説明

鎮痛剤としてのsEH阻害剤の使用

本発明は、可溶性エポキシドヒドロラーゼの阻害剤もしくはcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)の局所投与により、またはその両方により、対象において、疼痛およびかゆみを軽減するため、創傷治癒を促進するため、疾病行動を低減するため、ならびに炎症性腸疾患またはニキビ病変を減少させるための方法および組成物を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年8月19日に出願した米国仮特許出願第60/709,741号の恩典およびその優先権を主張し、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
米国政府が後援する研究開発の下に行われた発明の権利に関する声明
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)より授与された助成金第R37 ES 02710号の下で米国政府の援助を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
コンパクト・ディスクで提出された「配列表」、表またはコンピュータプログラム表補遺との関連
適用せず。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
組織の傷害は多様な群の炎症伝達物質の放出をもたらすが、これらは、侵害受容器および脊髄侵害受容性ニューロン(spinal nociceptive neuron)を機械的および熱的な刺激に対して感作し、それによって高い疼痛伝達性を導く。炎症伝達物質の局所的な、全身性の、または神経原性の放出には、K+、サブスタンスPなどの神経ペプチド、ブラジキニンなどのペプチド、サイトカイン、モノアミン、およびATPが含まれ、これらは末梢侵害受容器を活性化または感作する。さらに、侵害受容器の末梢感作は次に、脊髄における中枢感作をもたらしうり、これによって、NMDAの活性化を含むプロセスを介した二次的な痛覚過敏および異痛が生じる。
【0005】
現在、疼痛は、以下の3つのカテゴリに分類されると考えられている:侵害受容器と呼ばれる特殊な受容体に対する侵害刺激によって活性化される、侵害受容性疼痛;組織への損傷によって炎症性伝達物質の放出が起こり、組織が治るまで、その一部が侵害受容器を直接活性化し続け、残りが体性感覚神経系を感作するように作用し続ける、炎症性疼痛;および、末梢神経または中枢神経の損傷または機能不全によって、保護的または修復的な役割を持たない自発痛が生じる、神経障害性疼痛。Scholz and Woolf, Nature Neuroscieiice (Supp.) 5:1062-1067 (2002)(非特許文献1); Julius and Basbaum, Nature 413:203-210 (2001)(非特許文献2)を参照されたい。
【0006】
長鎖脂肪酸、顕著にはアラキドン酸(「AA」)は、侵害受容器の末梢感作をもたらす重要な炎症性カスケードの中心的な位置にある分子である。AA放出によって、シクロオキシゲナーゼ(COX)およびリポキシゲナーゼという2つのクラスの酵素が活性化され、これらはプロスタグランジン(PG)およびロイコトリエンを含む炎症誘発性の伝達物質の産生を導く。これらの酵素は、過去十年間の間、熾烈な研究の焦点となっており、これらの酵素の阻害剤は、炎症性疼痛に対する主要な治療剤である。アラキドン酸カスケードの別の分岐とは、AAおよびリノール酸(LA)をチトクロームP450触媒性変換して、エポキシエイコサトリエン酸(EET)、ヒドロキシエイコサトリエン酸(HETE)、およびエポキシオクタデセン酸(EpOME)を含む目立つ群の代謝産物にすることである。これらの代謝産物の中でも、EETは、推定内皮由来過分極因子であり、心血管系において抗炎症効果および降圧効果を発揮する。EETおよびEpOMEは短命のAAおよびLA代謝産物であり、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)によってそれぞれ、炎症誘発性のジヒドロエイコサトリエン酸(DHET)およびジヒドロキシオクタデセン酸(DiHOME)に変換される。sEHの阻害は検出可能な濃度のEETを増加させ、これは、高血圧状態においてのみ血圧を低下させて、血管の炎症性応答を減少させる。
【0007】
特に局所作用物質としての、疼痛の軽減のために使用できる更なる作用物質が有用である。
【0008】
【非特許文献1】Scholz and Woolf, Nature Neuroscieiice (Supp.) 5:1062-1067 (2002)
【非特許文献2】Julius and Basbaum, Nature 413:203-210 (2001)
【発明の開示】
【0009】
発明の簡単な概要
本発明は、様々な状態に関連する疼痛およびかゆみを低減するための方法および局所組成物を提供する。第一の一連の態様において、本発明は、対象における疼痛またはかゆみを軽減するための方法を提供する。本方法は、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の阻害剤の有効量を上記対象に局所投与し、それによって対象における疼痛またはかゆみを軽減する工程を含む。一部の態様において、軽減される疼痛は侵害受容性疼痛である。一部の態様において、軽減される疼痛は炎症性疼痛である。一部の態様において、軽減される疼痛は神経障害性疼痛である。一部の態様において、疼痛は関節炎に由来する。一部の態様において、疼痛は帯状疱疹後神経痛に由来する。一部の態様において、本方法は、多価不飽和脂肪酸のエポキシドを局所投与する工程をさらに含む。一部の態様において、エポキシドはcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)である。一部の態様において、EETは5,6-EET、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETからなる群より選択される。一部の態様において、対象は高血圧を有してもいなければ、高血圧に関してsEHの阻害剤による処置を受けてもいない。一部の態様において、sEHの阻害剤とは、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する、単離された核酸である。一部の態様において、sEHの阻害剤は、皮膚科学的措置または美容外科手術に関連する疼痛を軽減するために、ある皮膚領域に対する該措置または手術の1時間前またはそれ以内に、該皮膚領域に投与される。一部の態様において、かゆみは掻痒症によるものである。一部の態様において、かゆみは、虫刺症、ウルシオールとの接触、または刺激性の化学物質との接触によるものである。一部の態様において、疼痛またはかゆみは痔によるものである。一部の態様において、疼痛またはかゆみは内臓痛によるものであり、上記局所投与は、sEHIの上記阻害剤を含む座剤によって行われる。
【0010】
さらなる群の態様において、本発明は、クリーム、ゲル、油、ローション、香膏、軟膏、座剤、または局所スプレー中に可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の阻害剤を含む組成物を提供する。一部の態様において、クリーム、ゲル、油、ローション、香膏、軟膏、座剤、または局所スプレーは脂質基剤を有する。一部の態様において、本組成物は、多価不飽和脂肪酸のエポキシドをさらに含む。一部の態様において、多価不飽和脂肪酸のエポキシドはcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)である。一部の態様において、EETは5,6-EET、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETからなる群より選択される。一部の態様において、sEHの阻害剤とは、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する、単離された核酸である。
【0011】
またさらなる群の態様において、本発明は、対象における疾病行動(sickness behavior)を低減する方法を提供する。本方法は、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の阻害剤の有効量を上記対象に局所投与し、それによって対象における疾病行動を低減する工程を含む。一部の態様において、本方法は、多価不飽和脂肪酸のエポキシドを局所投与する工程をさらに含む。一部の態様において、エポキシドはcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)である。一部の態様において、EETは14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETからなる群より選択される。一部の態様において、sEHの阻害剤とは、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する、単離された核酸である。一部の態様において、対象は高血圧を有してもいなければ、高血圧に関してsEHの阻害剤による処置を受けてもいない。
【0012】
またさらなる群の態様において、本発明は、対象における創傷治癒を促進する方法を提供する。本方法は、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の阻害剤の有効量を創傷に局所投与し、それによって対象における創傷治癒を促進する工程を含む。一部の態様において、本方法は、多価不飽和脂肪酸のエポキシドを局所投与する工程をさらに含む。一部の態様において、エポキシドはcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)である。一部の態様において、sEHの阻害剤とは、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する、単離された核酸である。
【0013】
さらなる群の態様において、本発明は、対象における疼痛もしくはかゆみを軽減するかまたはニキビ病変の大きさを減少させるもしくはその外観を改善する方法を提供するが、該方法は、組成物が11,12-EETの有効量を含むことはないという条件下で、5,6-EET、8,9-EET、14,15-EET、またはこれらの組み合わせから選択されるcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)の有効量を含む該組成物を該対象に局所投与し、それによって、該対象における疼痛もしくはかゆみを軽減するかまたは該ニキビ病変の外観を改善する工程を含む。一部の態様において、疼痛またはかゆみは、掻痒症、痔、やけど、帯状疱疹後神経痛、関節炎、または皮膚科学的措置によるものである。
【0014】
さらなる群の態様において、本発明は、対象におけるニキビ病変の大きさを減少させるまたはその外観を改善する方法を提供する。本方法は、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の阻害剤の有効量をニキビ病変に局所投与する工程を含み、それによって、阻害剤の投与がニキビ病変の大きさを減少させるまたはその外観を改善する。一部の態様において、本方法は、多価不飽和脂肪酸のエポキシドを上記病変に局所投与する工程をさらに含む。一部の態様において、エポキシドはcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)である。一部の態様において、sEHの阻害剤とは、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する、単離された核酸である。
【0015】
発明の詳細な説明
概論
「可溶性エポキシドヒドロラーゼ」または「sEH」として知られる酵素の阻害剤の全身投与が、高血圧の低減などに関するいくつかの有益な用途を有することが、近年見出されている。驚くべきことに、sEH阻害剤(すなわち「sEHI」)の局所投与もまた有用であり、かつ全く異なる目的のためにも有用であることが、目下見出されている。
【0016】
