説明

長尺車両外装品

【課題】寸法安定性に優れた長尺車両外装品を提供する。
【解決手段】長尺状の樹脂基材2の表面は、金属めっき層3により被覆されている。金属めっき層3の表面には塗膜4が形成されている。樹脂基材2の中央部(P部位)における金属めっき層3の厚みは5μm以上であることが好ましい。樹脂基材2の厚み方向断面の表面に形成された金属めっき層の厚みAと、樹脂基材の厚み方向断面の裏面に形成された金属めっき層の厚みBとの比率(A/B)は、0.2〜5であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材の表面に塗膜を形成してなる長尺車両外装品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両外装品であるバックドアガーニッシュは、幅が80cm以上もある大型の長尺品である。バックドアガーニッシュは、樹脂基材からなり、その表面に塗装することで種々の色、光沢を付与している。
【0003】
このような樹脂製の大型長尺品は、高温に晒されると、全体長さが伸びる。大型長尺品と隣接する他の部品が、金属製などの板状体であり、大型長尺品と異なる線膨張係数を有する場合がある。この場合、大型長尺品が、隣接する他の部品と干渉するおそれがある。干渉を防止するためには、バックドアガーニッシュと、隣接する他の部品との間の間隙をある程度大きくする必要がある。この間隙が大きい場合には、車両の外観に影響を与える。従って,バックドアガーニッシュの寸法安定性を向上させることが要求されている。
【0004】
そこで、従来、特許文献1に開示されているように、樹脂基材中にガラス短繊維を含浸することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−202013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、上記特許文献1とは異なる手法で、樹脂製の長尺品の寸法安定性を向上させることについて鋭意探求を行った。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、寸法安定性に優れた長尺車両外装品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の長尺車両外装品は、長尺状の樹脂基材の表面に塗膜が形成されてなり、前記樹脂基材よりも線膨張係数が低い部品と隣接して取り付けられる長尺車両外装品において、前記樹脂基材の表面は、金属めっき層により被覆されており、該金属めっき層の表面に前記塗膜が形成されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、樹脂基材の表面を金属めっき層により被覆し、金属めっき層上に塗膜を形成している。金属めっき層は、樹脂基材の表面全体を覆うため、樹脂基材の伸びを抑える。ゆえに、熱による樹脂基材の伸びを抑えることができ、長尺車両外装品は寸法安定性に優れる。
【0010】
また、長尺車両外装品が他の部品と隣接して取り付けられるとき、樹脂基材よりも線膨張係数が低い他の部品と、金属めっき層を被覆した長尺状車両外装品との間の隙間を小さくすることができ、意匠性が向上する。
【0011】
前記樹脂基材の中央部における前記金属めっき層の厚みは5μm以上であることが好ましい。この場合には、金属めっき層が、樹脂基材の伸び量を抑えるに十分な厚みをもつため、熱による樹脂基材の伸びをさらに効果的に抑制することができる。
【0012】
前記樹脂基材の厚み方向断面の表面を被覆する前記金属めっき層の厚みAと、前記樹脂基材の前記厚み方向断面の裏面を被覆する前記金属めっき層の厚みBとの比率(A/B)は、0.2〜5であることが好ましい。
【0013】
