説明

長尺樹脂フィルム処理装置およびロール冷却装置と、ロール冷却方法および長尺樹脂フィルムとロールの冷却方法

【課題】ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく加熱処理された長尺樹脂フィルムが斜行しない長尺樹脂フィルム処理装置等を提供すること。
【解決手段】巻出軸5に巻回された長尺樹脂フィルム11を上記方式により搬送して巻取軸6に巻取りかつ巻出軸と巻取軸間の搬送路上でフィルム11に対し減圧雰囲気下で加熱処理する装置であって、1組の上流側ロール7b・下流側ロール7c間の搬送路上に加熱手段が設けられ、加熱手段の搬送路下流側に位置する下流側ロール7cにロール冷却装置が付設されると共に、ロール冷却装置が、それぞれ冷却面を有する下側冷却ブロック13aと上側冷却ブロック13bとで構成された冷却装置本体と、冷却装置本体に設けられたフィルム搬入口14aとフィルム排出口14bを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール・トゥ・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムを減圧雰囲気下において加熱処理する長尺樹脂フィルムの処理装置に係り、特に、長尺樹脂フィルム処理装置に組み込まれかつ上記加熱処理された長尺樹脂フィルムと接触するロールを間接的に冷却するロール冷却装置と、ロール冷却方法および長尺樹脂フィルムとロールの冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長尺樹脂フィルムは、フレキシブル性を有し、容易に加工できることから、電子部品、光学部品、包装材料等の産業分野において広く用いられており、この長尺樹脂フィルム上に、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等の真空成膜法を適用して金属やその酸化物、窒化物、炭化物、有機物等の膜を形成する技術が古くから開発されている。
【0003】
また、近年、エレクトロニクス分野においては、利用される様々な材料で高密度化、高精細化が進み、高品質な材料が求められている。そして、長尺樹脂フィルムの種類にもよるが、長尺樹脂フィルム中には一般に0.01〜2質量%の水分が含まれ、また僅かながら種々の有機溶媒が含まれており、真空蒸着法、スパッタリング法等上述した真空成膜法を用いて金属やその酸化物等の膜を長尺樹脂フィルム上に成膜した場合、長尺樹脂フィルム中に含まれる水分や有機溶媒が長尺樹脂フィルム表面に拡散、脱離してコンタミネーション(contamination)を引き起こし、膜質に悪影響を及ぼすことがあった。
【0004】
このため、金属やその酸化物等を成膜する前に、長尺樹脂フィルムを加熱乾燥して長尺樹脂フィルム中に含まれる水分や有機溶媒を除去する必要あった。加熱乾燥の条件は、長尺樹脂フィルムの材質や膜厚、長尺樹脂フィルム中に存在する有機溶媒の種類等によって異なる。例えば、長尺樹脂フィルムがポリイミド系フィルムの場合、500℃程度に設定されたヒーターで加熱し、加熱時間を調整する等の対応がとられ、加熱された長尺樹脂フィルムの温度は300℃程度となる。
【0005】
ところで、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成するロールに上記加熱された長尺樹脂フィルムが接触するとロールの温度が徐々に上昇し、熱膨張によりロールの軸が曲がって長尺樹脂フィルムが斜行してしまい、長尺樹脂フィルムの幅方向端部側に傷が付き易い等の問題が存在した。この場合、搬送手段を構成するロールに冷却機能を具備させることで、上記長尺樹脂フィルムが斜行する等の問題を回避することは可能である。そして、冷却機能を備えたロールとして、ロール内部に水や有機溶媒等の冷媒を循環させた冷却ロールが知られている。
【0006】
しかし、この種の冷却ロールは、その軸受けにロータリージョイントを用いている関係上、回転抵抗があることから動力を有することが一般的である。従って、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にしてしまう問題があり、制御の負担から、冷却ロールを増やさないことが望まれている。
【0007】
このような技術的背景の下、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、加熱処理された長尺樹脂フィルムが斜行することのない長尺樹脂フィルム処理装置が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題に着目してなされたもので、その課題とするところは、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、減圧雰囲気下で加熱処理された長尺樹脂フィルムが斜行することのない長尺樹脂フィルム処理装置およびロール冷却装置と、ロール冷却方法および長尺樹脂フィルムとロールの冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、請求項1に係る発明は、
減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群と、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備える長尺樹脂フィルム処理装置において、
上記ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に加熱手段が設けられ、かつ、加熱手段の搬送路下流側に位置する上記下流側ロールにロール冷却装置が付設されていると共に、このロール冷却装置が、長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し上記下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、上記冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備することを特徴とし、
請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置において、
上記加熱処理が、長尺樹脂フィルムの乾燥処理であることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置において、
上記加熱処理が、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面に対するプラズマ処理若しくはイオンビーム処理であることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置において、
