説明

鑑識用シート

【課題】 従来の鑑識用シートでは指紋採取を十分に行うことができなかった車のダッシュボード等の、微細な凹凸構造を有する表面からも高い精度で指紋の隆線を転写することができる、鑑識用シートを提供する。
【解決手段】 本発明の鑑識用シート10は、ベースフィルム層20と、このベースフィルム層20の片面に設けられた粘着剤層24とを含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指紋や足跡、タイヤ跡等の採取に用いる鑑識用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
犯罪捜査において、指紋採取の一般的な方法は、犯人の指が接触したと思われる箇所に、アルミの微粉末や、アルミと4三酸化鉄の混合微粉末等を、刷毛を用いて撒布し、穂先で軽く払うようにして指紋の隆線を視覚化した後、ここに、ベースフィルム層と、このベースフィルム層の片面に設けられた粘着剤層とから構成される鑑識用シートを貼付し、粘着剤層に指紋の隆線を転写した後に剥離して行われる。
【0003】
かかる指紋採取は、犯人割り出しのための有力な手段となるため、これまでに、指紋採取に好適に用いられる鑑識用シートがいくつか開発されてきた(例えば、特許文献1乃至3)。
【特許文献1】特開平3−80833号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−40299号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2002−200060号公報(特許請求の範囲)
【0004】
しかしながら、かかる従来の鑑識用シートにあっては、指紋の付着した箇所が、車のダッシュボードや革製品等、表面が微細な凹凸構造から構成されている場合に、かかる箇所にアルミ等の微粉末を撒布することによって、指紋の視覚化はできるものの、かかる視覚化された指紋の隆線を鑑識用シートに転写しようとしても、転写された指紋は斑模様となって、指紋の隆線を上手く転写することができなかった。すなわち、従来の鑑識用シートでは、指紋が付着した箇所によっては、指紋鑑識に耐え得る程度に鑑識用シートに指紋を転写することができない場合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来の鑑識用シートでは指紋採取を十分に行うことができなかった車のダッシュボード等の、微細な凹凸構造を有する表面からも高い精度で指紋の隆線を転写することができる、鑑識用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、ベースフィルム層と、該ベースフィルム層の片面に設けられた粘着剤層とを備え、前記ベースフィルム層が、引張弾性率4〜50MPa、伸長回復率90%以上を示す鑑識用シートにある。
【0007】
かかる構成により、車のダッシュボード等の、微細な凹凸構造を有する表面に、本発明にかかる鑑識用シートを貼付しても、鑑識用シートが備える粘着剤層が凹部にも到達することとなる。すなわち、本発明の鑑識用シートは、表面追従性に優れたものとなる。また、指紋の付着した箇所への鑑識用シートの貼付、指紋の転写、及び、かかる箇所からの鑑識用シートの剥離操作を経た後にあっても、鑑識用シートが変形することが防がれることとなる。
【0008】
また、本発明の要旨とするところは、ベースフィルム層と、該ベースフィルム層の片面に設けられた粘着剤層と、該ベースフィルム層の他の片面に設けられた支持体層とを備え、前記ベースフィルム層が、引張弾性率4〜50MPa、伸長回復率90%以上を示し、前記支持体層が、引張弾性率100〜300MPaを示す鑑識用シートにある。
【0009】
かかる構成により、本発明の鑑識用シートは、微細な凹凸構造を有する表面に対する優れた追従性を保持しつつ、指紋の採取の際に、ベースフィルム層が風でなびいたり、よれたり、ダレて変形したりすることが防がれる。
【0010】
また、本発明の要旨とするところは、前記支持体層が、前記ベースフィルム層に着脱自在に設けられたことにある。
【0011】
かかる構成により、本発明の鑑識用シートは、指紋の付着した箇所に鑑識用シートを貼付する際には、支持体層を設けたまま行うことが可能となる一方、かかる貼付の後、粘着剤層への指紋の隆線の転写をするために、鑑識用シートを上から押圧する際には、かかる支持体層を除去した後に行うことが可能となる。また、押圧の後、指紋が転写された鑑識用シートを、指紋が付着した箇所から剥離する操作を、かかる支持体層を再度ベースフィルム層に設けた後に行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明の要旨とするところは、前記支持体層が、ポリエステル系樹脂を主成分として構成されることにある。
