説明

閉じられた反応物供給システムを有する燃料電池を動作する方法

燃料電池システムは、燃料電池への、酸化剤供給圧力よりも大きい燃料供給圧力を有して作動する。これは、燃料電池システムが燃料側において閉じられた場合、特に改良された性能を与える。燃料過圧の大きさは、燃料電池作動パラメータにおける変化にしたがって変化し得る。このシステムは、反応物供給システムを備え、燃料電池スタックを介して燃料の流れを方向付けるための燃料通路および、酸化剤の流れを方向付けるための酸化剤通路を備えている。燃料供給圧力は、酸化剤供給圧力よりも、少なくとも一部の時間において、少なくとも5psig大きく、反応物供給システムの燃料側は、一部の時間において、少なくとも閉じられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願では、2003年3月3日に出願された米国仮特許出願番号60/451,943および、2003年3月7日に出願された米国仮特許出願番号60/453,027の利益を主張し、当該二つの仮出願の全体はここに援用される。
【0002】
本発明は、燃料電池に関し、特に、閉じられた燃料供給システムを有する燃料電池作動の方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
電気化学燃料電池は、燃料および酸化剤を電気へと変換する。固体ポリマー電気化学燃料電池は、例えば炭素繊維紙もしくは炭素生地のように、多孔性で電気的に導電性のシート材料の層を典型的に含んでいる二つの電極の間に配置された、イオン交換電解質膜もしくは固体ポリマー電解質を含む、一般的に電解質膜電極アセンブリー(「MEA」)を採用する。MEAは、所望の電気化学反応を生じさせるために、それぞれの電解質膜/電極の接触面において、典型的には細かく粉砕された白金の形態における触媒の層を含む。作動において、電極は、外部回路を介して電極の間に電子を導くための回路を提供するために電気的に連結されている。典型的には、多数のMEAは、所望の電力出力を有する燃料電池スタックを電気的に形成するために、直列的に連結されている。
【0004】
典型的な燃料電池においては、MEAは、二つの電気的に導電性の流動領域板(fluid flow field plate)もしくは分離機板の間に配置される。流動領域板は、そこにおいて少なくとも主な平らの表面の一つにおいて形成される、少なくとも一つの流れの通路を有する。流れの通路は、それぞれの電極、すなわち、燃料側においてアノードおよび、酸化剤側においてカソードへ、燃料および酸化剤を導く。流動領域板は、集電の機能を果たし、電極のための支援を提供し、それぞれのアノードへおよびカソードの表面へ、燃料および酸化剤のためのアクセスチャンネルもしくは通路を提供し、そして、例えば、電池の作動の間に形成された水のように、反応生成物の除去のための通路を提供する。
【0005】
所定の燃料電池は、一つもしくは両方の反応物における、閉じられた様態において作動するように設計されている。閉じられた反応物供給システムは、新鮮な反応物の追加を有した燃料電池ではあるが、燃料電池出口から燃料電池入口まで、反応物排出ガスの流れの閉ループ再循環を用いるシステムだけでなく、反応物流出通路が一般的に閉じられているデッドエンド式の配置を含む。これらの状況において、閉じられた側において利用された反応物は、一般的に実質的に、純粋である。典型的には、パージバルブ(閉じられたシステム動作においては標準的には閉じられている)は、非反応性成分の蓄積の定期的な排出のために、反応物流出通路のどこかに提供され、それは、閉じられたシステムの動作において、反応物通路の中に蓄積し得る。従来の燃料電池パージシステムにおいて、パージバルブは、例えば、手で、時々開かれるか、もしくは規則的で一定の時間間隔で開かれる。あるいはまた代替として、例えば、スタックにおいて一つもしくはそれ以上の電圧もしくは電力出力が、所定の閾値を割る場合(例えば、GB特許番号1223941を参照)、もしくは、電力出力において所定の減少がある場合(例えば、米国特許番号3,553,026を参照)、もしくは、燃料電池が所定数のアンペアアワーを消費した後(例えば、米国特許番号3,697,325を参照)、パージが引き起こされる。燃料電池スタックを介した反応物流出路は、非反応(non−reactive)物成分が、スタックにおけるそれぞれの電池の流出口の領域においてよりも、スタックにおけるたった一つ、もしくは2,3の燃料電池の中に、最初に蓄積される傾向にあるがゆえ、構成され得る。パージシステムはコントローラーを介してコントロールされ得る(例えば、共有の米国特許出願公開番号2003/0022041を参照)。
【0006】
