説明

長繊維金属基複合材料およびこれを含む複合断面部材の製造方法

【課題】製造時間を大幅に短縮できるとともに、強化繊維間のマトリックス金属の充填率を向上させることができる長繊維金属基複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】強化繊維とマトリックス金属とをスパークプラズマ焼結法により焼結する長繊維金属基複合材料の製造方法であって、前記強化繊維からなる強化繊維シートに前記マトリックス金属の粉体粒子を溶射することにより金属被膜を形成し、前記金属被膜が形成された強化繊維シートを複数枚積層し、前記積層された強化繊維シートに積層方向から圧力をかけるとともに、パルス電流を印加して放電プラズマを発生させることにより、前記積層された強化繊維シートを焼結することを特徴とする。これにより、手作業によりマトリックス金属粉を充填する従来の製造方法と比べて、製造時間を大幅に短縮できるとともに、強化繊維間のマトリックス金属の充填率を大幅に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維金属基複合材料およびこれを含む複合断面部材の製造方法に関し、より詳しくは、製造時間を大幅に短縮できるとともに、強化繊維間のマトリックス金属の充填率を向上させることができる長繊維金属基複合材料の製造方法、および部材の機械的強度を低下させることなく、単位重量当たりの部材剛性および曲げ強度に優れる部材を製造することができる長繊維金属基複合材料を含む複合断面部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機の燃料消費量を低減するために、機体を極限まで軽量化することが航空機の設計において重要な課題となっている。さらに、安全性の面からは、機体の耐久性の向上が求められており、特に航空機の降着装置に用いられる構造材料は、着陸のたびに衝撃を受けることから、軽量化とともに、疲労強度の向上が要求される。
【0003】
降着装置の構造材料としては合金鋼、アルミニウム合金、チタン合金等が用いられているが、従来から極限まで軽量化を目指した設計がなされてきたことから、これらの金属材料では、従来よりも大幅な軽量化を図ることは困難である。このため、機体の大幅な軽量化を実現できる素材として、比強度の特性に優れる複合材料が注目されている。
【0004】
複合材料には、高分子基複合材料や金属基複合材料など様々な複合材料があるが、航空機の降着装置の構造材料には、耐異物衝突損傷性が要求されることから、金属基複合材料が適している。さらに、航空宇宙材料等の分野では、軽量、高強度、高耐熱性等の性能が重要視されることから、チタン基複合材料の開発が盛んに進められている。
【0005】
特許文献1には、チタン合金薄板と、一方向に配列されたシリコンカーバイド連続繊維を交互に積み重ね、真空中または不活性ガス雰囲気中にて、加熱温度700〜850℃、圧力5MPa以上、加圧時間10時間以下の条件でホットプレスする連続繊維強化チタン基複合材料の製造方法が提案されている。この方法により製造された連続繊維強化チタン基複合材料は、混合則による理論強度の90%を超える強度を発揮できるとされている。
【0006】
しかし、金属薄板と強化繊維とを積層してホットプレス法により焼結した繊維金属基複合材料は、強化繊維とマトリックス金属の界面の密着性が低いことから、界面の接合強度が低下するという問題がある。
【0007】
このような問題に対応する方法として、例えば、強化繊維とマトリックス金属の界面の密着性を向上させるために、金属薄板に替えて金属粉体を強化繊維間に充填する方法や、ホットプレス法に替えてスパークプラズマ焼結法により、強化繊維と金属粉体粒子とを焼結させる方法が提案されている。
【0008】
図1は、従来の金属粉体を用いた繊維金属基複合材料の製造方法を模式的に説明する図であり、同図(a)は強化繊維と金属粉体の積層方法を説明する図であり、同図(b)は焼結後の繊維金属基複合材料を説明する図である。また、図2は、繊維金属基複合材料の製造に用いるスパークプラズマ焼結装置の一例を模式的に示す図である。繊維金属基複合材料の製造を行うには、図1(a)に示すように、まず焼結材料である強化繊維1とマトリックス金属の粉体2を、交互に積層しながら成型ダイ4とパンチ5からなる型の中に充填する。この充填工程では、マトリックス金属の粉体2は、強化繊維1の間に充填される。
