
【0035】
上記実測において、ストローク中の検出間隔は、例えば、1mmとし、駆動する際の推力を50gから4000gまで、複数段階に分けて行った。推力の実測は、不図示のロードセルを用いて行った。このiB−F変換テーブルは、予め作成しておく必要があり、例えば、HDD26に格納される。後述するテーブル群補正処理(図5)においては、位置信号xBと必要入力電流値iBとが検出されると、これらから、iB−F変換テーブルを参照して反力F(g)が定められる。なお、同図の線上にない値については、補間処理により反力F(g)が決定される。
【0036】
図5は、制御ユニット40で実行される、テーブル群補正処理のフローチャートである。
【0037】
まず、カウンタ値Nを0にリセットし(ステップS501)、制御用テーブル群TAに基礎テーブル群T0をセットする(ステップS502)。ここで、制御用テーブル群TAは、本処理の毎回のループ毎に更新され得るものであり、例えばRAM13に記憶され、最初は基礎テーブル群T0と同一である。
【0038】
次に、駆動条件Jで、測定用アクチュエータ30により鍵3を押鍵方向に付勢するように駆動(押離鍵駆動)すると同時に、制御用テーブル群TAに基づく反力パターンで、反力用アクチュエータ20により鍵3を離鍵方向に付勢するように駆動(反力駆動)する(ステップS503)。この反力パターンは、駆動条件Jに対応する理論上の目標反力を示すものであるので、「目標反力パターンtA(J)」と記す。最初、すなわち、制御用テーブル群TAが基礎テーブル群T0と同一である場合は、特に、その目標反力パターンtA(J)を、「目標反力パターンt0」と記す。
【0039】
ここで、測定用アクチュエータ30は、鍵3を離鍵方向に付勢することはできないが、鍵3との当接を維持しつつ押鍵方向への付勢力を弱めることで鍵3を実質的に離鍵方向に変位させる駆動態様もある。従って、上記「押離鍵駆動」には、鍵3が押鍵方向だけでなく離鍵方向に変位するような駆動も含まれる。また、反力用アクチュエータ20は、押鍵時だけでなく離鍵時にもそれに応じた反力を発生させるので、上記「反力駆動」にも、鍵3が押鍵方向だけでなく離鍵方向に変位するような駆動が含まれる。
【0040】
次に、実反力パターンtB(J)を求める(ステップS504)。すなわち、前記ステップS503で押離鍵駆動及び反力駆動がされているときに測定用アクチュエータ30が鍵3から受ける実反力を検出する。この実反力は、128段階の位置xで供給電流センサ37から検出される必要入力電流値iBに基づき、iB−F変換テーブルを参照して求められる128個の反力値群である。そして、求めた反力値群から実反力パターンtB(J)を求める。上記目標反力パターンt0と実反力パターンtB(J)との関係を、図6を用いて説明する。
【0041】
図6(a)は、目標反力パターンt0と実反力パターンtB(J)との差分に基づき制御用テーブル群TA中の第1、第2基礎テーブル群63、64を補正する態様の一例を示す図である。同図(b)は、目標反力パターンt0と実反力パターンtB(J)との差分に基づき制御用テーブル群TA中の第3基礎テーブル群65を補正する態様の一例を示す図である。
【0042】
駆動条件Jは、図5のステップS511の実行毎に変更されるが、まず、一例として、駆動条件Jが、一定速度vであるとする。この場合、図6(a)に示すように、目標反力パターンt0は、一定速度vで鍵3が駆動された場合における、128段階の位置xに対する目標反力(F値)を規定するものであり、図3に示す第1基礎テーブル群63(1)〜63(n)のうち、速度vに対応する1枚のテーブル(例えば、テーブル63(1))と実質的に同じものとなる。
【0043】
一方、駆動条件Jが、一定加速度aであるとすると、図6(b)に示すように、目標反力パターンt0は、一定加速度aで鍵3が駆動された場合における、128段階の位置xに対する反力F値を規定するものである。この場合、目標反力パターンt0は、図3に示す第3基礎テーブル群65(1)〜65(n)から、一定加速度aに対応するn個(128個)のF値を抽出し、これらを、横軸に位置x、縦軸に目標反力(F値)をとってプロットしたものに相当する。
【0044】
図6(a)に示す実反力パターンtB(J)は、128個の反力値群から成り、同図(b)に示す実反力パターンtB(J)は、n個(128個)の反力値群から成る。ここで、理想的には、実測反力値群である実反力パターンtB(J)は、目標反力値群である目標反力パターンt0と一致しなければならない。しかしながら、摩擦、ソレノイド特性等の各種誤差要因によって、両者は一致しない場合がある。しかも、対応する128個の各反力値同士でも差分が異なる。そこで、本実施の形態では、図5のステップS505〜S511の処理により、目標反力パターンt0と実反力パターンtB(J)との差分が小さくなるように、制御用テーブル群TA中の第1〜第3基礎テーブル群63〜65を補正する。
