説明

長繊維強化複合樹脂組成物および成形品

【課題】有機長繊維の分散がよく、外観に優れ、衝撃強度などの機械的強度に優れており、更に、導電性を付与した長繊維強化複合樹脂組成物、および、これから得られた成形品を提供すること。
【解決手段】オレフィン系樹脂、有機長繊維、炭素繊維を含有して成り、オレフィン系樹脂100重量部に対する、有機長繊維の割合が10〜150重量部、炭素繊維の割合が0.1〜30重量部である長繊維強化複合樹脂組成物、および、これから得られる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維強化複合樹脂組成物および成形品に関し、詳しくは、長繊維の分散がよく、外観に優れ、耐衝撃性などの機械的強度に優れており、更に、導電性を付与した、長繊維強化複合樹脂組成物、および、これから得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、様々な分野で樹脂製品に導電性が求められており、例えば、帯電防止、電磁波シールド、静電塗装性を発現させるために、樹脂に導電性を付与する試みが多数なされている。例えば、樹脂にカーボンブラックを配合させるならば導電性樹脂が得られることが知られている。しかしながら、所望の導電性を得るためにはカーボンブラックを大量に配合する必要があり、その場合、得られる成形品の耐衝撃性などの機械的強度が低下し、また、成形品表面からカーボンブラック粉が滑落し、当該成形品に近接する環境を汚染することが問題となっている。
【0003】
一方、樹脂に炭素繊維や金属繊維を配合させることにより導電性樹脂を得ることも知られている。この場合、カーボンブラック複合材の場合に起こるフィラーの滑落が改善されると共に成形品に剛性を付与することが出来るが、所望の導電性を得るためには大量に配合する必要があり、やはり、成形品の耐衝撃性などの機械的強度を低下させる。
【0004】
本出願人は、導電性樹脂の機械物性低下を改善する手段として、オレフィン系樹脂と有機長繊維とカーボンブラックから成る樹脂組性物について提案した(特許文献1及び2)。しかしながら、この樹脂組成物では、有機長繊維により成形品の耐衝撃性などの機械的強度は付与されているが、カーボンブラック配合成形品で問題となる、フィラー滑落による近接環境の汚染は改善できない。
【0005】
【特許文献1】特願2005−349459号公報
【特許文献2】特願2006−048725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、長繊維の分散がよく、外観に優れ、導電性であり、耐衝撃性などの機械的強度に優れている、長繊維強化複合樹脂組成物、および、これから得られる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1の要旨は、オレフィン系樹脂、有機長繊維、炭素繊維を含有して成り、オレフィン系樹脂100重量部に対する、有機長繊維の割合が10〜150重量部、炭素繊維の割合が0.1〜30重量部であることを特徴とする長繊維強化複合樹脂組成物に存し、本発明の第2の要旨は、上記の長繊維強化複合樹脂組成物を成形して成ることを特徴とする長繊維強化複合樹脂成形品に存する。
【発明の効果】
【0008】
オレフィン系樹脂、有機長繊維、炭素繊維を含有する本発明の樹脂組性物は、有機長繊維が網目状に分散して補強していることと、有機長繊維とマトリクス樹脂との界面接着を弱くさせていることにより、従来公知の長繊維複合樹脂組性物では達成し得ない耐衝撃性などの機械強度を得ることが出来る。
【0009】
また、本発明の樹脂組成物を成形して成る成形品は、有機長繊維と炭素繊維が互いに繊維配向を促進し、従来公知の炭素繊維複合樹脂成形品より少量の炭素繊維含有量で所望の導電性を付与することが出来る。そして、炭素繊維含有量が少量で済むことから、比較的高価な材料である炭素繊維を節約することによる材料コストの圧縮、成形品表面外観凹凸の緩和といった効果も得ることが出来る。
【0010】