【0013】
かかる構成によって、本発明の鑑識用シートは、支持体層を光透過性の優れたものとすることが可能となる。
【0014】
また、本発明の要旨とするところは、前記ベースフィルム層が、シリコーン系樹脂を主成分として構成されることにある。
【0015】
かかる構成により、本発明の鑑識用シートは、ベースフィルム層の表面追従性がより優れたものとなる。
【0016】
また、本発明の要旨とするところは、前記粘着剤層が、ポリウレタン系接着剤を主成分として構成されることにある。
【0017】
かかる構成により、本発明の鑑識用シートの粘着剤層が、耐熱性、撥水性に優れたものとなる。
【0018】
また、本発明の要旨とするところは、前記粘着剤層が、シリコーン系接着剤を主成分として構成されることにある。
【0019】
かかる構成により、ベースフィルム層がシリコーン系樹脂を主成分として構成された場合の、ベースフィルム層と粘着剤層との接着性が優れたものとなる。
【0020】
また、本発明の要旨とするところは、前記粘着剤層の表面に、さらに台紙が設けられたことにある。
【0021】
かかる構成により、粘着剤層が台紙によって保護されることとなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の鑑識用シートは、鑑識用シートが備える粘着剤層が、微細な凹凸表面の凹部にも到達することとなる。このため、従来、指紋の隆線を十分に転写することが困難であった微細な凹凸面から構成される表面上からでも、指紋鑑識に耐え得る程度に、指紋の隆線を鑑識用シートに転写することができる。また、指紋採取後において、鑑識用シートが変形することが少ないため、鑑識用シートに転写された指紋が大きく変形することを防ぐことができる。
【0023】
また、本発明の鑑識用シートは、支持体層を備えることにより、鑑識用シートが風でなびいたり、よれたりすることが防がれる。このため、本発明の鑑識用シートは、指紋採取の際の操作性に優れたものとなる。また、指紋の付着した箇所に本発明の鑑識用シートを貼付する際に、鑑識用シートがダレたりして、変形した状態で貼付されることが防がれるため、鑑識用シートが変形した状態で指紋が鑑識用シートに転写されることを防ぐことができる。
【0024】
本発明の鑑識用シートは、支持体層がベースフィルム層に着脱自在に設けられることにより、指紋が付着した箇所に本発明の鑑識用シートを貼付する際には、ベースフィルム層に支持体層を設けたままで行うことにより、貼付の際にベースフィルム層が風でなびいたり、変形することが防がれるため、貼付の際の鑑識用シートの操作性を優れたものとすることができる。また、鑑識用シートの貼付後の押圧を、支持体層を除去した後に行うことにより、鑑識用シートは、優れた表面追従性を発揮することができる。そして、かかる押圧後、支持体層を再度ベースフィルム層に装着し、次いで、指紋の付着した箇所から鑑識用シートを剥離することにより、かかる剥離操作の際にベースフィルム層が変形して、鑑識用シートに転写された指紋が変形することを防ぐことができる。
【0025】
本発明の鑑識用シートは、支持体層、ベースフィルム層、粘着剤層を、それぞれ光透過性に優れたものから構成することが可能であるため、指紋の採取の際、鑑識用シートの粘着剤層表面の略中央に指紋の隆線を転写することが容易になる。また、指紋転写後は、支持体層側から指紋を明確に鑑識することが可能になる。
【0026】
本発明の鑑識用シートは、ベースフィルム層がシリコーン系樹脂を主成分として構成されることにより、ベースフィルム層の表面追従性がより優れたものとなる。このため、微細な凹凸構造から構成される表面からも、アルミの微粉末等で視覚化された指紋の隆線を、より高精度に鑑識用シートの粘着剤層に転写することができる。
【0027】
本発明の鑑識用シートは、粘着剤層がポリウレタン系接着剤を主成分として構成されることにより、耐熱性、撥水性に優れることとなる。このため、例えば、真夏に屋外に放置される等して、表面が高温となっている部材からでも、指紋を採取することができる。また、屋外等にあって、降雨等で表面が濡れている部材からでも、かかる表面から完全に水分を除去しなくとも、指紋を採取することができる。