【0009】
次いで、図2に示すように、焼結材料が充填された成型ダイ4およびパンチ5からなる型を、真空チャンバー6内の焼結ステージ7に配置し、パンチ電極8により上下から挟み、加圧装置(図示せず)により、鉛直上下方向(白抜き矢印の方向)から圧力をかけて焼結材料を圧縮する。さらに、焼結材料に圧力をかけた状態で、焼結電源9からのパルス電流をパンチ電極8に印加することにより、火花放電現象による放電プラズマを瞬時に発生させる。
【0010】
このようにして発生する放電プラズマは高エネルギーであり、これらのエネルギーが強化繊維とマトリックス金属の粉体粒子中を高速拡散することにより、強化繊維とマトリックス金属が焼結されて繊維金属基複合材料3が製造される。スパークプラズマ焼結法によれば、主に火花放電による局所的高温状態(放電プラズマ)によって粉体粒子間の急速な昇温が可能である。これにより、強化繊維とマトリックス金属が緻密に接合するので、界面における接合強度を高めることができる。
【0011】
このように、スパークプラズマ焼結法は、金属基複合材料の製造に適した焼結法であり、例えば、特許文献2には、シリコンカーバイド繊維等の金属強化繊維とチタンまたはチタン合金の粉体を用いて、スパークプラズマ焼結法によって繊維金属基複合材料を製造することにより、引張強度やヤング率の高い繊維金属基複合材料の製造方法が提案されている。
【0012】
【特許文献1】特開平7−179962号公報
【特許文献2】特開2005−89807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の通り、強化繊維とマトリックス金属の粉体を交互に積層し、スパークプラズマ焼結法により繊維金属基複合材料を製造する方法によれば、強化繊維とマトリックス金属の界面における接合強度を高めることができるので、焼結時間が短いことによる繊維の強度劣化の抑制とあいまって引張強度の高い繊維金属基複合材料を製造することができる。
【0014】
しかし、強化繊維とマトリックス金属の粉体粒子をスパークプラズマ焼結法により焼結する従来の方法では、マトリックス金属の粉体を手作業により強化繊維間に充填することから、充填工程に多大な時間を要し製造時間の短縮が困難であるとともに、強化繊維の間にマトリックス金属を均一に充填し難いという問題がある。
【0015】
強化繊維は繊維径が極めて小さく、また、繊維金属基複合材料に用いられる強化繊維シートは、強化繊維を狭い間隔で水平に束ねたシート材である。米国Specialty Materials社製のSCS−6では、繊維径約140μmの強化繊維が、約200μm間隔で水平に束ねられている。このように、繊維径が極めて小さく、かつ、極めて狭い間隔で配列されている強化繊維の間に、粒径が約45〜70μmであるマトリックス金属の粉体を手作業により均一に充填する工程には多大な時間を要することから、繊維金属基複合材料の製造時間を短縮することは困難である。
【0016】
さらに、手作業によりマトリックス金属の粉体を充填する方法では、技術者の習熟による作業バラツキが大きいという問題があり、強化繊維の間にマトリックス金属の粉体が均一に充填されず、強化繊維同士が接触した状態で焼結されるおそれがある。繊維金属基複合材料は、単位面積当たりに含有される強化繊維の本数に比例して、繊維方向の引張強度が高くなる。しかし、強化繊維間にマトリックス金属の粉体が充填されず、強化繊維同士が接触した状態で焼結された場合には、繊維方向と異なる方向に対する材料強度が極端に低くなる。
【0017】
一方、航空機の軽量化を図るには、金属材料自体の軽量化のみならず、軽量金属材料を用いた部材を、軽量化に適した形状に設計する必要がある。軽量化に適した形状として、単位重量当たりの部材剛性および曲げ強度が高いH型やI型断面の部材を設計できる。
【0018】