3つの異なるタイプの疼痛に対して2種類の異なる動物モデルを用いる試験において、例示的なsEH阻害剤(「sEHI」)を局所投与された動物は疼痛刺激に対する感受性の低下を示した。疼痛刺激に対する応答は、局所調製物にcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)を含めることによってさらに低下した。例示的sEHIの投与によって熱性痛覚過敏(thermal hyperalgesia)が低減したことが、一連の試験によって示された。細菌のリポ多糖(「LPS」)によって機械的異痛に対する応答の低減が誘導されたことが、第二の一連の試験によって示された。第三の一連の試験によって、「トウガラシ」中の「熱」として知覚される成分であるカプサイシンにより誘導された神経原性疼痛に対する応答が、sEHIを含むクリームの局所適用の際に低減されかつEETの存在によって増大されたことが示された。
【0017】
この結果は、sEHIの局所投与によってこれら3つの異なる型の疼痛が低減されること、および、局所製剤中にEETなどの多価不飽和脂肪酸のエポキシドを含めることによって疼痛軽減におけるsEHIの効果を増強できることを示している。本発明の基礎をなす試験の結果に基づくと、sEHIの局所投与は、かゆみ、過敏、やけど、または、非特異的掻痒症を含む皮膚疾患における疼痛を和らげることが予想される。例えば、sEHIの局所投与は、変形性関節症またはリウマチ関節炎に起因する手指または足指における疼痛、および、日焼けまたは軽度のやけどに起因する疼痛を緩和することが予想される。実際、sEHIの局所投与は、放射線による刺激(radiation irritation)およびやけど(UVまたは電離放射線によって生じるものを一般に含む)、化学熱傷、熱熱傷、皮膚の発赤、ならびに化学的に誘導される病変を低減することが予想されている。
【0018】
重要な一連の使用において、sEHIの局所投与は、皮膚の表面近傍の末梢神経への傷害または刺激によって引き起こされる疼痛である神経痛を低減すると予想される。特にこれは、帯状疱疹に起因するものなどの帯状疱疹後神経痛、および、糖尿病ニューロパシーに由来する四肢における疼痛の軽減において、有用であると予想される。
【0019】
また研究の際、本発明者らは、sEHIの局所投与によってかゆみが軽減されることも見出した。したがって、sEHIの局所投与は、虫刺症に起因するかゆみおよびウルシオールとの接触に対するアレルギー反応によるかゆみを軽減する助けとなることが予想される。ウルシオールとは、特定の植物、特に、トキシコデンドロン(Toxicodendron)属の植物、例えばウルシツタ、アメリカツタウルシ、およびドクウルシにおいて見られる疎水性の油である。ウルシオール誘導性の接触皮膚炎は、感受性の高い個体における激しいかゆみを部分的に特徴とする。記載したように、sEHIの局所適用は、ウルシオール接触に関連するかゆみを低減する。ウルシオールとの接触に由来するかゆみの低減に対してsEHIが与える効果を考慮すると、sEHI、EET、またはその両方の局所適用もまた、ニッケルアレルギーなどの他の種類の接触皮膚炎によりまたは刺激性のもしくは工業用の化学物質との接触から引き起こされるかゆみを軽減することが予想される。より一般的には、接触皮膚炎だけでなくアトピー性皮膚炎および乾燥性湿疹、ならびに限局性神経皮膚炎、じんま疹、水痘、および膿痂疹も含む掻痒症の軽減においてsEHI、EET、またはその両方が有用であると証明されることが予想される。
【0020】
本発明者らはまた、肛門の痔に関連する疼痛の軽減においてsEHI、EET、またはその両方の局所適用が有用であることを示す情報も発展させた。さらに、sEHIおよびEETの抗かゆみ特性は、肛門掻痒症に関連するかゆみを低減するのに有用である。
【0021】
過敏性腸症候群は、内臓痛に一部由来する。疼痛の軽減におけるsEHIおよびEETの効果を考慮すると、sEHI、EET、またはその両方を放出する座剤の使用による腸への局所投与は、過敏性腸症候群を軽減すると考えられる。
【0022】
また、sEHI、EET、またはその両方の局所投与を予防的に使用して、ケミカルピーリングなどの美容外科小手術、いぼ、小さな皮膚病変、または表面的な癌の除去、およびその他の皮膚科学的措置の最中および後にさもなくば経験するであろう疼痛および刺激を低減することもできる。好ましくは、sEHIは、措置が実施される10分前〜1時間前、好ましくは10〜15分前に、措置が実施されるべき皮膚の表面およびその周辺に適用される。当然ながら、措置の前に一方または両方が投与されていてもいなくても、措置に起因する任意の疼痛や不快感を低減するために措置の後にsEHI、EET、またはその両方を投与することもできる。
【0023】
記載したように、トウガラシ科の様々なメンバーにおいて見出される有効成分であるカプサイシン(CAP)は、皮膚に局所適用された場合に急性神経原性炎症応答を誘導する。CAPは、特定の膜受容体に作用することによって組織内の侵害受容性で熱感受性の神経終末を選択的に刺激する、高選択性の疼痛産生物質である。したがって、カプサイシンの作用機序は、ホルボールミリステートアセテート(PMA)誘導性の炎症とは有意に異なる。比較すると、PMAは、マクロファージおよび好中球などの特定の免疫細胞の細胞性活性化を通して、その炎症誘発効果を誘発する。従って、PMAに対する疼痛応答は、カプサイシンに対する迅速だが一過的な疼痛応答よりもゆっくりと進行する。
【0024】
本発明の基礎をなす試験によって、本発明の方法および組成物が侵害受容性(CAP誘導性)炎症経路を遮断することが示され、それにより、神経原性炎症の阻害法が提供される。sEHIまたは多価不飽和脂肪酸のエポキシドがカンナビノイド/バニロイド系を介して作用しているであろうことを、これらのインビボ試験は示唆している。カプサイシン誘導性疼痛を軽減する能力は、一過性受容体電位チャネルに対する作用が存在することを示唆している。
【0025】
本発明の方法は、患者が、sEHIを含むクリーム、ゲル、油、香膏、ローション、または軟膏を罹患領域にすり込むまたは広げること、または、sEHIを罹患領域に噴霧することを意図する。組成物(例えばクリーム、ゲル、油、香膏、軟膏、またはスプレー)は、1種または複数のEETなどの多価不飽和脂肪酸のエポキシドをさらに含みうる。一部の態様において、本組成物は、ウルシツタのかゆみまたは日焼けなどの疼痛の軽減を意図したかゆみ止めおよび痛み止めの薬などの大衆薬として使用するために、低濃度のsEHIまたはEETを含む。より広範囲またはより深いやけどにおいて、あるいは、皮膚科学的措置または美容外科手術の間のまたはそれに起因する疼痛を軽減するための使用のためなど、より重篤な疼痛を緩和することが意図されるその他の態様において、より高い濃度のsEHIもしくはEET、またはその両方を使用することができる。そのような措置には、あざの除去、表面皮膚癌の除去などが含まれる。
【0026】
様々な状態を処置するためのsEHIの使用に対する過去の開示のいくつかは、作用物質の局所投与に言及していた。しかし、高血圧の処置などのそれらの開示で言及された局所投与は、sEHIもしくはEETまたはその両方を全身循環系に送達して例えば高血圧の低下を引き起こすための、経皮適用としてであった。対照的に、本発明の方法および組成物においては、全身循環系への作用物質の導入は全て付随的なものである。その代わりとして、皮膚、または関節などのその下の領域において作用物質の局所的な濃度を高くすることが望まれている。例えば、EETを含むまたは含まないsEHIの局所製剤の、関節炎の手指または足指への適用は、体内の他の場所のsEH活性レベルまたはEETレベルに対して有意な影響力を有することを期待されていない。疼痛軽減用のその他の作用物質、例えば、イブプロフェンなどの非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を用いた試験によって、そのような組成物がある領域に局所適用された場合に、その作用物質の血中濃度は比較的制限されたレベルであるが、その領域の下の筋肉および関節が作用物質の比較的高濃度を示すことが示されている。
【0027】
以前の使用がsEHIまたはEETに関して意図していた適応症の全てではないが多くが、患者の生涯にわたるとまではいかないが、有効な処置のために長期間にわたるsEHIまたはEETの使用が必要とされる、慢性状態である。対照的に、本発明により意図される使用の多くが、例えば、虫刺症に関連するかゆみ、またはウルシツタもしくは刺激性の化学物質との接触に関連するかゆみなども、短期間である。
【0028】
全身循環系への作用物質の付随的な侵入がある程度起こりうるが、これは、疼痛の軽減において重大な役割を果たすとは考えられず、かつ、本発明の方法の実施に対して重要とは見なされないことが理解される。例えば、患者の肩および背中が日焼けしているという例においては、そのような大きな罹患領域にわたってsEHIもしくはEETまたはその両方を局所的に適用することにより、sEH活性に影響するため(sEHIを投与する場合)または全身EETレベルを高めるため(EETを投与する場合)に十分な量の作用物質を付随的に全身循環系におそらく侵入させうる。しかし、作用物質は、循環系への慢性的投与としてよりもむしろ、やけどなどの特定の原因により誘導された疼痛の持続期間の間、広範な領域にわたって局所的にしか使用されないであろうことが予想される。また、比較的大きな体領域にわたる作用物質の適用は、日焼けなどの処置に有用でありうるので、sEHIもしくはEETまたはその両方を含む局所スプレーを用いて簡単に行われうることに留意されたい。
【0029】
一部の態様において、処置中の人物を全身的にsEHIに接触させることが実際には好ましくない可能性がある。そのような例において、sEHIを「ソフトドラッグ(soft drug)」として投与することが望ましい可能性がある。ソフトドラッグとは、所望の効果を発揮した後に代謝されて不活性な形態となるよう設計された化合物の(しばしば等配電子もしくは等電子またはその両方の)類似体である。通常は、そのような薬物は、それらが所望の効果を発揮する箇所に局所投与されて、所望の作用部位から離れて分布するのに従って代謝されて不活性な形態となる。例えば、sEHIのソフトドラッグ形態とは、内在性エステラーゼによって分解可能なエステルである。典型的には、カルボニル基を有するsEHIについては、カルボニルの近傍にエステルが作製される。クリームまたは軟膏が所望の領域に作用物質を局所的に導入するように、ソフトドラッグ形態のsEHIをクリームまたは軟膏などの担体に導入することができる。次に、sEHIが全身循環系に侵入する前にまたはsEHIが循環している間に、内在性エステラーゼの作用によってsEHIを分解して不活性形態にし、作用物質の全身作用を減少させるまたは回避することができる。ソフトドラッグの製剤化は当技術分野で周知である。
【0030】
本発明の基礎をなす試験によって、疼痛の低減だけでなく「疾病行動」の減少も示された。疾病行動の基本原理についてはほとんど分かっていない。インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-6(IL-6)、および腫瘍壊死因子α(TNFα)などのサイトカインに媒介される機構が関与すると仮定されている(Larson S. J. and Dunn A. J., "Behavioral Effects of Cytokines," Brain, Behavior, and Immunity 15:371-387 (2001))。疾病行動は非常に明確な症状である。病気によって、哺乳動物はその環境に対する興味を失い、睡眠の増加を示し、食物摂取、社会的相互作用、運動性、探求心、および性行動が減少する。また、哺乳動物は、認知機能の低下、および、快楽刺激(hedonic stimuli)に対する応答の喪失などの様々な心理学的効果も示す。疾病行動は、便利な防御機構である。Hartは、「疾病を有する個体の行動は、病気の不適応で望ましくない影響ではなく、むしろ、野生状況で生活していた場合には個体の生存にとって時々不可欠となる高度に系統立てられた戦略である」と主張した(Hart, B. L., "Biological basis of the behavior of sick animals," Neurosci. Biobehav. Rev. 12, 123-137 (1988))。sEH阻害剤、EET、またはその2つの組み合わせによる処置を受けた動物は、疾病行動の明らかな減少を示した。
【0031】
疾病行動の寛解は、単に気分がよいことよりもはるかに大きな影響力を有する。疾病行動は、哺乳動物における生理学的および化学的な変化を伴う。代謝産物プールを天然治癒分子に転換することは、動物の化学的状態を健康な状態へと向上させるだけでなく、動物の心理学的状態を改善することも予想される。