上記ロール冷却装置の搬送路下流側に、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法またはCVD法から選択された長尺樹脂フィルムのコーティング手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項5に係る発明は、
減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群と、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備え、かつ、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に上記加熱手段が設けられた長尺樹脂フィルム処理装置に組み込まれるロール冷却装置において、
加熱手段の搬送路下流側に位置する上記下流側ロールに付設されると共に、長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し上記下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、上記冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を有することを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項5に記載の発明に係るロール冷却装置において、
上記隙間を介し下流側ロール外周面と対向する冷却装置本体の上記冷却面並びに下流側ロール外周面の放射率が、それぞれ0.60以上であることを特徴とする。
【0011】
次に、請求項7に係る発明は、
減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群と、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備え、かつ、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に上記加熱手段が設けられた長尺樹脂フィルム処理装置のロール冷却方法において、
長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し上記下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、上記冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備するロール冷却装置を加熱手段の搬送路下流側に位置する上記下流側ロールに付設して、加熱手段が設けられた長尺樹脂フィルム処理装置のロールを冷却することを特徴とし、
請求項8に係る発明は、
請求項7に記載の発明に係るロール冷却方法において、
上記隙間を介し下流側ロール外周面と対向する冷却装置本体の上記冷却面並びに下流側ロール外周面の放射率が、それぞれ0.60以上であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項9に係る発明は、
減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群と、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備え、かつ、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に上記加熱手段が設けられた長尺樹脂フィルム処理装置における、上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムと加熱手段と隣り合う搬送路下流側のロールを冷却する方法において、
長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し上記下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、上記冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備するロール冷却装置を加熱手段の搬送路下流側に位置する上記下流側ロールに付設して、上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムと加熱手段と隣り合う搬送路下流側の下流側ロールを冷却することを特徴とし、
請求項10に係る発明は、
請求項9に記載の発明に係る長尺樹脂フィルムとロールの冷却方法において、
上記隙間を介し下流側ロール外周面と対向する冷却装置本体の上記冷却面並びに下流側ロール外周面の放射率が、それぞれ0.60以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜4に記載の発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置によれば、
ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に加熱手段が設けられ、かつ、加熱手段の搬送路下流側に位置する上記下流側ロールにロール冷却装置が付設されているため、加熱処理された長尺樹脂フィルムが上記下流側ロールに接触してもロール冷却装置の作用によりロールの温度が上昇し難いことから、ロールの軸が曲がって長尺樹脂フィルムを斜行搬送させ、あるいは、長尺樹脂フィルムの斜行搬送に起因して長尺樹脂フィルムの幅方向端部側に傷が付いてしまう等の問題を解消することが可能となる。
【0014】
更に、上記ロール冷却装置が、長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備し、冷却装置本体の上記冷却面により下流側ロール表面からの放射熱を吸収させて間接的にロールを冷却する構造になっているため、ロール内部に冷媒を循環させるための装置が追加された上記冷却ロールの構造と相違し、上述した動力のための駆動装置を冷却ロールに追加する必要が無いことから、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、加熱手段の搬送路下流側に位置する下流側ロールを減圧雰囲気下において冷却することが可能となる。
【0015】
また、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に加熱手段が設けられた上記長尺樹脂フィルム処理装置に組み込まれる請求項5〜6に記載の発明に係るロール冷却装置においても、