しかし、従来の焼結法では、焼結材料を型に充填した後に、圧力をかけて圧縮ながら焼結を行うことから、製造可能な断面形状が角形等の単純な形状に限られている。このため、H型やI型断面の部材を、焼結後に加工することなく製造することは困難である。さらに、焼結後に加工を行う場合でも、繊維金属基複合材料は、強化繊維自体の硬度が高いことから加工が難しい材料であり、マトリックス金属として、難加工材であるチタンまたはチタン合金等を用いると更に加工が困難となる。また、金属材料同士を溶接することにより、H型やI型断面の部材を製造することも設計できるが、溶接による接合の場合には、溶接熱影響部の材料強度の低下を回避するのは困難である。
【0019】
本発明は、上述した問題に鑑みなされたものであり、製造時間を大幅に短縮できるとともに、強化繊維間のマトリックス金属の充填率を向上させることができる長繊維金属基複合材料の製造方法、および部材の機械的強度を低下させることなく、単位重量当たりの部材剛性および強度に優れる部材を製造することができる長繊維金属基複合材料を含む複合断面部材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、製造時間を短縮でき、かつ強化繊維間のマトリックス金属の充填率を向上させることができる長繊維金属基複合材料の製造方法について検討を行った。その結果、強化繊維とマトリックス金属の界面の密着性を向上させるためには、金属粉体およびスパークプラズマ焼結法を用いることが必要であるという観点に立って、金属粉体の充填に要する時間を短縮できる方法について検討した。
【0021】
そこで本発明者らは、マトリックス金属の粉体粒子を強化繊維または強化繊維シートに溶射することにより、軟化した状態の金属粒子が、強化繊維または強化繊維シートに金属被膜を形成することから、短時間で強化繊維間に金属粉体が均一に充填されることに着目した。
【0022】
また、本発明者らは、部材の機械的強度を低下させることなく、単位重量当たりの部材剛性および強度に優れる部材を製造することができる方法について検討を行った結果、複数の部材を、所望の形状をなすように組み合わせた状態で、スパークプラズマ焼結法により拡散接合することにより、母材と同等の強度を有したまま、任意の断面形状の部材を製造できるという知見を得た。
【0023】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、下記(1)〜(4)の長繊維金属基複合材料の製造方法、および下記(5)〜(7)の長繊維金属基複合材料を含む複合断面部材の製造方法を要旨としている。
(1)強化繊維とマトリックス金属とをスパークプラズマ焼結法により焼結する長繊維金属基複合材料の製造方法であって、前記強化繊維または前記強化繊維からなる強化繊維シートに前記マトリックス金属の粉体粒子を溶射することにより金属被膜を形成し、前記金属被膜が形成された強化繊維または強化繊維シートを積層し、前記積層された強化繊維または強化繊維シートに積層方向から圧力をかけるとともに、パルス電流を印加して放電プラズマを発生させることにより、前記積層された強化繊維または強化繊維シートを焼結することを特徴とする長繊維金属基複合材料の製造方法。
(2)上記(1)に記載の長繊維金属基複合材料の製造方法では、前記マトリックス金属としてチタンまたはチタン合金を用いることにより、複合材料の軽量化が図れるとともに、高拡散性および耐環境性に優れた複合材料を製造できるので望ましい。
(3)上記(2)に記載の長繊維金属基複合材料の製造方法では、チタンとの親和性が高いカーボン層を表面に有するシリコンカーバイド繊維を前記強化繊維として用いれば、強化繊維とチタンとの界面における接合強度を高めることができるので望ましい。
(4)上記(1)〜(3)に記載の長繊維金属基複合材料の製造方法では、製造される長繊維金属基複合材料を航空機の降着装置に用いることにより、航空機を軽量化できるとともに、降着装置の耐久性を向上させることができるので望ましい。