しかしながら、パージングは、閉じられた反応物供給システムを有する燃料電池の性能を改良することができるが、パージング装置が必要とされるので、有用な燃料を消費し、システムにおいて寄生的負荷を増加する。そのうえ、水素のあたり一面への放出は所望され得ない。したがって、パージングが必要のない、閉じられた反応物供給システムを有する燃料電池の作動の改良された方法の必要性が残る。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な概要)
本方法は、燃料電池、特に、閉じられた燃料供給システムを有する燃料電池を作動する方法に関する。
【0008】
一実施形態において、少なくとも一つの燃料電池スタックを含む、燃料電池システムを作動するための方法であって、そのスタックは少なくとも一つの燃料電池を含み、そのシステムはさらに反応物供給システムを含み、その反応物供給システムは、スタックを介して燃料を導くための燃料通路および、スタックを介して酸化剤を導くための酸化剤通路を含み、その方法は、酸化剤供給圧力において、酸化剤通路へ酸化剤を供給することと、燃料供給圧力において、燃料通路へ燃料を供給することとを含み、その燃料供給圧力は、一部の時間において少なくとも、酸化剤供給圧力よりも、少なくとも5psig大きく、反応物供給システムの燃料側が、少なくとも一部の時間において、閉じられている。
【0009】
一部の実施形態において、燃料電池は、固体ポリマー電解質燃料電池および反応物の流れである水素と空気であり得る。
【0010】
一部の実施形態において、作動の間、燃料供給圧力は、常に少なくとも5psig、酸化剤供給圧力よりも大きく、また、酸化剤供給圧力よりも、約5psigから30psigの間で大きくあり得る。別の実施形態においては、燃料供給圧力は、酸化剤供給圧力よりも、断続的に、少なくとも5psig大きくあり得る。さらに別の実施形態においては、反応物供給システムの燃料側が閉じられている場合、燃料供給圧力は、酸化剤供給圧力よりも、少なくとも5psig大きい。
【0011】
一部の実施形態において、燃料供給圧力は変化し得、その変化は実質的に一定の頻度であり得、もしくは、電力流出燃料電池システムに基づき得るか、もしくは、燃料電池の性能を示すパラメータに基づき得る。別の実施形態においては、燃料供給圧力は、その燃料電池システムの終了時および/または開始時の間のように、異なる作動フェーズの間に、変化し得る。
【0012】
一部の実施形態において、反応物供給システムの燃料側は、少なくとも一つの燃料電池の燃料側をデッドエンド式にしておくことなどによって、常に閉じられている。別の実施形態において、反応物供給システムの燃料側は、スタックを介して、燃料を再循環させるための再循環ループを含む。さらに別の実施形態において、反応物供給システムの燃料側は、スタックから燃料の一部を放出するために定期的に開かれ得るパージバルブを含む。さらに別の実施形態においては、反応物供給システムの燃料側が、それぞれの燃料電池の燃料側をデッドエンド式にしておくことのように、複数の場所で閉じられ得る。さらなる実施形態において、燃料電池システムは、第1のスタックの下流において直列で燃料を受け取るために、流体的に接続される、第1のスタックおよび第2のスタックを含み、そこにおいて、第2のスタックの燃料通路は、少なくとも一部の時間において、デッドエンド式である。
【0013】
本方法のこれらおよび他の局面は、添付された図および次の詳細な説明への参照によって明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図において、同一の参照番号は、類似した要素もしくはアクトと同一なものとして扱う。図において、部品のサイズおよび相対的な位置は必ずしもスケールどおりに描かれているわけではない。例えば、様々な部品と角度の形はスケールどおりに描かれてはおらず、また、これらの部品の一部は、任意に拡大され、また、図の見やすさを改善するために配置されている。さらに、描かれているように、部品の特定の形は、その特定の部品の実際の形に関して情報を伝えるために意図されてはおらず、また、図において単に、認識し易さのために選ばれている。
【0015】
以下に続く詳細な記述において、本発明における様々な実施形態についての綿密な理解を提供するために、その特定の詳細が説明される。しかしながら、当業者は、本発明がこれらの詳述なしに実施されうることを理解するであろう。他に、燃料電池スタックや燃料電池システムに関連付けてよく知られている諸構造は、本発明についての実施形態の記述を不必要に分かりにくくすることを避けるために、詳細に記述されていない。
【0016】
別段の要求がない限り、明細書および請求項の全てにおいて、"備える"という言葉、もしくは、例えば"備える"や"備えている"といったような派生語は、“含むが限定されない”といったようなオープンで包括的な意味に解釈される。
【0017】