【0032】
疼痛の低減に関して記載された効果はまた、創傷治癒を促進するための方法においても組成物を使用できるという予測にもつながる。これらの方法において、sEHI、EETなどの多価不飽和脂肪酸のエポキシド、またはその両方の組成物は、その治癒を促進するために創傷に適用される。炎症性腸疾患または痔を低減するために、作用物質を腸の表面に座剤として局所適用できることも予想される。さらに、神経原性炎症に対する効果によって、ニキビに関連する丘疹(pimple)および皮膚病変の外観の改善において本発明の組成物の局所適用が有効であることが予想される。
【0033】
記載したように、sEHIを高血圧の処置に使用できることは以前から見出されていた。当然ながら、高血圧は、EETおよびsEHI以外の作用物質によっても処置できる。しかし本発明は、EETまたはsEHIによる処置が鎮痛効果を有すること、およびしたがってその他の降圧剤の使用よりも好ましいことを示す。同様に、炎症はEETおよびsEHI以外の作用物質によって処置することが可能であるが、sEHI、EET、またはその両方による炎症の処置は、したがって、その他の抗炎症剤の使用よりも好ましい。
【0034】
一部の好ましい態様において、疼痛を軽減するためにEET、sEHI、またはその両方で全身的に処置される人物は高血圧を有さず、その人物が高血圧を有している場合には、sEHIまたはEETによってこの状態を処置されたことがない。さらに、一部の好ましい態様において、疼痛を軽減するために処置されている人物は、疼痛の発生源に関連する任意の炎症以外の炎症を有さないか、その人物がその他の炎症を有する場合には、この症状に関してsEH阻害剤またはEETによる処置を受けたことがない。一部の好ましい態様において、人物は炎症を有するが、その炎症に対して、sEHの阻害剤ではないステロイドなどの抗炎症剤による処置を受けていない。任意の特定の抗炎症剤または降圧剤がsEH阻害剤でもあるかどうかは、米国特許第5,955,496号に開示されているものなどのsEH活性の阻害に関する標準アッセイ法によって、容易に決定できる。
【0035】
一部の好ましい態様において、疼痛を軽減するために局所的に処置されるべき患者は、自己免疫疾患またはTリンパ球媒介性免疫機能自己免疫応答に関連する障害によって引き起こされる疾患または状態も有することはない。一部の態様において、患者は、1型または2型糖尿病、インスリン耐性症候群、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、狭心症(angina)、虚血、虚血発作、レーノー病、または腎疾患より選択される病理学的状態も有することはない。一部の態様において、患者は、血圧が130/80以下で真性糖尿病を有する人物、血圧が130/85未満でメタボリックシンドロームを有する人物、トリグリセリドレベルが215mg/dLを上回る人物、もしくは、コレステロールレベルが200mg/dLを上回る人物ではなく、または、これらの症状の1つもしくは複数を有するがsEHの阻害剤を摂取していない人物である。一部の態様において、患者は閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、または喘息を有さない。一部の態様において、患者は、心筋症、心肥大、もしくは心不整脈を有さず、または、これらの状態に関してsEHIもしくはEETによる処置を受けていない。一部の態様において、患者は脳卒中を起こしたことがない。一部の態様において、患者は緑内障もしくはドライアイ症候群を有さず、または、緑内障もしくはドライアイ症候群に関してsEHIもしくはEETによる処置を受けていない。一部の態様において、患者は、シクロオキシゲナーゼ(「COX」)-1、COX-2、および5-リポキシゲナーゼ(「5-LOX」)からなる群より選択される1種または複数の酵素の阻害剤による処置も受けていない。一部の態様において、患者は、sEHIもしくはEETまたはその両方が適用されるべき領域における脂肪細胞の形成の減少についての懸念がない。
【0036】
単独でまたは1種もしくは複数のsEH阻害剤と共に投与することができるEETの薬物を作製することができ、あるいは、1種または複数のsEH阻害剤を含有する薬物は、任意で1種または複数のEETを含むことができる。EETは単独で、または、sEH阻害剤と同時に、または、sEH阻害剤の投与に続いて投与することができる。全ての薬物と同様に、阻害剤が、それらが体で代謝されるまたは体から排出される速度によって定義される半減期を有すること、および、阻害剤が、その間はそれが有効であるのに十分な量で存在すると考えられる一定の投与後期間を有することが、理解される。したがって、sEH阻害剤の後に投与されるEETが、sEH阻害剤がまだ有効である間に投与されることを意図している場合、阻害剤がEETの加水分解を遅延させるのに有効な量で存在していると考えられる期間の間に、EETが投与されることが望ましい。
【0037】
一部の態様において、sEH阻害剤は、低分子干渉RNA(siRNA)またはマイクロRNA(miRNA)などの核酸であってよく、疼痛を感じる部位におけるまたはその周囲の細胞内でsEHをコードする遺伝子の発現を低減する。EETは、そのような核酸と共に投与されうる。典型的には、sEHレベルの低下が見られる前の核酸投与後時間は、試験によって決定される。典型的には、次に、核酸の活性がsEHレベルの減少をもたらした後であると計算された時間に、1種または複数のEETが投与される。
【0038】
定義
単位、接頭辞、および符号は、そのSysteme International de Unites(SI)認可形式で示されている。数値範囲は、範囲を定義している数値を含むものである。特記しない限り、核酸は5'→3'方向で左から右に記載され、アミノ酸配列はアミノ→カルボキシ方向で左から右に記載されている。本明細書で提供される表題は、本発明の様々な局面または態様を限定するものではなく、参照により本明細書にその全文が含まれうる。したがって、すぐ下で定義されている用語は、本明細書全文を参照することによってより完全に定義される。本明細書において定義されていない用語は、当業者によって理解されているそれらの通常の意味を有する。
【0039】
「cis-エポキシエイコサトリエン酸」(「EET」)は、チトクロームP450エポキシゲナーゼによって合成される生体伝達物質(biomediator)である。以下の個別の項においてさらに考察されるように、非修飾EETの使用が最も好ましいが、(天然および合成両方の)アミドおよびエステルなどのEETの誘導体、EET類似体、ならびにEET光学異性体は全て、純粋型であってもそれらの型の混合物であっても、本発明において使用することが可能である。参照の都合上、本明細書において使用される「EET」という用語は、文脈に特段の定めのない限り、これらの型の全てを指す。
【0040】
「エポキシドヒドロラーゼ」(「EH」;EC 3.3.2.3)は、エポキシドと呼ばれる3員環エーテルに水を付加する、αβヒドロラーゼ結合ファミリーの酵素である。
【0041】
「可溶性エポキシドヒドロラーゼ」(「sEH」)は、内皮細胞および平滑筋細胞においてEETをジヒドロキシエイコサトリエン酸(「DHET」)と称するジヒドロキシ誘導体に変換する、エポキシドヒドロラーゼである。マウスsEHのクローニングおよび配列は、Grant et al., J. Biol. Chem. 268(23):17628-17633 (1993)に記載されている。ヒトsEH配列のクローニング、配列、およびアクセッション番号については、Beetham et al., Arch. Biochem. Biophys. 305(1):197-201 (1993)に記載されている。ヒトsEHのアミノ酸配列もまた、米国特許第5,445,956号のSEQ ID NO: 2として記載されており、ヒトsEHをコードする核酸配列は、該特許文献のSEQ ID NO: 1の42〜1703位のヌクレオチドとして記載されている。この遺伝子の進化および命名については、Beetham et al., DNA Cell Biol. 14(1):61-71 (1995)において考察されている。可溶性エポキシドヒドロラーゼは、齧歯類とヒトの間で90%を上回る相同性を有する、単一の、保存性の高い遺伝子産物を示す(Arand et al., FEBS Lett., 338:251-256 (1994))。特記しない限り、本明細書において使用される「可溶性エポキシドヒドロラーゼ」および「sEH」という用語はヒトsEHを指す。
【0042】
特記しない限り、本明細書において使用される「sEH阻害剤」(同じく省略形「sEHI」)は、ヒトsEHの阻害剤を指す。好ましくは、阻害剤は、阻害剤がsEHを少なくとも50%阻害する濃度において、ミクロソームエポキシドヒドロラーゼの活性を25%よりも高く阻害するわけではなく、より好ましくは、該濃度においてmEHを10%よりも高く阻害しない。参照の都合上、文脈に特段の定めのない限り、本明細書において使用される「sEH阻害剤」という用語は、sEHの阻害剤を活性化するために代謝されるプロドラッグを包含する。さらに参照の都合上、および文脈により特段の定めのない限り、sEHの阻害剤としての化合物の本明細書における言及は、sEH阻害剤としての活性を保持する該化合物の誘導体(該化合物のエステルなど)の言及を含む。
【0043】
「神経原性炎症」とは、一次求心性神経終末から放出された神経ペプチドによって、およびそれに応答したその他の二次的に放出された炎症伝達物質によって誘発される応答を指す。
【0044】
本明細書において使用される「抗神経原性炎症活性」とは、神経原性炎症応答を阻害または制御する活性を指す。
【0045】
「生理学的状態」とは、関心対象の細胞の生存(sustenance)または増殖を可能にする条件(例えば、温度、pH、および重量オスモル濃度)を有する細胞外環境を意味する。
【0046】
「マイクロRNA」(「miRNA」)とは、多くの真核生物において、転写後レベルでその相補的mRNAに対して負の調節を行う18〜25ヌクレオチド長の小さな非コードRNAを指す。例えば、Kurihara and Watanabe, Proc Natl Acad Sci USA 101(34):12753-12758 (2004)を参照されたい。マイクロRNAは、1990年代初頭に線虫(C. elegans)において最初に発見され、現在ではヒトを含む多くの種において公知である。本明細書において使用される場合、具体的に注記されるか文脈により特段の定めがない限り、これは、外来的に投与されたmiRNAを指す。
【0047】
可溶性エポキシドヒドロラーゼの阻害剤
様々な化学構造を有する多数のsEH阻害剤が周知である。尿素、カルバメート、またはアミドファルマコフォア(本明細書で使用される「ファルマコフォア」とは、sEHに結合するリガンドの構造の部分を指す)がアダマンタンおよび12炭素鎖のドデカンの両方に共有結合している誘導体は、sEH阻害剤として特に有用である。代謝的に安定な誘導体は、インビボにおいて比較的大きな活性を有すると予想されるため、好ましい。様々な尿素、カルバメート、およびアミド誘導体による、インビトロにおけるsEHの選択的かつ競合的な阻害は、例えばMorisseau et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, 96:8849-8854 (1999)によって教示されているが、これは、酵素を阻害する尿素誘導体の設計についての実質的な案内を提供するものである。
【0048】
尿素の誘導体とは、好ましい群のsEH阻害剤を形成する遷移状態模倣体である。この群の中で、N',N'-ドデシル-シクロヘキシルウレア(DCU)が阻害剤として好ましく、N-シクロヘキシル-N'-ドデシルウレア(CDU)が特に好ましい。ジシクロヘキシルカルボジイミド(親油性のジイミド)などの一部の化合物は、分解されてDCUなどの活性尿素阻害剤となることができる。任意の特定の尿素誘導体またはその他の化合物を、そのsEH阻害能について、本明細書で考察されたものなどの標準的なアッセイ法によって容易に試験することができる。sEH阻害剤としての尿素およびカルバメート誘導体の産生および試験については、例えば、Morisseau et al., Proc Natl Acad Sci (USA) 96:8849-8854 (1999)に詳述されている。
【0049】