ガラス繊維や炭素繊維は折れ易いため、混練や成形などの加工プロセスを経るにつれ組性物中の繊維が破損し、通常、成形品内では平均200〜500μm程度の長さになる。これに対して、有機長繊維はガラス繊維や炭素繊維に比べて加工プロセスで殆ど破損することが無いため、有機長繊維の繊維長さが成形品内でも十分に維持されることとなり、有機長繊維による優れた補強効果が得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用するオレフィン系樹脂としては、特に制限されず、各種のオレフィン系樹脂を使用することが出来る。例えば、エチレンの単独重合体、エチレンを主成分とした、プロピレン、1−ブテン等の他のα−オレフィン等の1種または2種以上との共重合体などのエチレン系樹脂;プロピレンの単独重合体、プロピレンを主成分とした、エチレン、1−ブテン等の他のα−オレフィン等の1種または2種以上との共重合体などのプロピレン系樹脂;1−ブテンの単独重合体、1−ブテンを主成分とした、エチレン、プロピレン等の他のα−オレフィン等の1種または2種以上との共重合体などのブテン系樹脂などが挙げられる。これらのオレフィン系樹脂は、単独重合体であっても、共重合体でもよく、また、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。なお、上記の「主成分」とは、オレフィン系樹脂中の当該成分の含有量が通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上であるものを指す。
【0012】
これらのうち、耐熱性に優れる点から、プロピレン系樹脂が好ましく、その具体例としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンを主成分とするプロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂、プロピレン−エチレンブロック共重合体樹脂などが挙げられる。なお、オレフィン系樹脂は2種以上を併用してもよい。オレフィン系樹脂の重合様式は、特に限定されないが、気相法または溶液法が好ましい。
【0013】
オレフィン系樹脂のメルトフローレート(JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nで測定した値)は、通常0.05〜200g/10分、好ましくは0.1〜100g/10分である。メルトフローレートが0.05g/10分未満の場合は、成形加工性が低下し、得られる成形品の表面外観が不良になり易い傾向にあり、200g/10分を超える場合は、成形品の機械的強度と有機長繊維の分散が不良になり易い傾向にある。
【0014】
本発明で使用する有機長繊維は、その表面に極性樹脂を付着させておくことが出来る。ここで、極性樹脂とは、非極性であるオレフィン系樹脂より極性の高い樹脂を指す。斯かる極性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂(エポキシ化合物を含む)、フェノール(レゾール型)樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド、ウレタン樹脂、これらの共重合体、変性体などの熱硬化性樹脂が挙げられる。また、飽和ポリエステル、ポリアミド、アクリル系樹脂、これらの共重合体、変性体などの熱可塑性樹脂も挙げられる。極性樹脂としては、特に、取扱・加工性や力学特性の観点から、熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂またはウレタン樹脂が好ましく、特にエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂の具体例としては、次の化合物が挙げられる。
【0015】
すなわち、ジグリシジルエーテル化合物では、エチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類などが挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物では、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類などが挙げられる。好ましくは、反応性の高いグリシジル基を有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物である。更に好ましくは、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、アルカンジオールジグリシジルエーテル類である。