【0028】
本発明の鑑識用シートは、粘着剤層がシリコーン系接着剤を主成分として構成されることにより、ベースフィルム層がシリコーン系樹脂を主成分として構成された場合において、かかる粘着剤層とベースフィルム層との接着性が優れたものとなるため、ベースフィルム層に粘着剤層を設ける際、ベースフィルム層表面に特別な処理を施すことが必須ではなくなる。このため、本発明の鑑識用シートの製造コストを低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明にかかる鑑識用シートについて、以下に詳しく説明する。
【0030】
図1は、本発明の鑑識用シートの第1実施形態を示す。図2は、本発明の鑑識用シートの第2実施形態を示す。図3は、本発明の鑑識用シートの第3実施形態を示す。
【0031】
図1に従えば、本発明の鑑識用シート10は、ベースフィルム層20と、このベースフィルム層20の片面に設けられた粘着剤層24とを含んで構成される。
【0032】
本発明にかかるベースフィルム層20、及び粘着剤層24は、光透過性に優れていることが好ましい。かかる構成により、本発明にかかる鑑識用シート10は、鑑識用シート10の片方の面に転写された指紋の形状を、鑑識用シート10のもう片方の面から観察して指紋鑑識を行うことが可能となる。
【0033】
本発明にかかるベースフィルム層20は、引張弾性率が4〜50MPaであることが好ましく、4〜10MPaであることがより好ましく、6〜8MPaであることがさらに好ましい。また、伸長回復率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0034】
ベースフィルム層20の引張弾性率が50MPaより大きい場合には、ベースフィルム層20の伸縮性が劣ることとなる。このため、本発明にかかる鑑識用シート10は、優れた表面追従性を発揮することが困難となって、微細な凹凸表面から鑑識用シート10へ、十分に指紋を転写することができない。また、ベースフィルム層20の引張弾性率が4MPa未満である場合には、ベースフィルム層20の自己支持性が劣ることとなって、鑑識用シート10が風でなびいたり、よれる等するおそれがある。このため、本発明にかかる鑑識用シート10は、指紋採取の際の操作性、作業性が悪くなる。また、ベースフィルム層20の伸長回復率が80%未満の場合には、鑑識用シート10への指紋の転写後、指紋の付着した箇所から鑑識用シート10を剥離する際、鑑識用シート10が延びて変形した場合に、延びたままの状態で維持され易くなるため、鑑識用シート10に転写された指紋の形状が変形して保持されるおそれがある。このため、本発明にかかる鑑識用シート10は、鑑識用シート10に転写された指紋を、好適に指紋鑑定に用いることができないおそれがある。
【0035】
本発明にかかるベースフィルム層20は、シリコーン系樹脂を主成分として構成されることが好ましい。かかる構成により、本発明にかかる鑑識用シート10は、指紋鑑識により好適に用いることができる。
【0036】
本発明にかかるベースフィルム層20の厚みは、0.1〜1mmであることが好ましく、0.2〜0.6mmであることがより好ましい。かかる構成により、本発明にかかる鑑識用シート10は、指紋を採取する際の操作性、及び指紋採取後の鑑識用シート10の保存性に優れたものとなる。かかる厚みが0.1mm未満の場合には、指紋採取の際にフィルムがよれたりして、操作性が悪くなる。また、指紋が付着した箇所への鑑識シートの貼付、及び、かかる箇所からの鑑識用シート10の剥離の際に、鑑識用シート10が伸長して薄肉化して、鑑識用シート10が破損するおそれがある。また、指紋採取の際に、鑑識用シート10に裂けが生じる場合がある。また、かかる厚みが1mmより厚い場合には、鑑識用シート10に採取された指紋をベースフィルム層20を通して観察する際に、指紋の形状が屈折するおそれがある。また、鑑識用シート10を保存する際に嵩張ることとなる。
【0037】
本発明にかかる粘着剤層24は、前述の通り、光透過性に優れていることが好ましい。また、付着した指紋を視覚化するために従来から一般的に用いられる、アルミ等の微粉末を吸着し得る程度の粘着力を有していることが好ましい。その一方、かかる粘着力は、粘着剤層24への指紋の転写後、指紋が付着した箇所から鑑識用シート10を剥離する際に、かかる箇所の塗装の剥離等、原状破損が生じない程度の粘着力であることが好ましい。本発明にかかる粘着剤層24は、かかる性質を併せ有する接着剤から構成されるものであれば、特に限定されるものではなく、具体的には、かかる粘着剤層24は、ゼラチンやポリウレタン系接着剤等、従来の鑑識用シートの粘着剤層を構成するために用いられる接着剤のみならず、エポキシ樹脂系接着剤やシリコーン系接着剤から構成されてもよい。また、これらの接着剤を二以上選択して構成される接着剤から構成されてもよい。