N-アダマンチル-N'-ドデシルウレア(「ADU」)は、代謝的に安定であると同時に、sEHに対して特に高い活性を有する。(1-アダマンチルウレアおよび2-アダマンチルウレアのどちらも試験されており、sEHの阻害剤としてほぼ同じ高活性を有する。)したがって、アダマンチルドデシルウレアの異性体は好ましい阻害剤である。さらに、N,N'-ドデシル-シクロヘキシルウレア(DCU)およびその他のsEH阻害剤、ならびに特に、尿素のドデカン酸エステル誘導体が、本発明の方法における使用に適していると予想される。好ましい阻害剤には以下が含まれる。
12-(3-アダマンタン-1-イル-ウレイド)ドデカン酸(AUDA)

12-(3-アダマンタン-1-イル-ウレイド)ドデカン酸ブチルエステル(AUDA-BE)

アダマンタン-1-イル-3-{5-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]ペンチル}ウレア(化合物950)

【0050】
それぞれが本発明の方法および組成物における使用のために好ましい、いくつかのその他の阻害剤が、共有出願であるPCT/US2004/010298および米国特許出願公開2005/0026844に記載されている。
【0051】
米国特許第5,955,496号('496特許)は、本発明の方法において使用するためのいくつかの適切なエポキシドヒドロラーゼ阻害剤を記載している。阻害剤の1つのカテゴリには、酵素の基質を模倣する阻害剤が含まれている。脂質アルコキシド(例えばステアリン酸の9-メトキシド)は、この群の阻害剤の典型である。'496号特許で考察された阻害剤に加えて、オレイン酸のメチル、エチル、およびプロピルアルコキシド(ステアリン酸アルコキシドとしても公知)、リノール酸のメチル、エチル、およびプロピルアルコキシド、ならびにアラキドン酸のメチル、エチル、およびプロピルアルコキシドを含む、12種以上の脂質アルコキシドがsEH阻害剤として試験されており、その全てがsEHの阻害剤として作用することが見出された。
【0052】
別の群の態様において、'496号特許では、ゆっくりと入れ換わる(turned over)酵素の代替基質を提供するsEH阻害剤が記載されている。このカテゴリの阻害剤の典型例は、フェニルグリシドール(例えばS,S-4-ニトロフェニルグリシドール)およびカルコンオキシドである。'496号特許は、適切なカルコンオキシドが4-フェニルカルコンオキシドおよび4-フルオロカルコンオキシドを含むことを注記している。フェニルグリシドールおよびカルコンオキシドは、安定なアシル酵素を形成すると考えられる。
【0053】
本発明の方法における使用に適したさらなるsEH阻害剤は、米国特許第6,150,415号('415号特許)および同第6,531,506号('506号特許)に記載されている。本発明の阻害剤の好ましい2クラスは、'415号特許および'506号特許に記載された式1および2の化合物である。そのような化合物を調製するため、および、エポキシドヒドロラーゼの阻害能について所望の化合物を分析するための手段も記載されている。特に、'506号特許では、多数の式1の阻害剤および約20種の式2の阻害剤が開示されており、これらは0.1μM程度の低濃度でヒトsEHを阻害することが示された。任意の特定の阻害剤を、本発明の方法において作用しうるかどうかを判定するために、以下の実施例に記載のものなどの標準的なアッセイ法によって容易に試験することができる。例えば、上記および引用された特許において考察された様々な化合物のエステルおよび塩は、本発明の方法におけるその使用に関するこれらのアッセイ法によって容易に試験できる。
【0054】
上述したように、カルコンオキシドは、酵素の代替基質としてはたらくことができる。カルコンオキシドの半減期は基としての特定の構造に部分的に依存するが、カルコンオキシドは比較的短い半減期を有する傾向がある(薬物の半減期は通常、薬物の濃度がその当初の値の半分に低下するまでの時間として定義される。例えば、Thomas, G., Medicinal Chemistry: an introduction, John Wiley & Sons Ltd. (West Sussex, England, 2000)を参照されたい)。本発明の使用は、数日間、数週間、または数ヶ月間測定可能な持続期間にわたるsEHの阻害を意図しているので、カルコンオキシドおよび、実施者が望ましいと考えるよりも短い期間持続する半減期を有するその他の阻害剤は、一定期間にわたって作用物質が提供される様式で投与されることが好ましい。例えば、腎臓内またはその近傍に阻害剤を放出する材料を含む、阻害剤をゆっくりと放出して高い局所濃度を提供する材料中に、阻害剤を提供することができる。一定期間にわたって阻害剤の高い局所濃度を可能にする投与法が知られているが、比較的短い半減期を有する阻害剤についてはこの投与法が好ましいのにも関わらず、これらは、半減期が短い阻害剤を用いる使用に限定されていない。
【0055】
酵素-基質遷移状態または反応中間体を模倣した阻害剤に基づき可逆的様式において酵素と相互作用する、'506号特許の式1の化合物に加えて、酵素の不可逆的阻害剤である化合物を有することができる。'506号特許の表におけるものまたは式1などの活性構造によって、阻害剤を酵素に導くことができ、ここで、酵素触媒部位における反応官能基(reactive functionality)が阻害剤と共有結合を形成できる。このように相互作用できる分子の一群は、リシンもしくはヒスチジンを用いたSN2様式で攻撃されうるハロゲンまたはトシレートなどの脱離基を有しうる。あるいは、反応官能基は、エポキシドまたは、α/βエステル、アルデヒド、ケトン、エステル、もしくはニトリルなどのMichaelアクセプタでありうる。
【0056】
さらに、式1の化合物に加えて、本発明の実施のために活性誘導体を設計することができる。例えば、ジシクロヘキシルチオ尿素を酸化してジシクロヘキシルカルボジイミドとすることができ、これは、酵素または水性の酸(生理食塩水)と共に、活性ジシクロヘキシルウレアを形成する。または、カルバメートまたは尿素上の酸性陽子を、グルタチオンなどの求核試薬による酸化、加水分解、または攻撃の際に対応する親構造をもたらしうる様々な置換基で置換できる。これらの材料は、プロドラッグまたはプロトキシン(protoxin)として公知である(Gilman et al., The Pharmacological Basis of Therapeutics, 7th Edition, MacMillan Publishing Company, New York, p. 16 (1985))。例えばエステルは、対応するアルコールおよび酸を酵素的に生じるために放出される一般的なプロドラッグである(Yoshigae et al., Chirality, 9:661-666 (1997))。薬物およびプロドラッグは、より大きな特異性のためにキラルであることができる。これらの誘導体は医薬品化学および農芸化学において大量に使用され、水溶性の増大、製剤の化学的性質の改善、組織標的化の改変、分布量の改変、および浸透の改変など、化合物の薬理学的特性を改変する。これらは、毒性学プロファイルの改変にも使用される。
【0057】
可能なプロドラッグが数多く存在するが、本明細書に記載の尿素における2つの活性水素の一方もしくは両方、またはカルバメート内に存在する単一の活性水素の置換が、特に魅力的である。そのような誘導体はFukutoおよび共同研究者によって大量に記載されている。これらの誘導体は大量に記載されており、農芸化学および医薬品化学において化合物の薬理学的特性を改変するために一般的に使用されている。(Black et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry, 21(5):747-751 (1973); Fahmy et al, Journal of Agricultural and Food Chemistry, 26(3):550-556 (1978); Jojima et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry, 31(3):613-620 (1983); およびFahmy et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry, 29(3):567-572 (1981)。)
【0058】
そのような活性プロインヒビター誘導体は本発明の範囲に含まれ、単に引用された参考文献は、参照によって本明細書に組み入れられる。理論に縛られるわけではないが、本発明の適切な阻害剤は、酵素触媒部位との安定な相互作用が存在するような、酵素遷移状態を模倣すると考えられる。阻害剤は、触媒部位の求核カルボン酸および極性チロシンと水素結合を形成しているようである。
【0059】
一部の態様において、sEH阻害には、sEHの量の低下が含まれる。したがって、本明細書において使用されるsEH阻害剤は、sEHをコードする遺伝子の発現を阻害する核酸を包含できる。転写およびsiRNAの低減など遺伝子発現を低下させる多くの方法が公知であり、以下でより詳細に考察される。
【0060】
好ましくは、阻害剤は、ミクロソームエポキシドヒドロラーゼ(「mEH」)を有意に阻害することなく、sEHを阻害する。好ましくは、500μMの濃度において、阻害剤は、mEH活性を10%よりも高く阻害することなく、sEH活性を少なくとも50%阻害する。好ましい化合物は約500μM未満のIC50(阻害強度、または定義により、酵素活性を50%低下させる阻害剤の濃度)を有する。500μM未満のIC50を有する阻害剤が好ましく、200μM未満のIC50を有する阻害剤がより好ましく、100μMがさらにより好ましく、50μM、40μM、30μM、25μM、20μM、15μM、10μM、5μM、3μM、2μM、1μM、またはそれ以下のIC50がIC50低下量としてより好ましい。sEH活性を決定するためのアッセイ法が当技術分野で公知であり、本明細書のその他の箇所に記載されている。
【0061】
EET
アラキドン酸のエポキシドであるEETは、血圧のエフェクター、炎症の制御因子、および血管透過性の調節因子として公知である。sEHによるエポキシドの加水分解によってこの活性が低下する。EETが加水分解されてジヒドロキシエイコサトリエン酸(「DHET」)となる速度が減少するので、sEHの阻害はEETのレベルを上昇させる。
【0062】
本発明者らによって認識された、EETの局所投与についての過去の報告のみにおいて、線維芽細胞から脂肪細胞への分化の阻害において11,12-EETが有用であることが主張された。米国特許出願公開2004/0204487を参照されたい。しかし、本発明の方法において、11,12-EETは有効でないかまたは他のEETよりも有効性が低いことが見出された。従って、11,12-EETの好ましさは低く、本発明の組成物および方法において省略することが好ましい。
【0063】
本発明の方法において有用なEETには、14,15-EET、8,9-EET、および5,6-EETが含まれる。好ましくは、EETは、より安定なメチルエステルとして投与される。EETは8S,9R-EETおよび14R,15S-EETなどの位置異性体であることが、当業者には認識されよう。8,9-EETおよび14R,15S-EETは、例えばSigma-Aldrichから販売されている(それぞれカタログ番号E5516、E5641およびE5766、Sigma-Aldrich Corp.、St. Louis、MO)。5,6-EET、8,9-EET、および14,15-EETは、例えばCayman Chemical Co.(Ann Arbor, MI)から販売されている。
【0064】