【0045】
図5に戻り、ステップS505では、目標反力パターンt0における目標反力値群(128個)のすべてであるF値{t0}と、実反力パターンtB(J)における実測反力値群(128個)のすべてであるF値{tB(J)}とを、対応するもの同士で比較する。そして、下記数式1により、目標反力パターンtA(J)における目標反力値群(128個)のすべてであるF値{tA(J)}を補正し、次回において補正後のF値{tA(J)}が得られるように、制御用テーブル群TAを補正する(ステップS506)。αは所定の係数である。
[数1]
F値{tA(J)}←F値{tA(J)}+α[F値{t0}−F値{tB(J)}]
具体的には、制御用テーブル群TA中の各テーブルにおいて、F値{tA(J)}に対応するF値を個々に補正することになる。例えば、図6(a)に示す駆動条件J=一定速度vの例では、図3に示す第1基礎テーブル群63中の、一定速度vに対応する1枚のテーブル(例えば、テーブル63(1))において、各xA値に対応するF値が個々に補正される。また、第1基礎テーブル群63が補正されるのと並行して、第2基礎テーブル群64(1)〜64(n)において、一定速度vに対応するn個(128個)のF値も個々に補正される。
【0046】
また、図6(b)に示す駆動条件J=一定加速度aの例では、図3に示す第3基礎テーブル群65(1)〜65(n)において、一定加速度aに対応するn個(128個)のF値が個々に補正される。補正された後の制御用テーブル群TAは、元の(直前に用いた)制御用テーブル群TAに変わって記憶される。
【0047】
次に、ステップS520で、目標反力パターンt0と実反力パターンtB(J)とsの一致/不一致判定を行う。このステップS520は、ステップS507〜S509から成る。まずステップS507では、128個すべてのF値同士が一致したか、すなわち、F値{t0}とF値{tB(J)}とが一致したか否かを判別し、一致しないF値が1つでもある場合は、カウンタ値Nを「1」だけインクリメントし(ステップS508)、N≧10となったか否かを判別する(ステップS509)。その判別の結果、N<10である場合は、前記ステップS503に戻る。
【0048】
一方、前記ステップS507の判別の結果、F値{t0}とF値{tB(J)}とが一致した場合は、ステップS510に進む。また、前記ステップS509で、N≧10となった場合も、前記ステップS510に進む。従って、ステップS520においては、F値{t0}とF値{tB(J)}とが完全一致した場合だけでなく、前記ステップS503〜S509の処理を10回繰り返した場合も、両者が一致したものと判定される。これは、両者が完全一致するまで上記処理を繰り返すことは現実的でない一方、10回繰り返せばほぼ近似するからである。従って、繰り返し数が9回以下では、両者が不一致であると判定され、前記ステップS503〜S509の処理が繰り返される。なお、一致判定されるための繰り返し回数は、10回に限定されない。
【0049】
前記ステップS510では、全駆動条件による押離鍵駆動が終了したか否かを判別し、全駆動条件による押離鍵駆動が終了していない場合は、駆動条件Jを変更して(ステップS511)、前記ステップS503に戻る。例えば、今回が一定速度v1であったとすると、次回は一定速度v2とする。あるいは、今回で、一定速度による押離鍵駆動が終了したならば、次回は一定加速度a1、さらにその次は一定加速度a2、というように毎回変更する。本実施の形態では、駆動条件Jとしては、各種一定速度及び各種一定加速度を採用するが、これらに限るものではない。
【0050】
このようにして、次回のループでは、前記ステップS503で、変更後の駆動条件Jにて押離鍵駆動がなされ、それに対応する反力駆動もなされる。これにより、次回のループでは、F値{tB(J)}がF値{t0}に一層近づくことになる。
【0051】
一方、前記ステップS510の判別の結果、全駆動条件による押離鍵駆動が終了した場合は、今回の制御用テーブル群TAを、最終的な制御用テーブル群T00として、HDD26に記憶させ(ステップS512)、本処理を終了する。なお、元の基礎テーブル群T0と制御用テーブル群T00とを併存させるのではなく、今回の制御用テーブル群TAを、元の基礎テーブル群T0と置き換えて新たな基礎テーブル群T0として格納するようにしてもよい。