この場合には、樹脂基材の厚み方向断面の表面を被覆する金属めっき層の厚みと、樹脂基材の厚み方向断面の裏面を被覆する金属めっき層の厚みとの差が抑えられる。ゆえに、高温に晒されたときに、樹脂基材の表裏面でほぼ同じ程度に伸びが抑えられる。従って、樹脂基材の表面と裏面との伸び量の差は少なくなり、樹脂基材の反りを効果的に抑制することができ、寸法安定性に優れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂基材の表面を金属めっき層により被覆し、金属めっき層上に塗膜を形成している。このため、寸法安定性に優れた長尺車両外装品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1のバックドアガーニッシュを組付けたトランクリッドの斜視図である。
【図2】実施例1のバックドアガーニッシュの斜視図である。
【図3】図2のA−A矢視断面図である。
【図4】図3のB−B矢視断面図である。
【図5】実施例1のめっき用治具に取り付けた樹脂基材の断面図(a)、及びめっき用治具に取り付けた樹脂基材の正面配置図(b)である。
【図6】実施例1〜3及び比較例1のバックドアガーニッシュの80℃時の伸び量を示す説明図である。
【図7】実施例4のめっき用治具に取り付けた樹脂基材の断面図(a)、及びめっき用治具に取り付けられた樹脂基材の正面配置図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の長尺車両外装品は、樹脂基材の表面に、金属めっき層を被覆し、金属めっき層表面に塗膜を形成してなる。
【0017】
樹脂基材は、長尺状の車体外装品である。車体外装品としては、例えば、車両のバックドアガーニッシュ、グリル、サイドモールなどの大型長尺品が挙げられる。
【0018】
本発明は、長尺状の車両外装品に適用する。車両外装品の長さは、例えば、800mm以上である場合に好適に適用される。長さが800mm以上のときには、樹脂基材を金属めっき層で被覆しない場合に、加熱による伸び量が大きい。このため、車体外装品を車体に組付けたときに、樹脂基材の伸び量を考慮して、隣接する他の車体部品との隙間を大きくする必要があり、隙間によって車両の外観が低下するおそれがある。従って、樹脂基材の長さが800mm以上の場合には、高温時の伸び量の低減が要求される。車両外装品の長さが長くなるほど、伸び量の低減が要求される。
【0019】
本発明の車両外装品は、樹脂基材の表面を金属めっき膜により被覆しているため、高温時の樹脂基材の伸び量を抑えることができる。ゆえに、車両に組付けたときに、隣接する車両部品との間の隙間を狭くしても、樹脂基材の伸びによって、隣接する車両部品と干渉することはない。ゆえに、本発明の車両外装品と隣接する車両部品との間の隙間を狭く設定して、車両の外観を向上させることができる。
【0020】
樹脂基材は、長さが800mm以上であるが、幅、厚みについては特に限定しない。
【0021】
車両外装品を構成する樹脂基材の材質は、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)などが挙げられる。寸法安定性及び剛性の観点から、ABS樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
樹脂基材の表面全体は、金属めっき層により被覆されている。樹脂基材の中央部の表面における金属めっき層の厚みは5μm以上であるとよい。樹脂基材の中央部とは、長尺状の樹脂基材の長手方向の中央部であって、且つ高さ方向の中央部をいう。樹脂基材の中央部を被覆する金属めっき層の厚みで規定したのは、樹脂基材の中央部を被覆する金属めっき層の厚みが比較的安定しているからである。これに対して、樹脂基材の端部は、金属めっき層の厚みが中央部よりも厚くなる傾向にあり、また厚みの変化も大きい。このため、金属めっき層の厚みが安定している部分である樹脂基材の中央部で、金属めっき層の厚みを規定することとした。
【0023】
樹脂基材の中央部の形状は、例えば、平面状であることが好ましい。この場合には、樹脂基材の中央部を被覆する金属めっき層の厚みがさらに安定する。
【0024】