望ましいならば、活性を保持した、EET、類似体または誘導体を、非修飾EETの代わりにまたはそれと組み合わせて使用することができる。LiaoおよびZeldin(上記)は、EETにおける構造的置換または改変を有する化合物としてEET類似体を定義しており、1つまたは複数のEETオレフィンが除去されたまたはアセチレン基もしくはシクロプロパン基で置換された構造的類似体、エポキシド部分がオキシタン(oxitane)またはフラン環で置換された類似体、およびヘテロ原子類似体を含む。その他の類似体において、エポキシド部分がエーテル、アルコキシド、ジフルオロシクロプラン(difluorocycloprane)、またはカルボニルで置換されており、他方においては、カルボン酸部分が、窒素複素環、スルホンアミド、または別の極性官能基などの一般に使用される模倣体で置換されている。好ましい形態において、類似体または誘導体は、sEHおよび化学的崩壊に対してEETよりも高い耐性を有するので、非修飾EETと比較して比較的安定である。「比較的安定」とは、sEHによる加水分解の速度が、加水分解アッセイにおける非修飾EETの加水分解よりも少なくとも25%小さく、より好ましくは、非修飾EETの加水分解速度よりも50%以上低いことを意味する。例えばLiaoおよびZeldinによって、エピスルフィドおよびスルホンアミドEET誘導体が示されている。EETのアミドおよびエステル誘導体、ならびにこれらが比較的安定であることは、好ましい態様である。好ましい形態において、局所的に適用された場合の疼痛またはかゆみの低減において、類似体または誘導体は、それらが修飾されたまたは由来する非修飾EET位置異性体の生物活性を有する。特定のEET類似体または誘導体が非修飾EETの生物活性を有するか否かは、実施例に記載のアッセイ法においてそれを使用することによって容易に判定できる。上記の定義の項において言及したとおり、参照の都合上、本明細書において使用する「EET」という用語は、文脈により特段の定めのない限り、非修飾EETならびにEETの類似体および誘導体を指す。
【0065】
一部の態様において、1種または複数のEETを、EETを経時的に放出する材料中に包埋するかまたはさもなくば配置する。EETなどの組成物の遅延放出を促進するのに適した材料は、当技術分野で公知である。任意で、1種または複数のsEH阻害剤を遅延放出材料内に配置してもよい。
【0066】
簡便には、1種または複数のEETを経口投与できる。EETは酸性条件下で分解を受けやすいので、経口投与が意図されるEETを、酸性条件下での溶解には抵抗性であるが腸内に存在する弱塩基性条件下では溶解するコーティングで被覆することができる。「腸溶コーティング」として公知である適切なコーティングは、胃の不快感(gastric distress)を引き起こすか胃酸への曝露の際に分解されうる、アスピリンなどの製品に対して、広く使用されている。適切な溶解プロファイルを有するコーティングの使用によって、腸管の選択された区画に被覆物質を放出することができる。例えば、結腸内に放出されるべき物質を、pH6.5〜7で溶解する物質で被覆する一方、十二指腸内に放出されるべき物質を、5.5を上回るpH値で溶解するコーティングで被覆することができる。そのようなコーティングは、例えばRohm Specialty Acrylics(Rohm America LLC, Piscataway, NJ)から商品名「Eudragit(登録商標)」として販売されている。特定の腸溶コーティングの選択は、本発明の実施に対して重要ではない。
【0067】
エポキシドヒドロラーゼ活性に対するアッセイ法
sEHの阻害を判定するために、エポキシドヒドロラーゼ活性を決定するためのいくつかの標準的なアッセイ法のいずれかを使用することができる。例えば、適切なアッセイ法は、Gill, et al., Anal Biochem 131, 273-282 (1983); およびBorhan, et al., Analytical Biochemistry 231, 188-200 (1995)に記載されている。適切なインビトロアッセイ法は、Zeldin et al., J Biol. Chem. 268:6402-6407 (1993)に記載されている。適切なインビボアッセイ法は、Zeldin et al., Arch Biochem Biophys 330:87-96 (1996)に記載されている。推定天然物質および代理物質を用いた、エポキシドヒドロラーゼに対するアッセイ法が示されている(Hammock, et al. In: Methods in Enzymology, Volume III, Steroids and Isoprenoids, Part B, (Law, J.H. and H.C. Rilling, eds. 1985), Academic Press, Orlando, Florida, pp. 303-311およびWixtrom et al., In: Biochemical Pharmacology and Toxicology, Vol. 1: Methodological Aspects of Drug Metabolizing Enzymes, (Zakim, D. and D.A. Vessey, eds. 1985), John Wiley & Sons, Inc., New York, pp. 1-93を参照されたい)。得られるジオール産物の水素結合に対する反応性または傾向に基づく、スペクトルベースの複数のアッセイ法が存在する(例えば、Wixtrom、上記、ならびにHammock. Anal. Biochem. 174:291-299 (1985)およびDietze, et al. Anal. Biochem. 216:176-187 (1994)を参照されたい)。
【0068】
酵素を固定化するか、またはデンシル、フルオレセイン(fluoracein)、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質、もしくはその他試薬などのプローブで標識するかどちらかの、触媒部位に対する特定のリガンドの結合に基づいて、酵素を検出することもできる。EETのその水和、Dietze et al., 1994、上記に記載の着色産物を生じるためのエポキシドのその加水分解、または、放射性代理物質のその加水分解(Borhan et al., 1995、上記)によって酵素を分析することができる。エポキシドの加水分解後の蛍光産物の産生に基づいて、酵素を検出することもできる。数多くのエポキシドヒドロラーゼ検出法が説明されている(例えば、Wixtrom、上記を参照されたい)。
【0069】
アッセイ法は通常、アフィニティー精製後に組換え酵素を用いて行われる。当技術分野で公知であり上記で引用した参考文献において記載されているように、これらは、粗い(crude)組織ホモジネート内で、細胞培養物内で、またはインビボにおいてさえも実施可能である。
【0070】
その他のsEH活性阻害手段
本発明の方法において、sEH活性または遺伝子発現を阻害するその他の手段を使用することもできる。例えば、ヒトsEH遺伝子の少なくとも一部に相補的な核酸分子を用いてsEH遺伝子発現を阻害することができる。例えば、短いRNA分子を用いて遺伝子発現を阻害するための手段が公知である。低分子干渉RNA(siRNA)、低分子一時的RNA(small temporal RNA;stRNA)、およびマイクロRNA(miRNA)が、これらに含まれる。低分子干渉RNAは、mRNA分解経路を介して遺伝子をサイレンシングするが、一方でstRNAおよびmiRNAは、内因的にコードされたヘアピン構造の前駆体からプロセシングされる約21ヌクレオチドまたは22ヌクレオチドのRNAであり、転写抑制を介して遺伝子をサイレンシングするよう機能する。例えば、McManus et al., RNA, 8(6):842-50 (2002); Morris et al., Science. 305(5688):1289-92 (2004); He and Hannon, Nat Rev Genet. 5(7):522-31 (2004)を参照されたい。
【0071】
転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)の一形態である「RNA干渉」は、細胞への二本鎖RNAの導入に由来する効果を説明している(Fire, A. Trends Genet 15:358-363 (1999); Sharp, P. Genes Dev 13:139-141 (1999); Hunter, C. Curr Biol 9:R440-R442 (1999); Baulcombe. D. Curr Biol 9:R599-R601 (1999); Vaucheret et al. Plant J 16:651-659 (1998)で概説されている)。一般的にRNAiと呼ばれるRNA干渉は、クローニングされた遺伝子を特異的に不活性化する方法を提供するものであり、遺伝子機能を研究するための強力なツールである。
【0072】
RNAiにおける活性作用物質は長い二本鎖(逆平行二重鎖)RNAであり、その鎖の一方が、阻害されるべきRNAに対応するか相補的である。阻害されるRNAは標的RNAである。長い二本鎖RNAが細断されて約20〜25ヌクレオチド対のより短い二重鎖となるが、より短いRNAが標的の発現を阻害するその後の機構は現時点で大部分が未知である。RNAiは、下等真核生物中で十分に機能することが初めに示されたが、哺乳動物細胞に関しては、RNAiは、卵母細胞および着床前胚に対する研究用にしか適していないと考えられた。しかし、これら以外の哺乳動物細胞において、より長いRNA二重鎖が、タンパク質合成の非特異的阻害を特徴とする「配列非特異的RNA干渉」として知られる応答を誘発した。
【0073】
約30塩基対を上回るdsRNAが、明らかにインターフェロン応答のためにこの効果を誘導することが、さらなる試験によって示された。約30塩基対を上回るdsRNAが、PKRタンパク質と2',5'-オリゴヌクレオチド合成酵素(2',5'-AS)とを結合させて活性化すると考えられる。活性化PKRは、翻訳開始因子eIF2αのリン酸化による翻訳を失速させ、活性化2',5'-ASは、2',5'-オリゴヌクレオチド活性化リボヌクレアーゼLによるmRNA分解を引き起こす。これらの応答は本来、誘導dsRNAに対して配列非特異的であり、またこれらは頻繁に、アポトーシス、すなわち細胞死をもたらす。したがって、下等真核細胞内でRNAiを誘導する濃度のdsRNAに曝露されると、大部分の哺乳類体細胞はアポトーシスを受ける。
【0074】
より最近では、予め大きさを揃えた(pre-sized)約19ヌクレオチド対の二重鎖としてRNA鎖が提供された場合にRNAiがヒト細胞中で作用しうること、および、各鎖の末端における短い不対3'伸長部を用いてRNAiが特に良好に作用したことが示された(Elbashir et al. Nature 411:494-498 (2001))。この報告においては、「短鎖干渉RNA」(siRNA、同じく低分子干渉RNAとも称される)は、オリゴフェクタミンミセル中でのトランスフェクションによって培養細胞に適用された。これらのRNA二重鎖は、アポトーシスなどの配列非特異的応答を誘発するには短すぎたが、RNAiを効果的に開始させた。その後、多くの実験室において、哺乳動物細胞中の標的遺伝子をノックアウトするためのsiRNAの使用が試験された。その結果、siRNAは大部分の例においてかなり良好に作用することが実証された。
【0075】
sEHの活性を低減する目的で、sEHをコードする遺伝子に対するsiRNAを、コンピュータプログラムを用いて特異的に設計することができる。ヒトsEH配列のクローニング、配列、およびアクセッション番号については、Beetham et al., Arch. Biochem. Biophys. 305(1):197-201 (1993)に記載されている。ヒトsEHのアミノ酸配列もまた、米国特許第5,445,956号のSEQ ID NO: 2として記載されており、SEQ ID NO: 1の42〜1703位のヌクレオチドが、そのアミノ酸配列をコードする核酸配列である。
【0076】
Dharmacon社(Lafayette, CO)製のsiDESIGNプログラムは、任意の核酸配列に対するsiRNAの予測を可能にするが、これは、ウェブ上のdharmacon.comで利用可能である。siRNAを設計するためのプログラムもまた、Genscript(ウェブ上のgenscript.com/ssl-bin/app/rnaiで利用可能である)を含むその他から、および、学術的かつ非営利的な研究者に対しては、インターネット上のWhitehead Institute for Biomedical Researchから(「http://」の後に「jura.wi.mit.edu/pubint/http://iona.wi.mit.edu/siRNAext/」と入力することによって)、入手可能である。
【0077】
例えば、Whitehead Instituteから入手可能なプログラムを使用して、以下のsEH標的配列およびsiRNA配列を作製することができる。

【0078】