長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備し、冷却装置本体の上記冷却面により下流側ロール表面からの放射熱を吸収させて間接的にロールを冷却する構造になっているため、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、加熱手段の搬送路下流側に位置する下流側ロールを減圧雰囲気下において冷却させることが可能となる。
【0016】
次に、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に加熱手段が設けられた長尺樹脂フィルム処理装置の請求項7〜8に記載の発明に係るロール冷却方法においても、
長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備するロール冷却装置を加熱手段の搬送路下流側に位置する下流側ロールに付設し、冷却装置本体の上記冷却面により下流側ロール表面からの放射熱を吸収させて間接的にロールを冷却する方法のため、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、加熱手段の搬送路下流側に位置する下流側ロールを減圧雰囲気下において冷却させることが可能となる。
【0017】
また、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に加熱手段が設けられた長尺樹脂フィルム処理装置における加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムと加熱手段と隣り合う搬送路下流側のロールを冷却する請求項9〜10に記載の発明に係る長尺樹脂フィルムとロールの冷却方法においても、
長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備するロール冷却装置を加熱手段の搬送路下流側に位置する下流側ロールに付設し、冷却装置本体の上記冷却面により上記隙間を通過する長尺樹脂フィルムからの放射熱と下流側ロール表面からの放射熱を吸収させて間接的に冷却する方法のため、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、長尺樹脂フィルムと下流側ロールとを減圧雰囲気下において冷却させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ロール冷却装置が組み込まれた本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置の構成説明図。
【図2】図1に示された長尺樹脂フィルム処理装置のロール冷却装置を含む部分断面図。
【図3】スパッタリング成膜装置のキャンロールに付設された参考例に係る冷却装置の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置は、減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群と、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備え、かつ、この加熱手段が上記ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に設けられると共に、加熱手段の搬送路下流側に位置する上記下流側ロールにロール冷却装置が付設されていることを特徴とするものである。
【0021】
そして、本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置によれば、加熱処理された長尺樹脂フィルムが上記下流側ロールに接触しても、組み込まれたロール冷却装置の作用により長尺樹脂フィルムと下流側ロールの双方が冷却されてロールの温度が上昇し難いことから、ロールの軸が曲がって長尺樹脂フィルムを斜行搬送させてしまう問題、あるいは、長尺樹脂フィルムの斜行搬送に起因して長尺樹脂フィルムの幅方向端部側に傷が付いてしまう問題を解消できる効果を有する。例えば、長尺樹脂フィルムの長さが500m以上でかつロール冷却装置が設けられていない場合、加熱された長尺樹脂フィルムによりロールが継続して加熱されることになり、ロールの温度が上昇してロールが熱膨張し、長尺樹脂フィルムを斜行搬送させてしまう懸念があるが、本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置にはロール冷却装置が組み込まれているので、ロールと長尺樹脂フィルム双方の冷却が可能となって上記懸念が解消され、かつ、ロールにかかる熱負荷も抑制されることから長時間に亘って安定した長尺樹脂フィルムの処理が可能となる。
【0022】
また、本発明の長尺樹脂フィルム処理装置に組み込まれるロール冷却装置は、長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し上記下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、上記冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備することを特徴とするものである。尚、冷却装置本体に設けられたフィルム搬入口とフィルム排出口は、搬送される長尺樹脂フィルムの幅方向に開口して長尺樹脂フィルムの進入、通過ができる寸法に設定されている。
【0023】
そして、このロール冷却装置によれば、冷却装置本体の上記冷却面により下流側ロール表面からの放射熱を吸収させて間接的にロールを冷却する構造になっており、ロール内部に冷媒を循環させるための装置が追加された従来の冷却ロールの構造と相違し、動力のための駆動装置を冷却ロールに追加する必要が無いため、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、加熱手段の搬送路下流側に位置する下流側ロールを減圧雰囲気下において冷却できる効果を有する。尚、減圧雰囲気下にあるロールの冷却は気体の対流による冷却が困難なため、上述したように冷却装置本体の冷却面とロールとの間の放射熱で可能となる。
【0024】