(5)2以上の角形を組合せた断面形状を有する部材である複合断面部材をスパークプラズマ焼結法により製造する方法であって、長繊維金属基複合材料からなる部材を含む2以上の部材を組合せ、前記組み合わされた部材に、前記部材同士が接触する面に垂直な方向から圧力をかけるとともに、パルス電流を印加して放電プラズマを発生させることにより、前記部材同士を拡散接合することを特徴とする長繊維金属基複合材料を含む複合断面部材の製造方法。
(6)上記(5)に記載の長繊維金属基複合材料を含む複合断面部材の製造方法では、複合断面部材の断面形状がH型またはI型であれば、焼結後の加工を要することなく、単位重量当たりの部材剛性および曲げ強度が高い部材を得ることができるので望ましい。
(7)上記(5)または(6)に記載の長繊維金属基複合材料を含む複合断面部材の製造方法では、製造される複合断面部材を航空機の降着装置に用いることにより、航空機を軽量化できるので望ましい。
【0024】
本発明において、「強化繊維シート」とは、強化繊維を水平に一定の間隔を保ちつつ束ねたシート材を意味する。
【0025】
また、「複合断面部材」とは、2以上の角形を組合せた断面形状を有する部材であり、例えば、H型やI型断面のように、単位重量当たりの部材剛性および曲げ強度に優れる部材を意味する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の長繊維金属基複合材料の製造方法によれば、手作業により強化繊維の間にマトリックス金属の粉体を充填する従来の製造方法と比べて、製造時間を大幅に短縮することが可能となる。さらに、溶射によりマトリックス金属の被膜が形成された強化繊維または強化繊維シートを用いることから、強化繊維間のチタン充填率を向上させることができるので、高い引張強度を有する長繊維金属基複合材料を得ることができる。
【0027】
また、本発明の長繊維金属基複合材料を含む複合断面部材の製造方法によれば、製造可能な断面形状が角形に限られていた従来の焼結法とは異なり、H型やI型断面のように、単位重量当たりの部材剛性および曲げ強度に優れる部材の製造が可能となる。さらに、溶接とは異なり、母材自身を溶かすことなく拡散接合させることから母材と同等の強度を有する複合断面部材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の長繊維金属基複合材料の製造方法は、強化繊維または強化繊維シートにマトリックス金属粒子を溶射することにより金属被膜を形成し、この金属被膜が形成された強化繊維シートを積層し、積層された強化繊維または強化繊維シートに積層方向から圧力をかけるとともに、パルス電流を印加して放電プラズマを発生させることにより、積層された強化繊維または強化繊維シートを焼結することを特徴とする。
【0029】
このように、焼結法として、スパークプラズマ焼結法を用いるのは、従来から用いられてきたホットプレス焼結法や熱間等方加圧焼結法などの焼結法に比べて、低温度域かつ短時間かつ低加圧力での焼結が可能となるとともに、瞬間的に発生する放電プラズマにより粉体粒子間が加熱される。これにより、強化繊維とマトリックス金属が強固に接合することから、強化繊維とマトリックス金属の界面の接合強度が高くなるので、焼結時間が短いことによる繊維の強度劣化の抑制とあいまって高引張強度の繊維強化複合材料を得ることができる。
【0030】
図3は、本発明の長繊維金属基複合材料の製造方法を模式的に説明する図であり、同図(a)は金属被膜が形成された強化繊維シートの積層方法を説明する図であり、同図(b)は焼結後の繊維金属基複合材料を説明する図である。ここでは、強化繊維を水平に一定の間隔を保ちつつ束ねた強化繊維シートを用いる。繊維金属基複合材料の製造を行うには、図3(a)に示すように、まず金属被膜が形成された強化繊維シート10を、成型ダイ4とパンチ5からなる型の中に積層する。次いで、前記図2に示した焼結装置を用いて、加圧装置(図示せず)により、鉛直上下方向(白抜き矢印の方向)から圧力をかけて積層された強化繊維シート10を圧縮する。積層された強化繊維シート10に圧力をかけた状態で、パルス電流を印加することにより、火花放電現象による放電プラズマを瞬時に発生させる。これにより、積層された強化繊維シート10同士が焼結されて繊維金属基複合材料3が製造される。