図1は燃料電池システム10、主に燃料電池スタック12および電気的燃料電池コントロールシステム14を示している。燃料電池スタック12は、18a、18bという対になった端板の間に配置された燃料電池アセンブリー16を多く含み、燃料電池アセンブリー16の一つは、燃料電池アセンブリー16の構造をより良く説明するために燃料電池スタック12から部分的に取り除いてある。連結棒(図には表れていない)は端板である18aおよび18bとの間に達しており、様々な構成部分への圧力が加わることによって偏った端板18a、18bを、締め付けナット17と協同している。
【0018】
それぞれの燃料電池アセンブリー16は、イオン交換電解質膜26によって分離された二つの電極であるアノード22およびカソード24を含んだ電極アセンブリー20の電解質膜を含んでいる。電極22,24は多孔性で、電子的には導電性で薄板の物質であり、例えば、炭素繊維紙や布といった、反応物に対して浸透性をもつものである。電極22,24のそれぞれはそれぞれの電極が電気化学的に活性になるように、例えば白金の厚い層などの触媒27によって、イオン交換電解質膜26に隣接している表面が覆われている。
【0019】
燃料電池アセンブリー16はまた、電極アセンブリー20の電解質膜を間にはさんでいる対の分離器もしくは流動領域板を含んでいる。図に表された実施形態において、流動領域板28のそれぞれは、個々にアノード22には燃料を、カソード24には酸化剤を運ぶために、電極22,24の関連付けられた一つに隣接している流動領域板28の平らな表面にて形成される一つもしくはそれ以上の反応物通路30を含んでいる。(流動領域板28の一枚における反応物通路30は図1において見ることができる。)酸化剤を運ぶ反応物通路30はまた、排気を運び、そしてカソード24から水を排出する。以下でさらに詳細を記すように、燃料スタック12は、閉じた燃料供給形態において作動するように設計されており、このように実質的には、作動中それに供給された水素燃料の全ては消費され、システム10における通常の動作においてスタック12から水素が運び出されることは殆どない。
【0020】
流動領域板28のそれぞれは、反応物通路30を有する平らな表面の反対側に、流動領域板28の平らな表面に形成された冷却水路32の大多数を含みうる。スタックが組み立てられると、燃料電池アセンブリー16に隣接するそれぞれの冷却水路32は、閉じられた冷却水路32がそれぞれの電極アセンブリー20の電解質膜の間に形成されるように協同する。冷却水路32は、燃料電池スタック12を通って、冷却流動体を送る。冷却水路32は、互いに一直線であり、また並行してあり得、冷却水路の入り口および出口が板28のそれぞれの端に位置するように、それぞれの板28を横切る。
【0021】
図に表された燃料電池システムがそれぞれの燃料電池アセンブリー16における二つの流動領域板28を含む一方で、システムは、電極アセンブリー20の隣接した電解質膜の間に、単一の両極流動領域板(図に表されていない)をその代わりに含む。そのようなシステムにおいて、両極板の片面の通路は、一つの隣接電解質膜電極アセンブリー20のアノードへ燃料を運び、一方、その板の別の片面における通路は、別の隣接電解質膜電極アセンブリー20のカソードへ酸化剤を運ぶ。そのようなシステムにおいて、冷却剤(例えば、液体もしくは冷却用空気といった気体など)を運ぶための通路を有した追加の流動領域板28は、スタック12の十分な冷却を供給することが必要とされた時に、燃料電池スタック12の至る所に配置され得る。
【0022】
端板18aは、燃料電池スタック12へ供給燃料の流れを導くために、燃料流入引き込み口(図には表れていない)を含む。端板18bは、第一に水、および反応しない構成部分と不純物を含む燃料電池スタック12から消耗した燃料の流れを排出するために、燃料流出口35を含む。燃料流出口35は通常閉じた燃料供給システム動作でのバルブを用いて閉じられている。
【0023】
それぞれの燃料電池アセンブリー16は、スタック12の幅を延ばしている内部燃料供給および排出多岐管(図には表されていない)を形成するために、隣接アセンブリー16において対応した通路と協同するため、その中に形成された開口部を有している。燃料流入口は、個々に、燃料供給と排出多岐管との流体的接触の中にある個々の反応物通路30を経由して、液体流出口35に流体的に接続されている。
【0024】
端板18bは、燃料電池スタック12へ供給空気(酸化剤の流出)を導くために、酸化剤流入口37を含み、また、燃料電池スタック12から消耗した空気を排出するために、酸化剤流出口39を含む。それぞれの燃料電池アセンブリー16は、開口部31,34を有しており、スタック12の幅を伸ばしている内部燃料供給および排出多岐管を形成するために、その中で隣接した燃料電池アセンブリー16に対応した開口部と協同している。酸化剤流入口37は、個々に、燃料供給と排出多岐管との流体的接触の中にある個々の反応物通路30を経由して、酸化剤流出口39と流体的に接続されている。
【0025】