【0038】
なお、かかる粘着剤層24は、ポリウレタン系接着剤を含んで構成されることが好ましい。かかる構成により、本発明にかかる粘着剤層24は、耐熱性、撥水性に優れるものとなる。このため、本発明にかかる鑑識用シート10は、表面が高温を有していたり、あるいは表面が水で濡れている箇所からでも、好適に指紋を採取することができる。
【0039】
また、ベースフィルム層20が、シリコーン系樹脂を含んで構成される場合には、かかる粘着剤層24は、シリコーン系接着剤を含んで構成されてもよい。かかる構成により、本発明にかかる粘着剤層24は、耐熱性に優れるものとなるため、本発明にかかる鑑識用シート10は、表面が高温を有している箇所からでも、好適に指紋を採取することができる。また、ベースフィルム層20と粘着剤層24との接着性が優れるものとなって、ベースフィルム層20の表面に粘着剤層24を設ける際に、ベースフィルム層20の表面にコロナ処理やプラズマ処理等の特別な処理を施すことが必要なくなるため、鑑識用シート10の製造コストを低く抑えることができる。
【0040】
本発明にかかる粘着剤層24は、その厚みが0.05〜0.5mmであることが好ましく、0.05〜0.2mmであることがより好ましい。かかる構成により、本発明にかかる鑑識用シート10は、優れた表面追従性を保持しつつ、十分な指紋転写能力を発揮することができる。かかる厚みが0.05mm未満では、本発明にかかる鑑識用シート10を凹凸面や湾曲面に貼付した際に、鑑識用シート10が伸長して粘着剤層24が薄肉化して、粘着力が低下する場合がある。また、かかる厚みが0.5mmより厚い場合には、本発明にかかる鑑識用シート10の、優れた表面追従性を維持できないおそれがある。
【0041】
以上、本発明の鑑識用シート10の実施態様を詳述したが、本発明は上述の実施態様に限定されるものではなく、その他の態様でも実施しうるものである。
【0042】
本発明にかかるベースフィルム層20は、シリコーン系樹脂を含んで構成される態様に限られるものではなく、引張弾性率が4〜50MPaで、伸長回復率が80%以上を示すものであれば、いずれの樹脂を含んで構成されてもよい。具体的には、ポリエステル系エラストマーやポリオレフィン系エラストマーを含んで構成される態様を挙げることができる。また、天然ゴムや合成ゴムを含んで構成されてもよい。なお、いずれの場合にあっても、ベースフィルム層20は、前述の通り、光透過性に優れていることが好ましい。
【0043】
また、図2に従えば、本発明にかかる鑑識用シート10は、粘着剤層24が備えられたベースフィルム層20のもう片方の面に、支持体層28が備えられて構成されてもよい。かかる構成により、本発明にかかる鑑識用シート10は、自己支持性に優れたものとなるため、指紋の採取の際に、ベースフィルム層20が風でなびいたり、よれたり、ダレて変形したりすることが防がれて、その操作を円滑に行うことができる。特に、指紋採取に熟練した技術を有していない者にも、本発明にかかる鑑識用シート10を用いた指紋採取を的確に行うことを可能にする。
【0044】
本発明にかかる支持体層28は、引張弾性率が100〜300MPaであることが好ましく、120〜200MPaであることがより好ましく、130〜150MPaであることがより好ましい。かかる構成により、支持体層28がベースフィルム層20の優れた表面追従性を抑制することが防がれるため、本発明にかかる鑑識用シート10は、優れた操作性と、優れた表面追従性とを併せ有することができる。
【0045】
本発明にかかる支持体層28は、厚みが0.02〜0.1mmであることが好ましく、0.03〜0.08mmであることがより好ましい。かかる構成により、本発明にかかる鑑識用シート10は、指紋を採取する際の操作性、作業性を優れたものとすることができるのみならず、指紋採取後の鑑識用シート10の保存性にも優れたものとすることができる。かかる厚みが0.02mm未満の場合には、本発明にかかる鑑識用シート10に、十分な自己支持性を付与することができず、指紋採取の際にベースフィルム層20がよれたりすることを十分に防ぐことができない。また、指紋が付着した箇所への鑑識シートの貼付、及び、かかる箇所からの鑑識用シート10の剥離の際に、鑑識用シート10が伸長して薄肉化して、鑑識用シート10が破損することを防ぐことができないおそれがある。また、かかる厚みが0.1mmより厚い場合には、鑑識用シート10の優れた操作性、作業性、及び指紋転写能力を阻害するおそれがある。また、鑑識用シート10を保存する際に嵩張ることとなる。