または、遺伝子からsiRNAを作製するキットを用いて、siRNAを作製することができる。例えば、「ダイサーsiRNA作製」キット(カタログ番号T510001、Gene Therapy Systems, Inc.、San Diego、CA)は、インビトロで組換えヒト酵素「ダイサー」を使用して長い二本鎖RNAを切断し、22bpのsiRNAとする。siRNAの混合物を有することによって、このキットは、標的遺伝子の発現を低減させるであろうsiRNAの作製における高度な成功を可能にする。同様に、Silencer(商標)siRNAカクテルキット(RNaseIII)(カタログ番号1625、Ambion, Inc.、Austin、TX)は、ダイサーの代わりにRNaseIIIを用いて、dsRNAからsiRNAの混合物を作製する。ダイサーと同様に、RNaseIIIはdsRNAを切断して、2〜3ヌクレオチドの3'突出部ならびに5'-ホスフェート末端および3'-ヒドロキシ末端を有する12〜30bpのdsRNA断片とする。製造会社によると、dsRNAはT7 RNAポリメラーゼを用いて産生され、反応および精製成分はキットに含まれる。次に、dsRNAがRNaseIIIによって消化され、siRNAの集団を生じる。キットには、インビトロ転写によって長いdsRNAを合成するため、および、RNaseIIIを用いてこれらのdsRNAを消化してsiRNA様分子にするための試薬が含まれる。使用者は、向かい合ったT7ファージポリメラーゼプロモーターを有するDNA鋳型、または、転写されるべき領域の向かい合わせの末端におけるプロモーターを有する2つの別々の鋳型を供給するだけでよいことが、製造会社によって示されている。
【0079】
siRNAは、ベクターから発現されてもよい。典型的には、そのようなベクターは、対応する相補鎖をコードする第二のベクターと組み合わせて投与される。発現されたら、2つの鎖は互いにアニーリングし、機能的な二本鎖siRNAを形成する。本発明の使用に適した例示的なベクターの1つはpSuperであり、OligoEngine社(Seattle, WA)から販売されている。一部の態様において、ベクターは2つのプロモーターを含むが、一方は第一のプロモーターの下流に逆平行方向に配置されている。第一のプロモーターはある方向に転写され、第二のプロモーターは第一のプロモーターと逆平行方向に転写されて、これによって相補鎖の発現が起こる。さらに別の一連の態様においては、プロモーターの後に、第一の鎖をコードする第一のセグメント、および第二の鎖をコードする第二のセグメントが続く。第二の鎖は第一の鎖のパリンドロームに相補的である。第一と第二の鎖の間には、リンカー(「スペーサー」と呼ばれることもある)としてはたらくRNAの区画が存在し、これによって、第二の鎖が、「ヘアピン」として知られる構造で、第一の鎖の周りを湾曲してこれにアニーリングすることが可能になる。
【0080】
リンカー区画の使用を含むヘアピンRNAの形成は、当技術分野で周知である。典型的には、ヒトU6、マウスU6、またはヒトH1などのポリメラーゼIIIプロモーターを使用したsiRNA発現カセットを用いる。コード配列は通常、短いスペーサーによってその逆相補アンチセンスsiRNA配列に連結した19ヌクレオチドのセンスsiRNA配列である。9ヌクレオチドのスペーサーが一般的であるが、その他のスペーサーを設計することも可能である。例えば、Ambionウェブサイトには、研究員がスペーサーTTCAAGAGA(SEQ ID NO: 18)を用いて成功したことが示されている。さらに、5〜6個のTをオリゴヌクレオチドの3'末端に付加して、ポリメラーゼIIIに対する終結部位としてはたらかせることが多い。同じく、Yu et al., Mol Ther 7(2):228-36 (2003); Matsukura et al., Nucleic Acids Res 31(15):e77 (2003)も参照されたい。
【0081】
一例として、上記で明らかにされたsiRNA標的を、以下のようにヘアピンsiRNAによる標的とすることができる。ベクターにより産生された短いヘアピンRNAによって同じ標的を攻撃するために(恒久的RNAi効果)、センスおよびアンチセンス鎖を一列に並べて、その間にループ形成配列を含め、かつ、妥当な発現ベクターに対する適切な配列を配列の両端に含めることができる。以下は、pSuperベクター中にクローニングされうるヘアピン配列の非限定的な例である。

【0082】
siRNAに加えて、アンチセンス分子、リボザイムなどの発現を阻害するためのその他の手段が当業者に公知である。核酸分子は、DNAプローブ、リボプローブ、ペプチド核酸プローブ、ホスホロチオエートプローブ、または2'-Oメチルプローブでありうる。
【0083】
特異的ハイブリダイゼーションを評価するために、一般に、アンチセンス配列は標的配列に対して実質的に相補的である。特定の態様において、アンチセンス配列は標的配列に対して正確に相補的である。しかし、アンチセンスポリヌクレオチドは、ヌクレオチドの置換、付加、欠失、転移、転位、もしくは修飾を含んでもよく、または、sEH遺伝子に対応する関連標的配列に対する特異的結合がポリヌクレオチドの機能的特性として保持されている限りその他の核酸配列もしくは非核酸部分を含んでもよい。ある態様において、アンチセンス分子は、三重らせん含有核酸、すなわち「三重鎖」核酸を形成する。三重らせん形成は、例えば標的遺伝子の転写の妨害によって遺伝子発現の阻害をもたらす(例えば、Cheng et al., 1988, J, Biol. Chem. 263:15110; Ferrin and Camerini-Otero, 1991, Science 354:1494; Ramdas et al., 1989, J. Biol. Chem. 264:17395; Strobel et al., 1991, Science 254:1639;およびRigas et al., 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 83:9591を参照されたい)。
【0084】
アンチセンス分子は、当技術分野において公知の方法によって設計することができる。例えば、Integrated DNA Technologies(Coralville, IA)によって、あるプログラムがインターネット上で利用可能となっているが(http://の後にbiotools.idtdna.com/antisense/AntiSense.aspxと入力することによって見つけることができる)、これは、最大10,000ヌクレオチド長の核酸配列に対する適切なアンチセンス配列を提供する。sEH遺伝子と共にこのプログラムを用いることによって、以下の例示的な配列が提供される。

【0085】
別の態様において、所望の部位でmRNAを切断するためのリボザイムを設計することができる。(例えば、Cech, 1995, Biotechnology 13:323;およびEdgington, 1992, Biotechnology 10:256およびHu et al., 国際公開公報第94/03596号を参照されたい。)
【0086】
本明細書に開示されたおよび当業者に公知の化学合成法および組換え法などの核酸を産生するための任意の適切な方法を用いて、アンチセンス核酸(DNA、RNA、修飾型、類似体など)を作製することができる。例えば、ある態様において、デノボ化学合成によってまたはクローニングによって本発明のアンチセンスRNA分子を調製してもよい。例えば、ベクター(例えばプラスミド)中のプロモーターに操作可能に連結されたsEH遺伝子配列をリバース方向に挿入(ライゲーション)することによって、アンチセンスRNAを作製することができる。プロモーターならびに好ましくは終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルが適切に配置されているという条件で、非コード鎖に対応する挿入配列の鎖が転写され、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドとして作用する。
【0087】
所望の特性(例えば、増大したヌクレアーゼ耐性、固い結合、安定性、または所望のTm)を提供するための非標準塩基(例えば、アデニン、シチジン、グアニン、チミン、およびウリジン以外)または非標準骨格構造を用いてオリゴヌクレオチドを作製できることが認識されよう。オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ耐性を付与するための技術には、国際公開公報第94/12633号に記載のものが含まれる。ペプチド核酸(PNA)骨格を有するオリゴヌクレオチド(Nielsen et al., 1991, Science 254:1497)、または、2'-O-メチルリボヌクレオチド、ホスホロチオエートヌクレオチド、メチルホスホネートヌクレオチド、ホスホトリエステルヌクレオチド、ホスホロチオエートヌクレオチド、ホスホラミデートを組み込んだオリゴヌクレオチドを含む、多様な有用な修飾オリゴヌクレオチドを作製することができる。
【0088】
細胞膜を介して所望の核酸を移行させる能力を有するタンパク質が記載されている。典型的には、そのようなタンパク質は、膜移行担体として作用できる両親媒性または疎水性の亜配列(subsequence)を有する。例えば、ホメオドメインタンパク質は、細胞膜を介して移行させる能力を有する。ホメオドメインタンパク質の最も短い内部移行ペプチドであるアンテナペディアは、このタンパク質の第三のへリックス(アミノ酸部位43〜58位)であることが見出された(例えば、Prochiantz, Current Opinion in Neurobiology 6:629-634 (1996)を参照されたい)。別の亜配列である、シグナルペプチドのh(疎水性)ドメインは、同様の細胞膜移行特性を有することが見出された(例えば、Lin et al, J. Biol. Chem. 270:14255-14258 (1995)を参照されたい)。そのような亜配列を用いて、細胞膜を介してオリゴヌクレオチドを移行させることができる。オリゴヌクレオチドは、そのような配列と共に都合よく誘導体化されうる。例えば、リンカーを用いて、オリゴヌクレオチドと移行配列を連結することができる。例えばペプチドリンカーまたは任意のその他の適切な化学的リンカーなど、任意の適切なリンカーを用いることができる。
【0089】
より近年には、シクロデキストリンのナノ粒子中にsiRNAを封入することによって、免疫応答を誘発することなくsiRNAを哺乳動物に導入できることが発見されている。この方法についての情報は、「www.」の後に「nature.com/news/2005/050418/full/050418-6.html」と入力することによって見つけることができる。
【0090】
別の方法においては、圧縮ガスなどの噴出によって核酸を皮膚の浅層内または筋肉細胞内に直接導入する。裸のポリヌクレオチドを投与する方法は周知であり、例えば米国特許第5,830,877号ならびに国際公開公報第99/52483号および同第94/21797号に開示されている。圧縮ガスを用いて体組織へと粒子を加速するための装置は、例えば米国特許第6,592,545号、同第6,475,181号、および同第6,328,714号に記載されている。核酸は凍結乾燥されてもよく、組織への加速に適した大きさおよび質量の粒子を形成するために例えば多糖と複合体形成してもよい。都合よく、金ビーズの表面に、または適切な質量もしくはその他特徴を提供するその他粒子の表面に、核酸を配置できる。核酸を体組織中に輸送するための金ビーズの使用は、例えば、米国特許第4,945,050号および同第6,194,389号に開示されている。
【0091】
病原性を引き起こすことなくビヒクルとして働くよう改変されたウイルスによって、核酸を体内に導入することもできる。ウイルスは、例えばアデノウイルス、鶏痘ウイルス、またはワクシニアウイルスであってよい。
【0092】
miRNAとsiRNAは、以下のいくつかの点で異なっている。miRNAは以前に認識された遺伝子と異なるゲノム中の部分に由来するが、siRNAはmRNA、ウイルス、またはトランスポゾンに由来する;miRNAはヘアピン構造に由来するが、siRNAは比較的長い二重鎖RNAに由来する;miRNAは関連する生物内で保存されているが、siRNAは通常保存されていない;miRNAはそれ自身が由来する遺伝子座以外の遺伝子座をサイレンシングするが、siRNAはそれ自身が生じた遺伝子座をサイレンシングする。興味深いことに、miRNAは、それらが発現を阻害するmRNAに対して完全な相補性を示さない傾向がある。McManusら、上記を参照されたい。同じく、Cheng et al., Nucleic Acids Res. 33(4):1290-7 (2005); Robins and Padgett, Proc Natl Acad Sci U S A. 102(11):4006-9 (2005); Brennecke et al., PLoS Biol. 3(3):e85 (2005)を参照されたい。miRNAを設計する方法は公知である。例えば、Zeng et al., Methods Enzymol. 392:371-80 (2005); Krol et al., J Biol Chem. 279(40):42230-9 (2004); Ying and Lin, Biochem Biophys Res Commun. 326(3):515-20 (2005)を参照されたい。