図2にて示されるように、燃料はカスケードな流れのパターンで燃料電池スタック12を通して導かれうる。燃料電池アセンブリー16における最初のセット11は、燃料がそのセットの中で、一般的には燃料電池スタック12を介した冷却剤の流れの方向とは正反対に流れるとともに、同時発生的で平行方向(矢印13によって表されている)に流れるように配置されている。2つの燃料電池アセンブリー16の、次のセット15を通った燃料の流れは、最初のセット11における燃料の流れに関して直列であり、燃料電池スタック12を通った冷却剤の流れの方向と一般に一致しているセット15内部においては、同時発生的で並列方向にある(矢17によって表されている方向で)。2つの燃料電池アセンブリー16の最後のセット19を通った燃料の流れは、第1および第2のセット11,15と直列であり、セット19(矢21で表されている方向で)の内部においては、同時発生的に並列方向にあり、一般に燃料電池スタック12を通った冷却剤の流れと正反対である。酸化剤は、燃料電池スタック12を通った冷却剤の流れのように同じ全体的な方向において、並行に燃料電池のそれぞれに供給される。
【0026】
代替的な構成において、燃料電池スタック12を“デッドエンド式にする”よりもむしろ、システムは、デッドエンド式でありまた(反応物の流れの方向に関して)下流にあり、そして、燃料電池スタック12へと流体的に接続される2つ目の燃料電池スタックを含みうる。またさらに代替的な構成において、図1において表されたように、1つの位置(例えば、燃料流出口35を閉じることによって、など)で、燃料電池スタック12をデッドエンド式にするよりもむしろ、燃料電池スタック12は反応物通路30に沿って、多くの位置でデッドエンド式になりうる。例えば、個別の燃料電池アセンブリー16のいくつかか全てはデッドエンド式にされうるか、または、燃料電池スタック12は多くの部分へと分割され得、それぞれは燃料を供給され、分離的にデッドエンド式にされる。
【0027】
それぞれの電極電解質膜アセンブリー20は、アノード22およびカソード24との間の公称電位差を生み出すように設計されている。反応物(水素と空気)は反応物通路30を介してイオン交換電解質膜26の片側で電極22,24に供給される。水素はアノード22へ供給され、白金触媒27は陽子と電子との分離を促進させ、外部の回路(図には表れていない)を介して有用な電気として通過する。電極アセンブリー電解質膜20の正反対側において、空気は反応物通路30を介して、生産水を生産するためにイオン交換電解質膜26を通過し、空気中の酸素が陽子と反応するカソード24へと流れる。
【0028】
図1と継続的に関連して、電気制御システム14は、回路基板38に様々な電気的、または電子的な構成部分、および、燃料電池システム10を介して配置された様々なセンサー44およびアクチュエーター46を含む。回路基板38は、燃料電池システム作動を実行するために適切にプログラムされ、または構成されている超小型演算装置またはマイクロコントローラー40を搭載している。マイクロコントローラー40は、AtmelCorporation(San Jose, California)から利用可能であるAtmel AVR RISCマイクロコントローラーという形態をとる。電気制御システム14はまた、例えばマイクロコントローラー40のEEPROM部分、もしくは、個別の不揮発性コントローラー読み取り可能媒体などの永続的記憶装置42も含む。
【0029】
マイクロコントローラー40はセンサー44から入力を受け取り、そしてアクチュエーター46へ出力を供給するために連結される。入力および/または出力は、デジタルおよび/またはアナログの信号の形式を取り得る。再充電可能バッテリー47は、燃料電池スタック12が電子コントロールシステム14へ十分な電力を供給することができるまで、電子コントロールシステム14に電力を供給する。マイクロコントローラー40は、燃料電池システム動作の間の、および/または、バッテリー47を再充電するための燃料電池動作の間、電力のスイッチを切り替えるために、燃料電池スタック12とバッテリー47との間を選択的に連結可能である。
【0030】
理論によって拘束されず、空気で動作し、閉じた燃料供給を有する燃料電池アセンブリー16内に存在する状態が記述される。安定した状態を仮定すれば、電解質膜26を越えて窒素が最終的に拡散することはない。アノード入り口12付近では、燃料の流れの中で窒素のモル分率は、相対的に少量の窒素が電解質膜26を越えて拡散し燃料通路へ入るのと同じくらい少ない。燃料がアノード22の長さに沿って消費されるとき、窒素のモル分率は増加する。窒素の対流性のマスフローおよび燃料電池アセンブリー16における燃料の消費のために、アノード22の出口付近での窒素のモル分率はカソード24における窒素のモル分率よりも大きくなり得、その場合、窒素は電解質膜26を越えて、カソード側へ逆拡散する。安定した状態では、電解質膜を横切り、窒素濃度勾配の総体(カソードからアノードへ拡散させる)は、その対応する窒素濃度勾配の総体(アノードからカソードへ拡散させる)と等しい。