【0052】
本実施の形態によれば、鍵3を駆動条件Jで押離鍵駆動するのと同時に、制御用テーブル群TAに基づく目標反力パターンtA(J)で反力駆動し、目標反力パターンt0におけるF値{t0}と実反力パターンtB(J)におけるF値{tB(J)}との、対応するもの同士の差分が小さくなるように、制御用テーブル群TAを補正して、最終的な制御用テーブル群T00を得る。これにより、鍵盤装置1の鍵の操作に対する反力の誤差要因を吸収でき、反力用アクチュエータ20が実際に発生させる反力を、最初の基礎テーブル群T0で規定される目標反力に近いものにすることができる。よって、基礎テーブル群T0に忠実な反力付与(乃至力覚制御)を実現することができる。
【0053】
また、前記ステップS520によりF値{t0}とF値{tB(J)}とが一致したと判定されるまで、制御用テーブル群TAの補正が繰り返されるので、反力用アクチュエータ20による実反力を目標反力に極力近づけ、基礎テーブル群T0に一層忠実な反力付与を実現することができる。
【0054】
(第2の実施の形態)
上記第1の実施の形態では、鍵盤装置1が、制御ユニット40、反力用アクチュエータ20及び測定用アクチュエータ30を備え、制御ユニット40が、反力制御部41、反力測定部42及び反力補正部43を備えた。しかしながら、本発明の第2の実施の形態では、測定用アクチュエータ30、反力測定部42及び反力補正部43に相当するものを、鍵盤装置とは別体の、外付け可能な操作子反力適正化システムとして構成する。
【0055】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る操作子反力適正化システムとそれが適用される鍵盤装置とを示すブロック図である。
【0056】
同図に示すように、鍵盤装置100は、鍵3に相当する鍵101と、反力用アクチュエータ20に相当する反力用アクチュエータ120と、キー位置センサ24に相当するキー位置センサ124と、反力制御部41に相当する反力制御部141とを備える力覚制御付き鍵盤楽器である。基礎テーブル群T0は反力制御部141内に格納される。一方、鍵盤装置100とはそれぞれ別個に、反力測定装置140と、反力補正装置143とが設けられる。反力測定装置140と反力補正装置143とにより、本実施の形態の操作子反力適正化システムが構成される。反力測定装置140は、測定用アクチュエータ30に相当する測定用アクチュエータ130、供給電流センサ37及びキー位置センサ34に相当するものが含まれるセンサ群131、並びに反力測定部42に相当する反力測定部142を備える。
【0057】
その他の構成は、第1の実施の形態と同様であり、テーブル群補正処理(図5)は、反力補正装置143が統率する。すなわち、テーブル群補正処理の実行の際、反力補正装置143は、反力測定装置140の反力測定部142と鍵盤装置100の反力制御部141とに電気的に接続される。そして、反力測定部142による押離鍵駆動、反力制御部141による反力駆動は、反力補正装置143の指示によりなされ、随時補正される制御用テーブル群TAは、反力制御部141内の不図示の記憶手段に記憶される。
【0058】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を奏するだけでなく、操作子反力適正化システムを、鍵盤装置100とは別体で外付け可能にしたので、特定の鍵盤装置だけでなく、テーブル補正機能を有しない鍵盤装置にも本発明を適用でき、汎用性が高い。従って、より汎用的な鍵盤楽器において、基礎テーブル群T0に忠実な反力付与を実現することができる。
【0059】
なお、操作子反力適正化システムは、反力補正装置143と反力測定装置140とを一体に構成したものであってもよい。
【0060】
なお、第1、第2の実施の形態では、反力制御の対象となる操作子として、鍵盤楽器の鍵を例示したが、これに限るものでなく、ペダル等、各種操作子に応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る鍵盤装置の構成を、ある1つの鍵に着目して示した断面図である。
【図2】鍵盤装置の制御機構の構成を示すブロック図である。
【図3】基礎テーブル群の概念を示す図である。
【図4】iB−F変換テーブルを示す図である。
【図5】制御ユニットで実行される、テーブル群補正処理のフローチャートである。