例えば、中央部にナンバープレートを保持するプレート保持部をもつバックドアガーニッシュのように、中央部がナンバープレートと同様の平坦な部分となる。このようにバックドアガーニッシュに例示される中央部に平坦部をもつ車両外装品では、「樹脂基材の中央部を被覆する金属めっき層の厚み」は、樹脂基材の中央部に形成された平面部を被覆する金属めっき層の厚みとなる。樹脂基材の中央部は、例えば樹脂基材の端部を被覆する金属めっき層の厚みと比べて薄く、厚みが安定している。この中央部の金属めっき層の厚みを5μm以上とすることにより、樹脂基材全体が金属めっき層で被覆されることになり、樹脂基材の伸びを効果的に抑えることができる。
【0025】
樹脂基材の中央部を被覆する金属めっき層の厚みは5μm以上である。これにより、高温時の樹脂基材の伸び量が抑えられる。
【0026】
さらに、樹脂基材の中央部を被覆する金属めっき層の厚みは、6μm以上であることが好ましい。この場合には、高温時の車両外装品の伸びを効果的に抑制することができる。
【0027】
樹脂基材の厚み方向断面の表面に形成された金属めっき層の厚みをAとする。樹脂基材の厚み方向断面の裏面に形成された金属めっき層の厚みをBとする。AとBとは、樹脂基材の同一の厚み方向断面の表面と裏面を被覆する金属めっき層の厚みである。「樹脂基材の厚み方向断面」は、前記「樹脂基材の中央部」の厚み方向断面に限らず、樹脂基材の端部の厚み方向断面であってもよい。また、凹凸を有する樹脂基材である場合には、凹部や凸部の厚み方向断面であってもよい。
【0028】
AとBの比率(A/B)は、0.2〜5であることがよい。この場合には、樹脂基材の同一の厚み方向断面での表面を被覆する金属めっき層と裏面を被覆する金属めっき層の厚みとのばらつきが少なくなる。よって、樹脂基材の同一断面での表裏の伸びを均等に抑えることができ、樹脂基材に反りが発生しにくくなる。
【0029】
A/Bの比率は、樹脂基材の長手方向に延びる端部のすべての部分での厚み方向断面において、0.2〜5であることが好ましい。この場合には、樹脂基材の反りをさらに効果的に抑制することができる。
【0030】
A/Bの比率は、さらには,0.5〜3であることが好ましい。この場合には、車両外装品の反りをさらに抑制することができる。
【0031】
A/Bの比率が上記の範囲になるように金属めっき層を形成するに当たっては,めっき槽の中で、複数の樹脂基材を同時にめっき処理する場合には、複数の樹脂基材が互いに重ならないように配置するとよい。
【0032】
金属めっき層の構成は、特に限定されないが、例えば、Cuのみから構成されていてもよく、またCuとNiにより構成されていてもよく、またCuとNiとCrとから構成されていてもよい。
【0033】
金属めっき層を構成する金属材料の線膨張係数は、樹脂基材を構成する樹脂材料の線膨張係数よりも小さい。このため、樹脂基材の熱による伸びを抑えることができると考えられる。
【0034】
金属めっき層の形成方法は,公知の方法を採用することができる。
【0035】
金属めっき層の表面には塗膜が形成される。塗膜は、金属めっき層の表面全体に形成されてもよいが、表面の一部に形成されてもよい。塗膜の形成方法は、例えば、電着塗装などが挙げられる。塗膜は、車両外装品に種々の色や光沢を付与する。塗膜の厚みは、特に限定しない。塗膜は、樹脂基材と同様に、高温時に伸びるため、金属めっき層に比べて、伸び抑制効果は少ない。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
本例の車両外装品は、図1、図2に示すように、自動車のバックドアガーニッシュである。バックドアガーニッシュ1は、車体後部に設けられたトランクを覆うトランクリッド71に組みつけられている。バックドアガーニッシュ1は、車幅方向に長い長尺体であり、幅方向中央にはナンバープレートを固定するプレート保持部11が設けられている。バックドアガーニッシュ1の幅方向両端部上側には、リヤコンビネーションランプ72が取り付けられている。バックドアガーニッシュ1は、幅方向の長さが1200mmであり、高さ方向の大きさが320mmである大型長尺品である。
【0037】
図3に示すように、バックドアガーニッシュ1は、ABS樹脂からなる樹脂基材2と、金属めっき層3と、塗膜4とを有する。金属めっき層3は、樹脂基材2の表面全体を被覆している。図4に示すように、金属めっき層3は、銅めっき層31と、ニッケルめっき層32と、クロムめっき層33とから構成されている。