【0031】
このように、本発明の長繊維金属基複合材料の製造方法では、手作業により強化繊維の間にマトリックス金属の粉体を充填する従来の製造方法とは異なり、マトリックス金属の金属被膜が形成された強化繊維シートを積層することから、金属粉体の充填する工程に時間を要することがないので、繊維金属基複合材料の製造時間を短縮することができる。
【0032】
本発明の長繊維金属基複合材料の製造方法は、溶射によりマトリックス金属の被膜が形成された強化繊維シートをスパークプラズマ焼結することにより、製造時間を短縮でき、かつ強化繊維間のマトリックス金属の充填率を向上できる方法であることから、Fe、Cu、Al、Mo、Ti等のスパークプラズマ焼結法の対象材料となる金属に適用できる。しかし、航空機の降着装置に用いる場合には、軽量化、機械的強度の向上および耐環境性(耐食性)が要求されることから、マトリックス金属としてチタンまたはチタン合金を用いることが望ましい。チタン合金としては、例えば、Ti−6Al−4Vを用いることができる。また、マトリックス金属の粉体粒子の粒径は、後述するシリコンカーバイド繊維(SCS−6;米国Specialty Materials社製のシリコンカーバイド繊維)とチタンから長繊維チタン基複合材料を製造する場合には、粒径が約45〜70μmのチタン粒子を用いることができる。
【0033】
本発明の長繊維金属基複合材料の製造方法では、強化繊維は特に限定しないが、マトリックス金属としてチタンまたはチタン合金を用いる場合には、シリコンカーバイド繊維を用いることが望ましい。シリコンカーバイド繊維は、繊維径約80〜140μmの連続繊維であり、コアであるカーボン繊維の表面にSiC(炭化ケイ素)が化学蒸着法によりコーティングされており、さらにSCS−6の場合最外表面にはカーボンがコーティングされている。このように、シリコンカーバイド繊維は、最外表面にカーボンがコーティングされていることから、チタンまたはチタン合金との化学的適合性に優れており、チタン基複合材料の強化繊維として最も使用されている繊維である。
【0034】
例えば、SCS−6は、繊維径140μmの強化繊維であり、引張強度3450MPa、弾性率は380GPaであることから、チタン基複合材料の連続繊維として好適である。
【0035】
本発明の長繊維金属基複合材料の製造方法では、強化繊維にマトリックス金属の粉体粒子を溶射する方法は特に限定するものではなく、燃焼ガス式溶射やプラズマ式溶射等が適用できる。プラズマ式溶射により、シリコンカーバイド繊維(SCS−6)にチタンの粉体粒子を溶射する場合における溶射条件の一例を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示す溶射条件で、チタンの粉体粒子をシリコンカーバイド繊維シートに溶射することにより、前記シートに膜厚30μmのチタン被膜が形成されることが確認されている。したがって、プラズマ式溶射により、繊維径140μmのシリコンカーバイド繊維シートの両面にチタンの粉体粒子を溶射することにより、厚さ200μmのチタン被膜が形成されたシリコンカーバイド繊維シートを製造することができる。
【0038】
このように、本発明の長繊維金属基複合材料の製造方法では、手作業により強化繊維の間にマトリックス金属粉を充填する従来の製造方法とは異なり、強化繊維シートにマトリックス金属の粉体粒子を軟化した状態で溶射することから、強化繊維の間にマトリックス金属を均一に充填することができる。これにより、強化繊維同士が接触した状態で焼結されるのを回避できることから、繊維方向と異なる方向に対する材料強度を確保することが可能となる。
【0039】
なお、上記の実施形態では、強化繊維シートにマトリックス金属粒子を溶射することにより金属被膜を形成し、この金属被膜が形成された強化繊維シートを積層して、スパークプラズマ焼結法により焼結させるようにしているが、強化繊維単体を用いても構わない。つまり、強化繊維にマトリックス金属粒子を溶射することにより金属被膜を形成し、この金属被膜が形成された強化繊維を水平に配列させつつ積層し、スパークプラズマ焼結法により焼結させるようにしてもよい。