次に、本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理(加熱乾燥)装置について説明する。まず、この処理装置は、図1に示すように真空チャンバー(減圧室)4と、この真空チャンバー4内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルム11を巻出す巻出軸5と、真空チャンバー4内に設けられ上記巻出軸5から巻出された長尺樹脂フィルム11を巻取る巻取軸6と、上記巻出軸5と巻取軸6間の搬送路上に設けられかつロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール7a、7b、7c、7dと、隣り合う1組の上流側ロール7b・下流側ロール7c間の搬送路上に設けられた加熱手段を備え、かつ、下流側ロール7cにはロール冷却装置が付設されている。また、上記加熱手段は、隙間を介し対向して配置された1組のヒーター9a、9bにより構成され、上記ロール冷却装置は、それぞれ断面略円弧形状の面(円弧形状面)を有し、下流側ロール7c外周面を覆うように配置された上側冷却ブロック13bと下側冷却ブロック13aから成る冷却装置本体により構成されている。また、上側冷却ブロック13bと下側冷却ブロック13aのフィルム搬入側端部とフィルム排出側端部にそれぞれ隙間が設けられてフィルム搬入口14aとフィルム排出口14bが形成されており、かつ、長尺樹脂フィルム11が通過できる隙間を介し上側冷却ブロック13bと下側冷却ブロック13aの各円弧形状面により下流側ロール7cが覆われて、各円弧形状面が下流側ロール7c表面からの放射熱を吸収する冷却面をそれぞれ構成している。
【0025】
また、上記真空チャンバー4内は、真空チャンバー4に取り付けられたバルブ3を介し真空ポンプ1、2により排気されて減圧雰囲気となっている。尚、真空チャンバー4の形状は任意であり、10-4Pa〜10-1Paの減圧雰囲気を保持できればよい。
【0026】
そして、本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置において、上記長尺樹脂フィルム11は巻出軸5から巻出され、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成するロール7a、7bに沿って搬送されると共に、上流側ロール7bから送り出されて加熱手段であるヒーター9a、9bにより加熱乾燥される。加熱乾燥処理後の長尺樹脂フィルム11は、連続して(すぐに)上側冷却ブロック13bと下側冷却ブロック13aから成る冷却装置本体のフィルム搬入口14aからロール冷却装置内に搬入され、下流側ロール7c外周面に接触した後、上側冷却ブロック13bと下側冷却ブロック13aから成る冷却装置本体のフィルム排出口14bからロール冷却装置の外に排出され、かつ、ロール7dを介して巻取軸6に巻き取られる。ここで、加熱乾燥処理された長尺樹脂フィルム11がロール冷却装置内に搬入されると、長尺樹脂フィルム11と下流側ロール7cからの放射熱は上記長尺樹脂フィルム11を介して上側冷却ブロック13bの円弧形状面(冷却面)により吸収され、また、下側冷却ブロック13aの円弧形状面に対向する下流側ロール7cからの放射熱も下側冷却ブロック13aの円弧形状面(冷却面)により吸収されて間接的に冷却され、この結果、下流側ロール7cの温度が上昇し難いため、ロールの軸が曲がって長尺樹脂フィルム11を斜行搬送させ、あるいは、長尺樹脂フィルム11の斜行搬送に起因して長尺樹脂フィルム11の幅方向端部側に傷が付いてしまう等の弊害が解消される。
【0027】
ここで、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成するロール7a、ロール7b、ロール7cおよびロール7dはいずれも動力を有しない従動ロールである。また、隣り合う1組の上流側ロール7bおよび下流側ロール7cは、長尺樹脂フィルム11が、ヒーター9a、9bの隙間を通過できるような位置関係が維持されるように設置されている。更に、上記加熱手段としてのヒーター9a、9bには公知の赤外線ヒーターが適用できるが、長尺樹脂フィルム11を加熱できれば赤外線ヒーター以外の公知の加熱手段を用いることができる。また、ヒーター9aの表面に熱電対10を付設し、ヒーター9aの温度が一定になるように制御することもできる。勿論ヒーター9bにも熱電対を付設することができる。更に、ヒーター9a、9bの隙間から搬出された長尺樹脂フィルム11の表面を放射温度計(図示せず)で測定し、上記熱電対の測定値と合わせてヒーターの制御を行うことも可能である。ヒーター制御には、公知のPID制御等を用いることができる。
【0028】
ところで、本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置において、加熱手段における温度条件や搬送条件は長尺樹脂フィルムの種類によって異なるため、使用する長尺樹脂フィルムに対応させて上記条件を決めておく必要がある。
【0029】
上記ヒーター9a、9bの寸法は、長尺樹脂フィルム11の種類、巾寸法、搬送速度等に応じて乾燥できるように設定すればよい。すなわち、ヒーター9a、9bにおける長尺樹脂フィルム11の長手方向の長さは、長尺樹脂フィルム11に対しヒーター9a、9bの隙間を通過する間に長尺樹脂フィルム11が水等を除去できる熱量を与えられる長さがあればよい。また、ヒーター9a、9bにおける長尺樹脂フィルム11の巾方向の長さは、長尺樹脂フィルム11の巾方向全体を覆うことができれば、長尺樹脂フィルム11の巾方向での乾燥ムラを防ぐことができる。ヒーター9a、9bと長尺樹脂フィルム11の配置関係は、互いに平行となるようにすることが好ましい。尚、ヒーター9a、9bと長尺樹脂フィルム11間における放射熱のやり取りが可能となる距離については、一般的な長尺樹脂フィルムにおける処理装置の寸法の範囲に設定するのであれば影響は少ない。ヒーター9a、9bと長尺樹脂フィルム11間の距離をあえて定めるのであれば10cm以内である。
【0030】
また、効率良く長尺樹脂フィルム中の水分や種々の有機溶媒を除去するために、減圧雰囲気下において加熱処理を行うことを要する。これは、大気圧下に較べて減圧雰囲気下では水や有機溶媒の沸点が降下するため、長尺樹脂フィルムの温度上昇が同じでも速く沸点に到達し、しかも、減圧雰囲気下では長尺樹脂フィルム表面近傍に存在する気体が希薄であるため、揮発した水や有機溶媒が再び長尺樹脂フィルム中に拡散する量が極めて少なくなる。乾燥での減圧雰囲気は上述した10-4Pa〜10-1Paの範囲が望ましい。尚、加熱乾燥前後の長尺樹脂フィルムの水分量や有機溶媒量の変化は、公知の熱分析方法や化学分析方法により知ることができ、真空乾燥装置の操業上の参考とすることができる。
【0031】
次に、下流側ロール7cが冷却される機構についてより詳細に説明する。まず、加熱乾燥処理された長尺樹脂フィルム11は、下流側ロール7cに接触しこのロールを加熱する。下流側ロール7cは加熱されてその温度が上昇し、温度上昇に起因して膨張し、ロールの軸が曲がり長尺樹脂フィルム11の搬送を斜行させる。結果的には、斜行搬送のため長尺樹脂フィルム11の幅方向両端部側に傷が付き、あるいは、巻取軸6で長尺樹脂フィルム11を巻き取る際に巻きずれが生じることもある。しかし、この長尺樹脂フィルム処理装置には上述したロール冷却装置が組み込まれているため、下流側ロール7cの温度上昇を抑制することができる。