【0038】
樹脂基材2のプレート保持部11の表面2aの図2,図3に示すP点は、樹脂基材2の中央部を示す。P点に示される樹脂基材2の中央部は、バックドアガーニッシュ1の幅方向中央部であり、且つ高さ方向の中央部であって、平坦な部分である。P点では、銅めっき層31の厚みは10μm、ニッケルめっき層の厚みは10μm、クロムめっき層33の厚みは0.1〜0.2μmである。P点での金属めっき層3の全体の厚みは、20μmである。
【0039】
塗膜4は、樹脂基材2の表面2aを被覆する金属めっき層3上に形成されている。塗膜4は、トランクリッド71表面の色と同じ色を呈する。樹脂基材2の裏面2bは、金属めっき層3により被覆されているのみであり、塗膜4は形成されていない。樹脂基材2の裏面2bは、金属めっき層3が露出している。
【0040】
バックドアガーニッシュ1を製造するにあたっては、まず、ABS樹脂を射出成形して、バックドアガーニッシュの形状をした樹脂基材2を形成する。
【0041】
次に、図5(a)に示すように、樹脂基材2を、めっき用治具6に取り付ける。めっき用治具6は、複数の樹脂基材2を係止することができるように構成されている。例えば、めっき用治具6の表裏両面の複数箇所には、樹脂基材2を係止する図略の係止部が設けられている。このようなめっき用治具6の片面の上段と下段に、2つの樹脂基材2を上下方向を逆転させて係止する。図5(b)に示すように、上段の樹脂基材2と下段の樹脂基材2との上端部2d及び下端部2eは、互いに重ならないように離した。
【0042】
次に、めっき用治具6に係止された樹脂基材について、以下の順に処理工程を行った。まず、樹脂基材を調整液に漬浸して、樹脂基材の表面から指紋、油などの汚れを除去した。次に、樹脂基材をエッチング溶液に漬浸して、樹脂基材2表面をクロム酸で化学的に粗化して、粗化表面を形成した。次に、エッチング溶液を酸で中和して、樹脂基材表面から、6価クロムを還元することで除去した。樹脂基材にキャタリストを施して、樹脂基材の表面にPd・Sn化合物を吸着させた。アクセレータ処理を施して、樹脂基材の表面に付着しているSnを除去して、樹脂基材表面に付着しているPdをメタル化した。次に、化学ニッケルめっきを施して、樹脂基材表面に付着しているPdを触媒とし、化学反応でニッケル薄層を形成した。以上により、前処理を終了する。
【0043】
次に、以下のように電気めっき処理を行った。以下の電気めっき処理は、樹脂基材表面のめっき膜に通電しながら各めっき液に浸漬して行った。まず、酸活性処理を行った。次に、図4に示すように、ニッケル薄層の表面に、ニッケルストライクめっきを施して、ニッケル薄層を補強するとともにめっき層の電気抵抗を下げた。次に、ニッケルストライクめっき層の表面に、銅めっき層31を形成した。次に、半光沢ニッケルめっき、光沢ニッケルめっき、及びジュールニッケルめっきを行い、銅めっき層31の表面に、ニッケルめっき層32を形成した。クロムめっきを行い、ニッケルめっき層32の表面に、クロムめっき層33を形成した。次に、これらのめっき層を処理液から取り出して、乾燥させた。めっき処理後の樹脂基材2をめっき用治具6から取り外した。以上のように、樹脂基材2表面全体を、銅めっき層31とニッケルめっき層32とクロムめっき層33とから構成される金属めっき層3により被覆した。
【0044】
次に、樹脂基材2の表面2aを被覆する金属めっき層3上に、塗膜4を形成した。
【0045】
(実施例2)
本例においては、銅めっき層31の厚みを4μm、ニッケルめっき層32の厚みを4μmとした。金属めっき層3の全体の厚みは、8μmであった。その他は、実施例1と同様である。
【0046】
(実施例3)
本例においては、銅めっき層31の厚みを2μm、ニッケルめっき層32の厚みを2μmとした。金属めっき層3の全体の厚みは、4μmであった。その他は、実施例1と同様である。
【0047】
(比較例1)
本例においては、樹脂基材2の表面には金属めっき層を形成しなかった。樹脂基材2の表面2aには、直接に塗膜4を形成した。
【0048】
<伸び量の測定>