【0040】
本発明の複合断面部材の製造方法は、長繊維金属基複合材料からなる部材を含む2以上の部材を組合せ、これらの組み合わされた部材に、部材同士が接触する面に垂直な方向から圧力をかけるとともに、パルス電流を印加して放電プラズマを発生させることにより、部材同士を拡散接合することを特徴とする。このように、2以上の部材を組合せた状態で、スパークプラズマ焼結法により拡散接合することから、焼結後の加工を要することなく、所望の断面形状を有する部材を得ることができる。これにより、チタンまたはチタン合金等のいわゆる難加工材をマトリックス金属とする長繊維金属基複合材料から、H型断面やI型断面といった単位重量当たりの部材剛性および曲げ強度が高い部材を製造することが可能となる。
【0041】
図4は、本発明の複合断面部材の製造方法を模式的に説明する図であり、同図(a)は接合する部材の組合せ方法を説明する図であり、同図(b)は焼結後の部材を説明する図である。部材の接合を行うには、まず接合する部材同士を所望の形状に組み合わせる。図4に例示するように、H型の複合断面部材を製造する場合には、フランジ部材11とウェブ部材12がH型形状をなすように組合せて、成型ダイ4とパンチ5からなる型の中に装入する。なお、部材を組合せる際には、接合が促進されるように、研磨等により、部材の表面を滑らかにするのが望ましい。
【0042】
次いで、前記図2に示した焼結装置を用いて、加圧装置(図示せず)により、鉛直上下方向(白抜き矢印の方向)から圧力をかけて組み合わせた部材を圧縮する。組み合わせた部材に圧力をかけた状態で、パルス電流を印加することにより、火花放電現象による放電プラズマを瞬時に発生させる。これにより、部材の接触する面同士が拡散接合されて所望の形状を有する複合断面部材13が製造される。
【0043】
このように、本発明の複合断面部材の製造方法は、2以上の部材を組合せた状態で、パルス電流の印加と加圧を同時に行うことにより、材料の原子の拡散現象を利用して接合する方法であり、原子の結びつきによる接合であることから、加圧部全体で接合される。本発明の複合断面部材の製造方法によれば、母材自身を溶かすことなく、部材の接触する面同士を接合することができるので、母材と同等の強度を有する部材の製造が可能となる。
【0044】
複合断面部材を製造する場合には、複合断面部材を構成する部材全てに長繊維金属基複合材料を用いることも、部材の一部に長繊維金属基複合材料を用いることも可能である。例えば、前記図4で例示したH型の複合断面部材を製造する場合には、フランジ部材11に長繊維金属基複合材料を用いて、ウェブ部材12には強化繊維を含まない金属材料を用いることができる。
【0045】
また、本発明の複合断面部材の製造方法は、接合できる材質も広範囲であり、かつ異種材料の接合も可能である。このように、異種材料同士を接合できることから、例えば、H型断面のうちフランジ部材のみに高価な長繊維チタン基複合材料を使用し、ウェブ部材には安価な材料を使用するというような経済性に優れた部材の製造も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の長繊維金属基複合材料の製造方法によれば、手作業により強化繊維の間にマトリックス金属粉を充填する従来の製造方法と比べて、製造時間を大幅に短縮することが可能となる。さらに、溶射によりマトリックス金属の被膜が形成された強化繊維または強化繊維シートを用いることから、強化繊維間のチタン充填率を向上させることができるので、高い引張強度を有する長繊維金属基複合材料を得ることができる。
【0047】
また、本発明の複合断面部材の製造方法によれば、製造可能な断面形状が角形に限られていた従来の焼結法とは異なり、H型やI型断面のように、単位重量当たりの部材剛性および曲げ強度に優れる部材の製造が可能となる。さらに、溶接とは異なり、母材自身を溶かすことなく接合させることから母材と同等の強度を有する部材を製造することができる。
【0048】