【図6】目標反力パターンと実反力パターンとの差分に基づき制御用テーブル群中の第1、第2基礎テーブル群を補正する態様の一例を示す図(図(a))、及び、目標反力パターンと実反力パターンとの差分に基づき制御用テーブル群中の第3基礎テーブル群を補正する態様の一例を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る操作子反力適正化システムとそれが適用される鍵盤装置とを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0062】
3、101 鍵(操作子)、 20、120 反力用アクチュエータ(第1駆動手段)、 26 HDD(記憶手段)、 30、130 測定用アクチュエータ(第2駆動手段)、 37 供給電流センサ(反力検出手段)、 40 制御ユニット、 41、141 反力制御部(第1制御手段)、 42、142 反力測定部(第2制御手段)、 43 反力補正部(補正手段)、 100 鍵盤装置(力覚制御付き鍵盤楽器)、 131 センサ群(反力検出手段)、 140 反力測定装置、 143 反力補正装置、 TA 制御用テーブル群(力覚制御用情報)、 T0 基礎テーブル群(力覚制御用基礎情報)、 J 駆動条件(所定条件)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作子と、
前記操作子を駆動することで該操作子の操作に対する反力を生じさせる第1駆動手段と、
力覚制御に用いるための力覚制御用情報であって力覚制御用基礎情報に基づくものを記憶する記憶手段と、
前記操作子が操作された場合に、前記記憶手段に記憶された力覚制御用情報に基づいて前記第1駆動手段を制御することで、前記操作子の操作に対して前記第1駆動手段が発生させる反力を目標反力に制御する第1制御手段と、
前記第1駆動手段とは別個に設けられ、前記操作子を駆動する第2駆動手段と、
前記第2駆動手段を所定条件で制御する第2制御手段と、
前記操作子が、前記第2制御手段の制御に従って前記第2駆動手段により駆動され且つ前記第1制御手段の制御に従って前記第1駆動手段により駆動されているときに、前記第2駆動手段が前記操作子から受ける実反力を検出する反力検出手段と、
前記操作子が、前記第2制御手段の制御に従って前記第2駆動手段により駆動され且つ前記第1制御手段の制御に従って前記第1駆動手段により駆動されているときにおける、前記第1制御手段の目標反力と前記反力検出手段により検出された実反力との差分が小さくなるように、前記記憶手段に記憶された力覚制御用情報を補正する補正手段とを有することを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項2】
前記補正手段は、前記第1制御手段の目標反力と前記反力検出手段により検出された実反力との一致/不一致を判定し、両者の一致を判定するまで前記力覚制御用情報の補正を繰り返すことを特徴とする請求項1記載の鍵盤楽器。
【請求項3】
操作子と、前記操作子を駆動することで該操作子の操作に対する反力を生じさせる第1駆動手段と、力覚制御に用いるための力覚制御用情報であって力覚制御用基礎情報に基づくものを記憶する記憶手段と、前記操作子が操作された場合に、前記記憶手段に記憶された力覚制御用情報に基づいて前記第1駆動手段を制御することで、前記操作子の操作に対して前記第1駆動手段が発生させる反力を目標反力に制御する第1制御手段とを有する力覚制御付き鍵盤楽器に用いられる操作子反力適正化システムであって、
反力測定装置と、
反力補正装置とを有し、
前記反力測定装置は、
前記操作子を駆動する第2駆動手段と、
前記第2駆動手段を所定条件で制御する第2制御手段と、
前記操作子が、前記第2制御手段の制御に従って前記第2駆動手段により駆動され且つ前記第1制御手段の制御に従って前記第1駆動手段により駆動されているときに、前記第2駆動手段が前記操作子から受ける実反力を検出する反力検出手段とを有し、
前記反力補正装置は、
前記操作子が、前記第2制御手段の制御に従って前記第2駆動手段により駆動され且つ前記第1制御手段の制御に従って前記第1駆動手段により駆動されているときにおける、前記第1制御手段の目標反力と前記反力検出手段により検出された実反力との差分が小さくなるように、前記記憶手段に記憶された力覚制御用情報を補正することを特徴とする操作子反力適正化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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