【0032】
図2は、長尺樹脂フィルム処理装置に組み込まれたロール冷却装置の一例を示し、上述した冷却装置本体を構成する上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aと下流側ロール7cとの配置関係を示している。そして、下流側ロール7cと上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aは間隙を介し対向配置されており、下流側ロール7c外周面と上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aの各円弧形状面(冷却面)との間で放射熱の放出若しくは吸収が行なわれる。すなわち、加熱乾燥処理された長尺樹脂フィルム11との接触により加熱された下流側ロール7cは、熱エネルギーを上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aの各円弧形状面(冷却面)へ放射熱として放出し、この放射熱を上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aの各円弧形状面(冷却面)が吸収する。
【0033】
上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aと下流側ロール7cの熱の放射を検討すると、減圧雰囲気下であるため、雰囲気の物性による伝熱、対流による伝熱が著しく低下し、放射による伝熱が支配的になってくる。このため、減圧雰囲気下における冷却は放射による伝熱を考慮する必要がある。上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aの下流側ロール7cに対向した面、すなわち、上記円弧形状面(冷却面)は、放射率の高い材料で構成することが望ましく、また、上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13a自体は熱伝導率の高い物質で構成することが望ましい。
【0034】
そして、上記上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aの熱伝導率は、40Wm-1-1以上が望ましい。かかる熱伝導率の物質は、鉄、アルミニウム、銅、銀等がある。各冷却ブロックの熱伝導率を高めることで、冷却ブロックの冷却効率を高めることができる。
【0035】
また、上記下流側ロール7c外周面とこれに対向する上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aの各円弧形状面(冷却面)の放射率は0.6以上であることが望ましく、より望ましくは放射率が0.8以上である。例えば、放射率0.8以上を実現するには、黒色クロムめっき処理、黒色アルマイト処理、カーボンブラック被膜の形成等公知の方法により達成することができる。尚、上記放射率の測定方法には、公知の放射率測定計を用いることができる。
【0036】
更に、上記上側冷却ブロック13bと下側冷却ブロック13aとで構成される冷却装置本体(ロール冷却装置)の内部では、上記下流側ロール7cと共にフィルム搬入口14aから搬入された長尺樹脂フィルム11も上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aの各円弧形状面(冷却面)との間で放射熱の放出が行なわれる。尚、長尺樹脂フィルム11にポリイミドフィルムを用いた場合、ポリイミドフィルムの放射率は約0.7である。
【0037】
次に、本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置において、上記上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aは、下流側ロール7cに対向する円弧形状面(冷却面)とは反対側である裏面または冷却ブロックの内部に冷媒が循環する冷却管(図示せず)を備えている。冷却管は、上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aを支持する支持材(図示せず)と共に、真空チャンバー4の外部から冷媒を供給する冷媒供給機構(図示せず)に接続されている。また、冷媒としては、水、有機溶媒、気体等適宜選択できる。
【0038】
また、上記下流側ロール7cに対する上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aの寸法については、下流側ロール7c外周面を覆うことができる寸法であれば任意である。また、長尺樹脂フィルム11の巾寸法より下流側ロール7cの軸方向寸法は長く設定されており、ロール冷却装置内に搬入される長尺樹脂フィルム11の巾方向全体が上記上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aにより覆われて長尺樹脂フィルム11の巾方向での冷却ムラが防止されるようになっている。また、上記下流側ロール7cと上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aとの距離(隙間)については、長尺樹脂フィルム11が通過できることを条件に、上述したヒーター9a、9bと長尺樹脂フィルム11間の距離設定と同様の理由から任意に設定することができる。
【0039】
更に、上記下流側ロール7cの表面温度を測定するため、図1と図2に示すように放射温度計15を設けてもよい。そして、この放射温度計15は真空チャンバー4の外側に配置され、フッ化バリウム製窓16を通して真空チャンバー4内部の下流側ロール7c表面の温度を測定する。また、上側冷却ブロック13bには、放射温度計15で温度測定が可能となるように、図2に示すように覗き穴18が設けられており、更に、上記下流側ロール7cの温度測定がなされる箇所には、図2に示すように放射率の高い黒体テープ17が貼付されて温度測定を容易にしている。
【0040】