実施例1〜3及び比較例1のバックドアガーニッシュの幅方向の長さを測定した。次に、図1に示すように、バックドアガーニッシュ1をトランクリッド71に組付けた状態で加熱して、23℃から80℃に昇温させた。80℃で3時間保持した後のバックドアガーニッシュ1の幅方向の長さを測定した。この高温時のバックドアガーニッシュ1の幅方向の長さと、常温時のバックドアガーニッシュの長さとの差の比率を求めて、伸び量とした。測定結果を図6に示した。図6において、E1,E2,E3,C1は、順に、実施例1、実施例2、実施例3、比較例1を示す。
【0049】
同図より、樹脂基材表面を金属めっき層により被覆することにより、樹脂基材の伸びを1.3mm以下に抑えることができることがわかった。これは、樹脂基材の表面全体が、樹脂基材よりも線膨張係数の小さい金属めっき層により被覆されたため、樹脂基材の伸びが抑えられたと考えられる。
【0050】
更に、実施例1,2のように、金属めっき層の厚みが5μm以上の場合には、樹脂基材の伸び量を確実に抑えることができた。一方、比較例1では、樹脂基材は金属めっき層により被覆されておらず、伸び量が2.3mmと大きかった。
【0051】
(実施例4)
本例において、バックドアガーニッシュを製造するにあたっては、図7(a)、図7(b)に示すように、樹脂基材2を、めっき用治具6の表裏両面に係止した。めっき用治具6の表面に係止した樹脂基材2と、めっき用治具6の裏面に係止した樹脂基材2とを、上下方向の位置が同じ位置になるように配置して、裏面2b全体が互いに重なるようにした。このようにめっき用治具6に係止した樹脂基材2について、実施例1と同様の処理工程を行った。
【0052】
<金属めっき層の厚みの測定>
実施例1,4のバックドアガーニッシュについて、金属めっき層3の厚みを測定した。図3に示すように、樹脂基材2におけるO、P、Qに示す部分の表面2aと裏側2bを被覆する金属めっき層3の厚みを測定した。O部位は、バックドアガーニッシュの幅方向中央部の上端部2dの近傍の平面部である。P部位は、バックドアガーニッシュの幅方向の中央部であって、高さ方向の中央部である。Q部位は、バックドアガーニッシュの幅方向中央部の下端部2eの近傍の平面部である。
【0053】
表1には、実施例1,4のバックドアガーニッシュのP,Q,R部位での表面と裏面の金属めっき層の厚みと,表面の金属めっき層と裏面の金属めっき層との比(A/B)を示した。
【0054】
【表1】

【0055】
上記の結果より、実施例1では、O,P,Q部位の金属めっき層のA/B比は、すべて0.2〜5の範囲内に入っており、各部位の表面を被覆する金属めっき層の厚みと裏面を被覆する金属めっき層の厚みとの間に大きな差異はなかった。P部位の金属めっき層のA/B比は、O、Q部位での金属めっき層のA/B比に比べて、小さかった。これは、めっき用治具に複数の樹脂基材を互いに重ならないように保持したため、樹脂基材の表面と裏面に付着する金属めっきの量が均一化したためであると考えられる。
【0056】
また、P部位での樹脂基材の表面及び裏面を被覆する金属めっき層の厚みは、O,Q部位でのそれよりも薄かった。即ち、樹脂基材の平面状の中央部を被覆する金属めっき層の厚みは、樹脂基材の端部近傍の平面部を被覆する金属めっき層の厚みよりも薄かった。
【0057】
一方、実施例4では、O,P部位での金属めっき層のA/B比が、5を超えて大きかった。また、O,P部位での樹脂基材の裏面を被覆する金属めっき層の厚みが5μm以下と小さかった。これは、図7(a)に示すように、実施例4では、樹脂基材2の裏面2b同士を重ねた状態でめっき用治具6に取り付けてめっき処理を行ったため、樹脂基材2の裏面2bの中央部(P部位)及び、互いに近接した位置に保持された上端部2d近傍(O部位)へのめっきの付着量が少なくなったためであると考えられる。
【0058】
<反り量の測定>
実施例1,4のバックドアガーニッシュについて、トランクリッドに組付けることなく、フリーの状態で加熱して、23℃から80℃に昇温させた。80℃で3時間保持した後のバックドアガーニッシュ1の反り量を測定した。測定に供したバックドアガーニッシュは、めっき処理の際に、めっき用治具の上段に配置されたものである。