【0093】
治療的投与
皮膚への作用物質の局所適用のための多様な固形、半固形、および液体の賦形剤は、長年にわたって当技術分野で公知である。そのような賦形剤には、クリーム、ローション、ゲル、香膏、油、軟膏、およびスプレーが含まれる。例えば、Provost C. "Transparent oil-water gels: a review," Int J Cosmet Sci. 8:233-247 (1986)、Katz and Poulsen, Concepts in biochemical pharmacology, part I. In: Brodie BB, Gilette JR, eds. Handbook of Experimental Pharmacology. Vol. 28. New York, NY: Springer; 107-174 (1971)、およびHadgcraft, "Recent progress in the formulation of vehicles for topical applications," Br J Dermatol., 81:386-389 (1972)を参照されたい。カプサイシン(例えばCapsin(登録商標))、いわゆる「反対刺激薬」(例えばIcy-Hot(登録商標)、メントール、冬緑油、樟脳、またはユーカリ油化合物などの物質であり、これらは皮膚のある領域に適用された場合に、同じ神経によって供給される関節または筋肉における疼痛をおそらく改変または相殺する)、およびサリチル酸塩(例えばBenGay(登録商標))を含む鎮痛剤の局所製剤のいくつかが公知であり、EETを含むまたは含まないsEHIで有効成分または成分を置換することによって、sEHIの局所投与のためにこれらを容易に適合化することができる。当業者はこれらの様々な賦形剤および調製物に精通しており、本明細書に詳述する必要はないと推定される。
【0094】
sEHIの阻害剤、もしくはEET、またはその両方(「作用物質」)を混合して、局所投与のためのそのような様式(クリーム、ローション、ゲルなど)にすることができる。一般に、作用物質の濃度により勾配(gradient)が提供され、これが作用物質を皮膚まで駆動する。皮膚への薬物の流量を決定するため、および薬剤を改変して皮膚へのその送達の速度を上げるまたは下げるための標準的方法は当技術分野で公知であり、例えば、Osborne and Amann, eds., Topical Drug Delivery Formulations, Marcel Dekker, 1989において教示されている。特に皮膚の薬物送達作用物質の使用は、例えばGhosh et al., eds., Transdermal and Topical Drug Delivery Systems, CRC Press (Boca Raton, FL, 1997)に教示されている。
【0095】
一部の態様において、作用物質はクリーム中に存在する。典型的には、クリームは、クリームの「触感」を改善するためまたはその他の有用な特徴を提供するためのその他の薬剤と共に、1種または複数の疎水性脂質を含む。ある態様において、例えば、本発明のクリームは、精製水USP、白色ワセリンUSP、ステアリルアルコールNF、プロピレングリコールUSP、ポリソルベート60 NF、セチルアルコールNF、および保存剤として安息香酸USP 0.2%の白色〜淡白色の不透明なクリーム基剤中に、1種または複数のEETと共にまたはそれ無しで、クリーム1グラムあたり0.01mg〜10mgのsEHIを含みうる。実施例で報告した試験においては、精製水、白色ワセリン、セテアリルアルコール(cetearyl alcohol)およびセテアレス(ceteareth)-20、ソルビトール溶液、プロピレングリコール、シメチコン、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ソルビン酸、ならびにBHTを含む市販のクリームVanicream(登録商標)(Pharmaceutical Specialties, Inc., Rochester, MN)中に、sEHIを混合した。
【0096】
その他の態様においては、1種または複数の作用物質はローション中に存在する。典型的なローションには、例えば、水、ミネラルオイル、ワセリン、ソルビトール溶液、ステアリン酸、ラノリン、ラノリンアルコール、セチルアルコール、ステアリン酸グリセリル/ステアリン酸PEG-100、トリエタノールアミン、ジメチコーン、プロピレングリコール、マイクロクリスタリンワックス、クエン酸トリ(PPG-3ミリスチルエーテル)、二ナトリウムEDTA、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、キサンタンガム、ブチルパラベン、およびメチルジブロモグルタロニトリルが含まれる。
【0097】
一部の態様において、1種または複数の作用物質は、ホホバ油などの油中に存在する。一部の態様において、1種または複数の作用物質は軟膏中に存在するが、これは例えば、白色ワセリン、親水性ワセリン、無水ラノリン、加水ラノリン、またはポリエチレングリコールでありうる。一部の態様において、1種または複数の作用物質はスプレー中に存在するが、これは典型的にはアルコールおよび噴射剤を含む。皮膚を通した吸収を増大させる必要がある場合には、任意でスプレーに、例えば、ミリスチン酸イソプロピルを含めることができる。
【0098】
作用物質が投与される形態が何であっても(すなわち、ローション、ゲル、スプレーなどのいずれによっても)、10cm2あたり約0.01mg〜10mgの投与量で作用物質が投与されるのが好ましい。
【0099】
座剤の使用によって、EETもしくはsEHIまたはその両方を、腸に導入することができる。当技術分野で公知の通り、座剤とは、体腔への導入を意図した様々な大きさおよび形状の固形組成物である。典型的には、座剤は、座剤から近接領域へと放出される薬物を含む。通常、座剤は、体温で融解するカカオバターなどの脂肪性の基剤を用いて、または、グリセリンゼラチンもしくはポリエチレングリコールなどの水溶性もしくは混和性の基剤を用いて作製される。
【0100】
本明細書で用いられる「単位剤形」という用語は、ヒト対象および動物に対する単位投与量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要な薬学的希釈剤、担体または賦形剤とともに所望の薬学的効果を生じるように計算された既定量の活性物質を含む。本明細書において詳述されるように、本発明の新規単位剤形の仕様は、(a)活性物質の独自の特徴および達成されるべき特定の効果、ならびに(b)ヒトおよび動物における使用のためにそのような活性物質を合成する技術分野に固有の制限によって規定され、かつそれらに直接左右されるが、これらは本発明の特徴である。治療的有効量のsEH阻害剤もしくはEET、またはその両方が、患者における疼痛の軽減に使用される。
【0101】
実施例
実施例1
後足引っ込み試験(hind paw withdrawal test)を用いた痛覚過敏応答は、中枢および末梢の機構の組み合わせに起因すると考えられる(Kannan et al., "Endotoxin-induced local inflammation and hyperalgesia in rats mice, a new model for inflammatory pain," Pharmacology 66:373-379 (1996))。本発明者らは、Hargreaves et al., "A new and sensitive method for measuring thermal nociception in cutaneous hyperalgesia", Pain 32, 77-88 (1988)の方法を用いて、2種類のsEH阻害剤およびEETで処置したラットの疼痛応答を定量した。
【0102】
実施例2
後足引っ込み潜時試験(hind paw withdrawal latency test)を用いて、疼痛を定量した。体重250〜300gのSprague-Dawley雄性ラット(Charles River Laboratories, Inc., Wilmington, MA)を使用した。ラットを標準条件の下でUC Davis Animal Resource Facilityに個別に収容して飼料および水を自由に与え、実験前に少なくとも1週間維持した。各ラットは1回しか使用しなかった。昼間の8:00〜13:00の間に(概日周期の明期の最初のフェーズの間に)全実験を実施した。まず、ラットを3つの別々のセッションにおいて実験チャンバーに対して訓練した(trained)。実験日には、ラットの基礎応答を測定し、次に、中性のクリームまたは化合物を含む製剤化されたクリームで処置した後、疼痛応答を誘導するために右後足に10μgのエンドトキシン(リポ多糖、「LPS」)またはカプサイシンを注射した。その後、LPSまたはカプサイシン注射から30、60、120、および240分後に疼痛応答を測定した。sEHIは、それらをエタノール中に溶解してクリームと1:9の割合で混合することによって製剤化した。1群あたり8匹のラットを使用した。
【0103】
実施例3
熱的侵害受容性応答(thermal nociceptive response)を評価するために、その後を模した、Hargreavesら、上記に記載の市販の装置を用いた。この装置はガラス表面からなり、その上のPlexiglas(登録商標)小部屋(9×22×25 cm)内に個別にラットを入れる。フィードバック制御された、ガラス下の強制空気加熱システムによって、ガラス表面の温度はどちらも30.1℃で維持される。加熱システムは、ガラス板の下側表面に取り付けた熱電対によって駆動する。各試験対象の後足に刺激を送達できるように二次元軸で手動操作される刺激タワーに取り付けられた集中噴出バルブから、熱的侵害受容性刺激が生じる。タイマーは光源と共に自動的に動いており、応答潜時(response latency)は、足が急激な引っ込めを示すのに要する時間として定義される。足の引っ込めは、刺激タワー上に取り付けられたフォトダイオードモーションセンサにより検出され、これによってタイマーが止まり刺激が終結する。全ての場合において、組織の傷害を避けるために20秒のカットオフを採用する。同じく、Dirig et al., "Characterization of variables defining hindpaw withdrawal latency evoked by radiant thermal stimuli," J Neuroscience Methods 76:183-191 (1997)も参照されたい。LPS誘発性の熱性痛覚過敏に対して2種類の異なるsEH阻害剤を用いた試験の結果を、図1に示す。図4に示すように、EETもまた、LPS誘発性の熱性痛覚過敏を遮断することが見出された。図6.1に示すように、sEH阻害剤であるAUDA-beもまた、カラギーナン誘発性の熱性痛覚過敏を遮断することが示された。
【0104】
実施例4
機械的異痛の定量化のために、加えられる力の様々な量に対応した様々な直径を有する一対のvon Freyフィラメントを用いた。まずラットのベースライン応答を測定し、次に、後足にLPSを注射した。LPS注射の1時間後および2時間後に、応答を測定した。1群あたり8匹のラットを使用した。直径を徐々に大きくしたフィラメントで、ラットの足を3回刺激した。ラットが足を引っ込めたフィラメントの直径を記録した。
【0105】
ラットをクリームおよびLPSのみで処置した場合、その引っ込み潜時は劇的に減少した。この効果は、注射後2および4時間などの、より後の時間においてより顕著である。しかし、sEH阻害剤の適用、EET、およびそれら2種の処置の組み合わせによって、疼痛応答はベースラインレベルに向けて回復する。興味深いことに、疼痛の低減において、sEH阻害剤とEETの組み合わせは、どちらか単独の処置よりも効果的である。
【0106】