これらにより、軽量かつ高引張強度が構造材料に要求される航空機材料の分野において広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】従来の金属粉体を用いた繊維金属基複合材料の製造方法を模式的に説明する図であり、同図(a)は強化繊維と金属粉体の積層方法を説明する図であり、同図(b)は焼結後の繊維金属基複合材料を説明する図である。
【図2】繊維金属基複合材料の製造に用いるスパークプラズマ焼結装置の一例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の長繊維金属基複合材料の製造方法を模式的に説明する図であり、同図(a)は金属被膜が形成された強化繊維シートの積層方法を説明する図であり、同図(b)は焼結後の繊維金属基複合材料を説明する図である。
【図4】本発明の複合断面部材の製造方法を模式的に説明する図であり、同図(a)は接合する部材の組合せ方法を説明する図であり、同図(b)は焼結後の部材を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
1.強化繊維 2.マトリックス金属の粉体
3.繊維金属基複合材料 4.成型ダイ
5.パンチ 6.真空チャンバー
7.焼結ステージ 8.パンチ電極
9.焼結電源 10.金属被膜が形成された強化繊維シート
11.フランジ部材 12.ウェブ部材
13.複合断面部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維とマトリックス金属とをスパークプラズマ焼結法により焼結する長繊維金属基複合材料の製造方法であって、
前記強化繊維または前記強化繊維からなる強化繊維シートに前記マトリックス金属の粉体粒子を溶射することにより金属被膜を形成し、前記金属被膜が形成された強化繊維または強化繊維シートを積層し、前記積層された強化繊維または強化繊維シートに積層方向から圧力をかけるとともに、パルス電流を印加して放電プラズマを発生させることにより、前記積層された強化繊維または強化繊維シートを焼結することを特徴とする長繊維金属基複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記マトリックス金属がチタンまたはチタン合金であることを特徴とする請求項1に記載の長繊維金属基複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記強化繊維がシリコンカーバイド繊維であることを特徴とする請求項2に記載の長繊維金属基複合材料の製造方法。
【請求項4】
製造される長繊維金属基複合材料を航空機の降着装置に用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の長繊維金属基複合材料の製造方法。
【請求項5】
2以上の角形を組合せた断面形状を有する部材である複合断面部材をスパークプラズマ焼結法により製造する方法であって、
長繊維金属基複合材料からなる部材を含む2以上の部材を組合せ、前記組み合わされた部材に、前記部材同士が接触する面に垂直な方向から圧力をかけるとともに、パルス電流を印加して放電プラズマを発生させることにより、前記部材同士を拡散接合することを特徴とする長繊維金属基複合材料を含む複合断面部材の製造方法。
【請求項6】
前記複合断面部材の断面形状がH型またはI型であることを特徴とする請求項5に記載の長繊維金属基複合材料を含む複合断面部材の製造方法。
【請求項7】
製造される複合断面部材を航空機の降着装置に用いることを特徴とする請求項5または6に記載の長繊維金属基複合材料を含む複合断面部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−297567(P2008−297567A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141552(P2007−141552)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【出願人】(391006234)社団法人日本航空宇宙工業会 (45)
【Fターム(参考)】