【0031】
アノードの排出ガスを再利用しないデッドエンド式のシステムでは、アノード22の出口近くの窒素のモル分率は、空気中での窒素のモル分率を上回る。このように、窒素濃度の勾配はアノード22に存在する。濃度勾配の大きさは、アノード流出領域の中の燃料の速度および燃料の化学量論を含んだ要因によって影響される。アノード22の中の燃料の速度の増加は、濃度勾配を増加させながら、アノード22の出口に向かって、窒素の対流的マスフローを増加させる。燃料の速度は、アノード22に関しての圧力低下や、燃料電池アセンブリー16の増加する動作圧、高負荷などの要因により増加する。燃料の化学量論の減少はまた、窒素濃度勾配を増加させる。実際には、燃料の化学量論が1である場合において、基本的にアノード22における燃料の全てが消費され、そしてアノード22の出口付近の窒素のモル分率は均一に近づく。
【0032】
アノードの排出ガスが定期的に再利用されるか、排出ガスの一部が再利用される場合には、窒素濃度勾配は減少するが、しかしアノード22の出口付近の窒素濃度は、カソードの窒素濃度よりも依然として大きくあり得る。アノードの排出ガスの継続的な再利用とともに、濃度勾配は実質的に除去され得るが、しかしアノードの流出領域の中での窒素濃度は、カソードの流出領域の中の窒素濃度と等しい。
【0033】
拡散した窒素はアノード22の反応を妨げ(燃料が薄くなるために)、そして最終的には、燃料電池アセンブリー16の性能を容認できないレベルまで引き下げ得る。
【0034】
本方法に従い、十分に高レベルで燃料供給圧力を維持することによって、窒素のモル分率は燃料のモル分率を十分に下回り、そして、アノード反応を維持するための十分な燃料がある(例えば水素)。本方法に従い、少なくとも数回の動作期間の間、燃料は少なくとも5psigの過度の圧力で供給される(すなわち燃料の過圧は、燃料電池アセンブリーへの、燃料供給圧力と酸化剤供給圧力との間の違いに等しい)。5psigよりも大きい過圧はまた、電解質膜26を越えて窒素拡散を克服するのみならず、様々な理由で、はるかに有益であり得、燃料電池システム10の性能と信頼性とを改善し得る。例えば、増加した燃料供給圧力は触媒の活動を改善することが知られている。本方法に従い使用されている燃料過圧の大きさは、燃料電池システム10の部品と構成、特に増加した燃料過圧への密閉と電解質膜26の耐性によって制限され得る。
【0035】
温度や他の動作状態は、特定のスタック構成のために最適化され得る。例えば、本方法を採用することによって、燃料電池システム10を、燃料電池システム10が本方法なしで作動される場合に実施されるときよりも、より高温運転で作動させることが可能となり得る。増加した運転温度は、アノードでの水管理を改善することによって、閉じた燃料供給システムを有する燃料電池システムの性能を改善し得る。
【0036】
前述の議論が、燃料電池のアノードの空間への窒素の拡散に関係している一方で、燃料電池電解質膜を越えて拡散する酸化剤の流れの中で存在している別の不活性で非反応性の要素に関して、同じ原則が適用されると理解されている。
【0037】
本方法の一実施形態では、燃料は5psigより大きな過圧で、継続的にスタック12へと供給される。別の実施形態においては、燃料供給圧力は変化され得るため、燃料が時折5psigよりも多く過圧されて供給される、一方で、別の場合は、燃料は5psigよりも多く過圧されて供給されない。さらに別の場合、燃料過圧は、5psigの過圧とそれよりも大きい過圧との間で変化され得る。その変化は一定の頻度、もしくは、断続的(可変の頻度)であり得、また、燃料電池システム10の一時的な動作状態に独立もしくは依存し得る。例えば、過圧は動作の開始から所定の間隔で変化され得る。別の実施形態では、燃料過圧の使用もしくは大きさは、センサー44によって受信された入力に応じて、マイクロコントローラー40により制御され得る。一実施形態において、センサー44は、例えば、燃料の枯渇が生じたときに感知するといったように、一つもしくはそれ以上の電池の電圧などの、スタックもしくは電池性能を示す一つかそれ以上のパラメーターをモニターしている。類似的に、過圧の使用もしくは大きさはまた、例えば、燃料電池システムの開始時もしくは終了時の間など、燃料電池システム10の様々な動作段階の間で異なり得る。類似的に、過圧の使用もしくは大きさは、燃料電池システム10の負荷もしくは電力出力に応じて変化され得る。例えば、過圧は、全負荷の状態の間よりも、負荷がないもしくは部分的負荷の状態の間は、より減少され得る。その上、負荷状態の変化の割合は、所望の過圧、例えば一時的な状態などに影響し得る。
【0038】