【0016】
ところで、本発明において、前記のオレフィン系樹脂としては、例えば、無水マレイン酸で変性された酸変性オレフィン系樹脂などは除くのが好ましい。また、後述する有機長繊維においても酸変性オレフィン系樹脂で表面処理されたものを除くのが好ましい。更に、有機長繊維に付着させる上記の極性樹脂としても酸変性オレフィン系樹脂は除くのが好ましい。斯かる条件を満足することにより、マトリクス樹脂であるオレフィン系樹脂と有機長繊維との界面強度を一層弱くすることが出来、引張破断伸びや耐衝撃性を一層高めることが出来る。
【0017】
上記の酸変性オレフィン系樹脂としては、(A)オレフィンの単独重合体または2種以上のオレフィンの共重合体、例えば、ポリオレフィンに、不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合したもの、(B)ポリオレフィンの重合原料モノマーである1種または2種以上のオレフィンと1種または2種以上の不飽和カルボン酸またはその誘導体を共重合したもの、(C)上記(B)で得られたものに更に不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合したもの等が挙げられる。
【0018】
有機長繊維としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ケナフ、セルロース系繊維などが挙げられる。これらの有機長繊維は2種以上を併用してもよい。これらの中では、取扱・加工性や力学特性の観点から、ポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維が好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維(融点260℃、ガラス転移温度67℃)、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維(融点272℃、ガラス転移温度113℃)が好ましい。ポリエステル系繊維は、射出成形品中の分散が良く、繊維としての物性も高いため、良好な機械物性の射出成形品が得られる。
【0019】
ところで、本発明の樹脂組成物を、射出成形によって成形する場合、オレフィン系樹脂の融点以上の温度で成形するため、有機長繊維としては射出成形の際に溶融しないものを使用するのが好ましい。すなわち、オレフィン系樹脂の融点は、通常70〜170℃、従って、成形温度(成形機の出口温度とする)は通常150〜210℃の範囲から選択される。有機長繊維の融点は、成形温度より、通常10℃以上、好ましくは20℃以上高いことが好ましい。従って、有機長繊維の融点は通常200℃以上の範囲から選択される。
【0020】
また、有機長繊維の繊維径が太すぎると成形品のアイゾット衝撃強度が低下する。一方、繊維径が細すぎても何ら問題はなく、ナノサイズの繊維まで使用可能と思われ、成形品の用途によっては良好な結果をもたらす。このように繊維径が広範に亘るため、有機長繊維の使用本数は一義的に規定できない。しかしながら、繊維の束の断面積で考えると、通常は、ペレットの繊維と略直行する方向の断面積中5〜60%程度を有機長繊維の断面積が占める程の本数が好ましい。有機長繊維の単糸繊度は、通常1〜20dtex、好ましくは2〜15dtexである。また、有機長繊維の総繊度は、通常150〜3,000dtex、好ましくは250〜2000dtexである。さらに、有機長繊維のフィラメント数は、通常10〜1,000フィラメント、好ましくは50〜500フィラメントである。
【0021】
有機長繊維に極性樹脂を付着させる方法としては、(A)有機長繊維を製造する工程においてチーズ状に巻き取る前に、オレフィン系樹脂と相溶または反応しない、極性のある化合物を付与する方法、(B)有機長繊維を一旦巻取った後に、オレフィン系樹脂と相溶または反応しない、極性のある化合物を有機長繊維に含浸付与し熱処理する方法が挙げられる。
【0022】
有機長繊維への極性樹脂の付着量は、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.03〜3.5重量%である。極性樹脂の付着量が0.01重量%未満の場合は、有機長繊維とマトリクス樹脂の界面接着を弱くさせる効果が得にくく、また、成形中に繊維同士が絡み合うため、有機長繊維の分散が悪くなり、その結果、外観品位が低下する。一方、極性樹脂の付着量が5重量%を超える場合は、有機長繊維が硬くなりすぎるため、加工性が低下し、有機長繊維との複合化が困難になる。