【0046】
本発明にかかる支持体層28は、引張弾性率が100〜300MPaを有するものであれば、いずれの部材から構成されてもよく、具体的には、シリコーン系樹脂やポリエステルやポリオレフィンを含んで構成される態様を挙げることができる。なお、かかる支持体層28は、粘着剤層24に転写された指紋の隆線が、支持体層28及びベースフィルム層20を通して観察できる程度に、光透過性に優れることが好ましい。
【0047】
なお、本発明にかかる支持体層28は、ベースフィルム層20に着脱自在に備えられてもよい。かかる構成により、本発明にかかる鑑識用シート10は、指紋の付着した箇所に鑑識用シート10を貼付し、また、かかる箇所から剥離する際には支持体層28を装着して行い、また、指紋の付着した箇所に鑑識用シート10を貼付した後、粘着剤層24への指紋の隆線の転写を確実にするために鑑識用シート10を押圧する際には、かかる支持体層28を除去して行うことが可能となる。このため、本発明にかかる鑑識用シート10は、指紋の採取のための貼付操作、及び剥離操作の際には自己支持性を備えて、その操作性を優れたものとすることができる一方、押圧操作の際には本発明にかかる鑑識用シート10の優れた表面追従性を発揮させて、指紋鑑識に十分に耐え得る精度で指紋の採取を行うことができる。
【0048】
本発明にかかる支持体層28は、ベースフィルム層20に着脱自在に設けるために、接着剤層32を介して支持体層28をベースフィルム層20に貼付してもよい。なお、ベースフィルム層20が、シリコーン系樹脂を主成分として構成される場合には、かかる接着剤層32を設けなくとも、支持体層28はベースフィルム層20に着脱自在となる場合がある。
【0049】
本発明にかかる支持体層28が、ベースフィルム層20に着脱自在に備えられている場合には、かかる支持体層28は、いずれの部材から構成されてもよく、また、引張弾性率や膜厚についても、特に限定されるものではなく、具体的には、紙や不織布等から構成されてもよいが、鑑識用シート10表面の略中央に指紋を転写することが可能となるように、支持体層28は光透過性に優れることが好ましい。したがって、かかる接着剤層32は、具体的には、ポリエステルやポリオレフィンやウレタン系樹脂等を含んで構成されることがより好ましい。また、支持体層28の引張弾性率や、厚みについても、指紋採取の際の操作性、及び、指紋採取後の鑑識用シート10の保存性を考慮して、引張弾性率が150〜500MPa、厚みが0.05〜1mmであることが好ましい。
【0050】
図3に従えば、本発明にかかる鑑識用シート10は、粘着剤層24に台紙36が設けられて構成されることが好ましい。かかる構成により、本発明の鑑識用シート10は、指紋採取前において、粘着剤層24に指紋以外のゴミ等が付着することを防ぐことができる。また、鑑識用シート10をかかる台紙36から剥離して指紋を採取した後は、鑑識用シート10を再度かかる台紙36に貼付することによって、時間の経過と伴に粘着剤層24に転写された指紋の形状が消失することを防ぐことができる。
【0051】
なお、かかる台紙36の裏面には、予め、事件番号記入欄、指紋採取日時の記入欄、採取物件記入欄等、本発明にかかる鑑識用シート10を用いて採取した指紋を、犯人割り出しのために役立てることができる事項が記入できる記載欄が印刷されていることが好ましい。
【0052】
本発明にかかる鑑識用シート10の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、従来公知の方法でシリコーン系樹脂等からベースフィルム層20を構成し、次いで、かかるベースフィルム層20の片面に粘着剤を流延塗布し、粘着剤を硬化させることによって作製することもできる。
【0053】
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施しうるものである。
【0054】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
【0056】