上記で論じられたように、燃料が消費されるときに、燃料通路を介した燃料の流れのために、非反応性の成分は、燃料電池スタック12がデッドエンド式である場所付近に蓄積する傾向がある。これは、結果として、その場所における燃料電池アセンブリー16の容認できない性能になり得る。それゆえ、さらに別の実施形態では、例えば、デッドエンド式である第二の燃料電池スタックを含むシステム、もしくは、燃料の流れる通路に沿って多くの箇所で燃料電池スタック12がデッドエンド式であるような、上記で説明されたシステム構成は、そのような効果を緩和するために用いられる。例えば、デッドエンド式であり、また、第1の燃料電池スタックへ流体的に下流接続(反応物の流れの方向に関して)する第2の燃料電池スタックを含むシステムにおいて、非反応性の成分は、第2の「デッドエンド式の」燃料電池スタックに蓄積する傾向にある。このように、第1の燃料電池スタックの性能は維持される。
【0039】
上記で説明したように、本方法にしたがって、燃料電池システム10は、酸化剤圧力よりも十分に大きいレベルで燃料供給を維持することによって、断続的なパージの必要なしに動作され得る。このように、パージシステムは、燃料電池システム10の所要の成分ではない。しかしながら、燃料電池システム10にとっては、パージ能力を保持することが所望され得、そしてその結果、別の実施形態において、燃料電池システム10はパージ装置を含み得る。例えば、図2における燃料電池アセンブリー16の最終セット19は、窒素を含んだ非反応性の成分がパージバルブを開くことによって排出し得る燃料電池スタックのパージ電池部分を含み得る。(燃料電池スタック12は動作の間、スタックへと供給される水素燃料の実質的に全てを消費するように設計されているが、反応していない微量の水素もまた、燃料電池スタック12のパージの間に、燃料流出口35(図1)を介して、放出され得る。)
その結果、本方法の一部の実施形態では、パージは燃料過圧と併せて使用され得る。例えば、パージシステムは、システム性能に応じて、定期的に、もしくは、必要なときに、稼動し得る。例えば、共有の米国特許出願公開番号2003/0022041を参照、それは、その全体において、ここに援用される。本方法のさらに別の実施形態では、過圧は燃料電池スタック12のアノード側から、継続的な燃料の流れの少量に併せて使用され得る。例えば、米国出願シリアル番号10/253,390を参照、それは、その全体において、ここに援用される。例えば、スタックおよび/または、個別電池が、上記で説明したようにデッドエンド式であるように、窒素が最も蓄積しやすいような箇所の近くに、にじみ出る箇所が選択され得る。
【0040】
次の実施例は異なる実施形態および本方法の局面を説明することを含んでいる。しかし、それらは、全く限定と見なされるべきではない。
(実施例1)
バラード社製燃料電池スタック(10個の電池)の個別電池の電池電圧がモニターされた。スタックは燃料側を閉じられ、そして、約150mA/cmを産出する燃料電池スタックを用いて、冷却剤注入口の温度を約70°Cにて動作させた。一定の圧力で約10psigの酸化剤、約1.8の化学量論、そして約73%の相対湿度として、空気(air)がスタックに供給された。(化学量論は、燃料電池での電力の生成において、消費され燃料電池に供給された燃料もしくは酸化剤の比率である。)実質的に、純水素は、約1.0の化学量論、および、67%の相対湿度において、スタックへ供給された。供給された水素の圧力は、約10psig(燃料過圧は、ほぼ0psig)から約40psig(燃料過圧は、ほぼ30psig)まで変化した。スタックはテスト期間の間、パージされなかった。
【0041】
図3は、燃料過圧が変化した場合、時の経過による個別電池の電圧を示している。図3で示されているように、燃料パージの必要なしで、燃料圧力が、酸化剤圧力よりも大きく(時間は0秒から始まり、120秒までである)、少なくとも5psigである限り、スタックは約二時間、継続的に作動した。図3から認識できるように、電池の半分の電圧は、この期間では他のものよりも低いが、低電圧電池の性能は、それにもかかわらず安定した。しかしながら、一度燃料過圧が、約5psigを下回って減少すると、いくつかの電池の性能は、顕著に低下し始めた。
【0042】
図4は図3のデータからの抜粋であり、個別電池の電圧および、様々な燃料過圧でのスタックを示している。再び、図から認識できるように、燃料過圧が約5psigより大きくなった場合、電池は、スタックパージなしで作動され得る。それらの性能は、一度燃料過圧が5psigを下回って減少すると、顕著に低下し始めた。
(実施例2)
47個の燃料電池NEXA(登録商標)スタックの電池電圧がモニターされた。スタックは、燃料側を閉じられ、そして、約432mA/cmを生成する燃料電池スタックを用いて、冷却剤注入口の温度を65°Cにて作動させた。一定の圧力で約2.25psigの酸化剤、約2.0の化学量論、そして約90から95%の相対湿度として、空気がスタックに供給された。実質的に、約14.25psigの圧力、そして、約1.0の化学量論(燃料過圧は12psig)で、湿度を取り除かれた純水素は、スタックへ供給された。約64時間後、冷却剤注入口の温度は、約75°Cに増加し、スタックは、テストが終了した後も、追加的に約2時間作動した。スタックはテスト期間の間、パージされなかった。