【0059】
バックドアガーニッシュの反り量を測定するにあたっては、バックドアガーニッシュをゲージに水平に配置した。水平基準線に対する樹脂基材2の上端部2d(上辺)の高さ方向の位置、及びバックドアガーニッシュの下端部2e(下辺)の高さ方向の位置を、ゲージを用いて測定した。バックドアガーニッシュの上端部2dと下端部2eとの反り量を測定するのは、この部分は長い自由端をもち、バックドアガーニッシュの中でも反りやすい部分であるからである。
【0060】
図2に示すように、測定の結果、実施例1のバックドアガーニッシュの上端部2dの中で反り量が最も大きかったのは、イ部位であり、−1.0mmの反り量であった。下端部2eの中で反り量が最も大きかったのは、ニ部位であり、−1.2mmであった。
【0061】
実施例4のバックドアガーニッシュの上端部2dの中で反り量が最も大きかったのは、キ部位であり、1.8mmの反り量であった。下端部2eの中で反り量が最も大きかったのは、ニ部位及びフ部位であり、いずれも反り量が−2.0mmであった。
【0062】
実施例1のイ、ニ部位の表面2aを覆う金属めっき層3の厚み(A)と、裏面2bを覆う金属めっき層3の厚み(B)と、A/B比とを測定した。また、実施例4のキ、ニ、フ部位の表面2aを覆う金属めっき層3の厚み(A)と、裏面2bを覆う金属めっき層3の厚み(B)と、A/B比とを測定した。これらのA,B,A/B比を、反り量とともに、表2に示した。
【0063】
【表2】

【0064】
表2より知られるように、実施例1の場合には、バックドアガーニシュの上端部及び下端部のすべての部分における反り量は、−1.3〜1.3mmの範囲内であり、比較例の場合の反り量よりも格段に小さかった。その理由は、実施例1のバックドアガーニッシュにおける反り量の最も大きかった部分の表裏間の金属めっき層の厚みの比(A/B)が2〜5の範囲内であり、表裏で大差がなかったためであると考えられる。また、反り量が大きいイ以外の上端部2d、及びニ以外の下端部2eでも、A/B比が0.2〜5の範囲内にあった。即ち、樹脂基材の長手方向に延びる上端部2d及び下端部2eのすべての部分での厚み方向断面において、A/B比が0.2〜5である。このため、樹脂基材の表裏での伸びを抑える力が均等に働き、反りが抑えられたと考えられる。
【0065】
一方、実施例4では、バックドアガーニッシュにおける反り量が最も大きかった部分での表裏間の金属めっき層の厚みの比率(A/B)が0.2〜5の範囲外にあるため、樹脂基材の表裏での伸びを抑える力に不均衡が生じて、樹脂基材の反りが発生したと考えられる。
【符号の説明】
【0066】
1:バックドアガーニッシュ、2:樹脂基材、2a:表面、2b:裏面、3:金属めっき層、4:塗膜、6:めっき用治具、30:前処理層、31:銅めっき層、32:ニッケルめっき層、33:クロムめっき層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の樹脂基材の表面に塗膜が形成されてなり、前記樹脂基材よりも線膨張係数が低い部品と隣接して取り付けられる長尺車両外装品において、
前記樹脂基材の表面は、金属めっき層により被覆されており、該金属めっき層の表面に前記塗膜が形成されていることを特徴とする長尺車両外装品。
【請求項2】
前記樹脂基材の中央部における前記金属めっき層の厚みは5μm以上である請求項1記載の長尺車両外装品。
【請求項3】
前記樹脂基材の厚み方向断面の表面を被覆する前記金属めっき層の厚みAと、前記樹脂基材の前記厚み方向断面の裏面を被覆する前記金属めっき層の厚みBとの比率(A/B)は、0.2〜5である請求項1又は請求項2に記載の長尺車両外装品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−274807(P2010−274807A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129973(P2009−129973)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】