【0023】
本発明の樹脂組性物においてペレット中の有機長繊維の長さは、ペレットの長さに相当する。オレフィン系樹脂より成るペレット中に含有された有機長繊維の平均繊維長は、通常4〜50mm、好ましくは4〜20mm、更に好ましくは4〜10mmである。有機長繊維の平均繊維長が4mm未満の場合は耐衝撃性の向上効果が十分に得られず、一方、平均繊維長が50mmを超える場合は成形が困難になる。
【0024】
本発明で使用する炭素繊維は、PAN系またはピッチ系何れでもよいが、導電性付与、加工プロセスでの折れ難さ、等の観点からPAN系が好ましい。また、炭素繊維は、エポキシ系、ウレタン系などの収束剤を表面に付着させたものでもよい。また、炭素繊維は、有機長繊維と同様にペレットの長さ分の長さのものでもよいし、より短いものでもよい。
【0025】
本発明の樹脂組成物のオレフィン系樹脂、有機長繊維、炭素繊維を含有する。そして、オレフィン系樹脂100重量部に対する割合として、有機長繊維の割合は、10〜150重量部、好ましくは20〜140重量部であり、炭素繊維の割合は、0.1〜30重量部、好ましくは0.5〜20重量部である。有機長繊維の割合が上記の範囲未満の場合は、補強効果が不十分となる傾向にあり、上記範囲より多い場合は、成形が困難になり成形品外観も悪くなる傾向がある。一方、炭素繊維の割合が上記の範囲より少ない場合は、所望の導電性が出にくくなる傾向にあり、上記範囲より多い場合は、成形が困難になり成形品外観も悪くなる傾向にあり、また、耐衝撃性などの機械的強度が不十分となる傾向にある。
【0026】
本発明が対象とする導電性材料の体積固有抵抗は1×10Ω・cm以下である。一般に1×10Ω・cm以下1×10Ω・cm以上の材料は静電防止材料、1×10Ω・cm以下1×10Ω・cm以上の材料は導電性材料、1×10Ω・cm以下の材料は高導電性材料と呼ばれる。例えば、自動車部品では静電防止材料領域、電極用材料では導電性材料領域の導電性能が必要とされている。
【0027】
本発明の樹脂組成物(ペレット)は、連続した有機長繊維をクロスヘッドダイを通して引きながら溶融樹脂で含浸する方法(引き抜き成形法)により得られる。例えば、オレフィン系樹脂に必要に応じて樹脂添加剤を加え、有機長繊維をクロスヘッドダイに通して引き抜きながら、オレフィン系樹脂を押出機から溶融状態でクロスヘッドダイに供給し、有機長繊維にオレフィン系樹脂を含浸被覆させ、溶融含浸物を加熱し、冷却後、引き抜き方向と直角に切断して得られる。この方法によれば、有機長繊維の損傷を起こすことなく、得られるペレットの長さ方向に有機長繊維が同一長さで平行配列している樹脂組成物(ペレット)が得られる。
【0028】
引き抜き成形法は、基本的には、連続した強化用繊維束を引き抜きながら樹脂を含浸する方法である。そして、その態様として、クロスヘッドの中に繊維束を通しながら押出機などからクロスヘッドに樹脂を供給して含浸する方法の他、樹脂のエマルジョン、サスペンジョン又は溶液を入れた含浸浴の中に繊維束を通して含浸する方法、樹脂の粉末を繊維束に吹きつけるか又は粉末を入れた槽の中に繊維束を通して繊維に樹脂粉末を付着させた後に樹脂を溶融して含浸する方法などが知られており、本発明では何れの態様も利用できる。特に好ましいのはクロスヘッド方法である。また、これらの引き抜き成形法における樹脂の含浸操作は1段で行うのが一般的であるが、2段以上に分けてもよく、更に、含浸方法を異にして行ってもよい。
【0029】
本発明の樹脂組成物(ペレット)は、上記の方法の他、有機長繊維の切断の心配がないため、必要成分の混練処理によって組成物化する方法を採用することも可能である。
【0030】
なお、オレフィン系樹脂に必要に応じて他の熱可塑性樹脂やゴムの1種または2種以上を補助的に少量併用することも可能である。また、目的に応じ、所望の特性を付与するため、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤(染料や顔料)、潤滑剤、可塑剤、結晶化促進剤、結晶核剤などを更に配合することも可能である。
【0031】