ここで、図1に示す本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置において、隣り合う1組の上流側ロール7bと下流側ロール7c間の距離を2m以内にすることが好ましい。尚、ロール間距離とは、長尺樹脂フィルム11が上流側ロール7bの表面から離れて下流側ロール7cの表面に接するまでの距離である。上流側ロール7bと下流側ロール7c間の距離を規定する理由は、長尺樹脂フィルム11の搬送時における張力との関係もあるが、熱で軟化した長尺樹脂フィルム11に張力が加わることによる変形を防止するためである。また、図1の長尺樹脂フィルム処理装置においては、上流側ロール7bと下流側ロール7c間の搬送路上に加熱手段が設けられ、加熱手段を通過する長尺樹脂フィルム11の搬送方向が水平方向に設定されているが、加熱手段を通過する長尺樹脂フィルム11の搬送方向を垂直方向に設定してもよい。加熱手段を通過する長尺樹脂フィルム11の搬送方向が垂直方向に設定された場合、加熱乾燥による長尺樹脂フィルム11の軟化に際し、重力による長尺樹脂フィルム11の変形を防止することができる。そして、隣り合う1組の上流側ロール7bと下流側ロール7c間のより望ましい距離については、上流側ロール7bと下流側ロール7cが垂直方向に配置されて加熱手段を通過する長尺樹脂フィルム11の搬送方向が垂直方向に設定される場合には、軟化した長尺樹脂フィルム11の重力による変形が起こり難いため2m以内、上流側ロール7bと下流側ロール7cが水平方向に配置されて加熱手段を通過する長尺樹脂フィルム11の搬送方向が水平方向に設定される(図1の場合)場合には、軟化した長尺樹脂フィルム11の重力による変形が起こり易いため1m以内である。
【0041】
次に、本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置で処理されるのに適した長尺樹脂フィルムは特に限定されず、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンテレナフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンテレフタレート系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等公知の長尺樹脂フィルムが挙げられる。
【0042】
また、本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置の加熱処理として、長尺樹脂フィルムの加熱乾燥処理が例示されているが、この加熱処理については、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面に対するプラズマ処理であってもよい。例えば、アルゴンと酸素の混合ガスまたはアルゴンと窒素の混合ガスによる減圧雰囲気下において放電を行うことにより、酸素プラズマまたは窒素プラズマを発生させて長尺樹脂フィルムの表面処理を施すことができる。かかる表面処理を行うのは、その後における金属等の成膜工程での長尺樹脂フィルムと金属等膜の密着性を向上させるためである。プラズマ処理は、次工程の膜の形成に応じて、長尺樹脂フィルムの一方の面または両面に施すことができる。プラズマは酸素や窒素に限定されず適宜選択することができる。プラズマ処理を行うと、長尺樹脂フィルムは加熱される。長尺樹脂フィルムの搬送条件やプラズマ処理条件で異なるが、プラズマ処理を行うと長尺樹脂フィルムの温度は200℃以上になることがある。そこで、プラズマ処理の後にも長尺樹脂フィルムの冷却が必要になる。尚、長尺樹脂フィルムにプラズマ処理を施す場合、図1に示す長尺樹脂フィルム処理装置において、ヒーター9a、9bの代わりに公知の放電電極を設け、放電電極に600V〜4000Vを印加することで可能となる。プラズマ処理の際の雰囲気圧力は0.1Pa〜100Paの範囲で適宜選択できる。更に、本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置の加熱処理については、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面に対するイオンビーム処理であってもよい。長尺樹脂フィルム表面にイオンビームを照射することで上述したプラズマ処理と同様の効果が得られる。イオンビーム処理を行うには、イオンビーム照射を行うイオン源に強い磁場を印加した磁場ギャップ部でプラズマ放電を発生させ、プラズマ中の陽イオンを陽極による電界でイオンビームとして放出すればよい。
【0043】
また、本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置においては、下流側ロールに付設されたロール冷却装置の搬送路下流側に、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法またはCVD法から選択された長尺樹脂フィルムのコーティング手段が設けられていてもよい。
【0044】
更に、下流側ロールに付設された上記ロール冷却装置については、この冷却装置に改変を加えることで、例えば、有機溶媒等の冷媒が内部に循環しているスパッタリング成膜装置におけるキャンロールへの転用も可能である。図3は、スパッタリング成膜装置のキャンロールに転用(付設)された参考例に係る冷却装置の概念図である。キャンロール22の内部には、スパッタリング成膜装置における真空チャンバー外部から供給される冷媒が循環し、かつ、真空チャンバー外部から動力が伝達されて回転する。キャンロール22の軸受け(図示せず)にはロータリージョイントが備わる。キャンロール22表面には長尺樹脂フィルム11が接触している。キャンロール22に対向してスパッタリングカソード23が配置され、長尺樹脂フィルム11に対してスパッタリング法によるコーティング処理が施される。更に、キャンロール22表面の長尺樹脂フィルム11が接触していない面には改変された冷却装置21が間隙を介し対向して配置され、かつ、冷却装置21の内部には冷媒が供給される。そして、キャンロール22内部に循環する冷媒の作用に加えて、改変された上記冷却装置21の作用によりキャンロール22の冷却効率が向上される。
【0045】
尚、上述した下流側ロール7cやキャンロール22の放射熱による冷却効果を高めるため、これ等ロール側面の厚さを薄くしあるいは熱容量の小さい材料を選択する等して熱容量を小さくすることも可能である。下流側ロール7cやキャンロール22の熱容量を小さくすると各ロールと冷却面間の熱放射によるロールの冷却効果が向上する。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0047】
まず、図1に示す長尺樹脂フィルム処理装置を用いて長尺樹脂フィルムの加熱乾燥処理を実施した。ヒーター9aとヒーター9bの長さ(長尺樹脂フィルム11における搬送方向の長さ)寸法を50cmとし、かつ、ヒーター9a、9bと長尺樹脂フィルム11との距離を5cmとした。また、下流側ロール7c外周面と、上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aの各円弧形状面(冷却面)との隙間を2mmとした。また、上側冷却ブロック13b並びに下側冷却ブロック13aはアルミニウム製の材料で構成され、各円弧形状面(冷却面)は黒色アルマイト処理されてその放射率は0.95であることが放射率計で確認されている。また、上側冷却ブロック13bと下側冷却ブロック13aにはそれぞれ冷却管が組み込まれ、各冷却管には真空チャンバー4外部から供給される温度25℃の冷却水を供給し循環させた。