LPS注射は、動物の足引っ込み応答を有意に低減させた。対照的に、sEHIで処置したラットは、その応答の低下を示さなかっただけでなく、ベースライン応答の間に機械的な力に耐える能力が有意に増大した。図3は、2種類の例示的なsEH阻害剤が、LPS誘発性の機械的異痛を遮断したことを示している。
【0107】
本明細書に記載した実施例および態様は例示のみを目的としていること、ならびに、それらに鑑みさまざまな修正または変更が当業者に示唆されるが、本出願の趣旨と範囲および添付の特許請求の範囲に含まれることが理解される。本明細書で引用されたすべての刊行物、特許、および特許出願は、すべての目的に関してその全文が参照によって本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】2種類のsEH阻害剤が、リポ多糖(「LPS」)誘導性の熱性痛覚過敏を遮断することを示す。2種類のsEH阻害剤とはAUDA-ブチルエステル(「be」)および950である。X軸は作用物質投与後の時間である。Y軸は、%熱性引っ込み潜時(「TWL」)である。白四角印:賦形剤クリーム(Vanicream(登録商標))。黒四角印:クリーム賦形剤中のLPS(10μg)。丸印:AUDA-be(50mg/kg)およびLPS(10μg)。三角印:化合物950(50mg/kg)およびLPS(10μg)。星印および十字は統計学的に有意な結果を示す。この図および以下の図において、作用物質は同じ賦形剤クリーム中で投与された。
【図2】2種類のsEH阻害剤が、LPS誘導性の熱性痛覚過敏を用量依存的様式で遮断することを示す。2種類のsEH阻害剤とはAUDA-beおよび950である。X軸はmg/kg単位で示されている。Y軸は、%熱性引っ込み潜時(「TWL」)である。丸印:AUDA-be(50mg/kg)+LPS(10μg)。三角印:化合物950(50mg/kg)+LPS(10μg)。
【図3】2種類のsEH阻害剤が、LPS誘発性の機械的異痛を遮断することを示す。2種類のsEH阻害剤とはAUDA-beおよび950である。X軸は、LPS曝露後の時間を示す。Y軸は、%機械的引っ込み閾値(「MWT」)である。丸印:AUDA-be(50mg/kg)+LPS(10μg)。三角印:化合物950(50mg/kg)+LPS(10μg)。黒正方形印はLPS(10μg)である。星印および十字は統計学的に有意な結果を示す。
【図4】EETがLPS誘発性の機械的異痛熱性痛覚過敏を遮断することを示す。黒正方形印はLPS(10μg)である。黒三角印:50mg/kgのEETの混合物。§記号は、統計学的に有意な結果を示す。
【図5】様々なsEH阻害剤、EET、およびそれらの組み合わせの鎮痛効果を非処置動物と比較したグラフである。Y軸は、対照(賦形剤)と比較した、様々な作用物質によって誘導された鎮痛のパーセントを示す。X軸は、特定の被験作用物質を示す。試験は、LPSへの曝露から4時間後に実施した。
【図6】sEH阻害剤であるAUDA-beがカラギーナン誘発性の熱性痛覚過敏を遮断することを示すグラフである。X軸は時間(時間)を示す。Y軸は、動物の足の熱性引っ込み潜時(本明細書においては「PWL」と記す)(秒)を示す。0時点において、同側の足への注射によって動物をカラギーナンに曝露し、対側の足は非処置のままとした。カラギーナンへの曝露から20時間後にAUDA-beを投与した。黒菱形印は、処置足の引っ込み試験である。黒正方形印は、非処置足の試験である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において疼痛またはかゆみを軽減する方法であって、該対象に可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の阻害剤の有効量を局所投与し、それによって該対象における疼痛またはかゆみを軽減する工程を含む、方法。
【請求項2】
軽減される疼痛が侵害受容性疼痛である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
軽減される疼痛が炎症性疼痛である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
軽減される疼痛が神経障害性疼痛である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
軽減される疼痛がやけどに由来する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
疼痛が関節炎に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
疼痛が帯状疱疹後神経痛に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
多価不飽和脂肪酸のエポキシドを局所投与する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
上記エポキシドがcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
上記EETが、5,6-EET、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETからなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
上記対象が、高血圧を有してもいなければ、高血圧に関してsEHの阻害剤による処置を受けてもいない、請求項1記載の方法。
【請求項12】
sEHの上記阻害剤が、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する、単離された核酸である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
sEHの上記阻害剤が、皮膚科学的措置または美容外科手術に関連する疼痛を軽減するために、ある皮膚領域に対する該措置または手術の1時間前またはそれ以内に該皮膚領域に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
上記かゆみが掻痒症によるものである、請求項1記載の方法。
【請求項15】
上記かゆみが、虫刺症、ウルシオールとの接触、または刺激性の化学物質との接触によるものである、請求項1記載の方法。
【請求項16】
上記疼痛またはかゆみが痔によるものである、請求項1記載の方法。
【請求項17】
上記疼痛またはかゆみが内臓痛によるものであり、上記局所投与がsEHIの上記阻害剤を含む座剤によって行われる、請求項1記載の方法。
【請求項18】
クリーム、ゲル、油、ローション、香膏、軟膏、座剤、または局所スプレー中に可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の阻害剤を含む、組成物。
【請求項19】
さらに上記クリーム、ゲル、油、ローション、香膏、軟膏、座剤、または局所スプレーが脂質基剤を有する、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
多価不飽和脂肪酸のエポキシドをさらに含む、請求項18記載の組成物。
【請求項21】
多価不飽和脂肪酸の上記エポキシドがcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)である、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
上記EETが、5,6-EET、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETからなる群より選択される、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
sEHの上記阻害剤が、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する、単離された核酸である、請求項18記載の組成物。
【請求項24】
対象において疾病行動を低減する方法であって、該対象に可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の阻害剤の有効量を局所投与し、それによって該対象における疾病行動を低減する工程を含む、方法。
【請求項25】
多価不飽和脂肪酸のエポキシドを局所投与する工程をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
上記エポキシドがcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
上記EETが、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETからなる群より選択される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
sEHの上記阻害剤が、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する、単離された核酸である、請求項24記載の方法。
【請求項29】
上記対象が、高血圧を有してもいなければ、高血圧に関してsEHの阻害剤による処置を受けてもいない、請求項24記載の方法。
【請求項30】
対象において創傷治癒を促進する方法であって、該創傷に可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の阻害剤の有効量を局所投与し、それによって該対象における創傷治癒を促進する工程を含む、方法。
【請求項31】
多価不飽和脂肪酸のエポキシドを局所投与する工程をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
上記エポキシドがcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
sEHの上記阻害剤が、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する、単離された核酸である、請求項27記載の方法。
【請求項34】
対象において、疼痛もしくはかゆみを軽減するまたはニキビ病変の外観を改善する方法であって、組成物が有効量の11,12-EETを含むことはないという条件で、5,6-EET、8,9-EET、14,15-EET、またはそれらの組み合わせから選択されるcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)の有効量を含む該組成物を該対象に局所投与し、それによって、該対象における、疼痛もしくはかゆみを軽減するまたは該ニキビ病変の外観を改善する工程を含む、方法。
【請求項35】
疼痛またはかゆみが、掻痒症、痔、やけど、帯状疱疹後神経痛、関節炎、または皮膚科学的措置によるものである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
対象において、ニキビ病変の大きさを減少させるまたはその外観を改善する方法であって、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の阻害剤の有効量を該ニキビ病変に局所投与し、それによって該阻害剤の投与が該ニキビ病変の大きさを減少させるまたはその外観を改善する工程を含む、方法。
【請求項37】
多価不飽和脂肪酸のエポキシドを上記病変に局所投与する工程をさらに含む、請求項36記載の方法。
【請求項38】
上記エポキシドがcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)である、請求項36記載の方法。
【請求項39】
sEHの上記阻害剤が、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する、単離された核酸である、請求項36記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−504785(P2009−504785A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527210(P2008−527210)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2006/032595
【国際公開番号】WO2007/022509
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】