シリコーン樹脂から、厚さ0.4mmのシリコーン樹脂フィルムを作製した。かかるシリコーン樹脂フィルムは、引張弾性率7MPa、伸長回復率90%であった。なお、かかるシリコーン樹脂フィルムについての引張弾性率、伸長回復率については、JIS K 6249に基づいて測定した。
【0057】
かかるシリコーン樹脂フィルムをベースフィルム層として用い、かかるベースフィルム層の片面に、ポリウレタン系接着剤からなる、厚さ0.1mmの粘着剤層を設けて、本発明にかかる鑑識用シートを得た。
【0058】
表面が微細な凹凸構造を有する、車のダッシュボード上に指紋を付着させ、かかる箇所にアルミの粉末を撒布して指紋の隆線を視覚化した後、かかる鑑識用シートを用いて指紋の転写(採取)を行った。その結果、本発明にかかる鑑識用シートは、その粘着剤層に、指紋鑑識に十分に耐え得る精度で、指紋の隆線を転写できることがわかった。
(実施例2)
【0059】
ポリエステル樹脂を用いて、厚さ0.05mmのポリエステル樹脂フィルムを作製した。かかるポリエステル樹脂フィルムは、引張弾性率130〜150MPaであった。なお、かかるポリエステル樹脂フィルムについての引張弾性率については、JIS C 2318に基づいて測定した。
【0060】
かかるポリエステル樹脂フィルムを、実施例1で作製した鑑識用シートにあって、粘着剤層が設けられていないベースフィルム層の片面に貼付して支持体層とし、本発明にかかる鑑識用シートを得た。
【0061】
かかる鑑識用シートを用いて、実施例1と同様にして、ダッシュボード上から指紋の転写(採取)を行った。なお、かかる指紋の採取は、鑑識用シートの貼付・剥離操作時は支持体層をベースフィルム層に設けたまま行い、鑑識用シート上からの押圧時には支持体層をベースフィルム層から除去して行った。その結果、本発明にかかる鑑識用シートは、実施例1の鑑識用シートと同様の指紋転写能力を有する上に、ベースフィルム層がヨレたりしないため、鑑識用シートの貼付・剥離の操作性、作業性が向上することが分かった。
(比較例1)
【0062】
JPシート(日東電工株式会社製)を用いて、実施例1と同様にて、ダッシュボード上から指紋の採取(転写)を行った。その結果、粘着剤層に転写された指紋の隆線は、斑模様となった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明にかかる鑑識用シートの第1実施形態を示す。
【図2】本発明にかかる鑑識用シートの第2実施形態を示す。
【図3】本発明にかかる鑑識用シートの第3実施形態を示す。
【符号の説明】
【0064】
10:鑑識用シート
20:ベースフィルム層
24:粘着剤層
28:支持体層
32:接着剤層
36:台紙


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルム層と、該ベースフィルム層の片面に設けられた粘着剤層とを備え、
前記ベースフィルム層が、引張弾性率4〜50MPa、伸長回復率90%以上を示す鑑識用シート。
【請求項2】
ベースフィルム層と、該ベースフィルム層の片面に設けられた粘着剤層と、該ベースフィルム層の他の片面に設けられた支持体層とを備え、
前記ベースフィルム層が、引張弾性率4〜50MPa、伸長回復率90%以上を示し、
前記支持体層が、引張弾性率100〜300MPaを示す鑑識用シート。
【請求項3】
前記支持体層が、前記ベースフィルム層に着脱自在に設けられた請求項2に記載の鑑識用シート。
【請求項4】
前記支持体層が、ポリエステル系樹脂を主成分として構成される請求項2又は3に記載の鑑識用シート。
【請求項5】
前記ベースフィルム層が、シリコーン系樹脂を主成分として構成される請求項1乃至4のいずれかに記載の鑑識用シート。
【請求項6】
前記粘着剤層が、ポリウレタン系接着剤を主成分として構成される請求項1乃至5のいずれかに記載の鑑識用シート。
【請求項7】
前記粘着剤層が、シリコーン系接着剤を主成分として構成される請求項1乃至5のいずれかに記載の鑑識用シート。
【請求項8】
前記粘着剤層の表面に、さらに台紙が設けられた請求項1乃至7のいずれかに記載の鑑識用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−8784(P2006−8784A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185723(P2004−185723)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【出願人】(594104043)
【Fターム(参考)】