【0048】
また、下流側ロール7cの端部に最小限量の黒体テープ(放射率0.95)17を貼り付け、この部分の温度を放射温度計15で測定して下流側ロール7cの温度とした。
【0049】
尚、長尺樹脂フィルム11の斜行搬送の有無や巻ずれは目視により確認した。また、加熱乾燥処理終了後、長尺樹脂フィルム11を取り外し、下流側ロール7c両端部と中央部のそれぞれにダイヤルゲージを取り付け、その回転軸19における偏芯の程度をダイヤルゲージで測定した。ここで、加熱乾燥処理を施す前の上記回転軸19の偏芯の程度は、ダイヤルゲージの測定値で40μm以下であった。
[実施例1]
長尺樹脂フィルム11として、厚さ38μm、幅500mmのポリイミド系フィルム(東レ・デュポン社製 商品名カプトン)を巻出軸5に長さ750m取り付けた。また、下流側ロール7cはアルミニウム製の材料で構成され、その外周面は黒色アルマイト処理されてその放射率は0.95であった。
【0050】
そして、真空チャンバー4内を10-2Paまで減圧した後、上記ポリイミド系フィルムを4m/分の条件で搬送した。一方、ヒーター9a表面に取り付けられた熱電対の温度が450℃になるよう温度制御し、この条件下においてポリイミド系フィルムを上記ヒーター9a、9bの隙間を通過させて加熱乾燥し、続いて、上側冷却ブロック13bと下側冷却ブロック13aで覆われた下流側ロール7cに接触させながら加熱乾燥処理されたポリイミド系フィルムを巻取軸6に巻き取った。更に、真空チャンバー4を大気圧に戻し、かつ、フィルムを交換した後、同一条件で2本目の加熱処理を行った。
【0051】
1本目と2本目のいずれも加熱乾燥処理されたポリイミド系フィルムが斜行して巻きずれることはなく、かつ、下流側ロール7c近傍に付設された表面電位計12でポリイミド系フィルムの表面電位を測定したところ±1kv以下であり(ポリイミド系フィルムが下流側ロール7cと接触した際に生ずる摩擦静電気量が少ないことを意味する)、長さ750mのポリイミド系フィルムを安定して加熱乾燥処理することができた。尚、500m処理以降の下流側ロール7cの温度は100℃であった。更に、2本目の加熱処理終了後、下流側ロール7cにおける回転軸19の偏芯の程度を測定したところ40μm以下であり、加熱処理前と差はなかった。
[実施例2]
長尺樹脂フィルム11として、厚さ35μm、幅500mmのポリイミド系フィルム(宇部興産社製 商品名ユーピレックス)を巻出軸5に長さ750m取り付けた。
【0052】
そして、真空チャンバー4内を10-2Paまで減圧した後、上記ポリイミド系フィルムを4m/分の条件で搬送した。一方、ヒーター9a表面に取り付けられた熱電対の温度が500℃になるよう温度制御した以外は実施例1と同様の条件でポリイミド系フィルムを加熱乾燥処理した。また、真空チャンバー4を大気圧に戻し、かつ、フィルムを交換した後、同一条件で2本目の加熱処理を行った。
【0053】
1本目と2本目のいずれも加熱乾燥処理されたポリイミド系フィルムが斜行して巻きずれることはなく、かつ、下流側ロール7c近傍に付設された表面電位計12でポリイミド系フィルムの表面電位を測定したところ±1kv以下であり、長さ750mのポリイミド系フィルムを安定して加熱乾燥処理することができた。尚、500m処理以降の下流側ロール7cの温度は100℃であった。更に、2本目の加熱処理終了後、下流側ロール7cにおける回転軸19の偏芯の程度を測定したところ40μm以下であり、加熱処理前と差はなかった。
[実施例3]
アルミニウム製ロールの外周面を黒色アルマイト処理し、かつ、部分的にマスキングを施してアルミニウムを部分的に蒸着させて得られたロール表面の放射率が平均的に0.6である下流側ロール7cを適用した以外は実施例1と同様の条件で1本目と2本目のポリイミド系フィルムの加熱処理を実施した。
【0054】
1本目と2本目のいずれも加熱乾燥処理されたポリイミド系フィルムが斜行して巻きずれることはなく、かつ、下流側ロール7c近傍に付設された表面電位計12でポリイミド系フィルムの表面電位を測定したところ±1kv以下であり、長さ750mのポリイミド系フィルムを安定して加熱乾燥処理することができた。尚、500m処理以降の下流側ロール7cの温度は110℃であった。更に、2本目の加熱処理終了後、下流側ロール7cにおける回転軸19の偏芯の程度を測定したところ40μm以下であり、加熱処理前と差はなかった。
[比較例1]
上側冷却ブロック13bと下側冷却ブロック13aとで構成されるロール冷却装置を付設しなかった以外は実施例1と同様の条件で、厚さ38μm、幅500mm、長さ750mのポリイミド系フィルム(東レ・デュポン社製 商品名カプトン)を加熱乾燥処理したところ、1本目は600m以降に、2本目は400m以降にポリイミド系フィルムの斜行が確認された。尚、1本目と2本目のいずれも500m処理以降のロールの温度は130℃であった。また、2本目の加熱処理終了後、下流側ロール7cにおける回転軸19の偏芯の程度を測定したところ約100μmであり、回転軸19の変形が認められた。
[比較例2]
アルミニウム製ロールの外周面にハードクロムめっきを施して得られた放射率が0.2以下である下流側ロール7cを適用した以外は比較例1と同様の条件で、1本目と2本目の厚さ38μm、幅500mm、長さ750mのポリイミド系フィルム(東レ・デュポン社製 商品名カプトン)を加熱乾燥処理したところ、1本目は600m以降に、2本目は500m以降にポリイミド系フィルムの斜行が確認された。尚、1本目と2本目のいずれも500m処理以降のロールの温度は130℃であった。また、2本目の加熱処理終了後、下流側ロール7cにおける回転軸19の偏芯の程度を測定したところ約90μmであり、回転軸19の変形が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置等によれば、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、減圧雰囲気下で加熱処理された長尺樹脂フィルムが斜行搬送される等の問題を解消することができるため、長尺樹脂フィルム上に金属やその酸化物等を成膜して電子部品や光学部品等の材料とする産業分野において広く利用される可能性を有している。
【符号の説明】
【0056】
1 真空ポンプ
2 真空ポンプ
3 バルブ
4 真空チャンバー
5 巻出軸
6 巻取軸
7a,7d ロール
7b 上流側ロール
7c 下流側ロール
8 真空計
9a,9b ヒーター
10 熱電対
11 長尺樹脂フィルム
12 表面電位計
13a 下側冷却ブロック