【0043】
図5は上記のテスト期間の、時間の経過に従った平均電池電圧を示している(例えば、実質的に一定の燃料過圧を用いた閉じられた燃料側の動作など)。図5で示されるように、スタックは、燃料パージの必要なく、冷却剤注入口温度65°Cで63時間、および冷却剤注入口温度75°Cで追加的に2時間、継続的に作動した。図5で認識できるように、冷却剤注入口温度の増加は平均電池電圧を改善した。
【0044】
上記で説明された方法を利用することは、燃料側がデッドエンド式であるが燃料の再循環閉ループである燃料システムにおいて、燃料過圧の利用を含めて、好都合になり得る。そのような構成において、アノード側(燃料の閉ループにおける)の窒素および非反応性の成分の蓄積は燃料過圧の使用によって、軽減され得る。
【0045】
上記で説明され、また、ここにおいて援用される出願と特許において、様々な実施形態は、さらなる実施形態を提供することを兼ね備えている。説明された方法は、発明の優位に到達するために、いくつかのアクト(act)を省き得、他のアクトを追加し得、説明されたものとは異なった要求においてアクトを実行し得る。
【0046】
これらおよび他の変化は、上記の詳細な説明に鑑みて、本発明になされる。一般的には、次の請求項において、使われる言葉は、明細書において開示された特定の実施形態の発明を限定するために説明されるべきではないが、請求項にしたがって作動する全ての燃料電池システム、コントローラー、プロセッサー、アクチュエーター、センサーを含めて説明されるべきである。その結果、本発明は、開示によって限定されないが、その代わり、その範囲は以下の請求項によって全体的に決定される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、燃料電池スタックおよび制御電子を含んだ燃料電池システムの、等角図、一部は組立分解図である。
【図2】図2は、図1の燃料電池システムの直列的な燃料電池スタックを介した燃料の流れを描写している図表である。
【図3】図3は、0psigから30psigまで燃料過圧で作動された燃料電池スタックの、時の経過にしたがった電池電圧を表しているグラフである。
【図4】図4は、スタックの電圧対燃料過圧だけでなく、個別電池の電圧を表しているグラフである。
【図5】図5は、本方法における一実施形態にしたがって、燃料過圧で作動させた燃料電池スタックにおける燃料電池の平均電池電圧を表しているグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの燃料電池スタックを備える燃料電池システムを作動する方法であって、該スタックは少なくとも一つの燃料電池を備え、該燃料電池システムは、さらに、反応物供給システムを備え、該反応物供給システムは、該スタックを介して燃料の流れを方向付けるための燃料通路および、該スタックを介して酸化剤の流れを方向付けるための酸化剤通路を備え、
該方法は、
酸化剤供給圧力において該酸化剤通路へ該酸化剤の流れを供給することと、
燃料供給圧力において該燃料通路への該燃料の流れを供給することとを包含し、
該燃料供給圧力は、該酸化剤供給圧力よりも、少なくとも一部の時間において、少なくとも5psig大きく、反応物供給システムの燃料側は、少なくとも一部の時間において閉じられている、方法。
【請求項2】
前記少なくとも一つの燃料電池は、固体ポリマー電解質燃料電池である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記燃料の流れが水素であり前記酸化剤の流れが空気である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
動作の間、前記燃料供給圧力が前記酸化剤供給圧力よりも常に少なくとも5psig大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記燃料供給圧力を変化させることをさらに包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記燃料供給圧力が実質的に一定の頻度で変化する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記燃料供給圧力が前記燃料電池システムの電力出力に基づいて変化する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記燃料電池システムがさらに少なくとも一つのセンサーを備え、前記燃料供給圧力を変化させることが、該センサーの出力に基づいて、該燃料供給圧力を変化させることを包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
燃料電池性能を示すパラメータをモニターすることをさらに包含し、