上記の含浸操作は、通常150〜300℃、好ましくは170〜260℃、更に好ましくは190〜230℃で行われる。また、上記の含浸物は上記の温度で加熱される。加熱温度が低すぎる場合は含浸が不十分になり、高すぎる場合はオレフィン系樹脂の分解が起こる。
【0032】
溶融含浸物は、加熱反応後、押出されてストランドとなり、切断可能な温度まで冷却され、カッターで切断されてペレットとされる。ペレットの形状としては、円柱状、角柱状、板状、さいころ状などが挙げられる。このようにして得られたペレットでは、有機長繊維が実質的に同じ長さで且つ各繊維の方向が押し出された方向(すなわちペレットの長さ方向)に揃っている。また、上記のペレットは、種類や濃度の異なる2種類以上の有機長繊維を使用したもの、オレフィン系樹脂の混合物を使用したものでもよい。なお、本発明において、「ペレット」は、上記の狭義のペレットの他に、ストランド状、シート状、平板状なども含む広義の意味で使用される。
【0033】
本発明の樹脂組成物から成るペレットの寸法は、有機長繊維の長さとなり、通常4〜50mm、好ましくは4〜20mm、更に好ましくは4〜10mmである。ペレット中の有機長繊維の長さが短すぎる場合は複合材料としての所望の機械的強度が得られず、一方、長すぎる場合はペレットの射出成形機などへの供給が困難となる。
【0034】
上記の様にして得られたペレットは、単独で又は他の熱可塑性樹脂、好ましくはオレフィン系樹脂と同じタイプの樹脂で希釈し、射出成形などの原料として使用される。希釈する樹脂の種類および比率は、所望の成形品の物性値により定められる。本発明の樹脂組成物(ペレット)を使用し、射出成形により得られた成形品は、有機長繊維の射出成形時に折損が少なく、有機長繊維が均一に分散している。本発明の樹脂組成物から得られる成形品は、外観に優れ、耐衝撃性などの機械的強度に優れており、更に、導電性を付与したものであって、車両、建築・土木、機械部品、電子部品などに極めて有用である。
【0035】
なお、本発明においては、前記のように、オレフィン系樹脂、有機長繊維、炭素繊維を含有する樹脂組成物(ペレット)を製造した後に成形して成形品とする他に、オレフィン系樹脂と有機長繊維を含有する樹脂組成物(ペレットA)と、オレフィン系樹脂と炭素繊維を含有する樹脂組成物(ペレットB)を製造した後にペレットAとBとを混合して成形してもよい。すなわち、成形品とした際に本発明の樹脂組成物が完成されていればよい。また、本発明の樹脂組成物(ペレット)は、前述の引き抜き成形法の他、有機長繊維の切断の心配がないため、必要成分の混練処理によって組成物化する方法を採用することも可能である。更に、混練処理によってオレフィン系樹脂と炭素繊維とを含有する樹脂組成物を調製し、その後に、引き抜き成形法を採用し、有機長繊維引き抜きながら上記の樹脂組成物を含浸してもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例により限定されるものではない。以下の諸例で使用した材料および評価方法は以下に示すとおりである。
【0037】
成分(a):ポリプロピレン〔日本ポリプロ(株)製「ノバテックSA06A」、メルトフローレート60g/10分(230℃、21.2N荷重)〕
【0038】
成分(b−1):エポキシ樹脂としてポリグリシジルエーテル系エポキシ樹脂を付着させたPET長繊維〔帝人ファイバー(株)製「P900AL BHT1670T250」、平均繊維径25μm、エポキシ樹脂付着量=0.2重量%〕
【0039】
成分(b−2):エポキシ樹脂としてポリグリシジルエーテル系エポキシ樹脂を付着させたPEN長繊維〔帝人ファイバー(株)製「Q904AL BHT1670T250」、平均繊維径25μm、エポキシ樹脂付着量=0.2重量%〕
【0040】
成分(c):PAN系炭素繊維〔東レ(株)製「トレカT300」〕
【0041】
ガラス長繊維強化ポリプロピレン〔日本ポリプロ(株)製「ファンクスターLR23C」、ガラス含量30重量%〕(比較用材料として使用)
【0042】
(1)最大曲げ応力および曲げ弾性率:
成形により得られた厚み4mm×幅10mm×長さ80mmのバーについて、JIS−K7171に準拠して下記条件で測定を行った。試験速度は2mm/min、支点間距離は64mmとした。
【0043】
(2)アイゾット衝撃強度:
成形により得られた厚み4mm×幅12.7mm×長さ63.5mmのバーについて、JIS−K7110に準拠して下記条件で測定を行った。ノッチ加工の回転数は400rpm、ノッチ加工の送り速度は120mm/min、ハンマー容量は5.5J、測定温度は23℃と−40℃とした。
【0044】
(3)引張破断強度および引張破断伸び:
成形により得られた厚み3.2mm×幅10mmのダンベル型バーについて、JIS−K7161に準拠して試験速度50mm/minで測定を行った。
【0045】
(4)体積固有抵抗:
成形により得られた厚み4mm×幅10mm×長さ80mmのバーについて、両端を切断して長さ60mmとし、切断面に導電ペーストを塗り、体積固有測定用試験片とした。この試験片についてディジタルマルチメータ(横河M&C株式会社製)を使用して抵抗値を測定し、以下の式(1)により体積固有抵抗に換算した。
【0046】
体積固有抵抗(Ω・cm)=[抵抗値(Ω)/試験片長さ(cm)]×試験片断面積(cm)・・・(1)
【0047】
(5)外観:
成形により得られた100mm×100mm×厚さ3mmの平板の表面を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
【0048】
○:繊維分散が良好で、開繊していない繊維の束が殆ど無く、平板表面も平滑である。
△:開繊していない繊維の束が少し見られるか又は平板表面に少し凸凹がある。
×:開繊していない繊維の束が多数見られ、平板表面が荒れている。
【0049】
実施例1〜5及び比較例1〜3:
ポリプロピレンとPET長繊維成分と炭素繊維とを表1に示す配合で使用し、引き抜き成形を行い、長繊維強化ポリオレフィン樹脂ペレットを製造した。製造装置としては、クロスヘッドダイを有する二軸押出機(日本製鋼所(株)製「TEX30」、L/D=42、シリンダー径30mm、シリンダー温度:190〜220℃、クロスダイヘッド温度:220℃)を使用した。なお、ペレット長は8mmとなるように調節した。次いで、得られた長繊維含有ポリオレフィン系樹脂ペレットを、射出成形機に供し、シリンダー温度210℃、金型温度70℃、背圧10kg/cm、スクリュー回転数50rpmにて、平板およびバーを成形した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1及び表2より、本発明によれば、外観に優れ、耐衝撃性などの機械的強度に優れており、更に、導電性を付与した成形品が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂、有機長繊維、炭素繊維を含有して成り、オレフィン系樹脂100重量部に対する、有機長繊維の割合が10〜150重量部、炭素繊維の割合が0.1〜30重量部であることを特徴とする長繊維強化複合樹脂組成物。
【請求項2】
オレフィン系樹脂がプロピレン系樹脂である請求項1記載の長繊維強化複合樹脂組成物。
【請求項3】
有機長繊維が表面に極性樹脂を付着させて成る請求項1又は2に記載の長繊維強化複合樹脂組成物。
【請求項4】
極性樹脂がエポキシ樹脂である請求項3に記載の長繊維強化複合樹脂組成物。
【請求項5】
極性樹脂の付着量が有機長繊維に対して0.01〜5重量%である請求項3又は4に記載の長繊維強化複合樹脂組成物。
【請求項6】
有機長繊維の融点が200℃以上である請求項1〜5の何れかに記載の長繊維強化複合樹脂組成物。
【請求項7】
有機長繊維がポリエステル繊維またはポリアミド繊維である請求項1〜6の何れかに記載の長繊維強化複合樹脂組成物。
【請求項8】
炭素繊維がPAN系炭素繊維である請求項1〜7の何れかに記載の長繊維強化複合樹脂組性物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の長繊維強化複合樹脂組成物を成形して成ることを特徴とする長繊維強化複合樹脂成形品。
【請求項10】
成形法が射出成形法である請求項9に記載の長繊維強化複合樹脂成形品。

【公開番号】特開2009−114332(P2009−114332A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289239(P2007−289239)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】