13b 上側冷却ブロック
14a フィルム搬入口
14b フィルム排出口
15 放射温度計
16 フッ化バリウム製窓
17 黒体テープ
18 覗き穴
19 回転軸
21 冷却装置
22 キャンロール
23 スパッタリングカソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群と、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備える長尺樹脂フィルム処理装置において、
上記ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に加熱手段が設けられ、かつ、加熱手段の搬送路下流側に位置する上記下流側ロールにロール冷却装置が付設されていると共に、このロール冷却装置が、長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し上記下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、上記冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備することを特徴とする長尺樹脂フィルム処理装置。
【請求項2】
上記加熱処理が、長尺樹脂フィルムの乾燥処理であることを特徴とする請求項1に記載の長尺樹脂フィルム処理装置。
【請求項3】
上記加熱処理が、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面に対するプラズマ処理若しくはイオンビーム処理であることを特徴とする請求項1に記載の長尺樹脂フィルム処理装置。
【請求項4】
上記ロール冷却装置の搬送路下流側に、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法またはCVD法から選択された長尺樹脂フィルムのコーティング手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の長尺樹脂フィルム処理装置。
【請求項5】
減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群と、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備え、かつ、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に上記加熱手段が設けられた長尺樹脂フィルム処理装置に組み込まれるロール冷却装置において、
加熱手段の搬送路下流側に位置する上記下流側ロールに付設されると共に、長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し上記下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、上記冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を有することを特徴とするロール冷却装置。
【請求項6】
上記隙間を介し下流側ロール外周面と対向する冷却装置本体の上記冷却面並びに下流側ロール外周面の放射率が、それぞれ0.60以上であることを特徴とする請求項5に記載のロール冷却装置。
【請求項7】
減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群と、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備え、かつ、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に上記加熱手段が設けられた長尺樹脂フィルム処理装置のロール冷却方法において、
長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し上記下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、上記冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備するロール冷却装置を加熱手段の搬送路下流側に位置する上記下流側ロールに付設して、加熱手段が設けられた長尺樹脂フィルム処理装置のロールを冷却することを特徴とするロール冷却方法。
【請求項8】
上記隙間を介し下流側ロール外周面と対向する冷却装置本体の上記冷却面並びに下流側ロール外周面の放射率が、それぞれ0.60以上であることを特徴とする請求項7に記載のロール冷却方法。
【請求項9】
減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群と、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備え、かつ、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組の上流側ロール・下流側ロール間の搬送路上に上記加熱手段が設けられた長尺樹脂フィルム処理装置における、上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムと加熱手段と隣り合う搬送路下流側のロールを冷却する方法において、
長尺樹脂フィルムが通過できる隙間を介し上記下流側ロール外周面を覆ってその表面を冷却させる冷却面を有する冷却装置本体と、この冷却装置本体に設けられ上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムを冷却装置本体内に搬入させるフィルム搬入口と、上記冷却装置本体に設けられ冷却装置本体内に搬入された長尺樹脂フィルムを搬送路下流側に排出させるフィルム排出口を具備するロール冷却装置を加熱手段の搬送路下流側に位置する上記下流側ロールに付設して、上記加熱手段を通過した長尺樹脂フィルムと加熱手段と隣り合う搬送路下流側の下流側ロールを冷却することを特徴とする長尺樹脂フィルムとロールの冷却方法。
【請求項10】
上記隙間を介し下流側ロール外周面と対向する冷却装置本体の上記冷却面並びに下流側ロール外周面の放射率が、それぞれ0.60以上であることを特徴とする請求項9に記載の長尺樹脂フィルムとロールの冷却方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−20345(P2011−20345A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167141(P2009−167141)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】