前記燃料供給圧力が燃料電池性能を示す前記パラメータに基づいて変化する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記燃料供給圧力を変化させることをさらに包含し、
該燃料供給圧力が、断続的に、前記酸化剤供給圧力よりも、少なくとも5psig大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記燃料供給圧力が実質的に一定の頻度で変化する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記燃料電池システムの終了のフェーズと開始のフェーズとのうちの少なくとも一つの間、前記燃料供給圧力が前記酸化剤供給圧力よりも、少なくとも5psig大きい、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記燃料供給圧力が、前記燃料電池システムの出力に基づいて、変化する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記燃料電池システムがさらに少なくとも一つのセンサーを備え、
前記燃料供給圧力を変化させることが、該センサーの出力に基づいて、該燃料供給圧力を変化させることを包含する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
燃料電池性能を示すパラメータをモニターすることをさらに包含し、
前記燃料供給圧力が燃料電池性能を示す該パラメータに基づいて変化する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記反応物供給システムの燃料側が常に閉じられている、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記反応物供給システムの燃料側が、前記スタックから前記燃料の一部を排出するために定期的に開かれるパージバルブを備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記反応物供給システムの燃料側が再循環ループをさらに備え、
該方法が、前記スタックを介して前記燃料を再循環することをさらに包含している、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記反応物供給システムの燃料側がパージバルブをさらに備え、
該方法が、前記スタックから前記燃料の一部を排出するための該パージバルブを定期的に開くことをさらに包含している、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記反応物供給システムの燃料側が複数の場所において閉じられている、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記スタックが複数の燃料電池を備え、少なくとも一つの燃料電池の燃料側がデッドエンド式である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
それぞれの前記燃料電池の燃料側がデッドエンド式である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記燃料電池システムが、該第1のスタックおよび、第1のスタックの下流で直列に前記燃料を受け取るために流体的に接続された第2のスタックを備え、該第2のスタックの燃料通路が、少なくとも一部の時間においてデッドエンド式である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記燃料供給圧力が、前記酸化剤供給圧力よりも約5psigと30psigとの間において大きい、請求項1の記載の方法。
【請求項25】
前記燃料供給圧力が、前記酸化剤供給圧力よりも少なくとも10psig大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記反応物供給システムの燃料側が閉じられている場合、前記燃料供給圧力が、前記酸化剤供給圧力よりも少なくとも5psig大きい、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−520069(P2006−520069A)
【公表日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504069(P2006−504069)
【出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000334
【国際公開番号】WO2004/079845
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(303026556)バラード パワー システムズ インコーポレイティド (28)
【Fターム(参考)】